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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-17
(45)【発行日】2024-06-25
(54)【発明の名称】針状ころ軸受
(51)【国際特許分類】
   F16C 33/54 20060101AFI20240618BHJP
   F16C 19/46 20060101ALI20240618BHJP
   F16C 33/58 20060101ALI20240618BHJP
【FI】
F16C33/54 Z
F16C19/46
F16C33/58
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020144350
(22)【出願日】2020-08-28
(65)【公開番号】P2022039366
(43)【公開日】2022-03-10
【審査請求日】2023-03-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001586
【氏名又は名称】弁理士法人アイミー国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】香川 亘
【審査官】藤村 聖子
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-156388(JP,A)
【文献】特開2004-084706(JP,A)
【文献】国際公開第2006/098276(WO,A1)
【文献】特開2000-179555(JP,A)
【文献】特開平11-351145(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C 19/00-19/56
F16C 33/30-33/66
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
1対のリング部、および両端が前記1対のリング部にそれぞれ結合する複数の柱部とを有し、周方向で隣り合う前記柱部同士間にポケットを区画する保持器と、
前記ポケットに保持される針状ころとを備え、
前記柱部のうち軸方向両端部分が外径側に配置され、前記柱部のうち軸方向中央部分が内径側に配置され、前記軸方向両端部分および前記軸方向中央部分は前記ポケットに面するポケット壁面を有し、
前記軸方向両端部分に設けられる前記ポケット壁面のうち内径側領域と、前記軸方向中央部分に設けられる前記ポケット壁面のうち外径側領域が、径方向位置に関して重複する重複領域を構成し、
前記重複領域は、前記針状ころを案内するころ案内面を含み、
前記ころ案内面は前記柱部の一端部から他端部まで連続的に延びており
前記軸方向両端部分および前記軸方向中央部分の径方向段差が前記軸方向中央部分の径方向肉厚の0.2倍以上0.8倍以下の範囲に含まれる、針状ころ軸受。
【請求項2】
前記重複領域は、前記針状ころのピッチ円と交差する、請求項1に記載の針状ころ軸受。
【請求項3】
前記針状ころが転動する外側軌道面を構成するシェル外輪をさらに備える、請求項1または2に記載の針状ころ軸受。
【請求項4】
前記針状ころが転動する外側軌道面を構成するソリッド外輪をさらに備える、請求項1または2に記載の針状ころ軸受。
【請求項5】
前記リング部は、前記柱部の前記両端部分から内径側へ突出する鍔部を含む、請求項1または2に記載の針状ころ軸受。
【請求項6】
前記保持器は針状ころに案内されるころ案内とされる、請求項1~5のいずれかに記載の針状ころ軸受。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、転がり軸受に関し、特にころを保持する保持器に関する。
【背景技術】
【0002】
針状ころおよび保持器を備える転がり軸受として例えば特許文献1および特許文献2に記載されるシェル形針状ころ軸受が知られている。特許文献1の保持器は、柱部の軸方向一端から他端まで真っ直ぐに延び、柱部全体の径方向寸法が1対のリング部の径方向厚みと等しくされることから、ストレート形状保持器ともいう。特許文献2の保持器は、柱部の軸方向中央部分が軸方向両端部分よりも内径側に配置されることから、V形保持器ともいう。
