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特許7506516光硬化型水性インクジェット印刷用インク組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-18
(45)【発行日】2024-06-26
(54)【発明の名称】光硬化型水性インクジェット印刷用インク組成物
(51)【国際特許分類】
   C09D 11/30 20140101AFI20240619BHJP
   B41J 2/01 20060101ALI20240619BHJP
   B41M 5/00 20060101ALI20240619BHJP
【FI】
C09D11/30
B41J2/01 501
B41M5/00 120
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2020077802
(22)【出願日】2020-04-24
(65)【公開番号】P2021172739
(43)【公開日】2021-11-01
【審査請求日】2023-02-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000105947
【氏名又は名称】サカタインクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110004152
【氏名又は名称】弁理士法人お茶の水内外特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100162396
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 泰之
(74)【代理人】
【識別番号】100214363
【弁理士】
【氏名又は名称】安藤 達也
(72)【発明者】
【氏名】中島 興範
(72)【発明者】
【氏名】金城 潤
(72)【発明者】
【氏名】塩崎 大悟
【審査官】橋本 栄和
(56)【参考文献】
【文献】特表2017-524750(JP,A)
【文献】国際公開第2015/131027(WO,A1)
【文献】特開2012-102259(JP,A)
【文献】特開2012-062451(JP,A)
【文献】特開2013-040267(JP,A)
【文献】特開2012-025834(JP,A)
【文献】特開2011-195822(JP,A)
【文献】特開2004-323753(JP,A)
【文献】特開2012-052066(JP,A)
【文献】特開2007-314611(JP,A)
【文献】特開2019-005992(JP,A)
【文献】特開2021-084943(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 11/30
B41J 2/01
B41M 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
色材、
N-1置換アクリルアミド(2以上のN-1置換アクリルアミド基を有する化合物を除く)及びエポキシアクリレートオリゴマーを含む水溶性重合性化合物、
光重合開始剤、及び
光硬化型水性インクジェット印刷用インク組成物中10.0~40.0質量%の水
を含有する光硬化型水性インクジェット印刷用インク組成物。
【請求項2】
N-1置換アクリルアミドを光重合性成分全体に対し10.0~30.0質量%含有する請求項1に記載の光硬化型水性インクジェット印刷用インク組成物。
【請求項3】
アクリロイルモルホリン及び/又はジエチルアクリルアミドを含有する請求項1又は2に記載の光硬化型水性インクジェット印刷用インク組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクの製造時において、顔料および顔料分散剤を除く成分を混合した際の混和性、印刷時の硬化性、印刷塗膜の密着性及び耐水性に優れる光硬化型水性インクジェット印刷用インク組成物、及びそれを用いて得られる印刷物に関する。
【背景技術】
【0002】
光重合性の水性インクジェット用インク組成物は、溶媒として水を使用するために、有機溶媒を使用するインク組成物に対して、環境面において優れる。
