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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-17
(45)【発行日】2024-06-25
(54)【発明の名称】淋菌検出キット及び淋菌検出方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/53 20060101AFI20240618BHJP
   G01N 33/543 20060101ALI20240618BHJP
   G01N 33/571 20060101ALI20240618BHJP
   C07K 16/12 20060101ALI20240618BHJP
   G01N 33/569 20060101ALI20240618BHJP
   C12Q 1/12 20060101ALI20240618BHJP
【FI】
G01N33/53 D
G01N33/543 521
G01N33/571 ZNA
C07K16/12
G01N33/569 F
C12Q1/12
【請求項の数】 22
(21)【出願番号】P 2023511298
(86)(22)【出願日】2022-03-28
(86)【国際出願番号】 JP2022015166
(87)【国際公開番号】W WO2022210594
(87)【国際公開日】2022-10-06
【審査請求日】2023-06-13
(31)【優先権主張番号】P 2021056132
(32)【優先日】2021-03-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000033
【氏名又は名称】旭化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100108903
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 和広
(74)【代理人】
【識別番号】100142387
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 都子
(74)【代理人】
【識別番号】100135895
【弁理士】
【氏名又は名称】三間 俊介
(74)【代理人】
【識別番号】100141977
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 勝
(72)【発明者】
【氏名】小田 光太郎
(72)【発明者】
【氏名】菅田 三加
【審査官】海野 佳子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2000/06603(WO,A1)
【文献】特開2001-11096(JP,A)
【文献】特開2017-133951(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/48-33/98
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
検体中の淋菌を検出するためのキットであって、
検体中の淋菌由来抗原を捕捉するための捕捉用抗体、及び、
検出用標識を有し、検体中の淋菌由来抗原を標識するための検出用抗体
を含み、検体中の淋菌由来抗原と捕捉用抗体及び検出用抗体との免疫反応により、淋菌由来抗原を介したサンドウィッチ構造を形成させることで淋菌を検出すると共に、
淋菌由来抗原が、淋菌のリボゾームタンパク質L7/L12であり、
捕捉用抗体及び検出用抗体のうち一方が、配列番号1に示す淋菌のL7/L12のアミノ酸配列におけるN末端から2~14番目のアミノ酸残基から選択される1又は2以上のアミノ酸残基を含むエピトープと抗原抗体反応を生じる第1のモノクローナル抗体もしくはその断片、又はその誘導体であり、
捕捉用抗体及び検出用抗体のうち他方が、配列番号1に示す淋菌のL7/L12のアミノ酸配列におけるN末端から102~123番目のアミノ酸残基から選択される1又は2以上のアミノ酸残基を含むエピトープと抗原抗体反応を生じる第2のモノクローナル抗体もしくはその断片、又はその誘導体である、キット。
【請求項2】
第2のモノクローナル抗体が、
重鎖可変領域のアミノ酸配列として配列番号7のアミノ酸配列と80%以上の相同性を有するアミノ酸配列、及び、
軽鎖可変領域のアミノ酸配列として配列番号8のアミノ酸配列と80%以上の相同性を有するアミノ酸配列
を含む抗体である、請求項1に記載のキット。
【請求項3】
第1のモノクローナル抗体が、
重鎖可変領域のアミノ酸配列として配列番号9のアミノ酸配列と80%以上の相同性を有するアミノ酸配列、及び、
軽鎖可変領域のアミノ酸配列として配列番号10のアミノ酸配列と80%以上の相同性を有するアミノ酸配列
を含む抗体、又は、
重鎖可変領域のアミノ酸配列として配列番号11のアミノ酸配列と80%以上の相同性を有するアミノ酸配列、及び、
軽鎖可変領域のアミノ酸配列として配列番号12のアミノ酸配列と80%以上の相同性を有するアミノ酸配列
を含む抗体
である、請求項1又は2に記載のキット。
【請求項4】
捕捉用抗体が第1のモノクローナル抗体であり、検出用抗体が第2のモノクローナル抗体である、請求項1~3の何れか一項に記載のキット。
【請求項5】
検出用抗体が第1のモノクローナル抗体であり、捕捉用抗体が第2のモノクローナル抗体である、請求項1~3の何れか一項に記載のキット。
【請求項6】
検体中の淋菌を検出するためのキットであって、
検体中の淋菌由来抗原を捕捉するための捕捉用抗体、及び、
検出用標識を有し、検体中の淋菌由来抗原を標識するための検出用抗体
を含み、捕捉用抗体と検出用抗体との免疫反応により、淋菌由来抗原を介したサンドウィッチ構造を形成させることで、淋菌を検出すると共に、
淋菌由来抗原が、淋菌のリボゾームタンパク質L7/L12であり、
捕捉用抗体及び検出用抗体が以下の(1)又は(2)の組み合わせから選択される、キット。
(1)捕捉用抗体が下記a又はbであり、標識用抗体が下記cである組み合わせ。
(2)標識用抗体が下記a又はbであり、捕捉用抗体が下記cである組み合わせ。
a.重鎖可変領域のアミノ酸配列として配列番号11のアミノ酸配列と80%以上の相同性を有するアミノ酸配列、及び、
軽鎖可変領域のアミノ酸配列として配列番号12のアミノ酸配列と80%以上の相同性を有するアミノ酸配列、を含む抗体。
b.重鎖可変領域のアミノ酸配列として配列番号9のアミノ酸配列と80%以上の相同性を有するアミノ酸配列、及び、
軽鎖可変領域のアミノ酸配列として配列番号10のアミノ酸配列と80%以上の相同性を有するアミノ酸配列、を含む抗体。
c.重鎖可変領域のアミノ酸配列として配列番号7のアミノ酸配列と80%以上の相同性を有するアミノ酸配列、及び、
軽鎖可変領域のアミノ酸配列として配列番号8のアミノ酸配列と80%以上の相同性を有するアミノ酸配列、を含む抗体。
【請求項7】
淋菌由来抗原に対する検出性能が、髄膜炎菌由来抗原に対する検出性能より10倍以上高い、請求項1~6の何れか一項に記載のキット。
【請求項8】
検体中のマイコプラズマ(Mycoplasma)属、エシェリキア(Escherichia)属、クラミジア(Chlamydia)属、シュードモナス(Pseudomonas)属、スタフィロコッカス(Staphylococcus)属、レジオネラ(Legionella)属、ストレプトコッカス(Streptococcus)属と交差反応しない、請求項1~6の何れか一項に記載のキット。
【請求項9】
検体が哺乳類の口腔内液又は尿に由来する検体である、請求項1~8の何れか一項に記載のキット。
【請求項10】
検体が哺乳類の尿由来の検体である、請求項9に記載のキット。
【請求項11】
検体を展開させ、検体と検出用抗体との接触を行うための担体を更に含み、
担体上に、捕捉用抗体が固定化された検出領域が設けられてなる、請求項1~10の何れか一項に記載のキット。
【請求項12】
キットがイムノクロマトキットであると共に、検出用抗体が添着されたコンジュゲートパッドをさらに含む、請求項11に記載のキット。
【請求項13】
請求項1~12の何れか一項に記載のキットを用いて、検体中の淋菌を検出するための方法であって、
(I)検体中の淋菌由来抗原と、捕捉用抗体と、検出用抗体との抗原抗体反応により、検体中の淋菌由来抗原を捕捉すると共に、検体中の淋菌由来抗原を標識する工程、及び
(II)検体中の淋菌由来抗原を検出用標識に基づき検出する工程
を含む方法。
【請求項14】
前記工程(I)が、
(Ia-1)検体を検出用抗体と接触させ、検出用抗体と検体中の淋菌由来抗原との抗原抗体反応により、検体中の淋菌由来抗原を標識する工程、及び、
(Ia-2)検出用抗体により標識された淋菌由来抗原を含む検体を捕捉用抗体と接触させ、捕捉用抗体と淋菌由来抗原-検出用抗体複合体との抗原抗体反応により、検体中の淋菌由来抗原を捕捉する工程
を含む、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記工程(I)が、
(Ib-1)検体を捕捉用抗体と接触させ、捕捉用抗体と検体中の淋菌由来抗原との抗原抗体反応により、検体中の淋菌由来抗原を捕捉する工程、及び、
(Ib-2)捕捉用抗体により捕捉された淋菌由来抗原を含む検体を検出用抗体と接触させ、検出用抗体と淋菌由来抗原-捕捉用抗体複合体との抗原抗体反応により、検体中の淋菌由来抗原を標識する工程
を含む、請求項13に記載の方法。
【請求項16】
当該方法が、検出用抗体及び/又は捕捉用抗体と検体との接触前に、検体中の細菌を溶菌剤を用いて溶菌する工程を更に含むと共に、
溶菌剤が、非イオン性界面活性剤、両イオン性界面活性剤、陰イオン性界面活性剤界面活性剤、リゾチーム、リゾスタフィン、ペプシン、グルコシダーゼ、ガラクトシダーゼ、アクロモペプチダーゼ、及びβ-N-アセチルグルコサミニダーゼからなる群より選択される1種又は2種以上である、請求項13~15の何れか一項に記載の方法。
【請求項17】
検体中の淋菌の検出限界値が5e4cfu/mL以下である、請求項13~16の何れか一項に記載の方法。
【請求項18】
請求項11に記載のキットを製造する方法であって、
検出領域を有する担体の検出領域に、捕捉用抗体を固定化する工程を含む製造方法。
【請求項19】
請求項12に記載のキットを製造する方法であって、
検出領域を有する担体の検出領域に、捕捉用抗体を固定化する工程、
コンジュゲートパッドに、検出用抗体を添着する工程、及び、
担体の検出領域よりも上流に、コンジュゲードパッドを配置する工程、
を含む製造方法。
【請求項20】
当該方法が、第1及び第2のモノクローナル抗体のうち一方に検出用標識を付し、検出用抗体を調製する工程を更に含むと共に、
第1及び第2のモノクローナル抗体のうち他方を捕捉用抗体として、担体の検出領域に固定化する、請求項18又は19に記載の製造方法。
【請求項21】
第1のモノクローナル抗体が、請求項1に記載の第1のモノクローナル抗体であると共に、
当該方法が、配列番号1に示す淋菌のL7/L12のアミノ酸配列におけるN末端から2~14番目のアミノ酸残基から選択される1又は2以上のアミノ酸残基を含むエピトープを有するエピトープポリペプチドを動物に接種して、前記エピトープポリペプチドと抗原抗体反応を生じる抗体を含む抗血清を取得し、当該抗血清から抗体を精製・分画して第1のモノクローナル抗体を得る工程を更に含む、請求項20に記載の製造方法。
【請求項22】
第2のモノクローナル抗体が、請求項1に記載の第2のモノクローナル抗体であると共に、
当該方法が、配列番号1に示す淋菌のL7/L12のアミノ酸配列におけるN末端から102~123番目のアミノ酸残基から選択される1又は2以上のアミノ酸残基を含むエピトープを有するエピトープポリペプチドを動物に接種して、前記エピトープポリペプチドと抗原抗体反応を生じる抗体を含む抗血清を取得し、当該抗血清から抗体を精製・分画して第2のモノクローナル抗体を得る工程を更に含む、請求項20又は21に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗原抗体反応を用いて検体中の淋菌を検出するキット及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
性感染症である尿道炎は、患者が世界的に増加しており、現在は全世界で約7800万人もの患者が存在することから、その予防・診断・治療は世界保健機関(WHO)も重要視する全世界的な課題となっている。尿道炎は、患者の再診率が低いという疾患の特性上、その場(診療現場での)診断による適切な抗菌薬処方のニーズが高い極めて高い。
【0003】
尿道炎の原因菌は複数種存在するが、最も一般的に見られるのは淋菌(Neisseria gonorrhoeae)である。淋菌を検出する手法として、DNAプローブを利用したハイブリダイゼーション法(特許文献1:特表平10-500310号公報)や、16SリボソームRNAを標的としたポリヌクレオチドを増幅して検出する方法(特許文献2:特開2013-188181号公報)が知られている。しかし、これらの方法は検査に長時間を要し、その場(診療現場での)診断ツールとしては利用できない。
