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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-17
(45)【発行日】2024-06-25
(54)【発明の名称】電池の製造方法及び電池の製造装置
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/04 20060101AFI20240618BHJP
   H01M 4/139 20100101ALI20240618BHJP
   H01M 10/04 20060101ALI20240618BHJP
   H01M 10/058 20100101ALI20240618BHJP
【FI】
H01M4/04 A
H01M4/139
H01M10/04 Z
H01M10/058
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2021140059
(22)【出願日】2021-08-30
(65)【公開番号】P2023034011
(43)【公開日】2023-03-13
【審査請求日】2023-02-03
(73)【特許権者】
【識別番号】399107063
【氏名又は名称】プライムアースEVエナジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107249
【弁理士】
【氏名又は名称】中嶋 恭久
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼田 智功
【審査官】鈴木 雅雄
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-102186(JP,A)
【文献】特開2014-175153(JP,A)
【文献】特開2012-220217(JP,A)
【文献】特開平09-106814(JP,A)
【文献】特開2020-129466(JP,A)
【文献】特開2020-052737(JP,A)
【文献】特開2017-111906(JP,A)
【文献】特開2019-102187(JP,A)
【文献】特開2021-030264(JP,A)
【文献】国際公開第2020/109074(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/04
H01M 4/139
H01M 10/04
H01M 10/058
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電池の製造工程の電極材料の混練工程における複数の材料条件及び製造条件を説明変数とし、前記混練工程における管理指標値を目的変数として、前記材料条件及び前記製造条件に関する各項目の値並びに前記管理指標値を含むデータセットを用いた機械学習の実行により、前記材料条件及び前記製造条件に基づいた前記管理指標値の予測モデルを生成する工程と、
前記材料条件及び前記製造条件に関する前記各項目を、前記値の変更が許容される制御パラメータと、予め前記値が定められた非制御パラメータとに区分して、前記予測モデルを用いて予測される前記管理指標値のバラツキが最小となるように、数理最適化処理の実行により前記制御パラメータに区分される前記各項目の値を決定する工程と、
を備え
前記データセットには、前記制御パラメータと前記非制御パラメータとの交互作用が存在することを示す交互作用データが含まれ、
前記材料条件が、電極材料に用いられる負極活物質の比表面積、粒子径、吸油量、細孔径、分散剤や結着剤の分子量、固形分濃度の材料物性から選択され、
前記製造条件が、混練機の回転体の回転速度、混練機に対する供給電力、電極材料となる結着剤、及び溶媒の投入量、投入された電極材料の混練時間、混練温度の装置条件から選択され、
前記管理指標値は、混練された前記電極材料のペースト粘度である電池の製造方法。
【請求項2】
前記製造条件に関する前記各項目が前記制御パラメータであり、前記材料条件に関する前記各項目が前記非制御パラメータである
請求項1に記載の電池の製造方法。
【請求項3】
ランダムフォレストを用いて前記予測モデルが生成される
請求項1又は請求項2に記載の電池の製造方法。
【請求項4】
ベイズ最適化を用いて前記制御パラメータに区分される前記各項目の値が決定される
請求項1~請求項3の何れか一項に記載の電池の製造方法。
【請求項5】
電池の製造工程の電極材料の混練工程における複数の材料条件及び製造条件を説明変数とし、前記混練工程における管理指標値を目的変数として、前記材料条件及び前記製造条件に関する各項目の値並びに前記管理指標値を含むデータセットを用いた機械学習の実行により、前記材料条件及び前記製造条件に基づいた前記管理指標値の予測モデルを生成する予測モデル生成部と、
