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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-17
(45)【発行日】2024-06-25
(54)【発明の名称】熱間プレス用鋼板及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C23C 2/12 20060101AFI20240618BHJP
   C21D 9/56 20060101ALI20240618BHJP
   C22C 38/00 20060101ALI20240618BHJP
   C22C 38/06 20060101ALI20240618BHJP
   C22C 38/38 20060101ALI20240618BHJP
   C22C 21/00 20060101ALI20240618BHJP
   C22C 30/00 20060101ALI20240618BHJP
   C21D 9/46 20060101ALI20240618BHJP
   C23C 2/20 20060101ALI20240618BHJP
【FI】
C23C2/12
C21D9/56 101E
C22C38/00 301W
C22C38/00 301T
C22C38/06
C22C38/38
C22C38/00 302X
C22C21/00 M
C22C30/00
C21D9/46 J
C21D9/46 U
C23C2/20
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2022580508
(86)(22)【出願日】2020-11-26
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2023-07-28
(86)【国際出願番号】 KR2020016974
(87)【国際公開番号】W WO2022004969
(87)【国際公開日】2022-01-06
【審査請求日】2023-01-24
(31)【優先権主張番号】10-2020-0080413
(32)【優先日】2020-06-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】510307299
【氏名又は名称】ヒュンダイ スチール カンパニー
(74)【代理人】
【識別番号】100120031
【弁理士】
【氏名又は名称】宮嶋 学
(74)【代理人】
【識別番号】100127465
【弁理士】
【氏名又は名称】堀田 幸裕
(74)【代理人】
【識別番号】100107582
【弁理士】
【氏名又は名称】関根 毅
(74)【代理人】
【識別番号】100187159
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 英明
(72)【発明者】
【氏名】キム、スンミン
(72)【発明者】
【氏名】チェ、ヒェリム
【審査官】菅原 愛
(56)【参考文献】
【文献】特表2012-516939(JP,A)
【文献】特表2020-506286(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2011/0165436(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 2/12
C21D 9/56
C22C 38/00
C22C 38/06
C22C 38/38
C22C 21/00
C22C 30/00
C21D 9/46
C23C 2/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベース鋼板と、
前記ベース鋼板上に位置し、順次に積層された拡散層と表面層とを具備したメッキ層と、を含み、
前記拡散層は、前記ベース鋼板上に順次に位置し、それぞれシリコンを含むFe-Al合金化層及びFe-Al金属間化合物層を含み、
前記拡散層に対する前記Fe-Al金属間化合物層の面積分率は、84.5%ないし98.0%であり、
前記メッキ層が、シリコン4wt%ないし12wt%、鉄1.0wt%ないし4.0wt%、及び残部のアルミニウムを含む、
熱間プレス用鋼板。
【請求項2】
前記Fe-Al金属間化合物層は、順次に積層された第1層及び第2層を含み、
前記Fe-Al合金化層の硬度は、前記第1層の第1硬度、及び前記第2層の第2硬度より高く、前記第2硬度が前記第1硬度より高い、請求項1に記載の熱間プレス用鋼板。
【請求項3】
前記メッキ層に対する前記拡散層の面積分率は、10%ないし35%である、請求項1に記載の熱間プレス用鋼板。
【請求項4】
前記Fe-Al合金化層、前記第1層、及び前記第2層において、アルミニウム含量は、前記第1層において最も少なく、前記シリコンの含量は、前記第1層で最も多い、請求項2に記載の熱間プレス用鋼板。
【請求項5】
前記第1層の平均厚は、50nmないし500nmであり、前記第2層の平均厚は、1μmないし16μmである、請求項2に記載の熱間プレス用鋼板。
【請求項6】
前記Fe-Al合金化層の平均厚は、50nmないし500nmである、請求項1に記載の熱間プレス用鋼板。
【請求項7】
前記拡散層に対する前記Fe-Al合金化層の面積分率は、2.0%ないし15.5%である、請求項6に記載の熱間プレス用鋼板。
【請求項8】
前記ベース鋼板は、炭素(C)0.01wt%ないし0.5wt%、シリコン(Si)0.01wt%ないし1.0wt%、マンガン(Mn)0.5wt%ないし3.0wt%、リン(P)0超過0.05wt%以下、硫黄(S)0超過0.01wt%以下、アルミニウム(Al)0超過0.1wt%以下、窒素(N)0超過0.001wt%以下、残部の鉄(Fe)、及びその他不可避な不純物を含む、請求項1に記載の熱間プレス用鋼板。