【0004】
淋菌を抗原抗体反応により検出可能な抗体として、淋菌のリボソームタンパク質L7/L12を抗原とする抗体が知られている(例えば特許文献3:国際公開2000/006603号)。また、淋菌を抗原抗体反応により検出可能なイムノクロマト等の免疫検査キットも知られている(非特許文献1:アボット社 クリアビューTM ゴノレア添付文書)。しかし、斯かる公知の抗体を用いた淋菌検査キットは検出感度が低い(LoD(検出限界)約5e6cfu/mL)ため、尿試料からの淋菌検出は困難であることから、尿道炎の検査に用いるには尿道にスワブを挿入して擦過し、淋菌をより高濃度で含有する尿道内検体を採取する操作が必要となる。この検体採取操作は患者(特に男性患者)の負担が極めて大きいため、検査キットの使用率は低く、尿道炎のその場診断及びその結果による適切な初期抗菌薬処方は未だ実現されていなかった。
【0005】
過去の報告(非特許文献2:Isbey et al., Genitourinary Medicine, (1997), Vol.73, No.5, pp.378-382)によれば、尿道炎の男性患者における尿中の淋菌濃度は凡そ104~107cfu/mLのオーダーである。尿中の菌濃度が104cfu/mLオーダー、好ましくは104cfu/mL程度の淋菌を検出可能な方法が実現できれば、尿を検体として使用できるため、スワブの尿道内挿入・擦過による検体採取操作が不要となる。また、淋菌が低濃度で存在しうる口腔内検体(口腔内拭い液やうがい液等)や眼由来検体(結膜擦過検体や目やに等)等の他の検体を用いた検出も可能となる。これにより、ごく小さい患者負担で男子尿道炎患者の検査が実施可能となるため、公衆衛生上極めて大きい価値がある。
【0006】
また、淋菌と同じナイセリア(Neisseria)属の細菌である髄膜炎菌(Neisseria meningitidis)は、淋菌と同様に尿道分泌物から検出される場合がある上、淋菌とは薬剤耐性の傾向が異なるため、淋菌の検査時にはこれを髄膜炎菌と区別できることが望ましい。
【0007】
更に、尿のpHは約4.5~8、口腔内液のpHは約4~7という広範囲で分布することが知られていることから、尿や口腔内検体(口腔内拭い液等)等の種々の検体を淋菌の検査に用いるには、広範囲のpH条件下でも安定して検査可能な方法であることが望ましい。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【文献】アボット社 クリアビューTM ゴノレア添付文書
【文献】Isbey et al., Genitourinary Medicine, (1997), Vol.73, No.5, pp.378-382
【特許文献】
【0009】
【文献】特表平10-500310号公報
【文献】特開2013-188181号
【文献】国際公開第2000/006603号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は上記課題に鑑みてなされたもので、淋菌の検出感度に優れ、尿や口腔内液や眼由来検体等の種々の検体から淋菌をその場検出可能な、新たな淋菌検出手段を提供することを目的とする。また、好ましくは、広範囲のpH条件下でも安定して淋菌をその場検出可能な、新たな淋菌検出手段を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者等は鋭意検討の結果、淋菌由来抗原として淋菌のリボゾームタンパク質L7/L12に着目し、淋菌L7/L12の2~14番目のアミノ酸残基から選択される1又は2以上のアミノ酸残基を含むエピトープ(第1のエピトープ)と抗原抗体反応を生じる第1のモノクローナル抗体と、淋菌L7/L12の102~123番目のアミノ酸残基から選択される1又は2以上のアミノ酸残基を含むエピトープ(第2のエピトープ)とそれぞれ抗原抗体反応を生じる第1及び第2のモノクローナル抗体を組み合わせ、一方を捕捉用抗体として、他方を検出用抗体としてそれぞれ用いて、検体中の淋菌由来抗原と捕捉用抗体及び検出用抗体との免疫反応により、淋菌由来抗原を介したサンドウィッチ構造を形成させることで淋菌の検出を行うことにより、従来よりも遙かに低濃度の淋菌を検出することができ、惹いては尿や口腔内液や眼由来検体等の種々の検体から淋菌をその場検出することが可能となるのを見出して、本発明を完成させた。
【0012】
即ち、本発明の趣旨は、例えば以下に関する。
[項1]検体中の淋菌を検出するためのキットであって、
検体中の淋菌由来抗原を捕捉するための捕捉用抗体、及び、
検出用標識を有し、検体中の淋菌由来抗原を標識するための検出用抗体
を含み、検体中の淋菌由来抗原と捕捉用抗体及び検出用抗体との免疫反応により、淋菌由来抗原を介したサンドウィッチ構造を形成させることで淋菌を検出すると共に、
淋菌由来抗原が、淋菌のリボゾームタンパク質L7/L12であり、
捕捉用抗体及び検出用抗体のうち一方が、配列番号1に示す淋菌のL7/L12のアミノ酸配列におけるN末端から2~14番目のアミノ酸残基から選択される1又は2以上のアミノ酸残基を含むエピトープと抗原抗体反応を生じる第1のモノクローナル抗体もしくはその断片、又はその誘導体であり、
捕捉用抗体及び検出用抗体のうち他方が、配列番号1に示す淋菌のL7/L12のアミノ酸配列におけるN末端から102~123番目のアミノ酸残基から選択される1又は2以上のアミノ酸残基を含むエピトープと抗原抗体反応を生じる第2のモノクローナル抗体もしくはその断片、又はその誘導体である、キット。
[項2]第2のモノクローナル抗体が、
重鎖可変領域のアミノ酸配列として配列番号7のアミノ酸配列と80%以上の相同性を有するアミノ酸配列、及び、
軽鎖可変領域のアミノ酸配列として配列番号8のアミノ酸配列と80%以上の相同性を有するアミノ酸配列
を含む抗体である、項1に記載のキット。
[項3]第1のモノクローナル抗体が、
重鎖可変領域のアミノ酸配列として配列番号9のアミノ酸配列と80%以上の相同性を有するアミノ酸配列、及び、
軽鎖可変領域のアミノ酸配列として配列番号10のアミノ酸配列と80%以上の相同性を有するアミノ酸配列
を含む抗体、又は、
重鎖可変領域のアミノ酸配列として配列番号11のアミノ酸配列と80%以上の相同性を有するアミノ酸配列、及び、
軽鎖可変領域のアミノ酸配列として配列番号12のアミノ酸配列と80%以上の相同性を有するアミノ酸配列
を含む抗体
である、項1又は2に記載のキット。
[項4]捕捉用抗体が第1のモノクローナル抗体であり、検出用抗体が第2のモノクローナル抗体である、項1~3の何れか一項に記載のキット。
[項5]検出用抗体が第1のモノクローナル抗体であり、捕捉用抗体が第2のモノクローナル抗体である、項1~3の何れか一項に記載のキット。
[項6]検体中の淋菌を検出するためのキットであって、
検体中の淋菌由来抗原を捕捉するための捕捉用抗体、及び、
検出用標識を有し、検体中の淋菌由来抗原を標識するための検出用抗体
を含み、捕捉用抗体と検出用抗体との免疫反応により、淋菌由来抗原を介したサンドウィッチ構造を形成させることで、淋菌を検出すると共に、
淋菌由来抗原が、淋菌のリボゾームタンパク質L7/L12であり、
捕捉用抗体及び検出用抗体が以下の(1)又は(2)の組み合わせから選択される、キット。
(1)捕捉用抗体が下記a又はbであり、標識用抗体が下記cである組み合わせ。
(2)標識用抗体が下記a又はbであり、捕捉用抗体が下記cである組み合わせ。
a.重鎖可変領域のアミノ酸配列として配列番号11のアミノ酸配列と80%以上の相同性を有するアミノ酸配列、及び、
軽鎖可変領域のアミノ酸配列として配列番号12のアミノ酸配列と80%以上の相同性を有するアミノ酸配列、を含む抗体。
b.重鎖可変領域のアミノ酸配列として配列番号9のアミノ酸配列と80%以上の相同性を有するアミノ酸配列、及び、
軽鎖可変領域のアミノ酸配列として配列番号10のアミノ酸配列と80%以上の相同性を有するアミノ酸配列、を含む抗体。
c.重鎖可変領域のアミノ酸配列として配列番号7のアミノ酸配列と80%以上の相同性を有するアミノ酸配列、及び、
軽鎖可変領域のアミノ酸配列として配列番号8のアミノ酸配列と80%以上の相同性を有するアミノ酸配列、を含む抗体。
[項7]淋菌由来抗原に対する検出性能が、髄膜炎菌由来抗原に対する検出性能より10倍以上高い、項1~6の何れか一項に記載のキット。
[項8]検体中のマイコプラズマ(Mycoplasma)属、エシェリキア(Escherichia)属、クラミジア(Chlamydia)属、シュードモナス(Pseudomonas)属、スタフィロコッカス(Staphylococcus)属、レジオネラ(Legionella)属、ストレプトコッカス(Streptococcus)属と交差反応しない、項1~6の何れか一項に記載のキット。
[項9]検体が哺乳類の口腔内液又は尿に由来する検体である、項1~8の何れか一項に記載のキット。
[項10]検体が哺乳類の尿由来の検体である、項9に記載のキット。
[項11]検体を展開させ、検体と検出用抗体との接触を行うための担体を更に含み、
担体上に、捕捉用抗体が固定化された検出領域が設けられてなる、項1~10の何れか一項に記載のキット。
[項12]キットがイムノクロマトキットであると共に、検出用抗体が添着されたコンジュゲートパッドをさらに含む、項11に記載のキット。
[項13]項1~12の何れか一項に記載のキットを用いて、検体中の淋菌を検出するための方法であって、
(I)検体中の淋菌由来抗原と、捕捉用抗体と、検出用抗体との抗原抗体反応により、検体中の淋菌由来抗原を捕捉すると共に、検体中の淋菌由来抗原を標識する工程、及び
(II)検体中の淋菌由来抗原を検出用標識に基づき検出する工程
を含む方法。
[項14]前記工程(I)が、
(Ia-1)検体を検出用抗体と接触させ、検出用抗体と検体中の淋菌由来抗原との抗原抗体反応により、検体中の淋菌由来抗原を標識する工程、及び、
(Ia-2)検出用抗体により標識された淋菌由来抗原を含む検体を捕捉用抗体と接触させ、捕捉用抗体と淋菌由来抗原-検出用抗体複合体との抗原抗体反応により、検体中の淋菌由来抗原を捕捉する工程
を含む、項13に記載の方法。
[項15]前記工程(I)が、
(Ib-1)検体を捕捉用抗体と接触させ、捕捉用抗体と検体中の淋菌由来抗原との抗原抗体反応により、検体中の淋菌由来抗原を捕捉する工程、及び、
(Ib-2)捕捉用抗体により捕捉された淋菌由来抗原を含む検体を検出用抗体と接触させ、検出用抗体と淋菌由来抗原-捕捉用抗体複合体との抗原抗体反応により、検体中の淋菌由来抗原を標識する工程
を含む、項13に記載の方法。
[項16]当該方法が、検出用抗体及び/又は捕捉用抗体と検体との接触前に、検体中の細菌を溶菌剤を用いて溶菌する工程を更に含むと共に、
溶菌剤が、非イオン性界面活性剤、両イオン性界面活性剤、陰イオン性界面活性剤界面活性剤、リゾチーム、リゾスタフィン、ペプシン、グルコシダーゼ、ガラクトシダーゼ、アクロモペプチダーゼ、及びβ-N-アセチルグルコサミニダーゼからなる群より選択される1種又は2種以上である、項13~15の何れか一項に記載の方法。
[項17]検体中の淋菌の検出限界値が5e4cfu/mL以下である、項13~16の何れか一項に記載の方法。
[項18]項11に記載のキットを製造する方法であって、
検出領域を有する担体の検出領域に、捕捉用抗体を固定化する工程を含む製造方法。
[項19]項12に記載のキットを製造する方法であって、
検出領域を有する担体の検出領域に、捕捉用抗体を固定化する工程、
コンジュゲートパッドに、検出用抗体を添着する工程、及び、
担体の検出領域よりも上流に、コンジュゲードパッドを配置する工程、
を含む製造方法。
[項20]当該方法が、第1及び第2のモノクローナル抗体のうち一方に検出用標識を付し、検出用抗体を調製する工程を更に含むと共に、
第1及び第2のモノクローナル抗体のうち他方を捕捉用抗体として、担体の検出領域に固定化する、項18又は19に記載の製造方法。
[項21]第1のモノクローナル抗体が、項1に記載の第1のモノクローナル抗体であると共に、
当該方法が、配列番号1に示す淋菌のL7/L12のアミノ酸配列におけるN末端から2~14番目のアミノ酸残基から選択される1又は2以上のアミノ酸残基を含むエピトープを有するエピトープポリペプチドを動物に接種して、前記エピトープポリペプチドと抗原抗体反応を生じる抗体を含む抗血清を取得し、当該抗血清から抗体を精製・分画して第1のモノクローナル抗体を得る工程を更に含む、項20に記載の製造方法。
[項22]第2のモノクローナル抗体が、項1に記載の第2のモノクローナル抗体であると共に、
