(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-17
(45)【発行日】2024-06-25
(54)【発明の名称】給電装置
(51)【国際特許分類】
H02M 7/12 20060101AFI20240618BHJP
B29C 45/17 20060101ALI20240618BHJP
【FI】
H02M7/12 B
B29C45/17
(21)【出願番号】P 2020151042
(22)【出願日】2020-09-09
【審査請求日】2023-06-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000004215
【氏名又は名称】株式会社日本製鋼所
(74)【代理人】
【識別番号】100103894
【氏名又は名称】家入 健
(72)【発明者】
【氏名】大川内 亮
(72)【発明者】
【氏名】大谷 愛
【審査官】柳下 勝幸
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-153978(JP,A)
【文献】特開2017-173306(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02M 7/12
B29C 45/17
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
3相交流電圧を直流電圧に変換するコンバータと、
前記直流電圧が出力される2本の電源線の間に接続されるコンデンサと、
前記コンデンサの容量値を算出する容量値算出部と、
前記容量値算出部が算出した容量値に基づいて、前記コンバータから出力される電力を制御するコンバータ制御部と、
前記3相交流電圧のそれぞれが供給される経路に並列に接続された、直列接続される抵抗及びスイッチを有する充電回路と、を備え、
前記容量値算出部は、
前記スイッチをオンにすることで、前記コンデンサを充電し、
前記コンバータに供給される電源電圧をV
A
、前記コンデンサの充電を開始してから前記コンデンサの充電電圧が所定電圧Vとなるまでの時間をT、前記抵抗の抵抗値をRとしたとき、前記抵抗と前記コンデンサによるRC時定数に基づいて、前記コンデンサの容量値Cを以下の式[1]に基づいて算出し、
【数1】
第1の状態のコンデンサの既知の容量値をC
0
、経時変化によって容量値が前記第1の状態よりも低下した第2の状態のコンデンサの容量値をC
1
としたとき、前記コンバータ制御部は、前記第2の状態のコンデンサに供給される電力がC
1
/C
0
となるように、前記コンバータを制御する、
給電装置。
【請求項2】
3相交流電圧を直流電圧に変換するコンバータと、
前記直流電圧が出力される2本の電源線の間に接続されるコンデンサと、
前記コンデンサの容量値を算出する容量値算出部と、
前記容量値算出部が算出した容量値に基づいて、前記コンバータから出力される電力を制御するコンバータ制御部と、を備え、
第1の状態のコンデンサの状態の既知の容量値をC
0、経時変化によって容量値が前記第1の状態よりも低下した第2の状態のコンデンサの容量値をC
1としたとき、
前記コンバータから出力される前記直流電圧が供給される負荷が一定のエネルギーを消費する条件下において、前記容量値算出部は、前記一定のエネルギー消費が生じたときの前記第1の状態のコンデンサにおける前記直流電圧の変動幅をΔV
0、前記一定のエネルギー消費が生じたときの前記第2の状態のコンデンサにおける前記直流電圧の変動幅をΔV
1としたとき、前記第2の状態のコンデンサの容量値C
1は、以下の式[2]に基づいて算出される、
【数2】
給電装置。
【請求項3】
3相交流電圧を直流電圧に変換するコンバータと、
前記直流電圧が出力される2本の電源線の間に接続されるコンデンサと、
前記コンデンサの容量値を算出する容量値算出部と、
前記容量値算出部が算出した容量値に基づいて、前記コンバータから出力される電力を制御するコンバータ制御部と、を備え、
第1の状態のコンデンサの既知の容量値をC
0、経時変化によって容量値が前記第1の状態よりも低下した第2の状態のコンデンサの容量値をC
1、前記コンバータから出力される前記直流電圧に基づいて駆動されるモータのトルクをTr、1分間あたりの回転数をN、動作時間をTd[秒]、とし、
前記第2の状態のコンデンサを用いた場合において、前記モータが駆動する前の前記コンデンサの充電電圧をV
0、前記モータが駆動することで変動した前記コンデンサの充電電圧をV
1としたとき、前記容量値算出部は、以下の式[3]に基づいて、前記第2の状態のコンデンサの容量値C