そして、特許文献1に示すように、インク組成物の経時安定性と耐擦過性を向上させるために、N-イソプロピルアクリルアミド等を含有する、水の含有割合が50重量%以上の紫外線硬化性水性インクジェット用インキが知られている。ところが、顔料および顔料分散剤を除く成分を混合した際の混和性、印刷時の硬化性、印刷塗膜の密着性及び耐水性のすべての点で優れる光硬化型水性インクジェット印刷用インク組成物を得ることまでは記載されていない。そして、上記の光硬化型水性インクジェット印刷用インク組成物によっては、これらの高度な要求を満足することができなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2013-43945号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明が解決する課題は、顔料および顔料分散剤を除く成分を混合した際の混和性、印刷時の硬化性、印刷塗膜の密着性及び耐水性のすべての点で優れる光硬化型水性インクジェット印刷用インク組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記の課題を解決するため鋭意研究した結果、特定の組成とすることにより、上記課題を解決しうることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は以下のとおりである。
1.色材、N-1置換アクリルアミドを含む水溶性重合性化合物、光重合開始剤、及び光硬化型水性インクジェット印刷用インク組成物中10.0~45.0質量%の水を含有する光硬化型水性インクジェット印刷用インク組成物。
2.N-1置換アクリルアミドを光重合性成分全体に対し10.0~30.0質量%含有する1に記載の光硬化型水性インクジェット印刷用インク組成物。
3.エポキシアクリレートオリゴマーを含有する1又は2に記載の光硬化型水性インクジェット印刷用インク組成物。
4.アクリロイルモルホリン及び/又はジエチルアクリルアミドを含有する1~3のいずれかに記載の光硬化型水性インクジェット印刷用インク組成物。
【発明の効果】
【0006】
本発明の光硬化型水性インクジェット印刷用インク組成物は、顔料および顔料分散剤を除く成分を混合した際の混和性、印刷時の硬化性、印刷塗膜の密着性及び耐水性のすべての点で優れる。
【発明を実施するための形態】
【0007】
(色材)
本発明の光硬化型水性インクジェット印刷用インク組成物に含有される色材としては、従来から光硬化型水性インクジェット印刷用インク組成物に使用されている公知の有機着色顔料及び無機着色顔料から、選択して使用することが好ましい。
有機着色顔料の具体例としては、アゾ系、アゾメチン系、ポリアゾ系、フタロシアニン系、キナクリドン系、アンスラキノン系、インジゴ系、チオインジゴ系、キノフタロン系、ベンツイミダゾロン系、イソインドリン系、イソインドリノン系等の有機着色顔料が挙げられ、具体的な例をカラーインデックスで示すと、ピグメントブラック7、ピグメントブルー15、15:1、15:3、15:4、15:6、60、ピグメントグリーン7、36、ピグメントレッド9、48、49、52、53、57、97、122、149、168、177、178、179、206、207、209、242、254、255、ピグメントバイオレット19、23、29、30、37、40、50、ピグメントイエロー12、13、14、17、20、24、74、83、86、93、94、95、109、110、117、120、125、128、137、138、139、147、148、150、151、154、155、166、168、180、185、ピグメントオレンジ36、43、51、55、59、61、71、74等が挙げられる。
本発明のインク組成物中の有機着色顔料の含有量としては、1.0~10.0質量%が好ましい。
【0008】
(カーボンブラック)
無機着色顔料として、従来からインクジェットで使用されているカーボンブラックを使用できるが、平均一次粒子径が小さいほど得られる着色画像の耐擦過性および光沢性は向上する傾向にあり、平均一次粒子径で15~40nmが好ましく、20~30nmがより好ましい。
