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  • 特許-注射用組成物 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-17
(45)【発行日】2024-06-25
(54)【発明の名称】注射用組成物
(51)【国際特許分類】
   A61L 31/04 20060101AFI20240618BHJP
   A61K 9/08 20060101ALI20240618BHJP
   A61K 47/36 20060101ALI20240618BHJP
【FI】
A61L31/04
A61L31/04 120
A61K9/08
A61K47/36
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2022136936
(22)【出願日】2022-08-30
(62)【分割の表示】P 2020143998の分割
【原出願日】2017-07-20
(65)【公開番号】P2022164780
(43)【公開日】2022-10-27
【審査請求日】2022-09-27
(31)【優先権主張番号】62/365,205
(32)【優先日】2016-07-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】506192652
【氏名又は名称】ボストン サイエンティフィック サイムド,インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】BOSTON SCIENTIFIC SCIMED,INC.
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(74)【代理人】
【識別番号】100142907
【弁理士】
【氏名又は名称】本田 淳
(72)【発明者】
【氏名】デラニー、ジョセフ ティ.
(72)【発明者】
【氏名】レイビン、サミュエル
(72)【発明者】
【氏名】クンマイリル、ジョン
(72)【発明者】
【氏名】ホルヤー、マシュー ビー.
【審査官】榎本 佳予子
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-185333(JP,A)
【文献】特表2003-527447(JP,A)
【文献】特表2003-528130(JP,A)
【文献】米国特許第06562632(US,B1)
【文献】特開2001-192336(JP,A)
【文献】国際公開第2013/077357(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/054208(WO,A1)
【文献】国際公開第2000/035490(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61L 15/00-33/18
A61K 9/00- 9/72
A61K 47/00-47/69
C08B 37/00-37/18
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水と、
親水性ポリマーであって、入射可視光を反射すること又は第1波長の可視スペクトルの入射放射線を吸収して前記第1波長より長い第2波長の可視スペクトルの光を再放射することによって可視スペクトルに色を有する前記親水性ポリマーと
を含む無菌性注射用流体組成物であって、
前記親水性ポリマーは多糖であり、
前記親水性ポリマーは共有結合した色素分子を含み、
前記無菌性注射用流体組成物はシリンジ筒で提供され、かつ
前記無菌性注射用流体組成物はせん断力の下で粘度の低下を示すものである、無菌性注射用流体組成物。
【請求項2】
前記親水性ポリマーは、複数の異なる共有結合した色素分子を有する、請求項に記載の無菌性注射用流体組成物。
【請求項3】
共有結合したさらなる色素分子を有するさらなる親水性ポリマーを含有し、前記色素分子と前記さらなる色素分子とは異なり、前記親水性ポリマーと前記さらなる親水性ポリマーとは、同一であり、又は相違する、請求項に記載の無菌性注射用流体組成物。