当該方法が、配列番号1に示す淋菌のL7/L12のアミノ酸配列におけるN末端から102~123番目のアミノ酸残基から選択される1又は2以上のアミノ酸残基を含むエピトープを有するエピトープポリペプチドを動物に接種して、前記エピトープポリペプチドと抗原抗体反応を生じる抗体を含む抗血清を取得し、当該抗血清から抗体を精製・分画して第2のモノクローナル抗体を得る工程を更に含む、項20又は21に記載の製造方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る淋菌検出キット及び淋菌検出方法によれば、従来よりも低濃度の淋菌を抗原抗体反応により検出することができる。このため、尿や口腔内液等や眼由来検体の種々の検体から淋菌をその場検出することが可能となる。更には、好ましい態様によれば、広範囲のpH条件下でも安定して淋菌をその場検出することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1は、淋菌、髄膜炎菌、及び大腸菌の各リボソームタンパク質L7/L12のアミノ酸配列のアラインメントを示す図である。淋菌のL7/L12のアミノ酸配列については、予想されるα-ヘリックス及びβ-シート形成領域を併せて示す。また、髄膜炎菌及び大腸菌のL7/L12のアミノ酸配列については、淋菌のL7/L12のアミノ酸配列と異なるアミノ酸残基を囲み線で示す。
図2図2は、淋菌のリボソームタンパク質L7/L12(ポリペプチド1)のアミノ酸配列と、ポリペプチド2~4のアミノ酸配列、及び、髄膜炎菌のリボソームタンパク質L7/L12(ポリペプチド5)のアミノ酸配列とのアラインメントを示す図である。ポリペプチド2~5のアミノ酸配列については、ポリペプチド1のアミノ酸配列と異なるアミノ酸残基を囲み線で示す。
図3図3は、ラテラルフロー方式のイムノクロマトグラム検出装置の検出機構の一例である、ストリップ状の検出機構の概略構成を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を具体的な実施の形態に即して詳細に説明する。但し、本発明は以下の実施の形態に束縛されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において、任意の形態で実施することが可能である。
【0016】
[I.緒言]
本発明において「淋菌」(Neisseria gonorrhoeae)は、ナイセリア(Neisseria)属のグラム陰性双球菌を意味する。淋菌による感染は、ヒトにおいて淋菌性尿道炎(淋病)、角結膜炎、咽頭炎等の疾患を引き起こすことが知られている。淋菌による感染症の治療としては、抗生物質の投与が一般的であるが、薬剤耐性を示す菌が多く、悪化すると治療が困難である。よって、淋菌感染の簡便且つ即時の検出手段が求められている。
【0017】
本発明は、淋菌の検出感度に優れ、尿検体や口腔内検体(口腔内拭い液やうがい液等)や眼由来検体(結膜擦過検体や目やに等)等の種々の検体からの淋菌その場検出が可能であり、好ましくは、尿や口腔内液等の広範囲のpH条件下でも安定して淋菌その場検出を可能にする、新たな淋菌検出手段を提供するに当たり、淋菌を検出可能なモノクローナル抗体を作製するための淋菌由来抗原として、淋菌のリボソームタンパク質L7/L12に着目した。本発明において「リボソームタンパク質L7/L12」、或いは単に「L7/L12」とは、微生物のタンパク質合成に必須のリボゾームタンパク質の1種であり、種々の細菌が共通して有するタンパク質である。
【0018】
図1に、淋菌、髄膜炎菌(Neisseria meningitidis)、及び大腸菌(Escherichia coli)の各L7/L12ポリペプチドのアミノ酸配列のアラインメントを示す。また、淋菌のL7/L12ポリペプチドのアミノ酸配列を配列番号1に示し、髄膜炎菌のL7/L12ポリペプチドのアミノ酸配列を配列番号2に示し、大腸菌のL7/L12ポリペプチドのアミノ酸配列を配列番号3に示す。
【0019】
淋菌のリボゾームタンパク質L7/L12は、123個のアミノ酸残基から構成される単量体分子(適宜「L7/L12ポリペプチド」という場合がある)が2コピー連結された二量体構造を有する。本発明者等の解析結果によると、図1に示すように、淋菌のL7/L12ポリペプチドは、1~40位のアミノ酸残基で一つの立体構造(NTD:N-Terminal Domain)を形成しており、17個のアミノ酸残基からなる、立体構造を形成していないリンカーを経て、更に58~123位のアミノ酸残基で別の立体構造(CTD:C-Terminal Domain)を形成している。また、斯かる立体構造を有するL7/L12ポリペプチドの単量体分子が2コピー、互いのNTD同士で会合することにより、二量体構造を形成している。
【0020】
また、淋菌と同じナイセリア(Neisseria)属の細菌である髄膜炎菌のL7/L12ポリペプチドのアミノ酸配列は、図1に示すように、淋菌のL7/L12ポリペプチドのアミノ酸配列と極めて類似しており、N末端から115番目のアミノ酸残基が、淋菌ではアラニンであるのに対し、髄膜炎菌ではグルタミン酸である点のみが相違する。よって、淋菌及び髄膜炎菌のL7/L12ポリペプチドを抗原抗体反応により識別することは、極めて困難であることが分かる。
【0021】
一方、淋菌及び髄膜炎菌とは異なるエシェリヒア(Escherichia)属の細菌である大腸菌のL7/L12ポリペプチドのアミノ酸配列は、図1に示すように、淋菌及び髄膜炎菌のL7/L12ポリペプチドのアミノ酸配列とは大きな違いがある。
【0022】
本発明者等は、淋菌のL7/L12ポリペプチドの様々な部位に結合可能なモノクローナル抗体を作製し、それらを種々組み合わせて検証した結果、淋菌L7/L12の2~14番目のアミノ酸残基から選択される1又は2以上のアミノ酸残基を含むエピトープ(以下適宜「第1のエピトープ」と略称する。)と抗原抗体反応を生じる第1のモノクローナル抗体と、淋菌L7/L12の102~123番目のアミノ酸残基から選択される1又は2以上のアミノ酸残基を含むエピトープ(以下適宜「第2のエピトープ」と略称する。)と抗原抗体反応を生じる第2のモノクローナル抗体とを組み合わせて用いることにより、検出感度に優れ、尿や口腔内検体(口腔内拭い液やうがい液等)や眼由来検体(結膜擦過検体や目やに等)等の種々の検体から淋菌をその場検出可能な淋菌検出手段が構成可能であることを見出した。
【0023】
即ち、本発明の一側面は、淋菌L7/L12の第1及び第2のエピトープとそれぞれ抗原抗体反応を生じる第1及び第2のモノクローナル抗体(以下それぞれ適宜「本発明の第1の淋菌検出用抗体」「本発明の第2の淋菌検出用抗体」、或いは単に「本発明の第1の抗体」「本発明の第2の抗体」等と略称する)の組み合わせに関する。また、本発明の別の側面は、斯かる本発明の第1及び第2の抗体の組み合わせを用いた、検体中の淋菌を検出するためのキット(以下適宜「本発明の淋菌検出キット」等と略称する)、及び、検体中の淋菌を検出するための方法(以下適宜「本発明の淋菌検出方法」等と略称する)に関する。以下、これらの側面について順に説明する。
【0024】
[II.淋菌検出用の第1及び第2の抗体]
本発明の第1及び第2の淋菌検出用抗体は、それぞれ淋菌のリボゾームタンパク質L7/L12の特定のアミノ酸残基を含むエピトープ(第1及び第2のエピトープ)と抗原抗体反応を生じるモノクローナル抗体もしくはその断片、又はその誘導体である。
【0025】
本発明において「抗体」とは、特定の抗原又は物質を認識しそれに結合するタンパク質で、免疫グロブリン(Ig)という場合もある。一般的な抗体は、通常、ジスルフィド結合により相互結合された2つの軽鎖(軽鎖)及び2つの重鎖(重鎖)を有する。軽鎖にはλ鎖及びκ鎖と呼ばれる2種類が存在し、重鎖にはγ鎖、μ鎖、α鎖、δ鎖及びε鎖と呼ばれる5種類が存在する。その重鎖の種類によって、抗体には、それぞれIgG、IgM、IgA、IgD及びIgEという5種類のアイソタイプが存在する。
【0026】
重鎖は各々、重鎖定常(CH)領域及び重鎖可変(VH)領域を含む。軽鎖は各々、軽鎖定常(CL)領域及び軽鎖可変(VL)領域を含む。軽鎖定常(CL)領域は単一のドメインから構成される。重鎖定常(CL)領域は、3つのドメイン、即ちCH1、CH2及びCH3から構成される。軽鎖可変(VL)領域及び重鎖可変(VH)領域は各々、フレームワーク領域(FR)と呼ばれる保存性の高い4つの領域(FR-1、FR-2、FR-3、FR-4)と、相補性決定領域(CDR)と呼ばれる超可変性の3つの領域(CDR-1、CDR-2、CDR-3)とから構成される。重鎖定常(CH)領域は、3つのCDR(CDR-H1、CDR-H2、CDR-H3)及び4つのFR(FR-H1、FR-H2、FR-H3、FR-H4)を有し、これらはアミノ末端からカルボキシ末端へと、FR-H1、CDR-H1、FR-H2、CDR-H2、FR-H3、CDR-H3、FR-H4の順番で配列される。軽鎖定常(CL)領域は、3つのCDR(CDR-L1、CDR-L2、CDR-L3)及び4つのFR(FR-L1、FR-L2、FR-L3、FR-L4)を有し、これらはアミノ末端からカルボキシ末端へと、FR-L1、CDR-L1、FR-L2、CDR-L2、FR-L3、CDR-L3、FR-L4の順番で配列される。重鎖及び軽鎖の可変領域は、抗原と相互作用する結合ドメインを含む。
【0027】
抗体にはポリクローナル抗体とモノクローナル抗体とが存在する。ポリクローナル抗体は、通常は抗原で免疫した動物の血清から調製される抗体で、構造の異なる種々な抗体分子種の混合物である。一方、モノクローナル抗体とは、特定のアミノ酸配列を有する軽鎖可変(VL)領域及び重鎖可変(VH)領域の組み合わせを含む単一種類の分子からなる抗体をいう。本発明の第1及び第2の抗体は、何れもモノクローナル抗体である。モノクローナル抗体は、抗体産生細胞由来のクローンから産生することも可能であるが、抗体のタンパク質のアミノ酸をコードする遺伝子配列を有する核酸分子を取得し、斯かる核酸分子を用いて遺伝子工学的に作製することも可能である。また、重鎖及び軽鎖、或いはそれらの可変領域やCDR等の遺伝子情報を用いて抗体の結合性や特異性の向上のための改変等を行うことも、この分野での当業者にはよく知られた技術である。
【0028】
本発明の第1及び第2の抗体は、抗体の断片及び/又は誘導体であってもよい。抗体の断片としては、F(ab’)2、Fab、Fv等が挙げられる。抗体の誘導体としては、軽鎖及び/又は重鎖の定常領域部分に人工的にアミノ酸変異を導入した抗体、軽鎖及び/又は重鎖の定常領域のドメイン構成を改変した抗体、1分子あたり2つ以上のFc領域を有する抗体、糖鎖改変抗体、二重特異性抗体、抗体又は抗体の断片を抗体以外のタンパク質と結合させた抗体コンジュゲート、抗体酵素、タンデムscFv、二重特異性タンデムscFv、ダイアボディ(Diabody)等が挙げられる。更には、前記の抗体又はその断片若しくは誘導体が非ヒト動物由来の場合、そのCDR以外の配列の一部又は全部をヒト抗体の対応配列に置換したキメラ抗体又はヒト化抗体も、本発明の第1及び/又は第2の抗体に含まれる。なお、別途明記しない限り、本発明において単に「抗体」という場合、抗体の断片及び/又は誘導体も含むものとする。
【0029】
本発明の第1及び第2の抗体は、配列番号1に示す淋菌のL7/L12のアミノ酸配列のうち、以下に説明する特定のアミノ酸残基を含む第1及び第2のエピトープとそれぞれ抗原抗体反応を生じるモノクローナル抗体である。
【0030】
本発明において「抗原抗体反応」とは、抗体がその抗原の何れかの成分を認識し、これと結合することをいう。また、本発明において「エピトープ」とは、抗体が認識する抗原の一部分をいう。エピトープの長さは限定されないが、例えば通常3アミノ酸残基以上、中でも5アミノ酸残基以上、又は7アミノ酸残基以上、また、例えば通常50アミノ酸残基以下、中でも30アミノ酸残基以下、又は20アミノ酸残基以下の範囲とすることができる。
【0031】
本発明の第1の抗体が抗原抗体反応を生じる第1のエピトープは、配列番号1に示す淋菌のL7/L12のアミノ酸配列のうち、N末端から2~14番目のアミノ酸残基から選択される1又は2以上のアミノ酸残基を含むエピトープである。
【0032】
本発明の第2の抗体が抗原抗体反応を生じる第2のエピトープは、配列番号1に示す淋菌のL7/L12のアミノ酸配列のうち、N末端から102~123番目のアミノ酸残基から選択される1又は2以上のアミノ酸残基を含むエピトープである。中でも、第2のエピトープは、淋菌と髄膜炎菌のL7/L12の唯一の相違点である、配列番号1のN末端から115番目のアミノ酸残基を少なくとも含むことが好ましい。
【0033】
