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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-18
(45)【発行日】2024-06-26
(54)【発明の名称】半導体装置
(51)【国際特許分類】
   H03B 5/32 20060101AFI20240619BHJP
【FI】
H03B5/32 J
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2020080689
(22)【出願日】2020-04-30
(65)【公開番号】P2021175162
(43)【公開日】2021-11-01
【審査請求日】2023-04-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003281
【氏名又は名称】弁理士法人大塚国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】塩道 寛貴
【審査官】石田 昌敏
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-037817(JP,A)
【文献】特開2015-137883(JP,A)
【文献】特開2000-332536(JP,A)
【文献】特開2017-146968(JP,A)
【文献】特開2010-176276(JP,A)
【文献】特開平04-197100(JP,A)
【文献】特開2018-142868(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H03B 5/30- 5/42
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
振動子に励振電流を供給して当該振動子を発振させることでクロック信号を生成する発振回路と、
前記発振回路が前記振動子を発振させるために必要となる励振レベルを制御する制御回路と、
アナログ入力信号をサンプリングしてホールドするサンプルホールド回路と、
前記振動子を発振させることで生成された前記クロック信号から派生したシステムクロックを供給されて動作し、前記サンプルホールド回路によりホールドされている前記アナログ入力信号の電圧をデジタルデータに変換するアナログデジタル変換回路と、
を有し、
前記制御回路は、前記サンプルホールド回路のi回目のサンプリングが開始されてから終了するまでに、前記発振回路の前記振動子を発振させるために必要となる励振レベルを、第1励振レベルから第N励振レベルへ低下させ、前記サンプルホールド回路のi回目のサンプリングが終了してから前記サンプルホールド回路のi+1回目のサンプリングが開始されるまでに、前記発振回路の励振レベルを前記第1励振レベルへ戻すように構成されていることを特徴とする半導体装置。
【請求項2】
前記Nは2であることを特徴とする請求項1に記載の半導体装置。
【請求項3】
前記Nは3以上の整数であることを特徴とする請求項1に記載の半導体装置。
【請求項4】
前記制御回路は、前記発振回路の励振レベルを前記第1励振レベルから前記第N励振レベルまで段階的に変更するように構成されていることを特徴とする請求項3に記載の半導体装置。
【請求項5】
前記制御回路は、前記発振回路の励振レベルを前記第1励振レベルから第j励振レベルまで段階的または徐々に低下させ、前記第j励振レベルから前記第N励振レベルまで段階的または徐々に増加させるように構成されていることを特徴とする請求項4に記載の半導体装置。
【請求項6】
前記第j励振レベルは、前記第1励振レベルから前記第N励振レベルまでのN個の励振レベルのうちで、最も小さな励振レベルであることを特徴とする請求項5に記載の半導体装置。
【請求項7】
前記第1励振レベルから前記第N励振レベルまでのN個の励振レベルのうち第2励振レベルから前記第N励振レベルまでの各励振レベルの継続時間は、一定であることを特徴とする請求項4ないし6のいずれか一項に記載の半導体装置。
【請求項8】
前記クロック信号を逓倍して前記システムクロックを生成するPLL回路をさらに有し、
前記制御回路は、前記システムクロックを基準に複数の励振レベルの切り替えタイミングを制御するように構成されていることを特徴とする請求項1ないし7のいずれか一項に記載の半導体装置。
【請求項9】
