(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-18
(45)【発行日】2024-06-26
(54)【発明の名称】脳信号測定及び刺激用構造体
(51)【国際特許分類】
A61B 5/271 20210101AFI20240619BHJP
【FI】
A61B5/271
(21)【出願番号】P 2022578940
(86)(22)【出願日】2021-03-29
(86)【国際出願番号】 KR2021003833
(87)【国際公開番号】W WO2021215682
(87)【国際公開日】2021-10-28
【審査請求日】2022-09-06
(31)【優先権主張番号】10-2020-0047425
(32)【優先日】2020-04-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(31)【優先権主張番号】10-2021-0039903
(32)【優先日】2021-03-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】522355385
【氏名又は名称】ジーブレイン インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110002468
【氏名又は名称】弁理士法人後藤特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ヤン、ソン ク
(72)【発明者】
【氏名】リ、サン ウォン
(72)【発明者】
【氏名】パク、ソン ウォン
(72)【発明者】
【氏名】アン、チョン ヒョン
(72)【発明者】
【氏名】チェ、ヨン チョル
(72)【発明者】
【氏名】キム、チェ チョン
【審査官】佐々木 創太郎
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2009/0018630(US,A1)
【文献】韓国公開特許第10-2016-0091474(KR,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0224474(US,A1)
【文献】Sung-Won Park et al.,Epidural Electrotherapy for Epilepsy,Small,Vol.14,2018年06月27日,Page 1801732
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/05-5/0538
5/24-5/398
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
大脳皮質表面と接触して脳から発生した信号を測定する或いは外部の刺激を脳に伝達する接触部と、頭蓋骨と皮膚との間に位置する送受信部と、前記接触部と前記送受信部とを連結する連結部と、を含む柔軟素子;及び、
前記送受信部に連結して信号を送信及び受信する集積回路を含み、
前記柔軟素子は、下層支持基板と、前記下層支持基板上に形成されたグラフェン電極層及び配線層と、前記グラフェン電極層及び前記配線層上に形成された絶縁層とを含み、前記絶縁層は、グラフェン電極層の一部が露出されるようにエッチングされ、前記グラフェン電極層の一部と前記配線層の一部とが隣接して連結され
、
前記接触部及び前記連結部の少なくとも一方は、連続する弧状の曲線のパターンであって、隣接する曲線の弧の向きが反対であるパターンにしたがってエッチングされた蛇状の構造を複数有する、脳信号測定及び刺激用構造体。
【請求項2】
前記絶縁層は、表面に親水性(hydrophilic)表面処理する、請求項1に記載の脳信号測定及び刺激用構造体。
【請求項3】
前記下層支持基板は、表面の一部に疎水性(hydrophobic)表面処理する、請求項1に記載の脳信号測定及び刺激用構造体。
【請求項4】
前記親水性表面処理は、前記絶縁層をスピンコーティングし、前記露出されたグラフェン電極層をマスキング(masking)した後、O
2又はO
3が処理される、請求項
2に記載の脳信号測定及び刺激用構造体。
【請求項5】
前記疎水性表面処理は、
複数の微細突起を含む疎水性マイクロ構造体を形成するように処理される、請求項
3に記載の脳信号測定及び刺激用構造体。
【請求項6】
前記集積回路は、無線電力供給装置、記録装置、刺激装置、
及び通信装置を含む、請求項1に記載の脳信号測定及び刺激用構造体。
【請求項7】
前記下層支持基板は、PET(Polyethylene terephthalate)、PI(Polyimide)、PS(Polystyrene)、PC(Polycarbonate)、PES(Polyethersulfone)、PMMA(Polymethlymethacrylate)、COP(Cyclo-olefin polymers)、PDMS(Polydimethylsiloxane)、PVP(Polyvinylpyrrolidone)、PEN(Polyethylene naphthalate)、PVC(Polyvinyl chloride)、及びこれらの混合物からなる群から選ばれるいずれか一つである、請求項1に記載の脳信号測定及び刺激用構造体。
【請求項8】
前記グラフェン電極層は、1~4層で構成される、請求項1に記載の脳信号測定及び刺激用構造体。
【請求項9】
前記グラフェン電極層は、直径が30~150μmである、請求項1に記載の脳信号測定及び刺激用構造体。
【請求項10】
前記配線層は、金(Au)、銀(Ag)、銅(Cu)、ニッケル(Ni)、及び鉄(Fe)からなる群から選ばれるいずれか一つである、請求項1に記載の脳信号測定及び刺激用構造体。
【請求項11】
前記配線層は、その厚さが30~60nmである、請求項1に記載の脳信号測定及び刺激用構造体。
【請求項12】
前記絶縁層は、OCR(optical clean resin)、OCA(optical clean adhesive)、SU-8、及びこれらの混合物からなる群から選ばれるいずれか一つである、請求項1に記載の脳信号測定及び刺激用構造体。
【請求項13】
前記柔軟素子と前記集積回路は、ヒト以外の動物の脳に注入して脳の信号を受信し、前記受信した脳の信号を人体の外部に提供し、電流、電圧、磁場又は電場の刺激から選ばれる一つの刺激を脳に加える、請求項1に記載の脳信号測定及び刺激用構造体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、注射器注入型脳信号測定及び刺激用構造体並びにその注射器注入方法に関する。
【背景技術】
【0002】
脳挿入型医療機器は、神経信号を取得したり電気刺激を伝達する多重微細電極を含む装置であり、ニューロンを電子回路に連結する神経インターフェースとしての役割を担う。電気刺激は、薬物治療や切除術に比べて副作用が少なく、可逆性と調整可能性のメリットを有する。
【0003】
現在、商業化している脳挿入型医療機器は、硬くて体積が大きいため、脳への挿入時に頭蓋骨を多く開放しなければならなく、脳深部を刺激する大脳浸透型電極棒を用いなければならない。このため、頭蓋骨開放による脳圧変化、脳深部への深刻な損傷及び感染などの副作用を招く問題点があった。