1を算出する、
【数3】
給電装置。
【請求項4】
前記コンバータは、前記2本の電源線の間に並列に接続された、直列接続される2つのスイッチ素子で構成される第1~第3のインバータを有し、
前記第1~第3のインバータの前記2つのスイッチの間には、前記3相交流電圧の異なる相がそれぞれ供給され
前記コンバータ制御部が前記第1~第3のインバータの前記2つのスイッチをPWM制御することで、前記コンバータは前記3相交流電圧を前記直流電圧に変換し、
前記コンバータ制御部は、前記PWM制御のデューティ比を変更することで、前記コンバータから出力される電力を制御する、
請求項1乃至
3のいずれか一項に記載の給電装置。
【請求項5】
前記コンバータ制御部は、
前記PWM制御のデューティ比をC
1/C
0とすることで、前記コンバータから出力される電力を制御する、
請求項
4に記載の給電装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、給電装置に関し、例えば樹脂を射出成形する射出成形機の給電装置に関する。
【背景技術】
【0002】
射出成形機は、樹脂を溶融して金型内に射出する射出装置を有するものとして構成される(特許文献1)。射出装置は加熱シリンダや加熱シリンダ内に回転可能かつ軸方向に駆動可能なスクリュが設けられ、スクリュが回転しながら駆動することで、材料である樹脂を加熱シリンダ内に導入し、かつ、溶融した樹脂を金型内に射出することができる。射出装置の各部を駆動するには、モータが広く用いられている。3相交流電源が出力する3相交流電圧は、交流直流変換回路によって直流電圧に変換され、変換された直流電圧は電圧変動を補償する電力貯蔵装置を経て、モータを駆動するサーボアンプに供給される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
射出装置で成形品を作製する成形サイクルにおいては、樹脂を溶融して計量する計量工程や樹脂を射出する射出工程など工程を実行することとなる。計量工程においてスクリュを回転方向に駆動するモータ、つまり可塑化軸は長時間電力を消費するが瞬間的な消費電力は比較的小さい。これに対し、射出工程においてスクリュを軸方向に駆動するモータ、つまり射出軸の駆動時間は短時間であるが、大電力を消費する。つまり、成形サイクルにおいて消費される電力は、工程により大きく変動する。従って、射出成形機のコンバータ等の電源装置は、消費される最大電力に対応できるように十分な容量が要求される。また、消費電力の変動が大きいので工場の受電設備に対する負荷も大きくなってしまう。
【0005】
このように消費電力が急激に変動するとサーボアンプに供給される直流電圧も変動するが、特許文献1の射出成形機では、直流電圧の変動を緩和するために、サーボアンプの前段に平滑化コンデンサ又はDCリンクコンデンサと称されるコンデンサが、2本の直流電源の間に接続される。消費電力が急激に変動したときに、このコンデンサに蓄えられた電力を直流電源線に供給し、又は、コンデンサに電力を蓄えることで、直流電圧の変動を抑制することができる。
【0006】
しかし、一般に、コンデンサの容量は経年劣化により低下するため、同じ電力消費が生じた場合の直流電圧の応答が変化してしまう。つまり、劣化していないコンデンサを用いた場合には直流電圧の変動を小さくできるのに対し、劣化したコンデンサを用いた場合には直流電圧の変動がより大きくなってしまい、直流電圧の変動幅が変化してしまう。
【0007】
その他の課題と新規な特徴は、本明細書の記述および添付図面から明らかになるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様である給電装置は、3相交流電圧を直流電圧に変換するコンバータと、前記直流電圧が出力される2本の電源線の間に接続されるコンデンサと、前記コンデンサの容量値を算出する容量値算出部と、前記容量値に基づいて、前記コンバータから出力される電力を制御するコンバータ制御部と、を有するものである。
【発明の効果】
【0009】
一実施の形態によれば、出力する直流電圧の変動を抑制できる給電装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】実施の形態1にかかる射出成形機の構成を模式的に示す図である。
【
図2】実施の形態1にかかる射出成形機の電源系統を示す図である。
【
図3】実施の形態1にかかる給電装置の構成を模式的に示す図である。
【
図4】実施の形態1にかかる給電装置の出力電力の調整動作を示すフローチャートである。
