(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-18
(45)【発行日】2024-06-26
(54)【発明の名称】光学ガラス廃材からレアメタルを回収する方法
(51)【国際特許分類】
C22B 34/24 20060101AFI20240619BHJP
C22B 58/00 20060101ALI20240619BHJP
C22B 59/00 20060101ALI20240619BHJP
C22B 7/00 20060101ALI20240619BHJP
C22B 3/44 20060101ALI20240619BHJP
【FI】
C22B34/24
C22B58/00
C22B59/00
C22B7/00 G
C22B3/44 101A
C22B3/44 101B
C22B3/44 101Z
(21)【出願番号】P 2023191668
(22)【出願日】2023-11-09
【審査請求日】2024-02-15
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】506214460
【氏名又は名称】株式会社スリー・アール
(74)【代理人】
【識別番号】100134740
【氏名又は名称】小池 文雄
(72)【発明者】
【氏名】菅井 尚之
(72)【発明者】
【氏名】菅井 弘
【審査官】岡田 隆介
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-211048(JP,A)
【文献】特表2007-528938(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第105567979(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第111057879(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22B 34/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
光学ガラス廃材からレアメタルを回収する方法であって、
光学ガラス廃材を硝酸を用いて溶解して第1溶解液を得るステップと、
前記第1溶解液をろ過して第1沈殿物と第2溶解液を得るステップと、
前記第1沈殿物を水酸化ナトリウムと過酸化水素を用いて溶解して第3溶解液を得るステップと、
前記第3溶解液をろ過して不溶残渣と第4溶解液を得るステップと、
前記第4溶解液を結晶化してTaとNbを含む結晶化物を得るステップと、を含む方法。
【請求項2】
前記第1溶解液を得るステップは、
前記光学ガラス廃材を高濃度の硝酸を用いて溶解するステップと、
前記高濃度の硝酸による溶解液をさらに前記高濃度の硝酸よりも低濃度の硝酸を用いて溶解するステップと、を含む請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記第2溶解液のpHをアンモニア水を用いて所定値に調整するステップと、
前記pHの調整後の前記第2溶解液をろ過して第5溶解液を得るステップと、
前記第5溶解液に硫酸ナトリウムを加えて、LaとGaを含む硫酸塩を得るステップと、をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学ガラス廃材からレアメタルを回収する方法に関し、より具体的には、光学ガラス廃材からTa、Nb、La、またはGdを回収する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
Ta、Nb、La、Gd等といった希少金属元素(以下、本明細書において「レアメタル」と呼ぶ)は、消費量のほぼ全量を海外からの輸入に頼っている。そのため、安定な供給の確保が困難であり、また価格変動の影響を大きく受ける。一方で、レアメタルは様々な用途に用いられた後に廃棄されている現状にある。例えば、光学ガラスには上記したレアメタルを含む多種類のレアメタルが含まれているものの、製造工程でその大部分が廃棄されており、製品となるのは原料の半分以下である。こういった現状から、レアメタルを含む廃棄物からレアメタルを効率的かつ経済的に分離し回収する技術が必要とされている。