【0004】
また、一般に、人体挿入型電子素子は、生体に機械的・化学的に無害であり、軟らかいポリマー基板を使用しているため、その大部分が疎水性表面特性を有し、生体組織との付着力が良くない。従来はこのような問題を解決するために、生体に適合な医療用接着剤などを使用したが、それは電子素子と生体組織との界面に否定的な影響を及ぼし、高品質の生体信号測定を不可能にする問題があった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このような問題点を解決するために、本発明は、脳への挿入時に頭蓋骨の開放を最小化でき、生体組織との付着力に優れた高性能の注射器注入型脳信号測定及び刺激用構造体並びにその注射器注入方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の技術的課題を達成するために、本発明は、大脳皮質表面と接触して脳から発生した信号を測定する或いは外部の刺激を脳に伝達する接触部と、頭蓋骨と皮膚との間に位置する送受信部と、前記接触部と前記送受信部とを連結する連結部を含む柔軟素子;及び
前記送受信部に連結して信号を送信及び受信する集積回路を含み、
前記柔軟素子は、下層支持基板と、前記下層支持基板上に形成されたグラフェン電極層及び配線層と、前記グラフェン電極層及び前記配線層上に形成された絶縁層とを含み、前記絶縁層は、グラフェン電極層の一部が露出されるようにエッチングされ、前記グラフェン電極層の一部と前記配線層の一部とが隣接して連結される脳信号測定及び刺激用構造体を提供する。
【0007】
柔軟素子は、蛇状(serpentine)の構造を有することを特徴とする。
【0008】
また、絶縁層は、親水性表面処理されたことを特徴とする。これに加えて、前記柔軟素子において下層支持基板は表面一部が疎水性表面処理されたことを特徴とする。親水性表面処理は、絶縁層をスピンコーティングし、露出されたグラフェン電極層をマスキング(masking)した後、O2又はO3が処理されることであってよい。また、前記疎水性表面処理は、多数の微細突起を含む疎水性マイクロ構造体が形成されるように処理されてよい。
【0009】
一方、本発明の集積回路は、無線電力供給装置、記録装置、刺激装置、通信装置を含むことができる。
【0010】
下層支持基板は、PET(Polyethylene terephthalate)、PI(Polyimide)、PS(Polystyrene)、PC(Polycarbonate)、PES(Polyethersulfone)、PMMA(Polymethlymethacrylate)、COP(Cyclo-olefin polymers)、PDMS(Polydimethylsiloxane)、PVP(Polyvinylpyrrolidone)、PEN(Polyethylene naphthalate)、PVC(Polyvinyl chloride)、及びこれらの混合物からなる群から選ばれるいずれか一つであってよい。また、前記グラフェン電極層は1~4層で構成されることを特徴とする。前記グラフェン電極層は、その直径が30~150μmであってよい。
【0011】
配線層は、金(Au)、銀(Ag)、銅(Cu)、ニッケル(Ni)、及び鉄(Fe)からなる群から選ばれるいずれか一つであってよい。また、配線層は、その厚さが30~60nmであってよい。
【0012】
絶縁層は、OCR(optical clean resin)、OCA(optical clean adhesive)、SU-8、及びこれらの混合物からなる群から選ばれるいずれか一つであってよい。
【0013】
本発明の脳信号測定及び刺激用構造体の注射器注入方法は、
脳から発生した信号を測定する或いは外部の刺激を脳に伝達する接触部と、集積回路に連結される送受信部と、前記接触部と前記送受信部とを連結する連結部と、からなる柔軟素子を含み、
頭皮を開放して、頭骨に小さい穴を開けて、注射器の挿入が可能な細い管を挿入して、脳と外部とを連結する段階;
柔軟素子の入っている注射器の吐出口を前記管を通じて挿入する段階;
注射器に圧力をかけて前記吐出口から前記柔軟素子と脳脊髓液を脳に挿入する段階;及び
前記柔軟素子の接触部は大脳皮質に接触し、前記送受信部が頭蓋骨と皮膚との間に位置して前記集積回路に連結され、前記連結部が頭蓋骨を貫通して前記接触部と前記送受信部とを連結する段階を含む。
【0014】
本発明の脳信号測定及び刺激用構造体は、大脳皮質表面と接触して、脳から発生した信号を測定する或いは外部の刺激を脳に伝達する接触部と、頭蓋骨と皮膚との間に位置する送受信部と、前記接触部と前記送受信部とを連結する連結部と、を含む柔軟素子;及び
前記送受信部に連結されて信号を送信及び受信する集積回路を含み、
前記柔軟素子の入っている注射器に圧力をかけて前記柔軟素子を脳に注入する際に、前記注射器に含まれた流体の圧力を最も多く受ける面で前記接触部を形成し、前記流体の流れによって広がってよい。
【0015】
連結部は、前記接触部と前記送受信部の間で螺旋状に形成されて3次元構造であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明は、柔軟素子及び集積回路を含む脳信号測定及び刺激用構造体を提供し、本発明の柔軟素子は、柔軟性及び機械的特性に優れるので、非常に狭い面積の頭蓋骨領域の開放だけで注入可能であり、高性能の脳信号測定及び電気刺激用素子として働くことができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の実施例に係る柔軟素子の構成を示す図である。
【
図2】本発明の実施例に係る注射器注入型脳信号測定及び刺激用構造体(柔軟素子及び集積回路)が脳に注入されて付着した形態を示す図である。
【
図3】本発明の実施例に係る集積回路が頭蓋骨表面に付着した形態を示す図である。
【
図4】本発明の実施例に係る集積回路の内部構成を簡略に示す図である。
【
図5】本発明の実施例に係る注射器を脳に注入して脳信号測定及び刺激用構造体を脳に装着する方法を説明するための図である。
【
図6】本発明の実施例に係る接触部の断面を示す図である。
【
図7】本発明の他の実施例に係る接触部の断面を示す図である。
【
図8】本発明の実施例に係る接触部の絶縁層のパターンを示す図である。
【
図9】本発明の実施例に係る接触部の下層支持基板のパターンを示す図である。
【
図10】本発明の実施例に係る柔軟素子の連結部を拡大して示す図である。
【
図11】本発明の実施例に係る柔軟素子において蛇状の構造の特性を説明するための図である。
【
図12】本発明の実施例に係る柔軟素子の引張変形による抵抗変化を測定した結果を示すグラフである。
【
図13】本発明の他の実施例に係る柔軟素子の製造方法を示す図である。
【
図14】本発明の他の実施例に係る柔軟素子の各層の厚さと直径を示す図である。
【
図15】本発明の他の実施例に係る柔軟素子の接触部構成を示す図である。
【
図16】本発明の他の実施例に係る柔軟素子の連結部と送受信部の構成を示す図である。
【
図17】本発明の他の実施例に係る柔軟素子の側面と柔軟素子の平面視の連結関係を示す図である。
