(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-17
(45)【発行日】2024-06-25
(54)【発明の名称】アルミナジルコニア焼結板
(51)【国際特許分類】
C04B 35/119 20060101AFI20240618BHJP
【FI】
C04B35/119
(21)【出願番号】P 2024004366
(22)【出願日】2024-01-16
(62)【分割の表示】P 2023163103の分割
【原出願日】2023-09-26
【審査請求日】2024-01-16
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】591149089
【氏名又は名称】株式会社MARUWA
(74)【代理人】
【識別番号】100096116
【氏名又は名称】松原 等
(72)【発明者】
【氏名】阿部 将
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 宣裕
【審査官】酒井 英夫
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-024916(JP,A)
【文献】特開2016-132577(JP,A)
【文献】特表2023-553022(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 35/10-35/119
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Al
2O
3とZrO
2とY
2O
3とCaOを含み、
アルミナジルコニア焼結板の分析結果で、Y
2O
3/ZrO
2質量比率が0.0280~0.0420であり、
破壊靭性が3.95~4.90MPa・m
1/2であり、
三点曲げ強度が500~600MPaであるアルミナジルコニア焼結板。
【請求項2】
気孔率が0.6%以下である請求項1記載のアルミナジルコニア焼結板。
【請求項3】
請求項1又は2記載のアルミナジルコニア焼結板を用いた回路基板。
【請求項4】
請求項1又は2記載のアルミナジルコニア焼結板を用いた放熱部材。
【請求項5】
請求項1又は2記載のアルミナジルコニア焼結板を用いた絶縁部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミナジルコニア焼結板に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1では、アルミナ粒子のマトリクスにナノジルコニア粒子を分散させると、気孔率2.2%までは強度の高いアルミナジルコニア複合セラミック体が得られることが報告されている。
【0003】
本願出願人が先に提案した特許文献2のアルミナジルコニア焼結基板は、(発光素子マウント用で光反射率を高くするため)気孔率を4.1%とした実施例の試料で三点曲げ強度が557MPaと高く、気孔率を0.8%とした比較例の試料では三点曲げ強度が705MPaと非常に高かった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2010-24128号公報
【文献】特許第5850450号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、アルミナジルコニア焼結板は、強度を高めると、靭性が低下して衝撃に弱くなり、信頼性が損なわれるという問題があった。
【0006】
そこで、本発明の目的は、高い靭性を備えた信頼性の高いアルミナジルコニア焼結板を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
[1]アルミナジルコニア焼結板の分析結果で、
ZrO2:4.54~8.02wt%、
Y2O3:0.13~0.33wt%、
SiO2:0.20~0.44wt%、
MgO:0.09~0.25wt%、
CaO:0.05~0.17wt%、
HfO2:0.09~0.17wt%、
及び残部はAl2O3を含み、
破壊靭性が3.95~4.90MPa・m1/2であるアルミナジルコニア焼結板。
【0008】
[2]Y2O3/ZrO2質量比率が0.0280~0.0420である上記[1]記載のアルミナジルコニア焼結板。
