(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-18
(45)【発行日】2024-06-26
(54)【発明の名称】ホース加締金具の製造方法
(51)【国際特許分類】
F16L 33/207 20060101AFI20240619BHJP
F16L 58/00 20060101ALI20240619BHJP
B21D 39/04 20060101ALI20240619BHJP
【FI】
F16L33/207
F16L58/00
B21D39/04 C
B21D39/04 B
(21)【出願番号】P 2019229085
(22)【出願日】2019-12-19
【審査請求日】2022-11-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000006714
【氏名又は名称】横浜ゴム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001368
【氏名又は名称】清流国際弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100129252
【氏名又は名称】昼間 孝良
(74)【代理人】
【識別番号】100155033
【氏名又は名称】境澤 正夫
(72)【発明者】
【氏名】梶 聡
【審査官】広瀬 雅治
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2018/0347737(US,A1)
【文献】特開昭62-255689(JP,A)
【文献】特開2000-257762(JP,A)
【文献】特開平01-145487(JP,A)
【文献】特開平01-247892(JP,A)
【文献】国際公開第94/019641(WO,A1)
【文献】米国特許第05333913(US,A)
【文献】特開2007-024141(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2008/0197624(US,A1)
【文献】特開2014-001747(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16L 33/207
F16L 58/00
B21D 39/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
筒状の金属製のニップルの外周側に筒状の金属製のソケットを配置して、前記ニップルの係合部と前記ソケットの係合部とを接触させて互いを係合させ、接触するそれぞれの前記係合部の境界に水分または塩分が残留する環境下で使用されるホース加締金具の製造方法において、
前記ニップルと前記ソケットのそれぞれの前記係合部に使用される金属材質どうしの標準電極電位の大小関係を、前記金属材質どうしを接触させた状態で電解質中に配置して腐食状況を観察する試験を行って予め把握しておき、前記ニップルの前記係合部には前記ソケットの前記係合部に使用される金属材質よりも標準電極電位が大きい金属材質を使用することを特徴とするホース加締金具の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ホース加締金具の製造方法に関し、さらに詳しくは、ニップルの腐食を一段と抑制してホース加締金具の耐用期間を長くすることができるホース加締金具の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ゴムホースの端部に取り付けられるホース加締金具は、ニップルとソケットとで構成されている。一般的なホース加締金具では、ソケットの一端部はニップルに接触して係合し、ニップルに外挿されたホース端部はソケットが加締められることにより、ニップルとソケットの間に挟まれる。これにより、ニップルとソケットとの間にホース端部を固定する(例えば、特許文献1、2参照)。
【0003】
ニップルとソケットとが異種金属で形成されていると、ニップルとソケットとが係合している構造では、電位(標準電極電位)の異なる異種金属どうしが接触した状態になる。異種金属が電解質中で接触すると、一方の金属がアノードとなって腐食が促進され、他方の金属はカソードとなって腐食が抑制される。そのため、ホース加締金具での腐食発生を防止するために、通常、ニップルとソケットとは同種の金属材料で形成されている。
【0004】
ホース加締金具が取り付けられたホースは、屋内外の様々な環境下で使用される。例えば、雨水などの水分や海水などの塩分がホース加締金具に付着する使用環境下では、ソケットとニップルとが接触して係合している係合部に、水分や塩分が溜まり易くなる。これに起因して、ニップルとソケットとが同種の金属材料で形成されていても、この係合部には腐食が発生し易くなる。ホース加締金具ではニップルは、より耐圧強度が供給される部品なので、この係合部でニップルに腐食が生じて腐食が進行するとホース加締金具は使用できなくなる。それ故、ニップルの腐食を抑制してホース加締金具の耐用期間を長くするには改善の余地がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2005-140200号公報
