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特許7506384光学ガラス廃材からレアメタルを回収する方法
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  • 特許-光学ガラス廃材からレアメタルを回収する方法 図1
  • 特許-光学ガラス廃材からレアメタルを回収する方法 図2
  • 特許-光学ガラス廃材からレアメタルを回収する方法 図3
  • 特許-光学ガラス廃材からレアメタルを回収する方法 図4
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-18
(45)【発行日】2024-06-26
(54)【発明の名称】光学ガラス廃材からレアメタルを回収する方法
(51)【国際特許分類】
   C22B 34/24 20060101AFI20240619BHJP
   C22B 7/00 20060101ALI20240619BHJP
   C22B 3/06 20060101ALI20240619BHJP
   C22B 3/08 20060101ALI20240619BHJP
【FI】
C22B34/24
C22B7/00 G
C22B3/06
C22B3/08
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2023197858
(22)【出願日】2023-11-22
【審査請求日】2024-02-15
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】506214460
【氏名又は名称】株式会社スリー・アール
(74)【代理人】
【識別番号】100134740
【弁理士】
【氏名又は名称】小池 文雄
(72)【発明者】
【氏名】菅井 尚之
(72)【発明者】
【氏名】菅井 弘
【審査官】岡田 隆介
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-211048(JP,A)
【文献】特表2007-528938(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第105567979(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第111057879(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22B 34/24
C22B 7/00
C22B 3/06
C22B 3/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
光学ガラス廃材からTaとNbを回収する方法であって、
光学ガラス廃材を鉱酸を用いて溶解して第1溶解液を得るステップと、
第1溶解液をろ過してTaとNbを含むガラス溶解残渣を得るステップと、
ガラス溶解残渣を過酸化水素水を添加しながら硫酸で溶解して第2溶解液を得るステップと、
第2溶解液をろ過してTaを含む第3溶解液と、Nbを含む不溶残渣を得るステップと、を含む方法。
【請求項2】
第2溶解液を得るステップは、ガラス溶解残渣を50℃70℃の温度下で過酸化水素水を添加しながら硫酸で溶解することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
過酸化水素水を硫酸に対して容積比で20%60%の範囲で添加することを含む、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
硫酸の濃度は3N~9Nとし、過酸化水素水を硫酸に対して容積比で40%60%の範囲で添加する、請求項に記載の方法。
【請求項5】
鉱酸として硫酸、塩酸、硝酸の少なくともいずれか1つを含む、請求項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学ガラス廃材からレアメタルを回収する方法に関し、具体的には、光学ガラス廃材からTaとNbを回収する方法に関し、より具体的には、光学ガラス廃材からTaとNbを分離して回収する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
Ta、Nb、La、Gd等といった希少金属元素(以下、本明細書において「レアメタル」と呼ぶ)は、消費量のほぼ全量を海外からの輸入に頼っている。そのため、安定な供給の確保が困難であり、また価格変動の影響を大きく受ける。一方で、レアメタルは様々な用途に用いられた後に廃棄されている現状にある。例えば、光学ガラスには上記したレアメタルを含む多種類のレアメタルが含まれているものの、製造工程でその大部分が廃棄されており、製品となるのは原料の半分以下である。こういった現状から、レアメタルを含む廃棄物からレアメタルを効率的かつ経済的に分離し回収する技術が必要とされている。
【0003】
レアメタルを回収する技術として、特許文献1は、塩化揮発法による光学ガラス廃材からのレアメタルの分離回収方法を開示する。また、特許文献2は、光学ガラス研磨・洗浄工程およびこれに付帯する排水処理装置から発生する光学ガラス汚泥から硫酸処理等を用いてレアメタル成分を回収する方法を開示する。