【請求項9】
前記ベース鋼板は、ニオブ(Nb)、チタン(Ti)、クロム(Cr)、モリブデン(Mo)及びボロン(B)のうち1以上の成分をさらに含む、請求項8に記載の熱間プレス用鋼板。
【請求項10】
請求項1ないし9のうちいずれか1項に記載の熱間プレス用鋼板の製造方法であり、
冷間圧延または熱間圧延がなされた前記ベース鋼板を、650℃ないし700℃の温度を有するメッキ浴に浸漬させ、前記ベース鋼板の表面に、溶融メッキ層を形成する段階と、
前記溶融メッキ層が形成された前記ベース鋼板を冷却させ、前記メッキ層を形成する冷却段階と、を含み、
前記メッキ浴は、シリコン4wt%ないし12wt%、鉄1.0wt%ないし4.0wt%、及び残部のアルミニウムを含み、
前記冷却段階は、前記ベース鋼板を、第1平均冷却速度でもって、550℃まで冷却する第1冷却段階と、前記ベース鋼板を、第2平均冷却速度でもって、常温まで冷却する第2冷却段階と、を有し、
前記第1平均冷却速度は、前記第2平均冷却速度より速い、熱間プレス用鋼板の製造方法。
【請求項11】
前記第1平均冷却速度は、20℃/s以上である、請求項10に記載の熱間プレス用鋼板の製造方法。
【請求項12】
前記ベース鋼板は、前記メッキ浴を通過し、前記メッキ浴に浸漬され、
前記メッキ浴を通過する前記ベース鋼板の通過速度は、1mpmないし250mpmである、請求項10に記載の熱間プレス用鋼板の製造方法。
【請求項13】
前記冷却段階前に、前記ベース鋼板上に空気またはガスを噴射し、前記溶融メッキ層の厚みを調節する段階をさらに含む、請求項10に記載の熱間プレス用鋼板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱間プレス用鋼板及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
最近、自動車産業における環境規制と安全基準とが強化されることにより、自動車の軽量化及び安定性のための高強度鋼の適用が増えている。一方、高強度鋼は、重量対比で、高強度特性を確保することができるが、加工中に素材の破断が生じたり、スプリングバック現象が生じたりして、複雑であって精密な形状の製品成形に困難さが伴う。従って、そのような問題点を解決するための方法として、熱間プレス成形の適用が広がっている。
【0003】
熱間プレス成形は、高温において、鋼板を加熱してプレス加工するので、鋼材成形が容易であり、金型を介して急冷を実施するので、成形品の強度を確保することができる。しかしながら、熱間プレス成形のために、鋼板を高温で加熱するので、鋼板表面が酸化されるという問題点がある。そのような問題点を解決するために、米国登録特許第6,296,805号発明は、アルミニウムメッキを施した鋼板を熱間プレス成形する方法を提案している。該米国登録特許第6,296,805号発明によれば、アルミニウムメッキ層が鋼板表面に存在するので、鋼板加熱により、鋼板表面が酸化されることを防止することができる。
【0004】
しかしながら、鋼板の加熱時、鋼板から、Feがアルミニウムメッキ層に拡散され、アルミニウムメッキ層が合金化され、そのようなアルミニウムメッキ鋼板を熱間プレス成形すれば、合金化により、脆性を有することになるメッキ層にクラックが生じうる。なお、アルミニウムメッキ層は、犠牲防食性がないために、メッキ層にクラックが生じ、鋼板表面が露出されれば、熱間プレス成形品の耐食性が急激に低下してしまう。
【0005】
一方、10-2019-0077928号発明は、素地鋼板の表面に形成されたFe-Al合金メッキ層を含むものの、Fe-Al合金メッキ層を厚み方向に4等分し、4層にしたとき、最外郭の層を除いた残り層の硬度が、それより外郭層の硬度より低く形成され、表面にクラック発生が抑制される鉄・アルミニウム系合金メッキ鋼板を開示する。しかしながら、Fe-Al合金メッキ層の硬度が外郭に行くほど低くなるので、熱間プレス工程中、金型に、Fe-Al合金メッキ層が付着し、それが剥離される憂いがある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の実施例は、熱間プレス成形時、メッキ層にクラックが生じることを、防止したり最小化させたりすることができる熱間プレス用鋼板及びその製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一実施例は、ベース鋼板と、前記ベース鋼板上に位置し、順次に積層された拡散層と表面層とを具備したメッキ層と、を含み、前記拡散層は、前記ベース鋼板上に順次に位置し、それぞれシリコンを含むFe-Al合金化層及びFe-Al金属間化合物層を含み、前記拡散層に対する前記Fe-Al金属間化合物層の面積分率が84.5%ないし98.0%である熱間プレス用鋼板を開示する。
【0008】
本実施例において、前記Fe-Al金属間化合物層は、順次に積層された第1層及び第2層を含み、前記Fe-Al合金化層の硬度は、前記第1層の第1硬度、及び前記第2層の第2硬度より高く、前記第2硬度が前記第1硬度よりも高い。
【0009】
本実施例において、前記メッキ層に対する前記拡散層の面積分率は、10%ないし35%でもある。
【0010】
本実施例において、前記Fe-Al合金化層、前記第1層、及び前記第2層において、アルミニウム含量は、前記第1層において最も少なく、前記シリコンの含量は、前記第1層において最も多くもなる。
【0011】
本実施例において、前記第1層の平均厚は、50nmないし500nmであり、前記第2層の平均厚は、1μmないし16μmでもある。
