(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-18
(45)【発行日】2024-06-26
(54)【発明の名称】植物生長促進方法
(51)【国際特許分類】
A01G 7/00 20060101AFI20240619BHJP
【FI】
A01G7/00 604Z
(21)【出願番号】P 2018068469
(22)【出願日】2018-03-30
【審査請求日】2020-06-19
【審判番号】
【審判請求日】2023-04-21
(73)【特許権者】
【識別番号】302060926
【氏名又は名称】株式会社フジタ
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小林 紀子
【合議体】
【審判長】古屋野 浩志
【審判官】有家 秀郎
【審判官】土屋 真理子
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-97515(JP,A)
【文献】特許第5477753(JP,B2)
【文献】特開2010-275202(JP,A)
【文献】特許第6098781(JP,B2)
【文献】特開2014-80406(JP,A)
【文献】特開2007-308434(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01C1/00-1/08
A01G7/00-7/04
A01G31/00-31/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
直径1μm以下の気泡を含む水溶液(トレハロースとクエン酸又はその塩を含む水溶液を除く)を植物に接触させるバブル接触ステップと、
前記気泡を含む水溶液に接触させられた植物を、移植先に植える植付ステップと、
を備え、
前記バブル接触ステップにおいて、前記植物は、前記気泡を含む水溶液に全体を浸漬させることで、または滴下若しくは噴霧で前記気泡を含む水溶液に暴露されることで、前記気泡を含む水溶液に継続して5秒以上60分以下接触させられ
、
前記植物は、茎、葉、花芽、葉芽、幹及び枝の少なくとも1つを有する
植物生長促進方法。
【請求項2】
前記気泡を含む水溶液の前記気泡の濃度は、2×10
7particles/ml以上2×10
8particles/ml以下である
請求項1に記載の植物生長促進方法。
【請求項3】
前記バブル接触ステップにおいて、前記植物は、容器に溜められた前記気泡を含む水溶液に浸漬される
請求項1または2に記載の植物生長促進方法。
【請求項4】
前記植付ステップは、前記バブル接触ステップが終了してから3日以内に前記植物を移植先に植えるステップである
請求項1から3のいずれか1項に記載の植物生長促進方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、植物生長促進方法に関する。
【背景技術】
【0002】
植物の移植は、植物の生長に影響を及ぼすことがある。このため、移植後における植物の生長を促進する技術が知られている。例えば、特許文献1から3には、植物の生長を促進させるための技術の一例が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2015-221763号公報
【文献】実開平7-14845号公報
【文献】特開2014-117189号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、より容易に植物の生長を促進できる植物生長促進方法が求められている。
【0005】
本開示は、上記の課題に鑑みてなされたものであって、移植時に植物が受けるストレスを軽減させ、移植後の植物の生長を促進できる植物生長促進方法を提供することを目的とする。又は、本開示は、移植後の植物の活着率を向上させることが可能な植物生長促進方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達成するため、本開示の一態様の植物生長促進方法は、直径1μm以下の気泡を含む水溶液を植物に接触させるバブル接触ステップと、前記気泡を含む水溶液に接触させられた植物を、移植先に植える植付ステップと、を備える。
【0007】
