(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-17
(45)【発行日】2024-06-25
(54)【発明の名称】機器の性能評価装置、機器の性能評価方法及び機器の性能評価プログラム
(51)【国際特許分類】
G06Q 10/20 20230101AFI20240618BHJP
F01D 21/00 20060101ALI20240618BHJP
F02C 7/00 20060101ALI20240618BHJP
G05B 23/02 20060101ALI20240618BHJP
G06Q 50/06 20240101ALI20240618BHJP
【FI】
G06Q10/20
F01D21/00 W
F02C7/00 A
G05B23/02 R
G05B23/02 T
G05B23/02 302R
G06Q50/06
(21)【出願番号】P 2023524555
(86)(22)【出願日】2022-08-16
(86)【国際出願番号】 JP2022030953
(87)【国際公開番号】W WO2023047841
(87)【国際公開日】2023-03-30
【審査請求日】2023-04-21
(31)【優先権主張番号】P 2021153785
(32)【優先日】2021-09-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006208
【氏名又は名称】三菱重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000785
【氏名又は名称】SSIP弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】大村 尚登
(72)【発明者】
【氏名】水見 俊介
(72)【発明者】
【氏名】小野 英樹
(72)【発明者】
【氏名】望月 翔太
(72)【発明者】
【氏名】長濱 義人
(72)【発明者】
【氏名】大崎 展弘
【審査官】松本 泰典
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-198081(JP,A)
【文献】特開2001-263006(JP,A)
【文献】国際公開第2017/158975(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06Q 10/20
F01D 21/00
F02C 7/00
G05B 23/02
G06Q 50/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
評価対象機器の運転中に取得されるデータに基づいて、前記評価対象機器の性能指標の経時的な変化を示す全体性能関数を求めるように構成された全体性能関数取得部と、
前記性能指標の複数の変化要因にそれぞれ起因する前記性能指標の経時的な変化をそれぞれ示す複数の個別性能関数を定義するように構成された個別性能関数定義部と、
前記複数の個別性能関数の重ね合わせを行うことにより前記評価対象機器の性能推定モデルを作成するように構成されたモデル作成部と、を備え、
前記モデル作成部は、前記複数の個別性能関数の重ね合わせが前記全体性能関数に
最も近くなるように、前記重ね合わせにおける前記複数の個別性能関数の各々の係数を決定するように構成された機器の性能評価装置。
【請求項2】
前記モデル作成部は、ベイズ推定の手法を用いて
前記複数の個別性能関数の各々の係数の複数の組合せを取得し、
前記複数の組合せのうち、前記複数の個別性能関数の重ね合わせが前記全体性能関数に最も近くなる前記複数の個別性能関数の各々の係数の組合せを前記複数の個別性能関数の各々の係数
として決定するように構成された
請求項1に記載の機器の性能評価装置。
【請求項3】
前記モデル作成部は、乱数発生アルゴリズムを用いて前記ベイズ推定における前記係数の事後分布を求めるように構成された
請求項2に記載の機器の性能評価装置。
【請求項4】
前記モデル作成部は、過去に取得されたデータ又は物理的な仮定に基づいて、前記ベイズ推定における前記係数の事前分布の範囲又は形状を決定するように構成された
請求項2又は3に記載の機器の性能評価装置。
【請求項5】
前記個別性能関数定義部は、前記複数の変化要因の各々について、前記変化要因に関連するパラメータの理論値又は実測値に基づいて、前記個別性能関数を定義するように構成された
請求項1乃至3の何れか一項に記載の機器の性能評価装置。
【請求項6】
前記個別性能関数定義部は、前記パラメータの値と前記評価対象機器の性能変化の大きさとの第1相関関係、及び、前記パラメータの値と時間との第2相関関係に基づいて、前記個別性能関数を定義するように構成された
請求項5に記載の機器の性能評価装置。
【請求項7】
前記個別性能関数定義部は、前記パラメータの実測値に対して、前記パラメータの値と時間との相関関係の形状を有するベース曲線をフィッティングすることで、前記第2相関関係を取得するように構成された
請求項6に記載の機器の性能評価装置。
【請求項8】
評価対象機器の運転中に取得されるデータに基づいて、前記評価対象機器の性能指標の経時的な変化を示す全体性能関数を求めるステップと、
前記性能指標の複数の変化要因に起因する前記性能指標の経時的な変化をそれぞれ示す複数の個別性能関数を定義するステップと、
前記複数の個別性能関数の重ね合わせを行うことにより前記評価対象機器の性能推定モデルを作成するステップと、を備え、
