(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-17
(45)【発行日】2024-06-25
(54)【発明の名称】不飽和アルデヒドの製造方法
(51)【国際特許分類】
C07C 45/35 20060101AFI20240618BHJP
C07C 47/22 20060101ALI20240618BHJP
B01J 23/887 20060101ALI20240618BHJP
C07B 61/00 20060101ALN20240618BHJP
【FI】
C07C45/35
C07C47/22 G
C07C47/22 A
B01J23/887 Z
C07B61/00 300
(21)【出願番号】P 2021101329
(22)【出願日】2021-06-18
(62)【分割の表示】P 2020549710の分割
【原出願日】2020-03-17
【審査請求日】2023-01-20
(31)【優先権主張番号】P 2019065494
(32)【優先日】2019-03-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004086
【氏名又は名称】日本化薬株式会社
(72)【発明者】
【氏名】河村 智志
(72)【発明者】
【氏名】平岡 良太
(72)【発明者】
【氏名】保田 将吾
【審査官】奥谷 暢子
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-168003(JP,A)
【文献】特開2001-226302(JP,A)
【文献】特開2001-328951(JP,A)
【文献】特表2008-504310(JP,A)
【文献】国際公開第2017/010159(WO,A1)
【文献】特開2012-176938(JP,A)
【文献】特開平08-092147(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C
B01J
C07B
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
固定床多管型反応器を用いて、アルケンを部分酸化して対応する不飽和アルデヒドを製造する不飽和アルデヒドの製造方法であって、
反応管のガス流れ方向に対し2層の触媒層を設け、
反応管ガス入口側の触媒層の充填長をL、反応管ガス入口側から数えて2層目の触媒層の充填長をLnとしたとき、L及びLnの関係が下記式(1)を満たし、
1<L/Ln≦
2.5 (1)
反応管ガス入口側の触媒層に含まれる触媒活性成分の組成と、反応管ガス入口側から数えて2層目の触媒層に含まれる触媒活性成分の組成とが異なり、かつ反応管ガス入口側の触媒層が、下記式(3-1)で表される組成を有する触媒であり、2層目の触媒層が、下記式(3-2)で表される組成を有する触媒であることを特徴とする不飽和アルデヒドの製造方法。
Mo
12 Bi
a1 Fe
b1 Co
c1 Ni
d1 Cs
g1 O
h1 (3-1)
Mo
12 Bi
a2 Fe
b2 Co
c2 Ni
d2 K
g2 O
h2 (3-2)
(a1)から(g1)および(a2)から(g2)は各成分の原子比率を表し、h1及びh2は触媒成分の酸化度で決定される数値を表す。
さらに、a1=0.70~1.2、b1=1.5~2.3、c1=5.0~7.0、d1=2.3~3.3、e1=0~3.0、f1=0~3.0、g1=0.03~0.10であり、h1は他の元素の酸化状態を満足させる数値で表記され、
また、a2=0.70~1.2、b2=1.5~2.3、c2=5.0~7.0、d2=2.3~3.3、e2=0~3.0、f2=0~3.0、g2=0.03~0.10であり、h2は他の元素の酸化状態を満足させる数値で表記される。)
【請求項2】
前記L及びLnの関係が下記式(2)を満たす、請求項1に記載の不飽和アルデヒドの製造方法。
1.1<L/Ln≦1.4 (2)
【請求項3】
触媒層に含まれる触媒の形状が球状である、請求項1又は2に記載の不飽和アルデヒドの製造方法。
【請求項4】
原料中のアルケンの濃度が6~12容量%である、請求項1~3のいずれか1項に記載の不飽和アルデヒドの製造方法。
【請求項5】
2層目の触媒層に含まれる触媒が不活性物質で希釈されていない触媒である、請求項1~4のいずれか一項に記載の不飽和アルデヒドの製造方法。
【請求項6】
触媒層に含まれる触媒が担持触媒である、請求項1~5のいずれか一項に記載の不飽和アルデヒドの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルケンを分子状酸素または分子状酸素含有ガスにより気相接触酸化し対応する不飽和アルデヒドを製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アルケンまたはその分子内脱水反応によりアルケン類を生じうるアルコールを原料にして対応する不飽和アルデヒドを製造する方法は工業的に広く実施されているが、なかでもプロピレンを分子状酸素により気相接触酸化して、アクロレインを合成する触媒に関し、従来から数多くの提案がなされている。
【0003】
この気相系酸化反応においては、生産性の観点から収率が最も重要視される。そのため触媒の組成成分の改良として、鉄およびコバルト、ニッケルの原子比率に関する技術が特許文献1に、コバルトおよび/またはニッケルに対する鉄の原子比率に関する技術が許文献2に、モリブデンに対するそれぞれの元素の原子比率の最適化に加え、ビスマスに対するニッケル、アルカリ金属成分に対するニッケル、アルカリ金属成分に対するビスマス、それぞれの原子比率に関する技術が特許文献3に記載されている。また、モリブデンに対するビスマスの組成比の改良が特許文献4に記載されている。
【0004】
また、この反応系は激しい発熱を伴うため、触媒層における局所的な高温部分(ホットスポット)の発生が大きな問題となっている。ホットスポットは、一般的には触媒層内温度の極大値のことを意味し、通常は原料濃度が高いガス入口側の触媒層で発生するが、入口側触媒の失活や、急激な外乱要因や様々な条件のばらつきによりガス出口側に位置する高活性な触媒層にも発生しうる。ここでいう外乱要因とは、例えば反応浴ジャケットに供給される熱媒体の流速の変化や気温による原料ガスの流量の変動を指す。
【0005】
ホットスポットの発生は触媒寿命の短縮、過度の酸化反応による収率の低下、場合によっては暴走反応につながるため、ホットスポット温度を抑制するためにホットスポットが発生する部分に充填する触媒の活性を制御する技術がいくつか提案されている。
