(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-17
(45)【発行日】2024-06-25
(54)【発明の名称】数値制御装置
(51)【国際特許分類】
B23Q 15/007 20060101AFI20240618BHJP
G05B 19/4061 20060101ALI20240618BHJP
【FI】
B23Q15/007
G05B19/4061 Z
(21)【出願番号】P 2022545731
(86)(22)【出願日】2021-08-27
(86)【国際出願番号】 JP2021031511
(87)【国際公開番号】W WO2022045292
(87)【国際公開日】2022-03-03
【審査請求日】2023-03-08
(31)【優先権主張番号】P 2020144507
(32)【優先日】2020-08-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】390008235
【氏名又は名称】ファナック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100118913
【氏名又は名称】上田 邦生
(74)【代理人】
【識別番号】100142789
【氏名又は名称】柳 順一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100201466
【氏名又は名称】竹内 邦彦
(72)【発明者】
【氏名】上西 大輔
(72)【発明者】
【氏名】小山田 知弘
【審査官】稲垣 浩司
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-4300(JP,A)
【文献】特開平9-120310(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0274566(US,A1)
【文献】特開2006-99347(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23Q 15/00 - 15/28
G05B 19/18 - 19/416
G05B 19/42 - 19/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
工具およびワークを第1方向および第2方向に相対移動させ前記ワークに前記工具によって穴をあける工作機械の数値制御装置であって、前記第1方向が前記工具の長手軸に沿う方向であり、前記第2方向が前記工具の長手軸に交差する方向であり、
固定サイクルを複数回実行させる加工プログラムを記憶し、前記固定サイクルが、前記工具および前記ワークの前記第2方向の相対移動によって前記ワークの穴あけ位置を前記工具に対して位置決めする第1動作と、前記工具および前記ワークの前記第1方向の相対移動によって前記工具を前記ワークから前記第1方向に退避した復帰点から穴底点に移動させる第2動作と、前記工具および前記ワークの前記第1方向の相対移動によって前記工具を前記穴底点から前記復帰点に移動させる第3動作とを含む、記憶部と、
前記加工プログラムに基づいて前記工具および前記ワークの相対移動を制御する制御部であって、前記第1動作の終了前に前記第2動作を開始することによって
、前記復帰点から前記第1方向の直線経路まで延びる第1曲線経路に沿って前記工具を移動させ、前記第3動作の終了前に次の固定サイクルの前記第1動作を開始することによって
、前記第1方向の直線経路から前記復帰点まで延びる第2曲線経路に沿って前記工具を移動させる制御部と、
前記ワークから前記復帰点までの前記第1方向の退避距離を算出する距離算出部と、
前記第1曲線経路および前記第2曲線経路の曲り量を算出する曲り量算出部と、を備え、
前記曲り量が、前記第1曲線経路および前記第2曲線経路の曲率半径であり、
前記曲り量算出部が、
前記第3動作の開始前に前記次の固定サイクルにおける穴あけ位置の位置決め指令を前記加工プログラムから読み込み、
前記次の固定サイクルの前記位置決め指令に基づいて一の前記固定サイクルにおける穴あけ位置から前記次の固定サイクルにおける穴あけ位置までの前記第2方向の移動距離を算出し、
前記移動距離の半分が前記退避距離未満である場合、前記移動距離の半分を前記曲率半径として算出し、
