(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-18
(45)【発行日】2024-06-26
(54)【発明の名称】ナノ複合体、並びにその製造方法と使用
(51)【国際特許分類】
A61K 9/127 20060101AFI20240619BHJP
A61K 38/00 20060101ALI20240619BHJP
A61K 47/36 20060101ALI20240619BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20240619BHJP
A61K 47/24 20060101ALI20240619BHJP
A61K 47/42 20170101ALI20240619BHJP
A61K 47/28 20060101ALI20240619BHJP
A61K 38/38 20060101ALI20240619BHJP
A61K 31/409 20060101ALI20240619BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20240619BHJP
A61K 38/18 20060101ALI20240619BHJP
A61K 38/43 20060101ALI20240619BHJP
【FI】
A61K9/127
A61K38/00
A61K47/36
A61K45/00
A61K47/24
A61K47/42
A61K47/28
A61K38/38
A61K31/409
A61K39/395 M
A61K38/18
A61K38/43
(21)【出願番号】P 2023542742
(86)(22)【出願日】2022-01-12
(86)【国際出願番号】 CN2022071526
(87)【国際公開番号】W WO2022152145
(87)【国際公開日】2022-07-21
【審査請求日】2023-09-06
(31)【優先権主張番号】202110040371.2
(32)【優先日】2021-01-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】522179390
【氏名又は名称】上海交通大学医学院
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】カオ、シアオリン
(72)【発明者】
【氏名】ホアン、チアリン
(72)【発明者】
【氏名】チアン、カン
(72)【発明者】
【氏名】ソン、チンシアン
(72)【発明者】
【氏名】チェン、ホンチョアン
【審査官】大島 彰公
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2013/0324592(US,A1)
【文献】特開2010-173990(JP,A)
【文献】特表2006-516539(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2011/0256224(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ナノ複合体であって、
前記ナノ複合体は0~60%のタンパク質薬物、0.03~15%のヒアルロン酸、及び0.1~20%のプロタミン、35~95%の脂質成分と2.5~40%の「アポリポタンパク質および/またはその模倣ペプチド」を含み、前記脂質成分は電気的に中性の脂質とアニオン性脂質を含み、前記ヒアルロン酸と前記プロタミンの合計投与量は0.03~15%であり、百分率は、前記ナノ複合体に対する各成分の質量百分率であることを特徴とする、ナノ複合体。
【請求項2】
前記ナノ複合体はカチオン性脂質DOTAPを含まなく、
及び/又は、前記タンパク質薬物の分子量は10~255kDaであり、
及び/又は、前記タンパク質薬物の等電点は4~11であり、
及び/又は、前記電気的に中性の脂質は、両親媒性脂質、非イオン性脂質、コレステロールおよびそれらの誘導体の中の1つまたは複数を含み、
及び/又は、前記アニオン性脂質はアニオン性リン脂質であり、
及び/又は、前記「アポリポタンパク質および/またはその模倣ペプチド」は、ApoEおよびその模倣ペプチド、ApoA-I、ApoA-II、ApoA-IVおよびそれらの模倣ペプチド、ApoC-I、ApoC-II、ApoC-IIIおよびそれらの模倣ペプチド、ApoBおよびその模倣ペプチド、ApoJおよびその模倣ペプチドの中の1つ又は複数であり、
及び/又は、前記タンパク質薬物の使用量は1~43%であり、
及び/又は、前記ヒアルロン酸の使用量は0.03~5%であり;
及び/又は、前記プロタミンの使用量は0.2~16%であり;
及び/又は、前記「アポリポタンパク質および/またはその模倣ペプチド」の使用量は2.85%~25%であり、
及び/又は、前記脂質成分の使用量は、35~90%であり、
及び/又は、前記アニオン性脂質の使用量は、14~40%であり、
或いは、前記電気的に中性の脂質の使用量は22~60%であり、
或いは、前記ヒアルロン酸とプロタミンの合計使用量は0.2~14%であり、
及び/又は、前記ナノ複合体の粒径は10~1000nmであり、
及び/又は、前記ナノ複合体のZeta電位は-70~-15mVであることを特徴とする、請求項1に記載のナノ複合体。
【請求項3】
前記タンパク質薬物の分子量は、10~16kDa、15~40kDa、30~50kDa、60~80kDa、140~180kDa、200~255kDa、又は210~255kDaであり、
及び/又は、前記タンパク質薬物の等電点は4~5.3、3.7~5.7、4.4~6.4、6~8.5、7~9、8.3~10.3、又は9.3~11であり、
及び/又は、前記電気的に中性の脂質は、ホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルグリセロール、およびスフィンゴミエリンの中の1つまたは複数を含み、
及び/又は、前記アニオン性脂質はアニオン性リン脂質であり、前記アニオン性リン脂
質は、ホスファチジン酸、ホスファチジルイノシトール、ホスファチジルセリン、カルジオリピン、リゾリン脂質、およびガングリオシドの中の1つ又は複数を含み、
及び/又は、前記「アポリポタンパク質および/またはその模倣ペプチド」は、ApoEまたはApoA-I模倣ペプチドであり、
及び/又は、前記タンパク質薬物の使用量は、1.5%、1.78%、2.2%、3%、4%、4.8%、5%、6%、8%、8.5%、9%、10%、11%、12.06%、15%、16%、16.5%、17%、17.73%、19%、20%、22%、28.08%、28.68%、29.31%、30%、31.5%、32%、30.9%、33%、33.07%、34%、34.5%、又は41%であり、
及び/又は、前記ヒアルロン酸の使用量は、0.04%、0.05%、0.06%、0.08%、0.09%、0.1%、0.13%、0.14%、0.15%、0.2%、0.24%、0.25%、0.3%、0.33%、0.35%、0.41%、0.43%、0.44%、0.45%、0.47%、0.5%、0.6%、0.78%、0.8%、0.9%、1.53%、2.1%、0.2%、2.1%、2.5%、又は3%であり
及び/又は、前記プロタミンの使用量は、0.1%、0.2%、0.3%、0.35%、0.8%、0.83%、1%、1.3%、1.5%、1.6%、1.7%、2%、2.34%、2.39%、2.44%、3%、3.26%、3.3%、3.5%、3.7%、4%、4.3%、4.5%、4.85%、5%、5.1%、5.5%、5.53%、6%、6.5%、7%、13%、又は14%であり
及び/又は、前記「アポリポタンパク質および/またはその模倣ペプチド」の使用量は、2.92%、3%、3.5%、3.82%、3.94%、4%、4.1%、4.12%、4.43%、4.5%、4.65%、4.68%、4.78%、4.83%、4.89%、5%、5.4%、5.8%、6%、6.35%、6.52%、7.21%、10.35%、16.5%、16.37%、19.29%、又は20%であり、
及び/又は、前記アニオン性脂質の使用量は、16%、17.64%、22%、24%、24.04%、24.78%、24.8%、25%、25.66%、26%、26.1%、27%、27.22%、27.5%、29.79%、29%、30%、30.5%、30.66%、31%、31.08%、31.11%、32%、31.5%、32%、32.5%、33%、33.06%、33.12%、33.6%、34%、34.44%、35%、35.07%、36%、37.22%、37.72%、37.8%、38%、又は39%であり、
及び/又は、前記電気的に中性の脂質の使用量は、23.5%、24.36%、30%、30.94%、32%、33%、34.2%、34.22%、35%,36.09%、37%、37.44%、37.5%、38.25%、39.08%、39.91%、41%、41.21%、42%、42.34%、42.92%、43.5%、44%、45%、45.61%、46%、46.4%、47%、47.56%、48.43%、50%、52.17%、52.2%、53%、54%、54.5%、55.32%、56%、又は57%であり、
及び/又は、前記ヒアルロン酸とプロタミンの合計使用量は、0.3%、0.5%、0.64%、0.8%、0.85%、0.97%、1%、1.08%、1.15%、1.2%、1.5%、1.63%、1.71%、1.79%、2%、2.15%、2.35%、2.58%、2.63%、2.68%、3.2%、3.5%、4%、4.17%、5%、5.08%、5.5%、5.6%、5.96%、6.38%、6.5%、7%、8%、又は8.6%、13.06%、又は13.5%であり、
及び/又は、前記ナノ複合体の粒径は10~1000nmであり、
及び/又は、前記ナノ複合体のZeta電位は、-65、-64.87±3.30、-63.7±2.66、-58.87±4.90、-57.33±2.31、-56.33±3.26、-55.20±10.74、-52.07±2.15、-50.10±3.18、-48.87±1.95、-45.20±2.15、-44.87±0.45mV、-43.93±14.03、-43.87±9.68、-43.20±2.75mV、
-40.23±6.92、-38.27±13.10、-36.83±2.71、-31.57±4.67、-30、-25,-20、-21.03±2.47、又は-19.43±1.96mVである、請求項2に記載のナノ複合体。
【請求項4】
前記タンパク質薬物の分子量は、10~14kDa、20~33kDa、35~45kDa、60~80kDa、150~170kDa、220~250kDa、又は220~250kDaであり、
及び/又は、前
記タンパク質薬物の等電点は、4~4.8、4.2~5.5、4.9~5.9、6.5~8、7.5~8.5、8.8~9.8、又は9.8~10.8であり、
及び/又は、前記ホスファチジルコリンは、ジミリストイルホスファチジルコリンDMPC、ジパルミトイルホスファチジルコリンDPPC、ジステアロイルホスファチジルコリンDSPC、ジオレオイルホスファチジルコリンDOPC、ジラウロイルホスファチジルコリンDLPC、ジエルコイルホスファチジルコリンDEPC、1-パルミトイル-2-オレオイルホスファチジルコリンPOPC、卵黄レシチン、大豆レシチン、水素添加大豆リン脂質HSPCおよびそれらの誘導体の中の一つ又は複数であり、
及び/又は、前記ホスファチジルエタノールアミンは、ジミリストイルホスファチジルエタノールアミンDMPE、ジステアロイルホスファチジルエタノールアミンDSPE、ジパルミトイルホスファチジルエタノールアミンDPPE、ジオレオイルホスファチジルエタノールアミンDOPE、ジステアロイルホスファチジルエタノールアミン―ポリエチレングリコール2000、ジステアロイルホスファチジルエタノールアミン―ポリエチレングリコール5000、ジパルミトイルホスファチジルエタノールアミン―ポリエチレングリコール2000、ジパルミトイルホスファチジルエタノールアミン―ポリエチレングリコールジオール5000、およびそれらの誘導体の中の一つ又は複数であり、
及び/又は、前記ホスファチジルグリセロールは、ジミリストイルホスファチジルグリセロールDMPG、ジステアロイルホスファチジルグリセロールDSPG、ジパルミトイルホスファチジルグリセロールDPPG、ジオレオイルホスファチジルグリセロールDOPG、1-パルミトイル-2-オレオイルホスファチジルグリセリンナトリウムPOPG-Na、卵黄ホスファチジルグリセロールEPGおよびそれらの誘導体の中の一つ又は複数であり、
及び/又は、前記ホスファチジン酸は、ジミリストイルホスファチジン酸DMPA、ジステアロイルホスファチジン酸DSPA、ジパルミトイルホスファチジン酸DPPA、ジオレオイルホスファチジン酸DOPA及びそれらの誘導体の中の1つ又は複数であり、
及び/又は、前記ホスファチジルセリンは、ジオレオイルホスファチジルセリンDOPSおよび/またはジパルミトイルホスファチジルセリンDPPSであり、
及び/又は、前記リゾリン脂質は、ステアロイルリゾホスファチジルコリンS-lysoPC、ミリストイルリゾホスファチジルコリンM-LysoPC、パルミトイルリゾホスファチジルコリンP-LysoPC、およびそれらの誘導体の中の1つまたは複数であり、
及び/又は、前記ガングリオシドは、モノシアロテトラヘキソシルガングリオシドGM1であり、
及び/又は、前記ナノ複合体の粒径は12~95nmである、請求項3に記載のナノ複合体。
【請求項5】
前記タンパク質薬物の分子量は、12.4kDa、26kDa、40kDa、69.3kDa、160kDa、又は240kDaであり、
及び/又は、前記タンパク質薬物の等電点は、4.3、4.7、5.4、7.2、8、9.3、又は10.3であり、
及び/又は、前記ホスファチジルコリンは、ジミリストイルホスファチジルコリンDMPC、卵黄レシチン、および水素添加大豆リン脂質HSPCの中の一つ又は複数であり、
及び/又は、前記ホスファチジン酸は、ジオレオイルホスファチジン酸DOPAであり、
及び/又は、前記ナノ複合体の粒径は、20.30±5.89nm、23.79±7.91nm、25nm、26.52±4.31nm、27.31±10.84nm、27.38±7.83nm、27.55±6.99nm、37.98±14.29nm、28.96±8.74nm、31.11±3.44nm、36.30±6.41nm、37.22±7.28nm、37.55±13.73nm、37.63±4.20nm、37.68±2.20nm、38nm、39.12±4.84nm、40.55±7.66nm、55nm、55.75±7.69nm、57nm、60nm、63.62±1.97nm、70nm、74.20±14.23nm、又は75.29±14.53nmである、請求項4に記載のナノ複合体。
【請求項6】
前記電気的に中性の脂質がジミリストイルホスファチジルコリンDMPCと卵黄レシチンとの混合物である場合、ジミリストイルホスファチジルコリンDMPCと卵黄レシチンとの質量比は20:(8~12)であり、
及び/又は、前記アニオン性リン脂質がホスファチジン酸とガングリオシドとの混合物である場合、ガングリオシドとホスファチジン酸の質量比は30.07:(3~7)であ
る、請求項3に記載のナノ複合体。
【請求項7】
前記タンパク質薬物の等電点が4~5.7であり、分子量が60~80kDaである場合、前記ナノ複合体は0~30%のタンパク質薬物、0.15~2.1%のヒアルロン酸、1~6.5%のプロタミン、4.65~7%の「アポリポタンパク質および/またはその模倣ペプチド」、30~53.5%の電気的に中性のリン脂質と、23.5~38.5%のアニオン性リン脂質とを含み、前記ヒアルロン酸とプロタミンの合計使用量は1~9%である、請求項1~6のいずれか1項に記載のナノ複合体。
【請求項8】
前記タンパク質薬物の等電点は4.2~5.5であり、
及び/又は、前記タンパク質薬物の分子量は、60~80kDaであり、
及び/又は、前記タンパク質薬物は、ウシ血清アルブミンであり、
及び/又は、前記タンパク質薬物の使用量は、0%、9%、16%、22%、28.08%、28.68%、29.31%、又は30%であり、