【0006】
例えば特許文献5には担持量を変えて活性を調節した触媒を使用すること、触媒の焼成温度を変えて活性を調節した触媒を使用することでホットスポット温度を低下させる技術が開示されている。特許文献6には触媒の見かけ密度の比を変えることで活性を調節した触媒を使用する技術が開示されている。特許文献7には触媒成型体の不活性成分の含有量を変えるとともに、触媒成型体の占有容積、アルカリ金属の種類および/または量、触媒の焼成温度を変えることで活性を調節した触媒を使用する技術が開示されている。特許文献8には触媒成型体の占有容積を変えた反応帯を設け、すくなくとも一つの反応帯に不活性物質を混合する技術が開示されている。特許文献9には触媒の焼成温度を変えることで活性を調節した触媒を使用する技術が開示されている。特許文献10には触媒の占有容積と、焼成温度および/またはアルカリ金属の種類、量を変えることで活性を調節した触媒を使用する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】日本国特開2003-164763号公報
【文献】日本国特開2003-146920号公報
【文献】国際公開第2014/181839号
【文献】国際公開第2016/136882号
【文献】日本国特開平10-168003号公報
【文献】日本国特開2004-002209号公報
【文献】日本国特開2001-328951号公報
【文献】日本国特開2005-320315号公報
【文献】日本国特開平8-3093号公報
【文献】日本国特開2001-226302号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記手段をもって収率の改善をはかっても目的生成物の収率は十分とは言い難く、製造に要するアルケンの使用量を左右し製造コストに多大な影響を与えるため改善が求められている。また、低い収率で運転を継続することによって副生成物を大量に生成するため精製工程に大きな負荷を与え、精製工程にかかる時間および運転コストが上がってしまう問題が生じる。さらには副生成物の種類によっては、それらは触媒表面や触媒付近のガス流路に堆積する場合もあり、これらが触媒表面の必要な反応活性点を被覆してしまうことで触媒の活性を低下させるため、無理やり活性を上げる必要が生じ反応浴温度を上げざるを得なくなる。すると、触媒が熱的ストレスを受けることとなり、寿命の低下や選択率の低下を引き起こし、さらなる収率の低下を招くことにもなる。
【0009】
さらに、ホットスポットの抑制をはじめとした安定稼働についても未だ対策は十分ではなく、たとえば工業プラントでは、反応器構造由来の除熱能力のばらつき、水平方向、垂直方向での熱媒温度分布、反応管ごとのガス流速分布が生じてしまうことがあり、全ての反応管内で同一の状態で触媒が使用されるということはほぼありえない。
【0010】
工業プラントで使用された触媒を分析すると、原料ガス入口部分の触媒が集中して劣化している反応管や、全体にわたって触媒が緩やかに劣化している反応管、さらに驚くべきことに原料ガス出口部分の触媒が入口部分の触媒よりも劣化している反応管が見受けられることもある。これは、原料ガス出口側の触媒層のホットスポット温度が異常に高かった可能性を示唆しており、場合によっては暴走反応を引き起こす可能性がある。これは、前述した工業プラントにおける反応管径のばらつき、反応器の構造由来の除熱能力のばらつき、水平方向、垂直方向での熱媒温度分布、反応管ごとのガス流速分布により、原料炭化水素の転化率が異なり、温度分布の形状が異なったことが原因と予想される。様々なばらつき要因が重なってしまった場合でも、より安全に安定して長期にわたって反応を維持できる技術の開発が課題として挙げられた。仮に反応の異常によるプラント停止が発生すると、その期間中の未生産分による損失、異常な温度や雰囲気によっては触媒寿命が短縮され、暴走反応が起きた際には工業プラント設備そのものの損傷や事故など多大な損失を招く可能性がある。このように、収率、安定稼働ともに改善が望まれている。
【0011】
これまでの製造技術として、反応管ガス入口側には活性の低い触媒を用い、反応管ガス出口側の触媒には活性の高い触媒を用い、ガス入口側よりもガス出口側付近の触媒層の充填長を長くする多層充填方法がとられている。
【0012】
本発明者らは、これら上記の現状と課題に対して鋭意検討した結果、二層以上に分割した触媒層を有する充填にて反応を行う際、反応管ガス入口側に位置する活性の低い触媒層の目的生成物の選択率が特に高いことに着目した。そして、反応管ガス入口側の触媒層の充填長を反応管ガス出口側に位置する活性の高い触媒層の充填長よりも長くすることと、特定の触媒層間で触媒活性成分の組成を異ならせることとにより、不飽和アルデヒドの選択率が高くなり、かつ活性の高い出口側に位置する活性の高い触媒の占有割合を抑えることで様々な反応条件のばらつきや外乱因子により生じうる暴走反応を抑制しやすくなり、より高収率で安定的なプラント運転が可能であることを見出した。
【課題を解決するための手段】
【0013】
即ち、本発明は、以下1)~7)に関する。
1)
固定床多管型反応器を用いて、アルケンを部分酸化して対応する不飽和アルデヒドを製造する不飽和アルデヒドの製造方法であって、
反応管のガス流れ方向に対しn分割(nは2以上)して形成される複数の触媒層を設け、
反応管ガス入口側から数えてn-1層目までの触媒層の充填長をL、反応管ガス入口側から数えてn層目の触媒層の充填長をLnとしたとき、L及びLnの関係が下記式(1)を満たし、
1<L/Ln≦3 (1)
反応管ガス入口側から数えてn-1層目までの触媒層に含まれる触媒活性成分の組成と、反応管ガス入口側から数えてn層目の触媒層に含まれる触媒活性成分の組成とが異なる、不飽和アルデヒドの製造方法。
2)
前記L及びLnの関係が下記式(2)を満たす、1)に記載の不飽和アルデヒドの製造方法。
1.1<L/Ln≦1.4 (2)
3)
触媒層に含まれる触媒の形状が球状である、1)又は2)に記載の不飽和アルデヒドの製造方法。
4)
原料中のアルケンの濃度が6~12容量%である、1)~3)のいずれかに記載の不飽和アルデヒドの製造方法。
5)
反応管中のそれぞれの触媒層が、下記式(3)で表される組成を有する触媒活性成分を含む触媒を含む、1)~4)のいずれかに記載の不飽和アルデヒドの製造方法。
