(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-17
(45)【発行日】2024-06-25
(54)【発明の名称】無線通信システム及び無線通信方法
(51)【国際特許分類】
H04W 72/0457 20230101AFI20240618BHJP
H04W 16/32 20090101ALI20240618BHJP
H04W 76/15 20180101ALI20240618BHJP
H04W 84/06 20090101ALI20240618BHJP
【FI】
H04W72/0457 110
H04W16/32
H04W76/15
H04W84/06
(21)【出願番号】P 2022576263
(86)(22)【出願日】2021-01-20
(86)【国際出願番号】 JP2021001768
(87)【国際公開番号】W WO2022157843
(87)【国際公開日】2022-07-28
【審査請求日】2023-06-15
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和2年度、総務省、「無人航空機の目視外飛行における周波数の有効利用技術の研究開発」に係わる委託業務、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】000001122
【氏名又は名称】株式会社日立国際電気
(74)【代理人】
【識別番号】100116687
【氏名又は名称】田村 爾
(74)【代理人】
【識別番号】100098383
【氏名又は名称】杉村 純子
(74)【代理人】
【識別番号】100155860
【氏名又は名称】藤松 正雄
(72)【発明者】
【氏名】竹川 雅之
【審査官】岡本 正紀
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-140465(JP,A)
【文献】特開2013-225949(JP,A)
【文献】国際公開第2020/067315(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04B 7/24- 7/26
H04W 4/00-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の無線通信回線をデータ伝送に使用するルートダイバーシチ伝送に対応した複数の移動体と、前記複数の移動体のそれぞれについて各無線通信回線の回線状態を収集する集約制御装置とを備えた無線通信システムにおいて、
前記集約制御装置は、前記複数の移動体のそれぞれについて収集された各無線通信回線の回線状態に基づいて、回線状態が基準を満たす無線通信回線の数が所定値以上となる移動体の数が増えるように、特定の移動体に対して無線通信回線の制御信号を送信する
処理を行い、
前記特定の移動体は、回線状態が基準を満たす無線通信回線の数が所定値を超える移動体のうち、回線状態が基準を満たす無線通信回線の数が所定値未満の移動体と同じ無線通信回線を使用する移動体であることを特徴とする無線通信システム。
【請求項2】
請求項
1に記載の無線通信システムにおいて、
前記集約制御装置は、前記特定の移動体に対して、回線状態が基準を満たさない無線通信回線の切断を指示する制御信号を送信することを特徴とする無線通信システム。
【請求項3】
請求項
1又は請求項2に記載の無線通信システムにおいて、
前記集約制御装置は、前記特定の移動体に対して、回線状態が基準を満たす無線通信回線のうちの少なくとも1つについて接続先基地局の変更を指示する制御信号を送信することを特徴とする無線通信システム。
【請求項4】
複数の無線通信回線をデータ伝送に使用するルートダイバーシチ伝送に対応した複数の移動体と、前記複数の移動体のそれぞれについて各無線通信回線の回線状態を収集する集約制御装置とによって実施される無線通信方法において、
前記集約制御装置は、前記複数の移動体のそれぞれについて収集された各無線通信回線の回線状態に基づいて、回線状態が基準を満たす無線通信回線の数が所定値以上となる移動体の数が増えるように、特定の移動体に対して無線通信回線の制御信号を送信する
処理を行い、
前記特定の移動体は、回線状態が基準を満たす無線通信回線の数が所定値を超える移動体のうち、回線状態が基準を満たす無線通信回線の数が所定値未満の移動体と同じ無線通信回線を使用する移動体であることを特徴とする無線通信方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の無線通信回線をデータ伝送に使用するルートダイバーシチ伝送に対応した複数の移動体を同時運行可能な無線通信システムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年のロボット技術の進展は実に目覚しく、様々な社会課題の解決にロボットが利用されることも多くなっている。このようなロボットの多くは、無人航空機や自律運転車両等の無人移動体である。無人移動体は、遠隔操縦や自律制御のための制御指令データや、無人移動体に搭載したカメラ等で撮影した映像データを伝送するために、通信システムを具備する必要がある。このとき、無人移動体がレール等に沿った所定の経路を移動する機械でない場合には、移動に適した無線通信が利用されることが多い。
