(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-17
(45)【発行日】2024-06-25
(54)【発明の名称】保護継電システム、解列判定装置、解列判定方法、及びプログラム
(51)【国際特許分類】
H02H 3/24 20060101AFI20240618BHJP
H02J 3/38 20060101ALI20240618BHJP
H02H 3/40 20060101ALI20240618BHJP
【FI】
H02H3/24
H02J3/38 110
H02H3/40
(21)【出願番号】P 2023168581
(22)【出願日】2023-09-28
【審査請求日】2023-09-28
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000146397
【氏名又は名称】株式会社上野製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100112737
【氏名又は名称】藤田 考晴
(74)【代理人】
【識別番号】100136168
【氏名又は名称】川上 美紀
(74)【代理人】
【識別番号】100140914
【氏名又は名称】三苫 貴織
(74)【代理人】
【識別番号】100172524
【氏名又は名称】長田 大輔
(72)【発明者】
【氏名】井上 光郎
【審査官】山口 大
(56)【参考文献】
【文献】特開平05-022865(JP,A)
【文献】特開平05-188094(JP,A)
【文献】特開平08-265961(JP,A)
【文献】特開平10-112928(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第116505479(CN,A)
【文献】特開2020-048324(JP,A)
【文献】特開2005-341666(JP,A)
【文献】特開平10-084635(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02H 3/24
H02J 3/38
H02H 3/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
分散型電源が接続される電力系統において、前記分散型電源の解列を制御する保護継電システムであって、
電力系統の系統電圧の電圧降下幅が第1設定値以上である場合に事故を検出する第1継電手段と、
系統電圧の電圧降下幅が第1設定値よりも小さい値に設定された第2設定値以上である場合に事故を検出する第2継電手段と、
前記第1継電手段及び前記第2継電手段の事故検出状態に基づいて、前記分散型電源を解列するか否かを判定する解列判定手段と、
を具備
し、
前記第2設定値は、前記電力系統に接続される分散型電源の発電電力と前記電力系統のインピーダンスとに応じて事故点に生ずる電圧上昇量に基づいて設定されている保護継電システム。
【請求項2】
前記第2設定値は、前記電力系統の公称電圧の3%以上5%以下の値に設定されている請求項1に記載の保護継電システム。
【請求項3】
前記第1設定値は、前記電力系統の公称電圧の5%より大きく15%以下の値に設定されている請求項1に記載の保護継電システム。
【請求項4】
分散型電源が接続された110kV以下の電力系統を保護対象とする請求項1に記載の保護継電システム。
【請求項5】
電力系統の系統電流又は系統電圧が所定の動作条件を満たした場合に事故を検出する第3継電手段と、
系統電圧及び系統電流に基づいてインピーダンスを算出し、算出したインピーダンスが予め設定されている設定値範囲内である場合に事故を検出する第4継電手段を備え、
前記解列判定手段は、前記第1継電手段及び前記第2継電手段の少なくともいずれか1つによって事故が検出され、かつ、前記第3継電手段及び前記第4継電手段の少なくともいずれか1つによって事故が検出された場合に、前記分散型電源を解列すると判定する請求項1に記載の保護継電システム。
【請求項6】
前記第1継電手段が作動検出した場合に、第1作動検出出力信号を所定期間保持する第1保持回路と、
前記第2継電手段が作動検出した場合に、第2作動検出出力信号を所定期間保持する第2保持回路と、
前記第3継電手段が作動検出している状態が所定期間維持された場合に第3作動検出出力信号を出力する第1遅延回路と、
前記第4継電手段が作動検出している状態が所定期間維持された場合に第4作動検出出力信号を出力する第2遅延回路と、
を備え、
前記解列判定手段は、前記第1保持回路で保持された前記第1作動検出出力信号又は前記第2保持回路で保持された前記第2作動検出出力信号が出力され、かつ、前記第1遅延回路から出力される前記第3作動検出出力信号又は前記第2遅延回路から出力される前記第4作動検出出力信号が出力されている場合に、前記分散型電源を解列すると判定する請求項5に記載の保護継電システム。
【請求項7】
