(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-17
(45)【発行日】2024-06-25
(54)【発明の名称】プローブピンおよびプローブカード
(51)【国際特許分類】
G01R 1/067 20060101AFI20240618BHJP
G01R 1/073 20060101ALI20240618BHJP
G01R 31/28 20060101ALI20240618BHJP
G01R 31/26 20200101ALI20240618BHJP
【FI】
G01R1/067 A
G01R1/073 E
G01R31/28 K
G01R31/26 J
(21)【出願番号】P 2023539245
(86)(22)【出願日】2023-02-20
(86)【国際出願番号】 JP2023005990
(87)【国際公開番号】W WO2023188999
(87)【国際公開日】2023-10-05
【審査請求日】2023-06-27
(31)【優先権主張番号】PCT/JP2022/016805
(32)【優先日】2022-03-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000232405
【氏名又は名称】日本電子材料株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002941
【氏名又は名称】弁理士法人ぱるも特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大隈 江輝
【審査官】島田 保
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-091870(JP,A)
【文献】特開2013-007700(JP,A)
【文献】国際公開第2021/122326(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第109425765(CN,A)
【文献】特開2009-272308(JP,A)
【文献】特許第5995953(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01R 1/06-1/073
G01R 31/26-31/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
長手方向の一端に検査対象の電極に接触させるコンタクト部を有し、長手方向の他端に回路基板に接触させる端子部を有するプローブピンであって、
前記プローブピンは、導電性を有する第1金属からなる低抵抗部材と、前記低抵抗部材よりも抵抗率の高い、導電性を有する第2金属からなる高抵抗部材によって構成され、
前記コンタクト部と前記端子部との間に、前記検査対象の検査時における前記プローブピンの座屈方向とは異なる第1方向に、前記高抵抗部材、空隙であるスリット、前記低抵抗部材の順に構成された複数層部を有し、
前記複数層部を前記座屈方向から見たときに、前記低抵抗部材と前記高抵抗部材とが重なり合わないように配置されているプローブピン。
【請求項2】
前記複数層部は、前記高抵抗部材、前記スリット、前記低抵抗部材、前記スリット、前記高抵抗部材の順に5層に構成された5層部である請求項1に記載のプローブピン。
【請求項3】
前記5層部の、前記長手方向の両側に、前記第1方向に、2つの前記高抵抗部材の間に前記低抵抗部材を挟んで形成される3層部を有し、前記5層部の前記低抵抗部材と前記3層部の前記低抵抗部材とは前記長手方向に連続して繋がり、前記5層部の前記高抵抗部材と前記3層部の前記高抵抗部材とは前記長手方向に連続して繋がり、前記コンタクト部と前記端子部は、前記高抵抗部材のみで構成されている請求項2に記載のプローブピン。
【請求項4】
前記端子部と前記5層部との間、および前記5層部と前記コンタクト部との間に、前記低抵抗部材の外周面の周囲が、全て、前記高抵抗部材で覆われた、ガイド内収納部を備えている請求項3に記載のプローブピン。
【請求項5】
前記複数層部の前記低抵抗部材は、前記座屈方向の少なくとも一方の面に、前記高抵抗部材を備えている請求項1に記載のプローブピン。
【請求項6】
前記5層部の前記長手方向の上端と、下端との間に、前記低抵抗部材の外周面の周囲が、全て、前記高抵抗部材で覆われ、前記低抵抗部材と前記高抵抗部材とが固着されたブリッジ部を備えている請求項2に記載のプローブピン。
【請求項7】
前記第1方向は、前記座屈方向に対して垂直な方向である請求項1から請求項6のいずれか1項に記載のプローブピン。
【請求項8】
前記複数層部は、前記高抵抗部材、前記スリット、前記低抵抗部材の順に3層に構成された第二3層部である請求項1に記載のプローブピン。
【請求項9】
前記複数層部は、前記低抵抗部材、前記スリット、前記高抵抗部材、前記スリット、前記低抵抗部材の順に5層に構成された5層部である請求項1に記載のプローブピン。
【請求項10】
請求項1に記載の複数の前記プローブピンを備えているプローブカード。
【請求項11】
請求項4に記載の複数のプローブピンと、
