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特許7506528眼科装置、眼科検査装置、及び眼科検査システム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-18
(45)【発行日】2024-06-26
(54)【発明の名称】眼科装置、眼科検査装置、及び眼科検査システム
(51)【国際特許分類】
   A61B 3/14 20060101AFI20240619BHJP
【FI】
A61B3/14
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2020091403
(22)【出願日】2020-05-26
(65)【公開番号】P2021185997
(43)【公開日】2021-12-13
【審査請求日】2023-05-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000133227
【氏名又は名称】株式会社タムロン
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】山根 宏大
【審査官】▲高▼木 尚哉
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-135468(JP,A)
【文献】特開2004-016486(JP,A)
【文献】特表2013-527775(JP,A)
【文献】特開2017-185200(JP,A)
【文献】国際公開第2020/023959(WO,A1)
【文献】特開2019-213739(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 3/00-3/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
眼が光路中に配置される光学系に変調光を出射する光源部と、
前記変調光が前記眼で反射した反射光であって、前記光学系から出射した前記反射光を受光し、受光した前記反射光の強度に応じた信号を出力する受光部と、
前記変調光の周期に応じたタイミングで前記受光部が前記反射光を受光するように、前記光源部および前記受光部を制御するタイミング生成部と、
前記受光部からの信号に応じて算出される前記反射光の飛翔した距離を参照して、前記反射光のうちの予め定められた距離を飛翔した光を表す情報とそれ以外の距離を飛翔した光を表す情報とを分離する光情報分離部と、
を備え
前記予め定められた距離を飛翔した光は、眼において予め定められた部位において反射した光であり、前記それ以外の距離を飛翔した光は、前記部位とは異なる眼の部位において反射した光である、
眼科装置。
【請求項2】
前記光情報分離部は、前記受光部からの信号に応じて算出される前記反射光の飛翔した距離と、前記光学系の設計光路長に基づき定められた基準距離とに基づいて、前記反射光のうちの予め定められた距離以外の距離を飛翔した光を表す情報を特定する、請求項1に記載の眼科装置。
【請求項3】
前記光情報分離部は、前記受光部からの信号に応じて取得される前記信号の波形に応じて、前記信号の既知の波形を参照し、前記反射光のうちの予め定められた距離を飛翔した光を表す情報と、それ以外の距離を飛翔した光を表す情報とを分離する、請求項1または2に記載の眼科装置。
【請求項4】
前記光情報分離部は、前記反射光のうちの光の飛翔した距離に応じた距離画像データを生成する距離画像生成部をさらに備える、請求項1~3の何れか1項に記載の眼科装置。
【請求項5】
前記タイミング生成部は、前記距離画像生成部で生成する前記距離画像データを参照し、前記受光部が検出する前記予め定められた距離を飛翔した光の強度と、それ以外の距離を飛翔した光の強度との比が所望の範囲内となるように、前記受光部における受光のタイミングを制御する、請求項4に記載の眼科装置。
【請求項6】
前記受光部は、TOFカメラを含む、請求項1~5の何れか1項に記載の眼科装置。
【請求項7】
前記光情報分離部は、前記予め定められた距離以外の距離を飛翔した光の飛翔距離から、前記眼における前記反射光が生じた部位を推定する、請求項6に記載の眼科装置。
【請求項8】
前記光源部は、600nm以上、1700nm以下の波長の光を出射する赤外照射装置である、請求項1~7の何れか1項に記載の眼科装置。
【請求項9】
前記光源部は、600nm以上、1000nm以下の波長の光を出射する近赤外線照射装置である、請求項8に記載の眼科装置。
【請求項10】
前記予め定められた距離を飛翔した光は、前記眼の眼底で反射した光である、請求項1~9の何れか1項に記載の眼科装置。
【請求項11】
請求項1~10のいずれか一項に記載の眼科装置を含む、眼科検査装置。
【請求項12】
請求項1~10のいずれか一項に記載の眼科装置を含む、眼科検査システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、眼科装置、眼科検査装置、及び眼科検査システムに関する。
【背景技術】
【0002】
日本人の失明の主な原因には、糖尿病網膜症、加齢黄斑変性および緑内障の3つが知られている。これらの疾病の早期発見には、眼底検査が有効である。眼底検査において用いられる眼底カメラには、眼に入射する光の光軸と眼底で反射した反射光の光軸とが一致した同軸落射照明の光学系が用いられる。したがって、眼底ではなく眼の表面において反射したような不要な光までが、眼底像を形成する光に混ざり、ゴーストフレアが生じるという問題がある。
【0003】
このような問題を解決する技術として、特許文献1~3及び非特許文献1に記載された技術が知られている。特許文献1及び2には、照射光を分離することで照射光と反射光との光路の重なりを防ぐ方法が記載されている。特許文献3には、不要な光を結像してこれを遮蔽する方法が記載されている。非特許文献1には、直線偏光素子を用いて不要な光を遮光する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平9-28677号公報
【文献】特開平5-337087号公報
【文献】特開平9-28675号公報
【非特許文献】
【0005】
【文献】奈良先端科学技術大学院大学、科学技術振興機構、“ぶれない、まぶしくない、自撮りできる小型眼底カメラシステムを開発”、[online]、2018年6月18日、JST共同発表、[2020年1月14日検索]、インターネット(URL:https://www.jst.go.jp/pr/announce/20180618/index.html)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上述のような従来技術は以下に示す問題がある。特許文献1及び2に記載されている方法では、照射光が広角になると照射光と反射光との光路の大部分が重なってしまい、ゴーストフレアの発生を防ぐことができない。特許文献3に記載されている方法では、照射光が広角になると像が大きくなるため必要な光も遮ってしまう。非特許文献1に記載されている方法では、例えば、偏光素子の光軸に平行又は直交する空間以外からの反射光は偏光方向とは異なる角度を有するため、偏光方向に回転が生じ、直線偏光素子では不要な光を遮光しきれない。
【0007】
したがって、例えば、照射光が広角の場合でも、ゴーストフレアなどの不要な光が適切に取り除かれた検査結果を取得可能な眼底撮像装置が求められている。
【0008】
本発明の一態様は、眼の検査における不要な光の情報が適切に除かれた検査結果を取得可能な眼科装置を実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係る眼科検査装置は、眼が光路中に配置される光学系に変調光を出射する光源部と、前記変調光が前記眼で反射した反射光であって、前記光学系から出射した前記反射光を受光し、受光した前記反射光の強度に応じた信号を出力する受光部と、前記変調光の周期に応じたタイミングで前記受光部が前記反射光を受光するように、前記光源部および前記受光部を制御するタイミング生成部と、前記受光部からの信号に応じて算出される前記反射光の飛翔した距離を参照して、前記反射光のうちの予め定められた距離を飛翔した光を表す情報とそれ以外の距離を飛翔した光を表す情報とを分離する光情報分離部と、を備える。
【0010】
また、本発明の一態様に係る眼科検査装置は、上記眼科装置を含む。
【0011】
さらに、本発明の一態様に係る眼科検査システムは、上記眼科装置を含む。
【発明の効果】
【0012】
本発明の一態様によれば、眼の検査における不要な光の情報が適切に除かれた検査結果を取得可能な眼科装置を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の実施形態1に係る眼科装置が備える光学系の例を説明する図である。
