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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-17
(45)【発行日】2024-06-25
(54)【発明の名称】ロボット溶接システム
(51)【国際特許分類】
   B23K 9/095 20060101AFI20240618BHJP
   B23K 9/12 20060101ALI20240618BHJP
【FI】
B23K9/095 510D
B23K9/095 505B
B23K9/12 331K
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2022559144
(86)(22)【出願日】2021-10-26
(86)【国際出願番号】 JP2021039428
(87)【国際公開番号】W WO2022092061
(87)【国際公開日】2022-05-05
【審査請求日】2023-05-12
(31)【優先権主張番号】P 2020183224
(32)【優先日】2020-10-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】390008235
【氏名又は名称】ファナック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100165157
【弁理士】
【氏名又は名称】芝 哲央
(74)【代理人】
【識別番号】100160794
【弁理士】
【氏名又は名称】星野 寛明
(72)【発明者】
【氏名】松田 雄一
【審査官】黒石 孝志
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-259838(JP,A)
【文献】特開2009-6383(JP,A)
【文献】特開平8-206834(JP,A)
【文献】特開平5-228634(JP,A)
【文献】特開平7-80643(JP,A)
【文献】特開2008-264845(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 9/00 - 9/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶接トーチと、
前記溶接トーチの前方で予め溶接対象のギャップ量を検出するギャップ検出器と、
前記溶接トーチ及び前記ギャップ検出器を移動するロボットと、
前記ギャップ検出器が予め検出した前記ギャップ量に基づいて溶接条件を変化させる制御装置と、
前記制御装置から指令される溶接条件に基づいて溶接を実行する溶接電源と、
を備え、
前記制御装置は、前記ギャップ量が増加傾向に変わる位置に前記溶接トーチが達する前に前記ギャップ量の増加に対応して前記溶接条件を変化させ、前記ギャップ量が減少傾向に変わる位置を前記溶接トーチが通過した後に前記ギャップ量の減少に対応して前記溶接条件を変化させる、ロボット溶接システム。
【請求項2】
前記制御装置は、
前記ギャップ量の変化を溶接位置の二次関数として近似する近似式を導出する近似式導出部と、
前記近似式に基づいて、前記ギャップ量が増加傾向にある増加区間及び前記ギャップ量が減少傾向にある減少区間を特定する変動区間特定部と、
前記溶接位置毎に前記ギャップ量に応じて前記溶接条件の基準値を決定する基準値決定部と、
前記増加区間の前記基準値を後方に移動、且つ前記減少区間の前記基準値を前方に移動することにより、前記溶接位置毎の前記溶接条件を決定する溶接条件調整部と、
を有する、請求項1に記載のロボット溶接システム。
【請求項3】
前記変動区間特定部は、前記近似式における二次の係数及び極値の位置に基づいて、前記増加区間及び前記減少区間を特定する、請求項2に記載のロボット溶接システム。
【請求項4】
前記制御装置は、前記基準値の後方への移動量及び前記基準値の前方への移動量の少なくとも一方を予め設定する移動量設定部を有する、請求項2又は3に記載のロボット溶接システム。
【請求項5】
前記溶接条件調整部は、前記基準値の移動量を前記溶接トーチの移動速度に応じて調整する、請求項2又は3に記載のロボット溶接システム。