Mo12 Bia Feb Coc Nid Xe Yf Zg Oh (3)
(Xはマグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、マンガン(Mn)、銅(Cu)、亜鉛(Zn)、セリウム(Ce)及びサマリウム(Sm)からなる群から選ばれる少なくとも1種の元素であり、Yはホウ素(B)、リン(P)、砒素(As)、アンチモン(Sb)及びタングステン(W)からなる群から選ばれる少なくとも1種の元素であり、Zはナトリウム(Na)、カリウム(K)、ルビジウム(Rb)及びセシウム(Cs)からなる群より選ばれる少なくとも1種の元素であり、(a)から(g)は各成分の原子比率を表し、hは触媒成分の酸化度で決定される数値を表し、a=0.40~2.0、b=1~3、c=3~7.5、d=2~4、e=0~10、f=0~10、g=0.01~0.50、hは他の元素の酸化状態を満足させる数値で表記され、d/aが1以上9以下であり、かつd/gが5以上350以下であり、かつa/gが0.8以上90以下である。)
6)
n層目の触媒層に含まれる触媒が不活性物質で希釈されていない触媒である、1)~5)のいずれかに記載の不飽和アルデヒドの製造方法。
7)
触媒層に含まれる触媒が担持触媒である、1)~6)のいずれかに記載の不飽和アルデヒドの製造方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、アルケンまたはその分子内脱水反応によりアルケン類を生じうるアルコールを原料にして対応する不飽和アルデヒドを製造する場合において、工業プラントにおいても安全に安定して長期にわたって高い収率を維持することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
[Ln、Lの関係]
本願発明は主に触媒層の充填長に関するものである。触媒層の充填長は、以下のように定義される。
Ln:反応管のガス流れ方向に対してn分割して触媒層を設けた際の、反応管ガス入口側から数えてn層目の充填長
L:反応管ガス入口側から数えてn-1層目までの充填長
本願発明は、上記Ln及びLの関係が上記式(1)で表された関係を有する。また、反応管ガス入口側から数えてn-1層目までの触媒層に含まれる触媒活性成分の組成と、反応管ガス入口側から数えてn層目の触媒層に含まれる触媒活性成分の組成とが異なる。これによって、不飽和アルデヒドの選択率を向上することができ、更には反応条件のばらつきや外乱により生じうる暴走反応を抑制しやすくなり、より高収率で安全かつ安定的なプラント運転を実現する。暴走反応を抑制することで、触媒の熱的ストレスも予防し、寿命の長期化も期待される。
【0016】
上記式(1)をさらに好ましい範囲に限定すると、上記式(2)となる。
L/Lnの値は、小さすぎると十分な選択率が得られず、また大きすぎると反応浴温度を常用の範囲に低く保つことが難しくなり、高い反応浴温度が要求されてしまい、選択率が低下する可能性がある。
L/Lnの下限は、1より大きい値である。また、より好ましくは1.05より大きい値であり特に好ましくは1.1より大きい値である。また、上限値は、3である。より好ましい上限値は2であり、さらに好ましい上限値は1.5であり、特に好ましい上限値は1.4である。従って、L/Lnの値として最も好ましい範囲は、1.1より大きく1.4以下である。
【0017】
本願発明において使用する触媒層に含まれる触媒活性成分は、上述のように1層目からn-1層目までの触媒層とn層目の触媒層とで組成が異なるものである。特に、最も反応管ガス出口側に位置する触媒層(最下層)であるn層目の触媒層は触媒活性の観点よりカリウム(K)を含む触媒活性成分を含むことが好ましく、また1層目からn-1層目までの触媒層はセシウム(Cs)を含む触媒活性成分を含むことが好ましい。
具体的触媒活性成分の組成としては例えば以下の触媒活性成分を例示することができる。
【0018】
[触媒について]
本願発明に用いる上層(反応管ガス入口側から1からn-1層目の触媒層)が含む触媒活性成分は、下記式(3)で表される複合金属酸化物触媒活性成分であることが好ましい。
Mo12 Bia Feb Coc Nid Xe Yf Zg Oh (3)
上記式(3)において、Xはマグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、マンガン(Mn)、銅(Cu)、亜鉛(Zn)、セリウム(Ce)及びサマリウム(Sm)からなる群から選ばれる少なくとも1種の元素であり、Yはホウ素(B)、リン(P)、砒素(As)、アンチモン(Sb)及びタングステン(W)からなる群から選ばれる少なくとも1種の元素であり、Zはナトリウム(Na)、カリウム(K)、ルビジウム(Rb)及びセシウム(Cs)からなる群より選ばれる少なくとも1種の元素であり、(a)から(g)は各成分の原子比率を表し、hは触媒成分の酸化度で決定される数値を表し、a=0.40~2.0、b=1~3、c=3~7.5、d=2~4、e=0~10、f=0~10、g=0.01~0.50、hは他の元素の酸化状態を満足させる数値で表記され、d/aが1以上9以下であり、かつd/gが5以上350以下であり、かつa/gが0.8以上90以下である。
なお、本願において、「~」は以上、以下を意味し、すなわち「~」を挟んだ数値は含むものとする。
【0019】
上記Xとしては、好ましくはマグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、マンガン(Mn)、亜鉛(Zn)、およびセリウム(Ce)からなる群から選ばれる少なくとも1種の元素であり、更に好ましくはマグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、亜鉛(Zn)およびセリウム(Ce)からなる群から選ばれる少なくとも1種の元素であり、特に好ましくはマグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)およびセリウム(Ce)からなる群から選ばれる少なくとも1種の元素である。
上記Yとしては、好ましくはホウ素(B)、リン(P)、アンチモン(Sb)及びタングステン(W)からなる群から選ばれる少なくとも1種の元素であり、更に好ましくはリン(P)、アンチモン(Sb)及びタングステン(W)からなる群から選ばれる少なくとも1種の元素であり、特に好ましくはアンチモン(Sb)及びタングステン(W)からなる群から選ばれる少なくとも1種の元素である。
