(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-17
(45)【発行日】2024-06-25
(54)【発明の名称】熱電変換モジュール及び熱電変換モジュールを製造する方法
(51)【国際特許分類】
H10N 10/17 20230101AFI20240618BHJP
H10N 10/01 20230101ALI20240618BHJP
H10N 10/852 20230101ALI20240618BHJP
H10N 10/857 20230101ALI20240618BHJP
H02N 11/00 20060101ALI20240618BHJP
【FI】
H10N10/17
H10N10/01
H10N10/852
H10N10/857
H02N11/00 A
(21)【出願番号】P 2021509075
(86)(22)【出願日】2020-03-16
(86)【国際出願番号】 JP2020011345
(87)【国際公開番号】W WO2020196001
(87)【国際公開日】2020-10-01
【審査請求日】2022-12-27
(31)【優先権主張番号】P 2019056835
(32)【優先日】2019-03-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000102980
【氏名又は名称】リンテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002620
【氏名又は名称】弁理士法人大谷特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】原 悠介
(72)【発明者】
【氏名】武藤 豪志
(72)【発明者】
【氏名】西尾 太寿
【審査官】渡邊 佑紀
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2014/0060605(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2014/0125367(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2014/0318591(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2015/0243820(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2016/0249465(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2017/0003527(US,A1)
【文献】国際公開第2017/179735(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/151176(WO,A1)
【文献】特開2009-105305(JP,A)
【文献】国際公開第2018/179545(WO,A1)
【文献】国際公開第2010/007656(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H10N 10/17
H10N 10/01
H10N 10/852
H10N 10/857
H02N 11/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、
前記基材上に形成され、P型熱電素子およびN型熱電素子が交互に配置された熱電素子層と、
前記熱電素子層の周囲に設けられた金属製の隔壁と、
前記熱電素子層及び前記隔壁の表面を覆う被覆層と、を有し、
前記熱電素子層と前記隔壁との間に前記基材の主面
に平行な方向において一定の距離があり、
前記被覆層は、前記隔壁の外側の面、前記隔壁の上面、前記隔壁の内側の面、及び、前記隔壁と前記熱電素子層との間の前記基材の上面に接している、熱電変換モジュール。
【請求項2】
前記隔壁は金属を含む、請求項1に記載の熱電変換モジュール。
【請求項3】
前記隔壁は、局所的に開放した局所開放部を有する、請求項2に記載の熱電変換モジュール。
【請求項4】
前記隔壁は、前記基材の主面
に平行な方向に間隔を空けて配置された内側の隔壁と外側の隔壁を含むように多重に設けられている、請求項1~3のいずれか1項に記載の熱電変換モジュール。
【請求項5】
前記多重に設けられた各隔壁は、隔壁の延在方向において互いに離間して配置された局所開放部を有する、請求項4に記載の熱電変換モジュール。
【請求項6】
前記熱電変換モジュールは、外部接続用の電極を有し、前記外部接続用の電極が前記隔壁との接触を避ける立体的配置をとる、請求項2~5のいずれか1項に記載の熱電変換モジュール。
【請求項7】
前記隔壁の高さは、1μm以上であり200μmより低い、請求項1~6のいずれか1項に記載の熱電変換モジュール。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか1項に記載の熱電変換モジュールを製造する方法であって、前記熱電変換モジュールは電極を有し、前記電極の形成と同時に、前記隔壁を形成する、熱電変換モジュールを製造する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱電変換モジュール及び熱電変換モジュールを製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
熱電変換を利用したエネルギー変換技術として、熱電発電技術及びペルチェ冷却技術が知られている。熱電発電技術は、ゼーベック効果による熱エネルギーから電気エネルギーへの変換を利用した技術である。この技術は、熱電変換を実現するための熱電変換素子を動作させるのに多大なコストを必要としないので、特にビル、工場等の施設で使用される化石燃料資源等から発生する未利用の廃熱エネルギーを電気エネルギーとして回収できる省エネルギー技術として大きな脚光を浴びている。ペルチェ冷却技術は、熱電発電とは逆に、ペルチェ効果による電気エネルギーから熱エネルギーへの変換を利用する技術である。この技術は、例えば、ワインクーラーや携帯可能な小型冷蔵庫に用いられている。この技術は、その他にも、コンピュータに用いられるCPUの冷却手段や、精密な温度制御が必要な部品や装置(例えば、光通信の半導体レーザー発振器)の温度制御手段としても用いられる。
【0003】
このような熱電変換を利用した熱電変換素子として、設置場所についての制限をなくすために、薄くて柔軟性を有する熱電変換素子が求められている。例えば、特許文献1には、P型材料からなる薄膜のP型熱電素子とN型材料からなる薄膜のN型熱電素子とで構成された熱電変換モジュールの両面に、2種類以上の熱伝導率の異なる材料で構成された柔軟性を有するフィルム状基板を設けた熱電変換素子が開示されている。この熱電変換素子は、熱伝導率の大きい材料が前記基板の外面の一部分に位置するように構成されている。
【0004】
また、熱電変換素子は、設置場所の環境条件(例えば、高温多湿)、によって、熱電素子層の熱電性能が低下したり、金属電極の抵抗が増加したりすることがある。これらの現象は、熱電変換素子が長期間の使用に耐えられなくなるという問題を招く。そこで、熱電変換素子に対しては、上述したような、熱電変換素子の大きさや形状に起因する設置場所の制限だけでなく、設置場所の環境条件に起因する設置場所の制限も小さくすることが求められている。例えば、特許文献2には、ポリフェニレンサルファイド、ポリブチレンテレフタレート、ポリプロピレンのうちの少なくとも1種の合成樹脂からなる枠体を用いることにより、熱電変換素子の膨張や収縮に対応できるようにした熱電変換装置が開示されている。
【0005】
一方、インプレーン型と呼ばれる熱電変換素子も提案されている。インプレーン型の熱電変換素子は、熱電素子層の面方向に温度差を生じさせて熱エネルギーを電気エネルギーに変換し得る構成を備える熱電変換素子である。インプレーン型の熱電変換素子は、温度差が生じる長さを面方向に拡大できるので、熱電変換層が薄くても効率よく熱起電力を発生し、また、熱電変換層を薄くすることで素子全体を薄くフレキシブルにすることができる。
【0006】
なお、熱電変換素子に関する技術を開示するものではないが、特許文献3には、水分等による電子素子の劣化を防止するための構成を備えた電子装置が記載されている。この電子装置は、電子素子の上部に設けた封止基板と、封止基板と電子素子との間に設けた封止部材とを備え、封止基板と封止部材との間、及び、素子基板と封止部材との間に、密着が良好になるように、素子を囲むようにパターニングされた界面密着層がそれぞれ設けられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2006-186255号公報
【文献】特開平10-12934号公報
【文献】特開2017-41412号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
近年、熱電変換素子が普及するにつれて、様々な環境での使用が求められている。とりわけ、インプレーン型の熱電変換素子は概して薄型であるため、使用環境がさらに拡がっており、様々な環境下で使用できることが求められている。
しかしながら、様々な環境、特に高湿環境下における良好な性能の発揮という点で、熱電変換素子にはまだ改善の余地がある。本発明者らの検討によれば、使用環境によっては、外部から、被覆層や、被覆層と基材との界面を通って、熱電変換モジュールの内部に水分が侵入し、熱電変換モジュールの性能を劣化させる問題を生じ得ることが判明している。
なお、特許文献3に開示されている技術は、密着性を高めるとともに、界面密着層を通過する水分の侵入を防止するために、界面密着層の厚さを極力薄くしようとする技術である。特許文献3には、封止部材の側面から吸収される水分や、封止部材と素子基板との界面を伝播する水分に起因する耐久性の低下を阻止することは記載されていない。
【0009】
本発明は、上記問題を鑑み、被覆層や被覆層と基材との界面を通って、外部から水分が侵入するのを防止し、高い耐久性を発揮することができる熱電変換モジュール及びそれを製造する方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、熱電変換素子を囲む隔壁を設けることにより、上記課題を解決し得ることを見出し、本発明を完成した。
すなわち、本発明は、以下の[1]~[8]を提供するものである。
[1]基材と、
前記基材上に形成され、P型熱電素子およびN型熱電素子が交互に配置された熱電素子層と、
前記熱電素子層の周囲に設けられた隔壁と、
前記熱電素子層及び前記隔壁の表面を覆う被覆層と、を有する、熱電変換モジュール。
[2]前記隔壁は金属を含む、上記[1]に記載の熱電変換モジュール。
[3]前記隔壁は、局所的に開放した局所開放部を有する、上記[2]に記載の熱電変換モジュール。
[4]前記隔壁は、多重に設けられている、上記[1]~[3]のいずれか一つに記載の熱電変換モジュール。
[5]前記多重に設けられた各隔壁は、隔壁の延在方向において互いに離間して配置された局所開放部を有する、上記[4]に記載の熱電変換モジュール。
[6]前記熱電変換モジュールは、外部接続用の電極を有し、前記外部接続用の電極が前記隔壁との接触を避ける立体的配置をとる、上記[2]~[5]のいずれか一つに記載の熱電変換モジュール。
[7]前記隔壁の高さは、1μm以上である、上記[1]~[6]のいずれか一つに記載の熱電変換モジュール。
[8]上記[1]~[7]のいずれか一つに記載の熱電変換モジュールを製造する方法であって、前記熱電変換モジュールは電極を有し、前記電極の形成と同時に、前記隔壁を形成する、熱電変換モジュールを製造する方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、被覆層や被覆層と基材との界面を通って、外部から水分が侵入するのを防止し、高い耐久性を発揮することができる熱電変換モジュール及びそれを製造する方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】熱電変換モジュールの一実施態様を示す部分断面図である。
【
図2】第1の配列パターンで電極及び隔壁が設けられた基材の模式的な平面図である。
【
図3】電極3を備える基材2の一方の主面側に設けられたP型熱電素子層5及びN型熱電素子層4の配置パターンを示す平面図である。
