(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-17
(45)【発行日】2024-06-25
(54)【発明の名称】窓及び窓用スペーサ部材
(51)【国際特許分類】
E06B 3/66 20060101AFI20240618BHJP
E06B 3/663 20060101ALI20240618BHJP
H10N 10/13 20230101ALI20240618BHJP
H10N 10/857 20230101ALI20240618BHJP
H10N 10/17 20230101ALI20240618BHJP
【FI】
E06B3/66 Z
E06B3/663 B
H10N10/13
H10N10/857
H10N10/17 Z
(21)【出願番号】P 2021558377
(86)(22)【出願日】2020-11-17
(86)【国際出願番号】 JP2020042688
(87)【国際公開番号】W WO2021100674
(87)【国際公開日】2021-05-27
【審査請求日】2023-08-23
(31)【優先権主張番号】P 2019210720
(32)【優先日】2019-11-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000102980
【氏名又は名称】リンテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002620
【氏名又は名称】弁理士法人大谷特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】西尾 太寿
【審査官】秋山 斉昭
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-47127(JP,A)
【文献】国際公開第2018/181660(WO,A1)
【文献】特開2017-66667(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2015-0061880(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E06B 3/66-3/677
E06B 5/00
E06B 7/28
H10N 10/857
H10N 10/13
H10N 10/17
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに間隔をあけて向かい合う第1の板状部材及び第2の板状部材を有する窓本体と、
前記窓本体の内部に配置されており、複数のP型熱電変換素子と複数のN型熱電変換素子とが交互に並べられた熱電変換素子と、
前記熱電変換素子の一方の表面に設置され、前記第1の板状部材及び第2の板状部材のいずれか一方と熱的に接続している接続部を有するヒートシンクと、を備える窓であって、
前記ヒートシンクは、前記接続部から前記窓の厚み方向に
延在しており、
前記窓の厚み方向と、前記熱電変換素子の厚み方向とが交差する、窓。
【請求項2】
前記ヒートシンクは、前記熱電変換素子の一方の表面に設置された基部と、前記基部に連なっており且つ前記熱電変換素子から前記板状部材の表面上に張り出している張出部とを有する、
請求項1に記載の窓。
【請求項3】
前記熱電変換素子の他方の表面に設置され、前記第1の板状部材及び第2の板状部材のいずれか他方と熱的に接続している接続部を有する第2のヒートシンクをさらに備える、
請求項1又は2に記載の窓。
【請求項4】
前記熱電変換素子は、複数のP型熱電変換素子と複数のN型熱電変換素子とが交互に隣接して素子側面において電気的に接続され、第一方向に沿って並べられた熱電変換素子層である、請求項1~
3のいずれか一項に記載の窓。
【請求項5】
前記ヒートシンクは、高熱伝導部を有し、
前記高熱伝導部は、前記熱電変換素子の一方の表面のうち前記P型熱電変換素子と前記N型熱電変換素子との界面を直接的又は間接的に覆うように設置される、請求項
4に記載の窓。
【請求項6】
前記窓本体は、前記第1の板状部材と前記第2の板状部材との間に配置されたスペーサをさらに有する、請求項1~
5のいずれか一項に記載の窓。
【請求項7】
前記第1及び第2の板状部材が板ガラスである、請求項1~
6のいずれか一項に記載の窓。
【請求項8】
前記熱電変換素子は
前記スペーサに設置される、
請求項6に記載の窓。
【請求項9】
前記ヒートシンクの端部が、前記板状部材と前記スペーサとの間に配置される、
請求項6に記載の窓。
【請求項10】
前記第1の板状部材と前記スペーサとの間、及び、前記第2の板状部材と前記スペーサとの間のうち少なくとも一方に介在するシール層をさらに有し、前記ヒートシンクの端部が、前記スペーサと前記シール層との間に配置される、
請求項9に記載の窓。
【請求項11】
前記第1の板状部材と前記スペーサとの間、及び、前記第2の板状部材と前記スペーサとの間のうち少なくとも一方に介在するシール層をさらに有し、前記ヒートシンクの端部が、前記板状部材と前記シール層との間に配置される、
請求項9に記載の窓。
【請求項12】
前記熱電変換素子は、熱電半導体微粒子と、耐熱性樹脂とを含む熱電半導体組成物の塗膜から形成される、請求項1~
11のいずれか一項に記載の窓。
【請求項13】
請求項8に記載の窓に用いられる窓用スペーサ部材であって、
前記スペーサと、前記スペーサに設置された前記熱電変換素子と、前記熱電変換素子の一方の表面に設置されたヒートシンクとを有する、窓用スペーサ部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、窓及び窓用スペーサ部材に関し、窓及び該窓に用いられる窓用スペーサ部材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、熱電変換を利用したエネルギー変換技術として、熱電発電技術が知られている。この熱電発電技術は、ゼーベック効果による熱エネルギーから電気エネルギーへの変換を利用した技術である。この技術は、特にビル、工場等で使用される化石燃料資源等から発生する未利用の廃熱エネルギーを電気エネルギーとして、しかも動作コストを掛ける必要なく、回収できる省エネルギー技術として大きな脚光を浴びている。このような熱電発電技術を用いて、窓構造における第1窓枠部材と第2窓枠部材との温度差を利用して発電することが行われている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、斯かる従来の窓構造では、第1窓枠部材と第2窓枠部材との温度差を利用するために、熱電変換素子を第1窓枠部材と第2窓枠部材との間に亘って介在させることが必要である。ここで、熱電変換素子の厚みを窓構造の厚みと同程度にまで厚くする必要があった(本願の
図16参照)。よって、熱電変換素子を小型化することができないことで、熱電変換素子を介する熱伝導を十分に抑制することができずに、窓構造の断熱機能を阻害してしまうため、窓構造の断熱性を維持することができないという問題がある。
【0005】
本発明は、上記問題を鑑み、熱電変換素子を小型化することができ、もって、熱電変換素子が窓の断熱機能を阻害するのを抑制して、窓の断熱性を維持することができる窓及び該窓に用いられる窓用スペーサ部材を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、熱電変換素子の一方の表面に設置され、第1の板状部材及び第2の板状部材のいずれか一方と熱的に接続している接続部を有するヒートシンクが窓の厚み方向に接続部から延在していることによって、熱電変換素子を小型化することができ、もって、熱電変換素子が窓の断熱機能を阻害するのを抑制して、窓の断熱性を維持することができ、これにより、上記課題を解決することを見出し、本発明を完成した。
すなわち、本発明は、以下の(1)~(14)を提供するものである。
(1)互いに間隔をあけて向かい合う第1の板状部材及び第2の板状部材を有する窓本体と、前記窓本体の内部に配置されており、複数のP型熱電変換素子と複数のN型熱電変換素子とが交互に並べられた熱電変換素子と、前記熱電変換素子の一方の表面に設置され、前記第1の板状部材及び第2の板状部材のいずれか一方と熱的に接続している接続部を有するヒートシンクと、を備える窓であって、前記ヒートシンクは、前記接続部から前記窓の厚み方向に延在している、窓。
(2)前記窓の厚み方向と、前記熱電変換素子の厚み方向とが交差する、上記(1)に記載の窓。
(3)前記ヒートシンクは、前記熱電変換素子の一方の表面に設置された基部と、前記基部に連なっており且つ前記熱電変換素子から前記板状部材の表面上に張り出している張出部とを有する、上記(1)又は(2)に記載の窓。
(4)前記熱電変換素子の他方の表面に設置され、前記第1の板状部材及び第2の板状部材のいずれか他方と熱的に接続している接続部を有する第2のヒートシンクをさらに備える、上記(1)~(3)のいずれかに記載の窓。
