(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-18
(45)【発行日】2024-06-26
(54)【発明の名称】分割幌体及びそれを用いた高速鉄道車両用外幌
(51)【国際特許分類】
B61D 17/22 20060101AFI20240619BHJP
【FI】
B61D17/22 Z
(21)【出願番号】P 2020050388
(22)【出願日】2020-03-21
【審査請求日】2023-03-09
(73)【特許権者】
【識別番号】390021577
【氏名又は名称】東海旅客鉄道株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000004617
【氏名又は名称】日本車輌製造株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】591136458
【氏名又は名称】株式会社ジャバラ
(74)【代理人】
【識別番号】100106024
【氏名又は名称】稗苗 秀三
(74)【代理人】
【識別番号】100167841
【氏名又は名称】小羽根 孝康
(74)【代理人】
【識別番号】100168376
【氏名又は名称】藤原 清隆
(72)【発明者】
【氏名】菅沢 正浩
(72)【発明者】
【氏名】二村 有哉
(72)【発明者】
【氏名】小嶋 亮次
(72)【発明者】
【氏名】岡本 直樹
(72)【発明者】
【氏名】福田 大輝
(72)【発明者】
【氏名】栗田 謙一
(72)【発明者】
【氏名】十河 孝宣
(72)【発明者】
【氏名】毛利 誉
(72)【発明者】
【氏名】若松 久
(72)【発明者】
【氏名】敏森 幹雄
(72)【発明者】
【氏名】秦 寿子
【審査官】西中村 健一
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-056435(JP,A)
【文献】特開2008-081698(JP,A)
【文献】特開平06-031871(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2020/0023699(US,A1)
【文献】中国実用新案第201914258(CN,U)
【文献】韓国登録特許第10-1346793(KR,B1)
【文献】特許第3655095(JP,B2)
【文献】特開平11-227519(JP,A)
【文献】実開昭51-036816(JP,U)
【文献】実公昭51-54171(JP,Y2)
【文献】米国特許出願公開第2014/0239660(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B61D 17/20-17/22
B60J 7/08- 7/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
高速鉄道用車両の外観面に形成された段差部を覆う外幌を構成する分割幌体であって、弾性を有する幌基材と、前記幌基材の外面側に配される外側シートとを備え、前記幌基材及び前記外側シートが通気性を有する分割幌体。
【請求項2】
前記幌基材は、通気孔を備えた弾性発泡体からなる請求項1に記載の分割幌体。
【請求項3】
前記外側シートは、アラミド繊維糸を用いて編成した繊維基材を備えた請求項1又は2に記載の分割幌体。
【請求項4】
前記繊維基材に可撓性樹脂を含浸させてなる請求項3に記載の分割幌体。
【請求項5】
前記可撓性樹脂が撥水性を有する請求項4に記載の分割幌体。
【請求項6】
前記幌基材の内面側に、前記外側シートと同じ構成の内側シートを備えた請求項1~5のいずれか一項に記載の分割幌体。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか一項に記載の分割幌体で構成された高速鉄道車両用外幌。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の車体が連結された高速鉄道車両の外観面に形成された車体と車体の間の凹部や、個々の車体の外面に形成される凹凸部などの段差部を覆って平滑化する外幌を構成する分割幌体及びそれを用いた高速鉄道車両用外幌に関するものである。
【背景技術】
【0002】
