(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-17
(45)【発行日】2024-06-25
(54)【発明の名称】グロメット
(51)【国際特許分類】
H02G 3/22 20060101AFI20240618BHJP
B60R 16/02 20060101ALI20240618BHJP
H01B 17/58 20060101ALI20240618BHJP
F16L 5/02 20060101ALI20240618BHJP
【FI】
H02G3/22
B60R16/02 622
H01B17/58 C
F16L5/02 A
(21)【出願番号】P 2020184905
(22)【出願日】2020-11-05
【審査請求日】2023-10-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000006895
【氏名又は名称】矢崎総業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 壮二郎
【審査官】遠藤 尊志
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-93923(JP,A)
【文献】特開2012-34478(JP,A)
【文献】特開平8-148050(JP,A)
【文献】特開2005-122913(JP,A)
【文献】実開昭54-51715(JP,U)
【文献】特開2006-248380(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02G 3/22
B60R 16/02
H01B 17/58
F16L 5/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゴム又はエラストマー製の部材であり、且つ、パネルの貫通孔に嵌合する大径筒部と、成形の際に用いられる中子のためのスリットが形成される小径筒部と、該小径筒部及び前記大径筒部を連結する連結部とを有し、
前記小径筒部は、嵩上げするための部分として前記貫通孔の第一軸上に配置される嵩上げ筒部と、該嵩上げ筒部に連続し且つ前記第一軸に対して斜めに交差する第二軸に合わせて形成される斜め筒部と、を有して曲がった筒形状に形成され、
さらに、前記小径筒部は、前記斜め筒部の前記連結部に面する側に前記スリットが配置されるとともに、前記第一軸上となる前記小径筒部の内面に前記貫通孔側からの音を前記スリットに向かわせないように反射する音反射面が形成される
ことを特徴とするグロメット。
【請求項2】
請求項1に記載のグロメットにおいて、
前記嵩上げ筒部は、前記斜め筒部よりも太く形成され、前記スリットは、前記斜め筒部から連続して前記嵩上げ筒部に延在するように形成される
ことを特徴とするグロメット。
【請求項3】
請求項2に記載のグロメットにおいて、
前記スリットは、前記嵩上げ筒部から更に連続して前記連結部に延在するように形成される
ことを特徴とするグロメット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ワイヤハーネスに外装するグロメットに関する。
【背景技術】
【0002】
自動車に配索されるワイヤハーネスは、この本体にグロメットが外装される。ワイヤハーネスは、例えばエンジンルームと車室とを仕切るパネルの貫通孔を貫通して配索される。この時、パネルの貫通孔に対してグロメットが嵌合する。グロメットは、ゴム又はエラストマー製の部材であり、金型を用いての成形の際に、中子が採用される。そのためグロメットには、中子を取り出すための部分(引き抜くための部分)が形成される。尚、中子を取り出すための部分が形成されることから、この形成部分を介してエンジンルームで生じた音が車室内に漏れてしまうという虞がある。そこで上記の音漏れを防止するためとして、下記特許文献1などの提案が知られる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
図5に示すグロメット101は、パネルの貫通孔に嵌合する大径筒部102と、パネルの一方の面側に配置される第一小径筒部103と、パネルの他方の面側に配置される第二小径筒部104と、大径筒部102及び第一小径筒部103を連結する第一連結部105と、大径筒部102及び第二小径筒部104を連結する第二連結部106とを有する。第二小径筒部104は、この軸が第一小径筒部103の軸に対して交差するように曲がった形状に形成される。このような形状のグロメット101にあっては、成形の際に用いられる中子を取り出すためとして(引き抜くためとして)、スリット107が第二小径筒部104の上面側に形成される。
