(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-18
(45)【発行日】2024-06-26
(54)【発明の名称】防曇塗料用樹脂及び防曇塗料組成物
(51)【国際特許分類】
C09D 133/04 20060101AFI20240619BHJP
C09D 125/02 20060101ALI20240619BHJP
C09D 133/26 20060101ALI20240619BHJP
C09K 3/00 20060101ALI20240619BHJP
C08F 220/12 20060101ALI20240619BHJP
C08F 212/06 20060101ALI20240619BHJP
C08F 220/56 20060101ALI20240619BHJP
C08F 220/58 20060101ALI20240619BHJP
【FI】
C09D133/04
C09D125/02
C09D133/26
C09K3/00 R
C08F220/12
C08F212/06
C08F220/56
C08F220/58
(21)【出願番号】P 2020089087
(22)【出願日】2020-05-21
【審査請求日】2023-03-30
(73)【特許権者】
【識別番号】000224123
【氏名又は名称】藤倉化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100126882
【氏名又は名称】五十嵐 光永
(74)【代理人】
【識別番号】100160093
【氏名又は名称】小室 敏雄
(74)【代理人】
【識別番号】100169764
【氏名又は名称】清水 雄一郎
(72)【発明者】
【氏名】高橋 芳夫
【審査官】水野 明梨
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-027134(JP,A)
【文献】特開2019-026669(JP,A)
【文献】特開2011-140589(JP,A)
【文献】特開2017-008217(JP,A)
【文献】特開平03-269072(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 1/00-10/00
C09D 101/00-201/10
C08F 6/00-246/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(メタ)アクリル酸エステル単量体及び芳香族ビニル単量体からなる群から選ばれる少なくとも一種の重合性単量体(a)と、水酸基及びアルコキシル基を有さないアクリルアミド単量体(b)と、水酸基及びアルコキシル基のいずれか一方又は両方を有するアクリルアミド単量体(c)と、重合性二重結合を有する界面活性剤(d)とを含む重合性単量体混合物であって、前記重合性単量体混合物の総質量に対する前記重合性単量体(a)の比率が53~68質量%、前記アクリルアミド単量体(b)の比率が20~32質量%、前記アクリルアミド単量体(c)の比率が7~
14.6質量%
、前記界面活性剤(d)の比率が0.1~0.4質量%である重合性単量体混合物がリビングラジカル重合された防曇塗料用樹脂。
【請求項2】
請求項
1に記載の防曇塗料用樹脂を含む、防曇塗料組成物。
【請求項3】
酸触媒をさらに含む、請求項2に記載の防曇塗料組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、防曇塗料用樹脂及び防曇塗料組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車のヘッドランプ等の車両灯具においては、灯室内に高湿度の空気が入り込み、外気や降雨等によってレンズが冷やされ、内面に水分が結露して曇ることがある。特にレンズ素材としてポリカーボネート樹脂等の透明樹脂が用いられている場合、表面の疎水性の高さから曇りやすい。レンズが曇ると、車両灯の輝度が低下し、美観も損なわれる。
【0003】
