(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-18
(45)【発行日】2024-06-26
(54)【発明の名称】発光装置
(51)【国際特許分類】
H01S 5/022 20210101AFI20240619BHJP
【FI】
H01S5/022
(21)【出願番号】P 2020149152
(22)【出願日】2020-09-04
【審査請求日】2023-08-04
(73)【特許権者】
【識別番号】000226057
【氏名又は名称】日亜化学工業株式会社
(72)【発明者】
【氏名】小谷 靖長
【審査官】村井 友和
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-160555(JP,A)
【文献】特開2014-183269(JP,A)
【文献】特開2017-212470(JP,A)
【文献】特開2017-045936(JP,A)
【文献】特開2016-072513(JP,A)
【文献】特開2019-066680(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2020/0052168(US,A1)
【文献】中国実用新案第201440566(CN,U)
【文献】米国特許出願公開第2017/0063032(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第106486886(CN,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0091171(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第111149024(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01S 5/022
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザ素子と、
前記レーザ素子からの光の少なくとも一部を波長変換する蛍光部材と、
前記蛍光部材の側面に直接的に又は透光性の接合部材を介して固定されたセラミックスからなる光反射部材と、
を備え、
前記蛍光部材は、前記蛍光部材からの光が取り出される主面となる光取出面を有し、
前記光反射部材には、前記蛍光部材の前記光取出面の側にある表面に溝が設けられている発光装置。
【請求項2】
前記光取出面の側から視て、前記溝の内縁の形状は、前記蛍光部材の外縁の形状と同じである請求項1に記載の発光装置。
【請求項3】
前記光取出面の側から視て、前記溝の内縁の形状及び前記蛍光部材の外縁の形状は、円形である請求項2に記載の発光装置。
【請求項4】
前記光反射部材は、前記溝が設けられた第1面と、前記第1面とは反対の側の第2面と、を有し、
前記溝の深さは、前記光反射部材の前記第1面から前記第2面までの距離の1/10以上1/3以下の範囲内である請求項1~3のいずれか1項に記載の発光装置。
【請求項5】
前記光反射部材には貫通孔が設けられており、
前記蛍光部材は前記貫通孔の内壁に固定されている請求項1~4のいずれか1項に記載の発光装置。
【請求項6】
前記光取出面の側から視て、前記溝と前記貫通孔との距離は、0.07mm以上0.1mm以下の範囲内である請求項5に記載の発光装置。
【請求項7】
前記溝は空気で満たされている請求項1~6のいずれか1項に記載の発光装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発光装置に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体レーザ素子と蛍光部材とを組み合わせた発光装置が知られている。特許文献1には、励起光を出射する励起光源と、励起光を受光して蛍光を発する発光部と、を有する発光装置が記載されている。特許文献1の発光装置では、蛍光体層の周囲に反射体を形成する等、発光部の発光パターンを規定するための構造を設けている。反射体の材料は例えば白色顔料やセラミックスである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、セラミックスのように屈折率差によって光を反射する部品は、光の一部がその部品の内部に入射する。このため、セラミックスを光反射部材として用いた発光装置では、光反射部材の表面から光が漏れる場合がある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示は、以下の発明を含む。レーザ素子と、前記レーザ素子からの光の少なくとも一部を波長変換する蛍光部材と、前記蛍光部材の側面に直接的に又は透光性の接合部材を介して固定されたセラミックスからなる光反射部材と、を備え、前記蛍光部材は、前記蛍光部材からの光が取り出される主面となる光取出面を有し、前記光反射部材には、前記蛍光部材の前記光取出面の側にある表面に溝が設けられている発光装置。
