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特許7506508荷電粒子線照射システム、及び荷電粒子線照射方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-18
(45)【発行日】2024-06-26
(54)【発明の名称】荷電粒子線照射システム、及び荷電粒子線照射方法
(51)【国際特許分類】
   A61N 5/10 20060101AFI20240619BHJP
【FI】
A61N5/10 H
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2020062493
(22)【出願日】2020-03-31
(65)【公開番号】P2021159231
(43)【公開日】2021-10-11
【審査請求日】2022-12-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000002107
【氏名又は名称】住友重機械工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100162640
【弁理士】
【氏名又は名称】柳 康樹
(72)【発明者】
【氏名】上口 長昭
【審査官】段 吉享
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-029821(JP,A)
【文献】特開2017-209372(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61N 5/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被照射体に対して荷電粒子線を照射する荷電粒子線照射システムであって、
走査電磁石で前記荷電粒子線を走査することで、前記被照射体に対して前記荷電粒子線を照射する照射部と、
前記被照射体に対するスキャンパターン情報に対応する前記走査電磁石への電流指令値を、前記走査電磁石により生じる磁場の掃引速度に基づいて設定する設定部と、を備える、荷電粒子線照射システム。
【請求項2】
前記設定部は、前記スキャンパターンを前記走査電磁石の励磁パターンに変換する変換テーブルによって、前記走査電磁石への前記電流指令値を設定し、
前記変換テーブルは、前記走査電磁石の励磁の周波数に応じた情報を有している、請求項1に記載の荷電粒子線照射システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、荷電粒子線照射システム、及び荷電粒子線照射方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、患者の患部に荷電粒子線を照射することによって治療を行う荷電粒子線照射システムとして、例えば、特許文献1に記載された装置が知られている。特許文献1に記載の荷電粒子線照射システムでは、荷電粒子線を照射部からスキャニング方式によって照射している。すなわち、照射部は、走査電磁石で走査することで患部に対する荷電粒子線の照射位置を移動させながら、照射を行う。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2017-209372号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、走査電磁石は、その走査速度(励磁周波数)に応じて、渦電流などの影響によって磁束密度が変わる。従って、走査速度によっては、実際の荷電粒子線の走査位置と、予め計画した走査位置との間で誤差が生じる。これに対し、荷電粒子線の走査位置を測定して、当該測定結果をフィードバックすることで、走査位置を補正する方法が採用される場合がある。しかしながら、当該方法では、走査速度が高くなる場合に、フィードバックに遅れが生じることで、走査位置の誤差を十分に補正できない場合がある。
【0005】
そこで本発明は、荷電粒子線の走査速度によらず、走査位置の精度を高めることができる、荷電粒子線照射システム、及び荷電粒子線照射方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、本発明に係る荷電粒子線照射システムは、 被照射体に対して荷電粒子線を照射する荷電粒子線照射システムであって、走査電磁石で荷電粒子線を走査することで、被照射体に対して荷電粒子線を照射する照射部と、被照射体に対するスキャンパターン情報に対応する走査電磁石への電流指令値を、走査電磁石により生じる磁場の掃引速度に基づいて設定する設定部と、を備える。
