(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-18
(45)【発行日】2024-06-26
(54)【発明の名称】記録素子基板、記録ヘッドおよび記録装置
(51)【国際特許分類】
B41J 2/14 20060101AFI20240619BHJP
B41J 2/01 20060101ALI20240619BHJP
【FI】
B41J2/14 201
B41J2/01 451
B41J2/01 401
(21)【出願番号】P 2020099609
(22)【出願日】2020-06-08
【審査請求日】2023-06-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003281
【氏名又は名称】弁理士法人大塚国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】野村 宏康
【審査官】小宮山 文男
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-094781(JP,A)
【文献】特開2008-023987(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2009/0135221(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41J 2/01-2/215
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱エネルギーをそれぞれ発生可能な複数の加熱素子と、
前記複数の加熱素子に対応する複数の検出素子であって個々の検出素子が対応の加熱素子の温度を検出可能な複数の検出素子と、
第1の電流発生部と、
前記第1の電流発生部とは異なる第2の電流発生部と、
信号出力部と、を備え、
前記複数の検出素子は、温度の検出対象である第1の検出素子と、前記第1の検出素子で温度を検出するための比較対象としての第2の検出素子と、を含み、
前記第1及び第2の電流発生部の一方が
前記第1の検出素子に電流を供給し、前記第1及び第2の電流発生部の他方が
前記第2の検出素子に電流を供給し、
前記複数の検出素子の其々は、前記第1又は第2の電流発生部により電流が供給された場合に電位変動が発生する側の一端子と、電位が固定された他端子と、を有しており、
前記信号出力部は、
温度の検出対象である前記第1の検出素子における
前記一端子および前記他端子のうちの前記一端子と、
前記第1の検出素子で温度を検出するための比較対象としての前記第2の検出素子における
前記一端子および前記他端子のうちの前記一端子と、の電位差に応じた信号を出力する
ことを特徴とする記録素子基板。
【請求項2】
前記複数の加熱素子のうち、前記第1の検出素子に対応するものを第1の加熱素子とし、前記第2の検出素子に対応するものを第2の加熱素子としたとき、前記信号出力部による前記信号の出力に際して、前記第1及び第2の加熱素子の一方が駆動され且つ他方の駆動が抑制される
ことを特徴とする請求項1記載の記録素子基板。
【請求項3】
前記第1及び第2の電流発生部は、カレントミラー回路の一部を構成する
ことを特徴とする請求項1または請求項2記載の記録素子基板。
【請求項4】
前記複数の検出素子の少なくとも一部は前記第1及び第2の電流発生部から選択的に電流を受取り可能に設けられている
ことを特徴とする請求項1から請求項3の何れか1項記載の記録素子基板。
【請求項5】
前記複数の加熱素子は、時分割方式で駆動可能に構成されている
ことを特徴とする請求項1から請求項4の何れか1項記載の記録素子基板。
【請求項6】
前記複数の加熱素子の個々および前記複数の検出素子の個々は抵抗素子である
ことを特徴とする請求項1から請求項5の何れか1項記載の記録素子基板。
【請求項7】
前記複数の検出素子の個々は、平面視において対応の加熱素子と対向するように設けられている
ことを特徴とする請求項6記載の記録素子基板。
【請求項8】
請求項1から請求項7の何れか1項記載の記録素子基板と、前記複数の加熱素子に対応し且つ液体を吐出可能に設けられた複数のノズルと、を備える
ことを特徴とする記録ヘッド。
【請求項9】
請求項8記載の記録ヘッドと、前記記録ヘッドの駆動制御を行うコントローラと、を備える
ことを特徴とする記録装置。
【請求項10】
前記コントローラは、前記信号出力部からの前記信号に基づいて前記記録ヘッドの駆動制御を行う
ことを特徴とする請求項9記載の記録装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主に記録素子基板に関する。
【背景技術】
【0002】
記録装置のなかには、記録を行うための記録素子として加熱素子を備えるものがある(特許文献1参照)。加熱素子は、インク滴等の液体を、加熱して発泡させることにより、記録ヘッドに設けられた吐出口から吐出させる。加熱素子には抵抗素子が用いられ、加熱素子は、通電により駆動され、それにより熱エネルギーを発生する(尚、加熱素子は、電気熱変換素子、ヒータ等とも称されうる。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1には、液体が適切に吐出されたか否かを検出するための検出素子を加熱素子に対応して設けることが記載されている。検出素子には抵抗素子が用いられ、その電気抵抗値は、液体の吐出に伴う温度変化により変動する。よって、検出素子の電圧に基づいて、液体が適切に吐出された否かを判定可能となる(検出素子は、温度センサ等とも称されうる。)。このような構成において、上記検出の精度向上のため、一層の工夫が求められうる。
【0005】
本発明は、液体が適切に吐出されたか否かの検出の精度向上に有利な技術を提供することを例示的目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一つの側面は記録素子基板にかかり、前記記録素子基板は、
熱エネルギーをそれぞれ発生可能な複数の加熱素子と、
前記複数の加熱素子に対応する複数の検出素子であって個々の検出素子が対応の加熱素子の温度を検出可能な複数の検出素子と、
第1の電流発生部と、
前記第1の電流発生部とは異なる第2の電流発生部と、
信号出力部と、を備え、
前記複数の検出素子は、温度の検出対象である第1の検出素子と、前記第1の検出素子で温度を検出するための比較対象としての第2の検出素子と、を含み、
前記第1及び第2の電流発生部の一方が前記第1の検出素子に電流を供給し、前記第1及び第2の電流発生部の他方が前記第2の検出素子に電流を供給し、
前記複数の検出素子の其々は、前記第1又は第2の電流発生部により電流が供給された場合に電位変動が発生する側の一端子と、電位が固定された他端子と、を有しており、
前記信号出力部は、温度の検出対象である前記第1の検出素子における前記一端子および前記他端子のうちの前記一端子と、前記第1の検出素子で温度を検出するための比較対象としての前記第2の検出素子における前記一端子および前記他端子のうちの前記一端子と、の電位差に応じた信号を出力する
ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、上記検出の精度を向上可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図2】記録素子基板の駆動態様を示すタイミングチャート。
【
図4A】信号出力部の駆動態様を示すタイミングチャート。
【
図4B】信号出力部の駆動態様を示すタイミングチャート。
【
図4C】信号出力部の駆動態様を示すタイミングチャート。
【
図5】信号出力部に重畳されるノイズを説明するための等価回路図。
【
図6】記録素子基板の一部および記録ヘッドの一部を示す断面模式図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、添付図面を参照して実施形態を詳しく説明する。尚、以下の実施形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものでない。実施形態には複数の特徴が記載されているが、これらの複数の特徴の全てが発明に必須のものとは限らず、また、複数の特徴は任意に組み合わせられてもよい。さらに、添付図面においては、同一若しくは同様の構成に同一の参照番号を付し、重複した説明は省略する。
【0010】
(記録装置の概要)
図8(A)及び
図8(B)を参照しながら、実施形態に係るインクジェット方式の記録装置801の概要を述べる。
【0011】
図8(A)は、記録装置801の外観構成の一例を示す斜視図である。記録装置801は、インク(液体)を吐出して記録を行う記録ヘッド1708をキャリッジ802に搭載し、キャリッジ802を矢印d1方向に往復移動させて記録を行う。記録装置801は搬送機構807を備え、搬送機構807は、記録媒体Shを所定位置まで搬送する。記録媒体Shには、紙材等で構成されたシートが用いられうる。記録ヘッド1708は、この所定位置において記録媒体Shにインクを吐出することにより記録を行う。
【0012】
キャリッジ802には、記録ヘッド1708の他、例えば、インクカートリッジ806が搭載される。インクカートリッジ806は、記録ヘッド1708に供給するインクを貯留する。インクカートリッジ806は、キャリッジ802に対して着脱自在に設置される。また、記録装置801は、カラー記録が可能である。そのため、キャリッジ802には、マゼンタ(M)、シアン(C)、イエロ(Y)、ブラック(K)のインクをそれぞれ収容する4つのインクカートリッジが搭載されている。これら4つのインクカートリッジは、それぞれ独立して着脱可能である。
【0013】
記録ヘッド1708には、インクを吐出するための複数のノズルnzが設けられ、記録ヘッド1708は、複数のノズルnzに対応して設けられた複数の記録素子を備える記録素子基板を備える。詳細については後述とするが、記録素子には記録信号にしたがうパルス電圧が印加され、これにより対応のノズルnzが駆動され、該ノズルnzからインクが吐出される。また、本実施形態では、記録素子には加熱素子が用いられるものとする。
【0014】
図8(B)は、記録装置801のシステム構成を示す。記録装置801は、インターフェース1700、MPU1701、ROM1702、RAM1703及びゲートアレイ1704を備える。インターフェース1700には記録信号が入力される。ROM1702は、MPU1701が実行する制御プログラムを格納する。RAM1703は、前述の記録信号や記録ヘッド1708に供給された記録データ等、各種データを保存する。ゲートアレイ1704は、記録ヘッド1708に対する記録データの供給制御を行い、また、インターフェース1700、MPU1701、RAM1703の間のデータ転送の制御を行う。
【0015】
また、記録装置801は、記録ヘッドドライバ1705、並びに、モータドライバ1706及び1707、搬送モータ1709、キャリアモータ1710をさらに備える。記録ヘッドドライバ1705は記録ヘッド1708を駆動する。モータドライバ1706及び1707は搬送モータ1709及びキャリアモータ1710をそれぞれ駆動する。搬送モータ1709は搬送機構807を駆動して記録媒体Shを搬送させる。キャリアモータ1710は記録ヘッド1708を搬送する。
【0016】
インターフェース1700に記録信号が入力されると、この記録信号は、ゲートアレイ1704とMPU1701の間で所定の形式の記録データに変換されうる。この記録データにしたがって各機構が駆動制御され、このようにして所望の記録が実現される。
【0017】
図7は、実施形態に係る記録装置801の構成例を示す。記録装置801は、記録素子基板1およびコントローラ2を備える。記録素子基板1は、記録ヘッド1708に内蔵され、記録媒体Sh上に画像を形成するための記録ヘッド1708の駆動制御を行う。尚、画像の概念には、文字、記号、図形、写真等の他、それらの間に形成されうる空白をも含まれるものとする。記録素子基板1の他の詳細については後述とする。
【0018】
コントローラ2は、信号生成部3、記録制御部4、判定部5および記憶部6を含み、記録素子基板1との間で信号の授受を行うことにより記録ヘッド1708の駆動制御を行う。記録制御部4には、不図示の外部装置から、記録媒体Shに対する画像の記録の実行を指示するコマンド(ジョブ等とも称される。)が入力される。このコマンドは、画像の情報を示す画像データを含む他、その記録の実行に付随する情報を含む。記録制御部4は、不図示の外部装置からの上記コマンドに基づいて、記録ヘッド1708を駆動するための駆動用データを信号生成部3に出力する。尚、外部装置は、記録装置801と有線または無線により通信可能なコンピュータであり、ホスト装置等と表現されうる。
【0019】