前記移動距離の半分が前記退避距離以上である場合、前記退避距離を前記曲率半径として算出し、
前記制御部が、前記次の固定サイクルにおいて、前記曲り量算出部によって算出された前記曲り量の前記第1曲線経路および前記第2曲線経路に沿って前記工具を移動させる、数値制御装置。
【請求項2】
前記制御部が、前記工具を早送り速度で前記第1曲線経路および前記第2曲線経路に沿って移動させる、請求項
1に記載の数値制御装置。
【請求項3】
前記制御部が、前記工具を、早送り速度と切削送り速度との間の速度で前記第1曲線経路および前記第2曲線経路に沿って移動させる、請求項
1に記載の数値制御装置。
【請求項4】
前記第1曲線経路および前記第2曲線経路における前記工具の移動速度を、早送り速度と切削送り速度との間の任意の速度に変更可能である、請求項
1に記載の数値制御装置。
【請求項5】
前記加工プログラムに前記曲り量の補正指令を追加可能であり、
前記制御部が、前記補正指令によって補正された曲り量の前記第1曲線経路および前記第2曲線経路に沿って前記工具を移動させる、請求項1から請求項
4のいずれかに記載の数値制御装置。
【請求項6】
前記退避距離が、ワーク面から基準点までの前記第1方向の距離であり、前記ワーク面が、前記工具によって穴あけが開始される前記ワークの表面であり、前記基準点が、前記ワーク面から前記第1方向に退避した位置であり、
前記復帰点が、前記基準点よりも前記ワーク面から前記第1方向に退避したイニシャル点である、請求項1から請求項
5のいずれかに記載の数値制御装置。
【請求項7】
前記曲り量算出部が、1回目の固定サイクルにおける前記第1曲線経路および前記第2曲線経路の曲り量を、前記退避距離および前記1回目の固定サイクルにおける穴あけ位置の位置決め指令の少なくとも一方に基づいて算出する、請求項1から請求項
6のいずれかに記載の数値制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、数値制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、ワークに対する工具の相対移動の経路の最適化によって穴あけ加工を高速化する工作機械の制御方法が知られている(例えば、特許文献1。)。コーナ部のような不連続点が経路上に存在する場合、不連続点において工具がワークに対して一時停止する。特許文献1の穴あけ加工の場合、工具の鉛直移動とワークの水平方向の移動とを時間的にオーバラップさせることによって、コーナ部における工具の移動経路を円弧状の曲線経路とし、工具の連続移動を可能としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
穴あけ加工において、穴から引き抜かれた工具は所定の高さの復帰点まで上昇する。円弧状の曲線経路の曲率半径が固定である場合、工具のワークとの干渉が発生し得る。
例えば、一の穴あけ位置から次の穴あけ位置までの水平方向の距離が短い場合、工具は、復帰点まで上昇する前に、次の穴あけ位置に向かって下降を開始する。ワークの高さは場所によって異なることがある。一の穴あけ位置と次の穴あけ位置との間に高い突出部が存在する場合、工具が突出部に干渉する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示の一態様は、工具およびワークを第1方向および第2方向に相対移動させ前記ワークに前記工具によって穴をあける工作機械の数値制御装置であって、前記第1方向が前記工具の長手軸に沿う方向であり、前記第2方向が前記工具の長手軸に交差する方向であり、固定サイクルを複数回実行させる加工プログラムを記憶し、前記固定サイクルが、前記工具および前記ワークの前記第2方向の相対移動によって前記ワークの穴あけ位置を前記工具に対して位置決めする第1動作と、前記工具および前記ワークの前記第1方向の相対移動によって前記工具を前記ワークから前記第1方向に退避した復帰点から穴底点に移動させる第2動作と、前記工具および前記ワークの前記第1方向の相対移動によって前記工具を前記穴底点から前記復帰点に移動させる第3動作とを含む、記憶部と、前記加工プログラムに基づいて前記工具および前記ワークの相対移動を制御する制御部であって、前記第1動作の終了前に前記第2動作を開始することによって、前記復帰点から前記第1方向の直線経路まで延びる第1曲線経路に沿って前記工具を移動させ、前