(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-18
(45)【発行日】2024-06-26
(54)【発明の名称】補助駆動装置制御ユニットおよび農作業用車両
(51)【国際特許分類】
B60W 10/04 20060101AFI20240619BHJP
B60W 10/18 20120101ALI20240619BHJP
B60W 30/02 20120101ALI20240619BHJP
B60W 40/11 20120101ALI20240619BHJP
B60W 40/105 20120101ALI20240619BHJP
B60T 8/24 20060101ALI20240619BHJP
A01B 63/12 20060101ALI20240619BHJP
【FI】
B60W10/00 120
B60W10/04
B60W10/18
B60W30/02
B60W40/11
B60W40/105
B60T8/24
A01B63/12
(21)【出願番号】P 2019213521
(22)【出願日】2019-11-26
【審査請求日】2022-10-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000222978
【氏名又は名称】東洋農機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110766
【氏名又は名称】佐川 慎悟
(74)【代理人】
【識別番号】100165515
【氏名又は名称】太田 清子
(74)【代理人】
【識別番号】100169340
【氏名又は名称】川野 陽輔
(74)【代理人】
【識別番号】100195682
【氏名又は名称】江部 陽子
(74)【代理人】
【識別番号】100206623
【氏名又は名称】大窪 智行
(72)【発明者】
【氏名】野村 誠
(72)【発明者】
【氏名】太田 耕二
(72)【発明者】
【氏名】船引 邦弘
(72)【発明者】
【氏名】石川 和久
(72)【発明者】
【氏名】小森 真司
(72)【発明者】
【氏名】白川 英希
(72)【発明者】
【氏名】礒村 誠
(72)【発明者】
【氏名】河辺 秀樹
(72)【発明者】
【氏名】山木 智広
【審査官】藤村 泰智
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-049028(JP,A)
【文献】特開2013-056643(JP,A)
【文献】特開2014-019256(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60W 10/00 ~ 10/30
B60W 30/00 ~ 40/13
B60T 8/00 ~ 8/1769
A01B 63/00 ~ 63/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
走行性能を有する牽引車両と、この牽引車両に牽引される被牽引車両とを有する農作業用車両において、前記被牽引車両の補助駆動装置を制御するための補助駆動装置制御ユニットであって、
前記牽引車両のブレーキ操作により発せられるブレーキ信号、前記農作業用車両の走行速度、および前記被牽引車両の前後方向の傾斜角度のうち少なくとも二つ以上の情報に基づき前記補助駆動装置を制御する補助駆動制御部を有
しており、
前記補助駆動制御部が、前記ブレーキ信号を受信した時点において、前記走行速度が速度ゼロより速くかつ所定の下限速度以下の範囲である微速走行状態であって、前記傾斜角度が所定の上り傾斜角度以上の上り傾斜状態である場合には、前記補助駆動装置に対し進行方向へ駆動力を発生させる
、補助駆動装置制御ユニット。
【請求項2】
走行性能を有する牽引車両と、この牽引車両に牽引される被牽引車両とを有する農作業用車両において、前記被牽引車両の補助駆動装置を制御するための補助駆動装置制御ユニットであって、
前記牽引車両のブレーキ操作により発せられるブレーキ信号、前記農作業用車両の走行速度、および前記被牽引車両の前後方向の傾斜角度のうち少なくとも二つ以上の情報に基づき前記補助駆動装置を制御する補助駆動制御部を有
しており、
前記補助駆動制御部が、前記ブレーキ信号を受信した時点において、前記走行速度が速度ゼロより速くかつ所定の下限速度以下の範囲である微速走行状態より速く、かつ前記傾斜角度が所定の上り傾斜角度以上の上り傾斜状態である場合には、前記補助駆動装置に対し駆動力を解除するニュートラル状態にさせる
、補助駆動装置制御ユニット。
【請求項3】
走行性能を有する牽引車両と、この牽引車両に牽引される被牽引車両とを有する農作業用車両において、前記被牽引車両の補助駆動装置を制御するための補助駆動装置制御ユニットであって、
前記牽引車両のブレーキ操作により発せられるブレーキ信号、前記農作業用車両の走行速度、および前記被牽引車両の前後方向の傾斜角度のうち少なくとも二つ以上の情報に基づき前記補助駆動装置を制御する補助駆動制御部を有
しており、
前記補助駆動制御部が、前記ブレーキ信号を受信した時点において、前記走行速度が所定の上限速度以上であって、前記傾斜角度が下り傾斜を含む所定の上り傾斜角度未満の場合には、前記補助駆動装置が発揮可能な最大のブレーキ力に対し50%以下のブレーキ力を発生させる
、補助駆動装置制御ユニット。
【請求項4】
走行性能を有する牽引車両と、この牽引車両に牽引される被牽引車両とを有する農作業用車両において、前記被牽引車両の補助駆動装置を制御するための補助駆動装置制御ユニットであって、
前記牽引車両のブレーキ操作により発せられるブレーキ信号、前記農作業用車両の走行速度、および前記被牽引車両の前後方向の傾斜角度のうち少なくとも二つ以上の情報に基づき前記補助駆動装置を制御する補助駆動制御部を有
しており、
前記補助駆動制御部は、前記微速走行状態の場合には、以下の(1)~(3)の条件により前記補助駆動装置を制御する
、前記補助駆動装置制御ユニット;
(1)前記傾斜角度が所定の上り傾斜角度以上の上り傾斜状態である場合には、進行方向に対して駆動力を発生させる
(2)前記傾斜角度が所定の下り傾斜角度以下の下り傾斜状態である場合には、進行方向に対して逆方向の駆動力を発生させる
(3)前記傾斜角度が傾斜角度ゼロを含む前記上り傾斜状態より小さく前記下り傾斜状態より大きい範囲の平行状態では、進行方向に対して逆方向の駆動力を発生させるか、または、速度ゼロでは駆動力を解除するニュートラル状態に制御する。
【請求項5】
走行性能を有する牽引車両と、この牽引車両に牽引される被牽引車両とを有する農作業用車両において、前記被牽引車両の補助駆動装置を制御するための補助駆動装置制御ユニットであって、
前記牽引車両のブレーキ操作により発せられるブレーキ信号、前記農作業用車両の走行速度、および前記被牽引車両の前後方向の傾斜角度のうち少なくとも二つ以上の情報に基づき前記補助駆動装置を制御する補助駆動制御部を有
しており、
前記補助駆動制御部が、前記牽引車両のブレーキ操作によって前記走行速度がゼロとなった停止状態から前記ブレーキ信号が切断された場合に、以下の(4)および(5)の条件により前記補助駆動装置を制御する
、前記補助駆動装置制御ユニット;
(4)前記傾斜角度が所定の下り傾斜角度以下の下り傾斜状態である場合には、駆動力を解除するニュートラル状態に制御する
(5)前記傾斜角度が前記下り傾斜角度より大きい場合には、進行方向に駆動力を発生させる。
【請求項6】
走行性能を有する牽引車両と、この牽引車両に牽引される被牽引車両と、請求項1から請求項
5のいずれかに記載の補助駆動制御ユニットとを有する、前記農作業用車両。
【請求項7】
走行性能を有する牽引車両と、この牽引車両に牽引される被牽引車両と、
前記被牽引車両の補助駆動装置を制御するための補助駆動装置制御ユニットとを有する
、農作業用車両
であって、
前記補助駆動装置制御ユニットは、前記牽引車両のブレーキ操作により発せられるブレーキ信号、前記農作業用車両の走行速度、および前記被牽引車両の前後方向の傾斜角度のうち少なくとも二つ以上の情報に基づき前記補助駆動装置を制御する補助駆動制御部を有
しており、
前記被牽引車両の前後方向の傾斜角度を検出する車両傾斜センサが、前記被牽引車両であって、前記牽引車両の後輪軸と、前記被牽引車両のスイングアームのピボット軸との前後中間位置またはその少し前方に位置している
、前記農作業用車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、農作業用車両における補助駆動装置の駆動力やブレーキ力を自動で制御するための、補助駆動装置制御ユニット、農作業用車両および補助駆動装置制御プログラムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