分散型電源が接続される電力系統において、前記分散型電源の解列を判定する解列判定装置であって、
電力系統の系統電圧の電圧降下幅が第1設定値以上である場合に、第1作動検出信号を出力する第1継電手段、及び、電力系統の系統電圧の電圧降下幅が第1設定値よりも小さい値に設定された第2設定値以上である場合に、第2作動検出信号を出力する第2継電手段と通信するための通信手段と、
前記第1作動検出信号及び前記第2作動検出信号に基づいて、前記分散型電源を解列するか否かを判定する判定手段と
を具備
し、
前記第2設定値は、前記電力系統に接続される分散型電源の発電電力と前記電力系統のインピーダンスとに応じて事故点に生ずる電圧上昇量に基づいて設定されている解列判定装置。
【請求項8】
前記通信手段は、電力系統の系統電流又は系統電圧が所定の動作条件を満たした場合に、第3作動検出信号を出力する第3継電手段、及び、系統電圧及び系統電流に基づいてインピーダンスを算出し、算出したインピーダンスが予め設定されている設定値範囲内である場合に第4作動検出信号を出力する第4継電手段と通信し、
前記判定手段は、前記第1作動検出信号及び前記第2作動検出信号の少なくともいずれか一方が入力され、かつ、前記第3作動検出信号及び前記第4作動検出信号の少なくともいずれか一方が入力された場合に、前記分散型電源を解列すると判定する請求項7に記載の解列判定装置。
【請求項9】
前記第1作動検出信号が入力された場合に、第1作動検出出力信号を所定期間保持する第1保持手段と、
前記第2作動検出信号が入力された場合に、第2作動検出出力信号を所定期間保持する第2保持手段と、
前記第3作動検出信号が入力されている状態が所定期間維持された場合に第3作動検出出力信号を出力する第1遅延手段と、
前記第4作動検出信号が入力されている状態が所定期間維持された場合に第4作動検出出力信号を出力する第2遅延手段と、
を備え、
前記判定手段は、前記第1作動検出出力信号又は前記第2作動検出出力信号が出力され、かつ、前記第3作動検出出力信号又は前記第4作動検出出力信号が出力されている場合に、前記分散型電源を解列すると判定する請求項8に記載の解列判定装置。
【請求項10】
分散型電源が接続される電力系統において、前記分散型電源の解列を判定する解列判定方法であって、
電力系統の系統電圧の電圧降下幅が第1設定値以上である場合に、第1作動検出信号を出力する第1継電手段、及び、電力系統の系統電圧の電圧降下幅が第1設定値よりも小さい値に設定された第2設定値以上である場合に、第2作動検出信号を出力する第2継電手段と通信するステップと、
前記第1作動検出信号及び前記第2作動検出信号に基づいて、前記分散型電源を解列するか否かを判定するステップと
をコンピュータが実行
し、
前記第2設定値は、前記電力系統に接続される分散型電源の発電電力と前記電力系統のインピーダンスとに応じて事故点に生ずる電圧上昇量に基づいて設定されている解列判定方法。
【請求項11】
コンピュータを請求項7から9のいずれかに記載の解列判定装置として機能させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電力系統の保護継電システム、解列判定装置、解列判定方法、及びプログラムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
電力系統に事故が発生した場合には、速やかに事故と判定し、事故の波及を最小限に止め、早期復旧に努めることが必要不可欠である。
一般的に、電力系統には、保護継電装置が設置されており、系統事故と判定した場合には、事故点に関連する遮断器を作動させて、事故点を電力系統から速やかに切り離して安全性を確保している(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、電力系統には、地球温暖化への対策の観点から、太陽光、風力、水力等の再生可能エネルギーを利用した分散型電源が多数接続されている。このうち、太陽光発電や風力発電などの分散型電源は、日照や風など、天候に左右されやすいため、発電出力変動が生じやすい。
【0005】
これらの分散型電源は、電力系統への接続の簡易性などから、主に、110kV以下の電力系統に接続されることが多い。このため、電力系統の送電容量に対して、分散型電源の発電出力量が比較的大きくなる場合があり、これらの分散型電源の発電出力変動の電力系統への影響は比較的大きなものとなる。
このように、分散型電源が接続される電力系統において、送電線に短絡事故などが生じた場合には、分散型電源が事故時の電力系統の電圧変動及び安定運用に影響を与えることがある。このため、事故点の切り離しだけでなく、分散型電源についても電力系統から速やかに切り離す必要がある。
【0006】
