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特許7506042アルミニウム合金製品、及びそれを製造する方法、溶接構造体、並びに、溶接構造体の保護方法
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  • 特許-アルミニウム合金製品、及びそれを製造する方法、溶接構造体、並びに、溶接構造体の保護方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-17
(45)【発行日】2024-06-25
(54)【発明の名称】アルミニウム合金製品、及びそれを製造する方法、溶接構造体、並びに、溶接構造体の保護方法
(51)【国際特許分類】
   C23C 4/08 20160101AFI20240618BHJP
   C23C 30/00 20060101ALI20240618BHJP
   C22C 18/04 20060101ALN20240618BHJP
   C22C 21/10 20060101ALN20240618BHJP
【FI】
C23C4/08
C23C30/00 A
C23C30/00 B
C22C18/04
C22C21/10
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2021164089
(22)【出願日】2021-10-05
(65)【公開番号】P2023055007
(43)【公開日】2023-04-17
【審査請求日】2021-11-22
【審判番号】
【審判請求日】2023-05-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000107538
【氏名又は名称】株式会社UACJ
(74)【代理人】
【識別番号】110001036
【氏名又は名称】弁理士法人暁合同特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】箕田 正
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼谷 舞
(72)【発明者】
【氏名】宮▲崎▼ 悟
【合議体】
【審判長】粟野 正明
【審判官】佐藤 陽一
【審判官】土屋 知久
(56)【参考文献】
【文献】再公表特許第2015/155826号
【文献】特開平4-325667号公報
【文献】特開2019-126322号公報
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 4/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウム合金製の構造材用の基材と、
前記基材の表面に配された80mass%以上のZnを含有する皮膜と、を備え、
前記皮膜の厚さが90μm以上であり、
前記基材は7000系アルミニウム合金製である、アルミニウム合金製品。
【請求項2】
前記基材は、前記皮膜に直交する方向の厚さが5mm以上とされている、請求項1に記載のアルミニウム合金製品。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載のアルミニウム合金製品を製造する方法であって、
前記基材の表面に、溶射によって前記皮膜を付与する工程を含む、方法。
【請求項4】
アルミニウム合金製の基材と、
前記基材に溶接された相手材と、を有し、
前記基材と前記相手材との溶接部が、80mass%以上のZnを含有する皮膜によって被覆されている、構造材用の溶接構造体。
【請求項5】
アルミニウム合金製の基材と相手材とが溶接された溶接部の表面に、溶射によって80mass%以上のZnを含有する皮膜を付与する、構造材用の溶接構造体の保護方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書が開示する技術は、アルミニウム合金製品、及びそれを製造する方法、溶接構造体、並びに、溶接構造体の保護方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アルミニウム合金は、比重が小さく比強度が高いことから、輸送用機器などの構造材用途で広く使用されている。特に、実用合金の中でも優れた強度特性を有する7000系アルミニウム合金は、航空機、自動二輪車、鉄道車両などに多く使用されている。しかしながら、7000系アルミニウム合金は応力腐食割れ感受性をもつため、その対策が必須である。