前記材料条件及び前記製造条件に関する前記各項目を、前記値の変更が許容される制御パラメータと、予め前記値が定められた非制御パラメータとに区分して、前記予測モデルを用いて予測される前記管理指標値のバラツキが最小となるように、数理最適化処理の実行により前記制御パラメータに区分される前記各項目の値を決定する最適化演算部と、
を備え
前記データセットには、前記制御パラメータと前記非制御パラメータとの交互作用が存在することを示す交互作用データが含まれ、
前記材料条件が、電極材料に用いられる負極活物質の比表面積、粒子径、吸油量、細孔径、分散剤や結着剤の分子量、固形分濃度の材料物性から選択され、
前記製造条件が、混練機の回転体の回転速度、混練機に対する供給電力、電極材料となる結着剤、及び溶媒の投入量、投入された電極材料の混練時間、混練温度の装置条件から選択され、
前記管理指標値は、混練された前記電極材料のペースト粘度である電池の製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電池の製造方法及び電池の製造装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、機械学習を用いた電池の製造方法がある。例えば、特許文献1には、自動化された製造工程を含んで製造された電池の品質を評価し、その評価の結果と製造パラメータとを紐付けて記憶するとともに、機械学習により、その電池の品質低下に影響を与える誘因パラメータを特定する。そして、製造された電池の品質が所定の基準以下に低下した場合には、その製造パラメータのうち、誘因パラメータに特定された項目の値を、初期設定値に戻す、又は初期設定値に近づける構成が記載されている。
【0003】
即ち、電池の製造においては、複数の要素が複雑に絡み合うことにより、その製造される電池の品質が決定付けられる。この点、上記構成によれば、長期に亘る電池製造において、その品質を維持するために累積的な微調整が行われた複数の製造パラメータの中から、適切に、その品質低下に影響を与える誘因パラメータを特定して修正することができる。そして、これにより、一定以上品質の電池を継続的に製造することができるようになる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2019-102186号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記従来技術の構成においても、その製造工程において値の変更が許容される複数の制御パラメータを最適化することは難しいという問題がある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決する電池の製造方法は、電池の製造工程における複数の材料条件及び製造条件を説明変数とし、前記製造工程における管理指標値を目的変数として、前記材料条件及び前記製造条件に関する各項目の値並びに前記管理指標値を含むデータセットを用いた機械学習の実行により、前記材料条件及び前記製造条件に基づいた前記管理指標値の予測モデルを生成する工程と、前記材料条件及び前記製造条件に関する前記各項目を、前記値の変更が許容される制御パラメータと、予め前記値が定められた非制御パラメータとに区分して、前記予測モデルを用いて予測される前記管理指標値のバラツキが最小となるように、数理最適化処理の実行により前記制御パラメータに区分される前記各項目の値を決定する工程と、を備える。
【0007】
即ち、電池の製造工程においては、その制御パラメータと非制御パラメータとの間に交互作用が存在する場合がある。更に、このような場合には、非制御パラメータに区分される各項目が一定のバラツキを有する規定値であっても、制御パラメータに区分される各項目の値を変更することで、管理指標値のバラツキを変化させることができる。そして、上記構成によれば、その管理指標値のバラツキが最小となるように、電池の製造工程における制御パラメータの各値を最適化することができる。また、これにより、非制御パラメータの各項目については、そのバラツキの厳格な管理が不要になる。更に、その予測モデルの生成及び数理最適化処理を自動化することができる。そして、これにより、迅速に、その制御パラメータの最適値を決定することができる。
【0008】
上記課題を解決する電池の製造方法において、前記データセットには、前記制御パラメータと前記非制御パラメータとの交互作用が存在することを示す交互作用データが含まれることが好ましい。
【0009】
上記構成によれば、制御パラメータと非制御パラメータとの交互作用が存在することを明示的に表すことができる。そして、これにより、より高精度に、制御パラメータの各値を最適化することができる。
【0010】