【0003】
ストレート形状保持器は、板厚が大きいとばりやだれが大きく出てしまうため、板厚に制限がある。また、針状ころが保持器から脱落しない設計とするため、保持器外径が針状ころのピッチ円PCDよりも小さくされる。このため針状ころは、保持器の柱部の外径側で案内され、柱部の外径側角部と接触する。角部には油膜が形成されないばかりでなく、角部はころ転動面の油膜形成を阻害する。また針状ころが保持器を押すことにより発生する応力が大きくなるため、保持器強度に劣る。
【0004】
次に、従来のV形保持器を図7の縦断面図および正面図で示す。V形保持器112は、保持器を薄板で構成しつつも保持器全体の径方向厚み寸法を大きくできる点で、ストレート形状保持器よりも有利である。V形保持器112は、軸方向に離隔する1対のリング部113,113と、これらリング部113同士を連結する複数の柱部114を有する。柱部114の軸方向両端部分116および軸方向中央部分117の間の段付きはロール成形によって形成される。針状ころ111のピッチ円PCDは、径方向外側の段に相当する軸方向両端部分116と交差する。径方向内側の段に相当する軸方向中央部分117は、ピッチ円PCDよりも内径側に配置され、針状ころ111がポケット115から径方向内側へ脱落することを防止する。V形保持器によれば、針状ころが保持器の面で案内される。角ではなく面で案内される利点として、通油性は上述したストレート形状保持器よりも優れ、ころが保持器を押すことにより当該保持器に発生する応力はストレート形状保持器よりも小さい。
【0005】
特許文献1および特許文献2のシェル形針状ころ軸受は主に、エンジン車両の駆動系の回転要素の転がり支持に使用される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特許第4310089号公報
【文献】特許第5668515号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
昨今の省燃費化の要請を受けて、ガソリンを燃料とするエンジン車両から電気自動車やハイブリッドカーへ移行するに従い、車両はエンジン駆動から電気モータ駆動へと代替される。これにより駆動系回転要素の軸受が、今までよりも速い回転数で使用される場合が増える。
【0008】
具体的には、針状ころ111がV形保持器112に及ぼす力が今までよりも大きくなる。一方で針状ころ111は内径段になる軸方向中央部分117には当接せず、外径段になる軸方向両端部分116のみで案内されるため、針状ころ111とV形保持器112の柱部114が互いに接触するころ案内面は軸方向両端部分116に限定される。そうすると以下の問題が懸念される。
【0009】
第1に、保持器強度の問題が懸念される。針状ころ111とV形保持器112の柱部114の接触が軸方向両端部分116に限られるため、ポケット隅Rに発生する主応力が大きくなり、V形保持器112の耐久性が悪化する。図1を参照すると、ポケット隅Rは一般的に柱部14とリング部13の結合箇所で区画され、円弧状に切り欠かれている。円弧状に切り欠かれているため、従来はポケット隅Rに発生する主応力が緩和されていた。しかし今後は、上述した理由により、ポケット隅Rに発生する主応力が新たな問題となる。
【0010】
第2に、摩耗の問題が懸念される。軸受が使用される回転数が速くなると、針状ころ111がV形保持器112の柱部114を押すことにより発生する接触面圧(Pressure)と滑り速度(Velocity)の積(PV値)が大きくなる。さらに針状ころ111とV形保持器112の接触長さLcが外径段に限られるため、押し力F/接触長さLcで算出される接触面圧(Pressure)が大きくなる。そうすると柱部114の早期摩耗が懸念される。
【0011】
第3に、針状ころ軸受の負荷容量の低下が懸念される。上述した主応力増大に対応するためには、リング部113の幅Lnを大きくする必要がある。リング部113の幅Lnを大きくとると、限られた軸受の周方向寸法の残りになるポケット軸方向寸法が小さくなり、さらに針状ころ111のころ長が小さくなり、針状ころ軸受の負荷容量が小さくなるので不利になる。