従来、分散型電源の解列は、例えば、系統電流に基づいて事故を判定する主保護用リレーと、系統電圧の電圧降下幅に基づいて事故を判定する不足電圧リレーのアンド条件が成立した場合に行われていた。しかしながら、分散型電源の接続されている電力系統に短絡事故が発生した時の系統電圧の電圧降下幅は、分散型電源が接続されていない場合に比べて小さくなるため、従来の事故検知方法では、不足電圧リレーによって事故と判定することができず、分散型電源を電力系統から切り離すことができないおそれがあった。
【0007】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであって、分散型電源が接続された電力系統の短絡事故発生時において、電力系統から分散型電源を速やかに解列することのできる保護継電システム、解列判定装置、解列判定方法、及びプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様は、分散型電源が接続される電力系統において、前記分散型電源の解列を制御する保護継電システムであって、電力系統の系統電圧の電圧降下幅が第1設定値以上である場合に事故を検出する第1継電手段と、系統電圧の電圧降下幅が第1設定値よりも小さい値に設定された第2設定値以上である場合に事故を検出する第2継電手段と、前記第1継電手段及び前記第2継電手段の事故検出状態に基づいて、前記分散型電源を解列するか否かを判定する解列判定手段と、を具備し、前記第2設定値は、前記電力系統に接続される分散型電源の発電電力と前記電力系統のインピーダンスとに応じて事故点に生ずる電圧上昇量に基づいて設定されている保護継電システムである。
本発明の一態様は、分散型電源が接続される電力系統において、前記分散型電源の解列を判定する解列判定装置であって、電力系統の系統電圧の電圧降下幅が第1設定値以上である場合に、第1作動検出信号を出力する第1継電手段、及び、電力系統の系統電圧の電圧降下幅が第1設定値よりも小さい値に設定された第2設定値以上である場合に、第2作動検出信号を出力する第2継電手段と通信するための通信手段と、前記第1作動検出信号及び前記第2作動検出信号に基づいて、前記分散型電源を解列するか否かを判定する判定手段とを具備し、前記第2設定値は、前記電力系統に接続される分散型電源の発電電力と前記電力系統のインピーダンスとに応じて事故点に生ずる電圧上昇量に基づいて設定されている解列判定装置である。
本発明の一態様は、分散型電源が接続される電力系統において、前記分散型電源の解列を判定する解列判定方法であって、電力系統の系統電圧の電圧降下幅が第1設定値以上である場合に、第1作動検出信号を出力する第1継電手段、及び、電力系統の系統電圧の電圧降下幅が第1設定値よりも小さい値に設定された第2設定値以上である場合に、第2作動検出信号を出力する第2継電手段と通信するステップと、前記第1作動検出信号及び前記第2作動検出信号に基づいて、前記分散型電源を解列するか否かを判定するステップとをコンピュータが実行し、前記第2設定値は、前記電力系統に接続される分散型電源の発電電力と前記電力系統のインピーダンスとに応じて事故点に生ずる電圧上昇量に基づいて設定されている解列判定方法である。
本発明の一態様は、コンピュータを上記解列判定装置として機能させるためのプログラムである。
【発明の効果】
【0009】
分散型電源が接続された電力系統の短絡事故発生時において、電力系統から分散型電源を速やかに解列することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の一実施形態に係る保護継電装置を備える電力系統の一構成例を示した全体構成図である。
【
図2】電力系統に短絡事故が発生したときに分散型電源を解列する必要性について説明するための図である。
【
図3】本発明の一実施形態に係る解列判定装置が備える機能の一例を示した機能構成図である。
【
図4】本発明の一実施形態に係る保護継電システムが備える各構成から出力される信号を示したタイミングチャート図である。
【
図5】
図1に示した電力系統において事故が発生したときの遮断器の動作状態の一例を示した図である。
【
図6】電力系統に複数の分散型電源が接続されている場合の事故発生時における系統電圧の電圧降下について説明するための図である。
【
図7】電力系統に分散型電源が接続されていない場合と接続されている場合における短絡事故が発生した瞬間の第1区間及び第2区間における系統電圧の変化を比較して示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に、本発明の一実施形態に係る保護継電システム
、解列判定装置、解列判定方法、及びプログラムについて、図面を参照して説明する。
図1は、本実施形態に係る保護継電システム1を備える電力系統2の一構成例を示した全体構成図である。
図1には、一例として、1号線3及び2号線4を有する2回線送電の電力系統2が示されている。
【0012】
電力系統2は、例えば、110kV以下の電力系統とされている。