レンズ等の曇りを防止する方法として、防曇塗料を塗装する方法がある。しかし、従来の防曇塗料は、形成された塗膜の膜面上で一旦水分が水滴として凝結し流れ落ちると、乾燥後の塗膜に筋状の跡(以下、水垂れ跡という。)が残ることがあった。
かかる問題に対し、特許文献1には、水酸基及びアルコキシル基を有さないアクリルアミド単量体と、水酸基及びアルコキシル基のいずれか一方又は両方を有するアクリルアミド単量体とを含む重合成単量体混合物をリビングラジカル重合した防曇塗料用樹脂が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1の防曇塗料用樹脂を用いて形成される塗膜は、基材への付着性、防曇性、耐湿性及び耐水垂れ跡性のバランスが良くない問題がある。
この問題は、塗装時の乾燥温度が低い場合に顕著である。一般にヘッドランプレンズ等にはポリカーボネート樹脂が使用され、テールランプやフォグランプ用レンズにはポリメタクリル樹脂が使用されることが多い。基材がポリメタクリル樹脂である場合、ポリカーボネート樹脂に比べて耐熱温度が低いため、塗装時の乾燥温度も低く設定する必要がある。しかし、乾燥温度が低くなると、塗膜の樹脂成分の架橋が強固なものではなくなり、耐湿性が悪化する。
【0006】
本発明は、塗装時の乾燥温度が低くても、付着性、防曇性、耐湿性及び耐水垂れ跡性のバランスに優れた塗膜を形成できる防曇塗料用樹脂及び防曇塗料組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、以下の態様を有する。
〔1〕(メタ)アクリル酸エステル単量体及び芳香族ビニル単量体からなる群から選ばれる少なくとも一種の重合性単量体(a)と、水酸基及びアルコキシル基を有さないアクリルアミド単量体(b)と、水酸基及びアルコキシル基のいずれか一方又は両方を有するアクリルアミド単量体(c)と、重合性二重結合を有する界面活性剤(d)とを含む重合性単量体混合物であって、前記重合性単量体混合物の総質量に対する前記重合性単量体(a)の比率が53~68質量%、前記アクリルアミド単量体(b)の比率が20~32質量%、前記アクリルアミド単量体(c)の比率が7~22質量%である重合性単量体混合物がリビングラジカル重合された防曇塗料用樹脂。
〔2〕前記重合性単量体混合物の総質量に対する前記界面活性剤(d)の比率が0.1~1.0質量%である、前記〔1〕の防曇塗料用樹脂。
〔3〕前記〔1〕又は〔2〕の防曇塗料用樹脂を含む防曇塗料組成物。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、塗装時の乾燥温度が低くても、付着性、防曇性、耐湿性及び耐水垂れ跡性のバランスに優れた塗膜を形成できる防曇塗料用樹脂及び防曇塗料組成物を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
〔防曇塗料用樹脂〕
本発明の防曇塗料用樹脂は、特定の重合性単量体混合物がリビングラジカル重合されたものである。
重合性単量体混合物は、(メタ)アクリル酸エステル単量体及び芳香族ビニル単量体からなる群から選ばれる少なくとも一種の重合性単量体(a)(以下、「単量体(a)」とも記す。)と、水酸基及びアルコキシル基を有さないアクリルアミド単量体(b)(以下、「単量体(b)」とも記す。)と、水酸基及びアルコキシル基のいずれか一方又は両方を有するアクリルアミド単量体(c)(以下、「単量体(c)」とも記す。)と、重合性二重結合を有する界面活性剤(d)(以下、「単量体(d)」とも記す。)とを含む。
重合性単量体混合物は、本発明の効果を損なわない範囲で、単量体(a)~(d)以外の他の重合性単量体をさらに含んでいてもよい。
本発明において「(メタ)アクリル酸エステル」はアクリル酸エステル又はメタクリル酸エステルを示す。
【0010】
<単量体(a)>
単量体(a)は、防曇塗料用樹脂に疎水性を付与する。これにより、塗装時の乾燥温度が低くても耐湿性に優れた塗膜が得られる。
【0011】
(メタ)アクリル酸エステル単量体としては、例えば、エステル部分に炭化水素基を有する(メタ)アクリル酸エステルが挙げられる。炭化水素基としては、アルキル基、シクロアルキル基等が挙げられる。シクロアルキル基はアルキル基等の置換基を有していてもよい。