図5では、スリット107が第二小径筒部104の上面側に形成されることから、スリット107が第一小径筒部103の内部空間まで直線的に繋がっていることが
図5(a)から分かる。そのため
図6の矢印S2で示すような音の進行の音漏れが懸念されるという問題点を有する。
【0005】
本発明は、上記した事情に鑑みてなされたもので、所定方向への音漏れを防止することが可能なグロメットを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するためになされた本発明のグロメットは、ゴム又はエラストマー製の部材であり、且つ、パネルの貫通孔に嵌合する大径筒部と、成形の際に用いられる中子のためのスリットが形成される小径筒部と、該小径筒部及び前記大径筒部を連結する連結部とを有し、前記小径筒部は、嵩上げするための部分として前記貫通孔の第一軸上に配置される嵩上げ筒部と、該嵩上げ筒部に連続し且つ前記第一軸に対して斜めに交差する第二軸に合わせて形成される斜め筒部と、を有して曲がった筒形状に形成され、さらに、前記小径筒部は、前記斜め筒部の前記連結部に面する側に前記スリットが配置されるとともに、前記第一軸上となる前記小径筒部の内面に前記貫通孔側からの音を前記スリットに向かわせないように反射する音反射面が形成されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明のグロメットによれば、音の進行方向にスリットが存在しないことから、所定方向への音漏れを防止することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明のグロメットの一実施形態を示す斜視図である。
【
図4】スリットの配置に係る説明図であり、(a)は本発明のグロメットの斜視図、(b)は
図5のグロメットと同じ図、(c)は(a)と(b)を仮に重ね合わせた場合の斜視図である。
【
図5】発明が解決しようとする課題に係る説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
グロメットは、ゴム又はエラストマー製の部材であり、且つ、パネルの貫通孔に嵌合する大径筒部と、パネルの第一面側に配置される第一小径筒部と、パネルの第二面側に配置される第二小径筒部と、大径筒部及び第一小径筒部を連結する第一連結部と、大径筒部及び第二小径筒部を連結する第二連結部とを有する。第二小径筒部は、嵩上げするための部分として貫通孔の第一軸上に配置される嵩上げ筒部と、この嵩上げ筒部に連続し且つ第一軸に対して斜めに交差する第二軸に合わせて形成される斜め筒部と、を有して曲がった筒形状に形成される。さらに、第二小径筒部は、斜め筒部の第二連結部に面する側に、成形の際に用いられる中子のためのスリットが配置・形成されるとともに、第一軸上となる第二小径筒部の内面に、貫通孔側からの音をスリットに向かわせないように反射する音反射面が形成される。
【実施例】
【0010】
以下、図面を参照しながら実施例を説明する。
図1は本発明のグロメットの一実施形態を示す斜視図である。また、
図2は
図1のA方向から見た図、
図3は
図1のB-B線断面図である。また、
図4はスリットの配置に係る説明図であり、(a)は本発明のグロメットの斜視図、(b)は
図5のグロメットと同じ図、(c)は(a)と(b)を仮に重ね合わせた場合の斜視図である。
【0011】
<グロメット1について>
図1において、グロメット1は、従来同様にゴム又はエラストマー製の部材(成形品)であって、ワイヤハーネスにおけるハーネス本体Wの所定位置に外装される。グロメット1は、例えばエンジンルームと車室とを仕切る図示しないパネルの貫通孔に対して嵌合し、この嵌合により固定状態になる。グロメット1は、大径筒部2と、第一小径筒部3と、第二小径筒部4(小径筒部)と、第一連結部5と、第二連結部6(連結部)とを有して図示形状に形成される。グロメット1は、大径筒部2が上記パネルの貫通孔に嵌合する。グロメット1は、第一小径筒部3及び第一連結部5がパネルの第一面側(一方となる側(エンジンルーム側))に配置されるとともに、第二小径筒部4及び第二連結部6がパネルの第二面側(他方となる側(車室側))に配置される。尚、上記エンジンルーム及び車室は一例であるものとする。パネルの一方となる側に音の発生源があり、この音をパネルの他方となる側に漏れないようにする必要、或いは低減させたりする必要がある箇所であれば特に限定されないものとする。グロメット1は、以下の説明で分かるようになるが、