【0012】
本発明は、今まで使用することのなかった高速回転環境下で有利に使用できる技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
この目的のため本発明による針状ころ軸受は、1対のリング部、および両端が1対のリング部にそれぞれ結合する複数の柱部とを有し、周方向で隣り合う柱部同士間にポケットを区画する保持器と、ポケットに保持される針状ころとを備える。そして柱部のうち軸方向両端部分が外径側に配置され、柱部のうち軸方向中央部分が内径側に配置され、軸方向両端部分および軸方向中央部分はポケットに面するポケット壁面を有し、軸方向両端部分に設けられるポケット壁面のうち内径側領域と、軸方向中央部分に設けられるポケット壁面のうち外径側領域が、径方向位置に関して重複する重複領域を構成する。そして重複領域は、針状ころを案内するころ案内面を含む。
【0014】
かかる本発明によれば、ころ案内面が柱部の一端部から他端部までの長さになるため、従来よりも大きくなる。したがってポケット隅Rに発生する主応力を小さくして、V形保持器の耐久性が向上する。また接触面圧(Pressure)が従来よりも小さくなるため、針状ころ軸受が高速回転する場合であってもPV値の増大を抑制することができ、柱部の早期摩耗が解消される。さらにポケット隅Rの主応力を小さくすることができるので、リング部の幅を殊更大きくする必要がない。したがって、針状ころのころ長をこれまで通りとして、針状ころ軸受の負荷容量を確保することができる。なお、ころ案内面とは、ポケット壁面のうち針状ころの転動面と接触する面をいう。
【0015】
針状ころは保持器の径方向に若干の相対移動可能であることから、ころ案内面は保持器の径方向に幅寸法を有する。ころ案内面は、重複領域と一致してもよいし、あるいは重複領域よりも小さくてもよい。換言すると、複数の針状ころが全て中立位置にあるときのピッチ円からみて、保持器は若干の偏心移動を許容される。本発明の一局面としてポケット壁面の重複領域は、針状ころのピッチ円と交差する。かかる局面によれば、ピッチ円の接線方向に針状ころを案内することができるので、接触面圧を小さくすることができる。他の局面として、ポケット壁面の重複領域は、針状ころのピッチ円よりも外径側にずれていてもよいし、あるいは内径側にずれていてもよい。
【0016】
本発明の針状ころ軸受は、様々な外輪とともに使用可能である。本発明の好ましい局面として針状ころ軸受は、針状ころが転動する外側軌道面を構成するシェル外輪をさらに備える。シェル外輪は、溶接して円筒形状にされるのではなく、深絞り加工により円筒形状にされる。本発明の他の局面として針状ころ軸受は、針状ころが転動する外側軌道面を構成するソリッド外輪をさらに備える。ソリッド外輪は、削り出しによって形成される。本発明の他の局面として、針状ころ軸受は保持器付きころであってもよい。
【0017】
本発明のさらに他の局面として保持器は、リング部の軸方向外側縁から内径側へ突出する鍔部を含む。かかる局面によれば、保持器強度が大きくなり、耐久性が向上する。あるいはリング部の軸方向寸法を小さくし、ポケットの軸方向寸法および針状ころのころ長を大きくして、負荷容量を増大させることができる。
【0018】
本発明の一局面として、保持器は針状ころに案内されるころ案内とされる。本発明の他の局面として、保持器は外側軌道面に案内される外輪案内とされる。
【0019】
柱部の軸方向両端部分および軸方向中央部分の径方向段差は、軸方向中央部分の径方向肉厚の1.0倍未満であることから、軸方向両端部分および軸方向中央部分が保持器の径方向に重複する重複領域を柱部に設けることができる。本発明の一局面として、柱部の軸方向両端部分および軸方向中央部分の径方向段差が、軸方向中央部分の径方向肉厚の0.2倍以上0.8倍以下の範囲に含まれる。これにより上述した重複領域の上限値を80%とし、下限値を20%に設定することができる。
【発明の効果】
【0020】
このように本発明によれば、従来の針状ころ軸受と比較して本発明を高速運転する場合であっても、保持器のポケット隅Rに発生する主応力を小さくして、保持器の耐久性を向上させることができる。またPV値が少なくなり、摩耗が軽減される。さらに針状ころ軸受の負荷容量を大きくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明の一実施形態になる保持器を示す正面図である。
