(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-17
(45)【発行日】2024-06-25
(54)【発明の名称】水晶体乳化ハンドピース
(51)【国際特許分類】
A61F 9/007 20060101AFI20240618BHJP
A61B 17/22 20060101ALI20240618BHJP
【FI】
A61F9/007 130B
A61B17/22
(21)【出願番号】P 2021503204
(86)(22)【出願日】2019-04-03
(86)【国際出願番号】 EP2019058353
(87)【国際公開番号】W WO2019193027
(87)【国際公開日】2019-10-10
【審査請求日】2022-02-03
(31)【優先権主張番号】PCT/EP2018/058600
(32)【優先日】2018-04-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】520384404
【氏名又は名称】ヴェフィス ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】100159499
【氏名又は名称】池田 義典
(74)【代理人】
【識別番号】100120329
【氏名又は名称】天野 一規
(72)【発明者】
【氏名】ヴェルンツ,ディートリヒ
(72)【発明者】
【氏名】ヴェルスドルファー,シュテファン
【審査官】白土 博之
(56)【参考文献】
【文献】特表2016-516484(JP,A)
【文献】特表平05-504264(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61F 9/007
A61B 17/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
筐体(12)と、
前記筐体(12)内に配置されている超音波振動子(40)と、
超音波励起のため、前記超音波振動子(40)と動作可能に接続している工具(46)とを有し、
前記超音波振動子(40)が、超音波ホーン(56)と、共振器(58)と、これらの間に配置された圧電セラミック素子(60)とを有し、
前記超音波ホーン(56)及び/又は前記共振器(58)が、アルミニウム合金を含む又はアルミニウム合金からなり、前記アルミニウム合金の引張強度が400N/mm
2より大きい使い捨ての水晶体乳化ハンドピース。
【請求項2】
前記アルミニウム合金が、高力アルミニウム合金であることを特徴とする請求項1に記載の水晶体乳化ハンドピース。
【請求項3】
前記アルミニウム合金が、AlCu4SiMg、AlCu4Mg1、AlZn4,5Mg1、AlZn5,5MgCu、AlZn5Mg3Cu、AlZn8MgCuからなるアルミニウム合金のグループから選ばれた合金であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の水晶体乳化ハンドピース。
【請求項4】
前記超音波ホーン(56)が、前記共振器(58)に隣接して配置された中央部(68)と、前記共振器(58)に連結された後端(24)と、前記共振器(58)の反対側の前記中央部(68)に比較して細い前端(34)とを有し、前記中央部(68)において前記超音波ホーン(56)が前記筐体(12)内に保持されており、前記前端(34)が前記工具(46)と動作可能に接続しており、前記超音波ホーン(56)により、前記前端(34)から前記共振器(58)に接続された前記後端(24)まで、吸引管(62)が延伸していることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の水晶体乳化ハンドピース。
【請求項5】
前記超音波ホーン(56)の前記前端(34)が、チタン又は鉄又は鋼鉄又はこれら金属のうち1つを含有する合金を含むこと、又は前記超音波ホーン(56)の前記前端(34)が、チタン又は鉄又は鋼鉄又はこれら金属のうち1つを含有する合金からなることを特徴とする請求項4に記載の水晶体乳化ハンドピース。
【請求項6】
前記共振器(58)が中空円筒状に構成されており、前記超音波ホーン(56)が、前記共振器(58)に機械的に連結され前記共振器(58)を通って延伸する後端(24)を有し、前記後端(24)が、前記共振器(58)と前記超音波ホーン(56)との間に配置された前記圧電セラミック素子(60)へのバイアス印加のため、前記共振器(58)とねじ係合(72)していることを特徴とする請求項4又は請求項5に記載の水晶体乳化ハンドピース。
【請求項7】