【
図4】基材2の、P型熱電素子層5及びN型熱電素子層4が設けられた主面側に設けられた第1高熱伝導層91の配置パターンを示す平面図である。
【
図5】
図4の符号I-I’で示すラインに沿った断面図であり、熱電変換モジュールの端部付近の断面図である。
【
図6】第2の配列パターンで電極及び隔壁が設けられた基材2の平面図である。
【
図7】第3の配列パターンで電極及び隔壁が設けられた基材2の平面図である。
【
図8】第4の配列パターンで電極及び隔壁が設けられた基材2の平面図である。
【
図9】第5の配列パターンで電極及び隔壁が設けられた基材2の平面図である。
【
図10】第6の配列パターンで電極及び隔壁が設けられた基材2の平面図である。
【
図11】第7の配列パターンで電極及び隔壁が設けられた基材2の平面図である。
【
図12】第8の配列パターンで電極及び隔壁が設けられた基材2の平面図である。
【
図13】第9の配列パターンで電極及び隔壁が設けられた基材2の構成を示す図である。
図13(A)は基材2の平面図であり、
図13(B)は、
図13(A)の符号XIIIB-XIIIB’で示すラインに沿った、基材2の断面図である。
【
図14】熱電変換モジュールの比較例の構成を示す平面図である。
【
図15】
図14の符号XV-XV’で示すラインに沿った断面図であり、熱電変換モジュールの比較例の端部付近の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態(以下、「本実施形態」と称することがある)について説明する。なお、本明細書において、例えば、「(メタ)アクリル酸」とは、「アクリル酸」と「メタクリル酸」の双方を示し、他の類似用語も同様である。
[熱電変換モジュールの構成]
本実施形態の熱電変換モジュールは、基材と、この基材上に形成され、P型熱電素子およびN型熱電素子が交互に配置された熱電変換層と、熱電変換層の周囲に設けられた隔壁と、熱電変換層及び隔壁の表面を覆う被覆層と、を備えている。
【0014】
以下、本発明の実施形態にかかる熱電変換モジュールの構成を、図面を用いて説明する。図面は全て模式的なものであり、理解を容易にするため誇張している場合がある。
図1は、本実施形態に係る熱電変換モジュール1Aの部分断面図であり、後述する
図4の符号I-I’で示すラインに沿う、熱電変換モジュール1Aの中央付近の部分断面図である。
図1に示すように、熱電変換モジュール1Aは、所定のパターンを有する電極3が形成された基材2を含み、基材2の一方の主面(電極3側の主面)側に形成されたP型熱電素子層5及びN型熱電素子層4からなる熱電素子層6と、熱電素子層6の基材2とは反対側の面に積層された、第1被覆層81と、第1被覆層81の熱電素子層6とは反対側の面に設けられた第1高熱伝導層91と、基材2の他方の主面上に積層された第2被覆層82と、第2被覆層82の熱電素子層6とは反対側の面に設けられた第2高熱伝導層92と、を含む。
以下の説明において、第1被覆層と第2被覆層とをまとめて「被覆層」ということがある。また、第1高熱伝導層と第2高熱伝導層とをまとめて「高熱伝導層」ということがある。
【0015】
図2は、第1の配列パターンで電極及び隔壁が設けられた基材2の模式的な平面図である。
図2に示すように、四角形状の基材2の一方の主面上に設けられる電極3は、熱電素子層6からの熱起電力の取り出し、又は、熱電素子層6への電圧印加のための端子となる2つの外部接続用の第1電極部3aと、交互に隣り合うようにして列状に配置されたP型熱電素子層5とN型熱電素子層4とを電気的に接続するための多数の第2電極部3bと、複数の列状に設けられた熱電素子層の各列を互いに電気的に接続するための複数の第3電極部3cとを含む。各電極部3a~3cはそれぞれ島状に分かれて配置されている。
図2に示すように、第2電極部3b及び第3電極部3cを囲むように、基材2の周縁に沿って、互いに間隔を空けて配置された2つの隔壁31、32が設けられている。
内側の隔壁31と外側の隔壁32は、それぞれ、一方の第1電極部3aから出発し第2電極部3bを囲むように1周して他方の第2電極部3bに至る第1部分と、2つの第1電極部3a間に位置する第2部分とを有している。
【0016】
内側の隔壁31と外側の隔壁32には、それぞれの隔壁を物理的に離間させるために局所的に開放された、局所開放部が設けられている。内側の隔壁31の第1部分には局所開放部31aが設けられ、外側の隔壁の第1部分には局所開放部32aが設けられている。内側の隔壁31の第2部分には局所開放部31bが設けられ、外側の隔壁32の第2部分には局所開放部32bが設けられている。
局所開放部31a、32aは、隔壁31、32の延在方向において互いに離れた位置に設けられている。また、局所開放部31b、32bは、隔壁31、32の延在方向において互いに離れた位置に設けられている。また、各局所開放部31a、32a、31b、32bは、いずれも第1電極部3aから離れた位置に設けられており、一方の第1電極部3aには、隔壁31、32の第1部分及び第2部分の一方の末端が接続し、他方の第1電極部3aには、隔壁31、32の第1部分及び第2部分の他方の末端が接続している。
【0017】
図3は、電極3を備える基材2の一方の主面側に、さらに設けられたP型熱電素子層5及びN型熱電素子層4の配置パターンを示す平面図である。
図3に示すように、P型熱電素子層5とN型熱電素子層4で構成される熱電素子層の列が、複数並んで配置されている。熱電素子層の各列において、端部以外の隣り合う熱電素子層4、5の接合部に重なるように第2電極部3bが配置されている。熱電素子層の各列の一方の端部に接するように、第3電極部3cが配置されている。第3電極部3cは、任意の熱電素子層の列の一方の端部のP型熱電素子層5又はN型熱電素子層4と、次の熱電素子層の列の一方の端部のN型熱電素子層4又はP型熱電素子層5とを電気的に接合している。熱電素子層の各列の他方の端部も同様に次の熱電素子層の列の端部と第3電極部3cによって電気的に接合されている。両端に位置する熱電素子層の列における一方の端部の熱電素子が、第1電極部3aにそれぞれ接続されている。こうして、基材2上に二次元的に配置されたP型熱電素子層5及びN型熱電素子層4が、各電極部3a~3cによって電気的に直列接続され、結果的に、基材2の主面上で蛇行するように通電経路が形成されている。
【0018】
図4は、基材2の、P型熱電素子層5及びN型熱電素子層4を備える主面側に、さらに設けられた第1高熱伝導層91の配置パターンを示す図である。
なお、
図4においては、理解を容易にするために、第1被覆層81の図示を省略している。
図4に示すように、第1高熱伝導層91は、各熱電素子層の列に交差するように配置された複数のストライプ状に形成されている。第1高熱伝導層91は、P型熱電素子層5とN型熱電素子層4との接合部を一つおきに覆っている。第2高熱伝導層92も、各熱電素子列に交差する複数のストライプ状に形成されており、
図4には示していないが、基材2の主面に垂直な方向から見て、第1高熱伝導層91によって覆われていない熱電素子の接合部に対応する位置に、第2高熱伝導層92が配置されている。結果的に、ストライプ状の高熱伝導層91、92の並び方向の縦断面において、第1高熱伝導層91と第2高熱伝導層92とが、熱電素子層6に対して互い違いに配置されている。なお、基材2の主面に垂直な方向において、第1高熱伝導層91の端部と第2高熱伝導層92の端部とが一致してもよいし、重なっていてもよいし、離れていてもよい。
【0019】
図2、
図3においては、第2電極部3bの数を42個(=7個×6列)、第3電極部3cの数を5個、P型半導体層5及びN型半導体層の数をそれぞれ24個(=4個×6列)としており、また、
図4においては、第1高熱伝導層91の数を4本としているが、これらの数は適宜変更可能である。各電極部3aの大きさや位置も適宜変更可能である。また、
図2では、2つの第1電極部3aを基材2の一つの辺に接するように配置しているが、これに限るものではなく、熱電変換モジュールの用途分野や使用環境等に合わせて、2つの第1電極部3aを基材2の別々の辺に接するように配置しても構わない。
【0020】
なお、上記実施形態において、被覆層上の高熱伝導層が設けられていない領域には何らの層も設けられていないが、例えば、低熱伝導層等の部材を設けてもよい。この場合には、被覆層は高熱伝導層だけでなく、低熱伝導層等の部材の固定材としても機能し得る。熱電変換モジュールの熱電変換性能の向上の観点から、低熱伝導層の熱伝導率は、高熱伝導層の熱伝導率よりも低い。
なお、上記実施形態のように、被覆層上の高熱伝導層が設けられていない領域に何らの層も設けられず、被覆層が露出している場合には、低熱伝導層の代わりに大気が存在することになる。大気の熱伝導率は、例えば、0.02W/(m・K)程度と非常に低いために、被覆層が露出している上記実施形態は、低熱伝導層を設けた場合と同等以上の熱電変換性能を発揮し得る。
【0021】
図5は、
図4の符号I-I’で示すラインに沿った断面図であり、熱電変換モジュール1Aの端部付近の断面図である。
図5に示すように、第1被覆層81は、接着層81a、81bと、これらの間にある補助基材層81cと、を含む3層が積層された構成を有する。
図5において、第2被覆層82は単層構成であるが、第1被覆層81と同様に複数の層を備えるものとしてもよい。
図5に示すように、第1被覆層81の一方の接着層81aが、隔壁31、32と、熱電素子層6(
図5では、P型熱電素子層5の部分を表示)と、電極3とを覆い、かつ、それらによって形成される凹凸を埋めるように充填されている。
また、接着層81aの基材2とは反対側の面全体を、補助基材層81cともう一方の接着層81bが覆っている。
熱電変換モジュール1Aの端部は、各層の形成完了後に不要な部分をカットする等の理由により、第1被覆層81、基材2、第2被覆層82の側面が露出した状態になっている。
【0022】
<隔壁>
隔壁31、32の存在により、熱電変換モジュール1Aの側面から水分が侵入しづらくなる。その理由は、これに限られるものではないが、(1)熱電変換モジュール1Aの側面に連通する、基材2と第1被覆層81との界面Fが、基材2に密着する隔壁32、31の存在によって、途中で失われる。これによって、熱電変換モジュール1Aの側面の界面Fから侵入する水分が界面Fを伝播しづらくなること、(2)隔壁32、31の存在により、隔壁の厚さhの分だけ第1被覆層81の厚さgが減少するため、水分が通過できる第1被覆層81の断面積が隔壁32、31上では減少し、第1被覆層81の側面Sから吸収される水分が第1被覆層81を通過しにくくなること等の理由により、外部からの水分の侵入を防止しやすくなるものと考えられる。特に、第1の配列パターンでは、隔壁が多重に形成されているため、上述した効果が繰り返しもたらされ、水分の侵入をより効果的に阻止することができる。
隔壁の高さを高くすることで、接着層の側面からの水分侵入をより効果的に阻止することができる。製造を容易にする観点からは、隔壁と電極の高さは同じであることが好ましいが、例えば、めっきの厚付けなどにより、隔壁の高さを電極の高さよりも高くすることができる。
隔壁の高さを電極の高さよりも高くした場合であっても、隔壁が外部に露出して、新たな水分侵入の界面を生じることを回避するために、隔壁31、32の、基材2とは反対側の面は、第1被覆層81の接着層81aで覆われていることが望ましい。
【0023】
本実施形態の電極パターンでは、2つの第1電極部3aの短絡を防止するため、各隔壁に局所開放部を設けている。
2つの隔壁に設けられる局所開放部が互いに遠くなるように配置することで、水分の移動経路が長くなるようにすると、水分の侵入をより効果的に防止できる。なお、本実施形態及び後述する各変形例において、複数の局所開放部の位置関係に関する説明は、特に断りのない限り、隔壁の延在方向における位置関係についての説明である。
外部接続用電極である第1電極部3a付近は、被覆層に浮きを生じやすくなることがある。そのため、第1電極部3aに隔壁を連結し、連結部よりも先の部分に局所開放部を設けることにより、水分が侵入しやすくなるのを防止することが好ましい。
【0024】
(隔壁の材質)
隔壁を構成する材料としては、基材に密着しそれ自体が水分を透過しづらい材質ものであれば特に制限はないが、銅や銅にニッケル層を積層したもの等の金属が好ましい。隔壁として用いられる金属としては、後述する電極と同様の材料を用いることができる。
隔壁を構成する材料を、電極と同じ材料にすれば、電極の形成と同時にパターニングすることができ、製造面で非常に有利である。