図2】本発明の実施形態1に係る眼科装置の機能的な構成の例を示すブロック図である。
図3】本発明の実施形態1に係る眼科装置の動作例の流れを示すフローチャートである。
図4】本発明の実施形態1に係る眼科装置の動作例を説明するタイミングチャートである。
図5】本発明の実施形態1に係る眼科装置の動作例を説明するための第一の波形図である。
図6】本発明の実施形態1に係る眼科装置の動作例を説明するための第二の波形図である。
図7】本発明の実施形態2に係る眼科装置の動作例の流れを示すフローチャートである。
図8】本発明の実施形態2に係る眼科装置の動作例を説明するタイミングチャートである。
図9】本発明の実施形態2に係る眼科装置の動作例を説明するための第一の波形図である。
図10】本発明の実施形態2に係る眼科装置の動作例を説明するための第二の波形図である。
図11】本発明の実施形態2に係る眼科装置の動作例を説明するための第三の波形図である。
図12】本発明の実施形態2に係る眼科装置の動作例を説明するための光の強度分布図である。
図13】本発明の実施形態2に係る眼科装置の動作例を説明するための反射光の強度分布の一例を示す図である。
図14】本発明の実施形態2に係る眼科装置の動作例を説明するための反射字の波形の一例を示す図である。
図15】本発明の実施形態2に係る眼科装置の動作例を説明するための反射光の波形及び強度分布の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
〔実施形態1〕
実施形態1に係る眼科装置は、眼に光を照射し、眼において反射した反射光を受光することで、反射光に基づき、眼に関する情報を取得する装置である。
【0015】
(構成例)
図1及び2を参照して、実施形態1の眼科装置の構成例について説明する。図1は、本発明の一実施形態に係る眼科装置で利用する光学系の例を説明する図である。図2は、本発明の一実施形態に係る眼科装置の機能的な構成の例を示すブロック図である。
【0016】
図1及び2に示すように、眼科装置100は、光源部10と、距離画像センサ(受光部)20と、タイミング生成部31及び光情報分離部33を有する制御ユニット30とを備えている。制御ユニット30は、さらに、信号処理部32と制御部34とを有している。光情報分離部33は、距離演算部33a及び距離画像生成部33bを有している。
【0017】
眼科装置100において、光が入射する光学系1は、眼Eに照射される光の光軸と、眼Eからの反射光の光軸とが一致した同軸落射照明の光学系である。なお、図1中、光源部10が出射して眼Eに照射される光L1の光路を破線で示し、眼Eで反射して距離画像センサ20に向かう反射光である光L2及びL3の光路を実線で示している。図1において、光L2は眼底での反射光であり、光L3は眼の表面における正反射光である。
【0018】
<光学系1>
光学系1は、レンズ11、ビームスプリッタ12、レンズ13、及びレンズ14から構成されている。眼科装置100において、光源部10の光軸上には、ビームスプリッタ12が配置されており、ビームスプリッタ12における当該光軸と直交する軸上には、距離画像センサ20が配置されている。観察対象である被験者の眼Eは、距離画像センサ20に対向する位置に配置される。すなわち、眼Eは光学系1の光路中に配置される。ビームスプリッタ12よりも光源部10側には、レンズ11が配置されている。ビームスプリッタ12と眼Eとの間には、レンズ13が配置されている。ビームスプリッタ12よりも距離画像センサ20側には、レンズ14が配置されている。
【0019】
光源部10から光学系1に照射された光L1は、眼Eに入射し、その少なくとも一部が眼Eにおいて反射する。眼Eにおいて反射した反射光は、フェルマーの原理に従って光学的距離が最短になる光路を飛翔して距離画像センサ20まで到達する。眼Eに入射した光L1の一部は眼底まで到達するが、眼底まで到達せずに眼の表面(角膜)や眼球内で反射する光も存在する。したがって、眼Eにおいて反射した反射光には、眼底において反射した光L2と共に、眼Eの表面や眼球内のように眼底以外において反射した光L3が含まれる。ここで、眼Eにおいて反射した反射光のうち、眼底において反射した光L2を正常光とし、眼底以外において反射した光L3を擾乱光とする。なお、眼Eにおいて反射した反射光には、正常光及び擾乱光の他、バックグラウンドノイズやショットノイズなどのノイズ成分も含まれ得る。
【0020】
図1に示す例において、眼底において反射した光L2は、眼球の直径Dの2倍の距離分だけ、眼Eの表面において反射した光L3よりも長く飛翔する。例えば、眼球の直径Dが2.5cmである場合には、光L2と光L3との光線飛翔距離の差は5cmである。したがって、光L2は、光線飛翔距離の差5cm分だけ、光L3に遅れて距離画像センサ20に到達する。
【0021】
なお、光学系1は、光L3のような擾乱光が距離画像センサ20に到達することを妨げる偏光板のように、ゴーストフレアを低減するような手段を別途備えていてもよい。
【0022】
<光源部10>
光源部10は、眼Eが光路中に配置される光学系1に変調光を出射する装置である。変調光とは、時間に対して光量が変化する光であり、例えばパルス光あるいは正弦波で変調した光である。光源部10は、例えば、光源である発光素子と、発光素子が発した光を変調する変調回路とから構成することができる。発光素子として、例えば、所定の波長の光線を発する発光ダイオード又はレーザダイオードを用いることができる。
【0023】
変調回路はタイミング生成部31から送信される発光制御信号を受信し、その発光制御信号に従って発光素子を発光させる。本実施形態では、光源部10は所定の波長の光線を例えば、数n秒~数十n秒の発光パルス幅で間欠的に発光する。また、発光パルス幅は、測定を要する光線飛翔距離、距離画像センサ20における電荷転送クロック幅等に応じて、適宜適切な値に設定することができる。ここでは、説明の便宜上、光源部10はパルス波(矩形波)を光学系1に投射するものとする。
【0024】
なお、本発明において光源部10が光学系1に投射する光の波形はパルス波に限定されるものではなく、正弦波等であってもよい。すなわち、光源部10は、発光素子と、発光素子が発した光の振幅、周波数、位相など変調する変調回路等を備え、時間に対して光量が変化する光(変調光)を投射する光源であれば、その具体的な構成は限定されない。光源部10が正弦波等の他の変調光を光学系1に投射する場合であっても、眼科装置100と同様の構成により同様の機能を実現することができる。
【0025】
次に、光源部10から光学系1に投射される光の波長について説明する。光源部10から投射される光の波長は、距離画像センサ20が受光感度を有する波長である。光学系1内における反射光の光線飛翔距離を演算するためである。
【0026】
光源部10から光学系1に投射される光は、光学系1の使用波長域内の波長であることが好ましい。光の屈折は波長に依存し、また、入射光の波長によって光学系1内における入射光の光路が異なるため、光学系1の使用波長域における擾乱光の発生の有無を精度よく判別するためである。撮像レンズのように、複数の光学素子からなる光学系を光学系1とする場合では、光源部10から光学系1に投射される光が光学系1の使用波長域内の波長であることは、特に好ましい。
【0027】
光源部10が投射する光の波長は、上記の観点を含め、可視光波長域(380~750nm)、近赤外波長域(0.75~1.4μm)、赤外波長域(1.4~15μm)線、遠赤外波長域(15~1,000μm)等の任意の波長域内の任意の波長とすることができる。被験者の眼に光を照射したときの縮瞳を抑制する観点から、上記波長は600nm以上であることが好ましく、640nm以上であることがより好ましい。また、水の吸収の影響を十分に抑制する観点から、上記波長は1700nm以下であることが好ましく、1000nm以下であることがより好ましい。このような観点から、光源部10は、600nm以上、1700nm以下の近赤外波長域内の波長の光を出射する赤外線照射装置であってよい。あるいは、光源部10は、600nm以上、1000nm以下の波長の光を出射する近赤外線照射装置であってもよい。
【0028】
<距離画像センサ20>
距離画像センサ20は、変調光が眼Eで反射した反射光であって、光学系1から出射した反射光を受光する。そして、距離画像センサ20は、受光した反射光の強度に応じた信号を信号処理部32に出力する。
【0029】
本実施の形態において、距離画像センサ20は、受光面(像面)に図示しない複数の受光素子(フォトダイオード等)を備える。距離画像センサ20は複数の画素を有し、1画素は少なくとも1つの受光素子を含む。距離画像センサ20は眼Eにおける反射光を受光すると、受光の際に発生した電荷を蓄積し、それを信号電圧に変換して受光信号(応答信号)として出力する。なお、距離画像センサ20は、光源部10が発する変調光の波長に対して受光感度を有することが求められる。
