(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-17
(45)【発行日】2024-06-25
(54)【発明の名称】球状化熱処理性に優れた線材及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C22C 38/00 20060101AFI20240618BHJP
C22C 38/32 20060101ALI20240618BHJP
C21D 8/06 20060101ALI20240618BHJP
C21D 9/52 20060101ALI20240618BHJP
C21D 9/00 20060101ALI20240618BHJP
C21D 1/32 20060101ALI20240618BHJP
【FI】
C22C38/00 301Y
C22C38/32
C21D8/06 A
C21D9/52 103Z
C21D9/00 101A
C21D9/00 101W
C21D1/32
(21)【出願番号】P 2022538052
(86)(22)【出願日】2019-12-20
(86)【国際出願番号】 KR2019018207
(87)【国際公開番号】W WO2021125408
(87)【国際公開日】2021-06-24
【審査請求日】2022-06-17
(73)【特許権者】
【識別番号】592000691
【氏名又は名称】ポスコホールディングス インコーポレーティッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000051
【氏名又は名称】弁理士法人共生国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】イ, サン-ヨン
(72)【発明者】
【氏名】イ, ジェ-スン
(72)【発明者】
【氏名】イ, ビョン-ガブ
【審査官】鈴木 毅
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第108929985(CN,A)
【文献】特表2009-527638(JP,A)
【文献】国際公開第2018/008355(WO,A1)
【文献】特開2004-263201(JP,A)
【文献】特開2013-147728(JP,A)
【文献】特開2015-166495(JP,A)
【文献】特開平07-268545(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 38/00 - 38/60
C21D 8/06
C21D 9/52
C21D 9/00
C21D 1/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
重量%で、C:0.3~0.5%、Si:0.02~0.4%、Mn:1.0~1.5%、Cr:0.3~0.7%、B:0.003%以下(0%は除く)、Ti:0.03%以下(0%は除く)、P:0.03%以下(0%を含む)、S:0.01%以下(0%を含む)、Al:0.02~0.05%、N:0.001~0.01%を含み、残部がFe及びその他の不可避不純物からなり、
微細組織は、主相がフェライト+パーライトの複合組織であり、ベイナイトまたはマルテンサイトのうち1種以上を5面積%以下(0%を含む)含み、
前記フェライトの分率は35面積%以上であり、
表面から直径の2/5地点~3/5地点の領域における前記パーライトのコロニー平均大きさは7μm以下であ
り、
表面から直径の2/5地点~3/5地点の領域における前記フェライトの結晶粒平均大きさが5μm以下である、球状化熱処理性に優れた線材。
【請求項2】
前記線材は、1回の球状化熱処理後のセメンタイトの平均アスペクト比が2.5以下であ
り、
前記球状化熱処理は、100℃/Hrの加熱速度で760℃まで加熱した後、4~6時間維持させ、730℃まで50℃/Hrの冷却速度で冷却した後、730℃から670℃の間の区間では、10℃/Hrの冷却速度で冷却した後、その以下の温度においては炉冷を維持する、請求項1に記載の球状化熱処理性に優れた線材。