及び/又は、前記ヒアルロン酸の使用量は、0.15%、0.24%、0.33%、0.35%、0.47%、又は2.1%であり、
及び/又は、前記プロタミンの使用量は、1%、2%、2.34%、2.39%、2.44%、3.26%、3.7%、又は6.5%であり、
及び/又は、前記「アポリポタンパク質および/またはその模倣ペプチド」の使用量は、4.65%、4.68%、4.78%、4.83%、4.89%、5.4%、6.35%、又は6.52%であり、
及び/又は、前記「アポリポタンパク質および/またはその模倣ペプチド」は、ApoEであり、
及び/又は、前記電気的に中性の脂質は、DMPC及び/又は卵黄レシチン、或いは、DMPC及び/又は水素添加大豆リン脂質であり;
及び/又は、前記電気的に中性のリン脂質の使用量は、30.94%、37%、37.44%、38.25%、39.08%、43.5%、又は48.43%、又は52.17%であり、
及び/又は、前記アニオン性リン脂質は、ガングリオシドおよび/またはホスファチジン酸であり、
及び/又は、前記アニオン性リン脂質の使用量は、24.04%、25.66%、26%、27.22%、31.5%、33.06%、35.07%、又は37.72%であり、
前記ヒアルロン酸と前記プロタミンの合計使用量は、1.15%、2.35%、2.58%、2.63%、2.68%、4.17%、又は8.6%であり、
及び/又は、前記ナノ複合体の粒径は、20~95nmであり、
及び/又は、前記ナノ複合体のZeta電位は、-70~-20mVである、請求項7に記載のナノ複合体。
【請求項9】
前記ホスファチジン酸は、ジオレオイルホスファチジン酸DOPAであり、前記ガングリオシドは、モノシアロテトラヘキソシルガングリオシドGM1であり、
前記アニオン性リン脂質がモノシアロテトラヘキソシルガングリオシドGM1とDOPAとの混合物である場合、モノシアロテトラヘキソシルガングリオシドGM1とDOPAの質量比は、30.07:(3~7)である、請求項8に記載のナノ複合体。
【請求項10】
前記タンパク質薬物の等電点が4~5.3であり、分子量が200~255kDaである場合、前記ナノ複合体は4~17%のタンパク質薬物、0.05~0.25%のヒアルロン酸、1~3.3%のプロタミン、4~16.5%の「アポリポタンパク質および/またはその模倣ペプチド」、42~53%の電気的に中性のリン脂質と、31~38%のアニオン性リン脂質とを含み、前記ヒアルロン酸とプロタミンの合計使用量は、1~3.5%である、請求項1~9のいずれか1項に記載のナノ複合体。
【請求項11】
前記タンパク質薬物の等電点は、4~4.8であり、
及び/又は、前記タンパク質薬物の分子量は、220~250kDaであり、
及び/又は、前記タンパク質薬物はフィコエリトリンであり、
及び/又は、前記タンパク質薬物の使用量は、4.8%、8%、8.5%、11%、又は16%であり、
及び/又は、前記ヒアルロン酸の使用量は、0.08%、0.13%、0.15%、又は0.2%であり、
及び/又は、前記プロタミンの使用量は、1%、1.5%、又は3%であり、
及び/又は、前記「アポリポタンパク質および/またはその模倣ペプチド」の使用量は、4.12%、5.8%、10.35%、又は16.37%であり、
及び/又は、前記「アポリポタンパク質および/またはその模倣ペプチド」は、ApoEであり、
及び/又は、前記電気的に中性のリン脂質は、ホスファチジルコリンであり、
及び/又は、前記電気的に中性のリン脂質の使用量は、42.92%、43.5%、46.4%、47.56%、又は52.2%であり
及び/又は、前記アニオン性リン脂質は、DOPAであり、
及び/又は、前記アニオン性リン脂質の使用量は、31.08%、31.5%、33.6%、34.44%、又は37.8%であり、
及び/又は、前記ヒアルロン酸と前記プロタミンの合計使用量は、1.08%、1.15%、1.2%、1.63%、又は3.2%であり、
及び/又は、前記ナノ複合体の粒径は、12~60nmであり、
及び/又は、前記ナノ複合体のZeta電位は、-65~-30mVである、請求項10に記載のナノ複合体。
【請求項12】
前記タンパク質薬物の等電点が9.3~11であり、分子量が8~16kDaである場合、前記ナノ複合体は31.5~34.5%のタンパク質薬物、0.25~0.45%のヒアルロン酸、0.1~0.35%のプロタミン、3~5%の「アポリポタンパク質および/またはその模倣ペプチド」、35~37.5%の電気的に中性のリン脂質と、25~27.5%のアニオン性リン脂質とを含み、前記ヒアルロン酸とプロタミンの合計使用量は0.5~0.85%である、請求項1~11のいずれか1項に記載のナノ複合体。
【請求項13】
前記タンパク質薬物の等電点は、9.8~10.8であり、
及び/又は、前記タンパク質薬物の分子量は、10~14kDaであり、
及び/又は、前記タンパク質薬物は、シトクロムCであり、
及び/又は、前記タンパク質薬物の使用量は、32~34%であり、
及び/又は、前記ヒアルロン酸の使用量は、0.3~0.5%であり、
及び/又は、前記プロタミンの使用量は、0.1~0.3%であり、
及び/又は、前記「アポリポタンパク質および/またはその模倣ペプチド」の使用量は、3.5~4.5%であり、
及び/又は、前記「アポリポタンパク質および/またはその模倣ペプチド」は、ApoEであり、
及び/又は、前記電気的に中性のリン脂質は、ホスファチジルコリンであり、
及び/又は、前記電気的に中性のリン脂質の使用量は、35~37%であり、
及び/又は、前記アニオン性リン脂質は、DOPAであり、
及び/又は、前記アニオン性リン脂質の使用量は、25~27%であり、
及び/又は、前記ヒアルロン酸と前記プロタミンの合計使用量は、0.5~0.8%であり、
及び/又は、前記ナノ複合体の粒径は、25~38nmであり、
及び/又は、前記ナノ複合体のZeta電位は、-25~-15である、請求項12に記載のナノ複合体。
【請求項14】
前記タンパク質薬物の等電点が7~9であり、分子量は140~180kDaである場合、前記ナノ複合体は5~43%のタンパク質薬物、0.04~0.9%のヒアルロン酸、1~14%のプロタミン、2.5~20%の「アポリポタンパク質および/またはその模倣ペプチド」、23.5~46%の電気的に中性のリン脂質と、16~32%のアニオン性リン脂質とを含み、前記ヒアルロン酸とプロタミンの合計使用量は1~13.5%である、請求項1~13のいずれか1項に記載のナノ複合体。
【請求項15】
前記タンパク質薬物の等電点は、7.5~8.5であり、
及び/又は、前記タンパク質薬物の分子量は、150~170kDaであり、
及び/又は、前記タンパク質薬物は、IgG抗体であり、
及び/又は、前記タンパク質薬物の使用量は、6%、20%、33%、又は41%であり、
及び/又は、前記ヒアルロン酸の使用量は、0.06%、0.09%、0.15%、0.41%、又は0.78%であり、
及び/又は、前記プロタミンの使用量は、1.3%、1.7%、2%、4.3%、又は13%であり、
及び/又は、前記「アポリポタンパク質および/またはその模倣ペプチド」の使用量は、2.85%、2.92%、3.94%、7.21%、19.29%であり、
及び/又は、前記「アポリポタンパク質および/またはその模倣ペプチド」は、ApoE、又はApoA-Iの模倣ペプチドであり、
及び/又は、前記電気的に中性のリン脂質は、ホスファチジルコリンであり、
及び/又は、前記電気的に中性のリン脂質の使用量は、24.36%、34.22%、41.21%、42.34%、又は45%であり、
及び/又は、前記アニオン性リン脂質は、DOPAであり、
及び/又は、前記アニオン性リン脂質の使用量は、17.64%、24.78%、29.79%、30%、又は30.66%であり、
及び/又は、前記ヒアルロン酸と前記プロタミンの合計使用量は、1.71%、1.79%、2.15%、5.08%、又は13.06%であり、
及び/又は、前記ナノ複合体の粒径は、15~95nmであり、
及び/又は、前記ナノ複合体のZeta電位は、-70~-20mVである、請求項1
4に記載のナノ複合体。
【請求項16】
前記タンパク質薬物の等電点が8.3~10.3であり、分子量が15~40kDaである場合、前記ナノ複合体は1~3%のタンパク質薬物、0.2~0.6%のヒアルロン酸、4.5~6.5%のプロタミン、2.5~5%の「アポリポタンパク質および/またはその模倣ペプチド」、54~57%の電気的に中性のリン脂質と、32~35%のアニオン性リン脂質とを含み、前記ヒアルロン酸と前記プロタミンの合計使用量は5~7%である、請求項1~15のいずれか1項に記載のナノ複合体。
【請求項17】
前記タンパク質薬物の等電点は、8.8~9.8であり、
及び/又は、前記タンパク質薬物の分子量は、20~33kDaであり、
及び/又は、前記タンパク質薬物は、神経成長因子β-NGFであり、
及び/又は、前記タンパク質薬物の使用量は、1.5~2.2%であり、
及び/又は、前記ヒアルロン酸の使用量は、0.3~0.5%であり、
及び/又は、前記プロタミンの使用量は、5~6%であり、
及び/又は、前記「アポリポタンパク質および/またはその模倣ペプチド」の使用量は、3~4.5%であり、
及び/又は、前記「アポリポタンパク質および/またはその模倣ペプチド」は、ApoEであり、
及び/又は、前記電気的に中性のリン脂質は、ホスファチジルコリンであり、
及び/又は、前記電気的に中性のリン脂質の使用量は、54.5~56%であり、
及び/又は、前記アニオン性リン脂質は、DOPAであり、
及び/又は、前記アニオン性リン脂質の使用量は、32.5~34%であり、
及び/又は、前記ヒアルロン酸と前記プロタミンの合計使用量は、5.5~6.5%である、請求項16に記載のナノ複合体。
【請求項18】
前記タンパク質薬物の等電点が6~8.5であり、分子量が30~50kDaである場合、前記ナノ複合体は15~20%のタンパク質薬物、0.05~0.8%のヒアルロン酸、0.8~1.6%のプロタミン、3~6%の「アポリポタンパク質および/またはその模倣ペプチド」、44~47%の電気的に中性のリン脂質と、29~330%のアニオン性リン脂質とを含み、前記ヒアルロン酸と前記プロタミンの合計使用量は0.3~2%である、請求項1~17のいずれか1項に記載のナノ複合体。
【請求項19】
前記タンパク質薬物の等電点は、6.5~8であり、
及び/又は、前記タンパク質薬物の分子量は、35~45kDaであり、
及び/又は、前記タンパク質薬物は、活性型酵素タンパク質薬物HRPであり、
及び/又は、前記タンパク質薬物の使用量は、16.5~19%であり、
及び/又は、前記ヒアルロン酸の使用量は、0.1~0.3%であり、
及び/又は、前記プロタミンの使用量は、0.8~1.5%であり、
及び/又は、前記「アポリポタンパク質および/またはその模倣ペプチド」の使用量は、4~5%であり、
及び/又は、前記「アポリポタンパク質および/またはその模倣ペプチド」は、ApoEであり、
及び/又は、前記電気的に中性のリン脂質は、ホスファチジルコリンであり、
及び/又は、前記電気的に中性のリン脂質の使用量は、45~46%であり、
及び/又は、前記アニオン性リン脂質は、DOPAであり、
及び/又は、前記アニオン性リン脂質の使用量は、30.5~32%であり、
及び/又は、前記ヒアルロン酸と前記プロタミンの合計使用量は、0.5~1.5%であり、
及び/又は、前記ナノ複合体の粒径は、20~57nmであり、
及び/又は、前記ナノ複合体のZeta電位は、-55~-15である、請求項18に記載のナノ複合体。
【請求項20】
前記タンパク質薬物の等電点が4.4~6.4であり、分子量が210~255kDaである場合、前記ナノ複合体は10~33%のタンパク質薬物、0.2~3%のヒアルロン酸、3.5~7%のプロタミン、3~6%の「アポリポタンパク質および/またはその模倣ペプチド」、32~42%の電気的に中性のリン脂質と、22~39%のアニオン性リン脂質とを含み、前記ヒアルロン酸と前記プロタミンの合計使用量は4~8%である、請求項1に記載のナノ複合体。
【請求項21】
前記タンパク質薬物の等電点は、4.9~5.9であり、
及び/又は、前記タンパク質薬物の分子量は、220~250kDaであり、
及び/又は、前記タンパク質薬物は、カタラーゼCATであり、
及び/又は、前記タンパク質薬物の使用量は、11~32%であり、
及び/又は、前記ヒアルロン酸の使用量は、0.3~2.5%であり
及び/又は、前記プロタミンの使用量は、4~5.5%であり、
及び/又は、前記「アポリポタンパク質および/またはその模倣ペプチド」の使用量は、4~5%であり、
及び/又は、前記「アポリポタンパク質および/またはその模倣ペプチド」は、ApoEであり、
及び/又は、前記電気的に中性のリン脂質は、ホスファチジルコリンであり、
及び/又は、前記電気的に中性のリン脂質の使用量は、33~41%であり、
及び/又は、前記アニオン性リン脂質は、DOPAであり、
及び/又は、前記アニオン性リン脂質の使用量は、24~38%であり、
及び/又は、前記ヒアルロン酸と前記プロタミンの使用量は、5~7%であり、
及び/又は、前記ナノ複合体の粒径は、55~70nmであり、
及び/又は、前記ナノ複合体のZeta電位は、-25~-15mVである、請求項20に記載のナノ複合体。
【請求項22】
下記の方法1または方法2により製造されることを特徴とする、請求項1~21のいずれか1項に記載のナノ複合体の製造方法であって、
方法一:
S1.前記タンパク質薬物、前記ヒアルロン酸と前記プロタミンとを混合してナノゲルを形成させ、
S2.前記脂質成分を従来の方法でリポソームに製造し、
S3.前記ナノゲルと前記リポソームとを共培養して、ナノゲル含有リポソームを形成させ、
S4.前記ナノゲル含有リポソームと「前記アポリポタンパク質および/またはその模倣ペプチド」の混合物を、自己集合によりナノ複合体を形成させ、
方法二:
S1.前記タンパク質薬物、前記ヒアルロン酸と前記プロタミンとを混合してナノゲルを形成させ、
S2.前記脂質成分を従来の方法でリポソームに製造し、
S3.前記ナノゲルと前記リポソームを、マイクロ流体チップを通じてナノゲル含有リポソームに調製し、限外濾過により溶媒を除去した後、タンパク質薬物封入リポソームを製造し、
S4.前記タンパク質薬物封入リポソームと「前記アポリポタンパク質および/またはその模倣ペプチド」の混合物を、自己集合によりナノ複合体を形成される。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は出願日が2021年1月13日である中国特許出願2021100403712の優先権を主張する。本出願は前記中国特許出願の全文を引用する。
【0002】
本発明は、バイオテクノロジー及び化学医薬分野に関し、具体的には、タンパク質薬物送達に使用されるナノ複合体、及びその製造方法、並びにタンパク質薬物送達担体としての使用に関する。
【背景技術】
【0003】
細胞機能の実行者として、タンパク質は細胞代謝、遺伝子調節、シグナル伝達、及び免疫応答などの病態生理学的プロセスにおいて非常に重要な役割を果たしている。タンパク質薬物療法は、正常なタンパク質薬物を患者の特定の組織又は細胞に導入して、機能不全または機能を失われたタンパク質を修復し、それにより治療目的を達成することを目的とする。タンパク質薬物は、従来の低分子医薬品と比較して、高い生物学的活性、強い特異性、明確な生物学的機能という利点があり、タンパク質薬物は、遺伝子治療と比較して、より迅速かつ安全であり、特定の部位で生物学的特性を直接に発揮することができ、遺伝子配列の変化は伴わない。近年、タンパク質薬物は医療分野で最も注目されているホットスポットとなり、数年間世界の売れ筋医薬品トップ10を占めている。しかし、効果的なタンパク質薬物送達方法が存在しないため、市販されているタンパク質薬物は主に抗体などの細胞外で機能する分子に限定されており、タンパク質薬物の大規模な開発と使用は大きく制限されている。
【0004】
