(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-17
(45)【発行日】2024-06-25
(54)【発明の名称】呼吸保護具
(51)【国際特許分類】
A61M 16/04 20060101AFI20240618BHJP
【FI】
A61M16/04 Z
(21)【出願番号】P 2021547149
(86)(22)【出願日】2020-02-13
(86)【国際出願番号】 EP2020053816
(87)【国際公開番号】W WO2020165373
(87)【国際公開日】2020-08-20
【審査請求日】2023-02-07
(32)【優先日】2019-02-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】SE
(73)【特許権者】
【識別番号】500085884
【氏名又は名称】コロプラスト アクティーゼルスカブ
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100123593
【氏名又は名称】関根 宣夫
(72)【発明者】
【氏名】イェンフォルス ペーター
【審査官】今関 雅子
(56)【参考文献】
【文献】特表2010-524614(JP,A)
【文献】特表2012-510303(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0150779(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2013/0192602(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 16/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
喉頭切除または気管切開された人のストーマに使用するための呼吸保護具であって、
前記呼吸保護具は、少なくとも1つの入口(7、8、9)および少なくとも1つの出口(12)を有し、使用中の空気流が前記人の周囲から前記少なくとも1つの入口(7、8、9)を通って前記少なくとも1つの出口(12)に達し、前記人の気管に入るようになっており、
前記呼吸保護具は、熱湿交換器(HME)(3)およびエアフィルタ(4)を備え、使用中の前記空気流が前記少なくとも1つの入口(7、8、9)を通って前記出口(12)へと達するとき、前記空気流が前記HMEおよび前記エアフィルタ(4)を通過するようになっており、
前記呼吸保護具は、上部(1a)および下部(1b)を備えるハウジングを有し、
前記少なくとも1つの入口(7、8)は前記ハウジングの前記上部(1a)に設けられ、前記少なくとも1つの出口(12)は前記ハウジングの前記下部(1b)に設けられ、
前記HME(3)および前記エアフィルタ(4)が前記ハウジングによって囲まれており、
前記ハウジングの前記上部(1a)には、
前記ハウジングの前記上部(1a)から分離され、前記上部(1a)の開口部に配置されており、かつ前記少なくとも1つの入口(7、8、9)と前記少なくとも1つの出口(12)との間の連通を、前記エアフィルタ(4)の近位の閉鎖弁(10)を介して閉鎖するように作動させることができる閉鎖部材(6)が設けられている、呼吸保護具。
【請求項2】
前記HME(3)は、前記ハウジングの前記下部(1b)に配置されている、請求項1に記載の呼吸保護具。
【請求項3】
前記エアフィルタ(4)は、前記ハウジングの前記上部(1a)に配置されている、請求項1または2に記載の呼吸保護具。
【請求項4】
前記エアフィルタ(4)が静電フィルタである、請求項1~3のいずれか一項に記載の呼吸保護具。
【請求項5】
前記閉鎖部材(6)には、少なくとも1つの入口(9)が設けられている、請求項1~4のいずれか一項に記載の呼吸保護具。
【請求項6】
前記閉鎖部材(6)は、非可撓性材料から作られる、請求項1~5のいずれか一項に記載の呼吸保護具。
【請求項7】
前記ハウジングの前記上部(1a)は、非可撓性材料から作られる、請求項1~6のいずれか一項に記載の呼吸保護具。
【請求項8】
前記閉鎖部材(6)は、前記ハウジングの前記下部(1b)の遠位に配置された閉鎖弁(10)に接続され、第一の開口部(11)が、前記閉鎖弁(10)と前記ハウジングの前記下部(1b)との間に設けられる、請求項1~7のいずれか一項に記載の呼吸保護具。
【請求項9】
前記閉鎖部材(6)は、前記閉鎖部材(6)の中央に配置された突出部(13)を備え、前記突出部(13)は、前記突出部(13)の近位端にフックを備え、前記突出部(13)の前記フックは、前記閉鎖弁(10)の開口部(14)にスナップ嵌めされる、請求項8に記載の呼吸保護具。
