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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-18
(45)【発行日】2024-06-26
(54)【発明の名称】密封装置
(51)【国際特許分類】
   F16J 15/3212 20160101AFI20240619BHJP
   F16J 15/324 20160101ALI20240619BHJP
【FI】
F16J15/3212
F16J15/324
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2020067213
(22)【出願日】2020-04-03
(65)【公開番号】P2021162135
(43)【公開日】2021-10-11
【審査請求日】2023-02-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000004385
【氏名又は名称】NOK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003177
【氏名又は名称】弁理士法人旺知国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】渡部 浩二
【審査官】後藤 健志
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2016/0146351(US,A1)
【文献】特開2015-203491(JP,A)
【文献】特開2004-257473(JP,A)
【文献】特開2017-180482(JP,A)
【文献】特開2016-008685(JP,A)
【文献】特開2018-159471(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16J 15/3204-15/324
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸部材の外周面と前記軸部材が挿入される軸孔の内周面との間の環状の隙間を封止する密封装置であって、
第1面と前記第1面の反対側の第2面とを含む板状かつ環状のシール部材であって、使用状態において前記第1面のうち内周側の接触領域が前記軸部材の外周面に接触するように湾曲するシール部材と、
前記シール部材の前記第2面に対向する板状かつ環状の板バネであって、前記使用状態において前記シール部材のうち内周側の部分を前記軸部材の外周面に押圧する板バネと、
前記シール部材および前記板バネにおける外周側の部分を支持する環状の支持体とを具備し、
前記接触領域には、前記シール部材の周方向に沿う油保持溝が形成され、
周方向の位置に応じて当該油保持溝の深さが異なる
密封装置。
【請求項2】
軸部材の外周面と前記軸部材が挿入される軸孔の内周面との間の環状の隙間を封止する密封装置であって、
第1面と前記第1面の反対側の第2面とを含む板状かつ環状のシール部材であって、使用状態において前記第1面のうち内周側の接触領域が前記軸部材の外周面に接触するように湾曲するシール部材と、
前記シール部材の前記第2面に対向する板状かつ環状の板バネであって、前記使用状態において前記シール部材のうち内周側の部分を前記軸部材の外周面に押圧する板バネと、
前記シール部材および前記板バネにおける外周側の部分を支持する環状の支持体とを具備し、
前記接触領域には、前記シール部材の周方向に沿う複数の油保持溝が、前記シール部材の内周縁に沿って配列され、
前記シール部材は、前記複数の油保持溝の各々と前記シール部材の内周縁との間に位置する側壁部を含み、
前記側壁部には、前記複数の油保持溝にそれぞれ連通する複数の供給路が形成され、
前記板バネは、前記複数の油保持溝にそれぞれ対応する複数のバネ部を含み、
前記複数のバネ部の各々の先端は、当該バネ部に対応する油保持溝に連通する前記供給路に重なる
密封装置。
【請求項3】
軸部材の外周面と前記軸部材が挿入される軸孔の内周面との間の環状の隙間を封止する密封装置であって、
第1面と前記第1面の反対側の第2面とを含む板状かつ環状のシール部材であって、使用状態において前記第1面のうち内周側の接触領域が前記軸部材の外周面に接触するように湾曲するシール部材と、
