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特許7506062ポリエチレンテレフタレートの酵素分解法
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  • 特許-ポリエチレンテレフタレートの酵素分解法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-17
(45)【発行日】2024-06-25
(54)【発明の名称】ポリエチレンテレフタレートの酵素分解法
(51)【国際特許分類】
   C08J 11/10 20060101AFI20240618BHJP
   C12N 15/55 20060101ALN20240618BHJP
【FI】
C08J11/10 ZAB
C12N15/55 ZNA
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2021523510
(86)(22)【出願日】2019-11-05
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-02-07
(86)【国際出願番号】 EP2019080253
(87)【国際公開番号】W WO2020094646
(87)【国際公開日】2020-05-14
【審査請求日】2022-09-16
(31)【優先権主張番号】1860222
(32)【優先日】2018-11-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】514245373
【氏名又は名称】キャルビオス
【氏名又は名称原語表記】CARBIOS
(74)【代理人】
【識別番号】110001508
【氏名又は名称】弁理士法人 津国
(72)【発明者】
【氏名】マルティ,アラン
【審査官】森 健一
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/198786(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/011284(WO,A1)
【文献】特表2016-505650(JP,A)
【文献】特開2004-290130(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 11/10
C12N 15/55
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
PETを、前記PETを解重合することができる酵素と接触させることによるポリエチレンテレフタレート(PET)の酵素的解重合のための方法であって、
-PETが、最大25%の初期結晶化度を有し、
-解重合工程が、前記PETのTg±10℃に等しい温度Tで実施され、
-酵素は、前記酵素によるPETの解重合時間(tD)が、前記PETの結晶化時間(tR)よりも厳密に短くなるように選択され、ここで、時間tDは、前記温度Tで前記酵素が少なくとも80%解重合するために前記酵素に必要な時間を表し
時間tRは、前記温度Tで最大で35%の結晶化度に到達するために前記PETに必要な時間を表し、そして
選択された酵素が配列番号1と少なくとも90%の同一性を有するアミノ酸配列を有し、配列番号1に対してF208I+D203C+S248C+Y92G、F208W+D203C+S248C+Y92G、またはF208I+D203C+S248C+V170I+Y92Gから選択される少なくとも1つの変異の組み合わせを含む、
ことを特徴とする、前記方法。
【請求項2】
温度Tが、PETのTg-10℃とTg+5℃との間に含まれることを特徴とする、請求項1記載の解重合方法。
【請求項3】
温度Tが、66℃から80℃の間、優先的には68℃から73℃の間に含まれることを特徴とする、請求項1又は2記載の解重合方法。
【請求項4】
前記PETのサンプルについて、解重合工程の前に、PETの結晶化時間が測定されることを特徴とする、請求項1~3のいずれか一項記載の解重合方法。
【請求項5】
選択された酵素が、20時間以下の時間tDを有することを特徴とする、請求項1~4のいずれか一項記載の解重合方法。
【請求項6】
酵素が、温度Tよりも厳密に高い融解温度(Tm)を有する酵素から選択されることを特徴とする、請求項1~5のいずれか一項記載の解重合方法。
【請求項7】
酵素が、温度T+10℃以上、優先的には温度T+15℃以上、より優先的にはT+20℃以上のTmを有する酵素から選択されることを特徴とする、請求項1~6のいずれか一項記載の解重合方法。
【請求項8】
25%未満の初期結晶化度を有するPETが選択されることを特徴とする、請求項1~7のいずれか一項記載の解重合方法。
【請求項9】
PETの初期結晶化度が、20%未満であることを特徴とする、請求項1~8のいずれか一項記載の解重合方法。
【請求項10】
解重合時間(tD)が、1時間から16時間の間、優先的には1時間から10時間の間に含まれることを特徴とする、請求項1~9のいずれか一項記載の解重合方法。
【請求項11】
前記PETが、解重合工程の前にアモルファス化工程に供されることを特徴とする、請求項1~10のいずれか一項記載の解重合方法。
【請求項12】
時間tDは、前記温度Tで前記酵素が前記PETの少なくとも90%を解重合するのに必要な時間を表し、時間tRは、前記PETが前記温度Tで最大30%の結晶化度に到達するために必要な時間を表すことを特徴とする、請求項1~11のいずれか一項記載の解重合方法。
【請求項13】
-PETが、最大25%の初期結晶化度、及び65℃±1℃と80℃±1℃との間に含まれるTgを有し
-解重合ステップが、72℃±1℃の温度Tで実行され、
-酵素が、前記酵素によるPETの解重合時間(tD)が前記PETの結晶化時間(tR)よりも厳密に短いように選択され、時間tDは、選択された酵素が前記温度Tで前記PETの少なくとも80%、優先的には少なくとも85%、より優先的には少なくとも90%を解重合するために必要な時間を表し、時間tRは、前記温度Tで最大で35%の結晶化度に到達するために前記PETが必要な時間を表す
ことを特徴とする、請求項1~12のいずれか一項記載の解重合方法。
【請求項14】
-プラスチック材料が、
最大25%の初期結晶化度及び60℃±1℃と75℃±1℃との間に含まれるTgを有するPETを含む布及び/又は繊維及び/又は布地廃棄物から選択され、
-解重合ステップが、65℃±1℃の温度Tで実行され、及び
-PETを分解することができる酵素が、前記酵素によるPETの解重合時間(tD)が前記PETの結晶化時間(tR)よりも厳密に短くなるように選択され、ここで、時間tDは、前記温度Tで前記PETの少なくとも80%、優先的には少なくとも85%、より優先的には少なくとも90%を解重合するために選択された酵素に必要な時間を表し、時間tRは、前記温度Tで最大35%の結晶化度に到達するために前記PETが必要な時間を表す
ことを特徴とする、請求項1~13のいずれか一項記載の解重合のための方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の技術分野
本発明は、特にプラスチック材料に含まれるポリエチレンテレフタレート(PET)の酵素的解重合の方法に関する。本発明によるプロセスは、特に、工業規模または半工業規模で実施することができる。
【0002】
背景技術
プラスチック製品は耐久性があり安価な素材であり、さまざまな用途(食品包装、衣料用繊維など)のさまざまな製品の製造に使用できる。その結果、プラスチックの生産はここ数十年で劇的に増加した。ほとんどが短期間の用途に使用されるため、プラスチック廃棄物が蓄積し、その処理が必要になる。これらのプラスチックを構成するさまざまなポリマーには、テレフタル酸とエチレングリコールから製造された芳香族ポリエステルであるポリエチレンテレフタレート(PET)が含まれる。これは、食品包装(ボトル、フラスコ、ジャー、トレイ、ポーチ)、衣類、装飾(カーペット)、家庭用リネンなどのテキスタイルの製造などの多くの用途で使用される。
【0003】