なお、上記の植物生長促進方法の望ましい態様として、前記気泡を含む水溶液の前記気泡の濃度は、2×107particles/ml以上2×108particles/ml以下である。
【0008】
なお、上記の植物生長促進方法の望ましい態様として、前記バブル接触ステップにおいて、前記植物は、前記気泡を含む水溶液に継続して5秒以上60分以下接触させられる。
【0009】
なお、上記の植物生長促進方法の望ましい態様として、前記バブル接触ステップにおいて、前記植物は、容器に溜められた前記気泡を含む水溶液に浸けられる。
【0010】
なお、上記の植物生長促進方法の望ましい態様として、前記植付ステップは、前記バブル接触ステップが終了してから3日以内に前記植物を移植先に植えるステップである。
【0011】
なお、上記の植物生長促進方法の望ましい態様として、前記バブル接触ステップは、前記植付ステップの後に開始し、前記植物の状態に関する指標が所定の条件を満たした場合に終了する。
【0012】
なお、上記の植物生長促進方法の望ましい態様として、前記指標は、前記植物又は前記植物に接触させている前記気泡を含む水溶液の元素の濃度である。
【0013】
なお、上記の植物生長促進方法の望ましい態様として、前記元素は、カリウム、亜鉛、鉄、及びマンガンの少なくとも1つを含む。
【0014】
なお、上記の植物生長促進方法の望ましい態様として、前記指標は、前記植物のSPAD値若しくはクロロフィル蛍光、又は前記植物近傍の二酸化炭素の濃度である。
【0015】
なお、上記の植物生長促進方法の望ましい態様として、前記植物は、種子であり、前記指標は、前記植物のスーパーオキシドアニオンラジカルの濃度である。
【0016】
なお、上記の植物生長促進方法の望ましい態様として、前記植物が発芽した後に、前記気泡を含む水溶液を前記植物に接触させるバブル再接触ステップを備える。
【発明の効果】
【0017】
本開示の植物生長促進方法によれば、容易に移植後の植物活着率の向上および生長の促進ができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】
図1は、実施形態の植物生長促進方法を示すフローチャートである。
【
図2】
図2は、実施形態のバブル接触ステップを示す模式図である。
【
図3】
図3は、実施形態のバブル接触ステップを示す模式図である。
【
図4】
図4は、比較例の方法を用いて移植した植物の生長状況を示す図である。
【
図5】
図5は、実施形態の植物生長促進方法を用いて移植した植物の生長状況を示す図である。
【
図6】
図6は、比較例と実施形態の平均地上部生重量を比較したグラフである。
【
図7】
図7は、第1変形例の植物生長促進方法を示すフローチャートである。
【
図8】
図8は、第1変形例のバブル接触ステップを示す模式図である。
【
図9】
図9は、第2変形例の植物生長促進方法を示すフローチャートである。
【
図10】
図10は、第2変形例のバブル接触ステップを示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明につき図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、本発明を実施するための形態(以下、実施形態という)により本発明が限定されるものではない。また、下記実施形態における構成要素には、当業者が容易に想定できるもの、実質的に同一のもの、いわゆる均等の範囲のものが含まれる。さらに、下記実施形態で開示した構成要素は適宜組み合わせることが可能である。
【0020】
(実施形態)
図1は、実施形態の植物生長促進方法を示すフローチャートである。
図2は、実施形態のバブル接触ステップを示す模式図である。
図3は、実施形態のバブル接触ステップを示す模式図である。本実施形態の植物生長促進方法は、植物1の移植後の植物活着率を向上させ、生長を促進するための方法である。植物生長促進方法は、例えば、植物1を移植する時に用いられる。このため、本実施形態において以下で説明する方法は、植物移植方法ということもできる。
【0021】