【0003】
レアメタルを回収する技術として、特許文献1は、塩化揮発法による光学ガラス廃材からのレアメタルの分離回収方法を開示する。また、特許文献2は、光学ガラス研磨・洗浄工程およびこれに付帯する排水処理装置から発生する光学ガラス汚泥から硫酸処理等を用いてレアメタル成分を回収する方法を開示する。
【0004】
しかし、特許文献1に記載の方法は塩素供給や加熱温度の制御が複雑であり、特許文献2に記載の方法は光学ガラス汚泥を原料とするものであり、いずれも光学ガラス廃材から効率的でかつ経済的に、言い換えれば比較的簡易な方法により高い回収率で、Ta、Nb、La、またはGdを回収する方法を開示するものではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第5504531号公報
【文献】特開平11-50168号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本願発明は、光学ガラス廃材から比較的簡易な方法でかつ安く(経済的に)Ta、Nb、La、またはGdを回収する方法を提供することを目的とする
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、光学ガラス廃材からレアメタルを回収する方法を提供する。その方法は、(a)光学ガラス廃材を硝酸を用いて溶解して第1溶解液を得るステップと、(b)第1溶解液をろ過して第1沈殿物と第2溶解液を得るステップと、(c)第1沈殿物を水酸化ナトリウムと過酸化水素を用いて溶解して第3溶解液を得るステップと、(d)第3溶解液をろ過して不溶残渣と第4溶解液を得るステップと、(e)第4溶解液を結晶化してTaとNbを含む結晶化物を得るステップと、を含む。
【0008】
本発明によれば、比較的簡易な酸とアルカリを用いた化学処理により、高い回収率でTaとNbをそれらを含む結晶化物として回収することができる。
【0009】
本発明の一態様では、第1溶解液を得るステップ(a)は、(a1)光学ガラス廃材を高濃度の硝酸を用いて溶解するステップと、(a2)高濃度の硝酸による溶解液をさらに高濃度の硝酸よりも低濃度の硝酸を用いて溶解するステップと、を含む。その際、例えば高濃度の硝酸は低濃度の硝酸の略2倍の濃度(M)とすることができる。
【0010】
本発明の一態様によれば、光学ガラス廃材の溶解を高濃度及び低濃度の硝酸による溶解の2段階の処理とすることにより、光学ガラス廃材の溶解度を向上されることができる。
【0011】
本発明の一態様では、水酸化ナトリウムは略1Mの濃度に、過酸化水素は略5-7重量%の濃度にすることができる。
【0012】
本発明の一態様によれば、第3溶解液中のTaとNbの回収率をそれぞれ略95%以上、略40%以上にすることができる。
【0013】
本発明の一態様では、第2溶解液を結晶化するステップは、第4溶解液を常温から略80度の範囲の温度で保持するステップを含む。
【0014】
本発明の一態様によれば、第4溶解液を常温での放置、あるいは加熱温度に応じた加熱及びその冷却処理をするといった、比較的簡易な処理により、TaとNbを含む結晶化物を得ることができる。
【0015】
本発明の一態様では、第2溶解液のpHをアンモニア水、水酸化ナトリウム等を用いて所定値に調整するステップと、pHの調整後の第2溶解液をろ過して第5溶解液を得るステップと、第5溶解液に硫酸ナトリウムを加えて、LaとGaを含む硫酸塩を得るステップと、をさらに含む。その際、例えばpH=3とすることができる。
【0016】
本発明の一態様によれば、比較的簡易な酸とアルカリを用いた化学処理により、TaとNbに加えて、さらにLaとGgをこれらを含む硫酸塩として回収することができる。
【0017】
本発明の一態様では、アンモニア水は略20重量%の濃度にすることができ、また、硫酸ナトリウムは略30重量%の濃度にすることができる。
【0018】
本発明の一態様によれば硫酸塩中のLaとGdの回収率をそれぞれ例えば略85%以上、略79%以上にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明の一実施形態の方法の全体工程を示す図である。
【
図2】本発明の一実施形態の方法の一部工程(TaとNbの回収工程)を示す図である。