トラクターは、主に農作業に用いられる車両であって、ブームスプレーヤ、ポテトハーベスター等の作業機を牽引する牽引車両として用いられる。前記トラクターのオペレータは、ハンドルによる方向転換やアクセル、ブレーキ等による速度調整を行う。また、前記オペレータは、作業機の操作も同時に行う。例えば被牽引車両がブームスプレーヤの場合では、散布液が農作物に均等に散布されるように、ブームの高さや傾き、散布量や散布範囲を調整する。
【0003】
ところで、近年の作業機の大型化や走行速度の高速化から、トラクターなどの牽引車両による駆動力を補うため、作業機側に駆動力を発生する補助駆動装置を設置する発明が提案されている。例えば、特表2018-524237号公報では、電気式または油圧式の駆動可能な第二の車軸を備えた、トラクターなどに連結可能な連結車両に関する発明が開示されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載された発明においては、補助駆動装置における前進、ニュートラル、後退、ブレーキ等の操作が必要であり、オペレータはトラクターや作業機の操作に加えて前記補助駆動装置の操作も行わなければならない。大型化された車両をスムーズに発進、走行および停止させるには、補助駆動装置による駆動力やブレーキ力の繊細な操作を要する。しかしながら、トラクター、作業機および補助駆動装置の3つの操作を同時に行う場合、いずれかの操作が疎かになってしまう。よって、補助駆動装置の駆動力やブレーキ力を自動で制御するニーズが高まっている。
【0006】
本発明は、以上のようなニーズに対応するためになされたものであって、農作業用車両の状況に応じて被牽引車両の補助駆動装置を自動的に制御することのできる、補助駆動装置制御ユニット、農作業用車両および補助駆動装置制御プログラムを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る補助駆動装置制御ユニットは、農作業用車両から発せられる信号や農作業用車両の状況を示す各種センサからの計測結果に応じて被牽引車両の補助駆動装置を自動的に制御するという課題を解決するために、走行性能を有する牽引車両と、この牽引車両に牽引される被牽引車両とを有する農作業用車両において、前記被牽引車両の補助駆動装置を制御するための補助駆動装置制御ユニットであって、前記牽引車両のブレーキ操作により発せられるブレーキ信号、前記農作業用車両の走行速度、および前記被牽引車両の前後方向の傾斜角度のうち少なくとも二つ以上の情報に基づき前記補助駆動装置を制御する補助駆動制御部を有する。
【0008】
また、本発明の一態様として、上り傾斜面を微速走行する農作業用車両の停止を安定させるという課題を解決するために、前記補助駆動制御部が、前記ブレーキ信号を受信した時点において、前記走行速度が速度ゼロより速くかつ所定の下限速度以下の範囲である微速走行状態であって、前記傾斜角度が所定の上り傾斜角度以上の上り傾斜状態である場合には、前記補助駆動装置に対し進行方向へ駆動力を発生させるようにしてもよい。
【0009】
さらに、本発明の一態様として、上り傾斜面を微速走行より高速で走行する農作業用車両の停止を安定させるという課題を解決するために、前記補助駆動制御部が、前記ブレーキ信号を受信した時点において、前記走行速度が速度ゼロより速くかつ所定の下限速度以下の範囲である微速走行状態より速く、かつ前記傾斜角度が所定の上り傾斜角度以上の上り傾斜状態である場合には、前記補助駆動装置に対し駆動力を解除するニュートラル状態にさせてもよい。
【0010】
また、本発明の一態様として、下り傾斜面を高速走行する農作業用車両の停止を安定させる課題を解決するために、前記補助駆動制御部が、前記ブレーキ信号を受信した時点において、前記走行速度が所定の上限速度以上であって、前記傾斜角度が下り傾斜を含む所定の上り傾斜角度未満の場合には、前記補助駆動装置が発揮可能な最大のブレーキ力に対し50%以下のブレーキ力を発生させるようにしてもよい。
【0011】
さらに、本発明の一態様として、傾斜面などで停止している農作業用車両が勝手に動かないようにするという課題を解決するために、前記補助駆動制御部は、前記走行速度が前記微速走行状態の場合には、以下の(1)~(3)の条件により前記補助駆動装置を制御する、請求項1から請求項4のいずれかに記載の補助駆動装置制御ユニット;(1)前記傾斜角度が所定の上り傾斜角度以上の上り傾斜状態である場合には、進行方向に対して駆動力を発生させる(2)前記傾斜角度が所定の下り傾斜角度以下の下り傾斜状態である場合には、進行方向に対して逆方向の駆動力を発生させる(3)前記傾斜角度が傾斜角度ゼロを含む前記上り傾斜状態より小さく前記下り傾斜状態より大きい範囲の平行状態では、進行方向に対して逆方向の駆動力を発生させるか、または、駆動力を解除するニュートラル状態に制御するようにしてもよい。
【0012】
また、本発明の一態様として、農作業用車両を停止状態から安定的に発進させるという課題を解決するために、前記補助駆動制御部が、前記牽引車両のブレーキ操作によって前記走行速度がゼロとなった停止状態から前記ブレーキ信号が切断された場合に、以下の(4)および(5)の条件により前記補助駆動装置を制御する、請求項1から請求項5のいずれかに記載の補助駆動装置制御ユニット;(4)前記傾斜角度が所定の下り傾斜角度以下の下り傾斜状態である場合には、駆動力を解除するニュートラル状態に制御する(5)前記傾斜角度が前記下り傾斜角度より大きい場合には、進行方向に駆動力を発生させるようにしてもよい。
【0013】
本発明に係る農作業用車両は、農作業用車両から発せられる信号や農作業用車両の状況を示す各種センサからの計測結果に応じて被牽引車両の補助駆動装置を自動的に制御するという課題を解決するために、走行性能を有する牽引車両と、この牽引車両に牽引される被牽引車両と、前記補助駆動制御ユニットとを有する。
【0014】
また、本発明の一態様として、被牽引車両において傾斜角度を検出する際の路面の凹凸による車両振動の影響を抑制するという課題を解決するために、前記被牽引車両の前後方向の傾斜角度を検出する車両傾斜センサが、前記被牽引車両であって、前記牽引車両の後輪軸と、前記被牽引車両のスイングアームのピボット軸との前後中間位置またはその少し前方に位置していてもよい。
【0015】
本発明に係る補助駆動装置制御プログラムは、農作業用車両から発せられる信号や農作業用車両の状況を示す各種センサからの計測結果に応じて被牽引車両の補助駆動装置を自動的に制御するという課題を解決するために、走行性能を有する牽引車両と、この牽引車両に牽引される被牽引車両とを有する農作業用車両において、前記被牽引車両の補助駆動装置を制御するための補助駆動装置制御プログラムであって、前記牽引車両のブレーキ操作により発せられるブレーキ信号、前記農作業用車両の走行速度、および前記被牽引車両の前後方向の傾斜角度のうち少なくとも二つ以上の情報に基づき前記補助駆動装置を制御する補助駆動制御部としてコンピュータを機能させる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、農作業用車両の状況に応じて被牽引車両の補助駆動装置を自動的に制御することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明に係る農作用車両の一実施形態を示す側面図である。
【
図2】本実施形態の農作用車両における各構成を示すブロック図である。
【
図3】本実施形態の補助駆動装置制御ユニットを示すブロック図である。
【
図4】本実施形態における発進時の制御フローを示す図である。
【
図5】本実施形態における走行状態処理の制御フローを示す図である。
【
図6】本実施形態における高速走行状態処理の制御フローを示す図である。
【
図7】本実施形態における中速走行状態処理の制御フローを示す図である。
【
図8】本実施形態における低速走行状態処理の制御フローを示す図である。
【
図9】本実施形態におけるブレーキ処理の制御フローを示す図である。
【
図10】本実施形態における微速ブレーキ処理の制御フローを示す図である。
【
図11】本実施形態における高速ブレーキ処理の制御フローを示す図である。
【
図12】本実施形態における中速ブレーキ処理の制御フローを示す図である。
【
図13】本実施形態における低速ブレーキ処理の制御フローを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明に係る補助駆動装置制御ユニット、農作業用車両および補助駆動装置制御プログラムの一実施形態について図面を用いて説明する。
【0019】
本実施形態の農作業用車両1は、
図1に示すように、走行性能を有する牽引車両2と、この牽引車両2に牽引される被牽引車両3とを有する。以下、各構成について説明する。
【0020】