高速鉄道車両の車体-車体間の連結部を覆う外幌は、ジャバラ状の幌ではなく、車体-車体間の連結部を車体に沿った滑らかな平面で連続してつなぐことによって空気抵抗・空力音の低減を図り、騒音発生を低減可能な構造とされる。具体的に、特許文献1には、鉄道車両の車体-車体間の連結部を覆う外幌を構成する分割幌体として、外側シートと内側シート並びに両シート間に配され両シートと接着される高分子合成スポンジ体からなる構成が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記分割幌体では、外側シート及び内側シートとして、アラミド繊維を編成した繊維基材にエラストマーをコーティングしたものを使用している。これにより、高分子構成スポンジ体内に雨水など水分が滲み込むのを抑制するとともに、繰り返し高速走行によっても破損、裂傷が発生するおそれのない耐久性に優れた外幌を提供することができる。
【0005】
高速鉄道車両においては、空気抵抗低減のために、車体と車体の間が外幌で覆われているが、高速走行時やトンネル突入時に外幌の内外に大きな差圧が発生する。これにより、外幌(分割幌体)が外側に膨出する。この外幌の外側膨出の際に大きな音が生じたり、外幌が膨出と元の状態に復帰することを繰り返すことで外幌の耐久性が低下したり、外側シートの表面にコーティングしたエラストマーが剥落したりするといった問題が生じる。
【0006】
そこで、本発明では、上記問題に鑑み、トンネル通過時においても大きな音が発生することなく、耐久性を維持しつつ、剥落物発生のおそれがない分割幌体及びそれを用いた高速鉄道車両用外幌を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様に係る分割幌体は、高速鉄道車両の外観面に形成された段差部を覆う外幌を構成するものであって、弾性を有する幌基材と、前記幌基材の外面側に配される外側シートとを備え、前記幌基材及び前記外側シートが通気性を有する構成とする。
【0008】
前記幌基材は、通気孔を備えた弾性発泡体としてもよい。
【0009】
前記外側シートは、アラミド繊維糸を用いて編成した繊維基材を備えた構成としてもよい。
【0010】
前記繊維基材に可撓性樹脂を含浸させた構成としてもよい。
【0011】
前記可撓性樹脂は撥水性を有していてもよい。
【0012】
前記可撓性樹脂が、シリコーン系エラストマー又はフッ素系エラストマーである構成としてもよい。
【0013】
前記幌基材の内面側に、前記外側シートと同じ構成の内側シートを備えた構成としてもよい。
【0014】
前記分割幌体を用いて高速鉄道車両用外幌を構成してもよい。
【発明の効果】
【0015】
本発明の一態様によれば、シート分割幌体を構成する外側シート及び幌基材が通気性を有する構成としたため、外幌(分割幌体)の内側と外側とで差圧が生じない。従って、トンネル通過時に外幌の外側膨出による大きな音が発生することがなく、また、外側シートを構成する繊維基材の表面にコーティング層が形成されていないため、コーティング層剥落のおそれのない分割幌体を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態について図面を基に説明する。
図1は、高速鉄道車両を示す概略図である。鉄道車両1は、台車2と、台車2に搭載される車体3とを備える。車体3、3間の連結部外周に沿って外幌4により隙間なく覆われる。本実施形態の外幌4は、複数の幌ユニット5からなる分割構造とされる。
【0018】
具体的に、車体3と車体3の間の連結部に取り付けられる幌ユニット5は、
図2に示すように、複数の分割幌体6と、一対の固定金具7、7とを備える。固定金具7、7によって、幌ユニット5が車体3、3に取り付けられる。以下、車体3の前後方向をX、外周方向をYとする。複数の幌ユニット5を隙間なく車体の外周を覆うようにして取付けることによって車体3、3間の連結部の外幌4が形成される。以下、車体3、3間の連結部の外幌4を構成する分割幌体6について詳述する。
【0019】
図3及び
図4に示すように、分割幌体6は、外側シート8と内側シート9との間に幌基材11が介在した複層構造とされる。幌基材11は、独立気泡構造を備える弾性発泡体からなり、柔軟性を有し、かつ弾性変形可能とされる。幌基材11は、扁平ブロック状とされる。幌基材11には通気孔として、前後方向Xに長い長穴形状の貫通孔12が複数形成される。これにより、幌基材11は厚み方向に通気性を有する。
【0020】
幌基材11の材質としては、ウレタン、シリコーンエラストマー、クロロプレンゴム、エチレンプロピレンジエンゴム、ポリエステル綿、ポリエチレン、ポリプロピレン等を挙げることができ、これら材料を適宜発泡させたものを使用することができるが、中でも伸縮耐久性に優れているという観点からクロロプレンゴムを使用するのが好ましい。
【0021】