前記制御回路が、前記励振レベルを前記第1励振レベルよりも低下させてから前記励振レベルを再び前記第1励振レベルに戻すまでの期間は、前記クロック信号の立ち上がりまたは立下りに要する時間よりも長く、かつ、前記クロック信号の周期よりも短いことを特徴とする請求項ないしのいずれか一項に記載の半導体装置。
【請求項10】
前記制御回路が、前記励振レベルを前記第1励振レベルよりも低下させてから前記励振レベルを再び前記第1励振レベルに戻すまでの期間は、前記アナログデジタル変換回路のセトリング時間に等しいことを特徴とする請求項1ないし8のいずれか一項に記載の半導体装置。
【請求項11】
前記サンプルホールド回路の電源と前記発振回路の電源とは共通していることを特徴とする請求項1ないし10のいずれか一項に記載の半導体装置。
【請求項12】
前記発振回路は、複数のインバータと帰還抵抗とを有し、
前記複数のインバータと前記帰還抵抗はそれぞれ並列に接続されていることを特徴とする請求項1ないし11のいずれか一項に記載の半導体装置。
【請求項13】
入力端子と、
前記入力端子を前記サンプルホールド回路に接続するか、または前記入力端子を他の回路に接続するかを切り替えるスイッチ回路と
をさらに有することを特徴とする請求項1ないし12のいずれか一項に記載の半導体装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は半導体装置に関する。
【背景技術】
【0002】
SoC(System on Chip)などの半導体装置は、水晶発振回路により生成されたクロックをベースに動作するCPU、デジタル回路およびADCを有している。ADCはアナログデジタル変換回路の略称である。イメージセンサやエリアセンサなどの種々のセンサ制御や、モーターのセンサレスベクトル制御において、低ノイズかつ高分解能なADCの必要性が高まっている。水晶発振回路は、水晶振動子に励振電流を流すことで水晶振動子を発振させ、クロックを生成するが、この励振電流がノイズの原因となることがある。発生したノイズがADCの入力端子へカップリングすると、ADCの変換誤差が大きくなってしまう。特許文献1によれば、定電流特性を持つインバータ回路を用いて、ノイズを抑制する水晶発振回路が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2008-263312号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、水晶発振回路の負性抵抗を調整するだけでは、近年の高性能な用途が要求するノイズ要件を満たすことは困難である。そこで、本発明は、発振回路が生成するクロック信号のカップリングノイズの影響を受けにくい半導体装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
そこで、本発明は、
振動子に励振電流を供給して当該振動子を発振させることでクロック信号を生成する発振回路と、
前記発振回路が前記振動子を発振させるために必要となる励振レベルを制御する制御回路と、
アナログ入力信号をサンプリングしてホールドするサンプルホールド回路と、
前記振動子を発振させることで生成された前記クロック信号から派生したシステムクロックを供給されて動作し、前記サンプルホールド回路によりホールドされている前記アナログ入力信号の電圧をデジタルデータに変換するアナログデジタル変換回路と、
を有し、
前記制御回路は、前記サンプルホールド回路のi回目のサンプリングが開始されてから終了するまでに、前記発振回路の前記振動子を発振させるために必要となる励振レベルを、第1励振レベルから第N励振レベルへ低下させ、前記サンプルホールド回路のi回目のサンプリングが終了してから前記サンプルホールド回路のi+1回目のサンプリングが開始されるまでに、前記発振回路の励振レベルを前記第1励振レベルへ戻すように構成されていることを特徴とする半導体装置を提供する。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、発振回路が生成するクロック信号のカップリングノイズの影響を受けにくい半導体装置が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】半導体装置を示すブロック図
図2】発振回路を示す回路図
図3】トライステートインバータを示す回路図
図4】主な制御回路を示すブロック図
図5】制御方法を示すフローチャート
図6】発振回路とADCに関与する信号のタイミングチャート
図7】主な制御回路を示すブロック図
図8】制御方法を示すフローチャート
図9】発振回路とADCに関与する信号のタイミングチャート