信号生成部3は、記録制御部4からのデータに基づいて複数の信号(後述)を生成し、其れらを記録素子基板1に出力する。判定部5は、詳細については後述とするが、記録素子基板1から判定用信号RSLTを受け取り、所定の判定を行う。判定部5の判定結果は記憶部6に記憶される。記録制御部4は、記憶部6に記憶された上記判定結果に基づいて記録データを処理し(例えば、補完処理、補正処理等を行い)、上記データを生成して信号生成部3に出力する。
【0020】
尚、コントローラ2は、記録装置801本体に(記録ヘッド1708外に)設けられるものとするが、記録ヘッド1708に内蔵されてもよい。また、コントローラ2は、他のコントローラとの区別のため、ヘッドコントローラ等と表現されてもよい。
【0021】
(記録素子基板の構成例)
図1は、記録素子基板1の構成の一例を示す簡易回路図である。複数のノズルnzに対応する領域101において、記録素子基板1は、加熱部91、温度検出部92、及び、電流供給部104を備える。
【0022】
加熱部91は、複数(本実施形態では4つ)の加熱素子120a~120d、及び、複数の駆動素子119a~119dを含む。尚、以下の説明において、特に区別を要しない場合には、加熱素子120a~120dについては単に加熱素子120と示され、複数の駆動素子119a~119dについては単に駆動素子119と示されうる。
【0023】
加熱素子120a及び駆動素子119aは、電圧VH‐GNDH間において電気的に直列に接続される。加熱素子120b及び駆動素子119b、加熱素子120c及び駆動素子119c、並びに、加熱素子120d及び駆動素子119dについても同様である。複数の加熱素子120は、それぞれ複数のノズルnzに対応して設けられた抵抗素子であり、通電により駆動され、それにより熱エネルギーを発生する。駆動素子119は、例えばMOS(Metal Oxide Semiconductor)トランジスタ等のスイッチ素子であり、導通状態となることで対応の加熱素子120を駆動し、非導通状態となることで該駆動を抑制する。このような構成により、駆動素子119a~119dは、それぞれ、信号H1~H4に基づいて加熱素子120a~120dを駆動する。尚、電圧VH‐GNDH間には電圧源102が接続される。
【0024】
また、加熱素子120a及び駆動素子119aに対して、論理部(AND回路)117a及び118aが設けられ、これらは要素116aと纏められる。図中の要素116b、116c及び116dについても同様とする。
【0025】
複数の加熱素子120は、時分割方式で駆動される。この駆動は、時分割駆動などとも表現されうる。時分割駆動は、複数の加熱素子を2以上のグループに分割し、各グループの幾つかの加熱素子をグループ単位で駆動することで行われる。
【0026】
例えば、グループ数をi(iは、2以上の整数とする。)とし、各グループにおける加熱素子の数をj(jは、2以上の整数とする。)とする。この場合、先ず、第1、第2、・・・第iグループのi個の第1加熱素子が同時に駆動され、次に、第1、第2、・・・第iグループのi個の第2加熱素子が同時に駆動され、同様の手順で、第3、第4、・・・第j加熱素子が順に駆動される。尚、時分割駆動において同時に駆動されるi個の加熱素子は「時分割ブロック」或いは単に「ブロック」等とも称される。
【0027】
本実施形態では、理解の容易化のため、i=2、j=2、とする。加熱素子120aを含む要素116aと、加熱素子120bを含む要素116bとはグループG1を形成し、また、加熱素子120cを含む要素116cと、加熱素子120dを含む要素116dとはグループG2を形成するものとする。
【0028】
詳細については後述とするが、グループG1にはシフトレジスタ114a及びラッチ回路115aが配され、グループG2にはシフトレジスタ114b及びラッチ回路115bが配される。
【0029】
温度検出部92は、複数の検出素子130a~130d、並びに、複数のスイッチ素子126a~126d、127a~127d、128b~128d及び129b~129dを含む。スイッチ素子126a等には、駆動素子120同様、MOSトランジスタ等が用いられうる。尚、以下の説明において、特に区別を要しない場合には、検出素子130a~130dについては単に検出素子130と示されうる。
【0030】
スイッチ素子126a及び127aは、電気的に直列に接続され、検出素子130aの一端子は、スイッチ素子126a及び127a間に接続され、他端子は電圧VSSに固定される。素子126a、127a及び130aは、要素125aと纏められる。
【0031】
スイッチ素子126b及び127bは、電気的に直列に接続される。スイッチ素子128b及び129bは、電気的に直列に接続される。また、検出素子130bの一端子は、スイッチ素子126b及び127b間に接続されると共にスイッチ素子128b及び129b間に接続され、他端子は電圧VSSに固定される。素子126b、127b、128b、129b及び130bは、要素125bと纏められる。図中の要素125c及び125dについても同様とする。
【0032】
要素125a及び125bはグループG1に対応し、また、要素125c及び125dはグループG2に対応する。
【0033】
複数の検出素子130は、それぞれ複数の加熱素子120に対応して設けられた抵抗素子であり、対応の加熱素子120が発生した熱エネルギーにより、その電気抵抗値を変える。検出素子130は、温度を検出する温度センサとして機能する。
【0034】
例えば、要素125bにおいては、検出素子130bは、スイッチ素子126bが導通状態となることで、その電気抵抗値に応じた電圧VMを発生する。電圧VMは、スイッチ素子127bが導通状態となることにより、上記温度の検出結果を示す信号(信号VMという場合がある。)として出力される。また、検出素子130bは、スイッチ素子128bが導通状態となることで、その電気抵抗値に応じた電圧VRを発生し、電圧VRは、スイッチ素子129bが導通状態となることにより、上記温度の検出結果を示す信号(信号VRという場合がある。)として出力される。
【0035】
詳細については後述とするが、グループG1にはシフトレジスタ121a、ラッチ回路122a、論理部(AND回路)123a及び123bが配され、グループG2にはシフトレジスタ121b、ラッチ回路122b、論理部(AND回路)123c及び123dが配される。また、グループG1又はG2には、論理部(OR回路)124が配される。
【0036】