上記Zとしては、好ましくはカリウム(K)、ルビジウム(Rb)、セシウム(Cs)からなる群より選ばれる少なくとも1種の元素であり、更に好ましくはカリウム(K)、セシウム(Cs)からなる群より選ばれる少なくとも1種の元素であり、特に好ましくはセシウム(Cs)である。
【0020】
上記aとしては、好ましい上限は1.7であり、更に好ましい上限は1.5であり、特に好ましい上限は1.2である。また好ましい下限は、0.5であり、更に好ましい下限は0.6であり、特に好ましい下限は0.7である。
上記bとしては、好ましい上限は2.8であり、更に好ましい上限は2.5であり、特に好ましい上限は2.3である。また好ましい下限は、1.5であり、更に好ましい下限は1.6であり、特に好ましい下限は1.8である。
上記cとしては、好ましい上限は7.3であり、更に好ましい上限は7.2であり、特に好ましい上限は7.0である。また好ましい下限は、4.0であり、更に好ましい下限は5.0であり、特に好ましい下限は6.0である。
上記dとしては、好ましい上限は3.8であり、更に好ましい上限は3.5であり、特に好ましい上限は3.3である。また好ましい下限は、2.1であり、更に好ましい下限は2.2であり、特に好ましい下限は2.3である。
【0021】
上記eとしては、好ましい上限は8.0であり、更に好ましい上限は5.0であり、特に好ましい上限は3.0である。また、好ましい下限は0である。
上記fとしては、好ましい上限は8.0であり、更に好ましい上限は5.0であり、特に好ましい上限は3.0である。また、好ましい下限は0である。
上記gとしては、好ましい上限は0.3であり、更に好ましい上限は0.2であり、特に好ましい上限は0.1である。また好ましい下限は、0.015であり、更に好ましい下限は0.02であり、特に好ましい下限は0.03である。
【0022】
上記d/aとしては、好ましい上限は7.5であり、更に好ましい上限は5.7であり、特に好ましい上限は4.8である。また好ましい下限は、1.3であり、更に好ましい下限は1.5であり、特に好ましい下限は2.0である。
上記d/gとしては、好ましい上限は230であり、更に好ましい上限は160であり、特に好ましい上限は110である。また好ましい下限は、8であり、更に好ましい下限は14であり、特に好ましい下限は24である。
上記a/gとしては、好ましい上限は85であり、更に好ましい上限は70であり、特に好ましい上限は35である。また好ましい下限は、1.8であり、更に好ましい下限は4.0であり、特に好ましい下限は8.0である。
【0023】
本願発明に用いる下層(反応管のガス流れ方向に対してn分割して触媒層を設けた際の反応管ガス入口側からn層目の触媒)が含む触媒活性成分は、特に限定されるものではないが、上記式(3)で表された触媒活性成分である場合が好ましい。すなわち、本願発明の好ましい態様は、反応管中の全触媒層に含まれる触媒活性成分が、上記式(3)で表される組成を有する触媒活性成分である態様である。
ただし、下層に用いる場合、上記Zとしては、好ましくはカリウム、ルビジウム、セシウムからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素であり、更に好ましくはカリウム、セシウムからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素であり、特に好ましくはカリウムである。
その他、X、Y、a、b、c、d、e、f、g、d/a、d/g、a/gは好ましいものを含めて、上記式(3)と同じである。
【0024】
より具体的には、上層が下記式(3-1)で表された触媒活性成分を含み、及び/又は下層が下記式(3-2)で表された触媒活性成分を含むことが好ましい。ただし、上層に含まれる下記式(3-1)で表された触媒活性成分及び下層に含まれる下記式(3-2)で表された触媒活性成分の組成は互いに異なる。
Mo12 Bia1 Feb1 Coc1 Nid1 X1e1 Y1f1 Z1g1 Oh1 (3-1)
上記式(3-1)において、X1、Y1、(a1)から(h1)は、上記式(3)において定義されたX、Y、(a)から(h)と同様に定義され、Z1はカリウム(K)又はセシウム(Cs)であり、好ましくはZ1はセシウム(Cs)である。
Mo12 Bia2 Feb2 Coc2 Nid2 X2e2 Y2f2 Z2g2 Oh2 (3-2)
上記式(3-2)において、X2、Y2、(a2)から(h2)は、上記式(3)において定義されたX、Y、(a)から(h)と同様に定義され、Z2はカリウム(K)又はセシウム(Cs)であり、好ましくはZ2はカリウム(K)である。
【0025】
本願発明に用いる触媒層に含まれる触媒の形状は、特に制限されるものではなく、球状、円柱状、リング状、粉末状等を用いることができるが、特に好ましくは球状である。
【0026】
なお、2層充填の場合には、上記上層に含まれる触媒、下層に含まれる触媒共に不活性物質を用いて希釈したものであっても良いが、上層、下層ともに希釈しない方法がより好ましい。
【0027】
また、3層以上(n≧3)の触媒層を設ける場合、1層目、n層目以外の触媒層(以下中層と表現する)に用いる触媒活性成分は、上記式(3)で表される複合金属酸化物触媒活性成分であっても、これらと全く異なる組成を有する触媒であっても良いが、上記式(3)で表される複合金属酸化物触媒である場合が好ましく、その場合には、必要に応じ不活性物質による希釈率を変えることによって中層を形成することも出来る。また、上層及び中層に上記式(3-1)で表される触媒活性成分を用い、下層に上記式(3-2)で表される触媒活性成分を用いると好ましい。本願発明の触媒層の数としては、2層又は3層である場合が好ましく、2層である場合が特に好ましい。
【0028】
不活性物質による希釈率として、好ましい範囲を以下に記載する。ここでいう希釈率とは、触媒と不活性物質とにより構成される触媒層のうち触媒が占有する質量比率を示す数値であり、例えば触媒層が80質量%希釈とは触媒が80質量%、不活性物質が20質量%であることを意味する。なお、後述する触媒の製造方法において説明するように、触媒活性成分を不活性担体に担持して触媒とした場合は、不活性担体を含めた触媒の質量を基に希釈率を算出する。以下、n=3の場合を例に、好ましい形態を記載するが、本願発明の本質は反応管をガス流れ方向にn分割した触媒の、n番目の触媒層の充填長に対するその他の触媒層の充填長を一定の範囲内に収める事であるので、これに限定されるものでは無い。
