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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-17
(45)【発行日】2024-06-25
(54)【発明の名称】質量分析キャリブレータ
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/68 20060101AFI20240618BHJP
   G01N 27/62 20210101ALI20240618BHJP
【FI】
G01N33/68 ZNA
G01N27/62 D
G01N27/62 V
【請求項の数】 23
(21)【出願番号】P 2021566482
(86)(22)【出願日】2020-04-29
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-07-13
(86)【国際出願番号】 GB2020051040
(87)【国際公開番号】W WO2020229794
(87)【国際公開日】2020-11-19
【審査請求日】2023-04-18
(31)【優先権主張番号】1906599.4
(32)【優先日】2019-05-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(31)【優先権主張番号】1910708.5
(32)【優先日】2019-07-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(73)【特許権者】
【識別番号】514212652
【氏名又は名称】ザ バインディング サイト グループ リミティド
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100141977
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100138210
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 達則
(74)【代理人】
【識別番号】100197169
【弁理士】
【氏名又は名称】柴田 潤二
(72)【発明者】
【氏名】スティーブン ハーディング
(72)【発明者】
【氏名】グレッグ ウォーリス
【審査官】海野 佳子
(56)【参考文献】
【文献】特表2019-509483(JP,A)
【文献】特表2017-513004(JP,A)
【文献】国際公開第2018/215768(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/131169(WO,A2)
【文献】Martijn M. VanDuijn et al,Quantitative Measurement of Immunoglobulins and Free Light Chains Using Mass Spectrometry,Analytical Chemistry,2015年07月13日,87,8268-8274
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/48-33/98
G01N 27/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象からのサンプル中のカッパまたはラムダ免疫グロブリン軽鎖の量を定量する方法であって、
i.対象からのサンプルを用意することと、
ii.前記サンプルを所定量のラムダ軽鎖キャリブレータまたはカッパ軽鎖キャリブレータと混合して混合物を形成することと、
iii.前記混合物に対して質量分析を実行することと、ならびに
iv.
a)前記質量分析によって決定される前記混合物中のラムダ軽鎖の相対量を、質量分析によって決定される前記混合物中のキャリブレータカッパ軽鎖の相対量と比較することによって、前記サンプル中のラムダ軽鎖の量、および/または
b)質量分析によって決定される前記混合物中のカッパ軽鎖の相対量を、質量分析、最も典型的にはMALDI-TOFスペクトロメトリーもしくは液体クロマトグラフィー-質量分析によって決定される前記混合物中のキャリブレータラムダ軽鎖の相対量と比較することによって、前記サンプル中のカッパ軽鎖の量
の一方または両方を定量することと、
を含む、方法。
【請求項2】
前記キャリブレータが、ポリクローナルラムダ軽鎖またはポリクローナルカッパ軽鎖である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記キャリブレータが、モノクローナルカッパ軽鎖またはモノクローナルラムダ軽鎖である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記サンプル中の前記カッパまたはラムダ軽鎖免疫グロブリンが、1つ以上の免疫グロブリン重鎖に結合している、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
混合前の前記キャリブレータの前記ラムダ軽鎖またはカッパ軽鎖が、1つ以上の免疫グロブリン重鎖に結合している、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記サンプル中の前記カッパまたはラムダ軽鎖が、遊離カッパまたはラムダ軽鎖である、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記キャリブレータ中の前記ラムダ軽鎖またはカッパ軽鎖が、遊離軽鎖である、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記キャリブレータ中の前記ラムダ軽鎖または前記キャリブレータ上の前記カッパ軽鎖が、質量調整される、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記キャリブレータが、前記サンプル中のラムダ軽鎖もしくはカッパ軽鎖と比較して、1つ以上の追加のアミノ酸を有するか、またはポリエチレングリコールに結合している、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記混合物が、質量分析を実行する前に、少なくとも1つの精製工程において精製される、請求項1~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記サンプルまたは混合物が、免疫精製される、請求項1~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記サンプルまたは混合物が、抗重鎖クラス特異的抗体、抗総軽鎖タイプ特異的抗体、抗遊離軽鎖タイプ特異的抗体、もしくは抗重鎖クラス-軽鎖タイプ特異的抗体、またはその断片を使用して免疫精製される、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記抗体が、抗IgG特異的、抗IgA特異的、抗IgD特異的、抗IgM特異的、または抗IgE特異的である、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記抗体が、抗総ラムダ特異的、抗総カッパ特異的、抗遊離ラムダ特異的、または抗遊離カッパ特異的である、請求項12に記載の方法。
【請求項15】
前記サンプルまたは混合物が、抗ヒト特異的抗体を使用して免疫精製される、請求項11~14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
前記サンプルが、血液、血清、血漿、脳脊髄液および尿、より典型的には血液、血清または血漿から選択される、請求項1~15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
質量分析を実行する前に、前記サンプルまたは混合物を還元剤で処理することを含む、請求項4又は5に記載の方法。
【請求項18】
前記サンプル中のラムダ軽鎖の前記相対量と前記キャリブレータカッパ軽鎖の前記相対量との比、または前記サンプル中のカッパ軽鎖の前記相対量とキャリブレータラムダ軽鎖の前記相対量との比、ここで最も典型的には、前記サンプル軽鎖からのピークの面積と前記キャリブレータ軽鎖のピークの面積との比が使用されてもよい、を比較するか、または前記サンプルからのラムダもしくはカッパのピークの面積と、前記サンプルからの前記ラムダもしくはカッパの合計面積および前記キャリブレータカッパもしくはラムダのピークからの面積との比を比較することを含む、請求項1~17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
前記キャリブレータカッパ軽鎖またはキャリブレータラムダ軽鎖が、質量分析によって前記サンプル中の同一の軽鎖タイプと区別でき、かつ、前記サンプル中の前記同一の軽鎖のタイプの量を定量するために、質量分析によって同定されるキャリブレータ軽鎖の量を使用する、請求項1~18のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
前記サンプル中のカッパ軽鎖とラムダ軽鎖との比が測定される、請求項1~19のいずれか一項に記載の方法。
【請求項21】
前記対象が、B細胞増殖性疾患、好ましくは単クローン性免疫グロブリン血症を有する、請求項1~20のいずれかに一項記載の方法。
【請求項22】
請求項1~21のいずれか一項に記載の方法によって得られる、サンプル中のカッパ軽鎖の量、またはサンプル中のラムダ軽鎖の量を示す第1の信号、およびラムダ軽鎖キャリブレータまたはカッパ軽鎖キャリブレータの量を示す第2の信号を受信し、前記2つの信号を所定の較正係数と比較して、前記サンプル中の前記カッパ軽鎖またはラムダ軽鎖の量を示すように適合された機械可読媒体を含む、コンピュータ。
【請求項23】
(f)抗IgG特異的抗体および所定量のIgGカッパまたはIgGラムダ免疫グロブリン、
(g)抗IgA特異的抗体および所定量のIgAカッパまたはIgAラムダ免疫グロブリン、
(h)抗IgM特異的抗体および所定量のIgMカッパまたはIgMラムダ免疫グロブリン、
(i)抗IgD特異的抗体および所定量のIgDカッパまたはIgDラムダ免疫グロブリン、または
(j)抗IgE特異的抗体および所定量のIgEカッパまたはIgEラムダ免疫グロブリン
から選択される抗体を含む、請求項1~21のいずれか一項に記載の方法において使用するためのキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、質量分析によるサンプル中の反対のラムダまたはカッパ軽鎖の定量を可能にするためのキャリブレータとしてのカッパ軽鎖またはラムダ軽鎖の使用、およびかかるキャリブレータを含むキットに関する。
【背景技術】
【0002】
抗体分子(免疫グロブリンとしても知られている)は二重対称であり、通常、2本の同一の重鎖と2本の同一の軽鎖から構成され、それぞれが可変領域および定常領域を含む。重鎖と軽鎖の可変領域が組み合わさって抗原結合部位を形成することにより、両鎖は抗体分子の抗原結合特異性に寄与する。抗体の基本的な四量体構造は、ジスルフィド結合によって共有結合した2本の重鎖を含む。そして、各重鎖はさらにジスルフィド結合を介して軽鎖に結合する。これにより、実質的に「Y」字形の分子が生成される。
【0003】
重鎖は、抗体に見られる2種類の鎖のうちの大きい方であって、典型的な分子量は50,000~77,000Daであり、これと比較すると軽鎖の分子量は小さい(25,000Da)。
【0004】
重鎖にはガンマ、アルファ、ミュー、デルタ、およびイプシロンという5つの主要なクラスがあり、それぞれIgG、IgA、IgM、IgD、およびIgEの構成重鎖である。IgGは、正常なヒト血清の主要な免疫グロブリンであり、免疫グロブリンプール全体の70~75%を占めている。IgGは、二次免疫応答の主要な抗体であり、2本の重鎖と2本の軽鎖からなる単一の四量体を形成する。