電流供給部104は、電流源107、並びに、トランジスタ108、109及び110を含む。電流源107及びトランジスタ108は、電圧VHTA‐VSS間に電気的に直列に接続され、トランジスタ109及び110は、トランジスタ108に対してカレントミラー回路を形成するように配される。電流源107は、後述のラッチ回路106からの信号に基づいて所望の電流Irefinを発生する。尚、電圧VHTA‐VSS間には電圧源103が接続される。
【0037】
トランジスタ109は、第1の電流発生部として、電流Irefinに応じた電流Irefを発生し、この電流Irefは、スイッチ素子126a、126b、126c及び126dに供給可能となる。
【0038】
同様に、トランジスタ110は、第2の電流発生部として、電流Irefinに応じた電流Irefを発生し、この電流Irefは、スイッチ素子128b、128c及び128dに供給可能となる。
【0039】
また、領域101において、記録素子基板1は、シフトレジスタ105、ラッチ回路106、シフトレジスタ111、ラッチ回路112、デコーダ113、並びに、バッファ回路(ボルテージフォロワ回路)131及び132を更に備える。
【0040】
シフトレジスタ105は、基準電流用信号(データ)Direfを受け取り、其れ/其れ等をクロック信号CKLに基づいて順に転送する。ラッチ回路106は、シフトレジスタ105から転送された信号をラッチ信号LTに基づいてラッチする。電流源107は、該ラッチされた信号に応じた電流Irefinを発生する。
【0041】
シフトレジスタ111は、ブロック信号(ブロックデータ)BLEを受け取り、其れ/其れ等をクロック信号CLKに基づいて順に転送する。ラッチ回路112は、シフトレジスタ111から転送された信号をラッチ信号LTに基づいてラッチする。デコーダ113は、該ラッチされた信号に基づいて信号B1及びB2を出力し、即ち、ブロック信号BLEを信号B1及びB2に復号化する。
【0042】
グループG1において、シフトレジスタ114aは、画像データに基づくデータ信号DATAを受け取り、其れ/其れ等をクロック信号CLKに基づいて順に転送する。ラッチ回路115aは、シフトレジスタ114aから転送された信号をラッチ信号LTに基づいてラッチし、信号D1を出力する。
【0043】
論理部117aは、信号B1及びD1に基づく論理積を出力する。論理部118aは、論理部117aからの出力信号と、ヒートイネーブル信号HEとに基づく論理積を、信号H1として出力する。同様に、論理部117bは、信号B2及びD1に基づく論理積を出力し、また、論理部118bは、論理部117bからの出力信号と、ヒートイネーブル信号HEとに基づく論理積を、信号H2として出力する。
【0044】
同様に、グループG2において、シフトレジスタ114bは、データ信号DATAを受け取り、其れ/其れ等をクロック信号CLKに基づいて順に転送する。ラッチ回路115bは、シフトレジスタ114bから転送された信号をラッチ信号LTに基づいてラッチし、信号D2を出力する。
【0045】
論理部117cは、信号B1及びD2に基づく論理積を出力する。論理部118cは、論理部117cからの出力信号と、ヒートイネーブル信号HEとに基づく論理積を、信号H3として出力する。同様に、論理部117dは、信号B2及びD2に基づく論理積を出力し、また、論理部118dは、論理部117dからの出力信号と、ヒートイネーブル信号HEとに基づく論理積を、信号H4として出力する。
【0046】
このような構成により、加熱部91においては、複数の加熱素子120は時分割駆動されることとなる。
【0047】
一方、温度検出部92について、グループG1では、シフトレジスタ121aは、温度検出用信号(データ)SDATAを受け取り、其れ/其れ等をクロック信号CLKに基づいて順に転送する。ラッチ回路122aは、シフトレジスタ121aから転送された信号をラッチ信号LTに基づいてラッチし、信号SD1を出力する。論理部123aは、信号B1及びSD1に基づく論理積を、信号S1として出力し、また、論理部123bは、信号B2及びSD1に基づく論理積を、信号S2として出力する。
【0048】
グループG2では、シフトレジスタ121bは、信号SDATAを受け取り、其れ/其れ等をクロック信号CLKに基づいて順に転送する。ラッチ回路122bは、シフトレジスタ121bから転送された信号をラッチ信号LTに基づいてラッチし、信号SD2を出力する。論理部123cは、信号B1及びSD2に基づく論理積を、信号S3として出力し、また、論理部123bは、信号B2及びSD2に基づく論理積を、信号S4として出力する。
【0049】
論理部124は、グループG1からの信号S2と、グループG2からの信号S4とに基づく論理和(S2+S4)を出力する。
【0050】
信号S1は、スイッチ素子126a、127a、128b及び129bの制御端子(本実施形態ではゲート)に供給される。信号S2は、スイッチ素子126b及び127bの制御端子に供給される。信号S3は、スイッチ素子126c、127c、128d及び129dの制御端子に供給される。信号S4は、スイッチ素子126d及び127dの制御端子に供給される。また、論理和(S2+S4)は、スイッチ素子128c及び129cの制御端子に供給される。
【0051】
このような構成により、温度検出部92においては、複数の検出素子130は、加熱素子120の時分割駆動に対応する信号VM及びVRを出力する。バッファ回路131は、信号VMを回路分離して、信号Vmesとして後述の差動増幅器133に出力し、また、バッファ回路132は、信号VRを回路分離して、信号Vrefとして後述の差動増幅器133に出力する。
【0052】
図6は、記録素子基板1の一部および記録ヘッド1708の一部を示す断面模式図である。記録素子基板1は、第1配線層605、第2配線層604、及び、それらを内包する絶縁部材606を備える。配線層605には、電圧VHTA及びVSSを形成する電源線が配され、また、配線層604には、電圧VH及びGNDHを形成する電源線が配される。記録素子基板1上方には、インクの流路607が形成されるようにオリフィスプレート608が配され、オリフィスプレート608には、個々のノズルnzに対応する吐出口609が設けられる。
【0053】
加熱素子120及び検出素子130は、流路607側において絶縁部材606に内包される。本実施形態では、加熱素子120は、検出素子130上方に位置する。尚、ここでは理解の容易化のため、加熱素子120及び検出素子130に接続される各素子(119、126a等)については不図示とする。加熱素子120は、コンタクトプラグ601を介して配線層604に配された各電源線に接続される。検出素子130は、コンタクトプラグ602、配線層604、コンタクトプラグ603を介して、配線層605に配された各電源線に接続される。