隔壁を構成する材料は、金属以外の材料でもよく、例えば、ポリビニルアルコールやポリアクリロニトリルの硬化物等の水蒸気透過性の低い材料を用いることもできる。金属以外の材料の隔壁を設ける方法としては、例えば、インクジェット印刷等が挙げられる。
【0025】
隔壁の高さ(
図5の符号hを参照)は、水分の侵入をできるだけ防ぐ観点から、好ましくは1.0μm以上、より好ましくは2.5μm以上、さらに好ましくは3.0μm以上である。また、後述するように、電極の形成と同時に隔壁をパターニングする場合があるが、この場合には、製造工程の簡略化のため、隔壁の高さと電極の厚さは同じにすることが好ましい。この場合であっても、隔壁の高さが上記の範囲にあれば、電極の厚さも確保することが可能である。隔壁の高さの上限に特に制限はないが、隔壁が露出しないように被覆層で覆われやすくする観点から、被覆層の厚さより低い高さとすることが好ましい。
隔壁の幅(
図5の符号w1、w2を参照)は、隔壁と基材との密着性を確保し、また、水分の侵入をできるだけ防ぐ観点、熱電変換モジュールの額縁部分の面積を小さくする観点から、好ましくは30~1,000μm、より好ましくは50~500μm、さらに好ましくは100~300μmである。
隔壁は、三重以上の多重に形成してもよいし、後述する変形例に示すように一重に形成することもできる。いずれの場合も、それぞれの隔壁が上の高さ及び幅を満たすことが好ましい。なお、隔壁を一重とする場合は、隔壁を多重にする場合のそれぞれの隔壁よりも幅を大きくして、水分が侵入しにくくなるようにしてもよい。隔壁を多重にする場合は、それぞれの隔壁の幅を小さくして、熱電変換モジュールの額縁部分の面積が大きくなりすぎないようにしてもよい。
隔壁31と、隔壁31に最も近い電極30との距離(
図5の符号xを参照)は、短絡の発生を確実に防止し、かつ、熱電変換モジュールが大きくなり過ぎないようにする観点から、好ましくは80~1,500μm、より好ましくは150~1,000μm、さらに好ましくは300~800μmである。
隔壁31と隔壁32との距離(
図5の符号yを参照)は、隔壁を容易に形成し、かつ、熱電変換モジュールが大きくなり過ぎないようにする観点から、好ましくは80~1,500μm、より好ましくは150~1,000μm、さらに好ましくは300~800μmである。
【0026】
(局所開放部)
局所開放部は、隔壁が金属等の導電性材料で形成される場合に、起電力取り出し用の電極部の短絡を防止するために設けられる。局所開放部は、基材の主面方向に沿って移動する水分の侵入を抑制するために、隔壁の外側から隔壁の内側に至る水分の進行経路ができるだけ長くなるように形成することが好ましい。
局所開放部における隔壁間の距離に、特に制限はないが、電極の短絡を十分防止しつつ水分の侵入をできるだけ防ぐ観点から、例えば、局所開放部に面している隔壁の最も近接した部位の距離(
図2の符号dを参照)が、好ましくは0.1~1.5mm、より好ましくは0.3~1.0mm程度になるように局所開放部を形成する。
局所開放部は、隔壁の形成と同時に形成することができるが、隔壁形成後に後処理を行って、隔壁を部分的に取り除くことにより形成してもよい。
【0027】
<隔壁の変形例>
図6~
図13に隔壁の他の例を示す。
図6は、第2の配列パターンで電極及び隔壁が設けられた基材2の平面図である。
図6に示す第2の配列パターンでは、局所開放部31a、31b、32a、32bが、隔壁31、32の延在方向に対して斜めに形成され、かつ、外側の隔壁32の局所開放部32aの出口(隔壁31に面する部分)と、内側の隔壁の局所開放部31aの入口(隔壁32に面する部分)とが互いに遠くなるように、また、局所開放部32bの出口と局所開放部31bの入口とが互いに遠くなるように形成されている。したがって、
図2に示す第1の配列パターンよりも、基材2の主面方向に沿って移動する水分の進行経路が長くなり、水分の侵入をより防止しやすい。
【0028】
図7は、第3の配列パターンで電極及び隔壁が設けられた基材2の平面図である。
図7に示す第3の配列パターンでは、隔壁31、32の延在方向における、局所開放部32aと局所開放部31aとの距離が、
図2の第1の配列パターンよりも長い。そのため、局所開放部32aから侵入する水分は、
図7に示す基材2の上辺、右辺、下辺の順に、これらの辺に沿う経路を通って移動する。したがって、
図2に示す第1の配列パターンよりも、基材2の主面方向に沿って移動する水分の進行経路が長くなり、水分の侵入をより防止しやすい。
なお、本配列パターンにおいても、取り出し電極となる第1電極部3aに隔壁31、32を連結させて、局所開放部を第1電極部3aの近傍から外れた位置に設けている。
【0029】
図8は、第4の配列パターンで電極及び隔壁が設けられた基材2の平面図である。
図8に示すように、第4の配列パターンにおいては、一重の隔壁33としている。したがって、電極3a~3cより外側の部分の面積を小さくすることができ、結果的に、基材2のサイズ、延いては熱電変換モジュールのサイズを小さくすることができる。
また、
図8に示す第4の配列パターンでは、基材2の主面方向に沿って移動する水分の進行経路をできるだけ長くするため、平面視したときの形状がV字状になるように局所開放部33a、33bを設けている。
なお、上述したように、一重の隔壁とする場合、多重の隔壁とする場合に比べて、隔壁の幅を大きくするようにしてもよい。
【0030】
図9は、第5の配列パターンで電極及び隔壁が設けられた基材2の平面図である。
図9に示すように、本配列パターンにおいては、隔壁33の第1部分に局所開放部33a1、33a2が設けられ、隔壁33の第2部分に設けた局所開放部33bが設けられている。これらの局所開放部は、隔壁に沿って伸びる細い開放部を、途中で逆方向に折り返すように形成すされている。したがって、基材2の主面方向に沿って移動する水分の進行経路をさらに長くすることができる。加工可能な範囲で、局所開放部の折り返しの数を2回以上に増やしてもよい。また、第1部分に設ける局所開放部の数を1つにしたり、3つ以上にしたりしてもよい。
図10に示す第6の配列パターンのように、局所開放部33a、33bの形状を階段状にしたり、
図11に示す第7の配列パターンのように、局所開放部33a、33bをジグザグ形状にしたりすることで、基材2の主面方向に沿って移動する水分の進行経路が長くなるようにしてもよい。
【0031】
図12は、第8の配列パターンで電極及び隔壁が設けられた基材2の平面図である。第8の配列パターンの隔壁33には絶縁性の材料が用いられている。
図12に示すように、隔壁33には局所開放部がなく、隔壁33と第1電極部3aとで環状に閉じた空間を基材2上に形成している。このように局所開放部のない隔壁とすることにより、外部からの水分の侵入をより防止しやすくなる。
【0032】
図13は、第9の配列パターンで電極及び隔壁が設けられた基材2の構成を示す図である。
図13(A)の平面図に示すように、第9の配列パターンにおいては、隔壁33に局所開放部は設けられておらず、平面視すると隔壁33が閉じたロの字形状を有している。そして、
図13(B)の断面図(
図13(A)の符号XIIIB-XIIIB’で示すラインに沿った、基材2の断面図)に示すように、基材2には第1電極部3a付近にそれぞれ貫通孔2aが設けられており、第1電極部3aは貫通孔2aを通って裏面側に引き回されている。したがって、電極3が形成された基材2の主面上において、隔壁33は第1電極3aに接触しなくなり、2つの第1電極部3a間の短絡防止を考慮する必要がなくなる。すなわち、基材の表裏の第1電極3aと、貫通孔2aから構成される外部接続用の電極は、隔壁との接触を避けるための立体的配置をとっている。このため、局所開放部は不要となり、水分の侵入(特に、封止部材の側面から水分が吸収されることや基材と被覆層との界面を水分が伝播すること)をより防止しやすくなる。加えて、隔壁を電極と同じ材料で形成することができるので、電極と同時に形成できるという製造上のメリットも確保される。なお、第1電極部3a間の短絡防止をより確実にするために、本実施形態においても、隔壁に局所開放部を設けてもよい。
【0033】
上記の各例で説明した隔壁の配列パターンを組み合わせてもよい。例えば、
図8に示す局所開放部33aと、
図10に示す局所開放部33bとを組み合わせたり、
図2における隔壁31、32の第2部分を、
図9に示す隔壁33の第2部分に置き換えたりしてもよい。
【0034】
以下、熱電変換モジュール1Aを構成する隔壁以外の各部について詳細に説明する。
<基材>
基材は、電極、隔壁、熱電素子層、被覆層、高熱伝導層等を支持するものである。
基材としては、熱電素子層の電気伝導率の低下、熱伝導率の増加に影響を及ぼさないプラスチックフィルムを用いることが好ましい。中でも、屈曲性に優れ、後述する熱電半導体組成物からなる薄膜をアニール処理した場合でも、基材が熱変形することなく、熱電素子層の性能を維持することができ、耐熱性及び寸法安定性が高いという点から、ポリイミドフィルム、ポリアミドフィルム、ポリエーテルイミドフィルム、ポリアラミドフィルム、ポリアミドイミドフィルムが好ましく、さらに、汎用性が高いという点から、ポリイミドフィルムが特に好ましい。
【0035】
フィルム基板の厚さは、屈曲性、耐熱性及び寸法安定性の観点から、1~1,000μmが好ましく、10~500μmがより好ましく、20~100μmがさらに好ましい。
また、上記フィルムは、分解温度が300℃以上であることが好ましい。
【0036】
基材としてプラスチックフィルムを用いるとともに、他の層を薄く形成することにより、熱電変換モジュール全体を、薄くてフレキシブルなシート状のものとすることができる。
【0037】
水分の侵入を抑制する観点から、基材の水蒸気透過率が低いことが望ましい。基材の、JIS K7129:2008で規定される40℃×90%RHにおける水蒸気透過率は、好ましくは200g・m-2・day-1以下、より好ましくは150g・m-2・day-1以下、さらに好ましくは100g・m-2・day-1以下である。水蒸気透過率がこの範囲にあると、熱電素子層及び電極への水蒸気の侵入が抑制され、熱電素子層の劣化を抑制しやすくなる。
【0038】
<電極>
電極は、熱電素子層を構成するP型熱電素子層とN型熱電素子層との電気的な接続を行うため、又は熱電素子層と外部との電気的な接続のために設けられる。電極には、各種の電極材料を用いることができる。接続の安定性、熱電性能の観点から、導電性の高い金属材料を用いることが好ましい。好ましい電極材料としては、金、銀、ニッケル、銅、これらの金属の合金、これらの金属や合金を積層したもの等が挙げられる。
電極の厚さは、好ましくは1μm~50μm、より好ましくは2.5μm~30μm、さらに好ましくは3μm~20μmである。電極層の厚さが、上記範囲内であれば、電気伝導率が高く低抵抗となり熱電素子層のトータルの電気抵抗値を低く抑えられる。また、電極として十分な強度が得られる。さらに、電極の体積を大きくでき、使用中に電極を構成する金属元素の熱電素子中への拡散が起きても、電極の性能低下を抑制し得る。さらにまた、電極が熱電素子層中に埋め込まれやすく、熱電変換モジュールの表面の平滑性が保たれ、熱電性能も安定しやすくなる。
【0039】
<熱電素子層>
熱電素子層は、熱電半導体微粒子、耐熱性樹脂、並びに、イオン液体及び無機イオン性化合物の一方又は双方を含む熱電半導体組成物からなる層であることが好ましい。
【0040】
(熱電半導体微粒子)
熱電素子層に用いる熱電半導体微粒子は、熱電半導体材料を、微粉砕装置等により、所定のサイズまで粉砕することが好ましい。
【0041】
P型熱電素子層及びN型熱電素子層を構成する材料としては、温度差を付与することにより、熱起電力を発生させることができる材料であれば特に制限されず、例えば、P型ビスマステルライド、N型ビスマステルライド等のビスマス-テルル系熱電半導体材料;GeTe、PbTe等のテルライド系熱電半導体材料;アンチモン-テルル系熱電半導体材料;ZnSb、Zn3Sb2、Zn4Sb3等の亜鉛-アンチモン系熱電半導体材料;SiGe等のシリコン-ゲルマニウム系熱電半導体材料;Bi2Se3等のビスマスセレナイド系熱電半導体材料;β―FeSi2、CrSi2、MnSi1.73、Mg2Si等のシリサイド系熱電半導体材料;酸化物系熱電半導体材料;FeVAl、FeVAlSi、FeVTiAl等のホイスラー材料、TiS2等の硫化物系熱電半導体材料、スクッテルダイト材料等が用いられる。これらのうちでも、地政学的な問題から供給が不安定なレアメタルを含まないという観点からは、シリサイド系熱電半導体材料が好ましく、高温環境で熱電変換モジュールを機能させることを容易とすることができるという観点からは、スクッテルダイト材料が好ましい。