【0007】
この荷電粒子線照射システムは、スキャンパターン情報に対応する走査電磁石への電流指令値を設定する設定部を備える。従って、設定部は、荷電粒子線のスキャンパターンを実現できるように、走査電磁石への電流指令値を設定することができる。ここで、設定部は、磁場の掃引速度に基づいて走査電磁石への電流指令値を設定する。すなわち、荷電粒子線を高速でスキャンすることによって磁場の掃引速度が速くなる場合であっても、設定部は、当該掃引速度の影響を考慮した上で、走査電磁石への電流指令値を設定することができる。そのため、走査電磁石は、走査速度が速い場合であっても、スキャンパターンと、実際の走査位置との間のずれを抑制した状態で、荷電粒子線の走査を行うことができる。以上により、荷電粒子線の走査速度によらず、走査位置の精度を高めることができる。
【0008】
設定部は、スキャンパターンを走査電磁石の励磁パターンに変換する変換テーブルによって、走査電磁石への電流指令値を設定し、変換テーブルは、走査電磁石の励磁の周波数に応じた情報を有していてよい。これにより、設定部は、変換テーブルを用いることで、励磁の掃引速度を考慮した電流指令値を設定できる。
【0009】
本発明に係る荷電粒子線照射方法は、走査電磁石で荷電粒子線を走査することで、被照射体に対して荷電粒子線を照射する荷電粒子線照射方法であって、被照射体に対するスキャンパターン情報に対応する走査電磁石への電流指令値を、走査電磁石により生じる磁場の掃引速度に基づいて設定する設定工程と、を備える。
【0010】
この荷電粒子線照射方法によれば、上述の荷電粒子線照射システムと同様な作用・効果を得ることができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、荷電粒子線の走査速度によらず、走査位置の精度を高めることができる、荷電粒子線照射システム、及び荷電粒子線照射方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の一実施形態に係る荷電粒子線照射システムを示す概略構成図である。
図2図1の荷電粒子線照射システムの照射部付近の概略構成図である。
図3】腫瘍に対して設定された層を示す図である。
図4】制御部のうち、走査電磁石の制御に関わる構成要素を示したブロック構成図である。
図5】走査電磁石によって走査された荷電粒子線の様子を示す模式図である。
図6】変換テーブルを作成するときの工程を示す工程図である。
図7】走査電磁石を制御するときの処理内容を示すフローチャートである。
図8】走査電磁石を静的な条件及び動的な条件で磁場測定したときの測定結果を示すグラフである。
図9】比較例に係る荷電粒子線照射システムの制御部を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、添付図面を参照しながら本発明の一実施形態に係る荷電粒子線照射システムについて説明する。なお、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0014】
図1は、本発明の一実施形態に係る荷電粒子線照射システム1を示す概略構成図である。荷電粒子線照射システム1は、放射線療法によるがん治療等に利用されるシステムである。荷電粒子線照射システム1は、イオン源装置で生成した荷電粒子を加速して荷電粒子線として出射する加速器3と、荷電粒子線を被照射体へ照射する照射部2と、加速器3から出射された荷電粒子線を照射部2へ輸送するビーム輸送ライン21と、を備えている。照射部2は、治療台4を取り囲むように設けられた回転ガントリ5に取り付けられている。照射部2は、回転ガントリ5によって治療台4の周りに回転可能とされている。なお、加速器3、照射部2、及びビーム輸送ライン21の更に詳細な構成については、後述する。
【0015】
図2は、図1の荷電粒子線照射システム1の照射部付近の概略構成図である。なお、以下の説明においては、「X軸方向」、「Y軸方向」、「Z軸方向」という語を用いて説明する。「Z軸方向」とは、荷電粒子線Bの基軸AXが延びる方向であり、荷電粒子線Bの照射の深さ方向である。なお、「基軸AX」とは、後述の走査電磁石50で偏向しなかった場合の荷電粒子線Bの照射軸とする。図2では、基軸AXに沿って荷電粒子線Bが照射されている様子を示している。「X軸方向」とは、Z軸方向と直交する平面内における一の方向である。「Y軸方向」とは、Z軸方向と直交する平面内においてX軸方向と直交する方向である。