【0029】
上層(最も原料ガス入口側に配置される触媒層):式(3)で記載される触媒活性成分を含む触媒を不活性物質で50質量%~100質量%に希釈した触媒が好ましく、60質量%~100質量%に希釈した触媒が更に好ましく、70質量%~100質量%に希釈した触媒が最も好ましい。
中層(原料ガス入口側から2番目からn-1番目に配置される触媒層):式(3)で記載される触媒活性成分を含む触媒を不活性物質で80質量%~100質量%に希釈した触媒が好ましく、85質量%~100質量%に希釈した触媒が更に好ましく、90質量%~100質量%に希釈した触媒が最も好ましい。
下層(原料ガス入口側からn番目に配置される、反応管の最もガス出口側に位置する触媒層):70質量%~100質量%に希釈した触媒が好ましく、75質量%~100質量%に希釈した触媒が更に好ましく、80質量%~100質量%に希釈した触媒が最も好ましい。なお、下層は活性を高める方が好ましく、希釈率は100質量%である場合が最も好ましい。
なお4層以上(n≧4)の触媒層を設ける場合には、この中層が複数存在することになり、触媒組成を変更しても良いし前記希釈率の範囲内で希釈率を変更して、追加の層を形成しても良い。
【0030】
なお本願発明における好ましい態様は、下記1)~2)である。
1)n=2であり、上層が式(3)で表される触媒活性成分を含む触媒であり、希釈率が100質量%であり、Z成分がセシウムであり、下層が式(3)で表される触媒活性成分を含む触媒であり、Z成分がカリウムであり、希釈率が100質量%である。
2)n=3であり、中層が式(3)で表される触媒活性成分を含む触媒であり、希釈率が100質量%であり、Z成分がセシウムであり、上層が中層触媒を不活性物質で希釈した触媒であり、下層が式(3)で表される触媒活性成分を含む触媒であり、Z成分がカリウムであり、希釈率が100質量%である。
【0031】
上記不活性物質とは、シリカ、アルミナ、チタニア、ジルコニア、ニオビア、シリカアルミナ、炭化ケイ素、炭化物、およびこれらの混合物など公知の物質が挙げられる。このうち、好ましくはシリカ、アルミナ、またはこれらの混合物であり、特に好ましくはシリカ、アルミナであり、最も好ましくはシリカとアルミナの混合物である。
また、不活性物質の形状は、特に制限はないが球状であるものが好ましくは、その平均粒子径は3mm~10mmであるものが好ましく、さらに好ましくは3.5mm~9mmである。特に好ましくは、4mm~8mmである。
【0032】
[触媒の製造方法について]
本願発明に用いる触媒は、例えば下記工程a)~e)によって製造することができる。
<工程a) 調合>
一般に触媒活性成分を構成する各元素の出発原料は特に制限されるものではない。モリブデン成分原料としては三酸化モリブデンのようなモリブデン酸化物、モリブデン酸、モリブデン酸アンモニウムのようなモリブデン酸又はその塩、リンモリブデン酸、ケイモリブデン酸のようなモリブデンを含むヘテロポリ酸又はその塩などを用いることができるが、好ましくはモリブデン酸アンモニウムを使用した場合で、高性能な触媒を得ることができる。特にモリブデン酸アンモニウムには、ジモリブデン酸アンモニウム、テトラモリブデン酸アンモニウム、ヘプタモリブデン酸アンモニウム等、複数種類の化合物が存在するが、その中でもヘプタモリブデン酸アンモニウムを使用した場合が最も好ましい。
【0033】
ビスマス成分原料としては硝酸ビスマス、次炭酸ビスマス、硫酸ビスマス、酢酸ビスマスなどのビスマス塩、三酸化ビスマス、金属ビスマスなどを用いることができるが、より好ましくは硝酸ビスマスであり、これを使用した場合に高性能な触媒が得られる。鉄、コバルト、ニッケル及びその他の元素の原料としては通常は酸化物あるいは強熱することにより酸化物になり得る硝酸塩、炭酸塩、有機酸塩、水酸化物等又はそれらの混合物を用いることができる。例えば、鉄成分原料とコバルト成分原料及び/又はニッケル成分原料を所望の比率で10~80℃の条件下にて水に溶解混合し、20~90℃の条件下にて別途調合されたモリブデン成分原料およびZ成分原料水溶液もしくはスラリーと混合し、20~90℃の条件下にて1時間程度加熱撹拌した後、ビスマス成分原料を溶解した水溶液と、必要に応じX成分原料、Y成分原料とを添加して触媒成分を含有する水溶液またはスラリーを得る。以降、両者をまとめて調合液(A)と称する。
【0034】
ここで、調合液(A)は必ずしもすべての触媒活性成分構成元素を含有する必要は無く、その一部の元素または一部の量を以降の工程で添加してもよい。また、調合液(A)を調合する際に各成分原料を溶解する水の量や、溶解のために硫酸や硝酸、塩酸、酒石酸、酢酸などの酸を加える場合には、原料が溶解するのに十分な水溶液中の酸濃度が、例えば5質量%~99質量%の範囲で調合に適していないと、調合液(A)の形態が粘土状の塊となる場合がある。この場合では、優れた触媒が得られない。調合液(A)の形態としては水溶液またはスラリーが、優れた触媒が得られるため、好ましい。
【0035】
<工程b) 乾燥>
次いで上記で得られた調合液(A)を乾燥し、乾燥紛体とする。乾燥方法は、調合液(A)を完全に乾燥できる方法であれば特に制限はないが、例えばドラム乾燥、凍結乾燥、噴霧乾燥、蒸発乾固等が挙げられる。これらのうち本発明においては、スラリーから短時間に紛体又は顆粒に乾燥することができる噴霧乾燥が特に好ましい。噴霧乾燥の乾燥温度はスラリーの濃度、送液速度等によって異なるが概ね乾燥機の出口における温度が70~150℃である。また、この際得られる乾燥紛体の平均粒径が10~700μmとなるよう乾燥するのが好ましい。こうして乾燥紛体(B)を得る。
【0036】
<工程c) 予備焼成>
得られた乾燥紛体(B)は空気流通下で200℃から600℃で、好ましくは300℃から600℃で焼成することで触媒の成型性、機械的強度、触媒性能が向上する傾向がある。焼成時間は1時間から12時間が好ましい。こうして予備焼成紛体(C)を得る。
【0037】
<工程d) 成型>
