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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-17
(45)【発行日】2024-06-25
(54)【発明の名称】有歯ケーブルおよび駆動装置
(51)【国際特許分類】
   F16G 9/00 20060101AFI20240618BHJP
   F16H 55/26 20060101ALI20240618BHJP
【FI】
F16G9/00
F16H55/26
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020110642
(22)【出願日】2020-06-26
(65)【公開番号】P2022007581
(43)【公開日】2022-01-13
【審査請求日】2022-06-20
(73)【特許権者】
【識別番号】390000996
【氏名又は名称】株式会社ハイレックスコーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】110001896
【氏名又は名称】弁理士法人朝日奈特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】清水 大地
【審査官】鷲巣 直哉
(56)【参考文献】
【文献】実開昭61-191557(JP,U)
【文献】国際公開第2020/067248(WO,A1)
【文献】特開2010-255657(JP,A)
【文献】特開2012-233510(JP,A)
【文献】特開昭56-105109(JP,A)
【文献】実開昭55-177524(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16G 9/00
F16H 55/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コアケーブルと、前記コアケーブルの外周に螺旋状に巻き付けられたコイル部とを備えた有歯ケーブルであって、前記有歯ケーブルは、螺旋状に巻き付けられたコイル部によって形成される凸部と、前記有歯ケーブルの軸方向に隣接する一対の凸部の間に形成される凹部とを有し、
前記有歯ケーブルがさらに、
前記凸部および前記凹部を樹脂により連続して被覆する、柔軟性を有する樹脂によって構成された被覆層と、
前記被覆層の上に、前記凹部に沿って螺旋状に巻き付けられ、前記被覆層に融着されたモールと
を備え
前記有歯ケーブルは、前記有歯ケーブルの凹部に相当する部位において、前記被覆層に噛み合う歯を備えた噛合部材と係合するように構成され、
前記被覆層は、前記有歯ケーブルが前記噛合部材と噛み合うときに、少なくとも一部が前記噛合部材によって潰される所定の厚さで設けられ、
前記モールは、前記噛合部材によって潰される前記被覆層の樹脂材料を覆うことで、前記噛合部材によって潰されたときに生じる音を低減するように構成されている、有歯ケーブル。
【請求項2】
前記モールは芯糸と、前記芯糸から放射状に延びる複数のパイルとを備え、前記パイルの先端が、前記有歯ケーブルの径方向で、前記被覆層の最外部を越えて延びている、請求項1に記載の有歯ケーブル。
【請求項3】
記モールは芯糸と、前記芯糸から放射状に延びる複数のパイルとを備え、
前記パイルは、前記凹部に相当する部位において前記噛合部材の歯が噛み合ったとき、前記凸部の最外部に向かって前記凸部の最外部の近傍までの前記被覆層を覆うように変形するように構成されている、請求項1または2に記載の有歯ケーブル。
【請求項4】
請求項1~のいずれか1項に記載の有歯ケーブルと、
前記有歯ケーブルの凹部に相当する部位において、前記被覆層に噛み合う噛合部材と、
前記有歯ケーブルが挿通され、前記有歯ケーブルを所定の配索経路に沿って案内する案内部材と
を備えている、駆動装置。
【請求項5】
有歯ケーブルの製造方法であって、前記有歯ケーブルは、
コアケーブルと、前記コアケーブルの外周に螺旋状に巻き付けられたコイル部とを備え、前記有歯ケーブルは、螺旋状に巻き付けられたコイル部によって形成される凸部と、前記有歯ケーブルの軸方向に隣接する一対の凸部の間に形成される凹部とを有し、
前記有歯ケーブルがさらに、
前記凸部および前記凹部を樹脂により連続して被覆する、柔軟性を有する樹脂によって構成された被覆層と、
前記被覆層の上に、前記凹部に沿って螺旋状に巻き付けられ、前記被覆層に融着されたモールと
