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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-17
(45)【発行日】2024-06-25
(54)【発明の名称】触媒の調製方法
(51)【国際特許分類】
   B01J 37/02 20060101AFI20240618BHJP
   B01J 23/78 20060101ALI20240618BHJP
   B01J 37/08 20060101ALI20240618BHJP
   B01J 37/18 20060101ALI20240618BHJP
【FI】
B01J37/02 101A
B01J23/78 M
B01J37/08
B01J37/18
【請求項の数】 18
(21)【出願番号】P 2021568214
(86)(22)【出願日】2020-04-30
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-07-21
(86)【国際出願番号】 GB2020051053
(87)【国際公開番号】W WO2020234561
(87)【国際公開日】2020-11-26
【審査請求日】2023-04-21
(31)【優先権主張番号】1907062.2
(32)【優先日】2019-05-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(73)【特許権者】
【識別番号】590004718
【氏名又は名称】ジョンソン、マッセイ、パブリック、リミテッド、カンパニー
【氏名又は名称原語表記】JOHNSON MATTHEY PUBLIC LIMITED COMPANY
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100221501
【弁理士】
【氏名又は名称】式見 真行
(74)【代理人】
【識別番号】100197583
【弁理士】
【氏名又は名称】高岡 健
(72)【発明者】
【氏名】カールソン、ミカエル
(72)【発明者】
【氏名】ケント、マーク アレクサンダー
(72)【発明者】
【氏名】マルティヌッツィ、ステファノ
(72)【発明者】
【氏名】リードマン、シャニール
(72)【発明者】
【氏名】ウェスト、ジョン
【審査官】森坂 英昭
(56)【参考文献】
【文献】特表2008-513209(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2012/0135860(US,A1)
【文献】特開2009-023848(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0281289(US,A1)
【文献】米国特許第04317746(US,A)
【文献】特開平02-075344(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 21/00 - 38/74
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(i)焼成成形アルカリ土類金属アルミン酸塩触媒担体を調製する工程と、(i)前記焼成成形アルカリ土類金属アルミン酸塩触媒担体を、水蒸気を含有するガスで処理して、水和担体を形成する工程と、(iii)介在する乾燥工程の有無にかかわらず、1つ以上の触媒金属化合物を含有する酸性溶液を前記水和担体に含浸させ、前記含浸担体を乾燥させる工程と、(iv)前記乾燥した含浸担体を焼成して、前記担体の表面に集中した触媒金属酸化物を有する焼成触媒を形成する工程と、(v)任意選択で、工程(ii)、(iii)及び(iv)を繰り返す工程と、を含む、エッグシェル型触媒の調製方法。
【請求項2】
