(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-17
(45)【発行日】2024-06-25
(54)【発明の名称】相転移光学デバイス
(51)【国際特許分類】
G02F 1/13 20060101AFI20240618BHJP
【FI】
G02F1/13 505
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2023084813
(22)【出願日】2023-05-23
(62)【分割の表示】P 2020541865の分割
【原出願日】2019-01-29
【審査請求日】2023-05-26
(32)【優先日】2018-01-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】518007555
【氏名又は名称】エシロール・アンテルナシオナル
(73)【特許権者】
【識別番号】515011944
【氏名又は名称】ウニヴェルシテ・ドゥ・モンペリエ
(73)【特許権者】
【識別番号】506316557
【氏名又は名称】サントル ナショナル ドゥ ラ ルシェルシュ シアンティフィック
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】サミュエル・アルシャンボー
(72)【発明者】
【氏名】クロディーヌ・ビヴェール
(72)【発明者】
【氏名】パスカル・エティエンヌ
(72)【発明者】
【氏名】シルヴィ・キャラ・エティエンヌ
(72)【発明者】
【氏名】ローラン・ボネ
【審査官】横井 亜矢子
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2016/0160557(US,A1)
【文献】特開平11-183937(JP,A)
【文献】特表2014-501396(JP,A)
【文献】特開2013-088466(JP,A)
【文献】特表2008-537608(JP,A)
【文献】特表2008-502016(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第107817627(CN,A)
【文献】Dayeon Jung et al.,,Inorganic gel and liquid crystal based smart win dow using silica sol-gel process,Solar Energy Materials & Solar Cell,159(2017),2016年10月12日,488-495
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02C 1/00-13/00
G02F 1/13,1/137-1/141
G02F 1/133,1/1333,1/1334
G02F 1/1339-1/134
G02F 1/1347
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
-カプセル構造内に配置されたエアロジェルと、
-前記エアロジェル内に埋め込まれた、電界に晒されると変更され得る屈折率を提示する、液晶混合物である光学的異方性材料と、
-前記カプセル構造内に電界を生成するように配置された第1及び第2の電極と、
を含む光学デバイスであって、
前記光学デバイスは、眼鏡レンズであり、
前記光学的異方性材料は、いかなる電界も前記カプセル構造内において印加されない場合には、等方性状態に在り、
前記カプセル構造は、エアロジェルにより隔てられた2つの面であってそれぞれが前記第1及び第2の電極の1つを支持する面を有し、
前記第1及び第2の電極は、透明であり、入射光に対し垂直に互いに向かい合って配置されている、光学デバイス。
【請求項2】
前記エアロジェルは、80%より大きい気孔率を有する、請求項1に記載の光学デバイス。
【請求項3】
前記光学的異方性材料は、ネマティック液晶混合物である、請求項1又は2のいずれか一項に記載の光学デバイス。
【請求項4】
前記エアロジェルは、高分子結合剤中に混合された、テトラ-メトキシシラン、テトラエトキシシラン、トリメトキシシラン、又はメチルトリメトキシシランの残余の部分を含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の光学デバイス。
【請求項5】
前記エアロジェルは、テトラ-メトキシシラン、テトラエトキシシラン、トリメトキシシラン及びメチルトリメトキシシランからなる群のうちの1つと、高分子結合剤とを混合することにより製造される、請求項1~4のいずれか一項に記載の光学デバイス。
【請求項6】
前記高分子結合剤は、50,000g/molより大きい、好適には100,000g/molより大きい重量平均分子量を有するポリ酢酸ビニル高分子である、請求項4又は5に記載の光学デバイス。
【請求項7】
前記カプセル構造は、前記エアロジェルにより完全に満たされ、前記エアロジェルは、10μmより大きい、好適には20μmより大きい、より好適には50μmより大きい厚さを有する、請求項1~6のいずれか一項に記載の光学デバイス。
【請求項8】
前記第1及び第2の電極は、前記カプセル構造内で生成された前記電界を制御するように構成された電子デバイスと、電源とへリンクされる、請求項1~7のいずれか一項に記載の光学デバイス。
【請求項9】
a.