(メタ)アクリル酸エステル単量体としては、塗膜の耐湿性の点から、エステル部分に炭素数1~6の炭化水素基を有する(メタ)アクリル酸エステルが好ましい。
【0012】
(メタ)アクリル酸エステル単量体の例としては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、i-ブチル(メタ)アクリレート、t-ブチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート等のアルキル(メタ)アクリレート;シクロヘキシル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート等のシクロアルキル(メタ)アクリレートが挙げられる。これらの中でも、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、i-ブチル(メタ)アクリレート、t-ブチル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレートが好ましい。
【0013】
芳香族ビニル単量体としては、例えば、スチレン、メチルスチレン、ジメチルスチレン、エチルスチレン、α-メチルスチレン、α-エチルスチレン等が挙げられ、スチレンが好ましい。
これらの単量体(a)は1種を単独で用いてもよく2種以上を併用してもよい。
【0014】
<単量体(b)>
単量体(b)は、防曇塗料用樹脂に親水性を付与する。これにより、形成される塗膜が防曇性を示す。
単量体(b)としては、例えば、下記式(b1)で表される単量体が挙げられる。
CH2=CH-CO-NR1R2 ・・・(b1)
ここで、R1及びR2はそれぞれ独立に水素原子又はアルキル基であるか、又はR1とR2とが結合してNとともに環式基を形成している。
アルキル基の炭素数は、防曇性の点から、1~6が好ましく、1~4がより好ましい。環式基としては、例えばモルホリノ基、ピロリジノ等が挙げられる。
【0015】
単量体(b)の例としては、アクリルアミド、ジメチルアクリルアミド、イソプロピルアクリルアミド、ジエチルアクリルアミド、アクリロイルモルホリン、N-ドデシルアクリルアミド等が挙げられる。
これらの単量体(b)は1種を単独で用いてもよく2種以上を併用してもよい。
【0016】
<単量体(c)>
単量体(c)は、防曇塗料用樹脂に架橋点を導入するための架橋性単量体である。塗膜中で水酸基(アルコキシ基の加水分解によって生成した水酸基であってもよい。)同士の縮合反応によって防曇塗料用樹脂が架橋することで、塗膜に疎水性が付与され、耐湿性が高まる。また、架橋性官能基がアルコキシ基又は水酸基であることで、架橋構造によって付与される疎水性が過度なものにならず、防曇性が損なわれにくい。
アルコキシ基としては、炭素数1~4のアルコキシ基が好ましく、例えばメトキシ基、エトキシ基、n-プロポキシ基、n-ブトキシ基、i-ブトキシ等が挙げられる。
【0017】
単量体(c)としては、例えば、下記式(c1)で表される単量体が挙げられる。
CH2=CH-CO-NR3R4 ・・・(c1)
ここで、R3はアルコキシアルキル基又はヒドロキシアルキル基であり、R4は水素原子又はアルキル基である。
アルコキシアルキル基及びヒドロキシアルキル基それぞれにおけるアルキル基の炭素数は、例えば1~4である。
R4のアルキル基の炭素数は、例えば1~12である。
【0018】
単量体(c)の例としては、N-(メトキシメチル)アクリルアミド、N-(ヒドロキシメチル)アクリルアミド、N-(2-ヒドロキシエチル)アクリルアミド、N-(エトキシメチル)アクリルアミド、N-(ブトキシメチル)アクリルアミド、N-(イソブトキシメチル)アクリルアミド等が挙げられる。
これらの単量体(c)は1種を単独で用いてもよく2種以上を併用してもよい。
【0019】
<単量体(d)>
単量体(d)は、塗膜の防曇性の向上に寄与する。また、単量体(d)は共重合により樹脂中に取り込まれるため、塗膜の膜面を水分が流れ落ちたときに、水分とともに流出しにくい。そのため、防曇性が損なわれにくく、また水垂れ跡が残りにくい。
【0020】