図1に示すように、植物生長促進方法において、植物1が移植元から取り出される(掘取ステップS11)。植物1は、根、茎、葉、花芽、葉芽、幹及び枝の少なくとも1つを有する。植物1は、根の呼吸等のガス交換に必要な酸素若しくは二酸化炭素等の気体、又は水分及び栄養分を、植物1に供給すると共に植物1を支持する媒体に接している。移植元の当該媒体は、地面から採取後に調整を行っていない土壌である表土、地面から採取後に植物栽培に適した物理化学条件になるように調整を行った土壌である培養土、砂又はバーミキュライト等の粒子状鉱物、粒子状のサンゴ等の粒子状生物由来物質、ろ紙、キムワイプ、ティッシュ、綿、布及び樹木等由来の繊維状物質、寒天又はゼラチン等のゲル状物質、及び培養土吹付に用いられる無機質固化材又は高分子系接合剤、の少なくとも1つを含む。以下の説明では、移植元の媒体の代表例として表土を用いて説明する。植物1は、根の周りの表土と共に取り出される。取り出された植物1の根及び表土は、被覆材3によって覆われる。被覆材3は、透水性を有する材料で形成されている。透水性を有する材料としては、例えば麻、パルプ、分解性ポリマー又は動物繊維等である。
【0022】
掘取ステップS11の後、ウルトラファインバブル水に植物1が接触させられる(バブル接触ステップS12)。バブル接触ステップS12において、
図2に示すように、植物1は、容器4に溜められたウルトラファインバブル水に浸けられる。複数の植物1がウルトラファインバブル水に浸けられてもよい。なお、植物1の根、茎、葉、花芽、葉芽、幹及び枝の少なくとも1つが、ウルトラファインバブル水に浸けられればよい。なお、ウルトラファインバブル水とは、直径1μm以下の気泡を含む水溶水、いわゆるウルトラファインバブルを含む水溶液である。ウルトラファインバブルは、直径1μm以下、好ましくは1nm以上1μm以下、さらに好ましくは30nm以上400nm以下の気泡である。ウルトラファインバブル水のウルトラファインバブルの濃度は、2×10
7particles/ml以上であることが好ましい。ウルトラファインバブル水のウルトラファインバブルの濃度は、2×10
8particles/ml以下であることが好ましい。ウルトラファインバブルの濃度とは、単位体積あたりの水に存在するウルトラファインバブルの数である。ウルトラファインバブルの濃度が2×10
7particles/mlであることは、1mlのウルトラファインバブル水に2×10
7個のウルトラファインバブルが存在することを意味する。ウルトラファインバブルの濃度は、日本カンタム・デザイン株式会社製のナノ粒子解析システム“NanoSight”、株式会社島津製作所製のナノ粒子径分布測定装置“SALD-7500nano”等で測定することができる。
【0023】
ウルトラファインバブルの濃度が2×107particles/ml未満では、植物1がウルトラファインバブルに接触しにくく、生長促進の効果が得られにくい。ウルトラファインバブルの濃度が2×108particles/mlより高いと、ウルトラファインバブル水における反応性の高い酸素濃度が上昇し、植物細胞が損傷されやすくなり、生長が抑制されてしまう。なお、ウルトラファインバブル水は、ウルトラファインバブルの他に、養分を含んでいてもよい。養分としては、窒素、リン、カリウム、カルシウム、マグネシウム、鉄、硫黄、マンガン、ホウ素、亜鉛、銅、及びモリブデンなどがある。
【0024】
容器4のウルトラファインバブル水は、ウルトラファインバブル水供給装置51から供給される。ウルトラファインバブル水供給装置51は、例えばタンク及びポンプ等を備えており、ウルトラファインバブル水を貯留し所望の場所に送ることができる。ウルトラファインバブル水供給装置51は、水源53と、気体源55と、に接続される。水源53は、例えば水道又は井戸等であって、ウルトラファインバブル水供給装置51に水を供給する。気体源55は、所定の気体を貯留したタンクであって、ウルトラファインバブル水供給装置51に所定の気体を供給する。なお、空気を供給する場合は、タンクの代わりにエアーポンプを設けてもよい。所定の気体は、例えば、空気、二酸化炭素(CO2)、窒素(N2)又は水素(H2)等であるが、特に限定されない。ウルトラファインバブル水供給装置51は、水源53から送られる水と、気体源55から送られる気体と、を用いてウルトラファインバブル水を生成し貯留する。ウルトラファインバブル水供給装置51は、公知の方法によってウルトラファインバブル水を生成する。ウルトラファインバブル水の生成方法としては、例えば、ポンプ又は攪拌機等を用いて流体の流れを作り、その中にガスを取り込み、スタティックミキサー、エジェクター、ベンチュリー等の各装置及び各器具の中をガスを含む流体を高速で通過させることで内部のガスを微粒子化してファインバブルを発生させる方法がある。