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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-17
(45)【発行日】2024-06-25
(54)【発明の名称】トンネル施工における巻立空間測定方法
(51)【国際特許分類】
   G01C 15/00 20060101AFI20240618BHJP
   E21D 9/00 20060101ALI20240618BHJP
   E21D 11/10 20060101ALI20240618BHJP
   G01C 7/06 20060101ALI20240618BHJP
【FI】
G01C15/00 104A
E21D9/00 Z
E21D11/10 B
G01C7/06
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020169413
(22)【出願日】2020-10-06
(65)【公開番号】P2022061417
(43)【公開日】2022-04-18
【審査請求日】2023-08-03
(73)【特許権者】
【識別番号】303057365
【氏名又は名称】株式会社安藤・間
(73)【特許権者】
【識別番号】000158725
【氏名又は名称】岐阜工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】591284601
【氏名又は名称】株式会社演算工房
(74)【代理人】
【識別番号】110001564
【氏名又は名称】フェリシテ弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】辰巳 順一
(72)【発明者】
【氏名】五味 春香
(72)【発明者】
【氏名】伊勢 喜英
(72)【発明者】
【氏名】平野 定雄
(72)【発明者】
【氏名】林 稔
(72)【発明者】
【氏名】岡本 剛司
【審査官】櫻井 仁
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-163829(JP,A)
【文献】特開2020-133118(JP,A)
【文献】特開2009-186184(JP,A)
【文献】特開平04-013919(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01C 1/00- 1/14
G01C 5/00-15/14
E21D 9/00
E21D 11/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
掘削したトンネル内に断面アーチ形からなる型枠を有する移動式のセントルを据え付け、前記セントルの型枠をトンネルの内壁面に沿って移動配置して、前記トンネルの内壁面と前記セントルの型枠の表面との間に形成する覆工コンクリートを打設するための巻立空間を測定するトンネル施工における巻立空間測定方法であって、
前記トンネル内に前記セントルを据え付ける前に、前記トンネルの内壁面の出来形を三次元的に測量可能な測量機器を用いて計測し、前記トンネルの内壁面の座標を取得し、
前記トンネル内に前記セントルを据え付けた後に、前記セントルの任意の位置に設けた複数の視準ターゲットを測距及び測角が可能な測量機器で視準し、これら視準ターゲットの三次元座標を計測して、これにより得た前記セントルにおける前記各視準ターゲットの位置の座標と、前記セントルの製作図面や加工図面から得た前記セントルの大きさ、形状を含む情報とに基づいて、前記セントルの型枠の表面の座標を取得し、
前記トンネルの内壁面の座標と前記セントルの型枠の表面の座標との差分から、覆工コンクリート打設前の前記巻立空間、及び当該巻立空間における覆工コンクリートの打設ボリュームを測定する、
ことを特徴とするトンネル施工における巻立空間測定方法。
【請求項2】
トンネルの内壁面の出来形の計測を、一次覆工コンクリートの吹き付け施工後でかつトンネルの変位収束後のトンネルの内壁面に行う請求項1に記載のトンネル施工における巻立空間測定方法。
【請求項3】
複数の視準ターゲットをセントルにおいて型枠の表面に設置し、前記各視準ターゲットを計測することにより、前記セントルの型枠の表面の座標を直接算出する請求項1又は2に記載のトンネル施工における巻立空間測定方法。
【請求項4】
トンネルの内壁面の出来形を計測する測量機器に三次元スキャナーを使用する請求項1乃至3のいずれかに記載のトンネル施工における巻立空間測定方法。
【請求項5】