牽引車両2は、走行性能を有する農作業に用いられる車両であって、トラクターが例示される。本実施形態における牽引車両2は、前輪と後輪とを有する車両である。また、当該牽引車両2は、
図2に示すように、ブレーキ操作が行われるとブレーキ信号を発するブレーキ信号発信部21と、後退操作が行われると後退信号を発する後退信号発信部22とを備えている。
【0021】
被牽引車両3は、牽引車両2に牽引される車両であって、ブームスプレーヤ、ポテトハーベスター等が例示される。本実施形態における被牽引車両3は、スイングアーム34を備えた駆動輪を備えるとともに、この駆動輪を駆動させる補助駆動装置31を備えている。前方にはヒッチが設けられており、牽引車両2の後方に設置されているヒッチ点(ヒッチボール)に連結されている。また、本実施形態における被牽引車両3には、前後方向の傾斜角度を計測する車両傾斜センサ32と、前記補助駆動装置31を制御する補助駆動装置制御ユニット33とを有している。
【0022】
なお、補助駆動装置制御ユニット33は、被牽引車両3側に設置されるものに限定されるものではなく、牽引車両2側に設置されていてもよい。
【0023】
補助駆動装置31は、被牽引車両3を駆動する駆動力を発生するものであり、本実施形態では、
図2に示すように、牽引車両2から供給される動力によって油圧を発生させる可変容量型油圧ポンプ311と、この可変容量型油圧ポンプ311の油圧によって前進駆動および後退駆動が可能でかつ2段階にモータ容量を切り替えられる2速油圧モータ312と、この2速油圧モータのモーター容量を切り替える2速切替部313と、被牽引車両3の走行速度を計測する速度センサ314とを有する。
【0024】
本実施形態における補助駆動装置31は、2速油圧モータ312を閉回路で繋いだ無段階変速機である、ハイドロスタティックトランスミッション(HST)として構成されている。
【0025】
可変容量型油圧ポンプ311は、HST用の油圧ポンプであって容積を変えることで油圧を連続的に可変制御することができる。また、可変容量型油圧ポンプ311は、油圧の流れを正逆方向に切り替えることができる。また、可変容量型油圧ポンプ311は、そのポンプの構造により、補助駆動装置制御ユニット33から受信した制御信号に基づき連続的に自動調整することで駆動力を出力ゼロの状態から前進方向または後退方向に対し最大出力まで比例した制御を行えるようになっている。
【0026】
2速油圧モータ312は、可変容量型油圧ポンプ311の油圧によって前進駆動および後退駆動とともに、進行方向と逆方向に油圧がかけられた場合はブレーキとして機能する。本実施形態における2速油圧モータ312は、補助駆動装置制御ユニット33から受信した調整制御信号に基づき得られる油圧によって発揮可能な最大のブレーキ力(ブレーキ力100%)と、この最大ブレーキ力に対して50%のブレーキ力を発揮する中間ブレーキ力とに切替可能に構成されている。なお、最大ブレーキ力に対する中間ブレーキ力の割合は、50%に限定されるものではなく、30%や70%などリアルタイムかつ瞬時に調整することができる。また、本実施形態では、2速油圧モータ312によるブレーキとは別に、ディスクブレーキやドラムブレーキ等の専用のブレーキ装置を設置して制御しても良い。
【0027】
また、2速油圧モータ312は、2段階モータ容量を切り替えられるモータであって、標準的なモータの2倍の速度域まで補助力およびブレーキ力を発揮することができる。本実施形態における2速油圧モータ312は、30km/hまでの速度レンジで使用可能になっており、15km/hの速度レンジに対応したモータの場合には15km/hを超えるとニュートラル状態(フリーラン状態)になってブレーキ力を発揮できないのに対し、30km/h以下であればブレーキ力を発揮できるようになっている。
【0028】
なお、農作業用車両1の走行速度は、補助駆動装置31に設けられた速度センサ314から取得するものに限定されるものではなく、牽引車両2や被牽引車両3が備えている速度検出装置やGPS(Global Positioning System)により取得される位置情報の変化量に基づき速度を検出する速度検出方法等によって取得してもよい。
【0029】
車両傾斜センサ32は、水平状態に対する傾斜角度を計測することのできるセンサであって、被牽引車両3の前後方向の傾斜角度を計測できるものである。本実施形態における車両傾斜センサ32は、凹凸のある路面や圃場を走行する際に生じる振動による僅かな傾きの影響を抑制するため、
図1に示すように、前記被牽引車両3であって、前記牽引車両2の後輪軸23と、前記被牽引車両3のスイングアーム34のピボット軸35との前後中間位置またはその少し前方に位置するように設置されている。なお、車両傾斜センサ32に用いられるセンサは適宜選択されるものであって、傾斜角度を直接計測することのできる傾斜センサや重力加速度から傾斜角度を算出できる加速度センサ等が例示される。
【0030】
本実施形態の補助駆動装置制御ユニット33は、補助駆動装置31を制御することで農作業用車両1を安定的に発進、走行および停止させるためのものであって、
図3に示すように、補助駆動装置制御プログラム1aや制御パターン情報を記憶する記憶手段4と、主に前記補助駆動装置制御プログラム1aに基づく演算処理を実行する演算処理手段5と、この演算処理手段5による演算の実行開始などの入力操作を行うコントローラー6とを有する。例えば、ECU(Electronic Control Unit)やマイクロコンピュータ、パーソナルコンピュータ、タブレット端末などが利用可能である。
【0031】
記憶手段4は、ROM、RAM、ハードディスク、フラッシュメモリ等によって構成されており、各種のデータを記憶するとともに、演算処理手段5が演算を実行する際のワーキングエリアとして機能するものである。本実施形態における記憶手段4は、主に、補助駆動装置制御プログラム1aを記憶するプログラム記憶部41と、ブレーキ信号、農作業用車両1の走行速度、および被牽引車両3の前後方向の傾斜角度に基づく制御パターン情報を記憶する制御情報記憶部42とを有する。
【0032】
プログラム記憶部41には、補助駆動装置制御プログラム1aがインストールされている。そして、演算処理手段5が、前記補助駆動装置制御プログラム1aを実行し、主に、後述するブレーキ信号判別部51、走行速度判別部52、傾斜角度判別部53、後退信号判別部54および補助駆動制御部55として機能させることにより、コンピュータを補助駆動装置制御ユニット33として機能させるようになっている。
【0033】
なお、補助駆動装置制御プログラム1aの利用形態は、上記構成に限られるものではない。例えば、CD-ROMやUSBメモリ等のように、コンピュータで読み取り可能な非一時的な記録媒体に補助駆動装置制御プログラム1aを記憶させておき、この記録媒体から直接読み出して実行してもよい。また、外部サーバ等からクラウドコンピューティング方式やASP(application service provider)方式等で利用してもよい。
【0034】
制御情報記憶部42は、農作業用車両1の置かれている状態に応じて安定的な発進、走行および停止が行えるように補助駆動装置31を自動制御するための制御パターン情報を記憶するものである。本実施形態における制御情報記憶部42には、牽引車両2のブレーキ操作により発せられるブレーキ信号、農作業用車両1の走行速度、および被牽引車両3の前後方向の傾斜角度のうち少なくとも二つ以上の情報に基づき設定された制御パターン情報が記憶されている。
【0035】
本実施形態における制御パターン情報は、表1のように設定されている。なお、表1に記載されている速度の閾値等を含めた各数値は、例示であって、農作業用車両1の大きさや重量、被牽引車両3の種類等に応じて適宜設定可能な数値である。また、傾斜角度の閾値は自由に設定変更可能であり、本実施形態では5段階に設定しているが、例えば3段階に減らしたり、7段階以上に増やしてもよい。また、速度の閾値は、微速走行状態、低速走行状態、中速走行状態、高走行状態およびオーバースピード状態の5段階に設定されているが、前記オーバースピード状態未満は3段階以下や5段階以上に適宜設定変更することができる。
[表1]
【0036】
表1に示すように、制御パターンは、後退信号(進行方向)、ブレーキ信号、走行速度および被牽引車両3の前方に対する傾斜角度の組み合わせ毎に設定されている。ここで後退信号は、OFF状態とON状態の2通りあり、OFF状態の場合は前進状態、ON状態の場合は後退状態の場合を示す。また、ブレーキ信号は、OFF状態とON状態の2通りである。
【0037】
また、走行速度は、微速走行状態、低速走行状態、中速走行状態、高走行状態およびオーバースピード状態の5段階に設定されている。
【0038】
ここで微速走行状態は、停止状態と微速走行状態の間の走行状態であり、速度ゼロより速くかつ所定の下限速度以下の範囲の速度状態である。具体的には、速度ゼロより速くかつ時速1.5キロメートル以下に設定している。