カーボンブラックの平均一次粒子径は次のように求めた値を意味する。すなわち、まず、透過型電子顕微鏡(TEM)でカーボンブラックの凝集体の画像を写真撮影したときに、写真上の凝集体の画像同士が重なり合わない程度の濃度とした、カーボンブラックをクロロホルム中に十分に希釈分散させた分散液を調製する。次いで、コロジオン膜付メッシュ上に展開して乾燥し、その状態で写真撮影してTEM写真(引き延ばし後の倍率3万倍)を得る。そして、TEM写真をスキャナーで読み取り、画像信号をデジタル化した後、コンピューターに入力し、画像解析によって各凝集体の面積を求める。更に、各凝集体の面積と凝集した一次粒子の個数から、一次粒子の平均面積を求め、それと同面積を有する円の直径を算術的に一次粒子の平均粒子径とする。最終的に凝集体の全部あるいは特定の個数における一次粒子の平均粒子径を算術平均して平均一次粒子径とする。
【0009】
本発明においてカーボンブラックを含有させる際の含有量は光硬化型水性インクジェット印刷用インク組成物全体に対して1~12質量%であり、好ましくは2~6質量%である。その含有量が1質量%未満であると、得られた画像の濃度が低くなり、12質量%を超えるとインクジェット用インク組成物の吐出安定性が低下することが懸念される。
また、使用するカーボンブラックとしては、比表面積が80~150m/gが好ましく、100~130m/gがより好ましい。この範囲であると着色画像の耐擦過性およびベタ埋まり、モタリング発生防止性等の点で特に好ましい。
また、 使用するカーボンブラックとしては、酸性カーボンブラックが好ましく、pHが2.5~4.0がより好ましい。
上記したカーボンブラックの比表面積はJIS K6217に準拠して測定した窒素吸着比表面積を、pHはJIS K6221に準拠して測定したpH値を指す。
そのようなカーボンブラックとしては、三菱カーボンブラックMA7、MA77、MA8、MA11、MA100、MA220等が挙げられる。
【0010】
(その他の無機着色顔料)
その他の無機着色顔料としては、酸化チタン、亜鉛華、酸化亜鉛、リトポン、酸化鉄、二酸化ケイ素、カオリナイト、モンモリロナイト、タルク、硫酸バリウム、炭酸カルシウム、シリカ、カドミウムレッド、べんがら、モリブデンレッド、クロムバーミリオン、モリブデートオレンジ、黄鉛、クロムイエロー、カドミウムイエロー、黄色酸化鉄、チタンイエロー、酸化クロム、ビリジアン、コバルトグリーン、チタンコバルトグリーン、コバルトクロムグリーン、群青、ウルトラマリンブルー、紺青、コバルトブルー、セルリアンブルー、マンガンバイオレット、コバルトバイオレット、マイカ等が例示できる。
これら無機着色顔料は、本発明による効果を毀損しない範囲において、1種もしくは2種以上を混合して用いることができ、その使用量は、光硬化型水性インクジェット印刷用インク組成物全量に対して0.5~10.0質量%であり、より好ましくは2.0~7.0質量%である。顔料の使用量が0.5質量%より少ないと着色力が充分でない傾向があり、これらの無機着色顔料を含有させる効果を十分に発揮できない可能性がある。一方10.0質量%より多くなると粘度が上昇し、インクの流動性が低下する傾向がある。
【0011】
(顔料分散剤)
本発明の光硬化型水性インクジェット印刷用インク組成物が顔料を有する際に含有しても良い顔料分散剤としては、イオン性または非イオン性の界面活性剤や、アニオン性、カチオン性またはノニオン性の高分子化合物等である。
中でも高分子化合物であるものが好ましく、例えば、特開2004-083872号公報、国際公開WO2003/076527号公報、国際公開WO2004/000950号公報に記載されているカルボジイミド系化合物、塩基性官能基含有共重合物であるアジスパーPB821、822(味の素ファインテクノ社製)(酸価及びアミン価が共に10~20mgKOH/g)、ソルスパース32000(ルーブリゾール社製)、ソルスパース56000(ルーブリゾール社製)、ソルスパース39000(ルーブリゾール社製)、DISPERBYK(ビックケミー社製)等が好ましい。これら顔料分散剤は1種または2種以上を混合して使用できる。
なお、上記顔料分散剤は、顔料の種類、使用する有機溶剤の種類に応じて適宜選択して使用する。
【0012】
(N-1置換アクリルアミド)
本発明中のN-1置換アクリルアミドは、アクリルアミドのアミド基の窒素原子に結合した2つの水素原子のうち、1つのみが置換された化合物である。
N-1置換アクリルアミドとしては、N-イソプロピルアクリルアミド、ジアセトンアクリルアミド、ジメチルアミノプロピルアクリルアミド、ヒドロキシエチルアクリルアミド、ジヒドロキシエチルアクリルアミド、メチロールアクリルアミド、メトキシメチルアクリルアミド、エトキシメチルアクリルアミド、プロポキシメチルアクリルアミド等が挙げられる。