【0030】
本実施形態では距離画像センサ20とは、TOF(Time of Flight)方式のCCD(Charge-Coupled Device)センサ(TOFカメラ)を含んでいる。距離画像センサ20は、一般に、被写体の距離画像を得るために用いられる。TOF方式のCCDセンサは、二次元に配列された複数の画素(図示略)を備える。各画素を構成する受光素子は2つ以上の電荷蓄積部(図示略)を備える。距離画像センサ20は受光素子毎に受光した際に発生した電荷を、制御ユニット30の制御下、いずれか一の電荷蓄積部又はいずれか一以上の電荷蓄積部に蓄積させる。各受光素子に設けられる電荷蓄積部の数、および、どのようなタイミングでどの電荷蓄積部に電荷を振り分けるか、は限定されない。本実施形態では各受光素子は第1の電荷蓄積部と第2の電荷蓄積部とを備えるものとして、以下説明する。
【0031】
1回(1シークエンス)の受光動作を行う際に、所定の露光時間の間、距離画像センサ20は露光される。距離画像センサ20は、タイミング生成部31から送信される露光制御信号を受信し、その露光制御信号に従って露光させる。その間、光源部10は、所定のパルス幅で1回以上発光し、距離画像センサ20は間欠的に光を受光する。そして、眼Eからの反射光を受光した際に発生した電荷は、第1の電荷蓄積部と第2の電荷蓄積部とに交互に振り分けて蓄積される。所定の露光時間経過後、第1の電荷蓄積部及び第2の電荷蓄積部にそれぞれ蓄積された電荷に応じた信号電圧がそれぞれ第1の受光信号、第2の受光信号として制御ユニット30の信号処理部32に出力される。
【0032】
なお、本実施の形態において、距離画像センサ20は、受光面において受光した光の飛翔距離を求めることのできるセンサであれば、上述のTOF方式のCCDセンサに限らない。例えば、距離画像センサ20には、SPAD LiDAR(Single Photon Avalanche Diode Light Detection And Ranging)を用いてもよい。この場合、距離画像センサ20としてTOF方式のCCDセンサを用いる場合と、SPADを用いる場合とでは、制御ユニット30による距離画像センサ20の制御は細かい点において種々の違いは生じる。しかしながら、眼Eにおいて反射した反射光を距離画像センサ20において受光することで、光学系1内における光線飛翔距離に関する情報を取得することができれば、受光部を構成する距離画像センサ20はどのようなものであってもよい。
【0033】
<制御ユニット30>
制御ユニット30は、距離画像センサ20から出力される受光信号に基づいて、画素毎に受光した光の光線飛翔距離を演算して反射光における正常光と擾乱光とを分離し、距離画像データを生成する。制御ユニット30は、図2に示すように、機能的な構成として、以下に説明するタイミング生成部31と、信号処理部32と、光情報分離部33と、制御部34とを備える。
【0034】
制御ユニット30は、例えば、AFE(アナログフロントエンド)、A/D変換部、DSP(Digital signal processor)、ASIC(application specific integrated circuit)或いはFPGA(field programmable gate array)などを組み合わせて構成することができる。また、演算装置として、CPU、RAM、ROM等を備えたマイクロプロセッサ(MPU)を用いることもできる。しかしながら、制御ユニット30の物理的な構成は、以下に説明する各部の機能を実現することができればその具体的な回路構成は限定されるものではない。
【0035】
≪タイミング生成部31≫
タイミング生成部31は、変調光の周期に応じたタイミングで距離画像センサ20が反射光を受光するように、光源部10及び距離画像センサ20を制御する。タイミング生成部31は、光源部10が所定の波長の変調光を出射するように制御する発光制御信号を生成し、光源部10に出力する。また、タイミング生成部31は、距離画像センサ20が所定のタイミングで露光されるように制御する露光制御信号を生成し、距離画像センサ20に出力する。
【0036】
≪信号処理部32≫
信号処理部32は、距離画像センサ20から出力されたアナログ信号としての第1の受光信号及び第2の受光信号に対して、その後の処理に適した処理を適宜に施す。例えば、信号処理部32は、の第1の受光信号及び第2の受光信号に対して、それぞれ電圧レベルを整えたり、ノイズを除去したり、増幅するなどの各種信号処理を施し、それをデジタル信号に変換するなどの処理を行う。
【0037】
信号処理部32は、例えば、AFEやA/D変換器等から構成することができるが、上述したとおり、その物理的な構成は特に限定されるものではない。
【0038】
≪光情報分離部33≫
光情報分離部33は、距離画像センサ20からの受光信号に応じて算出される反射光の飛翔した距離(光線飛翔距離)を参照して、反射光のうちの予め定められた距離を飛翔した光を表す情報とそれ以外の距離を飛翔した光を表す情報とを分離する。ここで、光を表す情報には、光の信号の強度、波形、位相、距離画像等が含まれる。また、本実施形態において、反射光のうちの予め定められた距離を飛翔した光は正常光であり、それ以外の距離を飛翔した光は擾乱光である。
【0039】
光情報分離部33は、上述の演算装置などから構成され、その機能的な構成として距離演算部33aと、距離画像生成部33bとを備える。プログラムメモリに予め格納された距離演算プログラム、距離画像生成プログラムをデータメモリの一部を作業領域として読み出し、演算装置(演算器)により演算することにより、これら各部の機能が実現される。
【0040】
距離演算部33aは、距離画像センサ20から信号処理部32を介して出力された第1の受光信号と、第2の受光信号に基づき、距離演算部33aにおいて画素毎に受光した光線の光線飛翔距離を演算する。
【0041】
距離画像生成部33bは、反射光のうちの光の飛翔した距離に応じた距離画像データを生成する。距離画像生成部33bは、距離演算部33aにおいて算出された画素毎の光線飛翔距離に基づき、受光面が受光した眼Eからの反射光の距離画像を形成するための距離画像データを生成する。
【0042】
≪制御部34≫
制御部34は、上述の演算装置などから構成され、光源部10及び距離画像センサ20を制御する。プログラムメモリには、光源部10及び距離画像センサ20を制御するためのプログラムの他、次に説明する擾乱光の判別や、擾乱光分離情報(光分離情報)を生成するために必要な手順が定義されたプログラムや各種データが予め格納されている。制御部34はプログラムメモリに格納されたこれらのプログラムをデータメモリの一部を作業領域として読み出し、演算器により演算することにより、各部の動作を制御すると共に、擾乱光の判別と分離に関わる以下の動作を行う。なお、光情報分離部33と、制御部34とは機能的には別個の構成であるが、物理的な構成は同一であってもよい。すなわち、光情報分離部33と、制御部34とが一つのFPGAなどにより実現されていてもよい。
【0043】
なお、眼科装置100は、光源部10、距離画像センサ、タイミング生成部31及び信号処理部32を含む反射光を測定する測定装置と、測定した反射光を解析する光情報分離部を含む情報処理装置とが別体に構成されていてもよい。
【0044】
(動作例)
次に、眼科装置100の動作の概要を説明する。眼科装置100は、光源部10から眼Eに変調光を入射し、当該変調光が眼Eにおいて反射した反射光を、距離画像センサ20において受光する。制御ユニット30は、距離画像センサ20が受光した眼Eにおける反射光の光線飛翔距離を取得し、その光線飛翔距離に基づき眼Eからの反射光に含まれる正常光と擾乱光とを分離する。そして、制御ユニット30は、反射光の距離画像を生成する。
【0045】
ここで、図3図6を参照して、制御ユニット30による、光線飛翔距離に基づく正常光と擾乱光との分離動作について説明する。図3は、眼科装置100の動作例の流れを示すフローチャートである。図4は、眼科装置100の動作例を説明するタイミングチャートである。図5及び図6は、眼科装置100の動作例を説明するための波形図である。
【0046】
図3に示すように、光情報分離部33は、まず、光線飛翔距離取得動作を実行し、反射光の光線飛翔距離を取得する(ステップS11)。そして、光情報分離部33は、取得した光線飛翔距離が基準距離と異なるか否かを判定する(ステップS12)。
【0047】
