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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-18
(45)【発行日】2024-06-26
(54)【発明の名称】Vanin-1阻害剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/165 20060101AFI20240619BHJP
   A61P 9/00 20060101ALI20240619BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20240619BHJP
【FI】
A61K31/165
A61P9/00
A61P43/00 111
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2021204876
(22)【出願日】2021-12-17
(65)【公開番号】P2023090096
(43)【公開日】2023-06-29
【審査請求日】2024-01-22
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】502437894
【氏名又は名称】学校法人大阪医科薬科大学
(74)【代理人】
【識別番号】100121728
【弁理士】
【氏名又は名称】井関 勝守
(74)【代理人】
【識別番号】100165803
【弁理士】
【氏名又は名称】金子 修平
(72)【発明者】
【氏名】細畑 圭子
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼井 真司
(72)【発明者】
【氏名】米山 弘樹
(72)【発明者】
【氏名】金 徳男
(72)【発明者】
【氏名】宇佐美 吉英
【審査官】新留 素子
(56)【参考文献】
【文献】特表2015-535832(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0364233(US,A1)
【文献】国際公開第2011/152720(WO,A1)
【文献】国際公開第2011/152721(WO,A1)
【文献】ACS Chem. Biol.,2013年,Vol.8,pp.530-534
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K
A61P
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
【化1】
一般式(I)[式中、X、Y、Y′、Z、Z′は独立して水素原子、フッ素基、及びフッ素原子を含む置換基から選択されたものを表し、前記X、Y、Y′、Z、Z′の内少なくとも1つはフッ素基又はフッ素原子を含む置換基を表す]により表され
前記フッ素原子を含む置換基は、フッ素原子を含む炭素数1~4のアルキル基、フッ素原子を含む炭素数1~4のアルコキシ基、及びフッ素原子を含む炭素数1~4のアルキルチオ基からなる群から選択される、パントテインケトン誘導体を有効成分として含むVanin-1阻害剤。
【請求項2】
前記フッ素原子を含む置換基は、-CF、-OCF、及び-SCFからなる群から選択される請求項に記載のVanin-1阻害剤。
【請求項3】
前記X、Y、Y′、Z、Z′の内いずれか1つのみがフッ素基又はフッ素原子を含む置換基を表す請求項1に記載のVanin-1阻害剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Vanin-1阻害剤に関し、特にパントテインケトン誘導体を有効成分として含むVanin-1阻害剤に関する。
【背景技術】
【0002】
Vanin-1は塩基ドメインとニトリラーゼドメインとからなる513アミノ酸のGPIアンカー型タンパク質であり、パンテテインからパントテン酸及びシステアミンへの加水分解反応を触媒する酵素である。Vanin-1は主に酸化ストレスと炎症の調節に関与することが知られている。
【0003】
Vanin-1阻害剤としては、例えばRR6が非特許文献1に開示されている。パンテテインとRR6の構造式を以下に示す。
【0004】
【化1】
【0005】
パンテテインは生体内に広く分布する細胞外酵素Vanin-1の基質である。上記構造式から分かるように、RR6はパンテテインとの共通構造を有している。
【0006】
具体的には、非特許文献1において、RR6がin vivo試験においてVanin-1阻害剤として機能することが開示されており、その阻害活性はIC50=0.78μMであることが開示されている(非特許文献1の図3B参照)。
【0007】
非特許文献2には、Vanin-1阻害剤であるRR6を用いる治療により、ラット大動脈移植後の血管内膜肥厚抑制効果を示すことが開示されている(非特許文献2のAbstract参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【文献】P. A. M. Jansen, J. A. Diepen, B. Ritzen, P. L. J. M. Zeeuwen, I. Cacciatore, C. Cornacchia, I. M. J. J. Vlijmen-Willems, E. Heuvel, P. N. M. Botman, R. H. Blaauw, P. H. H. Hermkens, F. P. J. T. Rutjes and J. Schalkwijk, Discovery of small molecule vanin inhibitors: new tools to study metabolism and disease. ACS Chem Biol. 8: 530-534, 2013.