【0003】
7000系アルミニウム合金における応力腐食割れは、主に過時効の熱処理を行うことで対策されてきたが、この対策法には強度低下を伴うというデメリットがある。また、強度が低下しない熱処理方法としては、RRA処理(復元再時効処理、T77調質)も実用化されているが、三段時効処理を行うため工程が長くなるとともに、高精度の熱処理温度管理が必要になるため製造が難しいという欠点がある。
【0004】
応力腐食割れは、引張応力と腐食環境の相乗効果で発生することから、例えば表面に保護皮膜を付与して腐食しないようにすれば、応力腐食割れの発生を低減できる。このような表面皮膜による対策としては、アルマイト処理や塗装などが挙げられるが、アルマイト皮膜や塗装が一部で剥離すると、剥離部分に腐食が発生して応力腐食割れを引き起こすという問題がある。
【0005】
また、構造用のアルミニウム合金の耐食性改善方法として、基材よりも自然電極電位が低い皮材を表面に貼り付けてクラッド材とする方法も実用されてきた。例えば下記特許文献1には、このようなクラッド材からなる航空機ストリンガー素材が開示されている。しかしながら、クラッド材は熱間圧延や熱間押出で製造するため、皮材には基材のアルミニウム合金と融点の近い純アルミニウムや合金が用いられる。具体的に、特許文献1においては、皮材として7072合金がクラッドされているが、心材(基材)との電位差をあまり大きく取ることができず、応力腐食割れの抑制効果が限定される問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開昭57-13140号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本明細書が開示する技術は、かかる背景に鑑みてなされたものであり、高い強度と耐応力腐食割れ性が両立されたアルミニウム合金製品、特に構造材用のアルミニウム合金製品等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本明細書に記載の技術に係るアルミニウム合金製品は、アルミニウム合金製の構造材用の基材と、前記基材の表面に配された80mass%以上のZnを含有する皮膜と、を備える、耐応力腐食割れ性に優れたアルミニウム合金製品である。
【0009】
また、本明細書に記載の技術に係るアルミニウム合金製品を製造する方法は、前記基材の表面に、溶射によって前記皮膜を付与する工程を含む、方法である。
【0010】
また、本明細書に記載の技術に係る溶接構造体は、アルミニウム合金製の基材と、前記基材に溶接された相手材と、を有し、前記基材と前記相手材との溶接部が、80mass%以上のZnを含有する皮膜によって被覆されている、溶接構造体である。
【0011】
また、本明細書に記載の技術に係る溶接構造体の保護方法は、アルミニウム合金製の基材と相手材とが溶接された溶接部の表面に、溶射によって80mass%以上のZnを含有する皮膜を付与する、溶接構造体の保護方法である。
【発明の効果】
【0012】
本開示の一態様によれば、高強度で優れた耐応力腐食割れ性を発現可能な構造材用のアルミニウム合金製品等を提供できる。また、本開示の別の態様によれば、溶接部分における応力腐食割れを抑制可能な溶接構造体等を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は、実施例に使用したアルミニウム合金の化学組成を記載した表である。
図2図2は、実施例及び比較例に係る試料の皮膜厚さと、SCC試験結果を記載した表である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本明細書で開示する技術の実施態様を、図面を参照しつつ以下に具体的に説明する。本開示は、以下の例示に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【0015】
