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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-18
(45)【発行日】2024-06-26
(54)【発明の名称】脳移行性リガンド及び薬物担体
(51)【国際特許分類】
   A61K 47/69 20170101AFI20240619BHJP
   A61K 47/40 20060101ALI20240619BHJP
   A61K 47/61 20170101ALI20240619BHJP
   A61K 47/56 20170101ALI20240619BHJP
   A61K 47/59 20170101ALI20240619BHJP
   A61K 45/00 20060101ALN20240619BHJP
   A61P 25/00 20060101ALN20240619BHJP
   A61P 43/00 20060101ALN20240619BHJP
【FI】
A61K47/69
A61K47/40
A61K47/61
A61K47/56
A61K47/59
A61K45/00
A61P25/00
A61P43/00 105
【請求項の数】 18
(21)【出願番号】P 2020562498
(86)(22)【出願日】2019-12-27
(86)【国際出願番号】 JP2019051421
(87)【国際公開番号】W WO2020138421
(87)【国際公開日】2020-07-02
【審査請求日】2022-12-20
(31)【優先権主張番号】P 2018245538
(32)【優先日】2018-12-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2019084043
(32)【優先日】2019-04-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】504159235
【氏名又は名称】国立大学法人 熊本大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000231453
【氏名又は名称】日本食品化工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100102015
【弁理士】
【氏名又は名称】大澤 健一
(72)【発明者】
【氏名】有馬 英俊
(72)【発明者】
【氏名】本山 敬一
(72)【発明者】
【氏名】東 大志
(72)【発明者】
【氏名】小野寺 理沙子
(72)【発明者】
【氏名】横山 龍馬
【審査官】池田 百合香
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-103811(JP,A)
【文献】国際公開第2016/199892(WO,A1)
【文献】前田有紀、ほか8名,ニーマン・ピック病C型治療を企図したラクトース修飾シクロデキストリンのin vivo評価,日本薬学会第138年会要旨集,2018年03月25日,演題番号27W-am12
【文献】横山龍馬、ほか3名,脳移行型薬物キャリアの構築を指向したラクトース修飾シクロデキストリンの可能性評価,第35回日本DDS学会学術集会プログラム予稿集,2019年06月15日,演題番号2-3-11
【文献】深浦まど香、ほか20名,ニーマンピック病C型における2-ヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリン脳室内投与療法の最適化,医療薬学フォーラム2018 第26回クリニカルファーマシンポジウム講演要旨集,2018年07月24日,演題番号S17-3
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/00 ~ 33/44
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ラクトースで修飾されたシクロデキストリン又はその誘導体、及び薬物を含む該薬物を脳内に送達するための医薬組成物であって、前記ラクトースで修飾されたシクロデキストリン又はその誘導体は、ラクトース修飾β-シクロデキストリン、ラクトース修飾ヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリン、及びラクトース修飾デンドリマー/グルクロニル-β-シクロデキストリンからなる群より選ばれ、かつ、前記薬物の血液脳関門透過性を増加させるために含有されることを特徴とする医薬組成物。
【請求項2】
前記ラクトースで修飾されたシクロデキストリン又はその誘導体はラクトース修飾デンドリマー/グルクロニル-β-シクロデキストリンであって、前記デンドリマーがポリアミドアミンデンドリマーである、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
前記ラクトースで修飾されたシクロデキストリン又はその誘導体は、ラクトース修飾デンドリマー/グルクロニル-β-シクロデキストリンであって、前記ラクトース修飾デンドリマー/グルクロニルグルコシル-β-シクロデキストリンにおけるデンドリマーに対するシクロデキストリンの置換度が、1~10である、請求項1又は2に記載の医薬組成物。
【請求項4】
前記ラクトースで修飾されたシクロデキストリン又はその誘導体におけるシクロデキストリン及び/又はデンドリマーに対するラクトースの置換度が、1以上である、請求項1~のいずれか一つに記載の医薬組成物。
【請求項5】
ラクトースで修飾されたシクロデキストリン又はその誘導体からなる脳内への薬物送達用担体であって、前記ラクトースで修飾されたシクロデキストリン又はその誘導体は、ラクトース修飾β-シクロデキストリン、ラクトース修飾ヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリン、及びラクトース修飾デンドリマー/グルクロニル-β-シクロデキストリンからなる群より選ばれる薬物送達用担体
【請求項6】
前記ラクトースで修飾されたシクロデキストリン又はその誘導体は、ラクトース修飾デンドリマー/グルクロニル-β-シクロデキストリンであって、前記デンドリマーがポリアミドアミンデンドリマーである、請求項5に記載の薬物送達用担体。
【請求項7】
前記ラクトースで修飾されたシクロデキストリン又はその誘導体は、ラクトース修飾デンドリマー/グルクロニル-β-シクロデキストリンであって、前記ラクトース修飾デンドリマー/グルクロニルグルコシル-β-シクロデキストリンにおけるデンドリマーに対するシクロデキストリンの置換度が1~10である、請求項5又は6に記載の薬物送達用担体。
【請求項8】
前記ラクトースで修飾されたシクロデキストリン又はその誘導体におけるシクロデキストリン及び/又はデンドリマーに対するラクトースの置換度が、1以上である、請求項5~7のいずれか一つに記載の薬物送達用担体。
【請求項9】
前記担体が、薬物が血液脳関門を透過して脳内に送達するために用いられることを特徴とする請求項5~8のいずれか一つに記載の薬物送達用担体。
【請求項10】
薬物、及びラクトースで修飾されたシクロデキストリン又はその誘導体からなる複合体であって、前記ラクトースで修飾されたシクロデキストリン又はその誘導体は、ラクトース修飾β-シクロデキストリン、ラクトース修飾ヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリン、及びラクトース修飾デンドリマー/グルクロニル-β-シクロデキストリンからなる群より選ばれる複合体
【請求項11】
前記ラクトースで修飾されたシクロデキストリン又はその誘導体は、ラクトース修飾デンドリマー/グルクロニル-β-シクロデキストリンであって、前記デンドリマーがポリアミドアミンデンドリマーである、請求項10に記載の複合体。
【請求項12】
前記ラクトースで修飾されたシクロデキストリン又はその誘導体は、ラクトース修飾デンドリマー/グルクロニル-β-シクロデキストリンであって、前記ラクトース修飾デンドリマー/グルクロニルグルコシル-β-シクロデキストリンにおけるデンドリマーに対するシクロデキストリンの置換度が1~10である、請求項10又は11に記載の複合体。
【請求項13】
前記ラクトースで修飾されたシクロデキストリン又はその誘導体におけるシクロデキストリン及び/又ははデンドリマーに対するラクトースの置換度が、1以上である、請求項10~12のいずれか一つに記載の複合体。
【請求項14】
前記薬物が血液脳関門を透過して脳内に送達されることを特徴とする請求項10~13のいずれか一つに記載の複合体。
【請求項15】
薬物を対象の脳に送達するための脳移行性リガンドであって、該脳移行性リガンドは、ラクトース修飾β-シクロデキストリン、ラクトース修飾ヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリン、及びラクトース修飾デンドリマー/グルクロニル-β-シクロデキストリンからなる群より選ばれ、脳内皮細胞に発現されるラクトースを認識する受容体又はトランスポーターへの結合親和性を有することを特徴とする、脳移行性リガンド。