前記シール部材の前記第2面に対向する板状かつ環状の板バネであって、前記使用状態において前記シール部材のうち内周側の部分を前記軸部材の外周面に押圧する板バネと、
前記シール部材および前記板バネにおける外周側の部分を支持する環状の支持体とを具備し、
前記接触領域には、前記シール部材の内周縁に沿って複数の油保持溝が配列され、
前記板バネは、複数のバネ部を含み、
前記複数の油保持溝の各々と前記複数のバネ部の各々とは1対1に対応する
密封装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軸部材の周囲の隙間を封止するための技術に関する。
【背景技術】
【0002】
軸部材の外周面と当該軸部材が挿入される軸孔の内周面との間に形成される環状の間隙を封止する密封装置が従来から提案されている。例えば特許文献1および特許文献2には、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)等の樹脂材料で形成された板状かつ環状のシール部材を湾曲させた状態で軸部材の外周面に接触させる構造の密封装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2015-203491号公報
【文献】国際公開第2019/073808号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
軸部材が高速で回転する環境では、軸部材が低速で回転する環境と比較してシール部材と軸部材との間の摩擦が増加する。したがって、シール部材の摩耗が発生し易いという問題がある。以上の事情を考慮して、本発明は、軸部材が高速で回転する環境において当該軸部材との間の摩擦を低減することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明のひとつの態様に係る密封装置は、軸部材の外周面と前記軸部材が挿入される軸孔の内周面との間の環状の隙間を封止する密封装置であって、第1面と前記第1面の反対側の第2面とを含む板状かつ環状のシール部材であって、使用状態において前記第1面のうち内周側の接触領域が前記軸部材の外周面に接触するように湾曲するシール部材と、前記シール部材の前記第2面に対向する板状かつ環状の板バネであって、前記使用状態において前記シール部材のうち内周側の部分を前記軸部材の外周面に押圧する板バネと、前記シール部材および前記板バネにおける外周側の部分を支持する環状の支持体とを具備し、前記接触領域には、前記シール部材の周方向に沿う油保持溝が形成される。
【0006】
本発明の好適な態様においては、周方向の位置に応じて当該油保持溝の深さが異なる。具体的には、前記油保持溝は、第1端と第2端とにわたり周方向に延在し、前記油保持溝の深さは、周方向における中央部から前記第1端にかけて減少し、かつ、前記中央部から前記第2端にかけて減少する。例えば、前記油保持溝の底面は、当該油保持溝の深さが周方向に沿って連続的に変化する平面または曲面、あるいは、当該油保持溝の深さが周方向に沿って段階的に変化する階段面である。また、本発明の具体的な態様において、前記油保持溝の幅は、前記中央部から前記第1端にかけて減少し、かつ、前記中央部から前記第2端にかけて減少する。
【0007】
本発明の好適な態様において、前記シール部材は、前記油保持溝と前記シール部材の内周面との間に位置する側壁部を含み、前記側壁部には、前記油保持溝に連通する供給路が形成される。
【0008】
本発明の好適な態様において、前記接触領域には、前記油保持溝を含む複数の油保持溝が形成され、前記複数の油保持溝は、前記シール部材の内周縁に沿って配列される。さらに好適な態様において、前記シール部材は、前記複数の油保持溝の各々と前記シール部材の内周面との間に位置する側壁部を含み、前記側壁部には、前記複数の油保持溝にそれぞれ連通する複数の供給路が形成され、前記板バネは、前記複数の油保持溝にそれぞれ対応する複数のバネ部を含み、前記複数のバネ部の各々の先端は、当該バネ部に対応する油保持溝に連通する前記供給路に重なる。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、軸部材が高速で回転する環境において当該軸部材との間の摩擦を低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】使用状態における第1実施形態の密封装置の断面図である。
図2】密封装置の平面図である。
図3】密封装置の底面図である。