上記課題を解決する電池の製造方法において、前記製造条件に関する前記各項目が前記制御パラメータであり、前記材料条件に関する前記各項目が前記非制御パラメータであることが好ましい。
【0011】
上記構成によれば、材料条件に関する各項目については、その値を製造工程で変更することのできない場合が多い。従って、上記構成によれば、より高精度に、制御パラメータに区分される製造条件に関する各項目の値を最適化することができる。
【0012】
上記課題を解決する電池の製造方法は、ランダムフォレストを用いて前記予測モデルが生成されることが好ましい。
上記構成によれば、高精度の予測モデルを生成することができる。
【0013】
上記課題を解決する電池の製造方法は、ベイズ最適化を用いて前記制御パラメータに区分される前記各項目の値が決定されることが好ましい。
上記構成によれば、高精度に、制御パラメータの各値を最適化することができる。
【0014】
上記課題を解決する電池の製造方法において、前記製造工程は、電極材料の混練工程であり、前記管理指標値は、混練された前記電極材料のペースト粘度であることが好ましい。
【0015】
上記構成によれば、高品質の混練された電極材料を製造することができる。
上記課題を解決する電池の製造装置は、電池の製造工程における複数の材料条件及び製造条件を説明変数とし、前記製造工程における管理指標値を目的変数として、前記材料条件及び前記製造条件に関する各項目の値並びに前記管理指標値を含むデータセットを用いた機械学習の実行により、前記材料条件及び前記製造条件に基づいた前記管理指標値の予測モデルを生成する予測モデル生成部と、前記材料条件及び前記製造条件に関する前記各項目を、前記値の変更が許容される制御パラメータと、予め前記値が定められた非制御パラメータとに区分して、前記予測モデルを用いて予測される前記管理指標値のバラツキが最小となるように、数理最適化処理の実行により前記制御パラメータに区分される前記各項目の値を決定する最適化演算部と、を備える。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、電池の製造工程における制御パラメータの各値を最適化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】電池の斜視図である。
図2】電極体の分解図である。
図3】電池の製造装置としての最適設計装置のブロック図である。
図4】データセットの説明図である。
図5】混練機の概略構成図である。
図6】電池の製造方法としての最適設計の処理手順を示すフローチャートである。
図7】材料条件に関する項目について値の分布を示すヒストグラムである。
図8】製造条件に関する項目について値の分布を示すヒストグラムである。
図9】制御パラメータに区分される製造条件に関する各項目の値と目的変数となる管理指標値のバラツキとの関係性を示すグラフである。
図10】ランダムフォレストを用いて生成される予測モデルの概略構成図である。
図11】ランダムフォレストを用いたモデル生成の処理手順を示すフローチャートである。
図12】予測モデルの予測値と実測値との比較を表すグラフである。
図13】ベイズ最適化を用いた最適設計値決定の処理手順を示すフローチャートである。
図14】製造条件に関する各項目の値と管理指標値のバラツキとの関係性についての探索履歴を示すグラフである。
図15】各探索点に表される製造条件に関する各項目の値についての説明図である。
図16】制御パラメータの最適化を行った場合における管理指標値のバラツキと、その最適化を行わなかった場合における管理指標値のバラツキとの比較を表すヒストグラムである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、電池の製造方法及び製造装置に関する一実施形態を図面に従って説明する。
図1に示すように、電池1は、正極3、負極4、及びセパレータ5を一体化した電極体10と、この電極体10を収容するケース20と、を備えている。そして、本実施形態の電池1は、そのケース20内の電極体10に、図示しない非水性の電解液を含浸させたリチウムイオン二次電池としての構成を有している。
【0019】
詳述すると、本実施形態の電池1において、正極3、負極4、及びセパレータ5は、シート状の外形を有して積層される。そして、これら正極3及び負極4、及びセパレータ5の積層体を捲回することにより、正極3と負極4との間にセパレータ5を挟み込む状態で、その径方向に正負の電極とセパレータ5とが交互に並ぶ電極体10が形成されている。
【0020】
また、本実施形態のケース20は、扁平略四角箱状のケース本体21と、このケース本体21の開口端21xを閉塞する蓋部材22と、を備えている。そして、本実施形態の電極体10は、径方向外側から押圧されることにより、そのケース20の箱形状に対応する扁平した外形を有するものとなっている。