前記焼成成形アルカリ土類金属アルミン酸塩触媒担体のアルカリ土類金属アルミン酸塩が、アルミン酸カルシウム、アルミン酸マグネシウム、及びこれらの混合物から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記焼成成形アルカリ土類金属アルミン酸塩触媒担体が、アルミン酸カルシウムセメント粉末及び/又はアルミン酸マグネシウム粉末を、任意選択で追加のアルミナ及び/又は石灰と共に、ある形状に成形し、その後、前記形状を焼成することによって調製される、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記焼成成形アルカリ土類金属アルミン酸塩触媒担体が、前記焼成工程前にアルカリ金属又はアルカリ土類金属の溶液を含浸させることによってアルカリ化される、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記焼成成形アルカリ土類金属アルミン酸塩触媒担体が、それを貫通する1~12個の孔、及び任意選択で2~20個の溝(flute)又はローブ(lobe)を有する円筒状ペレットの形態である、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
湿りガスが、湿り空気である、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記水蒸気を含有するガスが、45~300g/mの範囲の絶対湿度を有する、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記絶対湿度が、75g/m以上、好ましくは100g/m以上、より好ましくは150g/m以上、最も好ましくは200g/m以上である、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記水蒸気を含有するガスによる前記焼成成形アルカリ土類金属アルミン酸塩触媒担体の処理が、40~99℃、好ましくは50~99℃、より好ましくは75~99℃の範囲の温度で実施される、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記水蒸気を含有するガスが、60~100%の範囲の相対湿度を有する、請求項1~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記1つ以上の触媒金属化合物を含有する酸性溶液が、1つ以上の遷移金属、好ましくは、クロム、マンガン、ニッケル、コバルト、鉄、銅、又は亜鉛のうちの1つ以上、より好ましくは、ニッケル、コバルト、鉄、又は銅のうちの1つ以上、最も好ましくはニッケルを含む、請求項1~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記1つ以上の触媒金属化合物を含有する酸性溶液中の金属濃度が、100~300g金属/リットルの範囲である、請求項1~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記金属含浸工程(iii)が、40~90℃の範囲の温度で実施される、請求項1~12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記焼成触媒が、1~25重量%の範囲の触媒金属酸化物含量を有する、請求項1~13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
1つ以上のプロモータ化合物が、前記水和担体、前記乾燥した含浸担体、及び/又は前記焼成触媒に含浸される、請求項1~14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
前記焼成触媒を形成するための前記乾燥した含浸担体の前記焼成が、250~850℃の範囲の温度で実施される、請求項1~15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
前記触媒金属酸化物が、還元性金属酸化物であり、前記触媒金属酸化物の少なくとも一部を水素含有ガス混合物で元素形態に還元して還元状態の触媒を形成する工程を更に含む、請求項1~16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
