(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-18
(45)【発行日】2024-06-26
(54)【発明の名称】医療用鑷子
(51)【国際特許分類】
A61B 17/30 20060101AFI20240619BHJP
A61F 9/007 20060101ALI20240619BHJP
【FI】
A61B17/30
A61F9/007 130Z
(21)【出願番号】P 2020162055
(22)【出願日】2020-09-28
【審査請求日】2022-11-30
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】390003229
【氏名又は名称】マニー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】田澤 祥亨
(72)【発明者】
【氏名】津野田 桂佑
(72)【発明者】
【氏名】村上 悦男
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 真理
【審査官】木村 立人
(56)【参考文献】
【文献】特開昭60-203245(JP,A)
【文献】実開昭60-34812(JP,U)
【文献】特開平10-128676(JP,A)
【文献】特表2016-500297(JP,A)
【文献】特表2017-506111(JP,A)
【文献】登録実用新案第3215968(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 17/30
A61F 9/007
B25B 9/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対のアームと、該各アームの先端に設けられた把持部とを備えた医療用鑷子であって、
前記把持部は、その少なくとも一部に外部からの照明光を散乱により反射させる第1の面粗度を有する第1の領域を有し、
前記第1の領域に隣接する領域は、前記第1の面粗度とは異なる面粗度を有する第2の領域を有し、
前記第1の領域は、前記第2の領域に比して粗面化された粗面領域に形成され、
前記第1の領域と前記第2の領域との間には、該各領域の境界が
、前記把持部の外部からの照明下にて
照射された光から該第1の領域では散乱した反射光を生じさせる一方、該第2の領域では特定方向の反射光を生じさせることにより、認識可能な明暗差を有する医療用鑷子。
【請求項2】
前記第1の領域は、処置対象物が接触挟持される把持面である請求項1記載の医療用鑷子。
【請求項3】
前記第1の領域は粗面を有し、前記第2の領域は鏡面を有する請求項1記載の医療用鑷子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医療手術に用いられる医療用鑷子に関し、特に、鑷子先端把持部の視認性向上に有用な医療用鑷子に関する。
【背景技術】
【0002】
眼科手術では、鑷子を用いた非常に微細な処置が行われる。特に硝子体手術では、把持対象物が数μmとなる処置もあり、鑷子の繊細な操作が必要となる。このような鑷子としては、特許文献1に示された眼科用鑷子が知られており、把持アームの視認性を向上させた把持装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2020-044289号公報
【文献】特表2011-523877 号公報
【0004】
ここで、微細処置の精度をさらに向上させるためには、先端部の視認性を上げることが重要となる。即ち、眼科手術の多くは、顕微鏡下で観察しながら行われるが、その際、鑷子の先端位置を術者が正確に認識できれば緻密な操作が可能となることから、先端部の視認性向上が望まれている。
【0005】
特に、把持対象物が数μmとなる微細処置においては、鑷子先端の把持部を正確に認識できるか否かが対象物の正確な把持に大きく影響し、施術の精度を決める要因となる。
【0006】
把持アームの視認性を向上させる構成としては、特許文献2に開示されたような把持アームの粗さや反射度を変更する構成が知られているが、把持アーム全体の粗さを変更しても、数μmオーダの正確な把持が求められる処置においては何ら視認性を上げる効果は期待できない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで、本発明は、鑷子先端把持部の視認性向上に有用な医療用鑷子の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、請求項1記載の発明は、一対のアームと、該各アームの先端に設けられた把持部とを備えた医療用鑷子であって、前記把持部は、その少なくとも一部に第1の面粗度を有する第1の領域を有し、前記第1の領域に隣接する領域は、前記第1の面粗度とは異なる面粗度を有する第2の領域を有し、前記第1の領域と前記第2の領域との間には、該各領域の境界が照明下にて認識可能な明暗差を有する。