2つの面を有するカプセル構造を提供する工程
であって、前記2つの面のそれぞれの面が、前記カプセル構造内に電界を生成するように配置された第1及び第2の電極のうちの1つを支持し、前記第1及び第2の電極が、透明であり、かつ、向かい合って配置される、工程と、
b.
前記2つの面の間の前記カプセル構造の内部のエアロジェル内に埋め込まれた液晶混合物であって、電界に晒されると変更され得る屈折率を提示
し、かつ、いかなる電界も前記カプセル構造内において印加されない場合には等方性状態に在る、液晶混合物を提供する工程と
、
c.前記第1及び第2の電極が眼鏡レンズへの入射光に対し垂直に互いに向かい合って配置されるように、眼鏡レンズに前記カプセル構造を含めることによって眼鏡レンズを得る工程
を含む、請求項1に記載の眼鏡レンズを製造する方法。
【請求項10】
工程bは、エアロジェルを形成する第1の副工程と、液晶混合物を前記エアロジェル内へ埋め込む第2の副工程とを含む、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記第1の副工程は、
a.溶剤、高分子結合剤及びシリコンベース単量体を含む組成物を提供することと、
b.成形用ゲルを前記カプセル構造に合う形状に整形しながら、前記組成物中の前記シリコンベース単量体の加水分解を引き起こして、ゲル化試料を形成することと、
c.前記ゲル化試料をアルコール雰囲気中に置くことと、
を含む、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記第1の副工程はさらに、
a.前記ゲル化試料内に残る前記溶剤を液体CO
2により置換する工程と、
b.前記液体CO
2が超臨界CO
2へ変化するような条件を提供する工程と、
c.得られた試料を冷却しエアロジェル試料にする工程と、
d.前記液晶混合物を前記エアロジェル試料内に埋め込む工程と、
含む、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
請求項1~8のいずれか一項に記載の眼鏡レンズである光学デバイスの屈折率を変更する方法であって、
a.第1の電圧を提示する第1の電界を生成することにより前記光学デバイスを第1のモードで操作する工程と、
b.前記第1の電圧とは異なる第2の電圧を提示する第2の電界を生成することにより第2のモードへ切り替える工程と
からなる2つの工程を含み、
前記第1の電圧及び前記第2の電圧の一方は前記液晶混合物の液晶を配向するように選択され、前記第1の電圧及び第2の電圧の他方は0Vである、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は光学デバイスの分野に関し、より具体的には能動的光学デバイスの分野に関する。
【背景技術】
【0002】
可変屈折率を有する光学デバイスは、特にアイウェアの分野においてますます多くの用途を有する。これらのデバイスは通常、電界に晒されるとその配向及び光学特性が変化する液晶を組み込んでいる。しかし、液晶はほとんどの場合、それらの配向の少なくとも1つの配向において複屈折性であるために偏光子と共に使用される必要がある。偏光子は高価であり、光学デバイスの全体的透明性を低減する。したがって、これらは眼科使用には適さない。
【0003】
能動的光学デバイス内の偏光子の必要性を回避するために、交差配向を有する2層の液晶を含む系を使用することが知られている。しかし、このような系は、両方の層が全く同じ厚さを提示する必要があるので実現するには複雑である。さらに、このような系特性は光の入射角に依存し、種々の用途に不向きにする。
【0004】
偏光子に対する別の知られた代案はコレステリック液晶を使用することにその本質がある。しかし、コレステリック液晶は光拡散化合物であり、そもそも配向するのが困難である。
【0005】
高分子分散液晶(PDCL:polymer dispersed crystal liquid)は、偏光子非依存の代替案を構成するが、それらの層が概して光拡散性であるので満足するものではなく、屈折率の満足な変化を可能にするのに十分な液晶を含まない。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0006】