【請求項4】
前記色素分子は青色色素分子である、請求項のいずれか一項に記載の無菌性注射用流体組成物。
【請求項5】
前記色素分子は蛍光色素分子である、請求項のいずれか一項に記載の無菌性注射用流体組成物。
【請求項6】
前記色素分子は、モノクロロトリアジン基、モノフルオロクロロトリアジン基、ジクロロトリアジン基、ジフルオロクロロピリミジン基、ジクロロキノキサリン基、トリクロロピリミジン基、ビニルスルホン基、ビニルアミド基、およびスルホニルフルオリド基のうちの1つ以上の反応性基を有する反応性色素分子である、請求項のいずれか一項に記載の無菌性注射用流体組成物。
【請求項7】
チキソトロピー流体組成物又は偽塑性流体組成物である、請求項1~のいずれか一項に記載の無菌性注射用流体組成物。
【請求項8】
熱、放射線、又は無菌濾過によって滅菌されている、請求項1~のいずれか一項に記載の無菌性注射用流体組成物。
【請求項9】
(a)前記シリンジ筒で提供される請求項1~のいずれか一項に記載の前記無菌性注射用流体組成物と、
(b)(i)注射針、(ii)組織切開装置、(iii)組織回収装置、(iv)内視鏡、および(v)閉鎖装置のうちの少なくともいずれか1つと
を備える、キット。
【請求項10】
前記注射針を備える、請求項に記載のキット。
【請求項11】
前記注射針は、
近位端および遠位端を有する可撓性カテーテル部であって、前記遠位端において中空針先端を備える前記可撓性カテーテル部と、
前記近位端において前記シリンジ筒に係合するように構成される接続具と
を備える、請求項10に記載のキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医療物品及びその関連方法に関する。特定の実施形態において、本発明は、注射用組成物及び同組成物の製造方法並びに患者の胃腸管等において薬剤を用いた処置を実施する為の関連方法に関する。
【背景技術】
【0002】
内視鏡は、侵襲性外科処置を行うことなく体腔又は中空器官の内部を視ることができる医療装置である。内視鏡は、その遠位部分に適切な撮像装置を有する可撓性の長尺状本体(管等)を含む。内視鏡は、食道又は直腸などの自然に発生している開口又は身体に外科的に形成された小さな切開口を介して挿入される。医療処置を実施する為、例えば組織のサンプリングや病変組織又はポリープを取り除く為に、適切な外科器具は、内視鏡を貫通して通過させられる。
【0003】
内視鏡処置は、胃腸管の診断や治療に一般に使用される。例えば、病変の評価や治療の目的で胃腸管から組織サンプルを採取する為に使用される。例えば、撮像装置技術の進歩とともに、内視鏡処置は、胃腸管の様々な部位から前癌性粘膜組織又は腫瘍を正確に見つけて取り除くことに使用されている。
【0004】
介入内視鏡使用者は、胃腸管から前癌性又は癌性粘膜組織を除去する為に、流体を用いたポリープ切除術、内視鏡粘膜切除術(EMR)、内視鏡粘膜下層剥離術(ESD)等の様々な施術を実施する。このような流体を用いた処置には、処置を安全に実施する為に標的組織層を持ち上げたり又は分離したりする為に粘膜下組織の内部に流体クッションを注入する工程、即ち標的組織の間に流体を注入する工程が含まれる。
【発明の概要】
【0005】
いくつかの態様において、本願発明は、医療処置の実施に適した注射用組成物を提供する。いくつかの態様において、注射用組成物(注射用流体とも呼ばれる)は、可視スペクトルに色を有する適切な親水性のポリマーと水とその他の任意の構成成分とからなる。組成物は、例えば、入射可視光を適切に反射、又は第1波長の入射光(紫外線又は可視光)を吸収してより長波長の可視光スペクトルの光を再放出する(つまり蛍光発光)結果、色を有する。
【0006】
上記態様及び実施形態のうちのいずれか1つと組み合わせて使用されるいくつかの実施形態では、本願発明の注射用組成物は、適切な親水性ポリマーとして多糖を含有する。例えば、多糖は、(a)キサンタンガムと、(b)ヒアルロン酸とその塩、等の多糖から選択される。
【0007】