【請求項10】
前記閉鎖部材(6)は、前記呼吸保護具の前記ハウジングの前記少なくとも1つの入口(7、8、9)と前記少なくとも1つの出口(12)との間の連通を閉鎖するために、作動中に前記閉鎖弁(10)と協働するように配置される、請求項8または9に記載の呼吸保護具。
【請求項11】
前記HME(3)がHME発泡体を含む、請求項8~10のいずれか一項に記載の呼吸保護具。
【請求項12】
前記HME発泡体は、前記閉鎖弁(10)のための戻しばねとして作用するように構成されている、請求項11に記載の呼吸保護具。
【請求項13】
前記エアフィルタ(4)は、濾過効果が2つ以上の平面で得られるように、三次元構造に配置されている、請求項1~12のいずれか一項に記載の呼吸保護具。
【請求項14】
前記エアフィルタ(4)は、三次元構造が提供されるように、ひだが付けられ、折り畳まれ、湾曲され、または弓形にされている、請求項13に記載の呼吸保護具。
【請求項15】
前記ハウジングの前記下部(1b)の外周を有するリム(5)を備え、前記エアフィルタ(4)が前記リム(5)に取り付けられ、次いで前記エアフィルタ(4)が前記リム(5)の断面積を覆うことにより、前記エアフィルタ(4)が三次元構造に配置される、請求項1~14のいずれか一項に記載の呼吸保護具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般に、喉頭切除または気管切開された人のストーマに使用するための呼吸保護具の分野に関し、前記呼吸保護具は、少なくとも1つの入口および少なくとも1つの出口を有し、使用中の空気流が、前記人の周囲から前記入口を通って前記出口に達し、前記人の気管に入り、前記呼吸保護具は、熱湿交換器(HME)およびエアフィルタを備え、使用中の前記空気流が前記入口を通って前記出口に達するとき、前記空気流が前記HMEおよび前記エアフィルタを通過するようになっている。
【背景技術】
【0002】
気管切開とは、首の前面を通って気管に開口部を形成する手術法である。この開口部は、気管孔と呼ばれている。気管切開チューブを用意して、気管孔と気管の間を広げることができる。気管切開は、例えば、神経系または呼吸通路に関して、損傷または障害から生じるような機能不全があり、この機能不全によって十分な空気を得ることができない場合に行われる。肺気量が劣る場合または呼吸器治療が必要な場合も、気管切開が行われることがある。
【0003】
喉頭切除術は、例えば、癌の処置に用いられる手術法で、喉頭または声帯を切除し、気管孔をつくる手術である。手術の結果、気管は咽頭に接続されなくなるが、気管孔に流れこむ。この手術の後、正常な鼻機能は、不可能である。呼吸が正常に機能する被験者では、鼻と鼻腔の粘膜が、吸入された空気の調整に重要な機能を果たしている。回旋状の通路および豊富な血液供給は、吸入された空気の温度と湿度との両方を高めて、これらのパラメータと肺の表面のパラメータとの差を最小限に抑えるのに役立つ。通常、いくらかの熱および水分も、また、大気への放出前に呼気から捕捉される。鼻道の粘膜は、また、微細なダスト粒子、汚染物質および微生物のような粒子状物質を吸入空気から除去する役割を果たし、繊毛の作用は、粘液および任意の粒子を肺から運び去る。
【0004】
患者が喉頭切除術を受けた場合、事実上、すべての吸入空気は気管孔を介して肺に入り、鼻は吸入過程に効果的に関与しない。呼気は、気管孔を通過してもよく、または、人工声帯が装着されている場合には、ストーマを閉塞して、呼気を人工声帯経由で咽頭および口に迂回させ、患者が話すことを可能にしてもよい。呼気の流れは、気管孔弁によって制御されることが望ましい。これらの状況では、弁は、呼吸中に開いたままであるように配置することができるが、呼気流のわずかな追加の増加によって、空気流を迂回させるために閉じることができる。
【0005】
この点に関して、吸入された空気の保湿も、前記吸入された空気中の小粒子および細菌学的物質の除去も可能にするために、フィルタ装置および呼吸保護具が開発されてきた。これは、鼻の機能に似ている。しかしながら、そのような装置の製造に関連するいくつかの複雑さがある。第一に、このような装置のユーザは、装置の表面積などのサイズをできるだけ小さく保ちながら、良好な保湿効果および除去効果を必要とする。第二に、保湿効果および除去効果は、大きな表面積を必要とするが、その一方で、装置上にあまりに大きな抵抗を生じない。これらの基準は矛盾しており、このことを注意深い読者は既に認めている。また、喉頭切除術を受けた人は、話したいときに、これらの装置の上に自分の指または親指を保持しなければならず、それによって、装置と、気管壁を介するストーマを通る空気流を妨げ、これは、ユーザの指からフィルタへと不純物が移動するために、フィルタに過度の汚染を負わせることになる。