【0042】
また、低温環境での熱電変換性能が高いという観点からは、熱電半導体材料は、P型ビスマステルライド又はN型ビスマステルライド等のビスマス-テルル系熱電半導体材料であることが好ましい。
P型ビスマステルライドは、キャリアが正孔で、ゼーベック係数が正値であり、例えば、BiXTe3Sb2-Xで表わされるものが好ましく用いられる。この場合、Xは、好ましくは0<X≦0.8であり、より好ましくは0.4≦X≦0.6である。Xが0より大きく0.8以下であるとゼーベック係数と電気伝導率が大きくなり、P型熱電変換材料としての特性が維持されるので好ましい。
また、N型ビスマステルライドは、キャリアが電子で、ゼーベック係数が負値であり、例えば、Bi2Te3-YSeYで表わされるものが好ましく用いられる。この場合、Yは、好ましくは0≦Y≦3(Y=0の時:Bi2Te3)であり、より好ましくは0.1<Y≦2.7である。Yが0以上3以下であるとゼーベック係数と電気伝導率が大きくなり、N型熱電変換材料としての特性が維持されるので好ましい。
【0043】
熱電半導体微粒子の熱電半導体組成物中の配合量は、好ましくは、30~99質量%である。より好ましくは、50~96質量%であり、さらに好ましくは、70~95質量%である。熱電半導体微粒子の配合量が、上記範囲内であれば、ゼーベック係数(ペルチェ係数の絶対値)が大きく、また電気伝導率の低下が抑制され、熱伝導率のみが低下するため高い熱電性能を示すとともに、十分な皮膜強度、屈曲性を有する膜が得られ好ましい。
【0044】
熱電半導体微粒子の平均粒径は、好ましくは、10nm~200μm、より好ましくは、10nm~30μm、さらに好ましくは、50nm~10μm、特に好ましくは、1~6μmである。上記範囲内であれば、均一分散が容易になり、電気伝導率を高くすることができる。
熱電半導体材料を粉砕して熱電半導体微粒子を得る方法は特に限定されず、ジェットミル、ボールミル、ビーズミル、コロイドミル、コニカルミル、ディスクミル、エッジミル、製粉ミル、ハンマーミル、ペレットミル、ウィリーミル、ローラーミル等の公知の微粉砕装置等により、所定のサイズまで粉砕すればよい。
なお、熱電半導体微粒子の平均粒径は、レーザー回折式粒度分析装置(CILAS社製、1064型)にて測定することにより得られ、粒径分布の中央値とした。
【0045】
また、熱電半導体微粒子は、事前に熱処理されたものであることが好ましい。熱処理を行うことにより、熱電半導体微粒子は、結晶性が向上し、さらに、熱電半導体微粒子の表面酸化膜が除去されるため、熱電変換材料のゼーベック係数(ペルチェ係数の絶対値)が増大し、熱電性能指数をさらに向上させることができる。熱処理は、特に限定されないが、熱電半導体組成物を調製する前に、熱電半導体微粒子に悪影響を及ぼすことがないように、ガス流量が制御された、窒素、アルゴン等の不活性ガス雰囲気下、同じく水素等の還元ガス雰囲気下、または真空条件下で行うことが好ましく、不活性ガス及び還元ガスの混合ガス雰囲気下で行うことがより好ましい。具体的な温度条件は、用いる熱電半導体微粒子に依存するが、通常、微粒子の融点以下の温度で、かつ100~1500℃で、数分~数十時間行うことが好ましい。
【0046】
(耐熱性樹脂)
熱電素子層に含まれる耐熱性樹脂は、熱電半導体微粒子間のバインダーとして働き、熱電変換材料の屈曲性を高めるためのものである。耐熱性樹脂としては、特に制限されるものではないが、熱電半導体組成物からなる薄膜をアニール処理等により熱電半導体微粒子を結晶成長させる際に、樹脂としての機械的強度及び熱伝導率等の諸物性が損なわれず維持される耐熱性樹脂を用いる。
耐熱性樹脂としては、例えば、ポリアミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリベンゾオキサゾール樹脂、ポリベンゾイミダゾール樹脂、エポキシ樹脂、及びこれらの樹脂の化学構造を有する共重合体等が挙げられる。耐熱性樹脂は、単独でも又は2種以上組み合わせて用いてもよい。これらの中でも、耐熱性がより高く、かつ薄膜中の熱電半導体微粒子の結晶成長に悪影響を及ぼさないという点から、ポリアミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリイミド樹脂、エポキシ樹脂が好ましく、屈曲性に優れるという点からポリアミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリイミド樹脂がより好ましい。前述の支持体として、ポリイミドフィルムを用いる場合、ポリイミドフィルムとの密着性などの点から、耐熱性樹脂としては、ポリイミド樹脂がより好ましい。なお、本願明細書においてポリイミド樹脂とは、ポリイミド及びその前駆体を総称する。
【0047】
耐熱性樹脂は、分解温度が300℃以上であることが好ましい。分解温度が上記範囲であれば、後述するように、熱電半導体組成物からなる薄膜をアニール処理した場合でも、バインダーとして機能が失われることなく、熱電変換材料の屈曲性を維持することができる。
【0048】
また、耐熱性樹脂は、熱重量測定(TG)による300℃における質量減少率が10%以下であることが好ましく、5%以下であることがより好ましく、1%以下であることがさらに好ましい。質量減少率が上記範囲であれば、後述するように、熱電半導体組成物からなる薄膜をアニール処理した場合でも、バインダーとして機能が失われることなく、熱電変換材料の屈曲性を維持することができる。
【0049】
耐熱性樹脂の熱電半導体組成物中の配合量は、好ましくは0.1~40質量%、より好ましくは0.5~20質量%、さらに好ましくは1~20質量%である。耐熱性樹脂の配合量が、上記範囲内であれば、高い熱電性能と皮膜強度が両立した膜が得られる。
【0050】
(イオン液体)
熱電素子層に含まれるイオン液体は、カチオンとアニオンとを組み合わせてなる溶融塩であり、-50~500℃の幅広い温度領域において液体で存在し得る塩をいう。イオン液体は、蒸気圧が極めて低く不揮発性であること、優れた熱安定性及び電気化学安定性を有していること、粘度が低いこと、かつイオン伝導度が高いこと等の特徴を有しているため、導電補助剤として、熱電半導体微粒子間の電気伝導率の低減を効果的に抑制することができる。また、イオン液体は、非プロトン性のイオン構造に基づく高い極性を示し、耐熱性樹脂との相溶性に優れるため、熱電変換材料の電気伝導率を均一にすることができる。
【0051】
イオン液体は、公知または市販のものが使用できる。例えば、ピリジニウム、ピリミジニウム、ピラゾリウム、ピロリジニウム、ピペリジニウム、イミダゾリウム等の窒素含有環状カチオン化合物及びそれらの誘導体;テトラアルキルアンモニウム系のアミン系カチオン及びそれらの誘導体;ホスホニウム、トリアルキルスルホニウム、テトラアルキルホスホニウム等のホスフィン系カチオン及びそれらの誘導体;リチウムカチオン及びその誘導体等のカチオン成分と、Cl-、Br-、I-、AlCl4
-、Al2Cl7
-、BF4
-、PF6
-、ClO4
-、NO3
-、CH3COO-、CF3COO-、CH3SO3
-、CF3SO3
-、(FSO2)2N-、(CF3SO2)2N-、(CF3SO2)3C-、AsF6
-、SbF6
-、NbF6
-、TaF6
-、F(HF)n
-、(CN)2N-、C4F9SO3
-、(C2F5SO2)2N-、C3F7COO-、(CF3SO2)(CF3CO)N-等のアニオン成分とから構成されるものが挙げられる。
【0052】
上記のイオン液体の中で、高温安定性、熱電半導体微粒子及び樹脂との相溶性、熱電半導体微粒子間隙の電気伝導率の低下抑制等の観点から、イオン液体のカチオン成分が、ピリジニウムカチオン及びその誘導体、イミダゾリウムカチオン及びその誘導体から選ばれる少なくとも1種を含むことが好ましい。
【0053】
カチオン成分が、ピリジニウムカチオン及びその誘導体を含むイオン液体の具体的な例として、4-メチル-ブチルピリジニウムクロライド、3-メチル-ブチルピリジニウムクロライド、4-メチル-ヘキシルピリジニウムクロライド、3-メチル-ヘキシルピリジニウムクロライド、4-メチル-オクチルピリジニウムクロライド、3-メチル-オクチルピリジニウムクロライド、3、4-ジメチル-ブチルピリジニウムクロライド、3、5-ジメチル-ブチルピリジニウムクロライド、4-メチル-ブチルピリジニウムテトラフルオロボレート、4-メチル-ブチルピリジニウムヘキサフルオロホスフェート、1-ブチル-4-メチルピリジニウムブロミド、1-ブチル-4-メチルピリジニウムヘキサフルオロホスファート等が挙げられる。この中で、1-ブチル-4-メチルピリジニウムブロミド、1-ブチル-4-メチルピリジニウムヘキサフルオロホスファートが好ましい。
【0054】
また、カチオン成分が、イミダゾリウムカチオン及びその誘導体を含むイオン液体の具体的な例として、[1-ブチル-3-(2-ヒドロキシエチル)イミダゾリウムブロミド]、[1-ブチル-3-(2-ヒドロキシエチル)イミダゾリウムテトラフルオロボレイト]、1-エチル-3-メチルイミダゾリウムクロライド、1-エチル-3-メチルイミダゾリウムブロミド、1-ブチル-3-メチルイミダゾリウムクロライド、1-ヘキシル-3-メチルイミダゾリウムクロライド、1-オクチル-3-メチルイミダゾリウムクロライド、1-デシル-3-メチルイミダゾリウムクロライド、1-デシル-3-メチルイミダゾリウムブロミド、1-ドデシル-3-メチルイミダゾリウムクロライド、1-テトラデシル-3-メチルイミダゾリウムクロライド、1-エチル-3-メチルイミダゾリウムテトラフロオロボレート、1-ブチル-3-メチルイミダゾリウムテトラフロオロボレート、1-ヘキシル-3-メチルイミダゾリウムテトラフロオロボレート、1-エチル-3-メチルイミダゾリウムヘキサフルオロホスフェート、1-ブチル-3-メチルイミダゾリウムヘキサフルオロホスフェート、1-メチル-3-ブチルイミダゾリウムメチルスルフェート、1、3-ジブチルイミダゾリウムメチルスルフェート等が挙げられる。この中で、[1-ブチル-3-(2-ヒドロキシエチル)イミダゾリウムブロミド]、[1-ブチル-3-(2-ヒドロキシエチル)イミダゾリウムテトラフルオロボレイト]が好ましい。
【0055】
上記のイオン液体は、電気伝導度が10-7S/cm以上であることが好ましい。イオン伝導度が上記範囲であれば、導電補助剤として、熱電半導体微粒子間の電気伝導率の低減を効果的に抑制することができる。
【0056】
また、上記のイオン液体は、分解温度が300℃以上であることが好ましい。分解温度が上記範囲であれば、後述するように、熱電半導体組成物からなる薄膜をアニール処理した場合でも、導電補助剤としての効果を維持することができる。
【0057】
また、上記のイオン液体は、熱重量測定(TG)による300℃における質量減少率が10%以下であることが好ましく、5%以下であることがより好ましく、1%以下であることがさらに好ましい。質量減少率が上記範囲であれば、後述するように、熱電半導体組成物からなる薄膜をアニール処理した場合でも、導電補助剤としての効果を維持することができる。
【0058】
イオン液体の熱電半導体組成物中の配合量は、好ましくは0.01~50質量%、より好ましくは0.5~30質量%、さらに好ましくは1.0~20質量%である。イオン液体の配合量が、上記範囲内であれば、電気伝導率の低下が効果的に抑制され、高い熱電性能を有する膜が得られる。
【0059】
(無機イオン性化合物)
熱電素子層に含まれる無機イオン性化合物は、少なくともカチオンとアニオンから構成される化合物である。無機イオン性化合物は400~900℃の幅広い温度領域において固体で存在し、イオン伝導度が高いこと等の特徴を有しているため、導電補助剤として、熱電半導体微粒子間の電気伝導率の低減を抑制することができる。
【0060】
上記無機イオン性化合物を構成するカチオンとしては、金属カチオンを用いる。
金属カチオンとしては、例えば、アルカリ金属カチオン、アルカリ土類金属カチオン、典型金属カチオン及び遷移金属カチオンが挙げられ、アルカリ金属カチオン又はアルカリ土類金属カチオンがより好ましい。
アルカリ金属カチオンとしては、例えば、Li+、Na+、K+、Rb+、Cs+及びFr+等が挙げられる。