外側シート8及び内側シート9は、アラミド繊維糸を用いて編成した繊維基材を備える。本実施形態では、繊維基材としてニット布地を用いている。これにより、繊維基材は、伸縮性及び柔軟性を有し、かつ厚み方向に通気性を有する。外側シート8及び内側シート9は、繊維基材の表面にコーティング層は形成しない。その代わりに、繊維基材に撥水性に優れた可撓性樹脂を含浸させている。
【0022】
これにより、繊維基材の通気性を確保しつつ、繊維基材の強度を高め、耐久性を向上させることができる。すなわち、撥水性に優れた可撓性樹脂はアラミド繊維のバインダーとして機能する。外側シート8及び内側シート9は、JIS L1096に準拠する通気性の値が10~200cm3/(cm2・s)程度あればよい。可撓性樹脂の目付量としては、基材に合せて調整すればよいが、20g/m2~800g/m2とするのが好ましい。
【0023】
繊維基材に可撓性樹脂を含浸させる方法としては、可撓性樹脂に繊維基材をディッピングして引き上げた後、余分な樹脂をスクイズして除去する方法を採用することができる。このように、過剰な可撓性樹脂を除去することで、繊維基材の通気性及び柔軟性を確保しつつ、繊維基材の強度を高めることができる。すなわち、本発明においては、繊維基材を構成する各繊維の表面は可撓性樹脂で覆われているが、繊維基材の表面全体を連続的に覆うコーティング層が形成されているわけではない。
【0024】
可撓性樹脂は、撥水性を有するものであるのが好ましい。本発明の外側シート8(及び内側シート9)は、コーティング層を有していないため、繊維基材が表面に露出した状態となる。従って、雨水等は繊維基材の内部に浸透しやすくなるところ、繊維基材に撥水性を有する可撓性樹脂を含浸させることにより、多少の量の雨水であれば、繊維基材の表面で弾いて内部への浸透を抑止することができる。このように撥水性を有する可撓性樹脂としては、たとえば、シリコーン系エラストマーやフッ素系エラストマーを挙げることができる。
【0025】
分割幌体6で用いられる幌基材11に形成される貫通孔12の面積としては、平面視したときの幌基材11の表面積を100%とすると、すべての貫通孔12の合計面積の割合(貫通孔の面積率)が10%以上であればよい。これにより、高速走行時やトンネル突入時に幌基材11の内外で大きな差圧が発生するのを抑制することが可能となる。
【0026】
貫通孔12については、
図3に示す長穴の形状に限定されるものではなく、種々の形状とすることができる。たとえば、
図5に示すように、複数の丸孔をX方向及びY方向に並べて配置することができる。また、複数の丸孔を千鳥配置してもよい。さらに、
図6に示すように、長穴でも径を小さくして穴の個数を増やしたり、
図7に示すように、複数のスリットとすることができる。また、貫通孔12として、円形以外に多角形状とすることも可能である。ただ、分割幌体6が繰り返し伸縮することを考慮すれば、応力が集中しないように角のない丸穴や長穴形状とするのが好ましい。
【0027】
幌基材11の前面及び後面にはそれぞれ金属部材としての金属プレート14が接着される。金属プレート14には、図示しない複数のネジ孔が形成されており、このネジ孔にボルト(図示せず)が螺合可能とされる。なお、本実施形態ではネジ孔にボルトを螺合しているが、ボルト以外の締結部材を用いてもよい。外側シート8の前後方向Xの長さは、幌基材11の外面側の金属プレート14、14間の直線長さよりも長めに形成される。外側シート8は、幌基材11の外面に接着し、その前後端部は、金属プレート14を覆うようにする。
【0028】
同様に、内側シート9の前後方向Xの長さも、幌基材11の内面側の金属プレート14、14間の湾曲した長さよりも長めに形成される。そして、上述のごとく、内側シート9を幌基材11の内面に接着し、その前後端部は金属プレート14を覆うようにし、ネジ孔を覆った外側シート8又は内側シート9部分に貫通孔12を形成する。このようにして分割幌体6が形成される。
【0029】
得られた分割幌体6は、
図2に示すように、複数向きを揃えた上で外周方向Yに1列に並べ、隣接する分割幌体6の左右端同士を接合する。固定金具7には、図示しないボルト穴が形成されており、固定金具7のボルト穴と分割幌体6に形成された貫通孔とを合わせて図示しないボルトにて締結する。これにより、分割幌体6の前端及び後端にそれぞれ固定金具7,7が固定されて幌ユニット5が構成される。幌ユニット5は、前端側の固定金具7及び後端側の固定金具7がそれぞれ連結部の前側の車体3及び後側の車体3に取り付けられる。
【0030】
以上詳述したように、分割幌体6は幌ユニット5として車体3、3間に取付けられ、外幌4を形成する。