【0003】
例えば、特許文献1には、移動基地局と端末局が、近距離通信を準備するための長距離通信機能と、データ伝送用の近距離通信機能を備え、長距離通信機能を用いた通信により、近距離通信を行うタイミングをスケジューリングする発明が開示されている。また、特許文献2には、無人飛行体を用いた中継システムにおいて、中継の通信品質、予定の中継時間、無人飛行体の電源の状態(電力供給可能量)に基づいて、無人飛行体の中継位置を探索する発明が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開第2017/018021号
【文献】特開2019-169848号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
無人移動体との無線通信にあたっては、ISM(Industrial,Scientific and Medical)バンド等の免許が不要な周波数帯域を利用する無線通信システムが採用されることが多い。しかしながら、多数の利用者が存在する環境では、混信等による通信異常が発生するリスクが高い。このような状況を考慮して、ロボット向け無線局のために、無人移動体画像伝送システム等の制度化及び運用の調整が行われている。更に、ロボットの安全な利用及び活用のために、無線通信システムの更なる高信頼化が求められている。
【0006】
通信の高信頼化技術の一種として、冗長化伝送を用いたルートダイバーシチ伝送技術がある。ルートダイバーシチ伝送技術では、データ送信側と受信側との間で複数の通信経路を用いて同じデータを伝送し、データ受信側において複数の通信経路から到達した情報を集約する。これにより、各通信経路を構成する通信システムの回線品質の変動の多様性を利用してデータの到達性を向上させることができる。
【0007】
ルートダイバーシチ伝送技術では、回線品質が異なる可能性が高い複数の通信システムを用いて通信データを伝送する。この場合、ある通信システムの回線品質が低下してデータが不達であっても、別の通信システムを経由したデータは到達できる可能性がある。このため、ドローン等の無人移動体に複数の無線システムの移動局無線設備を搭載し、複数の無線通信回線を用いたルートダイバーシチ伝送技術を適用することで、制御指令データや映像データの到達性を向上させることが可能となる。この方式は、ある時刻において送信側無線局が利用可能な複数の無線通信回線に対して同じ通信データを送出することで、最低でもいずれか1つの無線通信回線で通信データが受信側に到達することを期待する方式である。
【0008】
近年、ドローン等の無人移動体に搭載された各無線システムの移動局無線設備が利用すべき周波数チャネルを決定する方法が検討されている。例えば、ドローンの運航計画(計画飛行経路)と、飛行経路上の各地点における電波環境情報(電波環境データベース)とを組み合わせることで、ドローン運航中の周波数利用計画を事前に構築する方法が提案されている(学会発表文献:2020信学ソ大B-2-3「小型無人航空機における混信・干渉回避のための電波利用技術の研究開発 ―電波環境データベース利用によるUAV 目視外飛行支援通信システムの提案―」)。
【0009】
前述の周波数利用計画情報に基づいて各移動局が各々最適と思われる無線ネットワークに接続する場合、同一空域においては電波環境データベースが推奨する周波数チャネルが同一となる。その結果、同一空域に存在するドローンの台数が多くなると、同じ周波数チャネルを多くの移動局が共用することになり、混雑しているチャネルでは通信速度が低下する等の影響も生じてくる。
【0010】
この問題に対して、無線通信システムによっては無線リソース管理機能を具備し、システム内の周波数資源の利用状況を勘案して可能な限り最適なリソース配分を行うこともある。しかしながら、同一の運用主体が管理している無線ネットワーク内の資源配分に留まることが一般的であった。そのため、同じ周波数帯に利用可能な無線ネットワークが複数存在し、それら無線ネットワークの運用主体が異なる場合は、全体的な周波数資源の利用状況を勘案した最適制御は困難である。
【0011】
本発明は、上記のような従来の事情に鑑みて為されたものであり、ルートダイバーシチ伝送技術を利用する無線通信システムにおいて、同じ領域に複数の移動体が存在している状況でも、多くの移動体が高効率かつ信頼性の高い無線通信を行うことを可能にすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するために、本発明では、無線通信システムを以下のように構成した。