元素形態の金属を含有する前記還元状態の触媒を酸素含有ガスで不動態化する工程を更に含む、請求項17に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルカリ土類金属アルミン酸塩担体上でのエッグシェル型触媒の調製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
エッグシェル型ニッケル触媒などのエッグシェル型触媒は既知であり、メタン化及び蒸気改質プロセスを含む工業プロセスにおいて使用することができる。エッグシェル型触媒は、不活性耐火金属酸化物担体上に担持された、ニッケルなどの触媒活性金属を含有する薄い外側コーティング層を有する。
【0003】
国際公開第2010125369号には、(i)焼成成形アルミン酸カルシウム触媒担体を調製する工程と、(ii)当該焼成成形アルミン酸カルシウム担体を液体水で処理し、次いで、当該担体を乾燥させる工程と、(iii)乾燥した当該担体に、1つ以上の金属化合物を含有する溶液を含浸させ、含浸担体を乾燥させる工程と、(iv)乾燥した当該含浸担体を焼成して、当該担体の表面上に金属酸化物を形成する工程と、(v)任意選択で、金属酸化物でコーティングされた当該担体上で工程(ii)、(iii)及び(iv)を繰り返す工程と、を含む、エッグシェル型触媒の調製方法が開示されている。この方法は、金属酸化物が担体上の外層に集中しているエッグシェル型触媒を提供する。
【0004】
国際公開第2012056211号には、(i)40℃以上の温度で、金属アルミン酸塩を含む焼成担体に酢酸ニッケルを含む溶液を含浸させ、含浸担体を乾燥させる工程と、(ii)乾燥した当該含浸担体を焼成して、当該担体の表面上に酸化ニッケルを形成する工程と、(iii)任意選択で、酸化ニッケルコーティングされた担体上で工程(i)及び(ii)を繰り返す工程と、を含む、エッグシェル型ニッケル触媒の調製方法が開示されている。この方法は、酸化ニッケルが担体上の外層に集中している、エッグシェル型触媒を提供する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本出願人は、既知の方法による問題を克服する、代替方法を開発した。
【0006】
本発明者らは、アルカリ土類金属アルミン酸塩触媒担体の表面を、液体水ではなく湿りガスで処理することにより、担体が乾燥工程を必要とすることなく、エッグシェルの厚さの制御を改善できることを見出した。この方法はまた、適応性があり、エッグシェル型触媒を製造するために40℃以上の温度で酢酸ニッケルを使用する必要はない。
【0007】
したがって、本発明は、(i)焼成成形アルカリ土類金属アルミン酸塩触媒担体を調製する工程と、(ii)当該焼成成形アルカリ土類金属アルミン酸塩担体を、水蒸気を含有するガスで処理して、水和担体を形成する工程と、(iii)介在する乾燥工程の有無にかかわらず、1つ以上の触媒金属化合物を含有する酸性溶液を当該水和担体に含浸させ、含浸担体を乾燥させる工程と、(iv)乾燥した当該含浸担体を焼成して、当該担体の表面に集中した触媒金属酸化物を有する焼成触媒を形成する工程と、(v)任意選択で、工程(ii)、(iii)及び(iv)を繰り返す工程と、を含む、エッグシェル型触媒の調製方法を提供する。
【0008】
この方法によって調製される触媒は、エッグシェル型触媒である。用語「エッグシェル型触媒」とは、触媒活性のある金属が触媒担体内に均一に分布しておらず、表面に集中しているので、薄層を形成し、当該金属がこの層の下には存在しないことを意味する。エッグシェル層の厚さは、好ましくは1000μm以下、より好ましくは800μm以下、最も好ましくは600μm以下である。エッグシェル層の最低厚さは、100μmであってよい。層の厚さは、輪切りにされた触媒に対して電子プローブマイクロ分析(electron probe microanalysis、EPMA)又は光学顕微鏡を使用して容易に証明することができる。
【0009】