また、容器内に流体を入れ、スタティックミキサー、エジェクター、ベンチュリー等の各種装置を通過させたガスを流体中に放出する方法等がある。前者としては、旋回流方式、スタティックミキサー方式、エジェクター方式、ベンチュリー方式、加圧溶解方式、及びキャビテーション方式がある。後者としては、細孔方式、超細孔方式、攪拌機等の回転体を入れてバブルを発生させる回転方式、超音波方式、パルス磁場印加方式等がある。容器4のウルトラファインバブル水は、容器4に植物1が入れられる前に予め容器4に溜められていてもよいし、容器4に植物1が入れられてから容器4に供給されてもよい。
【0025】
バブル接触ステップS12において、植物1は、必ずしも容器4に溜められたウルトラファインバブル水に入れられなくてもよい。例えば、
図3に示すように、ウルトラファインバブル水供給装置51から供給されたウルトラファインバブル水が、植物1に暴露されてもよい。暴露方法としては、滴下、噴霧等がある。
【0026】
バブル接触ステップS12が開始した後、植物がウルトラファインバブル水に継続して所定の時間接触した場合(判定ステップS13、Yes)、ウルトラファインバブル水と植物1との接触が終了する(接触終了ステップS14)。例えば、植物1が容器4から取り出される。又は、容器4のウルトラファインバブル水が抜かれてもよい。使用済みのウルトラファインバブル水は、他の植物1には使用されない。例えば、接触終了ステップS14の後、使用済みのウルトラファインバブル水は、廃棄される。例えば、所定の時間は、5秒以上60分以下、又は30秒以上30分以下であることが好ましい。植物1にウルトラファインバブル水を暴露する時間が短いと、ウルトラファイン水に含まれる気泡と植物1が接触せず、植物1の生長促進効果が得られにくい。また、植物1にウルトラファインバブル水を暴露する時間が長すぎると、ウルトラファインバブル水に含まれる溶存酸素濃度が低減してしまい、植物1が枯れてしまう。
【0027】
接触終了ステップS14の後、植物1が移植先に3日以内に植え付けられる(植付ステップS15)。移植先は、根の呼吸等のガス交換に必要な酸素若しくは二酸化炭素等の気体、又は水分及び栄養分を、植物1に供給すると共に植物1を支持する媒体である。当該媒体は、表土、地面から採取後に調整を行っていない土壌、地面から採取後に植物栽培に適した物理化学条件になるように調整を行った培養土、砂又はバーミキュライト等の粒子状鉱物、粒子状のサンゴ等の粒子状生物由来物質、樹木等由来の繊維状物質、寒天又はゼラチン等のゲル状物質、及び培養土吹付に用いられる無機質固化材又は高分子系接合剤、の少なくとも1つを含む。
【0028】
以上で説明したように、実施形態の植物生長促進方法は、直径1μm以下の気泡を含む水溶液を植物1に接触させるバブル接触ステップS12と、気泡を含む水溶液(ウルトラファインバブル水)に接触させられた植物を、移植先に植える植付ステップS15と、を備える。
【0029】
ウルトラファインバブルの接触は植物1においてストレスであり、植物1は、ウルトラファイバブル水に含まれる活性酸素種(Reactive Oxygen Species;ROSともいう。)の影響を受ける。活性酸素種としては、ヒドロキシルラジカル、スーパーオキシドアニオンラジカル、ヒドロペルオキシルラジカル、一重項酸素、過酸化水素等がある。植物1周辺における活性酸素種の濃度が増加すると、グルコースを代謝する一次代謝より、二次代謝の方が優先的に行われる。二次代謝の生成物には、発根を誘発させる物質が含まれる場合があるため、ウルトラファイバブルの接触により、植物1の活着及び生長が促進される。したがって、植物生長促進方法は、特殊な容器又は薬剤を用いずとも、植物の生長を容易に促進できる。
【0030】
例えば、植物生長促進方法によれば、植物1に負担がかかる移植の後においても、植物1の活着が促進し且つ植物1の生長速度が向上される。植物生長促進方法によれば、移植後の植物1の枯死率を低減させることができる。植物生長促進方法によれば、病害虫に対する抵抗性を植物1に付与することができる。植物生長促進方法によれば、希少植物を用いた緑化、及び希少植物の移植の成功確率を向上させることができる。植物生長促進方法によれば、特殊な薬剤を用いる必要がないため、化学物質の環境への曝露を抑制することができる。
【0031】
