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  • 特許-食肉の乾燥食品の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-17
(45)【発行日】2024-06-25
(54)【発明の名称】食肉の乾燥食品の製造方法
(51)【国際特許分類】
   A23L 13/00 20160101AFI20240618BHJP
   A23L 13/75 20230101ALI20240618BHJP
   A23L 17/00 20160101ALI20240618BHJP
   A23L 13/50 20160101ALN20240618BHJP
【FI】
A23L13/00 A
A23L13/75
A23L17/00 A
A23L13/50
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2020037297
(22)【出願日】2020-03-04
(65)【公開番号】P2021136922
(43)【公開日】2021-09-16
【審査請求日】2023-02-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000113067
【氏名又は名称】プリマハム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002826
【氏名又は名称】弁理士法人雄渾
(72)【発明者】
【氏名】加藤 慶一
(72)【発明者】
【氏名】黒井 瑞穂
(72)【発明者】
【氏名】笹嶋 恵子
【審査官】厚田 一拓
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第110279077(CN,A)
【文献】特開2011-072285(JP,A)
【文献】特開平11-196761(JP,A)
【文献】特開2007-054024(JP,A)
【文献】特開2000-106849(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第110495568(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第105146578(CN,A)
【文献】特開昭58-162237(JP,A)
【文献】特開昭63-263063(JP,A)
【文献】特開2018-186732(JP,A)
【文献】特開2007-267652(JP,A)
【文献】特開2020-022396(JP,A)
【文献】SHILASON [online],鶏胸肉をびっくりするほど柔らかくする裏技[ガッテン流追記],2018年06月09日,URL:https://jo-shiki.com/food/5188/ [検索日 2023.12.25]
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 2/00 - 35/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
i)原料の食肉に、食品添加物として許容される、一種又は二種以上のアルカリ金属又はアルカリ土類金属の炭酸塩又は炭酸水素塩を添加する工程
ii)原料に調味液を添加する工程
iii)真空フライ処理を行う工程
上記工程を含み、
前記食肉は、畜産物又は水産物の肉の部位であり、
前記炭酸塩又は炭酸水素塩の原料に添加する量が、原料100重量部に対して0.2~1.0重量部であることを特徴とする、食肉の乾燥食品の製造方法。
【請求項2】
前記炭酸塩又は炭酸水素塩が、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸カリウム及び炭酸水素カリウムから選ばれることを特徴とする、請求項1に記載の食肉の乾燥食品の製造方法。
【請求項3】
乾燥食品の水分活性が0.830以下であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の食肉の乾燥食品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、食肉を原料とする乾燥食品の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
食肉の乾燥食品を製造するための乾燥方法として、加熱乾燥、熱風乾燥、冷風乾燥、凍結乾燥、噴霧乾燥、真空フライ(減圧フライ)などが知られている。なかでも真空フライは、他の乾燥方法に比べて比較的短時間で乾燥できることや、色調や風味などを良好な状態に維持することができることから、食肉の乾燥食品の製造に汎用されている。