前記超音波ホーン(56)が、前記工具(46)と動作可能に接続している前記前端(64)において、遊びをもって前記筐体(12)の開口から導出されており、前記筐体(12)の開口に支持素子を挿入又はねじ留め可能であり、前記工具(46)を外側から囲む弾性スリーブ(44)が前記支持素子から延伸していることを特徴とする請求項4から請求項6のいずれか1項に記載の水晶体乳化ハンドピース。
【請求項8】
前記工具(46)が、中空針(48)であることを特徴とする請求項4から請求項7のいずれか1項に記載の水晶体乳化ハンドピース。
【請求項9】
前記筐体(12)が、プラスチックを含む及び/又はプラスチックからなることを特徴とする請求項4から請求項8のいずれか1項に記載の水晶体乳化ハンドピース。
【請求項10】
前記筐体(12)が、前記超音波ホーン(56)の少なくとも一部を囲む内筐体部(16)及び外筐体部(14)を有し、前記内筐体部(16)と前記外筐体部(14)との間に、リンス液を前記工具(46)に供給及び/又は輸送するための環状空間(18)が設けられていることを特徴とする請求項4から請求項9のいずれか1項に記載の水晶体乳化ハンドピース。
【請求項11】
前記内筐体部(16)が冷却開口(82)を有し、前記冷却開口(82)内で前記超音波ホーン(56)の前記中央部(68)が露出し、冷却のためリンス液と接触することを特徴とする請求項10に記載の水晶体乳化ハンドピース。
【請求項12】
前記内筐体部(16)が、前記超音波ホーン(56)の前記前端(34)用の出口開口(78)を有し、前記外筐体部(14)が、前記内筐体部(16)の前記出口開口(38)と一致し前記超音波ホーン(56)の長手方向に前記出口開口(38)と離間する出口開口(78)を有し、前記出口開口(78)内に前記超音波ホーン(56)の前記前端(34)が配置されている及び/又は前記出口開口(78)を越えて前記超音波ホーン(56)の前記前端(34)が突出しており、前記出口開口(78)に支持素子(42)を挿入又はねじ留め可能であり、前記工具(46)を外側から囲む弾性スリーブ(44)が前記支持素子(42)から延伸していることを特徴とする請求項11に記載の水晶体乳化ハンドピース。
【請求項13】
前記内筐体部(16)の前記出口開口(78)において、前記内筐体部(16)と前記外筐体部(14)との間の前記環状空間(18)に、別の環状空間(54)が接続しており、前記別の環状空間(54)が、前記外筐体部(14)及び前記超音波ホーン(56)の前記前端(64)から構成されており、前記超音波ホーン(56)の前記前端(34)と前記外筐体部(14)の前記出口開口(38)との間の遊びにより定義された間隙(55)まで延伸し、そこから前記工具(46)と前記弾性スリーブ(44)との間の間隙に通じることを特徴とする請求項12に記載の水晶体乳化ハンドピース。
【請求項14】
前記超音波ホーン(56)が、Oリング用の軸方向に離間する2つの受容溝(74)を有し、2つの軌道輪が、前記超音波振動子(40)の保持のため、内側から前記内筐体部(16)に隣接していることを特徴とする請求項11から請求項13のいずれか1項に記載の水晶体乳化ハンドピース。
【請求項15】
前記超音波ホーン(56)が、前記前端(64)の反対側の前記後端(65)又は中間部分において、Oリング用の受容溝(74)を有し、前記超音波ホーン(56)の前記前端(64)が、前記筐体(12)のコネクタ(36)の内部突出するリブ(84)等突起により中央に位置していることを特徴とする請求項11から請求項13のいずれか1項に記載の水晶体乳化ハンドピース。
【請求項16】
前記冷却開口(82)が、前記筐体(12)もしくは前記内筐体部(16)の2つの軌道輪の間にある領域に配置されており、2つの前記受容溝(74)が、前記超音波ホーン(56)の前記中央部(68)に形成されていることを特徴とす
る請求項1
4に記載の水晶体乳化ハンドピース。
【請求項17】
前記筐体(12)が、前記環状空間(18)と流体接続するリンス液を供給するための入口開口(50)を有することを特徴とする請求項10から請求項16のいずれか1項に記載の水晶体乳化ハンドピース。
【請求項18】
前記筐体(12)が、前記超音波ホーン(56)の前端(34)の反対側の前記後端(24)において、吸引ホース(30)用の通過口(28)を有し、前記吸引ホース(30)が、前記超音波ホーン(56)を貫通して延伸する前記吸引管(62)と接続していることを特徴とする請求項9から請求項17のいずれか1項に記載の水晶体乳化ハンドピース。
【請求項19】
前記筐体(12)から、前記圧電セラミック素子(60)に接続されている接続ケーブル(32)が導出されていることを特徴とする請求項9から請求項18のいずれか1項に記載の水晶体乳化ハンドピース。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、手術器具、とりわけ使い捨て器具であって、好ましくは(特に使い捨ての)水晶体乳化ハンドピースに関する。