本発明の光硬化型水性インクジェット印刷用インク組成物が含有する光重合性成分全体中のN-1置換アクリルアミドの含有量は、5.0質量%以上が好ましく、10.0質量%以上がより好ましく、12.0質量%以上が更に好ましい。また35.0質量%以下が好ましく、30.0質量%以下がより好ましく、25.0質量%以下が更に好ましい。
5.0質量%未満であると、N-1置換アクリルアミドを含有させることによる効果を十分に発揮できない可能性があり、35.0質量%を超えても、更に効果を向上させることができない可能性がある。
【0013】
(N-1置換アクリルアミド以外の水溶性重合性化合物)
本発明の光硬化型水性インクジェット印刷用インク組成物は、N-1置換アクリルアミド以外の水溶性重合性化合物を含有することができる。このような重合性化合物は水性媒体に溶解又は分散される化合物である。なかでも水性媒体に溶解されることが好ましい。
そのような化合物としては、水溶性ラジカル重合性不飽和結合を有する化合物、又は水分散性ラジカル重合性不飽和結合を有する化合物であれば良い。そして、側鎖又は末端に、水酸基、カルボキシル基、アミノ基、アミド基、スルホン酸基、リン酸基あるいはポリオキシエチレン鎖等の親水性基と、(メタ)アクリロイル基、ビニル基、アリル基等のラジカル重合性基とを共に有する化合物、及びこれらの塩化合物であるモノマーあるいはオリゴマーを使用できる。
【0014】
このような化合物の例として、以下のものが挙げられる。
水酸基を有するモノマーとして、(メタ)アクリルモノマー類としては、例えば、多価アルコールの(メタ)アクリル酸エステル、多価アルコールのグリシジルエーテルの(メタ)アクリル酸エステル、ポリエチレングリコールの(メタ)アクリル酸エステル、多価アルコールのエチレンオキシド付加化合物の(メタ)アクリル酸エステル、多塩基酸無水物と水酸基含有(メタ)アクリル酸エステルとの反応物などの紫外線硬化型モノマーが挙げられ、また水酸基を有するオリゴマーが挙げられる。
前記多価アルコールは、アルキレンジオールの付加により内部にアルキレンオキシド鎖で鎖延長されたものでもよい。
水酸基を有するモノマーの中でも、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、を採用することが好ましい。
このような水酸基を有する単官能モノマーの含有量は、光硬化型水性インクジェット印刷用インク組成物の光重合性成分全体中の10.0質量%以上が好ましく、20.0質量%以上がより好ましい。また50.0質量%以下が好ましく、40.0質量%以下がより好ましい。
【0015】
また、ポリオール化合物から誘導される1分子中に2以上の(メタ)アクリロイル基を有する(メタ)アクリル酸エステルも用いることができる。ポリオール化合物としては、例えば、グリコール類の縮合物、オリゴエーテル、オリゴエステル類等が挙げられる。
エポキシ化合物の(メタ)アクリレートエステル化合物であるオリゴマーを含有させなくても良いが、含有させる場合には、好ましくはエポキシアクリレートオリゴマー等であって、その含有量は、光硬化型水性インクジェット印刷用インク組成物の光重合性成分全体中の3.0質量%以上が好ましく、6.0質量%以上がより好ましい。また15.0質量%以下が好ましく、12.0質量%以下がより好ましい。
なお、ポリアルキレングリコールジ(メタ)アクリレートは含有させなくても良いが、させても良い。含有させる場合には、密着性を低下させない範囲の含有量に留める必要がある。よって、光硬化型水性インクジェット印刷用インク組成物の光重合性成分全体中の5.0質量%以下が好ましく、3.0質量%以下がより好ましい。
【0016】
更に、ノニオン性の重合性化合物として、糖類、2糖類などの2以上の水酸基を有するポリオールの(メタ)アクリル酸エステル又は;トリエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリスヒドロキシアミノメタン、トリスヒドロキシアミノエタン等との(メタ)アクリル酸エステルを含有させても良く、させなくても良い。
【0017】