本発明の第1及び/又は第2の抗体は、検体中の淋菌以外の細菌由来の成分(好ましくはリボゾームタンパク質L7/L12)やその他の成分と交差反応を生じないことが好ましい。中でも、本発明の第1及び/又は第2の抗体は、マイコプラズマ(Mycoplasma)属、エシェリキア(Escherichia)属、クラミジア(Chlamydia)属、サルモネラ(Salmonella)属、シュードモナス(Pseudomonas)属、スタフィロコッカス(Staphylococcus)属、レジオネラ(Legionella)属、ヘモフィルス(Haemophilus)属、ボルデテラ(Bordetella)属、モラクセラ(Moraxella)属、及びストレプトコッカス(Streptococcus)属から選択される1以上の属の細菌とも、交差反応を生じないことが好ましい。中でも、本発明の第1及び/又は第2の抗体は、前記のうち2以上の属、更には3以上の属、又は4以上の属、又は5以上の属、又は6以上の属、特に全ての属の細菌と交差反応を生じないことが好ましい。
【0034】
とりわけ、本発明の第1及び/又は第2の抗体は、淋菌と同じナイセリア(Neisseria)属の1種又は2種以上の細菌由来の成分(好ましくはリボゾームタンパク質L7/L12)と、交差反応を生じないことが好ましい。ナイセリア(Neisseria)属の細菌としては、髄膜炎菌(Neisseria meningitidis)、ナイセリア・ラクタミカ(Neisseria lactamica)、ナイセリア・シッカ(Neisseria sicca)、ナイセリア・シネレア(Neisseria cinerea)、ナイセリア・フラベセンス(Neisseria flavescens)等が挙げられる。
【0035】
特に、本発明の第2の抗体は、髄膜炎菌由来の成分(好ましくはリボゾームタンパク質L7/L12)と交差反応を生じないことが好ましい。髄膜炎菌は、淋菌と同様に尿道分泌物から検出される場合がある上、淋菌とは薬剤耐性の傾向が異なるため、淋菌の検査時にはこれを髄膜炎菌と区別できることが望ましい。しかも、図1に関して前述したように、髄膜炎菌のL7/L12ポリペプチドのアミノ酸配列は、淋菌のL7/L12ポリペプチドのアミノ酸配列と極めて類似しており、N末端から115番目のアミノ酸残基が、淋菌ではアラニンであるのに対し、髄膜炎菌ではグルタミン酸である点のみが相違することから、淋菌及び髄膜炎菌のL7/L12ポリペプチドを抗原抗体反応により識別することは、通常は極めて困難である。これに対し、本発明の第2の抗体は、その好ましい態様によれば、斯かる淋菌と髄膜炎菌のL7/L12の唯一の相違点である、配列番号1のN末端から115番目のアミノ酸残基を少なくとも含む第2のエピトープを認識し、これと抗原抗体反応を生じることから、淋菌のL7/L12への反応性に対して、髄膜炎菌のL7/L12への反応性を大幅に抑制できるため、 検体中の淋菌を髄膜炎菌から峻別して検出することが可能となり、極めて好ましい。
【0036】
なお、抗体とエピトープ・抗原や他の成分との抗原抗体反応の測定は、当業者であれば固相又は液相の系での結合測定を適宜選択して行うことが可能である。そのような方法としては、酵素結合免疫吸着法(enzyme-linked immunosorbent assay:ELISA)、酵素免疫測定法(enzyme immunoassay:EIA)、表面プラズモン共鳴法(surface plasmon resonance:SPR)、蛍光共鳴エネルギー移動法(fluorescence resonance energy transfer:FRET)、発光共鳴エネルギー移動法(luminescence resonance energy transfer:LRET)等が挙げられるが、それらに限定されるものではない。また、そのような抗原抗体結合を測定する際に、抗体及び/又は抗原を酵素、蛍光物質、発光物質、放射性同位元素等で標識を行い、その標識した物質の物理的及び/又は化学的特性に適した測定方法を用いて抗原抗体反応を検出することも可能である。
【0037】
本発明の第1及び第2の淋菌検出用抗体は、上記の第1及び第2のエピトープと抗原抗体反応を生じる限りにおいて、そのアミノ酸配列は限定されるものではないが、重鎖及び軽鎖の各可変領域配列として以下のアミノ酸配列を有する抗体が高感度である点で好ましい。
【0038】
重鎖可変領域配列としては、配列番号7(実施例の抗体NG1の重鎖可変領域配列)、配列番号9(実施例の抗体NG2の重鎖可変領域配列)、及び配列番号11(実施例の抗体NG3の重鎖可変領域配列)から選択される何れか1つのアミノ酸配列と80%以上、中でも85%以上、更には90%以上、とりわけ95%以上、又は96%以上、又は97%以上、又は99%以上、特に100%の相同性(好ましくは同一性)を有するアミノ酸配列を有することが好ましい。中でも、重鎖可変領域配列としては、配列番号7、配列番号9、及び配列番号11から選択される何れか1つのアミノ酸配列であることがとりわけ好ましい。
【0039】
軽鎖可変領域配列としては、配列番号8(実施例の抗体NG1の軽鎖可変領域配列)、配列番号10(実施例の抗体NG2の軽鎖可変領域配列)、及び配列番号12(実施例の抗体NG3の軽鎖可変領域配列)から選択される何れか1つのアミノ酸配列と80%以上、中でも85%以上、更には90%以上、とりわけ95%以上、又は96%以上、又は97%以上、又は99%以上、特に100%の相同性(好ましくは同一性)を有するアミノ酸配列を有することが好ましい。中でも、軽鎖可変領域配列としては、配列番号8、配列番号10、及び配列番号12から選択される何れか1つのアミノ酸配列であることがとりわけ好ましい。
【0040】
なお、本発明において、2つのアミノ酸配列の「相同性」とは、両アミノ酸配列をアラインメントした際に各対応箇所に同一又は類似のアミノ酸残基が現れる比率であり、2つのアミノ酸配列の「同一性」とは、両アミノ酸配列をアラインメントした際に各対応箇所に同一のアミノ酸残基が現れる比率である。なお、2つのアミノ酸配列の「相同性」及び「同一性」は、例えばBLAST(Basic Local Alignment Search Tool)プログラム(Altsch ul et al., J. Mol. Biol., (1990), 215(3):403-10))等を用いて求めることが可能である。
【0041】
また、ある抗体の重鎖及び軽鎖の各可変配列から、各CDRの配列を同定する方法としては、例えばKabat法(Kabat et al., The Journal of Immunology, 1991, Vol.147, No. 5, pp.1709-1719)やChothia法(Al-Lazikani et al., Journal of Molecular Biology, 1997, Vol.273, No.4, pp.927-948)が挙げられる。これらの方法は本分野の技術常識であるが、例えばDr. Andrew C.R. Martin’s Groupのウェブサイト(http://www.bioinf.org.uk/abs/)等も参照できる。
【0042】
なお、あるアミノ酸に類似するアミノ酸としては、例えばアミノ酸の極性、荷電性、及びサイズに基づく以下の分類において、同一の群内に属するアミノ酸が挙げられる(何れも各アミノ酸の種類を一文字コードで表示する。)。
・芳香族アミノ酸:F、H、W、Y;
・脂肪族アミノ酸:I、L、V;
・疎水性アミノ酸:A、C、F、H、I、K、L、M、T、V、W、Y;
・荷電アミノ酸:D、E、H、K、R等:
・正荷電アミノ酸:H、K、R;・負荷電アミノ酸:D、E;
・極性アミノ酸:C、D、E、H、K、N、Q、R、S、T、W、Y;
・小型アミノ酸:A、C、D、G、N、P、S、T、V等:
・超小型アミノ酸:A、C、G、S。
【0043】
また、あるアミノ酸に類似するアミノ酸としては、例えばアミノ酸の側鎖の種類に基づく以下の分類において、同一の群内に属するアミノ酸も挙げられる(何れも各アミノ酸の種類を一文字コードで表示する。)。
・脂肪族側鎖を有するアミノ酸:G、A、V、L、I;
・芳香族側鎖を有するアミノ酸:F、Y、W;
・硫黄含有側鎖を有するアミノ酸:C、M;
・脂肪族ヒドロキシル側鎖を有するアミノ酸:S、T;
・塩基性側鎖を有するアミノ酸:K、R、H;
・酸性アミノ酸及びそれらのアミド誘導体:D、E、N、Q。
【0044】
重鎖及び軽鎖の各可変領域配列として上記のアミノ酸配列を具体的に組み合わせた抗体としては、制限されるものではないが、例えば以下の抗体を挙げることができる。
・重鎖可変領域配列として配列番号11のアミノ酸配列と80%以上の相同性を有するアミノ酸配列、及び、軽鎖可変領域配列として配列番号12のアミノ酸配列と80%以上の相同性を有するアミノ酸配列を含む抗体。
・重鎖可変領域配列として配列番号9のアミノ酸配列と80%以上の相同性を有するアミノ酸配列、及び、軽鎖可変領域配列として配列番号10のアミノ酸配列と80%以上の相同性を有するアミノ酸配列を含む抗体。
・重鎖可変領域配列として配列番号7のアミノ酸配列と80%以上の相同性を有するアミノ酸配列、及び、軽鎖可変領域配列として配列番号8のアミノ酸配列と80%以上の相同性を有するアミノ酸配列を含む抗体。
【0045】
中でも、第1のモノクローナル抗体としては、重鎖可変領域配列として配列番号11のアミノ酸配列と80%以上の相同性を有するアミノ酸配列、及び、軽鎖可変領域配列として配列番号12のアミノ酸配列と80%以上の相同性を有するアミノ酸配列を含む抗体、又は、重鎖可変領域配列として配列番号9のアミノ酸配列と80%以上の相同性を有するアミノ酸配列、及び、軽鎖可変領域配列として配列番号10のアミノ酸配列と80%以上の相同性を有するアミノ酸配列を含む抗体が好ましい。また、第2のモノクローナル抗体としては、重鎖可変領域配列として配列番号7のアミノ酸配列と80%以上の相同性を有するアミノ酸配列、及び、軽鎖可変領域配列として配列番号8のアミノ酸配列と80%以上の相同性を有するアミノ酸配列を含む抗体が好ましい。
【0046】
なお、上記例示の第1及び第2のモノクローナル抗体を、後述する本発明の淋菌検出方法及び淋菌検出キットに使用する場合、捕捉用抗体及び標識用抗体の組合せとしては、制限されるものではないが、以下の(1)又は(2)の組合せとすることが好ましい。
(1)捕捉用抗体が下記a又はbであり、標識用抗体が下記cである組み合わせ。
(2)標識用抗体が下記a又はbであり、捕捉用抗体が下記cである組み合わせ。
a.重鎖可変領域配列として配列番号11のアミノ酸配列と80%以上の相同性を有するアミノ酸配列、及び、軽鎖可変領域配列として配列番号12のアミノ酸配列と80%以上の相同性を有するアミノ酸配列を含む抗体
b.重鎖可変領域配列として配列番号9のアミノ酸配列と80%以上の相同性を有するアミノ酸配列、及び、軽鎖可変領域配列として配列番号10のアミノ酸配列と80%以上の相同性を有するアミノ酸配列を含む抗体
c.重鎖可変領域配列として配列番号7のアミノ酸配列と80%以上の相同性を有するアミノ酸配列、及び、軽鎖可変領域配列として配列番号8のアミノ酸配列と80%以上の相同性を有するアミノ酸配列を含む抗体
【0047】
以上例示した抗体を含め、本発明の第1及び第2の抗体を作製する方法は、特に制限されないが、例えば以下の手法を挙げることができる。
【0048】
まず、検出対象となる淋菌のL7/L12の全部又は一部のアミノ酸配列、或いはこれと90%以上、とりわけ95%以上、又は96%以上、又は97%以上、又は99%以上、特に100%の相同性(好ましくは同一性)を有するアミノ酸配列を有するポリペプチド(これを以下「エピトープポリペプチド」という)を用意する。エピトープポリペプチドの具体的なアミノ酸配列は限定されない。但し、本発明の第1の抗体を作製する場合には、前述の第1のエピトープ(配列番号1の2~14番目のアミノ酸残基から選択される1又は2以上のアミノ酸残基を含むエピトープ)に相当するアミノ酸配列、或いはこれと90%以上、とりわけ95%以上、又は96%以上、又は97%以上、又は99%以上、特に100%の相同性(好ましくは同一性)を有するアミノ酸配列を有するポリペプチド(これを以下「第1のエピトープポリペプチド」という)を用いることが好ましい。また、本発明の第1の抗体を作製する場合には、前述の第2のエピトープ(配列番号1の102~123番目のアミノ酸残基から選択される1又は2以上のアミノ酸残基を含むエピトープ)に相当するアミノ酸配列、或いはこれと90%以上、とりわけ95%以上、又は96%以上、又は97%以上、又は99%以上、特に100%の相同性(好ましくは同一性)を有するアミノ酸配列を有するポリペプチド(これを以下「第2のエピトープポリペプチド」という)を用いることが好ましい。
【0049】
こうして用意したエピトープポリペプチドを、必要に応じてアジュバントとともに動物へ接種せしめ、その血清を回収することで、前記エピトープポリペプチドと抗原抗体反応を生じる抗体(本発明の第1及び/又は第2の抗体の候補を含むポリクローナル抗体)を含む抗血清を得ることができる。接種する動物としてはヒツジ、ウマ、ヤギ、ウサギ、マウス、ラット等であり、特にポリクローナル抗体作製にはヒツジ、ウサギなどが好ましい。こうして得られた抗血清より抗体を精製・分画した上で、前記第1及び/又は第2のエピトープと抗原抗体反応を生じること、及び任意により、他の特定の成分(例えば髄膜炎菌のL7/L12等)と交差反応を生じないことを指標として、公知の手法により適宜スクリーニングを行うことにより、所望の性質を有する本発明の第1及び/又は第2の抗体を得ることが可能である。更に、所望の抗体分子を産生する抗体産生細胞を単離し、骨髄腫細胞と細胞融合させて自律増殖能を持ったハイブリドーマを作製することにより、モノクローナル抗体を得ることも可能である。