本実施例において、前記Fe-Al合金化層の平均厚は、50nmないし500nmでもある。
【0012】
本実施例において、前記拡散層に対する前記Fe-Al合金化層の面積分率は、2.0%ないし15.5%でもある。
【0013】
本実施例において、前記ベース鋼板は、炭素(C)0.01wt%ないし0.5wt%、シリコン(Si)0.01wt%ないし1.0wt%、マンガン(Mn)0.5wt%ないし3.0wt%、リン(P)0超過0.05wt%以下、硫黄(S)0超過0.01wt%以下、アルミニウム(Al)0超過0.1wt%以下、窒素(N)0超過0.001wt%以下、残部の鉄(Fe)、及びその他不可避な不純物を含むものでもある。
【0014】
本実施例において、前記ベース鋼板は、ニオブ(Nb)、チタン(Ti)、クロム(Cr)、モリブデン(Mo)及びボロン(B)のうち1以上の成分をさらに含むものでもある。
【0015】
本発明の他の実施例は、熱間プレス用鋼板の製造方法であり、冷間圧延または熱間圧延がなされた前記ベース鋼板を、650℃ないし700℃の温度を有するメッキ浴に浸漬させ、前記ベース鋼板の表面に、溶融メッキ層を形成する段階と、前記溶融メッキ層が形成された前記ベース鋼板を冷却させ、前記メッキ層を形成する冷却段階と、を含み、前記メッキ浴は、シリコン4wt%ないし12wt%、鉄1.0wt%ないし4.0wt%、及び残部のアルミニウムを含み、前記冷却段階は、前記ベース鋼板を、第1平均冷却速度でもって、550℃まで冷却する第1冷却段階と、前記ベース鋼板を、第2平均冷却速度でもって、常温まで冷却する第2冷却段階と、を有し、前記第1平均冷却速度は、前記第2平均冷却速度より速い熱間プレス用鋼板の製造方法を開示する。
【0016】
本実施例において、前記第1平均冷却速度は、20℃/s以上でもある。
【0017】
本実施例において、前記ベース鋼板は、前記メッキ浴を通過し、前記メッキ浴に浸漬され、前記メッキ浴を通過する前記ベース鋼板の通過速度は、1mpmないし250mpmでもある。
【0018】
本実施例において、前記冷却段階前に、前記ベース基板上に空気またはガスを噴射し、前記溶融メッキ層の厚みを調節する段階をさらに含むものでもある。
【発明の効果】
【0019】
本発明の実施例によれば、メッキ層がFe-Al金属間化合物層を含むことにより、熱間プレス工程時、熱間プレス用鋼板にクラックが生じることをさらに効果的に防止するか、あるいは最小化させることができる。
【0020】
また、Fe-Al金属間化合物層が順次に積層された第1層と、該第1層より高い硬度を有する第2層を含むことにより、メッキ層の付着力が向上されうる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明の一実施例による熱間プレス用鋼板の断面を図示した断面図である。
図2図1の熱間プレス用鋼板の製造方法を概略的に図示したフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明は、多様な変換を加えることができ、さまざまな実施例を有することができるが、特定実施例を図面に例示し、詳細な説明によって詳細に説明する。本発明の効果、特徴、及びそれらを達成する方法は、図面と共に詳細に後述されている実施例を参照すれば、明確になるであろう。しかしながら、本発明は、以下で開示される実施例に限定されるものではなく、多様な形態にも具現される。
【0023】
以下の実施例において、第1、第2のような用語は、限定的な意味ではなく、1つの構成要素を、他の構成要素と区別する目的に使用されている。
以下の実施例において、単数の表現は、文脈上、明白に異なって意味しない限り、複数の表現を含む。
【0024】
以下の実施例において、「含む」または「有する」というような用語は、明細書上に記載された特徴または構成要素が存在するということを意味するものであり、1以上の他の特徴または構成要素が付加される可能性を事前に排除するものではない。
【0025】
以下の実施例において、膜、領域、構成要素のような部分が、他の部分の「上」または「上部」にあるとするとき、他の部分の真上にある場合だけではなく、その中間に、他の膜、領域、構成要素などが介在されている場合も含む。
【0026】
図面においては、説明の便宜のために、構成要素が、その大きさが誇張されてもあり、縮小されてもいる。例えば、図面に示された各構成の大きさ及び厚みは、説明の便宜のために任意に示されているので、本発明は、必ずしも図示されているところに限定されるものではない。
【0027】
ある実施例が異なって具現可能である場合、特定の工程順序は、説明される順序と異なるようにも遂行される。例えば、連続して説明される2つの工程が、実質的に同時に遂行されもよいし、説明される順序と反対の順序にも進められる。
【0028】
以下、添付された図面を参照し、本発明の実施例について詳細に説明するが、図面を参照して説明するとき、同一であるか、あるいは対応する構成要素は、同一図面符号を付すことにする。
【0029】
図1は、本発明の一実施例による熱間プレス用鋼板の断面を図示した断面図である。
【0030】
図1を参照すれば、本発明の一実施例による熱間プレス用鋼板10は、ベース鋼板100、及び前記ベース鋼板100の上に位置したメッキ層200を含むものでもある。
【0031】
ベース鋼板100は、所定の合金元素を所定含量含むように鋳造された鋼スラブに対し、熱延工程及び冷延工程を進めて製造された鋼板でもある。一例として、ベース鋼板100は、炭素(C)、シリコン(Si)、マンガン(Mn)、リン(P)、硫黄(S)、アルミニウム(Al)、窒素(N)、残部の鉄(Fe)、及びその他不可避な不純物を含むものでもある。また、ベース鋼板100は、ニオブ(Nb)、チタン(Ti)、クロム(Cr)、モリブデン(Mo)及びボロン(B)のうち1以上の成分をさらに含むものでもある。