また、ノニオン性の重合性化合物としては、N-1置換アクリルアミド以外の、分子内に(メタ)アクリルアミド構造を有するアクリロイルモルホリン、N-2置換(メタ)アクリルアミドであるジメチルアクリルアミド、ジエチルアクリルアミド等の水溶性の重合性化合物でも良い。なお、N-2置換(メタ)アクリルアミドは、アクリルアミドのアミド基の窒素原子に結合した2つの水素原子がいずれも置換された化合物である。
但し、N-2置換(メタ)アクリルアミドを含有させないことが好ましい。
N-2置換(メタ)アクリルアミドを含有する場合には、光重合性成分全体中のN-2置換(メタ)アクリルアミドの含有量は、20.0質量%以上が好ましく、30.0質量%以上がより好ましい。また60.0質量%以下が好ましく、50.0質量%以下がより好ましい。
アクリロイルモルホリンを含有させなくても良いが、アクリロイルモルホリンを含有する場合の含有量は、光硬化型水性インクジェット印刷用インク組成物の光重合性成分全体中の20.0質量%以上が好ましく、30.0質量%以上がより好ましい。また60.0質量%以下が好ましく、50.0質量%以下がより好ましい。
本発明において、アクリロイルモルホリンとN-2置換(メタ)アクリルアミドを併用しても良く、それぞれを単独で使用しても良い。
【0018】
カチオン性の重合性化合物は、カチオン性基と不飽和二重結合等の重合性基とを有する化合物である。カチオン性の重合性化合物を含有することでインク組成物のカチオン性が強くなる。なお、カチオン性の重合性化合物を含有させても良いが、させなくても良い。
前記カチオン性の重合性化合物としては、例えば、N,N-ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N-ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリレート、N,N-ジメチルアミノ(メタ)アクリルアミド、N,N-ジメチルアミノエチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド、及びこれらの4級化化合物等が挙げられる。
また、アミノ基及び/又はアミド基を有するオリゴマーを採用できる。そのようなオリゴマーは、分子内に2個の光重合性官能基及び2個のアミノ基を有するアクリル化アミン化合物のオリゴマーであるCN371、CN373、CN383、CN386(サートマー社製)等のアクリル化アミン化合物である。
アミノ基及び/又はアミド基を有するオリゴマーを含有しなくても良いが、含有する際には、光硬化型水性インクジェット印刷用インク組成物の光硬化性成分全体中の、アミノ基及び/又はアミド基を有するオリゴマーの含有割合は任意に決定できる。しかしながら、0.5質量%以上とすることが好ましく、更に好ましくは1.0質量% 以上、より好ましくは1.5質量%以上である。また、20.0質量%以下が好ましく、更に好ましくは10.0質量%以下、より好ましくは5.0質量%以下である。含有量が0.5質量%未満であると添加した効果を十分に発揮できない可能性があり、20.0質量%を超えると光硬化型水性インクジェット印刷用インク組成物の性質のバランスを毀損する可能性がある。
【0019】
含有できる含窒素不飽和モノマーとしては、N-ビニルピロリドン、N-ビニルアセトアミド等を使用できる。
含有できるカルボキシル基含有不飽和モノマーとしては、(メタ)アクリル酸、マレイン酸、マレイン酸ハーフエステル、フマル酸、フマル酸ハーフエステル等、及びその塩類がある。
【0020】
本発明において、N-1置換アクリルアミド以外の水溶性重合性化合物の含有量は、本発明の光硬化型水性インクジェット印刷用インク組成物の光重合性成分全体中、30.0~65.0質量%が好ましく、40.0~60.0質量%がより好ましく、50.0~55.0質量%が更に好ましい。
多官能の光重合性モノマーを含有させなくても良いが、含有させるときの含有量は、本発明の光硬化型水性インクジェット印刷用インク組成物の光重合性成分全体中に1.0~17.0質量%が好ましく、2.0~10.0質量%がより好ましい。
但し、エーテル構造含有(メタ)アクリレート化合物やN置換環状アミド化合物を含有しても良く、又は含有しなくても良い。
【0021】
なお、本発明の光硬化型水性インクジェット印刷用インク組成物の性能が低下しない範囲内で、水溶性の樹脂、例えば、アクリル樹脂、塩化ビニル系樹脂、塩化ビニル-酢酸ビニル系樹脂及びエチレン-酢酸ビニル系樹脂、スチレン-アクリル系樹脂、セルロース系樹脂等を併用することも可能である。