(5)前記熱電変換素子は、複数のP型熱電変換素子と複数のN型熱電変換素子とが交互に隣接して素子側面において電気的に接続され、第一方向に沿って並べられた熱電変換素子層である、上記(1)~(4)のいずれかに記載の窓。
(6)前記ヒートシンクは、高熱伝導部を有し、前記高熱伝導部は、前記熱電変換素子の一方の表面のうち前記P型熱電変換素子と前記N型熱電変換素子との界面を直接的又は間接的に覆うように設置される、上記(5)に記載の窓。
(7)前記窓本体は、前記第1の板状部材と前記第2の板状部材との間に配置されたスペーサをさらに有する、上記(1)~(6)のいずれかに記載の窓。
(8)前記第1及び第2の板状部材が板ガラスである、上記(1)~(7)のいずれかに記載の窓。
(9)前記熱電変換素子はスペーサに設置される、上記(7)又は(8)に記載の窓。
(10)前記ヒートシンクの端部が、前記板状部材と前記スペーサとの間に配置される、上記(7)~(9)のいずれかに記載の窓。
(11)前記第1の板状部材と前記スペーサとの間、及び、前記第2の板状部材と前記スペーサとの間のうち少なくとも一方に介在するシール層をさらに有し、前記ヒートシンクの端部が、前記スペーサと前記シール層との間に配置される、上記(10)に記載の窓。
(12)前記第1の板状部材と前記スペーサとの間、及び、前記第2の板状部材と前記スペーサとの間のうち少なくとも一方に介在するシール層をさらに有し、前記ヒートシンクの端部が、前記板状部材と前記シール層との間に配置される、上記(10)に記載の窓。
(13)前記熱電変換素子は、熱電半導体微粒子と、耐熱性樹脂とを含む熱電半導体組成物の塗膜から形成される、上記(1)~(12)のいずれかに記載の窓。
(14)上記(9)に記載の窓に用いられる窓用スペーサ部材であって、前記スペーサと、前記スペーサに設置された前記熱電変換素子と、前記熱電変換素子の一方の表面に設置されたヒートシンクとを有する、窓用スペーサ部材。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、熱電変換素子を小型化することができ、もって、熱電変換素子が窓の断熱機能を阻害するのを抑制して、窓の断熱性を維持することができる窓及び該窓に用いられる窓用スペーサ部材を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明の窓における窓本体の構成の一例を示す斜視図である。
【
図2】本発明の第1の実施形態に係る窓における熱電変換モジュールの構成を示す窓の厚み方向に沿った断面模式図である。
【
図3A】本発明の第1の実施形態に係る窓における熱電変換モジュールの構成の上面図である。
【
図3B】本発明の第1の実施形態に係る窓における熱電変換モジュールの構成の下面図である。
【
図4】本発明の第1の実施形態に係る窓における熱電変換モジュールの構成の例を示す第一方向に沿った断面模式図である。
【
図5】本発明の第1の実施形態に係る窓における熱電変換モジュールとスペーサとの位置関係を説明する図である。
【
図6】本発明の第1の実施形態に係る窓における熱電変換モジュールとスペーサとの位置関係の変形例を説明する図である。
【
図7】本発明の第1の実施形態に係る窓におけるヒートシンク端部とシール層との位置関係を説明する図である。
【
図8】本発明の第1の実施形態に係る窓におけるヒートシンク端部とシール層との位置関係の変形例を説明する図である。
【
図9】本発明の第1の実施形態に係る窓における熱電変換モジュールの変形例の構成を説明するための図である。
【
図10】本発明の第1の実施形態に係る窓における外部接続用電極の配置を説明するための図である。
【
図11】本発明の第2の実施形態に係る窓における熱電変換モジュールの構成を示す窓の厚み方向に沿った断面模式図である。
【
図12】本発明の第3の実施形態に係る窓における熱電変換モジュールの構成を示す窓の厚み方向に沿った断面模式図である。
【
図13】本発明の第4の実施形態に係る窓における熱電変換モジュールの構成を示す窓の厚み方向に沿った断面模式図である。
【
図14】本発明の第5の実施形態に係る窓における熱電変換モジュールの構成を示す窓の厚み方向に沿った断面模式図である。
【
図15】窓の第1の比較構成例を示す窓の厚み方向に沿った断面模式図である。
【
図16】窓の第2の比較構成例を示す窓の厚み方向に沿った断面模式図である。
【
図17】窓の第3の比較構成例を示す窓の厚み方向に沿った断面模式図である。
【
図18】実施例1で用いた装置の構成を説明する図である。
【
図19】実施例3で用いた装置の構成を説明する図である。
【
図20】比較例1で用いた装置の構成を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
(窓)
本発明の窓は、窓本体と、熱電変換素子及びヒートシンク(放熱板)を少なくとも有する熱電変換モジュールとを備える。
【0010】
<窓本体>
本明細書において、「窓本体」とは、窓のうち熱電変換モジュールを除く部分を意味する。
窓本体は、互いに間隔をあけて向かい合う第1の板状部材及び第2の板状部材を少なくとも有し、必要に応じて、スペーサ、シール層、シール材などを更に有する。
【0011】
図1は、本発明の窓における窓本体の構成の一例を示す斜視図である。
図1に示すように、窓100における窓本体10は、互いに間隔をあけて向かい合う第1の板状部材1a及び第2の板状部材1bを有している。ここで、例えば、第1の板状部材1aは、室外側に設けられ、第2の板状部材1bは、室内側に設けられている。このように、第1の板状部材1aの設けられた温度環境と、第2の板状部材1bの設けられた温度環境が異なることが好ましい。例えば、窓本体10は冷蔵庫の筐体に設置され、第1の板状部材1aが庫外側、第2の板状部材1bが庫内側に設けられていてもよい。また、第1及び第2の板状部材1a,1bは、ほぼ同様の外形を有する。第1及び第2の板状部材1a,1bは、周縁部全周に亘って、第1及び第2の板状部材1a,1b間に配置されたスペーサ20によって互いに一定の距離に離間されている。板状部材1a及び板状部材1bが板ガラス等の透光部材であれば、窓本体10は、いわゆる複層ガラスのような複層窓となる。
図1において、板状部材1a,1bの厚み方向をX方向とする。なお、「方向」は、その方向軸に沿っていれば、ベクトルが逆向きの場合をも含み、以下同じである。
より詳細に説明すると、このスペーサ20は、第1及び第2の板状部材1a,1bの周縁の4つの辺に沿って延びる部材により構成される。スペーサ20は、第1及び第2の板状部材1a,1bの間に、空間30を形成する。スペーサ20は、例えば、アルミニウム等の金属により、中空部21を有する断面矩形状に形成される。スペーサ20の空間30を向く面には、中空部21と連通する多数の貫通孔22が形成されている。そして、第1の板状部材1aとスペーサ20との間、及び、第2の板状部材1bとスペーサ20との間に、透湿性の低いブチルゴム等のシール層50が介在する。このシール層50によって、スペーサ20が、第1の板状部材1a及び第2の板状部材1bに接着されている。さらに、スペーサ20の中空部21には、ゼオライト等の公知の乾燥剤40が充填されている。また、スペーサ20の空間30側の反対側には、凸部20aが形成されている。この凸部20aがシール材60の上面形成された凹部に嵌まった状態となっている。
後述する熱電変換モジュール(不図示)は、上述の窓本体10の内部に配置される。
【0012】
シール材60は、耐久性に優れたシリコーンやポリサルファイド系樹脂等によって形成され、第1の板状部材1a、第2の板状部材1b、及びスペーサ20に接着される。これにより、第1の板状部材1a及び第2の板状部材1bの周縁は、シール材60によって気密に連結され、第1の板状部材1aと第2の板状部材1bとの間の空間30は気密に保たれた密閉空間となる。そのため、板状部材1a及び板状部材1bが板ガラス等の透光部材である場合に、窓本体10の板状部材1aと板状部材1bの間に水蒸気が侵入し、曇りの原因となることを防止し得る。この効果をさらに高めるため、この密閉空間にアルゴンガス等の不活性ガスが封入されてもよく、また、密閉空間が減圧されてもよい(即ち、複層窓が真空窓となってもよい)。
【0013】
図1において、窓100は、第1及び第2の板状部材1a,1bの2枚の板状部材を有するが、第1及び第2の板状部材1a,1bに加えて、さらに、1枚以上の板状部材を有していてもよい。例えば、窓100が、第1及び第2の板状部材1a,1bに加えて、第3の板状部材を有する場合、3枚の板状部材により形成される2つの空間の両方に、後述する熱電変換素子が設けられていてもよく、2つの空間のいずれか一方に、後述する熱電変換素子が設けられていてもよく、2つの空間を貫通するように、後述する熱電変換素子が設けられていてもよい(この場合、2つの空間は1つの空間となる)。なお、
図1において、板状部材1a,1bは透明なものとして示されている。
【0014】