上記態様及び実施形態のうちのいずれか1つと組み合わせて使用されるいくつかの実施形態では、本願発明の注射用組成物は、共有結合した色素分子を有する親水性ポリマーを含有する。いくつかの実施形態では、色素分子は、反応性色素分子である。
【0008】
上記態様及び実施形態のうちのいずれか1つと組み合わせて使用されるいくつかの実施形態では、本願発明の注射用組成物は、第1色素分子と、第1色素分子とは異なる第2色素分子とからなる。例えば、第1色素分子は、第1波長の可視スペクトルの光を反射し、第2分子は、他の可能性もあるが、第2波長よりも短い波長の放射線で照射された後、第2波長の可視スペクトルの蛍光を発する。
【0009】
上記態様及び実施形態のうちのいずれか1つと組み合わせて使用されるいくつかの実施形態では、本願の注射用組成物は、(a)複数の異なる共有結合した色素分子を有する親水性ポリマーと(b)共有結合した第1色素分子を有する第1親水性ポリマーと、共有結合した第2色素分子を有する第2親水性ポリマーと、からなり、第1色素分子は第2色素分子と相違し且つ第1親水性ポリマーと第2親水性ポリマーとは、同一であるか又は相違する。
【0010】
上記態様及び実施形態のうちのいずれか1つと組み合わせて使用されるいくつかの実施形態では、本願発明の注射用組成物は、せん断力の下で粘度の低下を示す。例えば、注射用組成物は、チキソトロピー流体組成物又は偽塑性流体組成物である。
【0011】
上記態様及び実施形態のうちのいずれか1つと組み合わせて使用されるいくつかの実施形態では、本願の注射用組成物は、シリンジで提供される。
いくつかの態様では、キットが提供され、キットは、(a)容器(シリンジ等)で提供される上記態様及び実施形態のうちのいずれか1つにかかる注射用組成物と、(b)(i)注射針、(ii)組織切開装置、(iii)組織回収装置、(iv)内視鏡及び(v)閉鎖装置のうちの少なくともいずれか1つと、からなる。
【0012】
いくつかの態様では、患者の体内における医療処置の実施方法は、患者の体内の標的部位において上記態様及び実施形態のうちのいずれか1つに係る注射用組成物を注入する工程を含む。
【0013】
上記態様及び実施形態のうちのいずれか1つと組み合わせて使用されるいくつかの実施形態では、無菌性注射用流体組成物は、患者の胃腸管において第1組織層と第2組織層との間に注入される。
【0014】
上記態様及び実施形態のうちのいずれか1つと組み合わせて使用されるいくつかの実施形態では、無菌性注射用流体組成物は、粘膜下空間が形成されて、粘膜組織層の表面が胃腸管内に突出し粘膜下空間が形成された組織と周辺組織との間で色が異なることによって標的部位が可視化できるように患者の胃腸管内部の標的部位に注入される。
【0015】
上記態様及び実施形態のうちのいずれか1つと組み合わせて使用されるいくつかの実施形態では、続いて標的部位において外科処置が実施される。例えば、いくつかの実施形態では、外科処置には、標的部位から組織を除去する工程が含まれる。
【0016】
上記態様及び実施形態のうちのいずれか1つと組み合わせて使用されるいくつかの実施形態では、注射用組成物は、通常のシリンジを用いて注入される。
別の態様では、本発明は、可視スペクトルに色を有する水溶性の多糖の形成方法を提供する。この方法は、水溶性多糖と、以下の反応性官能基つまりモノクロロトリアジン基、モノフルオロクロロトリアジン基、ジクロロトリアジン基、ジフルオロクロロピリミジン基、ジクロロキノキサリン基、トリクロロピリミジン基、ビニルスルホン基、ビニルアミド基又はスルホニルフルオリド基のうちの少なくとも1つ以上を備えた色素分子と、を反応させる工程からなる。
【0017】
当業者であれば、以下の詳細な説明と請求項を読めば、本発明の上記及び他の態様、実施形態、並びに利点がすぐに理解できるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】粘膜組織層と粘膜下組織層との間に注射用組成物を注入する方法の例を説明する、胃腸管組織層の横断面を示す略式図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本願発明の多くの態様及び実施形態に関する以下の詳細な説明を参照することによって本願発明をより完全に理解することができる。以下の詳細な説明は、本願発明を例示することを目的としており限定することを目的としていない。