【0022】
(溶剤)
本発明の光硬化型水性インクジェット印刷用インク組成物は水を含有する。光硬化型水性インクジェット印刷用インク組成物中の水の含有量は、10.0質量%以上が好ましく、25.0質量%以上がより好ましく、30.0質量%以上が更に好ましい。また45.0質量%以下が好ましく、40.0質量%以下がより好ましく、37.0質量%以下が更に好ましい。
本発明の光硬化型水性インクジェット印刷用インク組成物は、有機溶剤を含有しなくても良く、又は、水溶性有機溶剤を、本発明の効果を毀損しない範囲で含有しても良い。
本発明の光硬化型水性インクジェット印刷用インク組成物に含有しても良い水溶性有機溶剤としては、アルコール系溶媒、ケトン系溶媒及びエーテル系溶媒が好ましく挙げられる。アルコール系溶媒としては、イソプロピルアルコール、n-ブタノール、t-ブタノール、エタノール等が挙げられる。ケトン系溶媒としては、アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、メチルイソブチルケトン等が挙げられる。エーテル系溶媒としては、ジブチルエーテル、ジオキサン等が挙げられる。これらの溶媒の中では、メチルエチルケトン等のケトン系溶媒とイソプロピルアルコール等のアルコール系溶媒が好ましい。
これらの水溶性有機溶剤を含有する場合には、水100.0質量部に対して、50.0質量部以下が好ましく、30.0質量部以下がより好ましく、25.0質量部以下が更に好ましい。
【0023】
(光重合開始剤)
光重合開始剤としては、2,4,6-トリメチルベンゾイルフェニルフォスフィン酸エチル(TPO-L)、2,4,6-トリメチルベンゾイル-ジフェニル-フォスフィンオキサイド(商品名:TPO、Lambson社製)、2,4,6-トリメチルベンゾイルフェニルフォスフィン酸エチルビス(商品名:TPOL)、(2,4,6-トリメチルベンゾイル)-フェニルフォスフィンオキサイド(商品名:IRGACURE819、BASF社製)等を使用できる。
光重合開始剤の含有量は、好ましくは光重合性成分の総質量に対して3~25質量%の範囲であり、より好ましくは5~15質量%の範囲である。
この範囲とすることは、インク組成物の吐出性、硬化性及び保存安定性をバランス良く維持する点において重要である。
なお、エチレンオキシド構造を有する光重合開始剤を採用してもしなくても良い。
【0024】
(増感剤)
本発明の光硬化型水性インクジェット印刷用インク組成物には、更に、発光ダイオード(LED)を光源とした紫外線に対する硬化性を促進するために、主に400nm以上の紫外線の波長域で光吸収特性を有し、その範囲の波長の光により硬化反応の増感機能が発現する光増感剤(化合物)を、光重合開始剤と共に併用することができる。
そのような増感剤としては、溶解できる範囲内の、アントラセン系増感剤、チオキサントン系増感剤等で、好ましくは、チオキサントン系増感剤である。これらは単独又は2種以上を併用できる。
具体的には、9,10-ジブトキシアントラセン、9,10-ジエトキシアントラセン、9,10-ジプロポキシアントラセン、9,10-ビス(2-エチルヘキシルオキシ)アントラセン等のアントラセン系増感剤、2,4-ジエチルチオキサントン、2-イソプロピルチオキサントン、4-イソプロピルチオキサントン等のチオキサントン系増感剤を挙げることができる。市販品の代表例としては、アントラセン系増感剤では、DBA、DEA(川崎化成工業社製)、チオキサントン系増感剤では、DETX、ITX(Lambson社製)等が例示できる。
増感剤の含有量は、好ましくは光重合性成分の総質量に対して0~8.0質量%である。8.0質量%を超えても効果の向上が見られず、過剰添加となり好ましくない。
なお、増感剤として、チオキサントン系増感剤を使用した場合は、光硬化型水性インクジェット印刷用インク組成物を黄色に変色させる傾向があるため、顔料に基づく色(本来の色相)より黄味がかった色相になるので、色毎に、チオキサントン系増感剤の含有量を適宜決めることが好ましい。
