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特許7506196サイクル寿命性能が改善されたリチウム-硫黄電池
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-17
(45)【発行日】2024-06-25
(54)【発明の名称】サイクル寿命性能が改善されたリチウム-硫黄電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/052 20100101AFI20240618BHJP
   H01M 4/38 20060101ALI20240618BHJP
   H01M 4/134 20100101ALI20240618BHJP
   H01M 4/60 20060101ALI20240618BHJP
   H01M 4/137 20100101ALI20240618BHJP
   H01M 10/0569 20100101ALI20240618BHJP
   H01M 10/0568 20100101ALI20240618BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20240618BHJP
【FI】
H01M10/052
H01M4/38 Z
H01M4/134
H01M4/60
H01M4/137
H01M10/0569
H01M10/0568
H01M4/36 A
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2022580219
(86)(22)【出願日】2022-05-02
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2023-07-26
(86)【国際出願番号】 KR2022006228
(87)【国際公開番号】W WO2022245010
(87)【国際公開日】2022-11-24
【審査請求日】2022-12-23
(31)【優先権主張番号】10-2021-0065034
(32)【優先日】2021-05-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(31)【優先権主張番号】10-2022-0048548
(32)【優先日】2022-04-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】521065355
【氏名又は名称】エルジー エナジー ソリューション リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100188558
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(72)【発明者】
【氏名】センフン・ハン
(72)【発明者】
【氏名】ジェギル・イ
【審査官】冨士 美香
(56)【参考文献】
【文献】韓国公開特許第10-2018-0077794(KR,A)
【文献】特表2014-522547(JP,A)
【文献】特表2007-522638(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/052
H01M 4/38
H01M 4/134
H01M 4/60
H01M 4/137
H01M 10/0569
H01M 10/0568
H01M 4/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
1種以上の硫黄変性ポリアクリロニトリル系化合物を正極活物質として含む正極;
リチウムメタル負極;及び
一つ以上の二重結合を含むと同時に酸素原子及び硫黄原子のいずれか一つを含むヘテロ環化合物を含む第1溶媒、ジグライムを含む第2溶媒及びリチウム塩を含む電解質;を含み、
前記ヘテロ環化合物がフラン、2-メチルフラン、3-メチルフラン、2-エチルフラン、2-プロピルフラン、2-ブチルフラン、2,3-ジメチルフラン、2,4-ジメチルフラン、2,5-ジメチルフラン、ピラン、2-メチルピラン、3-メチルピラン、4-メチルピラン、ベンゾフラン、2-(2-ニトロビニル)フラン、チオフェン、2-メチルチオフェン、2-エチルチオフェン、2-プロピルチオフェン、2-ブチルチオフェン、2,3-ジメチルチオフェン、2,4-ジメチルチオフェン及び2,5-ジメチルチオフェンからなる群から選択される1種以上であり、
前記第2溶媒が前記電解質に含まれる全体溶媒100体積%に対して40ないし80体積%で含まれることを特徴とする、リチウム-硫黄電池。
【請求項2】
前記第2溶媒が前記電解質に含まれる全体溶媒100体積%に対して4ないし55体積%で含まれることを特徴とする、請求項1に記載のリチウム-硫黄電池。
【請求項3】
前記第2溶媒がモノグライム、トリグライム及びテトラグライムの中で選択される1種以上を含まないことを特徴とする、請求項1に記載のリチウム-硫黄電池。
【請求項4】
前記ヘテロ環化合物が2-メチルフランであることを特徴とする、請求項1に記載のリチウム-硫黄電池。
【請求項5】
前記リチウム塩がLiCl、LiBr、LiI、LiClO、LiBF、LiB10Cl10、LiPF、LiCFSO、LiCFCO、LiCBO、LiAsF、LiSbF、LiAlCl、CHSOLi、CFSOLi、LiTFSI((CFSONLi)、(CSONLi、LiFSI((SOF)NLi)、(CFSOCLi、クロロボランリチウム、炭素数4以下の低級脂肪族カルボン酸リチウム、テトラフェニルホウ酸リチウム及びリチウムイミドからなる群から選択される1種以上であることを特徴とする、請求項1に記載のリチウム-硫黄電池。
【請求項6】
前記リチウム塩がLiFSIを含むことを特徴とする、請求項1に記載のリチウム-硫黄電池。
【請求項7】
前記リチウム塩の濃度が0.5ないし2Mであることを特徴とする、請求項1に記載のリチウム-硫黄電池。
【請求項8】
前記電解質が硝酸リチウム、硝酸カリウム、硝酸セシウム、硝酸マグネシウム、硝酸バリウム、亜硝酸リチウム、亜硝酸カリウム及び亜硝酸セシウムからなる群から選択される1種以上をさらに含むことを特徴とする、請求項1に記載のリチウム-硫黄電池。
【請求項9】
前記硫黄変性ポリアクリロニトリル系化合物が下記化学式1ないし5で表される化合物からなる群から選択される1種以上であることを特徴とする、請求項1に記載のリチウム-硫黄電池:
[化学式1]
【化1】
[化学式2]
【化2】
[化学式3]
【化3】
[化学式4]
【化4】
[化学式5]
【化5】
前記化学式2ないし5において、nは1ないし4の整数である。
【請求項10】
前記正極活物質が下記化学式6で表される多孔性金属酸化物添加剤をさらに含むことを特徴とする、請求項1に記載のリチウム-硫黄電池:
[化学式6]
1.8Co1.2