【
図18】本発明の他の実施例に係る連結部の螺旋状の形態を示す図である。
【
図19】本発明の他の実施例に係る柔軟素子を内装している注射器の様子を示す図である。
【
図20】本発明の他の実施例に係る柔軟素子の構造概念を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
明細書全般において、ある部分がある構成要素を「含む」としているとき、これは、別に断りのない限り、他の構成要素を除外する意味ではなく、他の構成要素をさらに含み得ることを意味する。
【0019】
図1は、本発明の実施例に係る柔軟素子の構成を示す図であり、
図2は、本発明の実施例に係る注射器注入型脳信号測定及び刺激用構造体(柔軟素子及び集積回路)が脳に注入されて付着した形態を示す図であり、
図3は、本発明の実施例に係る集積回路が頭蓋骨表面に付着した形態を示す図である。
【0020】
本発明の実施例に係る注射器注入型脳信号測定及び刺激用構造体10は、柔軟素子100及び集積回路200を含む。
【0021】
本発明の実施例の柔軟素子100は、接触部110、連結部120及び送受信部130を含む。具体的に、大脳皮質表面と接触する接触部110と、頭蓋骨(skull)と皮膚との間の空間に設置される送受信部130と、接触部110及び送受信部130を両端に連結し、頭蓋骨を通過して頭蓋骨の内部と外部にわたって配置される連結部120と、を含む。
【0022】
ここで、接触部110は、大脳皮質と接触して脳から発生した信号を測定するか、外部の刺激を脳に伝達する役割を担う。
【0023】
図2に示すように、柔軟素子100は、注射器を用いて脳に注入して接触部110を大脳皮質に接触させ、柔軟素子100の送受信部130を集積回路200に連結して頭蓋骨表面に接触させている。
【0024】
本発明の脳信号測定及び刺激用構造体10は、柔軟電極(flexible electrode)、無線連結(wireless link)及び無線電力供給(wireless power)、記録(recording)、刺激(stimulation)のための構成要素を含むことができる。
【0025】
脳に注入された柔軟素子100は、接触部110が大脳皮質に接触し、連結部120が頭蓋骨(Skull)を貫通して接触部110と送受信部130とを連結する。
【0026】
送受信部130は集積回路200に結合し、頭蓋骨と皮膚との間に位置する。送受信部130は頭蓋骨に付着し、
図3に示す集積回路200と結合する。
図3は、集積回路200が頭蓋骨表面に付着した形態を簡略に示す図である。
【0027】
図4は、本発明の実施例に係る集積回路の内部構成を簡略に示す図である。
【0028】
本発明の実施例の集積回路200は無線チップ(chip)であってよく、電波を送信(transmit)及び受信(receive)する役割を担う。集積回路200は、無線電力供給装置、記録装置、刺激装置、通信装置を含むことができ、これらの構成要素を含み、生体互換性を高め得るパッケージであってよい。
【0029】
集積回路200は、頭蓋骨と皮膚との間の空間に設置される。具体的に、無線電力供給装置は、集積回路200に電力を供給するためのものであり、記録装置は、測定された脳波の記録のためのものであり、刺激装置は、脳に刺激を提供するためのものであり、通信装置は、測定された脳波を外部に送信する及び外部命令を受信するための構成要素である。
【0030】
図4を参照して説明すると、集積回路200は、脳から受信した電波測定値を記録して生体情報を取得し、異常信号を感知する。集積回路200は、異常が感知された時に、電流、電圧、磁場又は電場の刺激などのエネルギーを加えて神経調節(Neuro-Modulation)することにより、疾病を治療したり脳活動を調節する役割を担う。
【0031】
集積回路200は、無線電力供給装置である無線チップ電源部210、記録装置であるレコーダ(Recorder)220、刺激装置である刺激器(Stimulator)230、チップコントローラ(Chip Controller)240、及び通信装置250を含む。
【0032】
無線チップ電源部210は、電力レギュレーター(Power Regulation)211及びバッテリー212を含む。
【0033】
バッテリー(Battery)212は、RFコイルなどを用いた無線のエネルギー供給(energy harvesting)が可能であり、無線方式で供給されたエネルギーを貯蔵することができる。
【0034】
バッテリー212は、WPT(Wireless Power Transfer,無線電力伝送)技術を用いて無線方式で充電することができる。
【0035】
電力レギュレーター211は、バッテリー212のACをDCに変換してチップコントローラ240に伝達する。
【0036】
神経微小電極(Neural Micro Electrode)201は、脳に付着する電極であり、脳波測定及び電気刺激が可能である。
【0037】
脳波測定は、レコーダ220を用いてアナログデータをデジタルに変換してチップコントローラ(Chip Controller)240にデータを伝達し、チップコントローラ(Chip Controller)240から通信装置250を介して外部装備にデータを無線送信する。レコーダ220は、脳波測定パネルの個数にしたがって異なってくる。
【0038】
レコーダ220は、多重チャネルの脳波測定データの入力及びデジタル信号変換を行うことができる。
【0039】
チップコントローラ240は、測定信号及び刺激信号を制御できる。
【0040】
通信装置250は、体外からモニタリング可能なように外部通信網と無線連結される。通信装置250は、レコーダ220によって変換されたデジタル信号を電極又はアンテナを介して無線で送出できる。
【0041】
集積回路200は、パッケージング発熱などの問題から、集積回路のパッケージ素材を生体との互換性(compatibility)を有するものにして生体適合性を確保しなければならず、封止化(encapsulation)形成途中にチップに影響を与えてはいけない。
【0042】
集積回路200において、パッケージ素材は、当該分野において生体内に一般に使用する素材であればいずれも使用可能であり、PDMS(Polydimethylsiloxane)、パリレンC、ポリイミド、生体適合UV樹脂などが好適である。
【0043】
具体的に、柔軟素子100の接触部110において外部に露出されているグラフェン電極層113を用いて脳波を測定して集積回路200に伝達すれば、集積回路200を介して外部に無線送信することができる。
【0044】
チップコントローラ(Chip Controller)240で測定された脳波信号に異常が感知されると、通信装置250を介して外部に送信し、刺激器230に命令を伝達して電気刺激信号を神経微小電極201に与える。刺激器230は、電気刺激チャネルの個数にしたがって異なってくる。刺激器230は、チップコントローラ240に命令された治療刺激を生成したり伝達したりできる。
【0045】