【0006】
特許文献1には、気管孔を通して呼吸される空気を濾過するための装置が記載されている。この装置は、静電気的に帯電した繊維のプレフィルタと、活性炭で形成された第一の層と、親水性材料の第二の層とを備える。活性炭の使用は、小さな粒子の濾過およびガスの吸収を提供し、装置を通る空気流に対する抵抗が増加するのを抑制する。しかしながら、ユーザの指または親指が、静電フィルタの抗菌効果に悪影響を及ぼす。その理由は、前記指または親指の全く無菌状態を要求することが不合理であり、これは、前記フィルタが時間とともに汚染されることを意味するからである。さらに、特許文献1による装置は、約50%の抗菌効果しか達成しない。その理由は、静電フィルタの表面積が周囲と連通する開口部の表面積に制限され、一方、装置に十分な抵抗を提供するからである。
【0007】
特許文献2には、ハウジングと親水性濾過ディスクとを備えた人工鼻が記載されており、ハウジング内の窓を開閉するために上下に動かすことができるキャップをさらに備えている。特許文献2に記載の人工鼻は、開放位置から閉鎖位置へ、およびその逆に能動的に動かされなければならず、抗菌効果は非常に限られている。
【0008】
特許文献3には、喉頭切除または気管切開された人のストーマに使用するための呼吸保護具が記載されている。呼吸保護具は、前記少なくとも1つの入口と前記少なくとも1つの出口との間の連通を閉鎖するように作動され得る閉鎖部材を備える。閉鎖部材は、可撓性カバーの部材であるか、または可撓性カバーに取り付けられる。可撓性カバーの弾力性により、可撓性カバーを、閉鎖リブのような閉鎖面と閉鎖嵌合するために、内側に押し下げることができる。可撓性カバーを閉鎖リブに押し付けると、閉鎖効果が得られる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】米国特許第5,666,950号明細書
【文献】米国特許第5,487,382号明細書
【文献】米国特許第8,505,537号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
したがって、改善された呼吸保護具、特に、患者が、発話中などに、弱い力で呼吸保護具を閉じる可能性を提供する呼吸保護具が有利である。また、そのような呼吸保護具を取得して、呼吸保護具が閉鎖している状態の触覚確認、すなわち、開放状態または閉鎖状態の触覚確認を提供することも有利である。さらに、前記呼吸保護具に対して満足な抵抗を有する小さな呼吸保護具を提供しながら、増大した濾過効果および優れた保湿効果を可能にする呼吸保護具を提供することが有利である。また、開放状態から閉鎖状態に容易に動かせる呼吸保護具を提供することが有利であり、このことは、発話中などに、呼吸保護具を閉鎖したままにする可能性を患者に提供するが、発話中の期間全体にわたって、前記開口部の上に指または親指を保持することによって、フィルタを過度に汚染することはない。
【課題を解決するための手段】
【0011】
したがって、本発明は、上述の欠点の1つ以上を軽減、緩和または排除し、上述の種類の改善された呼吸保護具を提供することを目的とする。この目的のために、呼吸保護具は、上部および下部を備えるハウジングを有し、少なくとも1つの入口がハウジングの前記上部に設けられ、少なくとも1つの出口がハウジングの前記下部に設けられ、熱湿交換器(HME)およびエアフィルタが前記ハウジングによって囲まれる。ハウジングの上部は、エアフィルタの近位の閉鎖弁を介して前記少なくとも1つの入口と前記少なくとも1つの出口との間の連通を閉鎖するように作動させることができる閉鎖部材を備える。
【0012】
本発明の有利な特徴は、従属請求項に規定されている。
【0013】
本発明が可能なこれらおよび他の態様、特徴および利点は、添付の図面を参照しながら、本発明の実施形態の以下の説明から、明らかになり、解明されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の一実施形態による呼吸保護具の断面図である。
【
図2】本発明の一実施形態による呼吸保護具の斜視図である。
【
図3】本発明の一実施形態による呼吸保護具の断面図である。
【
