(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-18
(45)【発行日】2024-06-26
(54)【発明の名称】銀ナノ粒子薄膜の製造方法
(51)【国際特許分類】
B22F 9/24 20060101AFI20240619BHJP
B22F 7/04 20060101ALI20240619BHJP
B22F 9/00 20060101ALI20240619BHJP
B22F 1/00 20220101ALI20240619BHJP
B22F 1/0545 20220101ALI20240619BHJP
【FI】
B22F9/24 E
B22F9/24 F
B22F7/04 Z
B22F9/00 B
B22F1/00 K
B22F1/0545
(21)【出願番号】P 2020090521
(22)【出願日】2020-05-25
【審査請求日】2023-04-18
(73)【特許権者】
【識別番号】506158197
【氏名又は名称】公立大学法人 滋賀県立大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】弁理士法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小山 奈津季
(72)【発明者】
【氏名】秋山 毅
(72)【発明者】
【氏名】奥 健夫
【審査官】池ノ谷 秀行
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-251222(JP,A)
【文献】特開2006-192398(JP,A)
【文献】特開2005-233637(JP,A)
【文献】特開2009-062570(JP,A)
【文献】特開2019-019378(JP,A)
【文献】特開2017-179546(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22F 1/00-9/30
C23C 24/00-30/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
クエン酸還元法により、水中に銀ナノ粒子が分散したコロイド溶液を作製する工程と、
前記コロイド溶液から前記銀ナノ粒子を遠心分離して、クエン酸塩を含む上澄み液を除去し、前記銀ナノ粒子を水中に再分散させる洗浄操作を少なくとも1回以上行い、前記銀ナノ粒子の水分散体を作製する工程と、
前記水分散体を用いて、基板上に前記銀ナノ粒子を集積させる工程と、
を含
み、
前記水分散体のゼータ電位が50mV以下になるまで前記洗浄操作を行い、
前記基板上への前記銀ナノ粒子の集積は、前記水分散体と疎水性溶媒の二層液体に極性溶媒を添加して前記二層液体の界面に前記銀ナノ粒子を集積した後、当該界面に前記基板を浸漬することにより行われる、銀ナノ粒子薄膜の製造方法。
【請求項2】
前記水分散体のゼータ電位が
40~50mV
の範囲となるように前記洗浄操作を行う、請求項1に記載の銀ナノ粒子薄膜の製造方法。
【請求項3】
前記コロイド溶液における前記銀ナノ粒子の平均粒径は、20~100nmである、請求項1又は2に記載の銀ナノ粒子薄膜の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、銀ナノ粒子薄膜の製造方法に関し、より詳しくは銀ナノ粒子のコロイド溶液を用いた銀ナノ粒子薄膜の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
金や銀などの貴金属ナノ粒子は、そのプラズモン共鳴に基づいて可視光を吸収することが知られている。金属ナノ粒子ではプラズモンが粒子表面に局在化するため、ナノ粒子の表面近傍のナノ空間には局所的に増強された電場が生じる。このような電場は、光と同様に光化学特性を持つ物質の励起が可能であり、ナノレベルの局所空間を照らす光源とみなすことができる。かかる状況に鑑みて、金属ナノ粒子を用いたプラズモニクスの研究が盛んに行われてきた。