成形触媒担体は、アルカリ土類金属アルミン酸塩を含む。アルカリ土類金属アルミン酸塩は、第II族アルミン酸塩、好ましくはアルミン酸マグネシウム及び/又はアルミン酸カルシウムである。触媒担体は、好ましくは、アルミン酸カルシウムセメントを含む。用語「アルミン酸カルシウムセメント」とは、式nCaO.mAl(式中、n及びmは整数である)の1つ以上のアルミン酸カルシウム化合物を含有する組成物を含む。このようなアルミン酸カルシウム化合物の例としては、一アルミン酸カルシウム(CaO.Al)、アルミン酸三カルシウム(3CaO.Al)、三アルミン酸五カルシウム(5CaO.3Al)、五アルミン酸三カルシウム(3CaO.5Al)、及び七アルミン酸カルシウム十二カルシウム(12CaO.7Al)が挙げられる。いくつかのアルミン酸カルシウムセメント、例えば、いわゆる「高アルミナ」セメントは、このようなアルミン酸カルシウム化合物との混合物で、に溶解して、又はと組み合わせて、アルミナを含有していてもよい。例えば、周知の市販の高アルミナセメントは、約18%の酸化カルシウム、79%のアルミナ、並びに3%の水及び他の酸化物に対応する組成を有する。この材料は、約1:5のカルシウム:アルミニウム原子比を有する、すなわち、2CaO.5Alである。アルミン酸カルシウムセメントは、多くの場合、鉄化合物が混入しているが、これは本発明にとって有害であるとは考えられない。好適なアルミン酸カルシウムセメントとしては、Kerneos(登録商標)から入手可能な市販のCiment Fondu(登録商標)及びSecar(登録商標)50、Secar(登録商標)71、Secar(登録商標)80、並びにAlmatis(登録商標)から入手可能なCA-25、CA-14、CA-270が挙げられる。
【0010】
好適なアルミン酸カルシウムセメントは、好ましくは、1:3~1:12、より好ましくは1:3~1:10、最も好ましくは1:4~1:8の範囲内のカルシウム:アルミニウム原子比を有する。アルミン酸カルシウムセメントが「高アルミナ」セメントである場合、追加のアルミナが必要ではない場合もあるが、概して、担体は、遷移アルミナ、一水和物、又は三水和物の形態であり得るアルミナの追加量が添加されたアルミン酸カルシウムセメントから作製されることが望ましい。また、硬化を加速させるために、例えば、組成物の最大20重量%の量の石灰(CaO)を担体組成物に組み込んでもよい。
【0011】
したがって、アルカリ土類金属アルミン酸塩担体は、好ましくは、アルミナ、1つ以上のアルミン酸カルシウム化合物及び/又はアルミン酸マグネシウム、並びに任意選択で石灰の混合物を含む。焼成成形アルカリ土類金属アルミン酸塩担体は、アルミン酸カルシウムセメント粉末及び/又はアルミン酸マグネシウム粉末を、任意選択で追加のアルミナ及び/又は石灰と共に、ある形状に成形し、その後、当該形状を焼成することによって調製することができる。
【0012】
他の酸化物材料、例えば、チタニア、ジルコニア、又はランタナ(lanthana)が、担体中に存在してもよい。場合によっては、蒸気改質担体として使用するためにシリカを組み込んでもよいが、シリカは蒸気改質条件下でかなりの揮発性を有するので、担体組成物中の酸化物材料の重量に基づいて、低シリカ含量、すなわち、1重量%未満、好ましくは0.5重量%未満が望ましい。担体組成物は、好ましくは、25重量%以下、より好ましくは15重量%以下、最も好ましくは10重量%以下の、アルミナ、アルカリ土類金属酸化物、又はアルカリ土類金属アルミン酸塩以外の酸化物材料を含有する。
【0013】
特に好適な担体は、24~48重量%のアルミナ、0~20重量%の石灰と混合された、30~70重量%のアルミン酸カルシウムセメント(65~85重量%のアルミナ及び15~35重量%のCaOを含む)を含む。
【0014】
アルカリ土類金属アルミン酸塩担体は、例えばペレット化によって成形されて、メタン化又は蒸気改質反応器で使用するのに好適な粒子状成形単位を形成する。グラファイト及び/又はステアリン酸金属塩(例えば、ステアリン酸Mg又はAl)などの加工助剤を、成形前に組成物に組み込んでもよい。典型的には、グラファイトの比率は、組成物の1~5重量%である。含まれるステアリン酸金属塩の量は、0.1~2.0重量%の範囲であり得る。組成物は、既知のペレット化技術を使用してペレットに成形することが望ましいが、押出品又は顆粒として調製してもよい。このような粒子状成形単位の長さ、幅、及び高さは、3~50mmの範囲であってよい。担体は、任意の好適な形状であってよいが、好ましくは、担体は、1つ以上の貫通孔を有し得る円筒形である。