単量体(d)は、典型的には、重合性二重結合のほか、親水基及び親油基を有する。
親水基としては、例えばアニオン性官能基(スルホ基、カルボキシル基、リン酸基及びそれらの塩等)、カチオン性官能基(四級アンモニウム基及びその塩等)、ポリ(オキシエチレン)基が挙げられる。
親油基としては、例えば、炭化水素基が挙げられる。炭化水素基としては、例えばアルキル基、アリール基等の1価炭化水素基、アルキレン基、アリーレン基等の2価炭化水素基が挙げられる。
【0021】
単量体(d)の例としては、2-ソジウムスルホエチルメタクリレート、スチレンスルホン酸ナトリウム、メタクリル酸ジメチルアミノエチルメチルクロライド塩、メトキシポリエチレングリコールメタクリレート、ポリエチレングリコールモノメタクリレート等が挙げられる。
これらの単量体(d)は1種を単独で用いてもよく2種以上を併用してもよい。
【0022】
<他の重合性単量体>
他の重合性単量体としては、単量体(a)~(d)と共重合可能なものであればよく、例えば水酸基を有する(メタ)アクリル酸エステル(ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート等)が挙げられる。
【0023】
<各単量体の比率>
重合性単量体混合物の総質量に対する単量体(a)の比率は、53~68質量%であり、55~66質量%が好ましい。単量体(a)の比率が53質量%以上であれば、塗膜の耐湿性に優れ、68質量%以下であれば、塗膜の防曇性に優れる。
【0024】
重合性単量体混合物の総質量に対する単量体(b)の比率は、20~32質量%であり、25~30質量%が好ましい。単量体(a)の比率が20質量%以上であれば、塗膜の防曇性に優れ、32質量%以下であれば、塗膜の耐湿性が優れ、耐湿性試験後の塗膜の外観が良好である。
【0025】
重合性単量体混合物の総質量に対する単量体(c)の比率は、7~22質量%であり、12.5~22質量%が好ましい。単量体(c)の比率が7質量%以上であれば、塗膜の耐湿性に優れ、耐湿性試験後の塗膜の外観が良好であり、22質量%以下であれば、塗膜の防曇性、基材、特にポリメタクリル樹脂に対する付着性に優れる。
【0026】
重合性単量体混合物の総質量に対する単量体(d)の比率は、単量体(a)~(d)各々の比率の合計が100質量%以下となる範囲であればよいが、0.1~1.0質量%が好ましく、0.2~0.8質量%がより好ましい。単量体(d)の比率が0.1質量%以上であれば、塗膜の防曇性がより優れ、1.0質量%以下であれば、塗膜の耐水垂れ跡性、耐湿性がより優れ、耐湿性試験後の塗膜の外観が良好である。
【0027】
<リビングラジカル重合>
本発明の防曇塗料用樹脂は、上記単量体混合物をリビングラジカル重合することにより得られる。
リビングラジカル重合としては、可逆的付加開裂連鎖移動重合(以下、RAFT重合ともいう。)、原子移動ラジカル重合(ATRP重合)、ニトロキシドによるラジカル重合(NMP重合)等が挙げられる。これらの重合は公知の方法により実施できる。
【0028】
以下、重合性単量体混合物をRAFT重合する場合について、より詳細に説明する。
RAFT重合では、重合開始剤の存在下、連鎖移動剤(以下、RAFT重合に用いる連鎖移動剤を「RAFT剤」ともいう。)を用いて、重合性単量体混合物を重合させる。
【0029】
RAFT重合に用いられる重合開始剤としては、特に限定されず、ラジカル重合を開始できるものであれば如何なるものを用いてもよい。このような重合開始剤としては、一般的には、過酸化物系重合開始剤、アゾ系重合開始剤等が用いられており、例えば2,2’-アゾビス(2-メチルブチロニトリル)、2,2’-アゾビスイソブチロニトリル、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)等が挙げられる。これらの重合開始剤はいずれか1種を単独で用いてもよく2種以上を併用してもよい。
【0030】