【0009】
このように、把持部の面粗度を変えることで、照明下で視覚上の差異が生じ、明暗のコントラストとして把持部の正確な形状と位置が認識可能となる。
【0010】
ここで、面粗度とは、表面の微細で不規則な起伏により照明光を散乱させる特定領域の面としての粗度を意味し、把持対象物との摩擦やアンカー効果を意図した規則的な凹凸形状とは異なる。この種の規則的な凹凸形状では、照明下で十分な明暗のコントラストが得られず、把持部の境界も認識できないため、把持部の形状や位置の正確な特定は困難である。
【0011】
また、請求項2記載の発明は、請求項1記載の発明において、前記第1の領域は、処置対象物が接触挟持される把持面である。
【0012】
このように、把持面の面粗度を変えることで、把持対象物が接触挟持される領域と位置が正確に認識可能となるため、把持対象物が数μmとなる微細処置であっても、鑷子本来の機能性を損なうことなく、高精度な操作が可能となる。
【0013】
尚、把持部とは、把持面に対応した領域であり、把持面に加え、把持面の裏面や側面を含み、把持面の先端部分のみや把持面とアーム部の境界付近であっても実質的に把持面の位置が認識できる周辺領域も含まれる。
【0014】
また、請求項3記載の発明は、請求項1記載の発明において、前記第1の領域は粗面を有し、前記第2の領域は鏡面を有する。
【0015】
このように、把持部を粗面とし、隣接領域を鏡面とすることで、把持対象物に対する把持力を持たせつつ、明暗のコントラストを最大化させることができる。
【0016】
ここで、粗面化された把持部は、散乱による反射光の一部が術者の視野に到達することから、白く光って見えるのに対し、鏡面化された隣接領域は、光の入射角を基準とした反射角方向に反射されることから、術者の視野には入りにくく暗く見える。その結果、顕微鏡視野などの照明下にて、明暗のコントラスト差が生じ、把持部が際立ち視認性が向上することとなる。
【0017】
把持部を際立たせる観点からは、鏡面化する領域は、粗面化する領域よりも十分に広くすることが望ましく、アーム部と患部の摩擦低減またはアーム部と摺動機構との摩擦低減の観点からは、アーム部全体を鏡面化することが望ましい。尚、粗面化と鏡面化は、それぞれ公知の粗面加工と鏡面加工で処理可能である。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、鑷子先端把持部の視認性向上に有用な医療用鑷子の提供が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】第1の実施形態に係る鑷子先端の拡大斜視図である。
【
図2】第2の実施形態に係る鑷子先端の拡大斜視図である。
【
図3】第3の実施形態に係る鑷子先端の拡大斜視図である。
【
図4】第4の実施形態に係る鑷子先端の拡大斜視図である。
【
図5】第1乃至第4の実施形態に係る鑷子の動きを説明する図であり、(a)は把持部が開いた状態、(b)は把持部の先端側が軽く閉じた状態、(c)は把持部が閉じた状態である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施の形態を、添付図面を参照して説明する。尚、鑷子全体の構造と機構は、特許文献1に開示された鑷子と同様であるため説明を省略し、以下の説明においては、本発明の要部となる先端部の説明に重点を置く。
【0021】
図1は、第1の実施形態に係る鑷子先端の拡大斜視図である。同図に示すように、鑷子10は、アーム部20を構成するネック部22およびスリット形成部23と、アーム部20の先端に設けられた把持部24と、アーム部20の根元に配置されたスリーブ30とから構成される。
【0022】
この鑷子10は、一対のネック部22がスリーブ30の内腔に出入りする際の摺動作用によって、一対の把持部24が開閉する機構を有する。
【0023】
一対のネック部22の先端側には、一対のスリット形成部23が設けられ、その先に一対の把持部24が設けられた構成を有する。各把持部24が対向する側には、開閉動作によって把持対象物が接触挟持される把持面24aが設けられ、この把持面24aは、軸方向に延在する長方形状の長平面を有する。そして、把持部24が閉じられたときに、把持面24a同士が面接触するようにネック部22の湾曲形状が設定される。
【0024】
また、把持部24とネック部22との間には、スリット形成部23が設けられ、このスリット形成部23は、把持部24が閉じられたときに、一対のスリット形成部23同士の間にスリットが形成される形状を有する。