【
図3】本発明の一実施形態の方法の一部工程(LaとGdの回収工程)を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
図面を参照しながら本発明の実施の形態を説明する。
図1から
図3は、本発明の一実施形態の方法の工程を示す図である。
図1は、本発明の一実施形態の方法の工程の全体(概要)を示す。
図2は、
図1の工程S4の内容に相当し、本発明の一実施形態の方法のTaとNbを回収する一連の工程を示す。
図3は、
図1の工程S5の内容に相当し、本発明の一実施形態の方法のLaとGdを回収する一連の工程を示す。
図2と
図3の工程は、別々に実施可能であり、あるいは並行して実施可能であり、連続してまたは不連続に(時間を空けて)実施可能である。
【0021】
図1の工程S1において、光学ガラス廃材を準備する。光学ガラス廃材は、光学ガラスの製造工程で出てくるガラス廃材であって、レアメタルを含む希少元素が含まれている。本発明の一実施形態では、回収の対象となるTa、Nb、La、Gdに加えて、例えば、Zn、Zr、B、Siの4つの元素が含まれる光学ガラス廃材を準備する。なお、Ta、Nb、La、Gdに加えて含まれる元素は、この4つの元素に限定されるものではなく、光学ガラスの種類に応じて、それらの元素の一部あるいは他の元素が含まれる場合であっても本発明の方法は適用可能である。
【0022】
工程S2において、準備した光学ガラス廃材を硝酸(HNO3)を用いて溶解して第1溶解液を得る。その際、2段階で溶解することもできる。すなわち、第1溶解液を得る工程S2を、光学ガラス廃材を高濃度の硝酸を用いて溶解する工程と、高濃度の硝酸による溶解液をさらに高濃度の硝酸よりも低濃度の硝酸を用いて溶解する工程に分けることができる。
【0023】
低濃度の硝酸を用いて溶解する工程は、高濃度の硝酸による溶解液に水を加えて硝酸の濃度を低濃度に下げることにより、あるいは高濃度の硝酸による溶解液に低濃度の硝酸溶液を加えることにより行うことができる。その際、例えば高濃度の硝酸は低濃度の硝酸の略2倍の濃度(M)とすることができる。この2段階の溶解処理を採用した場合、光学ガラス廃材の溶解度をさらに向上されることができる。
【0024】
工程S3において、得られた第1溶解液をろ過して、第1沈殿物を回収し(工程S4)、そのろ過液に相当する第2溶解液を得る。第1沈殿物は次の工程S4のTaとNbを回収する工程で処理される。第2溶解液は、次の工程S5のLaとGdを回収する工程で処理される。
【0025】
図2の工程S41~S43は、
図1のTaとNbを回収する工程S4の詳細を示す。工程S41において、第1沈殿物を水酸化ナトリウム(NaOH)と過酸化水素(H
2O
2)を用いて溶解して第3溶解液を得る。その際、例えば水酸化ナトリウムは略1M程度の濃度に、過酸化水素は略5-7重量%の濃度にすることができる。工程S42において、第3溶解液をろ過し、不溶残渣を除去して第4溶解液を得る。
【0026】
工程S43において、得られた第4溶解液を結晶化(再結晶化)する。その結晶化は、例えば第4溶解液を常温で放置、あるいは所定の加熱温度での加熱及びその冷却の処理により行うことができる。加熱温度は常温から略80度の範囲である。すなわち、沸騰しない温度により第4溶解液中の水分(液分)を徐々に蒸発させる。以上の酸とアルカリを用いた比較的簡易な化学処理により、TaとNbを含む結晶化物を得ることができる。
【0027】
図3のS51~S54は、
図1のLaとGdを回収する工程S5の詳細を示す。工程S51において、第2溶解液のpHをアンモニア(NH
4OH)水を用いて所定値に調整する。その際の所定値は、例えばpH=3である。工程S52において、pHの調整後の第2溶解液をろ過し、不溶残渣を除去して第5溶解液を得る。工程S53において、第5溶解液に硫酸ナトリウム(Na
2SO
4)を加えて、LaとGaを含む硫酸塩を得る。工程S54において、LaとGaを含む硫酸塩を焼成してLaとGaを含む酸化物を得る。以上の酸とアルカリを用いた比較的簡易な化学処理により、LaとGaを含む硫酸塩/酸化物を得ることができる。
【0028】
図1~