【請求項6】
前記制御装置は、溶接位置を含む所定の設定範囲内における前記ギャップ量の最大値に応じて前記溶接条件を決定する溶接条件決定部を有する、請求項1に記載のロボット溶接システム。
【請求項7】
前記制御装置は、前記設定範囲の大きさを予め設定する大きさ設定部を有する請求項6に記載のロボット溶接システム。
【請求項8】
前記溶接条件決定部は、前記設定範囲の大きさを前記溶接トーチの移動速度に応じて調整する、請求項6に記載のロボット溶接システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ロボット溶接システムに関する。
【背景技術】
【0002】
ロボットにより溶接トーチを移動させて鋼板を溶接するロボット溶接システムにおいて、ロボットに溶接すべき鋼板間のギャップの大きさを溶接トーチが到達する前に検出するセンサを設け、予め検出されたギャップの大きさに合わせて、例えば溶接電流、溶接電圧、ワイヤ送給速度、溶接トーチ移動速度等の溶接条件を変更することが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
特許文献1に記載のロボットシステムにおいて、ロボット制御装置は、ギャップ長の範囲とギャップ長の範囲に対応する溶接条件とを記録した溶接条件テーブルと、長さ情報として予め記憶される条件緩和パラメータを記憶する領域と、通常時にはセンサにより今回検出されたギャップ長と溶接条件テーブルとを参照して溶接条件を変更させるとともに、センサにより今回検出されたギャップ長が、溶接条件テーブルにおける現在の溶接条件に対応するギャップ長の範囲の下限よりも小さく、且つ、当該ギャップ長の範囲の下限から条件緩和パラメータにより規定される長さを減じた値よりも大きい場合には、現在の溶接条件を維持させるとともに、センサにより今回検出されたギャップ長が、溶接条件テーブルにおける現在の溶接条件に対応するギャップ長の範囲の上限よりも大きく、且つ、当該ギャップ長の範囲の上限に条件緩和パラメータにより規定される長さを加えた値よりも小さい場合には、現在の溶接条件を維持させる条件緩和演算部と、を備える。特許文献1のシステムでは、溶接条件の変化を遅らせることによって、ギャップ量が短周期で変化する場合に溶接条件を安定させることができるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第5428136号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1が問題とする短周期の変動だけではなく、ギャップ量が大きな傾向として増加又は減少する場合や溶接速度が高速である場合にも、溶接条件をギャップ量の変化に対応させるだけでは、適切な溶接が行えない可能性があることが判明した。このため、ギャップ量が大きく変化する場合や溶接速度が高速である場合にも適切に溶接を行うことができるロボット溶接システムが求められる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一態様に係るロボット溶接システムは、溶接トーチと、前記溶接トーチの前方で予め溶接対象のギャップ量を検出するギャップ検出器と、前記溶接トーチ及び前記ギャップ検出器を移動するロボットと、前記ギャップ検出器が予め検出した前記ギャップ量に基づいて溶接条件を変化させる制御装置と、前記制御装置から指令される溶接条件に基づいて溶接を実行する溶接電源と、を備え、前記制御装置は、前記ギャップ量が増加傾向に変わる位置に前記溶接トーチが達する前に、前記ギャップ量の増加に対応して前記溶接条件を変化させ、前記ギャップ量が減少傾向に変わる位置を前記溶接トーチが通過した後に、前記ギャップ量の減少に対応して前記溶接条件を変化させる。
【発明の効果】
【0007】
本開示に係るロボット溶接システムは、ギャップ量が大きく変化する場合や溶接速度が高速である場合にも適切に溶接を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本開示の第1実施形態に係るロボット溶接システムの構成を示す模式図である。