【0003】
例えば、非特許文献1、2では、金ナノ粒子のコロイド溶液を用いた金ナノ粒子薄膜の作製方法と、当該薄膜の高感度分光分析、光電変換の高効率化への応用が報告されている。一方、分光分析の高感度化や一層のプラズモニック化学の深化のためには、金と比較して内部遷移によるエネルギーダンピングが少ない銀のナノ粒子の活用が重要である。例えば、非特許文献3では、静電吸着を利用した銀ナノ粒子薄膜の作製方法が報告されている。
【0004】
なお、貴金属ナノ粒子の作製方法は、真空蒸着に基づく方法と、化学還元に基づく方法に大きく分けられる。化学還元に基づく方法では、溶液反応系が用いられることが多く、還元剤としてクエン酸ナトリウム、アルコール、ポリオール、水素化ホウ酸ナトリウムなどを用い、水中にナノ粒子が分散したコロイド溶液が得られる。溶液反応法の中でも、クエン酸ナトリウムを用いる化学還元法(例えば、非特許文献4参照)は広く知られており、多くの活用事例が報告されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【文献】Photocurrent enhancement in a porphyrin-gold nanoparticle nanostructure assisted by localized plasmon excitation, T. Akiyama, M. Nakada, N. Terasaki and S. Yamada, Chem. Commun., vol., pp. 395-397, (2006).金ナノ粒子薄膜の作成と光電変換の高感度化への応用
【文献】Surface-Enhanced Nonresonance Raman Scattering from Size- and Morphology-Controlled Gold Nanoparticle Films, M. Suzuki, Y. Niidome, Y. Kuwahara, N. Terasaki, K. Inoue and S. Yamada, J. Phys. Chem. B, vol. 108, pp. 11660-11665, (2004).金ナノ粒子薄膜の作成と分光分析の高感度化への応用
【文献】Effects of Silver Nanoparticles on Photoelectrochemical Responses of Organic Dyes, T. Arakawa, T. Munaoka, T. Akiyama and S. Yamada, J. Phys. Chem. C, vol. 113, pp. 11830-11835, (2009).
【文献】A study of the nucleation and growth processes in the synthesis of colloidal gold, J. Turkevich, P. C. Stevenson and J. Hillier, Discuss. Faraday. Soc., vol. 11, pp. 55-75, (1951).静電吸着を利用した銀ナノ粒子薄膜の作製
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記のように、銀ナノ粒子薄膜は高感度分光分析などへの応用が期待されているが、銀ナノ粒子を高密度に集積して薄膜化することは容易ではなく、従来の方法では、高密度の銀ナノ粒子薄膜を再現性良く作製することはできない。即ち、本発明の目的は、銀ナノ粒子のコロイド溶液を用いて、高密度に集積された銀ナノ粒子の薄膜を安定に製造することが可能な方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る銀ナノ粒子薄膜の製造方法は、クエン酸還元法により、水中に銀ナノ粒子が分散したコロイド溶液を作製する工程と、コロイド溶液から銀ナノ粒子を遠心分離して、クエン酸塩を含む上澄み液を除去し、銀ナノ粒子を水中に再分散させる洗浄操作を少なくとも1回以上行い、銀ナノ粒子の水分散体を作製する工程と、当該水分散体を用いて、基板上に前記銀ナノ粒子を集積させる工程とを含むことを特徴とする。