現在、タンパク質の送達方法には主に2つ種類がある。1つ目の方法は、例えば、膜透過ペプチド、標的分子などを結合して標的細胞によるタンパク質薬物の取り込みを促進するなどの、標的タンパク質とエンドサイトーシスを促進する分子を直接共有結合または融合させる方法である。当該方法は効率よくタンパク質を細胞内に送達することができるが、細胞内に入ったタンパク質はエンドソームから逃れる能力を欠いていることが多く、タンパク質が機能を果たす前にエンドソームによって分解されてしまい、同時に、当該方法は複雑な合成と精製を必要とし、タンパク質の構造と機能がその過程で破壊される可能性がある。2つ目の方法は、担体材料を使用して分子間特異的認識またはカチオン性キャリア材料を介してタンパク質を送達する方法である。タンパク質送達担体材料は、担体材料とタンパク質の結合の仕方の違いにより、大きく2つに分類され、第1類の担体材料は通常、分子間に存在する特定の認識(例えば、ビオチン(biotin)とアビジン(avidin)、ポリヒスチジン(His-tag)と金属イオン、転写因子とプロモーターの間の認識)または化学反応(例えば、アミノとアジド、テトラジン(Tz)とシクロアルキン(TCO)との反応)を通じてタンパク質に結合する。これらの担体材料はタンパク質との結合力が強いが、その調製過程には複雑なタンパク質の修飾プロセスと担体材料の合成・修飾プロセスが必要であり、同時に、タンパク質の特異的な分子標識及びそれと担体材料との共有結合は、いずれもタンパク質の構造と機能を破壊する可能性がある。従って、現在の研究のほとんどは、静電、疎水性相互作用を通じて標的タンパク質に直接結合する、第2類の担体材料、即ちカチオン性担体材料に焦点を当てている。タンパク質分子は複雑な三次元構造を有しているため、その表面電荷と親水性基と疎水性基は均一に分布していなく、ほとんどのタンパク質は、表面に部分的に疎水性で負に帯電した領域を持っているため、カチオン性担体を直接に使用して、静電相互作用または疎水性相互作用を介して結合および送達できる。例えば、Chengの研究グループは、カチオン材料ライブラリを直接に構築し、異なるフッ素含有低分子化合物をポリエチレンイミンにグラフトしてフッ素含有ポリマー材料ライブラリを取得し、ライブラリー内の高分子材料のタンパク質送達性能をさらにスクリーニングして、2種類の高性能のフッ素含有高分子材料を取得することに成功した。これらのフッ素含有高分子は、ウシ血清アルブミン、β-ガラクトシダーゼ、サポリンなどを含むさまざまなタンパク質分子をさまざまな細胞に効率的に送達でき、且つ、これらのタンパク質又は小さなペプチドの生物学的活性を維持することができるが、カチオン材料のin vivo毒性を考慮すると、そのような担体はほとんどin vitroタンパク質トランスフェクションに限定される。正に帯電したタンパク質の場合、研究者はタンパク質を超負に帯電させて全体を負に帯電させ、静電相互作用によってカチオン性担体材料と電荷を運ぶことができる。例えば、Rotelloの研究グループは、正に帯電したCas9タンパク質が十分な負に帯電した領域を持つように、さまざまな長さの小さなポリグルタミン酸ペプチドをCas9タンパク質のN末端に挿入し、当該タンパク質をsgRNAと共培養して負に帯電した複合体を形成させ、前記複合体は、静電作用を通じてアルギニン修飾金ナノ粒子と共培養して、自己集合してナノ複合体を形成し、実験により、当該複合体はコレステロール依存性の膜融合を介してHeLa細胞に効率的に取り込まれ、AAVS1とPTENの2つの遺伝子の効率的な編集が達成されることが判明された。しかし、超負電荷変換の適用は、異なる荷電特性を持つタンパク質の送達を達成できるが、これもタンパク質の比較的複雑な生物学的または化学的合成プロセスを必要とし、タンパク質の構造と機能が変換プロセス中に破壊される可能性がある。効率的なタンパク質薬物の装填および生体内送達を達成するための便利で普遍的な方法が依然として不足していることが分かる。
【0005】
組換えリポタンパク質は、天然のナノ構造であるリポタンパク質を模倣したナノ粒子であり、広く使用されているナノ薬物担体として開発されており、その:[1]生体適合性が良く、体内で完全に代謝され、免疫原性がないこと;[2]体内循環時間が長いこと;[3]マルチモーダルな薬物充填;[4]生体内での標的特性と言ったメリットを持っている。組換えリポタンパク質ナノキャリアは、一部の疎水性薬物、両親媒性薬物、および少量のポリペプチド、核酸薬物などの親水性薬物の効果的な送達に適用することに成功した。例えば、当研究グループは、α-ヘリックスペプチド融合技術の確立により、β-アミロイドが凝集するアルツハイマー病の中心病変への神経保護ペプチドの標的脳内送達を実現し(ACS Nano, 2015);疎水性共沈殿技術の開発を提案して、リン酸カルシウムコアを組換えリポタンパク質コアに導入して、効率的な核酸薬物のローディングと神経膠腫の標的送達を実現した(Nat Commun, 2017 & 2020; Adv Sci, 2020)。しかし、タンパク質薬物の活性はその複雑な高次構造に大きく依存するため、既存の疎水性共沈「ハードコア」薬物ローディング法では外部環境からタンパク質の物理的障壁を実現することしかできず、沈殿条件下での内部コアタンパク質の構造破壊と活性の損失は回避できない。従って、タンパク質薬物を効率的に標的に送達するためには、タンパク質薬物に適したローディング方法の開発が急務となっている。
【0006】
これまでの研究で、Leaf Huang教授のカチオン性リポソーム-ポリカチオン-ヒアルロン酸と呼ばれるナノ複合体を発明し、PEG化リン脂質分子の末端に標的基を結合させることで腫瘍に対する特異性認識を実現して、腫瘍細胞への遺伝子医薬品の標的送達を実現した。ヒアルロン酸、プロタミンの複合体は核酸薬物送達に使用され、シェルによりカチオン性脂質、PEG化リン脂質を含むリポソームをコーティングすることができ、in vivoでの送達に使用できる。しかし、上記のシステムはタンパク質の薬物送達に直接使用することはできず、非特異的な細胞毒性やアレルギー反応の誘発などのリスクがある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明が解決しようとする技術的課題は、従来技術における適切なタンパク質薬物の担持輸送方法の欠如を克服して、効率的な細胞内および生体内標的送達を達成するための、ナノ複合体並びにその製造方法と使用を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、下記の技術的解決策によって上記の技術的課題を解決する。
【0009】
本発明の第1の目的は、0~60%のタンパク質薬物、0.03~15%のヒアルロン酸、及び0.1~20%のプロタミン、35~95%の脂質成分と2.5~40%の「アポリポタンパク質および/またはその模倣ペプチド」を含むナノ複合体を提供することである。
【0010】
前記脂質成分は電気的に中性な脂質とアニオン性脂質を含み、前記ヒアルロン酸と前記プロタミンの合計使用量は0.03~15%である。
【0011】
前記百分率は、前記ナノ複合体に対する各成分それぞれの質量百分率である。
【0012】
本発明において、タンパク質薬物の含有量が0%である場合、前記ナノ複合体はタンパク質薬物を担持していない空の担体である。タンパク質薬物の含有量が0ではない場合、前記ナノ複合体はタンパク質薬物を担持したナノ複合体である。
【0013】
本発明において、前記ナノ複合体はカチオン性脂質DOTAPを含まないことが好ましい。
【0014】
本発明において、前記タンパク質薬物は、当該技術分野における従来のタンパク質薬物であってもよい。
【0015】
本発明において、前記タンパク質薬物の分子量は10~255kDaであってもよく、例えば、10~16kDa、15~40kDa、30~50kDa、60~80kDa、140~180kDa、200~255kDa、又は210~255kDaであり、好ましくは、10~14kDa、20~33kDa、35~45kDa、60~80kDa、150~170kDa、220~250kDa、220~250kDaであり、また例えば、12.4kDa、26kDa、40kDa、69.3kDa、160kDa、又は240kDaである。
【0016】
本発明において、前記タンパク質薬物の等電点は4~11であってもよく、例えば、4~5.3、3.7~5.7、4.4~6.4、6~8.5、7~9、8.3~10.3、又は9.3~11であり、好ましくは、4~4.8、4.2~5.5、4.9~5.9、6.5~8、7.5~8.5、8.8~9.8、又は9.8~10.8であり、また例えば、4.3、4.7、5.4、7.2、8、9.3、又は10.3である。
【0017】
本発明において、前記タンパク質薬物の等電点は、更に、4~6、6~8、又は8~10.5であってもよい。
【0018】
本発明の好ましい実施形態では、下記タンパク質薬物を使用することができる。
【0019】
【0020】
本発明において、前記電気的に中性の脂質とは、一般に溶液の中で正イオンと負イオンのバランスが取れており、溶液全体が外側に帯電する性質を示さない脂質を指し、好ましくは、両親媒性脂質、非イオン性脂質、コレステロールおよびそれらの誘導体の中の1つまたは複数を含む。より好ましくは、ホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルグリセロール、およびスフィンゴミエリンの中の1つまたは複数を含む。
【0021】
ここで、前記ホスファチジルコリンは、好ましくは、ジミリストイルホスファチジルコリン(DMPC)、ジパルミトイルホスファチジルコリン(DPPC)、ジステアロイルホスファチジルコリン(DSPC)、ジオレオイルホスファチジルコリン(DOPC)、ジラウロイルホスファチジルコリン(DLPC)、ジエルコイルホスファチジルコリンDEPC、1-パルミトイル-2-オレオイルホスファチジルコリンPOPC、卵黄レシチン、大豆リン脂質、水素添加大豆リン脂質HSPCおよびそれらの誘導体の中の一つ又は複数であり、より好ましくは、ジミリストイルホスファチジルコリン(DMPC)、卵黄レシチンおよび水素添加大豆リン脂質HSPCの中の一つ又は複数であり、例えば、DMPCと卵黄レシチン、またはDMPCと水素添加大豆リン脂質である。
【0022】
前記ホスファチジルエタノールアミンは、好ましくは、ジミリストイルホスファチジルエタノールアミン(DMPE)、ジステアロイルホスファチジルエタノールアミン(DSPE)、ジパルミトイルホスファチジルエタノールアミン(DPPE)、ジオレオイルホスファチジルエタノールアミン(DOPE)、ジオレオイルホスファチジルエタノールアミン(DOPE)、ジステアロイルホスファチジルエタノールアミン―ポリエチレングリコール2000、ジステアロイルホスファチジルエタノールアミン―ポリエチレングリコール5000、ジパルミトイルホスファチジルエタノールアミン―ポリエチレングリコール2000、ジパルミトイルホスファチジルエタノールアミン―ポリエチレングリコールジオール5000およびそれらの誘導体の中の一つ又は複数である。
【0023】
前記ホスファチジルグリセロールは、好ましくは、ジミリストイルホスファチジルグリセロール(DMPG)、ジステアロイルホスファチジルグリセロール(DSPG)、ジパルミトイルホスファチジルグリセロール(DPPG)、ジオレオイルホスファチジルグリセロール(DOPG)、1-パルミトイル-2-オレオイルホスファチジルグリセリンナトリウム(POPG-Na)、卵黄ホスファチジルグリセロール(EPG)およびそれらの誘導体の中の一つ又は複数である。
【0024】
好ましくは、前記電気的に中性の脂質がジミリストイルホスファチジルコリン(DMPC)と卵黄レシチンとの混合物である場合、ジミリストイルホスファチジルコリン(DMPC)と卵黄レシチンとの質量比は20:(8~12)であってもよく、例えば20:10.94である。
【0025】
本発明において、前記アニオン性脂質とは一般的に、溶液中の負電荷が正電荷よりも大きく、溶液全体が外側に負電荷性を示す脂質を総称し、好ましくは、アニオン性リン脂質である。ここで、前記アニオン性リン脂質は、好ましくは、ホスファチジン酸、ホスファチジルイノシトール、ホスファチジルセリン、カルジオリピン、リゾリン脂質およびガングリオシドの中の1つ又は複数を含み、より好ましくは、ホスファチジン酸および/またはガングリオシドである。
【0026】
ここで、前記ホスファチジン酸は、好ましくは、ジミリストイルホスファチジン酸(DMPA)、ジステアロイルホスファチジン酸(DSPA)、ジパルミトイルホスファチジン酸(DPPA)、ジオレオイルホスファチジン酸(DOPA)及びそれらの誘導体の中の1つ又は複数であり、より好ましくは、ジミリストイルホスファチジン酸(DMPA)、ジステアロイルホスファチジン酸(DSPA)、ジパルミトイルホスファチジン酸(DPPA)又はジオレオイルホスファチジン酸(DOPA)である。
【0027】
前記ホスファチジルセリンは、好ましくは、ジオレオイルホスファチジルセリン(DOPS)および/またはジパルミトイルホスファチジルセリン(DPPS)である。
【0028】
前記リゾリン脂質は、好ましくは、ステアロイルリゾホスファチジルコリンS-lysoPC、ミリストイルリゾホスファチジルコリンM-LysoPC、パルミトイルリゾホスファチジルコリンP-LysoPC、およびそれらの誘導体の中の1つまたは複数である。
【0029】
前記ガングリオシドは、好ましくは、モノシアロテトラヘキソシルガングリオシド(GM1)である。
【0030】
好ましくは、前記アニオン性リン脂質がホスファチジン酸とガングリオシドとの混合物である場合、ガングリオシドとホスファチジン酸の質量比は30.07:(3~7)であってもよく、例えば、30.07:5である。
【0031】
本発明において、前記「アポリポタンパク質および/またはその模倣ペプチド」は、ApoEおよびその模倣ペプチド、ApoA-I、ApoA-II、ApoA-IVおよびそれらの模倣ペプチド、ApoC-I、ApoC-II、ApoC-IIIおよびそれらの模倣ペプチド、ApoBおよびその模倣ペプチド、ApoJおよびその模倣ペプチドの中の1つ又は複数であってもよく、例えば、ApoEまたはApoA-I模倣ペプチドである。
【0032】
本発明において、前記タンパク質薬物の使用量は1~43%あってもよく、例えば、1.5%、1.78%、2.2%、3%、4%、4.8%、5%、6%、8%、8.5%、9%、10%、11%、12.06%、15%、16%、16.5%、17%、17.73%、19%、20%、22%、28.08%、28.68%、29.31%、30%、31.5%、32%、30.9%、33%、33.07%、34%、34.5%、又は41%である。
【0033】
本発明において、前記ヒアルロン酸の使用量は0.03~5%あってもよく、例えば、0.04%、0.05%、0.06%、0.08%、0.09%、0.1%、0.13%、0.14%、0.15%、0.2%、0.24%、0.25%、0.3%、0.33%、0.35%、0.41%、0.43%、0.44%、0.45%、0.47%、0.5%、0.6%、0.78%、0.8%、0.9%、1.53%、2.1%、0.2%、2.1%、2.5%、又は3%である。
【0034】
本発明において、前記プロタミンの使用量は0.2~16%あってもよく、例えば、0.1%、0.2%、0.3%、0.35%、0.8%、0.83%、1%、1.3%、1.5%、1.6%、1.7%、2%、2.34%、2.39%、2.44%、3%、3.26%、3.3%、3.5%、3.7%、4%、4.3%、4.5%、4.85%、5%、5.1%、5.5%、5.53%、6%、6.5%、7%、13%、又は14%である。
【0035】
本発明において、前記「アポリポタンパク質および/またはその模倣ペプチド」の使用量は2.85%~25%あってもよく、例えば、2.92%、3%、3.5%、3.82%、3.94%、4%、4.1%、4.12%、4.43%、4.5%、4.65%、4.68%、4.78%、4.83%、4.89%、5%、5.4%、5.8%、6%、6.35%、6.52%、7.21%、10.35%、16.5%、16.37%、19.29%、又は20%である。