【0032】
炭素(C)は、ベース鋼板100の強度及び硬度を決定する主要元素であり、熱間プレス工程以後、ベース鋼板100の引っ張り強度を確保し、焼き入れ性特性を確保するための目的で添加される。そのような炭素は、ベース鋼板100全体重量につき、0.01wt%ないし0.5wt%で含まれるものでもある。炭素含量が0.01wt%未満である場合、ベース鋼板100の機械的強度を確保し難く、一方、炭素含量が0.5wt%を超えれば、ベース鋼板100の靭性低下または脆性制御の問題が引き起こされうる。
【0033】
シリコン(Si)は、ベース鋼板100内のフェライト安定化元素と作用する。シリコン(Si)は、固溶強化元素であり、ベース鋼板100の軟性を向上させ、低温域炭化物の形成を抑制することにより、オステナイト内の炭素濃化度を向上させることができる。また、シリコン(Si)は、熱延、冷延、熱間プレス組織均質化(パーライト、マンガン偏析帯の制御)及びフェライト微細分散の核心元素である。そのようなシリコンは、ベース鋼板100全体重量につき、0.01wt%ないし1.0wt%含まれるものでもある。シリコンが0.01wt%未満に含まれる場合、前述の効果が得難く、反対に、シリコン含量が1.0wt%を超えれば、熱延負荷、冷延負荷が増大し、熱延赤スケールが過多になり、ベース鋼板100のメッキ特性が低下されてしまう。
【0034】
マンガン(Mn)は、熱処理時、焼き入れ性及び強度の増大目的で添加される。マンガンは、ベース鋼板100全体重量につき、0.5wt%ないし3.0wt%含まれるものでもある。マンガン含量が0.5wt%未満であるならば、結晶粒微細化効果が十分ではなく、熱間プレス後、成形品内の硬質相分率が十分ではない。一方、マンガン含量が3.0wt%を超えれば、マンガン偏析、またはパーライトバンドによる軟性及び靭性が低下され、曲げ性能低下の原因になり、不均質微細組織が生じてしまう。
【0035】
リン(P)は、ベース鋼板100の靭性低下を防止するために、ベース鋼板100全体重量につき、0超過0.05wt%以下で含まれるものでもある。リンが0.05wt%を超え、ベース鋼板100に含まれれば、リン化鉄化合物が形成されて靭性が低下され、製造工程中、ベース鋼板100にクラックが誘発されてしまう。
【0036】
硫黄(S)は、ベース鋼板100全体重量につき、0超過0.01wt%以下含まれるものでもある。硫黄含量が0.01wt%を超えれば、熱間加工性が低下され、巨大介在物生成により、クラックのような表面欠陥が生じてしまう。
【0037】
アルミニウム(Al)は、ベース鋼板100中の酸素を除去するための脱酸剤の役割を行う。アルミニウムは、ベース鋼板100全体重量につき、0超過0.1wt%以下で含まれるものでもある。アルミニウム含量が0.1wt%を超えれば、製鋼時、ノズル詰まりの原因になり、鋳造時、アルミニウム酸化物などによって熱間脆性が生じ、ベース鋼板100にクラックが生じたり、軟性が低下されたりしてしまう。
【0038】
一方、ベース鋼板100に窒素(N)が多量に含まれれば、固溶窒素量が増加し、ベース鋼板100の衝撃特性及び延伸率が低下され、継ぎ目部の靭性が低下されてしまう。従って、窒素は、ベース鋼板100全体重量につき、0超過0.001wt%以下で含まれることが望ましい。
【0039】
ニオブ(Nb)は、マルテンサイト(martensite)パケットサイズ(packet size)低減による強度及び靭性の増大を目的に添加される。ニオブは、ベース鋼板100全体重量につき、0.005wt%ないし0.1wt%含まれるものでもある。ニオブが前記範囲で含まれるとき、熱間圧延工程及び冷間圧延工程において、鋼材の結晶粒微細化効果にすぐれ、製鋼/連鋳時、スラブのクラック発生と、製品の脆性破断発生とを防止し、製鋼性の粗大析出物生成を最小化させることができる。
【0040】
チタン(Ti)は、熱間プレス熱処理後、析出物形成による焼き入れ性強化及び材質上昇を目的に添加されうる。また、高温において、Ti(C,N)などの析出相を形成し、オステナイト結晶粒微細化に効果的に寄与する。チタンは、ベース鋼板100全体重量につき、0.005wt%ないし0.1wt%含まれるものでもある。チタンが前記含量範囲で含まれれば、連鋳不良及び析出物粗大化を防止し、鋼材の物性を容易に確保することができ、鋼材表面におけるクラック発生のような欠陥を防止することができる。
【0041】
クロム(Cr)は、ベース鋼板100の焼き入れ性及び強度を向上させる目的で添加される。クロムは、ベース鋼板100全体重量につき、0.01wt%ないし0.5wt%含まれるものでもある。クロムが前記範囲で含まれるとき、ベース鋼板100の焼き入れ性及び強度を向上させ、生産費上昇と、鋼材の靭性低下とを防止することができる。
【0042】
モリブデン(Mo)は、熱間圧延及び熱間プレスの間、析出物の粗大化抑制及び焼き入れ性上昇を介し、ベース鋼板100の強度向上に寄与することができる。そのようなモリブデン(Mo)は、ベース鋼板100全体重量につき、0.001wt%ないし0.008wt%で含まれるものでもある。
【0043】
ボロン(B)は、マルテンサイト組織を確保することにより、ベース鋼板100の焼き入れ性及び強度を確保する目的で添加され、オステナイト結晶粒成長温度上昇により、結晶粒微細化効果を有する。ボロンは、ベース鋼板100全体重量につき、0.001wt%ないし0.008wt%で含まれるものでもある。ボロンが前記範囲で含まれるとき、硬質相粒界脆性発生を防止し、高靭性と曲げ性とを確保することができる。
【0044】