【0003】
しかしながら、真空フライ処理を行った食肉の乾燥食品は、食感が硬くなることから、柔らかい食感の乾燥食品を求める消費者の要望を満たせないという問題がある。そこで、食感が改善された乾燥食品の真空フライを用いた製造方法が所望されている。
【0004】
例えば、特許文献1には、真空乾燥工程において、気泡含有物質の気泡を膨張させることで、ふっくらとした食感が得られる乾燥練り物の製造方法が開示されている。特許文献2には、減圧フライ製法において、歩留まり改善を目的の一つとして、原料にデキストリン等を浸透させる前処理を行うことが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2016-015898号公報
【文献】特開昭61-096960号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
また、乾燥食品には、長期の保存に耐えうる高い保存性も求められる。その保存性の指標の一つとなる水分活性は、真空フライ製法により腐敗などを起こす微生物の活動を抑えるレベルまで低下させることが可能である。しかしながら、乾燥しすぎた食品は、その食感が固くなってしまうと同時に歩留まりも低下するという課題がある。
【0007】
したがって、本発明の課題は、食感が柔らかく、歩留まりが高いと同時に低い水分活性を有する食肉の乾燥食品を製造する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記課題について鋭意検討した結果、アルカリ金属又はアルカリ土類金属の炭酸塩又は炭酸水素塩を添加した食肉を真空フライ処理することによって、食感が柔らかく、高い歩留まりと同時に水分活性の低い乾燥食品を製造することができることを見出した。また、当該水分活性の低下は、前記炭酸塩又は炭酸水素塩を添加した食肉を常温フライ処理する場合より顕著であるという知見に至り、本発明を完成した。すなわち本発明は、以下の食肉の乾燥食品の製造方法である。
【0009】
上記課題を解決するための本発明の食肉の乾燥食品の製造方法は、i)原料の食肉に、食品添加物として許容される、一種又は二種以上のアルカリ金属又はアルカリ土類金属の炭酸塩又は炭酸水素塩を添加する工程、ii)原料に調味液を添加する工程、iii)真空フライ処理を行う工程、上記工程を含むことを特徴とするものである。
この製造方法によれば、食感が柔らかく、歩留まりが高いと同時に水分活性が低く、保存性にも優れる乾燥食品を製造することができる。
【0010】
さらに、本発明の食肉の乾燥食品の製造方法の一実施態様によれば、炭酸塩又は炭酸水素塩が、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸カリウム、及び炭酸水素カリウムから選ばれることを特徴とするものである。
この特徴によれば、さらに食感が柔らかく、歩留まりが高いと同時に水分活性が低く、保存性もより一層向上させた乾燥食品を製造することができる。
【0011】
さらに、本発明の食肉の乾燥食品の製造方法の一実施態様によれば、炭酸塩又は炭酸水素塩の原料に添加する量が、原料100重量部に対して0.1~2.0重量部であることを特徴とするものである。
この特徴によれば、より食感が柔らかく、歩留まりが高く、水分活性の低い保存性に優れた食肉の乾燥食品を製造することができる。
【0012】
さらに、本発明の食肉の乾燥食品の製造方法の一実施態様によれば、乾燥食品の水分活性が0.830以下であることを特徴とするものである。
この特徴によれば、より保存性の高い食肉の製造方法を提供できるという効果を奏する。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、食感が柔らかく、歩留まりが高いと同時に低い水分活性を有する、保存性に優れた食肉の乾燥食品を製造する方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】常圧フライ処理と真空フライ処理における重曹添加の影響を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の食肉の乾燥食品の製造方法について説明する。以下、本発明に係る好適な実施態様について詳細に説明する。尚、実施態様に記載する食肉の乾燥食品については、本発明に係る食肉の乾燥食品を説明するために例示したに過ぎず、同様の効果を奏する限り、これらに限定されるものではない。
【0016】
本発明の食肉の乾燥食品の製造方法は、アルカリ金属又はアルカリ土類金属の炭酸塩又は炭酸水素塩を添加する工程(以下、炭酸塩又は炭酸水素塩処理という)、原料に調味液を添加する工程(以下、調味処理という)、及び真空フライ処理を行う工程(以下、真空フライ処理という)を含む方法であれば特に限定されるものではない。