図4図2におけるa-a線の断面図である。
図5】板バネの平面図である。
図6】板バネの各バネ部とシール部材の各溝部との関係を示す平面図である。
図7図1におけるb-b線の断面図である。
図8】第2実施形態における油保持溝の断面図である。
図9】第3実施形態における油保持溝の断面図である。
図10】第4実施形態における溝部の平面図である。
図11】変形例におけるシール部材の平面図である。
図12】変形例における油保持溝の平面図である。
図13】変形例における油保持溝の平面図である。
図14】変形例における油保持溝の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の好適な形態について図面を参照しながら以下に説明する。なお、各図面における各要素の寸法および縮尺は実際の製品とは適宜に相違する。
【0012】
A:第1実施形態
図1は、本発明の第1実施形態に係る密封装置100の断面図である。密封装置100が使用される状態が図1には図示されている。密封装置100は、例えばEGR(Exhaust Gas Recirculation)等の排気ガス系統において軸部材11とハウジング12との隙間Gを封止するために使用される。
【0013】
図1に例示される通り、軸部材11は円柱状の構造体である。軸部材11が挿通される軸孔Hがハウジング12に形成される。密封装置100は、軸部材11の外周面F1と軸孔Hの内周面F2との間に形成される環状の隙間Gを封止するための環状の構造体である。
【0014】
軸部材11はハウジング12に対して相対的に移動する。軸部材11の相対的な移動の典型例は、軸部材11の回転である。ただし、軸方向に沿う軸部材11の往復または軸部材11の揺動も、軸部材11の相対的な移動の概念に包含される。
【0015】
以下の説明においては、密封装置100の中心軸Cを中心とする任意の半径の仮想円における円周の方向を「周方向」と表記し、当該仮想円の半径の方向を「径方向」と表記する。また、中心軸Cに沿う一方向を「X1方向」と表記し、X1とは反対の方向を「X2方向」と表記する。図1において密封装置100からみてX2方向に位置する空間Rは、密封装置100により密封されるべき流体(気体または液体)が存在する空間である。密封装置100を挟んでX2方向に位置する空間Rは、密封装置100を挟んでX1方向に位置する空間と比較して高圧である。使用状態において密封装置100からみて高圧側がX2方向に相当し、密封装置100からみて低圧側がX1方向に相当すると表現してもよい。
【0016】
図2は、密封装置100の平面図であり、図3は、密封装置100の底面図である。図2は、X2方向に位置する視点から密封装置100をみた平面図であり、図3は、X1方向に位置する視点から密封装置100をみた平面図である。また、図4は、図2におけるa-a線の断面図である。図2から図4には、隙間Gに設置されていない状態(以下「非使用状態」という)の密封装置100が図示されている。図2から図4に例示される通り、密封装置100は、シール部材20と板バネ30と支持体40とを具備する。
【0017】
シール部材20は、中心軸Cを中心とする円形状の開口が形成された環状の構造体である。シール部材20の内径は、軸部材11の外径よりも小さい。図4に例示される通り、シール部材20は、第1面S1と第2面S2とを含む板状の弾性部材である。第1面S1と第2面S2とは相互に反対側の板面である。シール部材20は、例えばPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)等の樹脂材料により、例えば0.3以上かつ0.6mm以下の板厚に形成される。PTFEは、例えばゴム等の弾性材料と比較して、耐熱性および耐圧性に優れ、かつ、摺動磨耗が少ないという優位性がある。
【0018】
板バネ30は、環状に形成された板状の構造体である。板バネ30は、例えばステンレス鋼(SUS)等の金属材料で形成された弾性部材である。板バネ30の板厚は、例えば0.05mm以上かつ0.1mm以下である。すなわち、板バネ30はシール部材20よりも薄い。図4に例示される通り、板バネ30は、第2面S2に対向する状態でシール部材20と同心に設置される。具体的には、板バネ30はシール部材20の第2面S2に密着する。板バネ30の内径は、シール部材20の内径よりも大きい。
【0019】