【0002】
水晶体乳化ハンドピースは、眼科手術における手術器具として用いられている。このような手術器具の例は、国際公開第93/15703号、国際公開第00/53136号、欧州特許出願公開第2011458号明細書、独国特許出願公開第10209495号明細書及び独国特許発明第4008594号明細書に記載されている。
【0003】
国際公開第89/06515号では、アルミニウム合金製の超音波ホーンを有するインビボ血管形成用の装置について記載されている。ここで、当該アルミニウム合金は、Al2024又はAl7075とすることができる。
【0004】
チタン、鉄又は鋼鉄等の様々な材料からなる導波管を備えた医療用超音波装置が、国際公開第2007/070081号から公知である。
【0005】
また、別の医療用超音波装置が、米国特許第7431728号明細書から公知である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】国際公開第93/15703号
【文献】国際公開第00/53136号
【文献】欧州特許出願公開第2011458号明細書
【文献】独国特許出願公開第10209495号明細書
【文献】独国特許発明第4008594号明細書
【文献】国際公開第89/06515号
【文献】国際公開第2007/070081号
【文献】米国特許第7431728号明細書
【0007】
水晶体乳化ハンドピースは、水晶体の粉砕及び残余組織の吸引のために用いられる。この目的のため、工具は中空針として形成され、超音波振動子として構成されているハンドピースの振動機構によって、高周波の直線前後運動を行う。中空針の周囲に乳化液等のリンス液が供給され、術部に到達すると、分解された組織成分とともにハンドピースの吸引管及び工具を介して吸引される。
【0008】
水晶体乳化ハンドピースの製造コストは低くなく、ほぼ超音波振動子及び筐体によって決まる。そのため、この比較的高い製造コストに起因して、水晶体乳化ハンドピースは複数回使用される。したがって、個々の構成要素は、比較的耐久性のある材料で構成される必要がある。水晶体乳化ハンドピースを複数回にわたって使用するため、毎回の使用後もしくは次の使用前に必ず滅菌が必要になる。これもコスト増加につながり、問題にもなっている。それゆえ、使い捨ての水晶体乳化ハンドピースを開発することが求められていた。しかし、これまでかなり高い製造コストが枷となっていた。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
したがって、本発明は、より経済的に製造できるように、手術器具、特に水晶体乳化ハンドピースの個々の構成要素を簡略化することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するため、本発明により提案されるのは、
筐体と、
筐体内に配置されている超音波振動子と、
超音波励起のため、超音波振動子と動作可能に接続している工具とを有し、
超音波振動子が、超音波ホーンと、共振器と、これらの間に配置された圧電セラミック素子とを有し、
超音波ホーン及び/又は共振器が、アルミニウム合金を含む又はアルミニウム合金からなり、アルミニウム合金の引張強度が400N/mm2より大きい手術器具、特に水晶体乳化ハンドピースである。
【0011】
また、本発明によれば、水晶体乳化ハンドピースの超音波振動子が、最小引張強度を有するアルミニウム合金から作製される。超音波振動子は、超音波ホーンと、共振器と、超音波ホーンと共振器との間に締め付け保持されている少なくとも1つの圧電セラミック素子とを有する。ここで、本発明によれば、超音波ホーン及び共振器には、引張強度が400N/mm2より大きく、特に450N/mm2より大きいアルミニウム合金が用いられる。驚くべきことに、このようなアルミニウム合金は、圧電セラミック素子の駆動時に生じる高周波屈曲波に、特に手術の間、耐えるのに十分安定であることがわかった。超音波ホーンは、工具と強固に連結されている。また、工具自体も、特に鋼鉄、鉄又はチタン等の金属といった十分に強固又は堅い材料から形成されているため、音響エネルギー、すなわち超音波ホーンの振動は、ほぼ損失することなく工具に届き、これを介して伝えられる。
【0012】
本発明によれば、特に超音波ホーン及び共振器の材料として、高力アルミニウム合金が用いられる。本発明の有益な形態において、好適とされる合金の例としては、以下のものが挙げられる。
AlCu4SiMg
AlCu4Mg1
AlZn4,5Mg1
AlZn5,5MgCu
AlZn5Mg3Cu
AlZn8MgCu
【0013】