【文献】特開2015-113894号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、ニップルの腐食を一段と抑制してホース加締金具の耐用期間を長くすることができるホース加締金具の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため本発明のホース加締金具の製造方法は、筒状の金属製のニップルの外周側に筒状の金属製のソケットを配置して、前記ニップルの係合部と前記ソケットの係合部とを接触させて互いを係合させ、接触するそれぞれの前記係合部の境界に水分または塩分が残留する環境下で使用されるホース加締金具の製造方法において、前記ニップルと前記ソケットのそれぞれの前記係合部に使用される金属材質どうしの標準電極電位の大小関係を、前記金属材質どうしを接触させた状態で電解質中に配置して腐食状況を観察する試験を行って予め把握しておき、前記ニップルの前記係合部には前記ソケットの前記係合部に使用される金属材質よりも標準電極電位が大きい金属材質を使用することを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、前記ニップルと前記ソケットのそれぞれの前記係合部に使用される金属材質どうしの標準電極電位の大小関係を予め把握しておくことで、前記ニップルの前記係合部には前記ソケットの前記係合部に使用される金属材質よりも標準電極電位が大きい金属材質が確実に使用される。前記ニップルと前記ソケットの係合部どうしが接触して互いを係合するホース加締金具なので、ホース加締金具では相対的に標準電極電位が低い前記ソケットの前記係合部が腐食し易くなる。即ち、前記ソケットの前記係合部を犠牲にして腐食を促進せることで、耐圧強度が最も要求される前記ニップルの腐食を一段と抑制することができる。これに伴い、ホース加締金具の耐用期間を長くするには有利になる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明
により製造されたホース加締金具を上半分を断面で例示する側面図である。
【
図3】
図1の係合する互いの係合部を拡大して模式的に例示する断面図である。
【
図4】
図1のホース加締金具にホース端部が固定されている状態を上半分を断面で例示する側面図である。
【
図5】ソケットの係合部の腐食状態を拡大して模式的に例示する断面図である。
【
図6】互いのメッキ層が剥がれた状態で係合している係合部を拡大して模式的に例示する断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明のホース加締金具の製造方法を、図に示した実施形態に基づいて説明する。
【0012】
図1~
図2に例示する
ホース加締金具1(以下、加締金具1という)は、筒状の金属製のニップル2と、ニップル2の外周側に設置される筒状の金属製のソケット4とを有している。この加締金具1には後述するように、ゴムホースや樹脂ホースなどのホース端部8aが固定される。図中の一点鎖線CLは、ニップル2およびソケット4の筒軸心を示している。
【0013】
ニップル2の筒軸方向の中途の位置の外表面には、凹状に窪んだ環状の係合部3が形成されている。ニップル2の係合部3よりも筒軸方向一方側(
図1では右側)の表面には、ホース端部8aの抜けを防止するための凹凸が形成されている。
【0014】
ソケット4の筒軸方向他方側端部(
図1では左側端部)には、環状の係合部5が形成されている。ソケット4の内周側には筒軸方向一方側の開口からホース端部8aが挿入されて配置される。ソケット4のホース端部8aが配置される範囲は、ホース固定加締部6になる。
【0015】
互いの係合部3、5は接触して係合していて、両者の係合によってソケット4がニップル2に固定されている。この実施形態では、ニップル2の周壁の肉厚がソケット4の係合部5の肉厚よりも薄くなっている。
図3に例示するように、この実施形態では、ニップル2はメッキ処理されていて表面がメッキ層2aによって被覆されている。ソケット4はメッキ処理が施されていない。したがって、メッキ層2aに係合部5の表面が接触している。尚、ソケット4の表面がメッキ層によって被覆されている仕様にすることもできる。
【0016】
図4に例示するように加締金具1には、様々なホース8のホース端部8aが固定される。ホース8には適宜、補強層9が埋設される。ニップル2の外周面とソケット4の内周面との間に挿入されたホース端部8aが、ニップル2とソケット4とによって挟持されている。ソケット4を外周側から加締めることでソケット4の内周面に形成された係止突起7が、ホース端部8aの外周面から内周側に向かって食い込むことでホース端部8aと加締金具1とが強固に固定されている。互いの係合部3、5が係合することで、ソケット4(ホース8)が筒軸方向に外れる不具合を防止することが期待できるが、実質的には、ソケット4が加締められてホース端部8aおよびニップル2と一体化していることで、ソケット4(ホース8)が筒軸方向に外れることが防止される。
【0017】
本発明は、それぞれの係合部3、5に使用される材質に工夫をしている。即ち、それぞれの係合部3、5に使用される金属材質どうしの標準電極電位の大小関係が予め把握されている。そして、ニップル2の係合部3には、ソケット4の係合部5に使用される材質よりも標準電極電位が大きい金属材質が使用されている。換言すると、異種金属接触腐食の際にアノードになる金属材質がソケット4(係合部5)に使用され、カソードになる金属材質がニップル2(係合部3)に使用されている。このようにして、あえて異種金属接合腐食が発生し易くしている。
【0018】
標準電極電位は、異種金属接触腐食が生じる際のそれぞれの金属材質の腐食し易さ(腐食し難さ)の指標となる。両者の電位差が大きい程、相対的に電位が小さい金属材質の腐食が促進され、相対的に電位が大きい金属材質の腐食が抑制される。したがって、ニップル2の係合部3に使用される金属材質とソケット4の係合部5に使用される金属材質との標準電極電位の差を0.01V以上にして、この電位差はできるだけ大きくするとよい。
【0019】
ニップル2の素地の金属材質は例えば炭素鋼、ステンレス鋼などである。ソケット4の素地の金属材質は例えばアルミニウム、アルミニウム合金などである。ニップル2、ソケット4はそれぞれ、全体素地が単一の材質が形成されるので、これらの材質がそれぞれの係合部3、5での素地の金属材質になる。メッキ層2aの金属材質としては例えば、ニッケル、亜鉛、クロム、錫、銀、これらのいずれかを含む合金などである。