図1において、符号Ass、Bss、Dssは、いずれも変電所を示している。電力系統2には、複数の分散型電源5、6が接続されている。ここで、分散型電源5は、電力系統に事故などが発生することにより、単独運転状態になった場合に、その旨を検出して独自に解列するシステムを備えている。また、分散型電源6は、後述する保護継電システム1からの遮断信号に基づいて電力系統から解列される構成をとる。
1号線3と変電所Dssとを接続する送電線L1には、分散型電源5が接続され、2号線4と変電所Dssとを接続する送電線L2には、分散型電源6が接続されている。なお、
図1では、2つの分散型電源5、6が電力系統2に接続している場合を例示しているが、接続する分散型電源の数はこれに限られず、1つでもよいし、3以上であってもよい。
【0013】
電力系統2の1号線3には、事故が発生した際に事故点を電力系統2から切り離すための複数の遮断器8a、8bが設置され、同様に、2号線4には、遮断器8c、8dが設置されている。また、送電線L1には、1号線3と変電所Dssとを切り離すための遮断器8eが、送電線L2には、2号線4と変電所Dssとを切り離すための遮断器8fが設置されている。更に、分散型電源5を送電線L1から切り離すための遮断器9a、分散型電源6を送電線L2から切り離すための遮断器9bが設置されている。
【0014】
保護継電システム1は、事故検出用装置101と、解列判定装置(解列判定手段)105とを備えている。また、保護継電システム1は、主保護用リレー(第3継電手段)102、103と、短絡距離継電器(第4継電手段)(図示略)とを更に備えていてもよい。
解列判定装置105は、事故検出用装置101、主保護用リレー102、103、及び短絡距離継電器と通信が可能な構成とされており、これらの機器から情報を取得することにより、分散型電源6の解列の要否を判定する。
【0015】
事故検出用装置101は、1号線3および2号線4の系統電圧(母線電圧)を検出し、検出した系統電圧に基づいて、1号線3および2号線4の短絡事故発生を検出する。事故検出用装置101は、例えば、第1不足電圧継電器(第1継電手段)11と、第2不足電圧継電器(第2継電手段)12とを備えている。
【0016】
第1不足電圧継電器11は、電力系統2の母線電圧である系統電圧の電圧低下幅が第1設定値以上である場合に事故を検出する。具体的には、第1不足電圧継電器11は、系統電圧の電圧低下幅が第1設定値以上である場合に、事故発生を示す第1作動検出信号S1を解列判定装置105に出力する。ここで、第1不足電圧継電器11の第1設定値は、例えば、電力系統2の公称電圧の5%より大きく15%以下の範囲内の値に設定されている。
【0017】
第2不足電圧継電器12は、系統電圧の電圧低下幅が第1設定値よりも小さい値に設定された第2設定値以上である場合に事故を検出する。具体的には、第2不足電圧継電器12は、系統電圧の電圧低下幅が第2設定値以上である場合に、事故発生を示す第2作動検出信号S2を解列判定装置105に出力する。第2不足電圧継電器12の第2設定値は、例えば、電力系統の公称電圧の3%以上5%以下の範囲内の値に設定されている。
【0018】
ここで、事故検出用装置101の構成は、上述の構成に限られない。例えば、それぞれ異なる複数の設定値(例えば、第1設定値及び第2設定値)に基づいて事故を検出する1台の不足電圧継電器によって構成されていてもよい。また、事故検出用装置101は、不足電圧設定機能と複数のリレー設定機能とを組み合わせた1台または複数台のデジタル型継電器として構成されていてもよい。
【0019】
主保護用リレー102、103は、例えば、電力系統2の系統電流(送電電流)が所定の設定値以上である場合に事故を検出する交流過電流継電器である。
例えば、主保護用リレー102は、1号線3に流れる系統電流を検出し、検出した系統電流が所定の設定値以上である場合に事故発生と判定し、遮断器8a、8bに対して遮断指令を出力する。これにより、遮断器8a、8bが開放し、事故点が電力系統2から切り離される。更に、主保護用リレー102は、事故発生と判定した場合に、事故発生を示す第3作動検出信号S3を解列判定装置105に出力する。
【0020】
主保護用リレー103は、例えば、2号線4に流れる系統電流を検出し、検出した系統電流が所定の設定値以上である場合に事故発生と判定し、遮断器8c、8dに対して遮断指令を出力する。これにより、遮断器8c、8dが開放し、事故点が電力系統2から切り離される。更に、主保護用リレー103は、事故発生と判定した場合に、事故発生を示す第3作動検出信号S3を解列判定装置105に出力する。
【0021】
なお、本実施形態では、主保護用リレー102、103が系統電流に基づいて事故発生を検出する場合を例示して説明するが、これに限られない。例えば、主保護用リレー102、103は、系統電圧(母線電圧)に基づいて事故発生を判定することとしてもよいし、系統電圧及び系統電流に基づいて事故発生を判定することとしてもよい。また、事故発生の判定手法についても公知の技術を適宜採用すればよく、例えば、1号線3を流れる電流と2号線4を流れる電流とを逆位相で加えた電流(差電流)が所定値以上である場合に、事故発生と判定することとしてもよい。