本発明において好適なアルミニウム合金は、例えば、“Aluminium-Knetwerkstoffe”、リーフレットW2、第11版、Gesamtverband der Aluminiumindustrie e.V.(GDA)出版、ISBN3-937171-00-2の特に表9、54頁から60頁、より詳細には55頁から60頁に挙げられている。
【0014】
本発明の別の有益な形態において、超音波ホーンが、共振器に隣接して配置された中央部と、共振器に連結された後端と、共振器の反対側の中央部に比較して細い前端とを有し、中央部において超音波ホーンが筐体内に保持されており、前端が工具と動作可能に接続しており、超音波ホーンにより、前端から共振器に接続された後端まで、吸引管が延伸している。
【0015】
水晶体乳化ハンドピース用の超音波振動子の配置及びデザインに関し、当業者は公知の設計ルールを利用することができる。例えば、E.G.Lierke工学博士、W.Littmann工学博士、D.Simon工学準修士、T.Hemsel工学博士、“Zur Theorie der piezoelektrischen Ultraschallverbundschwinger mit praktischen Schlussfolgerungen fuer den Entwicklungsingenieur”、パーダーボルン大学、機械工学部、機械工学・動力学科、2010年8月を参照すればよい。
【0016】
既に上で説明したように、本発明は、アルミニウム合金を超音波ホーンの製造に使用することを提案している。しかし、超音波ホーンの部品が、言及したアルミニウム合金以外の金属材料からなることを除外しない。
【0017】
超音波振動子の超音波ホーン及び/又は共振器は、動作中、高温にさらされる。公知の多方向水晶体乳化ハンドピースにおいて、超音波ホーン及び共振器は、環状空間を形成しつつ金属の外筐体に囲まれている金属の内筐体に設けられている。上述したように、リンス液は上記環状空間を通って流れ、器具に達する。このリンス液により、金属の内筐体が冷却され、この内筐体を介して超音波ホーン及び/又は共振器も冷却される。
【0018】
使い捨ての水晶体乳化ハンドピースを設計するのであれば、安価な材料を筐体に用いる必要がある。ここで、例えば、プラスチックを使用すると、プラスチックの内筐体の熱伝導性が、金属製の内筐体の場合と比べてはるかに劣ることが問題になる恐れがある。そのため、プラスチックの内筐体は、冷却開口として機能し超音波ホーンと共振器がそれぞれ露出する凹部を有する必要がある。しかし、その場合、リンス液が超音波振動子の材料と接触することになる。そのため、この材料は生体適合性がある必要がある。つまり、例えば、生理食塩水等の乳化液と接触した際に、リンス液から処理組織にまで伝わり、組織に生化学的影響を及ぼすような反応生成物が、当該材料から生じてはならない。したがって、使用されるアルミニウム合金に生体適合性がないことが判明した場合に、リンス液と接触する超音波ホーンや共振器の構成要素が、他の材料、特に本発明で用いられるアルミニウム合金以外の金属材料からなることは、理にかなっている。ここでは、例えば、チタン、鉄、鋼鉄又はその他の生体適合性のある金属もしくはその金属合金が挙げられる。
【0019】
あるいは、上述の課題を解決するため、超音波ホーン及び/又は共振器に、適合性のあるコーティングを設けてもよい。
【0020】
本発明の別の有用な形態において、共振器が中空円筒状に構成されており、超音波ホーンが、共振器に機械的に連結され共振器を通って延伸する後端を有し、後端が、共振器と超音波ホーンとの間に配置された圧電セラミック素子へのバイアス印加のため、共振器と機械的に係合、特にねじ係合しているか、締め具、掛け金、ピン又は他の手段により、共振器に係止可能であってもよい。
【0021】
工具を超音波ホーンに接続するために、超音波ホーンが工具と動作可能に接続している前端において、遊びをもって筐体の開口から導出されており、筐体の開口に支持素子を設置可能、特に挿入又はねじ留め可能であり、工具を外側から囲む弾性スリーブが支持素子から延伸していると有益である。既に上で述べたように、水晶体乳化ハンドピースにおいて、弾性スリーブ(いわゆるスリーブ)が中空針に引き上げられる。この弾性スリーブは、手術素子用に標準化されたねじ接続の形状を有する支持素子上に設けられている。このとき、支持素子は、筐体の開口を構成するねじ継手にねじ留めされる。ねじ継手の外径は、標準接続を使用するため、先に述べた理由から規格化されている必要がある。しかし、これは他方で、ねじ継手から導出される、もしくは、ねじ継手内に配置された超音波ホーンの前端が、ねじ継手の内径に対し、ある程度小さくなくてはならないため、超音波ホーンの前端とねじ継手との間に環状空間が形成され、この環状空間を介してリンス液が筐体から出て、工具と弾性スリーブの間の領域に達しうることを意味する。驚くべきことに、今回、吸引管が貫通している超音波ホーンの前端の壁厚は比較的薄いものの、本発明により提供されるアルミニウム合金が十分に安定であり、超音波ホーンの動作時に発生する屈曲波に耐えることが示された。