図4】本発明の一実施形態による呼吸保護具の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下の説明は、呼吸保護具に適用可能な本発明の実施形態に焦点を当てており、特に、喉頭切除または気管切開された人のストーマに使用するための呼吸保護具であって、前記ストーマが前記人の気管と連通している呼吸保護具に焦点を当てている。しかしながら、本発明は、この用途に限定されるものではなく、空気流から粒子状物質を除去しつつ、前記空気流を保湿し、前記空気流を閉じる可能性を提供することを望む他の技術分野にも適用することができる。
【0016】
図1および
図2に示す本発明の実施形態では、呼吸保護具が提供される。呼吸保護具は、喉頭切除または気管切開された人のストーマに使用するためのものである。前記呼吸保護具は、少なくとも1つの入口と少なくとも1つの出口とを有し、使用中の空気流が前記人の周囲から前記入口を通って前記出口に達し、前記人の気管に入るようになっている。呼吸保護具は、熱湿交換器(HME)3およびエアフィルタ4を備え、使用中の空気流が前記入口を通って前記出口に達するに、前記空気流が前記エアフィルタ4および前記HME3を通過するようになっている。
【0017】
エアフィルタ4は、粒子状物質を濾過することが可能であり、一実施形態では、エアフィルタ4は静電フィルタである。
【0018】
図1および
図2に示す呼吸保護具は、ハウジングを有する。前記ハウジングは、上部1aおよび下部1bを備える。ハウジングの上部1aは、少なくとも1つの入口7、8を有し、ハウジングの下部は、少なくとも1つの出口12を有する。呼吸保護具のHME3およびエアフィルタ4は、前記ハウジングによって囲まれている。したがって、空気が、呼吸保護具が配置されているストーマを通って周囲から通過するとき、空気は、ハウジングの上部1aの少なくとも1つの第一の入口7、8を介して、エアフィルタ4およびHME3を通って、ハウジングの下部1bの少なくとも1つの出口12を通って、患者の気管内に流入する。エアフィルタ4およびHME3が前記ハウジングによって囲まれているので、エアフィルタ4の汚染を最小限に抑えることができ、したがって、ユーザの指および首がエアフィルタ4と接触することが防止されるので、呼吸保護具の濾過効果を延長することができる。
【0019】
さらに
図1を参照すると、ハウジングの下部1bは、収容部を有することができ、この収容部は、HME3を収容することができる。したがって、HME3は、ハウジングの下部1bに配置されてもよい。エアフィルタ4は、ハウジングの上部1aに配置されていてもよい。したがって、前記エアフィルタ4は、前記少なくとも1つの入口7、8を覆うことができる。したがって、空気が、呼吸保護具が配置されているストーマを通って周囲から通過するとき、空気は、ハウジングの上部1aの少なくとも1つの入口7、8を介して、エアフィルタ4およびHME3を通って、ハウジングの下部1bの少なくとも1つの出口12を通って患者の気管内に入る。
【0020】
図1に示すように、ハウジングの上部1aは、エアフィルタ4の外部に設けられ、エアフィルタ4は、リム5に取り付けられ、保持され、またはリム5と一体化され得る。ハウジングの上部1aには、閉鎖部材6がさらに設けられている。閉鎖部材6は、ハウジングの上部1aの一体部分ではなく、ハウジングの上部1aから分離されている。したがって、閉鎖部材6は、別個の閉鎖部材6である。閉鎖部材6は、好ましくは、ハウジングの上部1b内の中央に配置され、前記少なくとも1つの入口7、8と前記少なくとも1つの出口12との間の連通を閉鎖するように作動させることができる。閉鎖部材6は、エアフィルタ4の遠位に、すなわち、ユーザから離れて配置される。したがって、呼吸保護具のエアフィルタ4に指を当てて空気流を遮る代わりに、閉鎖部材6を作動させることによって、閉鎖動作を達成することができる。したがって、エアフィルタ4は、指からの過度の汚染から解放され得る。呼吸保護具の閉鎖は、患者が話そうとするとき、患者が作動させる。さらに、提案された呼吸保護具では、閉鎖部材6は、ハウジングの上部1bの開口部に配置された別個の閉鎖部材6であり、ハウジングの開口部は、指のためのガイドリムを形成し、閉鎖中の指の正確な位置決めを容易にする。
【0021】
閉鎖部材6は、好ましくは、硬質で非可撓性の材料から作製され、閉鎖部材6が変形するのを防止し、代わりに、閉鎖部材6は、印加された力に即座に反応できるようにする。印加された力によって、閉鎖部材6を作動させて、前記少なくとも1つの入口7、8と前記少なくとも1つの出口12との間の連通を閉鎖することが可能になる。したがって、弱い力を印加することによって、呼吸保護具の閉鎖動作を達成することが可能であり得る。ハウジングの上部1bも、好ましくは、硬質で非可撓性の材料から作製され、ハウジングの上部1bが変形するのを防止する。こうして、呼吸保護具の内部構造を保護することができ、エアフィルタ4に印加される不必要な圧力をさらに防止することができる。さらに、強く密封されたスナップ嵌めを作り出し、このため、装置の製造が容易になる。