ここで、基準距離とは、正常光に応じて決められる距離であり、光学系の設計光路長に基づき定められる。基準距離は、例えば、正常光が眼において反射した部位の、光学系の光路中の位置に応じて決めることができる。より具体的には、基準距離は、眼底での反射光を正常光とする場合では、光学系の眼E以外の光路の長さ、光学系に対する眼Eの位置、および、眼Eの大きさの設定値に基づく眼Eにおける光路の長さ等に基づいて、眼底の反射光が飛翔すべき距離として求められる。さらに、成人の眼球の大きさは、病態を含む個人差を考慮しても、その長軸が24~30mm程度に収まる。そのため、予め推定した値を眼Eの大きさの設定値としても、後述の距離分解能に影響を及ぼさない。また、公知の測定装置により眼Eの大きさを別途測定することも可能である。なお、眼Eの光学系に対する位置は、被験者の眼Eの焦点を合わせる調整などにより所定の位置に調整することができ、眼Eの測定中における変位は、眼科検査において公知の技術を利用して補正することが可能である。本実施形態では、眼Eに関するこれらの位置の補正を適宜に含んでいてよい。
【0048】
ステップS12において、取得した光線飛翔距離が基準距離と異なると判定した場合(Yes)、反射光に擾乱光の発生有りとする(ステップS14)。ステップS12において、取得した光線飛翔距離が基準距離と同一であると判定した場合(No)、反射光に擾乱光の発生無しとし(ステップS13)、当該動作を終了する。ステップS14の反射光に擾乱光の発生有りの場合、擾乱光分離情報を生成し(ステップS15)、当該動作を終了する。
【0049】
ここで、ステップS11の光線飛翔距離取得動作について、説明する。光線飛翔距離取得動作において、まず、タイミング生成部31からの発光制御信号に基づいて、光源部10は眼Eに変調光を照射する。次に、タイミング生成部31からの露光制御信号に基づいて、眼Eからの反射光を距離画像センサ20において受光する。そして、距離演算部33aは、受光した反射光の光線飛翔距離を演算する。
【0050】
(光線飛翔距離取得動作)
ステップS11の光線飛翔距離取得動作の詳細について、以下説明する。
【0051】
<1.光源部10からの変調光の照射>
光線飛翔距離を取得するにあたり、制御部34は、タイミング生成部31に対して、光源部10に発光制御信号を送信するよう制御する。光源部10は、タイミング生成部31から入力された発光制御信号に従って所定のパルス幅で変調光を発光する。
【0052】
図4の(1)は光源部10の発光期間を示す。本実施の形態では、図4の(1)に示す様に、光源部10は(a)-(d)の間発光し、(d)-(g)の間消灯する。これを1周期とし、所定のタイミングマージンtm((g)-(h)の間)を介して、所定の露光時間の間、光源部10は1回以上パルス発光する。本実施の形態では、光源部10は、所定の露光時間の間、予め定められた所定の回数(例えば、数百回~数万回)パルス発光を繰り返す。
【0053】
ただし、所定の露光時間における光源部10の発光回数は、距離画像センサ20において正常光と擾乱光とを分離するために十分な光量を確保することができれば特に限定されるものではない。上述した条件を満たすことができれば、所定の露光時間における光源部10の発光回数は1回でもよい。
【0054】
<2.距離画像センサ20における反射光の受光>
光源部10がパルス発光を開始すると、光源部10から照射された変調光は光学系1内の光路を飛翔して眼Eに到達し、眼Eにおいて反射する。そして、眼Eにおいて反射した反射光は、光学系1内の光路を距離画像センサ20に向かって飛翔し、距離画像センサ20に到達する。例えば、擾乱光が眼の表面における反射光である場合、眼底における反射光である正常光は、擾乱光よりも遅れて距離画像センサ20に到達する。この場合、距離画像センサ20は、正常光よりも擾乱光を先に受光する。
【0055】
制御部34は、タイミング生成部31に対して、距離画像センサ20に露光制御信号を送信するよう制御する。距離画像センサ20は、タイミング生成部31から入力された露光制御信号に従って露光させる。
【0056】
≪擾乱光≫
眼Eの表面において反射した擾乱光が距離画像センサ20に到達するのは、光源部10の発光開始から、所定の遅れ時間(delay1-1)が経過した後になる。図4の(2)に示す例では、(a)-(b)の長さに相当する遅れ時間(delay1-1)経過後に、距離画像センサ20に擾乱光が(b)-(e)の間到達するものとした。当該擾乱光の発生の有無、遅れ時間(delay1-1)及び擾乱光の信号波形は、眼科装置100により擾乱光の判別、分離情報の生成が終了するまで未知の情報である。
【0057】
≪正常光≫
光学系1からの出射光に含まれる正常光は、擾乱光に遅れて距離画像センサ20に到達する。図4の(3)に示す例では、光源部10の発光開始から、(a)-(c)の長さに相当する遅れ時間(delay1-2)が経過した後に、正常光が距離画像センサ20に到達するものとした。この遅れ時間(delay1-2)はその光学系1に固有の時間である。当該遅れ時間(delay1-2)は、例えば、光学シミュレーション、或いは、基準光学系を用いた測定結果等により、既知の情報として取得しておき、制御部34のデータメモリなどに予め格納しておくことができる。なお、基準光学系とは、光学シミュレーション上で擾乱光の発生がないことが予め確認された光学系と同一の光学系をいう。また、距離画像センサ20において受光する正常光の信号波形についても同様であり、既知の情報として取得しておき、制御部34のデータメモリなどに予め格納しておくことができる。
【0058】
≪受光信号(応答信号)≫
次に、距離画像センサ20における受光動作について説明する。距離画像センサ20は所定の露光時間の間露光され、その間に蓄積した電荷を受光信号として制御ユニット30に出力する。この受光信号は、光源部10から眼Eへの所定のパルス幅を有する変調光の信号入力に対して、眼Eからの応答信号に相当する。
【0059】
上述したとおり、本実施形態では、距離画像センサ20としてTOF方式のCCDセンサを用いる。当該実施形態では、光源部10のオン/オフに同期して、第1の電荷蓄積部と第2の電荷蓄積部とに交互に電荷が振り分けられるものとする。すなわち、第1電荷蓄積部と第2の電荷蓄積部とが光源部10のオン/オフに同期して、オン/オフが切り替えられる。
【0060】
ここで、図4の(2)、(3)に示すように、距離画像センサ20には(a)-(b)の間は光学系1からの出射光が到達しない。(b)-(c)の間は擾乱光のみが到達する。(c)-(e)の間は正常光と擾乱光とが重畳されて到達する。(e)-(f)の間は正常光のみが到達する。(f)-(g)の間は距離画像センサ20には光学系1からの出射光は到達しない。
【0061】
第1の電荷蓄積部は、(a)-(d)の間オンされる。そのため、第1の電荷蓄積部には(b)-(c)の間に距離画像センサ20に到達した擾乱光と、(c)-(d)の間に距離画像センサ20に到達した正常光及び擾乱光の重畳光とのそれぞれの光量に応じた電荷が蓄積される(図4の(4)参照)。
【0062】
第2の電荷蓄積部は、(d)-(g)の間オンされる。そのため、第2の電荷蓄積部には、(d)-(e)の間に距離画像センサ20に到達した正常光及び擾乱光の重畳光と、(e)-(f)の間に距離画像センサ20に到達した正常光とのそれぞれの光量に応じた電荷が蓄積される(図4の(5)参照)。タイミングマージンtmの間((g)-(h))は第1の電荷蓄積部及び第2の電荷蓄積部はオフとなる。
【0063】
所定の露光時間の距離画像センサ20では、上記の動作を繰り返し行う。そして、所定の露光時間経過後、第1の電荷蓄積部及び第2の電荷蓄積部にそれぞれ蓄積された電荷に応じた信号電圧が、それぞれ第1の受光信号、第2の受光信号として制御ユニット30に出力される。なお、受光信号は、この第1の受光信号と第2の受光信号とから構成される。
【0064】
<3.反射光の光線飛翔距離を演算>
制御ユニット30は、距離画像センサ20から受光信号が入力されると、信号処理部32において上記信号処理を施す。そして、光情報分離部33の距離演算部33aでは、この第1の受光信号と第2の受光信号との信号強度の比率に基づいて、画素毎に受光した光の光線飛翔距離を演算する。これらの一連の動作により、所定の露光時間の間に実行される1回(1シークエンス)分の受光動作(撮像動作)に基づく、画素毎の光線飛翔距離が取得される。
【0065】
(擾乱光分離情報生成)
次に、ステップS15の擾乱光分離情報生成動作の詳細について、以下説明する。光情報分離部33は、反射光の光線飛翔距離と、基準距離である正常光の光線飛翔距離とに基づいて、正常光を表す情報と擾乱光を表す情報とを分離するための擾乱光分離情報を生成する。
【0066】
図5は、正常光の信号をその波形として示しており、図6は、距離画像センサ20が受光した反射光の信号をその波形として示している。なお、図5及び図6には、説明の便宜上、反射光の信号波形を示しているが、この時点では反射光の信号波形は未知である。ステップS15の擾乱光分離情報生成動作では、光線飛翔距離に基づき正常光と反射光とを分離する情報を生成する。
【0067】