【0021】
さらに詳述すると、図2に示すように、本実施形態の電池1において、正極3及び負極4は、それぞれ、シート状の外形を有した集電体31と、この集電体31上に積層された電極活物質層32と、を備えた電極シート35としての構成を有している。
【0022】
具体的には、アルミニウム等を素材とする正極集電体31P上に、正極活物質となるリチウム遷移金属酸化物を含んだスラリーを塗工することにより、その正極活物質層32Pを備えた正極3用の電極シート35Pが形成される。また、銅等を素材とする負極集電体31N上に、負極活物質となる炭素系材料を含んだスラリーを塗工することにより、その負極活物質層32Nを備えた負極4用の電極シート35Nが形成される。更に、本実施形態の電池1において、これら正負の電極シート35P,35Nは、帯状に整形される。そして、本実施形態の電極体10は、セパレータ5を挟んで積層された正負の電極シート35P,35Nを捲回することにより形成されている。
【0023】
図1に示すように、ケース20の蓋部材22には、ケース20の外側に突出する正極端子37及び負極端子38が設けられている。また、図2に示すように、各電極シート35には、それぞれ、その集電体31上に電極活物質層32が形成されていない未塗工部39が形成されている。そして、本実施形態の電池1は、これらの未塗工部39を利用して、その正極3を構成する電極シート35Pと正極端子37とが電気的に接続され、及び、その負極4を構成する電極シート35Nと負極端子38とが電気的に接続される構成となっている。
【0024】
更に、電池1のケース20内には、電解液が注入される。即ち、リチウムイオン二次電池としての構成を有する電池1の電解液には、有機溶媒中に支持塩となるリチウム塩を溶解させたものが用いられている。そして、本実施形態の電池1は、これにより、そのケース20内に封缶された電極体10に対して電解液が含浸される構成になっている。
【0025】
(製造方法及び製造装置)
次に、上記のように構成された電池1の製造方法及び製造装置について説明する。
図3に示すように、本実施形態においては、電池1の製造には、その製造装置40として、最適設計装置41が利用される。具体的には、この最適設計装置41は、例えば、「Python」等のプログラム言語を用いて情報処理装置42上に実装される。また、この最適設計装置41は、複数の材料条件A及び製造条件Xに基づいた電池1の製造工程における管理指標値Yの予測モデルMを生成する予測モデル生成部50を備えている。そして、本実施形態の最適設計装置41は、その予測モデルMを用いて予測される管理指標値YのバラツキYσが最小となるような数理最適化処理を実行する最適化演算部60を備えている。
【0026】
詳述すると、図3及び図4に示すように、本実施形態の最適設計装置41は、この最適設計装置41が適用される電池1の製造工程における複数の材料条件A及び製造条件Xを説明変数αとする。また、この最適設計装置41は、この最適設計装置41が適用される製造工程の管理指標値Yを目的変数βとする。更に、本実施形態の最適設計装置41において、予測モデル生成部50は、その材料条件Aに関する各項目A1~Anの値及び製造条件Xに関する各項目X1~Xnの値、並びに管理指標値Yを含むデータセットDSを用いた機械学習を実行する。そして、本実施形態の予測モデル生成部50は、これにより、その材料条件A及び製造条件Xに基づいた管理指標値Yの予測モデルMを生成する構成となっている。
【0027】
具体的には、本実施形態の最適設計装置41に用いられるデータセットDSは、例えば、図4に示すようなデータテーブルDTの形式に表すことができる。即ち、このデータテーブルDTにおいては、その「行」に相当する位置において横方向に並ぶ複数の値によって、個々のサンプルデータDが表現される。そして、このデータテーブルDT中、予め定められた所定の「列」に相当する各位置に、それぞれ、その各サンプルデータDに含まれる材料条件Aの各項目A1~Anの値及び製造条件Xの各項目X1~Xnの値、並びに管理指標値Yが記述されている。
【0028】
更に、このデータセットDSには、材料条件Aと製造条件Xとの交互作用が存在することを示す交互作用データRが含まれている。この交互作用データRに関する各項目R1~Rnの値もまた、データテーブルDT中、予め定められた所定の「列」に相当する各位置に、それぞれ記述されている。そして、交互作用データRに関する各項目R1~Rnの値は、各「行」に示される各サンプルデータD中における材料条件Aに関する何れかの項目の値と、製造条件Xに関する何れかの項目の値とを掛け合わせた値となっている。
【0029】