【0020】
一態様では、本願発明は、医療処置の実施に適した注射用組成物を提供する。
いくつかの実施形態において、組成物は、無菌性であり、例えば、熱、放射線又は無菌濾過によって滅菌される。
【0021】
いくつかの実施形態において、注射用組成物は、可視スペクトルに色を有する適切な親水性ポリマーと(この明細書において「親水性ポリマー顔料」とも呼ぶ)、水と、他の任意の化学物質とからなる。ポリマー自体が色を有する為、色は、親水性ポリマーから独立して注入部位から拡散することはなく、注射用組成物は、流体を用いたポリープ切除術や粘膜切除術や粘膜下層剥離術等の種々の医療処置を実施する間の十分な時間、注入場所で視認できる。
【0022】
いくつかの実施形態では、注射用組成物は、入射可視光下で、胃腸管の粘膜越しに容易に視認できる、周囲の胃の環境とは異なる色(緑、青、紫等)を有する。
いくつかの実施形態では、注射用組成物は、観察する色の波長よりも短い波長の入射放射線にさらされた際に胃腸管系の粘膜越しに容易に観察できる、周囲の胃の環境とは異なる色(緑、青、紫等)を有する(注射用組成物が紫外光にさらされて蛍光を発する為)。
【0023】
いくつかの実施形態では、注射用流体組成物は、せん断力の下で粘度の低下を示す(注射用流体組成物は、チキソトロピー流体組成物又は偽塑性流体組成物でありうる)。このような組成物は、低せん断力の環境では粘度が上昇するが(胃腸管に注入された後等)、せん断力の存在下では粘度は低下する(注入の過程等)。
【0024】
いくつかの実施形態では、注射用組成物は、共有結合した色素分子を有する親水性ポリマーからなる。ここで使用されている「色素分子」は、親水性ポリマーに共有結合されている場合には、入射光、例えば可視光(紫外線)よりも短い波長の可視光線(可視光)や放射線等にさらされて親水性ポリマーに可視スペクトルの色を付与する分子である。
【0025】
本願発明と組み合わせて使用される有用な注入組成物は、可視スペクトルに色を有する多糖を含有する。所与の多糖が所望の色を有しない場合には(多糖は、一般に非常に薄い色か無色である)、多糖は、所望の色を有する色素分子に共有結合される。多糖に色素分子を共有結合させることによって、色素は、多糖から離れて注入部位から拡散したりにじんだりすることはない。
【0026】
ある実施形態では、本願は発明に使用される有用な多糖には直鎖状多糖が含まれ、例えば、セルロース、アミロース、ペクチン、アルギン酸、及び前記物質の誘導体、メチルセルロース(MC)などのアルキルセルロース、ヒドロシプロピルセルルース(HPC)及びヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)等のヒドロキシアルキルセルロース、カルボキシメチルセルロース(CMC)等のカルボキシアルキルセルロース及びそれらの塩等が含まれる。カルボキシアルキルセルロースに使用される対イオンには、ナトリウムやカリウムなどのグループIカチオン、マグネシウム及びカルシウムなどのグループIIカチオン及びそれらの混合物が含まれる。
【0027】
本願発明に関連して使用される多糖には、主鎖と複数の単糖の側基とからなる多糖も含まれる。そのような化合物には、ガラクトース側基を含むマンノース主鎖を有する多糖であるガラクトマンナン(その6位にα-D-ガラクトースが結合して分岐を有する(1,4)-結合β-D-マンノピラノースである、1-6-結合α-D-ガラクトピラノース)が含まれ、例えば、グアーガム、フェヌグリークガム、タラガム、ローカストビーンガム及びカロブガム等が含まれる。本願発明に関連して使用される多糖には、主鎖と複数のオリゴ糖側基とからなる多糖が含まれる(「オリゴ糖」とは、ここでは、2,3,4,5,6,7,8,9又は10個の糖残基からなる多糖鎖と定義される)があり、キサンタンガムが含まれる。多糖には、アミロペクチン、アラビアゴム、アラビノキシラン等の多分岐多糖も含まれる。