より好ましくは、成形担体は、それを貫通する1~12個の孔、特に、好ましくは円形断面の3~10個の孔を有する円筒状ペレットの形態である。成形担体は、ペレットの長さに沿って延びる2~20個の溝(flute)又はローブ(lobe)を有していてもよい。このような円筒状ペレットの好適な直径は、4~40mmの範囲であり、アスペクト比(長さ/直径)は、好ましくは2以下である。円筒は、ドーム状であっても端部が平坦であってもよい。好ましい形状としては、4穴の四葉体(quadralobe)、5穴の五葉体(pentalobe)、7穴の円筒状、及び10穴の円筒状が挙げられる。特に好ましい形状は、国際公開第2010/029323(A1)号及び同第2010/029324(A1)号に記載されている。
【0015】
成形後、アルカリ金属アルミン酸塩組成物は、溶解したアルカリ金属又はアルカリ土類金属塩を含有していてもよい水を添加することによって硬化させてもよく、担体は、典型的には200℃未満で乾燥する。組成物を硬化させることによって強度が増大し、これは、触媒を蒸気改質に使用するときに特に望ましい。組成物の硬化は、乾燥工程の前及び/又は乾燥工程中に、例えば、乾燥前に成形触媒担体に水を噴霧するか又は水に浸漬することによって行われる。
【0016】
成形担体は、焼成成形担体であり、すなわち、成形アルカリ土類金属アルミン酸塩担体は、湿りガスで処理する前にその物理化学的特性を変化させるために、空気又は不活性ガス中において好ましくは400~1400℃の範囲で加熱工程に供されている。焼成は、好ましくは、成形単位を1~16時間空気中で500~1200℃に加熱することによって行われる。焼成温度が上昇するにつれて、触媒担体強度は増大するが、多孔率及び表面積は減少する。したがって、担体の焼成は、必要な機械的強度を得るのに十分な温度で行う必要があるが、表面積及び多孔率が過度に減少するほど高くしない必要がある。1つ以上の焼成工程を使用してもよい。
【0017】
焼成成形アルカリ土類金属アルミン酸塩担体は、好ましくは、窒素吸収によって測定したとき、0.5~40m-1、特に1~15m-1の総表面積、及び水銀圧入測孔法によって測定したとき、0.1~0.3cm-1の孔体積を有する。
【0018】
最終焼成の前に、成形アルカリ土類金属アルミン酸塩担体は、水酸化カリウムなどのアルカリ金属化合物の溶液を含浸させることによって「アルカリ化」されてもよい。これは、蒸気改質中に触媒上における炭素のレイダウン(lay down)を最小限に抑える機能を有する。焼成担体上で、約5重量%以下の濃度のアルカリ酸化物、例えば、カリ(potash)を使用してよい。同様に、最終焼成の前に、焼成によってアルカリ土類金属酸化物に変換されるアルカリ土類金属化合物、例えば硝酸カルシウム又は水酸化カルシウムの溶液を含浸させることによって成形担体を「活性化」してもよい。このようにアルカリ土類金属化合物を含めることは、例えば、アルカリ土類金属アルミン酸塩がアルミン酸マグネシウムである場合、石灰を直接含めるのに好ましい場合もある。
【0019】
本発明では、触媒金属化合物を含浸させる前に、焼成成形アルカリ土類金属アルミン酸塩担体を、水蒸気を含有するガスによる処理に供して、水和担体を形成する。水蒸気を含有するガスは、45~300g/mの範囲の絶対湿度を有していてよい。絶対湿度は、温度と無関係に、ガス中の水蒸気(水分)の指標である。これは、ガス1立方メートル当たりの水分のグラム(g/m)として表される。絶対湿度は、好ましくは75g/m以上、より好ましくは100g/m以上、最も好ましくは150g/m以上、特に200g/m以上である。湿りガスは、窒素、空気、又は他の好適なガスであってよいが、好ましくは空気である。ガスは、ガス飽和器又はバブラーなどの従来の装置を使用して加湿してよい。湿りガスを生成するために使用される水は、水道水又はプロセス水であってよいが、好ましくは150mg/リットル未満の低濃度の溶解塩を有することが望ましい。また、脱塩水を使用してもよい。処理は、40~99℃、好ましくは50~99℃、より好ましくは75~99℃の範囲の温度であってよい。処理圧力は、大気圧であってもよく、大気圧よりも高くてもよく、例えば、約1~2絶対bar(1×10Pa~2×10Pa)であってよい。処理は、1時間~10日間、又は所望に応じてより長く適用してもよいが、8~24時間の範囲のより短い期間が好ましい。より短い期間では、概して、より高い絶対湿度及び温度が必要になる。水の沸点を下回る処理は、結果として水蒸気で処理を実施することになると理解されるであろう。