それぞれの前記プローブピンを挿入してガイドする複数のガイド孔を有するガイドを備え、前記ガイド内収納部は、前記ガイド孔内に挿入されているプローブカード。
【請求項12】
前記ガイド内収納部から前記5層部までの前記3層部の長さは、500
μm~1000μmである請求項11に記載のプローブカード。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、プローブピンおよびプローブカードに関するものである。
【背景技術】
【0002】
プローブカードとは、プローブピン(探針)が取り付けられたカード(基板)である。プローブカードは、半導体ウエハに形成された半導体デバイスの電子回路の電極(電源入力電極、信号出力電極、接地電極)のそれぞれをプローブピンによって、テスタ装置に接続する。
【0003】
半導体デバイスの電子回路の電気的特性の検査は、半導体デバイスに電流を供給して半導体デバイスを動作させ、半導体デバイスが予め定められた信号を出力するか否かを確認することによって行われる。この検査において、電源供給用のプローブピン(電源ピン)および接地用のグランドプローブピン(グランドピン)には大きな電流が流れる。
【0004】
半導体デバイスの検査時に、電源ピン、グランドピンに大電流が流れると、プローブピンが焼損するという不具合が生じる場合がある。したがって、許容電流値の高いプローブピンが望まれている。
【0005】
プローブピンの機械的強度を維持したうえで、許容電流値を高くするためには、高抵抗の導体と低抵抗の導体とを並べて配置し、高抵抗の導体によってプローブピンの機械的強度を維持させ、低抵抗の導体によって大電流を流す電流路を構成することが提案されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献1に示されたプローブピンのように、複数の異なる抵抗率を有する導体を空隙を設定して並べて配置した場合であっても、低抵抗の導体が発熱して膨張し、高抵抗の導体に接触することによって、高抵抗の導体に熱が伝わって機械的強度が低下するという問題がある。
また、垂直に配置されるプローブピンの場合、電子回路の電極へのプローブピンの接触を確実にするために、プローブピンが座屈するまでプローブカードを半導体ウエハに押し付けることが行われる。このため、導電率の異なる導体が座屈方向に並べられていると、熱膨張と、座屈による変位とによって導体同士が接触し易くなるという問題がある。
【0008】
本願は、上記のような課題を解決するための技術を開示するものであり、機械的強度の維持と許容電流値を高くすることができるプローブピンおよびプローブカードを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本願に開示されるプローブピンは、長手方向の一端に検査対象の電極に接触させるコンタクト部を有し、長手方向の他端に回路基板に接触させる端子部を有するプローブピンであって、
前記プローブピンは、導電性を有する第1金属からなる低抵抗部材と、前記低抵抗部材よりも抵抗率の高い、導電性を有する第2金属からなる高抵抗部材によって構成され、前記コンタクト部と前記端子部との間に、前記検査対象の検査時における前記プローブピンの座屈方向とは異なる第1方向に、前記高抵抗部材、空隙であるスリット、前記低抵抗部材の順に構成された複数層部を有し、前記複数層部を前記座屈方向から見たときに、前記低抵抗部材と前記高抵抗部材とが重なり合わないように配置されているものである。
また、本願に開示されるプローブカードは、複数の前記プローブピンを備えるものである。
【発明の効果】
【0010】
本願に開示されるプローブピンおよびプローブカードによれば、機械的強度の維持と許容電流値を高くすることのできるプローブピンおよびプローブカードを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】実施の形態1に係るプローブカードによる電子回路の検査状態を概略的に示す図である。
【
図3】実施の形態1に係る5層部の配置における許容範囲を示す図である。
【
図4】
図4Aは、実施の形態2に係るプローブピンの低抵抗部材の構成を示す図である。
図4Bは、実施の形態2に係るプローブピンを座屈方向Zから見た図である。
図4Cは、
図4BのD-D断面図である。
図4Dは、
図4BのE1-E1およびE2-E2断面図である。
図4Eは、
図4BのF-F断面図である。
【
図5】実施の形態3に係るプローブピンの5層部の長手方向に対して垂直な断面図である。
【
図7】
図7Aは、実施の形態5に係るプローブピンの高抵抗部材の構成を示す図である。
図7Bは、実施の形態5に係るプローブピンを座屈方向Zから見た図である。
図7Cは、
図7BのD-D断面図である。
図7Dは、
図7BのE1-E1およびE2-E2断面図である。
図7Eは、
図7BのF-F断面図である。
【
図8】
図8Aは、実施の形態6に係るプローブピンを座屈方向Zから見た図である。
図8Bは、
図8AのE1-E1およびE2-E2断面図である。
図8Cは、
図8AのF-F断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
実施の形態1.