セントルに設けた複数の視準ターゲットの三次元座標を計測する測量機器にトータルステーション又は光波測距儀を使用する請求項1乃至4のいずれかに記載のトンネル施工における巻立空間測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、山岳トンネルなどのトンネルの施工において、トンネルの内壁とセントルの型枠との間に形成する覆工コンクリートを打設するための巻立空間の確認、及びこの巻立空間への覆工コンクリートの打設ボリュームの把握に用いるトンネル施工における巻立空間測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、山岳トンネル工法では、トンネルの覆工が断面アーチ形からなる型枠を有する移動式のセントルを用いて行われている。このトンネル覆工の施工では、地山に掘削されたトンネルの内壁面に吹付けによって吹付けコンクリートが施工された後、セントルが切羽後方側に設置され、セントルにおいて、吹付けコンクリートの内周面に沿って防水シートが張設されると、セントルの断面アーチ形の型枠が移動配置されて、防水シートと型枠との間の巻立空間に覆工コンクリートが打設される。
【0003】
このトンネル覆工の施工では、トンネルの内壁面全面に亘って覆工コンクリート厚の確保を担保するために、巻立空間をコンクリートの打設前に確認することが重要であり、また、覆工コンクリートの材料ロスを削減するために、この巻立空間への覆工コンクリートの打設ボリュームをコンクリーの打設前に把握することも重要になっている。そこで、トンネルの内壁とセントルの型枠との間の巻立空間を確認するために、併せてこの巻立空間への覆工コンクリートの打設ボリュームを把握するために、覆工コンクリートの打設前にこの巻立空間の測定が行われる。この種の巻立空間の測定には、人力による測定方法と、三次元スキャナーを用いた測定方法がある。
【0004】
人力による巻立空間の測定方法は、セントルをトンネル内の計画位置にセットした後、セントルの表面とトンネルの内壁面との離隔距離を、セントルの型枠に設けられたコンクリート打設用の窓から標尺を用いて測定する手法で、測定個所は発注者の出来形管理基準に準じることとし、一般的に、1スパンあたり、型枠中間部のコンクリート打設用の窓で7箇所、セントル妻部で7箇所の合計14箇所で測定する。
【0005】
三次元スキャナーを用いた巻立空間の測定方法は、トンネル内壁面の変位収束後の出来形を三次元スキャナーを用いて計測する手法で、図7に示すように、三次元スキャナーで取得したトンネル内壁面の座標と覆工表面の設計座標の差分から巻立空間を測定する。この手法によれば、トンネル内壁面の全面に亘って巻立空間を測定することができる。この種の測定方法が特許文献1などにより提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2010-217017号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記従来の巻立空間測定方法では、次のような問題がある。
(1)人力による巻立空間の測定方法では、狭隘なセントル内で、人力作業により、トンネル内壁面の出来形を測定するため、測定に多くの労力を要する。また、覆工コンクリートの打設ボリュームを算出するためには、セントル全体で巻立空間が確保できているかを確認することか必要で、そのためには、出来形管理基準に示される中間部のコンクリート打設用の窓や妻部からの測定だけでなく、セントルすべて(全50箇所程度)のコンクリート打設用の窓から測定する必要がある。
(2)三次元スキャナーを用いた巻立空間の測定方法によれば、三次元スキャナーで取得したトンネル内壁面の座標と覆工コンクリート表面の設計座標との差分から巻立空間を推定できるものの、実際の覆工コンクリートの表面は、セントルセット時の拡げ越し・上げ越しや設置誤差により設計値とのずれが発生するため、巻立空間を正確に把握することができない。
【0008】
本発明は、このような従来の問題を解決するものであり、この種の巻立空間測定方法において、一般的な測量機器を用いて、巻立空間全体を容易かつ確実に確認できるようにして、作業時間の削減を図り、トンネル内壁面の全面に亘って覆工コンクリート厚の確保を担保すること、併せて巻立空間への覆工コンクリートの打設ボリュームを正確に把握して、コンクリートなどの材料ロスを削減すること、を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明は、
掘削したトンネル内に断面アーチ形からなる型枠を有する移動式のセントルを据え付け、前記セントルの型枠をトンネルの内壁面に沿って移動配置して、前記トンネルの内壁面と前記セントルの型枠の表面との間に形成する覆工コンクリートを打設するための巻立空間を測定するトンネル施工における巻立空間測定方法であって、