前記性能推定モデルを作成するステップでは、前記複数の個別性能関数の重ね合わせが前記全体性能関数に
最も近くなるように、前記重ね合わせにおける前記複数の個別性能関数の各々の係数を決定する
機器の性能評価方法。
【請求項9】
コンピュータに、
評価対象機器の運転中に取得されるデータに基づいて、前記評価対象機器の性能指標の経時的な変化を示す全体性能関数を求める手順と、
前記性能指標の複数の変化要因に起因する前記性能指標の経時的な変化をそれぞれ示す複数の個別性能関数を定義する手順と、
前記複数の個別性能関数の重ね合わせを行うことにより前記評価対象機器の性能推定モデルを作成する手順と、を実行させ、
前記性能推定モデルを作成する手順では、前記複数の個別性能関数の重ね合わせが前記全体性能関数に
最も近くなるように、前記重ね合わせにおける前記複数の個別性能関数の各々の係数を決定する
機器の性能評価プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、機器の性能評価装置、機器の性能評価方法及び機器の性能評価プログラムに関する。
本願は、2021年9月22日に日本国特許庁に出願された特願2021-153785号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
発電プラント等のプラントにおいて、プラントやプラントの構成機器の性能等の予測結果を用いて、プラントや機器の運転の管理を行うことがある。
【0003】
特許文献1には、静的な物理ベースモデルと、該物理ベースモデルによる予測を、プラントから収集されるデータに基づいて補正する補正器モデルと、を含むハイブリッド予測モデルを用いて、発電プラントの性能を予測する方法が開示されている。特許文献1の方法では、最新のプラント運転データを用いて補正器モデルを訓練することで、機器の劣化や制御メカニズムの更新等に伴う性能変化を、性能予測に反映するようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、プラントやプラントの構成機器の性能変化(性能劣化等)には、複数の要因が存在する場合がある。しかしながら、従来の予測手法は、プラント又は機器の全体としての性能変化を予測するものであるため、性能変化の要因を推定することができない。
【0006】
上述の事情に鑑みて、本発明の少なくとも一実施形態は、評価対象機器について、経時的な性能変化を定量的に推定可能であるとともに、性能変化の要因推定が可能な機器の性能評価装置、機器の性能評価方法及び機器の性能評価プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の少なくとも一実施形態に係る機器の性能評価装置は、
評価対象機器の運転中に取得されるデータに基づいて、前記評価対象機器の性能指標の経時的な変化を示す全体性能関数を求めるように構成された全体性能関数取得部と、
前記性能指標の複数の変化要因にそれぞれ起因する前記性能指標の経時的な変化をそれぞれ示す複数の個別性能関数を定義するように構成された個別性能関数定義部と、
前記複数の個別性能関数の重ね合わせを行うことにより前記評価対象機器の性能推定モデルを作成するように構成されたモデル作成部と、を備え、
前記モデル作成部は、前記複数の個別性能関数の重ね合わせが前記全体性能関数に近くなるように、前記重ね合わせにおける前記複数の個別性能関数の各々の係数を決定するように構成される。
【0008】
また、本発明の少なくとも一実施形態に係る機器の性能評価方法は、
評価対象機器の運転中に取得されるデータに基づいて、前記評価対象機器の性能指標の経時的な変化を示す全体性能関数を求めるステップと、
前記性能指標の複数の変化要因に起因する前記性能指標の経時的な変化をそれぞれ示す複数の個別性能関数を定義するステップと、
前記複数の個別性能関数の重ね合わせを行うことにより前記評価対象機器の性能推定モデルを作成するステップと、を備え、
前記性能推定モデルを作成するステップでは、前記複数の個別性能関数の重ね合わせが前記全体性能関数に近くなるように、前記重ね合わせにおける前記複数の個別性能関数の各々の係数を決定する。
【0009】
また、本発明の少なくとも一実施形態に係る機器の性能評価プログラムは、
コンピュータに、
評価対象機器の運転中に取得されるデータに基づいて、前記評価対象機器の性能指標の経時的な変化を示す全体性能関数を求める手順と、
前記性能指標の複数の変化要因に起因する前記性能指標の経時的な変化をそれぞれ示す複数の個別性能関数を定義する手順と、
前記複数の個別性能関数の重ね合わせを行うことにより前記評価対象機器の性能推定モデルを作成する手順と、を実行させ、
前記性能推定モデルを作成する手順では、前記複数の個別性能関数の重ね合わせが前記全体性能関数に近くなるように、前記重ね合わせにおける前記複数の個別性能関数の各々の係数を決定する。
【発明の効果】
【0010】
本発明の少なくとも一実施形態によれば、評価対象機器について、経時的な性能変化を定量的に推定可能であるとともに、性能変化の要因推定が可能な機器の性能評価装置、機器の性能評価方法及び機器の性能評価プログラムが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】幾つかの実施形態における評価対象機器(タービン)の概略図である。
【
図2】一実施形態に係る機器の性能評価装置の概略構成図である。