【発明の効果】
【0006】
本開示の発光装置によれば、光反射部材からの光の漏れを低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】本発明の実施形態に係る発光装置を示す模式的な断面図である。
【
図2A】
図2BのIIA-IIA線における模式的な断面図である。
【
図2B】本発明の実施形態に係る蛍光部材および光反射部材を示す模式的な上面図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、発明の実施の形態について適宜図面を参照して説明する。ただし、以下に説明する発光装置の製造方法は、本発明の技術思想を具体化するためのものであって、特定的な記載がない限り、本発明を以下のものに限定しない。各図面が示す部材の大きさや位置関係等は、説明を明確にするため、誇張していることがある。
【0009】
図1は、実施形態に係る発光装置100を示す模式的な断面図である。
図2Aは、
図2BのIIA-IIA線における模式的な断面図である。
図2Bは、実施形態に係る蛍光部材12および光反射部材11を示す模式的な上面図である。実施形態の発光装置100は、レーザ素子21と、蛍光部材12と、光反射部材11とを有する。蛍光部材12は、レーザ素子21からの光の少なくとも一部を波長変換する部材である。蛍光部材12は、蛍光部材12からの光が取り出される主面となる光取出面12aを有する。光反射部材11は、セラミックスからなり、蛍光部材12の側面に直接的に又は透光性の接合部材を介して固定されている。光反射部材11には、蛍光部材12の光取出面12aの側にある表面(第1面11a)に溝11cが設けられている。
【0010】
発光装置100によれば、溝11cが設けられていることで、蛍光部材12からの光を溝11cによって反射することができるため、光反射部材11の第1面11aからの光の漏れを低減することができる。したがって、光反射部材11からの光の漏れを低減することができる。
【0011】
図2A及び
図2Bに示すように、光反射部材11は、第1面11aと、第1面11aの反対の側の第2面11bとを有する。第1面11aは蛍光部材12の光取出面12aの側にある表面であり、第2面11bは蛍光部材12の光入射面12bの側にある表面である。
【0012】
図2Aに示すように、光反射部材11は、貫通孔を有することができる。この貫通孔が光の通路となるため、この場合、貫通孔の内壁を反射面とする。光反射部材11の材料としては、高熱伝導率及び高反射率であるアルミナ(Al
2O
3)セラミックスを用いることが好ましい。光反射部材11の厚みは、強度を考慮すると0.2mm以上であることが好ましい。また、光反射部材11は蛍光部材12を保持できる程度の厚みがあればよく、コスト増大及び発光装置100の高さの増大を抑えるため、光反射部材11の厚みは2mm以下とすることができる。
【0013】
図2Aでは、光反射部材11の貫通孔の内壁は、光の進行方向に沿って拡がる形状である。このような形状とすることにより、入射した光の戻り光を貫通孔の内壁によって反射させて、光出射側に効率的に取り出すことができる。貫通孔の開口の形状としては、三角形及び四角形等の多角形のほか、円形又は楕円形であるものが挙げられる。貫通孔の形状としては、柱状、錐形状又はこれらを組み合わせた形状が挙げられる。
【0014】
光反射部材11の第1面11aには溝11cが設けられている。
図2Bに示すように、上面視において、すなわち、蛍光部材12の光取出面12aの側から視て、溝11cの内縁の形状は、蛍光部材12の外縁の形状と同じであることが好ましい。これにより、蛍光部材12の光取出面12aの上面視形状と同じ形状の発光パターンを得ることができる。光取出面12aの側から視て、溝11cの内縁の形状及び蛍光部材12の外縁の形状は、円形とすることができる。これらの形状が円形であることにより、発光パターンの形状も円形となるため、レンズとの組み合わせに適している。例えば、溝11cは、蛍光部材12の外縁と同じ中心であって直径が異なる円形で設けることができる。