【0005】
IgMは免疫グロブリンプールの約10%を占めている。IgM分子は、J鎖とともに、5つの基本的な四鎖構造からなる五量体を形成する。個々の重鎖の分子量は約65,000Daであり、分子全体の分子量は約970,000Daである。IgMは主として血管内プールのみに存在し、主要な初期抗体である。
【0006】
IgAは、ヒト血清免疫グロブリンプールの15~20%に相当する。80%を超えるIgAがモノマーとして生じる。しかしながら、一部のIgA(分泌型IgA)は二量体形態として存在する。
【0007】
IgDは、血漿免疫グロブリン全体の1%未満を占める。IgDは、成熟B細胞の表面膜上に見られる。
【0008】
IgEは、正常な血清中ではほとんど見られないが、好塩基球および肥満細胞の表面膜上に見られる。IgEは、喘息および花粉症などのアレルギー性疾患に関連している。
【0009】
5つの主要なクラスに加えて、IgGには4つのサブクラス(IgG1、IgG2、IgG3、およびIgG4)がある。さらに、IgAには2つのサブクラス(IgA1およびIgA2)がある。
【0010】
軽鎖にはラムダ(λ)とカッパ(κ)の2種類がある。ヒトにおいて産生されるκ分子の量は、λ分子の約2倍であるが、これは一部の哺乳類ではかなり異なっている。各鎖は、単一のポリペプチド鎖に約220個のアミノ酸を含有し、このポリペプチド鎖が折りたたまれて1つの定常領域および1つの可変領域を形成する。形質細胞は、κ分子またはλ分子のいずれかとともに5つの重鎖タイプのうちの1つを生成する。通常、重鎖合成よりも約40%過剰な遊離軽鎖が産生される。軽鎖分子が重鎖分子に結合していない場合、軽鎖分子は「遊離軽鎖分子」として知られている。κ軽鎖は通常、モノマーとして見られる。λ軽鎖は、二量体を形成する傾向がある。
【0011】
抗体産生細胞に関連する多くの増殖性疾患がある。
【0012】
多くのかかる増殖性疾患では、形質細胞が増殖して、同一の形質細胞の単クローン性腫瘍を形成する。これは、結果として同一の免疫グロブリンを大量に産生し、単クローン性免疫グロブリン血症として知られている。
【0013】
骨髄腫および原発性全身性アミロイドーシス(ALアミロイドーシス)などの疾患は、英国における癌死の約1.5%および0.3%をそれぞれ占めている。多発性骨髄腫は、非ホジキンリンパ腫に次いで2番目に多い血液悪性腫瘍の形態である。白人人口における発生率は、年間百万人あたり約40人である。従来、多発性骨髄腫の診断は、骨髄中の過剰なモノクローナル形質細胞、血清または尿中のモノクローナル免疫グロブリン、および高カルシウム血症、腎不全、貧血もしくは骨病変などの関連臓器または組織の障害の存在に基づいている。骨髄の正常な形質細胞含有量は約1%であるが、多発性骨髄腫では、含有量が通常10%を超え、多くの場合には30%を超えるが、90%を超えることもある。
【0014】
ALアミロイドーシスは、アミロイド沈着物としてのモノクローナル遊離軽鎖断片の蓄積を特徴とするタンパク質構造障害である。通常、これらの患者は心不全または腎不全を呈するが、末梢神経および他の臓器も関与している可能性がある。
【0015】
他にも、患者の血流、または実際には尿中のモノクローナル免疫グロブリンの存在によって同定できる多くの疾患がある。これらの疾患には、形質細胞腫および髄外性形質細胞腫(骨髄以外に生じ、あらゆる臓器において発生する可能性のある形質細胞腫瘍)が含まれる。存在する場合、モノクローナルタンパク質は通常IgAである。多発性骨髄腫の証拠の有無にかかわらず、多発性孤立性形質細胞腫が発生する可能性がある。ワルデンシュトレーム型マクログロブリン血症は、モノクローナルIgMの産生に関連する悪性度の低いリンパ増殖性疾患である。米国では年間約1,500件、英国では年間約300件の新規症例がある。血清IgMの定量は、診断およびモニタリングの両方にとって重要である。B細胞非ホジキンリンパ腫は、英国でのすべての癌死の約2.6%を引き起こし、モノクローナル免疫グロブリンは、標準的な電気泳動法を使用して、約10~15%の患者の血清中で同定されている。初期の報告によると、モノクローナル遊離軽鎖は、60~70%の患者の尿中で検出できることが示されている。B細胞では、慢性リンパ性白血病のモノクローナルタンパク質が、遊離軽鎖イムノアッセイによって同定されている。
【0016】
さらに、いわゆるMGUS状態が存在する。これらは、意義不明の単クローン性免疫グロブリン血症である。この用語は、多発性骨髄腫、ALアミロイドーシス、ワルデンシュトレーム型マクログロブリン血症などの証拠がない個体にモノクローナル完全免疫グロブリンが予期せず存在することを示す。MGUSは、50歳以上の人口の1%、70歳以上の3%、および80歳以上の最大10%に見られる可能性がある。これらのほとんどはIgGまたはIgMに関連しているが、IgAに関連することや二クローン性であることはめったにない。MGUSを有する人々の大半は無関係な疾患で死亡するが、MGUSは悪性の単クローン性免疫グロブリン血症に変化する場合もある。
【0017】
上記で強調した疾患についての少なくとも一部の症例では、これら疾患はモノクローナル免疫グロブリンまたは遊離軽鎖の異常な濃度を示す。疾患が形質細胞の異常な複製を引き起こす場合、これにより、その「単クローン」が増殖して血液中に出現するので、その種類の細胞による免疫グロブリンの産生がしばしば増加する。
【0018】
免疫固定電気泳動では、免疫グロブリン分子に対する沈降抗体を使用する。これは試験の感度を向上させるが、沈降抗体の存在により、モノクローナル免疫グロブリンの定量には使用できない。また、免疫固定電気泳動は実行するのがかなり困難であり、解釈が難しい場合がある。キャピラリーゾーン電気泳動は、血清タンパク質分離のために多くの臨床検査室で使用されており、ほとんどのモノクローナル免疫グロブリンを検出することができる。しかしながら、免疫固定電気泳動と比較した場合、キャピラリーゾーン電気泳動はサンプルの5%でモノクローナルタンパク質を検出できない。これらのいわゆる「偽陰性」の結果には、低濃度のモノクローナルタンパク質が含まれる。