【0022】
本発明の上記態様、すなわち、最小引張強度を有する特定のアルミニウム合金を使用することとは別の一態様は、手術器具、特に水晶体乳化ハンドピースに、プラスチック筐体を使用できるということである。手術器具の筐体に材料としてプラスチックを使用しても、手術器具の超音波振動子の超音波ホーン及び/又は共振器を、必ずしも特定のアルミニウム合金もしくは完全に特定の材料から作製する必要がないことは、当業者には容易に理解できる。つまり、プラスチックを材料として筐体に用いるという提案は、本発明の上記態様とは別の態様と見なされるものである。
【0023】
この第2の態様にしたがって、本発明により提案されるのは、
筐体と、
筐体内に配置されている超音波振動子と、
超音波励起のため、超音波振動子と動作可能に接続している(特に、鋼鉄、鉄又はチタン等の金属を含む)工具とを有し、
超音波振動子が、超音波ホーンと、共振器と、これらの間に配置された圧電セラミック素子とを有し、
筐体がプラスチックを含む及び/又はプラスチックからなり、
特に、筐体が、超音波ホーンの少なくとも一部を囲む内筐体部及び外筐体部を有し、内筐体部と外筐体部との間に、リンス液を工具に供給及び/又は輸送するための環状空間が設けられている手術器具、特に水晶体乳化ハンドピースである。
【0024】
本発明のこの追加の態様の有用な発展形において、筐体が、超音波ホーンの少なくとも一部を囲む内筐体部及び外筐体部を有し、内筐体部と外筐体部との間に、リンス液を工具に供給及び/又は輸送するための環状空間が設けられていてもよい。既に上で説明したように、プラスチック内筐体部において、環状空間を通って流れるリンス液により超音波ホーンを冷却することは、問題になる恐れがある。これは、例えば、内筐体部の厚さに依存するが、安定性の理由から、内筐体部の厚さは一定の値を超えてはならないことに留意されたい。この場合、内筐体部の壁厚が大き過ぎて、リンス液が内筐体部の周囲を流れることにより超音波ホーンを十分に冷却できないという困難が生じる可能性がある。
【0025】
ここで、内筐体部が冷却開口を有し、冷却開口内で超音波ホーン、特に超音波ホーンの中央部が露出し、冷却のためリンス液と接触するとよい。
【0026】
本発明の第1の態様に提案されているように、超音波ホーンをアルミニウム材から製造すると、存在しないと思われる生体適合性の問題が生じうる。このため、例えば、適当なコーティングにより、少なくとも冷却開口内で超音波ホーンが露出する領域において、アルミニウム材がリンス液に接触しないようにしなければならない。
【0027】
本発明の別の有用な形態において、内筐体部が、超音波ホーンの前端用の出口開口を有し、外筐体部が、内筐体部の出口開口と一致し超音波ホーンの長手方向に内筐体部の出口開口と離間する出口開口を有し、外筐体部の出口開口内に超音波ホーンの前端が配置されている及び/又は外筐体部の出口開口を越えて超音波ホーンの前端が突出しており、外筐体部の出口開口に支持素子を設置可能、特に挿入又はねじ留め可能であり、工具を外側から囲む弾性スリーブが支持素子から延伸していてもよい。つまり、手術器具の前端で、外筐体部が内筐体部を越えて突出している。内筐体部の出口開口を通じて、超音波ホーン、特にその細くなった前端が内筐体部から飛び出ている。そして、この前端は、外筐体部及び特にコネクタとして形成されたその出口開口を通って延伸している。もしくは、前端は、この出口開口内で終端している。つまり、これにより、2つの筐体部の間の環状空間に、外筐体部及び超音波ホーンもしくはその前端により定義された別の環状空間が接続している。この領域においても、リンス液が超音波ホーンと接触する。つまり、超音波ホーンの材料は、生体適合性がある必要がある。つまり、本発明の第1の態様に提案されているように、材料としてアルミニウム合金を用い、この材料に生体適合性がないことが判明した場合、例えば、この領域において超音波ホーンを生体適合性のある材料でコーティングしなければならない。あるいは、当然のことながら、内筐体部の前方の環状空間を通って延伸する超音波ホーンの部分が、アルミニウムもしくはアルミニウム合金以外の金属材料からなっていてもよい。いわば様々な金属材料からなる超音波ホーンが得られる。超音波ホーンのアルミニウムもしくはアルミニウム合金で構成されない当該部分は、例えば、チタン、鉄又は鋼鉄又は超音波振動子の動作時に発生する屈曲波に耐える他の生体適合性のある金属からなっていてもよい。