以下、実施の形態1に係るプローブピンおよびプローブカードを、図を用いて説明する。
図1は、実施の形態1に係るプローブカード100による電子回路の検査状態を概略的に示す図である。
本明細書においては、
図1の紙面上方を「上」、同紙面下方を「下」として説明する。すなわち、プローブカード100から見て、検査対象側を「下」とする。また、
図1の紙面左右方向を、便宜上、座屈方向Zとし、紙面手前から奥に向かう方向およびその逆方向を、便宜上、座屈方向Zに垂直な方向Y(第1方向)とする。
【0013】
プローブカード100は、半導体ウエハWに形成された半導体デバイスの電子回路の電気的特性を検査するために用いられる装置である。プローブカード100は、半導体ウエハW上に形成された半導体デバイスの電子回路上の電極Cにそれぞれ接触させる多数のプローブピン20を備えている。電子回路の特性検査は、半導体ウエハWをプローブカード100に近づけて、プローブピン20の先端を電子回路上の電極Cに接触させ、プローブピン20を介して図示しないテスタ装置とプローブカード100の配線基板14のテスタ接続電極TCとを導通させて行われる。
【0014】
プローブカード100は、中空のフレーム10と、フレーム10の上端に取り付けた上部ガイド11と、フレーム10の下端に取り付けた下部ガイド12と、上部ガイド11を固定する固定板13と、配線基板14とを備える。上部ガイド11と下部ガイド12との間に、さらに中間ガイドを設けてもよい。
【0015】
上部ガイド11は、上下方向に貫通する複数のガイド孔11Hを有し、上部ガイド11の下方に設けられた下部ガイド12も、上下方向に貫通する複数のガイド孔12Hを有する。上部ガイド11に設けた複数のガイド孔11H群の上方は、固定板13に設けた開口部13Hとなっている。固定板13の上面には、配線基板14が配置されている。配線基板14は、その下面に、プローブピン20の上端の端子部20tと接触する複数のプローブ接続パッド14Pを備える。
【0016】
そして、複数のプローブピン20が、それぞれガイド孔12Hおよびガイド孔11H内を通るように挿入されてガイドされる。プローブピン20は、検査対象(半導体ウエハWに形成された電子回路)に対し垂直に配置される垂直型プローブピンである。
【0017】
図2Aは、
図1の要部拡大図である。1本のプローブピン20と、上部ガイド11および下部ガイド12を示している。
図2Aの左右方向が、プローブピン20の座屈方向Z、すなわち、プローブカード100のオーバードライブ時にプローブピン20が弾性変形する方向である。
図2Bは、プローブピン20の斜視図である。図に示す方向Yが、座屈方向Zに対して垂直な方向である。
【0018】
プローブピン20は、細長い形状をしている。中央部は、湾曲しており、上部と下部は、直線状に上下方向に延びている。湾曲した中央部が、弾性変形部20mである。プローブピン20の下端(一端)にコンタクト部20cを備える。そして、上端(他端)に端子部20tが形成されている。
【0019】
コンタクト部20cは、検査対象に当接させる当接部である。また、端子部20tは、プローブピン20の上端部に設けられており、検査時において配線基板14のプローブ接続パッド14Pに圧接される。弾性変形部20mは、オーバードライブ時に、その長手方向の圧縮力が加えられることにより、容易に座屈変形する部分である。オーバードライブ時には、検査対象からの反力に応じて、弾性変形部20mが座屈方向Zに座屈変形し、コンタクト部20cが、端子部20t側に後退する。
【0020】