<<板状部材>>
第1及び第2の板状部材1a、1bとしては、板状の部材である限り、特に制限はない。板状の部材が窓の透光部の材料である場合は、フロートガラス、網入りガラス、強化ガラス、合わせガラス等の板ガラス;ポリカーボネート樹脂板、ポリメチルメタクリレート樹脂板等の板状樹脂材;などが挙げられる。板状の部材がサッシ等の窓の枠材の材料である場合は、板状木材;アルミニウム、ステンレス、ガルバリウム鋼板(登録商標)等の板状金属材;などが挙げられる。これらは1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。窓の透光部の材料としては、これらの中でも、低コスト及び入手容易の観点から、板ガラスが好ましい。
【0015】
<熱電変換モジュール>
熱電変換モジュールは、(1)複数のP型熱電変換素子と複数のN型熱電変換素子とが交互に並べられた熱電変換素子と、(2)ヒートシンク(放熱板)とを有し、さらに必要に応じて、(3)接着層、(4)電極、(5)基板、(6)外部接続用電極等の他の部材をさらに有する。
図2は、本発明の第1の実施形態に係る窓における熱電変換モジュールの構成を示す窓の厚み方向に沿った断面模式図である。
図3Aは、本発明の第1の実施形態に係る窓における熱電変換モジュールの構成の上面図(
図2におけるA方向から視た平面図)である。
図3Bは、本発明の第1の実施形態に係る窓における熱電変換モジュールの構成の下面図(
図2におけるB方向から視た平面図)である。
図4は、本発明の第1の実施形態に係る窓における熱電変換モジュールの構成の例を示す第一方向に沿った断面模式図である。なお、本明細書において、「第一方向」は、P型熱電素子及びN型熱電素子が交互に並ぶ方向(
図3A、
図3B、
図4及び
図9における矢印Yで表す方向)を意味する。
図2~
図4に示すように、熱電変換モジュール11は、窓本体10の内部に配置された熱電変換素子2と、熱電変換素子2の第1主面2aに設置され、第1の板状部材1aと熱的に接続している接続部を有する第1のヒートシンク3aと、熱電変換素子2の第2主面2bに設置され、第2の板状部材1bと熱的に接続している接続部を有する第2のヒートシンク3bとを有する。
図3Aに示すように、第1のヒートシンク3aは、熱電変換素子2の第1主面2aに設置された複数の基部3axと、複数の基部3axに連なっており且つ熱電変換素子2から第1板状部材1aの表面上に張り出している1個の張出部3ayとを有する。
また、
図3Bに示すように、第1のヒートシンク3bは、熱電変換素子2の第2主面2bに設置された複数の基部3bxと、複数の基部3bxに連なっており且つ熱電変換素子2から第2板状部材1bの表面上に張り出している1個の張出部3byとを有する。
なお、本明細書において、「基部に連なっており」とは、基部に直接連なっていても、基部に間接的に連なっていてもよい。ここで、「基部に間接的に連なっている」とは、基部に他の部材(例えば、後述する延在部Eの一部)を介して連なっていることを意味する。
このように、ヒートシンク3a,3bが、板状部材1a、1bとの接続部から、窓100の厚み方向Xに延在する延在部Eを有し、且つ、板状部材1a,1bと熱的に接続する張出部3ay,3byを有する。具体的には、例えば、板状部材1aが室外側、板状部材1bが室内側に設けられている場合であれば、冬季には一般に板状部材1aが低温、板状部材1bが高温となる。張出部3ay、3byは、それぞれが板状部材1a,1bの低温、高温を基部3ax、3bxを介して熱電素子2の第1主面2a、第2主面2bに伝える。これにより、熱電変換素子2の主面2a,2bと板状部材1a,1bとが接するように熱電変換素子2を配置する必要がなくなるため、熱電変換素子2を板状部材1aと板状部材1bの間の間隔と同程度の厚さとする必要がない。したがって、熱電変換素子2を小型化することができ、もって、熱電変換素子2が窓100の断熱機能を阻害するのを抑制して、窓100の断熱性を維持することができる。なお、ヒートシンクに関して、「延在」とは、板状部材との接続部から他方の板状部材側に向かう方向に(板状部材1a,1bの厚み方向Xに)ヒートシンク3a,3bが突出していることを意味する。
また、ヒートシンク3a、3bが接続部から延在していることにより、熱電変換素子2を板状部材1a,1b間に亘って介在させる必要がなくなる。これにより、熱電変換素子2の設計(位置、向き)の自由度を向上させることができ、もって、断熱性及び採光性を向上させることができる。また、張出部3ay、3byを設けることにより、板状部材1a、1bの低温、高温がよりヒートシンク3a、3bに伝わりやすくなる。
なお、
図2では、熱電変換モジュール11が、第1のヒートシンク3aと第2のヒートシンク3bとを有しているが、第1のヒートシンク3a及び第2のヒートシンク3bのいずれか一方のみであってもよい。
【0016】
図4に示すように、熱電変換素子2の第1主面2a及び第2主面2b上には、第1ヒートシンク3aと第2ヒートシンク3bとが第一方向Yに沿って断続的に配置されている。
なお、
図4に示す例において、熱電変換モジュール11は、隣接するP型熱電変換素子2c及びN型熱電変換素子2dを接続する電極4と、第2主面2b上に配置された基板5と、第1主面2a上及び基板5上に配置された接着層6とをさらに有する。
【0017】
熱電変換素子は、窓本体の内部に配置されていればよいが、スペーサに設置されることが好ましく、スペーサ上に直接に設置されていても、間接的に設置されていてもよい。ここで、「スペーサ上」とは、「スペーサの表面上」のみならず、「スペーサの上方」をも含む概念である。
例えば、
図5の断面図に示すように、熱電変換素子2を有する熱電変換モジュール11が、スペーサ20の表面20b上に接着層70を介して配置されていてもよい。また、
図6の断面図に示すように、熱電変換素子2を有する熱電変換モジュール11が、スペーサ20の表面20bに立設されたピラー80を介してスペーサ20の上方に配置されていてもよい。なおここで、接着層70及びピラー80は、熱伝導率が低いことが好ましい。
ピラー80を介して熱電変換モジュール11がスペーサ20上に配置されると、上述の貫通孔22を熱電変換モジュール11が塞ぎにくくすることができる。なお、熱電変換モジュール11を直接スペーサ20上に配置する場合は、熱電変換モジュール11の幅を貫通孔22を塞がないサイズとする、又は、貫通孔22の位置を熱電変換モジュール11に重ならない位置に設けるようにすることが好ましい。
【0018】
ヒートシンクの端部は、通常、板状部材とスペーサとの間に配置されている。ここで、
図7に示すように、ヒートシンク3a(3b)の端部(張出部)3ay(3by)は、スペーサ20とシール層50との間に配置されていてもよい。また、
図8に示すように、ヒートシンク3a(3b)の端部(張出部)3ay(3by)は、板状部材1a(1b)とシール層50との間に配置されていてもよい。
ヒートシンク3a(3b)の端部3ay(3by)が、スペーサ20とシール層50との間に配置されることで、窓を効率良く製造することができる。一方、ヒートシンク3a(3b)の端部3ay(3by)が、板状部材1a,1bとシール層50との間に配置されることで、熱電変換効率をより向上させることができる。
【0019】
上記窓において、窓の厚み方向と熱電変換素子の厚み方向とが交差することが好ましい。
窓の厚み方向と熱電変換素子の厚み方向とが交差することにより、温度差方向を変換することができる。なおここで、「温度差方向の変換」を具体例を用いて説明すると、
図2においては、「板状部材1aと板状部材1bとの間に与えられる温度差方向」から「熱電変換素子2の表面(
図2における第1主面2a)と裏面(
図2における第2主面2b)との間に与えられる温度差方向」への変換がなされている。また、「窓の厚み方向」とは、「第1の板状部材から第2の板状部材へ向かう方向(
図2におけるX方向)」を意味し、「熱電変換素子の厚み方向」とは、「熱電変換素子の表面(
図2における第1主面2a)から熱電変換素子の裏面(
図2における第2主面2b)へ向かう方向」を意味する。なお、熱電変換素子の表面及び裏面は、P型熱電変換素子とN型熱電変換素子との並び方向に沿う面である。温度差方向が窓の厚み方向から変換されないままでは、熱電変換素子の厚み方向を窓の厚み方向と一致させる必要がある。この場合に、熱電変換素子の面積が大きいほど熱電変換効率は向上するため、大きな発電量を得ようとすると、熱電変換素子によって覆われる窓の面積も大きくなる。しかしながら、温度差方向が変換される結果、板状部材1a、1bと平行な方向への熱電変換素子の面積の拡大を減少させられるため、窓の採光性を向上させることができる。
「交差」としては、両者がなす角度が0°(180°)でない限り、特に制限はないが、両者がなす角度が60°以上120°以下であることが好ましい。例えば、
図2においては、窓の厚み方向Xと熱電変換素子の厚み方向とが90°の角度をなして交差する。
【0020】