【0028】
本発明の別の有益な形態において、内筐体部の出口開口において、内筐体部と外筐体部の間の環状空間に、別の環状空間が接続しており、別の環状空間が、外筐体部及び超音波ホーンの前端から構成されており、超音波ホーンの前端と外筐体部の出口開口の間の遊びにより定義された間隙まで延伸し、そこから工具と弾性スリーブの間の間隙に通じていてもよい。
【0029】
既に上で述べたように、超音波振動子は、手術器具の筐体内に配置され、保持されている。そのため、超音波ホーンが、軌道輪用、特に弾性軌道輪用であって好ましくはOリング用の軸方向に離間する2つの受容溝を有し、2つの軌道輪が、超音波振動子の保持のため、内側から筐体、特に内筐体部に隣接していると有益である。
【0030】
上述のように超音波ホーンを筐体内もしくは内筐体部内に保持し、中央に配置する代わりに、超音波ホーンが、前端の反対側の後端において、軌道輪用、特に弾性軌道輪用であって好ましくはOリング用の受容溝を有し、超音波ホーンの前端が、筐体のコネクタの内部突出するリブ等突起により中央に位置していてもよい。
【0031】
本発明に係る手術器具の内筐体部が冷却開口を有している場合、冷却開口が、筐体もしくは内筐体部の2つの軌道輪の間にある領域に配置されており、2つの受容溝が超音波ホーンの中央部に形成されているとよい。つまり、軌道輪が、並んだ冷却開口の両側から当該領域を封止している。このように、軌道輪は保持の役割をするだけでなく、リンス液が内筐体部に浸入することを防ぐ。
【0032】
さらに、筐体が、環状空間に通じるリンス液を供給するための入口開口を有することは好適である。
【0033】
筐体が、超音波ホーンの前端の反対側の後端において、吸引ホース用の通過口を有し、吸引ホースが、超音波ホーンを貫通して延伸する吸引管と接続しているとよい。
【0034】
本発明の別の有用な形態において、筐体から、圧電セラミック素子に接続されている接続ケーブルが導出されてもよい。
【0035】
以下、2つの実施の形態を用い、図面を参照しながら、本発明を詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【
図3】筐体が一部切り取られ、断面が図示される
図1の水晶体乳化ハンドピースの第1の側面図。
【
図4】内筐体部が同様に一部切り取られ、側面図に示される水晶体乳化ハンドピースの別の側面図。
【
図5】水晶体乳化ハンドピースの超音波振動子の側面図。
【
図7】別の態様として形成された水晶体乳化ハンドピースの縦断面図。
【
図8】
図7のVIII-VIII線に沿った断面図。
【発明を実施するための形態】
【0037】
図1から
図4は、本発明の第1の実施の形態に係る水晶体乳化ハンドピース10を様々に図示している。ハンドピース10は、プラスチック製の筐体12を有する。この筐体は、外筐体部14及び外筐体部14内に配置された内筐体部16を備える。2つの筐体部14、16の間に、第1の環状空間18が形成されており、内筐体部16が複数の外突起20、22により、環状空間18に対し中央寄りに保持されている。筐体12の後端24において、内筐体部16が1つ又は複数部からなる蓋部26により塞がれ、蓋部26から通過口28を介して吸引ホース30が導出されている。さらに、蓋部26から接続ケーブル32が導出されている。この2つの構成要素については、後の記載で触れる。
【0038】
図1から
図4を参照してわかるように、筐体12の前端34において、外筐体部14が内筐体部16より迫り出している。筐体12の前端34には、筐体12内に配置された超音波振動子40用の出口開口38を構成するコネクタ36が設けられている。コネクタ36には支持素子42がねじ留めされており、支持素子42上には、ハンドピース10の(内腔49を有する)中空針48の形で工具46を囲む弾性スリーブ44が設けられている。
【0039】
リンス液ホース52が接続している入口開口50を介して、リンス液が筐体12の環状空間18に達し、環状空間18から別の環状空間54に達し、そこから出口開口38を通って工具46と弾性スリーブ44の間の間隙に達する。
【0040】
筐体12の内筐体部16において、既に上で触れた水晶体乳化ハンドピース10の超音波振動子40が設けられている。
【0041】
図5及び
図6を参照してわかるように、超音波振動子40は、超音波ホーン56と、共振器58と、少なくとも1つの圧電セラミック素子60とを備える。圧電セラミック素子60に接続ケーブル32が接続されている。超音波ホーン56を貫通して吸引管62が延伸しており、吸引管62は、超音波ホーン56の前端64において中空針48の内腔と流体接続しており、後端65には、吸引ホース30の接続のための端子コネクタ66が設けられている。超音波ホーン56は中央部68を有し、中央部68に対し前端64が細くなっている。リンス液は、工具46が接続された超音波ホーン56の前端64とコネクタ36の間の間隙55を通って流れ(