廃棄物の蓄積という環境的および経済的問題に対処するために、リサイクルまたはエネルギー回収技術が開発されてきた。機械的リサイクルプロセスは今日でも最も一般的に使用されているが、多くの欠点がある。確かに、それは実装するために洗練された費用のかかる選別を必要とし、より低い価値(より低い分子量、添加剤の制御されていない存在)の用途を目的とした品質の低下した再生プラスチックの生産につながる。さらに、これらの再生プラスチックは、石油由来のバージンプラスチックと競合しない。
【0004】
最近、プラスチック製品の酵素的リサイクルのための革新的なプロセスが開発され、特に特許出願WO2014/079844、WO2015/097104、WO2015/173265、およびWO2017/198786に記載されている。従来の機械的リサイクルプロセスとは異なり、これらの酵素プロセスは、プラスチックに含まれるポリマーの酵素的解重合によって、ポリマーの主成分(モノマー)に戻ることを可能にする。次に、得られたモノマーを精製し、新しいポリマーを再重合するために使用することができる。これらの酵素プロセスは、酵素の特異性を介して、コストのかかるプラスチックの選別を回避することを可能にするだけでなく、油由来のポリマーと同等の品質のリサイクルポリマーをもたらす無限のリサイクルを提案することも可能にする。特に、これらのプロセスにより、PETからテレフタル酸とエチレングリコールを製造することが可能になる。
【0005】
発明の概要
出願人は、PETの酵素的解重合のプロセスに取り組むことにより、PETを含むプラスチックをこのPETのTgに近い温度で酵素的に解重合するための最適化されたプロセスを開発し、ポリマーの鎖にアクセスしやすくすることに成功した。解重合酵素により、解重合速度が向上する。
【0006】
そのようなプロセスを達成するために、発明者はアンチノミック問題に取り組む必要があった。実際、ポリマーを解重合できる酵素は、半結晶性ポリマーよりもアモルファスポリマーに対してほとんど活性がある。ポリマーのTgに近い温度での解重合プロセスは、このポリマー鎖の移動度の増加を介して、解重合される前記ポリマー鎖への酵素のアクセス可能性を理論的には改善することができるが、ポリマーがTgに近いかそれ以上の温度に付されると、後者はより急速に再結晶化する傾向があるため、ポリマーが酵素の解重合をより困難にする。
【0007】
したがって、本発明者は、一方で、解重合前にPETの結晶化度が十分に低いことを確実にすることにより、前記PETのTgに近いまたはそれを超える温度でPET解重合プロセスを実行することが可能であることを実証した。他方、このPETを、酵素解重合と両立しない結晶化度に到達するのに必要な時間よりも短い解重合時間で解重合することができる酵素を選択することによって、本発明者によって開発されたプロセスは、工業規模の実施と互換性のある反応器内で解重合速度を維持することを可能にする。一例として、本発明者は、72℃の温度、10時間未満で90%を超えるPETを解重合することに成功した。有利には、本発明のプロセスは、PETを含むプラスチックの解重合および/またはリサイクルのために実施することができる。
【0008】
したがって、本発明は、その目的として、前記PETが最大25%の初期結晶化度を有することを特徴とする、前記PETを解重合することができる酵素と接触させることによるポリエチレンテレフタレート(PET)の酵素解重合のためのプロセスを有する。解重合工程は、前記PETのTg±10℃に等しい温度Tで実施され、酵素は、前記酵素によるPETの解重合時間(tD)が結晶化時間よりも厳密に短くなるように選択される、ここで、時間tDは、前記酵素が前記温度Tで前記PETの少なくとも80%を解重合するのに必要な時間を表し、時間tRは、前記PETが前記温度Tでほとんど35%の結晶化度に達するのに必要な時間を表す。
【0009】
解重合工程は、66℃から80℃、優先的には68℃から73℃を含む温度Tで優先的に実施され、時間tDは20時間以下、優先的には16時間未満である。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】異なる温度での前記材料のインキュベーション中のプラスチック材料に含まれるPETの再結晶動態である。
【0011】
発明の詳細な説明
定義
本発明の文脈において、「プラスチック材料」という表現は、プラスチック製品(シート、トレイ、フィルム、チューブ、ブロック、繊維、布など)およびプラスチック製品を製造するために使用されるプラスチック組成物を指す。プラスチック材料は、アモルファスおよび/または半結晶性ポリマーで構成されていることが好ましい。プラスチック材料は、ポリマーに加えて、可塑剤、鉱物または有機充填剤、染料などの追加の物質または添加剤を含み得る。したがって、本発明の文脈において、プラスチック材料は、任意のプラスチック製品を指し、及び/又は半結晶性及び/又はアモルファス形態の少なくとも1つのポリマー、より具体的には少なくとも1つのPETを含むプラスチック組成物を指す。
【0012】
プラスチック製品には、硬質または柔軟な包装(フィルム、ボトル、トレイ)、農業用フィルム、バッグ、使い捨て物体、繊維、布地、不織布、床材、プラスチック廃棄物または繊維廃棄物などの製造プラスチック製品が含まれる。
【0013】
「ポリマー」という用語は、その構造が、化学共有結合によって連結された複数の繰り返し単位(すなわち、「モノマー」)からなる化合物を指す。本発明の文脈において、「ポリマー」という用語は、より具体的には、プラスチック材料の組成物に使用されるそのような化合物を指す。
【0014】
「ポリエステル」という用語は、その構造の主鎖にエステル官能基を含むポリマーを指す。エステル官能基は、炭素と他の3つの原子との間の結合:別の炭素原子との単結合、酸素との二重結合、および別の酸素原子との単結合によって特徴付けられる。単結合によって炭素に結合している酸素は、それ自体が単結合によって別の炭素に結合している。ポリエステルは、1つのタイプのモノマー(つまり、ホモポリマー)のみ、または少なくとも2つの異なるモノマー(つまり、コポリマー)で作ることができる。ポリエステルは、芳香族、脂肪族、または半芳香族にすることができる。例として、ポリエチレンテレフタレートは、テレフタル酸とエチレングリコールの2つのモノマーで構成される半芳香族共重合体である。
【0015】
本発明の文脈において、「半結晶性ポリマー」という用語は、結晶性領域と非晶性領域が共存する部分的に結晶性のポリマーを指す。半結晶性ポリマーの結晶化度は、さまざまな分析方法で推定でき、一般に10%から90%に含まれる。結晶化度が10%未満のポリマーは、アモルファスと見なすことができる。
【0016】
ポリマーまたはプラスチック材料に関する「解重合プロセス」は、ポリマーまたはプラスチック材料の少なくとも1つのポリマーが、モノマーおよび/またはオリゴマーなどのより小さな分子に分解されるプロセスを指す。本発明の場合、PETまたはPETを含むプラスチック材料を解重合するためのプロセスは、PETがテレフタル酸及び/又はエチレングリコールなどのモノマー及び/又はテレフタル酸ジメチル(DMT)、メチル-2-ヒドロキシエチルテレフタレート(MHET)、ビス(2-ヒドロキシエチル)テレフタレート(BHET)などのオリゴマーに分解されるプロセスを指す。
【0017】
PETの選択
本発明による解重合プロセスは、前記PETを、それを解重合することができる少なくとも1つの酵素と接触させることによる、PETの酵素的解重合に基づく。 より具体的には、本発明者は、最大25%の初期結晶化度を有するPETから出発し、前記PETのTg-10℃とTg+10℃との間に含まれる温度Tで実施される解重合工程を含む、PETの酵素的解重合のためのプロセスを開発した。また、本発明の特定の実施形態によれば、PETは、後者が最大25%の初期結晶化度を有するように選択される。
【0018】
本発明によれば、解重合工程に供されるPETは、解重合工程の開始時にアモルファスおよび/または半結晶性のPETであり、その初期結晶化度は25%以下である。「初期結晶化度」とは、解重合工程の開始時、すなわち、前記PETが解重合酵素と接触する前の、PETの結晶化度を意味する。したがって、PETが1つまたは複数の前処理ステップ(アモルファス化、微粉化)を受ける場合、「初期結晶化度」は、これらの前処理ステップ後の結晶化度に対応する。