弾性変形部20mよりも上の部分の予め定められた範囲が、上部ガイド内収納部20Uである。この部分が、上部ガイド11のガイド孔11Hの中に収納される。また、弾性変形部20mより下の部分の予め定められた範囲が、下部ガイド内収納部20Dである。この部分が、下部ガイド12のガイド孔12Hの中に収納される。
【0021】
プローブピン20は、導電性を有し、抵抗率の異なる2種類の金属によって構成されている。1つは、銅、金、銀(Cu、Au、Ag)等の抵抗率が低い金属からなる低抵抗部材Lを構成する金属(第1金属)である。もう1つは、低抵抗部材Lよりも抵抗率が高く、導電性は低いが機械的強度の高い、パラジウム合金等の高抵抗部材Hを構成する金属(第2金属)である。低抵抗部材Lは、導電性が高く、許容電流値を高くするために機能する。高抵抗部材Hは、機械的強度を維持するために機能する。
【0022】
そして、電流は抵抗が低い部分に多く流れることから、高抵抗部材Hには、電流の流量が少ないため、高抵抗部材Hにおける発熱は、低抵抗部材Lよりも少ない。抵抗率は、パラジウム合金が、35.8μΩ・m程度であるのに対して、Auは、3μΩ・m程度であり、断面積が同じであれば、低抵抗部材Lの発熱量は、高抵抗部材Hの発熱量の12倍に及ぶことになる。
【0023】
図2Cは、
図2BのA1-A1およびA2-A2断面図であり、プローブピン20の単層部T1の長手方向に対して垂直な断面図である。
図2Dは、
図2BのB1-B1およびB2-B2断面図であり、プローブピン20の3層部T3の長手方向に対して垂直な断面図である。
図2Eは、
図2BのC-C断面図であり、プローブピン20の5層部T5(複数層部)の長手方向に対して垂直な断面図である。
【0024】
プローブピン20は、その長手方向における各部分において、上述の低抵抗部材Lと高抵抗部材Hの配置が異なる。端子部20tを含む上端部と、コンタクト部20cを含む下端部は、高抵抗部材Hのみの単層で構成される単層部T1である。なお、「層」の数は、座屈方向Zに対して垂直な方向Yに向かって、プローブピン20を構成する物質の層数をいうものとし、空隙(気体)も層に含むものとする。単層部T1は、
図2Cの断面において、座屈方向Zに対して垂直な方向Yに単層の高抵抗部材Hのみで構成されている。
【0025】
検査時において、端子部20tは、配線基板14のプローブ接続パッド14Pに、コンタクト部20cは、半導体ウエハW上に形成された電子回路上の電極Cに、それぞれ圧接を繰り返すために、これらの部分は、機械的強度が要求されるので機械的強度の強い高抵抗部材Hのみで構成されている。
【0026】
上述の高抵抗部材Hのみで構成されるプローブピン20の上端部の下方、および上述の下端部の上方は、座屈方向Zに対して垂直な方向Yの両側にそれぞれ高抵抗部材Hを備え、当該2つの高抵抗部材Hの間に低抵抗部材Lを挟んで形成される3層部T3である。3層部T3は、
図2Dの断面において、座屈方向Zに対して垂直な方向Yに、高抵抗部材H、低抵抗部材L、高抵抗部材Hの3層によって構成されている。方向Yに3層に分かれているが、隣り合うそれぞれの層は、相互に固着されている。上方の3層部T3の一部が、上述の上部ガイド内収納部20Uとなり、下方の3層部T3の一部が、下部ガイド内収納部20Dとなる。
【0027】
上下2カ所の3層部T3の間の弾性変形部20mに相当する部分は、座屈方向Zに対して垂直な方向Yの両側にそれぞれ高抵抗部材Hを備え、当該2つの高抵抗部材Hの間に、それぞれ座屈方向Zの両側に貫通するスリットSを介して低抵抗部材Lを挟んで形成される5層部T5である。5層部T5は、