成型方法に特に制限はないが円柱状、リング状に成型する際には打錠成型機、押し出し成型機などを用いた方法が好ましい。さらに好ましくは、球状に成型する場合であり、成型機で予備焼成紛体(C)を球形に成型しても良いが、予備焼成紛体(C)(必要により成型助剤、強度向上剤を含む)を不活性なセラミック等の担体に担持させる方法が好ましい。ここで担持方法としては転動造粒法、遠心流動コーティング装置を用いる方法、ウォッシュコート方法等が広く知られている。予備焼成紛体(C)が担体に均一に担持できる方法で有れば特に限定されないが、触媒の製造効率や調製される触媒の性能を考慮した場合、より好ましくは固定円筒容器の底部に、平らな、あるいは凹凸のある円盤を有する装置で、円盤を高速で回転させることにより、容器内にチャージされた担体を、担体自体の自転運動と公転運動の繰り返しにより激しく撹拌させ、ここに予備焼成紛体(C)並びに必要により、成型助剤及び/または強度向上剤を添加することにより紛体成分を担体に担持させる方法が好ましい。
【0038】
尚、担持に際して、バインダーを使用するのが好ましい。用いうるバインダーの具体例としては、水やエタノール、メタノール、プロパノール、多価アルコール、高分子系バインダーのポリビニルアルコール、無機系バインダーのシリカゾル水溶液等が挙げられるが、エタノール、メタノール、プロパノール、多価アルコールが好ましく、エチレングリコール等のジオールやグリセリン等のトリオール等がより好ましい。グリセリン水溶液を適量使用することにより成型性が良好となり、機械的強度の高い、高性能な触媒が得られ、具体的にはグリセリンの濃度5質量%以上の水溶液を使用した場合に特に高性能な触媒が得られる。これらバインダーの使用量は、予備焼成紛体(C)100質量部に対して通常2~80質量部である。不活性担体は、通常、直径2~8mm程度のものを使用し、これに予備焼成紛体(C)を担持させる。その担持率は触媒使用条件、たとえば反応原料の空間速度、原料濃度などの反応条件を考慮して決定されるものであるが、通常20質量%から80質量%である。ここで担持率は以下の式で表記される。
【0039】
担持率(質量%)=
100×〔成型に使用した予備焼成紛体(C)の質量/(成型に使用した予備焼成紛体(C)の質量+成型に使用した不活性担体の質量)〕 (4)
【0040】
<工程e) 本焼成>
工程d)により得られた成型体(D)は200~600℃の温度で1~12時間程度焼成することで触媒活性、選択性が向上する傾向にある。焼成温度は400℃以上600℃以下が好ましく、500℃以上600℃以下がより好ましい。流通させるガスとしては空気が簡便で好ましいが、その他に不活性ガスとして窒素、二酸化炭素、還元雰囲気にするための窒素酸化物含有ガス、アンモニア含有ガス、水素ガスおよびそれらの混合物を使用することも可能である。こうして触媒(E)を得る。
【0041】
[原料中のアルケンの濃度]
本発明におけるアルケンの接触気相酸化反応は、原料ガス組成として6~12容量%のアルケン(より好ましくは6~10容量%)、5~18容量%の分子状酸素、0~60容量%の水蒸気及び20~70容量%の不活性ガス、例えば窒素、炭酸ガスなどからなる混合ガスを前記のようにして調製された触媒上に250~450℃の温度範囲及び常圧~10気圧の圧力下、好ましくは常圧~5気圧下、より好ましくは常圧から3気圧下で、0.5~10秒の接触時間で導入することによって行われる。
【0042】
なお、本発明において、アルケンとは、その分子内脱水反応においてアルケンを生じるアルコール類、例えばターシャリーブチルアルコールも含めるものとする。アルケンなどの反応基質の触媒体積に対する空間速度(反応基質供給速度(NL/hr)/触媒充填空間容積(L))は高い方が生産効率の点から好ましいが、あまり高くなると目的生成物の収率が低下する場合があること、触媒の寿命が短縮することなどから実際上は、40~200hr-1が好ましく、より好ましくは60~180hr-1の範囲である。ここでNLは反応基質の標準状態における容積を表す。また、アルケンの転化率としては、アクロレイン収率が得られる転化率付近が好ましく、通常は90~99.9%、好ましくは95~99.5%、より好ましくは96~99%である。
【0043】
本願発明においては、反応管の原料ガス流れ方向に複数個にn分割して形成された触媒層を設け、上記複数種の触媒を原料ガス流れ方向の原料入口部から出口部に向かって活性がより高くなるよう配置するのが好ましい。分割数nに特に制限はないが、通常2~5、好ましくは2~3である。
【0044】
多層充填においては、反応管ガス出口側の触媒層の充填長がその他の触媒層の充填長の合算よりも長いことが一般的である。その際、入口側での発熱を嫌い必ずガス出口側ほど活性が高い触媒を配置する設計とされるが出口側の高活性触媒の充填長が長いと多くのデメリットが生じ得る。まず、反応管内における高活性触媒の原料転化率への寄与が高まると、原料および目的生成物である不飽和アルデヒドが過度な酸化を受け、目的生成物の選択率および収率が低下してしまう。さらには、外乱要因や様々な条件のばらつきによって反応が不安定になった際には、出口側の高活性な触媒の充填長が長くなるほど、出口側でホットスポットを生じる可能性が高まり、結果として暴走反応を引き起こす可能性が高まる。また一方で、発明者の実施した工業プラントの使用済触媒の分析において、多層充填された触媒のうち、劣化しているのは主にガス入口側触媒層であることが多く、反応ガス出口側の触媒が劣化していることは稀であった。このことから、反応ガス入口側からn-1層目までに位置する触媒は多層充填の触媒寿命に影響を与えうる。
【0045】
本発明の効果を得ようとして、あまりにも反応ガス出口側の触媒層を短くすると、触媒層全体の活性が低下することによって常用の原料転化率を得て目的生成物を得るために必要な反応浴温度が上昇し過ぎてしまい、入口側からn-1層目のホットスポットが高温になりガス入口側の触媒の劣化や性能低下を生じる。また場合によってはガス入口側触媒の早期劣化によって、ガス出口側の高活性な触媒層に高いホットスポットを生じさせ、目的生成物の選択率および収率の急激な低下を引き起こす可能性もある。そのためガス入口側とガス出口側の触媒のバランスを考慮し、出口側の触媒層を短くし過ぎて触媒層全体の活性が低下し、反応浴温度が過度に上昇しないようにすることも必要である。反応浴温度は触媒の特性や、使用条件、必要とする触媒寿命などにより適宜設定されるため一概には言えないが、反応初期の浴温度としては350℃以下が好ましく、340℃以下がより好ましい。
【0046】
工業プラントにおいて、上記のような製造方法を実施することにより不飽和アルデヒドの収率を改善し、かつ高活性なガス出口側の暴走を抑制することができ、長期にわたり工業プラントで安定した収率と運転が可能となる。この効果は、比較的選択率の高い触媒層の占有率が比較的活性の高い触媒層の占有率を上回ることで反応への高選択な触媒の寄与が高まることに起因すると考えられる。