【文献】Wedel J, Jansen PA, Botman PN, Rutjes FP, Schalkwijk J, Hillebrands JL. Pharmacological Inhibition of Vanin Activity Attenuates Transplant Vasculopathy in Rat Aortic Allografts. Transplantation. 100: 1656-1666, 2016.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記の通り、RR6はVanin-1阻害剤として機能すること及びRR6を用いる治療によりラット大動脈移植後の血管内膜肥厚抑制効果を示すことが、非特許文献1及び2に開示されている。しかし、非特許文献2に記載の通り、RR6をVanin-1阻害剤として十分に機能させるためには、RR6を有効成分として3mg/mLの用量で飲水投与する必要がある。そのため、高用量のRR6を使用しなければならない点で問題があった。このため、Vanin-1の阻害活性が高く、低用量でVanin-1を十分に阻害できる阻害剤が求められていた。
【0010】
本発明は前記問題に鑑みてなされたものであり、その目的はRR6のVanin-1阻害活性(IC50=0.78μM)を上回るVanin-1阻害剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記の目的を達成するために、本発明者らは、RR6のVanin-1阻害活性(IC50=0.78μM)を上回る新規Vanin-1阻害剤の開発を試みた。具体的にはRR6をリード化合物として、各種置換基の種類及び配置の異なる化合物の合成を行い、活性評価を行った。その結果、RR6のベンゼン環上にフッ素基又はフッ素原子を含む置換基を少なくとも1つ導入することで、RR6のVanin-1阻害活性を上回るVanin-1阻害剤を提供できることを見出して本発明を完成した。
【0012】
具体的に、本発明に係るVanin-1阻害剤は、下記一般式(I)[式中、X、Y、Y′、Z、Z′は独立して水素原子、フッ素基、及びフッ素原子を含む置換基から選択されたものを表し、X、Y、Y′、Z、Z′の内少なくとも1つはフッ素基又はフッ素原子を含む置換基を表す]により表されるパントテインケトン誘導体を有効成分として含むVanin-1阻害剤であることを特徴とする。
【0013】
【化2】
【0014】
本発明に係るVanin-1阻害剤によると、従来のVanin-1阻害剤であるRR6のVanin-1阻害活性よりも強い阻害活性を示すVanin-1阻害剤を提供することができる。従って、低用量のVanin-1阻害剤であってもVanin-1を十分に阻害することができ、強力な阻害活性を有するVanin-1阻害剤として幅広く利用することができる。
【0015】
本発明に係るVanin-1阻害剤において、パントテインケトン誘導体のフッ素原子を含む置換基は、フッ素原子を含む炭素数1~4のアルキル基、フッ素原子を含む炭素数1~4のアルコキシ基、及びフッ素原子を含む炭素数1~4のアルキルチオ基からなる群から選択することができる。
【0016】
本発明に係るVanin-1阻害剤において、パントテインケトン誘導体のフッ素原子を含む置換基は、-CF、-OCF、及び-SCFからなる群から選択することができる。
【0017】
本発明に係るVanin-1阻害剤において、パントテインケトン誘導体のX、Y、Y′、Z、Z′の内いずれか1つのみがフッ素基又はフッ素原子を含む置換基を表すことを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係るVanin-1阻害剤によると、従来のVanin-1阻害剤であるRR6のVanin-1阻害活性よりも強い阻害活性を示すVanin-1阻害剤を提供することができる。従って、低用量のVanin-1阻害剤であってもVanin-1を十分に阻害することができ、強力な阻害活性を有するVanin-1阻害剤として幅広く利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】実施例1~2及び比較例1、8~9に係るVanin-1阻害剤のin vitroでのVanin-1阻害活性の結果を示す図である。
図2】実施例1~5及び比較例1に係るVanin-1阻害剤のin vitroでのVanin-1阻害活性の結果を示す図である。