図2図1のロボット溶接システムにおけるギャップ量と溶接条件との関係を示す模式図である。
図3】本開示の第2実施形態に係るロボット溶接システムの構成を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら説明をする。図1は、本開示の第1実施形態に係るロボット溶接システム1の構成を示す模式図である。
【0010】
ロボット溶接システム1は、第1溶接対象W1と第2溶接対象W2とをアーク溶接する装置である。溶接対象W1,W2は、典型的には鋼板であり、端部の対向面を重ね合わせて、又は端部を突き合わせて配置される。ロボット溶接システム1は、溶接対象W1,W2の一方の端縁に沿って溶接ビードBを形成するよう、アーク溶接を行う。
【0011】
ロボット溶接システム1は、溶接トーチ10と、溶接トーチ10に溶接電流を供給する溶接電源20と、溶接トーチ10の前方で予め溶接対象W1,W2のギャップ量を検出するギャップ検出器30と、溶接トーチ10及びギャップ検出器30を移動するロボット40と、ギャップ検出器30が予め検出したギャップ量に基づいて溶接条件を調整する制御装置50と、を備える。
【0012】
溶接トーチ10としては、例えば炭酸ガスアーク溶接、MIG溶接、MAG溶接等の消耗電極を用いるガスシールド溶接を行うものが特に好適に使用される。なお、例えばTIG溶接等の非消耗電極を用いる溶接トーチを使用してもよく、その他の溶接を行うトーチの使用も除外されない。
【0013】
溶接電源20としては、溶接トーチ10にアーク溶接を実行するための溶接電流を供給する周知の電源装置を用いることができる。溶接電源20は、後述する制御装置50から入力される設定信号に応じて、リアルタイムに溶接電流又は溶接電圧の値を調整可能に構成されることが好ましい。
【0014】
ギャップ検出器30は、第1溶接対象W1と第2溶接対象W2との厚み方向のギャップ、つまり溶接位置における第1溶接対象W1と第2溶接対象W2との隙間の高さを検出する。このギャップ検出器30は、溶接トーチ10を移動すべき経路、つまり第1溶接対象W1と第2溶接対象W2との溶接線位置を検出するトラッキングセンサを兼ねてもよい。
【0015】
ギャップ検出器30は、溶接トーチ10の移動方向前方の溶接対象W1,W2のギャップ量を検出する。溶接トーチ10による溶接位置と、ギャップ検出器30によるギャップ検出位置との距離としては、例えば30mm以上100mm以下とすることができる。
【0016】
ギャップ検出器30としては、例えばレーザ光による距離測定を一方向に走査して行うセンサが用いられる。ギャップ検出器30は、後述するロボット40による溶接トーチ10の移動方向に垂直な方向に走査して距離測定を行うよう、溶接トーチ10を移動するロボット40の先端部に保持されることが好ましい。
【0017】
ロボット40は、空間位置及び向きを変化させられる末端部に溶接トーチ10を保持する。これにより、ロボット40は、溶接トーチ10を所望の軌跡を描くよう移動させることができる。ロボット40は、上述のように、溶接トーチ10と一体にギャップ検出器30を保持することが好ましい。
【0018】
ロボット40としては、特に限定されないが、垂直多関節型ロボット、スカラー型ロボット、パラレルリンク型ロボット、直交座標型ロボット等を用いることができる。また、ロボット40は、溶接対象W1,W2の形状によっては、リニアモータ等によって1方向又は2方向に軸送りするポジショナ、アクチュエータなどの簡素なロボットであってもよい。
【0019】
制御装置50は、溶接トーチ10を第1溶接対象W1と第2溶接対象W2との溶接線に沿って移動させるよう、ロボット40の動作を制御するとともに、第1溶接対象W1と第2溶接対象W2を適切に溶接できるよう溶接条件を変更する。制御装置50によって変更される溶接条件としては、例えば、溶接電源20から溶接トーチ10に供給される溶接電流の電流値、同溶接電圧の電圧値、溶接トーチ10の移動速度(溶接速度)、溶接トーチ10のワイヤ送給速度等を挙げることができ、これらの1又は複数が制御装置50によって変更され得る。
【0020】