アルカリ土類金属カチオンとしては、例えば、Mg2+、Ca2+、Sr2+及びBa2+等が挙げられる。
【0061】
上記無機イオン性化合物を構成するアニオンとしては、例えば、F-、Cl-、Br-、I-、OH-、CN-、NO3
-、NO2
-、ClO-、ClO2
-、ClO3
-、ClO4
-、CrO4
2-、HSO4
-、SCN-、BF4
-、PF6
-等が挙げられる。
【0062】
熱電素子層に含まれる無機イオン性化合物は、公知または市販のものが使用できる。例えば、カリウムカチオン、ナトリウムカチオン、又はリチウムカチオン等のカチオン成分と、Cl-、AlCl4
-、Al2Cl7
-、ClO4
-等の塩化物イオン、Br-等の臭化物イオン、I-等のヨウ化物イオン、BF4
-、PF6
-等のフッ化物イオン、F(HF)n
-等のハロゲン化物アニオン、NO3
-、OH-、CN-等のアニオン成分とから構成されるものが挙げられる。
【0063】
上記の無機イオン性化合物の中で、高温安定性、熱電半導体微粒子及び樹脂との相溶性、熱電半導体微粒子間隙の電気伝導率の低下抑制等の観点から、無機イオン性化合物のカチオン成分が、カリウム、ナトリウム、及びリチウムから選ばれる少なくとも1種を含むことが好ましい。また、無機イオン性化合物のアニオン成分が、ハロゲン化物アニオンを含むことが好ましく、Cl-、Br-、及びI-から選ばれる少なくとも1種を含むことがさらに好ましい。
【0064】
カチオン成分が、カリウムカチオンを含む無機イオン性化合物の具体的な例として、KBr、KI、KCl、KF、KOH、K2CO3等が挙げられる。この中で、KBr、KIが好ましい。
カチオン成分が、ナトリウムカチオンを含む無機イオン性化合物の具体的な例として、NaBr、NaI、NaOH、NaF、Na2CO3等が挙げられる。この中で、NaBr、NaIが好ましい。
カチオン成分が、リチウムカチオンを含む無機イオン性化合物の具体的な例として、LiF、LiOH、LiNO3等が挙げられる。この中で、LiF、LiOHが好ましい。
【0065】
上記の無機イオン性化合物は、電気伝導率が10-7S/cm以上であることが好ましく、10-6S/cm以上であることがより好ましい。電気伝導率が上記範囲であれば、導電補助剤として、熱電半導体微粒子間の電気伝導率の低減を効果的に抑制することができる。
【0066】
また、上記の無機イオン性化合物は、分解温度が400℃以上であることが好ましい。分解温度が上記範囲であれば、後述するように、熱電半導体組成物からなる薄膜をアニール処理した場合でも、導電補助剤としての効果を維持することができる。
【0067】
また、上記の無機イオン性化合物は、熱重量測定(TG)による400℃における質量減少率が10%以下であることが好ましく、5%以下であることがより好ましく、1%以下であることがさらに好ましい。質量減少率が上記範囲であれば、後述するように、熱電半導体組成物からなる薄膜をアニール処理した場合でも、導電補助剤としての効果を維持することができる。
【0068】
無機イオン性化合物の熱電半導体組成物中の配合量は、好ましくは0.01~50質量%、より好ましくは0.5~30質量%、さらに好ましくは1.0~10質量%である。無機イオン性化合物の配合量が、上記範囲内であれば、電気伝導率の低下を効果的に抑制でき、結果として熱電性能が向上した膜が得られる。
なお、無機イオン性化合物とイオン液体とを併用する場合においては、熱電半導体組成物中における、無機イオン性化合物及びイオン液体の含有量の総量は、好ましくは0.01~50質量%、より好ましくは0.5~30質量%、さらに好ましくは1.0~10質量%である。
【0069】
P型熱電素子層及びN型熱電素子層からなる熱電素子層の厚さには、特に限定はなく、両者が、同じ厚さでも、異なる厚さ(接続部に段差が生じる)でもよい。屈曲性、材料コストの観点から、P型熱電素子及びN型熱電素子の厚さは、0.1~100μmが好ましく、1~50μmがさらに好ましい。
【0070】
<高熱伝導層>
高熱伝導層としては、熱伝導性に優れており、その熱伝導率が被覆層の熱伝導率よりも大きいものを用いる。高熱伝導層として、熱伝導率が5~500W/(m・K)のものを用いることが好ましく、15~420W/(m・K)のものがより好ましく、300~420W/(m・K)のものがさらに好ましい。
高熱伝導層を構成する材料としては、熱伝導率の大きいものであれば、特に制限されないが、好ましくは金属であり、より好ましくは銅、アルミニウム、銀、及びニッケルのいずれか1種であり、さらに好ましくは銅、アルミニウム、及び銀のいずれか1種であり、よりさらに好ましくは銅及びアルミニウムのいずれか1種である。
高熱伝導層は、ストライプ状、格子状、ハニカム状、櫛状、マトリクス状などのパターンで配置される。これによって、熱電変換モジュールの面方向に温度差を生じさせやすくなり、また、P型熱電素子層とN型熱電素子層との境界部分を露出させることで、外部との熱交換が効率的に行われる。結果的に、熱電変換モジュールの起電力性能、発熱性能、吸熱性能を向上させることができる。
図4でも説明したように、第1の高熱伝導層を、P型熱電素子層とN型熱電素子層との接合部を一つおきに覆うように熱電素子層の一方の面側に配置し、第2の高熱伝導層を、基材の主面に垂直な方向から見て、第1の高熱伝導層によって覆われていない熱電素子の接合部に対応する位置に配置し、高熱伝導層の並び方向の縦断面において、第1の高熱伝導層と第2の高熱伝導層とが、熱電素子層に対して互い違いに配置することが好ましい。
高熱伝導層の厚さは、屈曲性、放熱性及び寸法安定性の観点から、40~550μmが好ましく、60~530μmがより好ましく、80~510μmがさらに好ましい。第1高熱伝導層91と第2高熱伝導層92の2つの高熱伝導層を設ける場合、これらは、同じ材質のものでもよいし、異なる材質のものでもよく、これらは、同じ厚さであってもよく、異なる厚さであってもよい。
【0071】
<被覆層>
被覆層は熱電素子層を覆うように配置する。被覆層の配置をこのようにすると、被覆層をパターン化して形成する必要がないため、生産性に優れる。また、熱電素子層の高熱伝導層が設けられていない領域に、低熱伝導層等の部材が設けられていない場合には、被覆層が熱電素子層を覆っていなければ熱電素子層が露出するが、被覆層が熱電素子層を覆うことで、高熱伝導層が存在しない領域において、被覆層が熱電素子層を保護することができる。
【0072】
上述した第1被覆層81と第2被覆層82のように、2つの被覆層を設ける場合、これらは、同じ材質のものでもよいし、異なる材質のものでもよい。
【0073】
熱電素子層6側の基材2と反対側の面に積層した第2被覆層82は、
図5で説明したように、単層のものでもよいし、多層構成のものであってもよい。また、熱電変換モジュールから第2被覆層82をなくして、基材2の裏面上に第2高熱伝導層を直接設けるようにしてもよい。
【0074】
単層の被覆層を用いる場合は、それ自体が接着性を有しており、高熱伝導層を熱電素子層に接着して固定できるものであることが好ましい。また、この単層の被覆層自体が、封止層であり、後述するように、所定の範囲内の水蒸気透過率を有する層や、ポリオレフィン系樹脂を含む組成物からなる層である場合は、被覆層は熱電素子層を覆っており、被覆層が熱電素子層を封止する部材として機能するためより好ましい。単層の被覆層を用いると、熱電変換モジュール内の層の数が少ないため、熱電変換モジュールの構成を簡素化することができ、熱電変換モジュールの製造工程も簡略にすることができる。また、被覆層の全体の厚さを小さくできるので、高熱伝導層と熱電素子層間の熱交換の効率を上げることができる。
【0075】
熱電変換モジュールが、複数の層を含む被覆層を有する場合、高熱伝導層と熱電素子層とを接着する機能や封止の機能など、複数の機能を各層に分担させやすくなるというメリットがある。例えば、中間層としての、後述する補助基材層にガスバリア性を付与し、補助基材層の両面に、それぞれ接着層としての内側層と外側層とを設けることで、ガスバリアの機能と接着の機能との両立を容易にすることができる。この場合に、さらに内側層および外側層の少なくとも一方が封止層も兼ねるものであれば、補助基材層のガスバリア性と、封止層である内側層および/または外側層の封止性により、熱電変換モジュールの耐久性の向上が期待できる。
【0076】
被覆層は、被覆層全体として、JIS K7129:2008で規定される40℃×90%RHにおける水蒸気透過率が1,000g・m-2・day-1以下であるか、このような水蒸気透過率を示す封止層を含んでいることが好ましい。水蒸気透過率が1,000g・m-2・day-1を超えると、大気中等の水蒸気が、被覆層を透過しやすくなることから、熱電素子層に用いる熱電半導体層が腐食等により劣化し、その結果として、経時により熱電素子層の電気抵抗値が増大し、熱電性能が低下しやすくなる。
【0077】
被覆層全体の水蒸気透過率、あるいは、被覆層に含まれる封止層の水蒸気透過率は、より好ましくは700g・m-2・day-1以下、さらに好ましくは600g・m-2・day-1以下、さらに好ましくは50g・m-2・day-1以下、特に好ましくは10g・m-2・day-1以下である。水蒸気透過率がこの範囲にあると、熱電素子層への水蒸気の侵入が抑制され、熱電素子層の腐食等による劣化を抑制しやすくなる。このため、経時後の熱電素子層の電気抵抗値の増加が小さく、初期の熱電性能が維持された状態で、長期間の使用を実現させやすくなる。
【0078】
被覆層の全体の厚さは、高熱伝導層と熱電素子層との間の熱伝導が効率的に行われるようにする観点から、1~200μmであることが好ましく、5~175μmであることがより好ましい。
【0079】
(封止層・接着層)
上述したように、被覆層は封止層を含むことができる。被覆層が単層であれば、被覆層自身が封止層を兼ねることができ、被覆層が複数の層からなる場合は、いずれかの層に封止層を含むことができる。
被覆層は熱電素子層を覆うため、被覆層が封止層を含む場合、大気中の水蒸気の透過をより効果的に抑制でき、熱電変換モジュールの性能を長期間にわたり維持することができる。さらに、封止層を含む被覆層を熱電素子層の両面に配置することが好ましい。これにより、大気中の水蒸気の透過をさらに効果的に抑制できる。
【0080】
封止層は、ポリオレフィン系樹脂を含む組成物からなることが好ましい。ポリオレフィン系樹脂は柔軟性や耐久性に優れており、被覆層の熱伝導率を上述した範囲に設定しやすいことに加えて、被覆層全体の水蒸気透過性を低くしやすい。このため、ポリオレフィン系樹脂を含む組成物からなる封止層を用いることにより、熱電変換モジュールの耐久性を高めることができる。
【0081】
被覆層は、接着性を有する層(接着層)を含むことが好ましい。本明細書において、「接着性」は、接着性、及び、貼り付ける初期において感圧により接着可能な感圧性の粘着性、のいずれをも含む。感圧性の粘着性以外の接着性としては、感湿接着性、熱溶融による接着性等が挙げられる。接着層は、接着性を有する組成物(以下、「接着性組成物」ということがある)を含むことが好ましく、接着性組成物に好ましく含まれる樹脂成分としては、ポリオレフィン系樹脂、エポキシ系樹脂、アクリル系樹脂等が挙げられる。被覆層が接着層を含むことで、高熱伝導層と熱電素子層とを被覆することが容易となる。なお、被覆層が単層の場合は、被覆層自身が封止層を兼ねることができる。
また、被覆層の熱電素子層への貼付や、後述する補助基材層と封止層の積層も容易となる。上述した被覆層が単層である場合のように、封止層が接着層を兼ねること、つまり、封止層が接着性を有していることが、被覆層を可及的に少ない層から構成でき、被覆層全体の厚さを小さくできる観点から好ましい。
【0082】
接着性組成物は、硬化性の接着性組成物であってもよい。被覆層は、熱電素子層を覆うものであるので、被覆層の高熱伝導層が設けられていない領域に、低熱伝導層等の部材が設けられていない場合、被覆層に含まれる接着層が露出することがあり、その結果、熱電変換モジュールの取り扱い性が劣ることがある。接着層が硬化可能なものであれば、例えば、被覆層上に高熱伝導層を接着層の接着性により固定した後に、接着層を硬化させることによって、接着性を消失または低下させることができるため、熱電変換モジュールの取り扱い性を改善することができる。接着剤組成物に硬化性を付与するには、接着剤組成物に後述するエポキシ系樹脂を熱硬化性の成分として添加したり、(メタ)アクリロイル基等のエネルギー線重合性の官能基を有する化合物を、エネルギー線硬化性の成分として添加したりすればよい。