図3】比較例1~5に係るVanin-1阻害剤のin vitroでのVanin-1阻害活性の結果を示す図である。
図4】比較例1、6~7に係るVanin-1阻害剤のin vitroでのVanin-1阻害活性の結果を示す図である。
図5】実施例1及び比較例1に係るVanin-1阻害剤のin vivoでのVanin-1阻害活性の結果を示し、(a)は血清中におけるVanin-1阻害活性(b)は腎臓組織抽出液におけるVanin-1阻害活性を示す。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明を実施するための形態を説明する。以下の好ましい実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用方法或いはその用途を制限することを意図するものではない。
【0021】
本実施形態に係るVanin-1阻害剤について以下説明する。
【0022】
上述したように、Vanin-1は、パンテテインからパントテン酸及びシステアミンへの加水分解反応を触媒する酵素である。本明細書において「Vanin-1阻害」とは、Vanin-1の酵素活性の阻害を意味する。
【0023】
本発明の一実施形態は、下記一般式(I)により表されるパントテインケトン誘導体を有効成分として含むVanin-1阻害剤である。
【0024】
【化3】
【0025】
上記一般式(I)中、X、Y、Y′、Z、Z′は独立して水素原子、ハロゲン基、置換されていてもよい炭素数1~4のアルキル基、置換されていてもよい炭素数1~4のアルコキシ基、ニトロ基、シアノ基、置換されていてもよい炭素数1~4のアルキルアミノ基、及びフッ素原子を含む置換基から選択されたものを表し、X、Y、Y′、Z、Z′の内少なくとも1つはフッ素基又はフッ素原子を含む置換基を表す。
【0026】
X、Y、Y′、Z、Z′のハロゲン基としては、フッ素基、塩素基、臭素基、ヨウ素基等が挙げられる。
【0027】
X、Y、Y′、Z、Z′の置換されていてもよい炭素数1~4のアルキル基としては、メチル基、エチル基、イソプロピル基、tert-ブチル基等が挙げられる。
【0028】
X、Y、Y′、Z、Z′の置換されていてもよい炭素数1~4のアルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、tert-ブトキシ基等が挙げられる。
【0029】
X、Y、Y′、Z、Z′の置換されていてもよい炭素数1~4のアルキルアミノ基としては、ジメチルアミノ基等が挙げられる。
【0030】
X、Y、Y′、Z、Z′のフッ素原子を含む置換基としては、フッ素原子を含む炭素数1~4のアルキル基、フッ素原子を含む炭素数1~4のアルコキシ基、フッ素原子を含む炭素数1~4のアルキルチオ基等が挙げられる。好ましくは、トリフルオロメチル基(-CF)、トリフルオロメトキシ基(-OCF)、トリフルオロメチルチオ基(-SCF)が挙げられる。
【0031】
X、Y、Y′、Z、Z′の内少なくとも1つはフッ素基又はフッ素原子を含む置換基であることを要するが、当該置換基の上限数は特に限定されない。残りの置換基については、独立して上記の置換基群から適宜選択することができる。また、X、Y、Y′、Z、Z′の内いずれか1つのみがフッ素基又はフッ素原子を含む置換基を表すものであってもよい。この場合にも、残りの置換基は独立して上記の置換基群から適宜選択することができる。
【0032】
<一般式(I)で表されるパントテインケトン誘導体の具体例>
一般式(I)で表されるパントテインケトン誘導体の具体例としては、例えば、下記化合物が挙げられる。
【0033】
【化4】
【0034】
本実施形態において、Vanin-1阻害剤は一般式(I)で表されるパントテインケトン誘導体を有効成分として含むものであればよく、その含有量は特に制限されない。
【0035】
本実施形態において、Vanin-1阻害剤の剤形は特に制限されず、例えば、錠剤、カプセル剤、散剤、顆粒剤、水剤、若しくは舌下剤等の経口剤、注射剤、軟膏剤、貼付剤、坐剤、又はエアゾール剤等とすることができる。
【0036】
本実施形態において、製剤化は公知の製剤技術により行うことができ、Vanin-1阻害剤は適当な製剤添加物を含むことができる。製剤添加物としては、賦形剤、懸濁化剤、乳化剤、保存剤、pH調節剤、及び香料等が挙げられるが、これに制限されず、当技術分野で使用されているものは適宜使用することができる。