【0020】
水蒸気を含有するガスの相対湿度は、好ましくは60~100%の範囲である。空気-水混合物の相対湿度は、百分率として表される、空気中の水蒸気の分圧の、同じ温度の水の飽和蒸気圧に対する比として定義される(例えば、Lide,David,1998,CRC Handbook of Chemistry and Physics(79th ed.),CRC Press,pp.2-55を参照されたい)。絶対湿度と相対湿度との組み合わせによって、特に有効にエッグシェル型触媒を提供する方法が提供される。
【0021】
本発明では、乾燥工程は不要である。これにより、多くの利点がもたらされる。更に、湿りガス処理は、液体水処理よりも速くかつ効率的であるので、より速い製造速度が可能になり、水浸漬槽及びそれに関連する管理の必要性がなくなる。乾燥工程を実施する場合、それは、例えば、処理された担体を乾燥空気又は乾燥窒素などのガスに曝露して50~120℃の範囲の温度にすることによって、通常の方法で達成され得る。
【0022】
介在する乾燥工程の有無にかかわらず、処理された水和触媒担体に、1つ以上の可溶性触媒金属化合物を含む酸性溶液を含浸させる。酸性含浸溶液は、好ましくは、1つ以上の遷移金属、より好ましくは、クロム、マンガン、ニッケル、コバルト、鉄、銅、及び亜鉛からなる群から選択される1つ以上の遷移金属を含む。最も好ましくは、酸性含浸溶液は、ニッケル、コバルト、鉄、又は銅のうちの1つ以上、特にニッケルを含む。
【0023】
水性含浸溶液が、特に好適である。酸性含浸溶液は、1つ以上の酸性化合物、すなわち、水に溶解して酸性溶液を与える化合物を含む(すなわち、含浸溶液は望ましくはpH<7.0を有する)。好適な酸性金属化合物としては、金属硝酸塩、金属酢酸塩、金属クエン酸塩、及び金属シュウ酸塩が挙げられる。含浸させる金属がニッケルである場合、水和担体に含浸させるために使用される金属化合物は、好ましくは、硝酸ニッケル又は酢酸ニッケルである。
【0024】
酸性含浸溶液中の金属濃度、すなわち、酸性含浸溶液中の金属の総金属濃度は、望ましくは、100~300g金属/リットルの範囲である。
【0025】
含浸は、金属含有溶液中に水蒸気若しくは蒸気で処理された触媒担体を浸漬することを含む既知の技術を用いて周囲温度若しくは高温で、そして、大気圧若しくは高圧で、又は使用される溶液の体積が担体材料の孔容積にほぼ等しい場合、いわゆる「初期湿潤」含浸によって実施することができる。周囲温度(すなわち、10~25℃)及び大気圧(約1絶対bar)での金属化合物の含浸を使用してもよいが、水和担体を40~90℃の範囲の温度で含浸させることにより、エッグシェル層の厚さの制御を改善できることが見出された。
【0026】
水和担体に酸性含浸溶液を含浸させた後、含浸担体を乾燥させ、焼成する。乾燥条件は、好適には、大気圧又は減圧で25~250℃の範囲、好ましくは、50~150℃の範囲の温度である。乾燥時間は、1~24時間の範囲であってよい。含浸された触媒金属化合物を対応する触媒金属酸化物に変換するための乾燥含浸担体の焼成工程は、好ましくは、250~850℃の範囲の温度において空気中で実施される。本発明の利点は、金属含量がより低くかつ触媒表面における金属濃度がより高いことにより、金属硝酸塩系前駆体の焼成中に発生する窒素酸化物の量を、現用の触媒材料と比較して低減することができる点である。
【0027】
得られる触媒の触媒金属含量は、溶液の金属含量及び含浸条件などの多くの方法で制御することができる。本発明では、触媒金属酸化物は担体の表面に集中するので、金属担持量の少ない改善された触媒活性を達成することが可能である。これは、明らかな商業的利益を有する。焼成触媒の触媒金属酸化物含量は、好ましくは1~25重量%、好ましくは1~15重量%、より好ましくは1~10重量%である。したがって、所望の触媒を生成するには1回の含浸で十分であり得る。しかしながら、所望に応じて、焼成触媒の触媒金属酸化物含量が所望のレベルになるまで、含浸、乾燥、及び焼成工程(ii)、(iii)及び(iv)を繰り返してもよい。