を備え、
前記有歯ケーブルは、前記有歯ケーブルの凹部に相当する部位において、前記被覆層に噛み合う歯を備えた噛合部材と係合するように構成され、
前記モールは芯糸と、前記芯糸から放射状に延びる複数のパイルとを備え、
前記パイルは、前記凹部に相当する部位において前記噛合部材の歯が噛み合ったとき、前記凸部の最外部に向かって前記凸部の最外部の近傍までの前記被覆層を覆うように変形するように構成され、
前記有歯ケーブルの製造方法が、
前記コアケーブルの外周に前記コイル部を螺旋状に巻き付けることと、
前記コアケーブルおよび前記コイル部の外周に、押出成形により被覆層を設けることと、
前記被覆層の上に、前記凹部に沿って前記モールを螺旋状に巻き付けることと、
前記コアケーブルおよび前記コイル部を加熱し、前記被覆層と前記モールとを融着すること
とを含む、有歯ケーブルの製造方法。
【請求項6】
前記被覆層および前記モールのそれぞれは互いに融着可能な熱可塑性樹脂によって構成され、前記被覆層の樹脂材料の融点は、前記モールの樹脂材料の融点よりも低い、請求項5に記載の有歯ケーブルの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有歯ケーブルおよび該有歯ケーブルを備えた駆動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
歯車などの駆動力を伝達するための機構として、金属素線からなるコアケーブルの外周面に、螺旋状に巻き付けられた歯条(コイル部)により、その軸線方向に駆動力を伝達する有歯ケーブルが知られている。この有歯ケーブルは、歯条(コイル部)により有歯ケーブルの軸線方向に沿って、凹部と凸部とが交互に繰り返し形成され、当該凹部に歯車の歯が噛み合うことにより、有歯ケーブルを軸線方向に駆動して、歯車などの駆動源の駆動力を伝達する。
【0003】
有歯ケーブルの一例として、コアケーブルの周囲に螺旋状に巻き付けられたコイル部と、コイル部の間に巻き付けられたモールとを有する植毛タイプの有歯ケーブルが知られている(特許文献1参照)。この植毛タイプの有歯ケーブルの場合、有歯ケーブルと歯車とが噛み合う際に、有歯ケーブルのコイル部と歯車とが接触するため、金属同士の接触に伴う異音が発生する。また、有歯ケーブルが挿通されるパイプ等の案内部材の内面と、有歯ケーブルのコイル部との接触によって異音が発生する。
【0004】
他の種類の有歯ケーブルとしては、有歯ケーブルのコアケーブルおよびコイル部の外側を樹脂により連続して被覆する被覆層を有する有歯ケーブルが知られている(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平6-294460号公報
【文献】特開2012-233510号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献2に示されるような被覆層を有する有歯ケーブルは、上述したコイル部と歯車との接触音や案内部材の内面とコイル部との接触音を軽減することはできるが、歯車が被覆層の樹脂に噛み込む際に、歯車が樹脂を潰す音が生じてしまう。
【0007】
そこで、本発明は、有歯ケーブルの外周において、コアケーブルおよびコイル部の外側が樹脂により覆われる被覆層を有している場合に、被覆層の樹脂が潰されるときの異音の軽減が可能な、有歯ケーブル、該有歯ケーブルを備えた駆動装置および有歯ケーブルの製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の有歯ケーブルは、コアケーブルと、前記コアケーブルの外周に螺旋状に巻き付けられたコイル部とを備えた有歯ケーブルであって、前記有歯ケーブルは、螺旋状に巻き付けられたコイル部によって形成される凸部と、前記有歯ケーブルの軸方向に隣接する一対の凸部の間に形成される凹部とを有し、前記有歯ケーブルがさらに、前記凸部および前記凹部を樹脂により連続して被覆する被覆層と、前記被覆層の上に、前記凹部に沿って螺旋状に巻き付けられ、前記被覆層に融着されたモールとを備えている。
【0009】
また、本発明の駆動装置は、上記有歯ケーブルと、前記有歯ケーブルの凹部に相当する部位において、前記被覆層に噛み合う噛合部材と、前記有歯ケーブルが挿通され、前記有歯ケーブルを所定の配索経路に沿って案内する案内部材とを備えている。
【発明の効果】
【0010】