本実施形態の植物生長促進方法において、気泡を含む水溶液(ウルトラファインバブル水)の気泡の濃度は、2×107particles/ml以上2×108particles/ml以下である。これにより、ウルトラファインバブルによる植物1の生長促進効果がより向上する。
【0032】
本実施形態の植物生長促進方法において、バブル接触ステップS12において、植物1は、気泡を含む水溶液(ウルトラファインバブル水)に継続して5秒以上60分以下接触させられる。これにより、ウルトラファインバブルによる植物1の生長促進効果がより向上する。
【0033】
本実施形態の植物生長促進方法において、バブル接触ステップS12において、植物1は、容器4に溜められた気泡を含む水溶液(ウルトラファインバブル水)に浸けられる。これにより、ウルトラファインバブルによる植物1の生長促進効果がより向上する。
【0034】
本実施形態の植物生長促進方法において、植付ステップS15は、バブル接触ステップS12が終了してから3日以内に植物1を移植先に植えるステップである。これにより、ウルトラファインバブルによる植物1の生長促進効果が弱まる前に、植物1を移植先に植えることができる。
【0035】
(実施例)
図4は、比較例の方法を用いて移植した植物の生長状況を示す図である。
図5は、実施形態の植物生長促進方法を用いて移植した植物の生長状況を示す図である。
図6は、比較例と実施形態の平均地上部生重量を比較したグラフである。
【0036】
比較例の方法は、上述したバブル接触ステップS12から接触終了ステップS14を備えない。すなわち、比較例の方法は、ウルトラファインバブル水を用いずに植物1を移植する方法である。比較例の方法を用いた実験と、実施形態の植物生長促進方法を用いた実験とが行われた。実験では、植物1として10株のハクサンハタザオの苗が用いられた。
図4及び
図5は、移植されてから27日目のハクサンハタザオを示す。
図6の縦軸は、移植されてから27日目の10株のハクサンハタザオの平均地上部生重量である。
図6の棒グラフが平均地上部生重量である。地上部生重量は、根を含まず、茎および葉の部分の重量であり、水を含んだ重量である。平均地上部生重量は、10株のハクサンハタザオの地上部生重量の和を10で除した値である。
図6の棒グラフに重なる縦線の上端は、10株のハクサンハタザオのうち最も重いものの重量である。
図6の棒グラフに重なる縦線の下端は、10株のハクサンハタザオのうち最も軽いものの重量である。
【0037】
図4に示すように、比較例の方法を用いて移植した場合、10株のハクサンハタザオのうち4株のハクサンハタザオにおいて、活着不良による生長遅延が生じた。生長遅延が生じたハクサンハタザオは、
図4の矢印で示されている。
図6に示すように、比較例の方法を用いて移植した場合、10株のハクサンハタザオの平均地上部生重量は、5.3gであった。10株のハクサンハタザオのうち最も重いものと最も軽いものとの差は、約6.2gであった。
【0038】
これに対して、
図5に示すように、実施形態の植物生長促進方法を用いた場合、10株のハクサンハタザオのうち生長遅延が生じたものはなかった。
図6に示すように、実施形態の植物生長促進方法を用いた場合、10株のハクサンハタザオの平均地上部生重量は、8.1gであった。このことから、実施形態の植物生長促進方法によってハクサンハタザオの生長が促進されていることがわかる。また、10株のハクサンハタザオのうち最も重いものと最も軽いものとの差は、約2.2gであった。このことから、実施形態の植物生長促進方法によって、ハクサンハタザオの生長のばらつきが抑制されていることがわかる。
【0039】
なお、上述したハクサンハタザオは、植物1の一例である。植物生長促進方法は、ハクサンハタザオ以外の植物に対しても生長を促進させることができる。また、植物生長促進方法が適用される植物1は、根、茎、葉、花芽、葉芽、幹及び枝の少なくとも1つを備えていなくてもよく、種子等であってもよい。
【0040】
(第1変形例)
図7は、第1変形例の植物生長促進方法を示すフローチャートである。
図8は、第1変形例のバブル接触ステップを示す模式図である。なお、上述した実施形態で説明したものと同じ構成要素には同一の符号を付して重複する説明は省略する。
【0041】