図2】同実施形態の保持器および針状ころを示す縦断面図である。
図3】同実施形態の保持器および針状ころを示す横断面図である。
図4】同実施形態を具備するシェル形針状ころ軸受を示す縦断面図である。
図5】同実施形態を具備するソリッド形針状ころ軸受を示す縦断面図である。
図6】同実施形態の変形例になる保持器および針状ころを示す縦断面図である。
図7】従来の保持器および針状ころを示す縦断面図および正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施の形態を、図面に基づき詳細に説明する。図1は、本発明の一実施形態になる保持器を示す正面図であり、外径側から見た状態を表す。図2は、同実施形態になる保持器および針状ころを示す縦断面図であり、保持器の軸線を含む平面で当該保持器を切断した切断面を拡大して表す。図3は、同実施形態になる保持器および針状ころを示す横断面図であり、保持器の軸線に直角な平面で当該保持器を切断し、軸線よりも上方の切断面および下方の切断面を取り出して拡大表示する。なお図の煩雑を避けるため、図2以降では、紙面最上部または最下部のポケットおよび柱部を表し、残りを図略する。
【0023】
本実施形態の針状ころ軸受は、針状ころ(以下、単にころ11という)および保持器12を備える。ころ11のころ長Lrは、ころ径φrの3倍以上10倍以下の範囲に含まれる(3φr≦Lr<10φr。保持器12は、1対のリング部13,13、および両端が1対のリング部13,13にそれぞれ結合する複数の柱部14を有する。1対のリング部13,13は、保持器12の周方向に延び、軸方向に間隔を空けて配置される。柱部14は、保持器12の軸方向に延び、リング部13の周方向に等間隔に配置されることから、周方向で隣り合う柱部14,14同士間にポケット15を区画する。ころ11は、各ポケット15に保持される。
【0024】
図1に示すように、柱部14は軸方向両端部分16,16および軸方向中央部分17を含む。図2に示すように、軸方向両端部分16,16は保持器12の軸線Oからみて遠い外径側に配置される一方、軸方向中央部分17は軸線Oに近い内径側に配置されることから、柱部14はいわゆるV字形状とされる。このため保持器12はV形保持器ともいう。
【0025】
ここで保持器12の製造方法につき附言すると、まず帯状鋼板を準備し、次に帯板鋼板をロール成形して断面V字状に形成し、次に打ち抜き加工によって帯状鋼板にポケット15を形成し、次に帯状鋼板を所定の長さに切断し、次に帯状鋼板を円筒形状に丸めて端部同士を溶接し、次に研摩加工を施す。
【0026】
本実施形態の軸方向両端部分16,16および軸方向中央部分17は、保持器12の径方向に完全にずれているのではなく、径方向位置が一部重なり、かかる重複領域Rbでころ11の転動面と接触する。図2中、重複領域Rbを破線のハッチングで表示する。重複領域Rbの内径縁は、軸方向両端部分16の内径面16dになる。重複領域Rbの外径縁は、軸方向中央部分17の外径面17cになる。つまり本実施形態の重複領域Rbはころ案内面である。
【0027】
本実施形態では重複領域Rbを得るため、柱部14の外径段と内径段の段差、すなわち軸方向両端部分16の外径面17cと軸方向中央部分17の外径面16cの径方向段差Rdが軸方向中央部分17の板厚Tpよりも小さい(Rd<Tp)。より好ましくは、径方向段差Rdが、板厚Tpの0.2倍以上0.8倍以下の範囲に含まれるようにされる(0.2Tp≦Rd≦0.8Tp)。これにより、V形保持器の第1の利点である、板厚Tpの薄肉化と、保持器12の径方向厚み寸法の増大を得ることができる。またV形保持器の第2の利点として、平面状の重複領域Rbでころ11を案内するため、ころ転動面がころ案内面になる重複領域Rbに接触するに際して潤滑油が供給され、針状ころ軸受の通油性が向上する。さらにピッチ円PCDが重複領域Rbと重なるので、ころ転動面がころ案内面である重複領域Rbに接触するに際して接触面圧が小さくなる。なお段差が小さい場合(Rd<0.2Tp)、重複率が80%を超えてしまい、V形保持器の利点を得難くなる。反対に段差が大きい場合(0.8Tp<Rd)、重複領域Rbが少なくなってしまい(重複率20%未満)、ピッチ円PCDが重複領域から外れる場合が生じる。板厚Tpは、リング部13の板厚、あるいは軸方向両端部分16の板厚、あるいは軸方向中央部分17の板厚である。これらの板厚は略等しい。