前記トンネル内に前記セントルを据え付ける前に、前記トンネルの内壁面の出来形を三次元的に測量可能な測量機器を用いて計測し、前記トンネルの内壁面の座標を取得し、
前記トンネル内に前記セントルを据え付けた後に、前記セントルの任意の位置に設けた複数の視準ターゲットを測距及び測角が可能な測量機器で視準し、これら視準ターゲットの三次元座標を計測して、これにより得た前記セントルにおける前記各視準ターゲットの位置の座標と、前記セントルの製作図面や加工図面から得た前記セントルの大きさ、形状を含む情報とに基づいて、前記セントルの型枠の表面の座標を取得し、
前記トンネルの内壁面の座標と前記セントルの型枠の表面の座標との差分から、覆工コンクリート打設前の前記巻立空間、及び当該巻立空間における覆工コンクリートの打設ボリュームを測定する、
ことを要旨とする。
【0010】
また、本発明は次のように具体化されることが好ましい。
(1)トンネルの内壁面の出来形の計測を、一次覆工コンクリートの吹き付け施工後でかつトンネルの変位収束後のトンネルの内壁面に行う。
(2)複数の視準ターゲットをセントルにおいて型枠の表面に設置し、前記各視準ターゲットを計測することにより、前記セントルの型枠の表面の座標を直接算出する。
)トンネルの内壁面の出来形を計測する測量機器に三次元スキャナーを使用する。
)セントルに設けた複数の視準ターゲットの三次元座標を計測する測量機器にトータルステーション又は光波測距儀を使用する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、上記の方法により、一般的な測量機器を用いて、巻立空間全体を容易かつ確実に確認することができ、これにより、作業時間の削減を図り、トンネル内壁面の全面に亘って覆工コンクリート厚の確保を担保することができ、併せて巻立空間への覆工コンクリートの打設ボリュームを正確に把握して、コンクリートなどの材料ロスを削減することができる、という本発明独自の格別な効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の一実施の形態に係るトンネル施工における巻立空間測定方法の特にトンネル内にセントルを据え付ける前の三次元スキャナーを用いたトンネル内の測量状況を示す図
図2】同方法の特にトンネル内にセントルを据え付けた後のトータルステーションを用いたトンネル内の測量状況を示す図
図3】同方法の特にトンネル内にセントルを据え付けた後のトータルステーションを用いたトンネル内の測量状況を示す図
図4】同方法の特に三次元スキャナーを用いたトンネル内の測量で計測した計測データの一例を示す図
図5】同方法の流れを示す図
図6】同方法を適用する山岳トンネルの施工の工程の一部を示す図
図7】従来のトンネル施工における巻立空間測定方法の流れを示す図
【発明を実施するための形態】
【0013】
次に、この発明を実施するための形態について図を用いて説明する。図1図2及び図3はこの発明の一実施の形態に係るトンネル施工における巻立空間測定方法(以下、本方法という。)を示している。
【0014】
図2に示すように、本方法は、掘削したトンネルT内に断面アーチ形からなる型枠C1を有する移動式のセントルCを据え付け、セントルCの型枠C1をトンネルTの内壁面T1に沿って移動配置して、トンネルTの内壁面T1とセントルCの型枠C1の表面との間に形成する覆工コンクリートを打設するための巻立空間Sを測定するものである。
【0015】
本方法では特に、図1に示すように、トンネルT内にセントルCを据え付ける前に、トンネルTの内壁面T1の出来形を三次元的に測量可能な測量機器を用いて計測し、トンネルTの内壁面T1の座標を取得し、図2及び図3に示すように、トンネルT内にセントルCを据え付けた後に、セントルCに設けた複数の視準ターゲットを測距及び測角が可能な測量機器で視準し、これら視準ターゲットの三次元座標を計測することにより、セントルCの型枠C1の表面の座標を取得する。このようにして取得した、トンネルTの内壁面T1の座標とセントルCの型枠C1の表面の座標との差分から、覆工コンクリート打設前の巻立空間S、及びこの巻立空間Sにおける覆工コンクリートの打設ボリュームを測定するものとする。
【0016】
このようにすることで、一般的な測量機器を用いて、巻立空間S全体を容易かつ確実に確認することができ、作業時間の削減を図り、トンネルTの内壁面T1の全面に亘って覆工コンクリート厚の確保を担保することができる。併せて巻立空間Sへの覆工コンクリートの打設ボリュームを正確に把握して、コンクリートなどの材料ロスを削減することができる。
【0017】