【0019】
血清血漿電気泳動(SPE)は、0.5g/L未満のタンパク質を同定するのが困難であり、かつ10g/L未満のタンパク質を定量するのが困難である代替手順である。
【0020】
総κおよびλアッセイが作製されている。しかしながら、総κおよび総λアッセイは、モノクローナル免疫グロブリン、遊離軽鎖、またはモノクローナル遊離軽鎖を検出するには感度が低すぎる。これは、かかるアッセイを妨げるポリクローナル結合軽鎖のバックグラウンド濃度が高いからである。
【0021】
遊離κ軽鎖と、それとは別に遊離λ軽鎖を検出できる高感度アッセイが開発されている。この方法では、遊離κ軽鎖または遊離λ軽鎖のいずれかに向けられたポリクローナル抗体を使用する。かかる抗体を産生する可能性はまた、WO97/17372において、多数の異なる可能な特異性のうちの1つとして議論された。この文献は、動物を寛容化することにより、従来技術が産生し得るよりも特異的である所望の抗体を産生することを可能にする方法を開示している。遊離軽鎖アッセイでは、抗体を使用して遊離λまたは遊離κ軽鎖に結合する。遊離軽鎖の濃度は、ネフェロメトリー(比朧法)またはタービディメトリー(比濁法)によって決定される。これには、反応容器またはキュベット内の適切な抗体を含有する溶液に試験サンプルを添加することが含まれる。光線がキュベットを通過し、抗原抗体反応が進行すると、不溶性の免疫複合体が形成されるにつれて、キュベットを通過する光がますます散乱される。ネフェロメトリーでは、光散乱は入射光から離れた角度で光強度を測定することによってモニタリングされ、一方、タービディメトリーでは、光散乱は入射光線の強度の減少を測定することによってモニタリングされる。既知の抗原(すなわち、遊離κまたは遊離λ)濃度の一連のキャリブレータを最初にアッセイして、測定された光散乱対抗原濃度の較正曲線を作成する。
【0022】
このアッセイ形式は、遊離軽鎖濃度を首尾よく検出することが分かっている。さらに、この技術の感度は非常に高い。
【0023】
遊離軽鎖(FLC)、重鎖もしくはサブクラス、または重鎖クラスもしくはサブクラスに結合した軽鎖タイプの量またはタイプの特徴付けは、多発性骨髄腫などのB細胞疾患、および腎症などの他の免疫介在性疾患を含む広範な疾患において重要である。
【0024】
WO2015/154052(その全体が本明細書に組み込まれる)は、質量分析(MS)を使用して、免疫グロブリン軽鎖、免疫グロブリン重鎖、またはそれらの混合物を検出する方法を開示している。免疫グロブリン軽鎖、重鎖またはそれらの混合物を含むサンプルを、免疫精製し、質量分析に供して、サンプルの質量スペクトルを得る。これを使用して、患者からのサンプル中のモノクローナルタンパク質を検出することができる。また、これは、モノクローナル抗体におけるフィンガープリント、アイソタイプ、および同定ジスルフィド結合にも使用できる。
【0025】
MSは、質量および電荷によってサンプル中の、例えば、ラムダ鎖およびカッパ鎖を分離するのに使用される。また、これは、例えば、還元剤を使用して重鎖と軽鎖とのジスルフィド結合を還元することによって、免疫グロブリンの重鎖および軽鎖成分を検出するためにも使用できる。MSは、WO2015/131169(その全体が本明細書に組み込まれる)にも記載されている。
【0026】
診断手順におけるサンプル中の免疫グロブリンの精製は通常、抗IgG、抗IgA、抗IgM、抗IgD、抗IgE、抗総カッパ、抗総ラムダ抗体、または抗遊離κもしくは抗遊離λ軽鎖抗体などの抗遊離軽鎖抗体などの抗全抗体を使用する。精製および検出プロセスが正しく実行されることを保証するために、キャリブレータを有することが重要である。
【0027】
WO2017/144900は、検出されるべき分析物のより重いバージョンまたは検出されるべき分析物の単クローンのいずれかを利用するいくつかの対照を記載している。すなわち、例えば、IgAは、所定量のより重いIgAカッパと比較して定量され得る。
【0028】
MALDI-TOFなどのいくつかの質量分析法では、目的のタンパク質を質量分析標的上で結晶化させる。いかなる個々のタンパク質の結晶化の程度も、標的全体で異なる。さらに、個々のタンパク質の特性は、標的上での結晶化がタンパク質間で異なることを意味する。したがって、異なるタンパク質が異なる速度にて質量分析標的上で結晶化すると予想された。これは、マトリックスを質量分析によってサンプリングすると、異なる量の対照タンパク質および分析物が検出されることを意味する。
【0029】
さらに、それらのイオン化速度は、MALDI-TOF用であれ、液体クロマトグラフィー-質量分析(LC-MS)などの結晶化を必要としない他の技術用であれ、異なると予想された。質量分析には、標的分子のイオン化が必要である。イオン化は、個々のタンパク質の特性に依存する。したがって、異なるタンパク質は異なる様式でイオン化するので、検出される免疫グロブリンの量は一致しないと予想された。
【発明の概要】
【0030】
意外にも、本出願人は、カッパ軽鎖およびラムダ軽鎖が実質的に一致した速度で結晶化およびイオン化し、それによりラムダまたはカッパ軽鎖の較正範囲が、マトリックス上で結晶化されるか、もしくは質量分析中にイオン化される他のカッパまたはラムダ軽鎖に比例することを発見した。
【0031】
これにより、ラムダ軽鎖をキャリブレータとして使用してサンプル中のカッパ軽鎖を定量するか、またはカッパ軽鎖をキャリブレータとして使用してラムダ軽鎖を定量することができる。
【0032】
本発明は、対象からのサンプル中のカッパまたはラムダ免疫グロブリン軽鎖の量を定量する方法であって、
i.対象からのサンプルを用意することと、
ii.前記サンプルを所定量のラムダ軽鎖キャリブレータまたはカッパ軽鎖キャリブレータと混合して混合物を形成することと、
iii.前記混合物に対して質量分析を実行することと、ならびに
iv.