【0022】
図1に示すように、呼吸保護具のハウジングは、ハウジングの下部1bの上方に配置された閉鎖弁10をさらに収容しており、この閉鎖弁10とハウジングの下部1bとの間に第一の開口部11が設けられている。このようにして、閉鎖弁10は、HME3の上方、すなわち、遠位側で、しかし、エアフィルタ4の下方、すなわち、近位側に配置される。したがって、空気が周囲からストーマを通って気管内に入るとき、空気は、最初に、ハウジングの上部1aの少なくとも1つの第一の入口7、8を介してハウジング内に入り、エアフィルタ4を通り、第一の開口部11を通り、次いで、HME3を通り、ハウジングの下部1bの少なくとも1つの出口12を通って気管内に入る。閉鎖部材6は、近位方向、すなわち、ユーザに向かう方向に加えられた力によって作動される。次いで、近位方向の力は、閉鎖弁10を、閉鎖弁座2に到達するまで、同じ近位方向に移動させ、ここで、閉鎖弁10が閉鎖弁座2に対してシールした後、少なくとも1つの入口7、8と少なくとも1つの出口12との間の連通を閉鎖する。
【0023】
一実施形態では、閉鎖部材6は、閉鎖弁10に接続される。
図1に示す閉鎖部材6は、エアフィルタ4を通って到達することによって閉鎖弁10に接続される。閉鎖部材6には突出部13が設けられている。突出部13は、閉鎖部材6の中央に配置され、近位方向に延びている。突出部13の近位端で、突出部13には、エアフィルタ4の近位側である閉鎖弁10の開口部14にスナップ嵌めすることができるフックが設けられている。このエアフィルタ4は、閉鎖弁10と閉鎖部材6とにシール固定されている。このようにして、エアフィルタ4によって提供される濾過効果を高く保つことができ、同時に、呼吸保護具の信頼性のある閉鎖機構が可能なする。また、呼吸保護具は、閉鎖弁10を作動させる閉鎖部材6を作動させることによって閉鎖することができるが、エアフィルタ4を圧搾することはない。
【0024】
したがって、閉鎖部材6は、呼吸保護具のハウジングの少なくとも1つの入口7、8と少なくとも1つの出口12との間の連通を閉鎖するために、作動中に閉鎖弁10と協働するように配置される。この閉鎖効果は、閉鎖弁10が第一の開口部11を閉鎖したときに得られてもよい。提案された実施形態は、直径よりも高さが大きい呼吸保護具を提供することで、その結果、よりコンパクトな設計になる。よりコンパクトな設計は、より大きなユーザ集団が一般にこれらを受け入れるので、有利であり得る。さらに、提案された実施形態は、患者が、例えば、発話中に、弱い力で呼吸保護具を閉じる可能性を提供する。開示された呼吸保護具の構造は、外部からアクセス可能な閉鎖部材6を有し、はっきりと明確な閉鎖を提供し、それでもてエアフィルタ4を有する呼吸保護具を提供する。呼吸保護具の構造は、呼吸保護具が閉鎖している状態の触覚確認、すなわち、開放状態または閉鎖状態の触覚確認を提供する。
【0025】
ハウジングの下部1bには、閉鎖弁座2が設けられており、前記HME3を取り囲んでいる。閉鎖部材6および閉鎖弁10の構造により、閉鎖部材6が近位に、すなわち、呼吸保護具のユーザに向かって押圧されると、閉鎖弁10を内側に押し下げて、ハウジングの下部1bの閉鎖弁座2と閉鎖嵌合させることができる。閉鎖弁10が閉鎖弁座2に押圧されると、閉鎖効果が得られ、その結果、第一の開口部11が閉鎖され、空気が第一の開口部11を通過しないようになる。フィルタ呼吸保護具のフィルタ上に指を保持することによって空気流を遮断する代わりに、閉鎖部材6を押し下げることから閉鎖動作を達成することによって、エアフィルタは、指からの過度の汚染から解放され得る。
【0026】
一実施形態では、
図3および4に示すように、閉鎖部材6は、少なくとも1つの入口9を備える。こうして、前記エアフィルタ4によって提供される濾過面積は、空気がより多数の入口を通って呼吸保護具に流入し、したがって、呼吸保護具に、より大きな入口表面積を提供することができるので、増大させることができる。これは、次に、装置を通る空気流に対する抵抗が低下し、呼吸保護具の全体的な機能性が向上し、したがって、激しい呼吸をしているユーザにとって、装置をより受け入れやすいものにすることができる。
【0027】