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、添付図面を参照して実施形態が詳しく説明される。尚、以下の実施形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。実施形態には複数の特徴が記載されているが、これらの複数の特徴の全てが発明に必須のものとは限らず、また、複数の特徴は任意に組み合わせられてもよい。さらに、添付図面においては、同一または同様の構成に同一の参照番号が付され、重複した説明は省略される。
【0009】
<実施例1>
(1)半導体装置
図1が示すように半導体装置1は様々な回路を有している。発振回路10は、水晶振動子2に励振電流を供給して水晶振動子2を振動させることでクロック信号を生成する。PLL(Phase Locked Loop)12は、発振回路10により生成されたクロック信号(基準クロック)を逓倍してシステムクロックを生成する。CPU14、GPIO16、ADC17、および不図示の機能ブロックはシステムクロックを供給されて動作する回路群である。GPIOは汎用入出力回路の略称である。切替回路15は、外部信号端子IOの接続相手をADC17とGPIO16とのいずれかに切り替える。ADC17は、外部信号端子IOから入力されたアナログ入力信号の電圧をデジタルデータへ変換する。GPIO16は、外部信号端子IOの入力端子として機能させるか、または、出力端子として機能させるかを切り替える。内部電源13は、外部電源端子VCCから供給された電圧を変換して内部ロジックを動作させるための電圧を生成し、内部電源端子VDDへ出力する。このように、内部電源13を設けることで動作電圧の異なる複数の回路群を半導体装置1の内部に混在させることが可能となる。外部電源端子VCCは、内部電源13、発振回路10、ADC17、および切替回路15に接続される。内部電源端子VDDはPLL12、CPU14、およびGPIO16へ接続される。外部接地端子VSSは、半導体装置1が実装されるプリント基板のグランド層またはフレームグランドなどに接続される端子である。
【0010】
(2)発振回路
図2が示すように、発振回路10は、水晶振動子2に対してそれぞれ並列接続された帰還抵抗R1とn個のトライステートインバータIV1、IV2、・・・、IVnを有している。n個のトライステートインバータIV1、IV2、・・・、IVnのサイズはそれぞれ異なってもよいし、同一であってもよい。以下では、トライステートインバータIV1、IV2、・・・、IVnは総称してトライステートインバータIVと記載されることがある。トライステートインバータIVは、セレクト端子E、出力端子O、および入力端子Iを有している。セレクト端子Eの論理が“L”になると、出力端子Oの状態は入力端子Iの論理に依存せずにフローティング状態になる。セレクト端子Eの論理が“H”になると、出力端子Oの論理は入力端子Iの論理を反転しものとなる。CPU14は、イネーブル信号E1、E2、・・・、Enの論理を切り替えることで、発振回路10の負性抵抗および励振レベルを調整する。水晶振動子2の等価直列抵抗に対して十分に大きな負性抵抗が得られるように、イネーブル信号E1、E2、・・・、Enの論理の組み合わせが選択される。励振レベルは、水晶振動子2の電力定格を超えない範囲で選択される。
【0011】
水晶振動子2の一端とグランドとの間にはコンデンサC1が接続されている。水晶振動子2の他端とグランドとの間にはコンデンサC2が接続されている。発振回路10に並列接続される水晶振動子2は、セラミック振動子など、他のタイプの振動子であってもよい。
【0012】
(3)トライステートインバータ
図3が示すように、トライステートインバータIVは6つのトランジスタを有している。PMOSトランジスタQP1、QP2は電源ノードと出力端子Oとの間に直列に接続されている。NMOSトランジスタQN1およびQN2はGND(グランド)ノードと出力端子Oとの間に直列に接続されている。MOSトランジスタQP2のゲートとQN1のゲートには、それぞれ入力端子Iが接続されている。PMOSトランジスタQP3とNMOSトランジスタQN3は電源ノードとGNDノードとの間に直列に接続されている。セレクト端子Sは、MOSトランジスタQP3ゲート、QN3のゲート、およびNMOSトランジスタQN2のゲートに接続されている。MOSトランジスタQP3のドレインとQN3のドレインはPMOSトランジスタQP1のゲートに接続されている。
【0013】