【0028】
本願発明に関連して使用される多糖には、グルコサミノグリカン、有利には、ヒアルロン酸及びその塩、脱硫化ヘパリン、脱硫化コンドロイチン硫酸及び脱硫化デルマタン硫酸などの非硫化グルコサミノグリカンも含まれる。ヒアルロン酸及びその塩(ヒアルロナン、ヒアルロン酸又はHAとも呼ばれる)は、D-グルクロン酸とN-アセチル-D-グルコサミンからなる非イオン性、非硫化グルコサミノグリカンである。ヒアルロン酸は、結合組織、上皮組織及び神経全体に広く分布する。ヒアルロン酸塩に使用される対イオンには、ナトリウム及びカリウムなどのグループIカチオンとマグネシウム及びカルシウムなどのグループIIカチオン及びそれらの混合物が含まれる。
【0029】
D-グルコサミンとN-アセチル-D-グルコサミンからなるキトサンも、多糖として使用しうる。
本願発明との関連で使用される多糖は、約5kDa(キロダルトン)以下から20,000kDa以上まで分子量が広範囲にわたって異なっていてよい。
【0030】
本願発明との関連で使用される有用な注射用流体組成物には、せん断力の下で粘度の低下を示す非ニュートン流体が含まれ、これにはチキソトロピー流体と偽塑性流体が含まれる。チキソトロピー流体は、一定のせん断力下で時間の経過とともにこの変化を示すが、偽塑性流体は、せん断応力の速度の上昇とともにこの変化を示す。そのような組成物は、せん断力の存在下では、より低い粘度を有するが(例えば、注入の間であり、この性質により注入速度に必要な圧力は小さくてすむ)、低せん断力環境下では、より高い粘度を有する(例えば、胃腸部位に注入した後であり、この性質により部位における残留性は高まる)。
【0031】
本願発明で使用するチキソトロピー流体の例には、チキソトロピー多糖顔料溶液等のチキソトロピー親水性ポリマー顔料溶液、例えば色素分子が共有結合したキサンタンガム又はグアーガム等の適したポリマー等の様々なゴム溶液が含まれる。
【0032】
本願発明に使用する偽塑性流体の例には、偽塑性多糖顔料溶液等の偽塑体親水性ポリマー顔料溶液、例えばヒアルロン酸及びその塩、ならびにアルキルセルロース、ヒドロキシアルキルセルロース、カルボキシアルキルセルロースなどのセルロース等の適したポリマーに色素分子が共有結合したものが含まれる、グルコサミノグリカン溶液が含まれる。
【0033】
上述したように、多くの場合において、選択された親水性ポリマーは、着色していない為、所望の場合には、1つ以上の色素分子が、適切な共有結合技術を用いてポリマーに共有結合される。使用される撮像装置に応じて、多数の色素を用いることにより(可視波長で直接的に可視化される1つの色素と蛍光発光により可視化される別の色素等)可視化に役立ちうる。
【0034】
これに関して、可視スペクトル全域に亘って色を有する多種多様な色素分子を本願発明に関連して選択された親水性ポリマーに共有結合しうる。
既知の色素には、アクリジン色素、アントラキノン色素、アリールメタン色素、ジアリールメタン色素、トリアリールメタン色素(トリフェニルメタン色素を含む)、アゾ色素、ジアゾニウム色素、ニトロ色素、ニトロソ色素、フタロシアニン色素、キノン-イミン色素、アジン色素(azin dyes)、ユーホジン色素(eurhodin dyes)、サフラニン色素、インダミン色素、インドフェノール色素、オキサジン色素、オキサゾン色素、チアジン色素、チアゾール色素、サフラニン色素、キサンテン色素、フルオレン色素、ピロニン色素、フルオロン色素、ローダミン色素等がある。
【0035】
ある実施形態では、第1波長(紫外線又は可視光)の光エネルギーを吸収してより長波長の可視スペクトルで光を再放出する蛍光色素が使用される。蛍光色素の例には、キサンテン色素、シアニン色素、スクアライン色素、ナフタレン色素、クマリン色素、オキサジアゾール色素、アントラセン色素、ピレン色素、オキサジン色素、アクリジン色素、アリールメチン色素、テトラピロール色素が含まれる。
【0036】