【請求項3】
重量%で、C:0.3~0.5%、Si:0.02~0.4%、Mn:1.0~1.5%、Cr:0.3~0.7%、B:0.003%以下(0%は除く)、Ti:0.03%以下(0%は除く)、P:0.03%以下(0%を含む)、S:0.01%以下(0%を含む)、Al:0.02~0.05%、N:0.001~0.01%を含み、残部がFe及びその他の不可避不純物からなる鋼材を1200℃以上で60分以上加熱した後、1次熱間圧延してビレットを得る段階、
前記ビレットを150~500℃まで空冷する段階、
前記空冷されたビレットを5~30℃/secの冷却速度で常温まで冷却する段階、
前記冷却されたビレットを加熱した後、950~1050℃で抽出する段階、
前記抽出されたビレットを2次熱間圧延して線材を得る段階、及び
前記線材を2℃/sec以下に冷却する段階、を含み、
前記2次熱間圧延は、前記抽出されたビレットを中間仕上げ圧延する段階、及び、
730℃~Ae3で仕上げ圧延する段階、を含む、
請求項1に記載の球状化熱処理性に優れた線材の製造方法。
【請求項4】
前記中間仕上げ圧延後、線材のオーステナイト結晶粒平均大きさは5~20μmである、請求項
3に記載の球状化熱処理性に優れた線材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、球状化熱処理性に優れた線材及びその製造方法に係り、より詳しくは、高強度の製品及び大口径素材はCr、Mnなどの合金元素が多く添加され、それにより線材の引張強度が上昇して球状化熱処理が必要となる球状化熱処理性に優れた線材及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ボロン鋼は低価のボロンを微量添加して鋼の焼入れ性を向上させることで、Cr、Moなどの高価の合金元素を節減することができる経済的な素材である。引張強度が低い800MPa級ボロン鋼は、強度向上のための合金元素の未添加により引張強度が低く、球状化熱処理の省略が可能であるが、焼入れ性の限界があり、大口径素材には使用が制限されるという欠点がある。1000MPa級以上の高強度の製品及び大口径素材はCr、Mnなどの合金元素が多く添加され、それにより線材の引張強度が上昇して球状化熱処理が必要となる。
【0003】
800MPa級ボロン鋼の代表的な技術としては、特許文献1がある。特許文献1は、熱間圧延棒鋼線材においてフェライト結晶粒サイズを微細化し、分率を高めることで鋼の靭性を向上させようとした。しかし、Cr含有量の制限により焼入れ性の限界があるため、大口径棒鋼では使用が制限されるという欠点がある。
【0004】
かかる問題点を改善するために、特許文献2では、Cr、Moなどを添加し、微細組織がフェライトを含むようにしたボロン鋼を開発し、高周波焼入れ性を改善しようとした。しかし、フェライトはオーステナイジング熱処理時にオーステナイト化し難い組織であるため、高周波熱処理のような短い熱処理を利用するためには、線材の初期微細組織に含まれるフェライト相分率を可能な限り減少させる必要があるという欠点がある。また、このような方法は、フェライト分率を可能な限り少なく維持するために仕上げ圧延温度を高める必要があるため、線材の強度が上昇し、これによって加工性の側面で不利に作用する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開第2010-053426号公報
【文献】特開第2005-133152号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明が目的とするところは、球状化熱処理性に優れた線材及びその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の球状化熱処理性に優れた線材は、重量%で、C:0.3~0.5%、Si:0.02~0.4%、Mn:1.0~1.5%、Cr:0.3~0.7%、B:0.003%以下(0%を除く)、Ti:0.03%以下(0%は除く)、P:0.03%以下(0%を含む)、S:0.01%以下(0%を含む)、Al:0.02~0.05%、N:0.001~0.01%を含み、残部がFe及びその他の不可避不純物からなり、微細組織は主相がフェライト+パーライトの複合組織であり、ベイナイトまたはマルテンサイトのうち1種以上を5面積%以下(0%を含む)含み、表面から直径の2/5地点~3/5地点の領域における上記パーライトのコロニー平均大きさは、7μm以下であることを特徴とする。