すなわち、本発明に係る無線通信システムは、複数の無線通信回線をデータ伝送に使用するルートダイバーシチ伝送に対応した複数の移動体と、複数の移動体のそれぞれについて各無線通信回線の回線状態を収集する集約制御装置とを備えた無線通信システムにおいて、集約制御装置は、複数の移動体のそれぞれについて収集された各無線通信回線の回線状態に基づいて、回線状態が基準を満たす無線通信回線の数が所定値以上となる移動体の数が増えるように、特定の移動体に対して無線通信回線の制御信号を送信することを特徴とする。
【0013】
ここで、特定の移動体は、回線状態が基準を満たす無線通信回線の数が所定値を超える移動体のうち、回線状態が基準を満たす無線通信回線の数が所定値未満の移動体と同じ無線通信回線を使用する移動体であり得る。
【0014】
また、集約制御装置は、特定の移動体に対して、回線状態が基準を満たさない無線通信回線の切断を指示する制御信号を送信し得る。
【0015】
また、集約制御装置は、特定の移動体に対して、回線状態が基準を満たす無線通信回線のうちの少なくとも1つについて接続先基地局の変更を指示する制御信号を送信し得る。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、ルートダイバーシチ伝送技術を利用する無線通信システムにおいて、同じ領域に複数の移動体が存在している状況でも、多くの移動体が高効率かつ信頼性の高い無線通信を行えるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の一実施形態に係る無線通信システムの概略的な構成を示す図である。
【
図2】
図1の無線通信システムにおける基地局の構成例を示す図である。
【
図3】
図1の無線通信システムにおける移動局の構成例を示す図である。
【
図4】
図1の無線通信システムにおける統制局及び端末総合制御部の構成例を示す図である。
【
図5】2機の無人移動体が同一空域を飛行している場合の通信制御の例を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の一実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。
(無線通信システムの概要)
図1には、本発明の一実施形態に係る無線通信システムの概略的な構成を示してある。
図1に示す無線通信システムは、無人移動体Mと、基地局(BS)10~12と、移動局(MS)20~22と、統制局30と、端末統合制御部40と、インターネット区間50と、運航指令設備60とを備えている。本例の無線通信システムは、無人移動体Mと統制局30の間の通信データの伝送に、ルートダイバーシチ伝送を使用する。
【0019】
MS20~22は、無人航空機や自律運転車両など自律的移動手段を備えた無人移動体Mに搭載される移動局であり、例えば、子局や携帯電話等の無線通信端末が用いられる。BS10~12は、これらの移動局(MS20~22)が接続する基地局である。統制局30は、システムに接続された無人移動体や複数の無線通信回線の管理等を行う。端末統合制御部40は、MS20~22とともに無人移動体Mに搭載され、MS20~22を制御する。運航指令設備60は、統制局30を介した無線通信により、無人移動体Mの運航を遠隔的に制御する。
【0020】
BS10とMS20との間の無線通信は、上り通信(アップリンク)と下り通信(ダウンリンク)を同じ周波数で行う通信方式によって行われる。BS11とMS21との間、及びBS12とMS22との間の無線通信も同様である。BS10は自営無線回線Aの基地局であり、BS11は自営無線回線Bの基地局であり、BS12は公衆無線回線の基地局である。なお、自営無線回線A、自営無線回線B、公衆無線回線のそれぞれが使用する周波数は、互いに異なる。
図1では、1つの無線通信回線に対して1つの基地局を設置してあるが、一般的に、1つの無線通信回線に対して複数の基地局が設置される。BS10~12は、ネットワークを介して統制局30と通信可能に接続されている。また、BS11及びBS12と統制局30とを接続するネットワークには、インターネット区間50も含まれている。
【0021】
(BS10~12の具体的構成)
以下、
図2を参照しながら、BS10の構成について説明する。なお、BS11、BS12については、BS10と同様の構成であるため、説明を省略する。
【0022】
BS10は、アンテナ101と、データ伝送部102と、主制御部103と、インターフェース部104と、端子105とを備える。アンテナ101は、電波の送受信に使用される。データ伝送部102は、データの送信処理及び受信処理を行う。主制御部103は、自局全体の制御を行う。インターフェース部104は、外部回線や外部装置とのインターフェースである。端子105は、外部回線や外部装置との接続に使用される。
【0023】