図9は、本発明の第1の実施形態に係る窓における熱電変換モジュールの変形例の構成を説明するための図である。
図9において、熱電変換モジュール11は、複数のP型熱電変換素子2cと複数のN型熱電変換素子2dとが交互に所定の間隔をもって並べられた熱電変換素子2と、隣接するP型熱電変換素子2c及びN型熱電変換素子2dを接続する電極4と、複数のP型熱電変換素子2c及び複数のN型熱電変換素子2dを覆うように配置された基板5とを有する。
【0021】
以下、熱電変換モジュールの各部材((1)熱電変換素子、(2)ヒートシンク(放熱板)、(3)接着層、(4)電極、(5)基板、(6)外部接続用電極)について詳述する。
【0022】
<<(1)熱電変換素子>>
熱電変換素子は、複数のP型熱電変換素子と複数のN型熱電変換素子とが交互に隣接して素子側面において電気的に接続されている、第一方向に沿って並べられたインプレーン型熱電変換素子(
図4参照)であってもよい。また、熱電変換素子は、複数のP型熱電変換素子と複数のN型熱電変換素子とが交互に所定の間隔をもって並べられたπ型熱電変換素子(
図9参照)であってもよい。熱電変換素子は、熱電変換素子の厚みを薄くすることができる点、隣り合う熱電変換素子間に間隔がなく、限られた面積に高密度で素子を配置できる点で、インプレーン型熱電変換素子が好ましい。
インプレーン型熱電変換素子は、π型熱電変換モジュールのように温度差を熱電変換層の厚さ方向のみに生じさせるのではなく、熱電変換層の面方向(第一方向)にも温度差を生じさせることにより、熱エネルギーを電気エネルギーに変換する。
【0023】
熱電変換素子は、(i)熱電半導体微粒子、(ii)耐熱性樹脂を含む熱電半導体組成物からなるものが好ましい。熱電半導体組成物は、(iii)イオン液体及び(iv)無機イオン性化合物の一方又は双方を含んでいてもよい。熱電変換素子は、(i)熱電半導体微粒子、(ii)耐熱性樹脂を含む熱電半導体組成物の塗膜から形成されることが好ましい。本発明の熱電変換モジュールは、窓本体に用いられる板状部材1aおよび1bの間の限られた空間に、極力視界を遮らないように設けつつも、熱電変換効率の向上のために、面積を大きくし、P型熱電変換素子とN型熱電変換素子の繰り返し単位の数を増やす必要がある。熱電半導体組成物の塗膜から形成される熱電変換素子は、このような制約、要請がある場合であっても、印刷法等により、任意のパターンで熱電変換素子を形成しやすい。
【0024】
〔(i)熱電半導体微粒子〕
熱電変換素子に用いる熱電半導体微粒子は、熱電半導体材料を、微粉砕装置等により、所定のサイズまで粉砕することが好ましい。
【0025】
熱電変換素子に用いるP型熱電変換素子及びN型熱電変換素子を構成する材料としては、温度差を付与することにより、熱起電力を発生させることができる材料であれば特に制限されず、例えば、P型ビスマステルライド、N型ビスマステルライド等のビスマス-テルル系熱電半導体材料;GeTe、PbTe等のテルライド系熱電半導体材料;アンチモン-テルル系熱電半導体材料;ZnSb、Zn3Sb2、Zn4Sb3等の亜鉛-アンチモン系熱電半導体材料;SiGe等のシリコン-ゲルマニウム系熱電半導体材料;Bi2Se3等のビスマスセレナイド系熱電半導体材料;β―FeSi2、CrSi2、MnSi1.73、Mg2Si等のシリサイド系熱電半導体材料;酸化物系熱電半導体材料;FeVAl、FeVAlSi、FeVTiAl等のホイスラー材料、TiS2等の硫化物系熱電半導体材料等が用いられる。これらは1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0026】
これらの中でも、P型ビスマステルライド又はN型ビスマステルライド等のビスマス-テルル系熱電半導体材料が好ましい。
前記P型ビスマステルライドは、キャリアが正孔で、ゼーベック係数が正値であり、例えば、BiXTe3Sb2-Xで表わされるものが好ましく用いられる。この場合、Xは、好ましくは0<X≦0.8であり、より好ましくは0.4≦X≦0.6である。Xが0より大きく0.8以下であるとゼーベック係数と電気伝導率が大きくなり、P型熱電変換材料としての特性が維持されるので好ましい。
また、前記N型ビスマステルライドは、キャリアが電子で、ゼーベック係数が負値であり、例えば、Bi2Te3-YSeYで表わされるものが好ましく用いられる。この場合、Yは、好ましくは0≦Y≦3(Y=0の時:Bi2Te3)であり、より好ましくは0.1<Y≦2.7である。Yが0以上3以下であるとゼーベック係数と電気伝導率が大きくなり、n型熱電変換材料としての特性が維持されるので好ましい。
【0027】
熱電半導体微粒子の前記熱電半導体組成物中の配合量は、好ましくは、30~99質量%である。より好ましくは、50~96質量%であり、さらに好ましくは、70~95質量%である。熱電半導体微粒子の配合量が、上記範囲内であれば、ゼーベック係数(ペルチェ係数の絶対値)が大きく、また電気伝導率の低下が抑制され、熱伝導率のみが低下するため高い熱電性能を示すとともに、十分な被膜強度を有する膜が得られ好ましい。
【0028】
熱電半導体微粒子の平均粒径は、好ましくは、10nm~200μm、より好ましくは、10nm~30μm、さらに好ましくは、50nm~10μm、特に好ましくは、1~6μmである。上記範囲内であれば、均一分散が容易になり、電気伝導率を高くすることができる。
熱電半導体材料を粉砕して熱電半導体微粒子を得る方法は特に限定されず、ジェットミル、ボールミル、ビーズミル、コロイドミル、コニカルミル、ディスクミル、エッジミル、製粉ミル、ハンマーミル、ペレットミル、ウィリーミル、ローラーミル等の公知の微粉砕装置等により、所定のサイズまで粉砕すればよい。
なお、熱電半導体微粒子の平均粒径は、レーザー回折式粒度分析装置(CILAS社製、1064型)にて測定することにより得られ、粒径分布の中央値とした。
【0029】
また、熱電半導体微粒子は、アニール処理(以下、「アニール処理A」ということがある。)されたものであることが好ましい。アニール処理Aを行うことにより、熱電半導体微粒子は、結晶性が向上し、さらに、熱電半導体微粒子の表面酸化膜が除去されるため、熱電変換材料のゼーベック係数(ペルチェ係数の絶対値)が増大し、熱電性能指数をさらに向上させることができる。アニール処理Aは、特に限定されないが、熱電半導体組成物を調製する前に、熱電半導体微粒子に悪影響を及ぼすことがないように、ガス流量が制御された、窒素、アルゴン等の不活性ガス雰囲気下、同じく水素等の還元ガス雰囲気下、または真空条件下で行うことが好ましく、不活性ガス及び還元ガスの混合ガス雰囲気下で行うことがより好ましい。具体的な温度条件は、用いる熱電半導体微粒子に依存するが、通常、微粒子の融点以下の温度で、かつ100~1500℃で、数分~数十時間行うことが好ましい。
【0030】
〔(ii)耐熱性樹脂〕
耐熱性樹脂は、熱電半導体微粒子間のバインダーとして働き、熱電変換材料の被膜強度を高めるためのものである。該耐熱性樹脂は、特に制限されるものではないが、熱電半導体組成物からなる薄膜をアニール処理等により熱電半導体微粒子を結晶成長させる際に、樹脂としての機械的強度及び熱伝導率等の諸物性が損なわれず維持される耐熱性樹脂を用いる。
前記耐熱性樹脂としては、例えば、ポリアミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリベンゾオキサゾール樹脂、ポリベンゾイミダゾール樹脂、エポキシ樹脂、及びこれらの樹脂の化学構造を有する共重合体等が挙げられる。前記耐熱性樹脂は、単独でも又は2種以上組み合わせて用いてもよい。これらの中でも、耐熱性がより高く、かつ薄膜中の熱電半導体微粒子の結晶成長に悪影響を及ぼさないという点から、ポリアミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリイミド樹脂、エポキシ樹脂が好ましく、耐熱性に優れるという点からポリアミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリイミド樹脂がより好ましい。なお、本発明においてポリイミド樹脂とは、ポリイミド及びその前駆体を総称する。
【0031】
前記耐熱性樹脂は、分解温度が300℃以上であることが好ましい。分解温度が上記範囲であれば、熱電半導体組成物からなる薄膜をアニール処理した場合でも、バインダーとして機能が失われることなく、熱電変換材料の被膜強度を維持することができる。
また、前記耐熱性樹脂は、熱重量測定(TG)による300℃における質量減少率が10%以下であることが好ましく、5%以下であることがより好ましく、1%以下であることがさらに好ましい。質量減少率が上記範囲であれば、熱電半導体組成物からなる薄膜をアニール処理した場合でも、バインダーとして機能が失われることなく、熱電変換材料の被膜強度を維持することができる。
【0032】