【請求項16】
前記ラクトース修飾デンドリマー/グルクロニル-β-シクロデキストリンにおけるデンドリマーがポリアミドアミンデンドリマーである、請求項15に記載の脳移行性リガンド。
【請求項17】
前記脳移行性リガンドは、ラクトース修飾デンドリマー/グルクロニル-β-シクロデキストリンであって、前記ラクトース修飾デンドリマー/グルクロニルグルコシル-β-シクロデキストリンにおけるデンドリマーに対するシクロデキストリンの置換度が1~10である、請求項15又は16に記載の脳移行性リガンド。
【請求項18】
前記脳移行性リガンドにおけるシクロデキストリン及び/又はデンドリマーに対するラクトースの置換度が、1以上である、請求項15~17のいずれか一つに記載の脳移行性リガンド。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血液脳関門を透過し脳への移行性を示す新規物質に関する。本発明はまた、脳内送達用の薬物担体としての該物質の使用及び該物質を含む医薬組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
アルツハイマー病や悪性脳腫瘍などに代表される難治性脳疾患は、有効な治療法が少なく、薬物の治療貢献度が低い疾患である。これらの脳疾患の治療のためには、薬物を効果的に脳内に送達する必要がある。しかし、脳には血液脳関門(Blood-Brain Barrier:BBB)が存在するため、薬物を経口投与又は注射投与しても、他の臓器に比べ薬物の有効濃度が得られ難い。一方、大量投与により脳内の有効濃度を達成しようとすると、末梢血液中に大過剰の薬物が存在することになり、腎障害や肝障害などの副作用の問題が生じる。このように、難治性脳疾患を含む脳疾患の治療薬の開発の障害となっているのが、血液脳関門とよばれる強固な生体バリアであり、血液と脳の組織液とを隔てる物理的および動的障壁として機能し、脳内への物質の受動拡散を厳密に制限している。従って、血液中に投与した目的物質を脳内に送達するには、血液脳関門を効率的に透過するための脳内移行性リガンド又は脳内送達用の薬物担体の開発が必要である。
【0003】
脳の血管内皮細胞は細胞間隙が密着帯(タイトジャンクション)という特殊な構造を形成し細胞間隙からの血液成分の浸透がほとんどみられない。脳内への送達を達成するための一つの方法論として、脳血管内皮細胞に発現している膜表面タンパク質を標的化することが提案され開発されてきた。つまり、脳内に薬物を取り込ませるために、膜表面に存在するトランスポーターと呼ばれるタンパク質の機能を利用する方法である。これまでに、脳血管内皮細胞に発現するグルコース受容体、インスリン受容体、トランスフェリン受容体などを標的として、グルコース、インスリン、トランスフェリンなどの脳移行性リガンドを用いた薬物担体の開発が行われてきた。
【0004】
上記の例として、例えば、トランスフェリン受容体に対するモノクローナル抗体(JCR株式会社のJ-Brain Cargo(登録商標))、インスリン受容体に対するモノクローナル抗体などをあげることができる。また、脳内移行性リガンドの一種であるグルコースを修飾した直径約30nmの高分子ミセルが提案されている(非特許文献1:Anrakuら、Nat. Commun. 2017 Oct 17, 8(1):1001)。本ミセルを空腹状態のマウスに静脈内投与し、その30分後にグルコース溶液を投与すると、ミセルが血液脳関門でトランスサイトーシスされ、最大で投与量の約6%が脳へ集積することが示唆されている。さらに、血液脳関門透過後、ミセルが脳内の神経細胞に有意に取り込まれることが示されている。しかし、本技術は空腹状態でミセルを投与する必要があり、さらにグルコース溶液まで投与する必要があるため、実際の臨床使用を勘案した際に制限が多い。
【0005】
また、ドキシルビシンを内包したデンドリマー(G4)にPEGを修飾し(PAMAM-PEG)、さらに、脳移行性リガンドであるトランスフェリン(Tf)およびコムギ胚芽凝集素(WGA)を付与することにより、血液脳関門透過性ナノキャリア(Tf-WGA-PAMAM-PEG)を構築したことが報告されている(非特許文献2:Heら、Biomalerials, 2011 Jan;32(2):478-87)。インビトロBBBモデルにおけるTf-WGA-PAMAM-PEGの血液脳関門透過性は、PAMAM-PEGに対して、約2倍に増加した。しかしインビボでの検討は行われておらず、さらに Tf および WGA は、非常に高価である。また、これらのリガンドは高分子量であるため、キャリアに修飾すると、キャリア自体の性質を大きく変化させてしまう。加えて、タンパク質性リガンドは、物理化学的刺激により凝集してしまう恐れがあるため、安全性・品質の面でも課題を有する。
【0006】
上記とは異なるアプローチとして、細胞膜透過ペプチドを用いた、Tat、RVG-9Rペプチド、RDPペプチド、Angiopepなどの血液脳関門透過担体を用いたDrug Delivery System(DDS)も提案されている。
【0007】
上記のように様々な薬物担体の開発が行われているが、脳内へのデリバリー効率は未だ不十分であり、新たな脳移行性リガンド又は脳内送達用の薬物担体の探索が課題となっている。
【0008】
本発明者らは、肝臓を標的としたキャリアの構築を企画して、ラクトース修飾デンドリマー/α-シクロデキストリン結合体を構築し報告している(非特許文献3:Hayasiら、Mol Pharma. 9, 1645-1653, 2012)。さらに本発明者らは、ニーマン・ピック病C型における肝脾腫治療を企画した肝臓移行型シクロデキストリンの構築を目的として、ラクトース修飾β-シクロデキストリンを報告している(非特許文献4:Motoyamaら、Beilstein J Org. Chem. 13, 10-18, 2017)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0009】
【文献】Anrakuら、Nat. Commun. 2017 Oct 17, 8(1):1001
【文献】Heら、Biomalerials, 2011 Jan;32(2):478-87
【文献】Hayasiら、Mol Pharma. 9, 1645-1653, 2012
【文献】Motoyamaら、Beilstein J Org. Chem. 13, 10-18, 2017
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、血液脳関門透過性を有する新たな物質を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、シクロデキストリン又はデンドリマー/グルクロニルグルコシル-シクロデキストリンをラクトースで修飾することにより、血液脳関門を透過可能となることを見いだし、本発明を完成した。
本発明は以下を含むものである。
[1]ラクトースで修飾されたシクロデキストリン又はその誘導体、及び薬物を含む医薬組成物であって、前記ラクトースで修飾されたシクロデキストリン又はその誘導体は、前記薬物の血液脳関門透過性を増加させるために含有されることを特徴とする医薬組成物。
[2]前記ラクトースで修飾されたシクロデキストリン又はその誘導体が、ラクトースで修飾されたβ-シクロデキストリン又はラクトースで修飾されたデンドリマー/グルクロニルグルコシル-β-シクロデキストリンである上記[1]に記載の医薬組成物。
[3]ラクトースで修飾されたシクロデキストリン又はその誘導体、及び薬物を含む医薬組成物であって、前記薬物は、前記ラクトースで修飾されたシクロデキストリン又はその誘導体によって脳内に送達されることを特徴とする医薬組成物。
[4]前記ラクトースで修飾されたシクロデキストリン又はその誘導体が、ラクトースで修飾されたβ-シクロデキストリン又はラクトースで修飾されたデンドリマー/グルクロニルグルコシル-β-シクロデキストリンである上記[3]に記載の医薬組成物。
[5]前記ラクトースで修飾されたシクロデキストリン又はその誘導体は、ラクトースで修飾されたデンドリマー/グルクロニルグルコシル-β-シクロデキストリンである上記[1]又は[3]に記載の医薬組成物。
[6]前記ラクトースで修飾されたデンドリマー/グルクロニルグルコシル-β-シクロデキストリンは、少なくともデンドリマー分子がラクトースで修飾されている上記[5]に記載の医薬組成物。
[7]前記ラクトースで修飾されたデンドリマー/グルクロニルグルコシル-β-シクロデキストリンにおけるデンドリマーに対するシクロデキストリンの置換度が、1~10(好ましくは2~8、より好ましくは2~6)である、上記[5]又は[6]に記載の医薬組成物。
[8]前記ラクトースで修飾されたシクロデキストリン又はその誘導体におけるシクロデキストリン又はデンドリマーに対するラクトースの置換度が、1以上(好ましくは2~8、より好ましくは3~7)である、上記[1]~[7]のいずれか一つに記載の医薬組成物。
【0012】
[9]ラクトースで修飾されたシクロデキストリン又はその誘導体からなる脳内への薬物送達用担体。