【0017】
まず、本発明で用いる乾燥食品原料について、詳細に説明する。
(乾燥食品原料)
本発明で用いる食肉は、特に限定されるものではない。畜産物であってもよいし、水産物を使用することもできる。畜産物としては、例えば、家禽、家畜、野生鳥獣(狩猟肉、ジビエ)などでもよい。入手のしやすさから家禽、家畜が適しており、具体例としては、例えば、鶏、鴨、七面鳥、牛、豚、羊、馬などが挙げられる。野生鳥獣の具体例としては、例えば、猪、鹿、熊などが挙げられる。
また、乾燥食品の原料とする家禽、家畜、野生鳥獣の部位としては、特に限定されるものではなく、例えば、肉、皮、軟骨、スジ、内臓などでもよい。
【0018】
水産物としては、例えば、魚類、貝類、甲殻類、軟体類、海藻などでもよい。水産物の具体例としては、例えば、シャケ、マグロ、カツオ、イワシ、アジ、シラウオなどの魚類、ホタテ、アサリ、アワビなどの貝類、エビ、カニ、オキアミなどの甲殻類、イカ、タコなどの軟体類、コンブ、ワカメなどの海藻などが挙げられる。
また、乾燥食品の原料とする水産物の部位は、特に限定されるものではなく、例えば、肉、骨、葉などでもよい。
【0019】
本発明で用いる乾燥食品の原料の状態は、特に限定されるものではなく、例えば、保存、解凍、整形したものでもよい。
また、これらの乾燥食品の原料は、一種類でもよいし、二種類以上を組み合わせてもよい。
【0020】
乾燥食品原料の形状を加工する処理方法は、特に限定されるものではなく、例えば、カット、スライス、ほぐす、裂くなどでもよい。また、原料となる食肉によっては、小塊など原形の形態そのままであってもよい。
加工処理された乾燥食品原料の形状は、特に限定されるものではない。乾燥食品原料の形状の具体例としては、例えば、チップ状、ブロック状、バー状、くさび形形状、シート状、不定形乱切り状などが挙げられる。
【0021】
乾燥食品原料の大きさは、特に制限されるものではなく、好ましくは10mm以上4000mm以下である。下限値としては、より好ましくは25mm以上であり、更に好ましくは50mm以上であり、特に好ましくは100mm以上である。一方、上限値としては、より好ましくは3000mm以下であり、更に好ましくは2000mm以下であり、特に好ましくは1500mm以下である。
【0022】
乾燥食品原料の厚みは、特に制限されるものではなく、好ましくは0.1mm以上50mm以下である。下限値としては、より好ましくは0.3mm以上であり、更に好ましくは0.5mm以上であり、特に好ましくは0.7mm以上である。一方、上限値としては、より好ましくは30mm以下であり、更に好ましくは20mm以下であり、特に好ましくは10mm以下である。
【0023】
(炭酸塩又は炭酸水素塩)
本発明に使用する炭酸塩又は炭酸水素塩は、アルカリ金属又はアルカリ土類金属の炭酸塩又は炭酸水素塩である。これらの炭酸塩又は炭酸水素塩は、食品添加物として許容されるものであり、本発明の効果を奏するものである限り限定はされない。例えば、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウムが挙げられる。好ましくは、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、及び炭酸水素カリウムであり、より好ましくは、炭酸水素ナトリウム又は炭酸水素カリウムである。これらの炭酸塩又は炭酸水素塩は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を混合して使用してもよい。
【0024】
(調味液)
本発明に使用する調味液は、乾燥食品の風味などを向上させる調味料を含む液体であれば特に限定されるものではない。調味液の具体例としては、例えば、食塩、砂糖、酢、しょう油、味噌、みりん、アミノ酸、肉エキス、野菜エキスなどが挙げられる。さらに、調味液に香辛料、着色料、酸化防止剤などを加えて調味処理をしてもよい。その配合についても特に限定はされない。乾燥食品を様々な味付け、香り付け、風合いとするために、調味料、香辛料、着色料、酸化防止剤などは一種類でもよいし、二種以上を組み合わせてもよい。本発明の効果を奏する限り、調味液の替わりに固体、粉末の形状の調味料を使用してもよいが、後述の調味処理において食肉への浸潤が容易であることから液体であることが好ましい。
【0025】