セレクト端子Sの論理が“L”になると、NMOSトランジスタQN2はオフ状態になる。また、セレクト端子Sの論理が“L”になると、PMOSトランジスタQP1もオフ状態になる。なぜなら、PMOSトランジスタQP1のゲートには、MOSトランジスタQP3とQN3によりセレクト端子Sに印可された信号の論理が反転されて生成された信号が印可されているからである。これにより、入力端子Iの論理に依存せずに、出力端子Oはフローティング状態となる。
【0014】
セレクト端子Sの論理が“H”になると、PMOSトランジスタQP1およびNMOSトランジスタQN2はオン状態になる。セレクト端子Sの論理が“H”になると、入力端子Iに印可された信号の論理を反転した論理が出力端子Oに出力される。MOSトランジスタQP1、QP2、QN1、QN2のサイズに依存して、トライステートインバータIVの1個当りのドライブ電流が決定される。
【0015】
ここではトライステートインバータIVの一例としてCMOSロジック型が説明された。しかし、トライステートインバータIVは、反転増幅器またはコンパレータなどのCMOSアナログ回路で構成されてもよい。MOSトランジスタQP1、QN2は定電流源に置き換えられてもよい。
【0016】
(4)周辺ブロック
図4が示すように、CPU14は内部バス100を介してGPIO制御部26のレジスタ261、ADC制御部27のレジスタ271、発振制御部20のレジスタ201に命令を書き込む。
【0017】
GPIO制御部26は、CPU14によりレジスタ261に格納されたデジタル/アナログの切替設定に応じて切替回路15の接続先を決定する。デジタルが選択されると、切替回路15は外部信号端子IOをGPIO16に接続する。GPIO制御部26は、CPU14により指定された入力または出力の切替設定をGPIO16へ送る。GPIO16が出力に切り替えられると、GPIO制御部26はGPIO16に出力値(論理)を設定する。GPIO16が入力に切り替えられると、GPIO制御部26はGPIO16から入力値(論理)を受け取る。
【0018】
GPIO制御部26は、レジスタ261に格納されたデジタル/アナログの切替設定に応じて切替回路15の接続先をADC17に決定する。ADC17は逐次比較型のアナログデジタル変換回路である。ADC17は、サンプルホールドスイッチ171、サンプルホールドコンデンサCshおよび変換部172を備える。とりわけ、サンプルホールドスイッチ171およびサンプルホールドコンデンサCshはサンプルホールド回路を形成している。サンプルホールドスイッチ171がオン状態になると、外部信号端子IOの電圧がサンプルホールドコンデンサCshに印可され、サンプルホールドコンデンサCshが充電される。サンプルホールドスイッチ171がオフ状態になると、サンプルホールドコンデンサCshの電圧が保持される。変換部172は、サンプルホールドコンデンサCshに保持されている電圧をデジタル値に変換する。デジタル値はデジタルデータまたはADCデータと呼ばれてもよい。
【0019】
ADC制御部27はレジスタ271とタイミング生成部272を含む。CPU14は、ADC17の起動/停止を指定する命令と、サンプルホールドスイッチ171のオンタイミングとオフタイミングなどの設定値をレジスタ271に格納する。タイミング生成部272は、レジスタ271より設定された値に基づいて、サンプルホールド信号のH/Lのタイミングと励振レベルの切替信号の出力タイミングなどを制御する。ADC制御部27は、変換部172により生成されたADCデータをレジスタ271へ格納する。これにより、CPU14は、レジスタ271を介してADCデータを取得する。
【0020】
発振制御部20は、レジスタ201、セレクタ202およびデコーダ203を含む。レジスタ201は、発振回路10に設定される少なくとも2つの励振レベルの設定値を格納する。実施例1では、便宜上、第1励振レベルの設定値と第2励振レベルの設定値をレジスタ201に格納される。第1励振レベルは第2励振レベルよりも大きい。セレクタ202はタイミング生成部272から出力される切替信号に応じて第1励振レベルと第2励振レベルのいずれかを選択する。デコーダ203はセレクタ202により選択された励振レベルの設定値を発振回路10のイネーブル信号ENへ変換する。
【0021】
CPU14は内部バス100を介してメモリ18にアクセスする。メモリ18はROM領域とRAM領域を有している。ROM領域は制御プログラムを記憶している。
【0022】
(5)CPUによる制御