【0037】
<一般式(I)で表されるパントテインケトン誘導体の製造方法>
本実施形態に係るVanin-1阻害剤の有効成分であるパントテインケトン誘導体の製造方法は、特に制限されるものではなく、従来公知の方法を適宜利用することができる。以下、パントテインケトン誘導体の製造方法の一実施形態について説明する。
【0038】
本実施形態において、一般式(I)で表されるパントテインケトン誘導体は、例えば以下の工程1~4により製造することができる。
【0039】
【化5】
【0040】
(工程1)
パンテテイン酸をアセトン溶媒中で濃硫酸等の酸触媒と共に室温で反応させて化合物(II)を製造する。
【0041】
(工程2)
化合物(II)を文献記載の方法(Schalkwijk, J. et al., ACS Chem. Biol., 2013, 8, 530-534.)に準じてジクロロメタン、ジメチルホルムアミド、テトラヒドロフラン、トルエン、ジオキサン等、又はそれらの混合溶媒中、0℃から250℃の範囲で、トリエチルアミン、エチルジイソプロピルアミン、DBU(ジアザビシクロウンデセン)等の塩基存在下、N,O-ジメチルヒドロキシルアミン及びその塩酸塩と共に、N,N′-ジシクロヘキシルカルボジイミド、1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩等の脱水縮合剤を用いて反応させて化合物(III)を製造する。
【0042】
(工程3)
化合物(III)を化合物(IV)(式中、X、Y、Y′、Z、Z′は独立して水素原子、ハロゲン基、置換されていてもよい炭素数1~4のアルキル基、置換されていてもよい炭素数1~4のアルコキシ基、ニトロ基、シアノ基、置換されていてもよい炭素数1~4のアルキルアミノ基、及びフッ素原子を含む置換基から選択されたものを表し、X、Y、Y′、Z、Z′の内少なくとも1つはフッ素基又はフッ素原子を含む置換基を表す)とジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、トルエン、ジオキサン等、又はそれらの混合溶媒中、-78℃から200℃の範囲で反応させて化合物(V)を製造する。
【0043】
(工程4)
化合物(V)のアセタール基を脱保護して一般式(I)で表されるパントテインケトン誘導体を製造する。
【0044】
このようにして製造された一般式(I)で表されるパントテインケトン誘導体は、カラムクロマトグラフィー等の精製手段により単離精製して使用することができる。しかし、パントテインケトン誘導体の精製手段は特に制限されず、当技術分野で知られている精製手段であれば適宜使用することができる。
【実施例
【0045】
以下に、本発明に係るVanin-1阻害剤について詳細に説明するための実施例を示す。
【0046】
実施例1
一般式(I)(式中、Xは-OCFを表し、Y、Y′、Z、Z′は水素原子を表す)で表されるパントテインケトン誘導体(OMP-7)を以下のように製造した。
【0047】
(R)-3-(2,2,5,5-テトラメチル-1,3-ジオキサン-4-カルボキシアミド)プロパノイックアシッドの製造
文献記載の方法(Schalkwijk, J. et al., ACS Chem. Biol., 2013, 8, 530-534.)に準じて、(R)-パンテテイン酸カルシウム塩25gを1N塩酸水溶液120mLに溶解し、食塩を飽和するまで加え、酢酸エチルにて抽出し、有機層を無水硫酸ナトリウムにて乾燥した。溶媒留去後、得られたパンテテイン酸をアセトン500mLに溶解し、濃硫酸0.5mLを加え、室温にて15時間撹拌を行った。重曹を加えて反応を止めた後、ろ過を行い、ろ液を溶媒留去し、標題化合物を得た。
スペクトルデータ:1H-NMR (CDCl3):δ0.99 (S, 3H), 1.05 (S, 3H), 1.45 (s, 3H), 1.48 (s, 3H), 2.63 (t, 2H, J = 6.2 Hz), 3.30 (d, 1H, J = 11.7 Hz), 3.56 (m, 2H), 3.71 (d, 1H, J = 11.7 Hz), 4.13 (s, 1H), 7.07 (t, 1H, J = 6.0 Hz); 13C-NMR (CDCl3):δ 18.7, 18.8, 22.0, 29.4, 32.9, 33.9, 34.1, 71.4, 77.1, 99.1, 170.2, 176.7.