a.質量分析によって決定される前記混合物中のラムダ軽鎖の相対量を、質量分析によって決定される前記混合物中のキャリブレータカッパ軽鎖の相対量と比較することによって、前記サンプル中のラムダ軽鎖の量、および/または
b.質量分析によって決定される前記混合物中のカッパ軽鎖の相対量を、質量分析によって決定される前記混合物中のキャリブレータラムダ軽鎖の相対量と比較することによって、前記サンプル中のカッパ軽鎖の量
の一方または両方を定量することと、
を含む、方法を提供する。
【0033】
前記質量分析は通常、LC-MSまたはMALDI-TOF質量分析である。
【0034】
カッパ軽鎖の量は、サンプル中のポリクローナルカッパ軽鎖またはモノクローナルカッパ軽鎖の量でもよい。ラムダ軽鎖の量は、サンプル中のポリクローナルラムダ軽鎖の量またはモノクローナルラムダ軽鎖の量でもよい。この量は、サンプル中のポリクローナルラムダまたはカッパ軽鎖の濃度でもよい。
【0035】
サンプル中のカッパまたは軽鎖は、1つ以上の免疫グロブリン重鎖に結合していてもよい。
【0036】
サンプルと混合する前のキャリブレータのラムダ軽鎖またはカッパ軽鎖は、1つ以上の免疫グロブリン重鎖に結合していてもよい。
【0037】
すなわち、カッパまたはラムダ軽鎖は、例えば、IgGカッパ、IgGラムダ、IgAラムダ、IgAカッパ、IgMラムダ、IgMカッパ、IgDラムダ、IgDカッパ、IgEラムダまたはIgEカッパとして提供されてもよい。
【0038】
あるいは、サンプル中のカッパまたはラムダ軽鎖は、遊離カッパまたはラムダ軽鎖でもよい。キャリブレータラムダまたは軽鎖は、遊離軽鎖でもよい。後者の場合、これらは、抗重鎖クラス抗体を用いた免疫沈降工程の後に添加してもよい。
【0039】
キャリブレータのラムダまたはカッパ軽鎖はモノクローナルでもよい。あるいは、それらはポリクローナル抗体に由来していてもよい。ポリクローナル抗体が特に好ましい。これは、異なるモノクローナル抗体間でイオン化または結晶化方法に多少のばらつきがあると予想されるためである。ポリクローナル抗体を使用すると、個々のモノクローナルキャリブレータを使用するノイズが減少し、本発明の方法に対する整合性がより高くなることが予想される。
【0040】
キャリブレータ中のラムダ軽鎖またはキャリブレータ中のカッパ軽鎖は、質量調整されても、されなくてもよい。それらの分子量または電荷を増減させて、分析物の質量分析読み出しのピークを、サンプル中の同等のカッパまたはラムダ軽鎖と比較して変更してもよい。例えば、WO2017/144900は、抗体を同位体標識すること、または抗体に1つ以上のアミノ酸を添加することを含む、キャリブレータラムダもしくはキャリブレータカッパ軽鎖の分子量または電荷を変更するいくつかの方法を記載している。また、モノクローナル抗体は、例えば、サンプルの軽鎖とは軽鎖質量が異なる場合に選択してもよい。
【0041】
英国のSigma-Aldrichから商品名SILu(商標)Liteモノクローナル抗体として販売されているものなど、多くのモノクローナル抗体が市販されている。これらとしては、例えば、SILu(商標)Lite安定同位体ユニバーサルモノクローナル抗体および非同位体標識モノクローナル抗体が挙げられる。
【0042】
キャリブレータ抗体は、N-ヒドロキシスクシンアミド(NHS)またはマレイミド(例えば、3.4kDaのマレイミドPEG)などのタンパク質反応性基を介して、例えば、ポリエチレングリコール(PEG)で質量調整されてもよい。好ましい質量調整剤は、ペンタフルオロフェニルポリエチレングリコール(PFP-PEG)であり、これは、免疫グロブリン軽鎖の質量調整剤として特に有用であることが本出願人によって見出されている。別の好ましい質量調整剤は、ヌクレオチド結合部位に結合したインドール酪酸誘導体を使用することである。かかる調整剤は、PEG鎖に対して異なる長さ、例えば最大20kDaの質量で市販されている。
【0043】
キャリブレータカッパ軽鎖またはキャリブレータラムダ軽鎖が質量分析によってサンプル中の同一の軽鎖タイプと区別できる場合、質量分析によって同定されるキャリブレータ軽鎖の量を使用して、サンプル中の同一の軽鎖タイプの量を定量してもよい。すなわち、ラムダキャリブレータ軽鎖を使用して、サンプル中のカッパ軽鎖だけでなく、サンプル中のラムダ軽鎖も定量してよく、カッパ軽鎖を使用して、サンプル中のラムダ軽鎖だけでなく、サンプル中のカッパ軽鎖も決定してもよい。単一のモノクローナル軽鎖キャリブレータまたは複数の質量が異なるものを使用して、観察されたm/zを区別することができることにより、これらは区別可能であってもよい。
【0044】
通常、混合物は、質量分析を実行する前に、少なくとも1つの精製工程で精製される。キャリブレータを混合物と共に有することにより、これは、サンプルの精製またはその他の操作中のサンプル免疫グロブリンの損失を考慮するための内部キャリブレータまたは「内部参照キャリブレータ」として機能する。
【0045】