さらに詳述すると、図5に示すように、本実施形態の最適設計装置41は、例えば、電極材料Zの混練工程に適用される。そして、この混練工程は、混練機70の機内に電極材料Zとなる粉体Z1や結着剤Z2、及び溶媒Z3,Z4等を投入することにより行われる。
【0030】
具体的には、混練機70の機内には、駆動源71を有して回転する一対の回転体72,72が設けられている。更に、これらの回転体72,72が送りスクリュー73及び混練パドル74として機能することにより、混練機70の機内に投入された電極材料Zが、その混練機70の機内を各回転体72,72の軸線方向に沿って進みながら混練される。そして、これにより、電極ペーストZ5として練り上げられた電極材料Zが、その混練機70の外部に排出されるようになっている。
【0031】
本実施形態の最適設計装置41は、この混練工程における材料条件A及び製造条件Xを、その説明変数αとする。具体的には、この場合における材料条件Aとしては、例えば、その電極材料Zに用いられる負極活物質の比表面積、粒子径、吸油量、細孔径、分散剤や結着剤の分子量、固形分濃度等の材料物性が挙げられる。また、製造条件Xとしては、例えば、回転体72,72の回転速度、混練機70に対する供給電力、電極材料Zとなる結着剤Z2、及び溶媒Z3,Z4の投入量、投入された電極材料Zの混練時間、混練温度等の装置条件が挙げられる。更に、混練工程においては、電極ペーストZ5の状態で混練機70から排出される電極材料Zのペースト粘度μが、その品質管理の対象となる。そして、本実施形態の最適設計装置41は、この管理指標値Yとしてのペースト粘度μを、その目的変数βとする構成になっている。
【0032】
また、本実施形態の混練機70は、制御装置75によって、その作動が制御される。そして、混練工程に用いられる電極材料Zは、その材料物性について、予め定められた規定値を有するものとなっている。
【0033】
即ち、混練工程においては、材料条件Aに関する各項目A1~Anが、その予め値が定められた非制御パラメータδに区分される(図4参照)。尚、この場合における「規定値」、つまりは「予め定められた値」は、一定のバラツキを有している。そして、製造条件Xに関する各項目X1~Xnについては、その値の変更が許容される制御パラメータγに区分されるものとなっている。
【0034】
さらに詳述すると、図6に示すように、本実施形態の最適設計装置41を使用する場合には、先ず、図4に示すようなデータセットDSを準備する(ステップ101)。尚、このデータセットDSに含まれるサンプルデータDの数は、例えば、数万データ~十数万データ程度、つまりデータテーブルDTに表した場合に、数万行~十数万行程度のスケールとなっている。
【0035】
次に、このデータセットDSを最適設計装置41に入力することで、その予測モデル生成部50において、このデータセットDSを用いた機械学習が実行される。そして、これにより、そのデータセットDS中に規定した材料条件A及び製造条件Xに基づいた電池1の製造工程における管理指標値Yの予測モデルMが生成される(ステップ102)。
【0036】
具体的には、図7及び図8に示すように、図4に示すデータセットDS中、材料条件Aの各項目A1~Anについては、その値の分布が正規分布となっている。また、製造条件Xに関する各項目X1~Xnについては、その値の分布が一様となっている。そして、これにより、製造条件Xに関する各項目X1~Xnを制御パラメータγとし、材料条件Aの各項目A1~Anを非制御パラメータδとして、これらの各値に応じた管理指標値Yを予測することのできる予測モデルMが生成されるようになっている。
【0037】
図6に示すように、本実施形態の最適設計装置41においては、続いて、この予測モデル生成部50において生成された予測モデルMに予測される管理指標値YのバラツキYσが最小となるように、その最適化演算部60において数理最適化処理が実行される。そして、これにより、制御パラメータγに区分される製造条件Xに関する各項目X1~Xnについて、それぞれ、その最適な値が決定される構成となっている(ステップ103)。
【0038】
即ち、図9に示すように、材料条件Aと製造条件Xとの交互作用が存在する場合、制御パラメータγに区分される製造条件Xに関する各項目X1~Xnの値に応じて、その目的変数βとなる管理指標値YのバラツキYσが変化する。換言すると、非制御パラメータδである材料条件Aの各項目A1~Anが一定のバラツキAσを有する規定値であっても(図7参照)、製造条件Xに関する各項目X1~Xnの値を変更することで、その管理指標値Yと材料条件Aとの関係を変化させることができる。
【0039】