【0048】
(R)-N-{3-[メトキシ(メチル)アミノ]-3-オキソプロピル}-2,2,5,5-テトラメチル-1,3-ジオキサン-4-カルボキシアミドの製造
得られた化合物4.1gをジクロロメタン50mLに溶解し、1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩4.5gとN,Oジメチルヒドロキシルアミン塩酸塩2.3gとジメチルアミノピリジン1.0gとN,N-ジイソプロピルエチルアミン8mLを加え、室温にて20時間撹拌を行った。飽和塩化アンモニウム水溶液を加えて反応を止めた後、酢酸エチルにて抽出し、有機層を無水硫酸ナトリウムにて乾燥した。溶媒留去後、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(酢酸エチル)にて精製し、淡黄色油状化合物として標題化合物4.4gを得た。
1H-NMR (CDCl3):δ0.96 (s, 3H), 1.03 (s, 3H), 1.42 (s, 3H), 1.46 (s, 3H), 2.76-2.59 (m, 2H), 3.18 (s, 3H), 3.27 (d, 1H, J = 11.7 Hz), 3.64-3.48 (m, 2H), 3.67 (s, 3H), 3.68 (d, 1H, J = 11.7 Hz), 4.07 (s, 1H), 7.13 (t, 1H, J = 5.7 Hz); 13C-NMR (CDCl3):δ18.7, 18.8, 22.1, 29.4, 31.8, 32.1, 33.0, 34.0, 61.2, 71.5, 77.1, , 99.0, 169.9, 172.9.
【0049】
(R)-2,2,5,5-テトラメチル-N-[3-オキソ-4-(4-トリフルオロメトキシフェニル)ブチル]-1,3-ジオキサン-4-カルボキシアミドの製造
得られた化合物0.9gをTHF30mLに溶解し、4-(トリフルオロメトキシ)ベンジルブロミド2.5gと削状マグネシウム0.3gを加え、室温にて2時間撹拌を行った。飽和塩化アンモニウム水溶液を加えて反応を止めた後、酢酸エチルにて抽出し、有機層を無水硫酸ナトリウムにて乾燥した。溶媒留去後、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(酢酸エチル:ヘキサン=1:1)にて精製し、淡黄色油状化合物として標題化合物1.0gを得た。
1H-NMR (CDCl3):δ0.87 (s, 3H), 1.01 (s, 3H), 1.41 (s, 3H), 1.45 (s, 3H), 2.68-2.83 (m, 2H), 3.26 (d, 1H, J = 11.6 Hz), 3.39-3.59 (m, 2H), 3.67 (d, 1H, J = 11.6 Hz), 3.71 (s, 2H), 4.04 (s, 1H), 6.90 (br, 1H), 7.18 (d, 2H, J = 8.8 Hz), 7.22 (d, 2H, J = 8.8 Hz); 13C-NMR (CDCl3):δ18.6, 18.7, 22.0, 29.4, 32.9, 33.2, 41.6, 49.1, 71.4, 99.0, 120.4 (quartet, J = 257 Hz), 121.3, 130.7, 132.3, 148.3, 169.8, 206.6.
【0050】
(R)-2,4-ジヒドロキシ-3,3-ジメチル-N-[3-オキソ-4-(4-トリフルオロメトキシフェニル)ブチル]ブタンアミド(OMP-7)の製造
得られた化合物1.0gをアセトニトリル20mLに溶解し、塩化ビスマス(III)0.1gと水1mLを加え、室温にて14時間撹拌した。反応混合液を珪藻土に吸収させ、余分な溶媒を減圧濃縮後、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(酢酸エチル)にて精製し、淡黄色油状化合物として標題化合物(OMP-7)0.7gを得た。
1H-NMR (CDCl3):δ0.83 (s, 3H), 0.93 (s, 3H), 2.76 (t, 2H, J = 5.6 Hz), 3.42-3.58 (m, 4H), 3.72 (s, 2H), 3.95 (d, 1H, J = 4.8 Hz), 4.02 (d, 1H, J = 4.8 Hz), 7.18 (d, 2H, J = 9.2 Hz), 7.21 (d, 2H, J = 9.2 Hz); 13C-NMR (CDCl3):δ20.1, 21.0, 21.1, 33.6, 39.2, 41.6, 49.0, 71.1, 120.4 (quartet, J = 257 Hz), 121.2, 130.8, 132.1, 148.3, 173.2, 206.9.