データ伝送部102は、RF(Radio Frequency)部111と、ベースバンド(BB)信号処理部112と、MAC(Medium Access Control)処理部113とを備える。
RF部111は、ベースバンドから無線周波数帯への周波数変換及び無線周波数帯からベースバンドへの周波数変換や、信号増幅等の処理を行う。
【0024】
BB信号処理部112は、送信BB部121と、受信BB部122とを備える。送信BB部121は、チャネル符号化を行うチャネル符号化部131と、変調処理を行う変調部132とを備える。受信BB部122は、復調処理を行う復調部141と、チャネル復号を行うチャネル復号部142と、無線通信回線の品質を測定する回線品質測定部143とを備える。回線品質測定部143は、自局が接続している無線通信回線の品質として、例えば、RSSI(Received Signal Strength Indicator:受信信号強度表示)、CINR(Carrier-to-Interferrence and Noise power Ratio:搬送波対干渉・雑音電力比)を計測し、主制御部103へ報告する。
【0025】
MAC処理部113は、自局が使用する周波数チャネルやデータ送受信タイミングの制御、通信パケットへの自局識別子の付加、受信したパケットの誤り検出、及びデータ送信元の無線装置の認識等の処理を行う。
【0026】
主制御部103は、例えば、プロセッサと、メモリ上に定義されたデータ記憶領域と、ソフトウェアとで構成することが可能である。また、BB信号処理部112、MAC処理部113における処理は、例えば、主制御部103のプロセッサがハードディスクやフラッシュメモリ等のデータ記憶装置に記憶されているプログラムをメモリ上に読み出して実行することにより、実現することが可能である。
【0027】
(MS20~22の具体的構成)
以下、
図3を参照しながら、MS20の構成について説明する。なお、MS21、MS22については、MS20と同様の構成であるため、説明を省略する。
【0028】
MS20は、アンテナ201と、データ伝送部202と、主制御部203と、インターフェース部204と、端子205とを備える。アンテナ201は、電波の送受信に使用される。データ伝送部202は、データの送信処理及び受信処理を行う。主制御部203は、自局全体の制御を行う。インターフェース部204は、外部回線や外部装置とのインターフェースである。端子205は、外部回線や外部装置との接続に使用される。
【0029】
データ伝送部202は、RF部211と、ベースバンド(BB)信号処理部212と、MAC処理部213とを備える。
RF部211は、ベースバンドから無線周波数帯への周波数変換及び無線周波数帯からベースバンドへの周波数変換や、信号増幅等の処理を行う。
【0030】
BB信号処理部212は、送信BB部221と、受信BB部222とを備える。送信BB部221は、チャネル符号化を行うチャネル符号化部231と、変調処理を行う変調部232とを備える。受信BB部222は、復調処理を行う復調部241と、チャネル復号を行うチャネル復号部242と、無線通信回線の品質を測定する回線品質測定部243とを備える。回線品質測定部243は、自局が接続している無線通信回線の品質として、例えば、RSSI、CINRを計測し、主制御部103へ報告する。
【0031】
MAC処理部213は、自局が使用する周波数チャネルやデータ送受信タイミングの制御、通信パケットへの自局識別子の付加、受信したパケットの誤り検出、及びデータ送信元の無線装置の認識等の処理を行う。
【0032】
主制御部203は、例えば、プロセッサと、メモリ上に定義されたデータ記憶領域と、ソフトウェアとで構成することが可能である。また、BB信号処理部212、MAC処理部213における処理は、例えば、主制御部203のプロセッサがハードディスクやフラッシュメモリ等のデータ記憶装置に記憶されているプログラムをメモリ上に読み出して実行することにより、実現することが可能である。
【0033】
(統制局30の具体的構成)
以下、
図4を参照しながら、統制局30の構成について説明する。
統制局30は、通信状態管理機能部301と、パケット転送制御機能部302と、回線終端機能部303~305と、インターフェース部306と、端子307とを備える。
【0034】
通信状態管理機能部301は、無人移動体Mに搭載されたMS20~22とBS10~12との間の無線通信回線の接続状態及び無人移動体Mのシステム参加状況を管理する。パケット転送制御機能部302は、複数の無線通信回線を使用して伝送される通信データパケットの転送及び集約の制御処理を行い、BS10~12とインターネット区間50及び運航指令設備60との間の通信を媒介する。回線終端機能部303~305は、各無線通信回線に固有のデータ転送制御やMS20~22のIPアドレスの変化の追跡を行う。インターフェース部306は、外部回線や外部装置とのインターフェースである。端子307は、外部回線や外部装置との接続に使用される。