本発明の調味液は、食塩を含有することが好ましい。調味液における食塩の含有量は、特に制限されないが、例えば、0.1~20重量%である。食塩の含有量の下限値は、好ましくは2.0重量%以上であり、より好ましくは3.0重量%以上であり、更に好ましくは4.0重量%以上である。食塩の含有量の上限値は、好ましくは20重量%以下であり、より好ましくは15重量%以下であり、更に好ましくは10重量%以下である。食塩の含有量を上記範囲とすることにより、味を調整しつつ、水分活性の低下を促進することができる。
【0026】
本発明の調味液は、トレハロースを含有することが好ましい。トレハロースは、その組織保護作用により、食肉の筋周膜が保護され、その結果食感を維持できることに加え、食肉製品の色調を維持できる。調味液におけるトレハロースの含有量は、特に制限されないが、例えば、0.1~40重量%である。トレハロースの含有量の下限値は、好ましくは0.5重量%以上であり、より好ましくは1.0重量%以上であり、更に好ましくは3.0重量%以上であり、特に好ましくは5.0重量%である。トレハロースの含有量の上限値は、好ましくは35重量%以下であり、より好ましくは30重量%以下であり、更に好ましくは28重量%以下である。トレハロースの含有量を上記範囲とすることにより、色調を調整しつつ、水分活性の低下を促進することができる。
【0027】
本発明に好ましく使用できる調味液についてさらに詳細に説明する。水や酒類の液体に前述したような調味料、香辛料、着色料、酸化防止剤に加え、動植物性タンパク、でん粉類や糖類をさらに含むことができる。
酸化防止剤としては、例えば、アスコルビン酸、カテキン、ビタミンE、又はそれらの塩が挙げられる。これらの酸化防止剤は、調味液の全重量に対して、0.01~2.0重量%含有することが好ましい。
また、大豆タンパクや乳タンパクといった動植物性タンパク、各種でん粉類やそれらを加工した加工でん粉類、及び糖類などを好ましく使用できる。これらの添加量は、用途に応じて適宜調整することができるが、例えば、調味液の全重量に対して、それぞれ0.01~20重量%含有することができる。より好ましくは、それぞれ0.1~10重量%含有することができる。前記糖類としては、例えば、マルチトール(還元麦芽糖)、ソルビトール、及びエリスリトールが挙げられる。
これら酸化防止剤、動植物性タンパク、でん粉類、及び糖類は、一種類でもよいし、二種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0028】
以上に述べた特徴を有した乾燥食品原料は、本発明の食肉の乾燥食品を製造する製造方法において得られる効果を高めることができる。
【0029】
次に、本発明の乾燥食品の製造工程について、詳細に説明する。
【0030】
(調味処理)
調味処理は、原料となる食肉に調味液を添加する工程であり、その添加する方法は特に限定されない。調味液の形態によっても異なるが、例えば、浸漬、噴霧、塗布、まぶす、インジェクターによる注入などが挙げられる。原料肉への調味液の味や風味の浸潤の容易さから、調味液へ原料肉を浸漬させる工程が好ましい。なお、調味処理に使用する調味液の量は特に制限されないが、原料100重量部に対して10重量部~60重量部であることが好ましい。下限値としては特に制限はされないが、20重量部であることがより好ましい。上限値としては特に制限はされないが、40重量部であることがより好ましい。これらの範囲内であることで、原料肉へ調味液の味や風味を効率的に付与することが可能となる。
【0031】
また、調味液へ原料肉を浸漬させる工程の際、食肉はタンブリング処理を行うことが好ましい。タンブリング処理とは、食肉に調味液を機械的に短時間で浸透させる処理をいい、タンブリング処理を行うことにより、調味液を食肉の内部に短時間で浸透させることができる。タンブリング処理は、例えば、タンブリング装置のマッサージドラムに投入し、10rpmの回転速度で2時間マッサージすることができる。
【0032】
(炭酸塩又は炭酸水素塩処理)
炭酸塩又は炭酸水素塩処理は、原料肉に炭酸塩又は炭酸水素塩を添加する工程であり、その態様については特に限定はされない。固体や粉末のまま、まぶして添加してもよいし、液体に溶解させて塗布、又は原料肉に添加させてもよい。また、前述した調味処理に使用した調味料に混合してもよいし、調味液に溶解させてもよい。調味液に溶解して浸漬させる方法が、添加工程が一工程で済むため簡便であり、原料肉に炭酸塩又は炭酸水素塩を一様に添加することが可能となるため好ましい。
【0033】
炭酸塩又は炭酸水素塩を原料の食肉に添加する量については、特に制限されるものでなく、好ましくは原料100重量部に対して0.1~2.0重量部である。当該範囲内であれば、食感が柔らかく、ほぐれ感の優れた高品質の乾燥食品を得ることができる。また、同時に歩留まりも高く、水分活性の低い保存性に優れた乾燥食品を効率的に生産することができる。下限値としては、より好ましくは0.2重量部以上である。一方、上限値としては、より好ましくは1.0重量部以下である。これらの範囲内とすることによって、食感とほぐれ感に加えて、外観と風味にも優れた、総合的に優れた特長を乾燥食品に付与することができる。