図5及び図6において、横軸は、光源部10から変調光を出射してから距離画像センサ20において反射光を受光するまでの時間を表し、縦軸は、距離画像センサ20が受光した光の信号強度(明るさ等)を示している。また、図5及び図6において、領域S1は、第1の受光信号の信号波形の領域を示しており、領域S2は、第2の受光信号の信号波形の領域を示している。
【0068】
図5に示すように、距離画像センサ20が受光する光が正常光のみである場合、第1の受光信号は、領域S1内の波形A1の信号波形を示し、第2の受光信号は、領域S2内の波形A2の信号波形を示す。正常光の信号波形は、予め取得され、データメモリ等に予め格納されている。
【0069】
一方、距離画像センサ20が受光する光が正常光と擾乱光とが重畳した反射光である場合、図6に示すように、正常光の信号波形とは異なる信号波形を有する。すなわち、第1の受光信号は、領域S1内の波形A1+δ1の信号波形を有し、第2の受光信号は、領域S2内の波形A2+δ2の信号波形を有する。このように、正常光と擾乱光とが重畳した反射光は、正常光からδ1及びδ2の分だけ光線飛翔距離がずれる。すなわち、光線飛翔距離のずれ量に相当する受光信号が、擾乱光の受光信号であると判別することができる。制御部34は、このずれ量に相当する受光信号が擾乱光の受光信号であることを示す情報を、擾乱光分離情報として生成する。
【0070】
本実施形態では、上記のようにして判明した擾乱光の存在を検査結果としてもよい。また、本実施形態では、所定の擾乱光を含む典型例を参照することによって、擾乱光の種類を推定することが可能である。さらに、本実施形態では、擾乱光の種類の推定結果から、眼Eの反射光の距離画像を形成することが可能である。あるいは、本実施形態では、擾乱光の種類の推定結果から、当該擾乱光を発生させた眼Eの部位の状態を推定することができ、それに応じた眼Eの疾患を推定することが可能である。以下、本実施形態の眼科装置による検査結果の態様について、より詳しく説明する。
【0071】
(距離画像生成)
距離画像生成部33bは、反射光の光線飛翔距離に基づいて、反射光の距離画像データを生成する。距離画像生成部33bは、生成した距離画像データに眼底像を表すテクスチャを貼り付けたデータを距離画像データとして生成してもよい。
【0072】
距離画像は、距離画像センサ20の各画素で受光した光線の距離に関する情報が画素毎に付加されたものである。この距離に関する情報は反射光の光線飛翔距離に由来する物理量である。光線飛翔距離は、各像に対応する被写体と光学系1との間の距離に固有の値をとる。距離画像は、正常光及び擾乱光のそれぞれに固有の光線飛翔距離を有する像として表示され、正常光像と擾乱光像とは異なる光線飛翔距離を有する像として表示される。
【0073】
また、距離画像生成部33bは、擾乱光成分が取り除かれた反射光の距離画像データを生成してもよい。これにより、擾乱光が不要な光である場合に、不要な光を表す不要な画像を含まない距離画像データを得ることができる。例えば、擾乱光が眼の表面における反射光のみである場合、これを取り除くことで、ゴーストフレアが生じていない眼底像を得ることができる。
【0074】
制御部34は、生成した距離画像データを、表示装置(図示せず)等に表示させる、又は、画像出力装置等により紙等の出力媒体に出力させる。制御部34は、生成した距離画像データを、データメモリ等に保存してもよい。
【0075】
(擾乱光発生面の推定又は特定)
光情報分離部33は、反射光に含まれる擾乱光の光線飛翔距離から、眼Eのどの面において発生した擾乱光であるのかを推定又は特定することもできる。擾乱光の光線飛翔距離は、上述したように画素毎に取得することができる。一方、光学系1の設計光路長、光学系1を構成する各光学面間の距離等は既知の光学設計情報である。また背景に関する光学距離情報等についても既知の情報として取得しておくことができる。これらの光学系1の光学設計情報等と、擾乱光の光線飛翔距離とに基づき、光学系1内における擾乱光の飛翔光路を解析することができる。
【0076】
このように、光学系1内における擾乱光の飛翔光路が明らかになれば、眼Eにおいて、擾乱光が発生する原因面を特定することができる。例えば、網膜剥離の発生やその剥離箇所及び剥離の程度、白内障の発生や、その混濁の程度等の情報を、擾乱光の光線飛翔距離に基づいて取得することができる。
【0077】
擾乱光の発生原因を推定及び特定する方法としては、例えば、網膜剥離や白内障が生じている眼から取得した擾乱光分離情報と、検体の眼から取得した擾乱光分離情報とを比較する方法が挙げられる。また、網膜剥離や白内障が生じている眼から取得した距離画像データと、検体の眼から取得した距離画像データとを比較することで、網膜剥離や白内障の発生の有無を推定及び特定することもできる。
【0078】
(距離画像による正常光と擾乱光との分離)
光情報分離部33が反射光の光線飛翔距離に基づいて正常光と擾乱光とを分離する構成に変えて、反射光の距離画像データに基づいて、観察者が正常光と擾乱光とを分離してもよい。
【0079】
眼からの反射光により生成した可視光画像では、正常光像と擾乱光像とは異なる光量を有する像として表示される。正常光と擾乱光とを光量差により区別することは困難である。一方、距離画像では正常光と擾乱光とは光線飛翔距離により異なる像となるため、正常光と擾乱光とを容易に区別することができる。
【0080】
同様に、複数の擾乱光が発生する場合に、一の擾乱光像は、その発生場所に固有の光線飛翔距離を有する像として表示され、他の擾乱光像についてもその発生場所に固有の光線飛翔距離を有する像として表示される。可視光画像において一の擾乱光と他の擾乱光とを光量差に基づいて区別することは困難であるが、距離画像では光線飛翔距離によりこれらの擾乱光は異なる像となるため、一の擾乱光と他の擾乱光とを容易に区別することができる。このように、擾乱光の光量によらず擾乱光を精度よく判別することができる。
【0081】
すなわち、距離画像では、眼底像、白内障や網膜剥離等の異常が発生した部分の像、及び、眼の表面における反射に起因するゴーストフレアについて、それぞれが異なる像となるため、容易に区別することができる。
【0082】
可視光像に基づき正常光と擾乱光とを区別する方法では、光学系に対する光の照射方法や光量によっては、受光部に到達する擾乱光の光量が少なく、可視光像において擾乱光像を観察することが困難な場合がある。また、異なる部分において複数の擾乱光が発生している場合には、可視光像においてそれらを区別することは困難である。さらに、可視光像では擾乱光の光線飛翔距離を判別することはできないので、フレアまたはゴーストが観察され、擾乱光の発生が確認できたとしても、その原因を推定又は特定することはできない。
【0083】
一方、距離画像は光線飛翔距離に応じた明度、色等で正常光像及び擾乱光像が表示されるので、正常光と擾乱光との区別、及び、複数の擾乱光のそれぞれの区別が容易である。したがって、眼科装置100によれば、擾乱光の光量によらず、擾乱光を精度よく検出することができると共に、擾乱光の発生原因を推定又は特定することができる。
【0084】
(擾乱光分離情報の利用)
制御部34が生成した擾乱光分離情報を、光学系1が製品としてユーザ等に用いられるときに、当該光学系1により形成される光学像を補正するための補正情報として用いることができる。
【0085】
例えば、光学系1が撮像装置の撮像レンズである場合、当該光学系1が取り付けられる撮像装置に当該擾乱光分離情報を補正情報として予め保持させておき、その撮像装置において受光した結像光(画像信号)から擾乱光成分を信号処理により除去可能に構成する。これにより、フレアやゴースト等のない被写体像を得ることができる。
【0086】
あるいは、画像処理ソフトがインストールされたパーソナルコンピュータ(PC)等において、光学系1と対応付けられた擾乱光分離情報を保持させておき、当該光学系1を用いて撮像された撮像画像を、PC等において読み出す。そして、上記擾乱光分離情報を用いて画像処理を施し、フレアやゴースト等のない被写体像を生成してもよい。
【0087】
また、擾乱光分離情報に基づいて生成された距離画像データは、距離画像センサ20における受光のタイミングの制御に利用することもできる。すなわち、タイミング生成部31は、距離画像生成部33bで生成する距離画像データを参照し、距離画像センサ20が検出する予め定められた距離を飛翔した光の強度と、それ以外の距離を飛翔した光の強度との比が所望の範囲内となるように、距離画像センサ20における受光のタイミングを制御する露光制御信号を送信してもよい。例えば、正常光と擾乱光との光の強度の比が低下しないように、距離画像センサ20における受光タイミングを設定することで、距離画像データに基づき正常光と擾乱光とを容易に分離することができる。
【0088】
〔実施形態2〕