[アルミニウム合金製品]
本技術に係るアルミニウム合金製品は、アルミニウム合金製の構造材用の基材と、前記基材の表面に配された80mass%以上のZnを含有する皮膜と、を備える、耐応力腐食割れ性に優れたアルミニウム合金製品である。具体的には、本技術に係るアルミニウム合金製品は、後記するSCC試験(応力割れ試験)によって測定されるSCC寿命が400時間以上、より詳しくは500時間以上、さらに詳しくは650時間以上である。
【0016】
本技術に係るアルミニウム合金製品は、アルミニウム合金製の構造材用の基材を備える。
本技術において基材を構成するアルミニウム合金は、応力腐食割れ感受性をもつ合金であれば、特に限定されない。原理的には、応力腐食割れ感受性をもついずれの合金製の基材に対しても、後記する皮膜による応力腐食割れ抑制効果が発揮される。具体的には、2000系合金製の基材、3.5mass%以上のMgを含有する5000系合金製の基材、7000系合金製の基材などを好適に用いることができる。中でも、7000系アルミニウム合金製の基材は、市販のアルミニウム合金材の中でも最高クラスの強度を有することから、本技術による応力腐食割れの抑制効果によって享受できるメリットが大きく、最も好適に用いることができる。
【0017】
本技術に係るアルミニウム合金製の基材としては、鋳造、圧延、押出、鍛造など、あらゆる方法で製造された基材を好適に用いることができる。基材の形態も、板材、管材、棒材など、種々の形態のものを使用できる。さらに、機械部品として切削や接合された基材も、好適に用いることができる。
【0018】
本技術では、アルミニウム合金製の基材として、構造材用の基材を使用する。金属材料は、概ね構造材と機能材に分けられるところ、構造材は、機械・器具や装置、構造物などの主体構造となり、これらを使用する間にかかる荷重に耐え、これらが所期の性能を示すように形状を維持するものである。本技術におけるアルミニウム合金製の基材として、具体的には、航空輸送用機器(航空機など)、陸上輸送用機器(車両など)、水上/水中輸送用機器(船舶など)の構造材が挙げられる。或いは、その他の様々な装置(風車など)の構造材であってもよい。構造材には、上記した機器や装置にかかる荷重を受けとめるための支持構造材、例えば輸送用機器のフレームを構成する構造材などが含まれる。
【0019】
構造材用の基材は、荷重によって破損し難い構成を有すること、例えば総じて一定値以上の厚さを有している基材が好ましい。具体的には、皮膜に直交する方向の厚さが、5mm以上である基材、より好ましくは7mm以上である基材を、用いることができる。
【0020】
本技術に係るアルミニウム合金製品は、前記基材の表面に配された80mass%以上のZnを含有する皮膜を備える。
本技術に係る皮膜は、Znと不可避不純物のみからなるもの(純亜鉛)であってもよいし、Znに加えてAlなどの他の元素を含んでいてもよい。例えば常温の3%NaCl水溶液中における自然電極電位は、Alが-0.63V、Znが-0.83Vであり、Znの方が0.20V低い。Al、Znとも、他の元素を含有することで自然電位は変化するが、例えば80mass%以上のZnを含有するAlの自然電極電位は、種々の元素を含有するアルミニウム合金よりも低くなる。そのため腐食環境の中では、アルミニウム合金製の基材と80mass%以上のZnを含有する皮膜との間に局部電池が構成され、基材よりも先に皮膜が腐食することで、応力腐食割れが抑制される。皮膜中のZn含有量が80mass%未満であると、基材のアルミニウム合金との電位差が小さくなり、応力腐食割れ抑制効果が小さくなる。
【0021】
皮膜が優先的に腐食することによる応力腐食割れの抑制について、補足する。アルミニウム合金の応力腐食割れは、結晶粒界の陽極溶解による粒界腐食によって発生する場合と、水分とアルミニウム合金との酸化反応によって発生した水素原子がアルミニウム合金中に侵入し、結晶粒界に集まり、結晶粒界の水素脆化によって発生する場合がある。表面皮膜が基材よりも先に腐食すると、結晶粒界の陽極溶解は発生せず、粒界腐食が起こらなくなる。さらに基材との酸化反応によって発生する水素原子も発生しないことから、基材内部への水素の侵入がなくなり、結晶粒界の水素脆化も発生しない。これらの結果、基材に7000系アルミニウム合金のような応力腐食割れ感受性を有するアルミニウム合金を用いた場合でも、基材の表面に自然電極電位の低い皮膜を配することによって応力腐食割れが生じ難くなると考えられる。