【0036】
本発明において、前記脂質成分の使用量は、好ましくは、35~90%である。
【0037】
本発明において、前記アニオン性脂質の使用量は14~40%あってもよく、例えば、16、17.64%、22%、24%、24.04%、24.78%、24.8%、25%、26%、25.66%、26.1%、27%、27.22%、27.5%、29.79%、29%、30%、30.5%、30.66%、31%、31.08%、31.11%、32%、31.5%、32%、32.5%、33%、33.06%、33.12%、33.6%、34%、34.44%、35%、35.07%、36%、37.22%、37.72%、37.8%、38%、又は39%である。
【0038】
本発明において、前記電気的に中性の脂質の使用量は22~60%あってもよく、例えば、23.5%、24.36%、30%、30.94%、32%、33%、34.2%、34.22%、35%,36.09%、37%、37.44%、37.5%、38.25%、39.08%、39.91%、41%、41.21%、42%、42.34%、42.92%、43.5%、44%、45%、45.61%、46%、46.4%、47%、47.56%、48.43%、50%、52.17%、52.2%、53%、54%、54.5%、55.32%、56%、又は57%である。
【0039】
本発明において、前記ヒアルロン酸と前記プロタミンの合計使用量は0.2~14%あってもよく、例えば、0.3%、0.5%、0.64%、0.8%、0.85%、0.97%、1%、1.08%、1.15%、1.2%、1.5%、1.63%、1.71%、1.79%、2%、2.15%、2.35%、2.58%、2.63%、2.68%、3.2%、3.5%、4%、4.17%、5%、5.08%、5.5%、5.6%、5.96%、6.38%、6.5%、7%、8%又は8.6%、13.06%、又は13.5%である。
【0040】
本発明において、前記ナノ複合体の粒径は10~1000nmであってもよく、好ましくは、10~100nmである。例えば、12~95nmであり、また例えば、20.30±5.89nm、23.79±7.91nm、25nm、26.52±4.31nm、27.31±10.84nm、27.38±7.83nm、27.55±6.99nm、37.98±14.29nm、28.96±8.74nm、31.11±3.44nm、36.30±6.41nm、37.22±7.28nm、37.55±13.73nm、37.63±4.20nm、37.68±2.20nm、38nm、39.12±4.84nm、40.55±7.66nm、55nm、55.75±7.69nm、57nm、60nm、63.62±1.97nm、70nm、74.20±14.23nm、又は75.29±14.53nmである。
【0041】
本発明において、前記ナノ複合体のZeta電位は-70~-15mVであってもよく、例えば、-65、-64.87±3.30、-63.7±2.66、-58.87±4.90、-57.33±2.31、-56.33±3.26、-55.20±10.74、-52.07±2.15、-50.10±3.18、-48.87±1.95、-45.20±2.15、-44.87±0.45mV、-43.93±14.03、-43.87±9.68、-43.20±2.75mV、-40.23±6.92、-38.27±13.10、-36.83±2.71、-31.57±4.67、-30、-25,-20、-21.03±2.47、又は-19.43±1.96mVである。
【0042】
一つの好ましい実施形態として、前記タンパク質薬物の等電点が4~5.7であり、分子量が60~80kDaのである場合、前記ナノ複合体は0~30%のタンパク質薬物、0.15~2.1%のヒアルロン酸、1~6.5%のプロタミン、4.65~7%の「アポリポタンパク質および/またはその模倣ペプチド」、30~53.5%の電気的に中性のリン脂質、および23.5~38.5%のアニオン性リン脂質を含み、ここで、前記ヒアルロン酸と前記プロタミンの合計使用量は1~9%である。
【0043】
ここで、前記タンパク質薬物の等電点は4.2~5.5であってもよく、例えば、4.7である。
【0044】
ここで、前記タンパク質薬物の分子量は60~80kDaであってもよく、例えば、69.3kDaである。
【0045】
ここで、前記タンパク質薬物はウシ血清アルブミンであってもよい。
【0046】
ここで、前記タンパク質薬物の使用量は0%、9%、16%、22%、28.08%、28.68%、29.31%、又は30%であってもよい。
【0047】
ここで、前記ヒアルロン酸の使用量は0.15%、0.24%、0.33%、0.35%、0.47%、又は2.1%であってもよい。
【0048】
ここで、前記プロタミンの使用量は1%、2%、2.34%、2.39%、2.44%、3.26%、3.7%、又は6.5%であってもよい。
【0049】
ここで、前記「アポリポタンパク質および/またはその模倣ペプチド」の使用量は4.65%、4.68%、4.78%、4.83%、4.89%、5.4%、6.35%、又は6.52%であってもよい。
【0050】
ここで、前記「アポリポタンパク質および/またはその模倣ペプチド」はApoEおよびその模倣ペプチド、ApoA-I、ApoA-II、ApoA-IVおよびそれらの模倣ペプチド、ApoC-I、ApoC-II、ApoC-IIIおよびそれらの模倣ペプチドの中の1つ又は複数であってもよく、例えば、ApoEである。
【0051】
ここで、前記電気的に中性のリン脂質は、ジミリストイルホスファチジルコリンDMPC、卵黄レシチンおよび水素添加大豆リン脂質HSPCの中の1つまたは複数であってもよく、例えば、DMPCおよび卵黄レシチン、またはDMPCおよび水素添加大豆リン脂質である。
【0052】
電気的に中性のリン脂質がジミリストイルホスファチジルコリンDMPCと卵黄レシチンの混合物である場合、ジミリストイルホスファチジルコリンDMPCと卵黄レシチンの質量比は20:(8~12)であってもよく、例えば、20:10.94である。
【0053】
ここで、前記電気的に中性のリン脂質の使用量は30.94%、37%、37.44%、38.25%、39.08%、43.5%、48.43%、又は52.17%であってもよい。
【0054】
ここで、前記アニオン性リン脂質は、ホスファチジン酸および/またはガングリオシドであってもよい。前記ホスファチジン酸は、好ましくは、ジミリストイルホスファチジン酸(DMPA)、ジステアロイルホスファチジン酸(DSPA)、ジパルミトイルホスファチジン酸(DPPA)またはジオレオイルホスファチジン酸(DOPA)である。前記ガングリオシドは、好ましくは、モノシアロテトラヘキソシルガングリオシド(GM1)である。
【0055】
アニオン性リン脂質がモノシアロテトラヘキソシルガングリオシドGM1とDOPAの混合物である場合、モノシアロテトラヘキソシルガングリオシドGM1とDOPAの質量比は30.07:(3~7)であってもよく、例えば、30.07:5である。
【0056】
ここで、前記アニオン性リン脂質の使用量は24.04%、25.66%、26%、27.22%、31.5%、33.06%、35.07%、又は37.72%であってもよい。
【0057】
ここで、前記ヒアルロン酸と前記プロタミンの合計使用量は1.15%、2.35%、2.58%、2.63%、2.68%、4.17%、又は8.6%であってもよい。
【0058】
ここで、前記ナノ複合体の粒径は20~95nmであってもよく、例えば、27.55±6.99nm、36.30±6.41nm、37.63±4.20nm、37.68±2.20nm、39.12±4.84nm、40.55±7.66nm、55.75±7.69nm、又は75.29±14.53nmである。
【0059】
ここで、前記ナノ複合体のZeta電位は-70~-20mVであってもよく、例えば、-63.7±2.66、-64.87±3.30、-52.07±2.15、-45.20±2.15、-44.87±0.45mV、-43.20±2.75mV、-40.23±6.92、又は-38.27±13.10mVである。
【0060】
一つの好ましい実施形態として、前記タンパク質薬物の等電点が4~5.3であり、分子量が200~255kDaのである場合、前記ナノ複合体は4~17%のタンパク質薬物、0.05~0.25%のヒアルロン酸、1~3.3%のプロタミン、4~16.5%の「アポリポタンパク質および/またはその模倣ペプチド」、42~53%の電気的に中性のリン脂質、および31~38%のアニオン性リン脂質を含み、ここで、前記ヒアルロン酸と前記プロタミンの合計使用量は1~3.5%である。
【0061】
ここで、前記タンパク質薬物の等電点は4~4.8であってもよく、例えば、4.3である。
【0062】
ここで、前記タンパク質薬物の分子量は220~250kDaであってもよく、例えば、240kDaである。
【0063】
ここで、前記タンパク質薬物はフィコエリトリンであってもよい。
【0064】
ここで、前記タンパク質薬物の使用量は4.8%、8%、8.5%、11%、又は16%であってもよい。
【0065】
ここで、前記ヒアルロン酸の使用量は0.08%、0.13%、0.15%、又は0.2%であってもよい。
【0066】
ここで、前記プロタミンの使用量は1%、1.5%、又は3%であってもよい。
【0067】
ここで、前記「アポリポタンパク質および/またはその模倣ペプチド」の使用量は4.12%、5.8%、10.35%、又は16.37%であってもよい。
【0068】
ここで、前記「アポリポタンパク質および/またはその模倣ペプチド」はApoEおよびその模倣ペプチド、ApoA-I、ApoA-II、ApoA-IVおよびそれらの模倣ペプチド、ApoC-I、ApoC-II、ApoC-IIIおよびそれらの模倣ペプチドの中の1つ又は複数であってもよく、例えば、ApoEである。
【0069】
ここで、前記電気的に中性のリン脂質はホスファチジルコリンであってもよい。前記ホスファチジルコリンは好ましくは、DMPCである。
【0070】
ここで、前記電気的に中性のリン脂質の使用量は42.92%、43.5%、46.4%、47.56%、又は52.5%であってもよい。
【0071】
ここで、前記アニオン性リン脂質はDOPAであってもよい。
【0072】
ここで、前記アニオン性リン脂質の使用量は31.08%、31.5%、33.6%、34.33%、又は37.8%であってもよい。
【0073】
ここで、前記ヒアルロン酸と前記プロタミンの合計使用量は1.08%、1.15%、1.2%、1.63%、又は3.2%であってもよい。
【0074】
ここで、前記ナノ複合体の粒径は12~60nmであってもよく、例えば、20.30±5.89nm、23.79±7.91nm、27.31±10.84nm、28.96±8.74nm、又は37.55±13.73nmである。
【0075】
ここで、前記ナノ複合体のZeta電位は-65~-30mVであってもよく、例えば、-58.87±4.90Mv、-50.10±3.18Mv、-43.93±8.74Mv、又は-36.83±2.71Mvである。
【0076】
一つの好ましい実施形態として、前記タンパク質薬物の等電点が9.3~11であり、分子量が8~16kDaのであ場合、前記ナノ複合体は31.5~34.5%のタンパク質薬物、0.25~0.24%のヒアルロン酸、0.1~0.35%のプロタミン、3~5%の「アポリポタンパク質および/またはその模倣ペプチド」、35~37.5%の電気的に中性のリン脂質、および25~27.5%のアニオン性リン脂質を含み、ここで、前記ヒアルロン酸と前記プロタミンの合計使用量は0.5~0.85%である。
【0077】
ここで、前記タンパク質薬物の等電点は9.8~10.8であってもよく、例えば、10.3である。
【0078】
ここで、前記タンパク質薬物の分子量は10~14kDaであってもよく、例えば、12.4kDaである。
【0079】
ここで、前記タンパク質薬物はシトクロムCであってもよい。
【0080】
ここで、前記タンパク質薬物の使用量は32~34%であってもよく、例えば、33.7%である。
【0081】
ここで、前記ヒアルロン酸の使用量は0.3~0.5%であってもよく、例えば、0.44%である。
【0082】
ここで、前記プロタミンの使用量は0.1~0.3%であってもよく、例えば、0.2%である。
【0083】
ここで、前記「アポリポタンパク質および/またはその模倣ペプチド」の使用量は3.5~4.5%であってもよく、例えば、4.1%である。
【0084】
ここで、前記「アポリポタンパク質および/またはその模倣ペプチド」はApoEおよびその模倣ペプチド、ApoA-I、ApoA-II、ApoA-IVおよびそれらの模倣ペプチド、ApoC-I、ApoC-II、ApoC-IIIおよびそれらの模倣ペプチドの中の1つ又は複数であってもよく、例えば、ApoEである。
【0085】
ここで、前記電気的に中性のリン脂質はホスファチジルコリンであってもよい。前記ホスファチジルコリンは好ましくは、DMPCである。
【0086】
ここで、前記電気的に中性のリン脂質の使用量は35~37%であってもよく、例えば、36.09%である。
【0087】
ここで、前記アニオン性リン脂質はDOPAであってもよい。
【0088】
ここで、前記アニオン性リン脂質の使用量は25~27%であってもよく、例えば、26.1%である。
【0089】
ここで、前記ヒアルロン酸と前記プロタミンの合計使用量は0.5~0.8%であってもよく、例えば、0.64%である。
【0090】
ここで、前記ナノ複合体の粒径は25~38nmであってもよく、例えば、31.11±3.44nmである。
【0091】
ここで、前記ナノ複合体のZeta電位は-25~-15mVであってもよく、例えば、21.03±2.47mVである。
【0092】
一つの好ましい実施形態として、前記タンパク質薬物の等電点が7~9であり、分子量が140~180kDaである場合、前記ナノ複合体は5~43%のタンパク質薬物、0.04~0.9%のヒアルロン酸、1~14%のプロタミン、2.5~20%の「アポリポタンパク質および/またはその模倣ペプチド」、23.5~46%の電気的に中性のリン脂質、および16~32%のアニオン性リン脂質を含み、ここで、前記ヒアルロン酸と前記プロタミンの合計使用量は1~13.5%である。
【0093】
ここで、前記タンパク質薬物の等電点は7.5~8.5であってもよく、例えば、8である。
【0094】
ここで、前記タンパク質薬物の分子量は150~170kDaであってもよく、例えば、160kDaである。
【0095】
ここで、前記タンパク質薬物はIgG抗体であってもよい。
【0096】
ここで、前記タンパク質薬物の使用量は6%、20%、33%、又は41%であってもよい。
【0097】
ここで、前記ヒアルロン酸の使用量は0.06%、0.09%、0.15%、0.41%、又は0.78であってもよい。
【0098】
ここで、前記プロタミンの使用量は1.3%、1.7%、2%、4.3%、又は13%であってもよい。
【0099】
ここで、前記「アポリポタンパク質および/またはその模倣ペプチド」の使用量は2.85%、2.92%、3.94%、7.21%、又は19.29%であってもよい。
【0100】
ここで、前記「アポリポタンパク質および/またはその模倣ペプチド」はApoEおよびその模倣ペプチド、ApoA-I、ApoA-II、ApoA-IVおよびそれらの模倣ペプチド、ApoC-I、ApoC-II、ApoC-IIIおよびそれらの模倣ペプチドの中の1つ又は複数であってもよく、例えば、ApoEまたはApoA-I模倣ペプチドである。
【0101】
ここで、前記電気的に中性のリン脂質はホスファチジルコリンであってもよい。前記ホスファチジルコリンは好ましくは、DMPCである。
【0102】
ここで、前記電気的に中性のリン脂質の使用量は24.36%、34.22%、41.21%、42.34%、又は45%であってもよい。
【0103】
ここで、前記アニオン性リン脂質はDOPAであってもよい。
【0104】