【0016】
まず、図2を参照して、本実施形態に係る荷電粒子線照射システム1の概略構成について説明する。荷電粒子線照射システム1はスキャニング法に係る照射装置である。なお、スキャニング方式は特に限定されず、ラインスキャニング、ラスタースキャニング、スポットスキャニング等を採用してよい。図2に示されるように、荷電粒子線照射システム1は、加速器3と、照射部2と、ビーム輸送ライン21と、制御部7と、治療計画装置90と、記憶部95と、を備えている。
【0017】
加速器3は、荷電粒子を加速して予め設定されたエネルギーの荷電粒子線Bを出射する装置である。加速器3として、例えば、サイクロトロン、シンクロサイクロトロン、ライナック等が挙げられる。なお、加速器3として予め定めたエネルギーの荷電粒子線Bを出射するサイクロトロンを採用する場合、エネルギー調整部20(図1参照)を採用することで、照射部2へ送られる荷電粒子線のエネルギーを調整(低下)させることが可能となる。この加速器3は、制御部7に接続されており、供給される電流が制御される。加速器3で発生した荷電粒子線Bは、ビーム輸送ライン21によって照射部2へ輸送される。ビーム輸送ライン21は、加速器3と、エネルギー調整部20と、照射部2と、を接続し、加速器3から出射された荷電粒子線を照射部2へ輸送する。
【0018】
照射部2は、患者15の体内の腫瘍(被照射体)14に対し、荷電粒子線Bを照射するものである。荷電粒子線Bとは、電荷をもった粒子を高速に加速したものであり、例えば陽子線、重粒子(重イオン)線、電子線等が挙げられる。具体的に、照射部2は、イオン源(不図示)で生成した荷電粒子を加速する加速器3から出射されてビーム輸送ライン21で輸送された荷電粒子線Bを腫瘍14へ照射する装置である。照射部2は、走査電磁石50、四極電磁石8、プロファイルモニタ11、ドーズモニタ12、ポジションモニタ13a,13b、コリメータ40、及びディグレーダ30を備えている。走査電磁石50、各モニタ11,12,13a,13b、四極電磁石8、及びディグレーダ30は、収容体としての照射ノズル9に収容されている。このように、照射ノズル9に各主構成要素を収容することによって照射部2が構成されている。なお、四極電磁石8、プロファイルモニタ11、ドーズモニタ12、ポジションモニタ13a,13b、及びディグレーダ30は省略してもよい。
【0019】
走査電磁石50として、X軸方向走査電磁石50A及びY軸方向走査電磁石50Bが用いられる。X軸方向走査電磁石50A及びY軸方向走査電磁石50Bは、それぞれ一対の電磁石から構成され(図5参照)、制御部7から供給される電流に応じて一対の電磁石間の磁場を変化させ、当該電磁石間を通過する荷電粒子線Bを走査する。X軸方向走査電磁石50Aは、X軸方向に荷電粒子線Bを走査し、Y軸方向走査電磁石50Bは、Y軸方向に荷電粒子線Bを走査する。これらの走査電磁石50は、基軸AX上であって、加速器3よりも荷電粒子線Bの下流側にこの順で配置されている。なお、走査電磁石50は、治療計画装置90で予め計画されたスキャンパターンで荷電粒子線Bが照射されるように、荷電粒子線Bを走査する。走査電磁石50をどのように制御するかについては、後述する。
【0020】
四極電磁石8は、X軸方向四極電磁石8a及びY軸方向四極電磁石8bを含む。X軸方向四極電磁石8a及びY軸方向四極電磁石8bは、制御部7から供給される電流に応じて荷電粒子線Bを絞って収束させる。X軸方向四極電磁石8aは、X軸方向において荷電粒子線Bを収束させ、Y軸方向四極電磁石8bは、Y軸方向において荷電粒子線Bを収束させる。四極電磁石8に供給する電流を変化させて絞り量(収束量)を変化させることにより、荷電粒子線Bのビームサイズを変化させることができる。四極電磁石8は、基軸AX上であって加速器3と走査電磁石50との間にこの順で配置されている。なお、ビームサイズとは、XY平面における荷電粒子線Bの大きさである。また、ビーム形状とは、XY平面における荷電粒子線Bの形状である。
【0021】