制御装置50は、CPU、メモリ等を有する1又は複数のコンピュータ装置に適切な制御プログラムを導入することによって実現することができる。後述する制御装置50の各構成要素は、制御装置50の機能を類別したものであって、その物理構造及びプログラム構造において明確に区分できるものでなくてもよい。また、制御装置50は、他の機能を実現するさらなる構成要素を有してもよい。
【0021】
制御装置50は、溶接対象W1,W2の形状に応じて作成される溶接プログラムと、ギャップ検出器30が検出したギャップ量とに基づいて、ロボット40及び溶接電源20を制御する。制御装置50は、ギャップ量が増加傾向に変わる位置に溶接トーチ10が達する前にその後のギャップ量の増加に対応して溶接条件を変化させ、ギャップ量が減少傾向に変わる位置を溶接トーチ10が通過した後にその前のギャップ量の減少に対応して溶接条件を変化させる。なお、「増加傾向」及び「減少傾向」とは、有意な変化率で継続して増加又は減少していることを意味する。
【0022】
制御装置50は、近似式導出部51と、変動区間特定部52と、基準値決定部53と、溶接条件調整部54と、を有する構成とすることができる。
【0023】
近似式導出部51は、ギャップ量の変化を溶接位置の二次関数として近似する近似式を導出する。具体的には、近似式導出部51は、確認する溶接位置(以下、確認位置という)を中心とする一定範囲の溶接位置におけるギャップ量の測定値データを最小二乗法によりフィッティングすることで、確認位置の近傍におけるギャップ量の変化を表す二次の近似式を導出する。つまり、溶接位置をD、ギャップ量をPとすると、最小二乗法により算出される係数a,b,cを用いて、確認位置の近傍におけるギャップ量Pは、P=a×D+b×D+cとして近似される。
【0024】
変動区間特定部52は、各確認位置の近似式に基づいて、ギャップ量が増加傾向にある増加区間及びギャップ量が減少傾向にある減少区間を特定する。例として、変動区間特定部52は、先ず、近似式における二次の係数a及び極値(極小値又は極大値)の位置に基づいて、確認位置におけるギャップ量が減少傾向にあるか、又は増加傾向にあるかを判断し、続いて、溶接位置において連続してギャップ量が増加傾向となっている区間を増加区間と判断し、溶接位置において連続してギャップ量が減少傾向となっている区間を減少区間と判断するよう構成され得る。変動区間特定部52において、増加区間及び減少区間と判断する連続量の最小値は、測定誤差等による短周期のギャップ量の変動等を除外できるよう、適切に設定される。
【0025】
具体例として、変動区間特定部52は、近似式が極値となる溶接位置を算出し、確認位置が極値の左側(溶接位置の値の方が小さい)でかつ二次の係数aが正であれば減少傾向、確認位置が極地の右側でかつ二次の係数aが正であれば増加傾向、確認位置が極地の左側でかつ二次の係数aが負であれば増加傾向、確認位置が極地の右側でかつ二次の係数aが負であれば減少傾向であると判断できる。二次の係数aの値の絶対値が小さい場合には、ギャップ量が増加傾向にも減少傾向にもなく安定していると判断してもよい。変動区間特定部52において、ギャップ量が安定していると判断する値は、溶接を行うことができる最大ギャップ量に比して十分に小さく設定される。
【0026】
また、二次関数Pの導関数P’=2a×D+bは溶接位置DにおけるPの傾きを表すため、これを用いて増減の傾向を判断してもよい。P’が正であれば増加傾向、負であれば減少傾向であると判断できる。P’の絶対値が小さい場合には、ギャップ量が増加傾向でも減少傾向にもなく安定していると判断してもよい。P’の絶対値が大きい場合には、ギャップ量が大きく増減、もしくは大きく減少していると判断してもよい。
【0027】
基準値決定部53は、溶接位置毎にギャップ量に応じて溶接条件の基準値を決定する。溶接条件の基準値は、ギャップ量が理想値、つまり第1溶接対象W1と第2溶接対象W2とが理想的に密着している場合のギャップ量で一定である場合に最適な溶接が得られる値として設定される。具体的には、基準値決定部53は、例えば、ギャップ量と溶接条件の基準値とを関係づける参照テーブル、溶接条件をギャップ量の関数で表す換算式等を用いて、各溶接位置における溶接条件の基準値を決定するよう構成され得る。また、溶接トーチ10の移動速度(溶接速度)が変動する場合、基準値決定部53は、ギャップ量だけでなく溶接速度を考慮して、溶接位置毎の溶接条件の基準値を決定してもよい。一般的に、ギャップ量及び溶接速度の少なくとも一方が大きくなると、溶接電流の電流値、電圧及びワイヤ送給速度の少なくともいずれかを大きくすることが必要となる。