【0039】
低速走行状態は、所定の下限速度より速く所定の1速中速度未満の範囲の速度状態である。1速中速度は、2速油圧モータ312が1速の場合における上限速度である1速上限速度よりも遅く前記下限速度よりも速い速度で適宜設定されるものであり、本実施形態では前記1速上限速度の時速15キロメートルと、前記下限速度の時速1.5キロメートルの約中間速度である時速7キロメートルに設定している。よって、本実施形態における低速走行状態は、時速1.5キロメートルより速くかつ時速7キロメートル未満の範囲に設定している。
【0040】
中速走行状態は、1速中速度より速く1速上限速度未満の範囲の速度状態であり、本実施形態では時速7キロメートルより速くかつ時速15キロメートル未満の範囲に設定している。
【0041】
高速走行状態は、所定の1速上限速度以上から所定の2速上限速度以下の速度範囲の走行状態である。本実施形態における2速油圧モータ312の2速に切り替えられた場合の上限速度は時速30キロメートルである。よって、本実施形態における高速走行状態では、時速15キロメートル以上でかつ時速30キロメートル以下に設定している。
【0042】
オーバースピード状態は、2速油圧モータ312の2速上限速度を超えた走行状態であり、本実施形態では、時速30キロメートルより速い速度である。このオーバースピード状態において、2速油圧モータ312は、補助駆動力およびブレーキ力が発揮できないニュートラル状態と同様のフリーラン状態である。
【0043】
また、速度ゼロ状態(停止状態)からブレーキを離した状態は、牽引車両2のブレーキ操作によって走行速度がゼロとなった停止状態からブレーキ信号が切断された状態として設定している。
【0044】
被牽引車両3の前方に対する傾斜角度は、本実施形態では、所定の上り傾斜角度以上の「上り傾斜状態」と、この上り傾斜状態よりも傾斜角度が緩やかな上り傾斜である「上り緩傾斜状態」と、傾斜角度ゼロを含み前記上り緩傾斜状態より小さく所定の下り傾斜角度より緩やかな下り傾斜である下り緩傾斜状態より大きい「平行状態」と、この平行状態より大きく所定の下り傾斜角度未満の「下り緩傾斜状態」と、前記下り傾斜角度以下の「下り傾斜状態」との5通りに設定している。
【0045】
本実施形態では、上り傾斜状態を+6度以上、上り緩傾斜状態を+6度未満から+2度より大きい範囲、平行状態を+2度以下から-2度以上の範囲、下り緩傾斜状態を-2度未満から-4度より大きい範囲、そして下り傾斜状態を-4度以下としている。
【0046】
次に、各条件における具体的な制御パターンについて、ブレーキ信号がON状態の場合について説明する。ブレーキ信号がON状態の場合は、主に、農作業用車両1を安定的に停止させるための設定である。
【0047】
前進または後退の走行状態においてブレーキ信号がON状態になった場合には、基本的には補助駆動装置31のブレーキ力を発生させる設定をしている。ただし、傾斜角度が所定の上り傾斜角度以上の上り傾斜状態である場合には、農作業用車両1にかかる重力によってブレーキがかかったように進行方向とは逆側の力が働く。そこで、農作業用車両1に急激な重力によるブレーキがかかり大きく揺れるなど、農作業用車両1が不安定な状態にならないように、前記ブレーキ信号を受信した時点において、傾斜角度が前記上り傾斜状態であるとともに、前記走行速度が速度ゼロより速くかつ所定の下限速度以下の範囲である微速走行状態である場合には、補助駆動装置31に対し進行方向へ駆動力を発生させるように設定している。本実施形態では、補助駆動装置31が発揮可能な最大の駆動力に対して約70%の駆動力を進行方向に対して発生させるように設定している。
【0048】
一方、微速走行状態よりも速い速度の低速走行状態および中速走行状態の場合は、微速走行状態に比べて進行方向への慣性力が強く働き、重力により進行方向とは逆方向に働く力の影響が少ないため、補助駆動装置31に対し駆動力を解除するニュートラル状態にさせるように設定している。
【0049】
また、傾斜角度が上り傾斜状態よりも緩やかな場合であって、高速走行状態のときにブレーキ信号がON状態になった場合、補助駆動装置31が発揮しうる最大のブレーキ力を発生させると農作業用車両1が前後に揺れる、いわゆるピッチングにより不安定になることがある。そこで、高速走行状態のときにブレーキ信号がON状態になった場合には、補助駆動装置31が発揮可能な最大のブレーキ力に対し50%以下のブレーキ力を発生させるように設定している。具体的には、補助駆動装置31の2速油圧モータ312が2速の場合1速の場合の最大ブレーキ力に対して最大で50%のブレーキ力を発揮することができ、その最大の50%のブレーキ力を発生させるように設定している。
【0050】
さらに、ブレーキ信号がON状態であって農作業用車両1が速度ゼロの状態(停止状態)を含む微速走行状態においては、傾斜によって農作業用車両1が下り方向に勝手に動かないように駆動力を発生させるように設定している。具体的には、前記微速走行状態には、以下の(1)~(3)の条件が設定されている。
(1)傾斜角度が所定の上り傾斜角度以上の上り傾斜状態である場合には、進行方向に対して駆動力を発生させる
(2)傾斜角度が所定の下り傾斜角度以下の下り傾斜状態である場合には、進行方向に対して逆方向の駆動力を発生させる
(3)傾斜角度が傾斜角度ゼロを含む前記上り傾斜状態より小さく前記下り傾斜状態より大きい範囲の平行状態では、進行方向に対して逆方向の駆動力を発生させるか、または、速度ゼロでは駆動力を解除するニュートラル状態に制御する。
【0051】
本実施形態では、(1)の条件において傾斜角度が+6度以上の上り傾斜状態では2速油圧モータ312が発揮可能な最大の駆動力を進行方向に対して発生させ、傾斜角度が+6度未満~+2度より大きい範囲の上り緩傾斜状態では最大の駆動力に対して約70%の駆動力を進行方向に対して発生させるように設定している。また、(2)の条件においては、傾斜角度が-4度以下の下り傾斜状態では最大の駆動力を進行方向に対して逆方向に発生させ、傾斜角度が-2度未満~-4度より大きい範囲の下り緩傾斜状態では、最大の駆動力に対して約70%の駆動力を進行方向に対して逆方向に発生させるように設定している。さらに、(3)の条件の平行状態においては、農作業用車両1には重力による力が殆どかからないため、最大の駆動力に対して約50%の駆動力を進行方向に対して逆方向に発生させるか、または、完全に停止した速度ゼロの場合になったときには駆動力を解除するニュートラル状態に制御するように設定している。
【0052】
なお、ブレーキフィーリングの好みに応じて、補助駆動装置31により進行方向に対して逆方向に駆動力を発生させない設定にすることもできる。
【0053】
次に、ブレーキ信号がOFF状態の場合についての設定を説明する。
【0054】
前進または後退でかつブレーキ信号OFFの場合、つまり農作業用車両1が走行状態である場合において微速走行状態および低速走行状態では、基本的に進行方向へ駆動力を発生させる設定にしている。具体的には、前進状態および後退状態のいずれの場合にも、補助駆動装置31が発揮可能な最大の駆動力に対して約100%の駆動力を発生させるように設定している。ただし、傾斜角度が下り傾斜状態の場合、つまり前進の場合は傾斜角度が-4度以下の場合、後退の場合は+6度以上の場合には、農作業用車両1にかかる重力によって傾斜面に沿って下る方向の力が働き、走行を補助する駆動力を必要としなくなる。この状態で駆動力によりさらに加速させると危険を伴うこともある。よって、駆動力を解除するニュートラル状態に制御するように設定している。
【0055】
なお、微速走行状態および低速走行状態における補助駆動装置31の駆動力は、一定値であるものに限定されるものではなく、補助駆動装置31の負担を軽減し機器寿命を延ばすため、次に説明する中速走行状態の場合と同様に、走行速度に反比例させて徐々に弱めるように設定してもよい。
【0056】
次に、中速走行状態における補助駆動装置31の駆動力は、走行速度に反比例させて、前記走行速度が速くなるに従い駆動力を徐々に弱めるように設定している。本実施形態では、中速走行状態における下限値である1速中限速度の時速7キロメートルの際には約100%の駆動力の駆動力を発生させ、それ以上の速度の場合は反比例するように徐々に駆動力を弱め、1速上限速度である時速15キロメートルのときには駆動力が約10%になるように設定している。
【0057】
また、高速走行状態のときには、慣性力によって安定的に走行可能なため、補助駆動装置31では、駆動力を約10%程度とするかまたは、ゼロとなってニュートラル状態に適宜切り替えることができるように設定している。
【0058】
また、牽引車両2のブレーキ操作によって走行速度がゼロとなった停止状態から前記ブレーキ信号が切断された場合、つまり発進時には発進をスムーズにするため、以下の(4)および(5)の条件により前記補助駆動装置31を制御するように設定している。