例えば、上記混練工程においては、非制御パラメータδである材料物性を規定する材料条件A、つまりは、負極活物質の比表面積、粒子径、吸油量等のバラツキAσが、その混練された電極材料Zの管理指標値Yとなるペースト粘度μに大きな影響を与える。しかしながら、その材料条件Aと製造条件Xとの間には、交互作用が存在する。このため、材料条件AのバラツキAσが一定であっても、制御パラメータγである製造条件X、つまりは、電極材料Zの混練時間、混練温度等の装置条件を操作することで、その電極材料Zの管理指標値Yとなるペースト粘度μのバラツキを制御することができる。
【0040】
この点を踏まえ、本実施形態の最適設計装置41においては、その最適化演算部60が、制御パラメータγに区分される製造条件Xに関する各項目X1~Xnの値について、数理最適化処理を実行する。そして、本実施形態の最適設計装置41は、これにより、例えば、上記混練工程におけるペースト粘度μ等、その管理指標値YのバラツキYσを最小化する製造条件Xについての最適設計値を求めることができるようになっている。
【0041】
以下、本実施形態の最適設計装置41における予測モデル生成部50及び最適化演算部60の各構成について順に説明する。
(予測モデル生成部)
図3及び図10に示すように、本実施形態の予測モデル生成部50においては、ランダムフォレストを用いることにより、その予測モデルMが生成される。
【0042】
詳述すると、図11に示すように、ランダムフォレストを用いた予測モデルMの生成においては、先ず、予め準備されたデータセットDSから、復元抽出による複数回のサンプリングが行われる(ステップ201)。次に、このステップ201において抽出された複数のグループデータGD1~GDn毎に機械学習を実行することにより、これらの各グループデータGD1~GDnに基づいた複数の決定木(Decision Tree)T1~Tnが作成される(ステップ202)。尚、本実施形態の予測モデル生成部50は、管理指標値Yの予測モデルMを生成するものであるため、これらの各決定木T1~Tnは「回帰木」である。そして、このステップ202において作成した複数の決定木T1~Tnを集めることにより、その予測モデルMが生成される(ステップ203)。
【0043】
ここで、上記ステップ201における各グループデータGD1~GDnのサンプリング時には、それぞれ、ランダムに、その抽出するデータセットDS中の説明変数αが選択される。そして、これにより、上記ステップ202において作成される各決定木T1~Tnは、それぞれ、互いに異なる特性を有するものとなっている。
【0044】
図10に示すように、ランダムフォレストを用いて生成された予測モデルMにおいては、その集められた各決定木T1~Tnが、それぞれ、独立に、入力される説明変数αに基づいた目的変数βの予測を実行する。更に、これらの各決定木T1~Tnによる目的変数βの各予測値β1~βnについて、その平均値βavが演算される。そして、この平均値βavを、その予測モデルMが予測する目的変数βの値として出力する構成となっている。
【0045】
即ち、機械学習による決定木の作成には、過学習を起こしやすいという特徴がある。しかしながら、それぞれが異なる方向に過学習した複数の決定木T1~Tnを集めることで、その過学習を相殺することができる。
【0046】
図12は、本実施形態の予測モデル生成部50において生成された予測モデルMによる予測値と実測値との比較を表すグラフである。このように、ランダムフォレストを用いることにより、高精度に、その説明変数αに応じた目的変数βの予測、つまりは材料条件A及び製造条件Xに基づいた管理指標値Yの予測モデルMを生成することができる。
【0047】
(最適化演算部)
本実施形態の最適化演算部60においては、数理最適化処理として、ベイズ最適化を実行することにより、その管理指標値YのバラツキYσを最小化する制御パラメータγ、つまりは製造条件Xに関する各項目X1~Xnの値が決定される。
【0048】
詳述すると、図13に示すように、最適化演算部60は、先ず、説明変数α中、制御パラメータγに区分される製造条件Xに関する各項目X1~Xnの値と、目的変数βとなる管理指標値YのバラツキYσとの関係性を示す近似モデルを作成する(ステップ301)。
【0049】
具体的には、ベイズ最適化においては、例えば、ガウス過程等が、その近似モデルに用いられる。そして、最初の近似モデルは、予め用意した説明変数α及び目的変数βの初期値を用いて作成される。
【0050】
次に、最適化演算部60は、上記ステップ301において作成した近似モデルから、獲得関数を最大化する探索点を求める。そして、これにより、その最適設計値の評価対象となる制御パラメータγの各値、即ち製造条件Xに関する各項目X1~Xnの値を決定する(ステップ302)。
【0051】
具体的には、上記ステップ302には、例えば、その獲得関数に期待改善量(Expected Improvement)を用いる「EI戦略」が適用される。また、例えば、その獲得関数に上限信頼限界(Upper Confidence Bound)や下限信頼限界(Lower Confidence Bound)を用いる「UCB戦略/LCB戦略」を適用することができる。