前記化学式6において、MはZn、Co、Cu、Fe、Ni及びMnからなる群から選択される1種以上である。
【請求項11】
前記正極活物質が硫黄-炭素複合体をさらに含むことを特徴とする、請求項1に記載のリチウム-硫黄電池。
【請求項12】
前記硫黄変性ポリアクリロニトリル系化合物が15ないし45重量%の硫黄を含むことを特徴とする、請求項1に記載のリチウム-硫黄電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は2021年5月20日付韓国特許出願第10-2021-0065034号及び2022年4月20日付韓国特許出願第10-2022-0048548号に基づく優先権の利益を主張し、該当韓国特許出願の文献に開示されている全ての内容は本明細書の一部として組み込まれる。
【0002】
本発明はサイクル寿命性能が改善されたリチウム-硫黄電池に係り、より詳細には、リチウムメタルを負極で使用する時、発生するデンドライト形成問題と電解質の分解及び枯渇問題を防止するように、硫黄変性ポリアクリロニトリル(S-PAN)系化合物を活物質として含む正極、及びこれとシナジー効果を示す特定電解質を併用することでサイクル寿命性能を改善させることができるリチウム-硫黄電池に関する。
【背景技術】
【0003】
エネルギー貯蔵技術に対する関心が段々高くなるにつれ、携帯電話、タブレット(tablet)、ラップトップ(laptop)及びカムコーダー、さらに、電気自動車(EV)及びハイブリッド電気自動車(HEV)のエネルギーまで適用分野が拡大され、電気化学素子に対する研究及び開発が徐々に増大している。電気化学素子はこのような側面で最も注目を引いている分野であり、その中でも充放電が可能なリチウム-硫黄電池のような二次電池の開発は関心の的になっていて、最近はこのような電池を開発するにあたり、容量密度及び比エネルギーを向上させるために、新しい電極と電池の設計に対する研究開発につながっている。
【0004】
このような電気化学素子、その中でリチウム-硫黄電池(Li-S battery)はリチウムイオン電池に比べて約7倍高いエネルギー密度(理論容量)を持ち、リチウムイオン電池に代わることができる次世代二次電池として脚光を浴びている。このようなリチウム-硫黄電池内では、放電の際に硫黄の還元反応とリチウムメタルの酸化反応が起きて、この時、硫黄は環構造のSから線状構造のリチウムポリスルフィド(Lithium Polysulfide、LiPS)を形成するようになるが、このようなリチウム-硫黄電池はポリスルフィドが完全にLiSに還元されるまで段階的放電電圧を示すことが特徴である。
【0005】
しかし、リチウム-硫黄電池の商業化において最大の障害物は、硫黄系列の化合物を正極活物質で使用し、リチウムのようなアルカリ金属を負極活物質で使用する電池で充放電の際に発生するリチウムポリスルフィドの溶出及びシャトル現象であって、リチウムポリスルフィドが負極に伝達されてリチウム-硫黄電池の容量が減少され、これによってリチウム-硫黄電池は寿命が減少されて反応性が減少する大きな問題点を持っている。すなわち、正極で溶出されたポリスルフィドは有機電解液への溶解度が高いため、電解液を通じて負極の方へ望まない移動(PS shuttling)が起きることがあって、その結果、正極活物質の非可逆的損失による容量の減少及び副反応によるリチウムメタル表面への硫黄粒子の堆積による電池寿命の減少が発生するようになる。
【0006】
なお、電池の充放電時に負極であるリチウムの高い反応性と不均一な電着が過熱、電解液分解及びリチウム枯渇を引き起こし、充電過程でリチウムイオンの不均一な電着は分離膜を損傷させる、いわゆるデンドライト(Dendrite)成長が起きるようになって、これは多くの熱とスパークを起こして可燃性有機物である電解液の発火を起こすなど、深刻な安全問題を発生させることになる。
【0007】
一方、硫黄(sulfur)とポリアクリロニトリル(polyacrylonitrile)の複合体であるS-PANを正極活物質として使用すれば、S-PANに含まれた硫黄がリチウムと反応してリチウムポリスルフィドの形態で電解質に溶出されず、リチウムポリスルフィドがリチウム負極に移ってシャトル(shuttle)反応を起こさないので、LiNOのようなシャトル抑制用電解質添加剤を使わなくてもよい利点がある。また、硫黄-炭素複合体のみを正極活物質で使用する場合に比べて低い気孔率で反応に参加することができ、この場合、電解質を少量で使用しても同一性能を発現することができるという長所がある。
【0008】
このような理由によって、当業界では硫黄-炭素複合体を取り替えたり、一緒に使用する物質としてS-PANを考慮していて、また実際に適用しているが、先に言及した問題点(デンドライト成長、電解質分解など)が同様に発生し、リチウムポリスルフィドの溶出及びシャトル現象も相変らず発生する問題点がある。
【0009】
一方、リチウム-硫黄電池の容量改善のために電解質にスルホラン系溶媒を導入する研究も行われているが、この場合、スルホランが電池の充放電過程中にガス(Gas)を発生させる問題があって、結果的に、電池の容量及び寿命特性に悪影響を及ぼすようになる。すなわち、スルホランはリチウム塩をたくさん溶解させることができる溶媒として、リチウム塩と結合して錯体(complex)をなしていない自由溶媒(Free-Solvent)形態でガスが発生する。すなわち、言い換えれば、自由溶媒(Free-Solvent)のスルホランがリチウム-硫黄電池の負極であるリチウム金属表面と結合して保護層(SEI Layer)形成を邪魔すれば、リチウム金属と電解質、またはリチウムポリスルフィドとの副反応を促進させるようになって、これによって電池性能の劣化につながる。
【0010】
したがって、前記のような利点を持つ硫黄とポリアクリロニトリルの複合体(S-PAN)を正極活物質で含み、以上で言及した問題点(リチウムポリスルフィドの溶出及びシャトル、デンドライト成長、電解質分解、副反応促進など)を解決することができるリチウム-硫黄電池の開発が要求される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
したがって、本発明の目的は、硫黄変性ポリアクリロニトリル(S-PAN)系化合物を活物質として含む正極、及びこれとシナジー効果を示す特定電解質を併用することでサイクル寿命性能を改善させることができるリチウム-硫黄電池を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記目的を達成するために、本発明は、1種以上の硫黄変性ポリアクリロニトリル系化合物を活物質として含む、正極;リチウムメタル負極;及び一つ以上の二重結合を含むと同時に酸素原子及び硫黄原子の中でいずれか一つを含むヘテロ環化合物を含む第1溶媒、ジグライムを含む第2溶媒及びリチウム塩を含む電解質;を含むリチウム-硫黄電池を提供する。
【発明の効果】
【0013】