【0019】
半結晶性ポリマーの結晶化度は、さまざまな分析方法で推定でき、一般に10%から90%に含まれる。たとえば、示差走査熱量測定(DSC)またはX線回折を使用して、ポリマーの結晶化度を決定できる。小角X線散乱(SAXS)や広角X線散乱(WAXS)や赤外分光法など、他の手法もポリマーの結晶化度を決定するのに適しているが、信頼性は低くなる。本出願では、結晶化度は示差走査熱量測定(DSC)によって測定される。より具体的には、DSC実験は、以下のプロトコルを使用して実施された:少量のプラスチック材料(数mg)が、室温または室温より低い温度から溶融温度(Tm)を超える温度まで一定の加熱速度で加熱される。ポリマーの。熱流束データが収集され、温度の関数としてプロットされる。パーセンテージ(%)で表される結晶化度(Xc)は、次の式に従って計算される。
【化1】
【0020】
その理解について:
-ΔHfは融解エンタルピーであり、吸熱融解ピークを積分することで決定でき、
-ΔHccは低温結晶化エンタルピーであり、発熱性の低温結晶化ピークを積分することによって決定され、
-wtは、プラスチック中のポリエステルの重量分率を表し、そして
-ΔHf100%は、完全に結晶性のポリマーの融解エンタルピーに対応し、文献に記載されている。たとえば、PETのΔHf100%は、文献では125.5J/gに対応する(Polymer Data Handbook、第2版、James E. Mark編、OXFORD、2009年)。
【0021】
結晶化度の測定における許容誤差は約10%である。したがって、25%と評価された結晶化度は、22.5%から27.5%の間に含まれる結晶化度に対応する。
【0022】
プロセスの一実施形態によれば、25%±10%未満の結晶化度を有するPETが選択される。好ましい実施形態では、PETは、20%±10%未満の初期結晶化度を有する。別の好ましい実施形態では、解重合工程に供されるPETは、アモルファスPETであり、すなわち、結晶化度が10%±10%未満である。
【0023】
本発明によれば、25%以下の初期結晶化度を達成するように、当業者に知られている任意の手段によって、解重合工程の上流でPETアモルファス化工程を実施することが可能である。そのようなアモルファス化ステップは、特に出願WO 2017/198786に記載されている。
【0024】
特定の実施形態では、本発明による解重合プロセスは、少なくともPETを含むプラスチック材料を用いて実施される。好ましい実施形態では、PETは、前記プラスチック材料の少なくとも80重量%、好ましくは少なくとも85%、90%、95%を表す。
【0025】
本発明の特定の文脈において、「プラスチック材料」という用語は、繊維、布、不織布、糸などの繊維の形態の任意のプラスチック製品を指す。したがって、特定の実施形態では、プラスチック材料は布、および/または繊維および/または繊維廃棄物から選択される。PETは、前記プラスチック材料の総重量に基づいて少なくとも60重量%、好ましくは少なくとも65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%を示す。
【0026】
特定の実施形態では、プラスチック材料は、PETとポリ乳酸(PLA)の混合物、PETとポリエチレン(PE)の混合物、PETとポリトリメチレンテレフタレート(PTT)の混合物、PETとポリアミド(PA)の混合物、またはPETと綿の混合物を含む。
【0027】
有利なことに、反応器で使用されるプラスチック材料は、プラスチック廃棄物または繊維廃棄物である。この廃棄物は、リサイクルを目的とした収集チャネルから発生する可能性があるが、生産チャネルまたはリサイクルチャネルからの廃棄物である可能性もあるため、プラスチック廃棄物以外の化合物が含まれる可能性がありる。これは、PETをこれらのフローに存在する他の要素(紙、ボール紙、アルミニウム、接着剤など)と組み合わせてリアクターで使用できることを意味する。特定の実施形態では、解重合工程が実施される反応器は、プラスチック材料の総重量に基づいて、少なくとも80重量%、優先的に少なくとも85%、90%、95%重量%のPETを優先的に含有する、少なくともPETを含むいくつかのプラスチック材料を充填される。
【0028】
本発明によれば、PETは、すなわち、前記PETが解重合酵素と接触させられる前のその初期ガラス転移温度(Tg)によって、特徴付けられる。したがって、PETが前処理ステップ(アモルファス化、微粉化)を受ける場合、PETはこれらの前処理ステップ後のTgによって特徴付けられる。この温度は、さまざまな分析方法で推定できる。たとえば、示差走査熱量測定(DSC)または示差熱分析(DTA)を使用して、ポリマーのTgを決定できる。この説明では、Tgは、例に示されているように、最初の温度スキャン中にDSCによって測定されたガラス転移温度に対応する。一般に、Tgの測定における許容誤差は約2℃である。
【0029】
本発明の特定の実施形態では、PETの初期Tgは、60℃から90℃の間、好ましくは60℃から85℃の間に含まれる。別の特定の実施形態では、PETの初期Tgは、65℃±1℃と80℃±1℃との間に含まれる。別の特定の実施形態では、PETの初期Tgは、65℃±2℃と80℃±2℃との間に含まれる。別の特定の実施形態では、PETの初期Tgは、60℃±2℃と70℃±2℃との間に含まれる。
【0030】
本発明によれば、ポリエステル解重合工程の前に、解重合工程の上流にPET前処理工程、特に、PETまたはPETを含むプラスチック材料を粉砕する工程を実施することが可能である。好ましい実施形態では、PETまたはPETを含むプラスチック材料は、当業者に知られている任意の適切な手段によって粉末形態にされる。この特定の場合、PET、またはPETを含むプラスチック材料は、粉末形態に変換されるように有利に微粉化される。
【0031】
特定の実施形態では、反応器に導入されたPETまたはPETを含むプラスチック材料は、2mm未満の平均粒子サイズ(d50)、好ましくは1mm未満の粒子サイズを有する粉末の形態である。別の実施形態では、反応器で使用されるPETまたはPETを含むプラスチック材料は、500μm未満の平均粒子サイズ(d50)を有する粉末の形態である。
【0032】
特定の実施形態では、解重合プロセスは、PETをアモルファス化するステップと、それに続く、PET解重合ステップの前に、PETまたはPETを含むプラスチック材料を粉砕および/または微粉化するステップとを含む。
【0033】
特定の実施形態では、解重合プロセスは、PETを解重合するステップの前に、PETを非晶質化するステップを含み、PET又はPETを含むプラスチック材料は、非晶質化のために使用される押出機から顆粒の形態で反応器に係合される。したがって、PETまたはPETを含むプラスチック材料は、2mmより小さい、優先的には1mmより小さい顆粒の形態で係合される。
【0034】
酵素の選択
本発明によれば、解重合プロセスは、PETを解重合することができる酵素を用いて実施される。より詳細には、酵素は、前記酵素によるPETの解重合時間(tD)が、前記PETの結晶化時間(tR)よりも厳密に小さくなるように選択される。
【0035】
本発明によれば、PETの結晶化時間「(tR)」は、初期結晶化度Xcの前記PETが温度Tにおいて35%以下の結晶化率、または結晶化度に到達するのに要する時間として定義される。この時間は、材料の性質および/またはポリマーの性質(すなわち、添加剤および/またはコモノマーの存在)、分子量、Tg、さらに熱履歴(非晶質化または微粉化などの冷却および/または加熱を伴う先行処理)に依存する。この時間は、温度Tが調節され、測定中の攪拌および/またはpHの影響を受けない条件下で測定される。本発明によれば、PETを含むプラスチック材料をこの温度Tでインキュベートし、異なる時間間隔で採取したサンプルの結晶化度を(DSCによって)定期的に測定することによって、温度TにおけるPETの結晶化時間(tR)を測定することが可能である。
【0036】