【0051】
実施例2
4-(トリフルオロメトキシ)ベンジルブロミドに代えて4-フルオロベンジルブロミドを加えたこと以外は実施例1と同様にして、一般式(I)(式中、Xはフッ素基を表し、Y、Y′、Z、Z′は水素原子を表す)で表されるパントテインケトン誘導体(OMP-10)を得た。
【0052】
実施例3
4-(トリフルオロメトキシ)ベンジルブロミドに代えて3-(トリフルオロメトキシ)ベンジルブロミドを加えたこと以外は実施例1と同様にして、一般式(I)(式中、Xは水素原子を表し、Yは-OCFを表し、Y′、Z、Z′は水素原子を表す)で表されるパントテインケトン誘導体(OMP-11)を得た。
【0053】
実施例4
4-(トリフルオロメトキシ)ベンジルブロミドに代えて3-フルオロベンジルブロミドを加えたこと以外は実施例1と同様にして、一般式(I)(式中、Xは水素原子を表し、Yはフッ素基を表し、Y′、Z、Z′は水素原子を表す)で表されるパントテインケトン誘導体(OMP-13)を得た。
【0054】
実施例5
4-(トリフルオロメトキシ)ベンジルブロミドに代えて2-フルオロベンジルブロミドを加えたこと以外は実施例1と同様にして、一般式(I)(式中、X、Y、Y′は水素原子を表し、Zはフッ素基を表し、Z′は水素原子を表す)で表されるパントテインケトン誘導体(OMP-14)を得た。
【0055】
比較例1
4-(トリフルオロメトキシ)ベンジルブロミドに代えてベンジルブロミドを加えたこと以外は実施例1と同様にして、パントテインケトン誘導体(RR6)を得た。
【0056】
比較例2
4-(トリフルオロメトキシ)ベンジルブロミドに代えて4-クロロベンジルブロミドを加えたこと以外は実施例1と同様にして、パントテインケトン誘導体(OMP-1)を得た。
【0057】
比較例3
4-(トリフルオロメトキシ)ベンジルブロミドに代えて4-メトキシベンジルブロミドを加えたこと以外は実施例1と同様にして、パントテインケトン誘導体(OMP-2)を得た。
【0058】
比較例4
4-(トリフルオロメトキシ)ベンジルブロミドに代えて4-メチルベンジルブロミドを加えたこと以外は実施例1と同様にして、パントテインケトン誘導体(OMP-3)を得た。
【0059】
比較例5
4-(トリフルオロメトキシ)ベンジルブロミドに代えて3、4-ジクロロベンジルブロミドを加えたこと以外は実施例1と同様にして、パントテインケトン誘導体(OMP-4)を得た。
【0060】
比較例6
4-(トリフルオロメトキシ)ベンジルブロミドに代えて2-(ブロモメチル)ナフタレンを加えたこと以外は実施例1と同様にして、パントテインケトン誘導体(OMP-5)を得た。
【0061】
比較例7
4-(トリフルオロメトキシ)ベンジルブロミドに代えて1-(ブロモメチル)ナフタレンを加えたこと以外は実施例1と同様にして、パントテインケトン誘導体(OMP-6)を得た。
【0062】
比較例8
4-(トリフルオロメトキシ)ベンジルブロミドに代えて(3-ブロモ-1-プロピニル)トリメチルシランを加えたこと以外は実施例1と同様にして、パントテインケトン誘導体(OMP-8)をOMP-9の副生成物として得た。
【0063】
比較例9
4-(トリフルオロメトキシ)ベンジルブロミドに代えて(3-ブロモ-1-プロピニル)トリメチルシランを加えたこと以外は実施例1と同様にして、パントテインケトン誘導体(OMP-9)をOMP-8と共に得た。
【0064】
実施例1~5、比較例1~9で得られたパントテインケトン誘導体を表1にまとめた。
【0065】
【表1】
【0066】
[in vitroでのVanin-1阻害活性測定]
実施例1~5、比較例1~9で得られたパントテインケトン誘導体をVanin-1阻害剤として使用し、in vitroでのVanin-1阻害活性を以下のように測定した。
【0067】
(材料)