本発明によるサイクル寿命性能が改善されたリチウム-硫黄電池によると、硫黄変性ポリアクリロニトリル(S-PAN)系化合物を活物質として含む正極及びこれとシナジー効果を示す特定電解質を併用することでサイクル寿命性能を改善させることができる長所を持つ。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の一実施例及び比較例によって製造されたリチウム-硫黄電池の寿命特性及び容量を比較対照したグラフである。
図2】本発明の一実施例によって製造されたリチウム-硫黄電池の寿命特性及び容量を比較対照したグラフである。
図3】本発明の一実施例及び比較例によって製造されたリチウム-硫黄電池の寿命特性及び容量を比較対照したグラフである。
図4】本発明の一実施例及び比較例によって製造されたリチウム-硫黄電池の寿命特性及び容量を比較対照したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照して、本発明を詳しく説明する。
【0016】
本発明によるリチウム-硫黄電池は、1種以上の硫黄変性ポリアクリロニトリル系化合物を活物質として含む正極;リチウムメタル負極;及び一つ以上の二重結合を含むと同時に酸素原子及び硫黄原子の中でいずれか一つを含むヘテロ環化合物を含む第1溶媒、ジグライムを含む第2溶媒及びリチウム塩を含む電解質;を含む。
【0017】
硫黄とポリアクリロニトリル(polyacrylonitrile)の複合体であるS-PANを正極活物質として使用すれば、S-PANに含まれた硫黄がリチウムと反応してリチウムポリスルフィドの形態で電解質に溶出されず、リチウムポリスルフィドがリチウム負極に移動されてシャトル(shuttle)反応を起こさないので、LiNOのようなシャトル抑制用電解質添加剤を使わなくてもよい利点がある。また、硫黄-炭素複合体のみを正極活物質として使用する場合に比べて低い気孔率で反応に参加することができ、この場合、電解質を少量で使用しても同一な性能を発現することができるという長所がある。
【0018】
このような理由によって、当業界では硫黄-炭素複合体を代替したり、一緒に使用する物質としてS-PANを考慮していて、また実際適用しているが、相変らず充放電の際にリチウムポリスルフィドの溶出及びシャトル現象が発生し、このようなリチウムポリスルフィドが負極に伝達されてリチウム-硫黄電池の容量が減少され、これによってリチウム-硫黄電池は寿命が減って、反応性が減少する大きな問題点を持っている。すなわち、正極で溶出されたポリスルフィドは有機電解液への溶解度が高いため、電解液を通じて負極の方へ望まない移動(Polysulfide shuttling)が起きることがあって、その結果、正極活物質の非可逆的損失による容量の減少、及び副反応によるリチウムメタル表面への硫黄粒子堆積による電池寿命の減少が発生するようになる。
【0019】
なお、電池の充放電の際に負極であるリチウムの高い反応性と不均一な電着が過熱、電解液分解及びリチウム枯渇を引き起こし、充電過程でリチウムイオンの不均一な電着は分離膜を損傷させる、いわゆるデンドライト(Dendrite)成長が起きるようになって、これは多くの熱とスパークを起こして可燃性有機物である電解液の発火を起こすなど、深刻な安全問題を発生させることになる。
【0020】
ここで、本出願人は、前記のような利点を持つ硫黄とポリアクリロニトリルの複合体(S-PAN)を正極活物質として含み、これとシナジー効果を示す特定電解質を併用することで、前記問題点(リチウムポリスルフィドの溶出及びシャトル、デンドライト成長、電解質分解など)を解決してサイクル寿命性能を改善させることができるリチウム-硫黄電池を開発した。
【0021】
正極
前記1種以上の硫黄変性ポリアクリロニトリル系化合物を活物質として含む正極は、集電体及び前記集電体の少なくとも一側表面に形成された正極活物質層を含む。前記正極活物質層は正極活物質として硫黄変性ポリアクリロニトリル(sulfurized polyacrylonitrile、S-PAN)系化合物を含み、必要に応じて、多孔性金属酸化物添加剤をさらに含む。
【0022】
前記硫黄変性ポリアクリロニトリル(sulfurized polyacrylonitrile、S-PAN)系化合物は下記化学式1ないし5で表される化合物からなる群から選択される1種以上のものである。しかし、下記化学式1ないし5で表される化合物以外にも多様な形態の硫黄変性ポリアクリロニトリルが該当されることを言いつけておく。一方、下記化学式1、3及び4の反復単位("[]")の個数には制限がないことを言いつけておく。
【0023】
[化学式1]
【化1】
[化学式2]
【化2】
[化学式3]
【化3】
[化学式4]
【化4】
[化学式5]
【化5】
前記化学式2ないし5において、nは1ないし4の整数である。
【0024】
前記硫黄変性ポリアクリロニトリル系化合物は、例えば、硫黄(粉末)とポリアクリロニトリル(粉末)を密閉された非酸化性雰囲気下で加熱する方式で収得されることができる。このような工程によってポリアクリロニトリルの閉環反応と同時に蒸気状態の硫黄がポリアクリロニトリルと反応し、硫黄によって変性されたポリアクリロニトリルを得ることができる。密閉された雰囲気とは、硫黄の流出を防止し、加熱によって発生する硫黄の蒸気が損失しない程度の密閉状態が維持された雰囲気を言う。また、非酸化性雰囲気とは、酸化反応が進められない程度の低酸素濃度にした減圧状態の雰囲気、硫黄ガス雰囲気、または窒素或いはアルゴンなどの不活性ガス雰囲気などを言う。密閉状態の非酸化性雰囲気で原料粉末を加熱するための具体的な方法に対しては特に制限されないが、例えば、硫黄蒸気が損失されない程度の密閉性が維持された容器の中に原料粉末を入れて、容器内を減圧状態または不活性ガス雰囲気で加熱することができる。
【0025】
その他、硫黄粉末とポリアクリロニトリル粉末の混合物をアルミニウムラミネートフィルムなどの硫黄の蒸気と反応しない材料で構成される包装材で真空包装した状態で加熱することもできる。この場合、発生した硫黄蒸気によって包装材が破損されないよう、例えば、水を入れて密閉したオートクレーブなどの耐圧容器の中で包装材で真空包装された原料粉末を加熱することが好ましい。この方法によると、発生した水蒸気によって包装材が外部で加圧されるので、硫黄蒸気によって包装材が膨らんで破損されることを防ぐことができる。
【0026】
一方、硫黄粉末とポリアクリロニトリル粉末で構成される原料粉末を加熱する時は、両粉末の混合物のみを加熱してもよいが、例えば、その混合物をペレット型に成形して得られた成形体を加熱してもかまわない。前記加熱温度は250ないし500℃、好ましくは250ないし400℃である。前記加熱温度が250℃未満であると、硫黄とポリアクリロニトリルとの反応が起きないこともあって、500℃を超えると、硫黄の脱離が起きて硫黄変性ポリアクリロニトリル内の硫黄の含有量が低下して電池の容量が低下される恐れがある。一方、前記加熱温度を通じて製造された硫黄変性ポリアクリロニトリルは分解されない。その他、加熱時間に対しては特に限定されず、加熱温度によって相違することがある。一例として、前記温度範囲内での加熱時間は10分ないし10時間、好ましくは30分ないし6時間である。前記方法によると、ポリアクリロニトリルの閉環反応と硫黄及びポリアクリロニトリルの反応が同時に発生し、硫黄によって変性されたポリアクリロニトリルを得ることができる。