【0022】
本技術に係る皮膜としては、例えば80mass%以上のZnと、Alと、不可避不純物と、からなる皮膜を用いることができる。優れた耐応力腐食割れ性を発現させるためには、基材と皮膜との電位差が大きい方が好ましい。よって、皮膜の自然電極電位は低い方が好ましく、本技術では、皮膜中のZn含有量を80mass%以上、例えば85mass%以上、より詳しくは90mass%以上とすることで、自然電極電位の低い皮膜を形成する。他方、基材の自然電極電位は、これを構成するアルミニウム合金の組成に依存し、例えばアルミニウム合金中に固溶しているZn量が多いほど基材の自然電極電位は低くなる。Znを含む7000系アルミニウム合金は、アルミニウム合金の中では自然電極電位が最も低い合金系のアルミニウム合金といえるが、皮膜中のZn含有量を80mass%以上とすることで、7000系アルミニウム合金製の基材を用いた場合であっても皮膜との間に十分な電位差を形成し、応力腐食割れ抑制効果を得ることができる。なお、皮膜中には、本技術の効果に影響しない範囲において、Zn及びAl以外の不可避不純物を含有してもよい。例えば、不純物の含有量は、各々で0.05mass%以下、合計で0.15mass%以下の範囲となるように制限されてもよい。
【0023】
本技術に係る皮膜は、50μm以上の厚さを有していることが好ましい。皮膜の厚さが50μm未満の場合、皮膜の腐食寿命が短く、基材のアルミニウム合金の応力腐食割れが早期に起こり易くなる。また、皮膜の一部が剥離すると基材が表面に露出するが、皮膜厚さが50μm以上であれば、露出した基材とその周囲の皮膜の間で局部電池を構成して露出した基材の腐食が遅くなり、応力腐食割れの発生及び進展が遅くなる。皮膜厚さの上限は設けないが、皮膜の厚さが50μm以上であれば、応力腐食割れ抑制効果が持続することにより、一般的な使用に対して十分な皮膜の腐食寿命を得ることができる。過酷な条件下での使用が想定されたり、長期間に亘る耐久性が要求されたりする用途を考慮すれば、皮膜は、90μm以上の厚さを有していることがさらに好ましい。
【0024】
本技術に係る皮膜は、前記基材の表面に配される。皮膜は、メッキ、塗装、溶射など、公知の種々の方法によって基材の表面に付与できる。
【0025】
[アルミニウム合金の製造方法]
本技術に係るアルミニウム合金製品は、前記基材の表面に、溶射によって前記皮膜を付与する工程を含む方法により、製造できる。
【0026】
皮膜は、成形や加工が完了した前記基材の表面に付与することが好ましい。基材に皮膜を付与した後に加工などを行って熱が加えられると、皮膜が溶融してしまう問題がある。例えば、皮膜を付与してから溶体化処理を行う場合、7000系合金では450℃以上の溶体化処理温度が必要であるため、主成分の融点が419.5℃である皮膜が溶融してしまう。また、7000系以外の熱処理型アルミニウム合金の溶体化処理温度は、7000系よりもさらに高温であるため、7000系以外の熱処理型アルミニウム合金においても7000系と同様に皮膜が溶融してしまう。そのため、皮膜の付与は溶体化処理後に行う必要がある。また、切削加工を行う部品において、切削前に皮膜を付与しても、切削で被膜が除去されてしまうため、結局は切削後に皮膜を付与する必要がある。さらに、溶接を行う部品において、皮膜を付与してから溶接を行うと、基材が溶融しない熱影響部においても皮膜が溶融してしまう。その結果、溶接部における耐応力腐食割れ性を向上させることができなくなる。
【0027】
前記したように、本技術に係る皮膜は、公知の種々の方法によって基材の表面に付与できるが、溶射によって皮膜を付与すれば、基材の温度上昇がほとんどなく、さらに基材との密着性にも優れるため、最も好ましい。基材の温度上昇が少ない溶射によって皮膜を付与すれば、温度上昇による基材内部の析出物の成長や分解を抑制でき、基材の強度低下を低減できる。また、溶射であれば、比較的大きな構造材に対しても、大型の設備を要することなく施工が可能である。