記第3動作の終了前に次の固定サイクルの前記第1動作を開始することによって、前記第1方向の直線経路から前記復帰点まで延びる第2曲線経路に沿って前記工具を移動させる制御部と、前記ワークから前記復帰点までの前記第1方向の退避距離を算出する距離算出部と、前記第1曲線経路および前記第2曲線経路の曲り量を算出する曲り量算出部と、を備え、前記曲り量が、前記第1曲線経路および前記第2曲線経路の曲率半径であり、前記曲り量算出部が、前記第3動作の開始前に前記次の固定サイクルにおける穴あけ位置の位置決め指令を前記加工プログラムから読み込み、前記次の固定サイクルの前記位置決め指令に基づいて一の前記固定サイクルにおける穴あけ位置から前記次の固定サイクルにおける穴あけ位置までの前記第2方向の移動距離を算出し、前記移動距離の半分が前記退避距離未満である場合、前記移動距離の半分を前記曲率半径として算出し、前記移動距離の半分が前記退避距離以上である場合、前記退避距離を前記曲率半径として算出し、前記制御部が、前記次の固定サイクルにおいて、前記曲り量算出部によって算出された前記曲り量の前記第1曲線経路および前記第2曲線経路に沿って前記工具を移動させる、数値制御装置である。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【
図2】穴あけ用の固定サイクルプログラムの一例を示す図である。
【
図3】穴あけ用の固定サイクルによる穴あけ加工の一例を説明する図である。
【
図4】工作機械の制御方法を示すフローチャートである。
【
図5】穴あけ用の固定サイクルプログラムの変形例を示す図である。
【
図6】工作機械の制御方法の変形例を示すフローチャートである。
【
図7】従来の穴あけ用の固定サイクルプログラムの一例を示す図である。
【
図8】従来の穴あけ用の固定サイクルによる穴あけ加工の一例を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下に、一実施形態に係る数値制御装置について図面を参照して説明する。
図1に示されるように、数値制御装置1は、工具2によってワーク4を加工する工作機械10の数値制御装置である。
工作機械10は、工具2を保持する主軸3と、ワーク4を保持するテーブル5と、主軸3を該主軸3の長手軸回りに回転させる主軸モータ6と、主軸3をテーブル5に対してZ方向(第2方向)に移動させるZ軸送りモータ7と、テーブル5を主軸3に対してX方向(第1方向)およびY方向(第1方向)にそれぞれに移動させるX軸送りモータ8およびY軸送りモータ9と、モータ6,7,8,9を制御する数値制御装置1と、を備える。
【0008】
Z方向は、主軸3に保持された工具2の長手軸に沿う方向である。X方向およびY方向は、主軸3に保持された工具2の長手軸に直交する方向であり、相互に直交する。
図1の工作機械10において、Z方向は鉛直方向であり、X方向およびY方向は水平方向である。
主軸3は、鉛直方向に配置され、図示しない支持機構によって鉛直方向に移動可能に支持されている。工具2は、主軸3の下端部に主軸3と同軸に保持され、主軸3と一体的に回転し移動する。工具2は、ワーク4に深さ方向(Z方向)に穴4aを開けるドリルである。工具2は、ワーク4を深さ方向に加工する他の種類の工具、例えば、フライスまたはエンドミル等であってもよい。
【0009】
テーブル5は、主軸3の下方に水平に配置されている。テーブル5の上面上に載置されたワーク4は、図示しない治具によってテーブル5に固定されている。
主軸モータ6は、主軸3の上端に接続されたスピンドルモータであり、主軸3の長手軸回りに主軸3を回転させる。
送りモータ7,8,9は、それぞれサーボモータである。
【0010】
数値制御装置1は、記憶部11と、制御部12と、距離算出部13と、曲り量算出部14とを備える。
記憶部11は、例えば、RAM、ROMおよびその他の記憶装置を有し、工具2およびワーク4の相対移動によってワーク4に穴をあけるための加工プログラム11a(
図2参照。)を記憶している。
数値制御装置1は、中央演算処理装置のようなプロセッサを有し、制御部12、距離算出部13および曲り量算出部14は、プロセッサによって実現される。
【0011】
図2に示されるように、加工プログラム11aは、穴あけ用の固定サイクルプログラム11bを含む。