[10]前記ラクトースで修飾されたシクロデキストリン又はその誘導体は、ラクトースで修飾されたβ-シクロデキストリン又はラクトースで修飾されたデンドリマー/グルクロニルグルコシル-β-シクロデキストリンである上記[9]に記載の薬物送達用担体。
[11]前記ラクトースで修飾されたシクロデキストリン又はその誘導体は、ラクトースで修飾されたデンドリマー/グルクロニルグルコシル-β-シクロデキストリンである上記[9]に記載の薬物送達用担体。
[12]前記ラクトースで修飾されたデンドリマー/グルクロニルグルコシル-β-シクロデキストリンは、少なくともデンドリマー分子がラクトースで修飾されている上記[11]に記載の薬物送達用担体。
[13]前記ラクトースで修飾されたデンドリマー/グルクロニルグルコシル-β-シクロデキストリンにおけるデンドリマーに対するシクロデキストリンの置換度が1~10(好ましくは2~8、さらに好ましくは2~6)である、上記[11]又は[12]に記載の薬物送達用担体。
[14]前記ラクトースで修飾されたシクロデキストリン又はその誘導体におけるシクロデキストリン又はデンドリマーに対するラクトースの置換度が、1以上(好ましくは2~8、さらに好ましくは3~7)である、上記[9]~[13]のいずれか一つに記載の薬物送達用担体。
[15]前記担体が、薬物が血液脳関門を透過して脳内に送達するために用いられることを特徴とする上記[9]~[14]のいずれか一つに記載の薬物送達用担体。
【0013】
[16]脳内へ送達される薬物、及びラクトースで修飾されたシクロデキストリン又はその誘導体からなる複合体。
[17]前記ラクトースで修飾されたシクロデキストリン又はその誘導体は、ラクトースで修飾されたβ-シクロデキストリン又はラクトースで修飾されたデンドリマー/グルクロニルグルコシル-β-シクロデキストリンである上記[16]に記載の複合体。
[18]前記ラクトースで修飾されたシクロデキストリン又はその誘導体は、ラクトースで修飾されたデンドリマー/グルクロニルグルコシル-β-シクロデキストリンである上記[16]に記載の複合体。
[19]前記ラクトースで修飾されたデンドリマー/グルクロニルグルコシル-β-シクロデキストリンは、少なくともデンドリマー分子がラクトースで修飾されている上記[18]に記載の複合体。
[20]前記ラクトースで修飾されたデンドリマー/グルクロニルグルコシル-β-シクロデキストリンにおけるデンドリマーに対するシクロデキストリンの置換度が1~10(好ましくは2~8、より好ましくは2~6)である、上記[18]又は[19]に記載の複合体。
[21]前記ラクトースで修飾されたシクロデキストリン又はその誘導体におけるシクロデキストリン又はデンドリマーに対するラクトースの置換度が、1以上(好ましくは2~8、より好ましくは3~7)である、上記[16]~[20]のいずれか一つに記載の複合体。
[22]前記薬物が血液脳関門を透過して脳内に送達されることを特徴とする上記[16]~[21]のいずれか一つに記載の複合体。
【0014】
[23]薬物を対象の脳に送達するための脳移行性リガンドであって、該脳移行性リガンドは、脳内皮細胞に発現されるラクトースを認識する受容体又はトランスポーターへの結合親和性を有し、かつラクトースをその分子の一部に含むことを特徴とする、脳移行性リガンド。
[24]前記脳移行性リガンドは、ラクトースで修飾されたシクロデキストリン又はその誘導体である上記[23]に記載の脳移行性リガンド。
[25]前記ラクトースで修飾されたシクロデキストリン又はその誘導体は、ラクトースで修飾されたβ-シクロデキストリン又はラクトースで修飾されたデンドリマー/グルクロニルグルコシル-β-シクロデキストリンである、上記[24]に記載の脳移行性リガンド。
[26]ラクトースで修飾されたシクロデキストリン又はその誘導体は、ラクトースで修飾されたデンドリマー/グルクロニルグルコシル-β-シクロデキストリンである上記[24]に記載の脳移行性リガンド。
[27]前記ラクトースで修飾されたデンドリマー/グルクロニルグルコシル-β-シクロデキストリンは、少なくともデンドリマー分子がラクトースで修飾されている上記[26]に記載の脳移行性リガンド。
[28]前記ラクトースで修飾されたデンドリマー/グルクロニルグルコシル-β-シクロデキストリンにおけるデンドリマーに対するシクロデキストリンの置換度が1~10(好ましくは2~8、より好ましくは2~6)である、上記[26]又は「27]に記載の脳移行性リガンド。
[29]前記ラクトースで修飾されたシクロデキストリン又はその誘導体におけるシクロデキストリン又はデンドリマーに対するラクトースの置換度が、1以上(好ましくは2~8、より好ましくは3~7)である、上記[23]~[28]のいずれか一つに記載の脳移行性リガンド。
[30]上記[23]~[29]のいずれか一つに記載の脳移行性リガンドの使用。
【0015】
[31]ラクトースで修飾されたデンドリマー/グルクロニルグルコシル-β-シクロデキストリン。
[32]少なくともデンドリマー分子がラクトースで修飾されている上記[31]に記載のラクトースで修飾されたデンドリマー/グルクロニルグルコシル-β-シクロデキストリン。
[33]デンドリマーに対するシクロデキストリンの置換度が1~10(好ましくは2~8、より好ましくは2~6、さらに好ましくは2~4)であり、シクロデキストリン又はデンドリマーに対するラクトース置換度が1以上(好ましくは2~8、より好ましくは3~7)である上記[31]又は[32]に記載のラクトースで修飾されたデンドリマー/グルクロニルグルコシル-β-シクロデキストリン。
【0016】
[34]脳神経系疾患又は障害を予防又は治療するための上記[1]~[8]のいずれか一つに記載の医薬組成物。
[35]前記脳神経系疾患又は障害が、アルツハイマー病、悪性脳腫瘍、パーキンソン病、ニーマン・ピック病C型、脳卒中、脳虚血、認知症、筋ジストロフィー、多発性硬化症、筋萎縮性側索硬化症、嚢胞性線維症、アンジェルマン症候群、リドル症候群、重症筋無力症、脊髄性筋萎縮症、ダウン症候群、ハンチントン病、統合失調症,うつ症,タウパチー病、ピック病、ページェット病、脳障害を伴うリソソーム病、癌、プリオン病、外傷性脳損傷、及びウィルス性又は細菌性の中枢神経系疾患からなる群から選択される、上記[34]に記載の医薬組成物。
【0017】
[36]脳内に薬物を投与することが必要な患者に薬物を投与する方法であって、ラクトースで修飾されたシクロデキストリン又はその誘導体及び、該シクロデキストリン又はその誘導体に包接された薬物を含む組成物を患者に投与することを含む方法。
[37]前記ラクトースで修飾されたシクロデキストリン又はその誘導体は、ラクトースで修飾されたβ-シクロデキストリン又はラクトースで修飾されたデンドリマー/グルクロニルグルコシル-β-シクロデキストリンである上記[36]に記載の方法。
[38]前記ラクトースで修飾されたシクロデキストリン又はその誘導体は、ラクトースで修飾されたデンドリマー/グルクロニルグルコシル-β-シクロデキストリンである上記[36]に記載の方法。
[39]前記ラクトースで修飾されたデンドリマー/グルクロニルグルコシル-β-シクロデキストリンは、少なくともデンドリマー分子がラクトースで修飾されている上記[38]に記載の方法。
[40]前記ラクトースで修飾されたデンドリマー/グルクロニルグルコシル-β-シクロデキストリンにおけるデンドリマーに対するシクロデキストリンの置換度が1~10(好ましくは2~8、より好ましくは2~6)である、上記[38]又は[39]に記載の方法。
[41]前記ラクトースで修飾されたシクロデキストリン又はその誘導体におけるシクロデキストリン又はデンドリマーに対するラクトースの置換度が、1以上(好ましくは2~8、より好ましくは3~7)である、上記[36]~[40]のいずれか一つに記載の方法。
[42]前記薬物が血液脳関門を透過して脳内に送達されることを特徴とする上記[36]~[41]のいずれか一つに記載の方法。
[43]前記患者が神経疾患又は障害に罹患している患者である上記[36]~[42]のいずれか一つに記載の方法。
[44]前記神経疾患又は障害が、アルツハイマー病、脳卒中、脳虚血、認知症、筋ジストロフィー、多発性硬化症、筋萎縮性側索硬化症、嚢胞性線維症、アンジェルマン症候群、リドル症候群、重症筋無力症、脊髄性筋萎縮症、ダウン症候群、パーキンソン病、ハンチントン病、統合失調症,うつ症,タウパチー病、ピック病、ページェット病、脳障害を伴うリソソーム病、癌、プリオン病、外傷性脳損傷、及びウィルス性又は細菌性の中枢神経系疾患からなる群から選択される、上記[43]に記載の方法。
【発明の効果】
【0018】
本発明により、血液脳関門を透過し脳への移行性を示す物質及びその使用が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】ラクトースで修飾されたβ-シクロデキストリンの構造の一例を示している。
図2】β-シクロデキストリンをラクトース修飾する合成経路の一例を示している。1はβシクロデキストリン(β-CyD)、2はクロロ-β-CyD、3はアジド-β-CyD、4はアミノ-β-CyD、5はラクトース修飾β-CyDである。