図5はCPU14が制御プログラムにしたがって実行する制御手順を示している。S501で、半導体装置1に外部電源から電力が供給されると、CPU14は、メモリ18に格納されている制御プログラムを読み出して起動する。
【0023】
S502でCPU14は発振回路10の定常動作時の励振レベルと、ADC17がサンプリングを実行しているときの励振レベルとを設定する。これらの励振レベルの設定値はメモリ18に記憶されている。CPU14はこれらの設定値をメモリ18から読み出してレジスタ201に設定する。
【0024】
S503でCPU14はサンプリング時間(サンプルホールド信号SHが“H”となる期間T)を設定する。たとえば、CPU14は内部バス100を通じてレジスタ271にサンプリング時間を書き込む。
【0025】
S504でCPU14は励振レベルの切替時間txを設定する。たとえば、CPU14は内部バス100を通じてレジスタ271に切替時間txを書き込む。S505でCPU14はADC17の起動をADC制御部27に指示する。ADC制御部27は、CPU14からの指示にしたがってADC17を起動する。
【0026】
(6)タイミングチャート
図6は発振回路10とADC17に関与する信号のタイミングチャートである。図6において励振レベルは単にレベルと表記されている。時刻t0にADC17が起動したものと仮定されている。時刻t1でサンプルホールド信号がLからHに切り替えられる。時刻t1はCPU14により指定されたタイミングである。時刻t2は励振レベルが第1励振レベルから第2励振レベルに切り替えられるタイミングである。時刻t3は、サンプルホールド信号がHからLに切り替えられるタイミングである。時刻t4は励振レベルが第2励振レベルから第1励振レベルに切り替えられるタイミングである。切替時間txは時刻t2から時刻t4までの期間である。
【0027】
発振回路10より生成された基準クロックCLKは、外部電源端子VCCの電圧と外部接地端子VSSの電圧を変動させる。この変動は、基準クロックCLKの立ち上りと立下りで発生しうる。外部電源端子VCCの電圧と外部接地端子VSSの電圧が変動すると、外部信号端子IOの出力も変動する。上述されたように、切替回路15およびサンプルホールドスイッチ171は同一の電源から電力を供給されて動作している。そのため、これらの浮遊容量を介して基準クロックCLKの立ち上りノイズと立下りノイズが外部信号端子IOにカップリングしうる。
【0028】
一方、PLL12により生成されたシステムクロックはロジック回路(例:CPU14、ADC制御部27および発振制御部20)の動作クロックとして利用される。CPU14の指示にしたがってADC制御部27がADC17を起動すると、予め設定されたサンプルホールド信号SHの立ち上りに同期して、外部信号端子IOはサンプルホールドコンデンサCshに接続される。サンプルホールドスイッチ171がオフからオンとなるときに発生するスイッチングノイズにより外部信号端子IOの電圧が変動する。変動した電圧は、サンプルホールドコンデンサCshと外部信号端子IOに接続される外部インピーダンスに依存した時定数にしたがって収束し、サンプルホールド信号SHの立下りに同期して保持される。サンプルホールド信号の立下りタイミングと基準クロックCLKの立ち上りまたは立下りのタイミングが重なる場合がある。この場合、基準クロックCLKのカップリングノイズの影響でサンプルホールドコンデンサCshの電圧が本来の電圧から大幅にずれた状態で保持されてしまう。
【0029】
そこで、実施例1では、サンプルホールド信号の立ち上りタイミング(時刻t1)よりも後のタイミング(時刻t2)で励振レベルの切替信号が“L”から“H”へ遷移する。さらに、サンプルホールド信号の立下りタイミング(時刻t3)よりも後のタイミング(時刻t4)で、励振レベルの切替信号が“H”から“L”へ遷移する。これにより、サンプルホールドコンデンサCshの電圧保持タイミングで励振レベルが第1励振レベルから第2励振レベルに低下する。つまり、切替時間txだけ励振レベルが第2励振レベルに維持される。その結果、基準クロックCLKのカップリングノイズの影響が低減される。
【0030】
励振レベルの低下量は、基準クロックCLKの安定性が確保され、かつ、ADC17の要求変換精度を満たすように設定される。励振レベルの低下量とは、第1励振レベルと第2励振レベルとの差である。
【0031】