(4)前記傾斜角度が所定の下り傾斜角度以下の下り傾斜状態である場合には、駆動力を解除するニュートラル状態に制御する
(5)前記傾斜角度が前記下り傾斜角度より大きい場合には、進行方向に駆動力を発生させる。
【0059】
本実施形態において、(5)の条件の進行方向の駆動力は、最大の駆動力(100%)を発生させるように設定している。ただし、傾斜角度が進行方向に対して所定の下り傾斜角度以下の下り傾斜状態の場合は、他の条件の場合と同様に、農作業用車両1にかかる重力によって下り傾斜面に沿って下る力を受けて補助する駆動力が不要になるため、駆動力を解除するニュートラル状態に制御するように設定している。
【0060】
なお、オーバースピード状態においては、2速油圧モータ312が補助駆動力およびブレーキ力が発揮できないため、制御可能な速度域になるまで補助駆動装置31の制御を行わない。
【0061】
次に、演算処理手段5について説明する。演算処理手段5は、CPU(Central Processing Unit)等から構成されており、
図3に示すように、記憶手段4にインストールされた補助駆動装置制御プログラム1aを実行させることにより、コンピュータを、ブレーキ信号の有無を判別するブレーキ信号判別部51、走行速度を判別する走行速度判別部52、被牽引車両3の傾斜角度を判別する傾斜角度判別部53、後退信号の有無を判別する後退信号判別部54、および各部で判別された条件に基づき補助駆動装置31を制御する補助駆動制御部55として、機能させるようになっている。
【0062】
ブレーキ信号判別部51は、牽引車両2のブレーキ信号発信部21からブレーキ信号が発せられているか否かを判別する。本実施形態におけるブレーキ信号判別部51は、前記牽引車両2からブレーキ信号が発せられると判別した場合はブレーキ信号がON状態、ブレーキ信号が発せられていないと判別した場合はブレーキ信号がOFF状態と判別する。また、ブレーキ信号判別部51は、ブレーキ信号がON状態の場合にOFF状態に切り替わったか否かの判別も行う。
【0063】
走行速度判別部52は、農作業用車両1の走行速度を取得し、前記農作業用車両1が微速走行状態、低速走行状態、中速走行状態、高速走行状態、オーバースピード状態および速度ゼロの停止状態のいずれの状態であるかを判別するものである。本実施形態における走行速度判別部52は、被牽引車両3に設けられた速度センサ314により計測された走行速度を取得し、速度ゼロの場合を停止状態、速度ゼロより速くかつ時速1.5キロメートル以下の場合を微速走行状態、時速1.5キロメートルより速くかつ時速7キロメートル未満の範囲の場合を低速走行状態、時速7キロメートルより速くかつ時速15キロメートル未満の範囲の場合を中速走行状態、時速15キロメートル以上でかつ時速30キロメートル以下の範囲の場合を高速走行状態、時速30キロメートルを超える場合をオーバースピード状態と判別するようになっている。
【0064】
傾斜角度判別部53は、被牽引車両3に設置された車両傾斜センサ32から被牽引車両3の前後方向の傾斜角度を取得し、前記被牽引車両3の前方に対する傾斜角度が+6度以上の上り傾斜状態、+6度未満~+2度より大きい範囲の上り緩傾斜状態、+2度~-2度の範囲の平行状態、-2度未満~-4度より大きい範囲の下り緩傾斜状態および-4度以下の下り傾斜状態のいずれかであるかを判別するようになっている。
【0065】
後退信号判別部54は、牽引車両2の後退信号発信部22から後退信号が発せられているか否かを判別し、前進状態か後退状態かを判別する。本実施形態における後退信号判別部54は、後退信号が発せられていない場合は前進状態、後退信号が発せられている場合は後退状態と判別するようになっている。
【0066】
補助駆動制御部55は、ブレーキ信号判別部51、走行速度判別部52、傾斜角度判別部53および後退信号判別部54の判別結果に応じて、表1に示すように、制御パターン情報として予め記憶された条件で前記補助駆動装置31の可変容量型油圧ポンプ311、2速油圧モータ312および2速切替部313を制御するものである。本実施形態における補助駆動制御部55は、各判別部から判別結果を取得するとともに、制御情報記憶部42に記憶した制御パターン情報を取得して、前記制御パターン情報に基づき自動的に制御信号を発信するようになっている。
【0067】
コントローラー6は、補助駆動装置31を操作するものであり、本実施形態では、前記補助駆動装置制御プログラム1aを実行させる自動運転モードにするための自動ボタン61と、手動により補助駆動装置31をニュートラルモードにするためのニュートラルボタン62と、手動により補助駆動装置31を後退駆動モードにするための手動後退ボタン63とを有する。
【0068】
自動ボタン61は、補助駆動装置制御プログラム1aを実行して自動運転モードにするためのプッシュボタン(押しボタンスイッチ)である。自動ボタン61は、押されることで制御信号を発信する。演算処理手段5は、自動ボタン61からの制御信号を受信すると補助駆動装置制御プログラム1aを実行させるようになっている。
【0069】
ニュートラルボタン62は、農作業用車両1を停車して車両から離れる時などにおいて補助駆動装置31を手動によりニュートラルモードにするためのプッシュボタンであり、本実施形態では、押されると補助駆動装置31をニュートラル状態に制御する制御信号を発信する。演算処理手段5は、自動運転モードのときにニュートラルボタン62から発せられた制御信号を受信すると自動運転モードによる実行を停止するとともに、補助駆動装置31をニュートラル状態に制御するようになっている。
【0070】
手動後退ボタン63は、ぬかるんだ状態などから脱出したいときなどにおいて意図的に補助駆動装置31を後退駆動モードにするためのプッシュボタンであり、本実施形態では、押されると補助駆動装置31を後退駆動状態に制御する制御信号を発信する。演算処理手段5は、手動後退ボタン63から発せられた制御信号を受信すると、自動運転モードやニュートラルモードから後退駆動モードに切り替えて、補助駆動装置31を後退駆動状態に制御するようになっている。
【0071】
なお、コントローラー6の入力手段はプッシュボタンに限定されるものではなく、トグルスイッチなどの各種スイッチやタッチパネル等の各入力手段から適宜選択してもよい。また、コントローラー6が備える各ボタン(スイッチ)の種類は自動ボタン61等に限定されるものではなく、補助駆動装置31の制御の開始および停止を入力操作するためのON/OFFボタンや、誤って自動ボタン61等を押して意図せず補助駆動装置31が駆動したりニュートラル状態にならないように、各ボタンの機能を無効化するロックボタンなどが設けられていてもよい。
【0072】
次に、本実施形態の補助駆動装置制御ユニット33、農作業用車両1および補助駆動装置制御プログラム1aにおける各構成の作用について説明する。
【0073】
まず、
図4に示すように、牽引車両2が走行速度ゼロの停止状態からブレーキを解除操作することによって発進させる場合について説明する。なお、ブレーキ信号、走行速度、傾斜角度および後退信号の判別の順序は、以下に説明する順序に限定されるものではなく、同様の結果が得られる順序であれば適宜変更してもよい。
【0074】
コントローラー6の自動ボタン61が押されることで演算処理手段5による補助駆動装置制御プログラム1aにおける自動運転モードの実行が開始される。自動運転モードの実行が開始されると、補助駆動装置制御ユニット33では、走行速度判別部52が走行速度がゼロの停止状態か否かを判別する(S1)。走行速度がゼロの停止状態と判別された場合は(S1:YES)、次にブレーキ信号判別部51がブレーキ信号がON状態からOFF状態へ切り替わったか否かを判別する(S2)。
【0075】
ここでブレーキ信号がON状態からOFF状態へ切り替わったと判別された場合は(S2:YES)、農作業用車両1を停止状態から発進を開始した状態である。そこで、次に農作業用車両1の進行方向を確認するため、後退信号判別部54が後退信号の有無を判別する(S3)。後退信号が無いと判別された場合は(S3:後退信号無し)、農作業用車両1は前進状態である。そして、傾斜角度判別部53が、被牽引車両3の走行状態を判別する(S4)。具体的には、前進状態の場合は、傾斜角度が-4度以下の下り傾斜状態か否かを判別する。
【0076】
ここで、傾斜角度が-4度以下の下り傾斜状態であると判別された場合は(S4:YES)、補助駆動制御部55は、補助駆動装置31の駆動力を解除してニュートラル状態に制御する制御信号を発信する(S6)。農作業用車両1には重力によって傾斜面に沿った進行方向への力を受けているため、駆動力を発生させなくてもスムーズな発進ができる。一方、傾斜角度が-4度未満である場合は(S4:NO)、補助駆動制御部55は、表1の設定に基づき、進行方向(前進方向)への駆動力を発生させるように制御信号を発信する(S7)。具体的には、補助駆動装置31の2速油圧モータ312が発揮可能な最大の駆動力(100%)で駆動させる制御信号を発信する。これにより、緩やかな上り傾斜面に置かれた農作業用車両1をスムーズに発進させることができる。
