(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-18
(45)【発行日】2024-06-26
(54)【発明の名称】熱電素子の製造方法
(51)【国際特許分類】
H10N 10/851 20230101AFI20240619BHJP
H10N 10/857 20230101ALI20240619BHJP
C01B 33/06 20060101ALI20240619BHJP
H10N 10/01 20230101ALI20240619BHJP
【FI】
H10N10/851
H10N10/857
C01B33/06
H10N10/01
(21)【出願番号】P 2019228700
(22)【出願日】2019-12-18
【審査請求日】2022-11-01
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】398032289
【氏名又は名称】株式会社テックスイージー
(74)【代理人】
【識別番号】100111084
【氏名又は名称】藤野 義昭
(72)【発明者】
【氏名】井上 裕之
(72)【発明者】
【氏名】小林 隆秀
【審査官】柴山 将隆
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-064899(JP,A)
【文献】特開2019-036623(JP,A)
【文献】国際公開第2018/212297(WO,A1)
【文献】特開2017-152691(JP,A)
【文献】特開2017-076775(JP,A)
【文献】特開2015-053466(JP,A)
【文献】国際公開第2016/147301(WO,A1)
【文献】特開2017-098288(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H10N 10/851
H10N 10/857
C01B 33/06
H10N 10/01
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Mg
2Si系熱電材料を合成する合成工程と、
前記合成工程で合成されたMg
2Si系熱電材料に、添加元素としてホウ素を添加するホウ素添加工程と、
前記ホウ素添加工程でホウ素が添加されたMg
2Si系熱電材料を焼結する焼結工程と
を備え、
前記ホウ素添加工程は、予め決められた量の前記Mg
2Si系熱電材料に対して、0.25at%以上、1at%以下のホウ素を添加する
ことを特徴とする熱電素子の製造方法。
【請求項2】
Mg
2Si系熱電材料の合成に使用される原料を加圧成形する成形工程を更に備え、
前記合成工程は、前記成形工程で成形された合成用成形体に対して熱処理を行って、Mg
2Si系熱電材料を合成する
ことを特徴とする請求項
1に記載の熱電素子の製造方法。
【請求項3】
Mg
2Si系熱電材料を用意する工程と、
前記Mg
2Si系熱電材料に添加元素としてホウ素を添加するホウ素添加工程と、
前記ホウ素添加工程でホウ素が添加されたMg
2Si系熱電材料を焼結する焼結工程と
を備え、
前記ホウ素添加工程は、予め決められた量の前記Mg
2Si系熱電材料に対して、0.25at%以上、1at%以下のホウ素を添加する
ことを特徴とする熱電素子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱電素子及びその製造方法、特に、Mg2Si系熱電素子及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、マグネシウムシリサイド(Mg2Si)に各種ドーパントを含有させることで熱電特性を向上させたMg2Si系熱電材料が知られており、このようなMg2Si系熱電材料を使用した熱電素子は、比較的高い熱電性能(発電性能)を有することが知られている。
【0003】
しかしながら、従来のMg2Si系熱電素子は、発電用途、すなわち、素子両端に温度差を与えた状態で長時間していると、その熱電特性が徐々に劣化していくことが知られており、充分な熱耐久性を有していなかった。
【0004】