【0028】
溶接条件調整部54は、増加区間の溶接条件の基準値の値を溶接方向後方(より早い時間に溶接される位置)に移動(移動先の溶接位置の溶接条件の値を上書き)、且つ減少区間の溶接条件の基準値を溶接方向前方に移動することにより、溶接位置毎の溶接条件の値を決定する。基準値の移動元と移動先との間の溶接条件の値は、全て移動したデータの端部の値と等しい値とすることができる。基準値を移動した先のデータ移動方向先端側の端部においては、溶接条件の値が不連続となり得るが、変動区間特定部52の設定が適切であれば、溶接に影響を及ぼすような大きな変化とはならない。
【0029】
制御装置50は、溶接条件調整部54による基準値の後方への移動量及び基準値の前方への移動量の少なくとも一方をユーザが予め設定する移動量設定部を有してもよい。各移動量を設定する手段を設けることで、溶接対象W1,W2の厚みや材質等の外部条件に応じて、より適切な溶接を行うことができるよう、ロボット溶接システム1の動作を調整できる。また、例えば前方への移動量を0に設定することで増加傾向の場合(後方への移動)のみ、或いは後方への移動量を0に設定することで減少傾向の場合(前方への移動)のみ、基準値を移動するといった設定を行うこともできる。
【0030】
図2に、溶接条件として溶接電流の電流値を変更する場合を例にして、ギャップ検出器30が検出するギャップ量と、変動区間特定部52が特定する増加区間、減少区間及び安定区間と、基準値決定部53が決定する溶接条件の基準値と、溶接条件調整部54が調整した最終的な溶接条件と、の関係を示す。
【0031】
基準値決定部53が決定する溶接位置に対する溶接条件の基準値の波形は、ギャップ検出器30が検出するギャップ量の波形と位置を合わせて変化する。変動区間特定部52により、ギャップ量の波形の傾きが正の所定値以上である区間が増加区間として特定され、ギャップ量の波形の傾きが負の所定値以下である区間が減少区間として特定され、それ以外の区間が安定区間として特定される。
【0032】
溶接条件調整部54は、前記増加区間の溶接条件の基準値を後方に移動、且つ減少区間の溶接条件の基準値を前方に移動するとともに、移動により値が消失する区間に値を補完することにより、溶接条件、つまり溶接電源20が出力すべき溶接電流の電流値の波形を決定する。
【0033】
各溶接位置における溶接の状態は、直前及び直後の溶接位置における溶接条件の影響も受けるが、上述のような構成を有する制御装置50は、ギャップ量が大きい溶接位置の直前及び直後における溶接条件も調整することで溶着量を増やすので、溶接対象W1,W2が接続不良となることを防止できる。つまり、ロボット溶接システム1は、溶接対象W1,W2のギャップ量が大きな傾向として変化する場合や溶接速度が高速である場合にも適切に溶接を行うことができる。
【0034】
図3は、本開示の第2実施形態に係るロボット溶接システム1Aの構成を示す模式図である。図3のロボット溶接システム1Aは、図1のロボット溶接システム1と同様の目的で使用される。なお、図3のロボット溶接システム1Aについて、図1のロボット溶接システム1と同様の構成要素には同じ符号を付して重複する説明を省略することがある。
【0035】
ロボット溶接システム1Aは、溶接トーチ10と、溶接トーチ10に溶接電流を供給する溶接電源20と、溶接トーチ10の前方で予め溶接対象W1,W2のギャップ量を検出するギャップ検出器30と、溶接トーチ10及びギャップ検出器30を移動するロボット40と、ギャップ検出器30が予め検出した前記ギャップ量に基づいて溶接電源20の溶接条件を調整する制御装置50Aと、を備える。
【0036】