【0083】
ポリオレフィン系樹脂としては、特に限定されないが、ポリエチレン、ポリプロピレン、α-オレフィン重合体、2種以上のオレフィン系単量体の共重合体、オレフィン系単量体と他の単量体との共重合体(アクリル酸、酢酸ビニル等)、ゴム系樹脂等、およびこれらの酸変性物やシラン変性物等の変性物が挙げられる。
ポリオレフィン系樹脂を接着性組成物として用いる場合も、概して水蒸気透過率を低くすることができ、例えば、JIS K7129:2008で規定される40℃×90%RHにおける水蒸気透過率は、1~200g・m-2・day-1程度の値にすることができる。
接着性組成物においては、被覆層全体の水蒸気透過性を低くしやする観点から、ポリオレフィン系樹脂の配合量は、好ましくは20~100質量%、より好ましくは30~99質量%、さらに好ましくは60~98.5質量%である。
【0084】
ゴム系樹脂としては、カルボン酸系官能基を有するジエン系ゴム(以下、「カルボン酸変性ジエン系ゴム」ということがある。)、又は、カルボン酸系官能基を有するジエン系ゴム及びカルボン酸系官能基を有しないゴム系重合体(以下、「ゴム系重合体」ということがある。)が挙げられる。
【0085】
「ジエン系ゴム」とは、「ポリマー主鎖に二重結合を有するゴム系高分子」をいい、「カルボン酸変性ジエン系ゴム」とは、主鎖末端及び/又は側鎖にカルボン酸系官能基を有する重合体で構成されるジエン系ゴムである。ここで、「カルボン酸系官能基」とは、「カルボキシル基またはカルボン酸無水物基」をいう。
カルボン酸変性ジエン系ゴムは、カルボン酸系官能基を有するジエン系ゴムであれば、特に限定されない。
カルボン酸変性ジエン系ゴムとしては、カルボン酸系官能基含有ポリブタジエン系ゴム、カルボン酸系官能基含有ポリイソプレン系ゴム、カルボン酸系官能基を含有するブタジエンとイソプレンの共重合体ゴム、カルボン酸系官能基を含有するブタジエンとn-ブテンの共重合体ゴム等が挙げられる。これらの中でも、カルボン酸変性ジエン系ゴムとしては、架橋剤による架橋後に十分に高い凝集力を有する被覆層を効率よく形成し得るという観点から、カルボン酸系官能基含有ポリイソプレン系ゴムが好ましい。
カルボン酸変性ジエン系ゴムは、1種単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
カルボン酸変性ジエン系ゴム、例えば、カルボキシル基を有する単量体を用いて共重合反応を行う方法や、特開2009-29976号公報に記載される、ポリブタジエン等の重合体に無水マレイン酸を付加させる方法により、得ることができる。
【0086】
カルボン酸変性ジエン系ゴムの配合量は、封止層を形成するための組成物または接着性組成物中、好ましくは0.5~95.5質量%、より好ましくは、1.0~50質量%、さらに好ましくは2.0~20質量%である。カルボン酸変性ジエン系ゴムの配合量が、封止層を形成するための組成物または接着性組成物中、0.5質量%以上であることで、十分な凝集力を有する層を効率よく形成することができる。また、カルボン酸変性ジエン系ゴムの配合量を高くし過ぎないことで、十分な粘着力を有する層を効率よく形成することができる。
【0087】
架橋剤は、ジエン系ゴムのカルボン酸系官能基と反応し、架橋構造を形成し得る化合物である。架橋剤としては、イソシアネート系架橋剤、エポキシ系架橋剤、アジリジン系架橋剤、金属キレート系架橋剤等が挙げられる。
【0088】
ゴム系重合体は、「25℃においてゴム弾性を示す樹脂」をいう。ゴム系重合体は、ポリメチレンタイプの飽和主鎖をもつゴムや主鎖に不飽和炭素結合をもつゴムであることが好ましい。
このようなゴム系重合体としては、具体的には、イソブチレンの単独重合体(ポリイソブチレン、IM)、イソブチレンとn-ブテンの共重合体、天然ゴム(NR)、ブタジエンの単独重合体(ブタジエンゴム、BR)、クロロプレンの単独重合体(クロロプレンゴム、CR)、イソプレンの単独重合体(イソプレンゴム、IR)、イソブチレンとブタジエンの共重合体、イソブチレンとイソプレンの共重合体(ブチルゴム、IIR)、ハロゲン化ブチルゴム、スチレンと1,3-ブタジエンの共重合体(スチレンブタジエンゴム、SBR)、アクリロニトリルと1,3-ブタジエンの共重合体(ニトリルゴム)、スチレン-1,3-ブタジエン-スチレンブロック共重合体(SBS)、スチレン-イソプレン-スチレンブロック共重合体(SIS)、エチレン-プロピレン-非共役ジエン三元共重合体等が挙げられる。これらの中で、それ自体が水分遮断性に優れるとともに、ジエン系ゴム(A)と混ざり易く、均一な被覆層を形成し易いという観点から、イソブチレンの単独重合体、イソブチレンとn-ブテンの共重合体、イソブチレンとブタジエンの共重合体、イソブチレンとイソプレンの共重合体等のイソブチレン系重合体が好ましく、イソブチレンとイソプレンの共重合体がより好ましい。
ゴム系重合体を配合する場合、その配合量は、接着性組成物中、好ましくは0.1質量%~99.5質量%、より好ましくは10~99.5質量%、さらに好ましくは50~99.0質量%、特に好ましくは80~98.0質量%である。
【0089】
エポキシ系樹脂は、タック性が高いことに加えて、加熱することで流動性を高くさせやすいので、基材上に設けられた電極や熱電素子層の隅々に回り込み、良好な埋め込み性を発揮する。水蒸気透過率の値も比較的低くすることができ、例えば、JIS K7129:2008で規定される40℃×90%RHにおける水蒸気透過率が、1~200g・m-2・day-1程度の値とすることができる。
エポキシ系樹脂としては、特に制限されないが、分子内に少なくともエポキシ基を2つ以上有する多官能エポキシ化合物が好ましい。
エポキシ基を2つ以上有するエポキシ化合物としては、ビスフェノールAジグリシジルエーテル、ビスフェノールFジグリシジルエーテル、ビスフェノールSジグリシジルエーテル、臭素化ビスフェノールAジグリシジルエーテル、臭素化ビスフェノールFジグリシジルエーテル、臭素化ビスフェノールSジグリシジルエーテル、ノボラック型エポキシ樹脂(例えば、フェノール・ノボラック型エポキシ樹脂、クレゾール・ノボラック型エポキシ樹脂、臭素化フェノール・ノボラック型エポキシ樹脂)、水添ビスフェノールAジグリシジルエーテル、水添ビスフェノールFジグリシジルエーテル、水添ビスフェノールSジグリシジルエーテル、ペンタエリスリトールポリグリシジルエーテル、1,6-ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、ヘキサヒドロフタル酸ジグリシジルエステル、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、トリメチロールプロパンポリグリシジルエーテル、2,2-ビス(3-グリシジル-4-グリシジルオキシフェニル)プロパン、ジメチロールトリシクロデカンジグリシジルエーテル等が挙げられる。
これらの多官能エポキシ化合物は、1種を単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
多官能エポキシ化合物の分子量の下限は、好ましくは700以上、より好ましくは1,200以上である。多官能エポキシ化合物の分子量の上限は、好ましくは5,000以下、より好ましくは4,500以下である。
多官能エポキシ化合物のエポキシ当量は、好ましくは100g/eq以上500g/eq以下、より好ましくは150g/eq以上300g/eq以下である。
【0090】
接着性組成物中のエポキシ系樹脂の含有量は、好ましくは10~50質量%、さらに好ましくは10~40質量%である。
【0091】
アクリル系樹脂としては、特に制限はないが、(メタ)アクリル酸エステル系共重合体が好ましい。
この(メタ)アクリル酸エステル系共重合体としては、エステル部分のアルキル基の炭素数が1~18の(メタ)アクリル酸アルキルエステルと、必要に応じて用いられる架橋性官能基含有エチレン性単量体や他の単量体との共重合体を好ましく挙げることができる。エステル部分のアルキル基の炭素数が1~18の(メタ)アクリル酸アルキルエステルとしては、メチルアクリレート、メチルメタクリレート、エチルアクリレート、エチルメタクリレート、プロピルアクリレート、プロピルメタクリレート、イソプロピルアクリレート、イソプロピルメタクリレート、n-ブチルアクリレート、n-ブチルメタクリレート、イソブチルアクリレート、イソブチルメタクリレート、n-ヘキシルアクリレートn-ヘキシルメタクリレート、2-エチルヘキシルアクリレート、2-エチルヘキシルメタクリレート、ラウリルアクリレート、ラウリルメタクリレート、ステアリルアクリレート、ステアリルメタクリレート等が挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0092】
必要に応じて用いられる架橋性官能基含有エチレン性単量体は、例えばヒドロキシ基、カルボキシル基、アミノ基、置換アミノ基、エポキシ基等の官能基を分子内に有するエチレン性単量体であり、好ましくはヒドロキシ基含有エチレン性不飽和化合物、カルボキシル基含有エチレン性不飽和化合物が用いられる。このような架橋性官能基含有エチレン性単量体の具体的な例としては、2-ヒドロキシエチルアクリレート、2-ヒドロキシエチルメタクリレート、2-ヒドロキシプロピルアクリレート、2-ヒドロキシプロピルメタクリレート、2-ヒドロキシブチルアクリレート、2-ヒドロキシブチルメタクリレート、4-ヒドロキシブチルアクリレート、4-ヒドロキシブチルメタクリレート等のヒドロキシ基含有(メタ)アクリレート、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、イタコン酸、シトラコン酸等のカルボキシル基含有エチレン性不飽和化合物が挙げられる。上記の架橋性官能基含有エチレン性単量体は、1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。
必要に応じて用いられる他の単量体としては、シクロヘキシルアクリレート、イソボルニルアクリレートなどの脂環式構造を有する(メタ)アクリル酸エステル;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニルなどのビニルエステル類;エチレン、プロピレン、イソブチレンなどのオレフィン類;塩化ビニル、ビニリデンクロリドなどのハロゲン化オレフィン類;スチレン、α-メチルスチレンなどのスチレン系単量体;ブタジエン、イソプレン、クロロプレンなどのジエン系単量体;アクリロニトリル、メタクリロニトリルなどのニトリル系単量体;N,N-ジメチルアクリルアミド、N,N-ジメチルメタクリルアミドなどのN,N-ジアルキル置換アクリルアミド類などが挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
以上の(メタ)アクリル酸エステル、及び必要に応じて用いられる架橋性官能基含有エチレン性単量体や他の単量体を、それぞれ所定の割合で用い、従来公知の方法を用いて共重合を行い、質量平均分子量が、好ましくは30万~150万程度、より好ましくは35万~130万程度の(メタ)アクリル酸エステル系重合体を製造する。
なお、上記質量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)法により測定した標準ポリスチレン換算の値である。
必要に応じて用いられる架橋剤としては、従来アクリル系樹脂において架橋剤として慣用されているものの中から、任意のものを適宜選択して用いることができる。このような架橋剤としては、例えばポリイソシアネート化合物、エポキシ化合物、メラミン樹脂、尿素樹脂、ジアルデヒド類、メチロールポリマー、アジリジン系化合物、金属キレート化合物、金属アルコキシド、金属塩などが挙げられるが、上述した(メタ)アクリル酸エステル系共重合体が、架橋性官能基としてヒドロキシ基を有する場合には、ポリイソシアネート化合物が好ましく、一方カルボキシル基を有する場合には、金属キレート化合物やエポキシ化合物が好ましい。
【0093】
接着性組成物中のアクリル系樹脂の含有量は、好ましくは30~95質量%、さらに好ましくは40~90質量%である。
【0094】