【0052】
即ち、最適化処理においては、既知の情報の「活用」と未知の情報の「探索」とのトレードオフが問題となる。そして、ベイズ最適化では、これらの戦略を用いることにより、その「活用」と「探索」とのバランスが図られている。
【0053】
次に、最適化演算部60は、上記ステップ302において決定した製造条件Xに関する各項目X1~Xnの値を、予測モデル生成部50において生成された予測モデルMを用いて評価する(ステップ303)。そして、目的変数βとしての管理指標値YのバラツキYσを最小化する最適設計の試行を継続するか否かを判定する(ステップ304)。
【0054】
更に、最適化演算部60は、ステップ304において、上記最適設計の試行を継続すると判定した場合(ステップ304:YES)、上記ステップ302で用いた近似モデルをリファインする。具体的には、上記ステップ302及びステップ303において得られた製造条件Xに関する各項目X1~Xnの値と管理指標値YのバラツキYσとの関係性を探索履歴に追加する(ステップ305)。更に、この更新された探索履歴にフィッティングさせるかたちで、その近似モデルを再定義する(ステップ306)。そして、本実施形態の最適化演算部60は、これによりリファインされた近似モデルを用いて、再び上記ステップ302及びステップ303の処理を実行する。
【0055】
図14及び図15に示すように、本実施形態の最適化演算部60は、このようにして、その管理指標値YのバラツキYσを最小化するような最適設計の試行を繰り返す。尚、図14中の各点に示す探索点は、それぞれ、図15に示すような製造条件Xに関する各項目X1~Xnの値と、これらの値を用いた場合に得られる管理指標値YのバラツキYσとの関連性を評価した履歴を示している。また、例えば、図14に示す例では、約50回程度の試行回数で、概ね、その最適設計値が得られている。そして、本実施形態の最適化演算部60は、上記ステップ304において、このような最適設計の試行を終了すると判定した場合(ステップ304:YES)に、その探索履歴の中から、最適設計値を示す探索点を選択する。つまりは、その管理指標値YのバラツキYσを最小化する制御パラメータγである製造条件Xに関する各項目X1~Xnの値を決定する。
【0056】
図16は、上記のような制御パラメータγの最適化を行った場合における管理指標値YのバラツキYσ1と、その最適化を行わなかった場合における管理指標値YのバラツキYσ0との比較を表すヒストグラムである。このように、ベイズ最適化を用いた数理最適化処理の実行により、管理指標値YのバラツキYσを小さくすることができる。そして、本実施形態の最適設計装置41は、これにより、その管理指標値YのバラツキYσを最小化する製造条件Xに関する各項目X1~Xnの値を決定することのできる構成となっている。
【0057】
次に、本実施形態の作用について説明する。
即ち、電池1の製造工程における複数の材料条件A及び製造条件Xを説明変数αとし、その製造工程における管理指標値Yを目的変数βとする。そして、これら材料条件Aに関する各項目A1~Anの値及び製造条件Xに関する各項目X1~Xnの値、並びに管理指標値Yを含むデータセットDSを準備する。
【0058】
次に、このデータセットDSを用いた機械学習の実行により、その材料条件A及び製造条件Xに基づいた管理指標値Yの予測モデルMが生成される。更に、材料条件Aに関する各項目A1~An及び製造条件Xに関する各項目X1~Xnは、制御パラメータγと、非制御パラメータδとに区分される。そして、上記予測モデルMを用いて予測される管理指標値YのバラツキYσが最小となるように、数理最適化処理の実行によって、制御パラメータγに区分される各項目の値が決定される。
【0059】
次に、本実施形態の効果について説明する。
(1)即ち、電池1の製造工程においては、その制御パラメータγと非制御パラメータδとの間に交互作用が存在する場合がある。更に、このような場合には、非制御パラメータδに区分される各項目が一定のバラツキAσを有する規定値であっても、制御パラメータγに区分される各項目の値を変更することで、管理指標値YのバラツキYσを変化させることができる。そして、本実施形態の構成によれば、その管理指標値YのバラツキYσが最小となるように、電池1の製造工程における制御パラメータγの各値を最適化することができる。また、これにより、非制御パラメータδの各項目については、そのバラツキの厳格な管理が不要になる。更に、その予測モデルMの生成及び数理最適化処理を自動化することができる。そして、これにより、迅速に、その制御パラメータγの最適設計値を決定することができる。
【0060】