【
図3】一実施形態に係る機器の性能評価方法のフローチャートである。
【
図4】タービン内部効率の経時変化の一例を示すグラフである。
【
図5】全体性能関数F(t)の一例を示すグラフである。
【
図6】個別性能関数の一例を模式的に示すグラフである。
【
図7】第1相関関係の一例を模式的に示す図である。
【
図8】第2相関関係の一例を模式的に示す図である。
【
図9】第2相関関係の求め方を説明するための図である。
【
図10】第2相関関係の求め方を説明するための図である。
【
図11】性能推定モデルの一例を視覚的に示す模式的なグラフである。
【
図12】性能推定モデルの一例を視覚的に示す模式的なグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、添付図面を参照して本発明の幾つかの実施形態について説明する。ただし、実施形態として記載されている又は図面に示されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対的配置等は、本発明の範囲をこれに限定する趣旨ではなく、単なる説明例にすぎない。
【0013】
(性能評価装置の構成)
図1は、幾つかの実施形態に係る性能評価装置による評価対象の機器の一例であるタービン2の概略図である。
図2は、一実施形態に係る機器の性能評価装置の概略構成図である。
【0014】
幾つかの実施形態に係る性能評価装置による評価対象の機器(評価対象機器)は、プラントの全体又は一部、又は、プラントを構成する機器又はその一部であってもよい。
【0015】
図1に示すタービン2は、作動流体によって駆動されるように構成される。作動流体は、タービン入口を介してタービン2に導入される。また、タービン2で仕事を終えた作動流体は、タービン出口を介してタービン2から排出される。タービン2の回転シャフトには発電機が連結されていてもよい。
【0016】
タービン2は、蒸気によって駆動されるように構成された蒸気タービンであってもよい。あるいは、タービン2は、燃料の燃焼により生成されるガスにより駆動されるように構成されたガスタービンであってもよい。
【0017】
図1に示すタービン2は、複数段のタービン翼列のうち、作動流体の流れ方向における上流側の部分である上流段部2aと、上流段部2aよりも下流側の部分である下流段部2bと、を含む。一実施形態では、タービン2は、上流段部2aと下流段部2bとの段間から作動流体を抽気するように構成されていてもよい。
【0018】
一実施形態では、タービン2を含むプラントが評価対象機器であってもよい。一実施形態では、タービン2が評価対象機器であってもよい。一実施形態では、タービン2の上流段部2a又は下流段部2bが評価対象機器であってもよい。
【0019】
図2に示す性能評価装置20は、計測部12及び/又は記憶部14から取得される情報を処理して、評価対象機器の性能評価をするように構成される。
【0020】
計測部12は、評価対象機器の性能指標に関するパラメータを計測するように構成される。
【0021】
評価対象機器としてのタービン2の性能指標として、例えばタービン内部効率を採用してもよい。この場合、計測部12は、タービン入口における圧力P1及び温度T1、並びに、タービン出口における圧力P2及び温度T2をそれぞれ計測するための複数のセンサを含んでいてもよい。タービン内部効率は、これらのパラメータの計測値から算出することができる。
【0022】
評価対象機器がタービン2の上流段部2aである場合、性能指標として、上流段部2aのタービン内部効率を採用してもよい。この場合、計測部12は、タービン入口における圧力P1及び温度T1、並びに、上流段部2aと下流段部2bの間(段間)における圧力Pi及び温度Tiをそれぞれ計測するための複数のセンサを含んでいてもよい。
【0023】
評価対象機器がタービン2の下流段部2bである場合、性能指標として、下流段部2bのタービン内部効率を採用してもよい。この場合、計測部12は、上流段部2aと下流段部2bの間(段間)における圧力Pi及び温度Ti、並びに、タービン出口における圧力P2及び温度T2をそれぞれ計測するための複数のセンサを含んでいてもよい。
【0024】
評価対象機器がプラント全体である場合、評価対象機器の性能指標として、発電機出力又は熱消費率等を採用してもよい。
【0025】
性能評価装置20は、計測部12から、性能指標に関するパラメータの計測値を示す信号を受け取るように構成される。性能評価装置20は、計測部12からの計測値を示す信号を、規定のサンプリング周期毎に受け取るように構成されていてもよい。また、性能評価装置20は、計測部12から受け取った信号を処理して、評価対象機器の性能評価をするように構成される。性能評価装置20による評価結果は、表示部16(ディスプレイ等)に表示されるようになっていてもよい。
【0026】
図2に示すように、一実施形態に係る性能評価装置20は、全体性能関数取得部22と、個別性能関数定義部24と、モデル作成部26と、評価部28と、を含む。
【0027】
性能評価装置20は、プロセッサ(CPU等)、記憶装置(メモリデバイス;RAM等)、補助記憶部及びインターフェース等を備えた計算機を含む。性能評価装置20は、インターフェースを介して、計測部12から、評価対象機器の性能指標に関するパラメータの計測値を示す信号を受け取るようになっている。プロセッサは、このようにして受け取った信号を処理するように構成される。また、プロセッサは、記憶装置に展開されるプログラムを処理するように構成される。これにより、上述の各機能部(全体性能関数取得部22等)の機能が実現される。