図4を参照すると、柔軟素子100の接触部110によって測定された脳波は、レコーダ(Recorder)220でデジタル信号に変換されて集積回路200に伝達されてよく、これは、スマートフォン、スマートパッドのようなスマート機器又はコンピュータなどに無線送信されてよい。前記レコーダ220は一つ以上含まれてよい。
【0046】
逆に、集積回路200を介して外部から受信した電波は、柔軟素子100を介して脳に伝達されてよい。
【0047】
このような過程により、接触部110で測定した脳波から異常が感知されると、それが外部に送信され、集積回路200から接触部110に電気信号などを提供するように制御されてよい。例えば、
図4を参照すると、集積回路200は、刺激器(Stimulator)230に命令を伝達して大脳皮質を刺激するようにしてよい。刺激器230は一つ以上含まれてよい。
【0048】
一方、後述するように、集積回路200は、別個の無線通信機器に受信された外部電波が電極又はアンテナを介して集積回路に伝達されるようにし、外部電波をそのまま取り込まずに脳に伝達する役割を担うこともできる。
【0049】
図5は、本発明の実施例に係る注射器を脳に注入して脳信号測定及び刺激用構造体を脳に装着する方法を説明するための図である。
【0050】
柔軟素子100を注射器13を用いて脳に注入する方法を説明すると、次の通りである。
【0051】
まず、頭皮を開放して、頭骨に小さい穴11を開けて、注射器13の挿入が可能な細い管12を挿入して、脳と外部とを連結する。
【0052】
柔軟素子100の入っている注射器13の吐出口を、挿入された管12を通じて脳に損傷を与えることなく挿入する。
【0053】
注射器13に圧力を加えて吐出口から柔軟素子100及び脳脊髓液を脳に挿入する。
【0054】
柔軟素子100の接触部110は大脳皮質に接触し、送受信部130は頭蓋骨と皮膚との間に位置し、連結部120が頭蓋骨(Skull)を貫通して接触部110と送受信部130とを連結する。
【0055】
注射器13の圧力は、接触部110が大脳皮質に位置し、送受信部130が頭蓋骨と皮膚との間に位置するように調節する。
【0056】
頭蓋骨上に位置している柔軟素子100の送受信部130は、集積回路200に連結する。
図5の注射器13の注入過程は、以下の
図19及び
図20を参照して、柔軟素子100が注射器13によって脳に注入されて頭蓋骨の内部で広がる過程を詳細に説明する。
【0057】
図6は、本発明の実施例に係る接触部の断面を示す図であり、
図7は、本発明の他の実施例に係る接触部の断面を示す図である。
【0058】
図6に示すように、本発明の実施例に係る接触部110は、下層支持基板111と、下層支持基板111上に形成されたグラフェン電極層113及び配線層114と、グラフェン電極層113及び配線層114上に形成された絶縁層115とを含む。
【0059】
絶縁層115は、グラフェン電極層113の一部が露出されるようにエッチングされ、グラフェン電極層113の一部と配線層114の一部とが隣接して連結される。
【0060】
図7に示すように、本発明は、湿っている生体組織への接触部110の付着力を向上させるために追加の構成要素を備えることができる。追加の構成要素としては、絶縁層115の表面に親水性(hydrophilic)表面処理して結合させた親水性作用基116を含み、その反対側の下端支持基板111の表面の一部に形成される疎水性マイクロ構造体112をさらに含むことができる。
【0061】
絶縁層115は、配線層114の一部が露出されるようにエッチングされる。
【0062】
親水性表面処理すると、注射器注入型の柔軟素子100が脳に押し込まれながら、親水性同士が付着する性質により、親水性表面処理した絶縁層115が大脳皮質の表面に付着する。したがって、柔軟素子100の前面と背面が狂うことを防止し、柔軟素子100が折れることも防止することができる。
【0063】
疎水性マイクロ構造体112は、疎水性を帯びる多数の微細突起を含み、生体組織への付着力を向上させることができる。
【0064】
絶縁層115及び下端支持基板111の両方に表面処理した接触部110の断面を
図7に示す。
【0065】
図7を参照すると、柔軟素子の上端の絶縁層115と下端の下層支持基板111の表面にそれぞれ相克の表面特性を形成して付着力を向上させることができる。絶縁層115の表面に加えられる親水性表面処理によって形成された親水性作用基116は、脳水(brain water)との相互作用(interaction)を可能にして付着力を向上させることができる。
【0066】
下層支持基板111は表面の一部に疎水性表面処理する。
【0067】
下層支持基板111上にさらに形成された疎水性マイクロ構造体112は、数多くの突起状の構造で構成されて疎水性(hydrophobic)特性を極大化し、付着力を向上させることができる。
【0068】
下層支持基板111は概ね疎水性であるが、このような疎水性表面構造の形成によって疎水性表面特性を極大化し、身体付着力を向上させることができる。
【0069】
疎水性表面処理は、後述するように、Si/SiO2ウエハー(wafer)に犠牲層をエッチング(etching)してパターンを形成した後、SiO2上に、下層支持基板の材料となる物質をスピンコーティングすることによって下層支持基板111の形成と同時になされてよい。
【0070】
本発明の接触部110は、総厚さが非常に薄いので接触力が強く、曲げ剛性(bendng stiffness)が小さいので大脳皮質表面上に接触しやすい。また、蛇状(serpentine)の網(mesh)構造を借用して相当な機械的柔軟性を有するので、直径の小さいガラスピペット(glass pipet)を用いて脳に注入しても性能の低下がないことを特徴とする。
【0071】
本発明は、柔軟素子100を用いて脳の信号を測定する方法及び脳を刺激する方法を提供する。
【0072】
接触部110は、大脳皮質に接触して脳から発生した電気信号などを受信することができる。具体的に、柔軟素子100の接触部110のうちグラフェン電極層113が電気信号を測定する役割を担う。この信号は、配線層114を介して、送受信部130に連結された集積回路200に伝達され、後述するように、受信した脳信号を端末機を通じて視覚的に提供することができる。
【0073】
一方、送受信部130は、頭蓋骨と皮膚との間の空間に位置して外部の刺激を取り込み、それを大脳皮質に伝達することができる。具体的には、送受信部130で外部の刺激を取り込み、それを大脳皮質に伝達することができる。
【0074】
一例として、送受信部130は集積回路200に連結されてよく、このような集積回路は頭蓋骨表面に接触してよい。
【0075】
下層支持基板111は、グラフェン(Graphene)電極を支持する支持基板の役割を担い、本発明の目的を達成するためにフレキシブル(flexible)な特性を有する材料で構成される。また、素子の開放されたグラフェン電極部分のみが生体組織に付着しなければならず、下層支持基板は絶縁体であることが好ましい。
【0076】