図3】実施例1で製造したLac-β-CyDのMALDI-TOF MSスペクトルを測定した結果である。
図4】実施例1で製造したLac-β-CyDの1H-NMRスペクトルを測定した結果である。
図5】ラクトース修飾デンドリマー/グルクロニル-β-シクロデキストリン(Lac-GUG-β-CyD)の合成の一例を示している。
図6】実施例2で製造したLac-GUG-β-CDEを、1-ブタノール/エタノール/水=5/4/3の展開溶媒にて、薄層クロマトグラフィーにより展開した結果である。発色剤としてはp-アニスアルデヒドを用いた。コントロールはラクトースを用いた。
図7】実施例2で製造したLac-GUG-β-CDEの1H-NMRスペクトルを測定した結果である。
図8】Cy5-Lac-β-CyD(DSL5.6)をマウスの皮下に投与したのち、5,10,30,60及び180分後に脳を採取し、IVISイメージングシステムを用いて検出した結果である。図は、3つの実験の代表的なイメージを示している。
図9】hCMEC/D3細胞単層を用いて、TRITC-GUG-β-CDE(G3,DS3)及びTRITC-Lac-GUG-β-CDE(G3,DS3,DSL7)の透過量を測定した結果である。各数値は、4回の実験の平均±S.E.を示している。
図10】TRITC-GUG-β-CDE(G3,DS3)及びTRITC-Lac-GUG-β-CDE(G3,DS3,DSL7)のhCMEC/D3細胞単層の密着結合への影響を確認した結果である。各数値は、4回の実験の平均±S.E.を示している。
図11】4℃又は37℃にて、hCMEC/D3細胞をTRITC-Lac-GUG-β-CDE(G3,DS3,DSL7)で30分及び60分処理した後、細胞を蛍光顕微鏡で観察した結果である。図は、3つの地点の代表的なイメージを示している。
図12図11の観察での蛍光強度を数値で表した結果である。各数値は、3回の観察の平均±S.E.を示している。*は、37℃と比較した場合のp<0.05を示している。
図13】hCMEC/D3細胞におけるTRITC-Lac-GUG-β-CDE(G3,DS3,DSL7)の取り込みに対するラクトースの競合阻害を蛍光顕微鏡により観察した結果である。図は、3つの地点の代表的なイメージを示している。
図14図13の観察での蛍光強度を数値で表した結果である。各数値は、3回の観察の平均±S.E.を示している。*は、ラクトースを加えない場合と比較した場合のp<0.05を示している。
図15】SH-SY5Y細胞を用いて、TRITC-GUG-β-CDE(G3,DS3)及びTRITC-Lac-GUG-β-CDE(G3,DS3,DSL7)の神経細胞内への取り込みを確認した結果である。各数値は、3回の実験の平均±S.E.を示している。*は、TRITC-GUG-β-CDEと比較した場合のp<0.05を示している。
図16】Lac-HP-β-シクロデキストリンの合成経路の概略を示している
図17】実施例9で製造したLac-HP-β-CyDをエタノール/水=9/1の展開溶媒にて、薄層クロマトグラフィーにより展開した結果である。発色剤としてはニンヒドリン及びp-アニスアルデヒドを用いた。cがLac-HP-β-CyDである。
図18】実施例9で製造したLac-HP-β-CyDのMALDI-TOF MSスペクトルを測定した結果である。
図19】実施例9で製造したLac-HP-β-CyDの1H-NMRスペクトルを測定した結果である。
図20】SH-SY5Y細胞を用い、コレステロール漏出に及ぼすLac-HP-β-CyDの影響を確認した結果である。各数値は2回の実験の平均±S.E.を示す。
図21】hCMEC/D3細胞へのHiLyte-Lac-HP-β-CyDの取り込みを確認した結果である。
図22】hCMEC/D3細胞単層を用いて、HiLyte-Lac-HP-β-CyD(DSL3.0)及びHiLyte-HP-β-CyD(DS4.4)の透過量を測定した結果である。各数値は、2回の実験の平均±S.E.を示している。
図23】hCMEC/D3細胞単層を透過したHiLyte-Lac-HP-β-CyDのSH-SY5Y細胞への取り込みを確認した結果である。
図24】H-SY5Y細胞内でのアミロイドAβの蓄積及びそれに対するLac-HP-β-CyDの影響を確認した結果である。実験は各1回行い、図は代表的なイメージを示している。
図25】マウスに静注したHiLyte-Lac-β-CyDの各臓器への分布を確認した結果である。3回の実験を行った。結果の1例を示している。
図26】脳、心臓、肺、脾臓への移行の結果を表した図である。
図27】脳への移行の結果を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明を、例示的な実施態様を例として、本発明の実施において使用することができる好ましい方法および材料とともに説明する。なお、文中で特に断らない限り、本明細書で用いるすべての技術用語及び科学用語は、本発明が属する技術分野の当業者に一般に理解されるのと同じ意味をもつ。また、本明細書に記載されたものと同等または同様の任意の材料および方法は、本発明の実施において同様に使用することができる。また、本明細書に記載された発明に関連して本明細書中で引用されるすべての刊行物および特許は、例えば、本発明で使用できる方法や材料その他を示すものとして、本明細書の一部を構成するものである。
本明細書中で、「X~Y」という表現を用いた場合は、下限としてXを上限としてYを含む意味で、或いは上限としてXを下限としてYを含む意味で用いる。本明細書において「約」とは、±10%を許容する意味で用いる。
【0021】
(1)ラクトース修飾シクロデキストリン
シクロデキストリンとは、ブドウ糖が環状に6、7又は8個連なったオリゴ糖で、それぞれα-シクロデキストリン、β-シクロデキストリン、γ-シクロデキストリンと呼ばれる。
本発明で用いることができるラクトースで修飾されたシクロデキストリンとは、シクロデキストリン(α-シクロデキストリン、β-シクロデキストリン、又はγ-シクロデキストリン)の水酸基が、ランダムにラクトースで置換された化合物であり、例えば、ラクトース修飾β-シクロデキストリンとは、β-シクロデキストリンの7個のグルコースの6位の水酸基がランダムにラクトースに置換された化合物である。ラクトース修飾シクロデキストリンは、好ましくはラクトース修飾β-シクロデキストリンである。ラクトースで修飾されるシクロデキストリンとは、化学修飾型又は非修飾型のα、β、又はγシクロデキストリンのいずれも含む。シクロデキストリンを化学修飾する一般的な方法としては、例えば、メチル化、ヒドロキシエチル又はヒドロキシプロピルなどのヒドロキシアルキル化、グルコシル化、マルトシル化、アルキル化、アシル化、アセチル化、硫酸化、スルホブチル化、カルボキシメチル化、カルボキシエチル化、アミノ化、カルボキシル化、トシル化、又はジメチルアセチル化などをあげることができる。よって、本明細書で、ラクトースで修飾されたシクロデキストリンという場合は、ラクトースで修飾された、化学修飾型又は非修飾型のα、β、又はγシクロデキストリンを含む意味で用いられる。
【0022】
本発明で用いることができるラクトースで修飾されたシクロデキストリンの一部を構成する化学修飾型シクロデキストリンは、生体に投与された際に毒性等の問題が無い限り、任意の化学修飾がなされたシクロデキストリンであり得る。例えば、以下に示すような化学修飾型シクロデキストリンを用いることができる。例えば、メチル-α-シクロデキストリン;エチル-α-シクロデキストリン;アミノ-α-シクロデキストリン;p-トルエンスルホニル-α-シクロデキストリン;ヒドロキシアルキル-α-シクロデキストリン;スルホアルキルエーテル-α-シクロデキストリン;カルボキシアルキル-α-シクロデキストリン;アジド-α-シクロデキストリン;マルトシル-α-シクロデキストリン;グルコシル-α-シクロデキストリン;グルクロニルグルコシル-α-シクロデキストリン;メチル-β-シクロデキストリン;エチル-β-シクロデキストリン;アミノ-β-シクロデキストリン;p-トルエンスルホニル-β-シクロデキストリン;ヒドロキシアルキル-β-シクロデキストリン;スルホアルキルエーテル-β-シクロデキストリン;カルボキシアルキル-β-シクロデキストリン;アジド-β-シクロデキストリン;マルトシル-β-シクロデキストリン;グルコシル-β-シクロデキストリン;グルクロニルグルコシル-β-シクロデキストリン;メチル-γ-シクロデキストリン;エチル-γ-シクロデキストリン;アミノ-γ-シクロデキストリン;p-トルエンスルホニル-γ-シクロデキストリン;ヒドロキシアルキル-γ-シクロデキストリン;スルホアルキルエーテル-γ-シクロデキストリン;カルボキシアルキル-γ-シクロデキストリン;アジド-γ-シクロデキストリン;マルトシル-γ-シクロデキストリン;グルコシル-γ-シクロデキストリン;グルクロニルグルコシル-γ-シクロデキストリンなどをあげることができる。好ましくはβ-シクロデキストリン、ヒドロキシアルキル-β-シクロデキストリン又はグルクロニルグルコシル-β-シクロデキストリン(GUG-β-CyD)であり、さらに好ましくはヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリン又はGUG-β-CyDである。