実施形態2に係る眼科装置は、反射光の光線飛翔距離及び信号波形を取得し(ステップS21)、取得した信号波形の逆畳み込み演算により擾乱光分離情報を生成する(ステップS25及びステップS26)点において、実施形態1に係る眼科装置100と異なっている。すなわち、実施形態2に係る眼科装置は、ステップS22~ステップS24までの光線飛翔距離に基づく正常光と擾乱光との分離動作については、実施形態1に係る眼科装置におけるステップS11~ステップS14の光線飛翔距離に基づく正常光と擾乱光との分離動作と同一である。したがって、実施形態2においては、実施形態1と異なる点についてのみ詳細に説明し、他の詳細については省略する。
【0089】
以下、図7図15を参照して、実施形態2における正常光と擾乱光との分離動作について説明する。図7は、実施形態2に係る眼科装置の動作例の流れを示すフローチャートである。図8は、実施形態2に係る眼科装置の動作例を説明するタイミングチャートである。図9~11は、実施形態2に係る眼科装置の動作例を説明するための波形図である。図12は、実施形態2に係る眼科装置の動作例を説明するための光強度分布図である。図13は、実施形態2に係る眼科装置の動作例を説明するための反射光の強度分布の一例を示す図である。図14は、実施形態2に係る眼科装置の動作例を説明するための反射光の波形の一例を示す図である。図15は、実施形態2に係る眼科装置の動作例を説明するための波形図及び強度分布の一例を示す図である。
【0090】
(光線飛翔距離取得動作)
ステップS21の光線飛翔距離取得動作について、以下説明する。
【0091】
<1.第1シークエンス>
反射光の光線飛翔距離を取得するに際し、制御部34は、実施形態1と同様の手順で所定の露光時間の間に光源部10により眼Eに対して変調光を照射しつつ、距離画像センサ20により反射光を受光する一連の動作を実行させる。こうして、距離画像センサ20から制御ユニット30に受光信号を出力させる。この一連の動作を1シークエンスとした場合、図8の(a)~(h)に示す第1シークエンスの受光動作は、実施形態1と同様である。
【0092】
具体的には、制御部34は光源部10及び距離画像センサ20を制御して、(a)-(g)の間は実施形態1と同様に光源部10にパルス発光させ、距離画像センサ20に反射光を受光させる。受光の際に発生した電荷を第1の電荷蓄積部及び第2の電荷蓄積部に所定のタイミングで振り分けさせる。これを1周期とし、所定のタイミングマージンtm((g)-(h)の間)を介して、所定の露光時間の間、当該動作を1回以上繰り返す。これが第1シークエンス目の動作である。
【0093】
<2.第2シークエンス>
次に、第2シークエンスの動作について説明する。図8に示すように、第1シークエンスの動作が完了すると、距離画像センサ20側における第1の電荷蓄積部及び第2の電荷蓄積部のオン/オフを切り替えるタイミングは変更せず、第1シークエンスと比較して光源部10をオン/オフさせるタイミングをΔt×1秒遅らせる。図8においては、(a’)の時点から第2シークエンスが開始する。第2シークエンスでは、(a’)の時点で第1の電荷蓄積部をオンした後、Δt×1秒が経過した(b’)の時点で光源部10からのパルス発光を開始させる。光源部10の発光開始のタイミングがΔt×1秒遅延した以外は、第1シークエンスと同様に光源部10から発光させながら、距離画像センサ20に反射光を受光させる。そして、所定の露光時間の間、当該動作を第1シークエンスと同じ回数繰り返させる。なお、Δtは予め定められた所定の遅延時間である。発光パルス幅及び距離画像センサ20の露光時間等に応じて、Δtは適宜適切な値に設定することができる。
【0094】
<3.第3シークエンス以降>
そして、第2シークエンスの動作が完了すると、距離画像センサ20側における第1の電荷蓄積部及び第2の電荷蓄積部のオン/オフを切り替えるタイミングは変更せず、光源部10をオン/オフさせるタイミングを第1シークエンスと比較してΔt×2秒((a’’)-(b’’)の間)遅らせる。
【0095】
このように、1シークエンス分の受光動作が終了する毎に、光源部10の変調光の発光タイミング(照射タイミング)に対して、距離画像センサ20の反射光の受光開始のタイミングを相対的にΔt×(N-1)秒ずらし、Nシークエンス分の受光信号を取得する。そして、光情報分離部33の距離演算部33aでは、これらのNシークエンス分の受光信号に基づいて、光線飛翔距離を演算する。このように、光源部10による変調光の発光と、当該変調光の入射に応じた眼Eにおける反射光、すなわち応答信号(インパルス応答)との畳み込みが得られる。
【0096】
(反射光の信号波形取得のロジック及び眼球の状態推定についての概略説明)
ここで、本実施形態における反射光の信号波形取得のロジックとそれに基づく眼球の状態推定との概要を説明する。
【0097】
TOFカメラの一回(一シークエンス)の測定では、観測窓が空いている時間の積算光量が測定される。当該積算光量は、下記式で表される。下記式中、「C observed」は、積算光量を表しており、「Srecieved」は、真の信号を表している。真の信号とは、所定の測定時間に応じた光量の大きさを有する受信信号である。「Tstart」は観測窓が空いている時間の開始時間を表し、「Tend」は観測窓Wが空いている時間の終了時間を表している。また、「n」はシークエンスの数を表し、1以上の正の整数である。
【0098】
【数1】
【0099】
観測窓を動かしてToFカメラで複数回、積算光量を測定する。観測窓を動かして複数回測定したときのToFカメラからの受信信号を「Sobserved」とすると、当該受信信号は、積算光量を用いて、下記式のように表される。
【0100】
【数2】
【0101】
また、観測窓を動かしたときの上記受信信号Sobservedは、観測窓の関数Wと真の信号Srecievedとの畳み込みと等しい。よって、当該受信信号Sobservedは、下記式で表される。下記式中、「W」は、観測窓の動きを表す関数である。
【0102】
【数3】
【0103】
ここで、観測窓の関数Wは、眼の観察者によって任意に定められる関数であるので既知である。したがって、受信信号Sobservedを逆畳み込みすることによって一シークエンスにおける真の受信信号Srecievedを再現することが可能である。Srecievedは、相手の位置空間応答を「PR」、光源からの出射光のパルスを表す関数を「A」とすると、これらの畳み込みであるので、下記式によって表される。
【0104】
【数4】
【0105】
パルスの関数Aも、眼の観測者によって任意に決定可能であるので既知である。位置空間応答PRが再現される。位置空間応答PRは、位置空間Pと応答関数Rとの畳み込みである。
【0106】
ここで、本実施形態における測定対象は眼(眼球)である。眼における光の相互作用には種々の条件が存在する。当該条件とは、例えば、反射になどのインパルス応答が多い、眼球の基本的な構造が定まっている、などである。このため、本実施形態では、位置空間Pおよび応答関数Rについて、上記の種々の条件を考慮することにより、眼球の状態を推定することが可能となる。
【0107】
(応答信号波形取得動作)
ステップS21の応答信号波形取得動作について、以下説明する。上述したように、Nシークエンス分の受光信号を取得することで、Δt秒毎の第1の受光信号と第2の受光信号との信号強度比の変化を明らかにすることができる。そして、光情報分離部33は、反射光の信号波形に応じて、既知の正常光の信号波形を参照し、反射光のうちの正常光を表す情報と、擾乱光を表す情報とを分離する。
【0108】
図9の領域S1及びS2には、第1シークエンスの受光動作において、距離画像センサ20が受光した反射光の信号波形が示されている。図10の領域S1’及びS2’には、第2シークエンスの受光動作において、距離画像センサ20が受光した反射光の信号波形が示されている。なお、図9~11には、説明の便宜上、反射光の信号波形を示したが、この時点では反射光の信号波形は未知である。
【0109】
図9図11において、横軸は、光源部10から変調光を出射してから距離画像センサ20において反射光を受光するまでの時間を表し、縦軸は、距離画像センサ20が受光した光の信号強度(明るさ等)を示している。図10に示す領域S1’及びS2’は、領域S1及びS2からΔt×1秒遅れた領域である。さらに、図11に示す領域S1’’及びS2’’は、領域S1及びS2からΔt×2秒遅れた領域である。図11の領域S1’’及びS2’’は、第3シークエンスの受光動作において、距離画像センサ20が受光した反射光の信号波形を示している。このように、シークエンス毎に、距離画像センサ20が受光した反射光の信号波形がずれている。
【0110】
したがって、各シークエンスで取得した反射光の受光信号、すなわち、Nシークエンス分の受光信号の畳み込みにより、距離画像センサ20が受光した反射光のΔt秒毎の光量の時間変化、すなわち図9~11に示すような応答信号の信号波形を取得することができる。