【0034】
(真空フライ処理)
真空フライ処理は、減圧雰囲気下、油脂中で乾燥食品原料を乾燥する方法である。真空フライ処理は、低温でフライ作業を行うことから、乾燥食品原料の味、風味、色、栄養成分の損失を低減することができる。
【0035】
真空フライ処理における絶対圧力条件は、特に制限されるものではなく、好ましくは50kPa以下である。上限値としては、より好ましくは40kPa以下であり、更に好ましくは30kPa以下であり、特に好ましくは20kPa以下である。
【0036】
真空フライ処理の油温は、特に制限されるものではなく、好ましくは50℃以上200℃以下である。下限値としては、より好ましくは60℃以上であり、更に好ましくは70℃以上であり、特に好ましくは80℃以上である。一方、上限値としては、より好ましくは180℃以下であり、更に好ましくは160℃以下であり、より更に好ましくは140℃以下であり、特に好ましくは100℃以下である。
【0037】
真空フライ処理の時間は、特に制限されるものではなく、好ましくは0.5分間以上90分間以下である。下限値としては、より好ましくは1分間以上であり、更に好ましくは1.5分間以上であり、特に好ましくは2分間以上である。一方、上限値としては、より好ましくは60分間以下であり、更に好ましくは45分間以下であり、特に好ましくは30分間以下である。
真空フライ処理の絶対圧力条件、油温、時間を上記範囲とすることにより、乾燥食品に油っぽくなく、柔らかい食感を付与することができるという効果がより発揮される。
【0038】
真空フライ処理で用いる油脂は、食用であれば特に制限されるものではなく、例えば、動物性油脂、植物性油脂、水素添加処理された食用油脂などでもよい。常圧フライ処理で用いる油脂の具体例としては、例えば、牛脂、豚脂、魚油、バター、マーガリン、菜種油、大豆油、コーン油、綿実油、パーム油、米油、ベニバナ油、オリーブ油などが挙げられる。
また、これらの油脂は、一種類でもよいし、二種類以上を組み合わせてもよい。
【0039】
(その他の加熱処理)
本発明においては、本発明の効果を奏する限り真空フライ処理の他に異なる加熱処理工程を設けてもよい。この加熱処理は、特に限定されるものではなく、例えば、常圧フライ処理(常圧油ちょう処理)、加圧フライ処理(加圧油ちょう処理)、蒸煮処理(スチーム処理)などでもよい。
また、これらの加熱処理は、一種類でもよいし、二種類以上を組み合わせてもよい。二種類以上の加熱処理をする場合は、任意の順序で行ってもよい。
【0040】
(蒸煮処理)
蒸煮処理は、水蒸気(飽和蒸気、過熱蒸気)で食品原料を加熱する加熱方法である。蒸煮処理は、食品原料の形、味、栄養成分などを損なうことなく、食感を向上させることができる。
【0041】
蒸煮処理に用いる飽和蒸気、過熱蒸気の温度は、特に制限されるものではなく、好ましくは70℃以上150℃以下である。下限値としては、より好ましくは80℃以上であり、更に好ましくは90℃以上であり、特に好ましくは95℃以上である。一方、上限値としては、より好ましくは130℃以下であり、更に好ましくは120℃以下であり、特に好ましくは110℃以下である。
【0042】
蒸煮処理の時間は、特に制限されるものではなく、好ましくは1分間以上120分間以下である。下限値としては、より好ましくは3分間以上であり、更に好ましくは5分間以上であり、特に好ましくは7分間以上である。一方、上限値としては、より好ましくは60分間以下であり、更に好ましくは30分間以下であり、特に好ましくは15分間以下である。
蒸煮処理の温度、時間を上記範囲とすることにより、乾燥食品原料に柔らかい食感を付与することができるという効果がより発揮される。
【0043】
(常圧フライ処理)
常圧フライ処理は、常圧雰囲気下、油脂中で乾燥食品原料を乾燥する乾燥方法であり、特殊な装置を必要としないため、食品加工業界で汎用されている。
常圧フライ処理を行う装置としては、例えば、バッチ式フライヤー、連続式フライヤーなどが挙げられる。
【0044】
常圧フライ処理の油温は、特に制限されるものではなく、好ましくは80℃以上250℃以下である。下限値としては、より好ましくは90℃以上であり、更に好ましくは120℃以上であり、特に好ましくは140℃以上である。一方、上限値としては、より好ましくは230℃以下であり、更に好ましくは210℃以下であり、特に好ましくは190℃以下である。
【0045】