サンプルを処理して、例えば、質量分析技術を妨害する可能性のある成分を除去してもよい。例えば、サンプルを遠心分離、濾過、またはクロマトグラフィー技術に供して、1つ以上の細胞または組織断片などから干渉成分を除去してもよい。例えば、全血サンプルは、従来の凝固技術を使用して処理し、赤血球と白血球および血小板を除去することができる。例えば、血漿サンプルは、アセトニトリル、KOH、NaOHなどの従来の試薬を使用して血清タンパク質を沈殿させ、その後、必要に応じてサンプルを遠心分離することができる。例えば、免疫グロブリンは、標準的な方法を使用して、サンプルから単離するか、またはサンプルを濃縮することができる。かかる方法としては、例えば、サンプルから1つ以上の非免疫グロブリン汚染物質を除去することが含まれる。あるいは、免疫精製、遠心分離、濾過、水濾過、透析、イオン交換クロマトグラフィー、サイズ排除クロマトグラフィー、プロテインA/Gアフィニティークロマトグラフィー、アフィニティー精製、沈殿、ゲル電気泳動、キャピラリー電気泳動または化学的分別を使用して、サンプルを濃縮または精製することができる。
【0046】
通常、キャリブレータは、それら精製技術のうちの少なくとも1つの前に、内部参照キャリブレータとしてサンプルに添加される。すなわち、キャリブレータは、例えば上述の方法によって、サンプル内の免疫グロブリンの精製または濃縮を受ける前に、対象の分析物サンプル内に含まれる。つまり、典型的には、分析物の検出に使用される質量分析法に加えて、LC-MS、エレクトロスプレー質量分析、Orbitrap MS、またはMALDI-TOF MSなどの技術が使用される前である。これをサンプル内に組み込むことの利点は、キャリブレータ分析物がサンプルの精製プロセスを通じて内部参照キャリブレータとして機能することである。既知量のキャリブレータまたは断片をサンプルに添加し、これを、精製工程が成功したことを確認するため、または対象サンプル中の分析物の精製中に問題が発生した場所を特定するためにも使用できる陽性内部参照キャリブレータとして使用できる。内部参照キャリブレータを使用することにより、このアッセイを定量アッセイとすることができる。
【0047】
サンプルまたは混合物を、免疫精製してもよい。通常、免疫精製工程の前に、サンプルをキャリブレータと混合して、混合物を形成する。キャリブレータは、免疫精製工程後に添加してもよい。
【0048】
免疫精製工程は、抗重鎖クラス特異的抗体、抗総軽鎖タイプ特異的抗体、抗遊離軽鎖タイプ特異的抗体、もしくは抗重鎖クラス軽鎖タイプ特異的抗体、またはその断片のうちの1つ以上を利用してもよい。かかる抗体は、一般に当技術分野で知られている。
【0049】
抗体は、重鎖サブクラス特異的、または軽鎖特異的、または重鎖クラス-軽鎖タイプ特異的であってもよい。
【0050】
抗重鎖クラス-軽タイプ鎖特異的または重鎖サブクラス-軽鎖タイプ特異的抗体は、英国バーミンガムのThe Binding Site Limitedから商品名Hevylite(商標)として市販されている。かかる重鎖クラス-軽鎖タイプ特異的抗体としては、例えば、IgGカッパ特異的抗体およびIgGラムダ特異的抗体が挙げられる。
【0051】
抗体または断片は、抗IgG特異的、抗IgA特異的、抗IgD特異的、抗IgM特異的、抗IgE特異的でもよい。
【0052】
抗総ラムダ特異的、抗総カッパ特異的、抗遊離ラムダ特異的または抗遊離カッパ特異的抗体を使用してもよい。キャリブレータは、かかる免疫精製の後に添加してもよい。
【0053】
抗体は、抗ヒト特異的抗体でもよい。
【0054】
サンプルは、血液、血清、血漿、脳脊髄液または尿、より典型的には血液、血清または血漿などの生物学的サンプルでもよい。
【0055】
サンプルは、低ガンマグロブリン血症または高ガンマグロブリン血症を示す対象からのものでもよい。対象は、単クローン性免疫グロブリン血症などの抗体産生細胞に関連する増殖性疾患を有していてもよい。これら疾患としては、骨髄腫および原発性全身性アミロイドーシス、形質細胞腫、ワルデンシュトレーム型マクログロブリン血症、およびMGUSが挙げられる。
【0056】
質量分析を実行する前に、サンプルを還元剤で処理してもよい。これは、サンプル内の軽鎖、実際には通常はキャリブレータ、が免疫グロブリンに結合している場合に特に有用である。還元剤を使用すると、軽鎖が重鎖から分断され、質量分析によって軽鎖を別個に検出できる。
【0057】
分断は、DTT(2,3ジヒドロキシブタン-1,4ジチオール)、DTE(2,3ジヒドロキシブタム-1,4ジチオール)、チオグリコール酸塩、システイン、亜硫酸塩、亜硫酸水素塩、硫化物、二硫化物、TCEP(トリス(2-カルボキシエチル)ホスフィン)、2-メルカプトエタノール、およびそれらの塩形態などの還元剤で総免疫グロブリンを処理することによって達成できる。いくつかの実施形態において、還元工程を高温、例えば、約30℃~約65℃の範囲、例えば約55℃で実行して、タンパク質を変性させる。
【0058】
分断工程は通常、サンプル中の免疫グロブリンの免疫精製もしくは他の濃縮の後に、またはサンプルの免疫精製後の溶出工程の一部として実行される。