【0027】
前記硫黄は粉末性状を持つのが好ましく、この時、硫黄粉末の粒径は40ないし150μm、好ましくは40ないし100μmである。前記硫黄粉末の粒径が前記範囲を満たす場合、原料粉末の反応性が高くなって硫黄変性ポリアクリロニトリル系化合物の合成反応時間が短縮されることができ、均一な硫黄変性ポリアクリロニトリル系化合物を得ることができる。一方、硫黄粉末の粒径が前記範囲を脱するようになれば、工程性が低下する恐れがある。
【0028】
前記ポリアクリロニトリルは、粉末としては重量平均分子量(MW)が10,000ないし3,000,000、好ましくは1,000,000ないし2,000,000である。また、前記ポリアクリロニトリル粉末の粒径は0.5ないし50μm、好ましくは1ないし10μmである。前記ポリアクリロニトリル粉末の粒径が前記範囲を満たす場合、原料粉末の反応性が高くなって、より迅速に均一度が高い硫黄変性ポリアクリロニトリル系化合物を得ることができる。一方、前記ポリアクリロニトリル粉末の粒径が0.5μm未満であれば工程性が低下することがあって、50μmを超える場合は電池の反応性が低下されることがある。
【0029】
一方、前記硫黄粉末とポリアクリロニトリル粉末との混合比には特に制限がないが、ポリアクリロニトリル粉末100重量部に対して硫黄粉末を50ないし1,000重量部、好ましくは50ないし500重量部、より好ましくは50ないし350重量部であってもよい。前記硫黄粉末とポリアクリロニトリル粉末の混合比が前記範囲を満たす場合は、溶融された硫黄がポリアクリロニトリル粉末へ浸透しやすいため、均一な硫黄変性ポリアクリロニトリル系化合物を得ることができる。
【0030】
本発明の一実施様態において、前記硫黄変性ポリアクリロニトリル系化合物は炭素、窒素及び硫黄を含む。また、少量の酸素及び水素を含むこともできる。一例として、前記硫黄変性ポリアクリロニトリル系化合物の組成は、炭素40ないし60重量%、硫黄15ないし45重量%、窒素10ないし25重量%及び水素1ないし5重量%であってもよい。また、前記硫黄変性ポリアクリロニトリル系化合物は、CuKα線によるX線回折において、硫黄のピークが消失し、回折角(2θ)が20ないし30゜付近でブロードなピークのみ確認されることが好ましい。すなわち、硫黄変性ポリアクリロニトリル系化合物で硫黄は集合体としては存在せず、閉環が進められたポリアクリロニトリルと結合した状態で存在していることが好ましい。前記硫黄変性ポリアクリロニトリル系化合物はラマンスペクトルにおいて、ラマンシフトの1,330cm-1近所で主ピークが存在し、200cm-1ないし2,000cm-1の範囲で1,561cm-1、1,512cm-1、1,447cm-1、1,150cm-1、996cm-1、942cm-1、802cm-1、474cm-1、391cm-1、365cm-1、305cm-1近所でピークが存在することが好ましい。
【0031】
一方、前述したように、前記硫黄変性ポリアクリロニトリル系化合物を含む正極活物質は、必要に応じて、多孔性金属酸化物添加剤をさらに含むことができる。前記多孔性金属酸化物添加剤は金属有機構造体(metal-organic frameworks、MOFs)から誘導されたものであって、具体的にはプルシアンブルー類似体(Prussian blue analogues、PBAs)から誘導された多孔性金属酸化物であってもよい。ここで、前記プルシアンブルー類似体は有機及び無機小単位体が化学的に強く結合されている構造である。ここで前記有機小単位体は炭素と窒素が三重結合された有機リガンドであり、金属を含む無機小単位体と結合して3次元構造を形成し、このような構造によってプルシアンブルー類似体は構造的に多孔性特性を持つ。前記プルシアンブルー類似体は比表面積が500ないし1,500m/g、好ましくは700ないし900m/gであってもよい。
【0032】
本発明の具体的な一実施様態において、前記多孔性金属酸化物添加剤は下記化学式6で表される化合物の一つ以上である。
【0033】
[化学式6]
1.8Co1.2
【0034】
前記化学式6において、MはZn、Co、Cu、Fe、Ni及びMnからなる群から選択される1種以上である。本発明の具体的な一実施様態において、前記多孔性金属酸化物添加剤は、プルシアンブルー類似体が高温熱処理されたものであって、前記熱処理によってC-N結合が酸化され、COとNが発生及び除去される。これによって、前記多孔性金属酸化物添加剤はプルシアンブルー類似体に比べて気孔率がもっと高い多孔性を持つことができる。また、前記多孔性金属酸化物添加剤内に存在する気孔は、互いに繋がっている相互接続気孔(interconnect pores)である。このような多孔特性によって、リチウムイオンを含む有機電解液の移動が円滑になって電気化学的反応が促進される。本発明において、プルシアンブルー類似体の熱処理温度は400ないし600℃である。前記熱処理温度が前記範囲を満たす場合は、ガス発生速度が上昇して気孔率が向上される。しかし、前記熱処理温度が600℃を超える場合は、気孔の大きさが過度に大きくなることがあって、これにより、電極の単位重量当たりエネルギー密度が低下する問題が発生することがある。したがって、電解液の円滑な出入りと電極のエネルギー密度を考慮する時、前記の熱処理温度を満たすように設定することが好ましい。
【0035】
また、本発明の具体的な一実施様態において、前記金属酸化物添加剤の気孔率は20ないし60%、好ましくは20ないし50%であってもよい。また、前記多孔性金属酸化物添加剤において、気孔の大きさは気孔の最長径を基準にして4ないし40nm、好ましくは10ないし40nm、より好ましくは20ないし40nmであってもよい。本発明において、前記気孔率分布の測定は特別な方法で限定されるものではなく、例えば、Barrett-Joyner-Halenda(BJH)方法によって測定されることができる。また、本発明において、前記添加剤の含量は正極活物質層100重量%対比1ないし10重量%であって、この範囲を満たす場合、正極の高容量特性が改善されて電極亀裂発生問題が低減される長所を持つ。
【0036】