本発明によれば、解重合時間「(tD)」は、ポリマー分解酵素が温度Tで前記ポリマーの少なくとも80%を解重合するのに必要な時間を表す。特定の実施形態では、この時間は、酵素の至適pHおよび飽和酵素濃度、すなわち酵素の添加によって反応速度が改善されない濃度以上で決定される。したがって、時間tDは、酵素がポリマー中に存在するモノマーの80%を放出するのに必要な時間に相当する。本発明の特定の場合、時間tDは、酵素とPETを接触させた後、PET中に存在するテレフタル酸(TA)当量の80%を得るのに必要な時間に相当し、TA当量は、遊離TAおよびBHETおよびMHETオリゴマー中に存在するTAに相当する。本発明の別の具体例では、時間tDは、酵素とPETを接触させた後、PET中のモノエチレングリコール(MEG)当量の80%(遊離MEGおよびBHETおよびMHETオリゴマー中に存在するMEGに相当するMEG当量)を得るのに必要な時間に相当する。
【0037】
時間tDとtRの測定は、同じ温度Tで行われることが規定されている。
【0038】
本発明によれば、酵素は、解重合工程が実施される温度Tよりも厳密に高い融解温度(Tm)を有する酵素から有利に選択される。
【0039】
本発明の文脈では、温度Tmは特に、検討中の酵素の半分の量がアンフォールディングまたはミスフォールディングされ、正しくフォールディングされた酵素の活性と比較して、その活性の全部または一部が失われる温度に対応する。特に、Tmは対象とする酵素の耐熱性を推定することを可能にする。Tmは、当業者に公知の任意の手段、特に示差走査蛍光測定法(DSF)によって測定することができる。あるいは、Tmは、円偏光二色性法を用いたタンパク質フォールディング解析によって評価することもできる。好ましくは、Tmは、実験セクションに記載されるように、DSFを用いて測定される。
【0040】
好ましい実施形態では、酵素は、TmがT+10℃以上、優先的にはT+15℃以上、より優先的にはT+20°以上である酵素から選択される。
【0041】
ポリマーに対する酵素の解重合活性は、当業者に公知の任意の手段によって評価することができる。例えば、ポリマーの質量の損失、またはポリマーの解重合速度の測定、すなわち、ある期間にわたって生成されるモノマーおよび/またはオリゴマーの量によって評価することができる。したがって、本発明の文脈において、PET分解酵素の解重合活性は、特定の温度およびpH条件下で、PETまたはPET含有プラスチック材料を前記酵素と接触させることによって放出されるオリゴマー(BHETおよび/またはMHET)および/またはモノマー(テレフタル酸および/またはエチレングリコールおよび/またはDMT)の量を測定することによって評価することができる。解重合活性は、解重合反応中の塩基の添加をモニターすることによっても評価することができる。塩基の添加は、実際、解重合により生成したテレフタル酸を中和し、pHを調整するために行われる。また、反応中に添加される塩基の量によって、反応中に生成したテレフタル酸の量を測定することが可能になる。好ましくは、反応液を酵素の至適pHに維持するように塩基性溶液を添加する。
【0042】
有利には、前記酵素は、前記PETを分解するクチナーゼ、リパーゼ及びエステラーゼから選択される。特に、前記酵素は、前記PETを分解するエステラーゼから選択される。
【0043】
例えば、酵素は、Thermobifida cellulosityca、Thermobifida halotolerans、Thermobifida fusca、Thermobifida alba、Bacillus subtilis、Fusarium solani pisi、Humicola insolens(UniProtデータベースのエントリーA0A075B5G4のものなど)、Sirococcus conigenus、Pseudomonas mendocinaおよびThielavia terrestris由来のクチナーゼ、またはそれらの変異体から選択され得る。
【0044】
別の態様では、クチナーゼは、Sulaiman et al. 2012に記載されているLC-Cutinaseのようなメタゲノムライブラリー由来のクチナーゼ、またはその変異体から選択される。
【0045】
別の例では、酵素はリパーゼであり、好ましくは Ideonella sakaiensis 由来のものである。あるいは、酵素は、Novozym 51032のような市販の酵素またはこれらの酵素の変異体から選択することができる。
【0046】
もちろん、反応器に複数の酵素、特に上記の酵素のうち少なくとも2種類を添加することも可能である。
【0047】
特定の態様において、酵素(又は酵素)は、配列番号1及び/又は配列番号2及び/又は配列番号3及び/又は配列番号4及び/又は配列番号5と少なくとも75%の同一性を有するアミノ酸配列を有し、PET解重合活性を有する酵素から選択される。特定の態様において、酵素は、配列番号1と少なくとも75%の同一性を有するアミノ酸配列を有し、PET解重合活性を有する酵素から選択される。
【0048】
特定の実施態様において、酵素は、ポリマーをオリゴマーに解重合することができ、この場合、それは、有利には、前記オリゴマーをモノマーに解重合することができる酵素と会合される。特定の例において、2つの酵素は、配列番号4および/または配列番号5と少なくとも75%の同一性を有するアミノ酸配列を有する酵素から選択される。
【0049】
本発明者は、選択された酵素が配列番号1と少なくとも90%の同一性を有するアミノ酸配列を有し、配列番号1に対してF208I+D203C+S248C+Y92G、F208W+D203C+S248C+Y92G、またはF208I+D203C+S248C+V170I+Y92Gから選択される少なくとも1つの変異の組み合わせを含む特定の場合に、本発明のプロセスが特に適していることを同定した。
【0050】
有利なことに、時間tDは20時間以下、優先的には18時間以下、16時間以下、14時間以下、12時間以下、10時間以下である。
【0051】
特定の実施形態において、時間tRは、25%以下の初期結晶化度を有する前記PETが、前記温度Tにおいて30%以下の結晶化度に達するのに必要な時間に対応する。
【0052】
したがって、特定の実施形態において、本発明によるポリエチレンテレフタレート(PET)酵素的解重合プロセスは、以下を特徴とする:
- 前記PETは、最大25%の初期結晶化度を有する;
- 前記解重合ステップは、前記PETのTg±10℃に等しい温度Tで実施され、そして
- 前記酵素による前記PETの解重合時間(tD)が、前記PETの結晶化時間(tR)よりも厳密に短くなるように、前記酵素が選択され、ここで、時間tDは、選択された酵素が前記温度Tで前記PETの少なくとも80%を解重合するのに必要な時間を表し、時間tRは、前記PETが前記温度Tで30%、または30%未満の結晶化度に到達するのに必要な時間を表す。
【0053】
有利には、酵素は、温度T+10℃以上、優先的には温度T+15℃以上、より優先的には温度T+20°以上のTmを有する酵素から選択される。
【0054】
したがって、特定の実施形態において、本発明によるポリエチレンテレフタレート(PET)酵素的解重合プロセスは、以下を特徴とする:
- 最大25%の初期結晶化度を有するPETが選択される;
- 前記酵素によるPETの解重合時間(tD)が、前記PETの結晶化時間(tR)よりも厳密に小さくなるように、PETを分解することができる酵素が選択され、ここで、時間tDは、選択された酵素が前記温度Tで前記PETの少なくとも80%を解重合するのに必要な時間を表し、時間tRは、前記PETが前記温度Tで30%、または30%未満の結晶化度に達するのに必要な時間を表す;および
- 前記PETの酵素的解重合ステップは、前記PETのTg±10℃に等しい温度Tで、前記PETを前記酵素と接触させることによって実施される。
【0055】
有利には、酵素は、温度T+10℃以上、優先的には温度T+15℃以上、より優先的には温度T+20°以上のTmを有する酵素から選択される。
【0056】
好ましい実施形態において、時間tDは、前記酵素が前記温度Tにおいて前記PETの少なくとも85%、優先的には少なくとも90%を解重合するのに必要な時間に相当する。
【0057】
したがって、好ましい実施形態において、本発明によるポリエチレンテレフタレート(PET)酵素的解重合プロセスは、以下を特徴とする:
- PETは、最大25%の初期結晶化度を有する;
- 解重合ステップは、前記PETのTg±10℃に等しい温度Tで実施され、そして
- 前記酵素による前記PETの解重合時間(tD)が、前記PETの結晶化時間(tR)よりも厳密に短くなるように、前記酵素が選択され、ここで、時間tDは、選択された酵素が前記温度Tで前記PETの少なくとも85%、優先的には少なくとも90%を解重合するのに必要な時間を表し、時間tRは、前記PETが前記温度Tで多くとも35%、優先的には多くとも30%の結晶化度に達するのに必要な時間を表す。
【0058】
有利には、酵素は、温度T+10℃以上、優先的には温度T+15℃以上、より優先的には温度T+20°以上のTmを有する酵素から選択される。
【0059】
好ましい実施形態において、本発明によるポリエチレンテレフタレート(PET)酵素的解重合プロセスは、以下を特徴とする:
- 最大25%の初期結晶化度を有するPETが選択される;
- 前記酵素によるPETの解重合時間(tD)が、前記PETの結晶化時間(tR)よりも厳密に短くなるように、PETを解重合することができる酵素が選択され、ここで、時間tDは、選択された酵素が、前記温度Tで、前記PETの少なくとも85%を、優先的には少なくとも90%解重合するのに必要な時間を表す、 時間tRは、前記温度Tにおいて、前記PETが多くとも35%、優先的には多くとも30%の結晶化度に達するのに必要な時間を表し、および
- 前記PETを解重合するステップは、前記酵素を、前記PETのTg±10℃に等しい温度Tで前記PETと接触させることによって実施される。
【0060】
有利には、酵素は、温度T+10℃以上、優先的には温度T+15℃以上、より優先的には温度T+20°以上のTmを有する酵素から選択される。
【0061】
より一般的には、本発明によるPET酵素解重合プロセスは、以下のステップからなる:
- 最大25%の初期結晶化度を有するPETが選択される;
- 前記酵素によるPETの解重合時間(tD)が、前記PETの結晶化時間(tR)よりも厳密に短くなるように、PETを分解することができる酵素が選択され、ここで、時間tDは、前記酵素が前記温度Tで前記PETの少なくとも80%を解重合するのに必要な時間を表し、時間tRは、前記PETが前記温度Tで35%以下の結晶化度に達するのに必要な時間を表す
- 前記解重合ステップは、前記PETのTg±10℃に等しい温度Tで、前記酵素を前記PETと接触させることによって実施される。
【0062】
解重合ステップ
本発明による解重合ステップは、有利には、体積が500ミリリットル(mL)より大きく、1リットル(L)より大きく、優先的には2L、5L、10Lより大きい反応器中で実施される。特定の実施形態において、本発明のプロセスは、工業的および/または半工業的規模で実施することができる。従って、容積が100L、150L、1000L、10,000L、100,000L、400,000Lより大きい反応器を使用することが可能である。
【0063】
本発明によれば、解重合工程を実施するための反応器に直接PETを装入するか、少なくともPETを含むプラスチック材料を装入することが可能である。
【0064】
本発明によれば、解重合ステップ中に関与する酵素の量は、有利には、工業規模の実施に適合する反応時間で、前記PETの全解重合または準全解重合(すなわち、関与する前記PETの重量に基づいて少なくとも80重量%までの分解)を可能にするのに十分である。
【0065】
実施形態において、係合した酵素の量と係合したPETの量との重量比は、0.01:1000と3:1000との間で構成される。好ましくは、係合した酵素の量と係合したPETの量の比は、0.5:1000と2.5:1000の間、より好ましくは1:1000と2:1000の間で構成される。特定の態様において、係合した酵素の量は、酵素の飽和濃度を達成するのに必要な酵素の量以上である。特定の態様において、酵素は、酵素賦形剤に加えて、生化学において一般的に使用される緩衝剤、保存剤、および/または安定化剤から選択され得る賦形剤を含む組成物の形態で従事され得る。酵素の量は、有利には、賦形剤を含まない酵素の量を意味する。
【0066】
本発明によれば、PET解重合ステップは、前記PETのTg±10℃に等しい温度Tで実施され、Tgは解重合ステップ前の前記PETのTgである。有利には、温度は、酵素の不活性化温度未満に維持される。特定の実施形態において、PET解重合ステップは、PETのTg-10℃とTg+5℃との間で構成される温度Tで実施される。別の特定の実施形態において、解重合ステップは、PETのTg-8℃とTg+2℃との間で構成される温度Tで実施される。別の特定の実施形態では、解重合ステップは、PETのTg-10℃とTg-5℃との間で構成される温度Tで実施される。
【0067】
特定の実施形態では、PETは78℃±2℃のTgを有し、解重合ステップは70℃±2℃に等しい温度Tで実施される。別の特定の実施形態において、PETは78℃±2℃のTgを有し、解重合ステップは72℃±2℃に等しい温度Tで実施される。別の特定の実施形態において、PETは75℃±2℃のTgを有し、解重合ステップは68℃±2℃に等しい温度Tで実施される。別の特定の実施形態において、PETは75℃±2℃のTgを有し、解重合ステップは70℃±2℃に等しい温度Tで実施される。別の特定の実施形態では、PETは70℃±2℃と75℃±2℃の間のTgを有し、解重合ステップは65℃±2℃と72℃±2℃の間で構成される温度Tで実施される。
【0068】
特定の実施形態では、PETは、繊維および/または繊維および/または繊維廃棄物から選択されるプラスチック材料に由来し、60℃±1℃と75℃±1℃との間で構成されるTgを有し、解重合ステップは、65℃±2℃に等しい温度Tで実施される。別の特定の実施形態では、PETは、繊維および/または繊維および/または繊維廃棄物から選択されるプラスチック材料から誘導され、60℃±1℃と70℃±1℃との間で構成されるTgを有し、解重合ステップは、60℃±2℃に等しい温度Tで実施される。
【0069】
特定の実施形態において、解重合ステップは、66℃と80℃の間、優先的には68℃と73℃の間で構成される温度Tで実施される。特定の実施形態において、解重合ステップは、72℃±1℃の温度Tで実施される。別の特定の実施形態では、解重合ステップは70℃±1℃の温度Tで実施される。
【0070】
したがって、特定の実施形態において、本発明によるポリエチレンテレフタレート(PET)酵素的解重合プロセスは、以下を特徴とする:
- PETは、最大25%の初期結晶化度と、65℃±1℃と80℃±1℃の間で構成されるTgを有する;
- 解重合ステップは、66℃と80℃の間、優先的には68℃と73℃の間で構成される温度Tで実施され、そして
- 前記酵素による前記PETの解重合時間(tD)が、前記PETの結晶化時間(tR)よりも厳密に短くなるように、前記酵素が選択され、ここで、時間tDは、選択された酵素が前記温度Tで前記PETの少なくとも80%を解重合するのに必要な時間を表し、時間tRは、前記PETが前記温度Tで35%以下の結晶化度に達するのに必要な時間を表す。
【0071】
有利には、多くとも25%、優先的には多くとも20%の初期結晶化度を有するPETが選択される。特定の実施形態において、PETは、多くとも25%の初期結晶化度と、65℃±1℃と80℃±1℃との間で構成されるTgとを有するものが選択される。
【0072】
別の特定の実施形態において、本発明によるポリエチレンテレフタレート(PET)酵素的解重合プロセスは、以下を特徴とする:
- PETは、最大25%の初期結晶化度、および65℃±1℃と80℃±1℃との間で構成されるTgを有する;
- 解重合ステップは、72℃±1℃の温度Tで実施され、そして
- 前記酵素は、前記酵素による前記PETの解重合時間(tD)が前記PETの結晶化時間(tR)よりも厳密に短くなるように選択され、時間tDは、選択された酵素が前記温度Tで前記PETの少なくとも80%、優先的には少なくとも85%、より優先的には少なくとも90%を解重合するのに必要な時間を表し、時間tRは、前記PETが前記温度Tで多くとも35%の結晶化度に達するのに必要な時間を表す。
【0073】