【
図5】実施の形態2にかかる給電装置の構成を模式的に示す図である。
【
図6】実施の形態2にかかる給電装置の出力電力の調整動作を示すフローチャートである。
【
図7】実施の形態3にかかる給電装置の構成を模式的に示す図である。
【
図8】実施の形態3かかる給電装置の出力電力の調整動作を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、具体的な実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。ただし、以下の実施の形態に限定される訳ではない。また、説明を明確にするため、以下の記載及び図面は、適宜簡略化されている。また、同一の要素には、同一の符号を付し、重複する説明は省略する。
【0012】
実施の形態1
以下、実施の形態1について説明する。
図1に、実施の形態1にかかる射出成形機100の構成を模式的に示す。射出成形機100は、基台110上に各種の装置及び部品が配置されている。本構成では、基台110上に、型締装置120及び射出装置130が設けられている。
【0013】
型締装置120は、成形品の金型140を型締めする装置であり、型締めに用いられる型締モータM1と、成形品を金型から突き出すための突き出しモータM2と、が設けられる。型締装置120は、型締モータM1を駆動することで、例えば軸方向(X方向)に2つに分離している金型をX方向に締め付けて固定する。また、金型に樹脂を射出して成形された成形品は、突き出しモータM2を駆動することで、軸方向に駆動可能な突き出しピンを成形品に突き当てることで、例えばX+方向に成形品を突き出す。
【0014】
射出装置130は、ホッパ131から加熱筒132に投入された樹脂ペレットを可塑化し、可塑化した樹脂を金型に注入する装置として構成される。加熱筒132内に投入された樹脂ペレットは、加熱筒132内でスクリュ133が回転しながら軸方向(X+方向)に後退することで可塑化(溶融)され、その後、スクリュ133が回転しながら軸方向(X-方向)に前進することで、可塑化された材料が金型内に射出される。スクリュ133は、射出用モータM3によって軸方向に駆動され、可塑化用モータM4によって回転方向に駆動される。
【0015】
なお、
図1では、型締モータM1、突き出しモータM2、射出用モータM3及び可塑化用モータM4は、それぞれベルトB1~B4を介して駆動力を伝達するものとしているが、これは例示に過ぎず、適宜所望の駆動力伝達手段を用いてもよい。
【0016】
射出成形機100には、給電装置1から電源電圧が供給される複数のサーボアンプ150が設けられ、それぞれが型締モータM1、突き出しモータM2は、射出用モータM3及び可塑化用モータM4を含む複数のモータを駆動する。
【0017】
射出成形機100の電源系統について説明する。
図2に、射出成形機100の電源系統を示す。射出成形機100には、3相交流電源160から3相交流電圧が供給される。3相交流電圧は給電装置1によって直流電圧に変換されて、各サーボアンプ、すなわち
図2のサーボアンプ150A~150Dに供給される。サーボアンプ150A~150Dは、それぞれ、型締モータM1、突き出しモータM2、射出用モータM3及び可塑化用モータM4を駆動するものとして構成される。
【0018】
上述したように、射出成形機100では、樹脂を溶融して計量する計量工程や樹脂を射出する射出工程などが実行される。計量工程においてスクリュ133を回転方向に駆動する可塑化用モータM4は、長時間電力を消費するが瞬間的な消費電力は比較的小さい。これに対し、射出工程においてスクリュ133を軸方向に駆動する射出用モータM3は、駆動時間は短時間であるが大電力を消費する。つまり、射出成形機100が消費する電力は、工程により大きく変動する。従って、射出成形機100のモータに電力を供給する給電装置1は、消費される最大電力に対応可能な容量を有するものとして構成される。
【0019】
射出成形機100に設けられたモータを駆動するために、射出成形機100の給電装置1にはコンバータが設けられ、供給される3相交流電圧を直流電圧に変換して、各モータに対して設けられたインバータに供給する。インバータは、直流電圧を、所定の周波数及び電圧の3相交流電圧に変換して、モータに供給する。
【0020】
続いて、実施の形態1にかかる給電装置1について具体的に説明する。
図3に、実施の形態1にかかる給電装置1の構成を模式的に示す。給電装置1には、3相交流電圧が供給され、これを直流電圧に変換してインバータに供給するものとして構成される。給電装置1は、充電回路10、コンバータ20、コンデンサ30、容量値算出部40及びコンバータ制御部50を有する。