一方、本発明の正極活物質は必要に応じて硫黄-炭素複合体((C:x=2.5~50、n≧2)をさらに含むことができる。前記硫黄-炭素複合体を構成する炭素材(または、炭素源)は多孔性構造であるか、比表面積が高いもので当業界で通常使われるものであれば、いずれもかまわない。例えば、前記多孔性炭素材としては、グラファイト(graphite);グラフェン(graphene);デンカブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、チャンネルブラック、ファーネスブラック、ランプブラック、サーマルブラックなどのカーボンブラック;単層カーボンナノチューブ(SWCNT)、多層カーボンナノチューブ(MWCNT)などのカーボンナノチューブ(CNT);グラファイトナノファイバー(GNF)、カーボンナノファイバー(CNF)、活性化炭素ファイバー(ACF)などの炭素繊維;及び活性炭素からなる群から選択された1種以上であってもよいが、これに制限されず、その形態は球形、棒形、針状、板状、チューブ型またはバルク型でリチウム二次電池に通常使われるものであれば制限されずに使われることができる。また、前記炭素材には気孔が形成されていて、前記気孔の孔隙率は40ないし90%、好ましくは60ないし80%であってもよい。また、前記炭素材の気孔の大きさは10nmないし5μm、好ましくは50nmないし5μmである。
【0037】
本発明のリチウム-硫黄電池に含まれる正極は、以上で説明した正極活物質以外にバインダー及び導電材などをさらに含む。前記バインダーは正極活物質と導電材などの結合及び集電体に対する結合に助力する成分として、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、ポリフッ化ビニリデン-ポリヘキサフルオロプロピレン共重合体(PVdF/HFP)、ポリビニルアセテート、ポリビニルアルコール、ポリビニルエーテル、ポリエチレン、ポリエチレンオキサイド、アルキル化ポリエチレンオキサイド、ポリプロピレン、ポリメチル(メタ)アクリレート、ポリエチル(メタ)アクリレート、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリ塩化ビニル、ポリアクリロニトリル、ポリビニルピリジン、ポリビニルピロリドン、スチレン-ブタジエンゴム、アクリロニトリル-ブタジエンゴム、エチレン-プロピレン-ジエンモノマー(EPDM)ゴム、スルホン化EPDMゴム、スチレン-ブチレンゴム、フッ素ゴム、カルボキシメチルセルロース(CMC)、澱粉、ヒドロキシプロピルセルロース、再生セルロース、及びこれらの混合物からなる群から選択される1種以上を使用することができるが、必ずこれに限定されるものではない。
【0038】
前記バインダーは通常正極総重量100重量部を基準にして1ないし50重量部、好ましくは3ないし15重量部が添加される。前記バインダーの含量が1重量部未満であれば正極活物質と集電体との接着力が不十分となって、50重量部を超えると接着力は向上されるが、その分正極活物質の含量が減少して電池容量が低くなることがある。
【0039】
前記正極に含まれる導電材は電池の内部環境で副反応を引き起こさずに、当該電池に化学的変化をもたらすことなく優れる電気伝導性を持つものであれば特に制限されないし、代表的には黒鉛または導電性炭素を使用することができ、例えば、天然黒鉛、人造黒鉛などの黒鉛;カーボンブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、デンカブラック、サーマルブラック、チャンネルブラック、ファーネスブラック、ランプブラックなどのカーボンブラック;結晶構造がグラフェンやグラファイトである炭素系物質;炭素繊維、金属繊維などの導電性繊維;フッ化カーボン;アルミニウム粉末、ニッケル粉末などの金属粉末;酸化亜鉛、チタン酸カリウムなどの導電性ウィスカー;酸化チタンなどの導電性酸化物;及びポリフェニレン誘導体などの導電性高分子;を単独で、または2種以上混合して使用することができるが、必ずこれに限定されるものではない。
【0040】
前記導電材は通常正極全体重量100重量部を基準にして0.5ないし50重量部、好ましくは1ないし30重量部で添加される。導電材の含量が0.5重量部未満で少なすぎると、電気伝導性向上効果を期待しにくいか、電池の電気化学的特性が低下することがあって、導電材の含量が50重量部を超えて多すぎると、相対的に正極活物質の量が少なくなって容量及びエネルギー密度が低下することがある。正極に導電材を含ませる方法はあまり制限されず、正極活物質へのコーティングなど、当分野に公知された通常の方法を利用することができる。また、必要に応じて、正極活物質に導電性の第2被覆層が付加されることによって前記のような導電材の添加を代わることもできる。
【0041】
また、本発明の正極にはその膨脹を抑制する成分として充填剤が選択的に添加されることができる。このような充填剤は、当該電池に化学的変化を引き起こさずに電極の膨脹を抑制することができるものであれば、特に制限されるものではなく、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのオレフィン系重合体;ガラス繊維、炭素繊維などの繊維状物質;などを使用することができる。
【0042】
正極活物質、バインダー及び導電材などを分散媒(溶媒)に分散、混合させてスラリーを制作し、これを正極集電体上に塗布した後、乾燥及び圧延することで、本発明の正極を完全に製造することができる。前記分散媒としては、N-メチル-2-ピロリドン(NMP:N-methyl-2-pyrrolidone)、ジメチルホルムアミド(DMF:Dimethyl formamide)、ジメチルスルホキシド(DMSO:Dimethyl sulfoxide)、エタノール、イソプロパノール、水及びこれらの混合物を使用することができるが、必ずこれに限定されるものではない。
【0043】
前記正極集電体としては、白金(Pt)、金(Au)、パラジウム(Pd)、イリジウム(Ir)、銀(Ag)、ルテニウム(Ru)、ニッケル(Ni)、ステンレススチール(STS)、アルミニウム(Al)、モリブデン(Mo)、クロム(Cr)、カーボン(C)、チタン(Ti)、タングステン(W)、ITO(In doped SnO)、FTO(F doped SnO)、及びこれらの合金と、アルミニウム(Al)またはステンレススチールの表面にカーボン(C)、ニッケル(Ni)、チタン(Ti)または銀(Ag)を表面処理したものなどを使用することができるが、必ずこれに限定されるものではない。正極集電体の形態は、ホイル、フィルム、シート、打ち抜かれたもの、多孔質体、発泡体などの形態である。
【0044】
電解質
本発明のリチウム-硫黄電池に含まれる電解質は、一つ以上の二重結合を含むと同時に酸素原子及び硫黄原子の中でいずれか一つを含むヘテロ環化合物を含む第1溶媒;ジグライムを含む第2溶媒;及びリチウム塩;を含み、以上で説明した硫黄変性ポリアクリロニトリル系化合物を活物質として含む正極とシナジー効果を示す。
【0045】