図2Eの断面において、座屈方向Zに対して垂直な方向Yに、高抵抗部材H、空隙であるスリットS、低抵抗部材L、空隙であるスリットS、高抵抗部材Hの5層によって構成されている。
【0028】
図2Bに示すように、プローブピン20の高抵抗部材Hは、プローブピン20の上端部から下方に向かって二股に分かれ、下端部で再度1本に纏まる。また、上方の3層部T3の低抵抗部材L、5層部T5の低抵抗部材L、下方の3層部T3の低抵抗部材Lは、すべて繋がっており、その長手方向に対して垂直な断面は、板状の矩形である。
【0029】
検査時において、低抵抗部材Lは、高抵抗部材Hに比較して12倍発熱する。3層部T3は、その一部である上部ガイド内収納部20U、下部ガイド内収納部20Dが、上部ガイド11、下部ガイド12のガイド孔11H、ガイド孔12Hの中にそれぞれ収納され、上部ガイド11、下部ガイド12に外周面が接触するので、当該部分で低抵抗部材Lから高抵抗部材Hに伝導した熱は、上部ガイド11および下部ガイド12によって放熱され、高抵抗部材Hが熱によって損傷することはない。なお、上部ガイド11および下部ガイド12による放熱効果が得られる範囲は、上部ガイド11、下部ガイド12から500μm~1000μmまでの範囲である。したがって、上部ガイド11および下部ガイド12から5層部T5までの3層部T3の長さは500μm~1000μmの範囲に設定するとよい。
【0030】
一方、弾性変形部20mにおいては、上部ガイド11および下部ガイド12から離れており、3層部T3と同じ構成では、低抵抗部材Lの熱が、高抵抗部材Hに伝導し、高抵抗部材Hの強度低下を引き起こす可能性がある。そこで、低抵抗部材Lと高抵抗部材Hとの間にスリットSを設けて、低抵抗部材Lに発生する熱を放熱すると同時に、低抵抗部材Lの高熱が、直接、高抵抗部材Hに伝導して高抵抗部材Hの機械的強度が低下することを防止している。
【0031】
電子回路の特性検査において、プローブピンは、オーバードライブ時に座屈方向に座屈する。このとき、低抵抗部材は、高抵抗部材よりも遙かに高温になるので、高抵抗部材よりも膨張する。先行技術文献として示した特許文献1のように、高抵抗部材と低抵抗部材とを、座屈方向に垂直な方向の両側に貫通するスリットを介して並べて配置する場合には、高抵抗部材と低抵抗部材との膨張率の違いと座屈による変形とによって、高温の低抵抗部材が、座屈方向に隣り合う高抵抗部材に接触し、低抵抗部材の高熱が高抵抗部材に伝導してしまう。これによって高抵抗部材が塑性変形して、電子回路の電極に対するコンタクト部の針圧が下がるという問題が生じる。
【0032】
しかしながら、本実施の形態1のように、座屈方向Zに対して垂直な方向Yに高抵抗部材Hと低抵抗部材Lとを、座屈方向Zに貫通するスリットSを介して配置すれば、それぞれの膨張率が異なっていても、スリットSを介して隣り合う低抵抗部材Lと両側の高抵抗部材Hとが接触することがないので、上述の問題は発生しない。すなわち、低抵抗部材Lと高抵抗部材Hとによる複数層部を座屈方向から見たときに、低抵抗部材Lと高抵抗部材Hとが重なり合わないように配置されていることによって、熱膨張および座屈による変形があったとしても低抵抗部材Lと高抵抗部材Hとの接触が生じないので問題がない。
【0033】
図3は、5層部T5の配置における設計上の許容範囲を示す図である。
これまで説明した各図において、5層部T5は、低抵抗部材L、高抵抗部材H、スリットSが、座屈方向Zに対して垂直な方向Yに並ぶものとして説明したが、第1方向は座屈方向Zとは異なる方向であって、