したがって、下層支持基板は、次に限定されるものではないか、PET(Polyethylene terephthalate)、PI(Polyimide)、PC(Polycarbonate)、PES(Polyethersulfone)、PDMS(Polydimethylsiloxane)、PVP(Polyvinylpyrrolidone)、PEN(Polyethylene naphthalate)、PVC(Polyvinyl chloride)、及びこれらの混合物からなる群から選ばれるいずれか一つであってよい。本発明の素子において、下層支持基板の材料は、製作工程で使用される様々なケミカルに対する優れた耐化学性及び数μmの厚さでも機械的変形に耐え得る優れた機械的物性の側面で、PI(polyimide)を使用することが好ましい。
【0077】
下層支持基板111は、接触部110の柔軟性と機械的変形が加えられた時に蛇状の構造で発生するバックリング(buckling)効果を考慮して、素子全体構造の効果的な曲げ剛性(effective bending stiffness)を最適化するための側面で、その厚さが0.5~2μmであることが好ましい。ただし、これに限定されず、通常の技術者が用いる物質又は素子の構造などの条件によって変更可能であることは勿論である。
【0078】
本発明において、グラフェン電極層113は直接に測定がなされる部位であり、本発明のグラフェン電極層113は単層であってよいが、1~4層であってよい。多層構造の場合には、グラフェンの伝導性が増加してインピーダンス(impedance)が減少し、機械的変形が加えられた時にグラフェンの各層で発生するクラック(crack)が各層によってカバーされ、変形にさらに耐え得るという長所がある。
【0079】
グラフェン電極層113は、その直径が30~150μmであってよく、電極の空間ジオメトリ(spatial geometry)によって変化するインピーダンスによってSNR(signal to noise ratio)が支配的に変化するという点を考慮すると、30μm以上の直径を有することが好ましく、脳表面から測定される脳信号の同期化(synchronization)による最小限の解像度を考慮すると、150μm以下の直径を有することが好ましい。ただし、これに限定されるものではなく、通常の技術者が条件によって変更可能であることは勿論である。
【0080】
また、本発明の接触部110のうち、センシング部分(sensing part)であるグラフェン電極層113は、NMP(Neutral Mechanical Plane)に位置させることが好ましい。すなわち、グラフェン電極層113は、生体組織の電気信号を測定する役割を担うので、NMPに位置させて機械的変形を最小化することが好ましい。
【0081】
本発明において、配線層114は、金(Au)、銀(Ag)、銅(Cu)、ニッケル(Ni)、及び鉄(Fe)からなる群から選ばれるいずれか一つで構成されてよい。
【0082】
配線層114は、その厚さが30~60nmであると、蛇状の構造において機械的変形によって捻じれて発生し得るクラックに相対的に敏感でないという側面で好ましい。しかし、これに限定されず、通常の技術者が条件によって変更可能であることは勿論である。
【0083】
本発明において、絶縁層115は、OCR(Optical clean resin)、OCA(Optical clean adhesive)、SU-8、及びこれらの混合物からなる群から選ばれるいずれか一つで構成されてよいが、これに限定されるものではない。本発明の絶縁層115には、クロストークを防止するためのものであって、伝導度がなく、パシベーション(passivation)用に使用できる材料であればいずれも可能である。
【0084】
上端ポリマー層である絶縁層115は、グラフェン電極部分が開放されなければならので、グラフェン電極にダメージを与え得るRIEなどの乾式エッチング過程無しでパターンが可能な絶縁層でなければならず、フォトレジスト(photoresist)の一種であるSU-8を使用することが好ましい。上端SU-8層をフォト工程を用いてパターンし、下端レイヤの形状に合わせて蛇状の網構造を形成することができる。
【0085】
絶縁層115はグラフェン電極層113が露出されるようにエッチングされ、配線層114と接触しない部分である第1絶縁層と、配線層114と接触する部分である第2絶縁層とに区分できる。具体的に、第2絶縁層は、グラフェン電極層113及び配線層114の両方と接触し、第1絶縁層は、下層支持基板111及びグラフェン電極層113と接触する。
【0086】
絶縁層115は、その厚さが0.5~2μmであることが、センシング部分(sensing part)をNMP(Neutral Mechanical Plane)に位置させる観点で好ましい。ただし、これに限定されず、通常の技術者が条件によって変更可能であることは勿論である。
【0087】
一方、本発明は、上述したように、柔軟素子100の身体付着力を向上させるために、追加の構成要素を備えることができる。
【0088】
本発明の柔軟素子100の身体付着力を向上させるための工程は、次の通りである。
【0089】
Si/SiO2ウエハー(wafer)に犠牲層をエッチング(etching)してパターンを形成する。下層支持基板に疎水性表面処理をしない場合に、SiO2のエッチング過程は省略してよい。
【0090】
その後、SiO2上にスピンコーティング(spin coating)して下層支持基板111を形成する。下層支持基板111上にグラフェンを転写し、フォトリソグラフィ、乾式エッチング過程を経てグラフェン電極層113を形成した後、配線層114を積層及びパターンする。
【0091】
その後、絶縁層115をスピンコーティングし、露出されたグラフェン電極層113をマスキング(masking)した後、親水性表面処理する。このとき、マスキングはグラフェンの損傷を防止するためのものであり、フォトレジスト(photoresist)物質30を用いて露出されたグラフェンをキャッピング(capping)する方式でなされるが、これに限定されない。また、親水性表面処理は、O2又はO3を処理して行われるか、当該分野の通常の技術者が一般に活用可能な方法で行われてよい。具体的に、O2プラズマ(plasma)又はUVオゾン(ozone)を用いて表面処理することができる。
【0092】
その後、前記親水性表面処理後にマスキング物質を除去し、SiO2層をエッチングすることで、本発明の親水性及び疎水性表面処理された柔軟素子を製造できる。
【0093】
一方、本発明の脳信号測定及び刺激用構造体10は、増幅器(Amplifier)をさらに含むことができる。このような増幅器は、本発明の柔軟素子100のグラフェン電極で測定した電気信号を増幅することができる。
【0094】
一方、本発明の構造体10は脳に注入されるとしたが、前記構造体10が注入される位置は、通常の技術者が応用可能な範囲内で、脊髄、末梢神経などに挿入又は移植されてよいことは勿論である。
【0095】
本発明の注射器注入型脳信号測定及び刺激用構造体10は、試験管内(in vitro)、生体外(ex vivo)、生体内(in vivo)で使用されてよい。前記生体は動物であり、ヒトを含んでもよく、ヒト以外の動物であってもよい。
【0096】