なお、特開2011-29632号公報には、866Kにおける無次元性能指数が0.665以上であり、実質的にドーパントを含まないマグネシウム-ケイ素複合材料、及び、ドーパントを原子量比で0.10~2.00at%含有するマグネシウム-ケイ素複合材料が開示されており、ドーパントとしてSbを含む場合、高温における耐久性に優れた熱電変換材料を得ることができることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、高い熱電性能を有すると共に、高い熱安定性を有するMg2Si系熱電素子及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る熱電素子は、マグネシウムシリサイドで構成される熱電素子であって、添加元素としてホウ素を含有しており、前記ホウ素は、分散して存在していることを特徴とする。
【0008】
この場合において、前記ホウ素は、マグネシウムシリサイドの粒界領域に存在しているようにしてもよい。
【0009】
また、以上の場合において、前記ホウ素の周囲には、マグネシウムとホウ素の化合物が形成されているようにしてもよい。
【0010】
本発明に係る熱電素子の製造方法は、Mg2Si系熱電材料の合成に使用される原料に、添加元素としてホウ素を添加するホウ素添加工程と、前記ホウ素添加工程でホウ素が添加された原料に対して熱処理を行って、Mg2Si系熱電材料を合成する合成工程と、前記合成工程で合成されたMg2Si系熱電材料を焼結する焼結工程とを備えたことを特徴とする。
【0011】
この場合において、前記原料は、マグネシウム及びケイ素であるようにしてもよい。
【0012】
また、本発明に係る別の熱電素子の製造方法は、Mg2Si系熱電材料を合成する合成工程と、前記合成工程で合成されたMg2Si系熱電材料に、添加元素としてホウ素を添加するホウ素添加工程と、前記ホウ素添加工程でホウ素が添加されたMg2Si系熱電材料を焼結する焼結工程とを備えたことを特徴とする。
【0013】
以上の場合において、Mg2Si系熱電材料の合成に使用される原料を加圧成形する成形工程を更に備え、前記合成工程は、前記成形工程で成形された合成用成形体に対して熱処理を行って、Mg2Si系熱電材料を合成するようにしてもよい。
【0014】
また、本発明に係る更に別の熱電素子の製造方法は、Mg2Si系熱電材料を用意する工程と、前記Mg2Si系熱電材料に添加元素としてホウ素を添加するホウ素添加工程と、前記ホウ素添加工程でホウ素が添加されたMg2Si系熱電材料を焼結する焼結工程とを備えたことを特徴とする。
【0015】
以上の場合において、前記ホウ素添加工程は、予め決められた量のマグネシウムシリサイドに対して、0.25at%以上のホウ素を添加するようにしてもよい。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、高い熱電性能を有すると共に、高い熱安定性を有する熱電素子を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の第一実施形態による熱電素子の製造方法を説明するための図である。
【
図2】本発明の第二実施形態による熱電素子の製造方法を説明するための図である。
【
図5】実施例4の表面の走査型電子顕微鏡写真(図面代用写真)である。
【
図6】ホウ素粒子周辺を拡大した走査型電子顕微鏡写真及びEDXマッピング像(図面代用写真)である。
【
図7】観察領域のラマンスペクトルを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しつつ詳細に説明する。
【0019】
本発明による熱電素子の製造方法は、Mg2Si系熱電素子を製造するものであって、Mg2Si系熱電材料の焼結前に、添加元素としてホウ素(B)を添加するものである。
【0020】
以下では、本発明による熱電素子の製造方法の実施形態として、ホウ素を添加するタイミングが異なる2つの場合について説明する。すなわち、Mg2Si系熱電材料を合成する工程の前に添加するもの(第一実施形態)と、Mg2Si系熱電材料を合成する工程の後(、かつ、焼結工程前)に添加するもの(第二実施形態)について説明する。
【0021】
《第一実施形態》
図1は、本発明の第一実施形態による熱電素子の製造方法を説明するための図である。本実施形態においては、最初の秤量工程において、添加元素としてのホウ素の添加が行われる。
【0022】