図3に示すように、プローブピン20の5層部T5を座屈方向Zから見て、低抵抗部材Lと高抵抗部材Hとが重なり合わなければよい。この場合でも、熱膨張および座屈による変形があったとしても、低抵抗部材Lと高抵抗部材Hとの接触は起こらない。
【0034】
プローブピン20は、いわゆるMEMS(Micro Electro Mechanical Systems)技術を用いて作製される。MEMS技術は、フォトリソグラフィ技術及び犠牲層エッチング技術を利用して、微細な立体的構造物を作成する技術である。フォトリソグラフィ技術は、半導体製造工程などで利用されるフォトレジストを用いた微細パターンの加工技術である。また、犠牲層エッチング技術は、犠牲層と呼ばれる下層を形成し、その上に構造物を構成する層を形成した後、犠牲層のみをエッチングによって除去することにより、立体的な構造物を作成する技術である。
【0035】
犠牲層を含む各層の形成処理には、周知のめっき技術を利用することができる。例えば、陰極としての基板と、陽極としての金属片とを電解液に浸し、両電極間に電圧を印加することにより、電解液中の金属イオンを基板表面に付着させることができる。この様な処理は、電気めっき処理と呼ばれ、基板を電解液に浸すウエットプロセスであることから、めっき処理後には、乾燥処理が行われる。
【0036】
実施の形態1に係るプローブピン20およびプローブカード100によれば、半導体ウエハW上に形成された電子回路の検査時において、プローブピン20のスリットSを介して隣り合う低抵抗部材Lと両側の高抵抗部材Hとが、座屈方向Zに並んでいないので、熱膨張および座屈による変形があったとしても相互に接触しない。したがって、低抵抗部材Lの高熱が、高抵抗部材Hに伝導せず、放熱性、許容電流値の高いプローブピンとプローブカードを提供できる。
【0037】
実施の形態2.
以下、実施の形態2に係るプローブピンおよびプローブカードを、実施の形態1と異なる部分を中心に説明する。
図4Aは、プローブピン220の低抵抗部材Lの構成を示す図である。
図4Bは、プローブピン220を
図4Aに示す座屈方向Zから見た図である。
【0038】
図4Cは、
図4BのD-D断面図であり、プローブピン220の単層部T1の長手方向に対して垂直な断面図である。この部分の断面形状は実施の形態1と同じである。
図4Dは、
図4BのE1-E1およびE2-E2断面図であり、プローブピン220の上部ガイド内収納部220Uおよび下部ガイド内収納部220Dの長手方向に対して垂直な断面図である。この部分の断面形状が、実施の形態1と異なる。実施の形態1の3層部T3に相当する部分の断面形状が
図4Dである。
図4Eは、
図4BのF-F断面図であり、プローブピン220の5層部T5の長手方向に対して垂直な断面図である。この部分の断面形状は実施の形態1と同じである。
【0039】
図4Aに示すように、低抵抗部材Lは、5層部T5よりも上側および下側において、座屈方向Zの幅が狭くなっている。そして、当該部分では、低抵抗部材Lは、高抵抗部材Hの中に埋め込まれている。すなわち、低抵抗部材Lの外周面の周囲は、全て、高抵抗部材Hで覆われている。
【0040】
実施の形態2に係るプローブピン220、プローブカード100によれば、半導体ウエハW上に形成された電子回路の検査時において、実施の形態1と同様の効果を奏する。また、プローブピン220の、上部ガイド11と接触する上部ガイド内収納部220Uおよび、下部ガイド12と接触する下部ガイド内収納部220Dの外周面の周囲が、低抵抗部材Lよりも硬い高抵抗部材Hによって全て覆われているので、さらに耐久性の高いプローブピン220およびプローブカード100を提供できる。
【0041】
実施の形態3.