メッキ層200は、ベース鋼板100の少なくとも一面に、10μmないし50μmの厚みに形成され、アルミニウム(Al)を含む。ここで、メッキ層200の厚みは、メッキ層200全体面積にわたるメッキ層200の平均厚を意味する。メッキ層200の厚みが10μm未満である場合、耐食性が低下され、メッキ層200の厚みが50μmを超えれば、熱間プレス用鋼板10の生産性が低下され、熱間プレス工程中、ローラまたは金型にメッキ層200が付着され、ベース鋼板100からメッキ層200が剥離されてしまう。
【0045】
メッキ層200は、ベース鋼板100上に順次に積層された拡散層210と、表面層220とを含むものでもある。
【0046】
表面層220は、アルミニウム(Al)を80wt%以上含む層であり、ベース鋼板100の酸化などを防止する。拡散層210は、ベース鋼板100のFeと、メッキ層200のAlとが相互拡散されて形成され、アルミニウム・鉄(Al-Fe)化合物及びアルミニウム・鉄・シリコン(Al-Fe-Si)化合物を含むものでもある。拡散層210は、鉄(Fe)20wt%ないし60wt%、アルミニウム(Al)30wt%ないし80wt%、及びシリコン(Si)0.1wt%ないし40wt%を含むものでもある。
【0047】
そのような拡散層210は、表面層220に比べ、高融点を有するので、熱間プレス工程時、表面層220が溶融され、Alがベース鋼板100の組織内に浸透する液体金属脆化現象(liquid metal embrittlement)が生じることを防止することができる。
【0048】
そのために、メッキ層200の断面積に対する拡散層210の断面積の比率である拡散層210の面積分率(拡散層210断面積÷メッキ層200断面積)は、10%ないし35%でもある。ここで、メッキ層200の断面積と拡散層210の断面積は、同一の任意の位置における断面積を意味する。それは、以下において、他層に係わる面積分率にも、同一に適用されうる。
【0049】
拡散層210は、ベース鋼板100上に順次に位置し、それぞれシリコンを含むFe-Al合金化層212及びFe-Al金属間化合物層214を含むものでもある。
【0050】
Fe-Al合金化層212は、Al 50wt%ないし75wt%、Fe 10wt%ないし50wt%、Si 0.1wt%ないし15wt%を含み、4.0g/cmないし4.8g/cmの密度を有することができる。一例として、Fe-Al合金化層212は、AlFeを含み、拡散層210より高い硬度を有することができる。
【0051】
そのようなFe-Al合金化層212は、液体金属脆化現象を防止する役割を遂行する。ただし、Fe-Al合金化層212は、硬質相によってなり、熱間プレス工程中にも、硬度が高く維持されるために、熱間プレス工程時、クラック発生を誘発し、熱間プレス用鋼板10の成形性低下を引き起こしてしまう。従って、液体金属脆化現象を防止し、熱間プレス用鋼板10の成形性低下を防止するために、Fe-Al合金化層212の平均厚は、50nmないし500nm、望ましくは、50nmないし300nmにも形成される。また、拡散層210に対するFe-Al合金化層212の面積分率は、2.0%ないし15.5%でもある。
【0052】
Fe-Al金属間化合物層214は、Al 35wt%ないし85wt%、Fe 25wt%ないし45wt%、Si 8wt%ないし30wt%を含み、2.9g/cmないし5.6g/cmの密度を有することができる。Fe-Al金属間化合物層214は、Fe-Al合金化層212に比べ、低い硬度を有し、熱間プレス用鋼板10の熱間プレス工程時、圧着力に対する緩衝作用を行うことにより、メッキ層200にクラックが生じることを防止することができる。
【0053】
さらに具体的には、熱間プレスのための加熱時、メッキ層200とベース鋼板100との間に、さらなる相互拡散が起こるが、このとき、Fe-Al合金化層212は、相対的に高い硬度を維持するが、Fe-Al金属間化合物層214は、タウ相または/及びAlFeを形成し、硬度が低くなってしまう。従って、拡散層210が、熱間プレス工程時、圧着力に対する緩衝作用を行うことができるFe-Al金属間化合物層214を含むことにより、耐クラック性が向上されうる。
【0054】
そのような、Fe-Al金属間化合物層214は、拡散層210に対する面積分率が84.5%ないし98.0%でもある。拡散層210の断面積に対するFe-Al金属間化合物層214の断面積が84.5%以上に形成されれば、熱間プレス工程中、メッキ層200にクラックを誘発する外力を、Fe-Al金属間化合物層214が効果的に吸収することができる。しかしながら、拡散層210に対するFe-Al金属間化合物層214の面積分率が98.0%を超えれば、相対的に、Fe-Al合金化層212の平均厚が薄くなり、液体金属脆化現象を防止し難くなり、後述するAlを溶融させるためのメッキ浴の温度範囲において、面積分率が98.0%を超過するFe-Al金属間化合物層214を確保することが極めて困難になる。
【0055】
また、Fe-Al金属間化合物層210は、順次に積層された第1層215及び第2層217を含むものでもある。第1層215と第2層217は、それぞれSiを含むFe-Al金属間化合物によって形成されるものの、第1層215の第1硬度が、第2層217の第2硬度より低く形成されうる。すなわち、Fe-Al合金化層212、第2層217及び第1層215の順序に高い硬度値を有することができる。従って、熱間プレス工程中、各層の相変化が生じたり、各層の位置が変更されたりしても、クラック発生ないし成形性低下を誘発する外力を吸収することができる層構造を有させうる。
【0056】
Fe-Al金属間化合物層214は、Siの固溶度が低いFe-Al合金化層212上に形成されるので、第1層215は、メッキ層200の表面を向け、Si含量がだんだんと増加し、第2層は、第1層215に比べ、相対的にAl含量が多く、Si含量が少なくなる。