前記第1溶媒は、一つ以上の二重結合を含むと同時に、酸素原子及び硫黄原子の中でいずれか一つを含むヘテロ環化合物を含むものであって、ヘテロ原子(酸素原子または硫黄原子)の孤立電子対(lone pair electrons)の非偏在化(delocalization)によって塩(salt)を溶解させにくい特性を持つので、電池の初期放電段階でヘテロ環化合物の開環重合反応(ring opening reaction)によってリチウム系金属(負極)の表面に高分子保護膜(solid electrolyte interface、SEI層)を形成することでリチウムデンドライトの生成を抑制させることができ、さらに、リチウム系金属表面における電解液分解及びそれによる副反応を減少させることでリチウム-硫黄電池の寿命特性を向上させることができる。
【0046】
すなわち、本発明のヘテロ環化合物は、リチウム系金属の表面に高分子保護膜を形成するために一つ以上の二重結合を必ず含まなければならず、極性を帯びるようにして電解液内の他の溶媒との親和度を高めるなどの効果を発現させるようにヘテロ原子(酸素原子または硫黄原子)も必ず含まなければならない。
【0047】
前記ヘテロ環化合物は、3ないし15員、好ましくは3ないし7員、より好ましくは5ないし6員のヘテロ環化合物である。また、このような前記ヘテロ環化合物は、炭素数1ないし4のアルキル基、炭素数3ないし8の環型アルキル基、炭素数6ないし10のアリール基、ハロゲン基、ニトロ基(-NO)、アミン基(-NH)及びスルホニル基(-SO)からなる群から選択される1種以上に置換または非置換されたヘテロ環化合物である。また、前記ヘテロ環化合物は、炭素数3ないし8の環型アルキル基、及び炭素数6ないし10のアリール基の中で1種以上と、ヘテロ環化合物の多重環化合物である。
【0048】
前記ヘテロ環化合物が炭素数1ないし4のアルキル基に置換された場合、ラジカルが安定化されて電解液間の副反応を抑制することができて好ましい。また、ハロゲン基またはニトロ基に置換された場合、リチウム系金属表面に機能性保護膜を形成することができて好ましく、この時、前記形成された機能性保護膜は、圧縮(compact)された形態の保護膜として安定し、リチウム系金属の均一な堆積(deposition)を可能とし、ポリスルフィドとリチウム系金属との間の副反応を抑制させることができる長所がある。
【0049】
前記ヘテロ環化合物の具体的な例としては、フラン(furan)、2-メチルフラン(2-methylfuran)、3-メチルフラン(3-methylfuran)、2-エチルフラン(2-ethylfuran)、2-プロピルフラン(2-propylfuran)、2-ブチルフラン(2-butylfuran)、2,3-ジメチルフラン(2,3-dimethylfuran)、2,4-ジメチルフラン(2,4-dimethylfuran)、2,5-ジメチルフラン(2,5-dimethylfuran)、ピラン(pyran)、2-メチルピラン(2-methylpyran)、3-メチルピラン(3-methylpyran)、4-メチルピラン(4-methylpyran)、ベンゾフラン(benzofuran)、2-(2-ニトロビニル)フラン(2-(2-Nitrovinyl)furan)、チオフェン(thiophene)、2-メチルチオフェン(2-methylthiophene)、2-エチルチオフェン(2-ethylthiphene)、2-プロピルチオフェン(2-propylthiophene)、2-ブチルチオフェン(2-butylthiophene)、2,3-ジメチルチオフェン(2,3-dimethylthiophene)、2,4-ジメチルチオフェン(2,4-dimethylthiophene)及び2,5-ジメチルチオフェン(2,5-dimethylthiophene)からなる群から選択される1種以上を挙げることができ、この中で2-メチルフランを第1溶媒として含むことが好ましい。
【0050】
次いで、本発明の電解質に含まれる第2溶媒は、ジグライム(または、ジエチレングリコールジメチルエーテル)を含むものであって、ジグライム以外のエーテル系化合物を含まないことを特徴とする。もし、ジグライムの代わりに他のエーテル系化合物、例えば、モノグライム、トリグライム、テトラグライムの中で選択される1種以上を第2溶媒として使用するようになれば、ジグライムを第2溶媒として使用した場合に比べて電池の容量及び寿命が著しく低下されて、本発明の目的を達成することが不可能である。また、第2溶媒としてジグライムを使用すれば、既存の溶媒(例えば、カーボネート系溶媒など)に比べて負極還元安定性が高くて電解質分解反応とこれによるリチウム消耗及び被膜抵抗増加を抑制させることができるなど、サイクル寿命性能が改善される。
【0051】
また、本発明の第2溶媒としてジグライムを使用しても、特定含量で含まれなければ本発明の目的を達成することが不可能である。すなわち、前記第2溶媒は本発明の電解質に含まれる全体溶媒(第1溶媒+第2溶媒)100体積%に対して40ないし80体積%、好ましくは45ないし55体積%で電解質に含まれなければならない。もし、前記第2溶媒が本発明の電解質に含まれる全体溶媒(第1溶媒+第2溶媒)100体積%に対して40体積%未満であれば、リチウム塩(Li-Salt)が溶解される第2溶媒の量が少なくて粘度が上昇し、イオン伝導度が減少して、前記第1溶媒(特に、2-メチルフラン)と混ざらない問題(Immiscible issue)が発生することがある。また、前記第2溶媒が本発明の電解質に含まれる全体溶媒(第1溶媒+第2溶媒)100体積%に対して80体積%を超える含量で含まれると、前記第1溶媒(特に、2-メチルフラン)が20体積%未満に減少するようになり、これによって、前記第1溶媒(特に、2-メチルフラン)による効果(Li-Metal保護効果)が減少されるので、電池の寿命が減少することがある。
【0052】
続いて、本発明の電解質に含まれるリチウム塩(Li-Salt)は、イオン伝導性を増加させるために使われる電解質塩として、当業界で通常用いられるものであれば特に制限せずに利用されることができる。このようなリチウム塩としては、LiCl、LiBr、LiI、LiClO、LiBF、LiB10Cl10、LiPF、LiCFSO、LiCFCO、LiCBO、LiAsF、LiSbF、LiAlCl、CHSOLi、CFSOLi、(CFSONLi、(CSONLi、(SOF)NLi、(CFSOCLi、クロロボランリチウム、炭素数4以下の低級脂肪族カルボン酸リチウム、テトラフェニルホウ酸リチウム及びリチウムイミドからなる群から選択される1種以上を例示することができ、この中で、LiFSI((SOF)NLi)を必須成分として使用することが好ましい。同時に、本発明の一実施形態として、前記電解質はLiTFSI((CFSONLi)を含まない形態であってもよい。
【0053】