以下、実施の形態3に係るプローブピンおよびプローブカードを、実施の形態1、2と異なる部分を中心に説明する。
図5は、プローブピン320の5層部T5の長手方向に対して垂直な断面図である。
上述したように、低抵抗部材Lと高抵抗部材Hとは、検査時の膨張率が異なる。より高温になる低抵抗部材Lの方が、高抵抗部材Hよりも膨張し、座屈量も大きくなる。そこで、本実施の形態3では、5層部T5の低抵抗部材Lの座屈方向Zの端面にも薄板状の高抵抗部材Hを設けて膨張率の差を低減する。これにより、低抵抗部材Lと高抵抗部材Hの膨張率の違いが、プローブピン320の針圧に影響することを抑制できる。
【0042】
実施の形態3に係るプローブピン320、プローブカード100によれば、半導体ウエハW上に形成された電子回路の検査時において、実施の形態1と同様の効果を奏する。また、5層部T5の低抵抗部材Lの膨張率を調整し、プローブピン320の針圧を安定化できるので、さらに信頼性の高いプローブピン320およびプローブカード100を提供できる。
【0043】
実施の形態4.
以下、実施の形態4に係るプローブピンおよびプローブカードを、実施の形態1~3と異なる部分を中心に説明する。
図6Aは、プローブピン420を座屈方向Zから見た図である。
図6Bは、
図6Aのプローブピン420のD-D断面図であり、プローブピン420の単層部T1の長手方向に対して垂直な断面を示している。この部分の断面形状は実施の形態1~3と同じである。
図6Cは、
図6AのE1-E1、E2-E2、G-G断面図であり、プローブピン420の上部ガイド内収納部220U、下部ガイド内収納部220D、およびブリッジ部Brの長手方向に対して垂直な断面を示している。各ガイド内収納部については、実施の形態2と同じであるが、本実施の形態4では、5層部T5の長手方向の途中にブリッジ部Brを配置している。このブリッジ部Brでの断面形状は、上部ガイド内収納部220Uおよび下部ガイド内収納部220Dの断面形状と同じである。
図6Dは、
図6AのF-F断面図であり、プローブピン220の5層部T5の長手方向に対して垂直な断面を示している。この部分の断面形状は実施の形態1と同じである。
【0044】
上述のように、5層部T5においては、低抵抗部材Lが高抵抗部材Hよりも高温になり、座屈による変形だけでなく、膨張率の違いから、低抵抗部材Lと高抵抗部材Hの座屈量が異なることによって、低抵抗部材Lの方が大きく座屈して撓む。そこで、この実施の形態4では、実施の形態2の5層部T5の長手方向の途中に、ブリッジ部Brを配置している。ブリッジ部Brは、1カ所であってもよいし複数設けてもよい。
ブリッジ部Brを設け、低抵抗部材Lと高抵抗部材Hとを、5層部の長手方向の全長の中間部分で、物理的に固着することによって、低抵抗部材Lが大きく撓んだ場合であっても、予期しない部分で高抵抗部材Hに接触し、高抵抗部材Hの機械的強度を損なうことを防止できる。
【0045】
実施の形態4に係るプローブピン420、プローブカード100によれば、半導体ウエハW上に形成された電子回路の検査時において、実施の形態1と同様の効果を奏する。また、5層部T5の低抵抗部材Lの膨張量を、ブリッジ部Brによって分散し、低抵抗部材Lと高抵抗部材Hの座屈形状を管理できるので、さらに信頼性の高いプローブピン320およびプローブカード100を提供できる。
【0046】
実施の形態5.