図3に示されるように、固定サイクルプログラム11bは、4つの動作を含む固定サイクルを、工作機械10に複数回実行させるプログラムである。
図3において、破線および実線の矢印は、ワーク4に対する工具2の相対移動の経路を示している。
図3において、横方向がX方向であり、紙面に垂直な方向がY方向であり、縦方向がZ方向である。
【0012】
図3において、工具2がワーク4に対して早送り速度で移動する経路は破線で示され、工具2がワーク4に対して切削送り速度で移動する経路は実線で示されている。早送り速度は、各送りモータ7,8,9の最高速度である。切削送り速度は、工具2によるワーク4の穴あけ加工に適した速度であり、加工プログラムに設定された指令速度である。
【0013】
加工プログラム11aは、W点(ワーク高さ点)、R点(復帰点)およびZ点(穴底点)を指定する指令を含む。W点は、ワーク面4bのZ方向の位置である。ワーク面4bは、工具2によるワーク4の穴あけ(切削)が開始されるワーク4の表面であり、本実施形態においてはワーク4の上面である。R点は、ワーク面4bからZ方向に退避したZ方向の位置であり、例えば、ワーク面4bから1mm~5mmだけ離間した位置である。Z点は、穴4aの底のZ方向の位置であり、ワーク面4bに対してR点とは反対側に位置する。
【0014】
第1動作は、テーブル5のXY方向の移動によってワーク4を工具2に対してXY方向に移動させ、ワーク4の穴あけ位置を工具2に対してXY方向に位置決めする動作である。経路a,b,eが、第1動作における工具2の経路である。
第2動作は、主軸3のZ方向の下降によって工具2の先端2aをR点からZ点までZ方向に移動させ、ワーク4の穴あけ位置に穴をあける動作である。経路b,cが、第2動作における工具2の経路である。
第3動作は、主軸3のZ方向の上昇によって工具2の先端2aをZ点からR点までZ方向に移動させ、工具2を穴4aから引き抜く動作である。経路d,eが、第3動作における工具2の経路である。
【0015】
図2は、固定サイクルを3回繰り返す固定サイクルプログラム11bの例を示している。
「G81」は、穴あけ用の固定サイクルを命令するコードであり、「G99」は、R点復帰を命令するコードであり、「G80」は、固定サイクルのキャンセルを命令するコードである。「X0 Y0」は穴あけ位置のX方向およびY方向の位置決め指令、「Z-10」はZ点の指令、「R5.」はR点の指令、「W1.」はW点の指令、「F1000」は切削送り速度の指令である。すなわち、R点はZ=5mmに設定され、Z点はZ=-10mmに設定され、W点はZ=1mmに設定されている。2行目および3行目において、指令値が1行目と同一である指令Y,Z,R,W,Fは省略されている。
【0016】
制御部12は、送りモータ7を制御することによって主軸3のZ方向の移動を制御し、それにより工具2のZ方向の移動を制御する。また、制御部12は、送りモータ8,9を制御することによってテーブル5のXY方向の移動を制御し、それによりワーク4のXY方向の移動を制御する。
制御部12は、加工プログラム11aに基づいて送りモータ7,8,9を制御することによって、第1動作、第2動作および第3動作を工作機械10に実行させる。
【0017】
ここで、制御部12は、第1動作の終了前に第2動作を開始させることによって、第1動作のワーク4のXY方向の移動と第2動作の工具2のZ方向の移動とを時間的にオーバラップさせる。これにより、工具2の先端2aは、R点からW点までの間において第1曲線経路bに沿って移動する。
また、制御部12は、第3動作が終了する前に次の固定サイクルの第1動作を開始させることによって、第3動作の工具2のZ方向の移動と第1動作のワーク4のXY方向の移動とを時間的にオーバラップさせる。これにより、工具2の先端2aは、W点からR点までの間において第2曲線経路eに沿って移動する。
【0018】
距離算出部13は、ワーク4からR点までのZ方向の退避距離として、W点とR点との間のZ方向の距離を算出する。具体的には、距離算出部13は、記憶部11から加工プログラム11aを読み出し、固定サイクルプログラム11bからR点およびW点の指令値を取得し、指令値の差|R-W|を算出する。退避距離|R-W|は、曲線経路bの最大曲率半径rである。
【0019】
曲り量算出部14は、第3動作の開始前に、次の固定サイクルの位置決め指令を固定サイクルプログラム11bから読み出し、読み出した位置決め指令に基づいて次の固定サイクルにおける曲線経路b,eの曲率半径rn(n=2,3)を算出する。