同図に示すように、まず、原料の秤量を行う(S1)。例えば、主原料となるマグネシウム(Mg)粉末及びケイ素(Si)粉末と、添加元素としてのホウ素(B)粉末の秤量を行う。この際、一定量のマグネシウムシリサイド(Mg2Si)に対して、ホウ素の量が予め決められた量(例えば、0.25at%以上)となるように、秤量を行う。なお、この際、製造過程での蒸発分を考慮して、マグネシウムを過剰に仕込むようにしてもよい。
【0023】
次に、秤量工程S1において秤量された原料粉末が均一になるように、原料粉末の混合を行う(S2)。例えば、混合機等を使用して、原料粉末の混合を行う。
【0024】
次に、混合工程S2で均一に混合された原料粉末を加圧成形することで合成用成形体を作製する(S3)。例えば、適当な面圧(例えば、20MPa程度)で冷間一軸プレス加工を行うことで、合成用成形体を作製する。
【0025】
次に、成形工程S3で作製された合成用成形体に対して熱処理を行うことで、Mg2Si系熱電材料を合成する(S4)。例えば、合成用成形体を半密閉可能な容器(例えば、炭素製容器)内に収容した上で、電気炉内に入れて、アルゴン(Ar)雰囲気中、650℃~800℃(例えば、700℃)の温度に1~4時間程度保持することで、Mg2Si系熱電材料を合成する。
【0026】
次に、合成工程S4で合成されたMg2Si系熱電材料を粉砕する(S5)。例えば、自動乳鉢やボールミル等によって、所望の粒径(例えば、38μm以下)になるように粉砕する。
【0027】
次に、粉砕工程S5で粉砕されたMg2Si系熱電材料の焼結を行う(S6)。例えば、放電プラズマ焼結法(SPS)による加圧焼結を行う。
【0028】
以上のような工程S1~S6を経て製造された熱電素子は、必要に応じて、所望の形状に加工されて使用されることになる。
【0029】
《第二実施形態》
図2は、本発明の第二実施形態による熱電素子の製造方法を説明するための図である。本実施形態においては、Mg
2Si系熱電材料の合成後の工程において、添加元素としてのホウ素の添加が行われる。
【0030】
同図に示すように、まず、原料の秤量を行う(S11)。例えば、原料となるマグネシウム(Mg)粉末と、ケイ素(Si)粉末の秤量を行う。なお、この際、製造過程での蒸発分を考慮して、マグネシウムを過剰に仕込むようにしてもよい。
【0031】
次に、秤量工程S11において秤量された原料粉末が均一になるように、原料粉末の混合を行う(S12)。例えば、混合機等を使用して、原料粉末の混合を行う。
【0032】
次に、混合工程S12で均一に混合された原料粉末を加圧成形することで合成用成形体を作製する(S13)。例えば、適当な面圧(例えば、20MPa程度)で冷間一軸プレス加工を行うことで、合成用成形体を作製する。
【0033】
次に、成形工程S13で作製された合成用成形体に対して熱処理を行うことで、Mg2Si系熱電材料を合成する(S14)。例えば、合成用成形体を半密閉可能な容器(例えば、炭素製容器)内に収容した上で、電気炉内に入れて、アルゴン(Ar)雰囲気中、650℃~800℃(例えば、700℃)の温度に1~4時間程度保持することで、Mg2Si系熱電材料を合成する。
【0034】
次に、合成工程S14で合成されたMg2Si系熱電材料を粉砕する(S15)。例えば、自動乳鉢やボールミル等によって、所望の粒径(例えば、38μm以下)になるように粉砕する。
【0035】
次に、粉砕工程S15で粉砕されたMg2Si系熱電材料に、添加元素としてホウ素(B)を添加する(S16)。例えば、粉砕されたMg2Si系熱電材料、及び、添加元素としてのホウ素粉末の秤量を行い、一定量のMg2Si系熱電材料に対して、予め決められた量(例えば、0.25at%以上)のホウ素が添加されるようにする。
【0036】
次に、ホウ素添加工程S16でホウ素が添加されたMg2Si系熱電材料粉末が均一になるように、ホウ素が添加されたMg2Si系熱電材料粉末の混合を行う(S17)。例えば、混合機等を使用して、ホウ素が添加されたMg2Si系熱電材料粉末の混合を行う。
【0037】
次に、混合工程S17で均一に混合されたMg2Si系熱電材料の焼結を行う(S18)。例えば、放電プラズマ焼結法(SPS)による加圧焼結を行う。
【0038】
以上のような工程S11~S18を経て製造された熱電素子は、必要に応じて、所望の形状に加工されて使用されることになる。
【0039】
上述した熱電素子の製造方法においては、Mg2Si系熱電材料の焼結前、より具体的には、Mg2Si系熱電材料の合成前、又は、Mg2Si系熱電材料の合成後(、かつ、焼結前)に、添加元素としてホウ素を添加することで、高い熱電性能を有すると共に、高い熱安定性を有する熱電素子が得られるようにしている。