【0035】
回線終端機能部303は、BS10と接続され、自営無線回線Aを終端する。回線終端機能部304は、BS11と接続され、自営無線回線Bを終端する。回線終端機能部305は、BS12と接続され、公衆無線回線を終端する。また、回線終端機能部303~305は、各無線回線を通じて送受信される通信データに基づいて、送受信パケット数、送受信データ量、伝送遅延時間を計測する。
【0036】
(端末統合制御部40の具体的構成)
以下、
図4を参照しながら、無人移動体Mに搭載された端末統合制御部40の構成について説明する。
端末統合制御部40は、通信状態管理機能部401と、パケット転送制御機能部402と、回線終端機能部403~405と、データ通信アプリ406とを備える。
【0037】
通信状態管理機能部401は、MS20~22とBS10~12との間の無線通信回線の接続状態及び自装置(無人移動体)のシステム参加状況を管理する。パケット転送制御機能部402は、複数の無線通信回線を使用して伝送される通信データパケットの転送及び集約の制御処理を行う。回線終端機能部403~405は、各無線通信回線に固有のデータ転送制御やMS20~22のIPアドレスの変化の追跡を行う。データ通信アプリ406は、インターネット区間50や運航指令設備60との間でのデータ通信を行うアプリケーションである。
【0038】
回線終端機能部403は、MS20と接続され、自営無線回線Aを終端する。回線終端機能部404は、MS21と接続され、自営無線回線Bを終端する。回線終端機能部405は、MS22と接続され、公衆無線回線を終端する。また、回線終端機能部403~405は、各無線回線を通じて送受信される通信データに基づいて、送受信パケット数、送受信データ量、伝送遅延時間を計測する。
【0039】
(端末統合制御部40と統制局30との間の通信経路構築及び接続の管理)
以下、
図4を参照しながら、統制局30と端末統合制御部40との間でのトンネル構築について説明する。ここで、トンネルとは、通信ネットワーク上の2点間を結ぶ、閉じられた仮想的な直結回線である。
【0040】
回線終端機能部403は、MS20及びBS10を経由して回線終端機能部303との間でトンネリングを行い、自営無線回線Aトンネル70を構築する。回線終端機能部404は、MS21、BS11及びインターネット区間50を経由して回線終端機能部304との間でトンネリングを行い、自営無線回線Bトンネル71を構築する。回線終端機能部405は、MS22、BS12及びインターネット区間50を経由して回線終端機能部303との間でトンネリングを行い、公衆無線回線トンネル72を構築する。
【0041】
端末統合制御部40の通信状態管理機能部401は、トンネル70~72のいずれか一つでも構築が完了した段階で、統制局30の通信状態管理機能部301に対して接続要求メッセージを送信する。接続要求メッセージを受信した通信状態管理機能部301は、通信状態管理機能部401に対して接続許可メッセージを送信することで、統制局30と端末統合制御部40との間で通信セッションを確立する。
【0042】
(端末統合制御部40と統制局30との間での無線通信回線の品質の管理)
以下、
図4を参照しながら、端末統合制御部40及び統制局30における回線状態管理機能を説明する。ここで、統制局30と端末統合制御部40との間で通信セッションが確立されているものとする。
【0043】
端末統合制御部40の通信状態管理機能部401は、以下のようにして、MS20~22の各々から、各無線通信回線の回線状態として、リンク状態(接続/切断)、RSSI、CINR、運用周波数、接続先無線ネットワーク識別子を定期的(例えば、1秒周期)に取得する。
・MS20から回線終端機能部403経由で自営無線回線Aの回線状態を取得する。
・MS21から回線終端機能部404経由で自営無線回線Bの回線状態を取得する。
・MS22から回線終端機能部405経由で公衆無線回線の回線状態を取得する。
このとき、回線終端機能部403~405は、MS20~22から取得した回線状態の情報に、自らが計測した送受信パケット数、送受信データ量、伝送遅延時間の情報を付加して、通信状態管理機能部401へ通知する。
【0044】
通信状態管理機能部401は、回線終端機能部403~405が構築したトンネル70~72を利用し、統制局30の通信状態管理機能部301に対して各無線通信回線の回線状態を定期的(例えば、1秒周期)に報告する。
【0045】
統制局30の通信状態管理機能部301は、以下のようにして、BS10~12の各々から、各無線通信回線の回線状態として、リンク状態(接続/切断)、RSSI、CINR、運用周波数、無線ネットワーク識別子を定期的(例えば、1秒周期)に取得する。
・BS10から回線終端機能部303経由で自営無線回線Aの回線状態を取得する。
・BS11から回線終端機能部304経由で自営無線回線Bの回線状態を取得する。