また、本実施形態では、2つの主保護用リレー102、103を備える場合を例示して説明したが、主保護用リレーの設置台数については一例であり、これに限られない。
【0022】
また、短絡距離継電器(図示略)は、系統電圧及び系統電流に基づいてインピーダンスを算出し、算出したインピーダンスが予め設定されている設定値範囲内である場合に事故を検出する。具体的には、短絡距離継電器は、インピーダンスが設定値範囲内である場合に、事故発生を示す第4作動検出信号S4を出力する。インピーダンスは、事故点までの距離に相関関係を有するので、事故が発生した区間を特定することが可能となる。なお、短絡距離継電器は、一般的に電力系統の事故を検出するための装置として公知であるから、詳細は省略する。保護継電システム1は、複数区間を特定する設定が可能な短絡距離継電器を備えていてもよい。
【0023】
解列判定装置105は、例えば、第1不足電圧継電器11、第2不足電圧継電器12、主保護用リレー102、103、短絡距離継電器による事故検出状態に基づいて分散型電源を解列するか否かを判定する。具体的には、第1不足電圧継電器11から出力される第1作動検出信号S1、第2不足電圧継電器12から出力される第2作動検出信号S2、主保護用リレー102、103から出力される第3作動検出信号S3、短絡距離継電器から出力される第4作動検出信号S4に基づいて、分散型電源を解列するか否かを判定する。より具体的には、解列判定装置105は、第1作動検出信号S1及び第2作動検出信号S2の少なくともいずれか1つが入力され、かつ、第3作動検出信号S3及び第4作動検出信号S4の少なくともいずれか1つが入力された場合に、電力系統2に接続されている分散型電源を解列する。なお、複数の分散型電源が電力系統2に接続されている場合には、解列判定装置105は、予め設定されているアルゴリズムに従って1又は複数の分散型電源を解列することとしてもよい。
【0024】
次に、電力系統2に短絡事故が発生した場合に、分散型電源を解列する必要性について
図2を参照して説明する。
例えば、
図2に示すように、1号線3の変電所Bss近傍で短絡事故が発生した場合を考える。この場合、系統電流は増加する一方で、系統電圧は低下する。系統電流が増加し、主保護用リレー102の設定値以上の電流値となると、主保護用リレー102により短絡が検出され、1号線3に設置されている遮断器8a、8b及び1号線3に接続される送電線L1の遮断器8eに対して遮断指令が出力される。これにより、遮断器8a、8b、8eが作動し、事故点を含む1号線3全体が電力系統2から切り離される。また、これに伴い、送電線L1に接続されている分散型電源5は単独運転となる為、自らこれを検出して、自ら遮断器9aに遮断指令を出力する。これにより、分散型電源5についても電力系統2から解列される。
【0025】
事故点を含む1号線3全体が電力系統2から切り離されると、電力系統2は2号線4のみとなる。ここで、仮に、分散型電源6が電力系統2に接続されたままの状態が維持された場合を想定すると、例えば、
図2に示すように、2号線4において、分散型電源6で発電した電力Pcgの一部である電力Pcが2号線4の変電所Bssに供給され、残りの電力Pcg-Pcが2号線4の変電所Assに供給されることとなる。そして、変電所Bssでの負荷に比べて分散型電源6の出力電力Pcgが著しく大きい場合、2号線におけるA区間(変電所Assから変電所Dssの分岐点までの区間)で送電線の熱容量を超過する可能性がある。したがって、電力系統2の安全性を確保するためには、電力系統2における事故発生時において、分散型電源6を解列する必要がある。
したがって、電力系統2における事故発生時において、速やかに分散型電源6を電力系統2から解列できるように解列判定装置105が設置される。
【0026】
図3は、解列判定装置105が備える機能の一例を示した機能構成図である。
例えば、解列判定装置105は、コンピュータであり、例えば、CPU(Central Processing Unit:プロセッサ)、主記憶装置(Main Memory)、二次記憶装置(Secondary storage:メモリ)等を備えている。後述する各種機能を実現するための一連の処理は、一例として、プログラムの形式で二次記憶装置などに記憶されており、このプログラムをCPU(プロセッサ)が主記憶装置に読み出して、情報の加工・演算処理を実行することにより、各種機能が実現される。なお、プログラムは、二次記憶装置に予めインストールされている形態や、非一時的なコンピュータ読み取り可能な記憶媒体に記憶された状態で提供される形態、有線又は無線による通信手段を介して配信される形態等が適用されてもよい。非一時的なコンピュータ読み取り可能な記憶媒体の一例として、磁気ディスク、光磁気ディスク、CD-ROM、DVD-ROM、半導体メモリなどが挙げられる。