【0021】
充電回路10は、3相交流電源160とコンバータ20との間に挿入され、後述するように、コンデンサ30の充電に用いられる回路である。ここでは、3相交流電源160が出力する3相交流電圧のそれぞれを、U相、V相及びW相とする。充電回路10は、抵抗R1~R3、スイッチS11、S12、S21、S22、S31及びS32を有する。
【0022】
スイッチS12は、U相に接続される電源線(以下、U相電源線)に挿入される。直列接続された抵抗R1及びスイッチS11は、スイッチS12に対して並列に接続される。つまり、抵抗R1の一端はスイッチS12の高電圧側の端部と接続され、他端はスイッチS11の一端と接続される。スイッチS11の他端は、スイッチS12の低電圧側の端部と接続される。
【0023】
スイッチS22は、V相に接続される電源線(以下、V相電源線)に挿入される。直列接続された抵抗R2及びスイッチS21は、スイッチS22に対して並列に接続される。つまり、抵抗R2の一端はスイッチS22の高電圧側の端部と接続され、他端はスイッチS21の一端と接続される。スイッチS21の他端は、スイッチS22の低電圧側の端部と接続される。
【0024】
スイッチS32は、W相に接続される電源線(以下、W相電源線)に挿入される。直列接続された抵抗R3及びスイッチS31は、スイッチS32に対して並列に接続される。つまり、抵抗R3の一端はスイッチS32の高電圧側の端部と接続され、他端はスイッチS31の一端と接続される。スイッチS31の他端は、スイッチS32の低電圧側の端部と接続される。
【0025】
スイッチS11、S12、S21、S22、S31及びS32のオン/オフは、後述するように、容量算出部40のスイッチ制御部41によって制御される。
【0026】
コンバータ20は、3相交流電圧を直流電圧に変換する回路として構成される。
図3に示すように、コンバータ20は、スイッチ素子TR1~TR6及びダイオードD1~D6を有する。スイッチ素子TR1~TR6のコレクタとエミッタとの間には、それぞれ、ダイオードD1~D6が逆の極性で接続されている。すなわち、スイッチ素子TR1~TR6のコレクタには、それぞれ、ダイオードD1~D6のカソードが接続されている。スイッチ素子TR1~TR6のエミッタには、それぞれ、ダイオードD1~D6のアノードが接続されている。スイッチ素子TR1~TR6は、例としてNPN型トランジスタを用いているが、スイッチ素子TR1~TR6の構成はこれに限定されない。
【0027】
スイッチ素子TR1、TR3及びTR5のコレクタは高電圧側の直流電源線DHと接続される。スイッチ素子TR2、TR4及びTR6のエミッタは低電圧側の直流電源線DLと接続される。スイッチ素子TR1のエミッタ及びスイッチ素子TR2のコレクタは、U相電源線と接続される。スイッチ素子TR3のエミッタ及びスイッチ素子TR4のコレクタは、V相電源線と接続される。スイッチ素子TR5のエミッタ及びスイッチ素子TR6のコレクタは、W相に接続される電源線と接続される。
【0028】
スイッチ素子TR1及びTR2とダイオードD1及びD2は、インバータ回路(第1のインバータ)を構成している。スイッチ素子TR1のベースにはU相のPWM信号SU1が印加され、スイッチ素子TR2のベースにはU相の逆相のPWM信号SU2が印加される。これにより、スイッチ素子TR1とスイッチ素子TR2とは、相補的に(択一的に)オン/オフされる。
【0029】
スイッチ素子TR3及びTR4とダイオードD3及びD4は、インバータ回路(第2のインバータ)を構成している。スイッチ素子TR3のベースにはV相のPWM信号SV1が印加され、スイッチ素子TR4のベースにはV相の逆相のPWM信号SV2が印加される。これにより、スイッチ素子TR3とスイッチ素子TR4とは、相補的に(択一的に)オン/オフされる。
【0030】
スイッチ素子TR5及びTR6とダイオードD5及びD6は、インバータ回路(第3のインバータ)を構成している。スイッチ素子TR5のベースにはW相のPWM信号SW1が印加され、スイッチ素子TR6のベースにはW相の逆相のPWM信号SW2が印加される。これにより、スイッチ素子TR5とスイッチ素子TR6とは、相補的に(択一的に)オン/オフされる。
【0031】
コンデンサ30は、コンバータ20が出力する直流電圧を平滑化する平滑化コンデンサであり、直流電圧の入力部に配置されることからDCリンクコンデンサとも呼ばれる。コンデンサ30は、高電圧側の直流電源線DHと、低電圧側の直流電源線DLと、の間に接続される。