アッセイバッファーはリン酸緩衝液粉末9g/袋(1/15molL-1=66mM:和光純薬)を1Lの蒸留水に溶解して作製した。基質であるPantothenate-AMCはAnalytical Biochemistry 2010;399: 284-292に記載されるプロトコルに従って合成した。ヒト血清はKOHJIN BIOから「正常ヒト血清」(品番:12181211)を購入して使用した。
【0068】
(ヒト血清を用いるスクリーニング)
下記1~8の手順でVanin-1阻害活性を測定した。
1.ブラック96穴ウェルに79μLのアッセイバッファーを入れた。
2.アッセイバッファーが入ったウェルにヒト血清を10μLを入れた。
3.[2.]のウェルに各Vanin-1阻害剤(10-7M~10-2M in DMSO) 1μL又はDMSO 1μLを入れた。
4.[3.]のウェルに1mM Pantothenate-AMC 10μLを入れた。
5.インキュベート前にEx=390nm、Ex=465nmで測定した。
6.30分間、37℃でインキュベートした。
7.Ex=390nm、Ex=465nmで測定した。
8.インキュベート30分後の蛍光光度からインキュベート0分の蛍光光度を引き、DMSOを100%として各阻害剤のVanin-1阻害活性を%として示した。
【0069】
(結果)
上記の手順で測定したVanin-1阻害活性の結果を図1~4に示す。図1では実施例1~2及び比較例1、8~9のVanin-1阻害活性を示す。図1に示すように、実施例1、2のパントテインケトン誘導体は比較例1のパントテインケトン誘導体よりもVanin-1活性を低く抑えており、Vanin-1阻害活性が非常に高いことが分かった。具体的には、実施例1のVanin-1阻害活性はIC50=0.035μM、実施例2のVanin-1阻害活性はIC50=0.12μMであり、比較例1のVanin-1阻害活性はIC50=0.78μMであることが分かった。従って、実施例1のパントテインケトン誘導体のVanin-1阻害活性は比較例1の約20倍であり、実施例2のパントテインケトン誘導体のVanin-1阻害活性は比較例1の約6倍であることが分かった。これにより、従来のVanin-1阻害剤であるRR6のベンゼン環上にフッ素基又はトリフルオロメトキシ基を導入することでVanin-1阻害活性が大幅に向上することが分かった。一方、比較例8、9のVanin-1阻害活性は比較例1よりも低いことが分かった。従って、パントテインケトン誘導体におけるベンゼン環の存在は、良好なVanin-1阻害活性のために必要であることが分かった。
【0070】
図2では実施例1~5及び比較例1のVanin-1阻害活性を示す。図2に示すように、実施例1~5のVanin-1阻害剤のいずれもが比較例1のVanin-1阻害活性よりも高いことが分かった。従って、本実施例に係るパントテインケトン誘導体のベンゼン環上のトリフルオロメトキシ基又はフッ素基の位置はパラ位に限定されることなく、オルト位やメタ位にあっても良好なVanin-1阻害活性を示すことが分かった。
【0071】
図3では比較例1~5のVanin-1阻害活性を示す。図3に示すように、比較例1~5のVanin-1阻害活性は、いずれも大きな差は見られないことが分かった。従って、パントテインケトン誘導体のベンゼン環上における少なくとも1つのフッ素基又はフッ素原子を含む置換基の存在は、良好なVanin-1阻害活性のために必要であることが分かった。
【0072】
図4では比較例1、6~7のVanin-1阻害活性を示す。図4に示すように、比較例6、7のVanin-1阻害活性については比較例1よりも低いことが分かった。従って、パントテインケトン誘導体の芳香環部分はベンゼン環が好適であることが分かった。
【0073】
上記の結果から、実施例1~5のパントテインケトン誘導体は比較例1~9のパントテインケトン誘導体よりもin vitroでの強力な阻害活性を有するVanin-1阻害剤であることが分かった。