好ましくは、tRは、前記PETが前記温度Tで最大30%の結晶化度に達するのに要する時間を表す。
【0074】
有利には、酵素は、温度T+10℃以上、優先的には温度T+15℃以上、より優先的には温度T+20°以上のTmを有する酵素から選択される。
【0075】
別の特定の実施形態において、本発明によるポリエチレンテレフタレート(PET)酵素的解重合プロセスは、以下を特徴とする:
- 最大25%の初期結晶化度と、75℃±1℃と80℃±1℃との間で構成されるTgとを有するPETが選択される;
- 解重合ステップは、72℃±1℃の温度Tで実施され、そして
- 前記酵素による前記PETの解重合時間(tD)が、前記PETの結晶化時間(tR)よりも厳密に短くなるように、前記酵素が選択され、ここで、時間tDは、選択された酵素が前記温度Tで前記PETの少なくとも80%、優先的には少なくとも85%、より優先的には少なくとも90%を解重合するのに必要な時間を表し、時間tRは、前記PETが前記温度Tで最大35%の結晶化度に達するのに必要な時間を表す。より優先的には、tRは、前記PETが前記温度Tにおいて多くとも30%の結晶化度に達するのに要する時間を表す。
【0076】
有利には、酵素は、温度T+10℃以上、優先的には温度T+15℃以上、より優先的には温度T+20°以上のTmを有する酵素から選択される。
【0077】
別の特定の実施形態において、本発明によるポリエチレンテレフタレート(PET)酵素的解重合プロセスは、以下を特徴とする:
- PETは、最大25%の初期結晶化度、および65℃±1℃と80℃±1℃との間で構成されるTgを有する;
- 解重合ステップは、70℃±1℃の温度Tで実施され、そして
- 前記酵素による前記PETの解重合時間(tD)が、前記PETの結晶化時間(tR)よりも厳密に短くなるように、前記酵素が選択され、ここで、時間tDは、選択された酵素が前記温度Tにおいて前記PETの少なくとも80%、優先的には少なくとも85%、より優先的には少なくとも90%を解重合するのに必要な時間を表し、時間tRは、前記PETが前記温度Tにおいて多くとも35%の結晶化度に達するのに必要な時間を表す。有利には、酵素は、温度T+10℃以上、優先的には温度T+15℃以上、より優先的には温度T+20°以上のTmを有する酵素から選択される。
【0078】
従って、有利には、この実施形態において、最大25%の初期結晶化度と65℃±1℃と80℃±1℃の間で構成されるTgとを有するPETが選択され、解重合ステップは70℃±1℃の温度Tで実施される。
【0079】
別の特定の実施形態において、本発明によるポリエチレンテレフタレート(PET)酵素解重合プロセスは、以下を特徴とする:
- プラスチック材料が、最大25%の初期結晶化度及び60℃±1℃と75℃±1℃との間で構成されるTgを有するPETからなる繊維及び/又は繊維及び/又は繊維廃棄物から選択される;
- 前記酵素によるPETの解重合時間(tD)が、前記PETの結晶化時間(tR)よりも厳密に短くなるように、PETを分解することができる酵素が選択され、ここで、時間tDは、選択された酵素が前記温度Tにおいて前記PETの少なくとも80%、優先的には少なくとも85%、より優先的には少なくとも90%を解重合するのに必要な時間を表し、時間tRは、前記PETが前記温度Tにおいて多くとも35%の結晶化度に到達するのに必要な時間を表し、そして
- 前記PET解重合ステップは、前記酵素を前記プラスチック材料と65℃±1℃の温度Tで接触させることによって実施される。
【0080】
有利には、酵素は、温度T+10℃以上、優先的には温度T+15℃以上、より優先的には温度T+20°以上のTmを有する酵素から選択される。
【0081】
別の特定の実施形態において、本発明によるポリエチレンテレフタレート(PET)酵素解重合プロセスは、以下を特徴とする:
- プラスチック材料が、最大25%の初期結晶化度及び60℃±1℃と70℃±1℃との間で構成されるTgを有するPETからなる繊維及び/又は繊維及び/又は繊維廃棄物から選択される;
- 前記酵素によるPETの解重合時間(tD)が、前記PETの結晶化時間(tR)よりも厳密に短くなるように、PETを分解することができる酵素が選択され、ここで、時間tDは、選択された酵素が前記温度Tで前記PETの少なくとも80%、優先的には少なくとも85%、より優先的には少なくとも90%を解重合するのに必要な時間を表し、時間tRは、前記PETが前記温度Tで多くとも35%の結晶化度に達するのに必要な時間を表し、そして
- 前記PET解重合ステップは、前記酵素を60℃±1℃の温度Tで前記プラスチック材料と接触させることによって実施される。
【0082】
好ましくは、tRは、前記PETが前記温度Tで最大30%の結晶化度に達するのに必要な時間を表す。有利には、酵素は、温度T+10℃以上、好ましくは温度T+15℃以上、より好ましくは温度T+20°以上のTmを有する酵素から選択される。
【0083】
特定の実施形態では、PETの結晶化時間(tR)は、解重合ステップの前に、前記PETのサンプルで測定される。
【0084】
本発明によれば、酵素は、前記酵素によるPETの解重合時間(tD)が前記PETの結晶化時間(tR)よりも厳密に短くなるように選択される。優先的には、酵素は、時間tDが、前記酵素が前記温度Tにおいて前記PETの少なくとも90%を解重合するのに必要な時間に対応し、時間tRが、前記PETが前記温度Tにおいて多くとも30%の結晶化度に達するのに必要な時間に対応するように選択される。特定の実施形態において、時間tDは20時間未満、優先的には18時間未満、16時間未満、14時間未満、12時間未満、10時間未満である。
【0085】
本発明によれば、PET解重合ステップは、前記PETと前記選択された酵素とを温度Tで接触させることにより行われる。
【0086】
有利には、pHは、モノマー/オリゴマーの溶解度の関数として解重合プロセスの収率を最適化するように調節される。特に、pHは6.5と9の間に維持されるように調節される。特定の実施形態において、pHは、解重合ステップの間、6.5と8.5の間、優先的には7と8の間に調節される。別の特定の実施形態では、pHは7.5と8.5の間に調節される。
【0087】
本発明によれば、反応器の内容物は、解重合ステップの間、撹拌下に維持される。攪拌速度は、反応器内に係合するプラスチック/ポリエステル材料の懸濁、温度の均一性、およびpH調節の精度を可能にするのに十分であるように、当業者によって調節される。例えば、攪拌速度は50rpmと500rpmの間、特に80rpm、100rpm、150rpm、200rpm、250rpm、300rpm、350rpm、400rpm、450rpm、500rpmに維持される。
【0088】
実施例
実施例1:PETの結晶化時間(tR)の測定
1.1 プラスチック材料からのPETの非晶質化
解重合プロセスは、PET廃棄物リサイクル産業から得られる着色・洗浄されたプラスチックフレークを使用して実施される。これらのプラスチック材料は、98%m/m(重量比)のPETからなり、平均結晶化度は34%で、押出工程を経て、その後急冷して廃棄物に含まれるPETを非晶質化した。非晶質化に使用した押出機は、ギアポンプ、フィルター交換装置、ダイおよびオーバーヘッドウォーターカットシステムを備えたKMB ZE 60A二軸押出機であった。調整温度は、エクストルーダーゾーンで265℃、ギアポンプで280℃、フィルターチェンジャーゾーンで280℃、ダイで360℃であった。造粒システムで使用される水は80℃に調節された。フレークを導入するために、Brabender社から販売されている重量式注入システムを使用した。
【0089】
流量は150kg/hを使用した。造粒には、直径0.8mmの穴120個からなるダイを使用した。切断速度は4500rpmであった。非晶質化の結果、1mm以下の顆粒が得られ、結晶化度は16%(DSCによる)であった。この顆粒は、ディスクパルベライザーを用いて粉末化工程を経た。この粉末を400μmのふるいにかけて、より小さな粉末のみを回収した。この粉末の結晶化度は、以下の実施例1.2に従って16%と決定された。
【0090】
1.2 PETのTgと結晶化度の測定