ここで、前記アニオン性リン脂質の使用量は17.64%、24.78%、29.79%、30%、又は30.66%であってもよい。
【0105】
ここで、前記ヒアルロン酸と前記プロタミンの合計使用量は1.71%、1.79%、2.15%、5.08%、又は13.06%であってもよい。
【0106】
ここで、前記ナノ複合体の粒径は15~95nmであってもよく、例えば、26.52±4.31nm、27.38±7.83nm、37.98±14.29nm、又は74.20±14.23nmである。
【0107】
ここで、前記ナノ複合体のZeta電位は-70~-20mVであってもよく、例えば、-57.33±2.31mV、-55.20±10.74mV、-43.87±9.68mV、又は-31.57±4.67mVである。
【0108】
一つの好ましい実施形態として、前記タンパク質薬物の等電点が8.3~10.3であり、分子量が15~40kDaである場合、前記ナノ複合体は1~3%のタンパク質薬物、0.2~0.6%のヒアルロン酸、4.5~6.5%のプロタミン、2.5~5%の「アポリポタンパク質および/またはその模倣ペプチド」、54~57%の電気的に中性のリン脂質、および32~35%のアニオン性リン脂質を含み、ここで、前記ヒアルロン酸と前記プロタミンの合計使用量は5~7%である。
【0109】
ここで、前記タンパク質薬物の等電点は8.8~9.8であってもよく、例えば、9.3である。
【0110】
ここで、前記タンパク質薬物の分子量は20~33kDaであってもよく、例えば、26kDaである。
【0111】
ここで、前記タンパク質薬物は神経成長因子β-NGFであってもよい。
【0112】
ここで、前記タンパク質薬物の使用量は1.5~2.2%であってもよく、例えば、1.78%である。
【0113】
ここで、前記ヒアルロン酸の使用量は0.3~0.5%であってもよく、例えば、0.43%である。
【0114】
ここで、前記プロタミンの使用量は5~6%であってもよく、例えば、5.53%である。
【0115】
ここで、前記「アポリポタンパク質および/またはその模倣ペプチド」の使用量は3~4.5%であってもよく、例えば、3.82%である。
【0116】
ここで、前記「アポリポタンパク質および/またはその模倣ペプチド」はApoEおよびその模倣ペプチド、ApoA-I、ApoA-II、ApoA-IVおよびそれらの模倣ペプチド、ApoC-I、ApoC-II、ApoC-IIIおよびそれらの模倣ペプチドの中の1つ又は複数であってもよく、例えば、ApoEである。
【0117】
ここで、前記電気的に中性のリン脂質はホスファチジルコリンであってもよい。前記ホスファチジルコリンは好ましくは、DMPCである。
【0118】
ここで、前記電気的に中性のリン脂質の使用量は54.5~56%であってもよく、例えば、55.32%である。
【0119】
ここで、前記アニオン性リン脂質はDOPAであってもよい。
【0120】
ここで、前記アニオン性リン脂質の使用量は32.5~34%であってもよく、例えば、33.12%である。
【0121】
ここで、前記ヒアルロン酸と前記プロタミンの合計使用量は15.5~6.5%であってもよく、例えば、5.96%である。
【0122】
一つの好ましい実施形態として、前記タンパク質薬物の等電点が6~8.5であり、分子量が30~50kDaである場合、前記ナノ複合体は15~20%のタンパク質薬物、0.05~0.8%のヒアルロン酸、0.8~1.6%のプロタミン、3~6%の「アポリポタンパク質および/またはその模倣ペプチド」、44~47%の電気的に中性のリン脂質、および29~33%のアニオン性リン脂質を含み、ここで、前記ヒアルロン酸と前記プロタミンの合計使用量は0.3~2%である。
【0123】
ここで、前記タンパク質薬物の等電点は6.5~8であってもよく、例えば、7.2である。
【0124】
ここで、前記タンパク質薬物の分子量は35~45kDaであってもよく、例えば、40kDaである。
【0125】
ここで、前記タンパク質薬物は活性型酵素タンパク質薬物HRPであってもよい。
【0126】
ここで、前記タンパク質薬物の使用量は16.5~192%であってもよく、例えば、17.73%である。
【0127】
ここで、前記ヒアルロン酸の使用量は0.1~0.3%であってもよく、例えば、0.14%である。
【0128】
ここで、前記プロタミンの使用量は0.8~1.5%であってもよく、例えば、0.83%である。
【0129】
ここで、前記「アポリポタンパク質および/またはその模倣ペプチド」の使用量は4~5%であってもよく、例えば、4.58%である。
【0130】
ここで、前記「アポリポタンパク質および/またはその模倣ペプチド」はApoEおよびその模倣ペプチド、ApoA-I、ApoA-II、ApoA-IVおよびそれらの模倣ペプチド、ApoC-I、ApoC-II、ApoC-IIIおよびそれらの模倣ペプチドの中の1つ又は複数であってもよく、例えば、ApoEである。
【0131】
ここで、前記電気的に中性のリン脂質はホスファチジルコリンであってもよい。前記ホスファチジルコリンは好ましくは、DMPCである。
【0132】
ここで、前記電気的に中性のリン脂質の使用量は45~46%であってもよく、例えば、45.61%である。
【0133】
ここで、前記アニオン性リン脂質はDOPAであってもよい。
【0134】
ここで、前記アニオン性リン脂質の使用量は30.5~32%であってもよく、例えば、33.11%である。
【0135】
ここで、前記ヒアルロン酸と前記プロタミンの合計使用量は0.5~1.5%であってもよく、例えば、0.97%である。
【0136】
ここで、前記ナノ複合体の粒径は20~57nmであってもよく、例えば、37.22±7.28nmである。
【0137】
ここで、前記ナノ複合体のZeta電位は-55~-15mVであってもよく、例えば、-48.87±1.95Mvである。
【0138】
一つの好ましい実施形態として、前記タンパク質薬物の等電点が4.4~6.4であり、分子量が210~255kDaである場合、前記ナノ複合体は10~33%のタンパク質薬物、0.2~3%のヒアルロン酸、3.5~7%のプロタミン、3~6%の「アポリポタンパク質および/またはその模倣ペプチド」、32~42%の電気的に中性のリン脂質、および22~39%のアニオン性リン脂質を含み、ここで、前記ヒアルロン酸と前記プロタミンの合計使用量は4~8%である。
【0139】
ここで、前記タンパク質薬物の等電点は4.9~5.9であってもよく、例えば、5.4である。
【0140】
ここで、前記タンパク質薬物の分子量は220~250kDaであってもよい。
【0141】
ここで、前記タンパク質薬物はカタラーゼ(CAT)であってもよい。
【0142】
ここで、前記タンパク質薬物の使用量は11~32%であってもよく、例えば、12.06%、又は30.9%である。
【0143】
ここで、前記ヒアルロン酸の使用量は0.3~2.5%であってもよく、例えば、0.5%、又は1.53%である。
【0144】
ここで、前記プロタミンの使用量は4~5.5%であってもよく、例えば、4.85%、又は5.1%である。
【0145】
ここで、前記「アポリポタンパク質および/またはその模倣ペプチド」の使用量は4~5%であってもよく、例えば、4.43%、又は4.5%である。
【0146】
ここで、前記「アポリポタンパク質および/またはその模倣ペプチド」はApoEおよびその模倣ペプチド、ApoA-I、ApoA-II、ApoA-IVおよびそれらの模倣ペプチド、ApoC-I、ApoC-II、ApoC-IIIおよびそれらの模倣ペプチドの中の1つ又は複数であってもよく、例えば、ApoEである。
【0147】
ここで、前記電気的に中性のリン脂質はホスファチジルコリンであってもよい。前記ホスファチジルコリンは好ましくは、DMPCである。
【0148】
ここで、前記電気的に中性のリン脂質の使用量は33~41%であってもよく、例えば、34.2%、又は39.91%である。
【0149】
ここで、前記アニオン性リン脂質はDOPAであってもよい。
【0150】
ここで、前記アニオン性リン脂質の使用量は24~38%であってもよく、例えば、24.8%、又は37.22%である。
【0151】
ここで、前記ヒアルロン酸と前記プロタミンの合計使用量は5~7%であってもよく、例えば、5.6%、又は6.38%である。
【0152】
ここで、前記ナノ複合体の粒径は55~70nmであってもよく、例えば、63.62±1.97nmである。
【0153】
ここで、前記ナノ複合体のZeta電位は-25~-15mVであってもよく、例えば、-19.43±1.96Mvである。
【0154】
本発明の第2の目的は、下記の方法1または方法2により製造される前記ナノ複合体の製造方法を提供することである。
方法1:
S1.前記タンパク質薬物、前記ヒアルロン酸及び前記プロタミンを混合してナノゲルを形成させる;
S2.前記脂質成分を従来の方法でリポソームに調製する;
S3.前記ナノゲルと前記リポソームとを共培養して、ナノゲル含有リポソームを形成させる;
S4.前記ナノゲル含有リポソームと「前記アポリポタンパク質および/またはその模倣ペプチド」の混合物を、自己集合によりナノ複合体を形成させる;
方法2:
S1.前記タンパク質薬物、前記ヒアルロン酸及び前記プロタミンを混合してナノゲルを形成させる;
S2.前記脂質成分を従来の方法でリポソームに調製する;
S3.前記ナノゲルと前記リポソームを、マイクロ流体チップを通じてナノゲル含有リポソームに調製し、限外濾過により溶媒を除去した後、タンパク質薬物封入リポソームを調製する;
S4.前記タンパク質薬物封入リポソームと「前記アポリポタンパク質および/またはその模倣ペプチド」の混合物を、自己集合によりナノ複合体を形成させる。
【0155】
方法1又は方法2のS1において、前記混合の作業および方法は、当技術分野における従来のものであってもよい。
【0156】
方法1又は方法2のS2において、前記従来の方法は、薄膜水和法(バンガム法)、注入法、再構成法、溶融法、または凍結乾燥法などの当技術分野の通常のリポソーム調製方法であり得る。
【0157】
一つの好ましい実施形態として、方法1のS2において、前記リポソームは次のステップで調製できる。前記脂質成分を有機溶媒に溶解させ、ロータリーエバポレーターで溶媒を蒸発させて溶媒を除去し、脂質成分が装置の壁に薄い膜を形成した後、適量の緩衝液を加えて振とうして十分に水和分散させ、リポソームを得る。リポソームの粒径は、ソニケータープローブを用いた超音波処理によってさらに小さくすることができる。
【0158】
一つの好ましい実施形態として、方法2のS2において、前記リポソームは次のステップで調製できる。前記脂質成分をエタノールに溶解させてリポソームを形成させる。
【0159】
方法1のS3中において、前記培養の作業および方法は、当技術分野において従来のものであり得る。
【0160】
方法1又は方法2のS4において、前記自己集合の作業および方法は、当技術分野における従来のものであり得、例えば、混合物を振盪シェーカー上で120rpmおよび37℃で36時間培養することができる。
【0161】
方法2のS3において、前記ナノゲルと前記リポソームを用いてマイクロ流体チップを介してナノゲル含有リポソームを製造する方法は、当技術分野における従来の方法であってもよい。
【0162】
本発明の第3の目的は、前記タンパク質薬物の送達における前記ナノ複合体の使用を提供することである。
【0163】
一つの好ましい実施形態として、前記ナノ複合体は、タンパク質薬物の細胞内送達に使用できる。
【0164】
一つの好ましい実施形態として、前記ナノ複合体は、タンパク質薬物の体内送達に使用できる。
【0165】
一つの好ましい実施形態として、前記ナノ複合体は、タンパク質薬物の脳内送達に使用できる。
【0166】
本発明において、特に説明しない限り、「%」は質量百分率を意味する。
【0167】
上記の各好ましい条件は、当分野の常識に違反しない限り、任意に組み合わせることができ、即ち、本発明の各好ましい例を得ることができる。
【0168】
本発明で使用する試薬および原料はいずれも市販されている。
【発明の効果】
【0169】
本発明の積極的な進歩効果:
本発明のナノ複合体は、特定の使用量のタンパク質薬物、ヒアルロン酸、プロタミンおよび組換えリポタンパク質を含み、それは、適切な比率のヒアルロン酸、プロタミンによりタンパク質薬物に適した微小環境を構成し、組換えリポタンパク質により、タンパク質薬物の効率的な細胞内、生体内、さらには脳内への送達を実現する。
【0170】
本発明のナノ複合体は、異なる物理化学的特性(例えば、分子量が10-255KDa及びPI4-11である)を有するタンパク質薬物に共用できる担体を提供して、効率的な細胞内、生体内、乃至脳内への送達を実現し、利用された技術は普遍性を有し、タンパク質薬物(分子量、PIが実施例を超えるタンパク質薬物)のin vivoおよびin vitro輸送が不十分であるという現在の問題を効果的に解決することができる。
【図面の簡単な説明】
【0171】
【
図1】異なる配合のフィコエリトリンに対するHela細胞の取り込みの蛍光分布図である。
【
図2】異なる配合のAlexa Fluor488-IgGに対するHT22細胞の取り込みの蛍光分布図である。
【
図3】異なる配合のAlexa Fluor488-IgG担持ナノ複合体に対するC6細胞の取り込みの蛍光分布図である。
【
図4】神経成長因子(NGF)担持ナノ複合体がPC12細胞の分化を促進することを示している。図
4Aは、さまざまな製剤がPC12細胞分化を促進するシナプスの長さの統計である;図
4Bは、さまざまな製剤がPC12細胞分化を促進する神経突起分岐点の統計である;図
4Cは、さまざまな製剤がPC12細胞分化を促進する形態図である。
【
図5】異なる配合のカタラーゼに対するBV2細胞の取り込みの蛍光分布図である。
【
図6】CAT-HA-PRTM-rHDLが細胞内のカタラーゼレベルを効果的に増加させ(図
6A)、H
2O
2によって引き起こされる細胞内のROSレベルの増加を効果的に減少させることを示す(図
6B)。
【
図7】CAT-HA-PRTM-rHDLが、H
2O
2によって誘発される細胞膜損傷を効果的に阻害し(図
7A)、細胞生存率を効果的に改善できることを示す(図
7B)。
【
図8】C57マウスの皮質損傷モデルにおいて、蛍光色素DiR標識のヒアルロン酸、プロタミン、CATを担持した組換えリポタンパク質ナノ複合体(CAT-HA-PRTM-rHDL)およびヒアルロン酸、プロタミン、CATを担持したリポソーム(CAT-HA-PRTM-LIPO)を尾静脈を介して投与し、投与4時間後、マウスの臓器を採取して生体内イメージングを実行して、分析した製剤の生体内分布および脳への侵入である。
【
図9】CX3CR1-GFPマウスの皮質損傷モデルを構築し、蛍光色素DiI標識の異なる製剤を尾静脈を介して投与し、投与4時間後のマウスの脳を採取して凍結切片し、脳ミクログリアによるCATを担持したナノ複合体のin vivoでの取り込みの状況を評価した。
【
図10】C57マウスの皮質損傷モデルを構築し、Sham群は偽損傷対照群であり、モデル化後、薬物を1週間連続投与し、モリス水迷路実験を使用して調査した、CCIモデルマウスの潜伏時間、プラットフォームを横切る時間、および標的象限内の時間に対するCATを担持したさまざまな製剤の影響である。
【
図11】SODマウスモデルを適用して連続投与し、同時にロータロッドテスト、グラブバーテスト、および後肢握力実験などのマウスの運動能力で評価した、SODトランスジェニックマウスの運動能力に対するCATを担持したさまざまな製剤の効果である。
【発明を実施するための形態】
【実施例】
【0172】
下記の実施例で使用される機器:
ロータリーエバポレーター(RE-52CS-1、Shanghai Yarong Biochemical Instrument Factory、中国)
超音波装置(JY92-II、Ningbo Xinzhi Biotechnology Co. Ltd.、中国)
透過型電子顕微鏡(H-7650、日立、日本)
クライオ電子顕微鏡(FEI Tecnai F20、Holland)