励振レベルの切替信号が“H”となる期間T(t1からt2までの期間)の設定は、外部信号端子IOに接続される回路やデバイスによって調整されてもよい。外部信号端子IOに接続されるコンデンサの容量が大きい場合、カップリングノイズの影響による端子電圧の変動が小さくなる。そのため、期間Tは、可能な限り短い時間に設定されてもよい。たとえば、期間Tは、基準クロックCLKの立ち上り時間または立下り時間よりも長く、かつ、基準クロックCLKの1周期よりも短い時間に設定されてもよい。
【0032】
外部信号端子IOに接続される外部インピーダンスが低い場合、カップリングノイズの影響による端子電圧の変動量によらず、収束が早くなる。そのため、期間Tは短い時間に設定される。一方、外部インピーダンスが高い場合、カップリングノイズの影響による端子電圧の変動が大きくなる。そのため、期間Tは可能な限り長い時間に設定される。たとえば、期間Tは、外部インピーダンスとサンプルホールドコンデンサCshで定まるセトリング時間に設定される。
【0033】
以上で説明されたよう、励振レベルを一時的に低下させることで、外部信号端子IOに発生するカップリングノイズが大幅に低減される。その結果、入力されたアナログ信号の電圧が、精度高くサンプルホールドコンデンサCshにより保持される。ADC17の変換部172がこの電圧を変換してADCデータを生成することで、CPU14は精度の高いADCデータを取得できる。
【0034】
ADC17には一つの外部信号端子IOだけが接続されているがこれは一例に過ぎない。切替回路15をマルチプレクス型の切替回路に置換することで、複数の外部信号端子IOをADC17に接続することが可能となる。この場合、複数の外部信号端子IOの一つ一つに対して、レジスタ201は励振レベルを格納してもよい。つまり、CPU14は、複数の外部信号端子IOのうち選択された一つの外部信号端子IOに対応した第1励振レベルと第2励振レベルをメモリ18から読み出してレジスタ201に書き込む。これは、外部信号端子IOごとに適切な二つの励振レベルの組み合わせが異なる場合に、有効であろう。
【0035】
<実施例2>
実施例1では第1励振レベルを第2励振レベルへ一時的に低下させる例が説明された。しかし、第1励振レベルから第2励振レベルに切り替えると、発振回路10から生成される基準クロックCLKの周波数が変動しうる。基準クロックCLKの周波数変動の許容範囲は、基準クロックCLKを供給されて動作する周辺回路が正常に動作可能な範囲である。第1励振レベルと第2励振レベルとの差が大きすぎると、基準クロックCLKの周波数変動が許容範囲を超えてしまう。そこで、実施例2では、三つ以上の励振レベルを段階的に切り替えることで、基準クロックCLKの周波数の変動が許容範囲内に収められる。
【0036】
図7は実施例2の発振制御部30を示している。実施例2において実施例1と共通する説明は省略される。発振制御部30は、レジスタ301、選択部302、およびデコーダ303を含む。レジスタ301は、N個の励振レベルの設定値、切替数Xおよび切替時間txなどをCPU14により書き込まれて記憶する。Nは3以上の整数である。切替数XはN-1である。切替時間txは、一つの励振レベルが継続する継続時間である。
【0037】
選択部302は、ADC制御部27により生成された切替信号に同期して励振レベルを選択する。選択部302は、切替数Xと切替時間txに従って励振レベルを選択してもよい。選択部302は、切替信号が入力されると励振レベルを切り替える。さらに、選択部302は、切替信号が入力されたタイミングをスタートとして、切替時間txを周期として、複数の励振レベルを順番に切り替えて行く。たとえば、切替信号が入力されたタイミングに、第1励振レベルが第2励振レベルに切り替えられる。選択部302は、切替を実行するたびにカウント値に1を加算して行く。カウント値が切替数Xになると、選択部302は、励振レベルを第1励振レベルに戻してもよい。デコーダ303は選択された励振レベルの設定値をイネーブル信号ENへ変換し、発振回路10へ出力する。
【0038】
図8はCPU14が制御プログラムにしたがって実行する制御手順を示している。S801で、半導体装置1に外部電源から電力が供給されると、CPU14は、メモリ18に格納されている制御プログラムを読み出して起動する。
【0039】
S802でCPU14は発振回路10の定常動作時の第1励振レベルと、ADC17がサンプリングを実行しているときの第2励振レベル~第N励振レベルを設定する。これらの励振レベルの設定値はメモリ18に記憶されている。CPU14はこれらの設定値をメモリ18から読み出してレジスタ301に設定する。
【0040】