DSC分析には、Mettler Toledo DSC 3装置を乾燥空気流で使用した。実施例1.1の粉末試料を用いて、PET粉末の熱特性、特にガラス転移温度(Tg)と初期結晶化度を測定するために、最初の温度スキャンのみを実施した。昇温は、40μLのアルミニウムるつぼを用い、約10mgの試料を用いて、10℃/分の昇温速度で25℃から280℃まで行った。
【0091】
Tgは、メトラー・トレドのSTAReソフトウエアを用いて、サンプルのサーモグラムに示されたガラス転移の中間点で決定され、初期結晶化度は明細書に詳述されている式に従って決定された。
【0092】
実施例1.1で製造したPETパウダーのTgを78.4℃で評価した。
【0093】
1.3 プラスチック材料のPETの結晶化速度論の測定
実施例1.1(PETを含むプラスチック材料)の粉末5gと水20mlを40mlのボトルに入れて混合した。密閉したボトルを、所望のインキュベーション温度Tに設定したウォーターバスに浸した。採取した粉末を吸水紙上に置き、少なくとも12時間風乾した。その後、実施例1.2に示したように、結晶化度を評価するために、およそ10mgの試料についてDSC分析を行った。
【0094】
図1は、異なる温度:65℃、70℃、72℃、75℃における、時間の関数としてのPET結晶化度の変化を示している。
【0095】
65℃では、実施例1.1のパウダー中のPETの結晶化度はほとんど変化せず、65℃で72時間経過しても結晶化度は20%以下のままである(データは示さず)。これは65℃以下の温度でも同様である。
【0096】
70℃、72℃、75℃では、PETはそれぞれ17.5時間後、11.5時間後、5時間後に35%の結晶化度に達する。70℃、72℃、75℃では、PETはそれぞれ16時間後、10時間後、4.3時間後に30%の結晶化度に達する。
【0097】
実施例2:酵素の融解温度(Tm)の評価
2.1 酵素生産
遺伝子は、コンピテント大腸菌BL21(DE3)細胞(New England Biolabs,Ipswich,MA)中で、ZYM自己誘導性培地(Studierら,2005 - Prot.Exp.Pur.41, 207-234)中、21℃で23時間培養することにより発現させた。大腸菌細胞を遠心分離(6000xg、10分、4℃)で回収し、溶解バッファー(20mM Tris-HCl,pH 8,300mM NaCl)に懸濁した。細胞を氷上で超音波処理して破砕し、溶解液を遠心分離(4℃で、10,000xg,30min)で清澄化した。可溶性画分をTALON金属アフィニティー樹脂(Clontech,CA)にかけた。10mMのイミダゾールを加えた溶解バッファーで結合していないタンパク質を洗浄した後、結合したタンパク質を溶出バッファー(20mM Tris-HCl,pH 8,300mM NaCl,100mMイミダゾール)で溶出した。最終的に透析により保存用緩衝液(20mM Tris-HCl,pH 8,300mM NaCl)に交換した。精製タンパク質の濃度は、280 nmで計算したモル消衰係数に基づいて決定した。
【0098】
2.2 Tmの評価
DSFは、使用した酵素の融解温度(Tm)を評価するために使われた。
【0099】
タンパク質サンプルは14μΜ(0.4 mg/mL)の濃度で調製し、20 mM Tris HCl,pH 8.0,300 mM NaClからなる緩衝液に保存した。SYPRO Orange Dye 5000X DMSOストック溶液をまず水で250倍に希釈した。タンパク質サンプルを96ウェルPCRプレート(Lifescience Bio-Rad、フランス、cat# HSP9601)にロードした。各ウェルのタンパク質とSYPRO Orange色素の最終濃度は、それぞれ5μΜ(0.14mg/ml)と10Xであった。1ウェルあたりの添加量は、バッファー15μL、0.4mg/mLタンパク質溶液9μL、250倍に希釈したSYPRO Orange溶液1μLであった。PCRプレートを光学用粘着テープでシールし、2000rpm、室温で1分間遠心した。その後、Bio-Rad CFX96リアルタイムPCRシステムをFRETチャンネルに設定し、450/490励起および560/580発光フィルターを用いてDSF実験を行った。サンプルは25℃から100℃まで1℃/分の速度で加熱した。蛍光測定は0.3℃ごとに行った。融解温度は、Bio-Rad CFX Managerソフトウェアを用いて、融解曲線の一次導関数のピークから決定した。Tm値は3回の測定の平均値である。
【0100】
【表1】
【0101】
実施例3:リアクター解重合工程
500mlのMinibioバイオリアクター(Applikon Biotechnology, Delft, The Netherlands)で行った。80mlの100mMリン酸カリウム緩衝液(pH8)で調製した0.69μmol~1.10μmolの精製タンパク質(実施例2.1.に従って製造)を、実施例1に従って調製した20gのPET含有粉末(Xc=16%、Tg=78.4℃)と合わせた。温度調節はウォーターバスに浸漬して行い、250rpmで一定の撹拌を維持するためにシングルマリンタービンを使用した。pHは6N NaOHで8に調節し、my-Controlバイオ制御システム(Applikon Biotechnology, Delft, The Netherlands)により供給し、プロセス中のベースライン消費量を記録した。
【0102】
PETの解重合速度の特性評価は、定期的にサンプルを採取して超高性能液体クロマトグラフィー(UHPLC)にかけ、以下に述べるように生成したテレフタル酸当量量を測定することで達成した。生成したテレフタル酸の量は、反応中に培地に加えた塩基の量によっても推定できる。
【0103】
TA相当濃度はクロマトグラフィー(UHPLC)で測定した。150μLのメタノールと6.5μLの6N塩酸を150μLのサンプルまたは希釈液に加えた。ホモジナイズし、0.45μmシリンジフィルターで濾過した後、20μLのサンプルを、ポンプモジュール、オートサンプラー、25℃で恒温化されたカラムオーブン、240nmのUV検出器からなるUltimate 3000 UHPLCシステム(Thermo Fisher Scientific, Waltham, MA)に注入した。テレフタル酸(TA)および生成分子(MHETおよびBHET)は、プレカラム(Supelco, Bellefonte, PA)を備えたDiscovery HS C18 HPLCカラム(150mm×4.6mm,5μm)を通して、1m/分で1mM H2SO4中メタノール(30%~90%)のグラジエントを用いて分離した。TA、MHET、BHETは、市販のTA、BHETおよび自社で合成したMHETから調製した標準曲線に従って測定した。TA当量は、測定されたTAと、測定されたMHETおよびBHETに含まれるTAの合計に相当する。
【0104】
実施例2の酵素を異なる温度(70℃±1℃および72℃±1℃)で試験し、これらの異なる温度で本発明のプロセスを実施するためにどの酵素を選択できるかを評価した。このようにして、酵素は飽和濃度で試験された。60℃の温度での試験も実施した。60℃の温度は、従来技術の解重合プロセスで使用されてきた温度に相当する(ネガティブコントロール)。
【0105】
備考として、実施例1.1のPETの結晶化度30%および35%に達するまでの結晶化時間tRは、それぞれ70℃で16時間および17.5時間、72℃で10時間および11.5時間である。
【0106】
以下の表2、3、4、5は、それぞれ異なる温度における酵素E1、E2、E3、E4の時間tDの測定を示す。
【0107】
【表2】
【0108】
E1の場合、tDは72℃においてtRより高い。したがって、この酵素は、本発明のプロセスの実施には選択できない。その理由の一つは、PETが30%以上の結晶化度に達する前に80%の転化率に達するには、安定性および/または活性が十分でないからである。
【0109】
【表3】
【0110】
酵素E2は、本発明のプロセスを72℃で実施するために選択することができ、60℃のプロセスと比較して収率の大幅な改善を可能にする(90%解重合に達するまでの時間が2.3倍短縮)。E2は、十分に高いTm(>T+20℃)と十分に低いtDの両方を有し、PETが72℃で過剰な結晶化度(30%の結晶化度に達するまでのtR=10時間)に達する前に80%の解重合に達する。