図5は、板バネ30の平面図である。第1実施形態の板バネ30は、図5に例示される通り、相互に間隔をあけて周方向に配列される複数のバネ部31を含む。複数のバネ部31は、板バネ30の外周側において相互に連結される。
【0020】
板バネ30は、複数の内側スリット32と複数の外側スリット33とが形成された環状の板状部材とも換言される。各内側スリット32は、板バネ30の内周縁から外周縁に向けて径方向に延在する直線状の切欠である。各外側スリット33は、板バネ30の外周縁から内周縁に向けて径方向に延在する直線状の切欠である。内側スリット32と外側スリット33とは周方向に交互に配列する。相互に隣合う2個の内側スリット32の間の部分が1個のバネ部31である。各バネ部31には外側スリット33が形成される。
【0021】
図4の支持体40は、シール部材20および板バネ30を支持する環状の構造体である。第1実施形態の支持体40は、支持環50と固定環60とを具備する。シール部材20および板バネ30は、支持環50と固定環60とにより挟持される。
【0022】
支持環50は、筒状部51と第1鍔状部52と第2鍔状部53とを含む。筒状部51は、円筒状の部分である。筒状部51の内径は、シール部材20の外径および板バネ30の外径と同等である。第1鍔状部52は、筒状部51のうちX1方向の端部から径方向の内側(中心軸C側)に向けて突出する円環状の板状部分である。第1鍔状部52の内径は、シール部材20の外径および板バネ30の外径よりも小さい。第2鍔状部53は、筒状部51のうちX2方向の端部から径方向の内側に向けて突出する円環状の板状部分である。第2鍔状部53の内径は、シール部材20の外径および板バネ30の外径よりも小さい。
【0023】
固定環60は、筒状部61と鍔状部62とを含む。筒状部61は、円筒状の部分である。筒状部61の外径は、筒状部51の内径と同等である。鍔状部62は、筒状部61のうちX1方向の端部から径方向の内側に向けて突出する円環状の板状部分である。鍔状部62の内径は、シール部材20の外径および板バネ30の外径よりも小さい。
【0024】
固定環60は支持環50に嵌合される。具体的には、固定環60は、筒状部61の外周面が筒状部51の内周面に接触した状態で、第1鍔状部52と第2鍔状部53との間に収容される。以上の状態において、支持環50の第1鍔状部52と固定環60の鍔状部62との間に、シール部材20および板バネ30の各々における外周側の部分が挟持される。
【0025】
図1に例示される通り、使用状態においては、支持環50における筒状部51の外周面が軸孔Hの内周面F2に接触する。また、軸部材11は、X2方向に沿ってシール部材20の開口に挿入される。前述の通り、シール部材20の内径は軸部材11の外径よりも小さいから、使用状態においては、シール部材20のうち内周側の部分がX2方向に向けて湾曲した状態となる。具体的には、シール部材20のうち第1面S1が伸張するとともに第2面S2が収縮するようにシール部材20は湾曲する。以上のようにシール部材20が湾曲することで、使用状態においては、シール部材20の第1面S1のうち内周側の領域(以下「接触領域」という)Qが軸部材11の外周面F1に接触する。図1および図3に例示される通り、接触領域Qは、第1面S1のうちシール部材20の内周縁から径方向の一部にわたる環状の領域である。
【0026】
図1に例示される通り、使用状態において、板バネ30の各バネ部31は、シール部材20の第2面S2に沿って湾曲する。使用状態において、各バネ部31は、弾性的な復元力により、シール部材20のうち内周側の部分を軸部材11の外周面F1に対して押圧する。以上の構成により、シール部材20の内周側の部分が軸部材11を締付ける。軸部材11の外周面F1にシール部材20の接触領域Qが密着した状態で、当該軸部材11はハウジング12に対して回転可能である。すなわち、シール部材20は軸部材11に対して摺動する。
【0027】
図1には、シール部材20の接触領域Qの拡大図が併記されている。図1および図3に例示される通り、第1面S1の接触領域Qには、相互に間隔をあけて複数の溝部21が形成される。複数の溝部21の各々は、第1面S1に対して窪んだ凹部である。図3に例示される通り、複数の溝部21は、接触領域Q内においてシール部材20の内周縁に沿って周方向に配列される。各溝部21は、例えば切削等の加工技術、またはプレス成形等の成形技術により第1面S1に形成される。
【0028】