レーザー粒度計(Zetasizer Nano ZS90 ZEN3590、Malvern、イギリス)
マイクロプレートリーダー(Thermo、アメリカ)
レーザー共焦点顕微鏡(TCS SP8、Leica、ドイツ)。
【0173】
実施例1 ウシ血清アルブミン担持ナノ複合体の調製、特性評価および細胞内タンパク質送達
(1)調製:
[1]ウシ血清アルブミン、ヒアルロン酸及びプロタミンを異なる質量比に従って共培養してアポタンパク質複合体(FITC-BSA-HA-PRTM)を形成させた。
[2]薄膜水和法によるリポソームの調製:脂質(中性リン脂質DMPCおよび/またはレシチンlecithin、カチオン性リン脂質DOTAP、およびアニオン性リン脂質DOPAおよび/またはアニオン性スフィンゴ脂質モノシアロテトラヘキソシルガングリオシドGM1および/またはDMPA、DPPA、DSPA)を秤量し、500mLの丸底フラスコに入れ、エチルエーテル2mLを加え、蒸発乾燥させてリン脂質の水分を除去し、更にクロロホルム溶液2mLを加え、ロータリーエバポレーターで1時間減圧させた。0.01MのPBS溶液(pH7.4)4mLを加え、薄膜水和し剥離させてリポソームが得られるまで、40℃の水浴中で10分間断続的に振盪した。超音波プローブを用いた超音波で、リポソームの粒径をさらに小さくしてリポソームを得た。
[3]リポソームとFITC-BSA-HA-PRTMとをさまざまな比率で共培養して、タンパク質薬物担持リポソーム(FITC-BSA-HA-PRTM-LIPO)(表1-2)を形成させ、アポリポタンパク質(ApoE)を前記リポソーム溶液に加え、穏やかに混合し、120rpmで、振とうシェーカーに置き、37℃で36時間培養して、ウシ血清アルブミン担持ナノ複合体(FITC-BSA-HA-PRTM-rHDL)を得、ここで、アニオン性脂質DOPAを、DMPA、DPPA、またはDSPAで置き換えて、ウシ血清アルブミン担持ナノ複合体を得、それぞれFITC-BSA-HA-PRTM-rHDL-1、FITC-BSA-HA-PRTM-rHDL-2、FITC-BSA-HA-PRTM-rHDL-3であった。
【0174】
(2)特性評価
ウシ血清アルブミン担持ナノ複合体をリンタングステン酸でネガティブ染色し、透過型電子顕微鏡で形態を観察した。さらにサンプリングした後、クライオ電子顕微鏡を使用して構造を観察した。レーザー粒度分析装置を使用して、粒径と表面電位を測定した。マイクロプレートリーダーを使用して、タンパク質薬物へのウシ血清アルブミン担持ナノ複合体のカプセル化効率および薬物担持量を検出した。
【0175】
(3)細胞内タンパク質送達効率の評価
ウシ血清アルブミン担持ナノ複合体の細胞内タンパク質送達を、共焦点レーザー顕微鏡により観察した。ヒト子宮頸がん細胞Hela細胞を共焦点皿に50,000/ウェルの密度で播種し、24時間培養した。吸引して元の培養液を廃棄し、500μLの緑色蛍光標識タンパク質を担持した各タンパク質薬物を加えた。
【0176】
実験群:ウシ血清アルブミン(FITC-BSA)の組換えリポタンパク質ナノ複合体(FITC-BSA-HA-PRTM-rHDL)。
【0177】
対照群はそれぞれ:[1]遊離のFITC-BSAタンパク質、[2]ヒアルロン酸、プロタミン、FITC-BSA複合体(FITC-BSA-HA-PRTM)、即ち、工程(1)ステップ[1]の調製方法で調製されたタンパク質担持複合体、[3]ヒアルロン酸、プロタミンを含まないBSA担持組換えリポタンパク質ナノ複合体(FITC-BSA-rHDL)、その調製方法は、ヒアルロン酸、プロタミンを添加しないことを除いてステップ(1)と同じ、[4]ヒアルロン酸、プロタミン、FITC-BSA担持リポソーム(FITC-BSA-HA-PRTM-LIPO)、その調製方法は、アポリポタンパク質を添加しないこと以外は工程(1)ステップ[1][2]と同じ、[5]FITC-BSA+市販タンパク質トランスフェクション試薬(FITC-BSA-Pulsin)、[6]様々なアニオンを有するウシ血清アルブミン(FITC-BSA)を含む組換えリポタンパク質ナノ複合体、その調製方法は、DOPAをそれぞれDMPA、またはDPPA、またはDSPAに置き換えたこと以外にFITC-BSA-HA-PRTM-rHDLと同じであり、それぞれウシ血清アルブミン担持ナノ複合体FITC-BSA-HA-PRTM-rHDL-1、FITC-BSA-HA-PRTM-rHDL-2、FITC-BSA-HA-PRTM-rHDL-3が得られた。実験群と対照群(FITC-BSAタンパク質の量に応じて計算し、20μg/mLの濃度で投与)をそれぞれ37℃で4時間培養した。次に、3.7%のホルムアルデヒドで37℃で10分間固定し、核をHoechestで10分間染色し、PBSで3回洗浄した後、共焦点イメージングを使用して定性的観察し、Image Jソフトウェアを使用して細胞によるFITC-BSAの取り込みの半定量分析を実行した。
【0178】
結果は、適切な比率のFITC-BSA-HA-PRTM-rHDLの粒径はいずれも100nm以下であり、製剤が生体内でバイオフィルムバリアを通過するのに有益であることを示し、一方、タンパク質と、HA、PRTMの複合体FITC-BSA-HA-PRTMは粒径が比較的に大きく(198.0±3.10nm)、時間が経つと(4℃で一晩放置)さらに凝集し、比較的深刻な沈殿が発生し、粒径を検出したところ、検出装置が検出要件を満たしていないことを示し、効果的に検出できなかった。FITC-BSA、FITC-BSA-HA-PRTM、FITC-BSA-rHDL、FITC-BSA-HA-PRTM-LIPOと比較して、最適化されたFITC-BSA-HA-PRTM-rHDL製剤は、BSAをより効率的に細胞に送達し(細胞取り込みの平均光学密度がより高い)、細胞質により均一に分布した(表1に示される通りである)。対照的に、市販のタンパク質トランスフェクション製剤群は、より強い細胞関連蛍光強度を示したが、蛍光シグナルのほとんどは細胞の外側に分布していた。同時に、異なるアニオン性脂質DMPAまたはDPPAまたはDSPAによって形成されるタンパク質ナノ複合体は、いずれもタンパク質を細胞の細胞質に効率的に送達することができた。予想外なことに、FITC-BSA-HA-PRTM-rHDL配合では、カチオン性脂質DOTAP含有配合(製剤1)は、アニオン性脂質含有配合よりもタンパク質の細胞取り込みが低かった(表2)。
【0179】
【0180】
【0181】
表2から、製剤3~6において、製剤6の細胞取り込みの平均光学濃度値が最も大きいことが分かり、これはその細胞取り込み効率が最も高く、効果が最も優れていることを意味する。
【0182】
実施例2 フィコエリトリン封入ナノ複合体の調製、特性評価および細胞内タンパク質送達
(1)調製:
[1]フィコエリトリン(PE)とヒアルロン酸およびプロタミンとを様々な質量比で共培養してアポタンパク質複合体(PE-HA-PRTM)を形成させ。
[2]適量のリン脂質(両性リン脂質DMPC及びアニオン性リン脂質DOPA)の組み合わせを秤量し、エタノール相に溶解させてリポソームを得;
[3]適量のPE-HA-PRTMを秤量し、前記リポソームと一緒にマイクロ流体チップを介してタンパク質担持リポソーム(PE-HA-PRTM-LIPO)を調製し、限外濾過してエタノール溶液を除去し、エタノールを除去した後のリポソームにリポタンパク質および/またはその模倣ペプチドをロードさせて自己集合して、ヒアルロン酸、プロタミン、および組換えリポタンパク質で構成されるPE担持ナノ複合体(PE-HA-PRTM-rHDL)を得た。
【0183】
(2)特性評価
PE担持ナノ複合体をリンタングステン酸でネガティブ染色し、透過型電子顕微鏡で形態を観察した。さらにサンプリングした後、クライオ電子顕微鏡を使用して構造を観察した。レーザー粒度分析装置を使用して、粒径と表面電位を測定した。マイクロプレートリーダーを使用して、タンパク質薬物へのPE担持ナノ複合体のカプセル化効率および薬物ロード量を検出した。
【0184】
(3)細胞内タンパク質送達効率の評価
PE担持ナノ複合体の細胞内タンパク質送達状況をレーザー共焦点顕微鏡で観察した。ヒト子宮頸がん細胞Hela細胞、又は神経膠腫細胞C6を共焦点皿に50000/ウェルの密度で播種し、24時間培養した。吸引して元の培養液を廃棄し、500μLのPE担持組換えリポタンパク質ナノ複合体(PE-HA-PRTM-rHDL)を加えた。対照群はそれぞれ遊離PE;ヒアルロン酸、プロタミンおよびPE複合体(PE-HA-PRTM);ヒアルロン酸、プロタミンを含まないPE担持組換えリポタンパク質ナノ複合体(PE-rHDL);ヒアルロン酸、プロタミン、PE複合体担持リポソーム(PE-HA-PRTM-LIPO)及びPE+市販のタンパク質トランスフェクション試薬(PE-Pulsin)であり(PEの質量で計算し、10μg/mLの濃度で投与)、37℃で4時間培養した。次に、3.7%のホルムアルデヒドで37℃で10分間固定し、核をHoechestで10分間染色し、PBSで3回洗浄した後、共焦点イメージングを使用して定性的観察し、Image Jソフトウェアを使用して細胞によるFITC-PEの取り込みの半定量分析を実行した。
【0185】
結果は、適切な比率のPE-HA-PRTM-rHDLの粒径は100nm以下であり(表3~4)、一方、ヒアルロン酸、プロタミン、PEから構成されるタンパク質担持複合体(PE-HA-PRTM)は粒径が大きく(788.1±60.98nm)、時間が経つと(4℃で一晩放置)さらに凝集し、より深刻な沈殿が発生し、粒径を検出したところ、検出装置は粒子が検出要件を満たしていないことを示し、効果的に検出できなった。PE、PE-HA-PRTM、PE-rHDL、PE-HA-PRTM-LIPOと比較して、最適化されたPE-HA-PRTM-rHDL製剤は、PEをより効率的に細胞に送達し、かつ、細胞質により均一に分布していた(表3、図1に示される通りである)。同じように、市販のタンパク質トランスフェクション製剤群は、より強い細胞関連蛍光強度を示したが、蛍光シグナルのほとんどは細胞の外側に分布していた(図1)。同様に、PE-HA-PRTM-rHDL製剤では、カチオン性脂質含有製剤は、アニオン性脂質含有製剤よりもタンパク質の細胞取り込みが低かった。
【0186】
【0187】
図1は、さまざまな配合のフィコエリトリンに対するHela細胞の取り込みを示している。フィコエリトリン(PE)、ヒアルロン酸、プロタミン、PE担持組換えリポタンパク質ナノ複合体(PE-HA-PRTM-rHDL)、ヒアルロン酸、プロタミン、PE複合体(PE-HA-PRTM)、ヒアルロン酸、プロタミンを含まないPE担持組換えリポタンパク質ナノ複合体(PE-rHDL)、ヒアルロン酸、プロタミン、PE担持リポソーム(PE-HA-PRTM-LIPO)及びPE+市販のタンパク質トランスフェクション試薬(PE-Pulsin)。
【0188】
【0189】
表4から、製剤3~7の中で、製剤7の細胞取り込みの平均光学濃度値が最も大きいことが分かり、これはその細胞取り込み効率が最も高く、効果が最も優れていることを意味する。
【0190】
実施例3 シトクロムC封入ナノ複合体の調製、特性評価および細胞内タンパク質送達
(1)調製:
[1]蛍光標識されたシトクロムCと、ヒアルロン酸およびプロタミンとを様々な質量比で共培養して、アポタンパク質複合体(FITC-CC-HA-PRTM)を形成させた。
[2]薄膜水和法によるリポソームの調製:脂質(中性リン脂質DMPCおよびアニオン性リン脂質DOPAの組み合わせ)を秤量し、500mLの丸底フラスコに置き、エチルエーテル2mLを加え、蒸発乾燥させてリン脂質の水分を除去し、更にクロロホルム溶液を加え、ロータリーエバポレーターで1時間減圧させた。0.01MのPBS溶液(pH7.4)4mLを加え、薄膜水和して剥離させてリポソームが得られるまで、40℃の水浴中で10分間断続的に振盪した。超音波プローブを用いた超音波で、リポソームの粒径をさらに小さくしてリポソームを得た。
[3]上記で調製されたリポソームをさまざまな比率で共培養して、タンパク質薬物担持リポソーム(FITC-CC-HA-PRTM-LIPO)を形成させ、ApoEをナノ複合体溶液に加え、穏やかに混合し、120rpmで、振とうシェーカーに置き、37℃で36時間培養して、シトクロムC担持ナノ複合体(FITC-CC-HA-PRTM-rHDL)を得た。
【0191】
(2)特性評価
シトクロムC担持ナノ複合体をリンタングステン酸でネガティブ染色し、透過型電子顕微鏡で形態を観察した。さらにサンプリングした後、クライオ電子顕微鏡を使用して構造を観察した。レーザー粒度分析装置を使用して、粒径と表面電位を測定した。マイクロプレートリーダーを使用して、タンパク質薬物へのシトクロムC担持ナノ複合体のカプセル化効率および薬物ロード量を検出した。
【0192】
(3)細胞内タンパク質送達効率の評価
シトクロムC担持ナノ複合体の細胞内タンパク質送達を、共焦点レーザー顕微鏡により観察した。神経膠腫細胞株U87細胞を共焦点皿に50,000個/ウェルの密度で播種し、24時間培養した。吸引して元の培養液を廃棄し、500μLの緑色蛍光タンパク質で標識したシトクロムC(FITC-CC)担持組換えリポタンパク質ナノ複合体(FITC-CC-HA-PRTM-rHDL)を加え、対照群はそれぞれ遊離FITC-CCタンパク質;ヒアルロン酸、プロタミン、FITC-CCリポソーム(FITC-CC-HA-PRTM);ヒアルロン酸、プロタミンを含まないCCリポタンパク質担持組換えナノ複合体(FITC-CC-rHDL);ヒアルロン酸、プロタミン、FITC-CCのリポソーム(FITC-CC-HA-PRTM-LIPO)とFITC-CC+市販のタンパク質トランスフェクション試薬(FITC-CC-Pulsin)(FITC-CCタンパク質の量に応じて計算し、20μg/mLの濃度で投与)をそれぞれ37℃で6時間培養した。次に、3.7%のホルムアルデヒドで37℃で10分間固定し、核をHoechestで10分間染色し、PBSで3回洗浄した後、共焦点イメージングを使用して定性的観察し、Image Jソフトウェアを使用して細胞によるFITC-BSAの取り込みの半定量分析を実行した。
【0193】
結果は、適切な比率のFITC-CC-HA-PRTM-rHDLの粒径は100nm以下であることを示している。FITC-CC、FITC-CC-HA-PRTM、FITC-CC-rHDL、FITC-CC-HA-PRTM-LIPO及び市販のタンパク質トランスフェクション試薬と比較して、最適化されたFITC-CC-HA-PRTM-rHDL製剤は、CCをより効率的に細胞に送達し、細胞質により均一に分布したことが分かる(表5)。
【0194】
【0195】
実施例4 IgG抗体封入ナノ複合体の調製、特性評価およびその細胞内タンパク質送達
(1)調製:
[1]蛍光標識抗体Alexa Fluor488-IgGをと、ヒアルロン酸およびプロタミンとを、様々な質量比で共培養して、アポタンパク質複合体(Alexa Fluor488-IgG-HA-PRTM)を形成させた。
[2]薄膜水和法によるリポソームの調製:脂質(両性リン脂質DMPC、カチオン性リン脂質DOTAP、及びアニオン性リン脂質DOPAの組み合わせ)を秤量し、500mLの丸底フラスコに置き、エチルエーテル2mLを加え、蒸発乾燥させてリン脂質の水分を除去し、更にクロロホルム溶液を加え、ロータリーエバポレーターで1時間減圧させた。0.01MのPBS溶液(pH7.4)4mLを加え、薄膜水和し剥離させてリポソームが得られるまで、40℃の水浴中で10分間断続的に振盪した。超音波プローブにより、リポソームの粒径をさらに小さくしてリポソームを得た。
[3]上記で調製したリポソームとAlexa Fluor488-IgG-HA-PRTMとを様々な比率で共培養してタンパク質薬物担持リポソーム(Alexa Fluor488-IgG-HA-PRTM-LIPO)を形成させ、ApoE又はApoA I模倣ペプチド(Ac-FAEKFKEAVKDYFAKFWD)を前記タンパク質担持リポソーム溶液に加え、穏やかに混合し、120rpmで、振とうシェーカーに置き、37℃で36時間培養して、Alexa Fluor488-IgG抗体担持ナノ複合体(Alexa Fluor488-IgG-HA-PRTM-rHDL)を得た。