【0008】
また、本発明の球状化熱処理性に優れた線材の製造方法は、重量%で、C:0.3~0.5%、Si:0.02~0.4%、Mn:1.0~1.5%、Cr:0.3~0.7%、B:0.003%以下(0%を除く)、Ti:0.03%以下(0%は除く)、P:0.03%以下(0%を含む)、S:0.01%以下(0%を含む)、Al:0.02~0.05%、N:0.001~0.01%を含み、残部がFe及びその他の不可避不純物からなる鋼材を1200℃以上で60分以上加熱した後、1次熱間圧延してビレットを得る段階;上記ビレットを150~500℃まで空冷する段階;上記空冷されたビレットを5~30℃/secの冷却速度で常温まで冷却する段階;上記冷却されたビレットを加熱した後、950~1050℃で抽出する段階;上記抽出されたビレットを2次熱間圧延して線材を得る段階;及び上記線材を2℃/sec以下に冷却する段階;を含み、上記2次熱間圧延は上記抽出されたビレットを中間仕上げ圧延する段階;及び730℃~Ae3で仕上げ圧延する段階;を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によると、球状化熱処理時にセメンタイトの球状化率を高めることができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の球状化熱処理性に優れた線材について説明する。先に本発明の合金組成を説明する。下記説明する合金組成の含有量は、特に断りのない限り、重量%を意味する。
【0011】
C:0.3~0.5%
Cは、セメンタイトの球状化を加速させるために添加される元素である。上記C含有量が0.5%を超える場合には、球状化熱処理及び鍛造加工工程後に行われる焼入れ、焼戻し熱処理時の残留オーステナイトが過多に発生して適切な強度、靭性及び延性を得ることが困難である。一方、C含有量が0.3%未満のボロン鋼は、引張強度が十分に低く、別の球状化熱処理が求められない。本発明では、球状化熱処理が必要なボロン鋼を対象鋼材とし、セメンタイトの球状化速度を加速化するために、上記C含有量を0.3%以上に制御する。したがって、上記C含有量は、0.3~0.5%の範囲を有することが好ましい。
【0012】
Si:0.02~0.4%
Siは、一定レベルの強度を確保するために添加される元素である。上記Si含有量が0.02%未満の場合には、上記強度向上の効果が十分ではなく、0.4%を超える場合には、固溶強化効果が過度に高くなり、鋼の加工性の確保に不利になることがある。したがって、上記Si含有量は、0.02~0.4%の範囲を有することが好ましい。上記Si含有量の下限は、0.04%であることがより好ましく、上記Si含有量の上限は、0.3%であることがより好ましい。
【0013】
Mn:1.0~1.5%
Mnは、硬化能を向上させるために添加される元素である。上記Mn含有量が1.0%未満の場合には、不足した硬化能によって十分な焼入れ性を得ることが難しく、球状化熱処理及び鍛造加工工程後に行われる焼入れ、焼戻し熱処理時に十分な強度を得ることが困難であり、1.5%を超える場合には、焼入れ性が過度に増加して線材製造時に低温組織を生成するおそれがある。低温組織は、この後の伸線工程で内部亀裂が発生するおそれがあるため、その含有量を制限することが好ましい。したがって、Mn含有量は1.0~1.5%の範囲を有することが好ましい。上記Mn含有量は1.0~1.3%の間を有することが好ましい。Mnは、一般的に鋳造工程中に微細偏析がよく起こる元素であるため、所望の水準の焼入れ性が満たされる場合、上記Mn含有量は、低く管理した方が鋼の偏差制御に有利であるためである。