制御装置50Aは、溶接トーチ10を第1溶接対象W1と第2溶接対象W2との溶接線に沿って移動させるよう、ロボット40の動作を制御するとともに、第1溶接対象W1と第2溶接対象W2を適切に溶接できる溶接条件が溶接トーチ10に供給されるよう溶接電源20の出力を制御する。制御装置50Aは、CPU、メモリ等を有する1又は複数のコンピュータ装置に適切な制御プログラムを導入することによって実現することができる。
【0037】
制御装置50Aは、溶接対象W1,W2の形状に応じて作成される溶接プログラムと、ギャップ検出器30が検出したギャップ量とに基づいて、ロボット40及び溶接電源20を制御する。制御装置50Aは、ギャップ量が増加傾向に変わる位置に溶接トーチ10が達する前にギャップ量の増加に対応して溶接条件を変化させ、ギャップ量が減少傾向に変わる位置を溶接トーチ10が通過した後にギャップ量の減少に対応して溶接条件を変化させる。
【0038】
制御装置50Aは、溶接位置を含む所定の設定範囲内におけるギャップ量の最大値に応じて溶接条件を決定する溶接条件決定部55を有する。溶接条件決定部55は、溶接条件を決定すべき基準となる溶接位置の溶接方向前後の所定範囲内の溶接位置のギャップ量を確認し、ギャップ量の最大値に対応する溶接条件を基準となる溶接位置における溶接条件とする。
【0039】
溶接条件決定部55は、溶接条件を設定範囲内のギャップ量の最大値に対応する値とするため、溶接方向前方においてギャップ量が増大傾向となるといち早く溶接条件を増大するギャップ量に合わせて変更するとともに、現在の溶接位置のギャップ量が減少傾向となっていても溶接方向後方においてギャップ量が減少を開始していない場合には溶接条件を減少前のギャップ量に合わせて変化させない。これによって、ギャップ量が大きい溶接位置や高速な溶接速度で溶接される位置において溶接対象W1,W2が接続不良となることを防止できる。
【0040】
ギャップ量の最大値を検索する設定範囲の大きさとしては、例えばギャップ量が想定される最大値で一定である場合に必要とされる溶着量(ビードの大きさ)に達するまでの溶接トーチ10の移動量の2倍(前後1倍ずつ)とすることによって、溶接対象W1,W2を確実に接続できる。なお、溶接条件決定部55が変化させる溶接条件に溶接トーチ10の移動速度が含まれる場合、前記設定範囲の大きさは、溶接トーチ10の移動速度が最大であるものとして設定してもよい。
【0041】
また、溶接対象W1,W2の厚みや材質等の外部条件に応じてユーザが設定範囲の大きさを適宜調整できるよう、制御装置50は、設定範囲の大きさを予め設定する大きさ設定部を有してもよい。この設定範囲の大きさは、溶接方向の前後で異なる大きさに設定可能であってもよい。
【0042】
溶接条件決定部55は、設定範囲の大きさを溶接速度に応じて調整してもよい。具体的には、溶接条件決定部55は、設定範囲の大きさつまり溶接方向の長さを、溶接トーチ10の移動速度に比例して増減してもよい。
【0043】
以上、本開示に係るロボット溶接システムの一実施形態について説明したが、本開示の範囲は前述した実施形態に限るものではない。また、前述した実施形態に記載された効果は、本開示に係るロボット溶接システムから生じる最も好適な効果を列挙したに過ぎず、本開示に係るロボット溶接システムによる効果は、前述の実施形態に記載されたものに限定されるものではない。
【0044】
本開示に係るロボット溶接システムにおいて、近似式を導出する代わりに、移動平均等を用いてギャップ量の短周期の変動成分を除外してもよい。また、設定範囲内のギャップ量の最大値に応じて溶接条件を検定する場合にも、各溶接位置のギャップ量の値として、移動平均等により短周期の変動成分を除外したデータを使用してもよい。
【0045】
また、本開示に係るロボット溶接システムにおいて、溶接電源は、制御装置から指令される溶接条件に基づいて溶接を実効するものであればよく、溶接トーチに直接電流を供給するものでなくてもよい。
【符号の説明】
【0046】
1,1A 溶接システム
10 溶接トーチ
20 溶接電源
30 ギャップ検出器
40 ロボット
50,50A 制御装置
51 近似式導出部
52 変動区間特定部
53 基準値決定部
54 溶接条件調整部
55 溶接条件決定部
W1,W2 溶接対象
図1
図2
図3