【0032】
容量値算出部40は、スイッチ制御部41、充電時間算出部42、直流電圧検出部43及び演算部44を有する。
【0033】
スイッチ制御部41は、制御信号CON1を与えることで、充電回路10のスイッチのオン/オフを制御する。スイッチS11及びS12のオン/オフは、制御信号CON1によって制御される。スイッチS21及びS22のオン/オフは、制御信号CON2によって制御される。スイッチS31及びS32のオン/オフは、制御信号CON3によって制御される。後述するように、容量を算出するためにコンデンサ30の充電を行う場合、スイッチS11、S21及びS31をオン、スイッチS12、S22及びS32をオフにする。充電を行わない場合、スイッチS11、S21及びS31をオフ、スイッチS12、S22及びS32をオンにする。
【0034】
充電時間算出部42は、コンデンサ30の充電を開始してからコンデンサ30の電圧が所定値に到達するまでの時間を計測し、計測結果を演算部44へ出力する。
【0035】
直流電圧検出部43は、コンデンサ30の充電電圧、すなわち高電圧側の直流電源線DHの電圧を検出可能に構成され、検出結果を演算部44へ出力する。
【0036】
演算部44は、充電時間算出部42からの計測結果と、直流電圧検出部43からの検出結果とに基づいて、コンデンサ30の容量値を算出して、コンバータ制御部50へ出力する。
【0037】
コンバータ制御部50は、PWM信号出力部51、電力算出部52、PWM制御部53及び電流検出部54を有する。
【0038】
PWM信号出力部51は、コンバータ20へ、上述したPWM信号SU1、SU2、SV1、SV、SW1及びSW2を出力して、各スイッチ素子のオン/オフを制御することで、コンバータ20をPWM制御する。
【0039】
電力算出部52は、コンバータ20が出力すべき電力の値を、演算部44が算出した容量値に基づいて算出する。
【0040】
PWM制御部53は、電力算出部52が算出した電力値に基づいて、PWM信号出力部51が出力すべきPWM信号、すなわちPWM信号のデューティ比(トランジスタがオンとなる時間幅)を、PWM信号出力部51に指示する。
【0041】
電流検出部54は、U相電源線及びV相電源線の電流値を監視可能に構成され、検出結果をPWM信号出力部51へ出力する。これにより、PWM信号出力部51は、PWM信号の出力タイミングを調整することができる。
【0042】
続いて、給電装置1の出力電力の調整動作について説明する。
図4は、実施の形態1にかかる給電装置1の出力電力の調整動作を示すフローチャートである。
【0043】
ステップST11:充電開始
スイッチ制御部41は、充電回路のスイッチを制御して、コンデンサ30の充電を開始する。充電時間算出部42は、充電時間のカウントを開始する。
【0044】
ステップST12:充電時間算出
直流電圧検出部43は、充電開始後、コンデンサ30の電圧(充電電圧)Vを検出する。具体的には、直流電圧検出部43は、コンデンサ30の充電電圧である直流電源線DHの電圧を監視する。これにより、充電時間算出部42は、コンデンサ30の充電の開始時刻tsから充電電圧が所定値に到達するまでの時刻teまでに要した時間T=te-tsを取得することができる。
【0045】
ステップST13:容量値算出
演算部44は、充電に要した時間Tを用いて、コンデンサ30の容量を算出する。ここで、抵抗R1~R3の抵抗値をR、電源電圧をV
A、コンデンサ30の容量値をCとすると、コンデンサの充電電圧Vは以下の式[1]で表される。
【数1】
よって、コンデンサ30の容量値Cは、以下の式[2]で表される。
【数2】
これにより、コンデンサ30の容量値Cを算出することができる。したがって、経年劣化がない初期状態(第1の状態とも称する)のコンデンサ30を電圧Vまで充電するまでの充電時間T
0を測定することで、初期状態のコンデンサ30の容量値C
0を算出することができる。また、経年劣化した(第2の状態とも称する)コンデンサ30を電圧Vまで充電するまでの充電時間T
1を測定することで、経年劣化により低下したコンデンサ30の容量値C
1(C
1<C
0)を算出することができる。
【0046】
ステップST14:電力値算出
コンデンサ30の充電電圧がVになるまでに要する時間は、式[2]より、以下の式[3]で表される。
【数3】
よって、初期のコンデンサ30の充電時間T
0と劣化後のコンデンサ30の充電時間T
1との間には、以下の関係が成り立つ。
【数4】
つまり、経年劣化したコンデンサ30の容量値C
1は、初期のコンデンサ30の容量値C
1よりも小さい(C
1<C