【0014】
Cr:0.3~0.7%
Crは、Mnと同様に鋼の焼入れ性を高める元素として主に使用される。上記Cr含有量は、0.3%未満の場合には、鋼の焼入れ性が十分でないため、大径素材の中心部分の硬化能が不足になる。鋼の焼入れ性が0.7%を超える場合には、鋼の内部の偏析帯の存在によって線材の製造工程中に低温組織の帯が発生する可能性があり、後の伸線工程で亀裂が発生する可能性がある。したがって、上記Cr含有量は、0.3~0.7%の範囲を有することが好ましく、0.3~0.6%であることがより好ましい。
【0015】
B:0.003%以下(0%を除く)
Bは、焼入れ性の向上のために添加される元素である。上記B含有量が0.003%を超える場合には、上記BがFe23(C、B)6を形成するため、freeボロン量が減少し、鋼の焼入れ性が減少するようになる。したがって、上記B含有量は0.003%以下の範囲を有することが好ましい。
【0016】
Ti:0.03%以下(0%を除く)
Tiは、焼入れ性の向上のためのボロンの効果を最大化し、窒素を固定するために添加される元素である。上記Ti含有量が0.03%を超える場合には、溶鋼中にTiNが晶出される現象が発生するため、鋼中の窒素を固定する本来のチタン添加の目的を達成することが難しくなる。したがって、上記Ti含有量は0.03%以下の範囲を有することが好ましい。上記Ti含有量の下限は、0.01%であることがより好ましく、0.015%であることがさらに好ましい。上記Ti含有量の上限は、0.025%であることがより好ましい。
【0017】
P:0.03%以下(0%を含む)
Pは、鋼中に不可避に含有される不純物であり、その含有量が0.03%を超える場合には、オーステナイト粒界にPが偏析して粒界脆性を起こし、特に鋼の低温衝撃靭性を低下するおそれがある。したがって、上記P含有量は0.03%以下の範囲を有することが好ましい。上記P含有量は低いほど鋼の健全性の確保に有利であるため、0.02%以下であることがより好ましく、0.015%以下であることがさらに好ましい。
【0018】
S:0.01%以下(0%を含む)
Sは、鋼中に不可避に含有される不純物であり、その含有量が0.01%を超える場合には、過度のMnSが生成され、鋼の衝撃靭性に悪影響を及ぼす。したがって、上記S含有量は0.01%以下の範囲を有することが好ましい。上記S含有量は、0.007%以下であることがより好ましく、0.005%以下であることがさらに好ましい。
【0019】
Al:0.02~0.05%
Alは、AlNを形成してオーステナイト結晶粒を生成させる役割を果たす元素である。上記Al含有量が0.02%未満の場合には、固溶Alが少なくてAlNが十分に形成されないため、上記効果を十分に得ることが困難であり、0.05%を超える場合には、鋼中にアルミニウム酸化物が過度に成長して鋼の靭性に影響を及ぼすことがある。したがって、上記Al含有量は、0.02~0.05%の範囲を有することが好ましい。
【0020】
N:0.001~0.01%
Nは、Tiと反応してTiNを形成することにより、焼入れ性向上のためのボロンの効果を向上させ、鋼中のAlと反応してAlNを形成することにより、オーステナイト結晶粒の形成に影響を及ぼす元素である。上記Nが0.01%を超える場合には、Nがボロンと結合してBNを形成するようになって焼入れ性のために添加したボロンの役割を減少させるようになり、また、固溶窒素濃度が増加して加工中の強度上昇を引き起こすようになる。一方、N含有量は低いほど好ましいが、0.001%未満に制御するためには、過度の脱窒工程が必要になって工程費用の上昇をもたらすようになる。したがって、上記N含有量は、0.001~0.01%の範囲を有することが好ましい。上記N含有量は、0.001~0.005%であることがより好ましく、0.001~0.003%であることがさらに好ましい。
【0021】
本発明の他の成分は、鉄(Fe)である。但し、通常の製造過程では、原料や周囲の環境から意図されない不純物が不可避に混入することがあるため、これを排除することはできない。これらの不純物は、通常の製造過程の技術者であれば、誰でも分かるものであるため、そのすべての内容を特に本明細書に記載しない。