前記リチウム塩の濃度はイオン伝導度などを考慮して決まることができ、例えば、0.5ないし2M、好ましくは0.7ないし1.5M、より好ましくは0.8ないし1.2Mであってもよい。前記リチウム塩の濃度が0.5M未満の場合、電池駆動に適するイオン伝導度の確保が難しいことがあって、2Mを超える場合は、電解液の粘度が増加してリチウムイオンの移動性が低下されたり、リチウム塩自体の分解反応が増加して電池の性能が低下されることがある。
【0054】
一方、本発明によるリチウム二次電池に含まれる電解質は、必要に応じて、硝酸系化合物(N-O bond type compounds)をさらに含むことができる(ただし、正極活物質でS-PAN以外に硫黄-炭素複合体まで使用する場合に限る)。このような硝酸系化合物では、硝酸リチウム(LiNO)、硝酸カリウム(KNO)、硝酸セシウム(CsNO)、硝酸マグネシウム(Mg(NO)、硝酸バリウム(Ba(NO)、亜硝酸リチウム(LiNO)、亜硝酸カリウム(KNO)及び亜硝酸セシウム(CsNO)からなる群から選択される1種以上を例示することができる。
【0055】
負極
本発明のリチウム-硫黄電池に含まれる負極はリチウム系金属であり、リチウム系金属の一側に負極集電体をさらに含むことができる。前記負極集電体は電池に化学的変化を引き起こさずに高い導電性を持つものであれば特に制限せず、銅、アルミニウム、ステンレススチール、亜鉛、チタン、銀、パラジウム、ニッケル、鉄、クロム、これらの合金及びこれらの組み合わせからなる群から選択されることができる。前記ステンレススチールは、カーボン、ニッケル、チタンまたは銀で表面処理されてもよく、前記合金としてはアルミニウム-カドミウム合金を使用することができ、それ以外にも焼成炭素、導電材で表面処理された非導電性高分子または導電性高分子などを使用することもできる。一般に、負極集電体としては銅薄板を適用する。
【0056】
また、その形態は表面に微細な凹凸が形成された/未形成されたフィルム、シート、ホイル、ネット、多孔質体、発泡体、不織布体など多様な形態が使用されることができる。また、前記負極集電体は3ないし500μmの厚さ範囲のものを適用する。前記負極集電体の厚さが3μm未満であれば、集電効果が落ちることに対し、厚さが500μmを超えると、セルをフォールディング(folding)して組立てる場合、加工性が低下される問題点がある。
【0057】
前記リチウム系金属はリチウムまたはリチウム合金であってもよい。この時、リチウム合金はリチウムと合金化可能な元素を含み、具体的にリチウムとSi、Sn、C、Pt、Ir、Ni、Cu、Ti、Na、K、Rb、Cs、Fr、Be、Mg、Ca、Sr、Sb、Pb、In、Zn、Ba、Ra、Ge及びAlからなる群から選択される1種以上との合金である。前記リチウム系金属はシートまたはホイルの形態であってもよく、場合によって集電体上にリチウムまたはリチウム合金が乾式工程によって堆積またはコーティングされた形態であるか、粒子状の金属及び合金が湿式工程などによって堆積またはコーティングされた形態である。
【0058】
分離膜
前記正極と負極の間には通常の分離膜が介在されることができる。前記分離膜は電極を物理的に分離する機能を持つ物理的な分離膜であって、通常の分離膜として使われるものであれば、特に制限されずに使用可能であり、特に電解液のイオン移動に対して低抵抗でありながら電解液の含湿能力に優れるものが好ましい。
【0059】
また、前記分離膜は正極と負極を互いに分離または絶縁させながら正極と負極の間にリチウムイオンを輸送できるようにする。このような分離膜は多孔性で非導電性または絶縁性の物質からなることができる。前記分離膜はフィルムのような独立的な部材であるか、または正極及び/または負極に付け加えられたコーティング層であってもよい。
【0060】
前記分離膜として使用されるポリオレフィン系多孔性膜の例では、高密度ポリエチレン、線状低密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、超高分子量ポリエチレンのようなポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブチレン、ポリペンテンなどのポリオレフィン系高分子をそれぞれ単独で、またはこれらを混合した高分子で形成した膜を挙げることができる。前記分離膜として使用されることができる不織布の例としては、ポリフェニレンオキサイド(polyphenyleneoxide)、ポリイミド(polyimide)、ポリアミド(polyamide)、ポリカーボネート(polycarbonate)、ポリエチレンテレフタレート(polyethyleneterephthalate)、ポリエチレンナフタレート(polyethylenenaphthalate)、ポリブチレンテレフタレート(polybutyleneterephthalate)、ポリフェニレンスルフィド(polyphenylenesulfide)、ポリアセタール(polyacetal)、ポリエーテルスルホン(polyethersulfone)、ポリエーテルエーテルケトン(polyetheretherketone)、ポリエステル(polyester)などをそれぞれ単独でまたはこれらを混合した高分子で形成した不織布が可能であり、このような不織布は多孔性ウェブ(web)を形成する繊維形態であって、長繊維で構成されたスパンボンド(spunbond)またはメルトブローン(meltblown)形態を含む。
【0061】
前記分離膜の厚さは特に制限されないが、1ないし100μm範囲が好ましく、より好ましくは5ないし50μm範囲である。前記分離膜の厚さが1μm未満の場合は、機械的物性を維持することができず、100μmを超える場合は、前記分離膜が抵抗層として作用するようになって電池の性能が低下される。前記分離膜の気孔の大きさ及び気孔率は特に制限されないが、気孔の大きさは0.1ないし50μmで、気孔率は10ないし95%であることが好ましい。前記分離膜の気孔の大きさが0.1μm未満であったり気孔率が10%未満であれば、分離膜が抵抗層として作用するようになって、気孔の大きさが50μmを超えたり、気孔率が95%を超える場合は機械的物性を維持することができない。
【0062】
以上のような正極、負極、分離膜及び電解質を含む本発明のリチウム-硫黄電池は、正極を負極と対面させ、その間に分離膜を介在した後、本発明による電解質を注入する工程を通じて製造されることができる。
【0063】
一方、本発明によるリチウム-硫黄電池は、小型デバイスの電源で使用される電池セルに適用されることは勿論、中大型デバイスの電源である電池モジュールの単位電池で特に適合に利用されることができる。このような側面において、本発明はまた2個以上のリチウム-硫黄電池が電気的に連結(直列または並列)されて含まれた電池モジュールを提供する。前記電池モジュールに含まれるリチウム-硫黄電池の数量は、電池モジュールの用途及び容量などを考慮して様々に調節されることができることは勿論である。さらに、本発明は当分野の通常の技術にしたがって前記電池モジュールを電気的に連結した電池パックを提供する。前記電池モジュール及び電池パックは、パワーツール(Power Tool);電気車(Electric Vehicle、EV)、ハイブリッド電気車(Hybrid Electric Vehicle、HEV)、及びプラグインハイブリッド電気車(Plug-in Hybrid Electric Vehicle、PHEV)を含む電気車;電気トラック;電気商用車;または電力貯蔵用システムの中でいずれか一つ以上の中大型デバイス電源として利用可能であるが、必ずこれに限定されるものではない。