【0050】
上記手順により所望の抗体が得られれば、斯かる抗体の構造、具体的には重鎖定常(CH)領域、重鎖可変(VH)領域、軽鎖定常(CL)領域、及び/又は軽鎖可変(VL)領域のアミノ酸配列の一部又は全部を、公知のアミノ酸配列解析法を用いて解析することができる。こうして得られた所望の抗体のアミノ酸配列に対し、抗体の結合性や特異性の向上のための改変等を行う手法も、当業者には公知である。更には、所望の抗体のアミノ酸配列の全部又は一部(特に重鎖可変(VH)領域及び軽鎖可変(VL)領域の全部又は一部、中でも各CDRのアミノ酸配列)を利用し、必要に応じて公知の抗体のアミノ酸配列の一部(特に重鎖定常(CH)領域及び軽鎖定常(CL)領域、並びに場合により重鎖可変(VH)領域及び軽鎖可変(VL)領域の各FRのアミノ酸配列)と組み合わせることにより、同様の抗原特異性を有する蓋然性の高い別の抗体を設計することも可能である。
【0051】
一方、抗体の一部(CDR又は可変領域)又は全部のアミノ酸配列が特定されている場合には、公知の手法により、斯かる所望の抗体のアミノ酸配列の全部又は一部をコードする塩基配列を有する核酸分子を作製し、斯かる核酸分子を用いて遺伝子工学的に抗体を作製することも可能である。更には、斯かる塩基配列から所望の抗体の各構成要素を発現するためのベクターやプラスミド等を作製し、宿主細胞(哺乳類細胞、昆虫細胞、植物細胞、酵母細胞、微生物細胞等)に導入して、当該抗体を産生させることも可能である。また、得られた抗体の性能の向上や副作用の回避を目的に、抗体の定常領域の構造に改変を入れることや、糖鎖の部分での改変を行うことも、当業者によく知られた技術によって適宜行うことができる。
【0052】
なお、以上説明した、本発明の第1及び/又は第2の抗体を製造する方法、本発明の第1及び/又は第2の抗体をコードする核酸分子、斯かる核酸分子を含むベクター又はプラスミド、斯かる核酸分子やベクター又はプラスミドを含む細胞、更には本発明の第1及び/又は第2の抗体を産生するハイブリドーマ等も、本発明の対象となる。
【0053】
なお、本明細書に記載の抗体の作製・改変等の技法は、何れも当業者には公知であるが、例えばAntibodies; A laboratory manual, E. Harlow et al., Cold Spring Harbor Laboratory Press (2014)等の記載を参照することができる。また、本明細書に記載の分子生物学的技法(例えばアミノ酸配列解析法、核酸分子の設計・作製法、ベクターやプラスミドの設計・作製法等)も、何れも当業者には公知であるが、例えばMolecular Cloning, A laboratory manual, Cold Spring Harbor Laboratory Press, Shambrook, J. et al. (1989)等の記載を参照することができる。
【0054】
[III.淋菌検出方法]
本発明の淋菌検出方法は、以下の工程を含む。
(I)検体中の淋菌由来抗原と、固相担体と連結された捕捉用抗体と、検出用標識を有する検出用抗体との抗原抗体反応により、検体中の淋菌由来抗原を捕捉すると共に、検体中の淋菌由来抗原を標識する工程。
(II)検体中の淋菌由来抗原を検出用標識に基づき検出する工程。
【0055】
ここで、淋菌由来抗原が、淋菌のリボゾームタンパク質L7/L12であると共に、捕捉用抗体及び検出用抗体のうち一方が、本発明の第1の抗体であり、他方が本発明の第2の抗体である。
【0056】
捕捉用抗体及び検出用抗体のうち、どちらが本発明の第1の抗体であってもよく、どちらが本発明の第2の抗体であってもよい。捕捉用抗体が本発明の第1の抗体であり、検出用抗体が本発明の第2の抗体である場合、捕捉用抗体によって淋菌L7/L12の第1のエピトープと抗原抗体反応を生じてこれを捕捉すると共に、検出用抗体によって淋菌L7/L12の第2のエピトープと抗原抗体反応を生じてこれを標識し、検出することになる。一方、捕捉用抗体が本発明の第2の抗体であり、検出用抗体が本発明の第1の抗体である場合、捕捉用抗体によって淋菌L7/L12の第2のエピトープと抗原抗体反応を生じてこれを捕捉すると共に、検出用抗体によって淋菌L7/L12の第1のエピトープと抗原抗体反応を生じてこれを標識し、検出することになる。
【0057】
中でも、本発明の淋菌検出方法における捕捉用抗体及び標識用抗体の組合せとしては、制限されるものではないが、以下の(1)又は(2)の組合せとすることが好ましい。
(1)捕捉用抗体が下記a又はbであり、標識用抗体が下記cである組み合わせ。
(2)標識用抗体が下記a又はbであり、捕捉用抗体が下記cである組み合わせ。
a.重鎖可変領域配列として配列番号11のアミノ酸配列と80%以上の相同性を有するアミノ酸配列、及び、軽鎖可変領域配列として配列番号12のアミノ酸配列と80%以上の相同性を有するアミノ酸配列を含む抗体
b.重鎖可変領域配列として配列番号9のアミノ酸配列と80%以上の相同性を有するアミノ酸配列、及び、軽鎖可変領域配列として配列番号10のアミノ酸配列と80%以上の相同性を有するアミノ酸配列を含む抗体
c.重鎖可変領域配列として配列番号7のアミノ酸配列と80%以上の相同性を有するアミノ酸配列、及び、軽鎖可変領域配列として配列番号8のアミノ酸配列と80%以上の相同性を有するアミノ酸配列を含む抗体
【0058】
中でも、後述する広範囲のpH適用性を可能とする観点からは、捕捉用抗体及び標識用抗体の組合せとしては、制限されるものではないが、以下の(1)又は(2)の組合せとすることが好ましい。
(1)捕捉用抗体が下記aであり、標識用抗体が下記cである組み合わせ。
(2)標識用抗体が下記aであり、捕捉用抗体が下記cである組み合わせ。
a.重鎖可変領域配列として配列番号11のアミノ酸配列と80%以上の相同性を有するアミノ酸配列、及び、軽鎖可変領域配列として配列番号12のアミノ酸配列と80%以上の相同性を有するアミノ酸配列を含む抗体
c.重鎖可変領域配列として配列番号7のアミノ酸配列と80%以上の相同性を有するアミノ酸配列、及び、軽鎖可変領域配列として配列番号8のアミノ酸配列と80%以上の相同性を有するアミノ酸配列を含む抗体
【0059】
ここで、態様Aに係る本発明の淋菌検出方法によれば、前記工程(I)は以下を含む。
(Ia-1)検体を検出用抗体と接触させ、検出用抗体と淋菌由来抗原との抗原抗体反応により、検体中の淋菌由来抗原を標識する工程。
(Ia-2)検出用抗体により標識された淋菌由来抗原を含む検体を捕捉用抗体と接触させ、捕捉用抗体と淋菌由来抗原-検出用抗体複合体との抗原抗体反応により、検体中の淋菌由来抗原を捕捉する工程。
【0060】
また、態様Bに係る本発明の淋菌検出方法によれば、前記工程(I)は以下を含む。
(Ib-1)検体を捕捉用抗体と接触させ、捕捉用抗体と淋菌由来抗原との抗原抗体反応により、検体中の淋菌由来抗原を捕捉する工程。
(Ib-2)捕捉用抗体により捕捉された淋菌由来抗原を含む検体を検出用抗体と接触させ、検出用抗体と淋菌由来抗原-捕捉用抗体複合体との抗原抗体反応により、検体中の淋菌由来抗原を標識する工程。
【0061】
本発明の淋菌検出方法において、態様A及び態様Bのうち何れの形態を選択するかは、実際に使用する免疫測定法の種類や検体の種類に応じて決定すればよい。免疫測定法としては、限定されるものではないが、抗体を担持させたマイクロタイタープレートを用いるELISA(酵素結合免疫吸着)法;抗体を担持させたラテックス粒子(例えばポリスチレンラテックス粒子等)を用いるラテックス粒子凝集測定法;抗体を担持させたメンブレン等を用いるイムノクロマトグラム法;着色粒子又は発色能を有する粒子、酵素若しくは蛍光体等で標識した検出用抗体と、磁気微粒子等の固相担体に固定化した捕捉用抗体とを用いるサンドイッチアッセイ法等、種々の公知の免疫学的測定法が挙げられる。
【0062】
以下、特に免疫測定法としてイムノクロマト法を使用し、態様Aに係る本発明の淋菌検出方法を実施する場合を例として説明するが、他の免疫測定法を使用する場合は各特徴を適宜変更して実施することができる。
【0063】
捕捉用抗体に使用する固相担体の種類は特に制限されないが、具体的には、セルロース、ニトロセルロース、酢酸セルロース、ナイロン、PVDF(PolyVinylidene DiFluoride)、グラスファイバー等からなる多孔膜;ガラス、プラスチック、PDMS(Poly(dimethylsiloxane))、シリコン等からなる流路;糸、紙、繊維等が挙げられる。
固相担体に抗体を連結する手法も特に制限されないが、具体的には抗体の疎水性を利用した物理吸着による固定、抗体の官能基を利用した化学結合による固定等の手法が挙げられる。
【0064】
検出用抗体に使用する検出用標識の種類も特に制限されず、検出方法に応じて適宜選択すればよいが、具体的には金コロイド、白金コロイド、パラジウムコロイド等の金属コロイド;セレニウムコロイド、アルミナコロイド、シリカコロイド等の非金属コロイド;着色樹脂粒子、染料コロイド、着色リポソーム等の不溶性粒状物質;アルカリフォスファターゼ、ペルオキシダーゼ、ルシフェラーゼ等の発色反応触媒酵素;蛍光色素、放射性同位体;化学発光標識、生物発光標識、電気化学発光標識等が挙げられる。
【0065】
抗体に標識を付加する手法も特に制限されないが、具体的には抗体の疎水性を利用した物理吸着、抗体の官能基を利用した化学結合等の手法が挙げられる。
【0066】
本発明の淋菌検査方法による淋菌検出の対象は制限されず、淋菌の感染を検出することが求められる任意の対象に実施することが可能であるが、通常は哺乳動物、好ましくはヒトである。
【0067】
淋菌の検出に使用される検体も特に制限されず、尿道炎を引き起こす淋菌が含まれうる対象由来の任意の生体試料を使用することが可能である。例としては、対象の尿や、対象の尿道にスワブを挿入して擦過して得られる尿道内検体、口腔内検体(口腔内拭い液やうがい液等の口腔内液)検体、眼由来検体(結膜擦過検体や目やに等)、膣内擦過検体、子宮頚部擦過検体等が挙げられる。ここで、本発明の淋菌検査方法では、対象の検体取得の負荷が少ない尿を検体として用いることができるというメリットがある。即ち、前述したように、従来のイムノクロマト等の淋菌検査キット(非特許文献1)は検出感度が低い(LoD(検出限界)約5e6cfu/mL)ことから、淋菌濃度の高い尿道内検体を取得する必要があり、対象(とりわけ男性対象)にとっては大きな負担となっていた。これに対し、本発明の淋菌検査方法では、検体中の淋菌の検出限界値が好ましくは5e4cfu/mL以下、より好ましくは3e4cfu/mL以下、更に好ましくは2e4cfu/mL以下と、極めて高感度であることから、対象の尿を検体として用いることができ、対象(とりわけ男性対象)にとっては負担が大幅に低減される。
【0068】
なお、本発明の淋菌検査方法に使用される本発明の第1及び第2の抗体は、淋菌由来抗原として細胞内成分であるL7/L12に存在する特定のエピトープを認識して抗原抗体反応を生じることから、淋菌のL7/L12を細菌の細胞膜外に露出させることで、検出感度を向上させることができる。従って、本発明の第1及び第2の抗体を検体に接触させる前に、検体に対して細菌を溶菌させる処理を施してもよい。斯かる細菌の溶菌処理としては、限定されるものではないが、界面活性剤や溶菌酵素等を用いた溶菌処理や、アルカリ性の溶菌液を用いる溶菌処理が挙げられる。溶菌処理に使用可能な界面活性剤としては、例えばTriton X-100、Tween 20、Brij 35、Nonidet P-40、ドデシル-β-D-マルトシド、オクチル-β-D-グルコシド、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンセチルエーテル等の非イオン性界面活性剤;Zwittergent 3-12、CHAPS(3-(3-コラミドプロピル)ジメチルアンモニオ-1-プロパンスルホネート)等の両イオン性界面活性剤;SDS(ドデシル硫酸ナトリウム)、コール酸ナトリウム等の陰イオン性界面活性剤等が挙げられる。溶菌処理に使用可能な溶菌酵素としては、例えばリゾチーム、リゾスタフィン、ペプシン、グルコシダーゼ、ガラクトシダーゼ、アクロモペプチダーゼ、β-N-アセチルグルコサミニダーゼ等が挙げられる。
【0069】