【0028】
性能評価装置20での処理内容は、プロセッサにより実行されるプログラムとして実装される。プログラムは、補助記憶部に記憶されていてもよい。プログラム実行時には、これらのプログラムは記憶装置に展開される。プロセッサは、記憶装置からプログラムを読み出し、プログラムに含まれる命令を実行するようになっている。
【0029】
全体性能関数取得部22は、評価対象機器の運転中に取得されるデータ(計測部12により取得されるデータ)に基づいて、評価対象機器の性能指標の経時的な変化を示す全体性能関数を求めるように構成される。
【0030】
個別性能関数定義部24は、性能指標の複数の変化要因にそれぞれ起因する性能指標の経時的な変化をそれぞれ示す複数の個別性能関数を定義するように構成される。
【0031】
モデル作成部26は、個別性能関数定義部24で定義された複数の個別性能関数の重ね合わせを行うことにより、評価対象機器の性能推定モデルを作成するように構成される。また、モデル作成部26は、複数の個別性能関数の重ね合わせが、全体性能関数取得部22で取得された全体性能関数に近くなるように、上述の重ね合わせにおける複数の個別性能関数の各々の係数を決定するように構成される。
【0032】
評価部28は、モデル作成部26で作成された性能推定モデルに基づいて、評価対象機器の経時的な性能変化を推定するように構成される。あるいは、評価部28は、評価対象機器の経時的な性能変化の要因を推定するように構成される。
【0033】
(機器の性能評価のフロー)
以下、幾つかの実施形態に係る機器の性能評価方法について説明する。なお、以下において、上述の性能評価装置20を用いて一実施形態に係る機器の性能評価方法を実行する場合について説明するが、幾つかの実施形態では、他の装置を用いて機器の性能評価方法を実行するようにしてもよい。以下の説明において、評価対象機器はタービン2である。また、以下においては、評価対象機器の性能劣化について評価する場合について説明する。
【0034】
図3は、幾つかの実施形態に係る機器の性能評価方法のフローチャートである。
図4~
図12は、幾つかの実施形態に係る機器の性能評価方法を説明するための図である。
【0035】
図3に示すように、幾つかの実施形態では、まず、評価対象機器であるタービン2の運転中にタービン2の性能指標に係るデータを取得する(S2)。
【0036】
ステップS2では、まず、計測部12により、タービン2(評価対象機器)の性能指標に関するパラメータの計測データを取得する。ここでは、タービン2の性能指標として、タービン内部効率を用い、タービン内部効率に関するパラメータとして、タービン入口における圧力P1及び温度T1、並びに、タービン出口における圧力P2及び温度T2の計測データをそれぞれ取得する。これらのパラメータの計測値は、時間の経過に伴い繰り返し取得される。
【0037】
そして、上述のパラメータの計測データに基づいて、性能指標としてのタービン内部効率を算出する。
図4は、このようにして得られるタービン2のタービン内部効率の経時変化(性能劣化)の一例を示すグラフである。
【0038】
次に、全体性能関数取得部22は、ステップS2で取得したデータに基づいて、タービン2のタービン内部効率(性能指標)の経時的な変化を示す全体性能関数を求める。全体性能関数は、ステップS2で取得した性能指標のデータ(
図4参照)に、一般的な時系列モデルを適用することによって求めることができる。性能指標のデータに一般的な時系列モデルを適用する手法として、Holt-Winsters法、ARIMA法、SARIMA法、ガウス過程回帰、又はProphetを用いることができる。
図5は、ステップS2で取得したタービン内部効率のデータについてこのようにして求めた全体性能関数F(t)の一例を示すグラフである。
【0039】
次に、個別性能関数定義部24は、上述の性能指標(ここではタービン内部効率)の複数の変化要因に起因する該性能指標の経時的な変化(例えば性能劣化)をそれぞれ示す複数の個別性能関数を定義する(S6)。
【0040】
性能指標の複数の変化要因については、事前に想定されるものを設定する。タービン2の性能劣化要因としては、タービン翼とケーシングとの間のクリアランスの拡大、タービン翼表面の表面粗さの悪化、タービン翼のエロージョンの拡大、作動流体(蒸気等)のリーク量増大、スケール堆積等による流路断面積の減少、等が挙げられる。
【0041】
本実施形態においては、タービン内部効率の性能劣化要因として、タービン翼とケーシングとの間のクリアランスの拡大(以下、クリアランス)、タービン翼表面の表面粗さの悪化(以下、翼粗度)、タービン翼のエロージョンの程度(以下、エロージョン)、及び、それ以外の要因(以下、その他要因)の4つを設定する。また、クリアランスに起因する性能劣化を示す個別性能関数をA(t)、クリアランスに起因する性能劣化を示す個別性能関数をB(t)、エロージョンに起因する性能劣化を示す個別性能関数をC(t)、その他要因に起因する性能劣化を示す個別性能関数をetc(t)とそれぞれ表記する。
【0042】
ここで、
図6~
図10を参照して、幾つかの実施形態に係る個別性能関数の定義の仕方について説明する。ここでは、一例として、性能劣化要因としてのクリアランスの拡大に起因する性能の経時的な変化(性能劣化)を表す個別性能関数A(t)の定義の仕方について説明する。