【0064】
以下、本発明を理解しやすくするために好ましい実施例を提示するが、下記実施例は本発明を例示するものに過ぎず、本発明の範疇及び技術思想の範囲内で多様な変更及び修正が可能であることは当業者にとって自明なことであり、このような変更及び修正が添付の特許請求範囲に属することも当然である。
【0065】
[実施例1]リチウム-硫黄電池の製造
電解質製造
先ず、2-メチルフラン(第1溶媒)及びジグライム(第2溶媒)を20:80の体積比(v/v)で混合した有機溶媒に、LiFSIの濃度が1.0Mになるようにこれを溶解させてリチウム-硫黄電池用電解質を製造した。
【0066】
正極製造
正極活物質として下記化学式1の硫黄変性ポリアクリロニトリル系化合物(高分子内の硫黄含量:40重量%)80重量部、導電材としてカーボンブラック10重量部、バインダーとしてスチレンブタジエンゴム/カルボキシメチルセルロース(SBR/CMC 7:3重量比)10重量部を混合して正極スラリー組成物を製造した後、前記製造されたスラリー組成物を集電体(20μm厚さのAl Foil)上に8mg/cmでコーティングし、50℃で12時間乾燥してロールプレス(roll press)機器で圧搾して正極を製造した。
【0067】
[化学式1]
【化6】
【0068】
一方、前記硫黄変性ポリアクリロニトリル系化合物は、PAN高分子(製造社:Sigma-aldrich、MW:160,000)と硫黄粉末(製造社:Sigma-aldrich、99.98% 微量金属基準(trace metals basis))を1:4の重量比で混合した後、熱処理して製造したものであって、前記熱処理はAr雰囲気で遂行され、常温(25℃)で450℃まで10℃/分の速度で昇温する条件で行われた。
【0069】
リチウム-硫黄電池製造
前記製造された正極と35μm厚さのリチウム金属負極を対面するように位置させ、その間にポリエチレン(PE)分離膜を介在した後、前記製造された電解質を70μl注入してコインセルタイプのリチウム-硫黄電池を製造した。一方、前記電池の製造において、前記正極は14phi円形電極で打ち抜いて使用し、前記ポリエチレン分離膜は19phiで、前記リチウム金属は16phiで打ち抜いて使用した。
【0070】
[実施例2~5、比較例1~7]リチウム-硫黄電池の製造
電解質組成を下記表1のように変更したことを除いては、前記実施例1と同様に遂行して実施例2ないし5及び比較例1ないし7のリチウム-硫黄電池を製造した。
【0071】
【表1】
【0072】
[実験例1]リチウム-硫黄電池の寿命特性及び容量評価
前記実施例1ないし5及び比較例1ないし7で製造されたリチウム-硫黄電池を0.1Cで1サイクル(cycle)間充電及び放電させ(電圧範囲:0.5~3.2V)、次いで0.2Cで3サイクル間充電及び放電させ(電圧範囲:1~3V)、次いで0.3C充電、0.5C放電させて(電圧範囲:1~3V)進行し、電池の寿命特性及び容量を評価した。この時、評価温度は25℃にした。
【0073】
図1は本発明の一実施例及び比較例によって製造されたリチウム-硫黄電池の寿命特性及び容量を比較対照したグラフである。図1を参照して説明すれば、電解質に2-メチルフランとジグライムを含む実施例2が、ジグライムの代わりにジメトキシエタン(モノグライム)、トリグライムまたはテトラグライムをそれぞれ使用した比較例1ないし3や2-メチルフランの代わりに1,3-ジオキソランを使用した比較例5に比べて寿命特性及び容量のいずれにおいて優位にあることを確認することができた(比較例5は、特に50サイクル以後急激に退化した)。これを通じて、硫黄変性ポリアクリロニトリル系化合物を正極に適用したリチウム-硫黄電池は、必ず電解質でジグライムを含まないと性能が改善されることが分からないし、また、ジグライムを電解質に含ませても「一つ以上の二重結合を含むと同時に酸素原子及び硫黄原子の中でいずれか一つを含むヘテロ環化合物」と一緒に使用しないと、電池性能の改善に限界があるという点も分かった。
【0074】
図2は本発明の一実施例によって製造されたリチウム-硫黄電池の寿命特性及び容量を比較対照したグラフで、図3及び4は本発明の一実施例及び比較例によって製造されたリチウム-硫黄電池の寿命特性及び容量を比較対照したグラフである。図2ないし4を参照して説明すれば、電解質に含まれた2-メチルフランとジグライムの体積比が本発明の範疇(2:8~6:4(v/v))を脱する比較例4は一部実施例に比べて初期容量が多少高かったが、サイクルを繰り返えすほど実施例1ないし5に比べて寿命特性及び容量のいずれにおいても劣位にあることを確認することができた。これを通じて、硫黄変性ポリアクリロニトリル系化合物を正極に適用したリチウム-硫黄電池は、電解質に2-メチルフランとジグライムを同一に含ませても、その体積比が本発明の範疇を満たすことができないと、性能改善が不可能であることが分かった。その他、本出願人は、電解質に含まれた2-メチルフランとジグライムの体積比を6.5:3.5で設定した場合の電池寿命特性及び容量に対しても評価しようとしたが、リチウム塩(LiFSI)が完全に溶解されなかったため評価自体が不可能であった。
【0075】
一方、前記比較例6は1,3-ジオキソラン、ジメトキシエタン及びスルホランを電解質溶媒として使用したもので、前記比較例7は1,3-ジオキソラン、ジグライム及びスルホランを電解質溶媒として使用したものであって、前記比較例6及び7は、いずれもサイクルを繰り返えすほど実施例4及び5に比べて寿命特性及び容量のいずれにおいて劣位にあることを確認することができた。特に、前記比較例6及び7は他の比較例に比べても容量減少の幅が大きかったが、これはスルホランが電解質溶媒として使われた場合、充放電過程でガス(Gas)が発生することに起因する。スルホランはリチウム塩を多く溶解させることができる溶媒であって、リチウム塩と結合して錯体(complex)を成さないFree-Solvent形態でガスが発生する。すなわち、言い換えれば、Free-Solventのスルホランがリチウム-硫黄電池の負極であるリチウム金属表面と結合して保護層(SEI Layer)形成を邪魔すれば、リチウム金属と電解質またはリチウムポリスルフィドとの副反応を促進させるようになって、これによって電池性能の劣化につながる。したがって、本発明のリチウム-硫黄電池は電解質がスルホラン系溶媒を含まない点も特徴とする。
図1
図2
図3
図4