・BS12から回線終端機能部305経由で公衆無線回線の回線状態を取得する。
このとき、回線終端機能部303~305は、BS10~12から取得した回線状態の情報に、自らが計測した送受信パケット数、送受信データ量、伝送遅延時間の情報を付加して、通信状態管理機能部301へ通知する。
【0046】
なお、システム内に無人移動体が複数存在する場合には、通信状態管理機能部301は、各々の無人移動体に対応する識別子(例えば、MACアドレス)等を用いることで、各無人移動体を識別しつつ、各無人移動体に搭載されたMSとの間の回線状態を取得する。
【0047】
上記のプロセスにより、通信状態管理機能部301では、自営無線回線A、自営無線回線B、公衆無線回線の3つの無線通信回線における双方向の回線状態を把握している状況が成立する。また、通信状態管理機能部301において把握している双方向の送受信パケット数に基づいて、伝送に失敗したパケットの割合(パケット損失率)も算出することができる。なお、ここで取得した双方向の回線状態に関し、BSからMSの方向を「下り方向」、MSからBSの方向を「上り方向」と呼ぶこととする。また、例えばBSで計測したRSSIを「上りRSSI」、MSで計測したRSSIを「下りRSSI」のように、各回線状態の項目に伝送方向を付した形式で説明を行う。
【0048】
(端末統合制御部40と運航指令設備60との間の通信経路)
以下、
図4を参照しながら、端末統合制御部40のデータ通信アプリ406と運航指令設備60との間の通信経路を説明する。
端末統合制御部40のデータ通信アプリ406から運航指令設備60への通信データは、パケット転送制御機能部402によりトンネル70~72の3つの通信経路に送出される。これらの通信データは、統制局30のパケット転送制御機能部302により集約された後、インターフェース部306及びインターネット区間50を経由して運航指令設備60へ到達する。
【0049】
運航指令設備60から端末統合制御部40のデータ通信アプリ406への通信データは、インターネット区間50を経由して統制局30のインターフェース部306に到達した後、パケット転送制御機能部302によりトンネル70~72の3つの通信経路に送出される。これらの通信データは、端末統合制御部40のパケット転送制御機能部402により集約された後、データ通信アプリ406へ到達する。
【0050】
上記のプロセスによって、端末統合制御部40と運航指令設備60との間でデータ通信を行う場合には、必ず統制局30を経由する構成となる。本実施例では、ルートダイバーシチ伝送が適用される区間は、統制局30のパケット転送制御機能部302と端末統合制御部40のパケット転送制御機能部402との間の区間である。
【0051】
(回線状態の品質判定)
以下、統制局30の通信状態管理機能部301において、無人移動体Mが接続している各無線通信回線の回線状態の品質判定を行う場合について説明する。
通信状態管理機能部301では、無人移動体Mが利用している各無線通信回線における双方向の回線状態の情報と、予め設定された品質判定基準とに基づいて、各無線通信回線の回線状態が所望の品質を満たしているかを判定する。
【0052】
例えば、通信状態管理機能部301が把握している回線状態及び品質判定基準は、以下の通りとする。
<自営無線回線A>
リンク状態=接続
BS10 上りRSSI=-60dBm
BS10 上りCINR=+30dB
MS20 下りRSSI=-59dBm
MS20 下りCINR=+25dB
上りパケット損失率=0%
下りパケット損失率=5%
上り伝送遅延時間=50ms
下り伝送遅延時間=70ms
<自営無線回線B>
リンク状態=切断
BS11 上りRSSI=情報なし
BS11 上りCINR=情報なし
MS21 下りRSSI=情報なし
MS21 下りCINR=情報なし
上りパケット損失率=情報なし
下りパケット損失率=情報なし
上り伝送遅延時間=情報なし
下り伝送遅延時間=情報なし
<公衆無線回線>
リンク状態=接続
BS12 上りRSSI=-65dBm
BS12 上りCINR=+25dB
MS22 下りRSSI=-65dBm
MS22 下りCINR=+25dB
上りパケット損失率=30%
下りパケット損失率=0%
上り伝送遅延時間=300ms
下り伝送遅延時間=50ms
【0053】
【0054】
この場合、通信状態管理機能部301による、無人移動体Mに関する各無線通信回線の回線状態の品質判定の結果は以下のようになる。
自営無線回線A:品質“良好”
自営無線回線B:品質“切断”
公衆無線回線 :品質“未達”
【0055】
以下、