本発明の有歯ケーブル、駆動装置および有歯ケーブルの製造方法によれば、有歯ケーブルの外周において、コアケーブルおよびコイル部の外側が樹脂により覆われる被覆層を有している場合に、被覆層の樹脂が潰されるときの異音の軽減が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の一実施形態の有歯ケーブルを示す、有歯ケーブルの被覆層を軸方向に切断した部分断面図である。
図2】本発明の一実施形態の有歯ケーブルを備えた駆動装置の概略図である。
図3】コアケーブルにコイル部が巻き付けられ、被覆層が被覆される前の状態を示す側面図である。
図4図3に示される状態から、被覆層が被覆された状態を示す図である。
図5図4に示される状態から、モールが被覆層に巻き付けられた状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照し、本発明の一実施形態の有歯ケーブル、該有歯ケーブルを備えた駆動装置および有歯ケーブルの製造方法を説明する。なお、以下に示す実施形態はあくまで一例であり、本発明の有歯ケーブル、駆動装置および有歯ケーブルの製造方法は、以下の実施形態に限定されるものではない。
【0013】
本実施形態の有歯ケーブル1は、詳細は後述するが、図1に示されるように、コアケーブル2と、コアケーブル2の外周に螺旋状に巻き付けられたコイル部3とを備えている。有歯ケーブル1は、螺旋状に巻き付けられたコイル部3によって形成される凸部C1と、有歯ケーブル1の軸X方向に隣接する一対の凸部C1の間に形成される凹部C2とを有している。
【0014】
有歯ケーブル1は、有歯ケーブル1の動作によって所定の操作対象(図示せず)を操作する駆動装置D(図2参照)に適用される。操作対象は、有歯ケーブル1によって操作可能なものであれば、特に限定されないが、例えば車両のサンルーフや窓ガラス等の開閉体とすることができる。
【0015】
駆動装置Dの構造は、有歯ケーブル1の動作によって所定の操作対象を操作することができれば、特に限定されない。本実施形態では、駆動装置Dは、図2に示されるように、有歯ケーブル1と、有歯ケーブル1の凹部C2に相当する部位において、後述する被覆層4に噛み合う噛合部材Gと、有歯ケーブル1が挿通され、有歯ケーブル1を所定の配索経路に沿って案内する案内部材Pとを備えている。
【0016】
噛合部材Gは、有歯ケーブル1と噛み合って、有歯ケーブル1を駆動する、または有歯ケーブル1によって駆動される。本実施形態では、噛合部材Gは、図示しない駆動部によって駆動される。より具体的には、本実施形態では、歯車によって構成された噛合部材Gが、モータ等の駆動部の駆動力によって回転し、噛合部材Gの歯と噛み合った有歯ケーブル1が軸X方向に移動する。有歯ケーブル1の端部(一端および/または両端)には、操作対象が直接または間接的に接続されて、有歯ケーブル1の軸X方向への移動に伴い、操作対象が操作される。なお、有歯ケーブル1は、噛合部材Gからの駆動力により軸X方向に操作されてもよいし、有歯ケーブル1の軸X方向の動作を噛合部材Gに伝達することによって噛合部材Gを操作してもよい。有歯ケーブル1によって噛合部材Gが駆動される場合、例えば、図示しない駆動部によって軸X方向に有歯ケーブル1が移動して、有歯ケーブル1の軸X方向への移動によって噛合部材Gが回転するように、駆動装置Dを構成すればよい。この場合、噛合部材Gの回転力が噛合部材Gに直接または間接的に接続された操作対象に伝達されて、操作対象が操作される。
【0017】
本実施形態では、噛合部材Gは平歯車として示されているが、噛合部材Gの構造は、噛合部材Gによって有歯ケーブル1を駆動することができるか、または、有歯ケーブル1によって噛合部材Gが駆動されるように構成されていれば、特に限定されない。
【0018】
案内部材Pは、所定の配索経路に沿って有歯ケーブル1を案内する。本実施形態では、案内部材Pは、有歯ケーブル1を収容可能な内径を有する管状部材である。有歯ケーブル1は案内部材Pの内部に摺動可能に収容される。なお、案内部材Pは、有歯ケーブル1の全周を覆う必要はなく、有歯ケーブル1の軸Xに垂直な断面において有歯ケーブル1の外径よりも大きい幅を有する略U字形状のガイド溝であってもよい。案内部材Pは直線的に配索されていてもよいが、有歯ケーブル1の取付対象(例えば車両等)に通常湾曲した経路で配索される。案内部材Pの材料は特に限定されないが、案内部材Pは、例えば金属または樹脂により構成され得る。
【0019】
次に、有歯ケーブル1の各構成について説明する。
【0020】