以下、本発明の淋菌検査方法の各工程について個別に説明すると、前記工程(Ia-1)、即ち、検体を検出用抗体と接触させ、検出用抗体と淋菌由来抗原との抗原抗体反応により、検体中の淋菌由来抗原を標識する工程では、検出用標識を有する検出用抗体を検体と接触させ、検出用抗体と淋菌由来抗原との抗原抗体反応により、検体中の淋菌由来抗原を標識する。検体を検出用抗体と接触させる手法は制限されないが、通常は検出用抗体が含浸された部材領域に、水系検体として調製した検体を導入して一定時間維持することにより実施すればよい。具体的な態様は工程(a)の捕捉の態様等によっても異なるが、例として、固相担体として多孔膜に固定化した捕捉用抗体に検体中の淋菌由来抗原を捕捉させた場合には、その多孔膜に検出用抗体を含む水系試薬を導入して透過させることにより、多孔膜上の捕捉用抗体に捕捉された淋菌由来抗原に検出用抗体を結合させればよい。別の例として、固相担体として流路上の一領域に固定化した捕捉用抗体に検体中の淋菌由来抗原を捕捉させた場合には、検出用抗体を含む水系試薬をその流路に流通させることにより、流路上の捕捉用抗体に捕捉された淋菌由来抗原に検出用抗体を結合させればよい。
【0070】
前記工程(Ia-2)、即ち、検出用抗体により標識された淋菌由来抗原を含む検体を捕捉用抗体と接触させ、捕捉用抗体と淋菌由来抗原-検出用抗体複合体との抗原抗体反応により、検体中の淋菌由来抗原を捕捉する工程では、捕捉用抗体を検体と接触させ、捕捉用抗体と淋菌由来抗原との抗原抗体反応により、検体中の淋菌由来抗原を捕捉する。検体を捕捉用抗体と接触させる手法は制限されないが、通常は捕捉用抗体の存在する領域に水系検体として調製した検体を導入して一定時間維持することにより実施すればよい。具体的な態様は捕捉用抗体の固相担体の種類等によっても異なるが、例として、固相担体として多孔膜を使用し、捕捉用抗体を固定化した多孔膜に検体を導入して透過させることにより、多孔膜に固定化された捕捉用抗体に検体中の淋菌由来抗原を捕捉させればよい。別の例として、固相担体として流路上の一領域に捕捉用抗体を固定化し、当該流路に検体を流通させることにより、当該流路上の一領域に固定化された捕捉用抗体に検体中の淋菌由来抗原を捕捉させてもよい。
【0071】
前記工程(II)、即ち、検体中の淋菌由来抗原を検出用標識に基づき検出する工程では、捕捉用抗体により捕捉され、検出用抗体により標識された検出対象の淋菌由来抗原を、その検出用標識に基づき検出する。その検出法は特に制限されず、検出用標識の種類に応じて適宜選択すればよいが、例えば金コロイド等の金属コロイドを検出用標識として用いた場合、淋菌由来抗原に結合した金コロイドの有無又は存在量を、目視やカメラ等任意の手法で検出すればよい。
【0072】
以上説明した本発明の淋菌検出方法によれば、検体中の淋菌の検出限界値が好ましくは5e4cfu/mL以下、より好ましくは3e4cfu/mL以下、更に好ましくは2e4cfu/mL以下と、極めて高感度である(後述の実施例3、4、及び6等を参照のこと)。このため、従来のイムノクロマト等の淋菌検査キット(非特許文献1)のように淋菌濃度の高い尿道内検体を取得する必要がなく、対象の尿を検体として用いて検査を行うことができ、検体取得に伴う対象の負担を大幅に低減することができる。なお、検体中の淋菌の検出限界値の下限は制限されるものではないが、通常は例えば1e4cfu/mL程度の極微量の淋菌まで検出することが可能である。
【0073】
また、尿や口腔内液は極めて複雑な組成を有すると共に、そのpHは広範囲で分布する(尿のpHは約4.5~8、口腔内液のpHは約4~7)ことが知られているが、本発明の淋菌検出方法は、その好ましい態様によれば、広範囲のpH条件下や模擬尿試料中でも安定して淋菌を検出可能である(後述の実施例5及び6等を参照)。
【0074】
中でも、本発明の淋菌検出方法の一態様によれば、捕捉用抗体及び標識用抗体の組合せとして特定の抗体の組み合わせを用いることにより、高い検出感度に加えて、広範囲のpH条件下でも利用することができ、より信頼性の高い診断を行うことが可能となる。斯かる態様の淋菌検出方法のpH適用範囲は、制限されるものではないが、例えば下限が通常pH4.0以上、中でもpH4.5以上、特にpH5.8以上、また、上限は通常pH9.0以下、中でもpH8.7以下の範囲とすることが可能となる。
【0075】
斯かる広範囲のpH適用性を可能とする捕捉用抗体及び標識用抗体の組合せとしては、制限されるものではないが、以下の(1)又は(2)の組合せとすることが好ましい。
(1)捕捉用抗体が下記aであり、標識用抗体が下記cである組み合わせ。
(2)標識用抗体が下記aであり、捕捉用抗体が下記cである組み合わせ。
a.重鎖可変領域配列として配列番号11のアミノ酸配列と80%以上の相同性を有するアミノ酸配列、及び、軽鎖可変領域配列として配列番号12のアミノ酸配列と80%以上の相同性を有するアミノ酸配列を含む抗体
c.重鎖可変領域配列として配列番号7のアミノ酸配列と80%以上の相同性を有するアミノ酸配列、及び、軽鎖可変領域配列として配列番号8のアミノ酸配列と80%以上の相同性を有するアミノ酸配列を含む抗体
【0076】
また、本発明の淋菌検出方法は、その好ましい態様によれば、検体中の淋菌を同じナイセリア(Neisseria)属の髄膜炎菌と区別して検出可能である(後述の実施例1及び2等を参照のこと)。淋菌と髄膜炎菌とは薬剤耐性の傾向が異なるため、これらを区別してその場(診療現場で)検出できることは、細菌種に応じた適切な薬物療法を早期に選択する上で非常にメリットが大きい。
【0077】
[IV.淋菌検出キット]
本発明の別の態様は、前述の本発明の淋菌検出方法に使用される、検体中の淋菌を検出するためのキット(本発明の淋菌検出キット)に関する。
【0078】
本発明の淋菌検出キットは、前述した捕捉用抗体と検出用抗体とを含む。捕捉用抗体は、通常は固相担体の種類に応じた適切な形態(多孔膜を含む容器、流路を含む容器等)で提供される。検出用抗体は、通常は検出用抗体を水性媒体中に含む水系試薬又は検出用抗体を乾燥した乾燥試薬の形態で提供される。
【0079】
本発明のキットは、前述した捕捉用抗体と検出用抗体に加えて、これらの抗体を使用して本発明の方法を実施するのに必要な1種又は2種以上の試薬、検出用装置若しくはその構成部材、及び/又は、本発明の方法を実施するための手順を記載した指示書を含む。斯かる試薬の種類や指示書の記載内容、更には本発明のキットに含まれる他の構成要素は、具体的な免疫学的測定法の種類に応じて適宜決定すればよい。
【0080】
本発明のキットが検出用装置又はその構成部材を含む場合、斯かるキットにより構成される装置は、本発明の第1及び/又は第2の抗体を使用して本発明の方法を実施するのに必要な構成要素を備えた装置(以下適宜「本発明の装置」と略称する。)である。本発明の装置の具体的な構成要素は、本発明の方法の具体的な実施形態である免疫学的測定法の種類に応じて、適宜調整することができる。前述のように、免疫学的測定法の例としては、限定されるものではないが、抗体を担持させたマイクロタイタープレートを用いるELISA(酵素結合免疫吸着)法;抗体を担持させたラテックス粒子(例えばポリスチレンラテックス粒子等)を用いるラテックス粒子凝集測定法;抗体を担持させたメンブレン等を用いるイムノクロマトグラム法;着色粒子又は発色能を有する粒子、酵素若しくは蛍光体等で標識した検出用抗体と、磁気微粒子等の固相担体に固定化した捕捉用抗体とを用いるサンドイッチアッセイ法等、種々の公知の免疫学的測定法が挙げられるところ、斯かる種々の免疫学的測定法を実施するために必要な構成要素を備えた装置が、本発明の装置となる。
【0081】
装置の具体例としては、ラテラルフロー方式の装置と、フロースルー方式の装置とを挙げることができる。ここで、ラテラルフロー方式とは、捕捉用抗体を表面に固定化させた検出領域を含むメンブレンに対し、検出対象検体及び検出用抗体を平行に展開させ、メンブレンの検出領域に捕捉された目的物質を検出する方法である。一方、フロースルー方式とは、捕捉用抗体を表面に固定化させたメンブレンに、検出対象検体及び検出用抗体を垂直に通過させ、メンブレンの表面に捕捉された目的物質を検出する方法である。本発明の方法は、ラテラルフロー方式の装置とフロースルー方式の装置の何れに対しても適用することが可能である。
【0082】
ラテラルフロー方式の装置及びフロースルー方式のイムノクロマトグラム検出装置はいずれも公知であり、本開示で説明する事項以外の手順については当業者が技術常識に基づいて適宜設計できる。以下、ラテラルフロー方式のイムノクロマトグラム検出装置の検出機構の概略構成について、図面を参照しながら説明するが、これらはあくまでも検出手順の概略構成の一例に過ぎず、ラテラルフロー方式のイムノクロマトグラム検出装置の構成は図面に例示する態様には何ら限定されない。
【0083】
図3は、ラテラルフロー方式のイムノクロマトグラム検出装置の検出機構の一例である、ストリップ状の検出機構の概略構成を示す断面図である。図3の検出機構(10)は、クロマト展開用の不溶性膜担体(1)上のストリップ長さ方向一端側(検体流れBの上流側)に、ストリップ状の検出用抗体含浸部材(コンジュゲートパッド)(2)(このパッドに検出用抗体が含浸されている。)及び検体添加用部材(サンプルパッド)(3)が配置され、他端側(検体流れBの下流側)に吸収用部材(吸収パッド)(4)が配置された状態で、基材(5)上に設けられている。不溶性膜担体(1)上のストリップ長さ方向中央部には、捕捉用抗体が固定化された部位(6)が配置されると共に、必要に応じて対照試薬が固定化された部位(7)が配置されている。なお、対照試薬は、被分析物質とは結合せず検出用抗体とは結合する試薬である。
【0084】
使用時には、検体Aを検体添加用部材(サンプルパッド)(3)上に適用すると、検体Aは、検出用抗体含浸部材(コンジュゲートパッド)(2)を通過して不溶性膜担体(1)を検体流れAの方向に流れる。この際に、検体中の被分析物質(本発明では淋菌由来抗原であるL7/L12)が検出用抗体と結合して、被分析物質-検出用抗体複合体が形成される。検体Aが捕捉用抗体固定部位(6)を通過すると、検体中の被分析物質が捕捉用抗体と結合して、捕捉用抗体-被分析物質-検出用抗体複合体が形成される。さらに、検体Aが対照試薬固定部位(7)を通過すると、検出用抗体のうち被分析物質と結合していないものが対照試薬(7)と結合し、これによって、検査の終了(すなわち検体Aが捕捉用抗体(6)を通過したこと)を確認できる。ここで、捕捉用抗体固定部位(6)に存在する捕捉用抗体-被分析物質-検出用抗体複合体中の検出用抗体が有する標識を、公知の手段で検出することにより、被分析物質の有無又は存在量を検出することが出来る。必要に応じて、検出用抗体の標識を公知の手法により増感して、検出を容易にしてもよい。
【0085】
なお、検出用抗体含浸部材(コンジュゲートパッド)(2)、検体添加用部材(サンプルパッド)(3)、及び/又は対照試薬固定部位(7)は、任意に省略することもできる。本機構において検出用抗体含浸部材(コンジュゲートパッド)(2)を有しない場合、検体A及び検出用抗体を、予め混合した状態又は別々の状態で、同時に又は順次に、不溶性膜担体1上の一端に適用することにより、上記の検査と同様の検査を行うことができる。
【0086】
また、捕捉用抗体と検出用抗体とを入れ替えても、同様の検出が可能な検出キットを構築することができる。
【0087】
以上説明した本発明のキットの製造方法は制限されないが、検出領域を有する担体の検出領域に、捕捉用抗体を固定化する工程を少なくとも含む製造方法によって製造することが好ましい。
【0088】
中でも、本発明のキットがイムノクロマトキットの場合には、検出領域を有する担体の検出領域に、捕捉用抗体を固定化する工程、コンジュゲートパッドに、検出用抗体を添着する工程、及び、担体の検出領域よりも上流に、コンジュゲードパッドを配置する工程を少なくとも含む製造方法によって製造することが好ましい。
【0089】
斯かる本発明のキットの製造方法は、更に、第1及び第2のモノクローナル抗体のうち一方に検出用標識を付し、検出用抗体を調製する工程を更に含むと共に、第1及び第2のモノクローナル抗体のうち他方を捕捉用抗体として、担体の検出領域に固定化する工程を少なくとも含むことが好ましい。第1及び第2のモノクローナル抗体については、先に詳述したとおりである。
【0090】
中でも、第1のモノクローナル抗体として、配列番号1に示す淋菌のL7/L12のアミノ酸配列におけるN末端から2~14番目のアミノ酸残基から選択される1又は2以上のアミノ酸残基を含むエピトープと抗原抗体反応を生じる抗体を使用する場合には、斯かるエピトープを有するエピトープポリペプチドを動物に接種して、前記エピトープポリペプチドと抗原抗体反応を生じる抗体を含む抗血清を取得し、当該抗血清から抗体を精製・分画して第1のモノクローナル抗体を得ることが好ましい。斯かる抗体の取得工程は、本発明のキットの製造方法とは別に実施してもよいが、本発明のキットの製造方法の一工程として実施してもよい。
【0091】