具体的には、曲り量算出部14は、現在の固定サイクルの位置決め指令の指令値Xn-1,Yn-1と、次の固定サイクルの位置決め指令の指令値Xn,Ynとから、移動距離Lnを算出する。移動距離Lnは、現在の固定サイクルの穴あけ位置から次の固定サイクルの穴あけ位置までのXY方向の工具2の移動距離であり、下式から算出される。
Ln={(Xn-1-Xn)2+(Yn-1-Yn)2}1/2
【0020】
次に、曲り量算出部14は、移動距離Lnおよび退避距離|R-W|に基づいて、曲率半径rnを算出する。すなわち、Lnの半分が|R-W|以上である場合、曲り量算出部14は、最大曲率半径rを曲率半径rnとして算出する。Lnの半分が|R-W|未満である場合、曲り量算出部14は、Lnの半分を曲率半径rnとして算出する。
【0021】
制御部12は、曲率半径rnに基づいて第2動作の工具2の下降の開始のタイミングを制御することによって、曲率半径rnの曲線経路bに沿って工具2の先端2aを移動させる。
また、制御部12は、曲率半径rnに基づいて第1動作のワーク4の移動開始のタイミングを制御することによって、曲率半径rnの曲線経路eに沿って工具2の先端2aを移動させる。
【0022】
次に、数値制御装置1による工作機械10の制御方法について
図4を参照して説明する。
固定サイクルプログラム11bを開始すると、数値制御装置1は、まず、R点、Z点、指令速度、動作モード等のモーダル情報を処理する(ステップS1)。
次に、距離算出部13は、穴あけ加工プログラム11aからR点およびW点の指令値を取得し、曲線経路b,eの最大曲率半径rである退避距離|R-W|を算出する(ステップS2)。
【0023】
固定サイクルプログラム11bの開始時、工具2の先端2aは、R点よりもワーク4から退避したイニシャル点に位置する。したがって、制御部12は、送りモータ7を制御することによって主軸3を下降させ、工具2の先端2aをR点に移動させる(ステップS3)。
【0024】
次に、制御部12は、1回目の固定サイクルを工作機械10に実行させる(ステップS4~S6)。すなわち、制御部12は、送りモータ8,9を制御することによってテーブル5に第1動作を開始させ(ステップS4)、ワーク4の1つ目の穴あけ位置を工具2に対して位置決めする。
【0025】
続いて、制御部12は、送りモータ7を制御することによって主軸3に第2動作を開始させ(ステップS5)、1つ目の穴あけ位置に工具2によって穴をあける。ここで、制御部12は、第1動作の終了前に第2動作を開始させることによって、工具2の先端2aを曲線経路bに沿って移動させる。
第2動作の終了後、制御部12は、送りモータ7を制御することによって主軸3に第3動作を開始させ(ステップS6)、工具2の先端2aをZ点からW点を通過してR点まで退避させる。工具2の先端2aがR点まで退避したときに1回目の固定サイクルが終了する。
【0026】
ここで、第1動作の開始後、曲り量算出部14は、次の固定サイクルの曲率半径r2を算出する(ステップS7~S11)。具体的には、曲り量算出部14は、次の固定サイクルの位置決め指令を固定サイクルプログラム11bから読み出し(ステップS7)、次の穴あけ位置までの工具2の移動距離L2を算出し(ステップS8)、移動距離L2および退避距離|R-W|に基づいて曲率半径r2を算出する(ステップS9~S11)。曲率半径r2の算出は、上昇する工具2の先端2aがW点に到達する前に終了する。
【0027】
次に、制御部12は、2回目の固定サイクルを工作機械10に実行させる(ステップSS13,S4~S6)。ここで、制御部12は、1回目の固定サイクルの第3動作の終了前に、2回目の固定サイクルの第1動作を開始する(ステップS4)。第1動作の開始のタイミングは、曲率半径r2に基づいて制御される。すなわち、曲率半径r2が退避距離|R-W|以上である場合、上昇する工具2の先端2aがW点を通過すると同時に第1動作が開始し、工具2の先端2aは、W点からR点まで曲線経路eに沿って移動する。曲率半径r2が退避距離|R-W|未満である場合、上昇する工具2の先端2aがW点を通過した後に先端2aからR点までのZ方向の距離が曲率半径r2と等しくなったときに第1動作が開始する。すなわち、工具2の先端2aは、W点から直線経路に沿って移動し、続いてR点まで曲線経路eに沿って移動する。