いくつかの実施形態では、親水性ポリマーに共有結合させる為に親水性ポリマーの1つ以上の官能基と反応可能な反応性色素が選択される。本願発明に適した反応性色素の例には、多糖に存在する水酸基と反応する1つ以上の反応性基を有するものが含まれ、色素には、モノクロロトリアジン基、モノフルオロクロロトリアジン基、ジクロロトリアジン基、ジフルオロクロロピリミジン基、ジクロロキノキサリン基、トリクロロピリミジン基、ビニルスルホン基及びビニルアミド基などの反応性基のうちの1つ以上を備える色素が含まれる。
【0037】
特定の一実施形態では、反応色素、例えば、リアクティブブルー4(reactive
blue4) 式I(ジクロロトリアジン基を有する反応性アントラキノン色素)(λmax=595nm)を、親水性ポリマー、例えば水溶性多糖 式II、の水酸基と反応させて(下の略式図ではヒアルロン酸が示されているが、水酸基を有する任意の親水性ポリマーを使用しうる)、親水性ポリマー顔料、より詳細には多糖顔料 式IIIが形成される。
【0038】
【化1】

いくつかの実施形態では、色素は、1つ以上の追加の反応性種を介して親水性ポリマーに共有結合される。
【0039】
特定の一実施形態では、一般的な非反応性の色素、例えばクマシーブリリアントブルー
式IV(トリフェニルメタン色素)又は第2アミノ基を有する別の色素を、適した化学種、例えばエチレンスルホニルフルオリド 式V等の他の可能な反応種と反応させて化学的に修飾して反応性色素 式VI(この場合は、スルホニルフルオリド基を有する水溶性の選択性求電子試薬)が形成される。
【0040】
【化2】

次に、上述の反応性色素は、アミン基などの適切な求核性基を有する親水性ポリマーと反応される。
【0041】
特別な一実施例では、D-グルコサミンと残余のN-アセチル-D-グルコサミン基 式VIIIからなる多糖を形成する為に、N-アセチル-D-グルコサミン 式VIIからなる多糖(ヒアルロン酸、キトサン等のグリコサミノグリカン)は、部分的に脱アセチル化される。
【0042】
【化3】

次に、D-グルコサミンとN-アセチル-D-グルコサミン 式VIIIからなる多糖は、好適な求電子色素、例えば1つ以上のスルホニルフルオリド基、イソチオシアネート基(フルオレセインイソチオシアネート(FITC))を含むイソシアネート基及び上述の反応色素 式VI等のマレイミド基(アレクサフロー488(AlexaFluor(登録商標)488)C5マレイミド)等を有する色素に対して求核試薬として働き、多糖性顔料 式IXが形成される。
【0043】
【化4】

色素分子は、生化学分野で知られるスルホニルフルオリドとの反応に加えて、多様な「クリック」反応(対象範囲が広く、クロマトグラフィーをすることなく除去できる副産物を生じ、立体特異性を有し、実施が容易であり、且つ簡単に除去可能又は温和な溶媒で実施することのできる高収量反応である)により、多糖等の親水性ポリマーに結合されうる。
【0044】
本願発明の注射用組成物の多糖の濃度は、大きく異なってもよい。
所与の多糖を水に添加することにより粘度は増加する。溶液の粘度は、ポリマー濃度とポリマーの分子量双方の関数である。一定の重量濃度では、溶液の粘度は、一般に溶液の粘度を調節する目的で使用されるポリマーの分子量と指数関数的な関係を示す。その結果、ポリマーの分子量が大きくなるほど所与の粘度を達成する為に使用するポリマー(重量)濃度を低くすることができるが、ポリマーの分子量が小さくなるほど所与の粘度を達成する為に使用するポリマーの(重量)濃度は高くなる。
【0045】
いくつかの実施形態では、本願発明に関連して使用される注射用組成物は、コロイドであってよい。ここで定義されるコロイドは、大きい分子又は小さい固体粒子(直径1~1000nmの粒子)が懸濁されて連続した液相を有する系である。いくつかの実施形態では、注射用組成物は、親水性コロイドである(コロイド粒子が水中に分散した親水性ポリマーであるコロイド系)。
【0046】
いくつかの実施形態では、注射用組成物は、原則的に親水性ポリマー顔料と水とからなる。
いくつかの実施形態では、注射用組成物は、親水性ポリマー顔料と水と1つ以上の追加的な化学物質とからなる。