また、第2のモノクローナル抗体として、配列番号1に示す淋菌のL7/L12のアミノ酸配列におけるN末端から102~123番目のアミノ酸残基から選択される1又は2以上のアミノ酸残基を含むエピトープと抗原抗体反応を生じる抗体を使用する場合には、斯かるエピトープを有するエピトープポリペプチドを動物に接種して、前記エピトープポリペプチドと抗原抗体反応を生じる抗体を含む抗血清を取得し、当該抗血清から抗体を精製・分画して第2のモノクローナル抗体を得ることが好ましい。斯かる抗体の取得工程は、本発明のキットの製造方法とは別に実施してもよいが、本発明のキットの製造方法の一工程として実施してもよい。
【0092】
或いは、第1及び/又は第2のモノクローナル抗体として、重鎖及び/又は軽鎖の可変領域のアミノ酸配列が既知の抗体を用いて、本発明のキットの製造に供してもよい。斯かる第1及び/又は第2のモノクローナル抗体の重鎖及び/又は軽鎖の可変領域のアミノ酸配列については、先に詳述したとおりである。
【0093】
なお、第1及び第2のモノクローナル抗体のうち、何れが捕捉用抗体であってもよく、何れが標識用抗体であってもよいのは、前述のとおりである。
【0094】
中でも、本発明のキットの製造に使用される捕捉用抗体及び標識用抗体の組合せとしては、制限されるものではないが、前述したように、以下の(1)又は(2)の組合せとすることが好ましい。
(1)捕捉用抗体が下記a又はbであり、標識用抗体が下記cである組み合わせ。
(2)標識用抗体が下記a又はbであり、捕捉用抗体が下記cである組み合わせ。
a.重鎖可変領域配列として配列番号11のアミノ酸配列と80%以上の相同性を有するアミノ酸配列、及び、軽鎖可変領域配列として配列番号12のアミノ酸配列と80%以上の相同性を有するアミノ酸配列を含む抗体
b.重鎖可変領域配列として配列番号9のアミノ酸配列と80%以上の相同性を有するアミノ酸配列、及び、軽鎖可変領域配列として配列番号10のアミノ酸配列と80%以上の相同性を有するアミノ酸配列を含む抗体
c.重鎖可変領域配列として配列番号7のアミノ酸配列と80%以上の相同性を有するアミノ酸配列、及び、軽鎖可変領域配列として配列番号8のアミノ酸配列と80%以上の相同性を有するアミノ酸配列を含む抗体
【0095】
特に、前述の広範囲のpH適用性を可能とする観点からは、本発明のキットの製造に使用される捕捉用抗体及び標識用抗体の組合せとしては、制限されるものではないが、前述したように、以下の(1)又は(2)の組合せとすることが好ましい。
(1)捕捉用抗体が下記aであり、標識用抗体が下記cである組み合わせ。
(2)標識用抗体が下記aであり、捕捉用抗体が下記cである組み合わせ。
a.重鎖可変領域配列として配列番号11のアミノ酸配列と80%以上の相同性を有するアミノ酸配列、及び、軽鎖可変領域配列として配列番号12のアミノ酸配列と80%以上の相同性を有するアミノ酸配列を含む抗体
c.重鎖可変領域配列として配列番号7のアミノ酸配列と80%以上の相同性を有するアミノ酸配列、及び、軽鎖可変領域配列として配列番号8のアミノ酸配列と80%以上の相同性を有するアミノ酸配列を含む抗体
【実施例
【0096】
以下、本発明を実施例に則して更に詳細に説明するが、これらの実施例はあくまでも説明のために便宜的に示す例に過ぎず、本発明は如何なる意味でもこれらの実施例に限定されるものではない。
【0097】
[実施例1:抗体の作製及びスクリーニング]
淋菌のリボソームタンパク質L7/L12に対する抗体は、国際公開第2001/057089号公報に記載の方法で作製した。具体的には、淋菌のL7/L12のアミノ酸配列の全部又は一部を有するポリペプチド1~4を、淋菌由来抗原ポリペプチドとして用いた。また、髄膜炎菌のL7/L12のアミノ酸配列の全部を有するポリペプチド5を、抗体の交差反応性を検証するための類似抗原ポリペプチドとして用いた。
【0098】
淋菌のL7/L12のアミノ酸配列と、ポリペプチド1~5のアミノ酸配列とのアラインメントを図2に示すと共に、これらのアミノ酸配列の配列番号及び配列間の対応関係を以下の表1に示す。また、表中、淋菌L7/L12の当該アミノ酸残基からなる部分配列を有していることを○で示し、有していないことを×で示す。また、淋菌L7/L12及び髄膜炎菌L7/L12のアミノ酸配列は、N末端から115番目のアミノ酸残基が、淋菌ではアラニンであるのに対し、髄膜炎菌ではグルタミン酸である点のみが相違することから、下記表では、淋菌L7/L12のアミノ酸残基102~123に対応するポリペプチド5の欄を、△と表示している。
【0099】
【表1】
【0100】
上記ポリペプチド1~5は、以下の手順で調製した。即ち、ポリペプチド1~5を各々コードしたDNAを組み込んだ発現ベクターを作製し、斯かる発現ベクターを用いて大腸菌を形質転換した。得られた各形質転換大腸菌を、LB培地等を用いて培養し、形質転換菌から発現されて培地内に放出されたポリペプチド1~5を、発現ベクター由来のタグ配列を利用してアフィニティカラムにより融合タンパク質として精製した。
【0101】
上記手順で得られたポリペプチド1を、各々アジュバントとともにマウスへ接種した。接種から30日後、マウスの脾臓細胞を摘出して骨髄腫細胞と細胞融合し、抗体産生ハイブリドーマを作製した。
【0102】
ハイブリドーマより産生されるモノクローナル抗体を、ELISA法等を用いて選別した。選別には前記のポリペプチド1~5を使用した。具体的には、前記のポリペプチド1~5を各々1×PBS中 2μg/mLの濃度で96穴マイクロプレートに固相化し、ここに上記で得られた各モノクローナル抗体を100ng/mLの濃度で反応させ、更にHRP(ホースラディッシュペルオキシダーゼ)標識付き抗IgG抗体を反応させ、最後に基質を添加し発色させることで、各モノクローナル抗体のポリペプチド1~5に対する反応パターンを評価した。
【0103】
以上の手順により、最終的に6種類のモノクローナル抗体を取得した。得られた6種類のモノクローナル抗体のポリペプチド1~5に対する反応性を、以下の表2に示す。表中、波長450nmでの吸光度が0.1以上のものを〇と示し、0.1未満のものを×と示した。
【0104】
【表2】
【0105】
以上の反応パターンから、6種類のモノクローナル抗体を下記4種に分類した。
・抗体種A(NG1):本抗体種は、ポリペプチド4及びポリペプチド5に反応しないことから、淋菌L7/L12のN末端から115番目のアミノ酸を含む、N末端から102~123番目のアミノ酸残基からなる部分配列と反応していることが分かる。
・抗体種B(NG2、NG3):本抗体種は、ポリペプチド2に反応しないことから、淋菌L7/L12のN末端から2~14番目のアミノ酸残基からなる部分配列と反応していることがわかる。
・抗体種C(NG4、NG5):本抗体種は、ポリペプチド2には反応するがポリペプチド3に反応しないことから、淋菌L7/L12のN末端から15~63番目のアミノ酸残基からなる部分配列と反応していることが分かる。
・抗体種D(NG6):本抗体種は、ポリペプチド1~5の全てと反応することから、淋菌L7/L12のN末端から64~101番目のアミノ酸残基からなる部分配列と反応していることが分かる。
【0106】
また、得られた6種類のモノクローナル抗体のうち、抗体種Aに属する抗体NG1、並びに抗体種Bに属する抗体NG2及びNG3について、重鎖及び軽鎖各可変領域配列のアミノ酸配列を常法により同定した。抗体NG1の重鎖及び軽鎖各可変領域のアミノ酸配列をそれぞれ配列番号7及び配列番号8に示す。抗体NG2の重鎖及び軽鎖各可変領域のアミノ酸配列をそれぞれ配列番号9及び配列番号10に示す。抗体NG3の重鎖及び軽鎖各可変領域のアミノ酸配列をそれぞれ配列番号11及び配列番号12に示す。
【0107】
[実施例2:抗体の組み合わせによる淋菌検出性能のELISAによる評価]
次に、上記抗体種A~Dの抗体同士を種々組合せて捕捉用抗体及び検出用抗体として用い、各組み合わせによる淋菌検出の性能をELISA法により検証した。抗体種Aとしては抗体NG1、抗体種Bとしては抗体NG3、抗体種Cとしては抗体NG5、抗体種Dとしては抗体NG6を評価に用いた。また、上記抗体種A~Dの各抗体を検出用抗体として使用する際には、常法によりHRP(ホースラディッシュペルオキシダーゼ)標識を付加した上で使用した。
【0108】
まず、淋菌(ATCC700825)及び髄膜炎菌(ATCC13090)を各々チョコレート寒天培地上に播種し、37℃、CO2 5~10%の環境下にて24時間培養し、生成したコロニーを釣菌し、生食に懸濁した。懸濁生食液の吸光度を吸光光度計(波長600nm)にて測定し、吸光度が2になる濃度には淋菌が1e9cfu/mLの濃度で含まれるとして、淋菌生食懸濁液の菌数値付けを行った。淋菌及び髄膜炎菌の生食懸濁液を生食で段階希釈し、菌濃度6e6cfu/mLの淋菌生食懸濁液を得た。
【0109】
また、下記の組成の抽出液を調製した。
0.3% TritonX-100
0.3% ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンセチルエーテル
0.2% 牛血清アルブミン
0.1M 塩化ナトリウム
【0110】
前記の菌濃度6e6cfu/mLの淋菌生食懸濁液100μLに、前記の抽出液500μLを加え、よく混和した後に1時間静置し、菌濃度1e6cfu/mLの抽出サンプル液を調製した。
【0111】
96穴マイクロプレートのウェルに、抗体種A~Dから選択された捕捉用抗体を1×PBSに10μg/mLの濃度で溶解した捕捉用抗体溶液50μLを導入し、4℃で16時間静置することで、捕捉用抗体をウェル底面に固定化した。次に、ウェル内の捕捉用抗体溶液を取り除き、0.05% Tween20を含む1×PBSでウェルを洗浄し、BSAを1×PBSに1%濃度で溶解した溶液を200μL導入し、2時間反応させることで、ウェルをブロッキングした。次に、前述の方法により調製した菌濃度1e6cfu/mLの淋菌又は髄膜炎菌の抽出サンプル液をウェルに50μL注入し、1時間反応させた。その後、ウェル内の抽出サンプル液を取り除き、0.05% Tween20を含む1×PBSでウェルを洗浄し、抗体種A~Dから選択されたHRP標識化検出用抗体を1×PBSに1μg/mLの濃度で溶解した検出用抗体溶液を50μL導入し、1時間反応させた。その後、ウェル内の検出用抗体溶液を取り除き、0.05% Tween20を含む1×PBSでウェルを洗浄したのち、100μLの発光基質を添加して30分静置し、更に停止液として1規定の塩酸を100μL添加して発色反応を停止した。最後に、各ウェルの吸光度(波長450nm)をプレートリーダー(Molecular Devices "Spectra Max 190")にて測定した。
【0112】
結果を下記表3に示す。表中、淋菌の抽出サンプル液を反応させたウェルの吸光度と、淋菌及び髄膜炎菌を含まない抽出サンプル液を反応させたウェルの吸光度との差分(吸光度差分A)が1.0未満となった組み合わせは×とした。前記の吸光度差分Aが1.0以上となった組合せのうち、髄膜炎菌の抽出サンプル液を反応させたウェルの吸光度と、淋菌及び髄膜炎菌を含まない抽出サンプル液を反応させたウェルの吸光度の差分(吸光度差分B)が1.0未満となった組み合わせは●とした。前記の吸光度差分A及びBが共に1.0以上となった組合せは〇とした。
【0113】
【表3】
【0114】
以上の結果から、抗体種A(NG1)を含む組合せは何れも、淋菌の抽出サンプルと髄膜炎菌の抽出サンプルとの間で明確にシグナルに差があることから、抗体種Aは淋菌リボソームタンパク質L7/L12のアミノ酸配列のうち、髄膜炎菌のL7/L12のアミノ酸配列との唯一の相違点である、N末端から115番目のアミノ酸残基を含む部分配列と抗原抗体反応を生じているものと考えられる。
【0115】
[実施例3:免疫クロマトグラフィー装置による淋菌検出感度の評価]
次に、抗体種B~Dから選択された抗体を捕捉用抗体として用い、抗体種Aの抗体を検出用抗体として用いた淋菌検出用免疫クロマトグラフィー装置を作製し、斯かる淋菌検出用免疫クロマトグラフィー装置による淋菌検出の性能を検証した。抗体種Aとしては抗体NG1を評価に用いた。また、抗体種B~Dの各抗体を検出用抗体として使用する際には、常法によりHRP標識を付加した上で使用した。
【0116】
まず、抗体種B、C、及びDの各モノクローナル抗体及びトレハロースを、それぞれ1.5mg/mL及び3%(v/v)となるように50mMリン酸ナトリウム緩衝液に溶解させた。得られた抗体溶液を、市販のニトロセルロース膜を幅2.5cm、長さ30cmの方形にカットしたものに、長さ1cmあたり1μL液量で塗布し、その後乾燥させることにより、捕捉用抗体として抗体種B、C、及びDの各抗体が含浸されたクロマト展開用膜担体を作製した。
【0117】
金コロイド溶液(粒径60nm)に、1/10量の0.1M感作バッファー(株式会社同仁化学研究所製TAPSO、pH7.0)と、淋菌のリボソームタンパク質L7/L12に対する抗体種Aとを加えて混合し、室温で30分間静置して抗体を金コロイド粒子表面に結合させた後、金コロイド溶液における最終濃度が0.2%となるように2.5%カゼイン水溶液を加えてブロッキングし、金コロイド標識抗体液を調製した。この液を市販のガラス繊維シートに浸み込ませた後、湿度0~60%の乾燥庫にて一晩乾燥させて、検出用抗体として抗体種Aの金コロイド標識抗体が含浸された標識抗体含浸部材を作製した。