【0025】
このスリットの形成により、把持面24aにかかる単位面積当たりの把持力を大きくすることができるとともに、形成されたスリットが把持部24を視認する際の目安にもなる。
【0026】
ここで、ネック部22は弾性変形に好適な厚さで形成され、スリット形成部23は、把持部24への把持力伝達に必要な剛性が得られる厚さで形成される。
【0027】
把持部24の各把持面24aには、粗面化処理により不規則な隆起からなる粗面領域が形成され、把持部24の把持面24a以外の部分とアーム部20の全体には、鏡面処理により鏡面領域が形成される。
【0028】
これら粗面および鏡面により、同図中の実線で示した光源LSから照射された光は、同図中の点線で示した反射光、即ち、粗面領域では散乱し、鏡面領域では特定方向に反射する光を生じさせる。その結果、把持面24aとそれ以外の部分に明暗のコントラストが生じ、把持面24aが際立つことによって視認性が向上し、把持面24aの画成領域、形状、大きさ、および処置空間における存在位置の正確な認識が可能となる。
【0029】
特に、同図中の矢印Rで示す方向にアーム部20を時計または反時計方向に回転させならが処置を施す場合であっても、裏面となる角度以外では、把持面24aに明暗のコントラスト差が生じるため、回転姿勢に拘らず多くのシーンにおいて視認性が向上する。
【0030】
図2は、第2の実施形態に係る鑷子先端の拡大斜視図である。同図に示す実施形態では、把持部24のうち把持面24a以外の側面、端面および裏面にも粗面領域が設けられる。このような構成により、光源LSの位置や光の照射方向によって把持面24aが隠れてしまう場合や、一対の把持部24が閉じることによって把持面24aの露呈がない状態であっても把持部24の認識が可能になる。
【0031】
但し、把持部24の全体を粗面化すると、把持面24aの画成領域となる境界が認識しづらくなるため、把持面24aを特に認識したい場合は、
図1のように把持面24aのみを粗面化する構成が望ましい。
【0032】
図3は、第3の実施形態に係る鑷子先端の拡大斜視図である。同図に示す実施形態では、軸方向と直交する方向に隆起した粗面の例であり、このように、軸方向と直交する方向に不規則に隆起させることが鑷子の視認性向上においては重要となる。即ち、同図の光源LSから入射する光の方向に対して、隆起を対向させることが好適な散乱を得る条件となるため、少なくとも軸方向と直交する方向への隆起を含む粗面であることが重要となる。
【0033】
また、規則的な隆起では、特定方向のみの反射となるため、視認性向上の程度が鑷子の姿勢に依存することとなるため、山谷の高さや間隔が不規則な隆起とすることが望ましい。
【0034】
図4は、第4の実施形態に係る鑷子先端の拡大斜視図である。同図に示す実施形態では、把持部24の先端側のみに粗面領域を形成した例である。これは後述の
図5にて詳述するように、対象物を把持する際に、把持面24aが先端側から順に接触する把持機構である場合に有用な構成であり、初段に接触する先端部分を特に認識したい場合に有用である。
【0035】
図5は、第1乃至第4の実施形態に係る鑷子の動きを説明する図であり、(a)は把持部が開いた状態、(b)は把持部の先端側が軽く閉じた状態、(c)は把持部が閉じた状態である。粗面領域については第4の実施形態を想定している。
【0036】
同図(a)に示すように、ネック部22がスリーブ30の内腔に収納されていないときは、把持部24同士は開いた状態となっている。そこからスリーブ30を摺動させてネック部22の最初の湾曲部をスリーブ30の内腔に収納したとき、同図(b)に示すように、把持部24の把持面24a同士が先端側から接触する。このとき、アーム部20の先端側は軽く閉じ、スリーブ側は少し開いた状態となる。
【0037】
同図(c)に示すように、さらにスリーブ30を摺動させてネック部22の全体をスリーブ30の内腔に収納すると、先端側の湾曲部がバネの働きをして把持面24a同士が面接触する。
【0038】
このような把持機構により、網膜近くの増殖膜を引っ張り上げるような微細処置を行う場合において、把持面24aの先端側が開くことなく把持面24a同士が面接触し、微細組織の好適な把持がなされる。
【0039】
ここで、同図(a)のような把持までの段階においては、把持面24aの先端に設けられた粗面領域により、最初に接触する把持面24a先端の認識が可能となり、同図(b)および同図(c)のような把持時の段階においては、把持面24aの裏側や側面に設けられた粗面領域により、把持面24a先端の認識が可能となる。
【符号の説明】
【0040】
10…鑷子
20…アーム部
22…ネック部
23…スリット形成部
24…把持部
24a…把持面
30…スリーブ
LS…光源