【0054】
ここでは単一の加熱素子120及び単一の検出素子130が示されるが、不図示の他の素子120及び130についても同様とする。このように、複数の検出素子130の個々は、平面視において対応の加熱素子120と対向するように設けられる。加熱素子120が駆動されると、流路607における該加熱素子120直上のインクが発泡し、吐出口609から吐出される。検出素子130は、加熱素子120からの熱を受けて、その電気抵抗値を変えることとなる。
【0055】
再び
図1を参照して、領域101外において、記録素子基板1は、差動増幅器133、フィルタ回路134、及び、反転増幅器135を更に備える。
【0056】
図3Aは、差動増幅器133の構成例を示す。差動増幅器133は、演算増幅器(オペアンプ)301、電圧源302、及び、複数の抵抗素子303~306を含む。演算増幅器301の反転入力端子(図中にて「-」と示される。)には、抵抗素子303を介して信号Vmesが入力され、また、非反転入力端子(図中にて「+」と示される。)には、抵抗素子304を介して信号Vrefが入力される。抵抗素子305は、演算増幅器301の出力端子と反転入力端子との間にフィードバック経路を形成するように配される。また、非反転入力端子には、抵抗素子306を介して電圧源302が接続される。
【0057】
ここで、信号Vmesは、加熱素子120の駆動の際、対応の検出素子130(区別のため、検出素子130mesと示す。)から出力され、信号Vrefは、それ以外の検出素子130(区別のため、検出素子130refと示す。)から出力される。信号Vmes及びVrefの値(それぞれ、電圧Vmes及びVrefとする。)は、それぞれ、検出素子130mes及び130refの電気抵抗値に基づいて決まる。
【0058】
検出素子130mesについては、対応の加熱素子120は駆動されており、その際の検出素子130mesの温度をTとし、また、常温T0の際の検出素子130の電気抵抗値をRs0とする。このとき、検出素子130の温度抵抗係数TCRを用いると、検出素子130mesの電気抵抗値Rmesは、
Rmes=Rs0×{1+TCR×(T-T0)}
と表される。
【0059】
よって、電圧Vmesは、
Vmes=Iref×Rmes
=Iref×Rs0×{1+TCR×(T-T0)}
と表される。
【0060】
一方、検出素子130refは、対応の加熱素子120は駆動されていないため、その間の温度(初期温度)をTiniとする。このとき、検出素子130refの電気抵抗値Rrefは、
Rref=Rs0×{1+TCR×(Tini-T0)}
と表される。
【0061】
よって、電圧Vrefは、
Vref=Iref×Rref
=Iref×Rs0×{1+TCR×(Tini-T0)}
と表される。
【0062】
差動増幅器133は、上記電圧Vmes及びVrefを受け取り、信号Vdifを出力する。抵抗素子303及び304の電気抵抗値をRD1とし、抵抗素子305及び306の電気抵抗値をRD2とし、電圧源302が発生する電圧をVofs1とし、演算増幅器301の利得をGdifとする。このとき、出力信号Vdifの値(電圧Vdif)は、
Vdif=Gdif×(Vref-Vmes)+Vofs1
=Vofs1-Gdif×Iref×Rs0×TCR×(T-Tini)
と表される。尚、利得Gdifは、
Gdif=RD2/RD1
となる。電圧Vofs1は、差動増幅器133による所望の動作が実現可能となるように設定されればよい。
【0063】
このような構成により、差動増幅器133は、バッファ回路131からの信号Vmesと、バッファ回路132からの信号Vrefとの差に応じた信号Vdifをフィルタ回路134に出力する。
【0064】
図3Bは、フィルタ回路134の構成例を示す。フィルタ回路134は、2次ローパスフィルタ部307と、1次ハイパスフィルタ部308とを含む。
【0065】
ローパスフィルタ部307は、演算増幅器309、複数の抵抗素子310及び311、並びに、複数のキャパシタ312及び313を含む。演算増幅器309の非反転入力端子には、信号Vdifが抵抗素子310及び311を介して入力される。また、演算増幅器309の非反転入力端子は、キャパシタ313を介して電圧VSSに固定される。キャパシタ312は、演算増幅器309の出力端子と、抵抗素子310及び311間のノードとの間にフィードバック経路を形成するように配される。また、演算増幅器309の反転入力端子には、出力端子が接続される。抵抗素子310の電気抵抗値をRL1とし、抵抗素子311の電気抵抗値をRL2とし、キャパシタ312の容量値をCL1とし、また、キャパシタ313の容量値をCL2とする。
【0066】
尚、ローパスフィルタ部307のカットオフ周波数fcLは、
fcL={2×π×(RL1×RL2×CL1×CL2)1/2}-1
と表される。
【0067】
ハイパスフィルタ部308は、演算増幅器314、複数の抵抗素子316及び317、キャパシタ318、並びに、電圧源315を含む。演算増幅器314の反転入力端子には、演算増幅器309の出力端子が、抵抗素子316及びキャパシタ318を介して接続される。抵抗素子317は、演算増幅器314の出力端子と反転入力端子との間にフィードバック経路を形成するように配される。演算増幅器314の非反転入力端子には、電圧源315が接続される。抵抗素子316の電気抵抗値をRH1とし、抵抗素子317の電気抵抗値をRH2とし、キャパシタ318の容量値をCHとし、また、電圧源315が発生する電圧をVofs2とする。
【0068】
尚、ハイパスフィルタ部308のカットオフ周波数fcHは、
fcH=(2×π×RH1×CH)-1
と表される。
【0069】
このような構成により、フィルタ回路134は、出力信号Vdifをフィルタリングして(信号Vdifの所定範囲内の周波数成分を通過させて)、該信号Vdifを信号VFとして反転増幅器135に出力する(信号VFは電圧で示され、その値は電圧VFとする。)。信号VFの値は、増幅率GH(=RH2/RH1)に比例して変化することとなる。
【0070】
図3Cは、反転増幅器135の構成例を示す。反転増幅器135は、演算増幅器319、複数の抵抗素子320及び321、並びに、電圧源315(ハイパスフィルタ部308同様のもの(