図1に例示される通り、第1実施形態の各溝部21は、油保持溝22と供給路23とを含む平面形状に形成される。油保持溝22は、潤滑油を保持するための流路である。供給路23は、油保持溝22に潤滑油を供給するための流路である。
【0029】
油保持溝22は、第1端E1と第2端E2とにわたり周方向に延在する流路である。具体的には、油保持溝22は、第1端E1と第2端E2とにわたり流路幅が一定に維持される長方形状に形成される。供給路23は、油保持溝22とシール部材20の内周面Faとを連結する流路である。供給路23の一方の端部は、油保持溝22の中央部Mに連結される。中央部Mは、油保持溝22のうち第1端E1と第2端E2との間の中央に位置する部分である。供給路23の他方の端部は、シール部材20の内周面Faに開口する。シール部材20の内周面Faから供給路23に進入した潤滑油が、当該供給路23を介して油保持溝22に供給されたうえで当該油保持溝22に保持される。油保持溝22は、シール部材20の内周縁に沿う側壁部24により仕切られた空間とも換言される。側壁部24は、油保持溝22とシール部材20の内周縁との間に位置する円弧状の壁部である。供給路23は、側壁部24に形成された切欠である。
【0030】
図6は、シール部材20の各溝部21と板バネ30の各バネ部31との関係を例示する平面図である。図6に例示される通り、複数の溝部21の各々と複数のバネ部31の各々とは1対1に対応する。周方向における複数の溝部21の周期と周方向における複数のバネ部31の周期とは相等しい。図6に例示される通り、非使用状態において、複数の溝部21の各々と複数のバネ部31の各々とは、中心軸Cの方向に沿う平面視で相互に重なる。具体的には、各バネ部31の先端が、当該バネ部31に対応する1個の溝部21のうち供給路23に平面視で重なる。各バネ部31の先端は溝部21のうち油保持溝22には重ならない。ただし、各溝部21と各バネ部31との対応関係は以上の例示に限定されない。例えば、複数の溝部21の周期が複数のバネ部31の周期の整数倍である構成、または、複数のバネ部31の周期が複数の溝部21の周期の整数倍である構成も想定される。また、複数の溝部21と複数のバネ部31とが相異なる周期で周方向に配列されてもよい。
【0031】
図7は、図1におけるb-b線の断面図である。すなわち、油保持溝22の長手方向に沿う断面が図7には図示されている。図7に例示される通り、油保持溝22の深さは、周方向の位置に応じて変化する。具体的には、油保持溝22のうち中央部Mと第1端E1との間の第1部分P1の底面は、中央部Mの近傍の地点が第1端E1の近傍の地点よりも深くなるように第1面S1に対して傾斜する平面である。軸部材11の回転により外周面F1が第1面S1に対してY1方向に進行する場合を想定すると、第1部分P1は、Y1方向の下流側の地点ほど深さが減少する流路とも換言される。
【0032】
他方、油保持溝22のうち中央部Mと第2端E2との間の第2部分P2の底面は、中央部Mの近傍の地点が第2端E2の近傍の地点よりも深くなるように第1面S1に対して傾斜する平面である。軸部材11の回転により外周面F1が第1面S1に対してY1方向とは反対のY2方向に進行する場合を想定すると、第2部分P2は、Y2方向の下流側の地点ほど深さが減少する流路とも換言される。以上の説明から理解される通り、第1実施形態における油保持溝22の底面は、第1端E1および第2端E2の各々から中央部Mにかけて直線的に深さが増加するテーパー面である。
【0033】
以上に説明した通り、第1実施形態においては、シール部材20の第1面S1のうち軸部材11の外周面F1に接触する接触領域Qに、周方向に沿う油保持溝22が形成される。油保持溝22内の潤滑油に発生する動圧が軸部材11に作用することで、シール部材20の第1面S1と軸部材11の外周面F1との間の摩擦が低減される。したがって、軸部材11が高速に回転する高圧の環境にも密封装置100を好適に利用できる。第1実施形態においては特に、接触領域Q内に周方向に沿う複数の油保持溝22が形成されるから、軸部材11とシール部材20との間の摩擦が低減されるという効果は格別に顕著である。
【0034】
また、油保持溝22における周方向の位置に応じて当該油保持溝22の深さが異なるから、油保持溝22に保持される潤滑油のくさび効果により動圧が発生する。したがって、軸部材11とシール部材20との間の摩擦が低減されるという前述の効果は格別に顕著である。第1実施形態においては特に、中央部Mを中心とした周方向の両端(第1端E1および第2端E2)にかけて油保持溝22の深さが減少するから、軸部材11がY1方向およびY2方向の何れに回転する場合でも、くさび効果による動圧を利用できるという利点がある。