【0196】
(2)特性評価
Alexa Fluor488-IgG抗体担持ナノ複合体をリンタングステン酸でネガティブ染色し、透過型電子顕微鏡で形態を観察した。さらにサンプリングした後、クライオ電子顕微鏡を使用して構造を観察した。レーザー粒度分析装置を使用して、粒径と表面電位を測定した。マイクロプレートリーダーを使用して、タンパク質薬物へのAlexa Fluor488-IgG抗体担持ナノ複合体のカプセル化効率および薬物ロード量を検出した。
【0197】
(3)細胞内タンパク質送達効率の評価
Alexa Fluor488-IgG抗体担持ナノ複合体の細胞内タンパク質送達を、共焦点レーザー顕微鏡により観察した。ヒト子宮頸がん細胞Hela細胞を共焦点皿に50000/ウェルの密度で播種し、24時間培養した。吸引して元の培養液を廃棄し、500μLのAlexa Fluor488-IgG抗体(Alexa Fluor488-IgG)担持組換えリポタンパク質ナノ複合体(Alexa Fluor488-IgG-HA-PRTM-rHDL)を加え、対照群はそれぞれ遊離Alexa Fluor488-IgGタンパク質;ヒアルロン酸、プロタミン、Alexa Fluor488-IgG複合体(Alexa Fluor488-IgG-HA-PRTM);ヒアルロン酸、プロタミンを含まないAlexa Fluor488-IgG組換えリポタンパク質担持ナノ複合体(Alexa Fluor488-IgG-rHDL);ヒアルロン酸、プロタミン、Alexa Fluor488-IgG担持リポソーム(Alexa Fluor488-IgG-HA-PRTM-LIPO)及びAlexa Fluor488-IgG+市販のタンパク質トランスフェクション試薬(Alexa Fluor488-IgG-Pulsin)(Alexa Fluor488-IgGタンパク質の量に応じて計算し、10μg/mLの濃度で投与)をそれぞれ37℃で6時間培養した。次に、3.7%のホルムアルデヒドで37℃で10分間固定し、核をHoechestで10分間染色し、PBSで3回洗浄した後、共焦点イメージングを使用して定性的観察し、Image Jソフトウェアを使用して細胞によるAlexa Fluor488-IgGの取り込みの半定量分析を実行した。
【0198】
結果は、適切な比率のAlexa Fluor488-IgGの粒径はいずれも100nm以下であり;一方、ヒアルロン酸、プロタミン、抗体から構成される複合体(Alexa Fluor488-IgG-HA-PRTM)は粒径が63.48±5.20nmであり、時間が経つと(4℃で一晩放置)凝集し、比較的に深刻な沈殿が発生し、粒径を検出したところ、検出装置が検出要件を満たしていないことを示し、効果的に検出できなかった。Alexa Fluor488-IgG、Alexa Fluor488-IgG-HA-PRTM、Alexa Fluor488-IgG-rHDL及びAlexa Fluor488-IgG-HA-PRTM-LIPOと比較して、最適化されたAlexa Fluor488-IgG-HA-PRTM-rHDL製剤は、Alexa Fluor488-IgGをより効率的に細胞に送達し、細胞質により均一に分布したことが分かる(表6、図2に示される通りである)。それと比較して、市販のタンパク質トランスフェクション調製群は、より強い細胞関連蛍光強度を示したが、蛍光シグナルのほとんどは細胞の外側に分布していた。
【0199】
【0200】
図2は、HT22細胞による様々な配合のAlexa Fluor488-IgGの取り込み蛍光分布図である。Alexa Fluor488-IgG;ヒアルロン酸、プロタミン、Alexa Fluor488-IgGの組換えリポタンパク質担持ナノ複合体(Alexa Fluor488-IgG-HA-PRTM-rHDL);ヒアルロン酸、プロタミン、Alexa Fluor488-IgG複合体(Alexa Fluor488-IgG-rHDL);ヒアルロン酸とプロタミンを含まないAlexa Fluor488-IgG組換えリポタンパク質担持ナノ複合材料(Alexa Fluor488-IgG-rHDL);ヒアルロン酸、プロタミン、Alexa Fluor488-IgG担持リポソーム(Alexa Fluor488-IgG-HA-PRTM-LIPO)及びAlexa Fluor488-IgG+市販のタンパク質トランスフェクション試薬(Alexa Fluor488-IgG-Pulsin)。
【0201】
【0202】
表において、製剤5は対照群であり、製剤1~4はいずれも本発明の実施例である。***P<0.001、**** P<0.0001は製剤5とは有意な差がある。
【0203】
図3は様々な製剤のAlexa Fluor488-IgG担持ナノ複合体のC6細胞取り込みの蛍光分布図である。
【0204】
実施例5 β-NGF担持ナノ複合体のPC12細胞の分化促進能力の評価
β-NGFを神経栄養性タンパク質薬物の研究モデルとして選択し、実施例1と同じ調製方法で、それぞれ実験群であるβ-NGF担持ナノ複合体と対照群を調製し、実験群と対照群の製剤は表8に示される通りである。
【0205】
初代マウスニューロンまたはPC12細胞を選択して96ウェルプレートに接種し、β-NGFの投与濃度は100ng/mLであり、様々な担体タンパク質薬物と細胞を8時間共培養し、incucyteリアルタイム動的細胞イメージング技術の使用してβ-NGFがPC12細胞のニューロンへの分化を誘発する過程を検出し、PC12細胞によって誘発されるニューロン分岐点とシナプス長の動的変化を半定量的に解析した。
【0206】
【0207】
実験結果は図4に示される通り、NGF担持ナノ複合体は、PC12細胞のニューロンへの分化を迅速かつ効率的に促進し、ニューロンの分岐点とシナプスの長さが有意に増加し、形態的にはニューロンに似ていた。
【0208】
図4は神経成長因子(NGF)担持ナノ複合体がPC12細胞の分化を促進することを示している。図4Aは、様々な製剤がPC12細胞分化を促進するシナプスの長さの統計である;図4Bは、様々な製剤がPC12細胞分化を促進する神経突起分岐点の統計である;図4Cは、様々な製剤がPC12細胞分化を促進する形態図である。ヒアルロン酸、プロタミン、NGFの組換えリポタンパク質担持ナノ複合体(NGF-HA-PRTM-rHDL)とPC12細胞を8時間共培養し;対照群は遊離のNGF;ヒアルロン酸、プロタミンを含まないNGF組換えリポタンパク質担持ナノ複合体(NGF-rHDL);ブランクリポソーム(liposome)及び培地ブランク対照群(Control)であった。
【0209】
実施例6 HRP担持ナノ複合体の細胞内酵素活性の評価
HRPを活性型酵素タンパク質薬物の研究モデルとして選択し、実施例1と同じ調製方法で、それぞれ実験群であるHRP担持ナノ複合体と対照群を調製し、実験群と対照群の製剤は表9に示される通りである。
【0210】
Hela細胞を選択して96ウェルプレートに接種し、HRPの投与濃度は100ug/mLであり、様々なタンパク質担持薬物と細胞を6時間共培養した後、PBSで3回洗浄し、200μlのTMB発色溶液を各ウェルに加え、予想される深さまで色が発色するまで暗所、室温で3~30分間培養し、650nmでの吸光度値を測定し、即ち、細胞内HRP酵素活性のレベルを示していた。
【0211】
実験結果は表9に示される通り、遊離HRPを与えた群の細胞内の西洋わさびペルオキシダーゼのレベルは最も低く、ヒアルロン酸、プロタミン、HRP担持リポソームは、HRP酵素を部分的に細胞に送達して細胞内酵素活性を向上させることができたが、ヒアルロン酸、プロタミン、HRP組換えリポタンパク質担持ナノ複合体(HRP-HA-PRTM-rHDL)は、細胞内の西洋わさびペルオキシダーゼの活性を大幅に増加させた。
【0212】
【0213】
実施例7 カタラーゼ(CAT)担持ナノ複合体の調製、特性評価および細胞内タンパク質送達
【0214】
(1)調製
[1]カタラーゼ(CAT)と、ヒアルロン酸およびプロタミンとを様々な質量比で共培養してアポタンパク質複合体(FITC-CAT-HA-PRTM)を形成させた。
[2]膜水和法によるリポソームの調製:脂質(中性リン脂質DMPC及びカチオン性リン脂質DOTAPの組み合わせ)を秤量し、500mLの丸底フラスコに入れ、エチルエーテル2mLを加え、蒸発乾燥させてリン脂質の水分を除去し、更にクロロホルム溶液2mLを加え、ロータリーエバポレーターで1時間減圧させた。0.01MのPBS溶液(pH7.4)4mLを加え、薄膜水和し剥離させてリポソームが得られるまで、40℃の水浴中で10分間断続的に振盪した。超音波プローブを用いた超音波で、リポソームの粒径をさらに小さくしてリポソームを得た。
[3]上記で調製したリポソームとFITC-CAT-HA-PRTMとを様々な比率で共培養してヒアルロン酸、プロタミン、FITC-CAT担持リポソーム(FITC-CAT-HA-PRTM-LIPO)を形成させ;ApoEを前記リポソーム溶液に加え、穏やかに混合し、120rpmで、振とうシェーカーに置き、37℃で36時間培養して、カタラーゼ(CAT)担持ナノ複合体(FITC-CAT-HA-PRTM-rHDL)を得た。
【0215】
(2)特性評価
カタラーゼ担持ナノ複合体をリンタングステン酸でネガティブ染色し、透過型電子顕微鏡で形態を観察した。さらにサンプリングした後、クライオ電子顕微鏡を使用して構造を観察した。レーザー粒度分析装置を使用して、粒径と表面電位を測定した。マイクロプレートリーダーを使用して、タンパク質薬物へのシトクロムC担持ナノ複合体のカプセル化効率および薬物ロード量を検出した。
【0216】
(3)細胞内タンパク質送達効率の評価
カタラーゼ担持ナノ複合体の細胞内タンパク質送達を、共焦点レーザー顕微鏡により観察した。ミクログリアBV2細胞を共焦点皿に50,000個/ウェルの密度で播種し、24時間培養した。吸引して元の培養液を廃棄し、500μLの緑色蛍光タンパク質で標識したカタラーゼ(FITC-CAT)の組換えリポタンパク質担持ナノ複合体(FITC-CAT-HA-PRTM-rHDL)を加え、対照群はそれぞれ遊離FITC-CATタンパク質;ヒアルロン酸、プロタミン、FITC-CAT複合体(FITC-CAT-HA-PRTM);ヒアルロン酸、プロタミンを含まないCAT組換えリポタンパク質担持複合体(FITC-CAT-rHDL);ヒアルロン酸、プロタミン、FITC-CAT担持リポソーム(FITC-CAT-HA-PRTM-LIPO)とFITC-CAT+市販のタンパク質トランスフェクション試薬(FITC-CAT-Pulsin)(FITC-CATタンパク質の量に応じて計算し、20μg/mLの濃度で投与)をそれぞれ37℃で6時間培養した。次に、3.7%のホルムアルデヒドで37℃で10分間固定し、核をHoechestで10分間染色し、PBSで3回洗浄した後、共焦点イメージングを使用して定性的観察し、Image Jソフトウェアを使用して細胞によるFITC-CATの取り込みの半定量分析を実行した。
【0217】
結果は、適切な比率のFITC-CAT-HA-PRTM-rHDLの粒径は100nm以下である、一方、FITC-CAT-HA-PRTMは粒径が比較的に大きく(530.90±311.00nm)、時間が経つと(4℃で一晩放置)さらに凝集し、比較的深刻な沈殿が発生し、粒径を検出したところ、検出装置が検出要件を満たしていないことを示し、効果的に検出できなかった。FITC-CAT、FITC-CAT-HA-PRTM、FITC-CAT-rHDL、FITC-CAT-HA-PRTM-LIPO及び市販のプロテイントランスフェクション製剤群と比較して、最適化されたFITC-CAT-HA-PRTM-rHDL製剤は、CATをより効率的に細胞に送達し、細胞質により均一に分布したことが分かる(表10、図5)。
【0218】
【0219】
図5は、BV2細胞による様々な製剤のカタラーゼの取り込み蛍光分布図である。緑色蛍光タンパク質標識カタラーゼ(FITC-CAT);ヒアルロン酸、プロタミン、FITC-CAT組換えリポタンパク質担持ナノ複合体(FITC-CAT-HA-PRTM-rHDL);ヒアルロン酸、プロタミン、FITC-CAT複合体(FITC-CAT-HA-PRTM);ヒアルロン酸、プロタミンを含まないFITC-CAT組換えリポタンパク質担持ナノ複合体(FITC-CAT-rHDL);ヒアルロン酸、プロタミン、FITC-CAT担持リポソームFITC-CAT-HA-PRTM-LIPO)及びFITC-CAT+市販のタンパク質トランスフェクション試薬(FITC-CAT-Pulsin)。
【0220】
実施例8 HT22細胞に対するカタラーゼ(CAT)担持ナノ複合体のトランスフェクション能力、抗酸化能力、および細胞生存率に対する評価
カタラーゼ(CAT)をタンパク質薬物の研究モデルとして選択し、調製方法は実施例7と同様にして、カタラーゼ(CAT)担持ナノ複合体をそれぞれ調製し、製剤は表11に示される通りである。
【0221】
カタラーゼ検出キットを使用して、HT22細胞対するCAT担持ナノ複合体のトランスフェクション能力を検出し、反応原理は、過酸化水素が比較的十分な場合、カタラーゼが過酸化水素を触媒して水と酸素を生成できることである。残りの過酸化水素はペルオキシダーゼの触媒作用により発色基質を酸化させて、赤色生成物を生成し、最大吸収波長は520nmであった。標準過酸化水素を用いて標準曲線を作成し、これによって、単位時間、単位体積あたりの、試料におけるカタラーゼが触媒して水と酸素に変化させた過酸化水素の量を計算することにより、試料におけるカタラーゼの酵素活性を計算することができる。具体的な実験プロトコルは、HT22細胞を12ウェルプレートに播種し、二酸化炭素インキュベーター内で24時間培養した後、ヒアルロン酸、プロタミン、CATを含む組換えリポタンパク質担持ナノ複合体(CAT-HA-PRTM-rHDL)を含むCAT担持タンパク質の様々な製剤、及びそれぞれ未処理群(コントロール)、遊離CATタンパク質群、およびCAT+市販のタンパク質トランスフェクション試薬群(CAT-Pulsin)である対照群を投与し(CATタンパク質量で計算し、投与濃度は20μg/mLである)、37℃で6時間培養した。細胞を溶解させ、取扱説明書に従って細胞内におけるカタラーゼのレベルを検出した。
【0222】
結果は図6Aに示される通りであり、未処理の対照群と遊離CATを投与した群は、細胞内カタラーゼレベルが最も低く、市販のタンパク質トランスフェクション試薬Pulsinは、CATタンパク質を部分的に細胞に送達して、細胞内の酵素活性を高めることができるが、ヒアルロン酸、プロタミン、CATを含む組換えリポタンパク質担持ナノ複合体(CAT-HA-PRTM-rHDL)は、細胞内カタラーゼの活性を大幅に増加させた。
【0223】
【0224】
CATタンパク質には抗酸化機能があるため、過酸化水素を用いて細胞内酸化ストレスレベルの上昇を誘導し、CAT担持ナノ複合体の細胞内酸化ストレスレベルの制御効果を評価した。具体的な実験プロトコルは、HT22細胞を96ウェルプレートに播種し、コンフルエンスが70%に達した時点で、様々なCATタンパク質担持製剤を投与し、投与4時間後に製剤溶液を廃棄し、蛍光プローブDCFH-DAを加えて細胞と30分間共培養し、その後、プローブ溶液を廃棄し、400μMの過酸化水素を加えて細胞と15分間共培養してその酸化損傷を誘導し、マイクロプレートリーダーで定量分析を実行した。結果は図6に示される通りであり、対照群は、完全に未処理群の細胞内活性酸素種のレベルを示し、細胞内ROSレベルは、過酸化水素単独投与によって誘導された後に急上昇し、CAT-HA-PRTM-rHDLの投与は、過酸化水素によって誘発される細胞ROSレベルの増加を大幅に減少させた。
【0225】
図6.CAT-HA-PRTM-rHDLは細胞内カタラーゼのレベルを効果的に増加させ(図6A)、H2O2によって引き起こされる細胞内ROSレベルの増加を効果的に減少させる(図6B)。
【0226】