図5のグロメット101と比べ、
図6の矢印S2方向への音漏れを確実に防止することができるという構造のものである。尚、グロメット1を「防音グロメット1」と呼んでもよいものとする。
【0012】
<大径筒部2について>
図1ないし
図3において、大径筒部2は、パネルの貫通孔に合わせた長円形の環状部分に形成される(長円形は一例であるものとする)。このような大径筒部2の外側には、上記貫通孔に嵌合する部分として凹状の嵌合凹部7が全周にわたって形成される。嵌合凹部7は、パネルの第一面及び第二面側の各開口縁に対し水密に密着する部分に形成される。大径筒部2は、
図5のグロメット101における大径筒部102や、特許文献1の大径筒部と、基本的に同じ機能の部分に形成される(以下、基本的に同じ機能の部分に関しては、説明を簡素化するものとする)。
【0013】
<第一小径筒部3及び第一連結部5について>
図1及び
図3において、第一小径筒部3には、ハーネス本体Wが挿通される。第一小径筒部3は、ハーネス本体Wに対して密着する筒状の部分に形成される。第一小径筒部3は、第一軸CL1を中心とした円筒部8及び蛇腹部9を有する。第一小径筒部3は、図の下方にのびるように形成される。円筒部8は、この部分からハーネス本体Wにかけてテープ巻きが施される部分に形成される。蛇腹部9は、ハーネス本体Wの曲げに追従可能な部分に形成される。第一連結部5は、大径筒部2と第一小径筒部3とを連結する部分に形成される。第一連結部5は、本実施例において、長円形状の平板部分に形成される(形状は一例であり、例えば特許文献1のような略漏斗形状に形成されてもよいものとする)。尚、第一軸CL1は、本実施例において、図示しないパネルの貫通孔の軸(特許請求の範囲に記載された「第一軸」)と一致するものとする。
【0014】
<第二小径筒部4について>
図1ないし
図3において、第二小径筒部4は、特許請求の範囲に記載された「小径筒部」に相当する部分に形成される。この第二小径筒部4には、第一小径筒部3と同様に、ハーネス本体Wが挿通される。第二小径筒部4は、嵩上げ筒部10と、斜め筒部11とを有して、図示のように曲がった筒形状に形成される。また、第二小径筒部4には、音反射面12と、スリット13とが形成される。第二小径筒部4は、
図5のグロメット101における曲がった第二小径筒部104と比べると、嵩上げ筒部10及び音反射面12と、スリット13の配置及び長さが相違点となるように形成される。
【0015】
<嵩上げ筒部10について>
図1ないし
図3において、嵩上げ筒部10は、斜め筒部11の位置を図の上側に嵩上げする部分に形成される。別な言い方をすれば、斜め筒部11の配置を
図5の第二小径筒部104よりも図の上側に変更する部分に嵩上げ筒部10は形成される。嵩上げ筒部10は、第一小径筒部3の第一軸CL1上に配置される。また、嵩上げ筒部10は、第二連結部6に連続し且つ短く上方に突出するように形成される。尚、嵩上げ筒部10の突出長さは、
図5を見れば分かるようになる(
図5については後述する)。嵩上げ筒部10は、斜め筒部11及び第一小径筒部3よりも太く形成される。これは後述する音の反射に配慮して太く形成される。嵩上げ筒部10は、本実施例において、略長円形の断面形状を有するような筒に形成される。
【0016】
<斜め筒部11について>
図1ないし
図3において、斜め筒部11は、嵩上げ筒部10に連続するように形成される。斜め筒部11は、第二軸CL2を中心に円筒形状に形成される。第二軸CL2は、第一小径筒部3(及び貫通孔)の第一軸CL1に対して交差するような軸に設定される。第二軸CL2に合わせた斜め筒部11により、上記の如く、第二小径筒部4は曲がった形状に形成される。すなわち、斜め筒部11が図の斜め上にのびるような曲がった形状に形成される。第二小径筒部4は、この先端が大径筒部2の外側に位置する長さに形成される。第二小径筒部4の先端側は、この部分からハーネス本体Wにかけてテープ巻きが施される部分に形成される。斜め筒部11には、スリット13が形成される(スリット13については後述するものとする)。
【0017】
<音反射面12について>
図2及び
図3において、音反射面12は、第一小径筒部3側からの(パネルの貫通孔側からの)音を反射する面として形成される。音反射面12は、第二小径筒部4における内面で第一軸CL1上の位置に配置される。音反射面12は、嵩上げ筒部10及び斜め筒部11の連結部分に配置される(別な言い方をすれば、斜め筒部11の基端部分の内面に配置される)。尚、音反射面12は、本実施例において上記内面の形状に合わせて曲面に形成されるが、これに限らず平面であってもよいものとする(曲面の方が音を分散させる効果が高くなるので、本実施例のような曲面が好ましい形態であるのは勿論である)。音反射面12は、この音反射面12で反射された音がスリット13を通過しないような傾きを有する面に形成される。尚、