なお、本実施形態では、ソフトウェアの処理によって以下の機能が実現される場合を例示して説明するが、これに限られない。解列判定装置105は、例えば、アナログ電子回路として構成されていてもよく、以下の機能を備える装置として実現されればその詳細な構成については特に限定されない。
【0027】
解列判定装置105は、例えば、第1作動検出信号S1が入力された場合に、第1作動検出出力信号S5(オン状態)を所定期間保持する第1保持回路21と、第2作動検出信号S2が出力された場合に、第2作動検出出力信号(オン状態)S6を所定期間保持する第2保持回路22とを備えている。また、解列判定装置105は、第3作動検出信号S3が出力されている状態が所定期間維持された場合に第3作動検出出力信号S7を出力する第1遅延回路23と、第4作動検出信号S4が出力されている状態が所定期間維持された場合に第4作動検出出力信号S8を出力する第2遅延回路24とを備えている。
【0028】
そして、解列判定装置105は、第1作動検出出力信号S5又は第2作動検出出力信号S6が入力され、かつ、第3作動検出出力信号S7又は第4作動検出出力信号S8が入力されている場合に、分散型電源を解列すると判定する判定部20を備える。
より具体的には、判定部20は、第1作動検出出力信号S5又は第2作動検出出力信号S6が入力された場合に、第5作動検出出力信号S9を出力するOR回路(論理和回路)25と、第3作動検出出力信号S7又は第4作動検出出力信号S8が入力されている場合に、第6作動検出出力信号S10を出力するOR回路(論理和回路)26と、第5作動検出出力信号S9及び第6作動検出出力信号S10が入力されている状態において解列判定信号S11を出力するAND回路(論理積回路)27とを備えている。また、AND回路27の後段には、解列判定信号S11を所定期間にわたって保持した転送遮断信号S12を出力する第3保持回路28が設けられている。これにより、解列判定信号S11が出力された場合には、一定期間にわたって転送遮断信号S12が出力されるので、事故点から特定される分散型電源6を解列する遮断器9bに対して転送遮断信号S12を確実に送信して遮断器9bを開放することができる。
【0029】
次に、本実施形態に係る保護継電システム1の動作について
図4を参照して説明する。
図4は、保護継電システム1が備える各構成から出力される信号を示したタイミングチャートを示した図である。
【0030】
例えば、
図2、
図4に示すように、時刻T0において、1号線3の変電所Bss近傍で短絡事故が発生し、系統電流が主保護用リレー102の設定値以上の電流値となると、上述したように、主保護用リレー102により短絡が検出され、遮断器8a、8b、8eに遮断指令が出力される。これにより、事故点が電力系統2から切り離される。これに伴い、分散型電源5は単独運転となる為、自らこれを検出して、自ら遮断器9aにも遮断指令を出力する。これにより、分散型電源5についても電力系統2から解列される。
【0031】
また、主保護用リレー102によって過電流検出がされると、主保護用リレー102から事故発生を示す第3作動検出信号(オン信号)S3が解列判定装置105に出力される。更に、上記短絡事故発生により、系統電圧の電圧低下幅が第2不足電圧継電器12の第2設定値以上となると、第2不足電圧継電器12が事故を検出し、事故発生を示す第2作動検出信号(オン信号)S2が解列判定装置105に出力される。解列判定装置105の第2保持回路22は、第2作動検出信号S2を受け、第2作動検出出力信号(オン信号)S6を出力する。
【0032】
なお、詳細は後述するが、ここでは、系統電圧の電力低下幅は第1不足電圧継電器11の第1設定値以上までは増加しない場合を想定している。このため、第1不足電圧継電器11は、作動せず、よって第1作動検出信号S1は出力されていない状態、すなわち、オフ信号を示している。
【0033】
続いて、主保護用リレー102から第3作動検出信号S3が出力されてから所定の期間経過後である時刻T1において、第1遅延回路23から第3作動検出出力信号(オン信号)S7が出力される。これにより、時刻T1において、AND回路27から解列判定信号S11が出力される。これにより、第3保持回路28からは解列判定信号S11を所定期間にわたって保持する転送遮断信号S12が出力される。この転送遮断信号S12は、分散型電源6を電力系統2から切り離すための遮断器9bに対して送信される。これにより、遮断器9bが作動し、分散型電源6が電力系統2から切り離され(
図5参照)、2号線4の第A区間(
図2参照)の過負荷を解消することが可能となる。
【0034】