【0111】
このようにして取得した信号波形を、既知の正常光の信号波形と比較することで、正常光と擾乱光とを分離することができる。すなわち、信号波形のずれ量に相当する受光信号が、擾乱光の受光信号であると判別することができる。制御部34は、このずれ量に相当する受光信号が擾乱光の受光信号であることを示す情報を、正常光と擾乱光とを分離するための擾乱光分離情報として生成する。
【0112】
眼Eの反射光は、この応答信号の信号波形に基づき、正常光及び擾乱光の区別がある程度推定可能である。特に、擾乱光が眼の表面の反射光である場合には、正常光と擾乱光との光線飛翔距離の差は約5cm程度であるので、距離画像センサ20がこの差を検出できる精度であれば、応答信号の信号波形に基づき正常光と擾乱光とを分離することができる。例えば、市販のTOFセンサの精度は、最適化しなくても1cm程度であり、ダイナミックレンジを絞って最適化すればより精度を上げることも可能であるため、正常光と擾乱光とを分離するためには十分な精度である。
【0113】
また、眼科装置100は、観測対象が眼Eに定まっており、擾乱光もインパルス応答である場合が多いため、応答信号の信号波形が得られれば、その正常光成分と擾乱光成分とを推定することが可能である。例えば、角膜反射のようにインパルス応答するはずの位置で、スペクトルが太っている場合、そこに拡散成分があることがわかる。すなわち、角膜の欠陥、白濁等が生じていることが推定され、また、このスペクトル形状から白濁度の程度及び分布を推定することもできる。
【0114】
さらに、白内障や硝子体出血についても同様であり、本来何もないはずの位置にスペクトルが認められる場合、正常光の信号波形と比較することで、異常な組織の存在を推定することができる。これにより、網膜剥離の発生及びリスク、飛蚊症等を診断することができる。また、網膜表面からの反射が推定される位置で、スペクトルが予想される大きさよいも大きい場合、網膜が異常な状態(剥離寸前、異常組織の新生等)になっている可能性があると判断することができる。
【0115】
(応答信号波形の逆畳み込み演算)
ステップS25の応答信号波形の逆畳み込み演算動作の詳細について、以下説明する。反射光の光線飛翔距離を基準距離と比較して、反射光に擾乱光の発生有りの場合、ステップS25において、応答信号波形の信号を逆畳み込み演算する。ステップS21で取得した図9図11に示すような応答信号波形の信号を用いて逆畳み込みすることで、図12に示すように、正常光及び擾乱光に起因する応答信号の信号強度分布を明らかにすることができる。図12に示すように、逆畳み込み演算により、正常光である眼底反射光よりも光線飛翔距離が短い擾乱光である角膜反射光と眼球の濁り部分からの反射光の信号強度分布を取得することができる。
【0116】
ここで、逆畳み込み演算により、図13に示す反射光の光線飛翔距離に対する信号強度分布を取得する場合を例として、逆畳み込み演算について説明する。図14に示す反射光の信号波形は、Nシークエンス分の受光信号の畳み込みにより得られる。一方、図14に示す反射光の信号波形は、受光信号と変調光との畳み込みで表される。したがって、反射光の信号波形を変調光により逆畳み込み演算することによって、図15に示すように、図13に示す信号強度分布と同じ信号強度分布を、反射光の信号強度分布として取得することができる。
【0117】
このような逆畳み込み演算によれば、反射光に含まれる正常光成分、第1の擾乱光成分、第2の擾乱光成分、・・・第nの擾乱光成分(但し、nは1以上の整数)について、光線飛翔距離の異なる成分毎にその信号強度を明らかにすることができる。つまり、光線飛翔距離に対する信号強度の分布を得ることができる。
【0118】
(擾乱光分離情報生成)
ステップS26の擾乱光分離情報生成動作について、以下説明する。制御部34は、反射光の光線飛翔距離、畳み込み演算により取得した反射光の信号波形、及び、逆畳み込み演算により取得した反射光の信号強度分布を、正常光と擾乱光とを分離するための擾乱光分離情報として生成する。
【0119】
実施形態2によれば、正常光と擾乱光とを分離するための擾乱光分離情報を、実施形態1と比較するとより多くの情報に基づいて生成することができるため、正常光と擾乱光とを精度よく分離することが可能になる。
【0120】
実施形態2において、正常光と擾乱光との分離は、実施形態1と同様に行うこともできる。その際、1シークエンス分の受光動作により距離画像センサ20から出力された受光信号に基づいて、正常光と擾乱光とを分離してもよいし、Nシークエンス分の受光動作により応答信号の信号波形を明らかにした上で、正常光と擾乱光とを分離してもよい。
【0121】
また、逆畳み込み演算により取得した、光線飛翔距離に対する信号強度の分布に基づいて、正常光と擾乱光とを分離してもよい。例えば、複数のゴーストが重なり合って写り混んでいる場合でも、ゴースト毎にその信号強度が明らかになるため、ゴースト毎にその光量を算出することが可能になり、各ゴーストを分離することが可能になる。
【0122】
さらに、光学系1内で反射を繰り返すことにより、ゴーストとして現れる擾乱光成分の信号強度の分布は、光線飛翔距離に対して鋭いピークとなって現れる。一方、光源部10から強い光が入射することにより、フレアとなって現れる擾乱光成分の信号強度の分布は、光線飛翔距離に対して幅の広い分布となって現れる。すなわち、光線飛翔距離に対する信号強度の分布を解析することにより、擾乱光の発生原因を推定することが可能になるほか、それぞれの光量を算出することができ、擾乱光成分の分離が可能になる。
【0123】
また、フレアとなって現れる擾乱光成分の光線飛翔距離は、正常光の光線飛翔距離との差が小さい。そのため、例えば、光線飛翔距離を取得するだけでは、正常光であるのか擾乱光であるのかを明確に区別することが困難な場合がある。そのような場合には、Nシークエンス分の受光信号を取得し、受光信号の信号波形を明らかにした後に、逆畳み込み演算を行って光線飛翔距離に対する信号強度分布を得た上で、正常光と擾乱光とを区別すればよい。また、逆畳み込み演算によれば、反射光に擾乱光成分が含まれているか否かを明確に判別することができない場合であっても、反射光から擾乱光成分を分離するための擾乱光分離情報を生成することができる。
【0124】
〔眼科検査装置及び眼科検査システム〕
上述した実施形態1又は2の眼科装置は、眼科検査装置としても利用可能であり、このような眼科検査装置は、本発明の範疇に含まれる。さらにこのような眼科検査装置を、眼の疾患の診断装置や手術装置等と組み合わせた眼科検査システムについても、本発明の範疇に含まれる。
【0125】
眼科検査装置は、上述した実施形態1又は2の眼科装置に加えて、外部からの入力を受け付ける入力部、測定結果を表示する表示部、測定結果及び距離画像データ等を含む情報を入出力するための通信部、被験者の顔を位置決めする位置決め部、視線を固定するための固定部等を一体に備えていてもよい。当該眼科検査装置の制御ユニットは、前述したように、光学系に対する眼の位置を適宜に補正する機能的構成をさらに備えていることが好ましい。また、眼科検査装置は、後述の眼科検査システムに含まれてもよく、また後述の画像判定モデルによる判定部をさらに備えていてもよい。
【0126】
眼科検査システムは、上述した実施形態1又は2の眼科装置、距離画像データを蓄積する記憶部、距離画像データを参照して診断情報を生成する診断部、診断情報を受信する受信部等を備えていてもよい。眼科検査システムは、眼科の検査結果を利用する様々な用途のシステムに適用可能であり、例えば、眼科の診断を実施するシステムであってよい。あるいは、眼科検査システムは、眼科検査結果をユーザの健康状態を示す情報としてユーザに提供する健康診断システムであってよい。あるいは、眼科検査システムは、当該健康状態を示す情報に加えて、健康状態の促進に寄与する情報を合わせてユーザに提供する健康促進システムであってもよい。
【0127】
当該眼科検査システムは、例えば、眼科検査を実施するための測定部と、距離画像センサの受診信号に基づいて検査結果の情報を処理する情報処理部とによって構成され得る。上記測定部は、光源部、距離画像センサ、光学系および測定結果の信号を送信する通信部を有し得る。
【0128】
測定部は、被験者の眼の覆うことが可能な筒体を含む機器であってよい。このような筒体を含む機器は、眼科検査における外部の光の影響を抑制する観点から好適である。あるいは、当該機器は、スマートフォンであってもよい。スマートフォンが当該機器であることは、眼科検査に係るデータを容易に入手する観点から好適である。
【0129】