以下、実施の形態5に係るプローブピンおよびプローブカードを、実施の形態2と異なる部分を中心に説明する。
図7Aは、プローブピン520の高抵抗部材の構成を示す図である。
図7Bは、プローブピン520を座屈方向Zから見た図である。
図7Cは、
図7BのD-D断面図である。
図7Dは、
図7BのE1-E1およびE2-E2断面図である。
図7Eは、
図7BのF-F断面図である。
実施の形態2で説明したプローブピン220と、本実地の形態のプローブピン520との違いは、5層部T505の高抵抗部材Hと低抵抗部材Lとが、実施の形態2とは逆になっていることである。すなわち、実施の形態2で説明したプローブピン220の高抵抗部材Hが、本実施の形態5では、低抵抗部材Lとなっており、実施の形態2で説明したプローブピン220の低抵抗部材Lが、本実施の形態5では高抵抗部材Hとなっている。その他の構成は全て同じである。
【0047】
実施の形態5に係るプローブピン520およびプローブカード100によれば、半導体ウエハW上に形成された電子回路の検査時において、プローブピン20のスリットSを介して隣り合う低抵抗部材Lと両側の高抵抗部材Hとが、座屈方向Zに並んでいないので、膨張率が異なっても相互に接触しない。したがって、低抵抗部材Lの高熱が、高抵抗部材Hに伝導せず、放熱性および許容電流値の高いプローブピンとプローブカードを提供できる。
【0048】
実施の形態6.
以下、実施の形態6に係るプローブピンおよびプローブカードを、実施の形態1と異なる部分を中心に説明する。
図8Aは、プローブピン620を座屈方向Zから見た図である。
図8Bは、
図8BのE1-E1およびE2-E2断面図である。
図8Cは、
図8AのF-F断面図である。
【0049】
実施の形態1では、弾性変形部620mは、スリットを合わせて5層部T5となっていたが、この実施の形態6では、座屈方向Zに対して垂直な方向Yに順に、高抵抗部材H、スリットS、低抵抗部材Lの第二3層部T603(複数層部)となっている。そして第二3層部T603よりも上方及び下方は、高抵抗部材Hとなっている。
なお、第二3層部T603よりも上方及び下方については、座屈方向Zに対して垂直な方向Yに順に高抵抗部材H、低抵抗部材Lの2層部としてもよい。
【0050】
実施の形態6に係るプローブピン620およびプローブカード100によれば、半導体ウエハW上に形成された電子回路の検査時において、プローブピン620のスリットSを介して隣り合う低抵抗部材Lと高抵抗部材Hとが、座屈方向Zに並んでいないので、膨張率が異なっても相互に接触しない。したがって、低抵抗部材Lの高熱が、高抵抗部材Hに伝導せず、放熱性、許容電流値の高いプローブピンとプローブカードを提供できる。
【0051】
本願は、様々な例示的な実施の形態及び実施例が記載されているが、1つ、または複数の実施の形態に記載された様々な特徴、態様、及び機能は特定の実施の形態の適用に限られるのではなく、単独で、または様々な組み合わせで実施の形態に適用可能である。
従って、例示されていない無数の変形例が、本願に開示される技術の範囲内において想定される。例えば、少なくとも1つの構成要素を変形する場合、追加する場合または省略する場合、さらには、少なくとも1つの構成要素を抽出し、他の実施の形態の構成要素と組み合わせる場合が含まれるものとする。
【符号の説明】
【0052】
100 プローブカード、10 フレーム、11 上部ガイド、12 下部ガイド、11H,12H ガイド孔、13 固定板、13H 開口部、14 配線基板、14P プローブ接続パッド、20,220,320,420,520,620 プローブピン、20c コンタクト部、20m,620m 弾性変形部、20t 端子部、20U,220U 上部ガイド内収納部、20D,220D 下部ガイド内収納部、T1 単層部、T3 3層部、T603 第二3層部、T5,T505 5層部、Br ブリッジ部、C 電極、H 高抵抗部材、L 低抵抗部材、S スリット、TC テスタ接続電極、W 半導体ウエハ、Z 座屈方向。