【0022】
本発明の線材の微細組織は、フェライト+パーライトの複合組織であることが好ましい。鋼の球状化の側面だけ見ると、微細なセメンタイトを有するベイナイト鋼が有利な側面があるが、ベイナイトで球状化したセメンタイトは、非常に微細して成長が非常に遅いと報告されており、フェライト+パーライト+ベイナイトの複合組織は、組織均質化の側面から不利である。したがって、本発明では、線材の微細組織をフェライト+パーライトの複合組織に制御することにより、球状化熱処理性を向上させるだけでなく、組織をより均質化させることができる。このとき、上記フェライトの分率は、35面積%以上であることが好ましく、もし、35面積%未満の場合には、パーライト相分率が比較的減少し、これにより、パーライトコロニーサイズに影響を及ぼすようになり、本発明で得ようとする球状化熱処理性を効果的に確保し難いことがある。特に同一のフェライト相分率を有していても、フェライト結晶粒大きさが微細になるとコロニーサイズはさらに微細化することができる。一方、本発明では、製造時に不可避に形成されることができる微細組織、例えば、ベイナイトまたはマルテンサイトのうち1種以上を5面積%以下含むことができる。すなわち、本発明の微細組織は、主相がフェライト+パーライトの複合組織であり、ベイナイトまたはマルテンサイトのうち1種以上を5面積%以下(0%を含む)含むことができる。
【0023】
このとき、上記パーライトのコロニー平均大きさは7μm以下であることが好ましい。上記のようにパーライトのコロニー平均大きさを微細に制御することにより、セメンタイトの分節効果を向上させ、球状化熱処理時にセメンタイトの球状化率を高めることができる。
【0024】
また、上記フェライトの結晶粒平均大きさは、5μm以下であることが好ましい。上記のように、フェライトの結晶粒平均大きさを微細に制御することにより、パーライトコロニー大きさも微細化させることができ、これにより、球状化熱処理時にセメンタイトの球状化率を高めることができる。
【0025】
一方、本発明において、上記パーライトのコロニー平均大きさとフェライトの結晶粒平均大きさは、線材の直径基準の中心部、例えば、直径を基準にして表面から2/5地点~3/5地点の領域でのものである可能性がある。通常、線材の表層部は、圧延時に強い圧下力を受けるため、上記表層部でのパーライトのコロニー平均大きさとフェライトの結晶粒平均大きさは微細化することができる。しかし、本発明では、線材の表層部だけでなく、中心部までパーライトのコロニー平均大きさとフェライトの結晶粒平均大きさを微細化させることで、球状化熱処理時にセメンタイトの球状化率を効果的に高めることができる。
【0026】
上述したように提供される本発明の線材は、1回球状化熱処理後のセメンタイトの平均アスペクト比が2.5以下であることができる。通常、上記球状化熱処理は、その処理回数が増加するほどセメンタイトの球状化に効果的であることが広く知られている。しかし、本発明では、1回の球状化熱処理だけでもセメンタイトを十分に球状化させることができる。一方、上述したように、線材の表層部は圧延時に強い圧下力を受けるため、セメンタイトの球状化も円滑に行われることができる。しかし、本発明では、線材の直径基準の中心部、例えば、直径を基準にして表面から1/4地点~1/2地点の領域におけるセメンタイトも十分に球状化が可能であり、線材中心部でのセメンタイトの平均アスペクト比が2.5以下であることができる。また、通常、セメンタイト球状化のためには微細組織を分節化するために球状化熱処理前の加工工程を経るが、本発明の線材は、このような加工工程がなくてもセメンタイトの球状化率を効果的に高めることができる。
【0027】
以下、本発明の球状化熱処理性に優れた線材の製造方法について説明する。
【0028】