プロファイルモニタ11は、初期設定の際の位置合わせのために、荷電粒子線Bのビーム形状及び位置を検出する。プロファイルモニタ11は、基軸AX上であって四極電磁石8と走査電磁石50との間に配置されている。ドーズモニタ12は、荷電粒子線Bの線量を検出する。ドーズモニタ12は、基軸AX上であって走査電磁石50に対して下流側に配置されている。ポジションモニタ13a,13bは、荷電粒子線Bのビーム形状及び位置を検出監視する。ポジションモニタ13a,13bは、基軸AX上であって、ドーズモニタ12よりも荷電粒子線Bの下流側に配置されている。各モニタ11,12,13a,13bは、検出した検出結果を制御部7に出力する。
【0022】
ディグレーダ30は、通過する荷電粒子線Bのエネルギーを低下させて当該荷電粒子線Bのエネルギーの微調整を行う。本実施形態では、ディグレーダ30は、照射ノズル9の先端部9aに設けられている。なお、照射ノズル9の先端部9aとは、荷電粒子線Bの下流側の端部である。
【0023】
コリメータ40は、少なくとも走査電磁石50よりも荷電粒子線Bの下流側に設けられ、荷電粒子線Bの一部を遮蔽し、一部を通過させる部材である。ここでは、コリメータ40は、ポジションモニタ13a,13bの下流側に設けられている。コリメータ40は、当該コリメータ40を移動させるコリメータ駆動部51と接続されている。
【0024】
制御部7は、例えばCPU、ROM、及びRAM等により構成されている。この制御部7は、各モニタ11,12,13a,13bから出力された検出結果に基づいて、加速器3、走査電磁石50、四極電磁石8、及びコリメータ駆動部51を制御する。
【0025】
また、荷電粒子線照射システム1の制御部7は、荷電粒子線治療の治療計画を行う治療計画装置90、及び各種データを記憶する記憶部95と接続されている。治療計画装置90は、治療前に患者15の腫瘍14をCT等で測定し、腫瘍14の各位置における線量分布(照射すべき荷電粒子線の線量分布)を計画する。具体的には、治療計画装置90は、腫瘍14に対してスキャンパターンを作成する。治療計画装置90は、作成したスキャンパターンを制御部7へ送信する。治療計画装置90が作成したスキャンパターンでは、荷電粒子線Bがどのような走査経路をどのような走査速度で描くかが計画されている。
【0026】
スキャニング法による荷電粒子線の照射を行う場合、腫瘍14をZ軸方向に複数の層に仮想的に分割し、一の層において荷電粒子線を治療計画において定めた走査経路に従うように走査して照射する。そして、当該一の層における荷電粒子線の照射が完了した後に、隣接する次の層における荷電粒子線Bの照射を行う。
【0027】
図2に示す荷電粒子線照射システム1により、スキャニング法によって荷電粒子線Bの照射を行う場合、通過する荷電粒子線Bが収束するように四極電磁石8を作動状態(ON)とする。
【0028】
続いて、加速器3から荷電粒子線Bを出射する。出射された荷電粒子線Bは、走査電磁石50の制御によって治療計画において定めたスキャンパターンに従うように走査される。これにより、荷電粒子線Bは、腫瘍14に対してZ軸方向に設定された一の層における照射範囲内を走査されつつ照射されることとなる。一の層に対する照射が完了したら、次の層へ荷電粒子線Bを照射する。
【0029】
制御部7の制御に応じた走査電磁石50の荷電粒子線照射イメージについて、図3(a)及び(b)を参照して説明する。図3(a)は、深さ方向において複数の層に仮想的にスライスされた被照射体を、図3(b)は、深さ方向から見た一の層における荷電粒子線の走査イメージを、それぞれ示している。
【0030】
図3(a)に示すように、被照射体は照射の深さ方向において複数の層に仮想的にスライスされており、本例では、深い(荷電粒子線Bの飛程が長い)層から順に、層L、層L、…層Ln-1、層L、層Ln+1、…層LN-1、層LとN層に仮想的にスライスされている。また、図3(b)に示すように、荷電粒子線Bは、走査経路TLに沿ったビーム軌道を描きながら、連続照射(ラインスキャニング又はラスタースキャニング)の場合は層Lの走査経路TLに沿って連続的に照射され、スポットスキャニングの場合は層Lの複数の照射スポットに対して照射される。荷電粒子線Bは、X軸方向に延びる走査経路TL1に沿って照射され、走査経路TL2に沿ってY軸方向に僅かにシフトし、隣の走査経路TL1に沿って照射される。このように、制御部7に制御された照射部2から出射した荷電粒子線Bは、走査経路TL上を移動する。
【0031】