図3の本発明の一実施形態の方法(工程)を用いて実際にTaとNbを含む結晶化物と、LaとGaを含む硫酸塩を生成(回収)した結果を実施例として以下に示す。
【実施例】
【0029】
光学ガラス廃材として、Ta、Nb、La、Gdに加えて、Zn、Zr、B、Siの4つの元素が含まれる光学ガラス廃材1000kgを準備した。その光学ガラス廃材1000kg中の各元素の含有量(kg)とその割合(%)を下記の表1に示す。
【表1】
【0030】
表1の組成の光学ガラス廃材1000kgを硝酸(HNO
3)を用いて溶解して第1溶解液を得た。その際に、6M(mol/L)の濃度のHNO
3と3M(mol/L)の濃度のHNO
3を用いて2段階で溶解させた。溶解温度は70度であった。得られた第1溶解液をろ過して、第1沈殿物(不溶残渣)と、ろ液に相当する第2溶解液を得た。第1沈殿物中の元素の含有量(kg)とその回収率(%)を下記の表2に示す。回収率(%)は、表1の各元素の含有量(kg)に対する残存率を意味する。表2からTaとNbが溶解せずに100%第1沈殿物中に存在することがわかる。
【表2】
【0031】
第2溶解液中の元素の含有量(kg)とその回収率(%)を下記の表3に示す。回収率(%)は、表1の各元素の含有量(kg)に対する残存率を意味する。表3からLaとGdがそれぞれ100%と85.5%の割合で第2溶解液中に溶けていることがわかる。
【表3】
【0032】
表2の組成の第1沈殿物を水酸化ナトリウム(NaOH)と過酸化水素(H
2O
2)を用いて溶解して第3溶解液を得た。その際、水酸化ナトリウムは1Mの濃度に、過酸化水素は6重量%の濃度とした。第3溶解液をろ過し、不溶残渣を除去して第4溶解液(ろ液)を得た。第4溶解液中の元素の含有量(kg)とその回収率(%)を下記の表4に示す。回収率(%)は、表2の第1沈殿物の各元素の含有量(kg)に対する残存率を意味する。表4からTaとNbがそれぞれ96.4%と40.7%の割合で第2溶解液中に溶けていることがわかる。
【表4】
【0033】
表3の組成の第2溶解液のpHを20重量%の濃度のアンモニア(NH
4OH)水を用いてpH=3になるように調整した。第2溶解液のpHの調整後にろ過し不溶残渣を除去して第5溶解液(ろ液)を得た。第5溶解液中の元素の含有量(kg)とその回収率(%)を下記の表5に示す。表6中の回収率(%)は、表3の第2溶解液中の各元素の含有量(kg)に対する残存率を意味する。表5からLaとGdがそれぞれ88.2%と81.8%の割合で残存していることがわかる。
【表5】
【0034】
表5の第5溶解液に30重量%の濃度の硫酸ナトリウム(Na
2SO
4)を加えて、LaとGaを含む硫酸塩を得た。得られた硫酸塩中の元素の含有量(kg)とその回収率(%)を下記の表6に示す。表6中の回収率1(%)は、表5の第5溶解液中の各元素の含有量(kg)に対する残存率を意味する。LaとGdがそれぞれ97.1%と77.4%、表5の第5溶解液中から回収されていることがわかる。回収率2(%)は、表3の第2溶解液中の各元素の含有量(kg)に対する残存率を意味する。LaとGdがそれぞれ85.6%と79.6%、表5の第5溶解液中から回収されていることがわかる。回収率3(%)は、表1の光学ガラス廃材中の各元素の含有量(kg)に対する残存率を意味する。回収率3(%)からLaとGdがそれぞれ85.6%と68.1%の割合で表1の光学ガラス廃材から回収されていることがわかる。
【表6】
【0035】
本発明の実施形態について、図を参照しながら説明をした。しかし、本発明はこれらの実施形態に限られるものではない。本発明はその趣旨を逸脱しない範囲で当業者の知識に基づき種々なる改良、修正、変形を加えた態様で実施できるものである。
【要約】
【課題】光学ガラス廃材から比較的簡易な方法でかつ経済的にTa、Nb、La、またはGdを回収する方法を提供する。
【解決手段】本発明の方法は、(a)光学ガラス廃材を硝酸を用いて溶解して第1溶解液を得るステップと、(b)第1溶解液をろ過して第1沈殿物と第2溶解液を得るステップと、(c)第1沈殿物を水酸化ナトリウムと過酸化水素を用いて溶解して第3溶解液を得るステップと、(d)第3溶解液をろ過して不溶残渣と第4溶解液を得るステップと、(e)第4溶解液を結晶化してTaとNbを含む結晶化物を得るステップと、を含む。
【選択図】
図1