【0023】
ラクトースで修飾されたシクロデキストリンにおけるシクロデキストリンに対するラクトースの置換度は、特に限定されないが、少なくとも1以上、好ましくは2~8、さらに好ましくは3~7である。図1に、ラクトースで修飾されたβ-シクロデキストリンの一つの例の構造を示しているが、そこでは、全ての、すなわち7個のグルコースで水酸基がラクトースで置換されており、置換度(DSL)は、7.0である。
【0024】
ラクトースの置換は、公知の報告を参考に行うことができ、これに限定されないが、例えば、本発明者らの報告(非特許文献4)をあげることができる。この文献は引用することにより本明細書の一部である。
これに限定されないが、例えば、β-シクロデキストリンを例にラクトース修飾を行う場合は、図2に示すように、シクロデキストリンのグルコースの6位の水酸基をアミノ基に置換し、次いで、シアノ水素化ホウ素ナトリウム(NaBH3CN)を用いて、ラクトースの1位の水酸基との間で還元的アミノ化反応を行うことにより、シクロデキストリンをラクトースで修飾することができる。
また、他の合成方法、例えば、N-Propargyl-β-lactosylamideを用いてシクロデキストリンをラクトース修飾することができ、そこでは、トリアゾリルを結合子としてシクロデキストリンとラクトースが結合している(Chwalekら、Org. Biomol. Chem., 2009, 7, 1680-1688)。さらには、任意のリンカーを用いて、シクロデキストリンにラクトースを結合することもできる。
【0025】
(2)ラクトース修飾デンドリマー/シクロデキストリン結合体
本発明で用いるラクトースで修飾されたデンドリマー/シクロデキストリン結合体とは、シクロデキストリン(CyD)とポリアミドアミンデンドリマーとの結合体(CDE)がラクトースで修飾された化合物である。
シクロデキストリン・ポリアミドアミンデンドリマー結合体を構成するシクロデキストリンは、α、β、又はγシクロデキストリンのいずれでもよく、またこれらのα、β、又はγシクロデキストリンは、化学修飾型又は非修飾型のシクロデキストリンのいずれも含む。シクロデキストリンを化学修飾する一般的な方法としては、例えば、メチル化、ヒドロキシエチル又はヒドロキシプロピルなどのヒドロキシアルキル化、グルコシル化、マルトシル化、アルキル化、アシル化、アセチル化、硫酸化、スルホブチル化、カルボキシメチル化、カルボキシエチル化、アミノ化、カルボキシル化、トシル化、又はジメチルアセチル化などをあげることができる。化学修飾型シクロデキストリンは、生体に投与された際に毒性等の問題が無い限り、任意の化学修飾がなされたシクロデキストリンであり得、例えば、上記した化学修飾型のα、β、又はγ-シクロデキストリンをあげることができるが、好ましくはβ-シクロデキストリン、ヒドロキシアルキル-β-シクロデキストリン、又はグルクロニルグルコシル-β-シクロデキストリン(GUG-β-CyD)であり、さらに好ましくはヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリン又はGUG-β-CyDである。
【0026】
本発明で用いるラクトースで修飾されたデンドリマー/シクロデキストリン結合体の一部を構成する、デンドリマー/シクロデキストリン結合体は、好ましくは、グルクロニルグルコシル-β-シクロデキストリンとポリアミドアミンデンドリマーとの結合体(GUG-β-CDE)である。ポリアミドアミンデンドリマーは、アルキレンジアミンをコアとするデンドリマーであり、コアとなるアルキレンジアミンは特に制限されず、一般に用いられる種類のものを用いたデンドリマーをあげることができる。
【0027】
本明細書で、ラクトースで修飾されたシクロデキストリン又はその誘導体とは、ラクトースで修飾された、化学修飾型又は非修飾型のα、β又はγ-シクロデキストリン又はデンドリマーと結合したそれらの何れかのシクロデキストリンを意味する。ラクトースで修飾されたデンドリマー/シクロデキストリンにおけるラクトースの修飾は、シクロデキストリン分子がラクトースで修飾されているもの、デンドリマー分子がラクトースで修飾されているもの、或いは、シクロデキストリン分子及びデンドリマー分子の両方がラクトースで修飾されているもののいずれも含む。
【0028】
以下、グルクロニルグルコシル-β-シクロデキストリン(GUG-β-CyD)とアルキレンジアミンをコアとするポリアミドアミンデンドリマー(以下、単に「デンドリマー」という場合がある。)との結合体(GUG-β-CDE)を例として説明するが、これに限定されるものではない。
グルクロニルグルコシル-β-シクロデキストリン(GUG-β-CyD)とアルキレンジアミンをコアとするポリアミドアミンデンドリマーとの結合体(GUG-β-CDE)は、任意のGUG-β-CyDと任意のデンドリマーを常法に従い結合させて得ることができる。GUG-β-CyDは、これに限定されないが、6-O-α-(4-O-α-D-グルクロニル)-D-グリコシル-β-シクロデキストリンを例示することができる。また、デンドリマーとしては、これに限定されないが、例えば、第2~第10世代の、好ましくは第2~第6世代の、より好ましくは第2又は第3世代の、さらに好ましくは第3世代のデンドリマーをあげることができる。GUG-β-CDEにおける、シクロデキストリンの置換度(DS)は、1~10、好ましくは2~8、より好ましくは2~6、さらに好ましくは3である。
本発明において好ましく用いられるGUG-β-CyDとデンドリマーの結合体は、6-O-α-(4-O-α-D-グルクロニル)-D-グリコシル-β-シクロデキストリンと第3世代のデンドリマーの結合体である。また、これに限定されないが、具体的には、GUG-β-CDE(G3, DS 3)、GUG-β-CDE(G3, DS4)、GUG-β-CDE(G2, DS3)、又はGUG-β-CDE(G4, DS3)をあげることができる。
【0029】
デンドリマー/シクロデキストリン結合体のラクトースの置換は、公知の報告を参考に行うことができる。ラクトース修飾は、シクロデキストリンを修飾することも、デンドリマーを修飾することも可能である。例えば、これに限定されないが、ラクトース修飾したデンドリマー/シクロデキストリン結合体は、ラクトース修飾したシクロデキストリンとデンドリマーを反応させて作製する方法、シクロデキストリンとラクトース修飾したデンドリマーを反応させて作製する方法、或いは、デンドリマー/シクロデキストリンを直接ラクトースで修飾して作製することのいずれも可能であるが、好ましくは、ラクトース修飾したシクロデキストリンとデンドリマーを反応させて作製する方法である。例えば、シクロデキストリン又はデンドリマーに存在する、アミノ基、カルボキシル基、水酸基など、反応性の高い官能基に対してラクトース修飾を容易に行うことができる。シクロデキストリンのラクトース修飾は、公知の報告を参考に行うことができ、これに限定されないが、上記した方法を用いることができる。デンドリマーのラクトース修飾は、これに限定されないが、例えば、シアノ水素化ホウ素ナトリウム(NaBH3CN)を用いて、ポリアミドアミンデンドリマーのアミノ基とラクトースの1位の水酸基との間で還元的アミノ化反応を行うことにより行うことができる。
【0030】
ラクトースで修飾されたデンドリマー/シクロデキストリン結合体のラクトースの置換度は、特に限定されない。例えば、シクロデキストリン部分をラクトース修飾する場合は、シクロデキストリンに対するラクトースの置換度は、特に限定されないが、少なくとも1以上、好ましくは2~8、さらに好ましくは3~7であり、デンドリマー部分をラクトース修飾する場合は、デンドリマーに対するラクトースの置換度は、特に限定されないが、少なくとも1以上、好ましくは2~8、さらに好ましくは3~7である。シクロデキストリン及びデンドリマーをランダムにラクトース修飾する場合は、デンドリマー/シクロデキストリン結合体1分子に対するラクトースの置換度は、特に限定されないが、少なくとも1以上、好ましくは2以上、より好ましくは3以上、さらに好ましくは5以上である。
【0031】
ラクトースで修飾されたデンドリマー/シクロデキストリン結合体はまた、PEG等で修飾することができ、これもまた、本発明のラクトースで修飾されたシクロデキストリン誘導体に含まれる。PEGによる修飾は、公知の方法を用い、デンドリマーにPEGを結合することにより行うことができる。PEGを修飾することにより、血中滞留性の向上が期待できる。
【0032】
(3)薬物
本発明で用いることができる薬物とは、これに限定されないが、例えば、その分子そのものが脳内において生理活性を有する物質(以下、単に生理活性物質という場合がある)又は脳内において機能を発揮する物質(以下、単に脳内機能物質という場合がある)である分子をあげることができる(以下、これらをあわせて脳内活性物質という場合がある)。