本方法では、測量機器として三次元スキャナー1、トータルステーション2(又は光波測距儀)を用い、各種のデータ処理にパソコン又はタブレット端末又はスマホの全部又は一部(以下、パソコン等3という。)を用いる。
【0018】
三次元スキャナー1は、レーザー光の発光部及び受光部を有し、対象物にレーザー光を照射して反射光を受光する形式の一般に地形測量に使用される3Dレーザースキャナーで、スキャナー本体を水平方向及び垂直方向に回転しながらレーザー光を対象物に面的に照射して、対象物から反射した一部の反射光を受信した時間で距離を計測し、3次元の点群データ(x,y,z)を取得するものとなっている。このように三次元スキャナー1では、対象物の所定領域を三次元的にスキャンして、所定領域における対象物の表面形状の点群データを取得することができ、取得した点群データを変換して立体形状を生成することができる。なお、この三次元スキャナー1は測定データをパソコン等の外部機器に出力可能である。
【0019】
トータルステーション2は、対象物に光を発射して反射して戻った光を電子的に解析して測る光波測距儀と角度測定の電子セオドライトを組み合わせた一般土木、建築現場での位置管理や座標測量などに使用されるプリズム測距型のトータルステーションで、対象物に設けた複数の視準ターゲット(反射プリズム)を視準し、これら視準ターゲットの三次元座標を計測することにより、対象物の表面の座標を取得するものとなっている。なお、このトータルステーション2は測定データをパソコン等の外部機器に出力可能である。
【0020】
パソコン等3は一般に知られているもので、この場合、各測量機器で計測した測定データを含む各種のデータを、三次元データ解析ソフトや差分解析ソフトを含む各種のソフトウェアを実行して、処理する演算部(CPUなど)、各種のデータを記憶する記憶部(HDDなど)、各種のデータを表示する表示部(液晶ディスプレイなど)などを有してなる。
【0021】
これらの三次元スキャナー1、トータルステーション2はそれぞれ、パソコン等3に無線又は有線により通信可能に接続されて、巻立空間Sの測定に利用する巻立空間ナビゲーションシステムNとして編成される。
本方法は、この巻立空間ナビゲーションシステムNを使用することで、覆工コンクリート打設前の巻立空間S、及びこの巻立空間Sにおける覆工コンクリートの打設ボリュームを自動で算出する。
【0022】
このようにすることにより、一般的な機器からなる巻立空間ナビゲーションシステムNを用いて、巻立空間S全体を容易かつ確実に確認することができ、作業時間の削減を図り、トンネルTの内壁面T1の全面に亘って覆工コンクリート厚の確保を担保することができる。併せて巻立空間Sへの覆工コンクリートの打設ボリュームを正確に把握して、コンクリートなどの材料ロスを削減することができる。
【0023】
図1乃至図7に本方法を山岳トンネルの工事に適用した場合の具体例を示している。山岳トンネルの施工では、地山を発破、建設機械又は人力を用いて掘削し、地山を支持するための支保工を構築して内部空間を保ちながら、地山を掘り進めていき、トンネルを建設する。そして、トンネルの掘削作業においては、1サイクル(所定の距離を掘削する一つの施工単位)毎に、地山の掘削、一次吹き付け、セントルの建て込み、二次覆工コンクリートの打設を順次行う。本方法はこのトンネルの掘削作業に並行して実施し、トンネルの内壁面とセントルの型枠の表面との間の巻立空間を測定する。
【0024】
本方法は次のステップ(1)-(5)により実施する。
【0025】
(ステップ1)
まず、図1に示すように、トンネルT内にセントルCを据え付ける前に、トンネルTの内壁面T1の出来形を三次元スキャナー1を用いて計測し、トンネルTの内壁面T1の座標を取得する。この場合、トンネルTの内壁面T1の出来形の計測を、一次覆工コンクリートの吹き付け施工後でかつトンネルTの変位収束後のトンネルTの内壁面T1に行う。
【0026】
山岳トンネルの工事においては、トンネルTの掘削後、トンネルTの内壁面T1に対して、岩石などが落下する肌落ちを防止するために、コンクリートの一次吹き付け(一次覆工コンクリートの吹き付け施工)を行う。この一次吹き付けの終了後で、トンネルTの変位が収束した後に、トンネルTの底面に三次元スキャナー1を三脚11を介して設置して、この三次元スキャナー1でトンネルTの内壁面T1を計測し、トンネルTの内壁面T1の表面形状のデータを取得する。この場合、スキャナー1を水平方向及び垂直方向に回転させながらレーザー光をトンネルTのコンクリートの吹き付け面の所定の計測範囲に対して面的に照射して三次元的にデジタル測量する。図4にこの計測データの一例を示す。このようにトンネルTの内壁面T1を三次元的にスキャンして、図5(1)に示すように、トンネルTの内壁面T1の所定領域の表面形状の3次元の点群データを取得する。また、この場合、三次元スキャナー1の測定データは三次元スキャナー1からパソコン等3に送られ、パソコン等3に記録される。