次に、図4図8を参照して、走査電磁石50の制御について説明する。図4は、制御部7のうち、走査電磁石50の制御に関わる構成要素を示したブロック構成図である。図5は、走査電磁石50によって走査された荷電粒子線Bの様子を示す模式図である。図6は、変換テーブルを作成するときの工程を示す工程図である。図7は、走査電磁石50を制御するときの処理内容を示すフローチャートである。図8は、走査電磁石50を静的な条件及び動的な条件で磁場測定したときの測定結果を示すグラフである。
【0032】
図4に示すように、制御部7は、スキャンパターン情報取得部41と、変換テーブル取得部42と、設定部43と、出力部44と、を備える。
【0033】
スキャンパターン情報取得部41は、予め作成された荷電粒子線Bの被照射体に対するスキャンパターンを示すスキャンパターン情報を取得する。スキャンパターン情報取得部41は、治療計画装置90からスキャンパターン情報を取得する。本実施形態では、スキャンパターン情報は、荷電粒子線Bのエネルギーを示す情報と、荷電粒子線Bの走査位置を示す情報と、荷電粒子線Bの走査速度を示す情報と、を含む。
【0034】
ここで、スキャンパターン情報について、図5を参照しながら説明する。図5は、走査電磁石50によって走査された荷電粒子線Bの様子を示す模式図である。図5に示す荷電粒子線Bは、ある大きさのエネルギーを有しており、走査電磁石50によって走査されることで、走査経路TLに沿って照射されている。荷電粒子線Bのエネルギーを示す情報とは、走査電磁石50を通過する荷電粒子線Bのエネルギーがどの程度の大きさであるかを示す情報である。走査電磁石50が同じ磁場を発生したときでも、荷電粒子線Bのエネルギーの大小によって、荷電粒子線Bがどの程度曲がるかが変動する。例えば、図5において実線で示された荷電粒子線Bは、基軸AXに対して角度θをなすように曲がっている。荷電粒子線Bのエネルギーが図5の実線で示す状態のものから変動する場合、荷電粒子線Bの曲がり量が変動し、角度θとは異なる角度で曲がる。従って、荷電粒子線Bのエネルギーが分かる場合、所望の曲がり量とするために、走査電磁石50にどのような磁場を発生させればよいかを把握することができる。荷電粒子線Bの走査位置を示す情報とは、荷電粒子線Bの走査位置がどのような走査経路TLを描くかを示す情報である。図5では、荷電粒子線Bの走査位置を示す情報として、Y軸方向に延びる部分の走査経路TLの一部が示されている。荷電粒子線Bの走査位置が分かる場合、走査電磁石50の磁場をどのように制御すればよいかを把握できる。荷電粒子線Bの走査速度を示す情報とは、走査位置がどの程度の走査速度で走査経路TL上を移動するかを示す情報である。図5では、荷電粒子線Bが、ある走査位置P1からY軸方向の正側へ向かって走査速度V1で移動している。荷電粒子線Bの走査速度が分かる場合、例えば、ある走査位置P1から別の走査位置P2へ移動するのにどの程度の時間がかかるかを把握できる。従って、制御部7は、スキャンパターン情報を取得することで、走査経路TL上のそれぞれの箇所へ走査位置が到達するときの時刻(照射開始からカウントした時間)を把握することができる。
【0035】
図4に戻り、変換テーブル取得部42は、スキャンパターンを走査電磁石50の励磁パターンに変換する変換テーブルを取得する。変換テーブル取得部42は、予め作成されて記憶部95に格納されている変換テーブルを当該記憶部95から読み出すことによって、取得する。
【0036】
変換テーブルは、走査電磁石50を所定の条件で励磁して磁場測定を行い、当該磁場測定によって得られた測定結果に基づいて、作成される。本実施形態では、静的な条件だけではなく、動的な条件での磁場測定を行った結果を用いて、変換テーブルが作成される。静的な条件とは、時間の経過によらず、パラメータの値が特定のものに固定されるような条件である。具体的には、走査電磁石50に流す励磁電流を特定の値に設定し、当該励磁電流を流したときにおける磁束密度と有効磁極長を測定する。当該測定が終わったら、励磁電流を他の値に設定して、同様な測定を行う。このような測定を、励磁電流毎に実行する。
【0037】
一方、動的な条件とは、時間の変化によって、パラメータの値が変化してゆくような条件である。具体的には、走査電磁石50に流す励磁電流及び励磁周波数を特定の値に設定し、当該励磁周波数にて励磁電流を流したときにおける磁束密度と有効磁極長を測定する。当該測定では、走査電磁石50に流される励磁電流が、設定した励磁周波数に従った波形を描く。従って、測定中の励磁電流は、時間の経過とともに変化する。測定が終わったら、励磁電流及び励磁周波数の少なくとも一方を他の値に設定して、同様な測定を行う。このような測定を、励磁電流毎に実行する。