【0111】
【表4】
【0112】
E2と同様に、E3は72℃で本発明のプロセスを実施するために選択することができる。
【表5】
【0113】
E2およびE3と同様に、E4を選択して70℃および72℃で本発明のプロセスを実施することもでき、60℃のプロセスと比較して収率の大幅な改善を可能にする。
【0114】
実施例4:PETからなる繊維廃棄物からのプラスチック材料の分解プロセス
4.1 繊維廃棄物からのPETの結晶化時間(tR)の測定
4.1.1 繊維廃棄物からのプラスチック材料の非晶質化とPETの結晶化度の測定
この解重合プロセスは、ウォータージェット製織工程から排出される製造廃棄物を使用して実施され、その材料は連続した糸クラスター状で、PETを約100%含む。これらの繊維材料は、60℃で16時間の乾燥工程を経た後、押出工程を経て、廃棄物に含まれるPETの非晶質化を可能にするために急冷された。非晶質化に使用した押出機はLeistritz ZSE 18 MAXX二軸押出機である。加熱ゾーンの温度は、以下のプロファイルに従って設定した:
265℃-265℃-265℃-255℃-255℃-250℃-250℃-245℃-245℃-245℃
【0115】
スクリュー速度は150rpmに調節した。材料の押出機への導入は手動で行った。押出機のヘッドに到着したロッドは、直ちに10℃の水浴に浸した。得られたロッドを造粒し、次いでマイクロナイザー(1mmグリッド)を用いて微粉末にした。次に、この粉末を500μmのふるいにかけて、このサイズより小さい粉末のみを回収した。粉末の結晶化度を実施例1.2に従って測定したところ、10%未満であった。
【0116】
4.1.2 プラスチック材料の PET の結晶化動力学の測定
繊維廃棄物由来のPETの結晶化時間(tR)の測定は、実施例1.3と同じプロトコルで行った。68℃では、実施例4.1で得られた粉末中のPETの結晶化度はほとんど変化せず、68℃で29時間後、結晶化度は20%以下のままであった。60℃でも同様である。
【0117】
4.1.3 PETのTg測定
PETのTg測定は、実施例1.2と同じプロトコルで行った。実施例4.1.1で製造したPET粉末のTgは、75.7℃で評価した。
【0118】
4.2 繊維廃棄物からのPETプラスチック材料のリアクター解重合プロセスによる酵素選択。
解重合試験には、総容量5Lの皿底リアクター(Global Process Concept社製)を使用した。リアクターには温度プローブとpHプローブ(Hamilton, EasyFerm HB BioArc 325)を取り付けた。これら2つのパラメーターの設定値への調節は、C-bioソフトウェア(Global Process Concept)に内蔵されたPIDコントローラーによって行われた。直径5.5cmの海洋パドルを300rpmで回転する中央シャフトに取り付け、反応液の攪拌を行った。
【0119】
すべての試験において、20% m.m.水酸化ナトリウムを添加してpHを8.0に調整した。酵素E4は、従事するPETの量に対して1:1000の重量比で添加した。これは、液体培地中での組換え微生物の発酵によって生産された。
【0120】
以下の表6は、4.1.1で定義されたプラスチック材料における酵素E4の時間tDの測定を、それぞれ異なる温度で示したものである。
【0121】
【表6】
【0122】
tDが68℃でtRより低いままであることから、E4は、4.1.1で定義されたプラスチック材料に68℃で本発明のプロセスを実施するために選択され、同時に60℃のプロセスと比較して収率の大幅な改善を可能にする。
【0123】
実施例5:プラスチック廃棄物からプラスチックを分解するプロセス。選択とスケールアップ。
5.1 プラスチック廃棄物からのPETの結晶化時間(tR)の測定
5.1.1 プラスチック廃材からのPETの非晶質化とPETの結晶化度の測定
非晶質化に使用した押出機は、ギアポンプ、フィルター交換装置、ダイおよびオーバーヘッドウォーターカットシステムを備えたKMB ZE 60A二軸押出機である。温度は、押出ゾーンで265℃、ギアポンプで275℃、フィルター交換ゾーンで275℃、ダイで350℃に調節した。スクリューの回転速度は160rpmであった。造粒システムで使用する水は80℃に調節した。フレークを導入するために、Brabender社から販売されている2つの重量式注入システムを使用した。流量は300kg/hを使用した。造粒には、直径0.75mmの穴240個からなるダイを使用した。切断速度は3800穴/分であった。非晶質化の結果、1mm以下の顆粒が得られ、結晶化度は12%であった(DSCによる)。この顆粒は、ディスクパルベライザーを用いて粉末化工程を経た。粉末は500μmのふるいにかけられ、より小さな粉末のみが回収された。粉末の結晶化度は実施例1.2に従い、16.5%(DSC)であった。
【0124】
5.1.2 PETのTg測定
PETのTg測定は、実施例1.2と同じプロトコルで行った。実施例5.1.1で製造したPET粉末のTgは、75.2℃で評価した。
【0125】
5.1.3 プラスチック材料の PET の結晶化速度論の測定
プラスチック材料のPETの結晶化時間(tR)の測定は、実施例1.3と同じプロトコールに従って実施した。60℃および66℃では、実施例5.1で得られた粉末中のPETの結晶化度はほとんど変化せず、60℃または66℃で30時間後、結晶化度は22%以下のままである。72℃では、18時間で30%に達する(tR)。
【0126】
5.2 プラスチック廃棄物からのPETプラスチック材料のリアクター解重合プロセスによる酵素選択。
試験Aでは、総容量500 mLの平底攪拌リアクター(MiniBioreactors、Global Process Concept社製)を使用した。温度プローブとpHプローブ(Hamilton, EAsyFerm HB BioArc 120)を装備した。これら2つのパラメーターの設定値への調節は、C-bioソフトウェア(Global Process Concept)の内部PIDコントローラーによって確実に行われた。300rpmで回転する中央シャフトに固定された直径3cmの海洋パドルが反応液の攪拌を行った。
【0127】
試験BおよびCでは、実施例4.2に記載したように、総容量5Lの皿底反応器(Global Process Concept社製)を使用した。
【0128】
すべての試験において、20% m.m.水酸化ナトリウムを添加してpHを8.0に調整した。酵素E4は、従事するPETの量に対して1:1000の重量比で添加した。これは、液体培地中での組換え微生物の発酵によって生産された。
【0129】
以下の表7は、それぞれ異なる温度における酵素E4の時間tDの測定値を示している。
【0130】
【表7】
【0131】
tDはtRより低いままであるため、E4は、5.1.1で定義したプラスチック材料に対して、これら2つの温度で本発明のプロセスを実施するために選択することができる。66℃および72℃でのE4の使用は、60℃でのプロセスと比較して収率の大幅な改善を可能にするはずであることに留意されたい。
【0132】
5.3 スケーリングの検証
前述のステップにより、酵素E4が選択できることが検証されたので、本発明に従ってプロセスを実施することができる。
【0133】
この試験(D)では、総容量1000 Lの平底リアクターを使用した。反応器には温度プローブとpHプローブ(In Pro3100/SG/325、Mettler Toledo)を取り付けた。反応液の攪拌には直径可変のマリンパドルを使用した。酵素E4は、PETの量に対して2:1000の重量比で添加した。これは、液体培地中での組換え微生物の発酵によって生産された。
【0134】
66℃の温度で行われた分解は、上記と同じ方法に従って追跡される。
【0135】
したがって、分解率は14時間後に80%、24時間後に90%となる。
【0136】
準工業用容積で得られた結果は、酵素の選択時に得られた結果と一致している。より大きな容積を使用することで、より良い攪拌が可能になり、収率が向上することに留意されたい。
図1
【配列表】
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