【0057】
例えば、第1層215は、Al 35wt%ないし51wt%、Fe 25wt%ないし45wt%、Si 15wt%ないし30wt%を含み、4.6g/cmないし5.6g/cmの密度を有することができる。第2層217は、Al 55wt%ないし85wt%、Fe 10wt%ないし30wt%、Si 8wt%ないし25wt%を含み、2.9g/cmないし3.9g/cmの密度を有することができる。また、Fe-Al合金化層212、第2層217及び第1層215の順序に、高いAl含量(wt%)値を有し、第2層217、第1層215及びFe-Al合金化層212の順序に、高いSi含量(wt%)値を有することができる。従って、熱間プレス工程中、各層の相変化が生じたり、各層の位置が変更されたりしても、クラック発生ないし成形性低下を誘発する外力を吸収することができる層構造を有するようにすることもできる。
【0058】
すなわち、Fe-Al合金化層212、第1層215及び第2層217において、Alの含量は、第1層215において、最も少なく、Siの含量は、第1層215において、最も多く含まれ、それにより第1層215の硬度が最も低く形成されうる。
【0059】
第1層215は、熱間プレス工程中、メッキ層200にクラックを誘発する外力を吸収し、メッキ層200にクラックが生じることを防止する役割を行うことができる。また、熱間プレス工程中、第1層215に比べ、相対的に高い硬度を有する第2層217またはFe-Al合金化層212にクラックが生じても、軟質の第1層215が緩衝作用を行うだけではなく、熱間プレス工程中に形成される界面において、クラック伝播が遮断され、第2層217またはFe-Al合金化層212で発生したクラックが、ベース鋼板100またはメッキ層200に伝達されることを効果的に遮断することができる。従って、Fe-Al金属間化合物層214が、第1層215と第2層217との積層構造を有すれば、熱間プレス工程時、熱間プレス用鋼板10にクラックが生じることをさらに効果的に防止するか、あるいは最小化させることができる。
【0060】
第2層217は、熱間プレス工程中、外力を吸収する役割と共に、メッキ層200の付着力を向上させることができる。第2層217は、第1層215に比べ、Alの含量が多く、Siの含量が少ないので、Fe-Al合金化層212及び第1層215に比べ、表面層220とさらに類似した組成を有することになるが、第2層217は、メッキ層200の密着力を向上させることができる。
【0061】
一方、第1層215の平均厚が50nmより薄ければ、熱間プレス工程中、メッキ層200にクラックを誘発する外力を吸収する効果が急減し、一方、第1層215の平均厚が500nmより厚ければ、AlとFeとの拡散速度の差によるカーケンドールボイド(Kirkendall void)が生じ、それによる溶接性などの性能が低減しうる。従って、第1層215の平均厚は、50nmないし500nm、望ましくは、50nmないし300nmに形成されうる。
【0062】
また、第2層217の平均厚が1μmより薄ければ、熱間プレス工程中、Feの拡散により、脆性が高いFeAl層が形成され、メッキ層200にクラックが生じたり、メッキ層200の剥離が生じたりしうる。一方、第2層217の平均厚が16μmより厚ければ、熱間プレス工程後、メッキ層200内に残留する応力が増大し、メッキ層200にクラックが生じたり、メッキ層200の剥離が生じたりしうる。従って、第2層217の平均厚は、1μmないし16μmに形成されうる。
【0063】
そのように、Fe-Al金属間化合物層214が、第1層215と第2層217との積層構造を有すれば、メッキ層200にクラックが生じることをさらに効果的に防止するだけではなく、表面層220の接合力が向上され、メッキ層200の安定性にすぐれることになる。
【0064】
図2は、図1の熱間プレス用鋼板の製造方法を概略的に図示したフローチャートである。以下においては、図1及び図2を共に参照し、熱間プレス用鋼板の製造方法について説明する。
【0065】
本発明の一実施例による熱間プレス用鋼板の製造方法は、鋼スラブの熱間圧延段階(S310)、冷却/巻き取り段階(S320)、冷間圧延段階(S330)、焼きなまし熱処理段階(S340)及び溶融メッキ段階(S350)を含むものでもある。
【0066】
まず、メッキ鋼板を形成する工程の対象になる半製品状態の鋼スラブを準備する。前記鋼スラブは、炭素(C)0.01wt%ないし0.5wt%、シリコン(Si)0.01wt%ないし1.0wt%、マンガン(Mn)0.5wt%ないし3.0wt%、リン(P)0超過0.05wt%以下、硫黄(S)0超過0.01wt%以下、アルミニウム(Al)0超過0.1wt%以下、窒素(N)0超過0.001wt%以下、残部の鉄(Fe)、及びその他不可避な不純物を含むものでもある。また、前記鋼スラブは、ニオブ(Nb)0.005wt%ないし0.1wt%、チタン(Ti)0.005wt%ないし0.1wt%、クロム(Cr)0.01wt%ないし0.5wt%、モリブデン(Mo)0.001wt%ないし0.008wt%、及びボロン(B)0.001wt%ないし0.008wt%のうち1以上の成分をさらに含むものでもある。
【0067】