したがって、その屈折率が顕著に変更され得る透明光学デバイスを提供する必要がある。最も重要なことには、このような光学デバイスは偏光子非依存性である必要があり且つ光拡散性であってはならない。
【0007】
本発明は、
-カプセル構造内に配置されたエアロジェルと、
-エアロジェル内に埋め込まれた、電界に晒されると変更され得る屈折率を提示する光学的異方性材料(優先的には液晶混合物)と、
-カプセル構造内に電界を生成するように配置された第1及び第2の電極と、
を含み、眼鏡レンズの部品に好適である、光学デバイスによって、この必要性に答える。
【0008】
好適には、光学デバイスは眼鏡レンズである、又は眼鏡レンズの部品である。
【0009】
エアロジェルは、液相が気体により置換された、ゲルに類似した材料である。エアロジェルは超多孔性材料であり、その気孔率は通常、それらの容積の少なくとも75%に達する。このような高気孔率は、有利な特性をこれらの固体へ与える。実際、エアロジェルは、空気屈折率に近い(n<1.35)、非常に低い屈折率を示し、また非常に軽い。エアロジェルは通常、毛管応力に対し非常に脆弱であり、外気中に存在する水の量は亀裂をエアロジェル内に誘起するのに十分であり得る。
【0010】
カプセル構造は、亀裂が大抵の光学デバイス中では非常に好ましくないので、本発明のエアロジェルを外気から保護することを可能にする。
【0011】
本発明は、液晶などの光学的異方性材料が、エアロジェル内に埋め込まれると、等方性状態となることを見出したことにより、上述の技術的問題を解決する。この理論により縛られること無く、本出願人は、これは「エアロジェル気孔が光学的異方性材料分子に立体的制約を誘起するには十分に小さく、したがっていかなる電界にも晒されない場合にこれらが互いに配向し合うことを防ぐ」ということのおかげであると考える。
【0012】
電極は、光学的異方性材料を埋め込むカプセル構造内に電界を生成することができるように配置され、したがって光学的異方性材料を配向し、そして光学デバイス全体の屈折率を修正する。カプセル構造は通常、エアロジェルにより分離された2つの面であってそれぞれが電極の1つを支持する面を提示する。
【0013】
電極は任意のタイプのものであり得る。酸化インジウムスズ(ITO:Indium Tin Oxyde)はその透明性及びその良好な電気特性の理由で好まれる材料である。電極はまた、調節可能形状を提示するように選択的活性化可能電極のアレイを含み得る。このような電極は国際公開第2015/136458号パンフレット及び仏国特許第1654021号明細書において既に説明されている。
【0014】
電極はまた、国際公開第2010/040954号パンフレット、国際公開第2011/015753号パンフレット、又は国際公開第2011/052013号パンフレットに記載のものなどの任意の好適な特定構造を示し得る。
【0015】
光学的異方性材料分子は通常、電極に対し垂直方向に(すなわち、電極が光学デバイスの外面上に配置される場合は入射光に対し平行な方向に)配向される。したがって、光学的異方性材料は、ホメオトロピック状態となるが、全体として、入射光の等方性状態と等価である。したがって、本発明は第1の等方性状態から第1の等方性状態とは異なる屈折率を提示する第2の等方性状態へ変化する光媒体を提供する。
【0016】
用語「光学指数」と「屈折率」は無差別に使用され、同じ物理的性質に関係する。これを測定するために使用される方法は本発明の概念にとって重要ではない。その理由は、本発明は当該材料が電界に晒されるか否かということに依存した光学指数の変化に関するためである。
【0017】
光学的異方性材料は複屈折性であり得、このことは光学指数が入射光の方向に依存して同じではないということを意味する。特記しない限り、本発明の目的のために、入射光は電極に対し垂直な方向に配向されると考えられる。
【0018】