【0028】
[溶接構造体]
本技術はまた、アルミニウム合金製の基材と、前記基材に溶接された相手材と、を有し、前記基材と前記相手材との溶接部が、80mass%以上のZnを含有する皮膜によって被覆されている、溶接構造体に関する。
【0029】
本明細書において溶接構造体は、2以上の部材の接合部に、熱もしくは圧力又はその両者を加え、必要があれば適当な溶加材を加えて、接合部が連続性をもつように一体化した構造体をいう。一体化の手段には、融接、圧接、ろう付けなどが含まれる。本技術に係る溶接構造体は、溶接される2以上の部材のうち、少なくとも1の部材がアルミニウム合金製であるものとする。複数の部材がアルミニウム合金製、すなわちアルミニウム合金製の基材にアルミニウム合金製の相手材が溶接された溶接構造体であってもよい。
【0030】
溶接構造体は、荷重を受けとめて形状を維持する構造材の一態様として、所定の強度や変形レベルに達する前に破断や破壊が生じないことが要求されるところ、部材同士の接合部すなわち溶接部には、他の部分と比較して応力が作用し易い。特に、溶接される部材が異種材料で形成されている場合、すなわち相手材がアルミニウム合金ではない鋼材で形成されていたり、基材とは化学組成が異なるアルミニウム合金で形成されていたりする場合は、熱などの外的要因に対する挙動が両部材で異なるために、溶接部に応力が残留し易くなる。応力が作用している溶接部に腐食が生じると、容易に応力腐食割れを起こしてしまうことになる。
【0031】
前記したように、本技術に係る皮膜をアルミニウム合金製の基材の表面に付与すると、腐食の進行が抑制される。アルミニウム合金製の基材を有する溶接部の表面に、本技術に係る皮膜を付与することで、溶接構造体において特に応力腐食割れを生じ易い溶接部で腐食が進行し難くなり、応力腐食割れを効果的に抑制できる。
【0032】
[溶接構造体の保護方法]
本技術はまた、アルミニウム合金製の基材と相手材とが溶接された溶接部の表面に、溶射によって80mass%以上のZnを含有する皮膜を付与する、溶接構造体の保護方法に関する。
【0033】
前記したように、溶接構造体の溶接部表面に本技術に係る皮膜を付与すれば、溶接部におけるアルミニウム合金製の基材の腐食ひいては応力腐食割れを効果的に抑制して、腐食環境下においても溶接構造体を保護できる。特に、溶射によって皮膜を付与すれば、基材の温度上昇が小さく現場施工が容易であるなど前記した溶射によるメリットを活かしながら、溶接構造体の溶接部を保護できる。例えばハンディタイプの溶射装置を用いれば、現場で溶接施工した溶接構造体の溶接部に、容易にZnを含有する皮膜を付与することができ、非常に好ましい。
【0034】
[本実施形態の効果]
以下に、本実施形態における作用効果を改めて記載する。
【0035】
(1)本実施形態に係るアルミニウム合金製品は、アルミニウム合金製の構造材用の基材と、前記基材の表面に配された80mass%以上のZnを含有する皮膜と、を備える、耐応力腐食割れ性に優れたアルミニウム合金製品である。このような構成によれば、基材表面にZn含有量の高い皮膜を形成することで、基材と皮膜との電位差を十分に大きくし、応力腐食割れ抑制効果を得ることができる。
【0036】
(2)本実施形態に係るアルミニウム合金製品において、皮膜の厚さは50μm以上であることが好ましい。このような構成によれば、皮膜の腐食寿命を長くし、高い耐食性ひいては優れた耐応力腐食割れ性を発現可能となる。また上記構成によれば、例え皮膜の一部が剥離して基材が表面に露出したとしても、露出した基材と周囲の皮膜との間で局部電池が形成されるために露出した基材の腐食が遅くなり、応力腐食割れの発生及び進展を遅らせることができる。
【0037】
(3)本実施形態に係るアルミニウム合金製品において、基材は7000系アルミニウム合金製であることが好ましい。Znを含有する7000系アルミニウム合金は、公知のアルミニウム合金の中でも最高クラスの強度を有し、構造材として好適な材料であることから、耐応力腐食割れ性の向上によって享受できるメリットが最も大きい。本技術によれば、7000系アルミニウム合金製の基材を用いた場合でも優れた効果を得ることができる。
【0038】