熱間圧延のために、前記鋼スラブの再加熱段階が進められる。前記鋼スラブ再加熱段階においては、連続鋳造工程を介して確保された鋼スラブを、所定温度に再加熱することを介し、鋳造時、偏析された成分を再固溶することになる。一実施例において、スラブ再加熱温度(SRT:slab reheating temperature)は、1,200℃ないし1,400℃でもある。スラブ再加熱温度(SRT)が1、200℃より低い場合には、鋳造時、偏析された成分が十分に再固溶されず、合金元素の均質化効果を大きくすることが困難であり、チタン(Ti)の固溶効果を大きくすることが困難であるという問題点がある。スラブ再加熱温度(SRT)は、高温であればあるほど、均質化に有利であるが、1,400℃を超える場合には、オステナイト結晶粒度が増大し、強度確保が困難であるだけではなく、過度な加熱工程により、鋼板の製造コストが上昇してしまうだけでもある。
【0068】
熱間圧延段階(S310)においては、再加熱された鋼スラブを、所定の仕上げ圧延温度(FDT:finishing delivery temperature)において熱間圧延する。一実施例において、仕上げ圧延温度(FDT)は、880℃ないし950℃でもある。このとき、仕上げ圧延温度(FDT)が880℃より低ければ、異常領域圧延による混粒組織が生じ、鋼板の加工性確保が困難であり、微細組織不均一により、加工性が低下されるという問題があるだけではなく、急激な相変化により、熱間圧延中、通板性の問題が生じる。仕上げ圧延温度(FDT)が950℃を超える場合には、オステナイト結晶粒が粗大化される。また、TiC析出物が粗大化され、最終部品性能が低下される危険性がある。
【0069】
冷却/巻き取り段階(S320)においては、熱間圧延された鋼板を、所定の巻き取り温度(CT:coiling temperature)まで冷却して巻き取る。一実施例において、前記巻き取り温度は、550℃ないし800℃でもある。前記巻き取り温度は、炭素(C)の再分配に影響を及ぼし、該巻き取り温度が550℃である場合には、過冷による低温相分率が高くなり、強度が増大し、冷間圧延時の圧延負荷が大きくなる憂いがあり、軟性が急激に低下されるという問題点がある。反対に、巻き取り温度が800℃を超える場合には、異常結晶粒子成長や、過度な結晶粒子成長により、成形性及び強度の劣化が生じる問題がある。
【0070】
冷間圧延段階(S330)においては、巻き取られた鋼板をアンコイリング(uncoiling)し、酸洗い処理を施した後、冷間圧延する。このとき、該酸洗いは、巻き取られた鋼板、すなわち、前述の熱延過程を介して製造された熱延コイルのスケールを除去するための目的で実施される。
【0071】
焼きなまし熱処理段階(S340)は、前記冷延鋼板を700℃以上の温度で焼きなまし熱処理する段階である。一具体例において、該焼きなまし熱処理は、冷延板材を加熱し、加熱された冷延板材を、所定の冷却速度で冷却する段階を含む。
【0072】
溶融メッキ段階(S350)は、焼きなまし熱処理された鋼板に付き、メッキ層を形成する段階である。一実施例において、溶融メッキ段階(S350)において、前記焼きなまし熱処理された鋼板、すなわち、ベース鋼板100上に、Al-Siメッキ層200を形成することができる。
【0073】
具体的には、溶融メッキ段階(S350)は、ベース鋼板100を、650℃ないし700℃の温度を有するメッキ浴に浸漬させ、ベース鋼板100表面に、溶融メッキ層を形成させる段階と、前記溶融メッキ層が形成された前記ベース鋼板100を冷却させ、メッキ層200を形成させる冷却段階と、を含むものでもある。
【0074】
メッキ浴は、Si 4wt%ないし12wt%、Fe 1.0wt%ないし4.0wt%、及び残部のAlを含むものでもある。特に、メッキ浴に含まれたSiは、メッキ層200の形成時、Fe-Al合金化層212の成長を抑制することができる。従って、Siの含量が4wt%より少なければ、Fe-Al合金化層212が過度に厚く形成され、熱間プレス用鋼板10の成形性が低下され、熱間プレス用鋼板10にクラックが容易に生じてしまう。一方、Siの含量が12wt%より多ければ、Fe-Al金属間化合物層214、特に、第2層217の成長が優勢になってしまう。従って、メッキ浴内のSiの含量を調節することにより、拡散層210に対するFe-Al合金化層212の面積分率を、2.0%ないし15.5%に制限することができ、それにより、Fe-Al金属間化合物層214が、拡散層210に対する84.5%ないし98.0%の面積分率に形成され、熱間プレス工程中、メッキ層200にクラックが生じることを効果的に防止したり、最小化させたりすることができる。
【0075】
それ以外に、メッキ浴は、添加元素として、Mn、Cr、Mg、Ti、Zn、Sb、Sn、Cu、Ni、Co、In、Biなどが含まれるものでもある。
【0076】
溶融メッキ層が形成された前記ベース鋼板100を冷却させる冷却段階は、ベース鋼板100を、メッキ浴の温度から550℃まで、第1平均冷却速度で冷却する第1冷却段階と、前記ベース鋼板100を、550℃から常温まで、第2平均冷却速度で冷却する第2冷却段階と、を経ることができるが、このとき、該第1平均冷却速度は、該第2平均冷却速度よりも速い。例えば、該第1平均冷却速度は、20℃/s以上であり、メッキ浴の温度から常温まで冷却される全体平均冷却速度は、1℃/sないし50℃/sでもある。
【0077】
また、ベース鋼板100上に溶融メッキ層を形成するために、ベース鋼板100は、メッキ浴を通過することができるが、このとき、該メッキ浴を通過するベース鋼板100の通過速度は、1mpmないし250mpmでもある。
【0078】
このように、ベース鋼板100がメッキ浴を、1mpmないし250mpmの速度で通過した後、第1冷却段階と第2冷却段階を遂行することにより、Fe-Al金属間化合物層214が順次に積層された第1層215及び第2層217を含むようにも形成される。
【0079】