図2参照)、さらに工具46がリンス液に囲まれているとき、それに応じて広がる弾性スリーブ44と工具46の間を流れる。
【0042】
前端64とは反対側に、超音波ホーン56は同様に細くなった後端部70を有し、後端部70は中空シリンダーとして形成された共振器58を通って延伸し、72で共振器58とねじ係合している。このように、少なくとも1つの圧電セラミック素子60が、共振器58と超音波ホーン56の中央部68との間に固定保持されてもよい。超音波ホーンの中央部68には、それぞれの弾性軌道輪76用の2つの周辺受容溝74が設けられており、周辺受容溝74を介して、超音波ホーン56、ひいては超音波振動子40が、筐体12の内筐体部16内に保持されている。
【0043】
ここで説明する超音波ホーン56の特性は、その材料の選択に見いだせる。本発明によれば、引張強度が400N/mm2より大きく、特に450N/mm2より大きい高力アルミニウム合金が用いられる。
【0044】
図1を参照してわかるように、内筐体部16が、超音波ホーン56の中央部68並びに圧電セラミック素子60及び共振器58を囲んでいる。中央部68から細くなった前端64へと移行する領域において、超音波ホーン56が内筐体部16から突出している。内筐体部16に設けられた出口開口78に、外筐体部14及び超音波ホーン56の細くなった前端64により定義された別の環状空間54が接続している。
【0045】
本発明の別の一態様によれば、筐体12はプラスチック製の筐体である。超音波ホーン56は、2つの軌道輪76を介して、プラスチック内筐体部16内に保持されている。
図3及び
図6から、80において、超音波振動子40が、超音波ホーン56の領域においてプラスチック内筐体部16にピン留めされていることが読み取れる。超音波振動子40の動作時に、超音波ホーン56が著しく熱くなるため、冷却する必要がある。これは、リンス液により行われるが、そのためにプラスチック内筐体部16には、超音波ホーン56の中央部68の周囲の領域において、複数の冷却開口82が設けられている(
図3及び
図4参照)。これらの冷却開口82内では、超音波ホーン56の中央部68が露出しているため、リンス液はこれらの領域において超音波ホーン56に直接沿って流れることができる。これにより、連続的にプラスチック内筐体部16が実装されている場合よりも、冷却効果は非常に大きい。手術中に処置される組織と接触するリンス液が、中央部68及び細くなった端部64(つまり、環状空間54)において超音波ホーン56に沿って流れるため、超音波ホーンの材料は生体適合性がある必要がある。アルミニウム合金及び生理食塩水として実装されているリンス液において、これは十分な対策ではないかもしれない。したがって、超音波ホーン56には、少なくとも先に言及した領域において、生体適合性のあるコーティングが設けられている必要がある。あるいは、超音波ホーン56の前端64全体が、チタン等の生体適合性のある金属からなっていてもよい。その場合、超音波ホーン56の当該部分は、ねじ継ぎ等により超音波ホーン56の残りの部分と機械的に接続されることになる。
【0046】
図3を参照してわかるように、軌道輪76は、並んだ冷却開口82の両側に設けられており、それにより超音波ホーン56を特に共振器58及び圧電セラミック素子60に対して封止しているため、この領域にリンス液が達することはできない。
【0047】
既に上で説明したように、本発明及び上述の実施の形態の特徴は、プラスチック筐体に関する限り、特定のアルミニウム合金を超音波振動子に使用するという本発明の別の一態様とは独立した発明の一態様である。プラスチック筐体の特徴及び個々の変形例を、以下の特徴群に挙げるが、これらの特徴群は互いに組み合わせてもよいが、単独でも機能するものであり、これらすべての場合において、本発明及び/又は本発明の形態を規定している。
【0048】
以下、
図7及び
図8を用いて、ハンドピースの筐体において、超音波ホーンを中央に保持する別の形態について取り上げる。これらの図面において、ハンドピースは10’とする。
図7及び
図8のハンドピース10’の個々の要素は、
図1から
図6のハンドピース10の個々の要素と構造的又は機能的に対応している限り、
図7及び
図8において
図1から
図6と同じ符号を付する。
【0049】
2つのハンドピース10及び10’の違いは、超音波ホーン56の保持にある。ハンドピース10’において、超音波ホーン56は、Oリング76によって後端65もしくは中央部で保持されているのに対し、前端64は、外筐体部14のコネクタ36の内部突出するリブ84で中央に位置している(