【0009】
[3]三点曲げ強度が500~600MPaである上記[1]又は[2]記載のアルミナジルコニア焼結板。
【0010】
[4]比重が3.89以上である上記[1]~[3]のいずれか一項に記載のアルミナジルコニア焼結板。
【0011】
[5]気孔率が0.6%以下である上記[1]~[4]のいずれか一項に記載のアルミナジルコニア焼結板。
【0012】
[6]Al2O3とZrO2とY2O3とCaOを含み、
アルミナジルコニア焼結板の分析結果で、Y2O3/ZrO2質量比率が0.0280~0.0420であり、
破壊靭性が3.95~4.90MPa・m1/2であり、
三点曲げ強度が500~600MPaであるアルミナジルコニア焼結板。
【0013】
[7]破壊靭性が3.95~4.90MPa・m1/2であり、
三点曲げ強度が500~600MPaであり、
気孔率が0.6%以下であるアルミナジルコニア焼結板。
【0014】
[8]上記[1]~[7]のいずれか一項に記載のアルミナジルコニア焼結板を用いた回路基板。
【0015】
[9]上記[1]~[7]のいずれか一項に記載のアルミナジルコニア焼結板を用いた放熱部材。
【0016】
[10]上記[1]~[7]のいずれか一項に記載のアルミナジルコニア焼結板を用いた絶縁部材。
【0017】
[11]仕込み量で、
ZrO2:5.66~9.43wt%、
Y2O3:0.14~0.35wt%、
SiO2:0.30~0.47wt%、
MgO:0.08~0.24wt%、
CaO:0.05~0.11wt%、
HfO2:0.11~0.18wt%、
及び残部はAl2O3の原料粉末を、混合粉砕後の平均粒子径(D50)が1.43~1.58μmとなるように混合粉砕し、
前記混合粉砕後の原料粉末よりなる成形体を焼成して焼結させるアルミナジルコニア焼結板の作製方法。
【0018】
[12]Y2O3/ZrO2質量比率が、0.0250~0.0380である上記[11]記載のアルミナジルコニア焼結板の作製方法。
【0019】
[13]前記焼成は、温度1530~1600℃、時間2~4hrで行う上記[11]又は[12]記載のアルミナジルコニア焼結板の作製方法。
【0020】
[作用]
正方晶ZrO2が、靭性に寄与していると考えられる。
Y2O3は、正方晶ZrO2を部分安定化させるため、ZrO2に固溶した部分安定化ZrO2の状態で存在することとなる。
但し、Y2O3の比率が適度に低いことにより、相対的にZrO2比が高くなり、靭性が高くなる。
SiO2、MgO、CaOは焼結助剤であり、Al2O3の粒成長を促進し、焼結温度を低下させる作用がある。
また、CaOを適度に含有することにより、焼結性が向上して靭性が高くなる。CaOを含有しないと焼結性が低下して空孔ができ(後述する比較例4,5)、CaOの含有が多すぎると粒子が粗大化して粒子間の空孔が増す。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、高い靭性を備えた信頼性の高いアルミナジルコニア焼結板を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】
図1は実施例1(気孔率0.4%)のSEM画像である。
【
図2】
図2は比較例6(気孔率0.8%)のSEM画像である。
【
図3】
図3は比較例7(気孔率1.4%)のSEM画像である。
【
図4】
図4は比較例4(気孔率3.0%)のSEM画像である。
【
図5】
図5はZrO
2量と三点曲げ強度及び破壊靭性との関係を示すグラフ図である。
【
図6】
図6は原料の混合粉砕後の平均粒子径(D50)と三点曲げ強度及び破壊靭性との関係を示すグラフ図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
<1>アルミナジルコニア焼結板の作製方法
(ア)Y2O3/ZrO2質量比率は、0.0280~0.0420であることが好ましく、0.0330~0.0360であることがより好ましい。
Y2O3の比率が適度に低いことにより、相対的にZrO2比が高くなり、靭性が高くなるからである。
【0024】