図2Bにおいて、溝11cは、蛍光部材12の全周囲に亘って途切れなく設けられている。これにより、蛍光部材12の全周囲において光反射部材11の第1面11aからの光漏れを低減することができる。
【0015】
図2Aに示すように、溝11cの深さd1は、光反射部材11の第1面11aから第2面11bまでの距離d2よりも小さい。光反射部材11の第1面11aから第2面11bまでの距離d2は、光反射部材11の厚みと言い換えることができる。
図2Aに示すように光反射部材11の厚みが一定でない場合は、溝11cが設けられた部分の厚みを距離d2とする。溝11cの深さd1は、光反射部材11の第1面11aから第2面11bまでの距離d2の1/10以上1/3以下の範囲内とすることができる。1/10以上とすることにより、溝11cによる光の漏れ低減の効果をより確実に得ることができる。1/3以下とすることにより、溝11cに起因する光反射部材11の破損の可能性を低減することができる。溝11cの深さd1は、0.07mm以上とすることができる。溝11cの深さd1は、0.2mm以下であってもよい。
【0016】
図2Bに示すように、蛍光部材12の光取出面12aの側から視て、溝11cは、蛍光部材12と接しない位置に設ける。蛍光部材12の光取出面12aの側から視て、溝11cと蛍光部材12との距離は、0.07mm以上とすることができ、0.1mm以下とすることができる。溝11cと蛍光部材12との距離を0.1mm以下とすることにより、光反射部材11からの光の漏れをより効果的に低減することができる。また、蛍光部材12が光反射部材11の貫通孔の内壁に固定されている場合、蛍光部材12の光取出面12aの側から視て、溝11cと貫通孔との距離d3は、溝11cと蛍光部材12との距離と等しくしてよい。溝11cと貫通孔との距離d3は、0.07mm以上とすることができ、0.1mm以下とすることができる。
【0017】
溝11cは、例えば空気で満たされている。この場合、空気と光反射部材11との屈折率差により、光反射部材の内部の光を溝11cにおいて反射することができる。上面視において、溝11cの幅は、例えば15μm以上とすることができ、40μm以下とすることができる。
図2Aにおいて、溝11cの内壁は、第2面11bから第1面11aに向けて溝11cの内径が拡がるように傾斜している。溝11cの内壁がこのような形状であることにより、溝11cにおいて光を第2面11bに向かう方向に反射させ易い。このため、光反射部材11の第1面11aからの光漏れをより低減することができる。溝11cは、例えば、レーザ照射によるレーザ加工によって形成することができる。
【0018】
光反射部材11は、蛍光部材12の側面に直接的に又は透光性の接合部材を介して固定されている。透光性の接合部材としては、例えば、ホウケイ酸ガラス、ソーダ石灰ガラス、ソーダガラス、鉛ガラス等のガラスが挙げられる。例えば、500℃~900℃の間に軟化点を有するホウ珪酸ガラスを透光性の接合部材として用いることができる。
図2A及び
図2Bにおいて、光反射部材11には貫通孔が設けられ、蛍光部材12は貫通孔の内壁に固定されている。
【0019】
蛍光部材12は、励起光によって蛍光を発する蛍光体を含有する。励起光とは、レーザ素子21が出射する光である。蛍光体としては、例えば、セリウムで賦活されたイットリウム・アルミニウム・ガーネット(YAG)、セリウムで賦活されたルテチウム・アルミニウム・ガーネット(LAG)、ユウロピウム及び/又はクロムで賦活された窒素含有アルミノ珪酸カルシウム(CaO-Al2O3-SiO2)、ユウロピウムで賦活されたシリケート((Sr,Ba)2SiO4)、αサイアロン蛍光体、βサイアロン蛍光体などが挙げられる。蛍光体としては、耐熱性が良好な蛍光体であるYAG蛍光体を用いることが好ましい。
【0020】
図2Aに示すように、蛍光部材12は、光反射部材11の貫通孔内に配置することができる。蛍光部材12は、光取出面12aと光入射面12bとを有する。蛍光部材12は、さらに、光取出面12aと光入射面12bとを繋ぐ側面を有することができる。側面は、
図2Aに示すように、貫通孔の内壁と略一致した形状とすることにより、光反射部材11との密着性を向上させ、蛍光部材12で生じる熱を効果的に光反射部材11側に逃がすことができる。
【0021】