(4)本実施形態に係る方法は、本実施形態に係るアルミニウム合金製品を製造する方法であって、本実施形態に係るアルミニウム合金製品の基材の表面に、溶射によって皮膜を付与する工程を含む、方法である。このような構成によれば、基材の温度上昇を抑制しながら、基材との密着性に優れた皮膜を付与できる。
【0039】
(5)本実施形態に係る溶接構造体は、アルミニウム合金製の基材と、前記基材に溶接された相手材と、を有し、前記基材と前記相手材との溶接部が、80mass%以上のZnを含有する皮膜によって被覆されている、溶接構造体である。溶接構造体では、溶接部に残留応力が存在することが多く、この部分での腐食は応力腐食割れにつながり易い。上記構成によれば、溶接部を保護することで、応力腐食割れを効果的に抑制できる。溶接部は、溶接に起因する残留応力が存在する部分であればよく、溶加材が凝固した部分であってもよいし、溶接時の熱影響部であってもよい。
【0040】
(6)本実施形態に係る溶接構造体の保護方法は、アルミニウム合金製の基材と相手材とが溶接された溶接部の表面に、溶射によって80mass%以上のZnを含有する皮膜を付与する、溶接構造体の保護方法である。上記構成によれば、基材の温度上昇が小さく現場施工が可能といった溶射によるメリットを活かしながら、溶接構造体の溶接部分を保護し、応力腐食割れを効果的に抑制できる。例えばハンディタイプの溶射装置を用いれば、現場施工した溶接構造体への皮膜付与も容易に行うことができる。
【実施例
【0041】
本明細書が開示する耐応力腐食割れ性に優れたアルミニウム合金製品の実施例を、以下に説明する。なお、本発明に係るアルミニウム合金製品及びその製造方法の具体的な態様は、実施例に記載された態様に限定されるものではなく、本発明の趣旨を損なわない範囲において適宜構成を変更できる。
【0042】
[試験材の調製]
まず図1の表に示す化学組成を有する溶湯を半連続鋳造法で鋳造し、175mm×175mmの断面で長さ500mmの鋳塊を作製し、断面形状はそのままで、厚さ35mmのスライスを採取した。採取したスライスに対し、470℃で10時間の均質化処理を行い、室温まで冷却後、厚さ30mmまで圧延ロールと接する2面を面削することで圧延用素材とした。圧延用素材は400℃に加熱し、厚さ5mmまで熱間圧延を行った後、室温で厚さ4mmまで冷間圧延を行い、350℃で2時間の焼鈍を行い、さらに厚さ1mmまで冷間圧延を行った。冷間圧延後は480℃で1時間の溶体化処理後、水焼入れを行い、さらに120℃で24時間の人工時効処理を行うことで7075-T6材を得た。
【0043】
得られたT6材を用い、圧延方向に対して直角方向(幅方向)が引張方向になるよう、平行部幅3mm、平行部長さ15mm、厚さ1mmの引張試験片形状のアルミニウム合金製基材からなる試験片を12本作製した。
【0044】
作製した試験片のうち4本を、そのまま試験材1~4として、後記するSCC試験に供試した。試験材1~4は、表面に皮膜を有しない比較例である。
【0045】
残った試験片のうち4本は、これらの平行部の全面に99.99mass%ZnからなるZn皮膜(純亜鉛皮膜)を100μmの厚さを目標として溶射で付与し、試験材5~8とした。また、残った4本の試験片は、これらの平行部の全面にZnと15mass%Alと不可避不純物とからなるZn-15mass%Al皮膜を100μmの厚さを目標として溶射で付与して試験材9~12とし、試験材5~8と共に実施例としてSCC試験に供試した。試験材5~12の表面皮膜厚さを図2の表に示す。
【0046】
[評価]
(SCC試験)
試験材1~12について、ばね式の引張治具を用いて平行部に450MPa(耐力の90%)の引張応力を付与し、JIS H8711に基づいて、3.5%塩水交互浸せきによるSCC試験を行った。10分浸せき、50分乾燥のサイクルを繰り返し、試験開始から破断までの時間であるSCC寿命を測定した。
【0047】
SCC試験結果を、図2の表に示す。表面皮膜を付与しなかった比較例に係る試験材1~4は、いずれも400時間に達する前に破断した。これに対し、表面皮膜を付与した実施例に係る試験材5~12は、いずれも1000時間以上のSCC寿命を示し、良好な耐応力腐食割れ性を示した。
図1
図2