【0031】
上記構成の分割幌体6は、幌基材11、外側シート8及び内側シート9は、いずれも通気性を有するため、分割幌体6としても通気性を有する。したがって、高速走行時において外幌(分割幌体)の内外で大きな差圧が生じることがなく、大きな音が発生しない。また、外側シート8の繊維基材13の表面にコーティング層が形成されていないため、コーティング層剥落のおそれがない。
【実施例】
【0032】
本実施例では、種々の外側シートを作製して評価を行った。以下、その内容について説明する。
【0033】
[外側シートの作製及び評価]
1.外側シートの調製
繊維基材として以下に示す2種類のアラミド繊維製のニット生地(A、B)を用いて外側シートを作製した。外側シートの構成を表1に示す。具体的に、外側シートとしては、繊維基材をそのまま用いたNo.1のほか、可撓性樹脂としてシリコーン系エラストマーを含浸させる含浸処理を施したものも使用した(No.2及び3)。
【0034】
含浸処理としては、シリコーン樹脂槽に繊維基材を浸漬して引き上げた後、過剰の樹脂をスクイズ除去して樹脂を硬化させる。シリコーン樹脂の目付量は200g/m2とした。比較材として、繊維基材Aの表面にエラストマーをコーティングしたものを使用した(No.4)。
・繊維基材A: [アラミド繊維製短糸からなる撚糸と、アラミド製フィラメント撚糸とをさらに撚り合わせた糸を用いて12ゲージ緯編みにて編成]
・繊維基材B: [アラミド製フィラメント撚糸を用いて12ゲージ緯編みにて編成]
【0035】
2.外側シートの評価
(1)負圧試験
密閉されたチャンバーの一面に開口を設け、その開口を繊維基材で隙間なく覆った状態でチャンバー内に-20kPaの負圧をかけたときのチャンバー内圧力値を測定した。なお、開口の大きさは分割幌体の外側シートの大きさと同じとした。
【0036】
(2)保水率
外側シートの保水率をJIS L1913に準拠して測定した。
【0037】
(3)通気性
外側シートの通気性をJIS L1096に準拠して測定した。
【0038】
【0039】
[評価結果]
表1に示すように、繊維基材A又はBにコーティング層を積層せず、可撓性樹脂を含浸処理して外側シートとして用いたNo.1~3は、繊維基材Aと繊維基材Bの違いにより、通気性の値に差異があるものの、いずれも負圧が発生しない結果となった。一方、繊維基材の表面にエラストマーをコーティングした比較材(No.4)は通気性がなく、これを分割幌体に使用した場合には、分割幌体の内外に大きな差圧が生じることが確認された。
【0040】
また、シリコーン樹脂の含浸処理を行ったNo.2は、含浸処理を行わなかったNo.1に比べて著しく保水率が低下しており、シリコーン樹脂によって優れた撥水効果を奏することが確認された。
【0041】
なお、No.1~3について、負圧試験用のチャンバー開口にセットされた繊維基材の上から通気性を有しないフィルムを被せ、繊維基材全体の面積に対するフィルムで被覆した繊維基材面積の割合を変化させて圧力変化を調べた。その実験の結果、No.1~3のいずれもフィルム被覆面積率が90%未満ではチャンバー内圧力は0kPaであった。
【0042】
以上、本発明の実施形態につき説明したが、本発明の範囲はこれに限定されるものではなく、発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の変更を加えて実施することができる。たとえば、分割幌体は、内側シートを用いずに、幌基材と外側シートで構成してもよい。
【0043】
また、幌基材として、独立気泡構造の弾性発泡体でなく、連続気泡構造の弾性発泡体を用いることも可能である。この場合、貫通孔を形成しなくても弾性発泡体の多孔質構造によって通気性を確保することができる。また、幌基材として樹脂の線条集合体からなる網状構造体を用いることもできる。この場合も、網状構造体自身が通気性を有するため、貫通孔を形成する必要はない。
【0044】
また、本実施形態では外側シートと内側シートが同じ構成である場合について説明したが、これに限らず、外側シートと内側シートとで繊維基材の種類を変えることも可能である。さらに、本実施形態では、高速鉄道車両の車体と車体の間を覆う外幌について説明したが、これに限らず、たとえば、個々の車体の外面に形成される凹凸部などの段差部を覆うものであってもよい。
【符号の説明】
【0045】
1 鉄道車両
2 台車
3 車体
4 外幌
5 幌ユニット
6 分割幌体
7 固定金具
8 外側シート
9 内側シート
11 幌基材
12 貫通孔
14 金属プレート(金属部材)