【0008】
本発明に係る銀ナノ粒子薄膜の製造方法において、洗浄操作は、銀ナノ粒子の水分散体のゼータ電位が50mV以下になるまで行うことが好ましい。好適な洗浄操作の回数は、例えば、2~5回である。
【0009】
本発明に係る銀ナノ粒子薄膜の製造方法において、基板上への銀ナノ粒子の集積は、銀ナノ粒子の水分散体と疎水性溶媒の二層液体に極性溶媒を添加して二層液体の界面に銀ナノ粒子を集積した後、当該界面に基板を浸漬することにより行われることが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る製造方法によれば、銀ナノ粒子のコロイド溶液を用いて、高密度に集積された銀ナノ粒子の薄膜を再現性良く製造することができる。また、本発明の製造方法で得られた銀ナノ粒子薄膜は、含有される不純物が少なく、ラマン散乱のような振動分光への応用に好適である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】実施形態の一例である銀ナノ粒子の洗浄工程を示す図である。
【
図2】実施形態の一例である銀ナノ粒子の集積工程を示す図である。
【
図3】銀ナノ粒子の洗浄回数とゼータ電位の関係を示す図である。
【
図4】実施形態の一例である銀ナノ粒子薄膜の電子顕微鏡像である。
【
図5】比較例の銀ナノ粒子薄膜の電子顕微鏡像である。
【
図6】銀ナノ粒子の洗浄回数と銀ナノ粒子薄膜の吸光度の関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照しながら、本発明に係る銀ナノ粒子薄膜の製造方法の実施形態について詳細に説明する。
【0013】
実施形態の一例である銀ナノ粒子薄膜の製造方法は、クエン酸還元法により、水中に銀ナノ粒子が分散したコロイド溶液を作製する工程を含む。さらに、
図1に例示する銀ナノ粒子11の洗浄工程と、
図2に例示する銀ナノ粒子11の集積工程を含む。洗浄工程は、クエン酸還元法により得られた銀ナノ粒子11のコロイド溶液10から銀ナノ粒子11を遠心分離して、クエン酸塩を含む上澄み液12を除去し、銀ナノ粒子11を水中に再分散させる洗浄操作を少なくとも1回以上行い、銀ナノ粒子11の水分散体13を作製する工程である。また、集積工程は、水分散体13を用いて基板19上に銀ナノ粒子11を集積させる工程であって、この工程で分光分析に適用可能な銀ナノ粒子薄膜18が得られる。
【0014】
本実施形態の製造方法において、銀ナノ粒子11は、クエン酸還元法により、水中に分散したコロイド溶液10(
図1)として得られる。コロイド溶液10における銀ナノ粒子11の含有量は、一般的に10~60質量%である。コロイド溶液10は、例えば、硝酸銀の水溶液にクエン酸塩を添加して硝酸銀を還元することにより得られる。硝酸銀水溶液には分散剤が添加されていてもよく、また水溶液にはクエン酸塩と共に、アミンが添加されていてもよい。クエン酸塩は、還元剤として機能すると共に、銀ナノ粒子11の表面に吸着し保護剤としても機能する。
【0015】
クエン酸塩は、水に溶解する水溶性の塩であればよく、その組成は特に限定されない。クエン酸塩の一例としては、クエン酸リチウム、クエン酸ナトリウム、クエン酸カリウム、クエン酸水素二アンモニウム等が挙げられる。クエン酸塩の添加量は、例えば、硝酸銀1molに対して0.05~0.2molである。また、アミンの一例としては、リシン、エチルアミン、エタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエチルアミン、ジメチルアミノエタノール、イミダゾール、トリアゾール等の水溶性アミンが挙げられる。
【0016】