【0047】
追加的な化学物質の例には、癌治療化学物質(エンドスタチン等)、ホルモン、抗炎症材、抗生物質、鎮痛剤、抗菌剤(抗菌剤、抗真菌剤等)、凝固剤、軟化剤、抗化膿剤、等が含まれる。
【0048】
追加的な化学物質の別例には、発泡剤(アンモニウムカーボネート、アゾジカーボンアミド)が含まれる。発泡剤を使用することによって、生体内での所与の体積を形成することに必要とされる流体量を抑えることができる。例えば、発泡剤は、注射用組成物に接した組織表面領域に比例して低下する静止静水圧によって組織を持ち上げる為、注射用組成物によって持ち上げられる「ブレブ」のサイズをより細かく調節しうる。
【0049】
追加的な化学物質の別例には、緩衝剤が含まれる。緩衝剤は、標的部位において適切な生体内pHの達成する為に十分量で添加される。適する緩衝剤の例には、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)、Tris(トリスヒドロキシメチルアミノメタン)緩衝液、Tris緩衝生理食塩水、HEPES(4-(2-ヒドロキシエチル)-1-ピペラジンエタンスルホン酸)緩衝液、及びHEPES緩衝生理食塩水等が含まれる。別の実施形態では、本願発明の注射用組成物には、緩衝液は、含まれない。
【0050】
ある実施形態では、本願発明の注射用組成物は、1つ以上のシリンジで提供される。そのようなシリンジは、その近位端にプランジャーを受承する開口部とその遠位端にシリンジ円筒体の内部が注射針の内部に連通して配置されるように注射針と直接的又は間接的に係合する接続具(ルアー接続具又は別の適切な接続具)とを有する円筒体とを備える。円筒体は、その近位端に係合を容易にする為のフランジ部と円筒体内に残っている流体量を判断する為の目盛りとを備え得る。適切なシリンジ容量は、5cc(5cm)又はそれ以下から50cc(15cm)又はそれ以上であり、一般的には、5ccから15ccである。
【0051】
適切な注射針、例えばその遠位端に中空の針尖端を有し且つその近位端にシリンジ円筒体との係合に適した接合具又はアダプター(ルアー接合具)を備える可撓性を有する管状部(カテーテル部)からなる内視鏡注射針が取り付けられる。適切な針のゲージは、20ゲージ又はそれ以下から27ゲージ又はそれ以上であり、好ましくは23ゲージから25ゲージである。適切な内視鏡用注射針の長さは、200センチメートル(cm)から240cmである。
【0052】
ある態様では、本願発明は、ここで説明されている注射用組成物を使用する外科的処置に関する。そのような処置は、組織層の表面を盛り上げて周囲の組織と異なる色にする為にここで説明されている注射用流体組成物を患者の組織内部に注入する工程と、注入部位で処置を実施する工程とからなる。本願発明の実施形態は、胃腸管における特定の内視鏡的処置、例えば内視鏡的切除術や内視鏡粘膜下層剥離術に関連付けて説明されているが、本願発明の実施形態は、他の適した内視鏡的処置又は内視鏡的処置以外の処置、例えば、泌尿器処置、形成外科又は開腹侵襲性外科術等で使用されてもよい。
【0053】
内視鏡粘膜下層剥離術は、胃腸管の表層(粘膜及び粘膜下層)に限局する無茎性又は平坦な新生物を除去する為に開発された内視鏡的手技である。内視鏡粘膜下層剥離術は、2cmより小さな病変の除去又はより大きな病変の部分切除に一般に使用される。内視鏡粘膜下層剥離術の開始前には、表層を焼灼標識して標的の病変の辺縁を標識することが有用である場合がある。手術は、病変の下の粘膜下空間に注射用組成物を注入することにより開始され、「安全なクッション」が形成される。クッションは、病変を持ち上げて病変の除去を容易にし、且つ胃腸管壁の深部層に対する機械的又は電気焼灼的な傷害を最小限にする。「注入-切除」手技では、標的病変を持ち上げる為に粘膜下注入を使用し、病変を除去する為に電気焼灼外科メスを使用する。「注入-持ち上げ-切除」手技では、標的の病変を持ち上げる為に粘膜下注入を使用し、病変を持ち上げる為に鉗子を把持し、病変を除去する為に電気焼灼外科メスを使用する。キャップを使用する内視鏡粘膜下層剥離術では、標的の病変を持ち上げる為に粘膜下注入を使用し、その後、キャップの中に粘膜を吸引回収して、病変を電気焼灼外科メスで除去する。