【0043】
幾つかの実施形態では、ステップS6にて、性能指標の変化要因(性能劣化要因;ここではクリアランスの拡大)について、該変化要因に関連するパラメータ(例えばクリアランス値)の理論値又は実測値に基づいて、個別性能関数を定義する。
図6は、ステップS6で得られる、クリアランスの拡大(性能劣化要因)に起因するタービン内部効率(性能指標)の変化(性能劣化)についての個別性能関数A(t)の一例を模式的に示すグラフである。
【0044】
より具体的には、ステップS6にて、上述のパラメータの値と評価対象機器の性能変化の大きさとの第1相関関係、及び、上述のパラメータの値と時間との第2相関関係に基づいて、個別性能関数を定義する。上述の第1相関関係及び第2相関関係は、例えば以下に述べる手順で求めることができる。ステップS6では、このように求めた第1相関関係及び第2相関関係を組み合わせることで、当該パラメータに関する、性能指標の時間変化(性能劣化)を表す個別性能関数を得ることができる。なお、第1相関関係及び第2相関関係は、予め、記憶部14に記憶されていてもよい。
【0045】
ここで、
図7は、第1相関関係の一例を模式的に示す図である。
図7に示す第1相関関係は、上述のパラメータの値としてのクリアランス値(横軸)と、上述の性能変化の大きさとしての損失(縦軸)との相関関係である。すなわち、
図7のグラフは、クリアランスの拡大に伴う損失の増加量を示す曲線(損失増加量曲線)である。第1相関関係は、例えば設計データ(理論値)から求めることができる。
【0046】
図8は、第2相関関係の一例を模式的に示す図である。
図8に示す第2相関関係は、上述のパラメータの値としてのクリアランス値(縦軸)と、時間(横軸)との相関関係である。すなわち、
図8のグラフは、経時的なクリアランスの変化(増大)を示す曲線(経時的物理量変化曲線)である。
【0047】
上述の第2相関関係は、評価対象機器での実測値や、文献調査に基づいて求めることができる。例えば、一実施形態では、上述のパラメータ(クリアランス等)の実測値に対して、該パラメータの値と時間との相関関係の形状を有するベース曲線をフィッティングすることで、第2相関関係を取得する。ベース曲線としては、一般的な関数(指数関数等)の曲線を用いることができる。
【0048】
図9及び
図10は、それぞれ、第2相関関係の求め方の一例を説明するための図である。
【0049】
図9に示す例では、評価対象機器(タービン2)における上述のパラメータ(ここではクリアランス)の実測値M1~M3に対して、ベース曲線100をフィッティングすることで、第2相関関係102を取得する。評価対象機器におけるパラメータの実測値M1~M3は、例えば、定期検査時等に取得することができる。また、実測値M1~M3に対するベース曲線100のフィッティングは、実測値M1~M3と、ベース曲線100に基づく第2相関関係102との距離の総和が最小となるように、ベース曲線を表現する関数の係数を決定することにより(即ち最小二乗法により)行ってもよい。
【0050】
図10に示す例では、複数のプラント(評価対象機器を含むプラントと類似する他のプラント)における上述のパラメータ(ここではクリアランス)の実測値と時間との関係を示す曲線(例えばQ1~Q3)を取得する。なお、これらの曲線(Q1~Q3)は、
図9を参照して説明した方法により取得してもよい。そして、ベース曲線100に基づく第2相関関係104の曲線が、これらの曲線(Q1~Q3)の近似となるように、ベース曲線を表現する関数の係数を決定することにより、実測値に基づく曲線Q1~Q3とベース曲線100とのフィッティングを行ってもよい。
【0051】
なお、パラメータの実測値(例えばP1~P3)や、実測値に基づく曲線(Q1~Q3)は、予め、記憶部14に記憶されていてもよい。
【0052】
上述の手順により、上述の複数の性能劣化要因(クリアランス、翼粗度、エロージョン、その他要因)にそれぞれ起因する性能劣化を示す個別性能関数A(t)、B(t)、C(t)及びetc(t)を定義することができる。
【0053】
なお、その他要因に対応する個別性能関数etc(t)については、他の個別性能関数A(t)、B(t)、C(t)が既に取得されている前提において、以下のように定義してもよい。ここで、
図11及び
図12は、それぞれ、性能推定モデルの一例を視覚的に示す模式的なグラフである。
図11及び
図12において、F(t)は、ステップS4で取得される全体性能関数を示し、G(t)は、個別性能関数A(t)、B(t)及びC(t)の和を示す(即ち、G(t)=A(t)+B(t)+C(t)である)。
【0054】
図11に示すように、全ての時刻において(F(t)-G(t))の最小値がゼロ以上であるとき(min(F(t)-G(t))≧0のとき)、個別性能関数etc(t)は、F(t)とG(t)との差(下記式(B))として定義することができる。
etc(t)=F(t)-G(t) …(B)
【0055】
一方、
図12に示すように、(F(t)-G(t))の最小値がゼロよりも小さい時刻が存在するとき(min(F(t)-G(t))<0のとき)、個別性能関数etc(t)は、下記式(C)で定義することができる。
etc(t)=F(t)-α×G(t) …(C)
ここで、上記式(C)中のαは、(F(t)-G(t))が最小であるとき(t=t
min)のときのF(t)とG(t)との比である。すなわち、αは下記式(D)で表せる。
α=F(t