具体的には、色味の変化の影響を受けやすいホワイトインク組成物及びクリアーインク組成物では、増感剤として、チオキサントン化合物は含まないようにすることが好ましい。また、マゼンタインク組成物、シアンインク組成物では、色相の変化が問題となるので、色相に問題が生じない範囲で使用することが好ましい。また、ブラックインク組成物、及びイエローインク組成物は、変色があっても色相に影響しないのと、光重合性が他の色相より乏しいことから、増感剤として、チオキサントン系化合物を併用することが好ましい。
【0025】
(その他成分)
更に、本発明の光硬化型水性インクジェット印刷用インク組成物には、必要に応じて、界面活性剤、可塑剤、重合禁止剤、BYK-333等のシリコン系表面調整剤、紫外線防止剤、光安定化剤、酸化防止剤等の種々の添加剤を使用することができる。
【0026】
(光硬化型水性インクジェット印刷用インク組成物の製造)
本発明の光硬化型水性インクジェット印刷用インク組成物を製造する方法について説明する。
本発明の光硬化型水性インクジェット印刷用インク組成物は、例えば、湿式サーキュレーションミル、ビーズミル、ボールミル、サンドミル、アトライター、ロールミル、DCPミル、アジテータ、ヘンシェルミキサー、コロイドミル、超音波ホモジナイザー、高圧ホモジナイザー(マイクロフルイダイザー、ナノマイザー、アルティマイザー、ジーナスPY、DeBEE2000等)、パールミル等の分散機を使用して分散混合して得ることができる。
本発明の光硬化型水性インクジェット印刷用インク組成物中における溶媒含有量は、インク組成物全量から、各固形分、必要により使用するその他の添加剤の合計量を差し引いた量であるが、インク粘度が適切な範囲内になるように適宜変更するのが好ましい。
このようにして得られた本発明の光硬化型水性インクジェット印刷用インク組成物は、少なくとも表面層が紙や塩化ビニル系重合体やエチレン-酢酸ビニル系共重合体等の樹脂からなる基材に、インクジェット用プリンターを用いて使用できる。
【0027】
(用途)
本発明の光硬化型水性インクジェット印刷用インク組成物は、紙基材を含む周知の用途に使用することができるが、なかでも特に密着性や耐水性が要求され、かつ非吸収性材料からなる基材の表面層に対して使用する場合に適している。非吸収性材料としては金属、樹脂、セラミック等の材質を問わないが、中でも樹脂を基材とする表面層に対して使用すること、更に、該樹脂として塩化ビニル系重合体またはエチレン-酢酸ビニル系共重合体、塩化ビニル樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート等からなる表面層を対象にして使用することが、耐水性等の点において好ましい。また、該樹脂としてポリエチレンテレフタレート(PET)、塩化ビニル樹脂、ポリカーボネート、ターポリン、アクリル系樹脂等からなる表面層を対象にして使用することが、密着性等の点において好ましい。
【0028】
本発明の光硬化型水性インクジェット印刷用インク組成物を印字、硬化する方法として、具体的には、本発明の光硬化型水性インクジェット印刷用インク組成物をインクジェットヘッドにより基材に吐出した後、基材に着弾した本発明のインク組成物の塗膜を光で露光し硬化させる方法が挙げられる。さらに、光での露光、硬化の前後において、光硬化型水性インクジェット印刷用インク組成物中の水分を乾燥させる工程を設けてもよい。水分を乾燥させる方法としては、従来公知の種々の方法を用いることができ、熱風乾燥やオーブン乾燥、(近)赤外線照射による乾燥方法等が挙げられる。
例えば、基材への吐出(画像の印字)は、本発明の光硬化型水性インクジェット印刷用インク組成物をインクジェット記録用プリンターの低粘度対応のプリンタヘッドに供給し、基材に対して塗膜の膜厚が、例えば、1~60μmとなるように該インク組成物をプリンタヘッドから吐出することにより行うことができる。また、光での露光、硬化(画像の硬化)は、画像として基材に塗布された本発明の光硬化型水性インクジェット印刷用インク組成物の塗膜に光を照射することにより行うことができる。
本発明の光硬化型水性インクジェット印刷用インク組成物を印字するインクジェット記録方式用プリンター装置としては、従来から使用されているインクジェット記録方式用プリンター装置が利用できる。なお、コンティニュアスタイプのインクジェット記録方式用プリンター装置を用いる場合は、本発明の光硬化型水性インクジェット印刷用インク組成物に更に導電性付与剤を加え電導度の調節をする。