【0077】
一方、後退信号判別部54が後退信号が有ると判別した場合は(S3:後退信号有り)、農作業用車両1は後退状態である。そこで、傾斜角度判別部53は、被牽引車両3の前後方向の傾斜角度が+6度以上であるか否かを判別する(S5)。ここで傾斜角度が+6度以上の上り傾斜状態であると判別した場合には(S5:YES)、補助駆動制御部55は、表1の設定に基づき、補助駆動装置31の駆動力を解除してニュートラル状態に制御する制御信号を発信する(S6)。一方、傾斜角度が+6度未満である場合には、補助駆動制御部55は、表1の設定に基づき、進行方向(後退方向)への駆動力を発生させるように補助駆動装置31の2速油圧モータ312が発揮可能な最大の駆動力(100%)で駆動させる制御信号を発信する(S8)。
【0078】
次に、発進後は、走行速度判別部52が走行速度がゼロの停止状態ではないと判別して、走行状態処理に進む(S1:NO)。
図5に示すように、走行状態処理では、ブレーキ信号判別部51がブレーキ信号の有無を判別する(S11)。ブレーキ信号が無いと判別した場合は(S11:ブレーキ信号無し)、走行速度判別部52が走行速度を判別する。まず、走行速度判別部52がオーバースピード状態か否かを判別する(S12)。具体的には、走行速度が時速30キロメートルを超えているか否かを判別する。ここで走行速度がオーバースピード状態であると判別した場合は(S12:YES)、補助駆動装置31の2速油圧モータ312は、補助駆動力およびブレーキ力を発揮させることができないため、補助駆動制御部55は、フリーラン状態になる制御信号を発信して、補助駆動装置31をフリーラン状態にさせる。そして、S11の処理に戻り走行状態処理を続ける。
【0079】
一方、走行速度判別部52がオーバースピード状態ではないと判別した場合は(S12:NO)、次に高速走行状態か否かを判別する(S13)。ここで走行速度が高速走行状態であると判別した場合は(S13:YES)、後述するように、
図6に示す高速走行処理に進む。
【0080】
一方、走行速度判別部52が高速走行状態ではないと判別した場合は(S13:NO)、次に中速走行状態か否かを判別する(S14)。ここで走行速度が中速走行状態であると判別した場合は(S14:YES)、後述するように、
図7に示す中速走行処理に進む。
【0081】
一方、走行速度判別部52が中速走行状態ではないと判別した場合は(S14:NO)、次に低速走行状態か否かを判別する(S15)。ここで走行速度が低速走行状態であると判別した場合は(S15:YES)、後述するように、
図8に示す低速走行処理に進む。
【0082】
一方、走行速度判別部52が低速走行状態ではないと判別した場合は(S15:NO)、微速走行状態である。よって、次に後退信号判別部54が後退信号の有無を判別する(S16)。そして、後退信号が無いとして進行方向が前進状態である場合は(S16:後退信号無し)、傾斜角度判別部53が被牽引車両3の前後方向の傾斜角度が-4度以下の下り傾斜状態か否かを判別する(S17)。
【0083】
傾斜角度が-4度以下の下り傾斜状態であると判別された場合は(S17:YES)、補助駆動制御部55は、表1の設定に基づき、駆動力を必要としないものとして、補助駆動装置31の駆動力を解除してニュートラル状態に制御する制御信号を発信する(S18)。一方、傾斜角度が-4度未満であると判別された場合は(S17:NO)、補助駆動制御部55は、表1の設定に基づき、進行方向(前進方向)への駆動力を発生させるように制御信号を発信する(S19)。本実施形態では、補助駆動装置31の2速油圧モータ312が発揮可能な最大の駆動力の100%の駆動力で駆動させる制御信号を発信する。
【0084】
これに対し、後退信号判別部54が後退信号が有ると判別した場合は(S16:後退信号有り)、傾斜角度判別部53が被牽引車両3の前後方向の傾斜角度が+6度以上の上り傾斜状態か否かを判別する(S20)。ここで傾斜角度が+6度以上の上り傾斜状態であると判別された場合は(S20:YES)、補助駆動制御部55は、表1の設定に基づき、駆動力を必要としないものとして、補助駆動装置31の駆動力を解除してニュートラル状態に制御する制御信号を発信する(S18)。一方、傾斜角度が+6度未満であると判別された場合は(S20:NO)、補助駆動制御部55は、表1の設定に基づき、進行方向(後退方向)への駆動力を発生させるように、補助駆動装置31の2速油圧モータ312が発揮可能な最大の駆動力の100%の駆動力で駆動させる制御信号を発信する(S19)。
【0085】
一方、走行速度判別部52が走行速度を高速走行状態である時速15キロメートル以上であると判別した場合は(S13:YES)、高速走行処理に進む。なお、高速走行状態において、2速油圧モータ312が1速の場合は駆動力を発揮することができないため、図示しないが、2速切替部313が2速油圧モータ312を1速から2速に切り替える。
【0086】
高速走行処理では、
図6に示すように、後退信号判別部54が後退信号の有無を判別する(S21)。そして、後退信号が無い(前進状態)と判別された場合は(S21:後退信号無し)、傾斜角度判別部53により傾斜角度が-4度以下の下り傾斜状態か否かを判別する(S22)。ここで、傾斜角度が-4度以下の下り傾斜状態であると判別された場合は(S22:YES)、補助駆動制御部55が、表1の設定に基づき、補助駆動装置31の駆動力を解除してニュートラル状態に制御する制御信号を発信する(S24)。一方、傾斜角度が-4度未満であると判別された場合は(S22:NO)、補助駆動制御部55が、表1の設定に基づき、補助駆動装置31の駆動力を解除してニュートラル状態または進行方向(前進方向)に対して2速油圧モータ312が発揮可能な最大の駆動力の約10%の駆動力で駆動させる(S25)。
【0087】
また、後退信号判別部54が後退信号が有る(後退状態)と判別された場合は(S21:後退信号有り)、傾斜角度判別部53により傾斜角度が+6度以上の上り傾斜状態か否かを判別する(S23)。ここで、傾斜角度が+6度以上の上り傾斜状態であると判別された場合は(S23:YES)、補助駆動制御部55が、表1の設定に基づき、補助駆動装置31の駆動力を解除してニュートラル状態に制御する制御信号を発信する(S24)。一方、傾斜角度が+6度以上未満であると判別された場合は(S23:NO)、補助駆動制御部55が、表1の設定に基づき、補助駆動装置31の駆動力を解除してニュートラル状態または進行方向(後退方向)に対して2速油圧モータ312が発揮可能な最大の駆動力の約10%の駆動力で駆動させる(S25)。
【0088】
次に、走行速度判別部52が走行速度を中速走行状態であると判別した場合は(S14:YES)、中速走行処理に進み、
図7に示すように、後退信号判別部54が後退信号の有無を判別する(S31)。そして、後退信号が無い(前進状態)と判別された場合は(S31:後退信号無し)、傾斜角度判別部53により傾斜角度が-4度以下の下り傾斜状態か否かを判別する(S32)。ここで、傾斜角度が-4度以下の下り傾斜状態であると判別された場合は(S32:YES)、補助駆動制御部55が、表1の設定に基づき、補助駆動装置31の駆動力を解除してニュートラル状態に制御する制御信号を発信する(S34)。一方、傾斜角度が-4度未満であると判別された場合は(S32:NO)、補助駆動制御部55が、表1の設定に基づき、進行方向(前進方向)に対し2速油圧モータ312が発揮可能な最大の駆動力の100%から約10%の範囲で、走行速度に反比例した駆動力を発生させるように制御する制御信号を発信する(S35)。なお、図示しないが、2速油圧モータ312が2速の場合は、発揮可能な最大の駆動力の100%の駆動力を発揮することができないため、2速切替部313が2速油圧モータ312を2速から1速に切り替える。
【0089】
また、後退信号判別部54が後退信号が有る(後退状態)と判別された場合は(S31:後退信号有り)、傾斜角度判別部53により傾斜角度が+6度以上の上り傾斜状態か否かを判別する(S33)。ここで、傾斜角度が+6度以上の上り傾斜状態であると判別された場合は(S33:YES)、補助駆動制御部55が、表1の設定に基づき、補助駆動装置31の駆動力を解除してニュートラル状態に制御する制御信号を発信する(S34)。一方、傾斜角度が+6度以上未満であると判別された場合は(S33:NO)、補助駆動制御部55が、表1の設定に基づき、進行方向(後退方向)に対し2速油圧モータ312が発揮可能な最大の駆動力の100%から約10%の範囲で、走行速度に反比例した駆動力を発生させるように制御する制御信号を発信する(S35)。