本発明は、注射器注入型脳信号測定及び刺激用構造体10を含む脳挿入型医療装置を提供する。本発明の医療装置は、柔軟素子100の送受信部130と連結される集積回路200を含む。具体的に、柔軟素子100は、数mm2レベルの頭蓋骨領域の開放だけで注入されてよく、柔軟素子100の接触部110は大脳皮質に接触し、送受信部130は頭蓋骨と皮膚との間の空間に位置し、接触部110と送受信部130とを連結する連結部120は頭蓋骨を貫通して設置されてよい。
【0097】
また、集積回路200は、柔軟素子100の送受信部130に連結され、頭蓋骨と皮膚との間に設置されてよく、好ましくは、頭蓋骨表面に接触してよい。
【0098】
これに加えて、本発明は、脳信号測定及び刺激用構造体10を含み、外部の電波を集積回路200に伝達する無線通信機器をさらに含む脳信号測定及び刺激用モジュールを提供する。すなわち、上述したように、柔軟素子100及び集積回路200内のブルートゥース(登録商標)(Bluetooth(登録商標))又は無線通信網(Wi-FI)などの無線モジュールだけでも送受信可能であるが、BCC(Body Channel Communication)を用いたより安全な信号送受信のために無線通信機器がさらに用いられてもよい。
【0099】
具体的に、無線通信機器を介して受信した外部電波は、BCCアンテナを介して集積回路に伝達される。これにより、外部電波をそのまま取り込まず、BCCアンテナを介して脳に伝達する役割を担う。
【0100】
無線通信機器は、外部刺激を受信し、集積回路に伝達できるものであればいずれも可能であり、皮膚に密着する機器であってよい。例えば、手首、腰などに着用するスマート機器であってよい。
【0101】
無線通信機器は、ブルートゥース(登録商標)(Bluethooth(登録商標))、近距離無線網(Wi-Fi,ワイファイ)などを通じてコンピュータ、スマートフォンなどの外部端末機と通信して、測定された脳波信号を用いて様々な情報をユーザに提供でき、端末機から伝達された刺激を集積回路に伝達するようにしてよい。さらに、救急信号発生時に医療機関に情報を伝達できる機能も備えることができる。
【0102】
本発明は、注射器注入型脳信号測定及び刺激用構造体10を動物の脳に注入し、脳の信号を受信する脳信号測定方法に関する。動物は、ヒト以外のものであってよい。本発明は、柔軟素子100のうち、大脳皮質に接触する接触部110を介して脳信号を測定することができる。
【0103】
これに加えて、本発明は、構造体10を介して動物の脳信号を受信し、受信した情報を人体外部に提供する方法に関する。動物は、ヒト以外のものであってよい。例えば、本発明は、柔軟素子100で測定された脳信号を集積回路で受信し、これをユーザ端末機に送信するインターフェースをさらに含むことができる。
【0104】
このとき、前記増幅器によって増幅された後の信号を伝達することができる。
【0105】
端末機は、検出された脳信号を視覚的に提供できる装置であればいずれも使用可能であり、さらに、聴覚的に提供できる装置が結合されてもよい。一例として、スマートフォン、コンピュータなどのスクリーン(screen)を備えたその他の装置が用いられてもよく、特定の場合に、スピーカー(speaker)なとから情報を提供することもできる。
【0106】
本発明は、構造体10を動物の脳に注入して脳を刺激する方法も提供する。動物は、ヒト以外のものであってよい。上述したように、外部から刺激命令が伝達されると、電極又はアンテナを介して集積回路に伝達され、刺激を、本発明の柔軟素子を介して大脳皮質に提供することができる。
【0107】
例えば、次のような過程によって脳の刺激がなされてよい。柔軟素子によって測定された脳波から発作などの異常が感知されると、集積回路がこれを受信して外部に提供する。提供された情報に基づき、外部で刺激を加える必要があると判断されると、集積回路に伝達された後、集積回路内の刺激器(stimulator)などを用いて刺激を伝達して大脳皮質に伝達されるようにすることができる。又は、別個の無線通信機器に電波を伝達し、電極又はアンテナを介して集積回路に伝達された後、これを本発明の柔軟素子を用いて大脳皮質に伝達させることができる。このような過程によって脳波異常信号を除去することができる。
【0108】
本発明は、柔軟素子100を介して大脳皮質に刺激を提供することを目的とする。前記刺激は、次に制限されないが、電流刺激、電圧刺激、電場刺激、磁場刺激から選ばれる一つ以上であってよい。
【0109】
図8は、本発明の実施例に係る接触部の絶縁層のパターンを示す図であり、
図9は、本発明の実施例に係る接触部の下層支持基板のパターンを示す図であり、
図10は、本発明の実施例に係る柔軟素子の連結部を拡大して示す図であり、
図11は、本発明の実施例に係る柔軟素子において蛇状の構造の特性を説明するための図である。
【0110】
接触部110は、グラフェン(Graphene)を含むグラフェン電極層113を含む。グラフェンは、電子ノイズ(Electronic Noise)が低いので検出感度が非常に低く、電気的、機械的、熱的特性に非常に優れている。グラフェン電極層113は、エッチングされた絶縁層によって一部が露出される。
【0111】
接触部110は、蛇状(Serpentine)の構造を有するので、相当な機械的柔軟性を示し、直径の小さいガラスピペット(Glass Pipet)を通じて脳に注入しても性能の低下がないことを特徴とする。
【0112】
接触部110の構成を拡大して
図8に示す。接触部110は、
図8に示すように、最外側パッドと、その内部に蛇状の形状を有するポリマー層とで構成されてよい。
【0113】
接触部110の内部は、蛇状(Serpentine)の形状を有するので、機械的に柔軟性があり、非常に小さい領域の頭蓋骨開放によって注入することができる。内部のポリマー層は、下層支持基板111上に積層されたグラフェン電極層113に配線層114が連結されており、クロストーク(cross talk)の防止のために配線層114を絶縁層115が取り囲んでいる形態で構成されている。
【0114】
図8は、接触部110の上端ポリマー層である絶縁層115のパターンを具体的に示す図である。
【0115】
図9は、接触部110の下端ポリマー層である下層支持基板111のパターンを示す図である。このうち、上端ポリマー層のパターンを示している
図8は、グラフェン電極層113とこれと連結される配線層114の部分が開放されて外部と電気的に連結される部分が表現されており、それ以外の部分は
図9と同一である。
【0116】
また、接触部110の最外側パッドは、その上端にさらにグラフェン電極層113を有することができ、これは、大脳皮質と広い部分で接触して効果的に電気刺激を提供する用途に用いられてよい。
【0117】
接触部110において上端のポリマー層(絶縁層115)は、グラフェン電極部分が開放されなければならず、グラフェン電極層113にダメージを与え得るRIE(Reactive Ion Etching)などの乾式エッチング無しでパターンが可能な絶縁層である必要がある。
【0118】
したがって、フォトレジストの一種であるSU-8を主に使用する。上端SU-8層をフォト工程を用いてパターンし、下端レイヤの形状に合わせて蛇状の網構造を形成する。
【0119】