光学的異方性材料は好適には、電界がカプセル構造内で印加されない場合は等方性状態に在る。
【0019】
エアロジェルは、好適には80%より大きい気孔率を有する。気孔率は、エアロジェルの容積内の気体の百分率に対応する。これはヘリウム比重瓶法を介し又は任意の他の好適な方法によって測定され得る。実際、高い気孔率は、より多くの量の光学的異方性材料を格納することを許容し、光学指数のより高い調整能力に結びつく。
【0020】
光学的異方性材料は通常、ネマティック液晶混合物であり得る。ネマティック液晶は、合成するのに好都合であり、高価過ぎず、本発明との良好な適合性を示す。しかし、任意の他のタイプの液晶混合物が本発明の目的のために使用され得る。例えば、このような材料は高価であり、合成するのが困難であるが、キラルドーピング化合物を含むコレステリック相が光学的異方性材料中へ取り込まれる可能性がある。
【0021】
エアロジェルは、高分子結合剤中に混合された、テトラ-メトキシシラン、テトラエトキシシラン、トリメトキシシラン、又はメチルトリメトキシシランの残余の部分を含み得る。これらはシリコンベース単量体とも呼ばれ得る。
【0022】
エアロジェルは、テトラ-メトキシシラン、テトラエトキシシラン、トリメトキシシラン及びメチルトリメトキシシランからなるグループのうちの1つと、高分子結合剤とを混合することによって製造され得る。
【0023】
高分子結合剤は、50,000g/molより大きい、好適には100,000g/molより大きい重量平均分子量を有するポリ酢酸ビニル高分子であり得る。
【0024】
カプセル構造は、好適にはエアロジェルにより完全に満たされ、エアロジェルは、10μmより大きい、好適には20μmより大きい、より好適には50μmより大きい厚さを有する。実際、厚いエアロジェルは、より安定しており、光学的異方性材料により完全に充填することがより容易である。さらに、エアロジェルは、保護される必要がある光学デバイスの光学的活性部分である。
【0025】
第1及び第2の電極は、カプセル構造内で生成された電界を制御するように構成された電子デバイスと、電源とへリンクされ得る。これにより、電子デバイスが光学デバイスの光学指数を間接的に制御することが可能になる。
【0026】
光学デバイスは好ましくは眼鏡レンズである。眼鏡レンズは視力を補正するために使用されるが、必要とされる補正は常に同じとは限らない。最も重要なことには、補正は、想定される対象物が配置される距離とともに変化する。したがって、眼鏡レンズに、調節可能光学指数(すなわち調節可能補正)を備え付けることは非常に有利である。
【0027】
本発明はまた、光学物品を製造する方法に関する。本方法は、
a)カプセル構造を提供する工程と、
b)前記カプセル構造の内部のエアロジェル内に埋め込まれた液晶混合物を提供する工程と、を含む。
【0028】
本発明による方法の工程b)は、エアロジェルを形成する第1の副工程と、液晶混合物をエアロジェル内へ埋め込む第2の副工程とを含み得る。
【0029】
この場合、エアロジェルを形成する工程からなる第1の副工程は好適には、
a)溶剤、高分子結合剤、及びシリコンベース単量体を含む組成物を提供することと、
b)成形用ゲルをカプセル構造に合う形状に整形しながら、シリコンベース単量体の加水分解を組成物内に引き起こして、ゲル化試料を形成することと、
c)ゲル化試料をアルコール雰囲気中に置くことと、を含む。
【0030】
任意選択的に、第1の副工程はさらに、
a)ゲル化試料中に残る溶剤を液体CO2により置換する工程と、
b)前記液体CO2が超臨界CO2へ変化するような条件を提供する工程と、
c)得られた試料を冷却しエアロジェル試料にする工程と、
d)液晶混合物をエアロジェル試料中に埋め込む工程と、を含み得る。
【0031】
本発明はまた、本発明による光学物品の屈折率を変更する方法に関する。本方法は、
a)第1の電圧を提示する第1の電界を生成することにより光学物品を第1のモードで操作する工程と、
b)第1の電圧とは異なる第2の電圧を提示する第2の電界を生成することにより第2のモードへ切り替える工程と