0)ので、劣化後のコンデンサ30を電圧Vまで充電するのに要する充電時間は、初期状態よりも短くなる。すなわち、初期状態のコンデンサ30を用いて射出成形機に給電しているときと同じ電力を劣化後のコンデンサ30に供給すると、コンデンサ30の応答がより急峻になることが理解できる。換言すれば、初期状態のコンデンサ30を用いて射出成形機に給電しているときと同じデューティ比のPWM信号(トランジスタがオンとなる時間幅)を用いると、コンデンサ30の電圧の応答がより急峻になってしまう。
【0047】
式[4]に示すように、劣化後のコンデンサ30に対しては初期状態のC1/C0の電力を供給すればよいので、電力算出部52は、コンバータ20が出力する電力がC1/C0となるように、PWM制御部53に指示する。
【0048】
ステップST15:デューティ比算出
PWM制御部53は、コンバータ20が出力する電力をC1/C0とするため、PWM信号のデューティ比が初期状態デューティ比のC1/C0となるように、PWM信号出力部51に指示する。ただし、指令するデューティ比は一例に過ぎず、必要に応じて、劣化後のコンデンサ30の過渡応答を所望の応答にするため算出したデューティ比に対して、定の係数の乗算及び所定の定数の加算の一方又は両方を行ってもよい。
【0049】
ステップST16:デューティ比調整
PWM信号出力部51は、PWM信号のデューティ比を指示された比に調整する。これにより、劣化後のコンデンサ30の電圧変化時の応答が、初期状態のコンデンサ30の電圧変化時の応答に一致又は近似するように調整される。
【0050】
ステップST17:充電完了
スイッチ制御部41は、充電回路10のスイッチを制御して、コンデンサ30の充電動作を完了する。
【0051】
以上説明したように、本構成によれば、コンデンサ30の容量の低下に応じてPWM信号のデューティ比を低下させることで、コンデンサ30に供給する電力を調整して、コンデンサ30の電圧変化時の応答を所望の状態に調整することが可能である。
【0052】
本実施の形態では、劣化後のコンデンサ30の電圧変化時の応答を劣化していない初期状態のコンデンサ30の電圧変化時の応答に一致又は近似させる例について説明したが、これは一例に過ぎない。射出成形機の使用状態に応じて、コンデンサ30の電圧変化時の応答をより鋭敏又はより鈍感に調整してもよいことは、言うまでもない。
【0053】
実施の形態2
本実施の形態は、実施の形態1とは異なる方法でコンデンサ30の容量を算出して、コンデンサ30の電圧変化時の応答を調整する給電装置について説明する。
図5に、実施の形態2にかかる給電装置2の構成を模式的に示す。給電装置2は、実施の形態1にかかる給電装置1の充電回路10を除去し、かつ、容量値算出部40を容量値算出部60に置換した構成を有する。
【0054】
容量値算出部60は、直流電圧検出部61及び演算部62を有する。直流電圧検出部61は、容量値算出部40の直流電圧検出部43と同様に、コンデンサ30の充電電圧、すなわち高電圧側の直流電源線DHの電圧を検出可能に構成され、検出結果を演算部62へ出力する。演算部62は、直流電圧検出部61からの検出結果に基づいて、コンデンサ30の容量値を算出して、電力算出部52へ出力する。
【0055】
以下、本実施の形態における容量値の算出について説明する。例えば射出成形機において所定の工程を開始した場合、サーボアンプに接続したモータが起動し、大きな電力を消費することが考え得る。このとき、急激に大きな電力が消費されると、直流電源線DHの電圧が一時的に変動する。同じ工程の同じモータが起動する場合には消費される電力は一定であるが、直流電源線DHの電圧の変動幅は、コンデンサ30の容量によって変化する。
【0056】
劣化していない初期状態のコンデンサ30は大きな容量値を有するのに対し、劣化後のコンデンサ30の容量値は低下している。したがって、消費される電力が一定であっても、劣化していない初期状態のコンデンサ30を用いたときの電圧変動に比べて、劣化後のコンデンサ30を用いたときの電圧変動は大きくなる。本実施の形態では、両者の電圧変動の相違に基づいて、コンデンサ30の容量値を算出する。
【0057】
以下、コンデンサ30の容量値の算出について説明する。電圧Vでコンデンサ30を充電したときのエネルギーEは、以下の式[5]で表される。
【数5】
【0058】
モータ等の起動によって一定の電力、すなわち一定のエネルギーが消費されて直流電源線DHの電圧が降下した場合の、初期状態のコンデンサ30の電圧変動をΔV
0、劣化後のコンデンサ30の電圧変動をΔV
1(ΔV
1>ΔV