まず、上述した合金組成を有する鋼材を1200℃以上で60分以上加熱した後、1次熱間圧延してビレットを得る。上述した鋼材はスラブ、ブルーム及びサイズが比較的大きいビレットのいずれかであることができ、上記1次熱間圧延は、上記鋼材の大きさや厚さを減少させる板圧延であることが好ましい。ボロン鋼においてTiは、Nを固定してNがBと結合することを防いでfree B含有量を増やす役割を果たし、本発明では、十分なfree Bを作ってTiNを成長させるために、上記のように鋼材を加熱する。上記鋼材の加熱温度が1200℃未満であるか、または上記鋼材の加熱時間が60分未満の場合には、TiNが安定してTiN成長が十分に起こらないことがある。
【0029】
一方、上記鋼材加熱後の上記鋼材はTiNの平均大きさが500μm以上であることができる。上記TiNの平均大きさが500μm未満の場合には、free B増量効果を十分に得ることができない。
【0030】
この後、上記ビレットを150~500℃まで空冷する。上記ビレット空冷停止温度が500℃を超える場合には、TiNの他の析出物が成長して圧延工程時の線材の亀裂や破断を誘発することができ、150℃未満の場合には、生産性が低下するおそれがある。
【0031】
この後、上記空冷されたビレットを5~30℃/secの冷却速度で常温まで冷却する。上記ビレット冷却は、生産性を向上するためのものであり、150℃未満の温度では、ビレットの冷却速度を5℃/sec以上に高めても亀裂発生の危険が減少する。上記ビレット冷却速度は10℃/sec以上であることがより好ましく、15℃/sec以上であることがさらに好ましく、20℃/sec以上であることが最も好ましい。但し、上記ビレット冷却速度が30℃/secを超える場合には、過度の冷却速度により亀裂発生の危険が増加することがある。
【0032】
一方、上記冷却されたビレットは、酸化性介在物を除いた全体析出物のうちTiNを80面積%以上含むことができる。このようにTiNを多量に形成させることでBによる焼入れ性向上の効果を十分に得ることができる。上記酸化性介在物は、例えば、Al2O3、SiO2などであることができる。上記TiN分率は90面積%以上であることがより好ましい。
【0033】
この後、上記冷却されたビレットを加熱した後、950~1050℃で抽出する。上記ビレット抽出温度が950℃未満の場合には、圧延性が低下し、上記ビレット抽出温度が1050℃を超える場合には、圧延のために急激な冷却が必要となるため、冷却制御が困難になるだけでなく、亀裂などが発生して良好な製品品質を確保し難いことがある。
【0034】
この後、上記抽出されたビレットを2次熱間圧延して線材を得る。上記2次熱間圧延はビレットを線材の形態を有するようにするため、孔型圧延であることが好ましい。上記2次熱間圧延は上記抽出されたビレットを中間仕上げ圧延する段階と、730℃~Ae3で仕上げ圧延する段階を含むことができる。線材圧延速度は非常に速くて動的再結晶領域に属する。現在までの研究結果によると、動的再結晶の条件下ではオーステナイト結晶粒大きさが変形速度と変形温度のみに依存すると明かされている。線材圧延の特性上、線径が決まったら変形量、変形速度は定められるようになってオーステナイト結晶粒大きさは、変形温度を調整して変化させることができるようになる。本発明では、動的再結晶のうち動的変形誘起変態現象を利用して結晶粒を微細化しようとする。このような現象を利用して本発明が得ようとするフェライト結晶粒を確保するためには、仕上げ圧延温度を730℃~Ae3に制御することが好ましい。上記仕上げ圧延温度がAe3を超える場合には、本発明で得ようとするフェライト結晶粒を得ることが難しく、十分な球状化熱処理性を得ることが困難になることがあり、730℃未満の場合には、設備の負荷が高くなって設備の寿命が急激に低下するおそれがある。
【0035】