(2)データセットDSには、制御パラメータγと非制御パラメータδとの交互作用が存在することを示す交互作用データRが含まれる。
上記構成によれば、その制御パラメータγと非制御パラメータδとの交互作用が存在することを明示的に表すことができる。そして、これにより、より高精度に、制御パラメータγの各値を最適化することができる。
【0061】
(3)製造条件Xに関する各項目X1~Xnが制御パラメータγに区分される。そして、材料条件Aに関する各項目A1~Anが非制御パラメータδに区分される。
即ち、材料条件Aに関する各項目A1~Anについては、その値を製造工程で変更することのできない場合が多い。従って、上記構成によれば、より高精度に、制御パラメータγに区分される製造条件Xに関する各項目X1~Xnの値を最適化することができる。
【0062】
(4)ランダムフォレストを用いて予測モデルMが生成される。これにより、高精度の予測モデルMを生成することができる。
(5)ベイズ最適化を用いて制御パラメータγに区分される各項目の値が決定される。これにより、高精度に、制御パラメータγの各値を最適化することができる。
【0063】
(6)制御パラメータγの最適化が適用される電池1の製造工程は、電極材料Zの混練工程であり、その管理指標値Yは、混練された電極材料Zのペースト粘度μである。これにより、高品質の混練された電極材料Zを製造することができる。
【0064】
なお、上記実施形態は、以下のように変更して実施することができる。上記実施形態及び以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
【0065】
・上記実施形態では、制御パラメータγの最適化が適用される電池1の製造工程として、電極材料Zの混練工程を例示したが、その他の製造工程に適用してもよい。そして、説明変数αとなる材料条件Aに関する各項目A1~An及び製造条件Xに関する各項目X1~Xn、並びに、目的変数βとする管理指標値Yについてもまた、その内容については、任意に設定してもよい。
【0066】
・上記実施形態では、予測モデルMの生成には、ランダムフォレストが用いられることとしたが、機械学習によるその他の手法によって、その予測モデルMの生成を行う構成としてもよい。例えば、「LightGBM」等を用いる構成であってもよい。また、「重回帰」「Ridge回帰」「LASSO回帰」「Elastic-net」等の「線形モデル」を用いてもよい。そして、「ニューラルネット」や「サポートベクターマシン」等を用いて、その予測モデルMを生成する構成であってもよい。
【0067】
・上記実施形態では、数理最適化処理にベイズ最適化を用いることとした。しかし、これに限らず、「グリッドサーチ」や「粒子群最適化」、「勾配降下法」等を用いてもよい。
【0068】
・上記実施形態では、データセットDSには、材料条件Aと製造条件Xとの交互作用が存在することを示す交互作用データRが含まれる。そして、材料条件Aに関する何れかの項目の値と、製造条件Xに関する各項目X1~Xnに関する何れかの項目の値とを掛け合わせた値を、その交互作用データRとした。
【0069】
しかし、これに限らず、例えば、乗算以外の四則演算等を用いて、その交互作用データRを生成してもよい。即ち、材料条件Aと製造条件Xとの交互作用が存在することを示すものであればよい。また、必ずしも、データセットDSに交互作用データRを含んでいなくともよく、予測モデルMの生成時、そのサンプルデータD毎に演算する構成としてもよい。そして、機械学習の実行により、自動的に、その材料条件Aと製造条件Xとの間の交互作用の存在が学習される構成であってもよい。
【0070】
・上記実施形態では、製造条件Xに関する各項目X1~Xnが制御パラメータγに区分され、材料条件Aに関する各項目A1~Anが非制御パラメータδに区分されることとした。しかし、これに限らず、材料条件Aに関する各項目A1~Anの一部が制御パラメータγに区分される構成であってもよい。また、製造条件Xに関する各項目X1~Xnの一部が非制御パラメータδに区分される構成であってもよい。そして、このような場合もまた、交互作用データRは、制御パラメータγと非制御パラメータδとの交互作用が存在することを示すものであればよい。
【0071】
・上記実施形態では、電池1の具体例として、リチウムイオン二次電池を例示した。しかし、これに限らず、例えば、ニッケル水素電池等、その他の種類の電池1の製造に適用してもよい。
【符号の説明】
【0072】
1…電池
α…説明変数
A…材料条件
A1~An…項目
X…製造条件
X1~Xn…項目
β…目的変数
Y…管理指標値
Yσ…バラツキ
DS…データセット
M…予測モデル
γ…制御パラメータ
δ…非制御パラメータ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16