RAFT剤としては、特に限定されず、公知のRAFT剤を用いることができる。例えばジチオエステル、トリチオカルボナート、ジチオカルバメート、キサンタート等のチオカルボニルチオ化合物が挙げられる。中でもジチオエステル、トリチオカルボナートが好ましい。具体例としては、4-シアノ-4-[(ドデシルスルファニルチオカルボニル)スルファニル]ペンタン酸、2-シアノ-2-[(ドデシルスルファニルチオカルボニル)スルファニル]プロパン、2-[(ドデシルスルファニルチオカルボニル)スルファニル]プロパン酸等が挙げられる。これらのRAFT剤はいずれか1種を単独で用いてもよく2種以上を併用してもよい。
【0031】
RAFT重合における重合方法としては、特に限定されず、公知の方法を採用でき、例えば、溶液重合法、乳化重合法、塊状重合法、懸濁重合法等が挙げられる。重合の際に用いる溶媒(重合溶媒)等についても特に限定されず、公知の溶媒等を用いることができる。重合条件も特に限定されず、例えば40~100℃で2~24時間の条件が挙げられる。その後、冷却等によって反応を停止し、本発明の防曇塗料用樹脂が得られる。
なお、RAFT重合において、得られる樹脂の分子量は、重合開始剤の濃度ではなく、RAFT剤の濃度に依存する。
【0032】
本発明の防曇塗料用樹脂の重量平均分子量(Mw)は、1万~20万が好ましく、2万~15万がより好ましい。Mwが1万以上であれば、耐湿性がより優れ、20万以下であれば、塗装作業性がより優れる。
本発明の防曇塗料用樹脂の分子量分布(Mw/Mn)は、1.1~2.5が好ましく、1.1~2.0がより好ましい。Mwは重量平均分子量であり、Mnは数平均分子量である。分子量分布が2.5以下であれば、耐水垂れ跡性がより優れる。
Mw及びMnはそれぞれ、ゲルパーミエーションクロマトグラフ法(GPC)によって測定されるポリスチレン換算の値である。
【0033】
なお、本発明の防曇塗料用樹脂において、単量体(a)~(d)等がどのように重合しているのか、詳細に特定することは困難である。例えば高分子鎖中で単量体(a)に基づく構成単位がどのように配置されているかを特定することは困難である。即ち、本発明の防曇塗料用樹脂には、その構造又は特性によって直接特定することが不可能であるか、又はおよそ実際的ではないという事情(不可能・非実際的事情)が存在する。したがって、本発明の防曇塗料用樹脂は「重合性単量体混合物をリビングラジカル重合した」と規定することがより適切とされる。
【0034】
〔防曇塗料組成物〕
本発明の防曇塗料組成物は、本発明の防曇塗料用樹脂を含む。防曇塗料組成物に含まれる防曇塗料用樹脂は1種でもよく2種以上でもよい。
【0035】
防曇塗料組成物は、典型的には、酸触媒をさらに含む。酸触媒は、防曇塗料用樹脂の架橋(硬化)反応を促進する。具体的には、水酸基同士の縮合反応、必要に応じてアルコキシ基の加水分解反応を促進する。
酸触媒としては、スルホン酸系触媒、リン酸系触媒等が挙げられる。スルホン酸系触媒としては、例えばp-トルエンスルホン酸、ドデシルベンゼンスルホン酸等のアルキルベンゼンスルホン酸が挙げられる。リン酸系触媒としては、例えばトリイソデシルホスフェイト、エチルアシッドホスフェイト、イソプロピルアシッドホスフェイトが挙げられる。これらの酸触媒は1種を単独で用いてもよく2種以上を併用してもよい。上記の中でも、スルホン酸系触媒が好ましい。スルホン酸系触媒を用いることで、塗膜の硬化性がより優れる。
【0036】
防曇塗料組成物は、有機溶剤をさらに含んでもよい。有機溶剤としては、例えばメタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール等の炭素数4以下の低級アルコール系溶剤、ブチルセロソルブ等のセロソルブ系溶剤、酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル系溶剤、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン系溶剤、ダイアセトンアルコール等が挙げられる。これらの有機溶剤はいずれか1種を単独で用いてもよく2種以上を併用してもよい。
【0037】
防曇塗料組成物は、必要に応じて、本発明の防曇塗料用樹脂、酸触媒及び有機溶剤以外の他の成分をさらに含んでもよい。他の成分としては、例えば、界面活性剤、シリコン系やフッ素系のレベリング剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、光安定剤(HALS)等の各種の添加剤が挙げられる。