形成されるメッキ層200は、Al-Siメッキ層でもあり、ベース鋼板100の両面基準で、40g/mないし200g/mにメッキされることによって形成されるか、あるいは10μmないし50μmの厚みを有して形成されうる。そのために、溶融メッキ層が形成されたベース基板100を冷却する前、空気またはガスを、ベース基板100上に噴射し、溶融メッキ層をワイピングすることにより、該溶融メッキ層の厚みを調節することができる。
【0080】
以下においては、実施例を介し、本発明についてさらに詳細に説明する。しかしながら、下記の実施例は、本発明について、さらに具体的に説明するためのものであり、本発明の範囲は、下記の実施例によって限定されるものではない。下記の実施例は、本発明の範囲内において、当業者によって適切に修正されたり変更されたりされうる。
【0081】
<熱間プレス用鋼板の製造>
下記成分の鋼スラブに対し、熱間圧延、冷却/巻き取り、冷間圧延及び焼きなまし熱処理を施し、ベース鋼板(板厚1.2mm)を形成した後、ベース鋼板の表面に、溶融メッキを施し、メッキ層を形成することにより、熱間プレス用鋼板を製造した。
【0082】
【表1】
【0083】
溶融Alメッキは、無酸化炉・還元炉タイプのラインを使用し、メッキ後、ガスワイピングでもって、溶融メッキ層の付着量を、片面50g/mないし90g/mまで調節した後、冷却して行った。このとき、メッキ浴は、600℃ないし700℃の温度範囲において、Si 7wt%、Fe 2.5wt%、及び残部のAlの成分を含むように設定した。また、ベース鋼板は、100mpmないし200mpmの速度で、鋼板をしてメッキ浴を通過させた後、常温まで、平均冷却速度25℃/sで冷却し、熱間プレス用鋼板を製造した。
【0084】
<熱間プレス工程後のコーティング層のクラック検査>
溶融メッキ層のワイピング、メッキ浴温度ないしベース鋼板のメッキ浴の通過速度(浸漬時間)を調節し、下記表2におけるように、メッキ層平均厚、メッキ層対比における拡散層の面積分率、拡散層対比におけるFe-Al合金化層面積分率、及び拡散層対比におけるFe-Al金属間化合物層面積分率が異なる試片詩編を製造した後、それを、Ac3以上の温度まで加熱した後、プレスで外力を加えると共に、急冷を行い、メッキ層に生じたクラックの個数を測定した。具体的には、試片からサンプルを採取し、メッキ層対比における拡散層の面積分率、拡散層対比におけるFe-Al合金化層面積分率、及び拡散層対比におけるFe-Al金属間化合物層面積分率を測定した後、試片を、3℃/s以上の平均昇温速度でもって、Ac3以上の温度まで加熱した後、プレスで外力を加えると共に、300℃以下まで、平均速度30℃/s以上で急冷を行った後、試片において、任意の3個地点における 単位長(mm)当たり、メッキ層に生じたクラック個数を測定した。
【0085】
【表2】
【0086】
前述の表2から分かるように、拡散層対比におけるFe-Al金属間化合物層面積分率が、84.5%ないし98.0%範囲内に形成された実施例1ないし実施例7の場合が、拡散層対比におけるFe-Al金属間化合物層面積分率が84.5%より低く形成された比較例1ないし比較例6に比べ、メッキ層に生じたクラックの個数がはるかに少ないということが分かる。それは、拡散層対比におけるFe-Al金属間化合物層面積分率が84.5%以上に形成され、熱間プレス工程中、メッキ層にクラックを誘発する外力を効果的に吸収するためであり、その結果、メッキ層にクラックが生じることを防止するかあるいは最小化させることができる。一方、前述のように、Fe-Al金属間化合物層の面積分率が98.0%を超えれば、相対的に、Fe-Al合金化層の平均厚が薄くなり、液体金属脆化現象を防止し難くもなり、前述のようなメッキ浴の温度範囲において、面積分率が98.0%を超えるFe-Al金属間化合物層を確保することが極めて困難である。
【0087】
下記表3は、表2において、実施例1ないし7以外に、それと同一条件でメッキ浴を通過させたベース鋼板を、550℃までは、平均冷却速度15℃/sで冷却し、550℃から常温までは、平均冷却速度30℃/sで冷却し、熱間プレス用鋼板を製造した後、前述の表2と同一条件で試片を製造した後、それを、Ac3以上の温度まで加熱した後、プレスで外力を加えると共に、急冷を行い、メッキ層に生じたクラックの個数を測定した結果である。
【0088】
【表3】
【0089】
前述の表3から分かるように、メッキ浴の温度から常温まで、平均冷却速度25℃/sで冷却させた実施例1ないし実施例7は、Fe-Al金属間化合物層構造が1層に形成されるに対し、ベース鋼板を、550℃までは、平均冷却速度15℃/sで冷却させ、550℃から常温までは、平均冷却速度30℃/sで冷却させた実施例8ないし実施例17の場合は、Fe-Al金属間化合物層構造が、第1層と第2層とが積層された2層構造を有することが分かり、Fe-Al金属間化合物層が2層構造を有するとき、メッキ層に生じるクラックの個数がさらに減少するということが分かる。
【0090】
それは、前述のように、第1層と第2層とがクラックを誘発する外力を吸収する緩衝作用を行うだけではなく、硬質のFe-Al合金化層にクラックが生じても、熱間プレス工程中に形成される界面において、クラック伝播は、Fe-Al合金化層で生じたクラックが、メッキ層に伝達されることが遮断されるためである。それだけではなく、Fe-Al金属間化合物層が2層構造を有することにより、メッキ層がすぐれた接合力を有して形成されうる。
【0091】
以上のように、本発明は、図面に図示された一実施例を参照して説明されたが、それらは、例示的なものに過ぎず、当該分野において当業者であるならば、それらから、多様な変形、及び実施例の変形が可能であるという点を理解するであろう。従って、本発明の真の技術的保護範囲は、特許請求の範囲の技術的思想によって定められるものである。
図1
図2