【0020】
この実施形態では、それぞれの係合部3、5は、メッキ層2aと表面がメッキ処理されていない係合部5とが接触しているので、メッキ層2aの金属材質とソケット4の素地の金属材質どうしの標準電極電位の大小関係が予め把握されている。そして、メッキ層2aには、係合部5の素地の金属材質よりも標準電極電位が大きい金属材質が使用されている。
【0021】
次に、この加締金具1を製造する手順の一例を説明する。
【0022】
まず、ニップル2とソケット4のそれぞれの係合部3、5に使用される金属材質どうしの標準電極電位の大小関係を予め把握しておく。これらの金属材質が各種合金などの場合は、標準電極電位の大小関係が明確ではないので、互いの金属材質を接触させた状態で電解質中に配置して腐食状況を観察する試験(いわゆる塩水噴霧試験など)を行って、この大小関係を把握する。そして、この把握した結果に基づいて、ニップル2の係合部3にはソケット4の係合部5に使用される金属材質よりも標準電極電位が大きい金属材質を使用する。
【0023】
そして、
図1に例示するように、ソケット4にニップル2を挿入してニップル2の外周側にソケット4を配置する。そして、係合部3と係合部5とを接触させて互いを係合させる。
【0024】
次いで、
図4に例示するように、ホース端部8aをニップル2の外周面とソケット4の内周面との間に挿入してニップル2に外嵌した状態で、加締具を使用してホース固定加締部6の外周面を押圧してソケット4を筒軸心CLに向かって加締める。これにより、ホース端部8はニップル2とソケット4とによって挟まれて加締金具1に固定される。
【0025】
加締金具1がホース端部8aに取り付けられたホース8は、水分や塩分などが付着する環境下で使用されることがある。このような環境下では、係合部3と係合部5との境界などに水分や塩分などが残留し易くなる。係合部3、5に使用される材質は上述したように決定されているので、
図5の二点鎖線で例示する範囲Bのように、相対的に標準電極電位が低いソケット4の係合部5で腐食が発生する。一方、相対的に標準電極電位が高いニップル2の係合部3での腐食は抑制される。
【0026】
本発明はこのようにして、ソケット4の係合部5をあえて犠牲にして腐食を促進させ、ニップル2の係合部3の腐食を抑制する。ソケット4の係合部5は腐食しても実用上、実質的な支障が生じない。一方、ニップル2はより加締金具1の中で最も耐圧性が要求される重要部品なので、本発明によれば、ニップル2を長期に渡って腐食させずに健全な状態に維持するには有利になる。これに伴い、加締金具1を支障無く使用できる耐用期間を長くすることが可能になる。
【0027】
図6に例示するように、ホース端部8aを加締金具1に固定した時または固定した後に、係合部3では何らかの原因でメッキ層2aの一部が剥がれることがあり、或いは、係合部3がメッキ層2aを有していない(それぞれの係合部3、5がメッキ層により被覆されていない)場合もある。このような場合は、それぞれの係合部3、5の素地の金属材質どうしが接触する。そこで、係合部3、5の接触する素地の金属材質どうしの標準電極電位の大小関係を予め把握しておくこともできる。そして、ニップル2の係合部3の素地には、ソケット4の係合部5の素地に使用される金属材質よりも標準電極電位が大きい金属材質を使用する。これにより、上述した実施形態と同様に、ソケット4の係合部5の腐食が促進され、ニップル2の係合部3の腐食が抑制される。そのため、加締金具1を支障無く使用できる耐用期間を長くすることが可能になる。
【0028】
或いは、標準電極電位が予め把握されるそれぞれの係合部3、5に使用される材質を、それぞれの係合部3、5の素地の金属材質にして、さらに、係合部3、5の表面がメッキ層で被覆されている場合は、そのメッキ層の金属材質にすることもできる。そして、係合部3の素地の金属材質には係合部5の素地の金属材質よりも標準電極電位が高いものを使用し、かつ、メッキ層2aの金属材質には係合部5の表面を被覆するメッキ層の金属材質よりも標準電極電位が高いものを使用する。このように係合部3、5の素地の金属材質、メッキ層の金属材質を決定すると、ニップル2の腐食を抑制するには益々有利になる。
【実施例】
【0029】
ニップルおよびソケットを表1に示す金属材質にして、
図4に例示するような加締金具にホース端部を固定した3種類の試験サンプル(サンプル1、2、3)を作製した。サンプル1ではニップルのみに表面にメッキ処理をし、サンプル2、3ではニップルおよびソケットの表面にメッキ処理をしている。それぞれの試験サンプルに対してJIS Z 2371(塩水噴霧試験方法)に規定されている中性塩水噴霧試験(neutral salt spray test)を実施して、試験時間1000hr後のニップルおよびソケットの腐食状態を確認した。その結果は表1に示す。
【0030】
【0031】
サンプル1では、ニップルの素地の金属材質はソケットの素地の金属材質よりも標準電極電位が大きく、かつ、ニップルの素地の金属材質はソケットの表面のメッキ層の金属材質よりも標準電極電位が大きい。
サンプル2、3では、ニップルの素地の金属材質とソケットの素地の金属材質とは標準電極電位が同じで、かつ、ニップルの表面のメッキ層の金属材質とソケットの表面のメッキ層の金属材質とは標準電極電位が同じになっている。
【0032】
表1の結果から、サンプル1はニップルの腐食を抑制するには優れた効果を有していることが分かる。
【符号の説明】
【0033】
1 ホース加締金具
2 ニップル
2a メッキ層
3 係合部
4 ソケット
5 係合部
6 ホース固定加締部
7 係止突起
8 ホース
8a ホース端部
9 補強層