【0090】
次に、走行速度判別部52が走行速度を低速走行状態であると判別した場合は(S15:YES)、低速走行処理に進み、
図8に示すように、後退信号判別部54が後退信号の有無を判別する(S41)。そして、後退信号が無い(前進状態)と判別された場合は(S41:後退信号無し)、傾斜角度判別部53により傾斜角度が-4度以下の下り傾斜状態か否かを判別する(S42)。ここで、傾斜角度が-4度以下の下り傾斜状態であると判別された場合は(S42:YES)、補助駆動制御部55が、表1の設定に基づき、補助駆動装置31の駆動力を解除してニュートラル状態に制御する制御信号を発信する(S44)。一方、傾斜角度が-4度未満であると判別された場合は(S42:NO)、補助駆動制御部55が、表1の設定に基づき、進行方向(前進方向)へ2速油圧モータ312が発揮可能な最大の駆動力の100%の駆動力で駆動させる制御信号を発信する(S45)。
【0091】
また、後退信号判別部54が後退信号が有る(後退状態)と判別された場合は(S41:後退信号有り)、傾斜角度判別部53により傾斜角度が+6度以上の上り傾斜状態か否かを判別する(S43)。ここで、傾斜角度が+6度以上の上り傾斜状態であると判別された場合は(S43:YES)、補助駆動制御部55が、表1の設定に基づき、補助駆動装置31の駆動力を解除してニュートラル状態に制御する制御信号を発信する(S44)。一方、傾斜角度が+6度以上未満であると判別された場合は(S43:NO)、補助駆動制御部55が、表1の設定に基づき、進行方向(後退方向)へ2速油圧モータ312が発揮可能な最大の駆動力の100%の駆動力で駆動させる制御信号を発信する(S45)。
【0092】
次に、走行状態処理に戻り、
図5に示すように、ブレーキ信号が有ると判別された場合は(S11:ブレーキ信号有り)、農作業用車両1の停止を安定させるためのブレーキ処理に進む。ブレーキ処理では、
図9に示すように、走行速度判別部52がブレーキ信号を受信した時点における走行速度が走行速度判別部52がオーバースピード状態か否かを判別する(S51)。ここで走行速度がオーバースピード状態であると判別した場合は(S51:YES)、補助駆動制御部55がフリーラン状態になる制御信号を発信して、補助駆動装置31をフリーラン状態にさせる。そして、走行状態処理に戻り処理を続ける。
【0093】
一方、走行速度判別部52がオーバースピード状態ではないと判別した場合は(S51:NO)、次に高速走行状態か否かを判別する(S52)。ここで走行速度が高速走行状態であると判別した場合は(S52:YES)、後述するように、
図11に示す高速ブレーキ処理に進む。
【0094】
一方、走行速度判別部52が高速走行状態ではないと判別した場合は(S52:NO)、次に中速走行状態か否かを判別する(S53)。ここで走行速度が中速走行状態であると判別した場合は(S53:YES)、後述するように、
図12に示す中速ブレーキ処理に進む。
【0095】
一方、走行速度判別部52が中速走行状態ではないと判別した場合は(S53:NO)、次に低速走行状態か否かを判別する(S54)。ここで走行速度が低速走行状態であると判別した場合は(S54:YES)、後述するように、
図13に示す低速ブレーキ処理に進む。
【0096】
一方、走行速度判別部52が低速走行状態ではないと判別した場合は(S54:NO)、
図10に示す微速ブレーキ処理に進む。微速ブレーキ処理では、傾斜角度判別部53により傾斜角度が+6度以上、+6度未満から+2度より大きい範囲、+2度以下から-2度以上の範囲、-2度未満から-4度より大きい範囲、および-4度以下のいずれかであるかを判別する(S61)。
【0097】
ここで、傾斜角度が+6度以上と判別された場合は(S61:+6度以上)、農作業用車両1が重力によって後退しないように、補助駆動制御部55が、表1の設定に基づき、補助駆動装置31に前進方向への駆動力を発生させる制御信号を発信する(S62)。本実施形態では、補助駆動装置31の2速油圧モータ312が発揮可能な最大の駆動力(100%)で前進駆動させる制御信号を発信する。
【0098】
また、傾斜角度が+6度未満から+2度より大きい範囲と判別された場合も(S61:+6度~+2度)、同様に農作業用車両1が重力によって後退しないように、補助駆動制御部55が、表1の設定に基づき、補助駆動装置31に前進方向への駆動力を発生させる制御信号を発信する(S63)。ただし、傾斜角度が比較的緩やかになるため、本実施形態では補助駆動装置31の2速油圧モータ312が発揮可能な最大の駆動力に対して約70%の駆動力で前進駆動させる制御信号を発信する。
【0099】
一方、傾斜角度が-2度未満から-4度より大きい範囲と判別された場合は(S61:-2度~-4度)、農作業用車両1は下り傾斜面に置かれた状態である。よって、農作業用車両1が重力によって前進しないように、補助駆動制御部55が、表1の設定に基づき、補助駆動装置31に後退方向への駆動力を発生させる制御信号を発信する(S64)。本実施形態では補助駆動装置31の2速油圧モータ312が発揮可能な最大の駆動力に対して約70%の後退駆動力で駆動させる制御信号を発信する。
【0100】
また、傾斜角度が-4度以下と判別された場合も(S61:-4度以下)、同様に農作業用車両1が重力によって前進しないように、補助駆動制御部55が、表1の設定に基づき、補助駆動装置31に後退方向への駆動力を発生させる制御信号を発信する(S65)。ただし、傾斜角度が急傾斜になるので、本実施形態では、補助駆動装置31の2速油圧モータ312が発揮可能な最大の駆動力(100%)で後退駆動させる制御信号を発信する。
【0101】
一方、傾斜角度が+2度以下から-2度以上の範囲の平行状態と判別された場合は(S61:+2度~-2度)、後退信号判別部54が後退信号の有無を判別する(S66)。ここで、後退信号が無い(前進状態)と判別された場合は(S66:後退信号無し)、農作業用車両1が動かないように、補助駆動制御部55が、表1の設定に基づき、補助駆動装置31に対し進行方向に対して逆方向、つまり後退方向の駆動力を発生させる制御信号を発信する(S67)。本実施形態において、進行方向に対して逆方向(後退方向)の駆動力を発生させる場合は、補助駆動装置31の2速油圧モータ312が発揮可能な最大の駆動力に対して約50%の駆動力で進行方向とは逆方向(後退方向)に駆動させる制御信号を発信する。
【0102】
そして、走行速度判別部52が速度ゼロの停止状態になったか否かを判別する(S68)。ここで、停止状態ではないと判別された場合は(S68:NO)、S68に戻り、走行速度判別部52が走行速度の監視を続ける。一方、走行度判別部52が、停止状態である判別された場合は(S68:YES)、駆動力を解除するニュートラル状態に制御する制御信号を発信する(S69)。
【0103】
また、後退信号判別部54によって、後退信号が有る(後退状態)と判別された場合は(S66:後退信号有り)、農作業用車両1が動かないように、補助駆動制御部55が、表1の設定に基づき、2速油圧モータ312が発揮可能な最大の駆動力に対して約50%の駆動力で進行方向とは逆方向(前進方向)に駆動させる制御信号を発信する(S70)。そして、走行速度判別部52が速度ゼロの停止状態になったか否かを判別し(S68)、停止状態ではないと判別された場合は(S68:NO)、走行速度判別部52が走行速度の監視を続け、停止状態である判別された場合は(S68:YES)、駆動力を解除するニュートラル状態に制御する制御信号を発信する(S69)。
【0104】
次に、高速ブレーキ処理では、
図11に示すように、後退信号判別部54が後退信号の有無を判別する(S71)。後退信号が無い(前進状態)と判別された場合は(S71:後退信号無し)、傾斜角度判別部53により傾斜角度が+6度以上の上り傾斜状態か否かを判別する(S72)。ここで、傾斜角度が+6度未満であると判別された場合は(S72:NO)、補助駆動制御部55が、表1の設定に基づき、補助駆動装置31の2段階ブレーキ313を制御してブレーキ力を発生させる制御信号を送信する(S75)。そして、補助駆動装置31の2段階ブレーキ313が発揮可能な最大のブレーキ力の50%のブレーキ力(2速における最大のブレーキ力)を発生させる制御信号を発信する。これにより、高速走行状態において、農作業用車両1の停止を安定させることができる。
【0105】
一方、傾斜角度が+6度以上の上り傾斜状態であると判別された場合は(S72:YES)、農作業用車両1にかかる重力をブレーキ力として利用することができるため、補助駆動制御部55が、表1の設定に基づき、補助駆動装置31の駆動力を解除してニュートラル状態に制御する制御信号を送信する(S74)。
【0106】