S803でCPU14はサンプリング時間(サンプルホールド信号SHが“H”となる期間T)を設定する。たとえば、CPU14は内部バス100を通じてレジスタ271にサンプリング時間を書き込む。
【0041】
S804でCPU14は励振レベルの切替の開始タイミング(時刻t2)、終了タイミング(時刻t4)、および切替時間txを設定する。たとえば、CPU14は、開始タイミング、終了タイミング、および切替時間txをレジスタ301に書き込む。
【0042】
S805でCPU14は励振レベルの切替数Xを設定する。たとえば、CPU14は、切替数Xをレジスタ301に書き込む。
【0043】
S806でCPU14はADC17の起動をADC制御部27に指示する。ADC制御部27は、CPU14からの指示にしたがってADC17を起動する。
【0044】
図9は発振回路10とADC17に関与する信号のタイミングチャートである。ここではN=6と仮定されている。時刻t0にADC17が起動したものと仮定されている。時刻t1でサンプルホールド信号がLからHに切り替えられる。時刻t1はCPU14により指定されたタイミングである。時刻t2は励振レベルが第1励振レベルから第2励振レベルに切り替えられるタイミングである。時刻t3は、サンプルホールド信号がHからLに切り替えられるタイミングである。時刻t4は励振レベルが第2励振レベルから第1励振レベルに切り替えられるタイミングである。
【0045】
実施例2でも、サンプルホールド信号の立ち上りタイミング(時刻t1)よりも後のタイミング(時刻t2)で励振レベルの切替信号が“L”から“H”へ遷移する。図9が示すように、開始タイミングである時刻t2で励振レベルが第1励振レベルから第2励振レベルへ切り替られている。その後、選択部302は、切替を実行したタイミングから切替時間txが経過するたびに、次の励振レベルを選択してデコーダ303へ出力する。たとえば、時刻t2から切替時間txが経過すると、選択部302は、励振レベルを第2励振レベルから第3励振レベルに切り替える。時刻t2から切替時間2×txが経過すると、選択部302は、励振レベルを第3励振レベルから第4励振レベルに切り替える。時刻t3から切替時間3×txが経過すると、選択部302は、励振レベルを第4励振レベルから第5励振レベルに切り替える。時刻t2から切替時間4×txが経過すると、選択部302は、励振レベルを第5励振レベルから第6励振レベルに切り替える。終了タイミングである時刻t4が到来すると、選択部302は、励振レベルを第1励振レベルに戻す。このように、時刻t2から時刻t4までの間にN-1個の励振レベルが順番に切り替えられている。
【0046】
切替時間txは、基準クロックCLKの1周期以上となるように設定されてもよい。6個の励振レベルのうち、第1励振レベルは通常状態で設定される励振レベルである。第4励振レベルは最もノイズを低減できる励振レベルである。図9が示すように、第4励振レベルが適用される期間において、ADC17がホールドを実行する。他の励振レベルは、第1励振レベルと第4励振レベルとの間を補間するように決定される。たとえば、N個の励振レベルのうちj番目の励振レベルが最も小さな励振レベルであることが想定される。この場合、なお、i番目の励振レベルはi-1番目の励振レベルよりも低い(iは2からjまでの整数)。iがj+1からNまでの整数である場合、i番目の励振レベルはi-1番目の励振レベルよりも高い。なお、i番目の励振レベルとi-1番目の励振レベルとの差は一定である。ただし、基準クロックCLKの変動が許容範囲内であれば、i番目の励振レベルとi-1番目の励振レベルとの差は一定でなくてもよい。このように、基準クロックCLKの周波数変動に起因してPLL12のロックが外れない範囲で、他の励振レベルが段階的に低下または増加される。
【0047】
発振回路10の励振電流を徐々に低下および増加させることで、基準クロックCLKの周波数変動が緩やかになり、ホールドタイミングの励振レベルをさらに低く設定することが可能となる。したがって、実施例2は、実施例1に比べて、よりカップリングノイズの影響を低減することができる。つまり、外部信号端子IOに印可されるノイズが減少し、CPU14はより精度の高いADCデータを得ることができる。
【0048】
図9ではNが6であるが、Nは6より大きくてもよいし、6未満かつ2以上であってもよい。また、選択部302またはCPU14は、最大の励振レベルと最小の励振レベルとの間を補間する1次式または2次式の関数を用いて、他の励振レベルを決定してもよい。
【0049】
<まとめ>
[観点1]