0)とする。このとき、コンデンサ30から放出されるエネルギーはいずれの場合でも等しいので、コンデンサ30のエネルギーは同じ値E
0となる。よって、以下の式[6]が成立する。
【数6】
【0059】
ここで、初期状態のコンデンサ30の容量値C
0が既知であれば、以下の式[7]を用いて劣化後のコンデンサ30の容量値C
1を算出することができる。
【数7】
【0060】
続いて、給電装置2の出力電力の調整動作について説明する。
図6は、実施の形態2にかかる給電装置2の出力電力の調整動作を示すフローチャートである。
【0061】
ステップST21:電圧変動検出
直流電圧検出部61は、所定のエネルギー消費が有ったときの直流電源線DHの電圧、すなわち、劣化後のコンデンサ30の電圧変動ΔV1を検出する。
【0062】
ステップST22:容量値検出
演算部62は、検出した電圧変動ΔV1と、予め取得していた初期状態のコンデンサ30の容量値C0及び電圧変動ΔV0とから、式[7]に基づき、劣化後のコンデンサ30の容量値C1を算出する。コンデンサ30の容量値C0及び電圧変動ΔV0は、例えば、演算部62の内部又は外部に設けられた図示しない記憶装置に格納され、必要に応じて演算部62が読み出し可能に構成されてもよい。
【0063】
ステップST23~ST25
ステップST23~ST25は、実施の形態1(
図4)のステップST14~ST16とそれぞれ同様であるので、説明を省略する。
【0064】
以上、本構成によれば、実施の形態1と同様に、劣化後のコンデンサ30の容量の低下に応じてPWM信号のデューティ比を低下させることで、コンデンサ30に供給する電力を調整して、コンデンサ30の電圧変化時の応答を所望の状態に調整することが可能である。
【0065】
実施の形態3
本実施の形態は、実施の形態1及びとは異なる方法でコンデンサ30の容量を算出して、コンデンサ30の電圧変化時の応答を調整する給電装置について説明する。
図7に、実施の形態3にかかる給電装置3の構成を模式的に示す。給電装置3は、実施の形態2にかかる給電装置2の容量値算出部60を容量値算出部70に置換した構成を有する。
【0066】
容量値算出部70は、直流電圧検出部71、演算部72及びモータ消費電量算出部73を有する。直流電圧検出部71は、容量値算出部60の直流電圧検出部61と同様に、コンデンサ30の充電電圧、すなわち高電圧側の直流電源線DHの電圧を検出可能に構成され、検出結果を演算部72へ出力する。モータ消費電量算出部73は、後述するように、起動した所定のモータから、モータのトルク、回転数及び動作時間を含む信号INFを受け取り、モータの消費電力を算出し、演算部72へ出力する。演算部72は、直流電圧検出部71からの検出結果と、モータ消費電量算出部73からのモータの消費電力とに基づいて、コンデンサ30の容量値を算出して、電力算出部52へ出力する。
【0067】
以下、本実施の形態における容量値の算出について説明する。実施の形態2と同様に、射出成形機において所定の工程を開始した場合、モータの起動によって大きな電力が消費され、コンデンサ30の充電電圧(直流電源線DHの電圧)が一時的に変動する。このとき、同じ工程の同じモータが起動する場合には消費される電力は一定であるが、劣化していない初期状態のコンデンサ30は大きな容量値を有するのに対し、劣化後のコンデンサ30の容量値は低下している。したがって、消費される電力が一定であっても、劣化していない初期状態のコンデンサ30を用いたときの電圧変動に比べて、劣化後のコンデンサ30を用いたときの電圧変動は大きくなる。本実施の形態では、モータの起動の消費電量を算出して、その結果を用いてコンデンサ30の容量値を算出する。
【0068】
以下、コンデンサ30の容量値の算出について説明する。モータのトルクをTr、モータの1分間あたりの回転数をN、動作時間をTd[秒]としたとき、モータの消費電力E
0は、以下の式[8]で表される。
【数8】
【0069】
ここで、モータが起動する前の変動していないコンデンサ30の充電電圧をV
0、モータ起動後の電圧変動時のコンデンサ30の充電電圧をV
1(V
1<V
0)とする。この場合、電圧変動前にコンデンサ30に蓄えられているエネルギーと、電圧変動時にコンデンサ30に残存しているエネルギーとの差は、モータの消費電力E
0と等しい。よって、以下の式[9]が成立する。
【数9】
【0070】
よって、式[9]より、劣化後のコンデンサ30の容量値C
1は、以下の式[10]で表される。
【数10】
【0071】
続いて、給電装置3の出力電力の調整動作について説明する。