上記生理活性物質としては、これに限定されないが、例えば、低分子化合物、ポリペプチド、オリゴペプチド、タンパク質や核酸、をあげることができる。
【0033】
上記低分子化合物は、これに限定されないが、脳や中枢神経に関連する種々の疾患の治療及び/又は予防のために用いられる医薬品に有効成分として含まれている化合物、例えば、中枢神経疾患治療剤の有効成分、または脳の疾患の治療及び/又は予防のために用いられる化合物、例えば、脳内の炎症を抑えるための抗炎症作用を有する化合物、抗がん作用を示す化合物、脳内感染症治療のための抗菌薬や抗ウィルス薬の有効成分である化合物などをあげることができる。
公知の方法を用いて、これらの低分子化合物と、上記のラクトースで修飾されたシクロデキストリン又はラクトースで修飾されたデンドリマー/シクロデキストリン結合体(以下、これらをあわせてラクトース修飾シクロデキストリン又はその誘導体という)との複合体を形成させることができる。好ましくは、低分子化合物は、ラクトース修飾シクロデキストリン又はその誘導体のシクロデキストリンに包接される。このような複合体も本発明の一部である。
【0034】
上記ペプチド(ポリペプチドやオリゴペプチド)は、例えば、生理活性ペプチドをあげあることができ、脳や中枢神経に関連する疾患の治療及び/又は予防のために用いられるペプチド等をあげることができる。具体的には、これに限定されないが、脳内アミロイドベータペプチド分解に関わる酵素発現を調節するソマトスタチン、脳内神経細胞機能を制御するインスリン、又はその他の脳や中枢神経の機能に関連するペプチド、及びそれらの誘導体をあげることができる。
公知の方法を用いて、これらのペプチドと本発明のラクトース修飾シクロデキストリン又はその誘導体からなる複合体を形成させることができる。例えば、これに限定されないが、以下の方法をあげることができる。目的分子であるペプチド及び本発明のラクトース修飾シクロデキストリン又はその誘導体を混合することにより、ペプチドがシクロデキストリンに包接され複合体を形成できる。また、ペプチド及び/又は本発明のラクトース修飾シクロデキストリン又はその誘導体を化学的に修飾し、場合によりスペーサーを介して、両者を結合させればよい。このような複合体も本発明の一部である。
【0035】
上記核酸としては、脳や中枢神経に関連する疾患の治療及び/又は予防のために用いられる核酸をあげることができる。これに限定されないが、例えば、遺伝子ノックダウン法による又はRNA干渉を用いた各種疾患の治療のための核酸、例えば、アンチセンス核酸(DNAやRNA)、ヘテロ2本鎖核酸、siRNAやshRNAをあげることができる。具体的には、これに限定されないが、筋萎縮性側索硬化症(ALS)やパーキンソン病に対する遺伝子治療をあげることができる。
公知の方法を用いて、これらの核酸と本発明のラクトース修飾シクロデキストリン又はその誘導体からなる複合体を形成させることができる。例えば、これに限定されないが、以下の方法をあげることができる。目的分子である核酸及び本発明のラクトース修飾シクロデキストリン又はその誘導体を混合することにより、核酸がシクロデキストリンに包接され複合体を形成できる。このような複合体も本発明の一部である。
【0036】
上記タンパク質は、これに限定されないが、脳内で生理活性を有するタンパク質分子をあげることができ、疾患の治療及び/又は予防のために用いられるタンパク質等をあげることができる。例えば、酵素、抗体、転写因子、あるいはそれらを構成する特定の部分をあげることができる。
公知の方法を用いて、これらのタンパク質と本発明のラクトース修飾シクロデキストリン又はその誘導体からなる複合体を形成させることができる。例えば、これに限定されないが、タンパク質及び/又は本発明のラクトース修飾シクロデキストリン又はその誘導体を化学的に修飾し、場合によりスペーサーを介して、両者を結合させればよい。或いは、非共有結合的に、例えば、静電的にタンパク質と本発明のラクトース修飾シクロデキストリン又はその誘導体を結合させてもよい。このような複合体も本発明の一部である。
【0037】
上記の生理活性物質として好ましく使用できる薬物は、これに限定されないが、例えば、抗癌剤、抗パーキンソン病薬、抗痴呆薬、向精神薬をあげることができる。本発明のラクトース修飾シクロデキストリン又はその誘導体は、血液脳関門を透過しないまたは透過性が低い分子の透過を促進するものであるので、脳内への吸収促進に基づいてより有効な薬効を示す分子と本発明のラクトース修飾シクロデキストリン又はその誘導体とからなる複合体を形成させることができ、それを含む医薬組成物が提供できる。
【0038】
上記脳内において機能を発揮する物質とは、脳内において生理活性以外の機能を発揮する分子である。例えば、脳内においてマーカーとなるような分子、脳またの脳内の標的をイメージングするために用いることができる分子(本明細書では、脳内イメージング分子という)をあげることができる。これに限定されないが、蛍光色素、量子ドット、ナノ磁性体、ナノゴールド、細胞内分子可視化試薬、PETで検出できる標識分子、等の生体内で標的を可視化できる化合物などをあげることができる。
公知の方法を用いて、これらの物質と本発明のラクトース修飾シクロデキストリン又はその誘導体からなる複合体を形成させることができ、それを含む医薬組成物が提供できる。
【0039】
本発明のラクトース修飾シクロデキストリン又はその誘導体は、薬物の血液脳関門透過性を増加させることができ、その結果、薬物を脳内に送達することができるので、これに限定されないが、脳内において生理活性を有する物質又は脳内において機能を発揮する物質を脳内に送達することができる。
【0040】
(4)薬物送達用担体
本発明のラクトース修飾シクロデキストリン又はその誘導体は、薬物と複合体を形成し、血液脳関門を透過し、薬物を脳内へと運ぶことができるので、脳への薬物送達用担体(キャリア)でもある。本発明のラクトース修飾シクロデキストリン又はその誘導体を脳への薬物輸送用担体として用いる場合は、脳内への送達を目的とする薬剤に応じて、また、送達目的、例えば、送達速度や送達量等の各種条件に応じて、シクロデキストリンの種類、デンドリマーの種類、ラクトースの置換度等を適宜選択して用いることができる。
脳内へ分子を送達するために種々のキャリアが報告されている。これに限定されないが、例えば、リポソーム、ナノキャリア、エクソソーム、ミセル又はマイクロカプセルをあげることができる。これらのキャリアに関する報告も本発明のラクトース修飾シクロデキストリン又はその誘導体を脳への薬物輸送用担体として用いる条件の決定において参考にできる。
【0041】
(5)脳移行性リガンド
これらの理論に拘束される訳ではないが、以下のように考えることができる。本発明のラクトース修飾シクロデキストリン又はその誘導体は、脳血管内皮細胞に存在する、ラクトースを認識する受容体又はトランスポーターを介して細胞内に取り込まれていると考えられる。また、本発明のラクトース修飾シクロデキストリン又はその誘導体の脳血管内皮細胞内への取り込みは、エンドサイトーシスを介していると考えられる。従って、本発明のラクトース修飾シクロデキストリン又はその誘導体は、脳移行性リガンドでもある。
本発明のラクトース修飾シクロデキストリン又はその誘導体は、上記のように、脳内において生理活性を有する物質又は脳内において機能を発揮する物質を脳内に送達することができるが、それ自身が脳内への移行性をもつので、本発明のラクトース修飾シクロデキストリン又はその誘導体自身を脳内へと移行する分子として、例えば、標識化(例えば、PET用放射性核種、蛍光色素など)することにより利用することもできる、
【0042】
本発明のラクトース修飾シクロデキストリン又はその誘導体は、シクロデキストリンをその一部にもち、脳内へと送達したい分子を包接することが可能であるので、脳内送達用担体又は脳移行性リガンドとして優れている。
本発明のラクトース修飾シクロデキストリン又はその誘導体と薬物を含む複合体は医薬組成物として利用が可能である。本発明の複合体を含む医薬組成物は、公知の方法に従って製剤化し、投与することができる。例えば、そのまま液剤としてまたは適当な剤型の医薬組成物として、ヒトを含む哺乳動物に対して非経口的または経口的に投与することができる。非経口的投与方法としては、例えば、注射剤又は貼付剤(経皮投与)が例示できる。本発明の複合体を含む医薬組成物は、好ましくは非経口的に投与される。
【0043】
本発明の複合体を含む医薬組成物は、薬物及び本発明のラクトース修飾シクロデキストリン又はその誘導体の効果を損なわない範囲で任意の成分を適宜配合できる。任意成分としては、これに限定されないが、例えば、架橋剤、溶解剤、乳化剤、保湿剤、清涼化剤、無機粉体、酸化防止剤、防腐剤、着色剤、香味剤、pH調整剤、安定化剤をあげることができる。
【0044】
本発明の医薬組成物は、脳神経系疾患又は障害を予防又は治療するための医薬組成物として用いることができる。脳神経系疾患又は障害は、これに限定されないが、例えば、アルツハイマー病、悪性脳腫瘍、パーキンソン病、ニーマン・ピック病C型、脳卒中、脳虚血、認知症、筋ジストロフィー、多発性硬化症、筋萎縮性側索硬化症、嚢胞性線維症、アンジェルマン症候群、リドル症候群、重症筋無力症、脊髄性筋萎縮症、ダウン症候群、ハンチントン病、統合失調症,うつ症,タウパチー病、ピック病、ページェット病、脳障害を伴うリソソーム病、癌、プリオン病、外傷性脳損傷、ウィルス性及び細菌性の中枢神経系疾患等をあげることができる。