常圧フライ処理の時間は、特に制限されるものではなく、好ましくは1分間以上30分間以下である。下限値としては、より好ましくは2分間以上であり、更に好ましくは3分間以上であり、特に好ましくは4分間以上である。一方、上限値としては、より好ましくは20分間以下であり、更に好ましくは15分間以下であり、特に好ましくは10分間以下である。
【0046】
常圧フライ処理で用いる油脂は、食用であれば特に制限されるものではなく、例えば、動物性油脂、植物性油脂、水素添加処理された食用油脂などでもよい。常圧フライ処理で用いる油脂の具体例としては、例えば、牛脂、豚脂、魚油、バター、マーガリン、菜種油、大豆油、コーン油、綿実油、パーム油、米油、ベニバナ油、オリーブ油などが挙げられる。
また、これらの油脂は、一種類でもよいし、二種類以上を組み合わせてもよい。
【0047】
(加圧フライ処理)
加圧フライ処理は、加圧雰囲気下、油脂中で乾燥食品原料を乾燥する乾燥方法である。加圧フライ処理では、厚みのある乾燥食品原料であっても、短時間で原料内部まで加熱することができる。
【0048】
加圧フライ処理における絶対圧力条件は、特に制限されるものではなく、好ましくは110kPa以上350kPa以下である。下限値としては、より好ましくは130kPa以上であり、更に好ましくは140kPa以上であり、特に好ましくは150kPa以上である。一方、上限値としては、より好ましくは300kPa以下であり、更に好ましくは250kPa以下であり、特に好ましくは200kPa以下である。
【0049】
加圧フライ処理の油温は、特に制限されるものではなく、好ましくは80℃以上250℃以下である。下限値としては、より好ましくは100℃以上であり、更に好ましくは120℃以上であり、特に好ましくは140℃以上である。一方、上限値としては、より好ましくは230℃以下であり、更に好ましくは210℃以下であり、特に好ましくは190℃以下である。
【0050】
加圧フライ処理の時間は、特に制限されるものではなく、好ましくは1分間以上30分間以下である。下限値としては、より好ましくは2分間以上であり、更に好ましくは3分間以上であり、特に好ましくは4分間以上である。一方、上限値としては、より好ましくは25分間以下であり、更に好ましくは20分間以下であり、特に好ましくは15分間以下である。
【0051】
加圧フライ処理で用いる油脂は、食用であれば特に制限されるものではなく、例えば、動物性油脂、植物性油脂、水素添加処理された食用油脂などでもよい。常圧フライ処理で用いる油脂の具体例としては、例えば、牛脂、豚脂、魚油、バター、マーガリン、菜種油、大豆油、コーン油、綿実油、パーム油、米油、ベニバナ油、オリーブ油などが挙げられる。
また、これらの油脂は、一種類でもよいし、二種類以上を組み合わせてもよい。
【0052】
原料となる食肉に炭酸塩又は炭酸水素塩を調味処理した後、以上に述べた特徴を有した真空フライ処理、さらに必要に応じて加熱処理を行う本発明の食肉の乾燥食品を製造する製造方法は、食感が柔らかく、ほぐれ感に優れ、歩留まりが高いと同時に水分活性の低い優れた食肉の乾燥食品を提供することができる。
【0053】
次に、本発明の乾燥食品の特徴を、詳細に説明する。
【0054】
(水分活性)
本発明の乾燥食品は、低い水分活性を有し、保存性や生産効率に優れている。ここで、水分活性とは微生物が繁殖に利用することができる食品中の水分の割合のことであり、食品の腐敗、発酵、カビの発生等は食品中に含まれる水が関係している。微生物が生育には水分が不可欠であるが、水分含量と水分活性は比例関係にあるわけではなく、糖質や食塩濃度によって水分活性は変化する。つまり、食品の水分活性は乾燥によって水分含量を小さくすることで低くなるが、糖質や食塩の添加によっても低下する。微生物にはそれぞれ生育可能な水分活性範囲があり、食品の水分活性を調整することで雑菌の生育を抑制することができる。
【0055】
本発明による乾燥食品の水分活性は、特に制限されるものではなく、好ましくは0.100以上、0.830以下である。下限値としては、より好ましくは0.200以上であり、更に好ましくは0.300以上であり、特に好ましくは0.350以上である。一方、上限値としては、より好ましくは0.820以下であり、更に好ましくは0.810以下であり、特に好ましくは0.800以下である。
乾燥食品の水分活性値が上記範囲となることにより、乾燥食品として望ましい保存性と生産効率を有していると判断することができる。
【0056】
なお、本明細書における水分活性は、水分活性測定装置(AQUA LAB 4TE,デカゴン社製)を用いて測定して得られた値である。
【0057】
(歩留まり率)
乾燥食品の歩留まり率とは、乾燥食品原料の加熱処理前の重量と真空フライ処理後の乾燥重量を測定し、加熱処理前の重量に対する加熱処理、真空フライ処理後の重量を百分率(%)で表したものである。