封止層を形成するための組成物または接着性組成物には、本発明の効果を損なわない範囲で、その他の成分が含まれていてもよい。封止層を形成するための組成物または接着性組成物に含まれ得るその他の成分としては、例えば、高熱伝導性材料、難燃剤、粘着付与剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、防腐剤、防黴剤、可塑剤、消泡剤、イミダゾール系化合物等の熱硬化促進剤、光重合開始剤、及び濡れ性調整剤などが挙げられる。なお、上述のとおり、封止層または接着層は高熱伝導フィラーを含まないことが好ましい。
【0095】
個々の封止層または接着層の厚さは、好ましくは0.5~100μm、より好ましくは3~50μm、さらに好ましくは5~30μmである。封止層または接着層の厚さがこの範囲であれば、被覆層全体の厚さを小さい範囲に調整し易い。
また、この範囲であれば、水蒸気が透過して熱電素子層へ到達するのを抑制しやすくなり、熱電変換モジュールの耐久性を高めやすくなる。さらには、接着層の接着性も好適な範囲に維持しやすい。
さらに、熱電素子層と、封止層とが直接接するようにしてもよい。熱電素子層と、封止層とが直接接することにより、熱電素子層と被覆層との間に大気中の水蒸気が侵入しやすい層がないため、熱電素子層の水蒸気への侵入がより抑制され、被覆層による封止性を高めることができる。
【0096】
(補助基材層)
被覆層は補助基材層を含んでいてもよい。補助基材層は、被覆層が封止層または接着層を含む場合に、これらの接着層または封止層を支持するための基材となる。被覆層が、補助基材層を含むことで、被覆層全体の熱伝導率の調整を容易にしたり、熱電変換モジュール全体の強度を高めたりすることができる。また、高熱伝導層が導電性のものである場合に、高熱伝導層と熱電素子層との間に補助基材層が存在することで、高熱伝導層と熱電素子層との短絡を防止することができる。
【0097】
被覆層が補助基材層を含む場合、補助基材層は、熱電変換モジュールのいずれかの被覆層に含まれていればよい。
図5に示す例では、基材2が補助基材層と同様の機能を有し得ることから、少なくとも熱電素子層6の基材2とは反対側の面に積層された、第1被覆層81が補助基材層を含むことが好ましく、熱電変換モジュールの両面の被覆層が補助基材層を含んでいることがさらに好ましい。この場合、補助基材層に、後述するガスバリア性を付与することで、熱電素子層への水蒸気の侵入をさらに抑制しやすくなる。
【0098】
補助基材層としては、屈曲性を備え、適度な熱伝導性を与えられるものであればよいが、大気中の水蒸気透過を抑制する性能(以下、「ガスバリア性」ということがある。)を付与する観点から、基材上に無機層または高分子化合物を含む層(以下、「ガスバリア層」ということがある。)からなることが好ましい。
【0099】
補助基材層を構成する基材としては、屈曲性を有するものが好適に用いられる。例えば、ポリイミド、ポリアミド、ポリアミドイミド、ポリフェニレンエーテル、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリオレフィン、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリスルフォン、ポリエーテルスルフォン、ポリフェニレンスルフィド、ポリアリレート、アクリル系樹脂、シクロオレフィン系ポリマー、芳香族系重合体等が挙げられる。これらの中で、ポリエステルとしては、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリアリレート等が挙げられる。また、シクロオレフィン系ポリマーとしては、ノルボルネン系重合体、単環の環状オレフィン系重合体、環状共役ジエン系重合体、ビニル脂環式炭化水素重合体、及びこれらの水素化物が挙げられる。このような基材の中で、コスト、耐熱性の観点から、二軸延伸されたポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)が特に好ましい。
【0100】
補助基材層を構成する無機層としては、無機化合物や金属の蒸着膜等の無機蒸着膜が挙げられる。
無機化合物の蒸着膜の原料としては、酸化珪素、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、酸化インジウム、酸化スズ等の無機酸化物;窒化珪素、窒化アルミニウム、窒化チタン等の無機窒化物;無機炭化物;無機硫化物;酸化窒化珪素等の無機酸化窒化物;無機酸化炭化物;無機窒化炭化物;無機酸化窒化炭化物等が挙げられる。
金属の蒸着膜の原料としては、アルミニウム、マグネシウム、亜鉛、及びスズ等が挙げられる。これらは1種単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
これらの中では、ガスバリア性の観点から、無機酸化物、無機窒化物又は金属を原料とする無機蒸着膜が好ましい。
【0101】
補助基材層を構成する高分子化合物としては、ポリオルガノシロキサン、ポリシラザン系化合物等の珪素含有高分子化合物、ポリイミド、ポリアミド、ポリアミドイミド、ポリフェニレンエーテル、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリオレフィン、ポリエステル等が挙げられる。これらの高分子化合物は1種単独で、あるいは2種以上を組合せて用いることができる。
これらの中でも、ガスバリア性を有する高分子化合物としては、珪素含有高分子化合物が好ましい。珪素含有高分子化合物としては、ポリシラザン系化合物、ポリカルボシラン系化合物、ポリシラン系化合物、及びポリオルガノシロキサン系化合物等が挙げられる。これらの中でも、優れたガスバリア性を有するバリア層を形成できる観点から、ポリシラザン系化合物が好ましい。
【0102】
また、無機化合物の蒸着膜、またはポリシラザン系化合物を含む層に改質処理を施して形成された酸素、窒素、珪素を主構成原子として有する層からなる酸窒化珪素層が、層間密着性、ガスバリア性、及び屈曲性を有する観点から、好ましく用いられる。
【0103】
補助基材層に用いるガスバリア層は、例えば、ポリシラザン化合物含有層に、プラズマイオン注入処理、プラズマ処理、紫外線照射処理、熱処理等を施すことにより形成できる。プラズマイオン注入処理により注入されるイオンとしては、水素、窒素、酸素、アルゴン、ヘリウム、ネオン、キセノン、及びクリプトン等が挙げられる。
これらの中でも、ポリシラザン化合物含有層の表面を荒らすことなく、その内部まで効率よく改質し、よりガスバリア性に優れるガスバリア層を形成できることから、イオン注入処理が好ましい。
【0104】
補助基材層における、無機層または高分子化合物を含む層の厚さは、好ましくは0.03~1μm、より好ましくは0.05~0.8μm、さらに好ましくは0.10~0.6μmである。無機層または高分子化合物を含む層の厚さがこの範囲にあると、適度な熱伝導性を付与するとともに、水蒸気透過率の上昇を効果的に抑制できる。
【0105】
補助基材層のJIS K7129:2008で規定される40℃×90%RHにおける水蒸気透過率は、好ましくは10g・m-2・day-1以下、より好ましくは5g・m-2・day-1以下、さらに好ましくは1g・m-2・day-1以下である。水蒸気透過率がこの範囲にあると、被覆層及び熱電素子層への水蒸気の透過が抑制され、熱電素子層の腐食等による劣化が抑制される。このため、経時後の熱電素子層の電気抵抗値の増加が小さくなり、初期の熱電性能が維持された状態で、長期間の使用が可能となる。
【0106】
無機層または高分子化合物を含む層を有する補助基材層の厚さは、10~100μmであることが好ましく、より好ましくは、15~50μm、さらに好ましくは20~40μmである。補助基材層の厚さがこの範囲にあると、優れたガスバリア性が得られるとともに、屈曲性と、被膜強度とを両立させることができる。
【0107】
本実施形態に係る熱電変換モジュールは、外部から熱電素子層へ水分が侵入するのを防止し、高い耐久性を発揮することができる。このため、高湿環境や湿度変化が大きい環境等、設置場所の環境に関わらず高い耐久性を発揮できる熱電変換モジュールとすることができる。本実施形態は、第1高熱伝導層91と第2高熱伝導層92という2つの高熱伝導層を備えることにより、熱電変換モジュールの面内に効率よく温度差を生じさせることができ、好ましい構成である。しかし、例えば、熱電変換モジュールの面積を大きくできたり、熱電変換モジュールの構成を極力簡素化することが求められたりする場合には、第2高熱伝導層92を省略することも可能である。
【0108】
[熱電変換モジュールの製造方法]
本実施形態の熱電変換モジュールの製造方法の一例としては、熱電素子層上に被覆層を形成し、被覆層の一方の面の一部に高熱伝導層をパターン状に形成する。より具体的な例を挙げると、
図2に示すように、電極3及び隔壁31、32がパターン配置された基材2を準備する工程、
図3に示すように、基材2の一方の面上に、P型熱電素子層5及びN型熱電素子層4からなる熱電素子層6を形成する工程、熱電素子層6の面上に第1被覆層81を形成する工程、
図4に示すように、第1被覆層81の面上の少なくとも一部に第1高熱伝導層91を形成する工程、基材2の他方の面上に第2高熱伝導層92を形成する工程を含む。
以下、図に基づいて各工程を順次説明する。
【0109】
<電極及び隔壁が形成された基材を準備する工程>
熱電変換モジュールの製造工程においては、例えば、
図2に示すように、まず、所定パターンの電極3が一方の主面に形成された基材2を準備する。電極3が形成された基材を準備するためには、基材2上に前述した電極材料等を用いて電極層を形成すればよい。基材上に電極を形成する方法としては、基材上にパターンが形成されていない電極層を設けた後、フォトリソグラフィー法を主体とした公知の物理的処理もしくは化学的処理、又はそれらを併用する等により、所定のパターンに加工する方法、又は、スクリーン印刷法、インクジェット法等により直接電極層のパターンを形成する方法等が挙げられる。
パターンが形成されていない電極層の形成方法としては、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法等のPVD(物理気相成長法)、もしくは熱CVD、原子層蒸着(ALD)等のCVD(化学気相成長法)等のドライプロセス、又はディップコーティング法、スピンコーティング法、スプレーコーティング法、グラビアコーティング法、ダイコーティング法、ドクターブレード法等の各種コーティングや電着法等のウェットプロセス、銀塩法、電解めっき法、無電解めっき法、金属箔の積層等が挙げられ、電極層の材料に応じて適宜選択される。
電極の形成と同時に、例えば、電極パターンと隔壁パターンを含むマスクを用いて、電極と同じ材料によって隔壁を形成することができる。このようにすれば、電極の形成と隔壁の形成とを別工程で形成する必要がなくなるため、製造工程が簡素化される。なお、隔壁と同時に形成される電極は、第1電極3a、第2電極3b及び第3電極3cのいずれであってもよく、これらのうちの2つ以上であってもよい。
電極を形成する前又は電極を形成した後に、別途、隔壁を形成してもよい。この場合、電極と同じ材料を用いて隔壁を形成してもよいし、電極と別の材料を用いて隔壁を形成してもよい。後者の場合、絶縁性の材料を用いて隔壁を形成することにより、局所開放部を設ける必要がなくなるため、
図12で説明したように、隔壁33と第1電極部3aとで閉じた空間を形成することができ、外部からの水分の侵入を阻止しやすくなる。
【0110】
<熱電素子層を形成する工程>
次に、
図3に示すように、電極3と隔壁がパターン配置された基材2の一方の主面上に、熱電半導体組成物を用いて、P型熱電素子層5及びN型熱電素子層4からなる熱電素子層6を形成する。熱電素子層6は、例えば、上述した熱電半導体組成物の各材料が溶媒に溶解あるいは分散したワニス、インク等を基材上に塗布することにより形成される。熱電半導体組成物を基材上に塗布する方法としては、スクリーン印刷、フレキソ印刷、グラビア印刷、スピンコート、ディップコート、ダイコート、スプレーコート、バーコート、ドクターブレード等の公知の方法が挙げられ、特に制限されない。塗膜をパターン状に形成する場合は、所望のパターンを有するスクリーン版を用いて簡便にパターン形成が可能なスクリーン印刷、スロットダイコート等が好ましく用いられる。
次いで、得られた塗膜を乾燥することにより薄膜を形成する。塗膜の乾燥方法としては、熱風乾燥、熱ロール乾燥、赤外線照射等、従来公知の乾燥方法が採用できる。乾燥時の加熱温度は、80~150℃の範囲とすることができる。乾燥時の加熱時間は、加熱方法により異なるが、数秒~数十分とすることができる。