【0035】
ところで、前述の通り、シール部材20の内周側の部分は各バネ部31により押圧される。バネ部31からシール部材20に作用する押圧力は、バネ部31の先端において局所的に増大するという傾向がある。したがって、例えば非使用状態においてバネ部31の先端が油保持溝22に重なる構成では、使用状態において油保持溝22がバネ部31により押圧されることで変形し(例えば油保持溝22が潰れ)、油保持溝22内に充分な動圧が発生しない可能性がある。以上の事情を考慮して、第1実施形態においては、前述の通り、非使用状態においてバネ部31の先端が溝部21のうち供給路23に重なる。以上の構成によれば、バネ部31の先端は油保持溝22に重ならないから、使用状態において各油保持溝22がバネ部31からの押圧により変形することが抑制される。したがって、使用状態において油保持溝22内に充分な動圧を発生させることが可能である。また、第1実施形態においては、図7から理解される通り、供給路23の深さが、油保持溝22の深さの最大値(具体的には中央部Mにおける深さ)よりも大きい。したがって、バネ部31からの押圧により供給路23が変形したとしても、当該供給路23が完全に閉塞されることはない。すなわち、油保持溝22に潤滑油を供給する供給路23の機能は維持される。
【0036】
B:第2実施形態
図8は、第2実施形態における油保持溝22の断面図(図7に対応する断面)である。第1実施形態の油保持溝22の底面は、前述の通り、第1面S1に対して傾斜する平面である。第2実施形態における油保持溝22の底面は、図8に例示される通り、当該油保持溝22の深さが周方向に沿って連続的に変化する曲面で構成される。なお、油保持溝22の平面形状は第1実施形態と同様である。
【0037】
具体的には、油保持溝22のうち第1部分P1の底面は、中央部Mの近傍の地点が第1端E1の近傍の地点よりも深くなるように湾曲した曲面である。同様に、油保持溝22のうち第2部分P2の底面は、中央部Mの近傍の地点が第2端E2の近傍よりも深くなるように湾曲した曲面である。第2実施形態においても第1実施形態と同様の効果が実現される。
【0038】
C:第3実施形態
図9は、第3実施形態における油保持溝22の断面図(図7に対応する断面)である。第1実施形態および第2実施形態における油保持溝22の底面は、周方向に沿って深さが連続的に変化する面(平面または曲面)である。第3実施形態における油保持溝22の底面は、当該油保持溝22の深さが周方向に沿って段階的に変化する階段面である。すなわち、油保持溝22の底面には複数の段差が形成される。
【0039】
具体的には、油保持溝22のうち第1部分P1の底面は、中央部Mの近傍の地点が第1端E1の近傍の地点よりも深くなるように複数の段差が周方向に配列された階段面である。同様に、油保持溝22のうち第2部分P2の底面は、中央部Mの近傍の地点が第2端E2の近傍よりも深くなるように複数の段差が周方向に配列された階段面である。第3実施形態においても第1実施形態と同様の効果が実現される。
【0040】
D:第4実施形態
図10は、第4実施形態における溝部21の平面図である。第1実施形態における油保持溝22の平面形状は、第1端E1と第2端E2とにわたり流路幅が一定に維持される長方形状である。第4実施形態における油保持溝22は、流路幅が周方向に沿って変化する平面形状に形成される。油保持溝22の流路幅は、第1面S1に垂直な方向からの平面視において当該油保持溝22の長手方向に直交する方向における当該油保持溝22の寸法である。
【0041】
図10に例示される通り、油保持溝22の流路幅は、中央部Mから第1端E1にかけて連続的に減少し、かつ、中央部Mから第2端E2にかけて連続的に減少する。すなわち、中央部Mにおける流路幅Wmは、第1端E1における流路幅We1および第2端E2における流路幅We2よりも大きい(Wm>We1,Wm>We2)。
【0042】
第4実施形態においても第1実施形態と同様の効果が実現される。また、第4実施形態においては、油保持溝22の流路幅が中央部Mから第1端E1または第2端E2にかけて減少するから、流路幅が一定である第1実施形態と比較して、油保持溝22に保持される潤滑油のくさび効果が大きい。したがって、軸部材11とシール部材20との間の摩擦が低減されるという前述の効果は格別に顕著である。