図3B参照))を含む。演算増幅器319の反転入力端子には、信号VFが、抵抗素子320を介して入力される。抵抗素子321は、演算増幅器319の出力端子と反転入力端子との間にフィードバック経路を形成するように配される。演算増幅器319の非反転入力端子には、電圧源315が接続される。抵抗素子320の電気抵抗値をRI1とし、抵抗素子321の電気抵抗値をRI2とする。反転増幅器135の利得Ginvは、
Ginv=RI2/RI1
となる。
【0071】
このような構成により、反転増幅器135は、信号VFを反転して増幅し、信号Vinvとして後述の比較器139に出力する(信号Vinvは電圧で示され、その値は電圧Vinvと示される。)。反転増幅器135の利得Ginvを用いると、信号Vinvの値は、
Vinv=Vofs2+Ginv×(Vofs2-VF)
と表される。電圧Vofs2は、差動増幅器135による所望の動作が実現可能となるように設定されればよい。
【0072】
再び
図1を参照して、領域101外において、記録素子基板1は、シフトレジスタ136、ラッチ回路137、デジタルアナログコンバータ(DAC)138、比較器139、RSラッチ回路140、及び、フリップフロップ回路141を更に備える。
【0073】
シフトレジスタ136は、基準値用信号(データ)Dthを受け取り、其れ/其れ等をクロック信号CLKに基づいて順に転送する。ラッチ回路137は、シフトレジスタ136から転送された信号をラッチ信号LTに基づいてラッチする。DAC138は、該ラッチされた信号をデジタルアナログ変換(DA変換)し、アナログ信号Vdthを出力する(信号Vdthは電圧で示され、その値は電圧Vdthと示される。)。尚、信号Dthは、例えば8ビットの信号群であり、信号Vdthは、例えば、256段階の任意の値に設定可能とする。
【0074】
比較器139は、信号Vinv及びVdthの大小関係を比較し、その比較結果を示す信号CMPを出力する(信号CMPは電圧で示され、その値は電圧CMPと示される。)。RSラッチ回路140は、ラッチ信号LTに基づいて、信号CMPをラッチし、該ラッチされた信号CMPを信号HCMPとして出力する(信号HCMPは電圧で示され、その値は電圧HCMPと示される。)。フリップフロップ回路141は、信号HCMPを受け取り、ラッチ信号LTに基づいて判定用信号RSLTを出力する。
【0075】
差動増幅器133、フィルタ回路134、反転増幅器135、シフトレジスタ136、ラッチ回路137、DAC138、比較器139、RSラッチ回路140、及び、フリップフロップ回路141は、信号出力部93と纏められる。
【0076】
このような構成により、記録素子基板1の信号出力部93からコントローラ2の判定部5に、検出素子130による検出結果を示す信号RSLTが出力される(
図1参照)。コントローラ2は、信号RSLTに基づいて記録ヘッド1708の駆動制御を行う。尚、以上の説明において例示された個々のユニット、回路、素子等は、その趣旨を逸脱しない範囲で変更されてもよく、公知のものが用いられればよい。
【0077】
図2は、記録素子基板1の駆動態様を示すタイミングチャートである。図中の横軸を時間軸とし、縦軸には、信号LT、BLE、DATA、HE、SDATA、B1~B2、D1~D2、H1~H4、SD1~SD2、及び、S1~S4の値(電圧値)を示す。信号値は、活性化レベルをハイレベル(Hレベル)とし、非活性化レベルをローレベル(Lレベル)とする。
【0078】
ラッチ信号LTについて、所定期間に亘ってHレベルとなるパルス信号が周期tbで加えられる。同様に、ヒートイネーブル信号HEのパルス信号が、ラッチ信号LTのパルス信号に続いて周期tbで加えられる。
【0079】
周期tb毎に、ブロック信号BLEとして、信号BL1、BL2、BL3及びBL4が順に加えられる。同様に、データ信号DATAとして、信号DT1、DT2、DT3及びDT4が順に加えられ、また、温度検出用信号SDATAとして、信号SDT1、SDT2、SDT3及びSDT4が順に加えられる。
【0080】
上述の信号に基づいて、時刻t0~t1では信号H2がHレベルの波形201を示す。同様に、時刻t1~t2では信号H1がHレベルの波形202を示し、時刻t2~t3では信号H3がHレベルの波形203を示し、また、時刻t3~t4では信号H4がHレベルの波形204を示す。
【0081】
また、上述の信号に基づいて、時刻t0~t2に亘って信号SD1がHレベルとなり、また、時刻t3~t4に亘って信号SD2がHレベルとなる。時刻t0~t1では信号S1がHレベルの波形205を示し、時刻t1~t2では信号S2がHレベルの波形206を示し、時刻t2~t3では信号S3がHレベルの波形207を示し、また、時刻t3~t4では信号S4がHレベルの波形208を示す。
【0082】
即ち、本実施形態によれば、信号H1~H4に基づいて、加熱素子120a~120dが順に駆動され、その間、信号S1~S4に基づいて、検出素子130a~130dが順に駆動されることとなる。
【0083】
詳細には、先ず、時刻t0~t1では、加熱素子120aが駆動される。その間、対応の検出素子130aの一端子の電圧がスイッチ素子127aを介して信号VMとして出力され、また、他の検出素子130bの一端子の電圧がスイッチ素子129bを介して信号VRとして出力される。
【0084】
次に、時刻t1~t2では、加熱素子120bが駆動される。その間、対応の検出素子130bの一端子の電圧がスイッチ素子127bを介して信号VMとして出力され、また、他の検出素子130cの一端子の電圧がスイッチ素子129cを介して信号VRとして出力される。
【0085】
その後、時刻t2~t3では、加熱素子120cが駆動される。その間、対応の検出素子130cの一端子の電圧がスイッチ素子127cを介して信号VMとして出力され、また、他の検出素子130dの一端子の電圧がスイッチ素子129dを介して信号VRとして出力される。
【0086】
最後に、時刻t3~t4では、加熱素子120dが駆動される。その間、対応の検出素子130dの一端子の電圧がスイッチ素子127dを介して信号VMとして出力され、また、他の検出素子130cの一端子の電圧がスイッチ素子129cを介して信号VRとして出力される。
【0087】
尚、前述のとおり、検出素子130a~130dの他端子は何れも電圧VSSに固定されている。
【0088】