コアケーブル2は、有歯ケーブル1の芯となるケーブルである。コアケーブル2は耐伸縮性、耐捻性を有している。コアケーブル2の構造は特に限定されず、公知の有歯ケーブルに用いられているものと同等の構造とすることができる。具体的には、コアケーブル2は、1本の金属線によって構成された芯線を中心に、複数本の金属線によって構成された補強層が螺旋巻きされ、さらにその周囲に複数本の金属線によって構成された別の補強層を螺旋巻きすることにより構成される複層構造とすることができる。
【0021】
コイル部3は、コアケーブル2の外周に螺旋巻きされるコイル状の部分である。本実施形態では、コイル部3は、図1に示されるように、金属素線を軸X方向に等間隔の隙間が形成されるようにコアケーブル2の外周に螺旋巻きすることにより形成されている。コイル部3がコアケーブル2の外周に螺旋巻きされることで、有歯ケーブル1の凸部C1および凹部C2が設けられる。
【0022】
図1に示されるように、有歯ケーブル1はさらに、凸部C1および凹部C2を樹脂により連続して被覆する被覆層4と、被覆層4の上に、凹部C2に沿って螺旋状に巻き付けられ、被覆層4に融着されたモール5とを備えている。
【0023】
被覆層4は、コアケーブル2およびコアケーブル2の外周に螺旋巻きされたコイル部3の外周を被覆する。被覆層4は、コアケーブル2およびコイル部3の外側に有歯ケーブル1の周方向および軸X方向に連続して樹脂を被覆することにより形成されている。有歯ケーブル1の被覆層4は、図1に示されるように、コイル部3を樹脂が被覆することにより形成されたコイル部被覆部41と、軸X方向で隣接する凸部C1の間の、コアケーブル2の外周部を樹脂が被覆することにより形成されたコアケーブル被覆部42とを有している。コイル部被覆部41は、有歯ケーブル1が噛合部材Gと噛み合うときに、コイル部3と噛合部材Gとが当接したときの音を防止する。コアケーブル被覆部42は、噛合部材Gの歯T(図2参照)が有歯ケーブル1の被覆層4に噛み込む部分を保護する。なお、本実施形態では、コイル部被覆部41とコアケーブル被覆部42とは、コアケーブル2およびコイル部3と、被覆層4との間に隙間が生じないように密着して設けられている。
【0024】
被覆層4の材料は、例えば、所定の柔軟性を有する樹脂、特に熱可塑性樹脂(熱可塑性エラストマー)であることが好ましい。より具体的には、被覆層4の材料としては例えば、ポリエステル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、フッ素系樹脂、シリコーン系樹脂、ナイロン系樹脂、ポリウレタン系樹脂、塩化ビニル系樹脂等を用いることができる。被覆層4の膜厚は、図1においては、コイル部被覆部41とコアケーブル被覆部42とで実質的に同一の厚さとされている。しかし、被覆層4の膜厚については、コアケーブル被覆部42の厚さがコイル部被覆部41の厚さよりも薄くてもよいし、コアケーブル被覆部42の厚さがコイル部被覆部41の厚さよりも厚くてもよい。
【0025】
被覆層4を設ける方法は特に限定されないが、例えば、コイル部3が螺旋巻きされたコアケーブル2(図3参照)に、押出成形によって熱可塑性樹脂を被覆する。被覆層4の膜厚をコイル部被覆部41とコアケーブル被覆部42とで変化させる場合は、樹脂温度やコアケーブル2の引取速度を調整することなどによって、被覆層4の膜厚を変化させることができる。
【0026】
モール5は、図1に示されるように、芯糸51と、芯糸51から放射状に延びる複数のパイル52とを備えている。芯糸51は、例えば樹脂繊維を複数本束ねたものが用いられる。芯糸51の材料は、例えば熱可塑性樹脂(熱可塑性エラストマー)であることが好ましい。より具体的には、芯糸51の材料としては例えば、ポリエステル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、フッ素系樹脂、シリコーン系樹脂、ナイロン系樹脂、ポリウレタン系樹脂、塩化ビニル系樹脂等を用いることができる。
【0027】
パイル52は、所定の太さおよび長さを有する樹脂製の繊維であり、芯糸51の周りに放射状に植毛されている。パイル52の材料は、所定の柔軟性を有する樹脂、特に熱可塑性樹脂(熱可塑性エラストマー)であることが好ましい。より具体的には、パイル52の材料としては例えば、ポリエステル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、フッ素系樹脂、シリコーン系樹脂、ナイロン系樹脂、ポリウレタン系樹脂、塩化ビニル系樹脂等を用いることができる。