【0058】
本発明による乾燥食品の歩留率は、特に制限されるものではなく、好ましくは15%以上である。下限値としては、より好ましくは25%以上であり、更に好ましくは35%以上であり、特に好ましくは40%以上である。
乾燥食品の歩留まり率が上記範囲となることにより、乾燥食品の製造が効率的であると判断することができる。
【0059】
以下、本発明の実施例について述べるが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではなく、本発明の技術的思想内においてこれらの様々な変形が可能である。
【実施例
【0060】
(鶏むね肉の前処理)
生の鶏むね肉を、ハーフカットし、次に、下記表1の配合からなる調味液を調整した。
【0061】
【表1】
【0062】
表1の調味液に、鶏むね肉100重量部に対して、下記表2に示す重量部の重曹(炭酸水素ナトリウム)を添加した。そして、鶏むね肉を調味液に浸漬させた後、マッサージドラムにて60分間タンブリング処理をし、一晩静置させた。
【0063】
【表2】
【0064】
(蒸煮処理)
タンブリング処理をした鶏むね肉を、蒸煮処理装置(FSCC WE 61、フジマック社製)を用いて、95℃で8分加熱した。
【0065】
(真空フライ処理)
次に、蒸煮処理した鶏むね肉を、手で長さ6~8cm、幅1~2cmの鱗片状にほぐした後、真空フライ処理装置(自社製)を用いて、40kPa以下となるように調整し、温度90℃のパーム油に30分間浸漬させることで真空フライ処理し、実施例1~4及び比較例1の乾燥食品を得た。
【0066】
[試験例1]
上記により製造した実施例1~4及び比較例1の乾燥食品について以下の4つの項目、「食感」、「ほぐれ感」、「風味」及び「外観」について官能評価を行った。
【0067】
(食感の評価)
実施例1~4及び比較例1の乾燥食品の食感に関する官能評価は、以下の基準で10名の訓練されたパネラーが食べた時の食感の柔らかさにより行った。結果は、10名のパネラーの評価の平均値であり、小数点第1位を四捨五入した値である。
5:非常に柔らかい。
4:やや柔らかい。
3:普通。
2:やや硬い。
1:硬い。
【0068】
【表3】
【0069】
表3において、実施例1~4と比較例1を比較すると、重曹を添加した調味液に調味処理した鶏むね肉を真空フライ処理することにより乾燥食品の食感の柔らかさが向上することがわかった。また、実施例1から4を比較すると、重曹の添加量を増やすことにより、更に乾燥食品の柔らかい食感が向上することが明らかとなった。
【0070】
(ほぐれ感の評価)
実施例1~4及び比較例1の乾燥食品のほぐれ感に関する官能評価は、以下の基準で10名の訓練されたパネラーが乾燥食品を噛んだ時の口の中でのほぐれ感により行った。結果は、10名のパネラーの評価の平均値であり、小数点第1位を四捨五入した値である。
5:最も好ましい。
4:より好ましい。
3:好ましい。
2:あまり好ましくない。
1:好ましくない。
【0071】
【表4】
【0072】
表4において、実施例1~4と比較例1を比較すると、重曹を添加した調味液に調味処理した鶏むね肉を真空フライ処理することにより乾燥食品のほぐれ感が向上することがわかった。また、実施例1~4を比較すると、重曹の添加量を増やすことにより、更に乾燥食品のほぐれ感が向上することが明らかとなった。
【0073】
(風味の評価)
実施例1~4及び比較例1の乾燥食品の風味に関する官能評価は、以下の基準で10名の訓練されたパネラーが食べた時の風味により行った。結果は、10名のパネラーの評価の平均値であり、小数点第1位を四捨五入した値である。
【0074】
【表5】
【0075】
表5において、実施例1~3と比較例1を比較すると、重曹を添加した調味液に調味処理した鶏むね肉を真空フライ処理することにより、重曹を添加しない場合と比較して、乾燥食品の風味が向上することがわかった。しかしながら、実施例1~4を比較すると、重曹の添加量を増やすことにより、風味は低下する傾向にあり、重曹の添加量が2.0重量部である実施例4においては、前記の重曹添加による風味向上の効果は確認できなかった。これは、重曹そのものの風味が乾燥食品の風味に影響を与えたものと考えられる。
【0076】
(外観の評価)
実施例1~4及び比較例1の乾燥食品の外観に関する官能評価は、以下の基準で10名の訓練されたパネラーの目視により行った。結果は、10名のパネラーの評価の平均値であり、小数点第1位を四捨五入した値である。
5:最も好ましい。
4:より好ましい。
3:好ましい。
2:あまり好ましくない。
1:好ましくない。
【0077】
【表6】
【0078】