図5を参照しながら、無人移動体M1と無人移動体M2の2機が同一空域を飛行している場合の通信制御の例を説明する。この場合、同一空域を飛行する無人移動体M1と無人移動体M2は、同一の周波数資源を共用するグループであると認識することができる。無人移動体M1と無人移動体M2を同一グループとするか否かは、例えば、接続先無線ネットワーク識別子に基づいて判断できる。すなわち、各無人移動体の接続先無線ネットワーク識別子が一致する場合に、これら無人移動体は同一グループであると判断する。なお、他の手法により無人移動体のグループについて判定してもよい。例えば、無人移動体がGPS(Global Positioning System)機能を有する場合は、GPS機能により得られた無人移動体の位置情報に基づいて、無人移動体のグループについて判定することができる。すなわち、無人移動体の位置情報に基づいて無人移動体が使用できる周波数資源(無線通信回線)を特定し、同じ周波数資源を使用する複数の無人移動体を同一グループであると判定してもよい。
【0056】
図5では、無人移動体M1と無人移動体M2の2機がすれ違う例を示している。このように2機の飛行地点が近い場合、基本的な電波環境は互いに類似していると考えられる。しかしながら、以下のような状況などでは、同じ基地局に接続されていたとしても回線状態の品質判定の結果に差異が生じ得る。なお、以下の状況は一例に過ぎず、種々の事情により回線所帯の品質判定の結果に差異が生じ得る。
・無人移動体M1と無人移動体M2とで契約している通信事業者(公衆無線回線のオペレータ)の料金が異なる場合。
・無人移動体M1と無人移動体M2とで搭載している移動局設備の機能(一般には無線通信規格における端末カテゴリの区分や端末装置ケイパビリティとして規定される)が異なる場合。
【0057】
ここで、一例として、無人移動体M1と無人移動体M2の回線状態の品質判定の結果が、以下のようになっていたとする。
<無人移動体M1の回線状態の品質判定の結果>
自営無線回線A:品質“良好”
自営無線回線B:品質“未達”
公衆無線回線 :品質“良好”
<無人移動体M2の回線状態の品質判定の結果>
自営無線回線A:品質“良好”
自営無線回線B:品質“未達”
公衆無線回線 :品質“未達”
【0058】
上記の例では、自営無線回線Bは、無人移動体M1と無人移動体M2の双方で品質“未達”となっている。ここで、例えば、両機とも自営無線回線Bの上り/下りCINRが閾値より高い値であるにもかかわらず、上り又は下りのパケット損失率が高いことが原因で品質“未達”と判定されているとする。この場合、品質“未達”と判定された理由は、無線信号(電波)の品質そのものよりも、無人移動体M1と無人移動体M2が同じ基地局BS11に接続していることに起因するものと推測することができる。すなわち、同じ基地局に接続している無人移動体の数が多いために周波数資源が逼迫し、その結果、所要のパケット通信速度が得られていないことによるものであると推測することができる。
【0059】
このような推測が成り立つ状況において、統制局30の通信状態管理機能部301は、無人移動体M1は品質“良好”な無線通信回線を2回線(自営無線回線Aと公衆無線回線)確保できていることを考慮して、以下のような制御を行う。すなわち、無人移動体M2の自営無線回線Bの品質を向上させることを目的として、無人移動体M1に対して自営無線回線Bとの接続を切断させる通信制御(無人移動体M1への指示の発行)を試行する。すなわち、自営無線回線Bの切断を指示する制御信号を無人移動体M1に対して送信する。そして、無人移動体M1が自営無線回線Bとの接続を切断した後に、再度、回線状態の品質判定を行う。
【0060】
その結果、以下のように、無人移動体M1と無人移動体M2の双方が品質“良好”と判定される無線通信回線を2回線ずつ確保できたのであれば、通信制御が成功したと判断することができる。
<無人移動体M1の回線状態の品質判定の結果>
自営無線回線A:品質“良好”
自営無線回線B:品質“切断”
公衆無線回線 :品質“良好”
<無人移動体M2の回線状態の品質判定の結果>
自営無線回線A:品質“良好”
自営無線回線B:品質“良好”
公衆無線回線 :品質“未達”
【0061】
このように、統制局30の通信状態管理機能部301は、システムを構成する複数の無人移動体の接続先無線ネットワーク識別子などを用いることで、同一の周波数資源を共用している無人移動体のグループを認識する。また、統制局30の通信状態管理機能部301は、同一グループに属する無人移動体が搭載している無線通信デバイスの種類や無線通信回線の回線状態の情報に基づいて、それぞれの無人移動体が利用する周波数資源が集中しないよう、各無人移動体が利用すべき周波数チャネルを指示する。すなわち、単一の運用主体による無線システム内の資源配分を超えて、複数の無線システムを統合したリソース配分が実現されるような通信制御を行う。これにより、同一の周波数資源の利用が集中することを回避し、システムを構成する移動局全体の通信品質を向上させることが可能となる。
【0062】