硝酸銀水溶液には、分散剤として親水性高分子が添加されていてもよい。親水性高分子の具体例としては、カルボキシメチルセルロース塩、ヒドロキシエチルセルロース、ゼラチン、デンプン、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリアクリルアミド、ポリエチレンイミン、ポリカルボン酸、ポリカルボン酸塩、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸塩等が挙げられる。
【0017】
硝酸銀の還元反応は、室温環境において30分~2時間程度で完了する。なお、クエン酸塩の添加量・添加速度、分散剤の種類・添加量、反応温度等により、銀ナノ粒子11の粒径を調整できる。クエン酸還元法によれば、一般的に、平均粒径が1~400nmの銀ナノ粒子11が得られる。コロイド溶液10における銀ナノ粒子11の平均粒径は、好ましくは10~200nm、より好ましくは20~100nmである。本明細書において、銀ナノ粒子11の平均粒径とは、動的光散乱法(DLS)により測定される体積基準のメジアン径を意味する。
【0018】
コロイド溶液10の溶媒は、水を主成分とするが、水よりも少量の有機溶剤を含んでいてもよい。また、クエン酸塩により還元される銀塩には、硝酸銀に代えて、硫酸銀、塩化銀、酸化銀、酢酸銀、亜硝酸銀、塩素酸銀、硫化銀等を用いてもよい。
【0019】
本実施形態の製造方法では、上記の通り、クエン酸還元法により得られた銀ナノ粒子11の洗浄を行う。
図1に例示するように、銀ナノ粒子11の洗浄には、遠心分離法を使用する。具体的には、コロイド溶液10中の銀ナノ粒子11を遠心力により沈降させて、クエン酸を含む上澄み液12を除去した後、沈降した銀ナノ粒子11に水を添加して銀ナノ粒子11を水中に再分散させることで、銀ナノ粒子11に付着したクエン酸塩等を除去する。この洗浄操作は、1回であってもよいが、好ましくは複数回行われる。
【0020】
図1に示す例では、遠心分離操作を3回行い、上澄み液12を3回廃棄することで、銀ナノ粒子11を洗浄している。上澄み液12には、銀ナノ粒子11以外の不純物として、未反応のクエン酸塩の他に、硫酸銀等の銀塩が含まれ、またアミンや高分子分散剤を添加する場合はこれらも含まれる。洗浄操作を繰り返すことで、銀ナノ粒子11に付着する不純物は上澄み液12に溶け出して次第に減少する。
図1に示す例において、クエン塩等の不純物の濃度は、上澄み液12A>上澄み液12B>上澄み液12Cとなる。
【0021】
コロイド溶液10には、粒径が平均粒径に近い球状の銀ナノ粒子11が多く含まれるが、粒径が小さく遠心力を加えても沈降し難い小粒子、凝集した大粒子、ロッド状の粒子など(以下、これらの粒子を総称して「不純物粒子」という場合がある)も含まれる。遠心分離による銀ナノ粒子11の洗浄操作では、クエン酸塩等の不純物と共に、これらの不純物粒子も除去される。このため、最終的に得られる銀ナノ粒子薄膜18(
図2)は、含有される不純物が少なく、粒径が揃った球状の銀ナノ粒子11が高密度で集積された緻密な膜となる。
【0022】
銀ナノ粒子11の洗浄工程には、従来公知の遠心分離機を使用できる。例えば、コロイド溶液10を遠心管20に注入して遠心分離機にセットし、3000~8000rpmの回転数で30~60分間遠心分離を行い、銀ナノ粒子11を遠心管20の底に沈降させる。上澄み液12Aには、クエン酸塩等の不純物と、ロッド状粒子等の不純物粒子が多く含まれるため、遠心管20から上澄み液12Aを除去し、その後、遠心管20に水を注入して銀ナノ粒子11を再分散させる。なお、銀ナノ粒子11の再分散には、従来公知の攪拌機を使用してもよい。
【0023】
次に、銀ナノ粒子11が水中に分散した水分散体13Aを再び遠心分離機にセットして遠心分離を行い、銀ナノ粒子11を遠心管20の底に沈降させると共に、上澄み液12Bを除去する。上澄み液12Bには、銀ナノ粒子11に付着していた不純物が溶け出しているため、これを除去して水を注入し銀ナノ粒子11を再分散させることで、水分散体13Aよりも不純物濃度が低い水分散体13Bが得られる。水分散体13Bについても同様に遠心分離、上澄み液12Cの除去、銀ナノ粒子11の再分散を行うことで、より清浄な銀ナノ粒子11の水分散体13Cが得られる。