蛍光部材12としては、蛍光体を含有するセラミックス又は蛍光体の単結晶が挙げられる。蛍光部材12がこのような耐光性及び耐熱性の良好な材料によって形成されていることにより、レーザ光のような高密度の光が照射されても変質が生じ難い。蛍光部材12の厚みは、例えば、0.1mm~1.5mm程度が挙げられる。蛍光部材12は、例えば、蛍光体と酸化アルミニウム(Al2O3、融点:約1900℃~2100℃)等の透光性材料とを焼結させた蛍光体セラミックスとすることができる。この場合、蛍光体の含有量は、蛍光部材12の総重量に対して0.05~50重量%とすることが好ましく、1~30重量%がより好ましい。また、このような透光性材料を用いずに蛍光体の紛体を焼結させることにより形成する、実質的に蛍光体のみからなる蛍光体セラミックスを蛍光部材12として用いてもよい。また、蛍光部材12として、蛍光体からなる単結晶を用いてもよい。なお、蛍光部材12の表面には、バンドパスフィルター等のコーティングが施されていてもよい。蛍光部材12は、単一層から構成されていてもよく、2以上の複数層から構成されていてもよい。
【0022】
レーザ素子21は、出射するレーザ光が蛍光部材12の光入射面12bに照射されるように配置される。レーザ素子21は、例えば半導体レーザ素子である。なお、蛍光部材12の光入射面12b側にサファイア等の蛍光体を含有しない透光性部材を配置してもよい。この場合、レーザ素子21からの光が透光性部材を介して蛍光部材12に照射することになる。
【0023】
発光装置100は、
図1に示すように、レーザ素子21を有するパッケージを有する。光反射部材11は、押さえ部15と蓋部16とに挟まれて固定されている。光反射部材11は貫通孔を有し、その貫通孔内には、蛍光部材12が配置されている。
図1に示すように、蓋部16は、光反射部材11の下面である第2面11bに配置される第1蓋部16Aと、第1蓋部16Aの下面に接続された第2蓋部16Bとの2つの部分からなってもよい。
【0024】
パッケージは、
図1に示すように、ステム24と、ステム24を貫通するリード端子25と、ステム24が有する凸部の側面に固定されたサブマウント26と、サブマウント26に固定されたレーザ素子21を有する。パッケージは、さらに、ステム24に固定されたキャップ22と、キャップ22が有する開口に固定されたレンズ23とを有する。蓋部16は、ステム24に固定されている。
図1に一点鎖線で示すように、レーザ素子21から出射したレーザ光は、レンズ23で集光され、蛍光部材12の手前で焦点を結び、蛍光部材12に入射する。発光装置100の発光が白色光である場合、例えば、蛍光部材12が発する蛍光を黄色光とし、レーザ素子21が出射するレーザ光を青色光(ピーク波長が420nm~470nm程度)とする。蛍光部材12が含有する蛍光体としては、YAG蛍光体等の黄色蛍光体が挙げられる。青色レーザ光を出射するレーザ素子21としては、InGaN井戸層の活性層を有するGaN系レーザ素子が挙げられる。パッケージは、レーザ素子21とリード端子25のそれぞれとを電気的に接続するワイヤを有してよい。
【0025】
(実験例)
実験例1~5として、
図2A及び
図2Bに示す蛍光部材12及び光反射部材11を作製した。実験例1~5において、光反射部材11の厚みは0.67mmであった。実験例1~5において、光反射部材11の上面視形状は直径4mmの円形であり、蛍光部材12の上面視形状は直径0.65mmの円形であった。溝11cは、蛍光部材12の外縁と同じ中心であって直径が異なる円形で設けた。溝11cについて、実験例1~3は直径0.8mmの位置にレーザ加工によって形成し、実験例4及び5は直径1.2mmの位置にレーザ加工によって形成した。上面視における溝11cと蛍光部材12の距離は、実験例1~3で約0.07mmであり、実験例4及び5で約0.27mmであった。溝11cの深さは、実験例1は0.07mm、実験例2は0.14mm、実験例3は0.2mm、実験例4は0.14mm、実験例5は0.2mmで形成した。実験例1~5の蛍光部材12の光入射面12bに励起光を照射し、光取出面12a側から観察した。その結果を
図3に示す。
【0026】
図3から、溝11cと蛍光部材12の距離が近いほど、また、溝11cの深さが大きいほど、光反射部材11の表面からの光漏れを低減可能であるといえる。
【符号の説明】
【0027】
11 光反射部材
11a 第1面
11b 第2面
11c 溝
12 蛍光部材
12a 光取出面
12b 光入射面
15 押さえ部
16 蓋部
16A 第1蓋部
16B 第2蓋部
21 レーザ素子
22 キャップ
23 レンズ
24 ステム
25 リード端子
26 サブマウント
100 発光装置