【0004】
しかし、特許文献1に記載の方法は塩素供給や加熱温度の制御が複雑であり、特許文献2に記載の方法は光学ガラス汚泥を原料とするものであり、いずれも光学ガラス廃材から効率的でかつ経済的に、言い換えれば比較的簡易な方法により高い回収率で、TaとNbを回収する方法を開示するものではない。また、特許文献1及び2のいずれの方法も光学ガラス廃材からTaとNbを分離して回収する方法を開示するものではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第5504531号公報
【文献】特開平11-50168号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本願発明は、光学ガラス廃材から比較的簡易な方法でかつ安く(経済的に)TaとNbを回収する、特にTaとNbを分離して回収する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、光学ガラス廃材からTaとNbを回収する方法を提供する。その方法は、(a)光学ガラス廃材を鉱酸を用いて溶解して第1溶解液を得るステップと、(b)第1溶解液をろ過してTaとNbを含むガラス溶解残渣を得るステップと、(c)ガラス溶解残渣を過酸化水素水を添加しながら硫酸で溶解して第2溶解液を得るステップと、(c)第2溶解液をろ過してTaを含む第3溶解液と、Nbを含む不溶残渣を得るステップを含む。
【0008】
本発明の一態様では、(c)第2溶解液を得るステップは、ガラス溶解残渣を略50℃~略70℃の温度下で過酸化水素水を添加しながら硫酸で溶解することを含む。
【0009】
本発明の一態様では、過酸化水素水を硫酸に対して容積比で略20%~略60%の範囲で添加することを含む。
【0010】
本発明の一態様では、硫酸の濃度は3N~9Nとし、過酸化水素水を容積比で略4%0~略60%の範囲で添加することを含む。
【0011】
本発明の一態様では、鉱酸として硫酸、塩酸、または硝酸の少なくともいずれか1つを含む。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の一実施形態の方法の工程を示す図である。
図2】本発明の一実施形態の光学ガラス廃材の溶解結果を示す図(表)である。
図3】本発明の一実施形態のガラス溶解残渣の溶解結果を示す図(表)である。
図4図3の溶解結果をガラス残渣理論濃度と比較して得られた溶出率(%)を示す図(表)である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
図面を参照しながら本発明の実施の形態を説明する。図1は、本発明の一実施形態の方法の工程を示す図である。
【0014】
図1の工程S1において、光学ガラス廃材を準備する。光学ガラス廃材は、光学ガラスの製造工程で出てくるガラス廃材であって、レアメタルを含む希少元素が含まれている。本発明の一実施形態では、回収の対象となるTaとNbに加えて例えばLa、Gd、Zn、Zr、B、Siの元素が含まれる光学ガラス廃材を準備する。なお、TaとNbに加えて含まれる元素は、これらの元素に限定されるものではなく、光学ガラスの種類に応じて、それらの元素の一部あるいは他の元素が含まれる場合であっても本発明の方法は適用可能である。
【0015】
工程S2において、準備した光学ガラス廃材を鉱酸を用いて溶解して第1溶解液を得る。鉱酸は、無機酸とも呼ばれ、無機化合物の化学反応で得られる酸であり、例えば,塩酸(HCl)、硝酸(HNO)、ホウ酸(HBO)、硫酸(HSO)、炭酸(HCO)、リン酸(HPO)、フッ化水素酸が該当する。工程S2では、基本的にこれらの少なくとも1つ以上の鉱酸を用いることができる。鉱酸の濃度は所定濃度とし、溶解の際の温度は、例えば略50℃~略70℃とすることができるがこの範囲の温度に限定されるものではない
【0016】
工程S2で得られる溶解液には、TaとNbは一切含まれず、他のLa、Gd、B等が含まれる。その理由は、光学ガラス廃材(ガラス原料)中のTaやNbはいわゆる「難溶解性物質」に相当し、水に不溶で塩酸、硝酸、希硫酸、希過塩素酸等に簡単に溶解しないからである。そのため、フッ酸やフッ酸と硝酸などの混酸により、TaやNb5のTaとNbの酸化物を溶解する必要がある。すなわち、フッ酸を使用してTaとNbの酸化物を溶解する方法が一般的であるが、フッ酸を用いる場合、取扱いが極めて難しく工業化するには課題が多い。そこで、本発明者らは、より工業化が容易なガラス溶解残渣の溶解条件を混酸の種類を変えながら実験を繰り返して検討した結果、以下に述べるような工程(条件)を新たに見出した。
【0017】
工程S3において、得られた第1溶解液をろ過してガラス溶解残渣を得る。工程S4において、得られたガラス溶解残渣を過酸化水素水を添加しながら硫酸で溶解して第2溶解液を得る。硫酸の濃度は所定濃度とし、過酸化水素水は所定の温度下で、所定時間毎に所定量を添加、あるいは連続して少量を添加してもよい。
【0018】