【0074】
[in vivoでのVanin-1阻害活性測定]
実施例1及び比較例1で得られたパントテインケトン誘導体をVanin-1阻害剤として使用し、in vivoでのVanin-1阻害活性を以下のように測定した。
【0075】
(材料)
アッセイバッファー及び基質は、上記のin vitroでの活性測定と同様のものを用いた。また、ハムスターは日本SLCより6週齢雄性シリアンハムスターを購入して使用した。
【0076】
(ハムスターを用いる血清及び腎臓組織中の阻害活性測定)
実施例1のパントテインケトン誘導体10mg/kgと比較例1のパントテインケトン誘導体10mg/kgを、別のハムスターの背部にそれぞれ皮下注射して投与した後、1時間および4時間の時点において麻酔下で採血および腎臓摘出を行った。正常ハムスターの血液および腎臓をNormalとした。血液は一晩4℃で冷蔵後、4℃で20分間3000回転し、その上清液を血清として用いた。腎臓は組織重量の10倍量のアッセイバッファーにてホモジネートし、4℃で30分間8000回転し、その上清液を腎臓組織抽出液として用いた。腎臓組織の蛋白定量は、BCAタンパク質アッセイ(Thermo Fishers Scientific)を用いて行った。
【0077】
下記1~7の手順でVanin-1阻害活性を測定した。
1.ブラック96穴ウェルに80μLのアッセイバッファーを入れた。
2.アッセイバッファーが入ったウェルに血清または腎臓組織抽出液を10μLを入れた。
3.[2.]のウェルに1mM Pantothenate-AMC 10μLを入れた。
4.インキュベート前にEx=390nm、Ex=465nmで測定した。
5.30分間、37℃でインキュベートした。
6.Ex=390nm、Ex=465nmで測定した。
7.インキュベート30分後の蛍光値からインキュベート0分の蛍光光度を引き、40μM AMCの蛍光値をスタンダードとして1分間あたりに産生されるAMC量を指標としてUを算出した。なお、腎臓組織抽出液中のVanin-1活性は、さらに蛋白濃度で補正して算出した。
【0078】
(結果)
上記の手順で測定した、実施例1及び比較例1のパントテインケトン誘導体のVanin-1阻害活性の結果を図5に示し、図5aは血清中におけるVanin-1阻害活性を示す。図5aに示すように、実施例1及び比較例1に係るVanin-1阻害剤の投与後1時間の血清においては、いずれもVanin-1活性を低く抑えることが分かった。特に、実施例1のVanin-1阻害剤は比較例1よりもVanin-1活性を低く抑えることが分かった。また、Vanin-1阻害剤の投与後4時間の血清では、比較例1の場合にはNormalの活性値まで戻っていたが、実施例1の場合にはNormalよりもVanin-1活性を低く抑えることが分かった。従って、実施例1のVanin-1阻害剤はハムスターへの投与4時間後においても血清におけるVanin-1阻害活性が維持されることが分かった。
【0079】
図5bは腎臓組織抽出液におけるVanin-1阻害活性を示す。図5bに示すように、比較例1に係るVanin-1阻害剤の投与後1時間及び4時間の腎臓組織においては、Vanin-1活性はNormalと同様の値を示し、Vanin-1を阻害できていないことが分かった。一方、実施例1に係るVanin-1阻害剤では、該阻害剤の投与後1時間の腎臓組織においてVanin-1を阻害できていることが分かった。実施例1に係るVanin-1阻害剤の投与後4時間の腎臓組織ではNormal値に戻ってしまうことも分かったが、実施例1に係るVanin-1阻害剤のVanin-1阻害活性は比較例1よりも遥かに高いことが分かった。
【0080】
上記の結果から、実施例1のパントテイン誘導体は比較例1のパントテインケトン誘導体よりもin vivoでの強力な阻害活性を有するVanin-1阻害剤であることが分かった。
図1
図2
図3
図4
図5