その後、短絡事故が解消し、時刻T2において、系統電圧及び系統電流が通常の値に復帰すると、主保護用リレー102の作動検出条件を満たさなくなる。これにより、解列判定装置105には主保護用リレー102から第3作動検出信号S3が出力されなくなる。換言すると、第3作動検出信号S3は、オン状態からオフ状態に変化する。同様に、第2不足電圧継電器12も作動検出条件を満たさないことにより、解列判定装置105には第2作動検出信号S2が出力されなくなる。換言すると、第2作動検出信号S2は、オン状態からオフ状態に変化する。
【0035】
これにより、AND回路27から出力される解列判定信号S11もオフ状態となる。ここで、解列判定信号S11がオフ状態に変化しても、第3保持回路28は所定期間にわたって転送遮断信号S12を保持する。これにより、事故が解消しても転送遮断信号S12が出力され続けるので、例えば、確実に分散型電源6の遮断器9bを作動させて開放を維持することが可能となる。これにより、電力系統2から分散型電源6の遮断を継続することが可能となり、電力系統2の安定性を確保することが可能となる。
【0036】
次に、電力系統2の1号線3に分散型電源5が接続され、2号線4に分散型電源6が接続され、Dss近傍に分散型電源5、6が接続されている場合において、事故が発生した直後であって、遮断器8a、8b、8e、9a(Ass、Bss,Dss,E
PS)が開放される前の状態における系統電圧の電圧降下について
図6を参照して説明する。
上述したように、例えば、電力系統2の1号線3において変電所Bss近傍で短絡事故が発生したと想定する。この場合、1号線3において、変電所Assから変電所Dssの分岐点P1までを第1区間、分岐点P1から事故点までを第2区間とし、第1区間のインピーダンスをZb1、第2区間のインピーダンスをZb2とする。また2号線4において、変電所Assから変電所Dssの分岐点P2までの第1’区間の線路も第1区間とほぼ同等であり、分岐点P2から事故点までの第2’区間の線路も事故点がBss近傍であるため第2区間とほぼ同等であり、それぞれが第1区間のインピーダンスZb1、第2区間のインピーダンスZb2とほぼ同等であるとする。
この場合、分散型電源5、6から分岐点P1,P2に向けて事故電流IgfがL1、L2それぞれIgf/2づつ流れることとなり、例えば、Assから電力系統2の1号線3および2号線4のそれぞれの第1区間、第1’区間に流れる事故電流をIf/2ずつとすると、電力系統2の1号線3の第2区間、および2号線4の第2’区間それぞれに流れる事故電流は(If+Igf)/2となる。
【0037】
これにより、母線の系統電圧は、事故点の電圧を0Vとすると以下の通りとなる。
【0038】
V=(Zb1×If/2)+{Zb2×(If+Igf)/2}
={(Zb1+Zb2)×If/2}+(Zb2×Igf/2) (1)
【0039】
図7は、電力系統2に分散型電源5、6が接続されていない場合と接続されている場合の事故発生時における第1区間(第1’区間)及び第2区間(第2’区間)における系統電圧の変化を比較して示した図である。
図7において、点線は電力系統2に分散型電源5、6が接続されていない状態の系統電圧の電圧変化を示したグラフであり、実線は電力系統2に分散型電源5、6が接続されている状態の系統電圧の電圧変化を示したグラフである。分散型電源5、6が接続されている場合には、分岐点P1(P2)において電圧が上昇し、上昇したところから事故点に向けて一定の割合で電圧が低下する。この分散型電源5、6による電圧上昇量ΔVp(=Zb2×Igf/2)は、分散型電源5、6から電力系統2に流れる事故電流Igfに依存する。すなわち、電圧上昇量ΔVpは、分散型電源5、6の発電電力が大きいほど大きな値をとることとなる。また、系統電圧の電圧降下量ΔVも電圧上昇量ΔVp、換言すると、電力系統2に接続されている分散型電源5、6の発電電力に応じて増減することとなる。
【0040】
以上から、第2不足電圧継電器12については、電力系統2に接続され得る全ての分散型電源の発電電力を考慮し、それらの発電電力と電力系統2のインピーダンスとを考慮した条件で作動検出できる不足電圧継電器を採用するとよい。具体的には、電力系統2の公称電圧の3%以上5%以下の値に設定されていることが好ましい。
【0041】
以上説明してきたように、本実施形態に係る保護継電システム1によれば、電力系統2の系統電圧の電圧降下幅が第1設定値以上である場合に事故を検出する第1不足電圧継電器11と、系統電圧の電圧降下幅が第1設定値よりも小さい値に設定された第2設定値以上である場合に事故を検出する第2不足電圧継電器12と、第1不足電圧継電器11及び第2不足電圧継電器12の事故検出状態に基づいて、分散型電源6を解列するか否かを判定する解列判定装置105と、を備える。
また、第2設定値は、電力系統2に接続される分散型電源の発電電力と電力系統2のインピーダンスとに基づいて設定するとよく、具体的には、電力系統2の公称電圧の3%以上5%以下の値に設定されるとよい。
【0042】