【0038】
防曇塗料組成物において、本発明の防曇塗料用樹脂の含有量は、防曇塗料組成物の不揮発分100質量%に対し、80質量%以上が好ましく、85~99質量%がより好ましい。防曇塗料用樹脂の含有量が前記下限値以上であれば、形成される塗膜の基材に対する付着性、防曇性、耐湿性及び耐水垂れ跡性がより優れる。
防曇塗料組成物の不揮発分は、防汚塗料組成物約1gを135℃×60分で加熱したときの、加熱前の質量に対する加熱後の質量の比率(%)として求められる。
【0039】
酸触媒の含有量は、本発明の防曇塗料用樹脂100質量部に対して、3.0~10.0質量部が好ましく、3.0~5.5質量部がより好ましい。酸触媒の含有量が前記下限値以上であれば、塗膜が充分に硬化しやすい。酸触媒の含有量が前記上限値以下であれば、基材に対する付着性がより優れる。
【0040】
防曇塗料組成物が有機溶剤を含む場合、防曇塗料組成物の不揮発分濃度は、防曇塗料の塗装方法を勘案して適宜設定でき、例えば5~30質量%であってよい。
【0041】
防曇塗料組成物は、任意の基材に防曇性を付与するために用いられる。基材の表面に防曇塗料組成物を塗装し、塗膜(防曇塗膜)を形成することで、防曇性が付与される。
基材の材質としては、特に制限はなく、例えばポリカーボネート樹脂、ポリメタクリル樹脂(例えばポリメチルメタクリレート(PMMA))等の樹脂、ガラス等が挙げられる。疎水性が高いために結露により曇りやすく、防曇性を付与することの有効性が高い点で、ポリカーボネート樹脂、ポリメタクリル樹脂等の透明樹脂が好ましい。比較的耐熱性が低く、塗装時の乾燥温度を低くすることが望まれており、本発明の有用性が高い点で、ポリメタクリル樹脂が特に好ましい。
【0042】
防曇塗料組成物の塗装方法としては、ディッピング法、スプレー法、ローラー法、フローコート法等の公知の塗装方法が採用できる。
塗装した防曇塗料組成物を乾燥(熱硬化)することにより、塗膜が形成される。乾燥条件は、例えば、80~125℃で5~30分間である。基材の材質がポリメタクリル樹脂である場合、60~80℃で5~30分間が好ましい。
形成される塗膜の厚さに特に制限はない。例えば乾燥後の厚さとして1~8μmであってよい。
【0043】
本発明の防曇塗料組成物が塗装された基材は、例えば自動車のヘッドランプ、テールランプ、フォグランプ等の車両灯具、オートバイ等のメーターカバーやヘルメット等のバイザーカバー等に用いることができる。
【実施例】
【0044】
以下、実施例により本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。以下において、「部」は「質量部」である。実施例14、15、19は参考例である。
【0045】
以下において用いる各記号は、以下の各化合物を表すものとする。
MMA:メチルメタクリレート。
EMA:エチルメタクリレート。
CHMA:シクロヘキシルメタクリレート。
b-1:ジメチルアクリルアミド。
b-2:ジエチルアクリルアミド。
b-3:アクリロイルモルホリン。
b-4:イソプロピルアクリルアミド。
c-1:N-(ヒドロキシメチル)アクリルアミド。
c-2:N-(メトキシメチル)アクリルアミド。
c-3:N-(2-ヒドロキシエチル)アクリルアミド。
d-1:2-ソジウムスルホエチルメタクリレート。
d-2:スチレンスルホン酸ナトリウム。
d-3:メタクリル酸ジメチルアミノエチルメチルクロライド塩。
ABN-E:2,2’-アゾビス(2-メチルブチロニトリル)、株式会社日本ファインケム製。
V-65:2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)、富士フイルム和光純薬株式会社製。
RAFT-1:下式(1)で表される化合物。
RAFT-2:下式(2)で表される化合物。
【0046】
【0047】
<実施例1~19、比較例1~6>
表1~3に示す配合に従って単量体、RAFT剤、重合開始剤及び重合溶媒を2口フラスコに投入し、フラスコ内を窒素ガスで置換しながら昇温し、表1~3に示す重合条件(温度及び時間)にて撹拌下で重合反応を行い、不揮発分約40質量%の樹脂溶液を得た。