このエアフィルタ4は、第一の開口部11に対して三次元構造に配置されている。したがって、前記エアフィルタ4によって提供される濾過効果は、二次元以上で得られる。このようにして、呼吸保護具のサイズを小さく保つ可能性を依然として提供しながら、大きな表面積で濾過効果を得ることができる。したがって、呼吸保護具は、呼吸保護具を着用している人にとって嵩張らないようにすることができ、しかも最大の濾過効果を提供する。「三次元構造」という用語は、いくつかのシートまたは層に限定されるものではなく、むしろ、平面シートまたは層などの二次元構造とは対照的に、三次元構造を示すことを意図している。したがって、このような平面シートまたは層の厚さは、この点では三次元構造であるとは考えられない。
【0028】
エアフィルタ4は、
図1に開示された実施形態によれば、リム5と下部/近位ハウジング部1bとの間に、エアフィルタ4を挟持することにより、第一の開口部に対して三次元構造に配置されている。このリム5は、実質的に円形またはリング形状を有することができる。したがって、次いで、エアフィルタ4は、リム5の断面積を覆う、すなわち、リム5の外縁からリム5の反対側の外縁まで延びる。このように、エアフィルタ4は、ハウジング内に閉鎖弁10を囲むように配置されてもよく、その結果、エアフィルタ4は、閉鎖弁10とハウジングの下部1bとの間の第一の開口部11の面積よりも大きな表面積を有することになる。この点、表面積という用語は、エアフィルタ4の空隙率を含むことを意図しておらず、単にエアフィルタ4の外側面積、すなわち、エアフィルタ4の円周方向の面積を含むもことを意図している。代わりに有効面積を用いて、エアフィルタ4の空隙率を含む表面積を規定する。このようにして、エアフィルタ4の有効面積は、エアフィルタ4にわたる圧力降下を増加させることなく、三次元構造によって大きくすることができ、一方、呼吸保護具のサイズに関しては、リム5の断面積によってのみ制限される。有効面積のこの増加は、リム5の断面積によってのみ制限されるが、95%を超えるような高い濾過効率を提供する。
【0029】
本発明の別の実施形態では、エアフィルタ4は、ひだが付けられ、折り畳まれ、湾曲され、弓形にされ、または三次元構造を備える他の方法であり、呼吸保護具のより小さいサイズにおいて最大限の濾過効果を提供する。
【0030】
HME3の材料は、その中に流路を含むべきであり、流路がランダムに配向された開放構造を有するべきである。材料は、紙、発泡プラスチック、異なる繊維で作られた詰め物、またはそれらの組み合わせを含んでもよい。また、吸湿性物質を含浸させてもよい。さらに、材料の細孔または隙間が特別な方向を有さない場合、意図された撓みを達成するために、呼吸空気が材料を介して多数の方向に容易に通過できるようにすることが有利である。
【0031】
1つの有利な実施形態では、HME3の材料は、HME発泡体であってもよい。このような実施形態では、HME3は、閉鎖弁10のための戻しばねとして、付加的に機能することができる。HME発泡体の弾性によって、閉鎖弁10は、圧力が停止したときに、呼吸保護具は開放状態に戻ることができる。これにより、ユーザは、前記閉鎖部材6を押して、前記閉鎖弁10によって前記第一の開口部11を閉鎖することができる。次いで、ユーザは、ユーザが話したいときに、呼吸保護具を発話モード/状態にし、ユーザが話すのを止め、呼吸保護具を呼吸モード/状態に戻したいときに、閉鎖部材6上の圧力を単に解放することができる。
【0032】
上述の実施形態では、喉頭切除または気管切開された人のストーマに使用するための呼吸保護具が記載されている。この呼吸保護具は、少なくとも1つの入口7、8、9および少なくとも1つの出口12を備えて構成され、使用中の空気流が、前記人の周囲から前記入口を通って前記出口12に達し、前記人の気管に入るようになっている。たとえ特に開示されていなくても、入口および出口は、既に開示されている特定の入口および出口を単に分割することによって、増加した量に分割されてもよいことは、当業者には明らかである。さらに、この呼吸保護具は、HME3およびエアフィルタ4を備え、使用中の前記空気流が前記入口7、8、9を通って前記出口12に達するとき、前記空気流が前記HME3および前記エアフィルタ4を通過するようになっている。また、上記の開示によれば、呼吸保護具は、前記少なくとも1つの入口7、8、9と前記少なくとも1つの出口12との間の連通を閉鎖するように作動され得る閉鎖部材6を備える。
【0033】
本開示の一態様によれば、喉頭切除または気管切開された人のストーマを通して呼吸する間に、細菌物質を加湿し、濾過するための方法が提供される。この方法は、少なくとも1つの入口7、8を備える上部1aと、少なくとも1つの出口12を備える下部1bとを備えるハウジングを有する呼吸保護具を通して、周囲から前記人の気管内に空気を通すステップを含む。呼吸保護具は、HME3およびエアフィルタ4を備える。この方法は、空気をエアフィルタ4に通すことにより、細菌物質を濾過する。エアフィルタ4は、少なくとも1つの入口7、8によって囲まれた面積よりも大きい表面積を有する。その後、この方法は、空気がHME3を通過するときに空気を保湿するステップを含む。