からなる2つの工程を含み、第1の電圧及び第2の電圧の一方は液晶混合物の液晶を配向するように選択され、第1の電圧及び第2の電圧の他方は0Vである。
【0032】
本発明は、添付図面と共にその実施形態(本発明はこれに制限されないが)の以下の詳細説明からより十分に理解されることになる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【
図1】エアロジェルを合成するために使用されるデバイスの概略図である。
【
図2】スペーサを使用してエアロジェルを合成する別のやり方の概略図である。
【
図3】本発明の光学デバイス中の光学的異方性材料分子の配向の概略図である。
【
図4】2つの交差偏光子間の本発明による光学デバイスの写真である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
図1及び
図4は本発明による光学物品の特性の十分な証拠を許容する本発明の一実施形態に対応し、ここでは、電極は同じ面内に配置される。
図2及び
図3は光学眼鏡の分野において関心が高い実施形態に対応し、ここでは、2つの電極は光学デバイスの各面上に配置される。しかし、使用される含浸エアロジェルは両方の実施形態では同じである。
【0035】
ゲルの合成
以下のプロトコルは、液体による含浸に対し良好な抵抗を提示する無亀裂エアロジェルを取得することを可能にする。代替的に、エアロジェルは、本発明目的のための満足なエアロジェルも提供する国際公開第2012080658号パンフレットの教示に従って取得され得る。
【0036】
テトラメトキシシラン(TMOS:Tetramethoxylane)前駆体は、そのゲル化特性がよく知られており関与する動力学が高速であり且つ信頼できるので使用される。本発明の範囲から逸脱することなくテトラエトキシシラン、トリメトキシシラン又はメチルトリメトキシシランなどの様々な前駆体を使用することも可能である。
【0037】
モル当たり167,000gの分子量を有するポリ酢酸ビニル(PVAc:polyvinyle acetate)がエアロジェルの合成の試薬として使用される。PVAcは、それらの合成中、及び興味が持たれる液体により含浸される間の両方において亀裂耐性がある、エアロジェルを取得することを可能にする。
【0038】
エアロジェルは、櫛様式で互いに並列に配置され約20μmだけ互いに離間される酸化インジウムスズ(ITO)電極12を支持するガラス基板11上に合成される。タンクは、
図1に示すように、接着剤により基板へ張り付けられたポリエチレンテレフタレート(PET:Polyethylene Terephthalate)膜13のおかげで基板上に境界を定められる。PETフィルムと接着剤との合計の厚さは、50μm未満、好適には約10μmの厚さを有するエアロジェルを生成するように、選択される。約10μmの厚さにより、亀裂の量が低減されることが実証された。
【0039】
代替的に、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE:polytetrafluoroethylene)スペーサ21が
図2に示すように使用され得る。所望の厚さを有するスペーサが、選択され、そしてゾルを収容するように設計された窓22を保持し得る。
【0040】
アルコール性PVAc溶液が用意される。使用されるPVAcは、例えばAldrichにより販売されモル当たり167,000gの分子量を有するもの:CAS:9003-20-7,Ref:18,248-6である。PVAcは20wt%濃度で96%エタノール中に溶解される。PVAcの完全溶解は、少なくとも4時間の定常撹拌と何回かの超音波処理とを要する。
【0041】
代替的に、Synthomer Alcotex 359Bの名の下にSynthomerにより販売されているものなどの、部分的に加水分解されたPVAcが使用される可能性がある。Synthomer Alcotex 359Bは、メタノール/酢酸メチル混合物中26wt%濃度に既に調製されている。Synthomer Alcotex 359Bは、約245,000g/molの平均重量分子量を有する分子鎖上に担持された20~30%モルの加水分解されたPVA基を保持し、さらに処理すること無しにその溶液を使用することが可能である。