【0040】
以上、本発明の実施形態について説明してきたが、当然のことながら、本発明の実施形態は上記のものに限られない。例えば、上述した実施形態においては、原料からMg2Si系熱電材料を合成するようにしていたが、別途用意されたMg2Si系熱電材料に対して、添加元素としてホウ素を添加し、ホウ素が添加されたMg2Si系熱電材料を焼結するようにすることも考えられる。
【実施例】
【0041】
次に、本発明による熱電素子の製造方法の実施例について説明する。
【0042】
まず、以下のようにして、添加元素としてホウ素が添加されたマグネシウムシリサイドで構成される熱電素子を、添加するホウ素の量、及び、添加するタイミングを変えて、複数種作製した。
【0043】
《実施例1》
まず、化学量論比が(Mg2.02Si1)B0.25となるように、純度99.5%、粒径180μmのマグネシウム(Mg)粉末(株式会社高純度化学研究所製)、純度99.9%、粒径150μmのケイ素(Si)粉末(株式会社高純度化学研究所製)、及び、純度99%、粒径45μmのホウ素(B)粉末(株式会社高純度化学研究所製)の秤量を行った。すなわち、一定量(30g)のMg2.02Si1に対して、ホウ素(B)が0.25at%含まれるように秤量を行った。具体的には、マグネシウム粉末が19.083g、ケイ素粉末が10.916g、ホウ素粉末が0.011gとなるように秤量した。なお、ここでは、製造過程での蒸発分を考慮して、マグネシウムを過剰に仕込むようにしている(以下の各例においても同様)。
【0044】
次に、原料粉末が均一になるように乳鉢内で混合した上で、原料粉末を30φの超鋼ダイス内に収容し、プレス機(エヌピーエーシステム株式会社製、NT-50H)によって、20MPaの圧力でプレス加工を行い、30φ×5mmの円柱状の合成用成形体を得た。
【0045】
次に、得られた合成用成形体を、半密閉可能な蓋付き炭素製容器内に収容した上で、電気炉内に入れ、アルゴン雰囲気中、温度700℃にて1時間、熱処理を行い、Mg2Si系熱電材料の団粒体を得た。
【0046】
次に、得られた団粒体を、乳鉢で1mm以下に粗粉砕した上で、自動乳鉢によって、粒径38μm以下となるように微粉砕を行った。
【0047】
次に、得られたMg2Si系熱電材料粉末を、放電プラズマ焼結用の30φの炭素製ダイスに充填した上で、放電プラズマ焼結装置内に入れて、焼結雰囲気4×10-4の真空中で、焼結温度850℃、焼結時圧力30MPa、焼結時間10分の条件で焼結を行い、熱電素子(焼結体)を得た。
【0048】
《実施例2》
まず、化学量論比が(Mg2.02Si1)B0.75となるように、上記マグネシウム(Mg)粉末、上記ケイ素(Si)粉末、及び、上記ホウ素(B)粉末の秤量を行った。すなわち、一定量(30g)のMg2.02Si1に対して、ホウ素(B)が0.75at%含まれるように秤量を行った。具体的には、マグネシウム粉末が19.083g、ケイ素粉末が10.916g、ホウ素粉末が0.032gとなるように秤量した。
【0049】
以下、前述した実施例1と同様にして、熱電素子を作製した。
【0050】
《実施例3》
まず、化学量論比がMg2.02Si1となると共に、全体の質量が30gとなるように、上記マグネシウム(Mg)粉末、及び、上記ケイ素(Si)粉末の秤量を行った。
【0051】
次に、原料粉末が均一になるように乳鉢内で混合した上で、原料粉末を30φの超鋼ダイス内に収容し、上記プレス機によって、20MPaの圧力でプレス加工を行い、30φ×5mmの円柱状の合成用成形体を得た。
【0052】
次に、得られた合成用成形体を、半密閉可能な蓋付き炭素製容器内に収容した上で、電気炉内に入れ、アルゴン雰囲気中、温度700℃にて1時間、熱処理を行い、Mg2Siの団粒体を得た。
【0053】
次に、得られた団粒体を、乳鉢で1mm以下に粗粉砕した上で、自動乳鉢によって、粒径38μm以下となるように微粉砕を行った。
【0054】
次に、得られたMg2Si粉末の一定量(3.5g)に対して、ホウ素(B)が0.25at%含まれるように、得られたMg2Si粉末、及び、上記ホウ素(B)粉末の秤量を行った。具体的には、Mg2Si粉末が3.5g、ホウ素粉末が0.0012gとなるように秤量した。
【0055】