【0034】
別の態様では、本開示は、喉頭切除または気管切開された人のストーマに使用するための呼吸保護具を閉鎖するための方法を提供する。呼吸保護具は、上部1aと下部1bとを備えるハウジングを有する。ハウジングの上部1aには少なくとも1つの入口7、8が設けられ、ハウジングの下部1bには少なくとも1つの出口12が設けられ、使用中の空気流が前記人の周囲から少なくとも1つの入口7、8を通って少なくとも1つの出口12に達し、前記人の気管に入るようになっている。呼吸保護具は、HME3およびエアフィルタ4を備える。エアフィルタ4は、少なくとも1つの入口7、8を取り囲み、使用中の前記空気流が少なくとも1つの入口7、8を通って少なくとも1つの出口12に達するとき、前記空気流がHME3およびエアフィルタ4を通過するようになっている。ハウジングの上部1aは、ハウジングの下部1bの上方、すなわち、遠位側に配置された閉鎖弁10に接続された閉鎖部材6をさらに備える。次いで、第一の開口部11が、ハウジングの閉鎖弁10と下部1bとの間に設けられる。この方法は、閉鎖部材6をハウジングの下部1bに押し付けることによって、第一の開口部11を閉鎖するステップを含む。
【0035】
本発明の実施形態の要素および構成要素は、任意の適切な方法で物理的、機能的、および論理的に実装することができる。実際、機能は、単一のユニットで、複数のユニットで、または他の機能ユニットの一部として実装され得る。したがって、本発明は、単一のユニットで実装されてもよく、または異なるユニット間で物理的および機能的に分散されてもよい。
【0036】
本発明は、特定の実施形態を参照して上記で説明してきたが、本明細書に記載された特定の形態に限定されることを意図しない。むしろ、本発明は、添付の特許請求の範囲によってのみ限定され、上記の特定の実施形態以外の他の実施形態も、これらの添付の特許請求の範囲内で等しく可能である。
【0037】
特許請求の範囲において、「備える/備え」という用語は、他の要素またはステップの存在を排除するものではない。さらに、複数の手段、要素または方法ステップは、個々に列挙されているが、例えば、単一のユニットまたはプロセッサによって実施されてもよい。加えて、個々の特徴は、異なる請求項に含まれてもよいが、これらの請求項は、場合によっては、有利に組み合わされてもよく、異なる請求項に含まれることは、特徴の組合せが実現可能および/または有利ではないことを意味するものではない。加えて、単数での言及は、複数を排除するものではない。「1つの」、「第一の」、「第二の」などの用語は、複数を排除するものではない。特許請求の範囲の参照符号は、単に明確な例として提供されるにすぎず、いかなる方法によっても特許請求の範囲を限定するものと解釈してはならない。
本開示は更に以下の態様を含んでいる:
《態様1》
喉頭切除または気管切開された人のストーマに使用するための呼吸保護具であって、
前記呼吸保護具は、少なくとも1つの入口(7、8、9)および少なくとも1つの出口(12)を有し、使用中の空気流が前記人の周囲から前記少なくとも1つの入口(7、8、9)を通って前記少なくとも1つの出口(12)に達し、前記人の気管に入るようになっており、
前記呼吸保護具は、熱湿交換器(HME)(3)およびエアフィルタ(4)を備え、使用中の前記空気流が前記少なくとも1つの入口(7、8、9)を通って前記出口(12)へと達するとき、前記空気流が前記HMEおよび前記エアフィルタ(4)を通過するようになっており、
前記呼吸保護具は、上部(1a)および下部(1b)を備えるハウジングを有し、
前記少なくとも1つの入口(7、8)は前記ハウジングの前記上部(1a)に設けられ、前記少なくとも1つの出口(12)は前記ハウジングの前記下部(1b)に設けられ、
前記HME(3)および前記エアフィルタ(4)が前記ハウジングによって囲まれており、
前記ハウジングの前記上部(1a)には、前記少なくとも1つの入口(7、8、9)と前記少なくとも1つの出口(12)との間の連通を、前記エアフィルタ(4)の近位の閉鎖弁(10)を介して閉鎖するように作動させることができる閉鎖部材(6)が設けられている、呼吸保護具。
《態様2》
前記HME(3)は、前記ハウジングの前記下部(1b)に配置されている、態様1に記載の呼吸保護具。
《態様3》
前記エアフィルタ(4)は、前記ハウジングの前記上部(1a)に配置されている、態様1または2に記載の呼吸保護具。