【0028】
複数回の含浸は、同じ又は異なる触媒金属を使用して実施してよい。所望に応じて、各触媒金属含浸前に水蒸気を含有するガスで焼成触媒を処理してもよい。
【0029】
触媒金属酸化物は、好ましくは、NiOを含む。
【0030】
触媒金属酸化物の比表面積は、好適には、触媒1gあたり0.1~50mの範囲である。
【0031】
1つ以上のプロモータ化合物を、水和担体、乾燥含浸担体、及び/又は焼成触媒に含浸させてもよい。したがって、触媒金属含浸溶液中に1つ以上のプロモータ化合物が含まれていてもよく、又はその後、別々の含浸によってプロモータを添加してもよい。プロモータは、エッグシェル層に限定されてもよく、又は触媒担体全体に分布していてもよい。プロモータとしては、白金、パラジウム、イリジウム、ルテニウム、ロジウム、及び金などの白金族金属が挙げられる。ランタン及びセリウムなどのランタニド金属が、プロモータとして含まれてもよい。水溶性塩、特に硝酸塩を、金属プロモータの供給源として使用してよい。1つを超えるプロモータが存在してもよく、追加のアルカリもまた添加してもよい。使用される場合、プロモータ金属の量は、典型的には、焼成触媒材料に対して0.1~5重量%の範囲内である。
【0032】
焼成触媒が、Cu、Ni、Co又はFeの酸化物などの還元性金属酸化物を含む場合、焼成触媒を、その酸化物形態で使用される反応器に提供し、元素金属を形成するための触媒金属酸化物の還元をインサイチュで実行することができる。例えば、焼成触媒を、触媒が使用される反応器内に入れ、触媒金属酸化物を、水素含有ガスなどの還元剤で還元してよい。既知の還元技術を使用してよい。
【0033】
あるいは、焼成触媒中の還元性触媒金属酸化物をエクスサイチュで還元してもよく、次いで、空気又は窒素希釈空気などの酸素含有ガスを使用して、酸化物の薄い不動態化層で元素金属をコーティングしてもよい。酸素と二酸化炭素と、任意選択で窒素との混合物を使用してもよい。このようにして、還元状態の触媒をユーザに安全に届けることができ、活性触媒を生成する時間及び後続の活性化中に使用される水素の量を低減することができる。これは、ユーザにとって明らかな利益を有する。したがって、一実施形態では、触媒の調製方法は、触媒金属酸化物の少なくとも一部を水素含有ガス混合物で元素形態に還元して還元状態の触媒を形成する工程と、続いて、元素形態の金属を含有する当該還元状態の触媒を酸素含有ガスで不動態化する工程と、を更に含む。
【0034】
本発明に従って調製されたエッグシェル型触媒は、一次蒸気改質、一次改質ガス混合物の二次改質、及び予備改質などの蒸気改質プロセスで使用することができる。触媒はまた、メタン化反応のために、水素化反応のために、及び酸化物の非還元形態で水溶液中の次亜塩素酸塩の分解のために、使用することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
図1図1及び2はいずれも、本発明の方法によって調製されたエッグシェル型触媒を示す。
図2図1及び2はいずれも、本発明の方法によって調製されたエッグシェル型触媒を示す。
【実施例
【0036】
以下の実施例を参照して、本発明を更に説明する。
【0037】
実施例1.焼成触媒担体の調製
(a)アルミン酸カルシウムセメントをアルミナ三水和物及び石灰とブレンドして、Ca:Al比が10:56(モル基準)の混合物を得た。グラファイト(4重量%)を添加し、得られた混合物を、打錠機を使用してペレット化して、直径3.3mm及び長さ3.3mmの円筒を得た。ペレットを水硬化及び焼成に供して、以下の特性を有する焼成成形担体を得た。
BET表面積:4.5m/g
孔容積:0.24cm/g
密度:1.79g/cc
(b)実施例1(a)の方法を繰り返して、13mmの直径及び16.7~17.3mmの範囲の長さを有する国際公開第2010125369号の図3に図示されている対称な4穴の四葉体円筒状ペレットを作製した。
BET表面積:4.4m/g
孔容積:0.23cm/g
【0038】
実施例2.エッグシェル型Ni触媒の調製