【0027】
(ステップ2)
次に、図2に示すように、セントルCをトンネルT内所定の位置(覆工コンクリートの計画位置)に据え付け、セントルCの任意の位置に視準ターゲットを取り付ける。
【0028】
山岳トンネルの工事では、トンネルTの内壁面T1の一次吹き付けを終了すると、トンネルT内にセントルCを据え付ける。この場合、セントルCを、レベル、巻尺、下げ振りなどを用いて、既設の二次覆工コンクリートの継ぎ目と一部重なるように所定の位置にセットする。また、内空断面を確保するために、数cmの上げ越し・拡げ越しを実施する。
【0029】
ここでセントル9は、周知のもので、図6に示すように、断面アーチ形の型枠C1と、この型枠C1を支持する支持フレームC2と、この支持フレームC2が走行可能にトンネルTの底面に敷設される走行レールC3などから構成される。型枠C1は、トンネルTの周方向に複数個のパーツに分割されて、頂部に配置される天端フォームC11、天端フォームC11の両端下面に回動可能に連結されて両端に配置される側フォームC12、及び各側フォームC12の下端に回動可能に連結された下端フォームC13からなる。なお、既述のとおり、型枠C1には、コンクリートを打設するためのコンクリート打設用の窓を有する。この型枠C1は、支持フレームC2に、この支持フレームC2に装備された油圧シリンダC22などを介して、トンネルTの内壁面T1に対して上下方向及び左右方向に移動自在に取り付けられる。この場合、型枠C1各部の移動量は、適宜調整可能である。支持フレームC2は、鉄骨材など略門型に組み立てられるガントリーC21と、型枠C1が取り付けられる油圧シリンダC22などからなる。走行レールC3は、ガントリーC21を走行可能に支持し、トンネルTの底面にトンネル軸方向に沿って2本敷設される。
【0030】
そして、このようなセントルCの複数点に、図2図3に示すように、視準ターゲットとして反射プリズムPを取り付ける。なお、これらの反射プリズムPはセントルCに事前に取り付けておいてもよいことは勿論である。また、この場合、後述するトータルステーション2でセントルCの各部から三次元座標を取得できればよいので、各反射プリズムPの設置位置は任意で、型枠C1の内周面や外周面(表面)に設置してもよく、ガントリーC21の上部や側部に設置してもよい。
【0031】
かかるセントルCにより、型枠C1とトンネルTの内壁面T1との間に隙間、すなわち、巻立空間Sを形成する。
【0032】
(ステップ3)
このようにトンネルT内にセントルCを据え付けた後、図3に示すように、トンネルT内にトータルステーション2を設置して、このトータルステーション2でセントルCに設けた複数の視準ターゲットを視準し、これら視準ターゲットの三次元座標を計測することにより、セントルCの型枠C1の表面の座標を取得する。
【0033】
山岳トンネルの工事において、トンネルT内にセントルCのセットを完了したら、図3に示すように、トンネルTの底面にトータルステーション2を三脚21に載せて設置し、このトータルステーション2でセントルCに設けた各反射プリズムPの三次元座標を計測し、図5(2)に示すように、この測定データに基づいてセントルCの型枠C1の表面の座標を取得する。
【0034】
この測定の場合、各反射プリズムPを型枠C1の内周面あるいはガントリーC21の上部や側部に設置していれば、これらの反射プリズムPを計測することにより取得したセントルCにおける各反射プリズムPの位置の座標と、セントルCの大きさ、形状を含む情報とに基づいて、セントルCの型枠C1の表面の座標を算出する。この場合、トータルステーション2の測定データ、すなわち、各反射プリズムPの位置データはトータルステーション2からパソコン等3に送られ、パソコン等3に記録される。またここで、セントルCの大きさ、形状などの情報は、セントルCの製作図面や加工図面などに基づくもので、このセントルCの大きさ、形状を含む情報はパソコン等3に事前に入力してある。これら各反射プリズムPの位置データ、セントルCの大きさ、形状データはパソコン等3で処理され、セントルCの型枠C1の表面の座標が自動で算出される。
【0035】
また、この測定の場合、各反射プリズムPをセントルCの型枠C1の表面(例えば、側フォームC12の表面)に設置していれば、これらの反射プリズムPを計測することにより、型枠C1の表面の座標を直接算出する。この場合、トータルステーション2の測定データ、すなわち、各反射プリズムPの位置データはトータルステーション2からパソコン等3に送られ、パソコン等3に記録される。