【0024】
銀ナノ粒子11の洗浄操作を繰り返すと、水分散体13のゼータ電位が変化し、ゼータ電位を0に近づけることができる。クエン酸還元法で得られた銀ナノ粒子11では、粒子表面にクエン酸塩が付着して粒子同士の大きな反発力を生んでいるが、洗浄処理によりクエン酸塩が除去されゼータ電位が下がると考えられる。このため、水分散体13のゼータ電位は、銀ナノ粒子11の洗浄レベルを示す指標となる。
【0025】
図3は、銀ナノ粒子11の洗浄回数と水分散体13のゼータ電位の関係を示す図である。
図3に例示するように、水分散体13のゼータ電位は、洗浄回数を2回、3回と増やすことで減少する。一方、
図3では、未洗浄の状態であるコロイド溶液10のゼータ電位よりも、1回洗浄後の水分散体13Aのゼータ電位が上昇している。これは、コロイド溶液10の溶媒のプロパティが不明であること、即ちコロイド溶液10の溶媒中には未反応のクエン酸塩や硝酸塩が残存しているため、溶媒の粘性や誘電率が不明であることが大きく関係している。なお、水分散体13については、溶媒を水とみなした。
【0026】
洗浄操作は、水分散体13のゼータ電位が50mV以下になるまで行うことが好ましい。ゼータ電位が50mV以下の水分散体13を用いた場合、銀ナノ粒子11を高密度で集積することが容易になり、緻密な銀ナノ粒子薄膜18を再現性良く作製できる。また、粒子同士の凝集を抑制しつつ、粒子の高密度集積を効率良く実現するために、水分散体13のゼータ電位が40~50mV、又は45~50mVの範囲となるように、洗浄操作を行ってもよい。好適な洗浄回数の具体例は、2~5回であり、より好ましくは2回又は3回である。
【0027】
なお、銀ナノ粒子11の洗浄により、平均粒径は増大する。例えば、コロイド溶液10における銀ナノ粒子11の平均粒径が45nm、1回洗浄後の平均粒径が47nm、2回洗浄後の平均粒径が72nmであった。特に、1回洗浄と2回洗浄の間で平均粒径の増大が顕著である。この結果は、粒径20nm以下のような小粒子が沈降せず上澄み液12と共に除去されたこと、及びゼータ電位の減少により粒子の凝集が起こったことが主な要因であると考えられる。
【0028】
銀ナノ粒子薄膜18を構成する洗浄後の銀ナノ粒子11の平均粒径は、例えば30~150nm、又は50~100nmである。銀ナノ粒子11の平均粒径、水分散体13のゼータ電位の測定には、大塚電子製のELSZ-2000を用いた。
【0029】
本実施形態の製造方法では、上記の通り、洗浄後の銀ナノ粒子11の水分散体13を用いて、基板19上に銀ナノ粒子11を集積させる。この工程により、銀ナノ粒子薄膜18が得られる。銀ナノ粒子薄膜18は、例えば、基板19の厚み方向に複数の粒子が積み重なって形成されていてもよいが、後述する走査型電子顕微鏡(SEM)画像の薄膜は粒子が厚み方向に略重ならない単層構造を有する。
【0030】
図2に例示するように、基板19上への銀ナノ粒子11の集積は、水分散体13と疎水性溶媒14の二層液体に極性溶媒15を添加して二層液体の界面16に銀ナノ粒子11を集積した後、この界面16に基板19を浸漬する方法により行われることが好ましい。基板19上に水分散体13を滴下して水を乾燥させることで銀ナノ粒子薄膜18を作製することもできるが、この界面への集積を利用した方法(以下、「液液界面法」という場合がある)によれば、高密度の銀ナノ粒子薄膜18を効率良く作製できる。
【0031】
具体的には、下記の手順で銀ナノ粒子薄膜18を作製できる。
まず、洗浄後の銀ナノ粒子11の水分散体13(例えば、13mL)に、疎水性溶媒14としてヘキサン(例えば、10mL)を添加し、下層が水分散体13、上層がヘキサンの二層液体を調製する。次に、この二層液体に、極性溶媒15としてメタノール(例えば、10mL)を添加する。メタノールの添加により、二層液体の界面16には銀ナノ粒子11の集積膜17が形成される。
【0032】