上記の情報処理部は、前述した制御ユニットであってもよいが、当該制御ユニットの機能を有する構成であれば限定されない。情報処理部は、上記の診断部を含んでいてよく、情報処理部では、情報処理における好適な機能的構成を採用することが可能である。したがって、眼科検査に係る情報処理を迅速に実施する観点から好適である。
【0130】
眼科検査システムが備える診断部は、距離画像データを教師データとして学習した画像判定モデルにより画像を判定する判定部を含んでもよい。
【0131】
(画像判定モデルについて)
画像判定モデルには、画像データ中の特定の部位に関する情報の入力に対応して、画像データの適否に関する情報を出力するモデルを用いることが可能である。当該画像判定モデルは、一種でもそれ以上でもよい。
【0132】
当該画像判定モデルは、教師データを参照させて学習させることができる。当該教師データは、被験者の眼底の画像データと、当該画像データに対応する画像中の部位に関する少なくとも一つの情報とを含む。
【0133】
当該画像判定モデルの学習は、例えば以下のようにして実施することが可能である。すなわち、眼底の画像データを十分数用意し、当該画像中の特定の部位(例えば視神経乳頭、静脈血管など)の状態(例えばサイズなど)を計測する。当該計測によるデータを十分数取得し、ニューラルネットワークに学習させ、画像データごとにパスの重みを決定する。このようにして、画像判定モデルを作成する。
【0134】
画像判定モデルおよびそれを学習させる方法は、所期の結果が得られる範囲において適宜に選ぶことができる。画像判定モデルの例には、ニューラルネットワークおよびサポートベクターマシンが含まれる。ニューラルネットワークの例には、畳み込みニューラルネットワーク(CNN)、再帰型ニューラルネットワーク(RNN)および全結合型ニューラルネットワークが含まれる。当該画像判定モデルを学習させるためのアルゴリズムの例には、バックプロパゲーションおよびID3が含まれる。
【0135】
なお、画像判定モデルは、機械学習によるモデル以外であってもよい。例えば、画像判定モデルは、上記の画像データを目的変数とし、画像データの適否に関する情報を説明変数とする回帰モデルであってもよい。
【0136】
眼科検査システムは、視力検査などの眼に対する他の検査と並行することが可能である。眼科検査は、例えば音声ガイドなどのガイダンス機能により、被験者自身によって実施することも可能である。この場合、眼の撮像及び画像診断のためのオペレータが不要なので、眼科検査にかかるコストを大幅に削減できることが期待される。また、眼科検査システムによれば眼科検査の普及が期待されるため、眼疾の予防がより促進され、その結果、眼疾によって失明する患者の低減が期待される。
【0137】
このようなシステムは、当該システムを実行させるプログラムを展開するRAM(Random Access Memory)などを備える制御部によって実施することが可能である。上記プログラムは、該プログラムを伝送可能な任意の伝送媒体(通信ネットワークや放送波等)を介して、別の場所のコンピュータに供給されてもよい。なお、上記のシステムは、上記プログラムが電子的な伝送によって具現化された、搬送波に埋め込まれたデータ信号の形態でも実現され得る。あるいは、上記制御部は、集積回路(ICチップ)等に形成された論理回路(ハードウェア)によって実現されてもよい。
【0138】
〔まとめ〕
本発明の態様1に係る眼科装置(100)は、眼(E)が光路中に配置される光学系(1)に変調光を出射する光源部(10)と、変調光が眼で反射した反射光であって、光学系から出射した反射光を受光し、受光した反射光の強度に応じた信号を出力する受光部(距離画像センサ20)と、変調光の周期に応じたタイミングで受光部が反射光を受光するように、光源部および受光部を制御するタイミング生成部(31)と、受光部からの信号に応じて算出される反射光の飛翔した距離を参照して、反射光のうちの予め定められた距離を飛翔した光を表す情報とそれ以外の距離を飛翔した光を表す情報とを分離する光情報分離部(33)と、を備える。
【0139】
これにより、反射光に含まれる予め定められた距離を飛翔した光の成分とそれ以外の光の成分とを分離して、反射光を適切に分析することができる。このため、所望の光以外の光がゴーストフレアの原因となる不要な光である場合には、不要な光を適切に取り除き、ゴーストフレアの発生を抑えた眼科装置を実現することができる。このように、上記の構成によれば、眼の検査における不要な光の情報が適切に除かれた検査結果を取得可能な眼科装置を実現することができる。
【0140】
本発明の態様2に係る眼科装置において、光情報分離部は、受光部からの信号に応じて算出される反射光の飛翔した距離と、光学系の設計光路長に基づき定められた基準距離とに基づいて、反射光のうちの予め定められた距離以外の距離を飛翔した光を表す情報を特定してもよい。これにより、予め定められた距離を飛翔した光とそれ以外の距離を飛翔した光とを容易に分離することができる。
【0141】
本発明の態様3に係る眼科装置において、光情報分離部は、受光部からの信号に応じて取得される信号の波形に応じて、信号の既知の波形を参照し、反射光のうちの予め定められた距離を飛翔した光を表す情報と、それ以外の距離を飛翔した光を表す情報とを分離してもよい。これにより、予め定められた距離を飛翔した光とそれ以外の距離を飛翔した光とを精度よく分離することができる。
【0142】
本発明の態様4に係る眼科装置において、光情報分離部は、反射光のうちの光の飛翔した距離に応じた距離画像データを生成する距離画像生成部をさらに備えてもよい。これにより、距離画像データに基づいて、予め定められた距離を飛翔した光とそれ以外の距離を飛翔した光とを分離することができる。
【0143】
本発明の態様5に係る眼科装置において、タイミング生成部は、距離画像生成部で生成する距離画像データを参照し、受光部が検出する予め定められた距離を飛翔した光の強度と、それ以外の距離を飛翔した光の強度との比が所望の範囲内となるように、受光部における受光のタイミングを制御してもよい。これにより、距離画像データに基づいて、予め定められた距離を飛翔した光とそれ以外の距離を飛翔した光とを精度よく分離することができる。
【0144】
本発明の態様6に係る眼科装置において、受光部は、TOFカメラを含んでもよい。これにより、反射光が飛翔した距離を取得することができる。
【0145】
本発明の態様7に係る眼科装置において、光情報分離部は、予め定められた距離以外の距離を飛翔した光の飛翔距離から、眼における反射光が生じた部位を推定してもよい。これにより、予め定められた距離以外の距離を飛翔した光が生じた原因を特定することができる。
【0146】
本発明の態様8に係る眼科装置において、光源部は、600nm以上、1700nm以下の波長の光を出射する赤外照射装置であってもよい。これにより、被験者にまぶしさを感じさせにくいため好ましい。
【0147】
本発明の態様9に係る眼科装置において、光源部は、600nm以上、1000nm以下の波長の光を出射する近赤外線照射装置であってもよい。これにより、被験者にまぶしさを感じさせにくく、かつ水の吸収の影響が十分に抑制されるため好ましい。
【0148】
本発明の態様10に係る眼科装置において、予め定められた距離を飛翔した光は、眼の眼底で反射した光であってもよい。これにより、眼科装置を、眼底撮像又は眼底検査に利用できる。
【0149】
本発明の態様11に係る眼科検査装置は、態様1~10のいずれかの眼科装置を含む。これにより、反射光に含まれる予め定められた距離を飛翔した光の成分とそれ以外の光の成分とを分離して、反射光を適切に分析することができる。このため、所望の光以外の光がゴーストフレアの原因となる不要な光である場合には、不要な光を適切に取り除き、ゴーストフレアの発生を抑えた眼科検査装置を実現することができる。
【0150】
本発明の態様12に係る眼科検査システムは、態様1~10のいずれかの眼科装置を含む。これにより、反射光に含まれる予め定められた距離を飛翔した光の成分とそれ以外の光の成分とを分離して、反射光を適切に分析することができる。このため、所望の光以外の光がゴーストフレアの原因となる不要な光である場合には、不要な光を適切に取り除き、ゴーストフレアの発生を抑えた眼科検査システムを実現することができる。
【0151】
本発明は上述した各実施形態に限定されず、請求項に示した範囲で種々の変更が可能である。異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態も、本発明の技術的範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0152】
1 光学系
10 光源部
20 距離画像センサ(受光部)
30 制御ユニット
31 タイミング生成部
33 光情報分離部
100 眼科装置
E 眼
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15