工程S5において、第2溶解液をろ過して、Taを含む第3溶解液とNbを含む不溶残渣を得る。TaとNbを溶解液と不溶残渣とに分離できるのは、工程S4での両者の溶解条件に差異があることを本発明者らが新たに見出したからである。通常、一般にTaとNbの分離には高価な大規模な設備が必要となる溶媒抽出法が適用されるが、本発明により比較的簡易な方法でかつ安く(経済的に)Nbを含まないTaを選択的に得ることが可能となる。
【0019】
図1の本発明の一実施形態の方法により実際に光学ガラス廃材からTaとNbを分離して回収できることを図2図4として示す各表を参照しながら実施例として以下に示す。
【実施例
【0020】
光学ガラス廃材として、TaとNbに加えてLa、Gd、B等の元素が含まれる光学ガラス廃材を準備した。その光学ガラス廃材を硫酸、塩酸、硝酸の3つの鉱酸を用いて溶解させた結果を図2に示す。各酸の濃度は3N~7Nと異なり、また溶解温度も50℃と70℃と異なるが、No.1~No.6のいずれの条件下においても溶解液中にはNbとTaが存在しない(溶出しない)ことが確認できた。すなわち、溶解液をろ過して得られるガラス溶解残渣中にはNbとTaが濃縮されていることがわかった。
【0021】
次に、まず、図1のN.4の条件に相当する濃度6Nの塩酸を用いて温度70℃で光学ガラス廃材を溶解し、溶解液をろ過し水洗した後の残渣を自然乾燥させ、乳鉢で粉砕させて主にTaとNbを含むガラス溶解残渣を調製して準備した。このガラス溶解残渣の溶解試験時の条件として、酸には硫酸と塩酸を採用し、過酸化水素水を添加して一定時間攪拌し、ろ過後の溶液濃度をICPで分析した。
【0022】
ICPでの分析結果から、硫酸と過酸化水素水を使用した条件によりTaとNbの溶出が確認されたことから、この組み合わせで条件を変えながら試験を行った。試験では温度を室温(RT)、50℃、70℃と変化させた。ガラス溶解残渣3.0gを硫酸50mlに溶解することを基準の条件とした。試験では硫酸のみでの溶解試験開始から1時間ごとに過酸化水素を10mlずつ30mlまで添加した。これらの試験結果を図3に示す。
【0023】
図3から各温度において硫酸(HSO)に過酸化水素水(H)を添加していくことにより、Nbの溶出をゼロに近い0~0.6(g/L)の範囲に抑制しながらTaの溶出をその10~100倍程度の2~11(g/L)に増加させることができることがわかった。例えば、温度50℃で3時間後の過酸化水素水20mlの添加では、Nbの溶出を0.1(g/L)以下に抑制しながらTaの溶出を5.4(g/L)にまで増加させることができた。さらに、温度70℃では、2時間後の過酸化水素水10mlの添加で、Nbの溶出ゼロに抑制しながらTaの溶出を4(g/L)とすることができ、また、3時間後の過酸化水素水20mlの添加で、Nbの溶出ゼロに抑制しながらTaの溶出を5.1(g/L)とすることができた。
【0024】
次に、図3の試験結果をガラス残渣理論濃度(全て溶解した場合に得られる溶解液中の金属濃度)と比較して、TaとNbの溶出率(%)を求めた結果を図4に示す。図4から、TaとNbの溶解挙動が条件により異なることが見出された。すなわち、室温では過酸化水素水の添加によりTaの溶出率を100%まで高めることが可能であるが、同時にNbの溶出率も数十%程度まであって相対的に高い傾向にある。
【0025】
しかしながら、温度50℃以上では過酸化水素の添加量を増加させることにより、Taの溶出率に対してNbの溶出率を大幅に抑制できることが明らかとなった。例えば、温度50℃で4時間後の過酸化水素水30mlの添加において、Nbの溶出率を0%に抑制しながらTaの溶出率を56%~72%に増加させることができることがわかった。また、例えば、温度70℃で3時間後の過酸化水素水20mlの添加において、Nbの溶出率を0%に抑制しながらTaの溶出率を22%~57%に増加させることができることがわかった。
【0026】
図4の結果を裏付ける具体的な条件を得るために本発明者らが行った実験では、硫酸50mLにガラス溶解残渣を添加し、温度を室温、50℃、70℃に制御しながら硫酸溶液に対して過酸化水素水を容積比で20%~60%添加した。その結果、硫酸濃度3N~9N、温度50℃~70℃、過酸化水素水の添加量を40%~60%程度で溶解すると、Nbを含まないTa溶出液を得ることができることがわかった。すなわち、上述した条件により光学ガラス廃材からTaとNbを分離して回収することができることがわかった。
【0027】
本発明の実施形態について、図を参照しながら説明をした。しかし、本発明はこれらの実施形態に限られるものではない。本発明はその趣旨を逸脱しない範囲で当業者の知識に基づき種々なる改良、修正、変形を加えた態様で実施できるものである。
【要約】
【課題】光学ガラス廃材から比較的簡易な方法でかつ安く(経済的に)TaとNbを分離回収する方法を提供する。
【解決手段】本発明の方法は、(a)光学ガラス廃材を鉱酸を用いて溶解して第1溶解液を得るステップと、(b)第1溶解液をろ過してTaとNbを含むガラス溶解残渣を得るステップと、(c)ガラス溶解残渣を過酸化水素水を添加しながら硫酸で溶解して第2溶解液を得るステップと、(c)第2溶解液をろ過してTaを含む第3溶解液と、Nbを含む不溶残渣を得るステップを含む。
【選択図】図1
図1
図2
図3
図4