min)/G(t
min) …(D)
【0056】
次に、モデル作成部26は、ステップS6で定義した複数の個別性能関数A(t)、B(t)、C(t)及びetc(t)の重ね合わせを行うことにより、タービン2(評価対象機器)の性能推定モデルを作成する(S8)。
【0057】
ステップS8における複数の個別性能関数の重ね合わせは、統計的な重ね合わせの手法により行ってもよい。統計的な重ね合わせの手法として、一般化線形モデル又は一般化加法モデル等を用いることができる。
【0058】
上述の性能推定モデルは、例えば、複数の個別性能関数の線形結合として下記式(A)で表現することができる。下記式(A)において、n1~n4は、複数の個別性能関数(A(t),B(t),C(t),etc(t))の係数である。
F’(t)=n1×A(t)+n2×B(t)+n3×C(t)+n4×etc(t) …(A)
【0059】
上述のステップS8において、モデル作成部26は、複数の個別性能関数の重ね合わせが全体性能関数に近くなるように、上述の重ね合わせにおける複数の個別性能関数の各々の係数(例えば、上記式(A)における係数n1~n4)を決定する。
【0060】
ステップS8における複数の個別性能関数の各々の係数の決定は、重回帰分析、ベイズ推定、又はニューラルネットワーク(LSTM((Long short-term memory)等)等の手法を用いて行ってもよい。
【0061】
次に、ステップS8で作成した性能推定モデルに基づき、タービン2(評価対象機器)の性能劣化を定量的に推定する、あるいは、性能劣化要因を推定する(S10)。性能推定モデルから、複数の性能劣化要因の各々に基づく性能劣化の傾向や、全体的な性能劣化傾向に占める各要因の寄与度がわかる。これに基づいて、タービン2(評価対象機器)の性能劣化を定量的に推定する、あるいは、性能劣化要因を推定することができる。
【0062】
上述の実施形態によれば、タービン2(評価対象機器)の性能指標(例えばタービン内部効率)の経時的な変化を示す全体性能関数(F(t))に近くなるように、性能指標の複数の変化要因(性能変化要因)にそれぞれ起因する性能変化を表す個別性能関数(A(t),B(t),C(t),etc(t))の重ね合わせにおける係数(n1~n4)を決定する(即ち重み付けをする)。これにより、複数の性能変化要因の各々の重みを含む性能推定モデル(F’(t))を作成することができる。よって、タービン2(評価対象機器)について、経時的な性能変化を定量的に推定可能であるとともに、性能変化の要因推定をすることができる。
【0063】
また、上述したように、ステップS6において、複数の性能変化要因の各々について、該変化要因に関連するパラメータの理論値又は実測値に基づいて個別性能関数を決定してもよい。この場合、評価対象機器の性能変化推定の精度が良好となる。
【0064】
また、上述したように、ステップS6において、性能変化要因に関連するパラメータの値と性能変化の大きさとの第1相関関係、及び、上述のパラメータの値と時間との第2相関関係に基づいて個別性能関数を決定してもよい。これにより、性能変化要因毎の個別性能関数を適切に定義することができる。このため、評価対象機器の性能変化推定の精度がより良好となる。
【0065】
また、上述したように、ステップS6において、性能変化要因に関連するパラメータの実測値に対して、所定の形状を有するベース曲線をフィッティングすることにより、第2相関関係を取得してもよい。これにより、実測値に即した第2相関関係を取得することができる。よって、評価対象機器の性能変化要因を精度良く推定することができる。
【0066】
幾つかの実施形態では、上述のステップS8において、モデル作成部26は、ベイズ推定の手法を用いて、複数の個別性能関数(A(t),B(t),C(t),etc(t))の各々の係数(n1~n4)を決定するようにしてもよい。
【0067】
ここで、ベイズ推定の手法を用いた上述の性能推定モデルy=F’(t)=n1×A(t)+n2×B(t)+n3×C(t)+n4×etc(t)における係数n1~n4を決定する手順について、概略的に説明する。
【0068】
(a)まず、性能推定モデルy=F’(t)の線形パラメータ(係数)N=(n1,n2,n3,n4)の事前分布(範囲や形状等)を、経験則等に基づいて設定する。ここで、事前情報が少ない場合は、事前分布として、共役事前分布や一様分布を用いてもよい。
【0069】
(b)性能推定モデルy=F’(t)の線形パラメータN=(n1,n2,n3,n4)を様々に振って、データY=F(t)との合致度を示す尤度関数を計算する。尤度関数は、現計算ステップにおける線形パラメータNの場合の曲線(y=F’(t))上における各標本のt座標に対応するy座標からの、標本の観測データY=F(t)の乖離に応じて定まる確率P(F(t)|F’(t),N)の積(即ち、P(F(t1)|F’(t1),N)×P(F(t2)|F’(t2),N)×…×P(F(tk)|F’(tk),N))として計算される。この計算値を横軸n1~n4でそれぞれ整理して、尤度P(Y|N)が得られる。
【0070】
(c)線形パラメータn1~n4のそれぞれについて、事前分布に基づいて、乱数発生アルゴリズムを用いて、ランダムにサンプリングする。乱数発生アルゴリズムとして、例えばマルコフ連鎖モンテカルロ法(MCMC法:Markov chain Monte Carlo methods)を用いることができる。なお、MCMC法においてMCMCサンプルを生成するアルゴリズムとしては、ハミルトンモンテカルロ法、ギブスサンプラー又はメトロポリス法等を用いることができる。