次に、均一になるよう、秤量されたMg2Si粉末及びホウ素粉末を乳鉢内で混合した上で、放電プラズマ焼結用の30φの炭素製ダイスに充填し、放電プラズマ焼結装置内に入れて、焼結雰囲気4×10-4の真空中で、焼結温度850℃、焼結時圧力30MPa、焼結時間10分の条件で焼結を行い、熱電素子(焼結体)を得た
【0056】
《実施例4》
【0057】
まず、前述した実施例3と同様にして、Mg2Si粉末を得た上で、得られたMg2Si粉末の一定量(3.5g)に対して、ホウ素(B)が0.75at%含まれるように、得られたMg2Si粉末、及び、上記ホウ素(B)粉末の秤量を行った。具体的には、Mg2Si粉末が3.5g、ホウ素粉末が0.0037gとなるように秤量した。
【0058】
以下、前述した実施例3と同様にして、熱電素子を作製した。
【0059】
《実施例5》
まず、化学量論比が(Mg2.02Si1)B1となるように、上記マグネシウム(Mg)粉末、上記ケイ素(Si)粉末、及び、上記ホウ素(B)粉末の秤量を行った。すなわち、一定量(30g)のMg2.02Si1に対して、ホウ素(B)が1at%含まれるように秤量を行った。具体的には、マグネシウム粉末が19.083g、ケイ素粉末が10.916g、ホウ素粉末が0.043gとなるように秤量した。
【0060】
以下、前述した実施例1と同様にして、熱電素子を作製した。
【0061】
《実施例6》
【0062】
まず、前述した実施例3と同様にして、Mg2Si粉末を得た上で、得られたMg2Si粉末の一定量(3.5g)に対して、ホウ素(B)が1at%含まれるように、得られたMg2Si粉末、及び、上記ホウ素(B)粉末の秤量を行った。具体的には、Mg2Si粉末が3.5g、ホウ素粉末が0.0049gとなるように秤量した。
【0063】
以下、前述した実施例3と同様にして、熱電素子を作製した。
【0064】
また、以下のようにして、ホウ素が添加されていないマグネシウムシリサイドで構成される熱電素子を作製した。
【0065】
《比較例1》
まず、化学量論比がMg2.02Si1となると共に、全体の質量が30gとなるように、上記マグネシウム(Mg)粉末、及び、上記ケイ素(Si)粉末の秤量を行った。
【0066】
以下、前述した実施例1と同様にして、熱電素子を作製した。
【0067】
更に、以下のようにして、上記実施例1~6と合成工程及び焼結工程における製造条件(熱処理時間及び焼結時間)が異なる複数種の熱電素子を作製した。
【0068】
《変形例1》
合成工程における熱処理時間を4時間、焼結工程における焼結時間を45分とした以外は、前述した実施例3と同様にして、熱電素子を作製した。
【0069】
《変形例2》
合成工程における熱処理時間を4時間、焼結工程における焼結時間を45分とした以外は、前述した実施例4と同様にして、熱電素子を作製した。
【0070】
また、以下のようにして、ホウ素が添加されていないマグネシウムシリサイドで構成される熱電素子を作製した。
【0071】
《比較例2》
合成工程における熱処理時間を4時間、焼結工程における焼結時間を45分とした以外は、前述した比較例1と同様にして、熱電素子を作製した。
【0072】
次に、以下のようにして、各熱電素子の評価を室温(25℃)にて行った。
【0073】
まず、各熱電素子の一端をヒータで加熱しながら、各熱電素子の両端の温度差及び出力電圧の測定を行い、測定結果に基づいて、ゼーベック係数を算出した。また、4探針法によって、比抵抗の測定を行った。更に、得られたゼーベック係数及び比抵抗に基づいて、パワーファクター(出力因子)を算出した。
【0074】
図3は、各熱電素子の評価結果を示す表である。同図において、αは、ゼーベック係数(単位:μV/K)、ρは、比抵抗(単位:μΩm)、PFは、パワーファクター(単位:W/mK
2)を表している。
【0075】
まず、ゼーベック係数αに着目すると、同図に示すように、実施例1~6、変形例1~2及び比較例1~2のいずれもが、マイナスの値となっており、n型の熱電素子(n型半導体素子)となっていることがわかる。
【0076】
また、比較例1との比較では、実施例1~6のいずれもが、同程度若しくはより小さい(より絶対値が大きい)ゼーベック係数α、及び、より低い比抵抗ρを有しており、相対的に高い熱電性能(パワーファクター)が得られている。
【0077】
以上のことから、一定量のマグネシウムシリサイドに対して、添加元素として、一定量(例えば、0.25at%以上)のホウ素を添加することで、高い熱電性能(パワーファクター)を有する熱電素子が得られることがわかる。