図8は、実施の形態3にかかる給電装置3の出力電力の調整動作を示すフローチャートである。
【0072】
ステップST31:モータ消費電力算出
モータ消費電量算出部73は、対象となる起動したモータから信号INFを受け取り、式[8]に基づいてモータの消費電力E0を算出する。
【0073】
ステップST32:電圧検出
直流電圧検出部71は、対象となるモータが起動によって変動したときの電圧V1を検出し、検出結果を演算部72へ出力する。
【0074】
ステップST33:容量値検出
演算部72は、検出した電圧V0及び電圧V1と、予め取得していた初期状態のコンデンサ30の容量値C0とから、式[10]に基づき、劣化後のコンデンサ30の容量値C1を算出する。初期状態のコンデンサ30の容量値C0は、例えば、演算部72の内部又は外部に設けられた図示しない記憶装置に格納され、必要に応じて演算部72が読み出し可能に構成されてもよい。
【0075】
ステップST34~ST36
ステップST34~ST36は、実施の形態1(
図4)のステップST14~ST16とそれぞれ同様であるので、説明を省略する。
【0076】
以上、本構成によれば、実施の形態1及び2と同様に、劣化後のコンデンサ30の容量の低下に応じてPWM信号のデューティ比を低下させることで、コンデンサ30に供給する電力を調整して、コンデンサ30の電圧変化時の応答を所望の状態に調整することが可能である。
【0077】
また、本構成によれば、予め取得すべき情報を初期状態のコンデンサ30の容量値C0のみにすることができるので、前もって電圧測定を行わなくてもよいので、事前の作業を軽減することが可能となる。
【0078】
その他の実施の形態
なお、本発明は上記実施の形態に限られたものではなく、趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更することが可能である。例えば、上述の実施の形態では、劣化後のコンデンサ30の電圧変化時の応答を劣化していない初期状態のコンデンサ30の電圧変化時の応答に一致又は近似させる例について説明したが、これは一例に過ぎない。射出成形機の使用状態に応じて、コンデンサ30の電圧変化時の応答をより鋭敏又はより鈍感に調整してもよいことは、言うまでもない。
【0079】
実施の形態2及び3では、一定の消費電力が生じたときの電圧変動を用いてコンデンサ30の容量を算出していたが、一定の消費電力が消失したときの電圧変動を用いてコンデンサ30の容量を算出してもよいことは、言うまでもない。
【0080】
上述の実施の形態では、充電回路においてU相、V相及びW相のそれぞれに抵抗及びスイッチを設け、3相交流によってコンデンサ30を充電している。3相交流により充電することで、比較的短時間でコンデンサ30の充電を行うことができる。これに対し、例えば、W相に挿入した抵抗R3とスイッチS31及びS32を除去して、U相及びV相だけを用いてコンデンサ30を充電してもよい。具体的には、スイッチS11及びS21をオン、スイッチS12及びS22をオフにし、かつ、W相を用いないのでスイッチ素子TR5及びTR6をオフとすることで、コンデンサ30をU相とV相との間に接続する。これにより、コンデンサ30を単相交流で充電することができる。この場合には、W相のスイッチ及び抵抗を削減することができるので、給電装置の低コスト化を実現できる点で、有利である。
【0081】
なお、コンデンサ30を単相で充電するときに用いる2つの相はU相及びV相に限られず、コンデンサ30をU相、V相及びW相のうちの任意の2つの相の間に接続することで、単相交流でコンデンサ30を充電できることは、言うまでもない。
【符号の説明】
【0082】
1~3 給電装置
10 充電回路
20 コンバータ
30 コンデンサ
40、60、70 容量値算出部
41 スイッチ制御部
42 充電時間算出部
43、61、71 直流電圧検出部
44、62、72 演算部
50 コンバータ制御部
51 PWM信号出力部
52 電力算出部
53 PWM制御部
54 電流検出部
73 モータ消費電量算出部
100 射出成形機
110 基台
120 型締装置
130 射出装置
131 ホッパ
132 加熱筒
133 スクリュ
140 金型
150、150A~150D サーボアンプ
160 3相交流電源
B1~B4 ベルト
D1~D6 ダイオード
M1 型締モータ
M2 突き出しモータ
M3 射出用モータ
M4 可塑化用モータ
DH、DL 直流電源線
R1~R3 抵抗
S11、S12、S21、S22、S31、S32 スイッチ
SU1、SU2、SV1、SV2、SW1、SW2 PWM信号
TR1~TR6 スイッチ素子