【0038】
上述の磁場測定によって得られた測定結果と条件とを紐づけたデータに基づいて、変換テーブルを作成する。このようにして作成された変換テーブルは、走査電磁石50の励磁の周波数に応じた情報(磁束密度、有効磁極長)を有している。例えば、図8(a)では、静磁場における磁場分布の変化、及び動磁場における磁場分布の変化を示している。図8(a)のグラフの横軸は走査方向における位置を示し、縦軸は磁場の強さを示す。図8(b)では、静磁場における有効磁極長の変化、及び動磁場における有効磁極長の変化を示している。図8(b)のグラフの横軸は荷電粒子線の進行方向における位置を示し、縦軸は有効磁極長の強さを示す。図8に示すように、磁場測定の結果は、静的な条件と動的な条件とでは、互いにずれが生じる。このようなずれは、周波数が大きくなるほど大きくなる。このように、静的な条件だけではなく、動的な条件での磁場測定に基づく変換テーブルを作成することで、磁場の掃引速度を考慮した励磁パターンに変換することができる。
【0039】
設定部43は、スキャンパターン情報に対応する走査電磁石50への電流指令値を設定する。設定部43は、磁場の掃引速度に基づいて走査電磁石50への電流指令値を設定する。設定部43は、スキャンパターンを走査電磁石50の励磁パターンに変換する変換テーブルによって、走査電磁石50への電流指令値を設定する。設定部43は、スキャンパターン情報取得部41で取得されたスキャンパターン情報(エネルギー、走査位置、走査速度)を、変換テーブル取得部42で取得された変換テーブルと照会させることによって、走査電磁石50への電流指令値を設定する。
【0040】
設定部43は、荷電粒子線Bのエネルギーと走査位置を把握しているため、当該エネルギーに係る荷電粒子線Bを所望の走査位置へ到達させるには、走査電磁石50はどのような磁場を発生すればよいかを把握できる。そして、設定部43は、そのような磁場を発生させるための走査電磁石50の励磁電流を変換テーブルから取得できるため、電流指令値を決定することができる。更に、設定部43は、荷電粒子線Bの走査速度も把握している。走査速度は、磁場の掃引速度(走査電磁石50の励磁の周波数)と関係を有するパラメータであるため、設定部43は、変換テーブルから、走査速度と対応する周波数に紐づけられた磁場を参照することができる。
【0041】
上述のように、設定部43は、スキャンパターン情報に基づいて、走査経路TL上のそれぞれの箇所へ走査位置が到達するときの時刻(照射開始からカウントした時間)を把握している。設定部43は、そのようなスキャンパターンを実現できるように、各時刻における走査電磁石50への電流指令値(励磁パターン)を設定する。
【0042】
出力部44は、設定部43で設定した走査電磁石50の電流指令値(励磁パターン)を走査電磁石50の電源へ出力する。これによって、出力部44は、治療計画装置90によって作成されたスキャンパターンで荷電粒子線Bを走査できるように、設定した励磁パターンに従って走査電磁石50を制御することができる。
【0043】
次に、図6及び図7を参照して、本実施形態に係る荷電粒子照射方法について説明する。荷電粒子線照射方法を実行する前段階には、図6に示すように、変換テーブルを作成する工程が行われる。当該工程では、静的な条件及び動的な条件での磁場測定が行われる(ステップS10)。次に、ステップS10の磁場測定によって得られた測定結果の取得が行われる(ステップS11)。次に、取得された測定結果を集計することで、変換テーブルの作成が行われる(ステップS12)。ステップS12で作成された変換テーブルは、記憶部95に格納される。以上により、図6に示す工程が終了する。
【0044】
次に、図7に示す荷電粒子線照射方法の処理内容について説明する。図7に示す処理は、荷電粒子線治療の開始時において、制御部7で行われる。図7に示すように、制御部7のスキャンパターン情報取得部41は、治療計画装置90から、スキャンパターン情報を取得する(ステップS20:スキャンパターン情報取得工程)。次に、制御部7の変換テーブル取得部42は、記憶部95に格納された変換テーブルを読み出すことによって取得する(ステップS21)。次に、制御部7の設定部43は、S20で取得されたスキャンパターン情報に対応する走査電磁石50への電流指令値を設定する(ステップS22:設定工程)。当該工程では、設定部43は、スキャンパターンを走査電磁石50の励磁パターンに変換する。ステップS22の設定工程では、磁場の掃引速度に基づいて走査電磁石50への電流指令値を設定する。ここでは、設定部43は、ステップS21で取得した変換テーブルによって、走査電磁石50への電流指令値を設定する。次に、出力部44は、ステップS22で設定した電流指令値を走査電磁石50の電源へ出力することで、走査電磁石50を設定した励磁パターンに従って制御する(ステップS23)。以上により、図7に示す処理が終了する。