【0045】
本発明のラクトース修飾シクロデキストリン又はその誘導体と薬物の複合体のヒトに対する投与量は、含まれている活性物質の種類、投与対象の年齢、体重、状態、性別、投与方法、その他の条件に応じて適宜決定される。例えば、活性物質の量として、投与量は、1日あたり、約0.01mg/kg~約10mg/kgがあげられる。
【実施例
【0046】
以下、実施例により、本発明を具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
(実施例1)ラクトース修飾シクロデキストリンの製造
シクロデキストリンとしてβ-シクロデキストリンを用い、以下のようにしてラクトース修飾シクロデキストリン(Lac-β-CyD)を製造した。
非特許文献4(Motoyamaら、Beilstein J Org. Chem. 13, 10-18, 2017)の記載に従い、図2に示される工程により製造した。Lac-β-CyDの収率は25%であった。Lac-β-CyDのMALDI-TOF MSスペクトルを測定した結果、図3に示すように、トリ-,テトラ-,ペンタ-,ヘキサ-,及びヘプタ-ラクトース置換β-CyDの存在が確認された。また、Lac-β-CyDの1H-NMRスペクトルを測定した結果を図4に示す。Lac-β-CyDのラクトース置換度(DSL)は、5.6であった。
【0047】
(実施例2)ラクトース修飾デンドリマー/グルクロニルグルコシル-シクロデキストリン(Lac-GUG-β-CyD)の作成
デンドリマー/グルクロニルシクロデキストリンとしてデンドリマー/グルクロニル-β-シクロデキストリン(GUG-β-CDE:G3,DS3)を用い、以下のようにしてラクトース修飾を行った。概略を図5に示す。
(2-1)GUG-β-CDE(G3)の調製
試験管にデンドリマー(G3) 1.5mLを添加し、エバポレーションした。GUG-β-CyD 95.9mgとDMT-MM 22.0mgをDMSO 0.5mLに溶解し、試験管に添加した。その後、室温にて12時間反応後、7日間透析(透析膜:MWCO=3,500)後、TCL(展開溶媒:1-ブタノール/エタノール/水=5:4:3(v/v/v)、呈色試薬:アニスアルデヒド)にて調製を確認し、エバポレーションした。氷冷下で、過剰のエタノールで洗浄した後、沈殿物を蒸留水で溶解した。凍結乾燥後、本品を得た。
【0048】
(2-2)Lac-GUG-β-CyD(G3)の調製
GUG-β-CDE 78.7mg及びLactose-水和物 20.3mg、シアノ水素化ホウ素ナトリウム 7.0mgを試験管に添加し、0.2 M borate buffer 2.0mLで溶解した(pH 7.5)。その後、室温にて3時間反応後、2日間透析(透析膜:MWCO=3,500)後、TCL(展開溶媒:1-ブタノール/エタノール/水 =5:4:3(v/v/v)、呈色試薬:アニスアルデヒド)にて調製を確認し(図6)、エバポレーションした。氷冷下で、過剰のエタノールで洗浄した後、沈殿物を蒸留水で溶解した。凍結乾燥後、本品を得た。
【0049】
次いで、製造したLac-GUG-β-CDEの1H-NMRスペクトルを測定した。結果を図7に示す。デンドリマー1分子に対するGUG-β-CyDの置換度は、3.0、ラクトースの置換度(DSL)は、7.0であった。
【0050】
(実施例3)脳移行性の確認
実施例1で製造したラクトース修飾β-シクロデキストリンに対し、以下のようにしてCy5標識を行った。Lac-β-CyD 20mg及びCy5 mono NHS ester 1mgをミリQ 1mL に溶解し、室温、遮光下にて18時間反応させた。その後、水中で48時間透析(透析膜(スぺクトラ/ポア)MWCO:1,000)後、TCL(展開溶媒:1-ブタノール/エタノール/水 =5:4:3(v/v/v)、呈色試薬:アニスアルデヒド)にて調製を確認し、凍結乾燥後、Cy5ラベル化Lac-β-CyDを得た。
生理食塩水に溶解した標識したCy5-Lac-β-CyD(DSL5.6)を、20mg/kgとなるように、各BALB/cマウス(8週齢、雄、20g)に皮下注射した。コントロールは、生理食塩水を注射した。投与 0分、5分、10分、30分、60分、及び180分後に、マウスを安楽死させ、PBSで灌流し、脳を摘出した。摘出した脳を、In vitro image spectrum(IVIS)にて観察した(Ex:535nm,Em:DsRed)。結果を図8に示す。投与10分後の採取した脳が、最も強い蛍光を示していた。
【0051】
(実施例4)インビトロ血液脳関門モデルでのLac-GUG-β-CDEの透過性の確認
インビトロの血液脳関門モデルを用いて、Lac-GUG-β-CDEの時間依存的な透過量を以下のようにして確認した。
まず、Lac-GUG-β-CDE及びコントロールであるGUG-β-CDEを以下のようにしてTRITC標識を行った。GUG-β-CDE(G3,DS3) 10mg及びTRITC 1mgをDMSO 1mLに溶解し、室温、遮光下にて24時間反応させた。その後、水中で48時間透析(透析膜(スぺクトラ/ポア)MWCO:3,500)後、TCL(展開溶媒:1-ブタノール/エタノール/水=5:4:3(v/v/v)、呈色試薬:アニスアルデヒド)にて調製を確認し、凍結乾燥後、TRITCラベル化GUG-β-CDE(G3,DS3)を得た。
トランスウエルにhCMEC/D3細胞を1.0×105 cells/wellずつ播種し、37℃にてCO2インキュベーター内で4~6日間培養した。実験の開始前に、EBM-2培地でhCMEC/D3細胞単層の平衡化を行った(37℃、apical側に1.5mL、basal側に2.6mL)。TRITC-GUG-β-CDE(G3,DS3)又はTRITC-Lac-GUG-β-CDE(G3,DS3,DSL7)を、それぞれ、EBM-2培地に10μMの濃度となるように溶解し、apical側の培地と交換した。5,15,30,60分後に、basal側のEMB-2培地中のTRITC-GUG-β-CDE又はTRITC-Lac-GUG-β-CDEを測定した。結果を図9に示す。また、それぞれの透過係数は以下の通りであった。
【0052】
【表1】
各数値は、4回の実験の平均±S.E.を示している。*は、TRITC-GUG-β-CDEと比較した場合のp<0.05を示している。
【0053】
(実施例5)血液脳関門の密着結合に与える影響の確認
TRITC-GUG-β-CDE(G3,DS3)及びTRITC-Lac-GUG-β-CDE(G3,DS3,DSL7)の血液脳関門の密着結合に与える影響を以下のようにして検討した。
トランスウエルにhCMEC/D3細胞を1.0×105 cells/wellずつ播種し、37℃にてCO2インキュベーター内で4~6日間培養した。実験の開始前に、EBM-2培地でhCMEC/D3細胞単層の平衡化を行った(37℃、apical側に2.0mL、basal側に2.0mL)。TRITC-GUG-β-CDE(G3,DS3)又はTRITC-Lac-GUG-β-CDE(G3,DS3,DSL7)を、それぞれ、EBM-2培地に10μMの濃度となるように溶解し、あらかじめ37℃に温めた後、apical側の培地と交換した。5,15,30,60分後に、単層の経皮内電気抵抗(TEER)を測定することで密着結合への影響を評価した。図10に示すように、TRITC-GUG-β-CDE及びTRITC-Lac-GUG-β-CDEのいずれも、細胞の密着結合を低下させなかった。よって、血液脳関門において細胞障害を起こさないと示唆された。
【0054】
(実施例6)エンドサイトーシスの確認
TRITC-Lac-GUG-β-CDE(G3,DS3,DSL7)の細胞内取り込みが、エンドサイトーシスにより起こるのかを以下のようにして確認した。
hCMEC/D3細胞(1.0×104 cells/well)をTRITC-Lac-GUG-β-CDE(G3,DS3,DSL7)で、30分及び60分処理した。培養温度は、4℃又は37℃を用いた。PBSで細胞を洗浄後、細胞を蛍光顕微鏡により観察した。結果を図11に示す。観察はそれぞれ3つの独立した地点で行い、図は、代表的なイメージを示している。蛍光強度をBZ-IIアナライザーで測定した結果を、図12に示す。4℃では、TRITC-Lac-GUG-β-CDEの取り込みが起こらないことより、TRITC-Lac-GUG-β-CDEはエンドサイトーシスの経路を通って細胞内に取り込まれていることが判った。
【0055】
(実施例7)ラクトースによる競合阻害の確認
TRITC-Lac-GUG-β-CDE(G3,DS3,DSL7)の細胞内取り込みが、ラクトースにより競合阻害されるか否かを以下のようにして確認した。