【0028】
本実施形態では、径方向段差Rd=0.2Tpであり、重複領域Rbの重複率は板厚Tpの80%である。
【0029】
さらに本実施形態では、軸方向両端部分16に属するポケット壁面18のうちの内径側領域と、軸方向中央部分17に属するポケット壁面18のうちの外径側領域が、ころ案内面である重複領域Rbを含む。
【0030】
図3を参照して、ポケット壁面18,18は、互いに平行に延びる柱部14,14の周方向間隔は、軸方向両端部分16の外径縁同士で最も大きく、軸方向中央部分17,17同士の間隔は内径縁で最も小さく、かかるポケット隙間Gpはころ径φrの97%以下である。これによりころ11はポケット15に保持され、取扱い時の衝撃などにより内径側へ抜け落ちることを防止される。
【0031】
ここで附言すると、ポケット隙間Gpはころ径φrの90%以上97%以下であることが好ましい。ポケット隙間Gpがころ径φrの90%未満であると、ピッチ円PCDが重複領域Rbから外径側に外れる虞がある。97%を超えると、取扱い時の衝撃などにより、ころが保持器から抜け落ちる可能性がある。
【0032】
図4を参照して、保持器12はシェル外輪21が装着される。シェル外輪21は、深絞り加工等によって平坦な円板から円筒状に曲げ作成されるプレス外輪であり、円筒部22と、1対の鍔部23,24を有する。鍔部23,24は、円筒部22の軸方向両端に形成される内向きフランジであり、鍔部23,24の内径寸法は保持器12の外径寸法よりも小さい。保持器12は鍔部23,24間に配置される。鍔部23,24は、保持器12のリング部13に軸方向に当接して、保持器12の軸方向移動を鍔部23,24間に規制する。これにより保持器12はシェル外輪21に分離不能に組み込まれる。なお鍔部24は、鍔部23よりも薄肉である。
【0033】
円筒部22は、保持器12の外周を包囲し、ころ11が転動する外側軌道面22wを構成する。そしてころ11は、シェル外輪21により、ポケット15から外径側へ抜け落ちることを防止される。
【0034】
図4に示す実施形態をシェル形針状ころ軸受という。保持器12の中心孔には、図示しないシャフトが通される。シャフトの外周面は、ころ11が転動する内側軌道面を構成する。
【0035】
図3中、保持器12はピッチ円PCDからみて紙面上方Uへ偏っている場合で表される。紙面最上部のころ11は、紙面下方Dに落ち込み、周方向両側から、ポケット15を挟んで向き合う軸方向中央部分17,17に挟まれる。保持器12はころ案内とされ、外側軌道面および内側軌道面と接触しない。あるいは図示はしなかったが、保持器12は外輪案内とされ、内側軌道面と接触しないものであってもよい。あるいは図示はしなかったが、保持器12は内輪案内か軸案内とされ、外側軌道面と接触しないものであってもよい。
【0036】
図3に示すように保持器12が最も偏った箇所(最上部および最下部)で、ピッチ円PCDは重複領域Rbと交差する。また図示はしなかったが保持器12の偏りが少ない箇所でも、ピッチ円PCDは重複領域Rbと交差する。保持器12の中立位置でも、ピッチ円PCDは重複領域Rbと交差する。
【0037】
図3中、ころ11の自転方向Tと、ころ11の公転方向Bをそれぞれ矢で表す。各ころ11の転動面は、少なくとも公転方向B側の重複領域Rbと当接する。
【0038】
図2に示す本実施形態の針状ころ軸受と、図7に示す従来のV形保持器を備える針状ころ軸受について、対比実験を行った。対比実験は、有限要素法によるFEM解析に基づく。本実施形態のV形保持器の径方向段差Rd=0.4Tp(重複率60%)であるのに対し、従来のV形保持器は重複率0%である。保持器の形状以外の条件は共通する。ころのピッチ円PCDはともに18[mm]であり、負荷荷重は100[N]である。
【0039】