次に、二層液体の界面16に対して垂直に基板19を浸漬し、基板19をゆっくり引き上げて集積膜17を基板19の表面に転写させる。基板19の浸漬には、ディップコーター(シグマ光機製のSGSP20-85を用いた装置、引き上げ速度2.5cm/s)を用いた。この場合、基板19の両面に銀ナノ粒子薄膜18が形成される。
【0033】
基板19には、アセトン、メタノール、水の混合液に浸漬して超音波処理したガラス基板を用いた。なお、基板19は、ガラス基板に限定されず、樹脂基板や半導体基板、セラミック基板、金属基板等であってもよい。基板19の水に対する濡れ性が低い場合は、表面を親水処理することが好ましい。また、基板19は、表面が平坦なものに限定されず、例えば、ミクロンオーダーの規則的な凹部が形成された基板であってもよい。
【0034】
図4は、上記製造方法により得られた銀ナノ粒子薄膜のSEM画像である。
図4に示す銀ナノ粒子薄膜は、液液界面法によりガラス基板の両面に形成した。また、銀ナノ粒子の洗浄における遠心分離は、遠心分離機(アズワン製、CN-2060)を用いて6000rpm、45分の条件で行った。銀ナノ粒子のコロイド溶液は、0.25×10
-4Mの硝酸銀水溶液200mLを1時間還流させた後、これに1質量%のクエン酸ナトリウム4mLを加えて、さらに1時間還流することにより作製した。
【0035】
図4(a)は2回洗浄後の水分散体を用いて作製した銀ナノ粒子薄膜のSEM画像を、
図4(b)は3回洗浄後の水分散体を用いて作製した銀ナノ粒子薄膜のSEM画像をそれぞれ示す。比較として、未洗浄の銀ナノ粒子(コロイド溶液)を用いて作製した銀ナノ粒子薄膜のSEM画像を
図5に示す。
【0036】
図4及び
図5のSEM画像から明らかであるように、銀ナノ粒子を洗浄することにより、高密度に集積された銀ナノ粒子の薄膜が得られる。未洗浄の銀ナノ粒子を用いて作製された
図5に示す薄膜では、ロッド状の粒子が多く見られ、銀ナノ粒子の集積密度が低い。これに対し、洗浄後の銀ナノ粒子を用いて作製された
図4に示す薄膜は、粒径が揃った球状の銀ナノ粒子が高密度で集積して形成されている。1回~3回洗浄後のいずれの銀ナノ粒子を用いた場合も、未洗浄の場合と比較して緻密な膜が得られたが、特に2回洗浄後の銀ナノ粒子を用いた場合に、高密度の銀ナノ粒子薄膜が大面積で得られた。
【0037】
図6は、銀ナノ粒子の洗浄回数と銀ナノ粒子薄膜の吸光度の関係を示す図であって、ガラス基板の両面に銀ナノ粒子薄膜が形成された状態での吸光度を示す。吸光度は、日本分光製のV-670を用いて、1nm幅、走査速度400nm/minで測定した。
図6に示すように、特に、2回及び3回洗浄後の銀ナノ粒子薄膜において、可視光領域に強い吸収(700~800nmの波長範囲にピークを持つ吸収)が確認された。この吸収は銀ナノ粒子の局在表面プラズモン共鳴に基づくものであり、銀ナノ粒子の高密度集積により増大している。
【0038】
以上のように、本実施形態の製造方法によれば、銀ナノ粒子11が高密度に集積してなる銀ナノ粒子薄膜18を再現性良く作製することができる。ゼータ電位を確認しながら銀ナノ粒子11を洗浄することにより、粒子表面に付着するクエン酸塩等の不純物が適切に除去され、粒子同士の静電反発が調整されることで、銀ナノ粒子11の高密度集積化が可能になると考えられる。また、洗浄過程において、クエン酸塩等の不純物だけでなく、ロッド状の粒子等の不純物粒子が除去されることも、銀ナノ粒子11の高密度集積化に大きく寄与すると考えられる。
【0039】
本実施形態の製造方法により得られた銀ナノ粒子薄膜18によれば、銀ナノ粒子11の高密度集積、低不純物濃度等に起因して大きな表面プラズモン共鳴効果が得られるため、例えば、高感度の分光分析用途に好適である。
【符号の説明】
【0040】
10 銀ナノ粒子のコロイド溶液(コロイド溶液)、11 銀ナノ粒子、12,12A、12B,12C 上澄み液、13,13A,13B,13C 銀ナノ粒子の水分散体(水分散体)、14 疎水性溶媒、15 極性溶媒、16 界面、17 集積膜、18 銀ナノ粒子薄膜、19 基板、20 遠心管