前記耐熱性樹脂の前記熱電半導体組成物中の配合量は、好ましくは0.1~40質量%、より好ましくは0.5~20質量%、さらに好ましくは1~20質量%である。前記耐熱性樹脂の配合量が、上記範囲内であれば、高い熱電性能と被膜強度が両立した膜が得られる。
【0033】
〔(iii)イオン液体〕
イオン液体は、カチオンとアニオンとを組み合わせてなる溶融塩であり、-50℃以上400℃未満の幅広い温度領域において液体で存在し得る塩をいう。イオン液体は、蒸気圧が極めて低く不揮発性であること、優れた熱安定性及び電気化学安定性を有していること、粘度が低いこと、かつイオン伝導度が高いこと等の特徴を有しているため、導電補助剤として、熱電半導体微粒子間の電気伝導率の低減を効果的に抑制することができる。また、イオン液体は、非プロトン性のイオン構造に基づく高い極性を示し、耐熱性樹脂との相溶性に優れるため、熱電変換材料の電気伝導率を均一にすることができる。
【0034】
イオン液体は、公知または市販のものが使用できる。例えば、ピリジニウム、ピリミジニウム、ピラゾリウム、ピロリジニウム、ピペリジニウム、イミダゾリウム等の窒素含有環状カチオン化合物及びそれらの誘導体;テトラアルキルアンモニウム系のアミン系カチオン及びそれらの誘導体;ホスホニウム、トリアルキルスルホニウム、テトラアルキルホスホニウム等のホスフィン系カチオン及びそれらの誘導体;リチウムカチオン及びその誘導体等のカチオン成分と、Cl-、Br-、I-、AlCl4
-、Al2Cl7
-、BF4
-、PF6-、ClO4-、NO3
-、CH3COO-、CF3COO-、CH3SO3
-、CF3SO3
-、(FSO2)2N-、(CF3SO2)2N-、(CF3SO2)3C-、AsF6
-、SbF6
-、NbF6
-、TaF6
-、F(HF)n-、(CN)2N-、C4F9SO3
-、(C2F5SO2)2N-、C3F7COO-、(CF3SO2)(CF3CO)N-等のアニオン成分とから構成されるものが挙げられる。
【0035】
上記のイオン液体の中で、高温安定性、熱電半導体微粒子及び樹脂との相溶性、熱電半導体微粒子間隙の電気伝導率の低下抑制等の観点から、イオン液体のカチオン成分が、ピリジニウムカチオン及びその誘導体、イミダゾリウムカチオン及びその誘導体から選ばれる少なくとも1種を含むことが好ましい。
【0036】
カチオン成分が、ピリジニウムカチオン及びその誘導体を含むイオン液体の具体的な例として、4-メチル-ブチルピリジニウムクロライド、3-メチル-ブチルピリジニウムクロライド、4-メチル-ヘキシルピリジニウムクロライド、3-メチル-ヘキシルピリジニウムクロライド、4-メチル-オクチルピリジニウムクロライド、3-メチル-オクチルピリジニウムクロライド、3、4-ジメチル-ブチルピリジニウムクロライド、3、5-ジメチル-ブチルピリジニウムクロライド、4-メチル-ブチルピリジニウムテトラフルオロボレート、4-メチル-ブチルピリジニウムヘキサフルオロホスフェート、1-ブチル-4-メチルピリジニウムブロミド、1-ブチル-4-メチルピリジニウムヘキサフルオロホスファート等が挙げられる。これらは1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、1-ブチル-4-メチルピリジニウムブロミド、1-ブチル-4-メチルピリジニウムヘキサフルオロホスファートが好ましい。
【0037】
また、カチオン成分が、イミダゾリウムカチオン及びその誘導体を含むイオン液体の具体的な例として、[1-ブチル-3-(2-ヒドロキシエチル)イミダゾリウムブロミド]、[1-ブチル-3-(2-ヒドロキシエチル)イミダゾリウムテトラフルオロボレイト]、1-エチル-3-メチルイミダゾリウムクロライド、1-エチル-3-メチルイミダゾリウムブロミド、1-ブチル-3-メチルイミダゾリウムクロライド、1-ヘキシル-3-メチルイミダゾリウムクロライド、1-オクチル-3-メチルイミダゾリウムクロライド、1-デシル-3-メチルイミダゾリウムクロライド、1-デシル-3-メチルイミダゾリウムブロミド、1-ドデシル-3-メチルイミダゾリウムクロライド、1-テトラデシル-3-メチルイミダゾリウムクロライド、1-エチル-3-メチルイミダゾリウムテトラフロオロボレート、1-ブチル-3-メチルイミダゾリウムテトラフロオロボレート、1-ヘキシル-3-メチルイミダゾリウムテトラフロオロボレート、1-エチル-3-メチルイミダゾリウムヘキサフルオロホスフェート、1-ブチル-3-メチルイミダゾリウムヘキサフルオロホスフェート、1-メチル-3-ブチルイミダゾリウムメチルスルフェート、1、3-ジブチルイミダゾリウムメチルスルフェート等が挙げられる。これらは1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、[1-ブチル-3-(2-ヒドロキシエチル)イミダゾリウムブロミド]、[1-ブチル-3-(2-ヒドロキシエチル)イミダゾリウムテトラフルオロボレイト]が好ましい。
【0038】
上記のイオン液体は、電気伝導度が10-7S/cm以上であることが好ましい。イオン伝導度が上記範囲であれば、導電補助剤として、熱電半導体微粒子間の電気伝導率の低減を効果的に抑制することができる。
【0039】
また、上記のイオン液体は、分解温度が300℃以上であることが好ましい。分解温度が上記範囲であれば、熱電半導体組成物からなる薄膜をアニール処理した場合でも、導電補助剤としての効果を維持することができる。
【0040】
また、上記のイオン液体は、熱重量測定(TG)による300℃における質量減少率が10%以下であることが好ましく、5%以下であることがより好ましく、1%以下であることがさらに好ましい。質量減少率が上記範囲であれば、熱電半導体組成物からなる薄膜をアニール処理した場合でも、導電補助剤としての効果を維持することができる。
【0041】
前記イオン液体の前記熱電半導体組成物中の配合量は、好ましくは0.01~50質量%、より好ましくは0.5~30質量%、さらに好ましくは1.0~20質量%である。前記イオン液体の配合量が、上記範囲内であれば、電気伝導率の低下が効果的に抑制され、高い熱電性能を有する膜が得られる。
【0042】
〔(iv)無機イオン性化合物〕
無機イオン性化合物は、少なくともカチオンとアニオンから構成される化合物である。無機イオン性化合物は400~900℃の幅広い温度領域において固体で存在し、イオン伝導度が高いこと等の特徴を有しているため、導電補助剤として、熱電半導体微粒子間の電気伝導率の低減を抑制することができる。
【0043】
カチオンとしては、金属カチオンを用いる。
金属カチオンとしては、例えば、アルカリ金属カチオン、アルカリ土類金属カチオン、典型金属カチオン及び遷移金属カチオンが挙げられ、アルカリ金属カチオン又はアルカリ土類金属カチオンがより好ましい。
アルカリ金属カチオンとしては、例えば、Li+、Na+、K+、Rb+、Cs+及びFr+等が挙げられる。
アルカリ土類金属カチオンとしては、例えば、Mg2+、Ca2+、Sr2+及びBa2+等が挙げられる。
【0044】
アニオンとしては、例えば、F-、Cl-、Br-、I-、OH-、CN-、NO3-、NO2-、ClO-、ClO2-、ClO3-、ClO4-、CrO4
2-、HSO4
-、SCN-、BF4
-、PF6
-等が挙げられる。
【0045】
無機イオン性化合物は、公知または市販のものが使用できる。例えば、カリウムカチオン、ナトリウムカチオン、又はリチウムカチオン等のカチオン成分と、Cl-、AlCl4
-、Al2Cl7
-、ClO4
-等の塩化物イオン、Br-等の臭化物イオン、I-等のヨウ化物イオン、BF4
-、PF6
-等のフッ化物イオン、F(HF)n
-等のハロゲン化物アニオン、NO3
-、OH-、CN-等のアニオン成分とから構成されるものが挙げられる。
【0046】
上記の無機イオン性化合物の中で、高温安定性、熱電半導体微粒子及び樹脂との相溶性、熱電半導体微粒子間隙の電気伝導率の低下抑制等の観点から、無機イオン性化合物のカチオン成分が、カリウム、ナトリウム、及びリチウムから選ばれる少なくとも1種を含むことが好ましい。また、無機イオン性化合物のアニオン成分が、ハロゲン化物アニオンを含むことが好ましく、Cl-、Br-、及びI-から選ばれる少なくとも1種を含むことがさらに好ましい。
【0047】
カチオン成分が、カリウムカチオンを含む無機イオン性化合物の具体的な例として、KBr、KI、KCl、KF、KOH、K2CO3等が挙げられる。これらは1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、KBr、KIが好ましい。
カチオン成分が、ナトリウムカチオンを含む無機イオン性化合物の具体的な例として、NaBr、NaI、NaOH、NaF、Na2CO3等が挙げられる。これらは1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、NaBr、NaIが好ましい。