《態様4》
前記エアフィルタ(4)が静電フィルタである、態様1~3のいずれか一つに記載の呼吸保護具。
《態様5》
前記閉鎖部材(6)には、少なくとも1つの入口(9)が設けられている、態様1~4のいずれか一つに記載の呼吸保護具。
《態様6》
前記閉鎖部材(6)は、非可撓性材料から作られる、態様1~5のいずれか一つに記載の呼吸保護具。
《態様7》
前記ハウジングの前記上部(1a)は、非可撓性材料から作られる、態様1~6のいずれか一つに記載の呼吸保護具。
《態様8》
前記閉鎖部材(6)は、前記ハウジングの前記下部(1b)の遠位に配置された閉鎖弁(10)に接続され、第一の開口部(11)が、前記閉鎖弁(10)と前記ハウジングの前記下部(1b)との間に設けられる、態様1~7のいずれか一つに記載の呼吸保護具。
《態様9》
前記閉鎖部材(6)は、前記閉鎖部材(6)の中央に配置された突出部(13)を備え、前記突出部(13)は、前記突出部(13)の近位端にフックを備え、前記突出部(13)の前記フックは、前記閉鎖弁(10)の開口部(14)にスナップ嵌めされる、態様8に記載の呼吸保護具。
《態様10》
前記閉鎖部材(6)は、前記呼吸保護具の前記ハウジングの前記少なくとも1つの入口(7、8、9)と前記少なくとも1つの出口(12)との間の連通を閉鎖するために、作動中に前記閉鎖弁(10)と協働するように配置される、態様8または9に記載の呼吸保護具。
《態様11》
前記HME(3)がHME発泡体を含む、態様8~10のいずれか一つに記載の呼吸保護具。
《態様12》
前記HME発泡体は、前記閉鎖弁(10)のための戻しばねとして作用するように構成されている、態様11に記載の呼吸保護具。
《態様13》
前記エアフィルタ(4)は、濾過効果が2つ以上の平面で得られるように、三次元構造に配置されている、態様1~12のいずれか一つに記載の呼吸保護具。
《態様14》
前記エアフィルタ(4)は、三次元構造が提供されるように、ひだが付けられ、折り畳まれ、湾曲され、または弓形にされている、態様13に記載の呼吸保護具。
《態様15》
前記ハウジングの前記下部(1b)の外周を有するリム(5)を備え、前記エアフィルタ(4)が前記リム(5)に取り付けられ、次いで前記エアフィルタ(4)が前記リム(5)の断面積を覆うことにより、前記エアフィルタ(4)が三次元構造に配置される、態様1~14のいずれか一つに記載の呼吸保護具。
《態様16》
喉頭切除または気管切開された人のストーマを通して呼吸する間、空気を加湿および濾過するための方法であって、前記方法は、
少なくとも1つの入口(7、8)を備える上部(1a)と、少なくとも1つの出口(12)を備える下部(1b)とを有するハウジングを有する呼吸保護具を介して、前記人の周囲から気管内に空気を通過させるステップであって、前記呼吸保護具は、HME(3)およびエアフィルタ(4)を備える、ステップと、
前記エアフィルタ(4)を通過することによって前記空気を濾過するステップであって、前記エアフィルタ(4)は、前記少なくとも1つの入口(7、8)によって囲まれる面積よりも大きい表面積を有する、ステップと、
前記空気が前記HME(3)を通過するときに、前記空気を加湿するステップと、
を含む、方法。
《態様17》
喉頭切除または気管切開された人のストーマに使用するための呼吸保護具を閉鎖するための方法であって、
前記呼吸保護具は、上部(1a)および下部(1b)を含むハウジングを有し、
前記ハウジングの前記上部(1a)には少なくとも1つの入口(7、8)が設けられ、前記ハウジングの前記下部(1b)には少なくとも1つの出口(12)が設けられ、使用中の空気流が前記人の周囲から前記少なくとも1つの入口(7、8、9)を通って前記少なくとも1つの出口(12)に達し、前記人の気管に入るようになっており、
前記呼吸保護具は、熱湿交換器(HME)(3)およびエアフィルタ(4)を備え、
前記エアフィルタ(4)が前記少なくとも1つの入口(7、8、9)を取り囲み、使用中の前記空気流が前記少なくとも1つの入口(7、8、9)を通過して前記少なくとも1つの出口(12)に達するとき、前記空気流が前記HME(3)および前記エアフィルタ(4)を通過するようになっており、
前記ハウジングの前記上部(1a)は、前記ハウジングの前記下部(1b)の遠位に配置された閉鎖弁(10)に接続された閉鎖部材(6)をさらに備え、
第一の開口部(11)が前記閉鎖弁(10)と前記ハウジングの前記下部(1b)との間に設けられており、
前記方法は、
前記閉鎖部材(6)を前記ハウジングの前記下部(1b)に押し付けることによって、前記第一の開口部(11)を閉鎖するステップを含む、方法。