【0078】
また、変形例1~2との比較でも、実施例1~6のいずれもが、より小さい(より絶対値が大きい)ゼーベック係数α、及び、より低い比抵抗ρを有しており、相対的に高い熱電性能(パワーファクター)が得られている。つまり、熱処理時間及び焼結時間については、短い方が相対的に高い熱電性能(パワーファクター)が得られている。これは、より長時間、熱処理や焼結処理が行われると、高真空中であっても原材料中のマグネシウムが酸化して、酸化マグネシウムが(より多く)形成されてしまうことに起因するものと考えられる。
【0079】
更に、実施例3及び4並びに変形例2に関して、以下のようにして、熱耐久性の評価を行った、
【0080】
まず、各熱電素子を、電気炉内に入れて、大気中、温度400℃にて一定時間(512時間及び1024時間)、熱処理を行った。その後、室温まで自然冷却させた後、上述した方法と同様の方法によって、ゼーベック係数の算出、及び、比抵抗の測定を行った。
【0081】
図4は、熱耐久性の評価結果を示す表である。同図において、αは、ゼーベック係数(単位:μV/K)、ρは、比抵抗(単位:μΩm)を表している。
【0082】
同図に示すように、大気中400℃で、1000時間以上、熱処理がされた場合であっても、ゼーベック係数及び比抵抗共に、大きな変化を示しておらず、安定した熱電特性を有していることが確認できた。
【0083】
更に、走査型電子顕微鏡(SEM)及びエネルギー分散型X線分析装置(EDX)(株式会社日立ハイテクノロジーズ製、TM3030Plus)を使って、実施例4の表面の観察及び元素分析を行った。
【0084】
図5は、実施例4の表面の走査型電子顕微鏡写真であり、
図6は、
図5の一部(黒点周辺)を拡大した走査型電子顕微鏡写真及びEDXマッピング像である。
【0085】
図5において、黒い斑点がホウ素に対応している。同図に示すように、添加されたホウ素については、偏析がなく、全面に分散していることが確認できる。
【0086】
更に、実施例4の劈開面に、1%の希塩酸エタノール溶液で10秒ほどエッチングを施して中和した後、SEMによる観察を行った。マグネシウムシリサイド粒子1つ1つの界面をSEMで探索したところ、ホウ素粒子は、マグネシウムシリサイドの粒界領域(微小クラック)に存在していることが確認できた。
【0087】
なお、添加されたホウ素の一部については、マグネシウムシリサイドの粒界領域ではなく、マグネシウムシリサイドの体心位置(4bサイト)に侵入していることが考えられる。前述したように、ホウ素を添加したもの(実施例1~6)の方が、ホウ素無添加のもの(比較例1)より、高い熱電性能を示しているが、これは、添加されたホウ素の一部が、マグネシウムシリサイドの体心位置に侵入したことに起因していると考えることができる。
【0088】
また、
図6に示したEDXマッピング像から、分散して存在するホウ素粒子の周囲(マグネシウムシリサイドとホウ素の境界領域)には、マグネシウムとホウ素の両方が存在していることが確認できた。
【0089】
そこで更に、レーザーラマン顕微鏡(ナノフォトン株式会社製、RAMANtouch)を使って、実施例4のホウ素粒子の周囲のマグネシウムとホウ素の両方が存在している領域(観察領域)の観察を行った。
【0090】
図7は、観察領域のラマンスペクトルを示す図である。同図に示すように、ホウ化マグネシム(Mg
3B
2)及び二ホウ化マグネシウム(MgB
2)に対応するピークが確認でき、観察領域(ホウ素粒子の周囲)には、ホウ素化合物(ホウ化マグネシム及び二ホウ化マグネシウム)が生成されていることが確認できた。
【0091】
この化合物相は、焼結時に一定量蒸発するマグネシウムと再反応して形成されたものと考えられる。酸素とホウ素とを比較すると、相対的に、ホウ素の方がマグネシウムと結合しやすいことから、添加されたホウ素が、マグネシウムと先に結合して、ホウ素化合物が形成されることにより、焼結体中での酸化マグネシウムの形成が抑制され、その結果、酸化マグネシウムに起因する熱安定性の低下が起こらず、前述したように、高い熱安定性が得られたものと考えられる。
【符号の説明】
【0092】
S1,S11 秤量工程
S2,S12 混合工程
S3,S13 成形工程
S4,S14 合成工程
S5,S15 粉砕工程
S6,S18 焼結工程
S16 ホウ素添加工程
S17 混合工程