図3の矢印S1は、反射を伴う音の進行方向を示すものとする。矢印S1を見ると、反射後の音はスリット13を通過しない方向に進行していることが分かる(本実施例の音反射面12は曲面に形成されることから、
図3の紙面手前側や奥側にも進行するものとする)。
【0018】
<スリット13について>
図1ないし
図3において、スリット13は、グロメット1の成形の際に用いられる図示しない中子を取り出すための部分(引き抜くための部分)に形成される。スリット13は、本実施例において、斜め筒部11、嵩上げ筒部10、及び第二連結部6に跨るように延在する切り欠き部分に形成される。斜め筒部11でのスリット13は、第二連結部6に面する側(斜め筒部11の下面側)に配置される、また、斜め筒部11でのスリット13は、第二軸CL2に沿って斜め筒部11の先端から真っ直ぐに形成される。一方、嵩上げ筒部10でのスリット13は、斜め筒部11から連続するように形成される。嵩上げ筒部10でのスリット13は、第一軸CL1に対し平行に形成される。第二連結部6でのスリット13は、嵩上げ筒部10から更に連続するように形成される。尚、嵩上げ筒部10及び第二連結部6でのスリット13の形成は任意であるものとする。中子の取り出しに配慮して適宜形成すればよいものとする。スリット13における引用符号14は、低く突出する縁取り部を示すものとする。縁取り部14は、スリット13の形成に伴う剛性低下を補う部分として有効である。以上のようなスリット13は、音反射面12により反射された音が通過しないような位置に配置される。
【0019】
ここでスリット13の配置について補足説明をする。
図4は(a)はグロメット1の斜視図、
図4(b)は
図5のグロメット101の斜視図、
図4(c)は
図4(a)と
図4(b)を仮に重ね合わせた場合の斜視図である。スリット13は、
図4(c)から分かるようにスリット107と同じ位置に配置される。音反射面12で反射された音が仮にスリット13から漏れたとしても、音の進行距離や第二連結部6内での反射の繰り返しによって減衰させることができ、以て
図5の場合と比べて音漏れを低減(音量を低減)することができる。
【0020】
<第二連結部6について>
図1ないし
図3において、第二連結部6は、特許請求の範囲に記載された「連結部」に相当する部分であって、大径筒部2と第二小径筒部4とを連結するように形成される。第二連結部6は、大径筒部2の側が長円形状になる略ドーム状の部分に形成される(形状は一例であるものとする)。このような第二連結部6には、複数種の補強リブ15が形成される。また、第二連結部6には、上述のように、スリット13が延在するように形成される。
【0021】
<グロメット1の効果について>
以上、
図1ないし
図5を参照しながら説明してきたように、本発明の一実施形態であるグロメット1によれば、成形の際に用いられる中子のためのスリット13が斜め筒部11の第二連結部6に面する側に配置され、且つ、スリット13は音反射面12にて反射された音が通過しない位置に配置されることから、
図6の矢印S2で示す方向への音漏れが生じることはない。すなわち、所定方向への音漏れを防止することができるという効果を奏する。
【0022】
グロメット1は、音反射面12の形成とスリット13の配置の工夫により、
図6の矢印S2で示す音の進行方向にスリット13が存在しなくなることから、矢印S2方向への音漏れを防止することができるという効果を奏する。また、音反射面12にて反射された音の進行方向(矢印S1参照)にスリット13が存在しないことから、仮に音が漏れたとしてもその音漏れを事前に低減する(減衰させる)ことができるという効果も奏する。この他、スリット13を上記の如く延在させることから、中子の取り出し(引き抜き)をし易くすることができるという効果も奏する。
【0023】
本発明は本発明の主旨を変えない範囲で種々変更実施可能なことは勿論である。
【符号の説明】
【0024】
1…グロメット1、 2…大径筒部、 3…第一小径筒部、 4…第二小径筒部(小径筒部)、 5…第一連結部、 6…第二連結部(連結部)、 7…嵌合凹部、 8…円筒部、 9…蛇腹部、 10…嵩上げ筒部、 11…斜め筒部、 12…音反射面、 13…スリット、 14…縁取り部、 15…補強リブ、 W…ハーネス本体、 CL1…第一軸、 CL2…第二軸