図5は、信号出力部93に重畳されるノイズを説明するための等価回路図である。時刻t0~t1では、検出素子130aは温度の検出対象であり(前述の検出素子130mesに相当し)、検出素子130bは比較対象であり(前述の検出素子130refに相当する。)。即ち、検出素子130aの電気抵抗値はRmesと示され、検出素子130bの電気抵抗値はRrefと示される。
【0089】
ここで、一部拡大図に合わせて示されるように、信号S2の信号線と、信号VMの信号線との間には、寄生キャパシタ501(容量値Cprs)が形成されうる。検出素子130a及び寄生キャパシタ501はハイパスフィルタを形成し、そのカットオフ周波数fcHMは、
fcHM=(2×π×Rmes×Cprs)-1
と表される。
【0090】
同様に、一部拡大図に合わせて示されるように、信号S2の信号線と、信号VRの信号線との間には、寄生キャパシタ502(容量値Cprs)が形成されうる。検出素子130b及び寄生キャパシタ502はハイパスフィルタを形成し、そのカットオフ周波数fcHRは、
fcHR=(2×π×Rref×Cprs)-1
と表される。
【0091】
寄生キャパシタ501及び502に起因するクロストークノイズ(信号S2の信号線から混入するノイズ)は、それぞれ、上記ハイパスフィルタを透過して信号VM及びVRに重畳されうる。しかしながら、加熱素子120aの駆動前においては(T=Tini)、電気抵抗値Rmes及びRrefは互いに等しいため、上記カットオフ周波数fcHM及びfcHRは互いに等しい。よって、このクロストークノイズは、差動増幅器133により相殺されることとなる。
【0092】
また、信号Vmes及びVrefには、電流源107の電流量の揺らぎに起因して他のノイズ(いわゆる揺らぎノイズ)が重畳しうるが、このノイズも差動増幅器133により相殺されうる。
‐第1実施例
図4Aは、本実施形態の一例としての信号出力部93の駆動態様を示すタイミングチャートを示す。図中の横軸を時間軸とし(ここでは主に時刻t0~t1について)、縦軸には、信号LT、HE(H1)及びS1を示すと共に、その際の信号CMP、HCMP、RSLT、Vdif及びVinvを示す。
【0093】
本実施例においては、
図1を参照しながら述べたとおり、温度の検出対象である検出素子130mesの一端子の電圧が信号V
Mとして出力され、また、比較対象である検出素子130refの一端子の電圧が信号V
Rとして出力される。その後、信号V
M及びV
Rに応じた信号Vmes及びVrefが反転増幅器135に入力され、信号Vdifが出力される。
【0094】
信号Vdifについては、信号H1の活性化後(加熱素子120の駆動後)、インクの吐出が適切に行われた場合の波形401は、特徴点405にて比較的急峻な変動を示す。このことは、吐出口609(
図6参照)から吐出されたインクの一部が、負圧や粘性により吐出口609内に戻ることに起因する。これに対して、インクの吐出が適切に行われなかった場合の波形402は、特徴点405を形成することなく比較的緩やかな変動を示す。
【0095】
上記信号Vdifが波形401の場合、信号Vinvは波形403を示す。上記信号Vdifが波形402の場合、信号Vinvは波形404を示す。波形403には、特徴点405以降における波形401の最大変動量を示すピーク406が現れる。ピーク406の電圧Vpは、
Vp=Vpref+Vpb
(=Vofs2+Vpb)
と表わされ、波形403は時間の経過と共に値Vprefに漸近する形となる。一方、波形404に現れるピークは、このピーク406よりも電圧Vpdifだけ小さいものとなる。
【0096】
図4Aと共に
図1及び
図2を参照すると、信号CMPは、信号Vinvが信号Vdthより大きい期間に亘って、Hレベルとなり、また、信号HCMPは、信号Vinvが信号Vdthより大きくなったタイミング以降、Hレベルを維持することとなる。即ち、
図4Aに示されるように、信号CMPは、Vinv>Vdthとなった場合には波形407を形成し、そうでない場合には波形408を形成する。信号CMPに応じて、信号HCMPは、Vinv>Vdthとなった場合には波形409を形成し、そうでない場合には波形410を形成する。また、信号HCMPに応じて、信号RSLTは、Vinv>Vdthとなった場合には波形411を形成し、そうでない場合には波形412を形成する。
【0097】
ところで、信号Vdifは、前述のとおり、
Vdif=Gdif×(Vref-Vmes)+Vofs1
=Vofs1-Gdif×Iref×Rs0×TCR×(T-Tini)
と表される。即ち、
図4Aに示された信号Vdifから分かるように、波形401及び402は、電圧Vofs1から比較的大きく低下(変動)可能となっている(即ち、比較的大きなダイナミックレンジとなっている。)。本実施例では、利得Gdifを
Gdif=RD2/RD1=1
とする。
図4Aに示されるように、信号Vdifの電圧Vofs1からの低下量は比較的小さいため、この場合、利得Gdifを更に大きくすることが可能と云える。
‐第2実施例
図4Bは、第2実施例として、利得Gdifを
Gdif=RD2/RD1=3
とした場合のタイミングチャートを、
図4A(第1実施例)同様に示す。尚、本実施例では、反転増幅器135の利得Ginvを第1実施例の場合に比べて3分の1にすることで、信号Vinvの波形については
図4A(第1実施例)同様とする。
【0098】
本実施例の場合、利得Gdifを第1実施例の場合に比べて大きくすることにより、
図4Bに示されるように、信号Vdifの電圧Vofs1からの低下量を比較的大きくすることができる。そのため、本実施例によれば、信号Vdifは、比較的大きいダイナミックレンジの下で低下可能である。よって、本実施例によれば、信号Vmes及びVref間の差を差動増幅器133により高精度に検出可能であり、即ち、インクが適切に吐出されたか否かの検出精度を向上可能となる。
‐参考例
図4Cは、参考例としてのタイミングチャートを、
図4A(第1実施例)及び
図4B(第2実施例)同様に示す。本参考例では、検出素子130mesの一端子の電圧が信号V
Mとして出力され且つ他端子の電圧が信号V
Rとして出力される従前の構成を考える。ここで、初期温度Tiniのときの検出素子130mesの電気抵抗値Riniは、
Rini=Rs0×{1+TCR×(Tini-T0)}
と表される。また、信号Vdifは、
Vdif=Vofs1-Vmes
=Vofs1-Iref×Rini
と表される。
【0099】
即ち、本参考例の場合、信号Vdifは、前述の第1~第2実施例の場合に比べて、(Iref×Rini)に相当する分だけダイナミックレンジが小さくなるため、利得Gdifを小さく設定する必要がある、と云える。