図7に示すように、第1変形例の植物生長促進方法において、植物1が移植元から取り出される(掘取ステップS21)。植物1は、根、茎、葉、花芽、葉芽、幹及び枝の少なくとも1つを有する。移植元は、上述した、根の呼吸等のガス交換に必要な酸素若しくは二酸化炭素等の気体、又は水分及び栄養分を植物に供給すると共に植物1を支持する媒体を適宜用いることができる。
【0042】
掘取ステップS21の後、植物1が移植先に植え付けられる(植付ステップS22)。移植先は、上述した、根の呼吸等のガス交換に必要な酸素若しくは二酸化炭素等の気体、又は水分及び栄養分を植物1に供給すると共に植物1を支持する媒体を適宜用いることができる。
【0043】
植付ステップS22の後、ウルトラファインバブル水に植物1が接触させられる(バブル接触ステップS23)。バブル接触ステップS23において、
図8に示すように、ウルトラファインバブル水が、植物1の移植先の表土に供給される。これにより、ウルトラファインバブル水が植物1に接する。
【0044】
バブル接触ステップS23が開始した後、植物1の状態に関する指標が所定の条件を満たす場合(判定ステップS24、Yes)、ウルトラファインバブル水と植物1との接触が終了する(接触終了ステップS25)。接触終了ステップS25において、ウルトラファインバブル水供給装置51から移植先の表土へのウルトラファインバブル水の供給が停止する。植物1の状態に関する指標は、例えば、植物1の元素の濃度又はSPAD値である。植物1に含まれる元素は、カリウム、亜鉛、鉄、及びマンガンの少なくとも1つを含む。ウルトラファインバブルが植物1と接することにより、水溶液中に含まれる元素が植物1に吸収されやすくなる。植物1に含まれる元素の濃度が上昇するので、元素の濃度を指標の1つとすることができる。また、水溶液中の元素の濃度の変化でも植物1に吸収された状況を判断できるため、水溶液中の元素の濃度を指標の一とすることができる。さらに、ウルトラファインバブルが植物1と接することにより、光合成が促進され、植物1に含まれる葉緑素含有量が増加する。このため、植物1のSPAD値若しくはクロロフィル蛍光、又は植物1の近傍の二酸化炭素の濃度等を指標の1つとすることができる。
【0045】
植物1及び水溶液中の元素の濃度は、分光光度計原子吸光光度計、ICP発光分光光度計、ICP質量分析計、蛍光X線分析装置、X線回折装置、紫外可視分光光度計、パックテスト等によって測定される。例えば、植物1の体内の元素の濃度が所定の閾値を超えた場合に、ウルトラファインバブル水と植物1との接触が終了する(接触終了ステップS25)。
【0046】
植物1のSPAD値は、葉緑素含有量を示す値である。SPAD値は、葉緑素計によって測定される。SPAD値は、コニカミノルタジャパン株式会社製葉緑素計“SPAD-502Plus”等で測定することができる。植物1のクロロフィル蛍光及び植物1の近傍の二酸化炭素の濃度は、メイワフォーシス株式会社製の植物光合成総合解析システムLI-6800等で測定することができる。例えば、植物1のSPAD値の所定時間内での変化量が所定の閾値を超えた場合に、ウルトラファインバブル水と植物1との接触が終了する(接触終了ステップS25)。
【0047】
なお、バブル接触ステップS23から接触終了ステップS25は、必ずしも植付ステップS22の後でなくてもよい。例えば、バブル接触ステップS23から接触終了ステップS25は、掘取ステップS21と植付ステップS22との間にあってもよい。この場合、上述したバブル接触ステップS12と同様の方法で、植物1がウルトラファインバブル水に接触させられる。又は、バブル接触ステップS23から接触終了ステップS25は、掘取ステップS21よりも前にあってもよい。この場合、植物1が植えられた移植元の表土にウルトラファインバブル水が供給される。
【0048】
以上で説明したように、第1変形例の植物生長促進方法において、バブル接触ステップS23は、植付ステップS22の後に開始し、植物1の状態に関する指標が所定の条件を満たした場合に終了する。これにより、植物1に対するウルトラファインバブルの過剰な供給が抑制される。
【0049】
第1変形例の植物生長促進方法において、指標は、植物1又は植物1に接触させている気泡を含む水溶液(ウルトラファインバブル水)の元素の濃度である。これにより、植物1の状態を、バブル接触ステップS23を終了するタイミングに、より正確に反映させることが可能になる。すなわち、より適切なタイミングでバブル接触ステップS23を終了することが可能になる。