【0118】
上述した手順で作製したクロマト展開用膜担体(1)及び金コロイド標識抗体含浸部材(2)に加えて、更に試料添加用部材(3)として綿布と、吸収用部材(4)として濾紙を用意した。そして、これらの部材を基材(5)に貼り合せた後、5mm幅に切断し、図3に示す構造を有する免疫クロマトグラフィー装置を作製した。
【0119】
淋菌生食懸濁液を生食で段階希釈し、菌濃度1e5、5e4、2e4、及び1e4cfu/mLの淋菌生食懸濁液を得た。その後、淋菌生食懸濁液100μLに抽出液500μLを加え、よく混和したのち1時間静置し、抽出サンプル液を調製した。
【0120】
上記で調製した抽出サンプル液を、前述の手順で作製した淋菌検出用免疫クロマトグラフィー装置に115μLずつ滴下し、15分後に目視で判定を行った。結果を下記表4に示す。なお、表中、〇は目視陽性を示し、×は目視陰性を示す。
【0121】
【表4】
【0122】
この結果から、抗体種Aと抗体種Bとの組合せは良好な検出性能を示し、(抽出前の菌量で)1~2e4cfu/mLという低濃度の淋菌を検出可能であった。一方、抗体種Aと抗体種C又は抗体種Dとの組み合わせでは、(抽出前の菌量で)1e5cfu/mL未満の菌濃度の淋菌を検出することができなかった。
【0123】
[実施例4:ELISA法による淋菌検出感度の評価]
実施例3(免疫クロマトグラフィー装置による淋菌検出感度の評価)で、1e5cfu/mLという低菌濃度の検体から淋菌検出が可能だった抗体の組合せを用いて、免疫クロマトグラフィーとは異なる免疫検査原理の例として、ELISA法でもその検出性能を評価した。
【0124】
96穴マイクロプレートのウェルに捕捉用抗体(抗体種Bの抗体NG2及びNG3、並びに抗体Cの抗体NG5)を1×PBSに10μg/mLの濃度で溶解した捕捉用抗体溶液を50μL導入したのち、4℃で16時間静置することで捕捉用抗体をウェル底面に固定化した。次に、ウェル内の捕捉用抗体溶液を取り除き、0.05% Tween20を含む1×PBSでウェルを洗浄し、BSAを1×PBSに1%濃度で溶解した溶液を200μL導入し、2時間反応させることで、ウェルをブロッキングした。次に、前述の方法により菌濃度を1e5、5e4、2e4、及び1e4cfu/mLに調製した抽出サンプル液をウェルに50μL注入し1時間反応させた。その後、ウェル内の抽出サンプル液を取り除き、0.05% Tween20を含む1×PBSでウェルを洗浄し、HRP標識化検出用抗体(NG1)を1×PBSに1μg/mLの濃度で溶解した検出用抗体溶液を50μL導入し、1時間反応させた。その後、ウェル内の検出用抗体溶液を取り除き、0.05% Tween20を含む1×PBSでウェルを洗浄したのち、100μLの発光基質を添加して30分静置し、更に停止液として1規定の塩酸を100μL添加して発色反応を停止した。最後に、各ウェルの吸光度(波長450nm)をプレートリーダー(Molecular Devices "Spectra Max 190")にて測定した。
【0125】
結果を下記表5に示す。表中、各菌濃度の抽出サンプル液を反応させたウェルの吸光度と、菌を含まない抽出サンプル液を反応させたウェルの吸光度の差分が0.1以上となった場合を〇、0.1未満となった場合を×とした。
【0126】
【表5】
【0127】
この結果から、抗体種Aと抗体種Bとの組合せは、ELISA法でも良好な検出性能を示し、(抽出前の菌量で)1~2e4cfu/mLという低濃度の淋菌を検出可能であった。一方、抗体種Aと抗体種Cとの組み合わせでは、(抽出前の菌量で)1e5cfu/mL未満の菌濃度の淋菌を検出することができなかった。
【0128】
[実施例5:ELISA法による広域pH範囲化での淋菌検出感度の評価]
実施例3(免疫クロマトグラフィー装置による淋菌検出感度の評価)で、菌濃度1e5cfu/mLの検体から淋菌検出が可能だった組合せについて、ELISA法を用いて、広pH範囲での免疫検出性能を評価した。
【0129】
評価のために、以下の3種類の免疫反応用バッファー溶液を調製した。
・溶液1:10mM K2HPO4、90mM KH2PO4、100mM NaCl、pH5.8、電導度18mS/cm
・溶液2:60mM K2HPO4、40mM KH2PO4、100mM NaCl、pH6.8、電導度20mS/cm
・溶液3:100mM K2HPO4、100mM NaCl、pH8.7、電導度23mS/cm
・溶液4:100mM KH2PO4、100mM NaCl、pH4.5、電導度17mS/cm
【0130】
96穴マイクロプレートのウェルに捕捉用抗体(NG2、NG3、NG5)を1×PBSに10μg/mLの濃度で溶解した捕捉用抗体溶液を50μL導入したのち、4℃で16時間静置することで捕捉用抗体をウェル底面に固定化した。次に、ウェル内の捕捉用抗体溶液を取り除き、0.05% Tween20を含む1×PBSでウェルを洗浄し、BSAを1×PBSに1%濃度で溶解した溶液を200μL導入し、2時間反応させることで、ウェルをブロッキングした。次に、前述の方法により淋菌の菌濃度を1.6e7cfu/mL(溶液1、2、3添加用)又は3e7cfu/mL(溶液4添加用)に調製した抽出サンプル液を、上述の免疫反応用バッファー(溶液1、2、3、4)に1/100量添加し、淋菌を菌濃度1.6e5cfu/mL(溶液1、2、3)又は3e5cfu/mL(溶液4)で含むpH調整サンプル液を得た。このpH調整サンプル液をウェルに50μL注入し1時間反応させた。その後、ウェル内のpH調整サンプル液を取り除き、0.05% Tween20を含む1×PBSでウェルを洗浄し、上述の免疫反応用バッファー(溶液1、2、3)にHRP標識化検出用抗体(NG1)を1μg/mLの濃度で溶解したpH調整検出用抗体溶液を50μL導入し、1時間反応させた。この際、ウェルに入れるpH調整サンプル液とpH調整検出用抗体溶液のpHを揃えた。その後、ウェル内のpH調整検出用抗体溶液を取り除き、0.05% Tween20を含む1×PBSでウェルを洗浄したのち、100μLの発光基質を添加して30分静置し、更に停止液として1規定の塩酸を100μL添加して発色反応を停止した。最後に、各ウェルの吸光度(波長450nm)をプレートリーダー(Molecular Devices "Spectra Max 190")にて測定した。
【0131】
結果を下記表6に示す。表中、各菌濃度の抽出サンプル液を反応させたウェルの吸光度と、菌を含まない抽出サンプル液を反応させたウェルの吸光度の差分が1.0以上となった場合を++、0.5以上1.0未満となった場合を+、0.5未満となった場合を-とした。
【0132】
【表6】
【0133】
抗体種Aと抗体種Bの組合せは、pH5.8から8.7の広いpH範囲で安定して免疫検出が可能であったことから、広範囲でpHが変わり得る尿検体や口腔内検体等、種々の検体からの淋菌検出に適していると考えられる。抗体種Aと抗体種Bの組合せが、pH5.8から8.7の広いpH範囲で安定して免疫検出が可能であったのは、抗体種Aが抗原抗体反応を生じる抗原側のアミノ酸配列、即ち配列番号1に示す淋菌のL7/L12のアミノ酸配列におけるN末端から102~121番目のアミノ酸残基、及び、抗体種Bが抗原抗体反応を生じる抗原側のアミノ酸配列、即ち配列番号1に示す淋菌のL7/L12のアミノ酸配列におけるN末端から3~14番目のアミノ酸残基が、pH5.8から8.7のpH範囲で構造や化学的性質が安定しているためであると考えられる。
【0134】
なお、抗体種AとしてNG1、抗体種BとしてNG3を用いた組合せは、pH4.5という低pH下でも安定して免疫検出が可能であったことから、広範囲でpHが変わり得る尿検体や口腔内検体等、種々の検体からの淋菌検出に特に適していると考えられる。斯かる抗体NG1とNG3との組合せは、pH4.5という低pH下でも安定して免疫検出が可能であった理由は、あくまでも推測であるが、抗体種BであるNG3の抗原認識部位が低pH下でも特に構造や化学的性質が安定しているためであると考えられる。
【0135】
[実施例6:尿検体からの淋菌検出性能評価]
良好な検出性能と広pH範囲適応性を持つ、抗体種Aと抗体種Bの組合せで、実際の尿検体からの淋菌検出が可能であるかどうかを評価した。市販のドナー尿(LEE BIOSOLUTIONS、pH6.3、電導度10mS/cm、Cobas8800による淋菌核酸検査で陰性)に、菌濃度既知の淋菌生食懸濁液を添加し、尿中淋菌濃度0cfu/mL、1e4cfu/mL、及び2e4cfu/mLの模擬尿検体を作製した。模擬尿検体100μLに抽出液500μLを加え、よく混和し、抽出サンプル液を調製した。
【0136】
上記で調製した抽出サンプル液を、実施例3に記載の手順で作製した淋菌検出用免疫クロマトグラフィー装置に115μLずつ滴下し、15分後に目視で判定を行った。結果を下記表7に示す。なお、下記表中、〇は目視陽性を示し、×は目視陰性を示す。
【0137】
【表7】
【0138】
抗体種Aと抗体種Bの組合せは対象が尿検体であっても良好な検出性能を示し、(抽出前の菌量で)1~2e4cfu/mLという低濃度の淋菌を検出可能であった。
【0139】
[実施例7:イムノクロマトグラフィーによる淋菌検出感度の評価]
良好な検出性能と広pH範囲適応性を持つ、抗体種Aと抗体種Bの組合せが、検体中の淋菌を髄膜炎菌から峻別して検出できるかを、実施例3で作製したイムノクロマトグラフィー装置を用いて評価した。
【0140】
淋菌生食懸濁液を生食で段階希釈し、菌濃度1.2e6、6e5、3e5、1.2e5、6e4cfu/mLの淋菌生食懸濁液を得た。その後、淋菌生食懸濁液100μLに抽出液500μLを加え、よく混和したのち1時間静置し、菌濃度2e5、1e5、5e4、2e4、及び1e4cfu/mLの抽出サンプル液を調製した。
【0141】
上記で調製した抽出サンプル液を、前述の手順で作製した淋菌検出用免疫クロマトグラフィー装置に115μLずつ滴下し、15分後に目視で判定を行った。結果を下記表8に示す。なお、表中、〇は目視陽性を示し、×は目視陰性を示す。
【0142】
【表8】
【0143】
抗体種Aと抗体種Bの組合せは、髄膜炎菌の検出感度の少なくとも10倍以上の淋菌検出感度を有し、検体中の淋菌を髄膜炎菌から峻別して検出可能であった。
【0144】
[実施例8:菌特異性の評価]
良好な検出性能と広pH範囲適応性を持つ抗体種Aと抗体種Bとの組合せが、検体中の他の属の菌と交差反応しないことを、実施例3で作製したイムノクロマトグラフィー装置を用いて評価した。
【0145】
表9に示す細菌種のうち、Chlamydia trachomatis、Chlamydia pneumoniae、Mycoplasma pneumoniaeを除く各細菌の懸濁液を、実施例2に記載の方法で菌数値付けしたのち、生食で段階希釈し、菌濃度6e7cfu/mLの各細菌の生食懸濁液を得た。その後、菌生食懸濁液100μLに抽出液500μLを加え、よく混和したのち1時間静置し、菌濃度1e7cfu/mLの抽出サンプル液を調製した。Chlamydia trachomatisについては、Microbix社から購入した2e8IFU/mlの不活化菌液を生食で段階希釈し、菌生食懸濁液菌100μLに抽出液500μLを加え、よく混和したのち1時間静置することで、濃度2e6IFU/mlの抽出サンプル液を調製した。Chlamydia pneumoniaeについては、Microbix社から購入した2e8IFU/mlの不活化菌液を生食で段階希釈し、菌生食懸濁液菌100μLに抽出液500μLを加え、よく混和したのち1時間静置することで、菌濃度4e6IFU/mlの抽出サンプル液を調製した。Mycoplasma pneumoniaeについては、Microbix社から購入した5e7IFU/mlの不活化菌液を生食で段階希釈し、菌生食懸濁液菌100μLに抽出液500μLを加え、よく混和したのち1時間静置することで、菌濃度2e6IFU/mlの抽出サンプル液を調製した。
【0146】
上記で調製した抽出サンプル液を、前述の手順で作製した淋菌検出用免疫クロマトグラフィー装置に115μLずつ滴下し、15分後に目視で判定を行った。結果を下記表9に示す。なお、表中、〇は目視陽性を示し、×は目視陰性を示す。
【0147】
【表9】
【0148】
抗体種Aと抗体種Bの組合せは、検体中の表9に示す淋菌以外の菌とは交差反応しなかった。
【産業上の利用可能性】
【0149】
本発明は、淋菌検出等の医療の分野に広く適用でき、その利用価値は極めて大きい。
【符号の説明】
【0150】
10 検出機構
1 クロマト展開用不溶性膜担体
2 検出用抗体含浸部材(コンジュゲートパッド)
3 検体添加用部材(サンプルパッド)
4 吸収用部材(吸収パッド)
5 基材
6 捕捉用抗体固定部位
7 対照試薬固定部位
A 検体
B 検体流れ
図1
図2
図3
【配列表】
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