乳酸脱水素酵素細胞毒性検出キットは、主に細胞膜の完全性を評価し、細胞の状態を評価する指標の1つでもあり、細胞投与手順は上記と同じであり、投与の4時間後に製剤溶液を廃棄し、過酸化水素を加えて細胞と共培養してその酸化的損傷を誘導し、予定検出時間の1時間前に、細胞培養プレートを細胞培養インキュベーターから取り出し、キット付属のLDH放出試薬を「試料の最大酵素活性対照ウェル」に元の培養液体積の10%の量で加えた。LDH放出試薬を加えた後、数回ピペッティングしてよく混合し、その後、細胞培養インキュベーター内で培養を続け、事前に設定した時間後、細胞培養プレートをマルチウェルプレート遠心分離機で400gで5分間遠心分離した。各ウェルからそれぞれ上清溶液120μlを採取し、新しい96ウェルプレートの対応するウェルに加え、直ちに試料の測定を実行した。CCK8の操作ステップは基本的に上記と同じであり、まずは、様々なタンパク質製剤を加えて細胞と4時間共培養し、その後製剤溶液を廃棄し、過酸化水素を加えて細胞と培養してその酸化損傷を誘導し、細胞生存率を検出するために、事前に設定した検出時点でCCK8試薬を加えた。実験結果は図7に示される通りであり、細胞ROSレベルの増加により、過酸化水素によって誘発される細胞膜損傷が大幅に減少し、細胞生存率のレベルが増加した。
【0227】
図7.CAT-HA-PRTM-rHDLは、H2O2によって誘発される細胞膜損傷を効果的に阻害し(図7A)、細胞生存率を効果的に改善した(図7B)。
【0228】
実施例9 マウスにおけるカタラーゼ(CAT)担持ナノ複合体のin vivo分布および脳分布の評価
蛍光プローブDiRおよびDiIで標識されたヒアルロン酸、プロタミン、CAT組換えリポタンパク質担持ナノ複合体(CAT-HA-PRTM-rHDL)(即ち、実施例7の実験群FITC-CAT-HA-PRTM-rHDL)及びヒアルロン酸、プロタミン、CAT担持リポソーム(CAT-HA-PRTM-LIPO)を調製した。同時に、制御された皮質損傷のマウスモデル(Controlled Cortical Injury、CCI)を構築した。マウスを5%抱水クロラールの腹腔内注射により麻酔した後、脳定位固定装置に固定し、頭皮を無菌条件下で切開して右頭頂骨を露出させ、右冠状縫合糸とヘリンボーン縫合糸の間、正中線の横に丸い頭蓋窓を開けて硬膜を露出させ、様々な程度の皮質損傷モデルをシミュレートするために、様々な打撃パラメータを設定した。衝撃パラメータ:速度:1.5m/s、深度:1mm、衝撃ヘッド直径:2mm、接触時間:100msで中等度の損傷をシミュレートし、日常的な脳損傷実験に使用した。損傷後、頭蓋骨は閉じ、皮膚を縫合した。偽損傷群のマウスは、頭皮のみを切開して右頭頂骨を露出させ、打撲傷は与えなかった。製剤のin vivo分布実験では、DiR標識製剤を尾静脈より投与し(リン脂質DMPC投与濃度で計算して20mg/kgである)、投与4時間後に心臓、肝臓、脾臓、肺、腎臓及び脳組織を採取し、生理食塩水ですすいだ後、小動物用生体内画像装置に設置して画像を収集し、体内におけるナノ複合体の分布と脳への輸送の動的な変化を観察した。実験結果は図8に示される通りであり、生理食塩水を与えた群の脳には蛍光製剤の分布が全くないが、CAT-HA-PRTM-rHDL脳の蛍光強度は有意で、右脳のCCI損傷部位に高度に集中していて、これは、本発明で構築されたナノ複合体が標的タンパク質を脳内に効率的に送達し、損傷部位への分布を標的にすることができることを示した。
【0229】
図8.C57マウスの皮質損傷モデルにおいて、蛍光色素DiR標識のヒアルロン酸、プロタミン、およびCAT担持組換えリポタンパク質ナノ複合体(CAT-HA-PRTM-rHDL)とヒアルロン酸、プロタミン、およびCAT担持リポソーム(CAT-HA-PRTM-LIPO)を尾静脈を介して投与、投与4時間後のマウスの臓器を採取してin vivoイメージングを実行し、in vivoでの製剤の分布と脳への進入を評価した。
【0230】
実施例10 マウスの脳におけるカタラーゼ(CAT)担持ナノ複合体(即ち、実施例7の実験群FITC-CAT-HA-PRTM-rHDL)の分布の評価
さらに、本発明は、緑色蛍光タンパク質に形質転換されたミクログリア細胞を有するCX3CR1-GFPトランスジェニックマウスを選択してCCIモデルを構築し、同じように、DiI標識蛍光製剤をCCI後に尾静脈に投与し、CCIマウスの脳内におけるDiI-CAT-HA-PRTM-rHDL製剤の分布とミクログリア細胞による製剤の取り込みを脳スライス実験により評価し、尾静脈投与の3時間後、マウスを麻酔して心臓灌流のために固定し、腫瘍担持マウスの完全な脳を得、4%のパラホルムアルデヒドで24時間固定した後、PBSですすぎ、順次に15%および30%のスクロース溶液で乾燥させて沈殿させ、次に続いてO.C.T.で包埋し、-20℃で凍結して連続凍結冠状切片を作製し、スライスの厚さは14μmで、PBSですすぎ、100ng/mLのDAPIで10分間染色し、PBSですすぎ、水垢を拭き取り、グリセロールリン酸でスライドをマウントし、レーザー共焦点顕微鏡で脳内のCAT-HA-PRTM-rHDLの分布を観察した。実験結果は図9に示される通りであり、CAT-HA-PRTM-rHDLは、脳内のミクログリアによって効率的に取り込まれることができる。
【0231】
図9.CX3CR1-GFPマウスの皮質損傷モデルを構築し、様々な蛍光色素DiI標識製剤を尾静脈より投与し、投与4時間後にマウスの脳を採取して凍結切片し、脳ミクログリアによるCAT担持ナノ複合体のin vivo取り込みを評価した。
【0232】
実施例11 CCIマウスの空間学習および記憶能力に対するカタラーゼ(CAT)担持ナノ複合体(即ち、実施例7の実験群FITC-CAT-HA-PRTM-rHDL)の影響
マウス中等度CCI脳損傷モデルを構築し、様々なCAT担持製剤を尾静脈から投与し(CATによって計算された投与量濃度は13300単位/kgである)、7日間の連続投与後、マウスをモリス水迷路で行動学トーニングし、テストした。水迷路は、円形プール、プラットフォーム及び記録システムの3つの部分で構成され;プールは直径150cm、高さ50cmであり、プールは4つの象限(I、II、III及びIV象限)に分かれており、深さ30cmで水を満たし、マウスがプラットフォームとプールの底を直接見ることができないように、白い食品着色料を加えて水を不透明にし;水温は約25℃に保たれた。マウスがプラットフォームの位置を見つけて記憶することができるように、空間参照オブジェクト(ドア、カメラ、壁の標識など)をプールの周囲に設置し、それらの位置は変化しないようにした。円筒形のプラットフォームは直径9cm、高さ29cmで、無反射の黒い布で包まれ、水面下1cmに面が沈むように象限IVに配置した。プールの中央上に一つのカメラを設置して、動物の水泳画像を自動的に収集し、収集した信号をコンピュータに直接入力し、モリス水迷路ビデオ解析システム2.0を使用してマウスの遊泳軌跡を監視および記録した。隠しプラットフォームテスト(Hidden platform test)はマウスに7日間連続投与した後に開始し、5日間継続し;各トレーニングの入水ポイントは無作為で4つの象限に配置し、毎回異なるマウスを同じ位置に置き、プールの壁に面して水に入れ、入水順序は隣接する2日ごとに変え、マウスが入水してから黒いプラットフォームを見つけて登るまでの経路と所要時間(潜伏期間)をコンピュータで監視・記録した。各マウスは1日4回トレーニングを受け、各トリーニングに設定された潜伏期間は60秒であり、マウスが60秒以内にプラットフォームを見つけられない場合は、マウスをプラットフォームに誘導し、そこに10秒間滞在させ、この時、潜伏期間は60秒と記録され、各マウスの2つのトレーニング間隔は30秒である。空間探査実験(Probe trial)は5日間の測位航法試験後、6日目にプラットフォームを撤去し、それぞれ象限II、III象限の水入点からプールの壁に面してマウスを水の中に入れ、60秒以内のマウスがターゲット象限(プラットフォームが配置されている象限)で費やす時間の割合と、プラットフォームを検索するマウスの軌跡を記録した。実験結果は図10に示される通りであり、トレーニング時間が増加するにつれて、マウスの潜伏期間は徐々に短くなり、CAT-HA-PRTM-rHDLはマウスのプラットフォームを見つけるまでの時間を有意に短縮させ;同時に、空間探査実験により、CAT-HA-PRTM-rHDLを与えたマウスのプラットフォームを横切る回数とターゲットプラットフォームに滞在する時間が大幅に増加したことが示され、CAT-HA-PRTM-rHDLは、CATタンパク質を脳損傷部位に効率的に送達し、脳損傷による酸化ストレスレベルの上昇を緩和し、マウスの空間学習と記憶の能力を向上させることが示唆された。
【0233】
図10.C57マウスの皮質損傷モデルを構築し、Sham群を偽損傷対照群とし、モデリング後1週間投与を継続し、モリス水迷路実験を行って、CCIモデルマウスの潜伏期間、プラットフォームを横切る回数、標的象限に滞在する時間への影響等に対する様々なCAT担持製剤の効果を調査した。
【0234】
実施例12 SODマウスの運動能力と生存期に対するカタラーゼ(CAT)担持ナノ複合体(即ち、実施例7の実験群FITC-CAT-HA-PRTM-rHDL)の影響
実施例10と同様に、トランスジェニックマウスにSOD1-G93A(筋萎縮性側索硬化症モデル)CAT-HA-PRTM-rHDLを投与し、その中で、生理食塩水および遊離CATタンパク質投与群を対照群とし、SODマウスには生後3ヶ月から投与し始め、毎日継続的に投与すると同時に、ロータロッドテスト、グラブバーテスト及び後肢食いしばりテストなどのマウスの運動能力評価実験を実施した。ロータロッド実験の具体的なステップ:最初の週はマウスを3回トリーニングし、ロータロッドの回転速度は14rpmであり、この速度でロータロッド上に180秒間留まったマウスを無症候性と定義し、マウスがロータロッド上に留まる時間が180秒未満の場合、臨床発症時間として定義され、マウスは1週間のトリーニング後に実験する。ロッドグラブテストは、マウスが上肢に頼ってロッドを掴む時間を記録するもので、総検出時間は60秒であり、60秒以内のマウスの落下潜時を記録し;後肢食いしばりテストでは、マウスの尻尾を持ってマウスを逆さまに吊り下げ、15秒間のビデオを録画して、15秒以内のマウスの後肢を食いしばり状況を記録し、スコアは0~3であり、マウスの後肢の食いしばりの程度を評価した(硬直の重症度に正比例する)。実験結果は図11に示される通りであり、ロータロッド実験の初期段階では、各群のマウスは同様の時間でロータロッド上に留まったが、時間の延長(4℃で一晩放置)に伴い、CAT-HA-PRTM-rHDLを投与したマウスのロータロッド上での時間は有意に延長し、ロッドグラブテストのCAT-HA-PRTM-rHDL群のマウスのロッドグラブ時間は対照群よりも有意に延長され、後肢の食いしばりの程度が弱くなっており、SODマウスの麻痺の病理学的過程を軽減することを証明した。
【0235】
図11.SODマウスモデルを用いて、継続投与し、同時にマウスの運動能力を評価して、様々なCAT担持製剤がSODトランスジェニックマウスの運動能力に及ぼす影響をロータロッドテスト、グラブバーテスト、後肢食いしばりテストにより調査した。
【0236】
実施例13 タンパク質を含まないブランクナノ複合体の調製、特性評価と細胞取り込み効率、並びに脳内分布
【0237】
(1)調製:
[1]ヒアルロン酸とプロタミンを様々な質量比で共培養してアポタンパク質複合体(HA-PRTM)を形成させた。
[2]薄膜水和法によるリポソームの調製:脂質(中性リン脂質DMPC、およびアニオン性リン脂質DOPA)と赤色蛍光色素DiIを秤量し、500mLの丸底フラスコに置き、エチルエーテル2mLを加え、蒸発乾燥させてリン脂質の水分を除去し、更にクロロホルム溶液2mLを加え、ロータリーエバポレーターで1時間減圧させた。0.01MのPBS溶液(pH7.4)4mLを加え、薄膜水和し剥離させてリポソームが得られるまで、40℃の水浴中で10分間断続的に振盪した。超音波プローブを用いた超音波で、リポソームの粒径をさらに小さくして赤色蛍光プローブ担持リポソーム(DiI-LIPO)を得た。
[3]リポソームとHA-PRTMとを様々な比率で共培養して、タンパク質薬物を含まないブランクリポソーム(DiI-HA-PRTM-LIPO)を形成させ;アポリポタンパク質(ApoE)を前記リポソーム溶液に加え、穏やかに混合し、120rpmで、振とうシェーカーに置き、37℃で36時間培養して、ウシ血清アルブミン担持ナノ複合体(DiI-HA-PRTM-rHDL)を得た。
【0238】
(2)特性評価
タンパク質薬物を含まないナノ複合体をリンタングステン酸でネガティブ染色し、透過型電子顕微鏡で形態を観察した。さらにサンプリングした後、クライオ電子顕微鏡を使用して構造を観察した。レーザー粒度分析装置を使用して、粒径と表面電位を測定した。
【0239】
(3)細胞内タンパク質送達効率の評価
タンパク質薬物を含まないナノ複合体の細胞内タンパク質送達を、共焦点レーザー顕微鏡により観察した。ヒト子宮頸がん細胞Hela細胞を共焦点皿に50,000個/ウェルの密度で播種し、24時間培養した。吸引して元の培養液を廃棄し、500μLの赤色蛍光プローブで標識されたタンパク質薬物を含まないナノ複合体を加えた。
【0240】
実験群:赤色蛍光プローブで標識されたタンパク質薬物を含まないナノ複合体(DiI-HA-PRTM-rHDL)。対照群:赤色蛍光プローブで標識されたBSA含有タンパク質薬剤担持ナノ複合体(DiI-BSA-HA-PRTM-rHDL)であり、調製方法は実施例1と同じである。実験群と対照群(リン脂質DMPCの量に応じて計算し、10μg/mLの濃度で投与)をそれぞれ37℃で4時間培養した。次に、3.7%のホルムアルデヒドで37℃で10分間固定し、核をHoechestで10分間染色し、PBSで3回洗浄した後、共焦点イメージングを使用して定性的観察し、Image Jソフトウェアを使用して細胞によるFITC-BSAの取り込みの半定量分析した。
【0241】
(3)脳内のナノ複合体の分布の評価
C57マウスを利用してCCIモデルを構築し、同じように、CCI後、尾静脈にDiI標識蛍光製剤を投与し、脳スライス実験によりCCIマウスの脳におけるDiI-BSA-HA-PRTM-rHDL及びDiI-HA-PRTM-rHDL製剤の分布状況を評価し、尾静脈投与の3時間後、マウスを麻酔して心臓灌流のために固定し、腫瘍担持マウスの完全な脳を採取し、4%のパラホルムアルデヒドで24時間固定し、PBSですすいだ後、15%および30%のグルコース溶液で沈むまで脱水し、続いてO.C.T.を使用して包埋し、-20℃で凍結し、厚さ14μmの連続凍結冠状切片を作製し、PBSですすいだ後、100ng/mLのDAPIで10分間染色し、PBSですすぎ、水垢を拭き取り、グリセロールリン酸でスライドをマウントし、レーザー共焦点顕微鏡で脳内の二つの製剤の分布を観察した。
【0242】
結果は、BSA含有タンパク質薬物のナノ複合体(DiI-BSA-HA-PRTM-rHDL)とタンパク質薬物を含有しないブランク担体(DiI-HA-PRTM-rHDL)の粒径はいずれも100nm以下であり、製剤が体内の生体膜関門を通過することに有利であり、細胞に効率よく取り込まれることができ;同時に、マウス皮質損傷モデルでは、タンパク質を含有しないナノ複合体とタンパク質を含有するナノ複合体の両方が脳損傷部位を効率的に標的化して分布できる。これらの発見は、タンパク質の担持の有無は細胞取り込みおよび脳内の標的分布に影響を及ぼさず、担体自体とタンパク質担持製剤がin vivoで同様の細胞取り込みおよび分布挙動を示すことを示唆した。
【0243】
【0244】
以上、本発明の具体的な実施形態について説明したが、当業者であれば、これらは単なる例であり、本発明の原理および本質から逸脱することなく、これらの実施形態に対して様々な変更または修正を加えることができることを理解されたい。従って、本発明の保護範囲は特許請求の範囲によって限定される。