各例における重合率(%)を(得られた樹脂溶液の不揮発分/樹脂溶液の理論不揮発分×100)により算出した。結果を表1~3に示す。
樹脂溶液の不揮発分(%)(実測値)は、樹脂溶液約1gを分取し135℃×60分で加熱したときの、加熱前の質量に対する加熱後の質量の比率として求めた。樹脂溶液の理論不揮発分(%)は、(単量体総量(部)+RAFT剤量(部)+重合開始剤量(部))/総仕込量(部)×100により算出した。
樹脂溶液に含まれる樹脂について、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によりポリスチレン換算の重量平均分子量(Mw)及び分子量分布(Mw/Mn)を求めた。GPCの測定条件は、以下の通りとした。結果を表1~3に示す。
GPC装置:GPC-101(昭光通商株式会社製)。
カラム:Shodex A-806M×2本直列つなぎ(昭和電工株式会社製)。
検出器:Shodex RI-71(昭和電工株式会社製)。
移動相:テトラヒドロフラン。
流速:1mL/分。
【0048】
得られた樹脂溶液に、表1~3に示す配合に従って、有機溶剤及び酸触媒を加え、防曇塗料組成物を得た。
得られた防曇塗料組成物をPMMA板の表面に、乾燥後の厚さが2~3μmとなるようにスプレー法にて塗装し、80℃で15分間加熱乾燥して塗膜を形成した。
得られた塗膜付きPMMA板を試験材として、以下の手順で、防曇性、耐水垂れ跡性、付着性、耐湿試験後外観を評価した。結果を表1~3に示す。
【0049】
(防曇性)
製造した試験材を、塗膜表面を水滴が流れ落ちるように立て掛け、塗膜に対し40℃のスチームを3分間当て、塗膜の外観を目視で観察し、以下の基準で初期防曇性を評価した。
○:スチーム中に塗膜が曇らない。
△:スチーム中は塗膜が曇るが、スチームを止めてから5秒以内に曇りが取れる。
×:スチーム中に塗膜が曇り、スチームを止めてから5秒経過しても曇りが取れない。
【0050】
(耐水垂れ跡性)
防曇性の評価でスチームを当てた後の試験材を、温度25±2℃、湿度55±5%RHの環境下で12時間放置して塗膜を乾燥させた。放置後の塗膜の外観を目視で観察し、以下の基準で耐水垂れ跡性を評価した。
○:塗膜に水垂れ跡が無い。
△:塗膜にわずかに水垂れ跡が有る。
×:塗膜に水垂れ跡が有る。
【0051】
(付着性)
製造した試験材の塗膜に1mm幅で10×10の碁盤目状にカッターで切れ目を入れ、碁盤目状の部分にセロハンテープ(ニチバン社製「CT-24」)を貼着し剥がす操作を実施した。
○:セロハンテープへの塗膜の付着が無い。
△:セロハンテープへ1個以上20個未満の碁盤目の付着が有る。
×:セロハンテープへ20個以上の碁盤目の付着が有る。
【0052】
(耐湿試験後外観)
製造した試験材を65℃、95%RHの環境下に10日間放置した。その後、塗膜の外観を目視で観察し、以下の基準で評価した。
○:塗膜の外観に変化が無い。
△:塗膜に僅かな白化等の変化が見られる。
×:塗膜が白化又は溶解した。
【0053】
【0054】
【0055】
【0056】
実施例1~19の防曇塗料組成物の塗膜は、塗装時の乾燥温度が低くても、付着性、防曇性、耐湿性及び耐水垂れ跡性のバランスに優れていた。
一方、比較例1の防曇塗料組成物の塗膜は、重合性単量体混合物中の単量体(b)の比率が32質量%超であるため、耐湿試験後外観に劣っていた。
比較例2の防曇塗料組成物の塗膜は、単量体(b)の比率が20質量%未満であるため、防曇性に劣っていた。
比較例3の防曇塗料組成物の塗膜は、重合性単量体混合物中の単量体(a)の比率が68質量%超であるため、防曇性に劣っていた。
比較例4の防曇塗料組成物の塗膜は、重合性単量体混合物中の単量体(a)の比率が53質量%未満であるため、耐湿試験後外観、耐水垂れ跡性に劣っていた。
比較例5の防曇塗料組成物の塗膜は、重合性単量体混合物が単量体(c)を含まないため、耐湿試験後外観、耐水垂れ跡性に劣っていた。
比較例6の防曇塗料組成物の塗膜は、重合性単量体混合物が単量体(d)を含まないため、防曇性に劣っていた。