【0042】
TMOS溶液を、PVAc溶液へ組み入れる。数分の追加撹拌後、5×10-2mol/l濃度の水酸化アンモニウム溶液も、定常撹拌下で加える。これらの3つの試薬の相対的容積は、50%のPVAc、33%のTMOS、及び17%の水酸化物アンモニウムである。
【0043】
代替的に、1.5×10-3mol/lの濃度のアンモニア水溶液を使用し得る。この結果、約10分間続くゲル化であってゲル化処理においてゲルの極僅かな収縮を引き起こすゲル化が起こる。
【0044】
水酸化アンモニウムは、TMOSの加水分解縮合を引き起こし、溶液のゲル化が起こる。
【0045】
撹拌を、好適には、ゲル化処理の終了の前に(例えばゲル化処理の終了の約2分前に)停止することによって、捕捉された気泡が表面に戻ることを可能にする。
【0046】
任意選択的に、そして積層工程を容易にするために、ガラス基板を二酸素プラズマ処理に晒すことができる。これにより、ガラス基板への溶液及びITO電極の付着力を増加するように基板を洗浄すること、及びOH基を基板上に生成することが可能になる。
【0047】
ゲル化溶液の積層に対しガラス基板を準備する別の方法は、各ガラス基板を1時間の間室温でスルホクロム酸溶液中に十分に浸漬することによって、通常のスルホクロム酸溶液によりガラス基板を処理する方法である。次に、各基板を、蒸留水によりすすぎ洗いし、ITO電極を、95%エタノールにより含浸されたタオルにより洗浄する。
【0048】
層を得るために、一滴のゲル化溶液をタンクの縁上に置き、ローラによってゲル化溶液をガラス基板上のライナー層内へ積層させて、ゲル化溶液のタンク内への封入を可能にする。
【0049】
代替的に、スペーサ21を使用する際、ゲル化溶液をスペーサ窓22の中心に注意深く置く。次に、試料を、いかなる気泡も回避するようにシリコン膜23によりゆっくり覆い、厚板24が余分の溶液を取り除くようにシリコン膜上にあてがう。
【0050】
次に、積層された試料を、いかなる乾燥問題も防止する一方でゲルのエージング処理を加速するように少なくとも2時間の間アルコール雰囲気中に入れる。
【0051】
ゲルをエアロジェルに変える工程
次に、得られたゲルを、液体CO2オートクレーブ内に入れて、エアロジェルに変化させる。
【0052】
この目的のために、オートクレーブの反応器を、最初に0~10℃の範囲の温度(好適には約5℃)に冷却する。次に、ゲルのライナー層を、ゲルの不慮の乾燥を防止するためにアルコール雰囲気下で、ガラス基板から分離する。次に、この試料を、オートクレーブの反応器内に入れる。
【0053】
次に、液体CO2を、圧力が約60バールに達するまで、反応器を完全に充填するようにオートクレーブ内へ送り込む。次に、温度をゆっくり上昇させて室温へ戻して、液体CO2をゲル試料の気孔中に捕捉された溶剤と置換させる。
【0054】
次に、温度及び圧力を、CO2を超臨界相に変えるように増加する。通常、温度を35℃まで上昇させ、圧力を100バールまで上昇させる。40℃及び90バールにおいて操作することも可能である;すなわち、より低い圧力における操作はより安全であり、より良い歩留りに至り得る。
【0055】
CO2が単一超臨界相に在るため、溶剤は、あたかも蒸発するように、しかしゲルの有機網状物(organic network)に過大な圧力をかけることなしに、ゲル試料から遊離し得る。
【0056】
次に、オートクレーブ内の圧力をゆっくり低下させる。オートクレーブ内の圧力は、任意の好適な手段により規制することができる。通常、圧力は、排気弁によって制御し得る。次に、圧力を大気圧に戻す。アルゴン又は窒素などの中性気体を、試料を取り出す前にオートクレーブ内へ注入して、反応器を開く際のいかなる亀裂も防止するようにする。減圧工程は非常にゆっくり行う必要があり、したがって最大6時間超かかり得る。
【0057】