【0100】
以上、本実施形態によれば、温度の検出対象とする検出素子130mesの一端子の電圧に応じた信号VMと、その比較対象とする検出素子130refの一端子の電圧に応じた信号VRとに基づいて、判定用信号RSLTが得られる。本実施形態によれば、検出素子130mesの両端子の電位差を信号RSLTとして取得する従前の構成に比べて、出力信号Vdifのダイナミックレンジを拡張可能となる。そのため、信号RSLTは、インクが適切に吐出されたか否かを高精度に示す情報信号となりうる。尚、検出素子130mes及び130refの他端子は所定電圧VSSに固定されている。
【0101】
コントローラ2は、このようにして得られた判定用信号RSLTを記録素子基板1から受け取る。コントローラ2において、判定部5は、インクが適切に吐出されたか否かを信号RSLTに基づいて判定可能となる。この判定結果は、記憶部6に記憶される。記録制御部4は、記憶部6に記憶された判定結果に基づいて、信号生成部3に出力する際の記録データの補完処理、補正処理等、その後の記録動作へのフィードバックを行う。
【0102】
尚、本実施形態では、検出素子130の数量を4個(検出素子130a~130d)としたが、実際には更に多数の検出素子130が配列されうる。この場合、比較対象とする検出素子130refには、半導体製造プロセスに起因しうる素子間の特性はらつきの影響の低減のため、温度の検出対象とする検出素子130mes近傍のもの、好ましくは、検出素子130mesと隣接するものが選択されるとよい。
【0103】
以上を纏めると、記録素子基板1は、複数の加熱素子120、複数の検出素子130、第1の電流発生部としてのトランジスタ109、第2の電流発生部としてのトランジスタ110、及び、信号出力部93を備える。複数の検出素子130は、複数の加熱素子120に対応して設けられ、対応の加熱素子の温度をそれぞれ検出可能に構成される(
図6参照)。トランジスタ109及び110は、カレントミラー回路の一部を構成し、互いに等しい量の電流Irefを発生する(
図1参照)。トランジスタ109は、検出素子130に電流Irefを供給可能とする。トランジスタ110は、トランジスタ109とは別に設けられ、トランジスタ109同様、検出素子130に電流Irefを供給可能とする。
【0104】
信号出力部93は、検出素子130の検出結果に基づく信号RSLTを出力する。本実施形態では、トランジスタ109及び110の一方(例えば109とする。)が複数の検出素子130における或る検出素子(第1の検出素子130mes。例えば検出素子130aとする。)に電流Irefを供給し、他方(例えば110とする。)が他の検出素子(第2の検出素子130ref。例えば検出素子130bとする。)に電流Irefを供給し、それにより得られる信号RSLTが信号出力部93により出力される。信号RSLTは、第1の検出素子130mesの一端子(電流Irefの供給により電位変動が発生する側の端子)と、第2の検出素子130refの一端子(電流Irefの供給により電位変動が発生する側の端子)と、の電位差に応じた値を示す。
【0105】
ここで、複数の加熱素子120のうち、上記第1の検出素子130mesに対応するものを第1の加熱素子(例えば加熱素子120a)と、上記第2の検出素子130refに対応するものを第2の加熱素子(例えば加熱素子120b)とする。上記信号RSLTの出力に際しては、これら第1及び第2の加熱素子120a及び120bのうち一方(例えば120a)が駆動され且つ他方(例えば120b)の駆動が抑制される。
【0106】
本実施形態では、或る加熱素子120の駆動中に、対応の検出素子130mesの電圧と、それとは異なる他の検出素子130refの電圧との電位差が上記信号RSLTとして出力されればよい。そのため、複数の検出素子130の其々には電流発生部の一方(トランジスタ109)から電流を供給可能であり、その間、他方(トランジスタ110)が、駆動対象ではない加熱素子120に対応する検出素子130refに電流を供給可能であればよい。よって、複数の検出素子130の少なくとも一部がトランジスタ109及び110から選択的に電流を受取り可能に設けられていればよい、と云える。
【0107】
本実施形態によれば、個々の検出素子130の両端子の電位差を示す信号を出力する従前の構成に比べ、出力信号Vdifのダイナミックレンジを拡張可能となる(
図4A~
図4C参照)。これにより、該信号を比較的大きな増幅率で増幅可能となり、該信号の変化に基づいて、液体が適切に吐出されたか否かを高精度に検出ないし判定可能となる。
【0108】
(その他)
上述の説明においては、インクジェット記録方式を用いた記録装置801を例に挙げて説明したが、記録方式は上述の態様に限られるものではない。また、記録装置801は、記録機能のみを有するシングルファンクションプリンタであっても良いし、記録機能、ファクシミリ機能、スキャナ機能等の複数の機能を有するマルチファンクションプリンタであっても良い。また、例えば、カラーフィルタ、電子デバイス、光学デバイス、微小構造物等を所定の記録方式で製造するための製造装置であっても良い。
【0109】
また、本明細書でいう「記録」は広く解釈されるべきものである。従って、「記録」の態様は、記録媒体上に形成される対象が文字、図形等の有意の情報であるか否かを問わないし、また、人間が視覚で知覚し得るように顕在化したものであるか否かも問わない。
【0110】
また、「記録媒体」は、上記「記録」同様広く解釈されるべきものである。従って、「記録媒体」の概念は、一般的に用いられる紙の他、布、プラスチックフィルム、金属板、ガラス、セラミックス、樹脂、木材、皮革等、インクを受容可能な如何なる部材をも含みうる。
【0111】
更に、「インク」は、上記「記録」同様広く解釈されるべきものである。従って、「インク」の概念は、記録媒体上に付与されることによって画像、模様、パターン等を形成する液体の他、記録媒体の加工、インクの処理(例えば、記録媒体に付与されるインク中の色剤の凝固または不溶化)等に供され得る付随的な液体をも含みうる。
【0112】
発明は上記実施形態に制限されるものではなく、発明の精神及び範囲から離脱することなく、様々な変更及び変形が可能である。従って、発明の範囲を公にするために請求項を添付する。
【符号の説明】
【0113】
1:記録素子基板、120:加熱素子、130:検出素子、93:信号出力部。