また、後退信号が有る(後退状態)と判別された場合は(S71:後退信号有り)、傾斜角度判別部53により傾斜角度が-4度以下の下り傾斜状態か否かを判別する(S73)。ここで、傾斜角度が-4度より大きいと判別された場合は(S73:NO)、補助駆動制御部55が、表1の設定に基づき、補助駆動装置31の2段階ブレーキ313が発揮可能な最大のブレーキ力の50%のブレーキ力(2速における最大のブレーキ力)を発生させる制御信号を発信する(S75)。一方、傾斜角度が-4度以下であると判別された場合は(S73:YES)、補助駆動制御部55が、表1の設定に基づき、重力によるブレーキ力を利用するために補助駆動装置31の駆動力を解除してニュートラル状態に制御する制御信号を送信する(S74)。
【0107】
次に、中速ブレーキ処理では、
図12に示すように、後退信号判別部54が後退信号の有無を判別する(S81)。後退信号が無い(前進状態)と判別された場合は(S81:後退信号無し)、傾斜角度判別部53により傾斜角度が+6度以上の上り傾斜状態か否かを判別する(S82)。ここで、傾斜角度が+6度未満であると判別された場合は(S82:NO)、補助駆動制御部55が、表1の設定に基づき、補助駆動装置31の2段階ブレーキ313を制御して2段階ブレーキ313が発揮可能な最大のブレーキ力(100%のブレーキ力)を発生させる制御信号を送信する(S85)。
【0108】
一方、傾斜角度が+6度以上の上り傾斜状態であると判別された場合は(S82:YES)、農作業用車両1にかかる重力をブレーキ力として利用することができるため、補助駆動制御部55が、表1の設定に基づき、補助駆動装置31の駆動力を解除してニュートラル状態に制御する制御信号を送信する(S84)。
【0109】
また、後退信号が有る(後退状態)と判別された場合は(S81:後退信号有り)、傾斜角度判別部53により傾斜角度が-4度以下の下り傾斜状態か否かを判別する(S83)。ここで、傾斜角度が-4度より大きいと判別された場合は(S83:NO)、補助駆動制御部55が、表1の設定に基づき、補助駆動装置31の2段階ブレーキ313が圃場などの状況に応じて予め設定されたブレーキ力、例えば、発揮可能な最大のブレーキ力の50%~100%の範囲のブレーキ力を発生させる制御信号を発信する(S86)。一方、傾斜角度が-4度以下であると判別された場合は(S83:YES)、補助駆動制御部55が、表1の設定に基づき、重力によるブレーキ力を利用するために補助駆動装置31の駆動力を解除してニュートラル状態に制御する制御信号を送信する(S84)。なお、傾斜角度が-4度より大きいと判別された場合は(S83:NO)のブレーキ力は、減速される速度に応じて50%~100%の範囲で徐々にブレーキ力を高めるようにしてもよい。
【0110】
次に、低速ブレーキ処理では、
図13に示すように、後退信号判別部54が後退信号の有無を判別する(S91)。後退信号が無い(前進状態)と判別された場合は(S91:後退信号無し)、傾斜角度判別部53により傾斜角度が+6度以上の上り傾斜状態か否かを判別する(S92)。ここで、傾斜角度が+6度未満であると判別された場合は(S92:NO)、補助駆動制御部55が、表1の設定に基づき、補助駆動装置31の2段階ブレーキ313を制御して2段階ブレーキ313が発揮可能な最大のブレーキ力(100%のブレーキ力)を発生させる制御信号を送信する(S95)。
【0111】
一方、傾斜角度が+6度以上の上り傾斜状態であると判別された場合は(S92:YES)、重力による力が急ブレーキとなって農作業用車両1が不安定な状態にならないように、補助駆動制御部55が、表1の設定に基づき、進行方向(前進方向)への駆動力を発生させる制御信号を発信する(S94)。本実施形態では、補助駆動装置31の2段階ブレーキ313が発揮可能な最大のブレーキ力の約70%の駆動力で駆動させる制御信号を発信する。
【0112】
一方、後退信号が有る(後退状態)と判別された場合は(S91:後退信号有り)、傾斜角度判別部53により傾斜角度が-4度以下の下り傾斜状態か否かを判別する(S93)。ここで、傾斜角度が-4度より大きいと判別された場合は(S93:NO)、補助駆動制御部55が、表1の設定に基づき、補助駆動装置31の2段階ブレーキ313を制御して2段階ブレーキ313が発揮可能な最大のブレーキ力(100%のブレーキ力)を発生させる制御信号を送信する(S95)。これに対し、傾斜角度が-4度以下であると判別された場合は(S93:YES)、重力による力が急ブレーキとなって農作業用車両1が不安定な状態にならないように、補助駆動制御部55が、表1の設定に基づき、進行方向(後退方向)への駆動力を発生させる制御信号を発信する(S96)。本実施形態では、補助駆動装置31の2段階ブレーキ313が発揮可能な最大のブレーキ力の約70%の駆動力で駆動させる制御信号を発信する。
【0113】
補助駆動装置31は、補助駆動装置制御ユニット33から受信した制御信号に応じて2速油圧モータ312および2段階ブレーキ313が作動する。これにより農作業用車両1は、安定した発進、走行、停止を行うことができる。
【0114】
コントローラー6のニュートラルボタン62が押されると、補助駆動装置制御プログラム1aにおける自動運転モードの実行が停止するとともに、補助駆動装置31がニュートラル状態に制御される。
【0115】
以上のような本実施形態の補助駆動装置制御ユニット33、農作業用車両1および補助駆動装置制御プログラム1aによれば、以下の効果を奏することができる。
1.牽引車両2のブレーキ操作により発せられるブレーキ信号、農作業用車両1の走行速度、および前記被牽引車両3の前後方向の傾斜角度に基づき農作業用車両1の置かれている状況を自動判別して、補助駆動装置31を制御することにより発進、走行、停止を安定的に行うことができる。
2.ブレーキ信号を受信した時点において微速走行状態および低速走行状態で、かつ上り傾斜状態に有る場合は、補助駆動装置31に進行方向への駆動力を発生させることで、農作業用車両1の停止動作を安定させることができる。
3.ブレーキ信号を受信した時点において低速走行状態よりも速い速度の走行状態で、かつ上り傾斜状態に有る場合は、補助駆動装置31をニュートラル状態にすることで、農作業用車両1の停止動作を安定させることができる。
4.ブレーキ信号を受信した時点において高速走行状態で、かつ上り傾斜角度未満の緩やかな傾斜または下り傾斜状態の場合は、補助駆動装置31に2速状態の2速油圧モータ312により発揮可能な最大のブレーキ力である50%以下のブレーキ力を発生させることで、従来の1速のみの油圧モータではブレーキ力を発揮できなかった高速走行状態であってもブレーキ力を発揮することができ、また急ブレーキ状態による農作業用車両1の不安定な挙動を抑制することができる。
5.停止状態の時に被牽引車両3の置かれた傾斜面の傾斜角度に応じて、補助駆動装置31に駆動力を発生させることで、重力により勝手に動き出すのを防止することができる。
6.発進時における被牽引車両3の傾斜角度に応じて補助駆動装置31の駆動力を発生させることで、スムーズな発進を行うことができる。
7.被牽引車両3の傾斜角度を検出する車両傾斜センサ32を、牽引車両2の後輪軸と、前記被牽引車両3のスイングアーム34のピボット軸35との前後中間位置またはその少し前方に配置することで、凹凸のある路面や圃場を走行する際に生じる振動による僅かな傾きの影響を抑制することができる。
8.コントローラー6の自動ボタン61によるボタン操作によって補助駆動装置制御プログラム1aを自動運転モードに切り替えることができ、走行速度や傾斜角度等の状況に応じて補助駆動装置31の自動制御が行われるため、オペレータは補助駆動装置31の操作を意識する必要がなくなり、牽引車両2の運転操作や被牽引車両3による散布操作等に集中することができる。
【0116】
なお、本発明に係る補助駆動装置制御ユニット、農作業用車両および補助駆動装置制御プログラムは、前述した実施形態に限定されるものではなく、適宜変更することができる。例えば、補助駆動装置31の駆動力は、可変容量型油圧ポンプ311によるものに限定されるものではなく、電気モータや内燃機関等から得るようにしてもよい。
【符号の説明】
【0117】
1 農作業用車両
1a 補助駆動装置制御プログラム
2 牽引車両
3 被牽引車両
4 記憶手段
5 演算処理手段
6 コントローラー
21 ブレーキ信号発信部
22 後退信号発信部
31 補助駆動装置
32 車両傾斜センサ
33 補助駆動装置制御ユニット
34 スイングアーム
35 ピボット軸
41 プログラム記憶部
42 制御情報記憶部
51 ブレーキ信号判別部
52 走行速度判別部
53 傾斜角度判別部
54 後退信号判別部
55 補助駆動制御部
61 自動ボタン
62 ニュートラルボタン
63 手動後退ボタン
311 可変容量型油圧ポンプ
312 2速油圧モータ
313 2速切替部
314 速度センサ