次に、得られたエアロジェル試料を、真空下に格納して、毛管応力に起因して亀裂を誘起する可能性がある大気湿度から保護するようにする。
【0058】
エアロジェルを含浸する工程
添付図面に示した実施形態に対応する例のために、E7の名の下にMerckにより販売されている液晶を、エアロジェルを含浸するために使用する。明らかに、任意の好適な光学的異方性材料を、本発明の範囲を逸脱することなく使用し得る。
【0059】
一滴の液晶を、エアロジェルの表面上に置く(例えばマイクロピペットにより)。液晶はいかなる亀裂も引き起こすことなくエアロジェルを含浸する。しかし、液晶がかなり粘着性であるため、含浸は非常に緩やかであることが分かった。含浸を加速するために、エアロジェル及び液晶を80℃に加熱して、エアロジェル内にいかなる亀裂も誘起することなく含浸を加速することを可能にする。
【0060】
特徴付け
本発明による光学デバイスの光学特性は、電界の印加の有無で次のように評価される。
【0061】
光学的異方性材料の各分子は通常、軸に沿った細長い形状を示す。その固有形式では、このような材料は分子の異方性編成のおかげで複屈折性である。
【0062】
しかし、前記材料を、本発明による光学デバイス内のエアロジェル内へ含浸させる場合であって電界が印加されない場合、分子は等方性様式で配向される。このことは、交差偏光子間の本発明による光学デバイスを観測することにより、
図4に示される:すなわちいかなる複屈折性も白線40に対応する層内の亀裂上以外は示されなかった。
【0063】
印加電界は、電圧を電極12間に印加することにより生成される。光学的異方性材料の分子は、電界の線に沿ってそれらの軸を整列する傾向がある。したがって、
図3に示すように電極が入射光に対し垂直に互いに向かい合って配置されると、分子30は入射光の方向の等方性状態と等価であるホメオトロピック状態で整列する。
【0064】
図1及び
図4に対応する本発明の別の実施形態では、電極を同じ面内に配置する。この場合、電界の線(したがって分子の配向)は入射光に対して垂直に配置されない。これにより、材料が等方性状態から異方性状態へと変化する。材料がその異方性状態に在ると、光学デバイス全体は複屈折性になる。このような実施形態は、透過が問題ではなく且つ偏光子と組み合わせることができるデバイスに用途があり得る。
【0065】
電界の線に沿った分子の配向は光学デバイスを複屈折性にし、
図4に示すように電極12間の領域が可視になることを許容する。
図4a、4b、4c及び4dはそれぞれ0V、40V、55V及び60Vの電界に晒された同じ光学デバイスの4つの異なる図からなる。
【0066】
分子の配向の変化は光学指数の変化を誘起する。いかなる電界も印加されない場合、光学デバイスの光学指数は、n1であり、光学的異方性材料の通常光屈折率no及び異常光屈折率ne並びにエアロジェルの屈折率na及びエアロジェルの気孔率pの関数として式1に従って表現され得る。
【数1】
【0067】
同様に、電界が印加される場合、光学デバイスの光学指数は式2に従って計算され得る。
【数2】
【0068】
したがって、n1とn2との差を取ることにより、電界が印加された場合の光学指数の変化Δnを評価することが可能であり、式3に至る。
【数3】
【0069】
光学的異方性材料がne-no=0.4を有する液晶である場合、そしてエアロジェルが80%の気孔率を有する場合、光学デバイスは0.106の光学指数の変化Δnを許容する。次に、対応する相転移は、含浸されたエアロジェルの厚さを考慮することにより計算され得る。
【0070】
本明細書において説明された実施形態は本発明の範囲を制限しないということと本発明の範囲から逸脱することなく改善を施すことが可能であるということとが理解される。
【0071】
特に明示さない限り、単語「又は」は「及び/又は」と等価である。同様に、単語「1つ」又は不定冠詞は特に記載されない限り「少なくとも1つ」と等価である。
【符号の説明】
【0072】
11・・・ガラス基板
12・・・電極
13・・・膜
21・・・スペーサ
22・・・スペーサ窓
23・・・シリコン膜
24・・・厚板
30・・・分子
40・・・白紙