カチオン成分が、リチウムカチオンを含む無機イオン性化合物の具体的な例として、LiF、LiOH、LiNO3等が挙げられる。これらは1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、LiF、LiOHが好ましい。
【0048】
上記の無機イオン性化合物は、電気伝導率が10-7S/cm以上であることが好ましく、10-6S/cm以上であることがより好ましい。電気伝導率が上記範囲であれば、導電補助剤として、熱電半導体微粒子間の電気伝導率の低減を効果的に抑制することができる。
【0049】
また、上記の無機イオン性化合物は、分解温度が400℃以上であることが好ましい。分解温度が上記範囲であれば、熱電半導体組成物からなる薄膜をアニール処理した場合でも、導電補助剤としての効果を維持することができる。
【0050】
また、上記の無機イオン性化合物は、熱重量測定(TG)による400℃における質量減少率が10%以下であることが好ましく、5%以下であることがより好ましく、1%以下であることがさらに好ましい。質量減少率が上記範囲であれば、熱電半導体組成物からなる薄膜をアニール処理した場合でも、導電補助剤としての効果を維持することができる。
【0051】
前記無機イオン性化合物の前記熱電半導体組成物中の配合量は、好ましくは0.01~50質量%、より好ましくは0.5~30質量%、さらに好ましくは1.0~10質量%である。前記無機イオン性化合物の配合量が、上記範囲内であれば、電気伝導率の低下を効果的に抑制でき、結果として熱電性能が向上した膜が得られる。
なお、無機イオン性化合物とイオン液体とを併用する場合においては、前記熱電半導体組成物中における、無機イオン性化合物及びイオン液体の含有量の総量は、好ましくは0.01~50質量%、より好ましくは0.5~30質量%、さらに好ましくは1.0~10質量%である。
【0052】
P型熱電素子及びN型熱電素子の厚さは、特に限定されるものではなく、同じ厚さでも、異なる厚さでもよい。熱電変換モジュールの面内方向に大きな温度差を付与する観点から、同じ厚さであることが好ましい。P型熱電素子及びN型熱電素子の厚さは、0.1~100μmが好ましく、1~50μmがさらに好ましい。また、熱電変換ユニットの複数のP型熱電素子が第一方向において等幅であり、複数のN型熱電素子が第一方向において等幅であり、また、P型熱電素子とN型熱電素子の第一方向における幅も等しいことが、均一な熱電変換性能の発揮の観点から好ましい。
【0053】
<<(2)ヒートシンク>>
図3A及び
図3Bに示すように、ヒートシンク3a,3bは、基部3ax,3bxとしての高熱伝導部を有する。該高熱伝導部は、熱電変換素子2の主面2a,2bのうちP型熱電変換素子とN型熱電変換素子との界面を直接的又は間接的に覆うように設置されている。ここで、該高熱伝導部は、例えば、熱電変換素子と後述する接着層を介して接合される。なお、基部3ax,3bx以外の延在部E及び張出部3ay,3byも、高熱伝導部と同様の製法、材質から得ることが好ましい。
【0054】
ヒートシンクの基部における高熱伝導部と該高熱伝導部に隣接する他の高熱伝導部との間には、単なる空隙が形成されていてもよく、ポリイミド膜等の熱伝導率が低い部材が設けられていてもよい。
図3A及び
図3Bに示すように、ヒートシンクの基部における高熱伝導部と該高熱伝導部に隣接する他の高熱伝導部との間には、熱伝導率が低い部材が設けられずに、単なる空隙が形成されていることが好ましい。
【0055】
〔高熱伝導部〕
高熱伝導部は、高熱伝導性材料から形成される。高熱伝導部を形成する方法としては、特に制限されないが、シート状の前記高熱伝導性材料を、事前にフォトリソグラフィー法を主体とした公知の物理的処理もしくは化学的処理、又はそれらを併用する等により、所定のパターン形状に加工する方法が挙げられる。その後、得られたパターン化された高熱伝導部を、後述する接着層を介して熱電変換素子上に形成することが好ましい。
または、スクリーン印刷法、インクジェット法等により直接高熱伝導部のパターンを形成する方法等が挙げられる。
さらに、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法等のPVD(物理気相成長法)、もしくは熱CVD、原子層蒸着(ALD)等のCVD(化学気相成長法)などのドライプロセス、又はディップコーティング法、スピンコーティング法、スプレーコーティング法、グラビアコーティング法、ダイコーティング法、ドクターブレード法等の各種コーティングや電着法等のウェットプロセス、銀塩法等によって、パターンが形成されていない高熱伝導性材料からなる高熱伝導部を、上記のフォトリソグラフィー法を主体とした公知の物理的処理もしくは化学的処理、又はそれらを併用する等により、所定のパターン形状に加工する方法が挙げられる。
熱電変換素子の構成材料、プロセスの簡易性の観点から、シート状の高熱伝導性材料を、フォトリソグラフィー法を主体とした公知の化学的処理、例えば、フォトレジストのパターニング部をウェットエッチング処理し、前記フォトレジストを除去することにより所定のパターンを形成し、後述する接着層を介して熱電変換素子の両面又はいずれかの面上に形成することが好ましい。
【0056】
図3A及び
図3Bに示すように、ヒートシンク(高熱伝導部)3a,3bは、それぞれ、熱電変換素子2の表面(第一主面)2aおよび裏面(第二主面)2b上に互い違いに設けられていることが好ましい。
また、
図4に示すように、隣り合う、第1主面2a上のヒートシンク(高熱伝導部)3aと熱電変換素子2との接合部、並びに、第2主面2b上のヒートシンク(高熱伝導部)3bと熱電変換素子2との接合部が、第一方向Yにおいて離間していることが好ましい。なお、ここで接合部には、熱電変換素子2に直接接合している部分のみならず、熱電変換素子2に他の部材を介して接合している部分も含まれる。
【0057】
ヒートシンクにおける基部(高熱伝導部)は、第一方向と垂直な方向に延びる短冊状(扁平な直方体)であることが好ましいが、断面が矩形のものに限らず、断面が台形、楕円形、円形等になるものであってもよい。熱電変換素子との接合部の寸法を制御する観点からは、断面が多角形であるものが好ましい。
図2に示すような断面L字状のヒートシンクは、上記に挙げた方法のいずれかにより形成した高熱伝導部と、金属板等からなる張出部とをはんだ等により熱的に接続することで作製してもよいし、櫛形の金属板等の材料を予め作製し、これを折り曲げて作製したものであってもよい。
【0058】
高熱伝導部の熱伝導率は、5~500(W/m・K)である。高熱伝導部の熱伝導率が5(W/m・K)以上であれば、熱電変換モジュールがP型熱電変換素子とN型熱電変換素子とを電極を介し交互にかつ電気的に直列接続したインプレーン型熱電変換モジュールである場合において、第一方向に効率よく温度差を付与しやすくなる。高熱伝導部の熱伝導率が500(W/m・K)超の材料としては、物性的にはダイヤモンド等が存在するが、コスト、加工性の観点から実用的でない。高熱伝導部の熱伝導率は、好ましくは8~500(W/m・K)、より好ましくは10~450(W/m・K)、さらに好ましくは12~420(W/m・K)、最も好ましくは15~420(W/m・K)である。
【0059】
〔〔高熱伝導性材料〕〕
高熱伝導性材料としては、銅、銀、鉄、ニッケル、クロム、アルミニウム等の単金属、ステンレス、真鍮(黄銅)等の合金が挙げられる。これらは1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、好ましくは、銅(無酸素銅含む)、ステンレスであり、熱伝導率が高く、加工性が容易であることから、さらに好ましくは、銅である。
ここで、高熱伝導部に用いられる高熱伝導性材料の代表的なものを以下に示す。
・無酸素銅
無酸素銅(OFC:Oxygen-Free Copper)とは、一般的に酸化物を含まない99.95%(3N)以上の高純度銅のことを指す。日本工業規格では、無酸素銅(JIS H 3100, C1020)および電子管用無酸素銅(JIS H 3510, C1011)が規定されている。
・ステンレス(JIS)
SUS304:18Cr-8Ni(18%のCrと8%のNiを含む)
SUS316:18Cr-12Ni(18%のCrと12%のNi、モリブデン(Mo)を含む)ステンレス鋼
【0060】
高熱伝導部の厚さは、40~550μmが好ましく、60~530μmがより好ましく、80~510μmがさらに好ましい。高熱伝導部の厚さがこの範囲であれば、熱を特定の方向に選択的に放熱することができ、P型熱電変換素子とN型熱電変換素子とを電極を介し交互にかつ電気的に直列接続したインプレーン型熱電変換素子の面内方向に、効率よく温度差を付与することが容易である。
なお、
図3A及び
図3Bに示すように、熱電変換素子2の第1主面2aと第2主面2bの両方に高熱伝導部を設ける場合、第1主面2a側の高熱伝導部及び第2主面2b側の高熱伝導部をともに同じ材質・同じ厚さにしてもよいし、両者の材質及び厚さの少なくとも一方を異なるものにしてもよい。また、基部における高熱伝導部の高熱伝導性材料と、張出部における高熱伝導部の高熱伝導性材料とは、通常同じであるが、異なっていてもよい。