【0050】
第1変形例の植物生長促進方法において、元素は、カリウム、亜鉛、鉄、及びマンガンの少なくとも1つを含む。これにより、植物1の状態を、バブル接触ステップS23を終了するタイミングに、より正確に反映させることが可能になる。すなわち、より適切なタイミングでバブル接触ステップS23を終了することが可能になる。
【0051】
第1変形例の植物生長促進方法において、指標は、植物1のSPAD値若しくはクロロフィル蛍光、又は植物1の近傍の二酸化炭素の濃度である。これにより、植物1の状態を、バブル接触ステップS23を終了するタイミングに、より正確に反映させることが可能になる。すなわち、より適切なタイミングでバブル接触ステップS23を終了することが可能になる。
【0052】
(第2変形例)
図9は、第2変形例の植物生長促進方法を示すフローチャートである。
図10は、第2変形例のバブル接触ステップを示す模式図である。なお、上述した実施形態で説明したものと同じ構成要素には同一の符号を付して重複する説明は省略する。
【0053】
第2変形例の植物生長促進方法が適用される植物2は、例えば種子である。
図9に示すように、ウルトラファインバブル水に植物2が接触させられる(バブル接触ステップS31)。バブル接触ステップS31において、
図10に示すように、ウルトラファインバブル水は、植物2が植えられた表土に供給される。これにより、ウルトラファインバブル水が植物2に接する。
【0054】
バブル接触ステップS31が開始した後、植物2の状態に関する第1指標が所定の条件を満たす場合(判定ステップS32、Yes)、ウルトラファインバブル水と植物2との接触が終了する(接触終了ステップS33)。接触終了ステップS33において、ウルトラファインバブル水供給装置51から表土へのウルトラファインバブル水の供給が停止する。第1指標は、例えば、植物2のスーパーオキシドアニオンラジカルの濃度である。スーパーオキシドアニオンラジカルは、活性酸素の一種である。例えば、植物2の体内のスーパーオキシドアニオンラジカルの濃度が所定の閾値を超えた場合に、ウルトラファインバブル水と植物2との接触が終了する(接触終了ステップS33)。
【0055】
接触終了ステップS33の後、植物2が発芽した場合(判定ステップS34、Yes)、再びウルトラファインバブル水に植物2が接触させられる(バブル再接触ステップS35)。すなわち、ウルトラファインバブル水の表土への供給が再開される。
【0056】
バブル再接触ステップS35が開始した後、植物2の状態に関する第2指標が所定の条件を満たす場合(判定ステップS36、Yes)、ウルトラファインバブル水と植物2との接触が終了する(接触終了ステップS37)。第2指標は、例えば、第1変形例で説明した植物2の元素の濃度、水溶液中の元素の濃度、植物1のSPAD値若しくはクロロフィル蛍光、又は植物1の近傍の二酸化炭素の濃度等である。
【0057】
第2変形例の植物生長促進方法において、植物2は、種子である。指標(第1指標)は、植物2のスーパーオキシドアニオンラジカルの濃度である。これにより、植物2の状態を、バブル接触ステップS31を終了するタイミングに、より正確に反映させることが可能になる。
【0058】
第2変形例の植物生長促進方法は、植物2が発芽した後に、気泡を含む水溶液(ウルトラファインバブル水)を植物2に接触させるバブル再接触ステップS35を備える。これにより、植物2の発根が促進される。また、ウルトラファインバブル水の供給が一旦停止されてから再開されるので、植物2に対するウルトラファインバブルの過剰な供給が抑制される。
【0059】
この後、上記実施形態に示す植物1が移植元である媒体から取り出され(
図1の掘取ステップS11)、植物1が移植先に3日以内に植え付けられてもよい(
図1の植付ステップS15)すなわち、
図9に示す発芽処理を行った後、移植処理を行ってもよい。
【符号の説明】
【0060】
1 植物
3 被覆材
4 容器
51 ウルトラファインバブル水供給装置
53 水源
55 気体源
S11 掘取ステップ
S12 バブル接触ステップ
S14 接触終了ステップ
S15 植付ステップ
S21 掘取ステップ
S22 植付ステップ
S23 バブル接触ステップ
S25 接触終了ステップ
S31 バブル接触ステップ
S33 接触終了ステップ
S35 バブル再接触ステップ
S37 接触終了ステップ