【0028】
次に、制御部12は、第1動作の終了前に第2動作を開始する(ステップS5)。第2動作の開始のタイミングは、曲率半径r2に基づいて制御される。すなわち、曲率半径r2が退避距離|R-W|以上である場合、工具2から穴あけ位置までのXY方向の距離が曲率半径r2と等しくなったときに第2動作が開始し、工具2の先端2aは、R点からW点まで曲線経路bに沿って移動する。曲率半径r2が退避距離|R-W|未満である場合、第3動作の終了と同時に第2動作が開始し、工具2の先端2aは、R点からW点よりも上方の位置まで曲線経路bに沿って移動し、続いてW点を経由してZ点まで直線経路に沿って移動する。
【0029】
以下、制御部12は、1回目の固定サイクルと同様に2回目の固定サイクルの第3動作を実行させ、さらに、3回目の固定サイクルを実行させる。3回目の固定サイクルの第3動作において、制御部12は、工具2の先端をZ点からW点を通過してR点まで直線経路に沿って移動させ、3回目の固定サイクルを終了する。
【0030】
図7および
図8は、従来の穴あけ用の固定サイクルを説明している。
図8に示されるように、従来の固定サイクルプログラム11bは、W点に関する指令を含まず、曲線経路の曲率半径rnは、設定されたオーバラップ量によって決まる。つまり、
図8に示されるように、工具2の先端2aは、設定されたオーバラップ量によって決まる一定の曲率半径の曲線経路に沿って移動する。したがって、あるR点高さに最適なオーバラップ量を設定した状態で、次の穴あけ位置までの移動距離Lnが短い場合、R点まで上昇する前に、工具2の先端2aは下降を開始する。ワーク4の上面の高さは均一とは限らず、2つ目の穴あけ位置と3つ目の穴あけ位置との間の突出部のように、ワーク4の上面は、他の部分よりも高い部分を含むことがある。したがって、R点まで上昇する前に工具2がワーク4に干渉してしまうことがある。
【0031】
本実施形態によれば、W点の指令が固定サイクルプログラム11bに追加され、退避距離|R-W|が算出される。また、各固定サイクルの第3動作の開始前に次の固定サイクルの位置決め指令が先読みされ、次の穴あけ位置までの移動距離Lnと退避距離|R-W|とに基づいて、次の固定サイクルにおける曲線経路b,eの適切な曲率半径rnが自動的に算出される。
【0032】
このように、穴あけ位置毎に曲率半径rnを算出することによって、移動距離Lnが短い場合においても工具2の先端2aをR点まで確実に退避させることができ、次の穴あけ位置までの移動中に工具2とワーク4とが干渉することを防止することができる。
また、先読みする情報は次の固定サイクルの位置決め指令のみであるので、数値制御装置1には、高い読み込み処理の能力が要求されない。すなわち、数値制御装置1の読み込み処理の能力に関わらず、穴あけ位置毎の適切な曲率半径rnの算出を実現することができる。
【0033】
本実施形態において、曲り量算出部14が、第1動作のテーブル5の移動開始後に、次の固定サイクルにおける曲率半径を算出するための処理S7~S11を実行しているが、処理S7~S11を実行するタイミングはこれに限定されるものではない。すなわち、処理S7~S11は、第3動作において工具2の先端2aがW点に到達する前に曲率半径の算出が終了する限りにおいて、任意のタイミングに実行してもよい。
【0034】
本実施形態において、固定サイクルプログラム11bに作業者が変更を加えることができるように構成されていてもよい。
一例において、固定サイクルプログラム11bに曲率半径の補正指令が追加される。
図5に示されるように、補正指令の一例は、曲率半径の倍率Pの指令である。倍率Pは、0%~100%の間で設定される。倍率Pは、穴あけ位置毎に設定可能であってもよい。
図6のステップS10’,S11’に示されるように、曲り量算出部14は、倍率Pの乗算によって曲率半径を補正し、制御部12は、補正された曲率半径rnに基づいて工具2の移動経路を制御する。このような補正指令の追加によって、工具2の移動経路をより細かく管理することができる。
【0035】
本実施形態において、復帰点がR点(基準点)であることとしたが、これに代えて、イニシャル点(I点)であってもよい。すなわち、
図5および