【実施例】
【0047】
以下、具体例を挙げて実施例を示したが、本発明はその趣旨を逸脱しない限り実施例に限定されるものではない。
【0048】
なお以下において、アクロレイン収率の定義は、次の通りである。
アクロレイン収率(モル%)
=(生成したアクロレインのモル数/供給したプロピレンのモル数)×100
【0049】
L及び/又はLnを求める際に、充填長比は設計値ではなく実測値を用いるのが好ましい。プラントにおいては、反応管が複数本ある場合が多いため、その一部の計測結果から得られる平均値を用いることもできる。L及び/又はLnの測定は、例えば反応管上部から触媒を下部に向けて順に充填していき、その各層の上部の空間長さをメジャーなどを用い計測することで算出出来る。
【0050】
[製造例 (触媒の調製)]
蒸留水3000質量部を加熱攪拌しながらモリブデン酸アンモニウム423.7質量部と硝酸カリウム0.73質量部を溶解して水溶液(A1)を得た。別に、硝酸コバルト378.4質量部、硝酸ニッケル139.6質量部、硝酸第二鉄161.6質量部を蒸留水1000質量部に溶解して水溶液(B1)を、また、濃硝酸81質量部を加えて酸性にした蒸留水200質量部に硝酸ビスマス97.1質量部を溶解して水溶液(C1)をそれぞれ調製した。上記水溶液(A1)に(B1)、(C1)を順次、激しく攪拌しながら混合し、生成した懸濁液を、スプレードライヤーを用いて乾燥し440℃で6時間焼成し予備焼成粉末(D2)を得た。このときの触媒活性成分の酸素を除いた組成比は原子比でMo=12、Bi=1.0、Ni=3.0、Fe=2.0、Co=6.5、K=0.05であった。
【0051】
その後、予備焼成粉末(D2)100質量部に結晶セルロース5質量部を混合した粉末を不活性担体(アルミナ、シリカを主成分とする直径4.5mmの球状物質)に、上記式(4)で定義される担持率が、50質量%になるように、成型に使用する担体質量および予備焼成粉末質量を調整した。20質量%グリセリン水溶液をバインダーとして使用し、直径5.2mmの球状に担持成型して担持触媒(E3)を得た。この担持触媒(E3)を、焼成温度530℃で、4時間空気雰囲気下で焼成することで触媒(F3)を得た。また、担持触媒(E3)と同様にして担持率が50質量%になるように、直径4.0mmの担体に球状に担持して直径4.7mmの担持触媒(E4)を得た。担持触媒(E4)を焼成温度530℃で4時間焼成することで触媒(F4)を得た。
【0052】
上記の予備焼成粉末(D2)と同様の手法に従って、ただし硝酸カリウムの代わりに硝酸セシウムを用いて、予備焼成粉末(D1)を得た。得られた予備焼成粉末(D1)の触媒活性成分の酸素を除いた組成比は原子比でMo=12、Bi=1.0、Ni=3.0、Fe=2.0、Co=6.5、Cs=0.03であった。この予備焼成粉末(D1)を担持触媒(E3)と同様の手法に従って、担持成型して担持触媒(E1)を得た。また、予備焼成粉末(D1)を担持率が40質量%になるように、直径4.5mmの担体に球状に担持して直径5.0mmの担持触媒(E2)を得た。この担持触媒(E1)および(E2)を、焼成温度530℃で4時間、空気雰囲気下で焼成することで触媒それぞれ(F1)および(F2)を得た。
【0053】
さらに、上記の予備焼成粉末(D1)を得た手法において、触媒活性成分の酸素を除いた組成比を原子比でMo=12、Bi=0.7、Ni=2.5、Fe=2.0、Co=7.0、Cs=0.08となるように上記配合比率を変化させて、予備焼成粉末(D3)を得た。予備焼成粉末(D1)および(D3)を担持触媒(E3)と同様の手法に従って、担持率が50質量%になるように、直径4.0mmの担体に球状に担持して直径4.7mmの担持触媒(E5)および(E6)を得た。この担持触媒(E5)および(E6)を、焼成温度530℃で4時間、空気雰囲気下でそれぞれ焼成することで触媒(F5)および(F6)を得た。
【0054】
[実施例1]
上記のようにして調製した触媒(F1)から触媒(F6)を使用して、プロピレンの酸化反応を実施した。なお、実施例にて使用する、反応管原料ガス入口側の触媒(F1)または(F2)と、反応管原料ガス出口側触媒(F3)または(F4)とでは触媒活性成分の組成が異なるが、ともに一般式(3)に記載の組成範囲に含まれる。
【0055】
熱媒体として溶融塩を循環させるジャケット及び触媒層温度を測定するための熱電対を管軸に設置した、内径25mmのステンレス製反応器の原料ガス入口側より直径5.2mmのシリカアルミナ球を20cm充填した。そして順次ガス出口方向へ向かって、上層(原料ガス入口側)として、触媒(F1)とシリカアルミナ混合物不活性球状担体とを質量比85:15で混合した希釈触媒(85質量%希釈)を80cm、中層として無希釈の触媒(F1)を110cm、下層として無希釈の触媒(F3)を160cm、それぞれ充填した。これにより触媒層を3層構成とし、L/Ln=1.19にした。反応浴温度を315℃にし、ここに原料モル比率が、プロピレン:酸素(供給される空気中に含まれる酸素):水:窒素(空気とは別に供給される窒素)=1:1.7:1:2.4となるようにプロピレン、空気、水、窒素の供給量を設定した。なお、当該供給原料中のプロピレン濃度(容量%)は、1/(1+(1.7/0.21)+1+2.4)×100=8容量%であった。なお、後述する実施例2及び実施例4における供給原料中のプロピレン濃度(容量%)の捉え方は本実施例のものと同様である。当該供給原料をプロピレンの空間速度が100h-1となるよう流通させ、その全ガス流通時における反応管出口側の圧力が50kPaGとして反応開始後300時間経過したとき、反応浴温度を変化させて、プロピレンの酸化反応を実施した。反応浴温度を変化させて反応成績を調べた結果、318℃においてアクロレイン収率が最高値を示し、そのときのプロピレン転化率および各触媒層のホットスポット温度を得た。結果を表1に示す。なお、表1におけるホットスポットの温度として、各触媒層それぞれのホットスポットを記載した。
【0056】
[実施例2]