表6において、実施例1~4と比較例1を比較すると、重曹を添加した調味液に調味処理した鶏むね肉を真空フライ処理することにより、重曹を添加しない場合と比較して、重曹の添加量が1.0重量部以下であれば、乾燥食品の外観を良好に保てるということがわかった。重曹の添加量が2.0重量部である実施例4においては、少し赤みを帯びた外観となった。
【0079】
以上のことから、本発明の食肉の乾燥食品の製造方法は、重曹を添加した調味液に食肉を調味処理した後、真空フライ処理することにより、柔らかい食感のみならず、ほぐれ感、風味、及び外観に関して総合的に優れた特長を乾燥食品に付与できることが示された。
【0080】
(歩留まり率の評価)
実施例1~4及び比較例1の乾燥食品の歩留まり率は、加熱処理前の重量と真空フライ処理後の乾燥重量を測定し、加熱処理前の重量に対する加熱処理、真空フライ処理後の重量を百分率(%)により算出した。歩留まり率の計算式は、以下の式(1)のとおりである。表7に実施例1~4及び比較例1について歩留まり率の結果を示した。
なお、歩留まり率の算出は、5検体の平均値により行った。
【0081】
【数1】
【0082】
【表7】
【0083】
表7において、実施例1~4と比較例1を比較すると、重曹を添加した調味液に調味処理した鶏むね肉を真空フライ処理することにより、重曹を添加しない場合と比較して、歩留まり率が向上することがわかった。
実施例1~4の歩留まり率の評価は、いずれも35%以上であることから、重曹を添加しても十分な製造効率を保持できると認められた。
【0084】
表8に、試験例1の結果についてまとめて示した。
【0085】
【表8】
【0086】
表8に示されるように、重曹を添加した調味液で調味処理した鶏むね肉を真空フライ処理することで、重曹を添加しない場合に比較して、食感の柔らかさ、ほぐれ感、風味において品質の向上した乾燥食品を効率よく製造できることがわかった。
【0087】
[試験例2]
(重曹添加による水分活性の低下)
次に、真空フライ処理と常圧フライ処理における、重曹添加による水分活性の低下及び歩留まり率の変化について試験を行った。
【0088】
試験例1の調味液に鶏むね肉100重量部に対して、0.2~1.0重量部の重曹を添加し、調製した乾燥原料に対して真空フライ処理と常圧フライ処理を行い、それぞれの処理後の乾燥食品の水分活性を測定した。真空フライ処理は試験例1と同条件で行い、常圧フライ処理は以下の条件で行った。その他の処理は試験例1と同様に行った。
【0089】
(常圧フライ処理)
ほぐし処理した鶏むね肉を、常圧フライ処理装置(MXF-076W、マルゼン社製)を用いて、常圧雰囲気下で、温度185℃の油に4分間浸漬させることで乾燥処理した。なお、真空フライ処理および常圧フライ処理については3回、同じ処理で乾燥食品を繰り返し製造した。
【0090】
(水分活性及び歩留まり率の評価)
製造された乾燥食品の水分活性は、水分活性測定装置(AQUA LAB 4TE、デカゴン社製)を用いて測定した。水分活性測定装置を用いた測定は、乾燥食品を破砕処理した後に、検体を水分活性測定装置にセットして約15分間行った。なお、歩留まり率の評価は試験例1と同様に行った。結果を表9及び図1に示した。
【0091】
【表9】
【0092】
図1において、重曹を添加することによって、真空フライ処理を用いた乾燥食品と常圧フライを用いた乾燥食品のいずれも水分活性は低下した。しかし、真空フライ処理を用いた乾燥食品の方が、常圧フライ処理を用いた乾燥食品より、顕著に水分活性が下がることが観察された。他方、歩留まり率についてはどちらにおいても大きく変わらない値となった。すなわち、重曹を添加した調味液に調味処理した原料肉に真空フライ処理を行うことにより、同様に常圧フライ処理を行う場合と比較して、歩留まり率は大きく低下することなく、その水分活性を顕著に低下させることができるという予想もしない効果が明らかとなった。
【0093】
以上のことから、本発明の食肉の乾燥食品の製造方法は、重曹を添加した食肉を真空フライ処理することにより、食感が柔らかく、風味、ほぐれ感に優れると同時に、歩留まり率を高く保ちながら、低い水分活性を持つという特長を付与できることが示された。これにより、本発明の食肉の乾燥食品の製造方法は、製造効率がよく、高い保存性を有する品位の高い乾燥食品を提供できることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0094】
本発明によって、食品原料である食肉に重曹を添加して真空フライ処理することで、乾燥食品の食感が柔らかく、歩留まりが高いと同時に低い水分活性を有する食肉の乾燥食品を製造することができる。従って、本発明は、商品価値が向上した様々な食肉の乾燥食品を製造する際に利用することができる。
図1