なお、上記の通信制御の際、自営無線回線Bの処置や、通信制御が成功したと判断する基準は様々なものがあり得る。例えば、無人移動体M1に対し、自営無線回線Bの切断を指示するのではなく、異なる周波数チャネルで運用している基地局への接続変更を指示してもよい。また、良好な回線品質と判定される無線通信回線を何回線確保すべきかの基準についても、各無線局が免許不要局として運用されているのか、免許局として運用されているのかによって変更され得る。例えば、他からの干渉を許容すべき周波数帯で運用されている無線システムは信頼性に欠けるため、その無線システム以外に他にも追加で1回線必ず確保しなければならないが、運用調整等により干渉が発生する確率が低い無線システムに接続できている場合はその1回線のみでも許容する、などの制御方法があり得る。
【0063】
(まとめ)
以上のように、本例の無線通信システムは、複数の無線通信回線をデータ伝送に使用するルートダイバーシチ伝送に対応した複数の無人移動体(M1,M2)と、複数の無人移動体のそれぞれについて各無線通信回線の回線状態を収集する統制局30とを備える。統制局30は、複数の移動体のそれぞれについて収集された各無線通信回線の回線状態に基づいて、回線状態が品質判定基準を満たす無線通信回線の数が所定値(例えば、2回線)以上となる無人移動体の数が増えるように、特定の無人移動体(例えば、無人移動体M1)に対して無線通信回線の制御のための制御信号を送信する。
【0064】
ここで、特定の無人移動体としては、例えば、回線状態が品質判定基準を満たす無線通信回線の数が所定値を超える無人移動体のうち、回線状態が品質判定基準を満たす無線通信回線の数が所定値未満の無人移動体と同じ無線通信回線を使用する無人移動体が挙げられる。
【0065】
また、特定の無人移動体に送信する制御信号の一例として、回線状態が品質判定基準を満たさない無線通信回線の切断を指示する制御信号が挙げられる。この制御信号は、他に優良な無線通信回線が確保できている無人移動体に対して、混雑している無線ネットワークから切断させ、他の無人移動体へ無線資源を明け渡すことを指示するためのものと理解され得る。
【0066】
また、特定の無人移動体に送信する制御信号の別の例として、回線状態が品質判定基準を満たす無線通信回線のうちの少なくとも1つについて接続先基地局の変更を指示する制御信号が挙げられる。この制御信号は、他に優良な無線通信回線が確保できている無人移動体に対して、電波環境は多少劣化するものの、通信は可能なチャネルに移動させることを指示するためのものと理解され得る。
【0067】
このような構成によれば、ルートダイバーシチ伝送技術を利用する無線通信システムにおいて、同じ領域に複数の移動体が存在している状況でも、多くの移動体が高効率かつ信頼性の高い無線通信を行えるようになる。
【0068】
ここで、無人移動体Mは、本発明に係る移動体の一例であり、統制局30は、本発明に係る集約制御装置の一例である。集約制御装置は、複数の無線通信回線の各基地局にネットワークを介して接続された装置であればよく、例えば、移動体の最終的な通信相手(本例では運航指令設備60)に備えられてもよい。また、無人移動体Mに代えて、例えば、人が搭乗することができる移動体を用いてもよい。
【0069】
以上、本発明について一実施形態に基づいて説明したが、本発明はここに記載された無線通信システムに限定されるものではなく、他の無線通信システムに広く適用することができることは言うまでもない。
また、本発明は、例えば、上記の処理に関する技術的手順を含む方法や、上記の処理をプロセッサにより実行させるためのプログラム、そのようなプログラムをコンピュータ読み取り可能に記憶する記憶媒体などとして提供することも可能である。
【0070】
なお、本発明の範囲は、図示され記載された例示的な実施形態に限定されるものではなく、本発明が目的とするものと均等な効果をもたらす全ての実施形態をも含む。更に、本発明の範囲は、全ての開示されたそれぞれの特徴のうち特定の特徴のあらゆる所望する組み合わせによって画され得る。
【産業上の利用可能性】
【0071】
本発明は、複数の無線通信回線をデータ伝送に使用するルートダイバーシチ伝送に対応した複数の移動体を同時運行可能な無線通信システムに利用することができる。
【符号の説明】
【0072】
M:無人移動体、 10~12:基地局、 20~21:移動局、 30:統制局、 40:端末統合制御部、 50:インターネット区間、 60:運行指令設備、 70~73:トンネル、 101,201:アンテナ、 102,202:データ伝送部、 103,203:主制御部、 104,204:インターフェース部、 105,205:端子、 111,211:RF部、 112,212:BB信号処理部、 113,213:MAC処理部、 121,221:送信BB部、 122,222:受信BB部、 131,231:チャネル符号化部、 132,232:変調部、 141,241:復調部、 142,242:チャネル復号部、 143,243:回線品質測定部、 301,401:通信状態管理機能部、 302,402:パケット転送制御機能部、 303~305,403~405:回線終端機能部、 306:インターフェース部、 406:データ通信アプリ