また、溶媒を使用して熱電半導体組成物を調製した場合、この組成物の塗膜を乾燥するための加熱温度は、使用した溶媒を乾燥できる温度範囲であれば特に制限はない。
【0111】
<アニール処理工程>
基材上に形成した熱電半導体組成物の塗膜を乾燥して得られた熱電変換層に対して、アニール処理工程を実行することが好ましい。アニール処理工程は、基材上に形成された熱電素子層を所定の温度で熱処理(アニール処理)する工程である。アニール処理を行うことで、熱電素子層の熱電性能を安定化させるとともに、熱電素子層中の熱電半導体材料(微粒子)を結晶成長させることができ、熱電性能を更に向上させることができる。
アニール処理は、通常、ガス流量が制御された、窒素、アルゴン等の不活性ガス雰囲気下、還元ガス雰囲気下又は真空条件下で行われる。使用される耐熱性樹脂、イオン液体、無機イオン性化合物の耐熱温度等にも依存するが、アニール処理の温度は、通常100~600℃で数分~数十時間、好ましくは150~600℃で数分~数十時間、より好ましくは250~600℃で数分~数十時間、更に好ましくは300~550℃で数分~数十時間行う。P型熱電素子層及びN型熱電素子層ごとにそれぞれ最適な条件でアニール処理を行ってもよい。
【0112】
<第1被覆層を形成する工程>
次に、熱電素子層6の、基材2とは反対側の面上に第1被覆層81を形成する。被覆層は公知の方法で形成することができる。被覆層は、熱電素子層の面に直接形成してもよいし、予め剥離シート上に形成した被覆層を、熱電素子層に貼り合わせて、被覆層を熱電素子層に転写させることにより形成してもよい。
【0113】
被覆層が複数の層で構成される場合は、予め複数の層を含む被覆層を準備しておき、これを熱電素子層に貼り付けてもよいし、複数の層を構成する各層を順次熱電素子層上に積層して複数の層で構成される被覆層を熱電素子層上に形成してもよい。
【0114】
<第1の高熱伝導層を形成する工程>
第1被覆層81の面上の少なくとも一部に第1高熱伝導層91を形成する。
図4に示すように、熱電素子層6上に形成した被覆層81上に第1高熱伝導層91を設けてもよいし、被覆層81上に第1高熱伝導層91を設けてから、第1高熱伝導層91付きの被覆層81を基材2に設けることもできる。
【0115】
<第2の高熱伝導層を形成する工程>
基材2の他方の面の一部に第2高熱伝導層92を形成する。この場合、基材2に接着層を設けてから第2高熱伝導層92を設けてもよいし、第2高熱伝導層92を設けた第2被覆層82を基材2の他方の面に設けるようにしてもよい。蒸着、スパッタリング、印刷等によって、第2高熱伝導層92を直接形成した基材を用いれば、基材上に直接接して高熱伝導層が設けられた熱電変換モジュールを得ることができる。
【実施例】
【0116】
次に、本発明の具体的な実施例を説明するが、本発明は、これらの例によってなんら限定されるものではない。後述する実施例及び比較例で作製した熱電変換モジュールに用いられる被覆層の水蒸気透過率は、以下の手順で、測定・算出した。
(a)水蒸気透過率(WVTR)
水蒸気透過率計(Systech Illinois社製、装置名:L80-5000)を用い、JIS-K7129に従い、40℃×90%RHにおける被覆層を構成する接着層の水蒸気透過率(g・m-2・day-1)を測定した。
【0117】
[熱電変換モジュールの作製]
<実施例1>
(熱電半導体微粒子の作製)
ビスマス-テルル系熱電半導体材料であるp型ビスマステルライドBi0.4Te3Sb1.6(高純度化学研究所製、粒径:180μm)を、遊星型ボールミル(フリッチュジャパン社製、Premium line P-7)を使用し、窒素ガス雰囲気下で粉砕することで、平均粒径1.2μmの熱電半導体微粒子T1を作製した。T1の平均粒径は、粉砕して得られた熱電半導体微粒子に関して、レーザー回折式粒度分析装置(Malvern社製、マスターサイザー3000)により粒度分布測定を行うことにより得た。
また、ビスマス-テルル系熱電半導体材料であるn型ビスマステルライドBi2Te3(高純度化学研究所製、粒径:180μm)を上記と同様に粉砕し、平均粒径1.4μmの熱電半導体微粒子T2を作製した。
【0118】
(熱電半導体組成物の作製)
得られたP型ビスマス-テルル系熱電半導体材料の微粒子T1を90質量部、耐熱性樹脂としてポリイミド前駆体であるポリアミック酸(シグマアルドリッチ社製、ポリ(ピロメリト酸二無水物-co-4,4´-オキシジアニリン)アミド酸溶液、溶媒:N-メチルピロリドン、固形分濃度:15質量%)5質量部、及びイオン液体として[1-ブチル-3-(2-ヒドロキシエチル)イミダゾリウムブロミド]5質量部を混合分散した熱電半導体組成物からなる塗工液(P)を調製した。
また、得られたN型ビスマス-テルル系熱電半導体材料の微粒子T2を90質量部、耐熱性樹脂としてポリイミド前駆体であるポリアミック酸(シグマアルドリッチ社製、ポリ(ピロメリト酸二無水物-co-4,4´-オキシジアニリン)アミド酸溶液、溶媒:N-メチルピロリドン、固形分濃度:15質量%)5質量部、及びイオン液体として[1-ブチル-3-(2-ヒドロキシエチル)イミダゾリウムブロミド]5質量部を混合分散した熱電半導体組成物からなる塗工液(P)を調製した。
【0119】
(電極及び隔壁の形成)
以下の手順により、上述した
図2に準じた配置パターンで電極及び隔壁が設けられた基材を作製した。
まず、銅箔を添付したポリイミドフィルム基材(宇部エクシモ株式会社製、製品名:ユピセルN、ポリイミド基材の厚さ:50μm、銅箔:9μm)を準備した。そして、このポリイミドフィルム基材上の銅箔を、塩化第二鉄溶液を用いてウェットエッチングし、後述するP型及びN型熱電素子の配列に対応した配置パターンで配列された電極と、隔壁(幅0.2mm、内側の隔壁と、近接する熱電素子間の距離0.5mm、内側の隔壁と外側の隔壁との間隔0.5mm、第2電極部3bを囲む隔壁の第1部分において近接する一対の局所開放部の離間距離147.3mm、2つの第1電極部3a間の隔壁の第2部分において近接する一対の局所開放部の離間距離56mm、局所開放部に面する隔壁間の距離0.55mm)を形成した。電極は、後述する熱電素子の配置の、隣接するP型熱電素子とN型熱電素子の各境界を跨ぐように、0.55mm×6mmのサイズで形成した。パターニングされた銅箔上に、無電解めっきによりニッケル層(厚さ:9μm)を選択的に積層し、次いでニッケル層上に、無電解めっきにより金層(厚さ:300nm)を選択的に積層することで、電極及び隔壁を形成した。
【0120】
(熱電素子層の形成)
上記で調製した塗工液(P)を、スクリーン印刷法により、電極及び隔壁が形成されたポリイミドフィルム上に塗布し、温度150℃で、10分間アルゴン雰囲気下で乾燥し、厚さが50μmの薄膜を形成した。次いで、同様に、上記で調製した塗工液(N)を、前記ポリイミドフィルム上に塗布し、温度150℃で、10分間アルゴン雰囲気下で乾燥し、厚さが50μmの薄膜を形成した。
さらに、得られたそれぞれの薄膜に対し、水素とアルゴンの混合ガス(水素:アルゴン=3体積%:97体積%)雰囲気下で、加温速度5K/minで昇温し、400℃で1時間保持し、薄膜形成後のアニール処理を行うことにより、熱電半導体材料の微粒子を結晶成長させ、P型熱電素子及びN型熱電素子を作製した。
こうして、1mm×6mmのP型熱電素子と、1mm×6mmのN型熱電素子とが交互に6mmの辺で接するように隣接して1対を配置することで、P型熱電素子及びN型熱電素子380対を、ポリイミドフィルム基材の面内に、電気的に直列になるように設けた熱電素子層を作製した。この際、P型熱電素子とN型熱電素子とを38対連結したものを一列として、これを10列設けた。熱電素子層の各列間の間隔は1mmであり、熱電素子層の各列の連結用電極は、0.55mm×13mmであり、起電力取り出し用電極は、12.775mm×6mmである。起電力取り出し用電極は、両隔壁と電気的に連結している。
【0121】
(被覆層及び高熱伝導層の形成)
絶縁層としてアルミ蒸着PETフィルム(三菱伸銅社製、厚さ:12μm)を利用し、その両面に粘着層(ソマール社製、商品名:EP-0002EF-01MB、厚さ:25μm)をラミネートした構成の被覆層を作製した。ラミネートは、50℃の温度で行った。
作製した熱電素子層付き基材の上面(熱電素子層の表面)に、上記の被覆層を介して、また、熱電素子層付き基材の下面(基材における熱電素子層が設けられているのとは逆側の面)には、単層の粘着剤層からなる被覆層(ソマール社製、商品名:EP-0002EF-01MB、厚さ:25μm)を介して、それそれ、ストライプ状の高熱伝導性材料(銅箔)からなる高熱伝導層(C1020、厚さ:100μm、幅:1mm、長さ:100mm、間隔:1mm、熱伝導率:398(W/m・K))を配置した。この際、ストライプ状の高熱伝導層は、P型熱電変換材料とN型熱電変換材料とが隣接する部位の上部及び下部に互い違いに配置した。
熱電素子層への被覆層のラミネート、基材への粘着層のラミネート、及び、被覆層及び粘着層への高熱伝導層のラミネートは、いずれも80℃の温度で行った。なお、80℃に加熱することで、粘着材料の流動性が十分高くなるので、被覆層や粘着層を十分密着させることができる。
その後、150℃の環境下に30分間熱電変換モジュールを静置し、粘着層を硬化させ、熱電変換モジュールを得た。
なお、上記粘着層(ソマール社製、商品名:EP-0002EF-01MB、厚さ:25μm)の水蒸気透過度は、54g/m2・dayであった。
【0122】
<比較例1>
ポリイミドフィルム上に隔壁を形成していない以外は実施例1と同様にして、フレキシブル熱電変換素子を作製した。
図14に、熱電変換モジュールの比較例(熱電変換モジュール1B)の構成を示す平面図を、
図15に、熱電変換モジュール1Bの端部付近の断面図(
図14の符号XV-XV’で示すラインに沿った断面図)を示す。
図14、15に示すように、熱電変換モジュール1Bには隔壁が設けられていない。このため、第1被覆層81に含まれる接着層81aと基材2との界面Fから、第1被覆層81に含まれる基材層81cまでの距離gが、熱電変換モジュール1Bの側面から熱電素子層6に至るまで大きいままとなる。したがって、
図15に太い白抜き矢印で示したように、界面Fを伝播する水分や、第1被覆層81の接着層81aの側面Sから侵入する水分を阻止しづらい構成となっている。
【0123】
[熱電変換素子の耐久性の測定]
実施例及び比較例で作製した熱電変換モジュールの耐久性を、以下の方法で測定・算出した。
上述した手順で作製した熱電変換モジュールの取り出し電極間の抵抗値を、ディジタルハイテスタ(日置電機社製、型名:3801-50)で測定した。また、上記熱電変換モジュールを湿熱環境下(60℃、90%RH)に5日静置した後、取り出し電極間の抵抗値を上記装置で測定した。そして、湿熱環境投入前の測定値R1に対する、湿熱環境下静置後の抵抗値R2の増加率((R2-R1)/R1)を算出し、その数値によって耐久性を評価した。結果を表1に示す。
【0124】
【0125】
表1の結果から明らかなように、実施例1の熱電変換モジュールは抵抗増加率が小さい。これに対して、比較例1の熱電変換モジュールは、抵抗増加率が大きくなり、実施例1の6倍以上の値となっている。つまり、実施例1の熱電変換モジュールは、比較例1よりも湿熱環境下における駆動特性が優れており、長寿命化にも寄与し得ることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0126】
本発明の熱電変換モジュールは、外部から熱電素子層へ水分が侵入するのを防止し、高い耐久性を発揮することができる。このため、高湿環境や湿度変化が大きい環境等、設置場所の環境に関わらず高い耐久性を発揮できる熱電変換モジュールとすることができる。また、フレキシブル性を持たせることにより、より様々な場所に設置できる熱電変換モジュールとすることができる。
【符号の説明】
【0127】
1A、1B:熱電変換モジュール
2:基材
2a:貫通孔
3:電極
3a:第1電極部
3b:第2電極部
3c:第3電極部
4:N型熱電素子層
5:P型熱電素子層
6:熱電素子層
31、32、33:隔壁
31a、31b、32a、32b、33a、33b、33a1、33a2:局所開放部
81:第1被覆層
81a、81b:接着層
81c:補助基材層
82:第2被覆層
91:第1高熱伝導層
92:第2高熱伝導層
F:基材と被覆層との界面
S:被覆層の側面
g:隔壁上の被覆層の厚さ
h:隔壁の高さ
w1、w2:隔壁の幅
x:電極と隔壁との距離
y:隔壁間の距離