送受信部130は、頭蓋骨と皮膚との間の空間に配置され、測定された信号の受信及び刺激伝達のための集積回路200と連結されてよい。特に、頭蓋骨表面に接触して固定されてよい。集積回路200は、接触部110によって測定された大脳皮質部位の脳波などを受け取って外部に送信するか、外部の電気刺激などを受信して接触部110に提供することができる。
【0120】
連結は、柔軟素子100の送受信部130と集積回路200とが電気的、物理的に連結されることを意味する。例えば、送受信部130のチャネル(Channel)のような構成のそれぞれに、集積回路200の電線が連結されてよい。
【0121】
連結部120は、接触部110と送受信部130を両端に連結し、複数個の配線とポリマーが蛇状(Serpentine)の網(Mesh)構造を有するので、相当な機械的柔軟性を示し、直径の小さいガラスピペット(Glass Pipet)を通じて脳に注入しても性能の低下がなく、微細な頭蓋骨開放領域に沿って接触部110と送受信部130を連結することができる。
【0122】
連結部120は、配線層114を構成する金属材料上にポリマーをコーティングして架橋(cross-link)結合を形成させることによって蛇状の網構造を有することができる。
【0123】
一例示として、連結部120の構成を拡大して
図10に示した。連結部120は、各配線層114を下層支持基板111及び絶縁層115が取り囲んでいる。
【0124】
連結部120は、下層支持基板111(
図9)及び絶縁層115(
図8)のパターンが互いに異なる接触部110と違い、連結部120における下層支持基板111及び絶縁層115のパターンが同一である。
【0125】
送受信部130は、下層支持基板111上に配線層114を形成し、その上に絶縁層115を形成した後、絶縁層115において集積回路200に連結される配線層114の領域を開放する。
【0126】
図10に示すように、連結部120は、蛇状(Serpentine)の網構造によって、頭蓋骨を貫通して大脳皮質に接触する接触部110と頭蓋骨及び皮膚との間の空間に設置される送受信部130とを連結することができる。
【0127】
本発明において、蛇状の構造は、パターニング工程によって形成される。具体的には、下層支持基板111では、当該ポリマー層をコーティングし、高温で架橋結合させた後、ポリマー層上にフォトレジスト(Photoresist)を適用してフォトリソグラフィ(Photolithography)工程によってパターンを形成する。その後、RIE工程などによってパターンにしたがってエッチングし、蛇状の構造のパターンを形成することができる。
【0128】
フォトレジストは40xtを使用できるが、これに制限されず、RIEエッチングなどの工程によってパターンを形成した後に、アセトンなどを加えて除去(strip)することができる。
【0129】
本発明の柔軟素子100において蛇状の構造の角度、半径、幅が、柔軟素子100の限界強度を決定できる。
【0130】
本発明の柔軟素子100は、注射器注入によって大脳皮質から頭蓋骨を貫通する位置まで連結でき、そのためには、柔軟素子100のストレッチ性(stretchability)が50%以上でなければならない。
【0131】
このような性質を具現するためには、角度が100°以上であり、パターンの幅と円弧の半径との比(w/R)が0.3以下であるものが、柔軟素子100の限界強度を決定する側面で好ましい。具体的に、円弧は、蛇状の構造の繰り返されるパターンのうち、半周期に該当する2点によって限定された部分を意味する(
図11参照)。ここで、wはパターンの幅(width)であり、Rは、蛇状の構造内の円弧の半径(Radius)である。また、角度は、円弧の角度を意味する。
【0132】
また、気孔率(Porosity)は、柔軟素子100の曲げ剛性(Bending Stiffness)に影響を与えてインジェクション(Injection)の成功率に影響を及ぼす重要な要素である。
【0133】
本発明の柔軟素子100は、気孔率が25~60%であることが好ましい。
【0134】
以下、本発明を、実施例及び実験例を用いてより詳細に説明する。ただし、下記の実施例及び実験例は、単に本発明を具体的に例示するためのもので、本発明の権利範囲を制限するものではない。すなわち、本発明の単純な変形や変更は、本発明の属する通常の技術者によって容易に実施可能であり、それらの変形や変更はいずれも本発明の領域に含まれるといえる。
【0135】
<実施例1>
【0136】
Cu犠牲層を用いて、多層グラフェン電極を有する脳信号測定及び刺激用構造体を製造した。
【0137】
まず、25μm厚の銅ホイールに化学蒸着法(CVD;Chemical Vapor Deposition)を用いて単層グラフェンを成長させた。Cuのロール状のホイール(厚さ:25μm及びサイズ:210×297mm2,Alfa Aesar Co.)が石英チューブ内にローディングされ、その後、常圧下で1,000℃で加熱された。炭素ソースを含むガス混合物(CH4:H2=8:20sccm)を供給してグラフェンを前記Cuホイール上に成長させた後、ファーネス(furnace)を移動させながらH2を流して短時間で~10℃/sの速度で室温に冷却させ、前記Cuホイール上に成長されたグラフェン層を得た。
【0138】
多層グラフェン電極を作るために、PMMA(Polymethyl Methacrylate)をグラフェン支持層として使用した。Cuフィルム上でグラフェン合成後に、支持層であるPMMAをスピンコーティングした後、前記銅触媒を溶解させるために約0.1Mの(NH4)2S2O8溶液上に前記フィルムを浮遊させた(Floating)。前記銅を除去した後に、他のグラフェン成長されたCuホイールを用いて前記PMMA/Gフィルムを持ち上げた。前記エッチング及び転写方法を反復して多層膜を形成した。過硫酸アンモニウム水溶液を用いてCuホイールをエッチングして得たPMMAコーティングされたグラフェンは、Cuホイール上にある他のグラフェン上に移された。その後、前記グラフェンをSU-8エポキシ基板に移した。伝達されたグラフェンは、フォトリソグラフィ(photolithography)及び酸素プラズマエッチング(oxygen plasma etching)を用いてパターン化した。硝酸(Nitric acid)はグラフェンの化学ドーピングに使用された。
【0139】
<実験例1:引張変形による抵抗変化測定>
【0140】
前記実施例で製造した素子の引張変形による抵抗変化を測定し、その結果を
図11に示した。Rは、引張時に測定した抵抗を表し、R0は、引張前の初期抵抗を表す。
図12を参照すると、変形率50%までは抵抗変化が0.5%未満であることが分かる。したがって、引張変形による抵抗増加が非常に低いので、注入時に発生する変形に耐え得る柔軟素子100として使用するに適合することが分かる。
【0141】
図13は、本発明の他の実施例に係る柔軟素子の製造方法を示す図であり、
図14は、本発明の他の実施例に係る柔軟素子の各層の厚さと直径を示す図である。
【0142】
本発明の他の実施例に係る柔軟素子100は、接触部110、連結部120及び送受信部130を含む。本発明の他の実施例の柔軟素子100は、