対比実験の結果、本実施形態のV形保持器では、ポケット隅Rに発生する最大主応力=253.76[MPa]であった。これに対し従来のV形保持器では、ポケット隅Rに発生する最大主応力=375.25[MPa]であった。つまり従来の保持器のポケット隅Rに発生する主応力を1とすると、本実施形態の保持器12のポケット隅R(図1)に発生する主応力は0.68であることが分かった。本実施形態のV形の保持器12は、従来のV形保持器よりも強度が大きいことが分かった。
【0040】
したがって保持器12の軸方向寸法が従来と同じ場合に、リング部13の軸方向幅寸法を小さくしつつ、柱部14、ポケット15、およびころ11の軸方向長さを大きくして、針状ころ軸受の負荷容量を大きくすることができる。
【0041】
また本実施形態の保持器12によれば、図2に示すようにころ案内面である重複領域Rbの長さが柱部14の略全体に亘ることから、図7に示す従来の接触長さ2Lcよりも大きい。したがって、ころ案内面の接触面圧は従来よりも小さくなり、PV値が下がるため、従来よりも耐摩耗性が向上する。
【0042】
このように本実施形態の保持器は、従来のV形保持器と対比して、強度、耐摩耗性、負荷容量で優れる。
【0043】
次に本発明の他の実施形態を説明する。図5は本発明の他の実施形態を示す縦断面図である。他の実施形態につき、前述した実施形態と共通する構成については同一の符号を付して説明を省略し、異なる構成について以下に説明する。他の実施形態は、ソリッド型針状ころ軸受であって、前述した図4に示すシェル外輪21を、ソリッド外輪31に置き換えたものである。
【0044】
ソリッド外輪31は、円筒部32と、円筒部の両端から内径側へ突出する鍔部33を備える。ソリッド外輪31は、金属製の素形材を削り出すことにより形成され、前述したシェル外輪21よりも肉厚である。
【0045】
保持器12の外径に相当するリング部13の外径は、鍔部33の内径よりも小さく、1対のリング部13の軸方向位置が1対の鍔部33の軸方向位置と重なるよう、組み立てられる。円筒部32の内周面は外側軌道面32wを構成し、ころ11が外側軌道面32wを転動する。図5に示す実施形態では、ころ11のピッチ円PCDが、保持器12よりも外形側に位置し、重複領域(図2の重複領域Rbを参照のこと)と交差しない。
【0046】
図5に示す他の実施形態も、従来のV形保持器と対比して、強度、耐摩耗性、負荷容量で優れる。
【0047】
次に本発明のさらに他の実施形態を説明する。図6は本発明のさらに他の実施形態を示す縦断面図である。さらに他の実施形態につき、前述した実施形態と共通する構成については同一の符号を付して説明を省略し、異なる構成について以下に説明する。さらに他の実施形態は、保持器付きころであり、図示しないハウジングの孔に組み込まれる。ハウジングの孔の内周面は、ころ11が転動する外側軌道面を構成する。
【0048】
保持器12の軸方向両端には鍔部19,19がそれぞれ形成される。鍔部19は、リング部13の軸方向外側縁と結合し、内向きに突出する。
【0049】
図6に示す他の実施形態も、従来のV形保持器と対比して、強度、耐摩耗性、負荷容量で優れる。しかも図6に示す保持器12は鍔部19を有することから、リング部13の強度が補強され、ポケット隅Rの強度を大きくすることができる。したがって、柱部14を長くして、ころ11のころ長を大きくしたり、柱部14,14同士の周方向間隔を広げてころ11のころ径を大きくしたりすることができ、針状ころ軸受の高負荷容量化に資する。
【0050】
以上、図面を参照して本発明の実施の形態を説明したが、本発明は、図示した実施の形態のものに限定されない。図示した実施の形態に対して、本発明と同一の範囲内において、あるいは均等の範囲内において、種々の修正や変形を加えることが可能である。例えば上述した1の実施形態から一部の構成を抜き出し、上述した他の実施形態から他の一部の構成を抜き出し、これら抜き出された構成を組み合わせてもよい。
【符号の説明】
【0051】
11 ころ、 12 保持器、 13 リング部、
14 柱部、 15 ポケット、 16 軸方向両端部分、
17 軸方向中央部分、 18 ポケット壁面、
21 シェル外輪、 31 ソリッド外輪。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7