実施例1の酸化反応条件において、上層として無希釈の触媒(F2)を200cm充填し、順次原料ガス出口へ向かって下層として無希釈の触媒(F4)を150cm充填することにより、触媒層を2層構成とし、L/Ln=1.33にした。原料モル比率が、プロピレン:酸素(供給される空気中に含まれる酸素):水:窒素(空気とは別に供給される窒素)=1:2.0:0.7:4.0となるようにプロピレン、空気、水、窒素の供給量を設定し、プロピレンの空間速度が170h-1となるよう流通させ、その全ガス流通時における反応管出口側の圧力が75kPaGとして反応を開始した以外は、実施例1と同様の方法でプロピレンの酸化反応を実施した。反応浴温度を変化させて反応成績を調べた結果、335℃においてアクロレイン収率が最高値を示し、そのときのプロピレン転化率および各触媒層のホットスポット温度を得た。結果を表1に示す。
【0057】
[実施例3]
実施例2の酸化反応条件において、上層として無希釈の触媒(F5)を200cm充填し、順次原料ガス出口へ向かって下層として無希釈の触媒(F6)を150cm充填することにより触媒層を2層構成とする以外は、実施例1と同様の方法でプロピレンの酸化反応を実施した。L/Ln=1.33であった。反応浴温度を変化させて反応成績を調べた結果、328℃においてアクロレイン収率が最高値を示し、そのときのプロピレン転化率および各触媒層のホットスポット温度を得た。結果を表2に示す。
【0058】
[比較例1]
実施例1の酸化反応条件において、中層として無希釈の触媒(F1)を80cm、下層として無希釈の触媒(F3)を190cmそれぞれ充填したこと以外は、実施例1と同様の方法でプロピレンの酸化反応を実施した。L/Ln=0.84であった。反応浴温度を変化させて反応成績を調べた結果、318℃においてアクロレイン収率が最高値を示し、そのときのプロピレン転化率および各触媒層のホットスポット温度を得た。結果を表2に示す。
【0059】
[比較例2]
実施例2の酸化反応条件において、上層として無希釈の触媒(F2)を150cm、下層として無希釈の触媒(F4)を200cmそれぞれ充填したこと以外は、実施例2と同様の方法でプロピレンの酸化反応を実施した。L/Ln=0.75であった。反応浴温度を変化させて反応成績を調べた結果、330℃においてアクロレイン収率が最高値を示し、そのときのプロピレン転化率および各触媒層のホットスポット温度を得た。結果を表1に示す。
【0060】
試験条件及び結果を、3層の触媒層を設けた場合(n=3)について表1に、2層の触媒層を設けた場合(n=2)について表2にそれぞれまとめた。一般に、分子状酸素を含有する反応ガスを流通し固定床触媒を使用する本願記載のような不飽和アルデヒドや不飽和カルボン酸を得るための酸化反応においては、プロピレンのような原料の空間速度、いわゆる触媒にかかる負荷は大きいほどに生産性を向上することができる。一方で、それとともに一定の目的生成物の選択率、収率を損なう傾向があることが知られている。そのため、空間速度など触媒にかかる負荷が同等である領域において性能を比較するのが一般的である。また、例えば負荷の増大により0.5%程度収率が低下しても、2倍の負荷で運転が可能であればおおよそ2倍近い速度で目的生成物を得られるため、高い負荷で運転が可能となれば大いに生産効率を高められる。
【0061】
【0062】
【0063】
[実施例4]
触媒層温度を測定するための熱電対を管軸に設置した、内径28.4mmのステンレス製反応器の原料ガス入口側より直径5.2mmのシリカアルミナ球を2cm充填した。そして順次ガス出口方向へ向かって、上層(原料ガス入口側)として、無希釈の触媒(F2)を56.5mm、下層として無希釈の触媒(F4)を43.5mm、それぞれ充填した。これにより触媒層を2層構成とし、L/Ln=1.30にした。反応浴温度を320℃にし、ここに原料モル比率が、プロピレン:酸素:水:窒素=1:2.0:0.7:4.0となるようにプロピレン、空気、水、窒素の供給量を設定し、プロピレンの空間速度が80h-1となるよう流通させ、その全ガス流通時における反応管出口側の圧力が0kPaGとして反応開始後300時間経過したとき、反応浴温度を変化させて、プロピレンの酸化反応を実施した。反応浴温度を変化させて反応成績を調べた結果、315℃においてアクロレイン収率が最高値を示し、そのときのプロピレン転化率および各触媒層のホットスポット温度を得た。結果を表3に示す。なお、表3におけるホットスポットの温度として、各触媒層それぞれのホットスポットを記載した。
【0064】
[比較例5]
実施例4において上層(F2)を71.4mm、下層(F4)を28.6mmで充填した以外は実施例4と同じ条件で酸化反応を行った。結果を表3に示す。
【0065】
[比較例3]
実施例4において上層(F2)を77.8mm、下層(F4)を22.2mmで充填した以外は実施例4と同じ条件で酸化反応を行った。結果を表3に示す。
【0066】
[比較例4]
日本国特開平10-168003号公報(特許文献5)の実施例3に記載の触媒(4)、(5)、(6)を製造し、原料ガス入口側から触媒(4)、(5)、(6)の順に28.25mm、28.25mm、43.5mmの充填長で各触媒を充填した以外は実施例4と同じ条件で酸化反応を行った。結果を表3に示す。
【0067】
【0068】
表3の結果より、上層と下層で触媒活性成分の組成の異なる触媒層をL/Ln=1.30で充填した実施例4は、最高アクロレイン収率が高く、また反応浴温度も低く抑えられ、更には上層のホットスポット温度を下げることができており、高い収率で長期間安定して酸化反応を行うことができることが確認された。また、同様に上層と下層で触媒活性成分の組成の異なる触媒層をL/Ln=2.50で充填した実施例5は、反応浴温度が低く、かつ上層のホットスポット温度も低く抑えることができている。これに対し、L/Ln=3.50で充填した比較例3は、反応浴温度を上げなければアクロレイン収率を上げることができず、その為上層のホットスポット温度も高くなっている。また上層、中層、下層のすべてで触媒活性成分が同一の組成を有する触媒層を使用した比較例4では、反応浴温度を抑えても非常に高い上層ホットスポット温度を示した。
【0069】
本発明を特定の態様を参照して詳細に説明したが、本発明の精神と範囲を離れることなく様々な変更および修正が可能であることは、当業者にとって明らかである。
なお、本願は、2019年3月29日付で出願された日本国特許出願(特願2019-065494)に基づいており、その全体が引用により援用される。また、ここに引用されるすべての参照は全体として取り込まれる。
【産業上の利用可能性】
【0070】
本願発明によって、不飽和アルデヒド製造プラントにおける収率改善と反応暴走抑制効果を実現することができる。これにより長期にわたり、工業プラントで安定した収率とともに安定した運転が可能となる。