一方、上記中間仕上げ圧延後、線材のオーステナイト結晶粒平均大きさは5~20μmであることが好ましい。フェライトはオーステナイト結晶粒界から核生成して成長することが知られている。母相であるオーステナイト結晶粒が微細化すると、その結晶粒界で核生成するフェライトも微細に生成を開始することができるため、上記のように中間仕上げ圧延後の線材のオーステナイト結晶粒平均大きさを制御することにより、フェライト結晶粒微細化の効果を得ることができる。上記オーステナイト結晶粒平均大きさが20μmを超える場合には、フェライト結晶粒微細化の効果を得ることが困難であり、5μm未満のオーステナイト結晶粒平均大きさを得るためには、強圧下のような高い変形量を追加的に加えるための別の設備が必要になるという欠点がある。
【0036】
この後、上記線材を2℃/sec以下に冷却する。上記線材の冷却速度が2℃/secを超える場合には、線材の微細偏析部でベイナイトのような低温組織が生成されるおそれがある。上記微細偏析部では線材の平均に対して2倍以上の偏析が形成されることができ、これにより、低い冷却速度でも低温組織が生成され、鋼の組織均質化に悪影響を及ぼすことがある。一方、上記線材の冷却速度は、フェライト結晶粒微細化の側面から、0.5~2℃/secであることがより好ましい。
【実施例】
【0037】
以下、実施例を挙げて本発明をより詳細に説明する。但し、下記実施例は、本発明を例示して、より詳細に説明するためのものにすぎず、本発明の権利範囲を限定するためのものではない点に留意する必要がある。本発明の権利範囲は、特許請求の範囲に記載された事項と、それから合理的に類推される事項によって決定されるものであるためである。
【0038】
(実施例)
50kg真空誘導溶解炉を用いて鋳造することにより、下記表1の合金組成を有する鋼材を製造した。上記鋼材を1230℃で480分間加熱し、300℃まで空冷した後、常温まで10℃/secの冷却速度で冷却してビレットを製造した。上記製造されたビレットを下記表2に記載された条件を用いて線材を製造した。このように製造された線材に対して微細組織、フェライトの結晶粒平均大きさ、パーライトのコロニー平均大きさ及び1回球状化熱処理後のセメンタイトの平均アスペクト比を測定した後、その結果を下記表3に示した。
【0039】
中間仕上げ圧延後のオーステナイト結晶粒平均大きさ(AGS)は、仕上げ圧延前に行う切断cropを介して測定した。
【0040】
Ae3は常用プログラムであるJmatProを利用して計算した値を示した。
【0041】
フェライトの結晶粒平均大きさ(FGS)は、線材圧延後に未水冷部を除去した後、採取した試験片に対して直径から2/5地点~3/5地点の領域で任意の3個所を測定した後、平均値を示した。
【0042】
パーライトのコロニー平均大きさは、上記FGS測定と同一地点で任意のパーライトコロニー10個を選定し、各コロニーの(長軸+短縮)/2の値を求めた後、測定したコロニー大きさの平均値を示した。
【0043】
一方、球状化熱処理は、上記のように製造された線材の試験片に対して別の加工工程なしにすぐ行った。このとき、上記球状化熱処理は、100℃/Hrの加熱速度で760℃まで加熱した後、4~6時間維持させ、730℃まで50℃/Hrの冷却速度で冷却した後、730℃から670℃の間の区間では、10℃/Hrの冷却速度で冷却した後、その以下の温度においては炉冷を維持することで行った。セメンタイトの平均アスペクト比は、球状化熱処理後の線材の直径方向に1/4~1/2地点の2000倍SEMを用いて3視野撮影し、イメージ測定プログラムを用いて視野内のセメンタイトの長軸/短縮を自動測定した後、統計処理を介して測定した。
【0044】
【0045】
【0046】
【0047】
上記表1~3から分かるように、本発明が提案する合金組成及び製造条件を満たす発明例1~4の場合には、本発明の微細組織の種類及び分率だけでなく、微細な結晶粒を確保することで、1回の球状化熱処理だけでも2.5以下のセメンタイトの平均アスペクト比を有することが分かる
【0048】
しかし、本発明が提案する合金組成または製造条件を満たしていない比較例5~6の場合には、本発明の微細組織の種類及び分率を満たさないか、または微細な結晶粒を確保していないことで、1回の球状化熱処理時のセメンタイトの平均アスペクト比が高い水準であることが分かり、その結果、最終製品に適用するためには、追加的な球状化熱処理が必要であることが確認できる。