【0071】
(d)上記(c)でサンプリングされた線形パラメータn1~n4の各サンプリング点について、上記(b)から尤度を算出する。
【0072】
(e)事前分布と尤度との積により、線形パラメータn1~n4の各々について、確率密度分布P(Y|N)P(N)を得る。
【0073】
(f)線形パラメータn1~n4の各々について、上記(e)で得られる確率密度分布P(Y|N)P(N)をその面積で割って(正規化)、面積が1になるような確率密度分布P(Y|N)を事後分布として得る。
【0074】
(g)線形パラメータn1~n4の各々について、事後分布P(Y|N)の期待値を、該線形パラメータの推定値とする。
【0075】
上述の実施形態では、複数の性能変化要因にそれぞれ起因する性能変化を表す個別性能関数(A(t),B(t),C(t),etc(t))の重ね合わせにおける係数(n1~n4)の決定において、ベイズ推定の考え方に基づく確率モデルを使うので、モデル作成者の主観的な情報を反映することができる。よって、評価対象機器の性能変化推定の精度が良好となる。また、ベイズ推定の考え方を使う事で、外れ値にも強くなるという効果がある。
【0076】
また、ベイズ推定において各係数の事後分布を求める際に、乱数発生アルゴリズムを用いることにより、ベイズ推定の事後分布を計算機で求める事が可能となる。
【0077】
また、過去に取得されたデータ又は物理的な仮定に基づいて、ベイズ推定における係数n1~n4の事前分布の範囲又は形状を決定することにより、ベイズ推定において、物理的な仮定や経験則を事前分布に反映することができる。このため、性能変化要因毎の個別性能関数を決定するためのデータが少ない場合であっても、評価対象機器の性能変化推定の精度が良好となる。
【0078】
上記各実施形態に記載の内容は、例えば以下のように把握される。
【0079】
(1)本発明の少なくとも一実施形態に係る機器の性能評価装置(20)は、
評価対象機器(例えば上述のタービン2)の運転中に取得されるデータに基づいて、前記評価対象機器の性能指標の経時的な変化を示す全体性能関数(例えば上述のF(t))を求めるように構成された全体性能関数取得部(22)と、
前記性能指標の複数の変化要因にそれぞれ起因する前記性能指標の経時的な変化をそれぞれ示す複数の個別性能関数(例えば上述のA(t)、B(t)、C(t)、etc(t))を定義するように構成された個別性能関数定義部(24)と、
前記複数の個別性能関数の重ね合わせを行うことにより前記評価対象機器の性能推定モデル(例えば上述のF’(t))を作成するように構成されたモデル作成部(26)と、を備え、
前記モデル作成部は、前記複数の個別性能関数の重ね合わせが前記全体性能関数に近くなるように、前記重ね合わせにおける前記複数の個別性能関数の各々の係数(例えば上述のn1~n4)を決定するように構成される。
【0080】
上記(1)の構成によれば、評価対象機器の性能指標の経時的な変化を示す全体性能関数に近くなるように、性能指標の複数の変化要因(性能変化要因)にそれぞれ起因する性能変化を表す個別性能関数の重ね合わせにおける係数を決定する(即ち重み付けをする)。これにより、複数の性能変化要因の各々の重みを含む性能推定モデルを作成することができる。よって、評価対象機器について、経時的な性能変化を定量的に推定可能であるとともに、性能変化の要因推定をすることができる。
【0081】
(2)幾つかの実施形態では、上記(1)の構成において、
前記モデル作成部は、ベイズ推定の手法を用いて、前記複数の個別性能関数の各々の係数を決定するように構成される。
【0082】
上記(2)の構成によれば、複数の性能変化要因にそれぞれ起因する性能変化を表す個別性能関数の重ね合わせにおける係数の決定において、ベイズ推定の考え方に基づく確率モデルを使うので、モデル作成者の主観的な情報を反映することができ、評価対象機器の性能変化推定の精度が良好となる。
【0083】
(3)幾つかの実施形態では、上記(2)の構成において、
前記モデル作成部は、乱数発生アルゴリズムを用いて前記ベイズ推定における前記係数の事後分布を求めるように構成される。
【0084】
上記(3)の構成によれば、ベイズ推定において事後分布を求める際に、乱数発生アルゴリズムを用いるので、ベイズ推定の事後分布を計算機で求める事が可能となる。
【0085】
(4)幾つかの実施形態では、上記(2)又は(3)の構成において、
前記モデル作成部は、過去に取得されたデータ又は物理的な仮定に基づいて、前記ベイズ推定における前記係数の事前分布の範囲又は形状を決定するように構成される。
【0086】
上記(4)の構成によれば、ベイズ推定において、物理的な仮定や経験則を事前分布に反映することができる。このため、性能変化要因毎の個別性能関数を決定するためのデータが少ない場合であっても、評価対象機器の性能変化推定の精度が良好となる。
【0087】
(5)幾つかの実施形態では、上記(1)乃至(4)の何れかの構成において、
前記個別性能関数定義部は、前記複数の変化要因の各々について、前記変化要因に関連するパラメータの理論値又は実測値に基づいて、前記個別性能関数を定義するように構成される。
【0088】
上記(5)の構成によれば、複数の性能変化要因の各々について、該変化要因に関連するパラメータの理論値又は実測値に基づいて個別性能関数を決定することができる。このため、評価対象機器の性能変化推定の精度が良好となる。