【0043】
なお、油保持溝22の底面が曲面で構成される第2実施形態の構成、および、油保持溝22の底面が階段面で構成される第3実施形態の構成は、第4実施形態にも同様に適用される。
【0044】
E:変形例
以上に例示した各態様に付加される具体的な変形の態様を以下に例示する。以下の例示から任意に選択された2以上の態様を、相互に矛盾しない範囲で適宜に併合してもよい。
【0045】
(1)前述の各形態においては、シール部材20の内周縁に沿う側壁部24により油保持溝22が仕切られた構成を例示したが、側壁部24および供給路23は省略されてもよい。例えば、図11に例示される通り、シール部材20の内周面Faに連続するように複数の油保持溝22が形成されてもよい。ただし、側壁部24が省略された構成においては、油保持溝22内の潤滑油に発生した動圧が散逸し易い。前述の各形態のように側壁部24を具備する構成によれば、油保持溝22内に潤滑油が保持され易いから、当該油保持溝22内に発生する動圧の散逸が抑制される。したがって、シール部材20と軸部材11との間の摩擦を低減する観点からは、前述の各形態の例示のように側壁部24が形成された構成が、図11の構成よりも有利である。
【0046】
(2)前述の各形態においては、供給路23が連通する中央部Mから第1端E1までの第1部分P1と、第1端E1とは反対側の第2端E2までの第2部分P2とを、油保持溝22が含む構成を例示したが、油保持溝22の形状は以上の例示に限定されない。
【0047】
例えば、外周面F1が第1面S1に対してY1方向に進行する片方向のみに軸部材11が回転する構成では、図12に例示される通り、油保持溝22から第2部分P2が省略されてもよい。すなわち、油保持溝22は、供給路23に連通する端部Eaと当該端部EaのY1方向に位置する第1端E1とにわたる平面形状に形成される。油保持溝22の深さは、第1端E1から端部Eaにかけて連続的または段階的に増加する。
【0048】
また、例えば、外周面F1が第1面S1に対してY2方向に進行する片方向のみに軸部材11が回転する構成では、図13に例示される通り、油保持溝22から第1部分P1が省略されてもよい。すなわち、油保持溝22は、供給路23に連通する端部Eaと当該端部EaのY2方向に位置する第2端E2とにわたる平面形状に形成される。油保持溝22の深さは、第2端E2から端部Eaにかけて連続的または段階的に増加する。
【0049】
図12および図13の何れの構成においても、油保持溝22の深さは、外周面F1が第1面S1に対して進行する方向(Y1,Y2)の下流側の地点ほど減少するように、周方向に沿って連続的または段階的に変化する。
【0050】
(3)前述の各形態においては、油保持溝22の深さが周方向に沿って変化する構成を例示したが、図14に例示される通り、周方向の全体にわたり深さが一定に維持される形状の油保持溝22を第1面S1に形成してもよい。図14の油保持溝22の底面は、第1面S1に平行な平面である。以上のように底面が平坦な油保持溝22でも、深さが充分に小さい構成によれば、潤滑油に動圧を発生させることが可能である。ただし、潤滑油のくさび効果により動圧を発生させる観点からは、前述の各形態の例示の通り、油保持溝22の深さが周方向に沿って変化する構成が好適である。なお、油保持溝22の底面が平面および曲面の双方を含む構成、または、第1面S1に対する傾斜面と第1面S1に平行な平面との双方を含む構成も想定される。
【0051】
(4)前述の各形態においては、接触領域Q内に複数の溝部21が形成された構成を例示したが、接触領域Qに形成される溝部21の個数は任意である。例えば、接触領域Qに1個の溝部21のみが形成された構成も想定される。ただし、動圧の発生により軸部材11とシール部材20との間の摩擦を低減する観点からは、軸部材11の周方向に沿う複数の溝部21が接触領域Qに形成された構成が好適である。
【符号の説明】
【0052】
100…密封装置、11…軸部材、12…ハウジング、H…軸孔、G…隙間、20…シール部材、21…溝部、22…油保持溝、23…供給路、24…側壁部、30…板バネ、31…バネ部、32…内側スリット、33…外側スリット、40…支持体、50…支持環、51…筒状部、52…第1鍔状部、53…第2鍔状部、60…固定環、61…筒状部、62…鍔状部。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14