【0061】
<<(3)接着層>>
前述した高熱伝導部は、接着層を介して配置されることが好ましい(例えば、
図4参照)。
接着層を構成する接着剤としては、アクリル系重合体、アクリレートモノマー、シアノアクリレートモノマー、シリコーン系ポリマー、ポリエステル、ポリウレタン、ポリアミド、ポリビニルエーテル、酢酸ビニル/塩化ビニルコポリマー、変性/無変性ポリオレフィン、エポキシ系ポリマー、エポキシ系オリゴマー、フッ素系ポリマー、ゴム系ポリマー等を材料とするものを適宜に選択して用いることができる。これらは1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、安価であり、耐熱性に優れるという観点からアクリル系重合体をベースポリマーとした接着剤、ゴム系ポリマーをベースポリマーや、エポキシ系オリゴマーを材料とした接着剤が好ましく用いられる。接着層に硬化性の接着剤を用い、高熱伝導部を接着した後、硬化させることで露出した接着層の粘着性を消失させてもよい。
接着層を構成する接着剤には、本発明の効果を損なわない範囲で、その他の成分が含まれていてもよい。接着剤に含まれ得るその他の成分としては、例えば、有機溶媒、高熱伝導性材料、難燃剤、粘着付与剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、防腐剤、防黴剤、可塑剤、消泡剤、及び濡れ性調整剤などが挙げられる。
【0062】
接着層の厚さは、好ましくは1~100μm、より好ましくは3~50μm、さらに好ましくは5~30μmである。接着層の厚さがこの範囲であれば、前述した高熱伝導部による放熱に影響を及ぼすことがほとんどない。
なお、熱電変換素子の第1主面側と第2主面側の両方に接着層を介して高熱伝導部を設ける場合(例えば、
図4参照)、第1主面側の接着層及び第2主面側の接着層をともに同じ材質かつ同じ厚さにしてもよいし、両者の材質及び厚さの少なくとも一方を異なるものにしてもよい。
【0063】
<<(4)電極>>
図4、
図9に示すように、P型熱電変換素子とN型熱電変換素子とを接続する電極を設けて、接続の安定性、及び、十分な熱電性能の確保を図るようにしてもよい。電極としては、導電性の高い金属材料等から形成されるものを用いることができる。
【0064】
<<(5)基板>>
図4、
図9に示すように、熱電変換素子は、基板上に形成された態様であってもよい。
基板としては、熱電変換素子の電気伝導率の低下、熱伝導率の増加に影響を及ぼさないプラスチックフィルムが好ましい。中でも、熱電半導体組成物からなる薄膜をアニール処理した場合でも、基板が熱変形することなく、熱電素子の性能を維持することができ、耐熱性及び寸法安定性が高いという点から、ポリイミドフィルム、ポリアミドフィルム、ポリエーテルイミドフィルム、ポリアラミドフィルム、ポリアミドイミドフィルムがより好ましく、さらに、汎用性が高いという点から、ポリイミドフィルムが特に好ましい。
【0065】
基板の厚さは、耐熱性及び寸法安定性の観点から、1~1000μmが好ましく、10~500μmがより好ましく、20~100μmがさらに好ましい。
また、上記フィルムは、分解温度が300℃以上であることが好ましい。
【0066】
後述する熱電変換素子を基板の一方の面に形成する製造方法を採用する場合、熱電変換素子の第1主面、第2主面の少なくともいずれかの表面上に基板を有することが好ましいが、他方の表面上には基板が設けられていなくてもよい。この場合に、熱電変換素子の他方の表面上には接着層を介して高熱伝導部を設けることができる(
図4参照)。
また、熱電変換素子の他方の面と高熱伝導部の間には、接着層に加えて、高熱伝導部と熱電変換素子の絶縁を図る目的や、水蒸気の遮蔽等を目的として、補助基板を設けてもよい。補助基板の材質としては、基板と同様のものを用いることができ、厚さは5~30μm程度であることが好ましい。補助基板には、水蒸気の遮蔽を目的として、金属や無機物の薄膜形成がされていてもよい。
【0067】
<<(6)外部接続用電極>>
外部接続用電極は、上述した「(4)電極」のうち、熱電変換モジュールの端部に配置された電極4と接続されることにより、熱電変換素子で起電した電力を外部へ送出可能にするものである。例えば、
図10に外部接続用電極の配置例を示す。
図10において、窓100は、各辺に配置された4つの熱電変換モジュールがそれぞれ端部接続用電極90を有し、特定の隣り合う2辺には互いに近接した位置にそれぞれ外部接続用電極91が設けられている。端部接続用電極90は、隣り合う2つの熱電変換モジュールの一端同士を接続することで通電経路を形成する。この通電経路の両端が位置する窓100の角の一つにおいて、2つの熱電変換モジュールの端部における上述した「(4)電極」のうちの電極4が外部接続用電極91に接続されている。なお、熱電変換モジュールが窓の全周に対応した長さを有する場合は、端部接続用電極90は不要で、外部接続用電極91を設ければよい。
【0068】
<<熱電変換モジュールの製造方法>>
熱電変換モジュールは、例えば、フィルム基板の一方の面に、P型熱電変換素子及びN型熱電変換素子(熱電変換素子層)を形成する工程、前記フィルム基板の他方の面の一部に、ヒートシンク(高熱伝導部)を形成する工程を含む、製造方法により得られる。以下、この製造方法に含まれる工程について説明する。
【0069】
〔熱電変換素子形成工程〕
本発明の窓に用いるP型熱電変換素子及びN型熱電変換素子(熱電変換素子層)は、前記熱電半導体組成物から形成される。前記熱電半導体組成物を、前記フィルム基板上に塗布する方法としては、スクリーン印刷、フレキソ印刷、グラビア印刷、スピンコート、ディップコート、ダイコート、スプレーコート、バーコート、ドクターブレード等の公知の方法が挙げられ、特に制限されない。塗膜をパターン状に形成する場合は、所望のパターンを有するスクリーン版を用いて簡便にパターン形成が可能なスクリーン印刷、スロットダイコート等が好ましく用いられる。
次いで、得られた塗膜を乾燥することにより、薄膜が形成されるが、乾燥方法としては、熱風乾燥、熱ロール乾燥、赤外線照射等、従来公知の乾燥方法が採用できる。加熱温度は、通常、80~150℃である。加熱時間は、加熱方法により異なるが、通常、数秒~数十分である。
また、熱電半導体組成物の調製において溶媒を使用した場合、加熱温度は、使用した溶媒を乾燥できる温度範囲であれば、特に制限はない。
【0070】
〔ヒートシンク(高熱伝導部)形成工程〕
高熱伝導性材料からなるヒートシンク(高熱伝導部)を熱電変換素子上に形成する工程である。
ヒートシンク(高熱伝導部)を形成する方法は、「高熱伝導部」の欄において、「高熱伝導部を形成する方法」として前述したとおりである。本発明では、好ましくは、熱電変換素子の面に、事前に高熱伝導性材料をフォトリソグラフィー法等によりパターン化した高熱伝導部を接着層を介して形成する。
【0071】
〔その他の工程〕
熱電変換モジュールの製造方法は、さらに接着層積層工程などの他の工程を含んでいてもよい。接着層積層工程は、熱電変換素子の表面や、フィルム基板の表面に、接着層を積層する工程である。
接着層の形成は、公知の方法で行うことができ、前記熱電変換素子等に直接形成してもよいし、予め剥離シート上に形成した接着層を、前記熱電変換素子等に貼り合わせて、接着層を熱電変換素子等に転写させて形成してもよい。
【0072】
上記の製造方法によれば、簡便な方法で熱電変換モジュールを製造することができる。
【0073】
<第2の実施形態>
図11は、本発明の第2の実施形態に係る窓における熱電変換モジュールの構成を示す窓の厚み方向に沿った断面模式図である。
図11の熱電変換モジュール11Aは、(i)熱電変換素子2が第1及び第2の板状部材1a,1bと接続するまで窓の厚み方向Xに延在している(熱電変換素子2の主面上のヒートシンク3a,3bの端部が接続部となっている)点、及び、(ii)第1のヒートシンク3a及び第2のヒートシンク3bがいずれも張出部を有さない点で、
図2の熱電変換モジュール11と異なる。本実施形態では、ヒートシンク3a,3bの形状を簡素化することができる。
【0074】
<第3の実施形態>
図12は、本発明の第3の実施形態に係る窓における熱電変換モジュールの構成を示す窓の厚み方向に沿った断面模式図である。
図12の熱電変換モジュール11Bは、(i)ヒートシンクが第1のヒートシンク3aのみからなる点(第2のヒートシンク3bを有さない点)、及び、(ii)窓の厚み方向Xと熱電変換素子2の厚み方向とが同じ方向で交差しない点(温度差方向を変換していない点)で、
図2の熱電変換モジュール11と異なる。本実施形態のようにヒートシンク3aの形状を変化させることで熱電変換素子2を様々な向きや角度で保持することができる。
【0075】
<第4の実施形態>
図13は、本発明の第4の実施形態に係る窓における熱電変換モジュールの構成を示す窓の厚み方向に沿った断面模式図である。