このような構成を備えることにより、電力系統2に分散型電源が接続されている状態であるか否かにかかわらず、電力系統2に事故が発生した場合には、速やかに電力系統2に接続されている分散型電源を解列することが可能となる。また、設定値の異なる2つの不足電圧継電器を設ければよいため、簡素な構成により、分散型電源の解列を判定することが可能となる。
【0043】
また、電力系統2に接続される分散型電源の台数が増減した場合には、その変更に併せて、第1不足電圧継電器11及び第2不足電圧継電器12の少なくともいずれかの設定値を分散型電源の出力などを考慮して適切な値に更新すればよい。このように、本実施形態に係る保護継電システム1によれば、分散型電源の増減に対して柔軟に対応することが可能となる。
【0044】
また、本実施形態によれば、解列判定装置105は、第1不足電圧継電器11及び第2不足電圧継電器12の少なくともいずれか1つが事故を検出し、かつ、主保護用リレー102、103又は短絡距離継電器の少なくとも1つが事故を検出した場合に、分散型電源を解列させる旨の判定をする。このように、系統電圧及び系統電流の両方の変化に基づいて分散型電源の解列を判定するので、誤判定を低減でき、判定精度を向上させることが可能となる。
【0045】
また、本実施形態によれば、解列判定装置105は、第1不足電圧継電器11が事故を検出した場合、換言すると、第1作動検出信号S1が入力された場合に、第1作動検出出力信号S5を所定期間保持する第1保持回路21と、第2不足電圧継電器12が事故を検出した場合、換言すると、第2作動検出信号S2が入力された場合に、第2作動検出出力信号S6を所定期間保持する第2保持回路22とを備える。更に、解列判定装置105は、主保護用リレー102又は103が事故を検出している状態が所定期間維持された場合、換言すると、第3作動検出信号S3が所定期間入力されている場合に、第3作動検出出力信号S7を出力する第1遅延回路23と、短絡距離継電器が事故を検出している状態が所定期間維持された場合、換言すると、第4作動検出信号S4が所定期間入力されている場合に、第4作動検出出力信号S8を出力する第2遅延回路24とを備える。そして、解列判定装置105は、第1作動検出出力信号S5又は第2作動検出出力信号S6が入力され、かつ、第3作動検出出力信号S7又は第4作動検出出力信号S8が入力されている場合に、分散型電源を解列すると判定する。
【0046】
このように、第1保持回路21及び第2保持回路22を備えることにより、瞬時の電圧低下でも捉えることが可能となり、作動検出感度を向上させることが可能となる。また、第1遅延回路23及び第2遅延回路24を用いることにより、過電流の状態が一定期間維持された場合に過電流検出を行うこととしている。これにより、事故の誤判定を抑制することが可能となる。
【0047】
以上、本発明について実施形態を用いて説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施形態に記載の範囲には限定されない。発明の要旨を逸脱しない範囲で上記実施形態に多様な変更又は改良を加えることができ、該変更又は改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれる。また、上記実施形態を適宜組み合わせてもよい。
【符号の説明】
【0048】
1 :保護継電システム
2 :電力系統
5、6 :分散型電源
8a~8f :遮断器
9a~9b :遮断器
11 :第1不足電圧継電器(第1継電手段)
12 :第2不足電圧継電器(第2継電手段)
21 :第1保持回路
22 :第2保持回路
23 :第1遅延回路
24 :第2遅延回路
25、26 :OR回路(論理和回路)
27 :AND回路(論理積回路)
28 :第3保持回路
101 :事故検出用装置
102、103:主保護用リレー(第3継電手段)
105 :解列判定装置(解列判定手段)
Ass :変電所
Bss :変電所
Dss :変電所
L1 :送電線
L2 :送電線
S1 :第1作動検出信号
S2 :第2作動検出信号
S3 :第3作動検出信号
S4 :第4作動検出信号
S5 :第1作動検出出力信号
S6 :第2作動検出出力信号
S7 :第3作動検出出力信号
S8 :第4作動検出出力信号
S9 :第5作動検出出力信号
S10 :第6作動検出出力信号
S11 :解列判定信号
S12 :転送遮断信号
【要約】
【課題】分散型電源が接続された電力系統の短絡事故発生時において、電力系統から分散型電源を速やかに解列すること。
【解決手段】保護継電システム1は、分散型電源5、6が接続される電力系統2において、分散型電源6の解列を制御する保護継電システム1であって、電力系統2の系統電圧の電圧降下幅が第1設定値以上である場合に作動する第1不足電圧継電器11と、系統電圧の電圧降下幅が第1設定値よりも小さい値に設定された第2設定値以上である場合に作動する第2不足電圧継電器12と、第1不足電圧継電器11及び第2不足電圧継電器12の作動状態に基づいて、分散型電源6を解列するか否かを判定する解列判定装置105と、を具備する。
【選択図】
図1