【0059】
免疫精製に使用される抗体は、完全な抗体またはそれらの断片、例えばFab、F(ab)およびF(ab’)断片、または単鎖抗体でもよい。
【0060】
抗体または断片が軽鎖および重鎖、またはかかる鎖の断片を含む場合、それらは、免疫精製に使用される抗体または断片によるサンプルの汚染を低減するために、架橋されてもよい。かかる抗体を架橋する方法は、WO2017/144900(その全体が参照により本明細書に組み込まれる)に詳細に記載されている。
【0061】
本発明の方法は、質量分析によって同定されるサンプル中のラムダ軽鎖の相対量とキャリブレータカッパ軽鎖の相対量との比、またはサンプル中のカッパ軽鎖の相対量とキャリブレータラムダ軽鎖の相対量との比を比較して、サンプル中のラムダ軽鎖もしくはカッパ軽鎖の量を計算できるようにすることを含んでもよい。サンプル軽鎖とキャリブレータ軽鎖との相対ピーク高さ(ピーク強度)の比を使用してもよい。あるいは、サンプル軽鎖からのピークの面積(ピーク面積)と、キャリブレータ軽鎖のピークの面積との比を使用してもよい。本出願人はまた、サンプルからのラムダまたはカッパのピークの面積と、サンプルからのラムダまたはカッパの合計面積およびキャリブレータカッパまたはラムダピークからの面積との比を比較することによって、精度が改善されることを見出した。
【0062】
サンプルとキャリブレータとの相対比は、既知量の軽鎖を使用した質量分析法により、カッパ軽鎖対ラムダ軽鎖の量のキャリブレータ曲線を作成することによって同定されてもよい。
【0063】
サンプル中のカッパ軽鎖とラムダ軽鎖との比を決定してもよい。
【0064】
本発明はまた、サンプル中のカッパ軽鎖の量、またはサンプル中のラムダ軽鎖の量を示す第1の信号、および本発明による方法によって得られるラムダ軽鎖キャリブレータまたはカッパ軽鎖キャリブレータの量を示す第2の信号を受信し、2つの信号を所定の較正係数と比較して、サンプル中のカッパ軽鎖またはラムダ軽鎖の量を示すように適合された機械可読媒体を含むコンピュータを提供する。較正係数は、較正曲線を使用して事前に取得してもよい。
【0065】
本発明の使用のためのキットは、
(a)抗IgG特異的抗体および所定量のIgGカッパまたはIgGラムダ免疫グロブリン、
(b)抗IgA特異的抗体および所定量のIgAカッパまたはIgAラムダ免疫グロブリン、
(c)抗IgM特異的抗体および所定量のIgMカッパまたはIgMラムダ免疫グロブリン、
(d)抗IgD特異的抗体および所定量のIgDカッパまたはIgDラムダ免疫グロブリン、または
(e)抗IgE特異的抗体および所定量のIgEカッパまたはIgEラムダ免疫グロブリン、
のうちの1つ以上を含む。
【0066】
本発明のキットおよび方法はまた、標準的なヒト血清、例えば、DA470Kの使用またはキットにおけるその存在を含み得る。これは、ERM標準DA470Kに基づいて作成された標準化ヒト血清であり、キャリブラントとして使用してもよい。これは、アルファ2マクログロブリン、アルファ1酸性糖タンパク質、アルファ1アンチトリプシン、アルブミン、ベータ2ミクログロブリン、補体タンパク質C3cおよびC4、ハプトグロブリン、免疫グロブリンIgA、IgGおよびIgM、トランスフェリンおよびトランスサイレチンの混合物を含む。
【0067】
本発明はまた、サンプル中の重鎖の量を定量する方法であって、対象からのサンプルを用意することと、抗総カッパまたは抗総ラムダ抗体で免疫精製することによって前記サンプルから免疫グロブリンを単離することと、質量分析を実行し、質量分析によって決定される前記サンプル中のIgGの量を定量する前に、IgM重鎖をキャリブレータとして添加することと、を含む、方法を提供する。
【0068】
この場合、抗体はラムダまたはカッパ軽鎖に結合した重鎖を精製する。IgMは、グリコシル化されていてm/z値が異なるためにキャリブレータとして使用できるという理由で、キャリブレータとして使用され得る。
【0069】
この方法の質量分析および他の構成要素は、上記の通りであってもよい。
【0070】
ここで、本発明を、以下の図面のみを参照して例として説明する。
【図面の簡単な説明】
【0071】
図1A図1Aは、IgGカッパ多発性骨髄腫の患者からのサンプルの同じMALDI質量スペクトル上に、内部参照(キャリブレータ)として添加したSiLuLite IgG1ラムダを示す。図1Bは、キャリブレータとサンプルとのMALDIピーク強度比と、IgG1カッパ濃度との関係を示す。
図1B】同上。
図2A図2Aは、IgGラムダ多発性骨髄腫の患者からのサンプルの同じMALDI質量スペクトル上に、内部参照(キャリブレータ)として添加したSiLuLite IgG4カッパを示す。図2Bは、キャリブレータとサンプルとのMALDIピーク強度比と、IgG1ラムダ濃度との関係を示す。
図2B】同上。
図3図3は、免疫沈降およびMALDI-TOF分析の前に一緒に混合した等量の精製ポリクローナルIgGカッパおよびIgGラムダについてのピーク面積比を示す。