【0028】
モール5は、凹部C2に沿って螺旋状に巻き付けられ、後述するように被覆層4に融着される。モール5を被覆層4に融着する方法は特に限定されないが、例えば高周波を用いて、金属材料であるコアケーブル2およびコイル部3を誘導加熱することによって被覆層4を溶融させることによって、モール5を被覆層4に容易に融着することができる。
【0029】
上述したように、本実施形態の有歯ケーブル1は、図1および図2に示されるように、被覆層4と、被覆層4に融着されたモール5とを備えている。この場合、有歯ケーブル1と歯車等の噛合部材Gとが噛み合った際に、モール5が緩衝部材として機能して、被覆層4が噛合部材Gによって噛み込まれた際の、被覆層4の樹脂が潰されるときの異音を軽減することができる。この点について、以下、より具体的に説明する。
【0030】
モール5が無い状態で、所定の厚さで設けられた被覆層4(図4に示される状態と同じ状態)に噛合部材Gの歯Tが噛み込んだときに、毎回ではないが被覆層4の樹脂材料が噛合部材Gによって潰されて部分的に破断されたときなどに比較的大きな音が発生する場合がある。本実施形態では、この音が発生する部位は主に被覆層4のうち、凹部C2の位置(コアケーブル被覆部42)であるが、噛合部材Gによって潰される被覆層4(コアケーブル被覆部42)の樹脂材料は、モール5によって覆われている。そのため、モール5が噛合部材Gと被覆層4との間で緩衝部材となるとともに、被覆層4が潰されたときに生じる音は、音が生じた部分を覆うモール5によって低減される。したがって、被覆層4の樹脂の潰れを原因とした不快な異音を軽減することができる。また、駆動装置Dの動作中、噛合部材Gが軸X方向に隣接する一対の凸部C1の間に入り込む際に、モール5と噛合部材Gとの間で、小さいながらも継続して接触音が発生する。この接触音は、柔軟なモール5の構造上ユーザにとっては気になる程の大きさの音ではない。このモール5と噛合部材Gとの間の接触音によって、被覆層4の樹脂が潰された音がユーザに認識されにくくなる。すなわち、本実施形態では、ユーザは被覆層4の樹脂が潰された音とモール5の接触音とのギャップを異音として認識することになり、ユーザは被覆層4の樹脂が潰された音に気付きにくくなる。このように、被覆層4と噛合部材Gとの間にモール5が介在する構成によって、被覆層4の樹脂が潰される音の低減効果に加え、被覆層4の樹脂が潰される音が生じた時点と樹脂が潰れる直前の時点での音のギャップを小さくするギャップ低減効果が得られる。
【0031】
また、被覆層4およびモール5が設けられていることによって、上述したように凹部C2の位置での異音を軽減できるだけでなく、有歯ケーブル1の凸部C1に対応する部分(コイル部被覆部41)に噛合部材Gの歯Tが当接したときに、凹部C2へと入った噛合部材Gの歯Tによって押しのけられたモール5の一部が、被覆層4の最外部41a(有歯ケーブル1の径方向において、コイル部被覆部41の最外部)に向かって被覆層4を覆うように変形して、噛合部材Gと被覆層4との間に介在する。したがって、被覆層4の最外部41aとコアケーブル被覆部42との間で被覆層4の膜厚を厚くすることなく、変形したモール5(パイル52)によって、被覆層4の厚さを厚くした場合と同様の音軽減効果を得ることができる。また、被覆層4の最外部41aとコアケーブル被覆部42との間の部分は、噛合部材Gによって駆動される際に大きな力を噛合部材Gから受けて削れや摩耗が生じやすいが、モール5を有していることによって、被覆層4の最外部41aとコアケーブル被覆部42との間の削れや摩耗が抑制される。
【0032】
また、本実施形態では、図1および図2に示されるように、パイル52の先端が、有歯ケーブル1の径方向で、被覆層4の最外部41aを越えて延びている。この場合、有歯ケーブル1と歯車等の噛合部材Gとが噛み合った際に、パイル52が被覆層4の最外部41aの近傍を覆うように変形しやすく、噛合部材Gと有歯ケーブル1の凸部C1に対応する部分(コイル部被覆部41)とが接触したときの接触音をさらに軽減することができる。また、図2に示されるように、有歯ケーブル1がパイプ等の案内部材Pに挿通された際に、有歯ケーブル1の被覆層4の最外部41aと案内部材Pの内面とが接触しにくくなる。したがって、案内部材Pの内面と被覆層4との接触による異音や摺動抵抗の増大を抑制することができる。
【0033】