図8参照)。リブ84は、間隙55内に突出しており、間隙55を個々のダクト86に分割している。さらに、リブ84は、コネクタ36、ひいては筐体を補強している。
図1から
図6のハンドピース10に設けられている超音波ホーン56の前方の受容溝74は省略でき、作製及び組み立て技術の面で(前方のOリング及びその超音波ホーンへの組み込みが省略でき)好適である。
【0050】
本発明の個々の形態は、以下の特徴群の1つ又は複数を有していてもよいし、以下の特徴群の1つ又は複数における単一又は複数の特徴を有していてもよい。
【0051】
筐体12と、
筐体12内に配置されている超音波振動子40と、
超音波励起のため、超音波振動子40と動作可能に接続している工具46とを有し、
超音波振動子40が、超音波ホーン56と、共振器58と、これらの間に配置された圧電セラミック素子60とを有し、
筐体12が、プラスチックを含む及び/又はプラスチックからなる手術器具、特に水晶体乳化ハンドピース。
【0052】
筐体12が、超音波ホーン56の少なくとも一部を囲む内筐体部16及び外筐体部14を有し、内筐体部16と外筐体部14との間に、リンス液を工具46に供給及び/又は輸送するための環状空間18が設けられている手術器具。
【0053】
内筐体部16が冷却開口82を有し、冷却開口82内で超音波ホーン56、特に超音波ホーン56の中央部68が露出し、冷却のためリンス液と接触する手術器具。
【0054】
内筐体部16が、超音波ホーン56の前端34用の出口開口78を有し、外筐体部14が、内筐体部16の出口開口38と一致し超音波ホーン56の長手方向に出口開口38と離間する出口開口78を有し、出口開口78内に超音波ホーン56の前端34が配置されている及び/又は出口開口78を越えて超音波ホーン56の前端34が突出しており、出口開口78に支持素子42を設置可能、特に挿入又はねじ留め可能であり、工具46を外側から囲む弾性スリーブ44が支持素子42から延伸している手術器具。
【0055】
内筐体部16の出口開口78において、内筐体部16と外筐体部14の間の環状空間18に別の環状空間54が接続しており、環状空間54が、外筐体部14及び超音波ホーン56の前端34から構成されており、超音波ホーン56の前端34と外筐体部14の出口開口38の間の遊びにより定義された間隙55まで延伸し、そこから工具46と弾性スリーブ44の間の間隙に通じる手術器具。
【0056】
超音波ホーン56が、軌道輪用、特に弾性軌道輪用であって好ましくはOリング用の軸方向に離間する2つの受容溝を有し、2つの軌道輪が、超音波振動子40の保持のため、内側から筐体12、特に内筐体部16に隣接している手術器具。
【0057】
超音波ホーン56が、前端64の反対側の後端65又は中間部において、軌道輪76用、特に弾性軌道輪用であって好ましくはOリング用の受容溝74を有し、超音波ホーン56の前端64が、筐体12のコネクタ36の内部突出するリブ84等突起により中央に位置している手術器具。
【0058】
冷却開口82が、筐体12もしくは内筐体部16の2つの軌道輪の間にある領域に配置されており、2つの受容溝74が、超音波ホーン56の中央部68に形成されている手術器具。
【0059】
筐体12が、環状空間18と流体接続するリンス液を供給するための入口開口50を有する手術器具。
【0060】
筐体12が、超音波ホーン56の前端34の反対側の後端24において、吸引ホース30用の通過口28を有し、吸引ホース30が、超音波ホーン56を貫通して延伸する吸引管62と接続している手術器具。
【0061】
筐体12から、圧電セラミック素子60に接続されている接続ケーブル32が導出されている手術器具。
【符号の説明】
【0062】
10 (水晶体乳化)ハンドピース
10’ (水晶体乳化)ハンドピース
12 筐体
14 外筐体部
16 内筐体部
18 環状空間
20 外突起
22 外突起
24 筐体の(後)端
26 蓋部
28 通過口
30 吸引ホース
32 接続ケーブル
34 筐体の(前)端
36 コネクタ
38 外筐体部における超音波ホーン用の出口開口
40 超音波振動子
42 支持素子
44 弾性スリーブ(スリーブ)
46 工具
48 中空針
49 中空針の内腔
50 入口開口
52 リンス液ホース
54 環状空間
55 コネクタと超音波ホーンの前端の間の間隙
56 超音波ホーン
58 共振器
60 圧電セラミック素子
62 吸引管
64 超音波ホーンの前端
65 超音波ホーンの後端
66 端子コネクタ
68 中央部
70 後端部
72 超音波ホーンと共振器の間のねじ係合
74 周辺受容溝
76 軌道輪
78 内筐体部における超音波ホーン用の出口開口
80 ピン留め
82 冷却開口
84 (誘導補強)リブ
86 ダクト