【0045】
次に、本実施形態に係る荷電粒子線照射システム1、及び荷電粒子線照射方法の作用・効果について説明する。
【0046】
まず、比較例に係る荷電粒子線照射システムについて、図9を参照して説明する。変形例に係る荷電粒子線照射システムでは、設定部43は、磁場の掃引速度を考慮することなく、走査電磁石50の電流指令値を設定する。また、変換テーブルを作成する際は、動的な条件では磁場測定を行わず、静的な条件での磁場測定の測定結果だけで変換テーブルを作成する。具体的には、図9に示すように、変換テーブルを作成するときは、励磁電流、磁束密度、及び有効磁極長だけを考慮しており、図4に示すように周波数というパラメータを考慮していない。従って、スキャンパターン情報も、エネルギー及び走査位置だけを含んでおり、図4に示すように速度というパラメータを考慮していない。
【0047】
このような比較例に係る荷電粒子線照射システムでは、走査速度によっては、実際の荷電粒子線の走査位置と、予め計画した走査位置との間で誤差が生じる。従って、比較例に係る荷電粒子線照射システムは、荷電粒子線の走査位置を測定して、当該測定結果をフィードバックすることで、走査位置を補正する。しかしながら、当該方法では、走査速度が高くなる場合に、フィードバックに遅れが生じることで、走査位置の誤差を十分に補正できないという問題がある。
【0048】
これに対し、本実施形態に係る荷電粒子線照射システム1は、スキャンパターン情報に対応する走査電磁石50への電流指令値を設定する設定部43を備える。従って、設定部43は、予め作成された荷電粒子線Bのスキャンパターンを実現できるように、走査電磁石50への電流指令値を設定することができる。ここで、設定部43は、磁場の掃引速度に基づいて走査電磁石50への電流指令値を設定する。すなわち、荷電粒子線Bを高速でスキャンすることによって磁場の掃引速度が速くなる場合であっても、設定部43は、当該掃引速度の影響を考慮した上で、走査電磁石50への電流指令値を設定することができる。そのため、走査電磁石50は、走査速度が速い場合であっても、予め作成されたスキャンパターンと、実際の走査位置との間のずれを抑制した状態で、荷電粒子線Bの走査を行うことができる。以上により、荷電粒子線Bの走査速度によらず、走査位置の精度を高めることができる。
【0049】
設定部43は、スキャンパターンを走査電磁石50の励磁パターンに変換する変換テーブルによって、走査電磁石50の電流指令値を設定し、変換テーブルは、走査電磁石50の励磁の周波数に応じた情報を有している。これにより、設定部43は、変換テーブルを用いることで、励磁の掃引速度を考慮した電流指令値を設定できる。
【0050】
本実施形態に係る荷電粒子線照射方法は、走査電磁石50で荷電粒子線Bを走査することで、被照射体に対して荷電粒子線Bを照射する荷電粒子線照射方法であって、被照射体に対するスキャンパターン情報に対応する走査電磁石50への電流指令値を、走査電磁石50により生じる磁場の掃引速度に基づいて設定する設定工程と、を備える。
【0051】
この荷電粒子線照射方法によれば、上述の荷電粒子線照射システム1と同様な作用・効果を得ることができる。
【0052】
本発明は、上述の実施形態に限定されるものではない。
【0053】
例えば、上述の実施形態に係る荷電粒子線照射システムは、走査位置の精度を高めることができるため、比較例のようなフィードバック制御を不要としてもよいが、当該フィードバック制御も行ってもよい。
【0054】
また、上述の変換テーブルの作成方法などは一例にすぎず、他の方法で変換テーブルを採用してもよい。
【符号の説明】
【0055】
1…荷電粒子線照射システム、2…照射部、41…スキャンパターン情報取得部、43…設定部、50…走査電磁石。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9