【0036】
(ステップ4)
このようにして取得した、トンネルTの内壁面T1の座標とセントルCの型枠C1の表面の座標との差分から、覆工コンクリート打設前の巻立空間Sを測定する。
【0037】
山岳トンネルの工事では、二次覆工コンクリートの打設前の段階であり、ここで、(ステップ1)で取得したトンネルTの内壁面T1の座標と(ステップ3)で取得したセントルCの型枠C1の表面の座標との差分から、トンネルTの内壁面T1とセントルCの型枠C1の表面との間隔、すなわち、覆工コンクリート打設前の巻立空間Sを算出する。この場合、(ステップ1)で取得したトンネルTの内壁面T1の座標と(ステップ3)で取得したセントルCの型枠C1の表面の座標はそれぞれ、パソコン等3に記録されており、これらの座標データからパソコン等3において三次元データ解析ソフトや差分解析ソフトにより、覆工コンクリート打設前の巻立空間Sが自動で算出される。三次元スキャナー1、トータルステーション2で測定した測定データは、それぞれ、トンネルTの内壁面T1の座標値、セントルCの型枠C1の表面全面の座標値であるため、巻立空間Sを任意の断面で正確に算出することができる。
【0038】
(ステップ5)
そして最後に、巻立空間Sの測定データに基づいてこの巻立空間Sにおける覆工コンクリートの打設ボリューム(打設予定数量)を測定する。この場合、(ステップ4)で取得した巻立空間データとトンネルTの内壁面T1の周長を掛け合わせることで、打設予定数量を算出する。また、この場合、パソコン等3において巻立空間Sの測定データに基づいて、覆工コンクリートの打設予定数量が自動で算出される。かくして覆工コンクリートの打設ボリュームを正確に算出することができる。
【0039】
しかして、セントルCに設けられたコンクリート打設用の窓からトンネルTの内壁面T1とセントルCの型枠C1との間の巻立空間Sへコンクリートを打設し、コンクリートを覆工する(図5(3)参照)。
【0040】
以上説明したように、本方法によれば、トンネルT内にセントルCを据え付ける前に、トンネルTの内壁面T1の出来形を巻立空間ナビゲーションシステムN(三次元スキャナー1)を用いて計測し、トンネルTの内壁面T1の座標を取得し、トンネルT内にセントルCを据え付けた後に、セントルCに設けた複数の反射プリズムPを巻立空間ナビゲーションシステムN(トータルステーション2)を用いて計測することにより、セントルCの型枠C1の表面の座標を取得し、これらトンネルTの内壁面1の出来形データ(座標データ)とセントルCの型枠C1の表面の計測データ(座標データ)に基づいて、巻立空間ナビゲーションシステムN(パソコン等3及び差分解析ソフト)を用いて、覆工コンクリート打設前の巻立空間S、及びこの巻立空間Sにおける覆工コンクリートの打設ボリュームを自動測定するようにしたので、三次元スキャナー1、トータルステーション2、パソコン等3の一般的な機器からなる巻立空間ナビゲーションシステムNを用いて、巻立空間S全体を容易かつ確実にしかも低コストに確認することができる。これにより、巻立空間Sの確認作業を1スパン(セントルの長さ分)当り2時間~3時間程削減することができる。また、セントルCの型枠C1のコンクリート打設用の窓以外の箇所を含めて巻立空間Sを確認できるため、トンネルTの内壁面T1全面に亘って覆工コンクリート厚の確保を担保することができる。さらに、巻立空間Sに覆工コンクリートを打設する前にこの巻立空間Sへの正確なコンクリート打設予定数量を把握することができ、コンクリートの材料ロスを削減することができる。
【0041】
なお、トンネル覆工コンクリートは、一旦打設してしまうと、その厚さについては目視確認することができない(不可視部となる)。打設後に覆工コンクリートの厚さを確認するために、通常、40m程度に1箇所、検査孔と呼ばれる穴があけられるが、検査孔の箇所の厚さしか確認できない。上記のとおり、覆工コンクリートの大部分の厚さは打設完了後には不可視部となってしまうため、本方法により、打設前に巻立空間を測定することは、トンネル完成後の覆工コンクリートの厚さを担保する重要なデータとなる。
【符号の説明】
【0042】
T トンネル
T1 内壁面
S 巻立空間
C セントル
C1 型枠
C11 天端フォーム
C12 側フォーム
C13 下端フォーム
C2 支持フレーム
C21 ガントリー
C22 油圧シリンダ
C3 走行レール
N 巻立空間ナビゲーションシステム
1 三次元スキャナー
11 三脚
2 トータルステーション
21 三脚
P 反射プリズム(視準ターゲット)
3 パソコン等
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7