(イ)焼成は、温度1530~1600℃、時間2~4hrで行うことが好ましく、時間は2.5~4hrがより好ましい。1530℃よりも低いと焼結が不十分となり、十分な板強度が得られない。また、1600℃よりも高いと粒成長が進む。
【0025】
<2>アルミナジルコニア焼結板
(ア)板厚は、特に限定されないが、0.08mm以上であることが好ましい。0.08mmよりも薄いと外部応力に対して弱くなる。厚くなると成形性が難しくなるだけなので、上限は特にないが、敢えていえば5mmである。
【0026】
(イ)気孔率は、0.6%以下であることが好ましく、0.5%以下であることがより好ましい。
焼結が足りない又は進みすぎると空孔が増えるので、気孔率は焼結度合いの目安となる。気孔率が低いと、強度と靭性が担保できると考えられる。
【0027】
(ウ)破壊靭性は、3.95~4.90MPa・m1/2であることが好ましく、4.20~4.90MPa・m1/2であることがより好ましい。
破壊靭性が3.95MPa・m1/2以上であることにより、衝撃に強くなり、信頼性が向上する。
【0028】
(エ)三点曲げ強度は、500~600MPaであることが好ましく、530~600MPaであることがより好ましい。
汎用アルミナ焼結板は三点曲げ強度が450MPa程度であるのに対し、本発明のアルミナジルコニア焼結板は三点曲げ強度が500MPa以上であることにより、汎用アルミナ焼結板では耐えられないような大きい外部応力に十分耐えることができ、薄型化も可能となる。
【0029】
<3>用途
本発明のアルミナジルコニア焼結板の用途としては、特に限定されないが、例えば半導体モジュール、LEDパッケージ、ペルチェモジュール、プリンタ、複合機、半導体レーザー、光通信、高周波などで使用される、回路基板、放熱板、絶縁板、高周波窓等を例示できる。
【実施例】
【0030】
次に、本発明を具体化した実施例について、比較例と比較しつつ説明する。なお、実施例の各部の材料、数量及び条件は例示であり、発明の要旨から逸脱しない範囲で適宜変更できる。
【0031】
表1~3に示す実施例1~16及び比較例1~7のアルミナジルコニア焼結板を作製した。
【0032】
【0033】
【0034】
【0035】
最初に調合工程において、表1~3の「仕込み」欄の配合比率のAl2O3、ZrO2、Y2O3、SiO2、MgO、CaO及びHfO2の原料粉末に、該原料粉末の合計を100重量部として、界面活性型分散剤0.5重量部と、キシレンとイソプロピルアルコールの混合溶媒20重量部を添加した。
【0036】
ZrO2とY2O3には、次の製品を使用した。
・実施例1~3,6~16及び比較例1,4~7には、Y2O3粉末が1.5モル部混合されているZrO2粉末の製品(第一稀元素化学工業社製のファインセラミックス用ジルコニアDURAZRシリーズ)を使用した。Y2O3/ZrO2質量比率は0.0318である。
・実施例4には、ZrO2質量比率を実施例1よりも低くするため、上記DURAZRシリーズと、Y2O3が混合されていないZrO2粉末とをブレンドして使用した。
・実施例5及び比較例2,3には、ZrO2質量比率を実施例1よりも高くするため、上記DURAZRシリーズと、Y2O3粉末が3モル部混合されているZrO2粉末の製品(同社製のファインセラミックス用ジルコニアHSY-3F)とをブレンドして使用した。
【0037】
・実施例1~3及び比較例1は、上記DURAZRシリーズの配合量を変えて、主にZrO2及びY2O3の量を変えた群である。
・実施例4,5及び比較例2,3は、上記ブレンド量を変えて、主にY2O3の量を変えた群である。
・実施例6~9及び比較例4~7は、主にCaO量を変えた群である。
・実施例10~12は、主にSiO2,MgO,CaO量を変えた群である。
【0038】
上記添加後の原料粉末を、粉砕混合後の粒子径が下記となるように、アルミナ玉石を用いて粉砕混合した。
・実施例1は、所定の時間かけて粉砕混合した結果、粉砕混合後の粒子径がD90:3.02μm、D50:1.50μm、D10:0.52μmとなった。
・実施例2~12及び比較例1~7は、実施例1と同じ時間かけて粉砕混合したので、粉砕混合後の粒子径は実施例1と同等と考えられる(よって粒子径の測定は省略した)。