a)水蒸気による焼成触媒担体の処理
実験室用デシケータの底部(乾燥剤は除去されている)に脱塩水を充填し、次いで、実施例1(b)の焼成成形アルミン酸カルシウム担体ペレットを入れた皿を上方のメッシュ上に置き、デシケータを密封した。次いで、55℃に設定したオーブン内にデシケータを入れ、55℃の空気中100%の相対湿度を、処理の持続時間にわたって確保した。ペレットを以下のように処理した:
実施例2(a)-1日(24時間)、
実施例2(b)-3日
実施例2(c)-7日
b)硝酸Niによる水和担体の含浸
処理後、中間乾燥工程なしで、水和担体を80℃の硝酸ニッケル溶液(1000mL当たり約220gのNi、pH1.5)140g中に20分間攪拌せずに浸漬した後、排出した。
c)焼成触媒を形成するための焼成
含浸ペレットを炉に入れ、以下のプログラムにより空気中で焼成した:100℃/hで120℃まで昇温、10時間放置、続いて100℃/hで640℃まで昇温、4時間放置。炉を200℃未満まで冷却してから、サンプルを取り出した。サンプル実施例2(a)、2(b)、2(c)は全て、NiOを含むエッグシェル層を有していた。
【0039】
あるいは、湿り空気による処理に続いて、処理された担体のそれぞれの一部を120℃で17時間乾燥させた後に、含浸させた。次いで、上記と同じ方法で乾燥させたサンプルに対して含浸及び焼成を実施した。これらの実施例を、2(d)、2(e)、及び2(f)と命名する。
【0040】
結果を以下の表に示す。
【0041】
【表1】
【0042】
上記の結果は、エッグシェル型触媒を得るために、処理された触媒担体を乾燥させる必要が全くないことを示唆している。更に、湿りガス処理は、エッグシェル型層の厚さを制御し、そして、より薄く、したがってより効率的なエッグシェル型層を提供することができた。
【0043】
実施例3:エッグシェル型Ni触媒の調製
約50gの実施例1(a)のペレット化担体をるつぼに秤量した後、湿度チャンバに入れた。湿度チャンバを使用して、異なる持続時間、特定の温度及び湿度で、湿り空気でペレットを処理した。処理が完了してから、ペレットを取り出し、次いで、乾燥させることなく、80℃で20分間撹拌せずに硝酸ニッケル水溶液(1000mL当たり210gのNi、pH1.5)に浸漬し、次いで、穏やかに振盪しながら液体から分離して過剰な溶液を除去した。次いで、含浸ペレットを、実施例2に記載のように焼成した。炉を室温まで冷却してから、サンプルを取り出し、エッグシェルの厚さ及びNiO含量について分析した。結果を以下の表に示す。
【0044】
【表2】
【0045】
実施例1(b)の担体について実験を繰り返した。
【0046】
【表3】
50gではなく100gのペレットを使用した。
【0047】
実施例3(b)Bの断面を図1に示す。
【0048】
実施例3(f)Aの断面を図2に示す。
【0049】
実施例4:試験
実施例3(b)A及び3(g)Aのエッグシェル型触媒を、天然ガス蒸気改質触媒として試験した。この試験を実施するために、まず、20日間水素及び蒸気(モル比約1:7)の流れの下、28bargで750℃の温度に処理することによって、触媒を「エージング」した。次いで、当該触媒を冷却し、排出し、αアルミナグリットとブレンドし、次いで、天然ガス蒸気改質試験反応器に再充填した。実施例3(b)Aについては、20.8gの触媒を、αアルミナグリットで105cmに希釈した。実施例3(g)Aについては、22.2gの触媒を、αアルミナグリットで105cmに希釈した。600℃、27bargで2時間、窒素(300NL h-1)及び水素(300NL h-1)の流れの中で、充填物を還元した。次いで、ガス流を天然ガス(1400NL h-1)及び27bargにおける蒸気の炭素に対するモル比3.0の流れに変更することによって、天然ガス蒸気改質試験を開始した。ある温度の範囲を試験し、天然ガスのエタン成分の変換を触媒活性の尺度として定量した。メタン変換とは異なりエタン変換は不可逆的であるので、エタン変換は、全活性の有用な指標である。
【0050】
結果を以下の表に示す:
【0051】
【表4】
【0052】
結果は、蒸気改質反応において両エッグシェル型Ni触媒からの良好なエタン変換を示す。
図1
図2