図13の熱電変換モジュール11Cは、窓の厚み方向Xと熱電変換素子2の厚み方向とが同じで且つ交差しない点(温度差方向を変換していない点)で、
図2の熱電変換モジュール11と異なる。本実施形態では、熱電変換素子2が断面コの字状の2つのヒートシンク3a,3bで保持しているため、振動や衝撃により熱電変換素子2が損傷するのを防ぎやすくなる。
【0076】
<第5の実施形態>
図14は、本発明の第5の実施形態に係る窓における熱電変換モジュールの構成を示す窓の厚み方向に沿った断面模式図である。
図14において、黒丸はPN接合部に熱的に接していることを摸式的に示している。
図14の熱電変換モジュール11Dは、熱電変換素子2の第一方向(PN配列方向)が、窓の厚み方向Xと同じである点で、
図2の熱電変換モジュール11と異なる。
【0077】
<第1の比較構成例>
図15は、窓の第1の比較構成例を示す窓の厚み方向に沿った断面模式図である。
図15における熱電変換モジュール11Eは、第1及び第2のヒートシンク3a,3bが、それぞれ、第1及び第2の板状部材1a,1bと熱的に接続されていない点で、
図2の熱電変換モジュール11と異なる。よって、
図15の窓100は、本願発明の範囲外である。
【0078】
<第2の比較構成例>
図16は、窓の第2の比較構成例を示す窓の厚み方向に沿った断面模式図である。
図16における熱電変換モジュール11Fは、第1及び第2のヒートシンク3a,3bを有さない点で、
図2の熱電変換モジュール11と異なる。よって、
図16の窓100は、本願発明の範囲外である。
【0079】
<第3の比較構成例>
図17は、窓の第3の比較構成例を示す窓の厚み方向に沿った断面模式図である。
図17における熱電変換モジュール11Gは、第1及び第2のヒートシンク3a,3bが、板状部材1a、1bとの接続部から窓の厚み方向Xに延在していない(延在部Eを有さない)点で、
図2の熱電変換モジュール11と異なる。よって、
図17の窓100は、本願発明の範囲外である。
【0080】
(窓用スペーサ部材)
本発明の窓用スペーサ部材は、本発明の窓に用いられる窓用スペーサ部材であって、上述のスペーサと、上述のスペーサに設置された上述の熱電変換素子と、当該熱電変換素子の少なくとも一方の表面に設置された上述のヒートシンクとを有する。
窓用スペーサ部材は、窓の周縁の長さに対応した長さ以上の長さを有する長尺のものでもよいし、例えば、矩形の窓の4辺に対応した長さを有する部材を組み合わせて用いる短いサイズのものであってもよい。
【実施例】
【0081】
次に、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明は、これらの例によってなんら限定されるものではない。
【0082】
(実施例1)
以下の手順で
図18に示す構成を有する試験用窓を含む装置を作製し、板状部材の温度と起電力の測定を行った。具体的には、電極を施したポリイミド基板上(75×10mm、厚さ50μm)に、P型半導体材料とn型半導体材料を1×6mmの大きさで交互に印刷し、37対の熱電変換素子層2を形成した。この熱電変換素子層2を基板ごと375℃で焼成し、シール層(封止材)50とヒートシンク(放熱板)3a,3bを貼付して、熱電変換モジュールを作製した。ここで、シール層(封止材)50は、熱硬化性樹脂(ソマール社製ソマフォーム(EP-0002EF-01M))(厚さ:25μm)-アルミ蒸着ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム(厚さ:12μm)-熱硬化性樹脂(厚さ:25μm)の3層構成であった。また、ヒートシンク(放熱板)3a,3bは、シール材又はスペーサ20と接する部分がシール材又はスペーサ20と同一形状であり、熱電変換素子層2と接する部分が1×6mmのサイズであった。この作製した熱電変換モジュールを、板状部材(板ガラス)1a,1bの間に配置されたスペーサ20上に
図18に示すように設置した。ここで、シール層50は、ヒートシンク(放熱板)3a,3bとスペーサ20との間に設置して試験用の窓部材とした。
ホットプレート110を用いて板状部材1aとしての板ガラスの片面を加熱しつつ、冷却水140,141を循環させた冷却水循環路111を用いて板状部材1bとしての板ガラスの片面を冷却し、ホットプレートと冷却水の温度を変化させて、熱電変換モジュールに約5℃おきに温度差ΔTを付与した。各温度差ΔTで得られた起電力V(熱電変換モジュールの回路内に発生した起電力)をテスタ(不図示)で測定した。結果を表1に示す。
なお、データロガ150により、板状部材1aとしての板ガラスの片面の温度が板状部材1aに熱的に接続された銅板120の温度Th(℃)として測定され、板状部材1bとしての板ガラスの片面の温度が板状部材1bに熱的に接続された銅板121の温度Tc(℃)として測定され、これらの測定された温度Th(℃)及び温度Tc(℃)により、温度差ΔT(℃)(温度Th(℃)-温度Tc(℃))が算出される。
【0083】
板状部材(板ガラス)1a,1b:フロートガラス100mm×100mm、厚さ3mm
ヒートシンク(放熱板)3a,3b:銅板、厚さ200μm
スペーサ20:アルミ角パイプ12mm×12mm×100mm(外寸)、板厚1.5mm
シール層(封止材)50:ブチルゴム12mm×100mm、厚さ1mm
銅板120,121:100mm×100mm、厚さ10mm
冷却水循環路111:チラーユニット(アズワン株式会社製、商品名:LTC-i-150H)を内部流路付き銅板に接続
【0084】
(実施例2)
実施例1のヒートシンク(放熱板)3a,3bを、銅板(厚さ200μm)からアルミ板(厚さ200μm)に変更したこと以外は、実施例1と同様に行った。結果を表1に示す。
【0085】
(実施例3)
実施例1のシール層(封止材)50を、
図19に示すように、ヒートシンク(放熱板)3a,3bと板状部材(板ガラス)1a,1bとの間に設置したこと以外は、実施例1と同様に行った。結果を表1に示す。
【0086】
(比較例1)
ヒートシンク(放熱板)3a,3bとして張出部を有していないものを用いて、
図20に示すように、ヒートシンク(放熱板)3a,3bが板状部材(板ガラス)1a,1bと熱的に接続していないようにしたこと以外は、実施例1と同様に行った。結果を表1に示す。
【0087】
【0088】
実施例1~3では、ヒートシンク(放熱板)3a,3bが窓の厚み方向に延在しているので、温度差ΔTを起電力Vに変換する発熱電変換素子を小型化及び薄型化することができ、もって、熱電変換素子が窓の断熱機能を阻害するのを抑制して、窓の断熱性を維持することができる。
また、表1より、ヒートシンク3a,3bの端部が板状部材1a,1bとシール層50との間に配置された実施例1(
図18)の方が、ヒートシンク3a,3bの端部がシール層50とスペーサ20との間に配置された実施例3(
図19)よりも、起電力Vが大きく、熱電変換効率をより向上させることができることが分かる。
さらに、ヒートシンクとして、熱伝導性が高い銅板(厚さ200μm)を実施例1の方が、アルミ板(厚さ200μm)を用いた実施例2よりも起電力Vが大きく、熱電変換効率をより向上させることができることが分かる。
【0089】
一方、比較例1(
図20)では、ヒートシンク(放熱板)3a,3bが板状部材(板ガラス)1a,1bと熱的に接続していないため、起電力Vが0であり、熱電変換素子として機能していない。
【産業上の利用可能性】
【0090】
本発明の窓は、通常、建物の屋内と屋外や室内と室外を隔てる窓として使用され、特に、内部と外部との温度差が大きい環境に設置される窓に適している。また、外部が内部よりも高温となる環境、例えば、冷蔵庫や低温環境ルーム用の窓として使用することもできる。斯かる冷蔵庫用窓や低温環境ルーム用窓では、例えば、冷蔵庫側に設置された第1の板状部材とその反対側に設置された第2の板状部材との温度差を熱電変換素子により電力に変換して、冷蔵庫用窓の開閉を報知する報知部を駆動するために用いることができる。
【符号の説明】
【0091】
1a:第1の板状部材
1b:第2の板状部材
2:熱電変換素子
2a:第1主面
2b:第2主面
2c:P型熱電変換素子
2d:N型熱電変換素子
3a:第1のヒートシンク
3ax:基部
3ay:張出部
3b:第2のヒートシンク
3bx:基部
3by:張出部
4:電極
5:基板
6:接着層
10:窓本体
11,11A,11B,11C,11D,11E,11F,11G,11H:熱電変換モジュール
20:スペーサ
20a:凸部
20b:表面
21:中空部
22:貫通孔
30:空間
40:乾燥剤
50:シール層
60:シール材
70:接着層
80:ピラー
90:端部接続用電極
91:外部接続用電極
100:窓
110:ホットプレート
111:冷却水循環路
120,121:銅板
130,131:熱電対
140,141:冷却水
150:データロガ
X:窓の厚み方向(板状部材の厚み方向)
Y:第一方向
E:延在部