また、本実施形態では、モール5は被覆層4に融着されている。したがって、被覆層4とモール5との間を接続するために、モール5を螺旋巻きする前に被覆層4に接着剤を塗布したり、他の部材を用いたりする必要がない。したがって、有歯ケーブル1の製造を容易にすることができる。
【0034】
本実施形態では、被覆層4およびモール5のそれぞれは互いに融着可能な熱可塑性樹脂によって構成され、被覆層4の樹脂材料の融点は、モール5の樹脂材料の融点よりも低い。この場合、被覆層4とモール5とを融着させるときに、被覆層4が、被覆層4の材料の融点まで加熱されると、被覆層4のみが溶融してモール5は溶融しない。したがって、被覆層4のみを溶融させることにより、被覆層4とモール5とが融着されて、モール5はほぼ溶融しない状態に保たれる。したがって、モール5の柔軟な性質が維持された状態で、容易に被覆層4とモール5とを融着することができる。
【0035】
次に、有歯ケーブル1の製造方法を説明する。なお、以下の説明はあくまで一例であり、有歯ケーブル1の構造は以下の説明によって限定されるものではなく、有歯ケーブル1の製造方法は他の製造方法によって製造することも可能である。
【0036】
まず、コアケーブル2およびコイル部3を用意し、コアケーブルの外周にコイル部を螺旋状に巻き付ける。コアケーブル2は、例えば、直径が0.6~0.8mmの直線状の亜鉛めっき硬鋼線である心線と、心線の上に直径が0.4~0.6mmの亜鉛めっき硬鋼線6本を巻き付けた内層と、内層の上に直径が0.4~0.6mmの亜鉛めっき硬鋼線6本を内層と逆方向へ巻き付けた外層とを備えたものとすることができる。このコアケーブル2の周囲には、直径が1.0~1.2mmの亜鉛めっき硬鋼線であるコイル部3が、軸X方向の離間距離が2.4~2.6mmとなるように、螺旋状に巻き付けられる。
【0037】
次に、コアケーブル2およびコイル部3の外周に被覆層4を被覆する。例えば、被覆層4の材料として、例えばナイロン6を用いて、押出成形によりコアケーブル2およびコイル部3の外周に密着した被覆層4を設けることができる。被覆層4が被覆された後、被覆層4の上に、凹部C2に沿ってモール5を螺旋状に巻き付ける。モール5(パイル52)の材料としては、被覆層4の材料よりも融点の高い材料、例えばナイロン66が用いられる。
【0038】
モール5が被覆層4に巻き付けられた後、コアケーブル2およびコイル部3を加熱することによって、被覆層4とモール5とを融着する。具体的には、有歯ケーブル1を高周波誘導加熱装置または加熱炉に入れて、コアケーブル2およびコイル部3を加熱する。このときのコアケーブル2およびコイル部3の加熱は、被覆層4の融点を超え、モール5の融点を超えない温度となるように調整される。コアケーブル2およびコイル部3を加熱すると、コアケーブル2およびコイル部3の熱によって被覆層4が溶融する。モール5の材料は被覆層4の材料よりも融点が高いため、被覆層4が溶融した時点ではほぼ溶融しない。そして、溶融した被覆層4にモール5の一部が入り込んだ状態で、被覆層4が冷却されて固化することで、被覆層4とモール5とが融着され、有歯ケーブル1が完成する。被覆層4は、コイル部3と噛合部材Gとの間の接触音を抑制する消音機能を有するだけでなく、上述したように、接着剤や他部材を用いずにモール5を被覆層4に一体化させる接合機能を有する。そして、コアケーブル2およびコイル部3の加熱の際に、モール5は溶融しないので、モール5のパイル52の柔軟性が保たれた状態で、モール5が被覆層4に融着される。したがって、上述した有歯ケーブル1の防音性能を損なわずに、容易に有歯ケーブル1を製造することができる。
【0039】
なお、被覆層4において、コイル部被覆部41の厚さをコアケーブル被覆部42の厚さよりも厚くしてもよい。この場合、コイル部被覆部41がコアケーブル被覆部42に対して厚くなっているので、コアケーブル被覆部42の溶融に比べて、コイル部被覆部41の溶融は遅くなり、コイル部被覆部41の最外部41aの周辺は所定の被覆状態で維持され易い。したがって、コアケーブル被覆部42ではモール5との融着を容易にしつつ、コイル部被覆部41は所定の被覆状態で確実にコイル部3を被覆することができる。
【符号の説明】
【0040】
1 有歯ケーブル
2 コアケーブル
3 コイル部
4 被覆層
41 コイル部被覆部
41a 被覆層の最外部
42 コアケーブル被覆部
5 モール
51 芯糸
52 パイル
C1 凸部
C2 凹部
D 駆動装置
G 噛合部材
P 案内部材
T 噛合部材の歯
X 有歯ケーブルの軸
図1
図2
図3
図4
図5