【0054】
内視鏡粘膜下層剥離術は、胃腸管の大きくて平坦な病変(一般に2cm以上)のブロック切除に一般に使用される。処置は、いくつかの工程で実施されることが一般である。まず、電気焼灼によって病変の辺縁が標識され、粘膜下注入によって病変が持ち上げられる。次に、病変の周囲で、特殊な内視鏡電気焼灼ナイフを用いて、粘膜下内で円周切開が行われる。病変は、その後、電気焼灼ナイフを用いて胃腸管壁の深部層から切除されて取り除かれる。様々な切除装置及び付属装置が内視鏡粘膜下層剥離術専用に開発されている。
【0055】
各前処置において、適した色(緑、青、紫など)を備えた注射用組成物を使用することは、粘膜下空間が形成された組織の可視化に役立つ。
切除した組織の回収にはいくつかのオプションが利用できる。例えば、キャップを用いた内視鏡粘膜下層剥離術後には、切除した断片は、キャップの中に集められて患者の体内から回収される。別例では、内視鏡的切除術又は内視鏡粘膜下層剥離術の間に切除された組織は、特別に設計された回収装置(ネット、バスケット等)で回収することもできる。
【0056】
図1は、粘膜組織層112と粘膜下組織層114と筋肉固有層116とを示す胃腸管の一部の横断面を示す略式図であり、本願の実施形態に係る粘膜下組織層112に発見された病変組織112dを流体を用いて内視鏡粘膜下層剥離する為の注入装置を示す。図1に示されているように、注入装置は、補助カテーテル部132を備える注射針130を含み、任意の適する手段、例えば内視鏡140の管腔を介して胃腸管の中に挿入されることにより、注射針の遠位部は、標的部位の近位に配置される。注射針130は、注射用組成物120が流れる中空の管腔を備える。針130の遠位端は、組織を穿刺する鋭利な尖端を備え、粘膜組織層112と粘膜下組織層114との間に注射用組成物120のクッションを送達する為に粘膜組織層112と粘膜下組織層114との間の標的部位に配置されて、粘膜下組織層112を持ち上げる。注入する注射用組成物120の量は、種々の要因、例えば実施する処置の種類、使用する切除器具の種類、病変組織112dのサイズ及び所望のクッションの程度のうちの少なくともいずれか1つ等に依存しうる。注射用組成物120を注入して病変組織112dの下に安定なクッションが形成されたら、適した切除部材(外科メス、ナイフ、生検鉗子、はさみ等)を備えた適切な内視鏡的切除装置を用いて病変組織112dが除去される。上述したように、適切な色を有する注射用組成物120を使用することは、粘膜下空間が形成された組織の可視化に有用である。
【0057】
本願発明の別の態様では、外科処置の実施に有用なキットが提供される。キットは、患者の治療に役立つすべての構成要素の全部又は一部を含みうる。
キットは、例えば、ここで説明されている注射用組成物を患者の組織内部にいつでも注入できる形式で(1つ以上の予め装填されたシリンジで提供される)含み、(a)1つ以上の注射針(内視鏡注射針)、(b)1つ以上の組織切除装置(外科メス、ナイフ、はさみ)、(c)1つ以上の組織回収装置(ネット、バスケット、キャップ等)、(d)組織注入機能と組織切除機能とを備える装置(外科メスを組み合わせた針)、組織切除機能と組織回収機能とを備える装置(ネット、バスケット又はキャップと組み合わせた外科メス)、又は組織注入機能と組織切除機能と組織回収機能とを備える装置(外科メスとネット、バスケット又はキャップとを組み合わせた針)等の1つ以上の組み合わせ装置、(e)内視鏡及び(f)1つ以上の閉鎖装置(内視鏡クリップ)、のうちの1つ以上を備える。キットは、保管に関する情報及びキットで提供される製品の使用法についての説明を含む印刷資料をさらに含みうる。
【0058】
いくつかの実施形態が、ここに具体的に示され且つ説明されているが、本願発明の変更や改変は、本願発明の主旨及び意図した範囲から逸脱することなく、上記の開示内容でカバーされ且つ添付の請求項の範囲内に包含されると解される。
図1