発振回路10は、振動子に励振電流を供給して当該振動子を発振させることでクロック信号を生成する発振回路の一例である。CPU14および発振制御部20、30は、発振回路が振動子を発振させるために必要となる励振レベルを制御する制御回路の一例である。ADC17は、サンプルホールド回路およびアナログデジタル変換回路の一例である。サンプルホールド回路はアナログ入力信号をサンプリングしてホールドする。アナログデジタル変換回路は、クロック信号から派生したシステムクロックを供給されて動作する。アナログデジタル変換回路は、サンプルホールド回路によりホールドされているアナログ入力信号の電圧をデジタルデータに変換する。制御回路は、サンプルホールド回路のi回目のサンプリングが開始されてから終了するまでに、発振回路の励振レベルを、第1励振レベルから第N励振レベルへ低下させる。制御回路は、サンプルホールド回路のi回目のサンプリングが終了してからサンプルホールド回路のi+1回目のサンプリングが開始されるまでに、発振回路の励振レベルを第1励振レベルへ戻す。これにより、発振回路が生成するクロック信号のカップリングノイズの影響を受けにくい半導体装置が提供される。その結果、アナログデジタル変換回路によるAD変換の精度が向上する。
【0050】
[観点2、3]
実施例1が示すようにNは2であってもよい。実施例2が示すように、Nは3以上の整数であってもよい。
【0051】
[観点4、5]
制御回路は、発振回路の励振レベルを第1励振レベルから第N励振レベルまで段階的に変更するように構成されていてもよい。たとえば、図9が例示するように、制御回路は、発振回路の励振レベルを第1励振レベルから第j励振レベルまで段階的または徐々に低下させてもよい。さらに、制御回路は、第j励振レベルから第N励振レベルまで段階的または徐々に増加させてもよい。これにより、カップリングノイズの影響がさらに低減されよう。
【0052】
[観点6]
第j励振レベルは、第1励振レベルから第N励振レベルまでのN個の励振レベルのうちで、最も小さな励振レベルであってもよい。図9ではj=4の例が示されている。第1励振レベルから第j励振レベルへ急激に低下させると、基準クロックCLKの周波数変動が大きくなる。しかし、第1励振レベルから第j励振レベルへ徐々に低下させることで、第j励振レベルを小さく設定することが可能となり、基準クロックCLKの周波数変動も小さくなる。
【0053】
[観点7]
図9が示すように、第1励振レベルから第N励振レベルまでのN個の励振レベルのうち第2励振レベルから第N励振レベルまでの各励振レベルの継続時間は、一定であってもよい。
【0054】
[観点8]
図4が示すように、クロック信号を逓倍してシステムクロックを生成するPLL回路が設けられてもよい。制御回路は、システムクロックを基準に複数の励振レベルの切り替えタイミングを制御してもよい。
【0055】
[観点9、10]
制御回路が、励振レベルを第1励振レベルよりも低下させてから励振レベルを再び第1励振レベルに戻すまでの期間は、クロック信号の立ち上がりまたは立下りに要する時間よりも長い。さらに、この期間は、クロック信号の周期よりも短くてもよい。あるいは、この期間は、アナログデジタル変換回路のセトリング時間に等しくてもよい。
【0056】
[観点11]
サンプルホールド回路の電源と発振回路の電源とは共通していてもよい。このような構成が採用される場合、カップリングノイズの影響が顕著となりやすい。そのため、実施例1、2は特に有効であろう。
【0057】
[観点12]
図2が例示するように、発振回路は、複数のインバータと帰還抵抗とを有してもよい。複数のインバータと帰還抵抗はそれぞれ並列に接続されている。
【0058】
[観点13]
外部入力端子IOは入力端子の一例である。切替回路15は、入力端子をサンプルホールド回路に接続するか、または入力端子を他の回路(例:GPIO16)に接続するかを切り替えるスイッチ回路の一例である。このように、複数の用途間で端子を共用することで、半導体装置の小型化と半導体装置の用途の増加を図りやすくなる。実施例1、2ではこのような入力端子に回り込むカップリングノイズの影響が低減される。
【0059】
発明は上記実施形態に制限されるものではなく、発明の精神及び範囲から離脱することなく、様々な変更及び変形が可能である。従って、発明の範囲を公にするために請求項が添付される。
【符号の説明】
【0060】
1:半導体装置、10:発振回路、14、CPU、17:ADC、20、30:発振制御部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9