【0089】
(6)幾つかの実施形態では、上記(5)の構成において、
前記個別性能関数定義部は、前記パラメータの値と前記評価対象機器の性能変化の大きさとの第1相関関係、及び、前記パラメータの値と時間との第2相関関係に基づいて、前記個別性能関数を定義するように構成される。
【0090】
上記(6)の構成によれば、性能変化要因に関連するパラメータの値と性能変化の大きさとの第1相関関係、及び、上述のパラメータの値と時間との第2相関関係に基づいて個別性能関数を決定する。したがって、性能変化要因毎の個別性能関数を適切に定義することができ、このため、評価対象機器の性能変化推定の精度がより良好となる。
【0091】
(7)幾つかの実施形態では、上記(6)の構成において、
前記個別性能関数定義部は、前記パラメータの実測値に対して、前記パラメータの値と時間との相関関係の形状を有するベース曲線をフィッティングすることで、前記第2相関関係を取得するように構成される。
【0092】
上記(7)の構成によれば、性能変化要因に関連するパラメータの実測値に対して、所定の形状を有するベース曲線をフィッティングするようにしたので、実測値に即した第2相関関係を取得することができる。よって、評価対象機器の性能変化要因を精度良く推定することができる。
【0093】
(8)本発明の少なくとも一実施形態に係る機器の性能評価方法は、
評価対象機器の運転中に取得されるデータに基づいて、前記評価対象機器の性能指標の経時的な変化を示す全体性能関数を求めるステップ(S4)と、
前記性能指標の複数の変化要因に起因する前記性能指標の経時的な変化をそれぞれ示す複数の個別性能関数を定義するステップ(S6)と、
前記複数の個別性能関数の重ね合わせを行うことにより前記評価対象機器の性能推定モデルを作成するステップ(S8)と、を備え、
前記性能推定モデルを作成するステップでは、前記複数の個別性能関数の重ね合わせが前記全体性能関数に近くなるように、前記重ね合わせにおける前記複数の個別性能関数の各々の係数を決定する。
【0094】
上記(8)の方法によれば、評価対象機器の性能指標の経時的な変化を示す全体性能関数に近くなるように、性能指標の複数の変化要因(性能変化要因)にそれぞれ起因する性能変化を表す個別性能関数の重ね合わせにおける係数を決定する(即ち重み付けをする)。これにより、複数の性能変化要因の各々の重みを含む性能推定モデルを作成することができる。よって、評価対象機器について、経時的な性能変化を定量的に推定可能であるとともに、性能変化の要因推定をすることができる。
【0095】
(9)本発明の少なくとも一実施形態に係る機器の性能評価プログラムは、
コンピュータに、
評価対象機器の運転中に取得されるデータに基づいて、前記評価対象機器の性能指標の経時的な変化を示す全体性能関数を求める手順と、
前記性能指標の複数の変化要因に起因する前記性能指標の経時的な変化をそれぞれ示す複数の個別性能関数を定義する手順と、
前記複数の個別性能関数の重ね合わせを行うことにより前記評価対象機器の性能推定モデルを作成する手順と、を実行させ、
前記性能推定モデルを作成する手順では、前記複数の個別性能関数の重ね合わせが前記全体性能関数に近くなるように、前記重ね合わせにおける前記複数の個別性能関数の各々の係数を決定する。
【0096】
上記(9)のプログラムによれば、評価対象機器の性能指標の経時的な変化を示す全体性能関数に近くなるように、性能指標の複数の変化要因(性能変化要因)にそれぞれ起因する性能変化を表す個別性能関数の重ね合わせにおける係数を決定する(即ち重み付けをする)。これにより、複数の性能変化要因の各々の重みを含む性能推定モデルを作成することができる。よって、評価対象機器について、経時的な性能変化を定量的に推定可能であるとともに、性能変化の要因推定をすることができる。
【0097】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上述した実施形態に限定されることはなく、上述した実施形態に変形を加えた形態や、これらの形態を適宜組み合わせた形態も含む。
【0098】
本明細書において、「ある方向に」、「ある方向に沿って」、「平行」、「直交」、「中心」、「同心」或いは「同軸」等の相対的或いは絶対的な配置を表す表現は、厳密にそのような配置を表すのみならず、公差、若しくは、同じ機能が得られる程度の角度や距離をもって相対的に変位している状態も表すものとする。
例えば、「同一」、「等しい」及び「均質」等の物事が等しい状態であることを表す表現は、厳密に等しい状態を表すのみならず、公差、若しくは、同じ機能が得られる程度の差が存在している状態も表すものとする。
また、本明細書において、四角形状や円筒形状等の形状を表す表現は、幾何学的に厳密な意味での四角形状や円筒形状等の形状を表すのみならず、同じ効果が得られる範囲で、凹凸部や面取り部等を含む形状も表すものとする。
また、本明細書において、一の構成要素を「備える」、「含む」、又は、「有する」という表現は、他の構成要素の存在を除外する排他的な表現ではない。
【符号の説明】
【0099】
2 タービン
2a 上流段部
2b 下流段部
12 計測部
14 記憶部
16 表示部
20 性能評価装置
22 全体性能関数取得部
24 個別性能関数定義部
26 モデル作成部
28 評価部
100 ベース曲線
102 第2相関関係
104 第2相関関係