図6に示されるように、G99のR点復帰モードではなく、工具2の先端2aをイニシャル点まで復帰させるG98のイニシャル点復帰モードを使用してもよい。イニシャル点は、固定サイクルプログラム11bの開始時の先端2aのZ方向の位置であり、R点よりもワーク4からZ方向に退避した位置である。例えば、R点がZ=5mmである場合、イニシャル点はZ=100mmである。イニシャル点に位置する工具2とワーク4および治具との間には、十分な距離が確保される。イニシャル点復帰モードの場合、
図6に示されるように、第3動作のステップS6’において、工具2の先端2aはイニシャル点に移動する。
【0036】
イニシャル点復帰モードを使用する場合、
図6に示されるように、退避距離が、R点とイニシャル点との間のZ方向の距離であってもよい。すなわち、ステップS2’において、退避距離|I-R|を最大曲率半径rとして算出し、ステップS9’において、|I-R|を判断基準として使用してもよい。ここでのIは、イニシャル点の指令値である。
【0037】
本実施形態において、曲り量算出部14が、2回目以降の固定サイクルの曲率半径rnを退避距離および位置決め指令に基づいて算出しているが、これに加えて、1回目の固定サイクルの曲率半径r1も退避距離および位置決め指令の少なくとも一方に基づいて算出してもよい。
曲率半径r1の計算は、例えば、R点への位置決め(ステップS3)と穴あけ位置の位置決め(ステップS4)との間で実行される。曲り量算出部14は、曲率半径r1として、例えば、R点とW点との間のZ方向の退避距離|R-W|を曲率半径r1として算出してもよく、または、固定サイクルプログラム11bの開始時の工具2の位置から1回目の固定サイクルの穴あけ位置までのXY方向の移動距離L1に基づいて曲率半径r1を算出してもよい。イニシャル点復帰モードの場合、曲り量算出部14は、イニシャル点とR点との間のZ方向の距離を曲率半径r1として算出してもよい。
【0038】
本実施形態において、制御部12が、工具2およびワーク4を早送り速度で曲線経路b,eに沿って相対移動させることとしたが、これに代えて、早送り速度よりも遅い速度で工具2およびワーク4を相対移動させてもよい。また、曲線経路b,eにおける工具2の移動速度が、切削送り速度と早送り速度との間で変更可能であってもよい。
例えば、
図5に示されるように、切削送り速度F
Cおよび早送り速度F
Rの速度比率を指定する引数Lが固定サイクルプログラム11bに追加されてもよい。Lは、0%~100%の範囲内の値である。工具2の移動速度Fは、下式によって定義される。
F=F
C×(1-(L/100))+F
R×L/100
作業者は、Lの値を設定することによって、速度Fを切削送り速度と早送り速度との間の任意の速度に指定することができる。
【0039】
本実施形態において、曲線経路b,eが円弧状であり、曲り量が曲率半径であることとしたが、曲線経路b,eは、円弧以外の形状であってもよく、曲り量は、曲線経路の形状に応じたパラメータであってよい。例えば、曲線経路は、楕円の一部であってもよい。
【0040】
本実施形態において、工具2がZ方向に移動可能であり、ワーク4がXY方向に移動可能であることとしたが、工具2およびワーク4の相対移動は、工具2およびワーク4のいずれか一方または両方の移動によって達成されればよい。例えば、主軸3がXY方向に移動可能であり、テーブル5がZ方向に移動可能であってもよい。または、主軸3およびテーブル5の一方がX、Y、Zの3方向に移動可能であってもよい。
また、本実施形態において、第1方向が水平方向(XY方向)であり、第2方向が鉛直方向(Z方向)であることとしたが、第1方向および第2方向の具体的な方向は工作機械の仕様に応じて適宜変更可能である。例えば、主軸3が水平に配置される工作機械の場合、第2方向が水平方向であり、第1方向が、第2方向に交差する任意の方向であってもよい。
【0041】
本実施形態において、工具2がZ方向に移動可能であり、ワーク4がXY方向に移動可能であることとしたが、工具2の姿勢を変更可能な場合において、工具2およびワーク4の移動は、斜め方向または横方向でもよい。例えば、主軸3に対して工具2を傾斜させて取り付けるアングルヘッドを使用する場合、工具2を水平方向に傾斜させてワーク4を加工させてもよい。
【符号の説明】
【0042】
1 数値制御装置
11 記憶部
11a 加工プログラム
11b 固定サイクルプログラム
12 制御部
13 距離算出部
14 曲り量算出部
2 工具
4 ワーク
4a 穴
4b ワーク面
10 工作機械