37℃の温度にて、ラクトース(4 mM)の存在下で、hCMEC/D3細胞(1.0×104 cells/well)をTRITC-Lac-GUG-β-CDE(G3,DS3,DSL7)で、30分及び60分処理した。PBSで細胞を洗浄後、細胞を蛍光顕微鏡により観察した。結果を図13に示す。観察はそれぞれ3つの独立した地点で行い、図は、代表的なイメージを示している。蛍光強度をBZ-IIアナライザーで測定した結果を図14に示す。TRITC-Lac-GUG-β-CDEの取り込みがラクトースにより競合阻害されることが確認された。この結果は、TRITC-Lac-GUG-β-CDEの取り込みは、ラクトースを認識するレセプターを介していることを示唆している。
【0056】
(実施例8)神経芽細胞内への取り込みの確認
TRITC-Lac-GUG-β-CDE(G3,DS3,DSL7)が神経芽細胞内に取り込まれるか否かを以下のようにして確認した。
ヒト神経芽細胞であるSH-SY5Y細胞(1.0×104cells/well)をTRITC-GUG-β-CDE(G3,DS3)及びTRITC-Lac-GUG-β-CDE(G3,DS3,DSL7)で、60分処理した。培養温度は37℃を用いた。PBSで細胞を洗浄後、細胞の蛍光強度をBZ-IIアナライザーで測定した。結果を図15に示す。TRITC-Lac-GUG-β-CDEは神経細胞にも取り込まれていることが判った。
【0057】
(実施例9)ラクトース修飾ヒドロシキプロピル-β-シクロデキストリンの合成
シクロデキストリンとしてヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリンを用い、以下のようにしてラクトース修飾ヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリン(Lac-HP-β-CyD)を合成した。
合成の概略を図16に示す。HP-β-CyD 1.0gにエチレンジアミン10.5mLを添加し、CDIを用いて反応させた。得られたNH2-HP-β-CyD(エチレンジアミン)1.0gをDMSOに熔解し、シアノ水素化ホウ素ナトリウム(3.3g)を添加した。さらにラクトース一水和物(18.3g)を添加し、75℃で48時間撹拌した。NH2-HP-β-CyDに対するラクトースモル比は1:100である。透析(透析膜:MWCO=1,000で6時間、MWCO=500~1,000で48時間)後、TCL(展開溶媒:エタノール/水 =9:1(v/v)、呈色試薬:ニンヒドリン又はアニスアルデヒド)にて調製を確認し(図17)、凍結乾燥後、本品を得た。得られたサンプルのMALDI-TOF MSスペクトル及び1H-NMRスペクトルを測定した。結果を図18及び19に示す。ラクトース置換度は、3.0であった
【0058】
(実施例10)コレステロール漏出に及ぼすLac-HP-β-CyDの影響
ヒト神経芽細胞であるSH-SY5Y細胞(1.0×105cell)を24ウェルプレートに播種し、37℃で24時間インキュベートした後、PBSで洗浄し、U18666A(7.5μM )を添加した培地を添加し、さらに24時間インキュベートした。その後、PBSで洗浄し、HP-β-CyD(DS4.4)(1.0,10.0及び20.0mM)又はLac-HP-β-CyD(DSL3.0)(1.0,10.0及び20.0mM)を含む培地(HBSS、FBS(-))150μLを添加した。37℃で2時間インキュベートした後、上清を回収し遠心分離(10,000)した。得られた上清中のコレステロール濃度及びリン脂質濃度を、コレステロールE-テストワコー及びホスホリピドC-テストワコーにて測定した。結果を図20に示す。Lac-HP-β-CyDは、HP-β-CyDに比べ、コレステロール漏出が少なかった。
【0059】
(実施例11)Lac-HP-β-CyDのhCMEC/D3細胞への取り込み
Lac-HP-β-CyD(DSL3.0)及びコントロールであるHP-β-CyD(DS4.0)を、製造者のマニュアルに従ってHiLyte蛍光色素で標識した。これらを用いて以下の実験を行った。
ヒト脳毛細血管内皮細胞であるhCMEC/D3細胞を用い、Lac-HP-β-CyDの細胞への取り込みを確認した。hCMEC/D3細胞を1.0×104 cells/ガラス皿にて播種し、37℃にて24時間インキュベートした。その後、PBSで洗浄し、HiLyte-HP-β-CyD(DS4.4,1mM)又はHiLyte-Lac-HP-β-CyD(DSL3.0,1mM)を含む培地 150μLを添加し、37℃で1時間インキュベートした。PBSで洗浄後、4%パラホルムアルデヒドで固定した。Hoechst溶液を添加し、37℃で30分インキュベートした後、蛍光を、共焦点顕微鏡で観察した。結果を図21に示す。Lac-HP-β-CyDは、HP-β-CyDと比較して、細胞内に有意に取り込まれることが確認された。
【0060】
(実施例12)Lac-HP-β-CyDの膜透過性に及ぼす影響の確認
hCMEC/ D3細胞及びSH-SY5Y細胞を用い、HiLyte-Lac-HP-β-CyDの膜透過性に対する影響を測定した。
トランスウエルのアッパーコンポ-メントにhCMEC/D3細胞を2.0×105 cells/wellにて播種し、37℃で5日間インキュベートした後、経皮内電気抵抗(TEER)を測定した。ロアーコンポーネントである6ウェルプレートにSH-SY5Y細胞を1.0×105 cells/wellにて播種し、37℃で1日間インキュベートした。その後、アッパー側とロアー側の培地を吸引し、HiLyte-HP-β-CyD(DS4.4,1mM)又はHiLyte-Lac-HP-β-CyD(DSL3.0,1mM)を含むEBM-2培地をアッパー側に1.5mL添加し、ロアー側にそれらを含まない培地を2.6mL添加した。経時的(アッパー側0,60分;ロアー側0,5,15,30,及び60分)に、培地をサンプリングし、I-control(M1000)(TECAN)を用いて蛍光強度を測定し、透過量を確認した。ロアー側への透過の測定結果を図22に示す。実施例4と同様に、透過係数Papp(cm/sec)を以下のようにして算出した。
Papp=(dQ/dt)/(A*Co)
Q:透過量(mol)、A:細胞表面積(cm2)、Co:初濃度(mol/mL)
【0061】
【表2】
各数値は、1回の実験の平均±S.E.を示している。
【0062】
また、60分の時点で、ロアー側をPBSで洗浄し、蛍光を共焦点顕微鏡で観察した。結果を図23に示す。これらの結果より、Lac-HP-β-CyDは、HP-β-CyDと比較して、BBB透過後、SH-SY5Y細胞内に有意に取り込まれることが確認された。
【0063】
(実施例13)アミロイドβの細胞内蓄積に及ぼすLac-HP-β-CyDの影響
SH-SY5Y細胞を用いて、細胞内に蓄積するアミロイドβを測定した。SH-SY5Y細胞を1.0×104 cells/ガラス皿にて播種し、37℃にて24時間インキュベートした。その後、PBSで洗浄し、U18666A(7.5μM)及びHiLyte488-Aβ(AnaSpecより購入)(250nM)を含む培地 150μLを添加し、37℃で24時間インキュベートした。PBSで洗浄後、HP-β-CyD(DS4.4,1mM)又はLac-HP-β-CyD(DSL3.0,1mM)を含む培地 200μLを添加し、37℃で24時間インキュベートした。PBSで洗浄後、Lysostacker(登録商標)(最終濃度:100nM)を添加した培地200μL添加した。30分インキュベートした後、4%パラホルムアルデヒドで固定し、FIlipin溶液を添加した。37℃で1時間インキュベートし、蛍光を、共焦点顕微鏡で観察した。結果を図24に示す。Lac-HP-β-CyDは、細胞内のコレステロール量を減少させることで、Aβのクリアランスを正常にすることが観察された。
【0064】
(実施例14)蛍光標識Lac-HP-β-CyDの臓器分布
BALB/cマウス(8週齢、雄、20g)に、HiLyte-HP-β-CyD(DS4.4)又はHiLyte-Lac-HP-β-CyD(DSL3.0)を、10mg/kgの投与量にて静注した。10分後に、マウスを安楽死させ、PBSで灌流し、各臓器を回収した。IVISにて各臓器を観察した。各臓器の蛍光強度の結果を図25に示す。図26に、取り込みが少ない臓器である脳、心臓、肺、脾臓の蛍光強度を拡大した結果を示す。また、脳への取り込みを、コントロールを100として表した場合の結果を、図27に示す。この結果より、Lac-HP-β-CyDは、HP-β-CyDと比較して、脳に有意に移行することが確認された。
【0065】
上記の詳細な記載は、本発明の目的及び対象を単に説明するものであり、添付の特許請求の範囲を限定するものではない。添付の特許請求の範囲から離れることなしに、記載された実施態様に対しての、種々の変更及び置換は、本明細書に記載された教示より当業者にとって明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明のラクトース修飾したシクロデキストリン又はデンドリマー/グルクロニルグルコシル-シクロデキストリンは、血液脳関門を透過するので、薬物を脳内へ送達する際のキャリア分子として有用である。
図1
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