・実施例13~16は、実施例1よりも短い時間ないし長い時間かけて粉砕混合した結果、粉砕混合後の粒子径がD90:2.84~3.28μm、D50:1.43~1.58μm、D10:0.51~0.52μmとなった。表3には、実施例1を再掲しそれを挟んで実施例10~13を示した。
なお、粒子径の測定は、粉砕混合後の原料粉末0.5gを0.1質量%のピロリン酸ナトリウム水溶液50mlに投入し、日本精機製作所製のUS-300Eを使用して出力80%で3分間分散させたものを、島津製作所製のSALD-2200を使用してレーザー回折散乱法により行った。
【0039】
その後、バインダーとしてポリビニルブチラールを7重量部と、可塑剤としてアジピン酸ジオクチルを3重量部と、前述したものと同様の溶媒20重量部を加え、バインダーが完全に溶解・混合されるまで、ボールミルによって攪拌混合した後、スラリーを作製した。
【0040】
前記スラリーをドクターブレード法によってフィルム上に塗布し、70~120℃で乾燥し、溶媒を蒸発させた。その後、フィルムから剥離し、グリーンシートを得た。
【0041】
得られたグリーンシートをプレス加工により所定の形状に型抜きし、300~500℃で有機成分を除去し、1560℃で3時間焼成して、板厚0.38mmのアルミナジルコニア焼結板(セラミック焼結板)を得た。
【0042】
得られた実施例1~16及び比較例1~7のアルミナジルコニア焼結板について、次の分析・測定を行った。分析・測定結果を表1~3に示す。
【0043】
(1)アルミナジルコニア焼結板の組成分析
アルミナジルコニア焼結板の組成は、走査型蛍光X線分析装置(XRF)(リガク社製ZSX Primus IV)により分析した。
【0044】
(2)比重
比重ρは、アルキメデス法により、次のように求めた。基板の乾燥質量をW1、飽水基板の水中質量をW2、飽水基板表面に付着した水分を拭きとった後の飽水質量をW3として、ρ=W1/(W3-W2)の計算式から求めた。
【0045】
(3)気孔率
気孔率は、鏡面研磨とサーマルエッチングを行った基板表面を走査型電子顕微鏡で観察し、任意の5000倍SEM画像5枚それぞれについて気孔面積を測定し、観察面積に対する気孔の占有面積の平均値として求めた。
【0046】
(4)三点曲げ強度
三点曲げ強度は、島津製作所社製のAGX-Vを用い、JIS R1601:2008(ファインセラミックスの室温曲げ強さ試験方法)に基づいて測定した。
【0047】
(5)破壊靭性
破壊靭性は、ミツトヨ社製のHV-120Bを用い、JIS R1607:2015(ファインセラミックスの室温破壊じん(靱)性試験方法)に基づきIF法にて測定した。
【0048】
図1は、実施例1(気孔率0.4%)のSEM画像である。
図2は、比較例6(気孔率0.8%)のSEM画像である。
図3は、比較例7(気孔率1.4%)のSEM画像である。
図4は、比較例4(気孔率3.0%)のSEM画像である。
これらのSEM画像において、白色部がZrO
2(部分安定化ジルコニア)であり、黒色部が気孔である。
図5は、比較例1及び実施例1~3をプロットした、ZrO
2仕込み量と三点曲げ強度及び破壊靭性との関係を示すグラフ図である。
図6は、実施例1,10~13をプロットした、原料の混合粉砕後の平均粒子径(D50)と三点曲げ強度及び破壊靭性との関係を示すグラフ図である。
【0049】
比較例1~7は、三点曲げ強度が500MPa未満、及び/又は、破壊靭性が3.95MPa・m1/2未満であった。
これに対し、実施例1~16は、三点曲げ強度が500MPa以上、及び、破壊靭性が3.95MPa・m1/2以上であった。
とりわけ実施例1~5,8~16は、三点曲げ強度が516MPa以上、及び、破壊靭性が4.13MPa・m1/2以上と、特に優れている。
【0050】
なお、本発明は前記実施例に限定されるものではなく、発明の要旨から逸脱しない範囲で適宜変更して具体化することができる。
【要約】
【課題】高い靭性を備えた信頼性の高いアルミナジルコニア焼結板を提供する。
【解決手段】Al
2O
3とZrO
2とY
2O
3とCaOを含み、アルミナジルコニア焼結板の分析結果で、Y
2O
3/ZrO
2質量比率が0.0280~0.0420であり、 破壊靭性が3.95~4.90MPa・m
1/2であり、三点曲げ強度が500~600MPaであるアルミナジルコニア焼結板。
【選択図】
図5