図1及び
図2と形態が異なる以外は、同じ構成要素であるので、詳細な説明を省略し、図面番号も同一に記載する。
【0143】
本発明の他の実施例の柔軟素子100の製造方法は、第1犠牲層形成工程(S100)、第1レイヤ形成工程(S101)、第2犠牲層形成工程(S102)、第2犠牲層開放工程(S103)、第2レイヤ形成工程(S104)、第2犠牲層除去工程(S105)及び第1犠牲層除去工程(S106)を含む。
【0144】
第1犠牲層形成工程(S100)は、熱蒸着(Thermal Evaporation)、スパッタリング(Sputtering)などの蒸着工程を用いてSiOウエハー(Wafer)又は銅基板140上に第1犠牲層(Sacrificial Layer)150を形成する。
【0145】
第1犠牲層150は、Al2O3又はSiO2などの物質で湿式エッチングが可能なオキシド類を使用し、500nm以上の厚さで形成する。
【0146】
第1レイヤ形成工程(S101)は、第1犠牲層150の上に、ポリイミド(Polyimide)からなる接触部110を1~10μmの厚さで形成し、フォトリソグラフィ(Photolithography)工程でパターンを形成し、乾式エッチングで接触部110の形状を形成する。
【0147】
第2犠牲層形成工程(S102)は、ALD(Atomic Layer Deposition)、熱蒸着(Thermal Evaporation)、スパッタリング(Sputtering)などの蒸着工程を用いて、接触部110の上に第2犠牲層(Sacrificial Layer)151を蒸着する。
【0148】
第2犠牲層151は、Ni又はAlなどのメタル類の物質を使用し、500nm以上の厚さで形成する。
【0149】
第2犠牲層開放工程(S103)は、第2犠牲層151の上にフォトリソグラフィ工程でパターンを形成し、HNO3、FeCl3などの腐食液(Etchant)によって湿式エッチングして、接触部110と連結部120とが連結される部分を開放する。開放された部分は、直径100~500μmに形成する。
【0150】
第2レイヤ形成工程(S104)は、ポリイミド(Polyimide)からなる連結部120と送受信部130を形成し、フォトリソグラフィ(Photolithography)工程でパターンを形成し、乾式エッチングで連結部120と送受信部130の形状を形成する。
【0151】
これによって、連結部120の一部領域と接触部110の一部領域とを連結させる。
【0152】
図14に示すように、犠牲層150の厚さを除く第2レイヤ120,130の厚さは、3~10μmに形成できる。
【0153】
第2犠牲層除去工程(S105)は、第2犠牲層151を、硝酸、FeCl3などの酸化力がある腐食液(Etchant)によって湿式エッチングして連結部120と送受信部130の形状を残し、第2犠牲層151を除去する。
【0154】
第1犠牲層除去工程(S106)は、第1犠牲層150をHFなどの腐食液(Etchant)によって湿式エッチングして除去して基板140から分離する。
【0155】
第2犠牲層151を除去する時に用いられる腐食液は、オキシド類の第1犠牲層150に影響を与えない物質を使用する。
【0156】
図15は、本発明の他の実施例に係る柔軟素子の接触部構成を示す図であり、
図16は、本発明の他の実施例に係る柔軟素子の連結部と送受信部の構成を示す図であり、
図17は、本発明の他の実施例に係る柔軟素子の側面と柔軟素子の平面視の連結関係を示す図であり、
図18は、本発明の他の実施例に係る連結部の螺旋状の形態を示す図である。
【0157】
図15に示すように、接触部110は、圧力がよくかかるように中央部を面状に構成し、柔軟素子100を注射器13で注入する際に注射器の孔を塞がないように中央部のサイズを適切に調節する。
【0158】
接触部110は、中央部の面状の構造にチップ(Chip)を乗せて電極と連結することも可能である。
【0159】
図16及び
図17に示すように、連結部120は、接触部110の一部領域に連結される結合領域121を末端に形成し、第1レイヤである接触部110の二次元的形状への影響を最小化し、連結部120の3次元構造に転換しやくなるように全体的に螺旋形の蛇状に製作されることが好ましい。
【0160】
連結部120は、蛇状に複数個形成し、複数個の連結部120は全体的に螺旋形をなす。それぞれの連結部120は、末端の円形の結合領域121が接触部110の縁部分に連結される。
【0161】
犠牲層除去工程(S105)で犠牲層150を除去すると、接触部110の縁部分には連結部120の結合領域121だけが連結された状態となる。
【0162】
図18に示すように、柔軟素子100は、送受信部130を持ち上げると、連結部120は接触部110と送受信部130との間で螺旋状に形成され、3次元構造となる。
【0163】
図19は、本発明の他の実施例に係る柔軟素子を内装している注射器の様子を示す図であり、
図20は、本発明の他の実施例に係る柔軟素子の構造概念を示す図である。
【0164】
柔軟素子100を注射器13を通じて脳に注入する時に、注入過程で圧力が適切に柔軟素子100にかからないか、不所望の領域にかかってしまい、柔軟素子100が頭蓋骨内でよく折れる問題が発生することもある。
【0165】
したがって、柔軟素子100に液体の流れから印加される力が適切に加えられ得るように柔軟素子100の形態を具現する必要がある。
【0166】
注射器13の注入原理は、脳脊髓液という流体の圧力と流れを用いて柔軟素子100を注入する。柔軟素子100が2次元形状であれば脳に注入後に折れる確率が高いため、圧力が好適な位置及び形状に加えられて注入後に容易に広がるように面状の部分を含む接触部110と、頭蓋骨外部の送受信部130を連結部120が連結するように3次元構造の形状に製造する(
図17)。このような3次元構造に製造するための方法は
図13に説明した。
【0167】
柔軟素子100は、注射器13によって脳に注入されて頭蓋骨内部で広がる時に、落下傘が広がる構造を考えてよい。
【0168】
柔軟素子100と共に注入される脳脊髓液(流体)の圧力によって大脳皮質に付着する接触部110は落下傘の布と同一であり、落下傘の布と人とを連結する紐が柔軟素子100の連結部120と同一であり、落下傘に乗った人が柔軟素子100の送受信部130と同一である、と考えられてよい。
【0169】
接触部110は、脳脊髓液(流体)の圧力を最も多く受ける面であり、脳脊髓液の流れによって広がる面である。
【0170】
柔軟素子100の入っている注射器13に圧力をかけて柔軟素子100を脳に注入する際に、接触部110は、注射器13に含まれた脳脊髓液(流体)の圧力を最も多く受ける面であり、脳脊髓液(流体)の流れによって広がる。
【0171】
以上、本発明の実施例について詳しく説明したが、本発明の権利範囲はそれに限定されず、添付する特許請求の範囲で定義している本発明の基本概念を用いた当業者の様々な変形及び改良の形態も、本発明の権利範囲に属するものである。
【産業上の利用可能性】
【0172】
本発明は、脳への挿入時に頭蓋骨の開放を最小化できる高性能の柔軟素子を含む構造体を用いるので、脳挿入型医療機器に適用可能である。