上記塗膜の硬化における光源としては、紫外線(UV)、紫外線(発光ダイオード(LED))、電子線、可視光線等を挙げることができ、環境面から好ましくは発光ピーク波長が350~420nmの範囲の紫外線を発生する発光ダイオード(LED)である。
発光ダイオード(LED)を光源とした紫外線とは、「発光ピーク波長が350~420nmの範囲である紫外線を発生する、発光ダイオードから照射される光」とする。
【実施例
【0029】
以下に実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。なお、特に断りのない限り、「%」は「質量%」を、「部」は「質量部」を意味する。
以下の実施例、比較例で使用した材料は次の通りである。溶剤以外の成分は全て固形分含量である。
表中の顔料、分散剤、樹脂、溶剤及び合計に関する欄の数値の単位は「質量%」である。
【0030】
(実施例1~3及び比較例1~3)
<光硬化型水性インクジェット印刷用インク組成物の製造>
表1の配合(各材料の配合比率は質量%である)に従い、各材料を撹拌混合して実施例及び比較例の光硬化型水性インクジェット印刷用インク組成物を得た。
【0031】
CN131B :エポキシアクリレートオリゴマー(Sartomer社製)
ACMO :アクロイルモルホリン
DEAA :ジエチルアクリルアミド
4-HBA :4-ヒドロキシブチルアクリレート
DAAM :ジアセトンアクリルアミド
NIPAM :N-イソプロピルアクリルアミド
PEG(400)DA :ポリエチレングリコール(400)ジアクリレート
TPO-L :2,4,6-トリメチルベンゾイルフェニルフォスフィン酸エチル
BYK-333 :ポリエーテル変性ポリジメチルシロキサン(ビックケミー社製)
PB 15:4 :ピグメントブルー15:4
solsperse 32000 :顔料分散剤(ルーブリゾール社製)
【0032】
<評価方法及び評価基準>
(混和性)
実施例および比較例の組成において、顔料および顔料分散剤を除く成分を撹拌混合して10分間静置した後、目視にて混合状態を確認した。
〇:均一に混ざりあう
×:層分離が見られる
【0033】
(硬化性)
PETフィルム(製品名:ルミラー、東レ社製)の表面に実施例及び比較例で得られた光硬化型水性インクジェット印刷用インク組成物をバーコーターNo.8を用いて塗布し、各塗工物を得た。ついでコンベア式光照射装置(ヘレウス社製STM-250E-16、ランプ:Z-8ランプ(メタルハライドタイプ))を用いて、120W×50m/min、UV積算光量240mJ/cm〔UV積算光量は、測定器としてEIT社製UVIMAP(UM 365H-S)を用い、測定レンジ:250-260nm、280-320nm、320-390nm、395-445nmでの照射量を測定して求めた〕の照射条件で装置を通過させ、照射部分を綿棒で擦り、塗膜の取られを評価した。
〇:塗膜の取られなし
×:塗膜の取られあり
【0034】
(密着性)
PETフィルム(製品名:ルミラー、東レ社製)の表面に実施例及び比較例で得られた光硬化型水性インクジェット印刷用インク組成物をバーコーターNo.4を用いて塗布し、紫外線を照射して硬化塗膜を得た。
得られた硬化塗膜をカッターナイフでクロスカットし、カットした部分にセロテープ(登録商標)を貼り、これを引きはがすことによる硬化塗膜の取られを評価した。
〇:塗膜の取られなし
×:塗膜の取られあり
【0035】
(耐水性)
PETフィルム(製品名:ルミラー、東レ社製)の表面に実施例及び比較例で得られた光硬化型水性インクジェット印刷用インク組成物をバーコーターNo.4を用いて塗布し、紫外線を照射して硬化塗膜を得た。
得られた硬化塗膜を水で湿らせた綿棒で30往復擦り、下記評価基準に従って評価した。
〇:下地が露出しない
×:下地が露出する
【0036】
【表1】
【0037】
本発明に沿った例である実施例1~3によれば、光硬化型水性インクジェット印刷用インク組成物製造時の混和性、塗膜の硬化性、密着性及び耐水性に優れていた。これに対し、N-1置換アクリルアミドを含有しない比較例1によれば、耐水性に劣る結果であった。比較例1よりもエポキシアクリレートオリゴマーの含有量を増加させた比較例2では、光硬化型水性インクジェット印刷用インク組成物製造時の混和性に劣っていた。また実施例1及び2のN-1置換アクリルアミドに代えて、ポリエチレングリコール(400)ジアクリレートを含有させた比較例3によれば、密着性に劣っていた。