図4A図4Aは、IgA1カッパ多発性骨髄腫の患者からのサンプルの同じMALDI質量スペクトル上に、内部参照(キャリブレータ)として添加した精製モノクローナルIgAラムダを示す。図4Bは、キャリブレータとサンプルとのMALDIピーク強度比と、IgA1カッパ濃度との関係を示す。
図4B】同上。
図5図5は、分析物としてのポリクローナルIgGラムダと混合したポリクローナルIgGカッパ(キャリブレータ)のMALDI-TOFピーク面積比との関係を示す。
図6図6は、分析物としての0~2g/Lの範囲のモノクローナルSiLuLite IgGラムダと共に、キャリブレータとしてポリクローナルIgGカッパを使用することを示す。
【発明を実施するための形態】
【0072】
これらの例のそれぞれでは、内部参照(またはキャリブレータ)タンパク質を、固定濃度で、異なる濃度の分析物に添加する。各サンプルを、ポリクローナル抗IgGまたは抗IgAでコーティングした常磁性ビーズを用いた基質特異的免疫沈降に供した。重鎖から軽鎖を分離した後、MALDI-TOF質量分析計を使用して軽鎖の質量スペクトルを取得した。各組み合わせについて、ピークシグナル強度またはピーク面積のいずれかを決定し、これを分析物(サンプル)の濃度に対してプロットした。
【0073】
市販の質量定義されたSiLu(商標)Lite IgG1 Lambdaを内部参照として使用し、G1K13 Mスパイク(IgG1カッパ)をサンプルとして使用した。2つの軽鎖m/zピークは、質量スペクトル上で互いに明確に分離しており(図1A)、ピーク強度比とモノクローナルタンパク質サンプルの濃度の間に強い相関関係が観察された(図1B)。ここで、ピーク強度比とは、参照キャリブレータ-材料のラムダ軽鎖のピーク強度と、サンプル中のIgGカッパモノクローナルタンパク質からのカッパ軽鎖のピーク強度との比である。同様に、Sigmaから市販されているSiLu(商標)Lite IgG4 Kappaを内部参照キャリブレータとして使用し、分析物サンプルはG1L08 Mスパイク(IgG1ラムダ)であり、非常に類似した結果が得られた(図2AおよびB)。これらの結果は、カッパまたはラムダ軽鎖のいずれかのモノクローナルIgGが、MALDI-TOF MSによって反対の軽鎖の別のモノクローナルIgGに対するキャリブレータとして使用できることを示している。
【0074】
カッパ軽鎖とラムダ軽鎖の間で強度ピーク面積が一定であるかどうかを試験するために、等量の精製ポリクローナルIgGカッパとポリクローナルIgGラムダを混合して希釈した。次に、希釈したサンプルを、ビーズに固定化した抗IgG抗体を使用して免疫沈降させ、還元して、カッパおよびラムダ軽鎖をIgG重鎖から分離した後、MALDIターゲットプレート上にスポットした。次に、プレートを質量分析に供し、カッパおよびラムダ軽鎖についてポリクローナル軽鎖ピーク面積を決定し、濃度の関数としてプロットした(以下の表および図3)。結果は、ピーク面積(カッパ対ラムダ)比が10倍の濃度範囲(7.44~0.74g/L)全体で一定であり、イオン化またはビーズ上の抗IgG抗体への異なる結合によって明らかな影響を受けないことを示している。
【0075】
【表1】
【0076】
効果が重鎖クラス特異的ではないことを実証するために、モノクローナルIgA1カッパ抗体を内部参照として使用し、IgAラムダをサンプルとして使用した。また、2つの軽鎖m/zピークは、質量スペクトル上で互いに明確に分離しており(図4A)、ピーク強度比とモノクローナルタンパク質サンプルの濃度との間に強い相関関係が観察された(図4B)。これは、ラムダまたはカッパをキャリブレータとして使用できることが重鎖クラス特異的ではないことを示している。
【0077】
図5には、反対のポリクローナル軽鎖の内部参照としてポリクローナル軽鎖を使用することが示されている。この例では、キャリブレータまたは内部参照としてポリクローナルIgGカッパを使用し、分析物としてポリIgGラムダを使用した。9.9~0.2g/Lのサンプル濃度範囲でキャリブレータおよびサンプルについて得られたピーク面積比を下の表に示し、図5にプロットする。
【0078】
【表2】
【0079】
図6は、分析物としてのモノクローナル軽鎖のキャリブレータとしてポリクローナル軽鎖を使用できることを確認する。精製ポリクローナルIgGカッパを0.5g/Lの内部参照として使用し、2.0~0.1g/Lの範囲でSiLuLite IgGラムダモノクローナルタンパク質と混合した。キャリブレータとサンプルについて得られたピーク面積比を下の表に示し、図6ではサンプル濃度に対してプロットする。
これらの例は、免疫グロブリンカッパまたはラムダ含有分子のさまざまな組み合わせを、MALD-TOF MSにおける反対の軽鎖の他の免疫グロブリンに対する内部参照またはキャリブレータ分子として使用できることを示している。この有用性は、モノクローナルタンパク質およびポリクローナルタンパク質のいずれにも有効である。
【0080】
【表3】
図1A
図1B
図2A
図2B
図3
図4A
図4B
図5
図6